本発明のリチウムイオン二次電池に係る負極には、負極活物質やバインダなどを含有する負極合剤層を、集電体の片面または両面に有する構造のものが使用される。
本発明における負極活物質は、Siを含む負極材料である材料Sを含有している。SiはLiと合金化することでLiイオンの導入がされることが知られている。
Siを含む材料Sは、1000mAh/g以上の容量を示し、黒鉛の理論容量と言われる372mAh/gを大幅に上回ることが特徴である。一方、一般的な黒鉛の充放電効率(90%以上)と比較し、Siを含む材料Sでは初回の充放電効率が80%を下回るものが多く、不可逆容量が増えるためサイクル特性に問題があった。そこで前述の通りあらかじめLi源を負極に導入することが望まれる。
Siを含む負極材料に、バインダとしてポリアミドイミドを用いた負極に、金属LiをLi源としてあらかじめ負極側に導入させた場合、回路電圧(OCV)が著しく低下する電池が多発することがあった。発明者らが鋭意検討した結果、負極合剤層中からLiデンドライトが成長し、セパレータを貫通して正極と微短絡を生じていることを突き止めた。そこで、前記負極合剤層の表面に、Liと反応しない絶縁性材料を含有する多孔質層が形成させることで、前記微短絡を防止することができることを見出した。
負極活物質にLiを導入する方法としては、負極合剤層に金属リチウム箔貼り付け・Li蒸着層形成等、負極合剤層を形成した後に合剤層と面対向するようにLi源を配置し、電気化学的接触(短絡)させてLiを導入する方法があげられる。
ただし、合剤層と面対向させてLiを導入させると、積層電極体内の負極合剤層ごとにLi源を配置しなければならず、生産効率が劣る。そこで、正極および負極の合剤層の支持体となる金属箔を、一方の面から他方の面へ貫通する孔を有するものにする。そうすると積層電極体の積層方向の最外面にのみLi源を面対向させることで、金属箔の貫通孔を通って積層電極体全体にLiイオンが拡散し、全ての負極にLiイオンを導入することが出来る。
しかしながら、材料SはLiイオンを多く受け入れることが出来る分、Liイオン受け入れに伴う膨張が顕著であるため、Li源と最も近い負極の負極合剤層は、最も多くのLiイオンを受け入れて大きく膨張し、負極集電体と接着状態を保てなくなり脱落してしまうことがある。
そこで、積層電極体の端面にLi源を配すれば、多くのLi源配置の煩雑性を排除し、更に金属箔を顕著な膨張収縮に耐えられる構成のものを用いることが出来るので負極活物質にLiを導入する方法としては特に好ましい。
材料SはSiを含む負極材料である。例えばSi粉末と炭素とを複合化した材料やこれに更に炭素材料を被覆した材料、Si粉末をグラフェンまたは鱗片状黒鉛で挟み込んだ材料、SiとOを構成元素に含むSiOx(ただし、Siに対するOの原子比xは、0.5≦x≦1.5である)を含む材料が挙げられる。中でもSiOxを含む材料を用いるのが好ましい。
上記SiOxは、Siの微結晶又は非晶質相を含んでいてもよく、この場合、SiとOの原子比は、Siの微結晶又は非晶質相のSiを含めた比率となる。即ち、SiOxには、非晶質のSiO2マトリックス中に、Si(例えば、微結晶Si)が分散した構造のものが含まれ、この非晶質のSiO2と、その中に分散しているSiを合わせて、上記原子比xが0.5≦x≦1.5を満足していればよい。例えば、非晶質のSiO2マトリックス中に、Siが分散した構造で、SiO2とSiのモル比が1:1の材料の場合、x=1であるので、構造式としてはSiOで表記される。このような構造の材料の場合、例えば、X線回折分析では、Si(微結晶Si)の存在に起因するピークが観察されない場合もあるが、透過型電子顕微鏡で観察すると、微細なSiの存在が確認できる。
そして、SiOxを含む材料Sは、炭素材料と複合化した複合体であることが好ましく、例えば、SiOxの表面が炭素材料で被覆されていることが望ましい。通常、SiOxは導電性が乏しいため、これを負極活物質として用いる際には、良好な電池特性確保の観点から、導電性材料(導電助剤)を使用し、負極内におけるSiOxと導電性材料との混合・分散を良好にして、優れた導電ネットワークを形成する必要がある。SiOxを炭素材料と複合化した複合体であれば、例えば、単にSiOxと炭素材料などの導電性材料とを混合して得られた材料を用いた場合よりも、負極における導電ネットワークが良好に形成される。
即ち、SiOxの比抵抗値は、通常、103〜107kΩcmであるのに対して、上記例示の炭素材料の比抵抗値は、通常、10-5〜10kΩcmであり、SiOxと炭素材料とを複合化することにより、SiOxの導電性を向上できる。
上記SiOxと炭素材料との複合体としては、上記のように、SiOxの表面を炭素材料で被覆したものの他、SiOxと炭素材料との造粒体等が挙げられる。
上記SiOxとの複合体の形成に用い得る上記炭素材料としては、例えば、低結晶性炭素、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維等の炭素材料が好ましいものとして挙げられる。
上記炭素材料の詳細としては、繊維状又はコイル状の炭素材料、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラックを含む。)、人造黒鉛、易黒鉛化炭素及び難黒鉛化炭素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の材料が好ましい。繊維状又はコイル状の炭素材料は、導電ネットワークを形成し易く、且つ表面積の大きい点において好ましい。カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラックを含む。)、易黒鉛化炭素及び難黒鉛化炭素は、高い電気伝導性、高い保液性を有しており、更に、SiOx粒子が膨張・収縮しても、その粒子との接触を保持し易い性質を有している点において好ましい。
上記例示の炭素材料の中でも、SiOxとの複合体が造粒体である場合に用いるものとしては、繊維状の炭素材料が特に好ましい。繊維状の炭素材料は、その形状が細い糸状であり柔軟性が高いために電池の充放電に伴うSiOxの膨張・収縮に追従でき、また、嵩密度が大きいために、SiOx粒子と多くの接合点を持つことができるからである。繊維状の炭素としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ等が挙げられ、これらの何れを用いてもよい。
上記負極にSiOxと炭素材料との複合体を使用する場合、SiOxと炭素材料との比率は、炭素材料との複合化による作用を良好に発揮させる観点から、SiOx:100重量部に対して、炭素材料が、5重量部以上であることが好ましく、10重量部以上であることがより好ましい。また、上記複合体において、SiOxと複合化する炭素材料の比率が多すぎると、負極合剤層中のSiOx量の低下に繋がり、高容量化の効果が小さくなる虞があることから、SiOx:100重量部に対して、炭素材料は、50重量部以下であることが好ましく、40重量部以下であることがより好ましい。
上記のSiOxと炭素材料との複合体は、例えば下記の方法によって得ることができる。
上記SiOxの表面を炭素材料で被覆して複合体とする場合には、例えば、SiOx粒子と炭化水素系ガスとを気相中にて加熱して、炭化水素系ガスの熱分解により生じた炭素を、粒子の表面上に堆積させる。このように、気相成長(CVD)法によれば、炭化水素系ガスがSiOx粒子の隅々にまで行き渡り、粒子の表面に導電性を有する炭素材料を含む薄くて均一な皮膜(炭素材料被覆層)を形成できることから、少量の炭素材料によってSiOx粒子に均一性よく導電性を付与できる。
上記炭素材料で被覆されたSiOxの製造において、CVD法の処理温度(雰囲気温度)については、炭化水素系ガスの種類によっても異なるが、通常、600〜1200℃が適当であり、中でも、700℃以上であることが好ましく、800℃以上であることが更に好ましい。処理温度が高い方が不純物の残存が少なく、且つ導電性の高い炭素を含む被覆層を形成できるからである。
上記炭化水素系ガスの液体ソースとしては、トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレン等を用いることができるが、取り扱い易いトルエンが特に好ましい。これらを気化させる(例えば、窒素ガスでバブリングする)ことにより炭化水素系ガスを得ることができる。また、メタンガスやアセチレンガス等を用いることもできる。
また、SiOxと炭素材料との造粒体を作製する場合には、SiOxが分散媒に分散した分散液を用意し、それを噴霧し乾燥して、複数の粒子を含む造粒体を作製する。分散媒としては、例えば、エタノール等を用いることができる。分散液の噴霧は、通常、50〜300℃の雰囲気内で行うことが適当である。上記方法以外にも、振動型や遊星型のボールミルやロッドミル等を用いた機械的な方法による造粒方法においても、SiOxと炭素材料との造粒体を作製することができる。
材料Sの平均粒子径は、小さすぎると材料Sの分散性が低下して本発明の効果が十分に得られなくなる恐れがあること、材料Sは電池の充放電に伴う体積変化が大きいため、平均粒子径が大きすぎると膨張・収縮による材料Sの崩壊が生じやすくなる(この現象は材料Sの容量劣化につながる)ことから、0.1μm以上10μm以下とすることが好ましい。
負極合剤層中の、全負極活物質に対する材料Sの含有比率は、材料Sの割合を、好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上とし、50質量%以上とすることが最も好ましい。材料Sは上述した通り、黒鉛と比べて飛躍的に高容量化を実現できる材料なので、負極活物質中に少量でも材料Sを含むと、電池の容量向上効果が得られる。一方で更に飛躍的に電池の高容量化を実現するには、前負極活物質に対して材料Sは10質量%以上が好ましい。種々の電池の用途、求められる特性に合わせて材料Sの含有量を調整すると良い。なお、後述する黒鉛Aおよび黒鉛BによるLiの導入効果(Liと負極との電気化学的接触による)を発揮させるために、材料Sの割合は99質量%以下であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
本発明の負極には、前述した材料Sの他に、黒鉛など、Liの電気化学的な吸蔵および放出が可能な炭素材料と併用してもよい。特に、平均粒子径が15μmを超え25μm以下の黒鉛Aと、平均粒子径が8μm以上15μm以下であり、黒鉛粒子の表面が非晶質炭素で被覆されている黒鉛Bと併用することが望ましい。
黒鉛Aは、通常のリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いられる、天然黒鉛や人造黒鉛があげられる。人造黒鉛としてたとえば、コークスあるいは有機物を2800℃以上で焼成したもの、または天然黒鉛と前記コークスあるいは有機物とを混合し、2800℃以上で熱処理を施したもの、さらにはコークスあるいは有機物を2800℃以上で焼成したものを前記天然黒鉛の表面に被覆させたものなどがあげられ、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1570〜1590cm−1に現れるピーク強度に対する1340〜1370cm−1に現れるピーク強度比であるR値が0.05〜0.2となる黒鉛を使用出来る。また、平均粒子径が前述の範囲にあれば、前記黒鉛Aには2種以上の黒鉛を併用しても構わない。
黒鉛Bは、母粒子となる黒鉛粒子と、その表面を被覆する非晶質炭素とで構成されている。具体的には、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1570〜1590cm−1に現れるピーク強度に対する1340〜1370cm−1に現れるピーク強度比であるR値が0.1〜0.7となる黒鉛である。R値は、非晶質炭素の十分な被覆量を確保するため、0.3以上がより好ましい。また、R値は、非晶質炭素の被覆量が多すぎると不可逆容量が増大するので、0.6以下が好ましい。このような黒鉛Bは、例えばd002が0.338nm以下である天然黒鉛または人造黒鉛を球状に賦形した黒鉛を母材(母粒子)とし、その表面を有機化合物で被覆し、800〜1500℃で焼成した後、解砕し、篩を通して整粒することによって得ることができる。なお、前記母材を被覆する有機化合物としては、芳香族炭化水素;芳香族炭化水素を加熱加圧下で重縮合して得られるタールまたはピッチ類;芳香族炭化水素の混合物を主成分とするタール、ピッチまたはアスファルト類;などが挙げられる。前記母材を前記有機化合物で被覆するには、前記有機化合物に前記母材を含浸・混捏する方法が採用できる。また、プロパンやアセチレンなどの炭化水素ガスを熱分解により炭素化し、これをd002が0.338nm以下の黒鉛の表面に堆積させる気相法によっても、黒鉛Bを作製することができる。
更に、前記の黒鉛Bは、Liイオンの受容性(例えば、全充電容量に対する、定電流充電容量の割合で数値化できる)が高い。よって、黒鉛Bを併用した場合のリチウムイオン二次電池は、Liイオンの受容性が良好であり、充放電サイクル特性も良好なものとなる。前述したように、電気化学的接触(短絡)をさせることで材料Sを含む負極にLi源を導入させる場合、前記黒鉛Bを併用すれば、Li導入の不均一化を抑制することができ電池特性の改善が図れるものと考えた。
しかし、黒鉛Bを単体で用いるだけでは、十分な電池特性の改善が得られないことがわかった。それは黒鉛Bが前述の通り球状に賦活した黒鉛を母材としているため、黒鉛B単体では粒子間の接点が十分に確保できない箇所が存在し、これが原因でLiの導入にムラが発生し、負極全体のLiイオンの受容性が向上せず、電池特性の大きな改善に至らなかったと推察する。そこで、平均粒子径が黒鉛Bより高い、具体的には15μmを超え25μm以下である黒鉛Aを黒鉛Bと併用することにより電池特性が大幅に改善されることを見出した。具体的には、負極が含有する全負極活物質中における黒鉛Aおよび黒鉛Bの合計含有量を、20質量%以上99質量%以下とし、負極が含有する全負極活物質中における黒鉛Bに対する黒鉛Aの含有割合(A/B)が、0.5以上4.5以下とする。このように黒鉛Aと黒鉛Bを併用することで、黒鉛Bの接点が確保できない箇所が減少し、つまり負極へのLiイオンの導入ムラが減ることで、黒鉛Bを単体で用いるよりもLiイオンの受容性が高まったことが理由と推察する。
なお、黒鉛Aは、粒径が小さすぎると、比表面積が過度に高まる(不可逆容量が増大する)ことから、その粒径が、あまり小さくないことが好ましい。よって、黒鉛Aとして、平均粒子径が15μm超のものを使用すると好ましい。また、黒鉛Bも、粒径が小さすぎると、表面を被覆する非晶質炭素の被覆量などがばらつき、黒鉛Bの特長が十分に発揮できなくなるなどの理由があることから、その粒径が、あまり小さくないことが好ましい。よって、黒鉛Bとして、平均粒子径が8μm以上のものを使用することが好ましい。
黒鉛(黒鉛A、黒鉛B、およびこれら以外の黒鉛)の平均粒子径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置「HRA9320」)を用い、黒鉛を溶解したり膨潤したりしない媒体に、黒鉛を分散させて測定した粒度分布の小さい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値(D50%)メディアン径である。
黒鉛Aおよび黒鉛Bの比表面積(BET法による。装置例は日本ベル社製「ベルソープミニ」など。)は、1.0m2/g以上であることが好ましく、また、5.0m2/g以下であることが好ましい。
また、黒鉛Aおよび黒鉛Bの結晶構造におけるc軸方向の結晶子の大きさ:Lcは、3nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、25nm以上であることが更に好ましい。この範囲であればリチウムイオンの吸蔵・脱離がより容易になるからである。黒鉛のLcの上限値は特に限定されないが、通常200nm程度である。
また、負極活物質には、前述した材料Sや黒鉛Aおよび黒鉛B以外の負極活物質(例えば、黒鉛Aと同種のもので、平均粒子径が15μm未満であるか、または25μmを超える黒鉛のように、黒鉛Aおよび黒鉛Bに該当しない黒鉛など)や、SiまたはSnの単体、SiまたはSnを含む合金、SiまたはSnを含む酸化物を、本発明の効果を阻害しない程度に使用することもできる。
負極合剤層に係るバインダとしては、例えば、負極の使用電位範囲において、Liに対して電気化学的に不活性であり、他の物質にできるだけ影響を及ぼさない材料が選択される。中でも、負極活物質として使われる材料Sの膨張および収縮に対して耐性の高いポリアミドイミドが好適に採用される。
本発明においては、剛性の高いポリアミドイミドをバインダとして使用した場合の正負極間の微短絡を解決するものであるため、負極合剤層中にバインダとしてポリアミドイミドを含有していれば、他のバインダを併用してかまわない。例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、メチルセルロース、ポリイミド、ポリアクリル酸、およびこれらの誘導体や共重合体などが好適なものとして挙げられる。これらのバインダは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記負極合剤層には、更に導電助剤として導電性材料を添加してもよい。このような導電性材料としては、電池内において化学変化を起こさないものであれば特に限定されず、例えば、カーボンブラック(サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等)、炭素繊維、金属粉(銅、ニッケル、アルミニウム、銀等の粉末)、金属繊維、ポリフェニレン誘導体(特開昭59−20971号公報に記載のもの)等の材料を、1種又は2種以上用いることができる。これらの中でも、カーボンブラックを用いることが好ましく、ケッチェンブラックやアセチレンブラックがより好ましい。
負極は、例えば、負極活物質およびバインダ、更には必要に応じて導電助剤を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)や水などの溶剤に分散させた負極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダ処理を施す工程を経て製造される。ただし、負極の製造方法は、前記の方法に制限される訳ではなく、他の製造方法で製造してもよい。
負極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり10〜100μmであることが好ましく、負極合剤層の密度(集電体に積層した単位面積あたりの負極合剤層の質量と、厚みから算出される)は、電池の高容量化を図る意味で1.0g/cm3以上とすることが望ましく、さらに好ましくは1.2g/cm3以上である。また、負極合剤層の密度が高すぎると非水電解液の浸透性が低下するなどの悪影響が生じるので、1.6g/cm3以下とすることが望ましい。また、負極合剤層の組成としては、例えば、負極活物質の量が80〜99質量%であることが好ましく、バインダの量が0.5〜10質量%であることが好ましく、導電助剤を使用する場合には、その量が1〜10質量%であることが好ましい。
負極の集電と負極合剤層を支持するための支持体(負極集電体)としては、例えば銅製やニッケル製の箔などを用い得る。また、負極集電体の一方の面から他方の面へ貫通する貫通孔を有した銅製やニッケル製の箔や、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルを用いても良い。負極集電体の厚みの上限は30μmであることが好ましく、機械的強度を確保するために下限は4μmであることが望ましい。集電体が貫通孔のない箔を用いると、負極合剤層と負極集電体の接触面積が確保できるため、負極合剤層が膨張収縮してもより脱落を防ぐことが出来る上、機械的強度を確保することが出来るため、好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池においては、前記負極合剤層の表面に、Liと反応しない絶縁性材料を含有する多孔質層が形成されていることを特徴とする。前述した、負極活物質にあらかじめLiを導入する場合、特に負極とLi源とを電気化学的接触(短絡)させてLiを導入する場合、Liイオンが急激に負極合剤層に導入されるので、負極合剤層表面にLiが析出し、デンドライト状になってセパレータを貫通して正極と微短絡を生じ、回路電圧が規定値より下がることがあった。特にバインダとして剛性の高いポリアミドイミドを用いた場合、顕著にあらわれた。負極と正極とが微短絡を生じても、その後の電池を充放電させることで解消されることもあるが、多くの場合回路電圧不良が生じて電池の生産性に影響することがあった。
そこで、負極合剤層の表面に、Liと反応しない絶縁性材料を含有する多孔質層を設けることで、負極へのLi導入後の、正負極間の微短絡現象を防止することができることを見出した。
Liと反応しない絶縁性材料としては、無機材料、有機材料とも特に制限はなく、例えばアルミナ、シリカ、ベーマイト、チタニアなどの無機材料が好適にあげられる。なかでもアスペクト比が5以上の板状の材料であれば、絶縁性材料が負極合剤層表面に好適に配向し、多孔質層に適度な曲路を設けることができ、正負極間の微短絡現象を好適に防止することができるので望ましい。
前記多孔質層は、前述したLiと反応しない絶縁性材料を含有していればよく、例えば、前記絶縁性材料とバインダ(例えば、前述した負極用バインダなど)と、必要に応じて分散剤や増粘剤を溶媒に分散させたものを負極合剤層に塗布および乾燥させることで形成することができる。なお、前記多孔質層の厚みは2〜10μmが好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池に係る正極には、例えば、正極活物質、導電助剤およびバインダを含有する正極合剤層を、正極集電体の片面または両面に有する構造のものを使用することができる。
上記正極に用いる正極活物質は、特に限定されず、リチウム含有遷移金属酸化物等の一般に用いることのできる活物質を使用すればよい。リチウム含有遷移金属酸化物の具体例としては、例えば、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1−yO2、LixCoyM1−yO2、LixNi1−yMyO2、LixMnyNizCo1−y−zO2、LixMn2O4、LixMn2−yMyO4等が例示される。但し、上記の各構造式中において、Mは、Mg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Ti、Ge及びCrよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、0≦x≦1.1、0<y<1.0、2.0<z<1.0である。
中でも、コバルト酸リチウム(LixCoO2)を正極活物質に使用してその表面をAl含有酸化物で形成することで、充電時の正極での抵抗を大きくすることにより、負極でのLiの析出を起こりにくくし、SiOxを含む材料Sの比率を高くしても、充放電サイクル特性が良好なリチウムイオン二次電池の提供が可能となるので望ましい。
SiOxを含む材料Sは、1000mAh/g以上の容量を示し、黒鉛の理論容量と言われる372mAh/gを大幅に上回ることが特徴である。また、一般的な黒鉛の充電時のLiの挿入電位と比較し、SiOxを含む材料Sは充電時のLiの挿入電位が低いことも知られている。
一般にリチウムイオン二次電池においては定電流定電圧充電(CC−CV)方式で充電される場合がほとんどである。リチウムイオン二次電池の充電し始めでは定電流で充電(CC充電)を行い、電池が充電上限電圧に達すると一定の電圧を保つように充電(CV充電)を行う方式である。このCV充電ではCC充電時の電流値よりも非常に低い電流値で充電を行う。近年のリチウムイオン二次電池は、この充電上限電圧が4.2V〜4.7Vの間に設定されることが多い。
ところで、負極活物質中のSiOxを含む材料Sの比率を5質量%以上高くしたときに、充電時にLiの析出が起こり易くなるためにサイクル特性が劣化してしまうことがあった。これは、以下のような理由であると推測する。リチウムイオン二次電池をCC−CV充電すると、CCモードでの充電のときに正極からLiイオンの脱離が進み電池電圧が上がっていき、充電初期段階においてはLiイオンは問題なくSiOxへ挿入されていく。そして、CCモードの充電が進み電池電圧が充電上限電圧(CCモード末期)に近づくと、負極の電位は0Vに近づき、Liイオンを受け入れると同時にLi析出も生じる。この析出したLiは今後充放電には寄与しなくなるため、サイクル特性が低下すると考えられる。
このような問題に対して、本願発明者らは、コバルト酸リチウム(LixCoO2)を正極活物質に使用してその表面をAl含有酸化物で形成することで充電時に正極の抵抗を大きくし、CCモードでの正極電位が高くなり、相対的に電池電圧を上げることができるため、負極でLiの析出が起こりやすいCCモード末期からCVモードに早く切り替え、充電電流を減衰させて分極を小さくし、負極でのLiの析出を起こりにくくできることを見出した。
また、正極活物質粒子の表面を被覆するAl含有酸化物は、正極活物質でのリチウムイオンの出入りを阻害するため、例えば、電池の負荷特性を低下させる作用も有しているが、Al含有酸化物での平均被覆厚みを特定値とすることで、Al含有酸化物での被覆による電池の特性の低下抑制も可能としている。正極材料におけるコバルト酸リチウムは、本発明のリチウムイオン二次電池において、正極活物質として作用するものである。コバルト酸リチウムは、Coおよび含有してもよい他の元素を纏めて元素群M1としたときに、組成式LiM1O2で表されるものである。
コバルト酸リチウムにおいて、元素M1は、コバルト酸リチウムの高電圧領域での安定性を高め、Coイオンの溶出を抑制する作用を有しており、また、コバルト酸リチウムの熱安定性を高める作用も有している。
コバルト酸リチウムにおいて、元素M1の量は、前記の作用をより有効に発揮させる観点から、Coとの原子比M1/Coが、0.003以上であることが好ましく、0.008以上であることがより好ましい。
ただし、コバルト酸リチウム中の元素M1の量が多すぎると、Coの量が少なくなりすぎて、これらによる作用を十分に確保できない虞がある。よって、コバルト酸リチウムにおいて、元素M1の量は、Coとの原子比M1/Coが、0.06以下であることが好ましく、0.03以下であることがより好ましい。
コバルト酸リチウムにおいて、Zrは、非水電解液中に含まれるLiPF6が原因となって発生し得るフッ化水素を吸着し、コバルト酸リチウムの劣化を抑制する作用を有している。
リチウムイオン二次電池に使用される非水電解液中に若干の水分が不可避的に混入していたり、他の電池材料に水分が吸着していたりすると、非水電解液が含有するLiPF6などのフッ素含有化合物と反応してフッ化水素が生成する。電池内でフッ化水素が生成すると、その作用で正極活物質の劣化を引き起こしてしまう。
ところが、Zrも含有するようにコバルト酸リチウムを合成すると、その粒子の表面にZr酸化物が析出し、このZr酸化物がフッ化水素を吸着する。そのため、フッ化水素によるコバルト酸リチウムの劣化を抑制することができる。
なお、正極活物質にZrを含有させると、電池の負荷特性が向上する。正極材料が含有するコバルト酸リチウムが、平均粒径の異なる2つの材料である場合、平均粒径が大きい方をコバルト酸リチウム(A)、平均粒径が小さい方をコバルト酸リチウム(B)とする。一般に、粒子径が大きい正極活物質を使用すると電池の負荷特性が低下する傾向にある。よって、本発明に係る正極材料を構成する正極活物質のうち、より平均粒子径が大きいコバルト酸リチウム(A)にはZrを含有させることが好ましい。他方、コバルト酸リチウム(B)は、Zrを含有していてもよく、含有していなくてもよい。
コバルト酸リチウムにおいて、Zrの量は、前記の作用をより良好に発揮させる観点から、Coとの原子比Zr/Coが、0.0002以上であることが好ましく、0.0003以上であることがより好ましい。ただし、コバルト酸リチウム中のZrの量が多すぎると、他の元素の量が少なくなって、これらによる作用を十分に確保できない虞がある。よって、コバルト酸リチウムにおけるZrの量は、Coとの原子比Zr/Coが、0.005以下であることが好ましく、0.001以下であることがより好ましい。
コバルト酸リチウムは、Li含有化合物(水酸化リチウム、炭酸リチウムなど)、Co含有化合物(酸化コバルト、硫酸コバルトなど)、Mg含有化合物(硫酸マグネシウムなど)、Zr含有化合物(酸化ジルコニウムなど)および元素M1を含有する化合物(酸化物、水酸化物、硫酸塩など)を混合し、この原料混合物を焼成するなどして合成することができる。なお、より高い純度でコバルト酸リチウムを合成するには、Coおよび元素M1を含む複合化合物(水酸化物、酸化物など)とLi含有化合物などとを混合し、この原料混合物を焼成することが好ましい。
コバルト酸リチウムを合成するための原料混合物の焼成条件は、例えば、800〜1050℃で1〜24時間とすることができるが、一旦焼成温度よりも低い温度(例えば、250〜850℃)まで加熱し、その温度で保持することにより予備加熱を行い、その後に焼成温度まで昇温して反応を進行させることが好ましい。予備加熱の時間については特に制限はないが、通常、0.5〜30時間程度とすればよい。また、焼成時の雰囲気は、酸素を含む雰囲気(すなわち、大気中)、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム、窒素など)と酸素ガスとの混合雰囲気、酸素ガス雰囲気などとすることができるが、その際の酸素濃度(体積基準)は、15%以上であることが好ましく、18%以上であることが好ましい。
コバルト酸リチウムの粒子の表面を被覆するAl含有酸化物としては、Al2O3、AlOOH、LiAlO2、LiCo1−wAlwO2(ただし、0.5<w<1)などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、例えば後述する方法でコバルト酸リチウムの表面をAl2O3で被覆した場合、Al2O3中に、コバルト酸リチウムから移行するCoやLi、Alなどの元素を含むAl含有酸化物が一部混在する被膜が形成されるが、本発明に係る正極材料を構成する正極材料に係るコバルト酸リチウムの表面を覆うAl含有酸化物で形成された被膜は、このような成分を含む被膜であってもよい。
前記正極材料を構成する粒子におけるAl含有酸化物の平均被覆厚みは、正極材料に係る電池の充放電時における正極活物質でのリチウムイオンの出入りをAl含有酸化物が阻害することによる抵抗を増加させ、負極でのLi析出を抑制することによる電池の充放電サイクル特性を向上させる観点と、正極材料に係る正極活物質と非水電解液との反応を良好に抑制する観点から、5nm以上であり、15nm以上であることが好ましい。また、電池の充放電時における正極活物質でのリチウムイオンの出入りをAl含有酸化物が阻害することによる電池の負荷特性低下を抑制する観点から、本発明に係る正極材料を構成する粒子におけるAl含有酸化物の平均被覆厚みは、50nm以下であり、35nm以下であることがより好ましい。
本明細書でいう「本発明に係る正極材料を構成する粒子におけるAl含有酸化物の平均被覆厚み」は、集束イオンビーム法により加工して得られた正極材料の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて40万倍の倍率で観察し、500×500nmの視野に存在する正極材料粒子のうち、断面の大きさが正極材料の平均粒子径(d50)±5μm以内の粒子を10視野分だけ任意に選択し、視野ごとに、Al含有酸化物の被膜の厚みを任意の10か所で測定し、全視野で得られた全ての厚み(100箇所の厚み)について算出した平均値(数平均値)を意味している。
前記正極材料は、比表面積(正極材料全体の比表面積)が、好ましくは0.1m2/g以上、更に好ましくは0.2m2/g以上であって、好ましくは0.4m2/g以下、更に好ましくは0.3m2/g以下である。本発明に係る正極材料は比表面積を上記の範囲をとることによって、正極材料に係る電池の充放電時における抵抗を増加させることが出来、更にLi析出の発生を抑制する。これによっても、充放電サイクル特性が良好となる。
なお、正極材料を構成する正極活物質粒子の表面をAl含有酸化物で被覆したり、正極活物質粒子の表面にZr酸化物が析出するようにしたりした場合には、通常、正極材料の表面が粗くなって比表面積が増大する。そのため正極材料は、比較的大きな粒径とすることに加えて、正極活物質粒子の表面を被覆するAl含有酸化物の被膜の性状が良好であると、前記のような小さな比表面積となりやすいため、好ましい。
正極材料が含有するコバルト酸リチウムについては、1種類であってもよいし、上述したように平均粒子径が異なる2つ材料であってもよいし、平均粒子径が異なる3つ以上の材料であってもよい。
上述のような比表面積(正極材料全体の比表面積)に調整するためには、1種類のコバルト酸リチウムを使用する場合、正極材料の平均粒子径を10〜35μmのものを使用することが好ましい。
正極材料が含有するコバルト酸リチウムに平均粒子径が異なる2つの材料を使用する場合、コバルト酸リチウム(A)の粒子の表面がAl含有酸化物で被覆されてなり、平均粒子径が1〜40μmである正極材料(a)と、コバルト酸リチウム(B)の粒子の表面がAl含有酸化物で被覆されてなり、平均粒子径が1〜40μmであり、かつ前記正極材料(a)よりも平均粒子径が小さい正極材料(b)とを少なくとも含んでいると好ましい。さらに好ましくは、平均粒子径が24〜30μmの大粒子〔正極材料(a)〕と、平均粒子径が4〜8μmの小粒子〔正極材料(b)〕とで構成されていると好ましい。正極材料全量中での前記大粒子の割合が、75〜90質量%であることが好ましい。
これによって比表面積の調整ができるだけではなく、正極合剤層のプレス処理において、大粒径の正極材料の隙間に小粒径の正極材料が入り込むことで、正極合剤層にかかる応力が全体に分散し、正極材料粒子の割れが良好に抑制されてAl含有酸化物での被覆による作用をより良好に発揮することができる。
上記正極に用いる導電助剤としては、電池内で化学的に安定なものであればよい。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等のグラファイト;アセチレンブラック、ケッチェンブラック(商品名)、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック;炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維;アルミニウム粉等の金属粉末;フッ化炭素;酸化亜鉛;チタン酸カリウム等からなる導電性ウィスカー;酸化チタン等の導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、導電性の高いグラファイトと、吸液性に優れたカーボンブラックが好ましい。また、導電助剤の形態としては、一次粒子に限定されず、二次凝集体や、チェーンストラクチャー等の集合体の形態のものも用いることができる。このような集合体の方が、取り扱いが容易であり、生産性が良好となる。
正極合剤層はさらにフィラーを含有することが出来る。フィラーを添加することで正極活物質の触媒性が緩和され、活物質からのコバルトイオンの溶出や電解液と正極活物質または正極活物質に付着した導電性助剤表面での電解液の分解反応を抑制することが可能となる。これらにより、コバルトイオンや電解液の分解生成物がセパレータ及び負極で析出するのを抑制することができ、負極やセパレータが受けるダメージが軽減されるので、サイクル特性の劣化を抑制することができる。更に、電解液の分解反応を抑制することによりガスの発生を抑えることが出来るため、充放電サイクル後の電池の膨れを抑制することが出来る。
前記正極合剤層におけるフィラーとしては、耐酸化性が高いこと、電解液との反応性が低いなどの理由から、無機フィラーが好ましく、特に、Mg、Al、Si、Ti、Mn、Zr、Nb、Sn、W、Er、BaおよびSrよりなる群から選択させる少なくとも1種類を含む酸化物、または水和物が好ましい。例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の酸化物と、ベーマイトなどの水酸化酸化物などである。
前記正極合剤層におけるフィラーの含有量は、前述の効果を発揮させるために、正極合剤層中に0.1質量%以上含有する好ましい。より好ましくは0.3質量%以上である。しかし、フィラーの含有量を高めると、負荷特性が悪化するため、3質量%以下の含有量が好ましい。より好ましくは、1質量%以下である。
前記フィラーの平均粒子径は、正極活物質表面に均一に分散させるためには高すぎても低すぎても不適であるため、0.001〜1.5μmの範囲で選択することが好ましい。
また、正極合剤層に係るバインダには、PVdF、P(VDF−CTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、SBRなどを用いることができる。
上記正極は、例えば、前述した正極活物質、導電助剤及びバインダを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の溶剤に分散させたペースト状やスラリー状の正極合剤含有組成物を調製し(但し、バインダは溶剤に溶解していてもよい。)、これを集電体の片面又は両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダ処理を施す工程を経て製造することができる。正極の製造方法は、上記の方法に制限されるわけではなく、他の製造方法で製造することもできる。
正極合剤層の厚みは、例えば、集電体の片面あたり10〜100μmであることが好ましい。また、正極合剤層の組成としては、例えば、正極活物質の量が65〜95質量%であることが好ましく、バインダの量が1〜15質量%であることが好ましく、導電助剤の量が3〜20質量%であることが好ましい。
正極集電体は、例えばアルミニウム製の箔などがあげられる。また、正極集電体の一方の面から他方の面へ貫通する貫通孔を有したアルミニウム製の箔や、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルを用いても良い。正極集電体の厚みの上限は30μmであることが好ましく、機械的強度を確保するために下限は4μmであることが望ましい。
また、正極には、必要に応じて、リチウムイオン二次電池内の他の部材と電気的に接続するためのリード体を、常法に従って形成してもよい。
セパレータは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレートや共重合ポリエステルなどのポリエステル;などで構成された多孔質膜であることが好ましい。なお、セパレータは、100〜140℃において、その孔が閉塞する性質(すなわちシャットダウン機能)を有していることが好ましい。そのため、セパレータは、融点、すなわち、JIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度が、100〜140℃の熱可塑性樹脂を成分とするものがより好ましく、ポリエチレンを主成分とする単層の多孔質膜であるか、ポリエチレンとポリプロピレンとを2〜5層積層した積層多孔質膜などの多孔質膜を構成要素とする積層多孔質膜であることが好ましい。ポリエチレンとポリプロピレンなどのポリエチレンより融点の高い樹脂を混合または積層して用いる場合には、多孔質膜を構成する樹脂としてポリエチレンが30質量%以上であることが望ましく、50質量%以上であることがより望ましい。
このような樹脂多孔質膜としては、例えば、従来から知られているリチウムイオン二次電池などで使用されている前記例示の熱可塑性樹脂で構成された多孔質膜、すなわち、溶剤抽出法、乾式または湿式延伸法などにより作製されたイオン透過性の多孔質膜を用いることができる。
セパレータの平均孔径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上であって、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。
また、セパレータの特性としては、JIS P 8117に準拠した方法で行われ、0.879g/mm2の圧力下で100mlの空気が膜を透過する秒数で示されるガーレー値が、10〜500secであることが望ましい。透気度が大きすぎると、イオン透過性が小さくなり、他方、小さすぎると、セパレータの強度が小さくなることがある。更に、セパレータの強度としては、直径1mmのニードルを用いた突き刺し強度で50g以上であることが望ましい。かかる突き刺し強度が小さすぎると、リチウムのデンドライト結晶が発生した場合に、セパレータの突き破れによる短絡が発生する場合がある。
前記セパレータとして、熱可塑性樹脂を主体とする多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む多孔質層(II)とを有する積層型のセパレータを使用してもよい。前記セパレータは、シャットダウン特性と耐熱性(耐熱収縮性)および高い機械的強度とを兼ね備えている。このセパレータの示す高い機械的強度が充放電サイクルに伴う負極の膨張・収縮に対し高い耐性を示し、セパレータのよれを抑制して負極とセパレータと正極間の密着性を保持することが期待される。
本明細書において、「耐熱温度が150℃以上」とは、少なくとも150℃において軟化などの変形が見られないことを意味している。
セパレータに係る多孔質層(I)は、主にシャットダウン機能を確保するためのものであり、電池が多孔質層(I)の主体となる成分である熱可塑性樹脂の融点以上に達したときには、多孔質層(I)に係る熱可塑性樹脂が溶融してセパレータの空孔を塞ぎ、電気化学反応の進行を抑制するシャットダウンを生じる。
多孔質層(I)の主体となる熱可塑性樹脂としては、融点、すなわち、JIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度が140℃以下の樹脂が好ましく、具体的には、例えばポリエチレンが挙げられる。また、多孔質層(I)の形態としては、電池用のセパレータとして通常用いられている微多孔膜や、不織布などの基材にポリエチレンの粒子を含む分散液を塗布し、乾燥するなどして得られるものなどのシート状物が挙げられる。ここで、多孔質層(I)の構成成分の全体積中〔空孔部分を除く全体積。セパレータに係る多孔質層(I)および多孔質層(II)の構成成分の体積含有率に関して、以下同じ。〕において、主体となる熱可塑性樹脂の体積含有率は、50体積%以上であり、70体積%以上であることがより好ましい。なお、例えば多孔質層(I)を前記ポリエチレンの微多孔膜で形成する場合は、熱可塑性樹脂の体積含有率が100体積%となる。
セパレータに係る多孔質層(II)は、電池の内部温度が上昇した際にも正極と負極との直接の接触による短絡を防止する機能を備えたものであり、耐熱温度が150℃以上のフィラーによって、その機能を確保している。すなわち、電池が高温となった場合には、たとえ多孔質層(I)が収縮しても、収縮し難い多孔質層(II)によって、セパレータが熱収縮した場合に発生し得る正負極の直接の接触による短絡を防止することがでる。また、この耐熱性の多孔質層(II)がセパレータの骨格として作用するため、多孔質層(I)の熱収縮、すなわちセパレータ全体の熱収縮自体も抑制できる。
多孔質層(II)に係るフィラーは、耐熱温度が150℃以上で、電池の有する電解液に対して安定であり、更に電池の作動電圧範囲において酸化還元されにくい電気化学的に安定なものであれば、無機粒子でも有機粒子でもよいが、分散などの点から微粒子であることが好ましく、また、無機酸化物粒子、より具体的には、アルミナ、シリカ、ベーマイトが好ましい。アルミナ、シリカ、ベーマイトは、耐酸化性が高く、粒径や形状を所望の数値などに調整することが可能であるため、多孔質層(II)の空孔率を精度よく制御することが容易となる。なお、耐熱温度が150℃以上のフィラーは、例えば前記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のリチウムイオン二次電池に係る非水電解液としては、リチウム塩を有機溶媒に溶解した非水電解液を使用できる。
上記非水電解液に用いる有機溶媒としては、上記のリチウム塩を溶解し、電池として使用される電圧範囲で分解等の副反応を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の鎖状カーボネート;プロピオン酸メチル等の鎖状エステル;γ−ブチロラクトン等の環状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3−ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等の鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル等のニトリル類;エチレングリコールサルファイト等の亜硫酸エステル類等が挙げられ、これらは2種以上混合して用いることもできる。より良好な特性の電池とするためには、エチレンカーボネートと鎖状カーボネートの混合溶媒等、高い導電率を得ることができる組み合わせで用いることが望ましい。
上記非水電解液に用いるリチウム塩としては、溶媒中で解離してリチウムイオンを形成し、電池として使用される電圧範囲で分解等の副反応を起こしにくいものであれば特に制限はない。例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6等の無機リチウム塩、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiCnF2n+1SO3(2≦n≦7)、LiN(RfOSO2)2〔ここで、Rfはフルオロアルキル基〕等の有機リチウム塩等を用いることができる。
このリチウム塩の非水電解液中の濃度としては、0.5〜1.5mol/Lとすることが好ましく、0.9〜1.25mol/Lとすることがより好ましい。
また、非水電解液には、充放電サイクル特性の更なる改善や、高温貯蔵性や過充電防止などの安全性を向上させる目的で、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水酸、スルホン酸エステル、ジニトリル、1,3−プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t−ブチルベンゼン、ホスホノアセテート類化合物、1,3−ジオキサンなどの添加剤(これらの誘導体も含む)を適宜加えることもできる。
更に、非水電解液には、ポリマーなどの公知のゲル化剤を添加してゲル化したもの(ゲル状電解質)を用いることもできる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、0.1Cの放電電流レートで電圧が2.0Vに達するまで放電した時、前述した正極に含まれる全正極材料および正極活物質Liと、Li以外の金属Mとのモル比率(Li/M)が0.8〜1.05である。材料Sなど不可逆容量の高い負極活物質を負極に用いると、充電で正極から脱離したLiイオンが負極側へ移動し、その後放電しても正極側へ戻ってくるLiイオンが減ってしまう現象が起きる。そこで前述の通り、負極にあらかじめLiを導入しておけば、電池の放電時に正極の容量を使い切ることができ、電池の容量を大きくすることができる。上記の(Li/M)が0.8〜1.05は、前述した材料Sを含む負極合剤層にLiを導入することで実現できる。
また、0.1Cの放電電流レートで電圧が2.0Vに達するまで放電した時の正極材料の組成分析は、ICP(Inductive Coupled Plasma)法を用いて以下のように行うことができる。先ず、測定対象となる正極材料を0.2g採取して100mL容器に入れる。その後、純水5mL、王水2mL、純水10mLを順に加えて加熱溶解し、冷却後、更に純水で25倍に希釈してJARRELASH社製のICP分析装置「ICP−757」を用いて、検量線法により組成を分析する。得られた結果から、組成量を導くことができる。
Li/Mについて、後述する実施例1を例にとって説明すると、実施例1ではLiCo0.9795Mg0.011Zr0.0005Al0.009O2のコバルト酸リチウム(A1)の表面にAl含有酸化物の被膜を形成した正極材料(a1)と、LiCo0.97Mg0.012Al0.009O2のコバルト酸リチウム(B1)の表面にAl含有酸化物の被膜を形成した正極材料(b1)とを用いているが、その際のLi以外の金属Mとは、Co,Mg,Zr,Alのことを指す。つまり、リチウムイオン二次電池作成後、所定の充放電後の電池を分解し、正極合剤層から正極材料(この実施例1では混合物)を採取・分析し、Li/Mを導き出す。
負極合剤層にLiを導入するには、負極にLi源と接触させる方法、例えばLi箔を負極合剤層に貼付したり、粒子状のLiを負極合剤層中に含ませたり、負極表面にLiを蒸着させるなど、種々の公知の方法でLi源と負極とを接触させた状態で、非水電解液を充填して充放電させる方法や、負極とLi源とを接触しないように配置し、非水電解液を充填し、外部接続により充放電させる方法などがあげられる。
従来のリチウムイオン二次電池において、負極と正極とは、セパレータを介して重ね合わせた積層体(積層電極体)や、この積層体を更に渦巻状に巻回した巻回体(巻回電極体)が用いられている。積層電極体の場合には、巻回電極体に比べて、電池の充放電によって負極の体積が変化しても、正極との間の距離を保ちやすいため、電池特性がより良好に維持される。これらの理由から、本発明のリチウムイオン二次電池では、積層電極体を使用することが望ましい。
電極体が積層型電極体により構成される場合、Li源を積層電極体の端面に配置して負極にLiイオンを導入すれば、1つの負極に局所的に多くのLiイオンが導入されることがないため、負極集電体からの負極合剤層の脱落を抑制することができ、Li源と各負極との距離は同一で、極端に膨張のダメージを受ける負極がないため、充放電サイクル特性の劣化を抑制することが出来て好ましい。
以下、積層電極体を使用し、かつLi源を有する場合のリチウムイオン二次電池の一例を示す。例えば、正極および負極を,セパレータを介して積層した積層電極体の合剤層と対面しない端面にLiを配置し、前記負極と電気的に導通した第3電極を設ける。第3電極のLiは、負極合剤層にLiを導入するためのLi源である。
ここで、積層電極体について説明する。図1、図2に正極10と負極20の一例を示す。正極10は正極集電体であるアルミニウム製の金属箔の両面に正極合剤層11が塗布されている。正極10は正極タブ部13を有し、負極20は、負極集電体である銅製の金属箔の両面に負極合剤層21が塗布されている。
図3は、積層電極体50の一例を示す。積層電極体は、負極20、セパレータ40、正極10、セパレータ40、負極20・・・・・と、正極と負極とをセパレータを介して積層し形成する。この時、積層電極体の積層方向と平行な面を積層電極体の端面(例えば図3では点線の仮想面210で示している)と呼び、積層電極体の積層方向と垂直な面を積層電極体の平面(図3では211で示す)と呼ぶ。図3では積層電極体50のセパレータは、正極と負極の間に1枚ずつ配置しているが、長尺状のセパレータをZ字様に折り曲げて、その間に正極および負極を配置するようにしても良い。また、電極の枚数も図3のように3枚ずつには限るものではない。更に、複数の正極タブ部および負極タブ部は、それぞれ正極外部端子および負極外部端子に接続されていても良いが、図3および図5では割愛している。
図3では積層電極体の端面、平面はそれぞれ1面ずつしか示していないが、これに限られず、例えば積層電極体の端面は図3の点線仮想面の反対面にも存在し、積層電極体の平面もしかりである。積層電極体の端面は図3では平面を示しているが、電極の形状によっては曲面であっても良い。積層電極体の平面は、正極、負極、セパレータのいずれかの片面がそれに該当することになる。
図4には、Li源となる第3電極30を示す。第3電極30は、第3電極集電体32とLi源33とを有する。図4では第3電極集電体32は第3電極タブ部31を有する。
図5には、積層電極体50に第3電極30を合わせた状態を示す。第3電極集電体32を、積層電極体50の対向する2つの端面を覆う様に、アルファベットC字状に折り曲げている。この時、Li源33は、積層電極体50の端面に配置されるよう第3電極集電体32に張り付けられている。図4、5においては、Li源33を第3電極集電体32の両端面、にそれぞれ配置しているが、片方の面のみであってもよく、積層電極体50の上側(紙面上側)あるいは下側(紙面下側)の端面に配置してもよい。
更に、正極、負極の集電体に貫通孔が設けられていない金属箔を用いた場合、貫通孔を設けた場合と比べて強度が向上するし、負極集電体については合剤層との接着面積が増加するので負極合剤層の脱落の抑制に寄与する。
第3電極は、例えば銅やニッケルなどの金属箔(一方の面から他方の面へ貫通する貫通孔を有したものも含む)、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを集電体とし、第3電極集電体に所定量のLi箔を圧着することで作製することができる。もちろん、第3電極集電体にLi箔を圧着した後、Liが所定量となるよう第3電極集電体を切り出すことで作製されてもよい。
第3電極集電体にLiを圧着した第3電極は、例えば第3電極第3電極集電体が有するタブ部と、積層型電極体の負極の有するタブ部とを溶接することで、積層型電極体の負極と電気的に導通することができる。第3電極は、積層型電極体の負極と電気的に導通されていれば、その手法や形態に制限はなく、溶接以外の方法で電気的導通が確保されていてもよい。
本発明のリチウムイオン二次電池に係る外装体には、金属ラミネートフィルム外装体を使用することが好ましい。金属ラミネートフィルム外装体は、例えば金属製の外装缶に比べて変形が容易であることから、電池の充電によって負極が膨張しても、負極合剤層や負極集電体の破壊が生じ難いからである。
金属ラミネートフィルム外装体を構成する金属ラミネートフィルムとしては、例えば、外装樹脂層/金属層/内装樹脂層からなる3層構造の金属ラミネートフィルムが使用される。
金属ラミネートフィルムにおける金属層としてはアルミニウムフィルム、ステンレス鋼フィルムなどが、内装樹脂層としては熱融着樹脂(例えば、110〜165℃程度の温度で熱融着性を発現する変性ポリオレフィンアイオノマーなど)で構成されたフィルムが挙げられる。また、金属ラミネートフィルムの外装樹脂層としては、ナイロンフィルム(ナイロン66フィルムなど)、ポリエステルフィルム(ポチエチレンテレフタレートフィルムなど)などが挙げられる。
金属ラミネートフィルムにおいては、金属層の厚みは10〜150μmであることが好ましく、内装樹脂層の厚みは20〜100μmであることが好ましく、外装樹脂層の厚みは20〜100μmであることが好ましい。
外装体の形状については特に制限はないが、例えば、平面視で、3角形、4角形、5角形、6角形、7角形、8角形などの多角形であることが挙げられ、平面視で4角形(矩形または正方形)が一般的である。また、外装体のサイズについても特に制限はなく、所謂薄形や大型などの種々のサイズとすることができる。
金属ラミネートフィルム外装体は、1枚の金属ラミネートフィルムを二つ折りにして構成したものであってもよく、2枚の金属ラミネートフィルムを重ねて構成したものであってもよい。
なお、外装体の平面形状が多角形の場合、正極外部端子を引き出す辺と、負極外部端子を引き出す辺とは、同じ辺であってもよく、異なる辺であってもよい。
外装体における熱融着部の幅は、5〜20mmとすることが好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池は、充電の上限電圧を4.3V以上として使用することで、高容量化を図りつつ、長期にわたって繰り返し使用しても、安定して優れた特性を発揮することができる。また充電の上限電圧を、これよりも高い4.4V以上に設定して使用することも可能である。なお、リチウムイオン二次電池の充電の上限電圧は、4.7V以下であることが好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池は、従来から知られているリチウムイオン二次電池と同様の用途に適用することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
(実施例1)
<正極の作製>
Li含有化合物であるLi2CO3と、Co含有化合物であるCo3O4と、Mg含有化合物であるMg(OH)2と、Zr化合物であるZrO2と、Al含有化合物であるAl(OH)3とを適正な混合割合で乳鉢に入れて混合した後、ペレット状に固め、マッフル炉を用いて、大気雰囲気中(大気圧下)で、950℃で24時間焼成し、ICP(Inductive Coupled Plasma)法で求めた組成式がLiCo0.9795Mg0.011Zr0.0005Al0.009O2のコバルト酸リチウム(A1)を合成した。
次に、pHを10とし、温度を70℃とした水酸化リチウム水溶液:200g中に、前記コバルト酸リチウム(A1):10gを投入し、攪拌して分散させた後、ここにAl(NO3)3・9H2O:0.0154gと、pHの変動を抑えるためのアンモニア水とを、5時間かけて滴下して、Al(OH)3共沈物を生成させ、前記コバルト酸リチウム(A1)の表面に付着させた。その後、この反応液からAl(OH)3共沈物が付着した前記コバルト酸リチウム(A1)を取り出し、洗浄後、乾燥させた後に、大気雰囲気中で、400℃の温度で10時間熱処理することで、前記コバルト酸リチウム(A1)の表面にAl含有酸化物の被膜を形成して、正極材料(a1)を得た。
得られた正極材料(a1)について、前記の方法で平均粒子径を測定したところ、27μmであった。
Li含有化合物であるLi2CO3と、Co含有化合物であるCo3O4と、Mg含有化合物であるMg(OH)2と、Al含有化合物であるAl(OH)3とを適正な混合割合で乳鉢に入れて混合した後、ペレット状に固め、マッフル炉を用いて、大気雰囲気中(大気圧下)で、950℃で4時間焼成し、ICP法で求めた組成式がLiCo0.97Mg0.012Al0.009O2のコバルト酸リチウム(B1)を合成した。
次に、pHを10とし、温度を70℃とした水酸化リチウム水溶液:200中gに、前記コバルト酸リチウム(B1):10gを投入し、攪拌して分散させた後、ここにAl(NO3)3・9H2O:0.077gと、pHの変動を抑えるためのアンモニア水とを、5時間かけて滴下して、Al(OH)3共沈物を生成させ、前記コバルト酸リチウム(B1)の表面に付着させた。その後、この反応液からAl(OH)3共沈物が付着した前記コバルト酸リチウム(B1)を取り出し、洗浄後、乾燥させた後に、大気雰囲気中で、400℃の温度で10時間熱処理することで、前記コバルト酸リチウム(B1)の表面にAl含有酸化物の被膜を形成して、正極材料(b1)を得た。
得られた正極材料(b1)について、前記の方法で平均粒子径を測定したところ、7μmであった。
そして、正極材料(a1)と正極材料(b1)とを、質量比で85:15の割合で混合して、電池作製用の正極材料(1)を得た。得られた正極材料(1)の表面のAl含有酸化物の平均被覆厚みを前記の方法で測定したところ、30nmであった。また、平均被覆厚みの測定の際に元素マッピングによって被膜の組成を確認したところ、主成分がAl2O3であった。更に、正極材料(1)の体積基準の粒度分布を前記の方法で確認したところ、平均粒子径は25μmで、正極材料(a1)および正極材料(b1)の各平均粒子径の箇所にピークトップを有する2つのピークが認められた。また、正極材料(1)のBET比表面積を、窒素吸着法による比表面積測定装置を用いて測定したところ、0.25m2/gであった。
正極材料(1):96.5質量部と、バインダであるP(VDF−CTFE)を10質量%の濃度で含むNMP溶液:20質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:1.5質量部とを、二軸混練機を用いて混練し、更にNMPを加えて粘度を調節して、正極合剤含有ペーストを調製した。このペーストを、厚みが15μmであるアルミニウム箔の両面に塗布し、120℃で12時間の真空乾燥を行って、アルミニウム箔の両面に正極合剤層を形成し、プレス処理を行い、所定の大きさで切断して、帯状の正極を得た。なお、アルミニウム箔への正極合剤含有ペーストの塗布の際には、アルミニウム箔の一部が露出するようにし、アルミニウム箔の両面に正極合剤含有ペーストを塗布したものでは、表面で塗布部とした箇所は裏面も塗布部とした。得られた正極の正極合剤層の厚み(アルミニウム箔の両面に正極合剤層を形成したものでは、片面あたりの厚み)は、55μmであった。
アルミニウム箔の両面に正極合剤層を形成した帯状の正極を、タブ部とするためにアルミニウム箔(正極集電体)の露出部の一部が突出するように、かつ正極合剤層の形成部が四隅を曲線状とした略四角形状になるようにトムソン刃で打ち抜いて、正極集電体の両面に正極合剤層を有する電池用正極とを得た。図1に、前記電池用正極を模式的に表す平面図を示している(ただし、正極の構造の理解を容易にするために、図1に示す正極のサイズは、必ずしも実際のものと一致していない)。正極10は、正極集電体12の露出部の一部が突出するように打ち抜いたタブ部13を有する形状とし、正極合剤層11の形成部の形状を四隅を曲線状にした略四角形とし、図中a、bおよびcの長さを、それぞれ8mm、37mmおよび2mmとした。
<負極の作製>
SiO表面を炭素材料で被覆した複合体Si−1(平均粒径が8μm、比表面積が7.9m2/gで、複合体における炭素材料の量が10質量%):90質量部、ポリアミドイミド:7.8質量部、並びに導電助剤であるケッチェンブラック:2質量部、分散剤であるPVP:0.2質量部をNMPと混合して、溶剤系の負極合剤含有ペーストを調製した。
前記負極合剤用ペーストを、厚みが10μmである銅箔の片面に塗布し乾燥を行って、銅箔の片面および両面に負極合剤層を形成し、プレス処理を行って負極合剤層の密度を1.2g/cm3に調整した後に所定の大きさで切断して、帯状の負極を得た。なお、銅箔への負極合剤含有ペーストの塗布の際には、銅箔の一部が露出するようにし、両面に負極合剤層を形成したものは、表面で塗布部とした箇所は裏面も塗布部とした。
板状アルミナ粉末(平均粒径2μm):94.9質量部と、PVdFバインダ:5質量部と、PVP:0.1質量部をNMPと混合して、溶剤系の多孔質層用ペーストを調製した。このペーストを前記負極の負極合剤層表面に塗布し乾燥を行って、負極合剤層表面に多孔質層を設けた。多孔質層の厚みは4μmであった。
前記多孔質層を設けた帯状の負極を、タブ部とするために銅箔(負極集電体)の露出部の一部が突出するように、かつ負極合剤層の形成部が四隅を曲線状とした略四角形状になるようにトムソン刃で打ち抜いて、負極集電体の両面および片面に負極合剤層を有する電池用負極を得た。図2に、前記電池用負極を模式的に表す平面図を示している(ただし、負極の構造の理解を容易にするために、図2に示す負極のサイズは、必ずしも実際のものと一致していない)。負極20は、負極集電体22の露出部の一部が突出するように打ち抜いたタブ部23を有する形状とし、負極合剤層21の形成部の形状を四隅を曲線状にした略四角形とし、図中d、eおよびfの長さを、それぞれ9mm、38mmおよび2mmとした。
<セパレータの作製>
変性ポリブチルアクリレートの樹脂バインダ:3質量部と、ベーマイト粉末(平均粒径1μm):97質量部と、水:100質量部とを混合し、絶縁層形成スラリーを作製した。このスラリーを、厚さ12μmのリチウムイオン電池用ポリエチレン製微多孔膜;多孔質層(I)の片面に塗布、乾燥をした。多孔質層(I)の片面にベーマイトを主体とした多孔質層(II)を形成したセパレータを得た。なお、多孔質層(II)の厚みは3μmであった。
負極集電体の片面に負極合剤層を形成した電池用負極2枚、負極集電体の両面に負極合剤層を形成した電池用負極16枚、および正極集電体の両面に正極合剤層を形成した電池用正極17枚を用意した。さらに負極集電体の片面に負極合剤層を形成した電池用負極と、正極集電体の両面に正極合剤層を形成した電池用正極10と、両面に負極合剤層を形成した電池用負極20とを交互に配置し、各正極と各負極との間には前記セパレータ40を、多孔質層(II)が正極に対面するように1枚介在させて積層し、図3に示す積層電極体50を得た。
<第3電極の作製>
図4に示すように、第3電極30を以下の通り作製した。一方の面から他方の面へ貫通する貫通孔を有した銅箔(厚みが10μm、貫通孔の直径が0.1mm、気孔率が47%)を45×25mmの大きさに裁断し、2×2mm角の第3電極タブ部31を有する第3電極集電体32を作製した。さらに、厚さが200μmであり、1枚当たりの質量が20mgであるLi箔33を2枚、第3電極集電体32の両端面にそれぞれ1枚ずつ圧着し、アルファベットのC字状に折りたたんで第3電極30を得た。
<電池の組み立て>
正極同士のタブ部、負極同士のタブ部と、前述の通り作製した第3電極のタブ部を、それぞれ溶接して、積層電極体50と第3電極30とを合わせて、図5に示す電極体102を作製した。そして、前記積層電極体50が収まるように窪みを形成した厚み:0.15mm、幅:34mm、高さ:50mmのアルミニウムラミネートフィルムの、前記窪みに前記積層電極体を挿入し、その上に前記と同じサイズのアルミニウムラミネートフィルムを置いて、両アルミニウムラミネートフィルムの3辺を熱溶着した。そして、両アルミニウムラミネートフィルムの残りの1辺から非水電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比3:7の混合溶媒に、LiPF6を1mol/lの濃度で溶解させ、更にビニレンカーボネートを3質量%となる量で添加した溶液)を注入した。その後、両アルミニウムラミネートフィルムの前記残りの1辺を真空熱封止して、図6に示す外観で、図7に示す断面構造のリチウムイオン二次電池を作製した。
ここで、図6および図7について説明すると、図6はリチウムイオン二次電池を模式的に表す平面図であり、図7は、図6のI−I線断面図である。リチウムイオン二次電池100は、2枚のアルミニウムラミネートフィルムで構成したアルミニウムラミネートフィルム外装体101内に、電極体102と、非水電解液(図示しない)とを収容しており、アルミニウムラミネートフィルム外装体101は、その外周部において、上下のアルミニウムラミネートフィルムを熱融着することにより封止されている。なお、図7では、図面が煩雑になることを避けるために、アルミニウムラミネートフィルム外装体101を構成している各層や、電極体を構成している正極、負極およびセパレータを区別して示していない。
電極体102の有する各正極は、タブ部同士を溶接して一体化し、この溶接したタブ部の一体化物を電池100内で正極外部端子103と接続しており、また、図示していないが、電極体102の有する各負極と第3電極も、タブ部同士を溶接して一体化し、この溶接したタブ部の一体化物を電池100内で負極外部端子104と接続している。そして、正極外部端子103および負極外部端子104は、外部の機器などと接続可能なように、片端側をアルミニウムラミネートフィルム外装体101の外側に引き出している。
(実施例2)
SiO表面を炭素材料で被覆した複合体Si−2(平均粒径が5μm、比表面積が8.8m2/gで、複合体における炭素材料の量が10質量%)を負極活物質として使用した以外は、すべて実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例3)
黒鉛A(表面を非晶質炭素で被覆していない黒鉛):15質量%と、黒鉛B(黒鉛からなる母粒子の表面を、ピッチを炭素源とした非晶質炭素で被覆した黒鉛):15質量%と、前記Si−1:70質量%を、V型ブレンダーで12時間混合し、負極活物質を得た。以下、前記負極活物質を用いたこと、1枚当たりの質量が14mgであるLi箔33を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例4)
黒鉛A(表面を非晶質炭素で被覆していない黒鉛):25質量%と、黒鉛B(黒鉛からなる母粒子の表面を、ピッチを炭素源とした非晶質炭素で被覆した黒鉛):25質量%と、前記Si−1:50質量%を、V型ブレンダーで12時間混合し、負極活物質を得た。以下、前記負極活物質を用いたこと、1枚当たりの質量が10mgであるLi箔33を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例5)
黒鉛A(表面を非晶質炭素で被覆していない黒鉛):35質量%と、黒鉛B(黒鉛からなる母粒子の表面を、ピッチを炭素源とした非晶質炭素で被覆した黒鉛):35質量%と、前記Si−1:30質量%を、V型ブレンダーで12時間混合し、負極活物質を得た。以下、前記負極活物質を用いたこと、1枚当たりの質量が6mgであるLi箔33を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例6)
1枚当たりの質量が17.5mgであるLi箔33を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例7)
1枚当たりの質量が22.5mgであるLi箔33を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例8)
Al(NO3)3・9H2Oの使用量を0.0026gに変更した以外は、正極材料(a1)と同じ方法で正極材料(a2)を作製した。得られた正極材料(a2)について、前記の方法で平均粒子径を測定したところ、27μmであった。
また、Al(NO3)3・9H2Oの使用量を0.013gに変更した以外は、正極材料(b1)と同じ方法で正極材料(b2)を作製した。得られた正極材料(b2)について、前記の方法で平均粒子径を測定したところ、7μmであった。
次に、正極材料(a2)と正極材料(b2)とを、質量比で85:15の割合で混合して、電池作製用の正極材料(2)を得た。得られた正極材料(2)の表面のAl含有酸化物の平均被覆厚みを前記の方法で測定したところ、5nmであった。また、平均被覆厚みの測定の際に元素マッピングによって被膜の組成を確認したところ、主成分がAl2O3であった。更に、正極材料(2)の体積基準の粒度分布を前記の方法で確認したところ、平均粒子径は25μmで、正極材料(a2)および正極材料(b2)の各平均粒子径の箇所にピークトップを有する2つのピークが認められた。また、正極材料(2)のBET比表面積を、窒素吸着法による比表面積測定装置を用いて測定したところ、0.25m2/gであった。
そして、正極材料(1)に代えて正極材料(2)を用いた以外は実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例9)
Al(NO3)3・9H2Oの使用量を0.0256gに変更した以外は、正極材料(a1)と同じ方法で正極材料(a3)を作製した。得られた正極材料(a3)について、前記の方法で平均粒子径を測定したところ、27μmであった。
また、Al(NO3)3・9H2Oの使用量を0.128gに変更した以外は、正極材料(b1)と同じ方法で正極材料(b3)を作製した。得られた正極材料(b3)について、前記の方法で平均粒子径を測定したところ、7μmであった。
次に、正極材料(a3)と正極材料(b3)とを、質量比で85:15の割合で混合して、電池作製用の正極材料(3)を得た。得られた正極材料(3)の表面のAl含有酸化物の平均被覆厚みを前記の方法で測定したところ、50nmであった。また、平均被覆厚みの測定の際に元素マッピングによって被膜の組成を確認したところ、主成分がAl2O3であった。更に、正極材料(3)の体積基準の粒度分布を前記の方法で確認したところ、平均粒子径は25μmで、正極材料(a3)および正極材料(b3)の各平均粒子径の箇所にピークトップを有する2つのピークが認められた。また、正極材料(3)のBET比表面積を、窒素吸着法による比表面積測定装置を用いて測定したところ、0.25m2/gであった。
そして、正極材料(1)に代えて正極材料(3)を用いた以外は実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例10)
実施例1と同様の方法で合成したコバルト酸リチウム(A1)およびコバルト酸リチウム(B1)とを、質量比で85:15の割合で混合して、電池作製用の正極材料(4)を得た。
正極材料(4):96.5質量部と、バインダであるP(VDF−CTFE)を10質量%の濃度で含むNMP溶液:17質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:1.3質量部と、平均粒子径が0.7μmであるアルミナフィラー:0.5質量部を、二軸混練機を用いて混練し、更にNMPを加えて粘度を調節して、正極合剤含有ペーストを調製し、この正極合剤含有ペーストを用いた以外は実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例11)
正極活物質であるLiCoO2:96.5質量部と、バインダであるP(VDF−CTFE)を10質量%の濃度で含むNMP溶液:17質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:1.3質量部と、平均粒子径が0.7μmであるアルミナフィラー:0.5質量部を、二軸混練機を用いて混練し、更にNMPを加えて粘度を調節して、正極合剤含有ペーストを調製し、この正極合剤含有ペーストを用いた以外は実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例12)
粒状アルミナ粉末(平均粒径0.4μm):94.9質量部と、PVdFバインダ:5質量部と、PVP:0.1質量部をNMPと混合して、溶剤系の多孔質層用ペーストを調製し、このペーストを用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製し、この負極を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例13)
板状ベーマイト粉末(平均粒径1μm):94.9質量部と、PVdFバインダ:5質量部と、PVP:0.1質量部をNMPと混合して、溶剤系の多孔質層用ペーストを調製し、このペーストを用いた以外は実施例1と同様にして負極合剤層表面に多孔質層を設けて負極を作製した。この負極を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例14)
SiO表面を炭素材料で被覆した複合体Si−1:90質量部、ポリアミドイミド:6質量部、PVdF:1.8質量部並びに導電助剤であるケッチェンブラック:2質量部、分散剤であるPVP:0.2質量部をNMPと混合して、溶剤系の負極合剤含有ペーストを調製し、このペーストを用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製し、この負極を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(比較例1)
SiO表面を炭素材料で被覆した複合体Si−1:90質量部、SBR:7.8質量部並びに導電助剤であるケッチェンブラック:2質量部、分散剤であるPVP:0.2質量部を水と混合して、水系の負極合剤含有ペーストを調製し、このペーストを用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製し、この負極を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(比較例2)
負極合剤層表面に、多孔質用ペーストを塗布しなかった(すなわち負極合剤層表面に多孔質層を設けなかった)こと実施例1と同様にして負極を作製し、この負極を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(比較例3)
第3電極のLi箔33を圧着しなかった(すなわちLiの質量は0mg)こと以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
(比較例4)
第3電極に、質量が25mgであるLi箔33を、第3電極集電体32の両端面にそれぞれ圧着したこと以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
実施例および比較例の各リチウムイオン二次電池について、以下の評価をした。
<45℃保管後の回路電圧測定>
実施例および比較例のリチウムイオン二次電池(比較例3の電池は除く)それぞれ30個を、45℃の恒温槽内で1週間保管した後、25℃の恒温槽内に5時間静置し、その後、各電池について回路電圧を測定した。回路電圧が、2.5V未満のものを電圧不良として不良品の個数を表1に示す。
<正極活物質中のLi量測定>
回路電圧を測定したリチウムイオン二次電池(不良品は除く)と比較例3の電池の各5個を、0.5Cの電流値で4.4Vまで定電流充電し、引き続いて4.4Vの一定電圧で電流値が0.02Cに到達するまで充電した。その後、0.1Cの放電電流レートで電圧が2.0Vに達するまで放電した。そして、グローブボックス内でアルミラミネートを解体し、正極のみを取り出した。取り出した正極をジエチルカーボネートで洗浄したのち、正極合剤層を掻き出し、前述したICP法により、LiとLi以外の金属の組成比率;Li/M(Li;Li量、M;Li以外の金属量)を算出、5個の平均値を表1に示す。
<初期特性評価>
回路電圧を測定した実施例および比較例のリチウムイオン二次電池と比較例3の電池(不良品は除く、かつ前述したLi/M算出用とは別の電池)の各5個を、0.5Cの電流値で4.4Vまで定電流充電し、引き続いて4.4Vの一定電圧で電流値が0.02Cに到達するまで充電した。その後、0.2Cの定電流で2.0Vまで放電を行って、初回の放電容量と充放電効率(初回充放電効率=放電容量/充電容量×100%)を求めた。5個の電池の平均値を表1に示す。なお、放電容量は比較例1の電池を100とした相対値で示す。
<充放電サイクル特性評価>
初期特性評価後のリチウムイオン二次電池(各5個)を、0.5Cの電流値で4.4Vまで定電流充電し、引き続いて4.4Vの一定電圧で電流値が0.02Cに到達するまで充電した。その後、0.2Cの定電流で2.0Vまで放電を行って、初回放電容量を求めた。次に、各電池について、1Cの電流値で4.4Vまで定電流充電し、引き続いて4.4Vの定電圧で電流値が0.05Cになるまで充電した後に、1Cの電流値で2.0Vまで放電する一連の操作を1サイクルとして、これを300回サイクルした。そして、各電池について、前記の初回放電容量測定時と同じ条件で定電流−定電圧充電および定電流放電を行って、放電容量を求めた。そして、これらの放電容量を初回放電容量で除した値を百分率で表して、サイクル容量維持率を算出、5個の平均値を表1に示す。また、回路電圧を測定した実施例1のリチウムイオン二次電池の5個(前述の評価に使用していない別の電池)を4.2Vまでの定電流および定電圧充電とした電池を参考例1として、前記初期特性評価と充放電サイクル特性評価を行った。