以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1には、本発明の一実施形態としての加工葉製造工程が示されている。先ず、加工葉の材料として、落葉広葉樹の紅葉した樹葉を採取する。加工葉の材料となる樹葉は、落葉広葉樹の紅葉した樹葉であれば、特に限定されるものではないが、例えば図1の樹種の欄に示されているように、イヌザクラ、カツラ、ヤマザクラ、ヤマボウシ、ガマズミ、クマノミズキ、クロモジ、コバンノキ、サワグルミ、ソメイヨシノ、タカノツメ、タムシバ、ヤマザクラ、イロハモミジ、イタヤカエデ、オオモミジ、ナンゴクミネカエデなどの樹葉が採用され得る。なお、本実施形態において紅葉とは、原則として、アントシアンの生成などによって樹葉が赤色に変色する狭義の紅葉だけでなく、クロロフィルの減少などによって樹葉が黄色に変色する黄葉を含む。
さらに、加工葉の材料として落葉後の紅葉樹葉を採取しても良いが、落葉前に採取した紅葉樹葉を加工葉の材料とすることが望ましい。また、紅葉樹葉のみを樹枝から採取しても良いが、作業効率などを考慮して複数の紅葉樹葉を樹枝ごと採取して、後述する剪定工程で樹枝を取り除くこともできる。
更にまた、落葉広葉樹の樹葉は紅葉時にクロロフィルが分解されることから、紅葉後の樹葉は紅葉前の樹葉に対してクロロフィルの濃度が低くなる。加工葉の材料としては、クロロフィル濃度が紅葉前の樹葉のクロロフィル濃度に対して60%以下となっている紅葉樹葉を選択的に採取することが望ましく、より好適には、クロロフィル濃度が紅葉前の樹葉のクロロフィル濃度に対して25%以下となっている紅葉樹葉を選択的に採取する。
さらに、加工葉の材料としては、紅葉後に枯れて茶色に変色した領域が樹葉全体の50%未満である紅葉樹葉が望ましい。このように採取する紅葉樹葉を選抜することにより、紅葉樹葉を材料とする加工葉の品質の安定化が図られ得る。
次に、採取した紅葉樹葉を剪定する。即ち、樹枝ごと採取された紅葉樹葉では、剪定工程において樹葉を樹枝から切り離す。更に、硬い葉柄を有する紅葉樹葉は、剪定工程において葉柄の全体乃至は特に硬い部分を切除することが望ましい。これにより、後述する揉捻工程において紅葉樹葉を効率的に揉みほぐすことができると共に、同じく後述する発酵工程において紅葉樹葉を発酵し易くすることができる。
また次に、剪定した紅葉樹葉を洗浄する。紅葉樹葉の洗浄は、単純に流水で表面を洗い流すだけでも良いが、好適には、紅葉樹葉を水に所定の時間浸した後、紅葉樹葉の表面を流水で洗い流すことにより、洗浄工程を完了する。このように、水に浸した後で流水による洗浄をおこなうことにより、紅葉樹葉に付着した汚れを落とし易くなる。
洗浄工程で水洗いされた紅葉樹葉を次の萎凋工程において乾燥させる。萎凋工程は、紅葉樹葉の含有水分を所定の量まで減少させる工程であって、一般的には通風の良い環境下に紅葉樹葉を所定の時間に亘って置いておくことでおこなわれる。本実施形態では、日中に日陰である程度まで乾燥させた後、夜間に室内で更に乾燥させることで、萎凋工程を完了する。この萎凋工程によって、紅葉樹葉の細胞組織が柔らかくなって、後述する揉捻工程において紅葉樹葉を揉みほぐす作業が容易になる一方、紅葉樹葉に含まれる青葉アルコールや青葉アルデヒドが減少することで青臭い臭味が低減されると共に、酵素の作用による香気成分の増加によって良好な香りが醸成される。
萎凋工程で含有水分量を減じた紅葉樹葉に対して、揉捻工程で揉む処理をする。揉捻工程は、揉捻機によっておこなうこともできるが、例えば袋に入れた紅葉樹葉を手で揉むこと(手揉み)によっておこなうこともできる。なお、揉捻工程は、高湿度環境下でおこなうことが望ましく、例えば室温15〜20℃且つ室内湿度70〜90%の環境下で1時間程度に亘って萎凋済みの紅葉樹葉を揉むことにより完了する。
この揉捻工程は、紅葉樹葉の細胞組織を破壊して、紅葉樹葉に含まれるポリフェノールとポリフェノール酸化酵素を接触させることによって、ポリフェノールの酸化(紅葉樹葉の発酵)を促すことが目的の一つであることから、紅葉樹葉の細胞組織を破壊し得る程度の力を加えて、紅葉樹葉を十分に変形させることが必要になる。なお、揉捻工程の原理は製茶の場合と同じであるが、揉捻に必要な力の大きさや時間、温度および湿度を含む環境条件などは、使用する紅葉樹葉に応じて適宜に調節される。なお、揉捻工程において、紅葉樹葉を磨り潰して細片化しても良い。
次に、揉捻工程を完了した紅葉樹葉を発酵させる。この発酵工程は、揉捻工程で揉んだ紅葉樹葉を発酵に好適な環境条件下に置くことでおこなわれる。発酵工程では、製茶における発酵と同様に、紅葉樹葉内のポリフェノールがポリフェノール酸化酵素の働きで酸化する化学変化を生じる。かかる化学変化により、紅葉樹葉の抽出液において、ポリフェノールに起因する渋味(収斂味)が低減されると共に、ポリフェノール酸化物に由来する香りが増幅される。なお、発酵工程は、高湿度環境下でおこなうことが望ましく、例えば室温15〜20℃且つ室内湿度70〜90%の環境下で12時間程度に亘って揉捻済みの紅葉樹葉を放置することにより完了する。
さらに、紅葉樹葉の発酵が進むに従って紅葉樹葉に含まれるポリフェノールが酸化して、紅葉樹葉のポリフェノール含有量が減少することから、紅葉樹葉の発酵の度合いは、例えば紅葉樹葉のポリフェノール含有量によって把握することができる。紅葉樹葉の発酵は、例えば、紅葉樹葉のポリフェノール含有量が紅葉樹葉の重量に対する重量百分比で2〜12%の範囲内になるようにおこなうことが望ましい。
なお、発酵工程は、紅葉樹葉の発酵の程度を確認しながら進められることが望ましく、紅葉樹葉の発酵が不十分であれば、揉捻工程の揉み処理を再びおこなった後、発酵工程を再びおこなうことにより、紅葉樹葉の発酵を促進させるようにしても良い。また、揉捻工程と発酵工程は、明確に別工程とされている必要はなく、例えば紅葉樹葉の発酵に好適な温度や湿度などの環境条件下で紅葉樹葉を揉むことにより、揉捻作業中に発酵を進行させて、揉捻工程と発酵工程を同時におこなうこともできる。
次に、所定の発酵を完了した紅葉樹葉の発酵物を、乾燥工程で乾燥させる。乾燥の程度は特に限定されるものではないが、ポリフェノール酸化酵素を不活性化して紅葉樹葉の更なる発酵を防ぎ得る程度まで、乾燥工程において紅葉樹葉の発酵物の水分量を減らす。具体的には、乾燥工程において、紅葉樹葉の発酵物の重量が50%以上(より好適には略50%)減少するまで乾燥させることが望ましく、例えば紅葉樹葉の発酵物を35〜45℃の温風に12時間に亘って晒すことにより乾燥工程が完了する。
この乾燥工程を完了することによって、落葉広葉樹の紅葉樹葉の発酵物からなる抽出飲料用の加工葉を得る。この加工葉は、空気中の酸素や水分との接触による劣化を防ぐために、密閉可能な袋や容器に可及的速やかに収容して保存することが望ましい。なお、加工葉を収容する袋や容器に窒素などの不活性ガスを充填したり、加工葉を収容する袋内や容器内の空気を減らしたりすることで、加工葉の風味などの劣化をより効果的に防ぐこともできる。
このようにして製造された加工葉は、図2に示すような成分を含んでいる。図2では、カツラの紅葉樹葉を材料とする加工葉と、イロハモミジの紅葉樹葉を材料とする加工葉と、イタヤカエデの紅葉樹葉を材料とする加工葉について、それぞれの成分分析結果が示されている。これによれば、カツラの加工葉とイロハモミジの加工葉とイタヤカエデの加工葉は、何れもカルシウムとポリフェノールを豊富に含んでいることが明らかとなった。即ち、カルシウム含有量は、カツラの加工葉が3600mg/100g、イロハモミジの加工葉が1500mg/100g、イタヤカエデの加工葉が1400mg/100gとなっており、煎茶のカルシウム含有量(450mg/100g)と比較して何れも多いことが分かった。一方、ポリフェノール含有量は、カツラの加工葉が8.53g/100g、イロハモミジの加工葉が6.10g/100g、イタヤカエデの加工葉が3.12g/100gとなっており、ポリフェノールを豊富に含むことで知られる赤ワインのポリフェノール含有量が一般的に0.25〜0.4g/100gであるのと比較して、著しく多いことを確認した。また、カツラの加工葉がタンニンを12g/100g含むと共に、イロハモミジの加工葉がタンニンを11g/100g含んでおり、それらの加工葉が煎茶のタンニン含有量(13g/100g)と同程度の豊富なタンニンを含んでいることも分かった。
なお、図3には、図2に示した成分分析結果を得るに至った成分分析の分析方法が示されている。ポリフェノール類の含有量を測定する成分分析では、ポリフェノール類が構造上で有するフェノール性水酸基により還元されて呈色する試薬を用い、呈色の度合いを吸光光度計で測定することにより、フェノール性水酸基をもつ化合物を評価した。かかる評価方法により、対象物である検体に含まれるフェノール性水酸基をもつ化合物をフォーリンデニス法で測定することでタンニン酸として評価した値を図2に示す表中の「タンニン」欄に記載すると共に、フォーリンチオカルト法で測定することでカテキンとして評価した値を同表中の「ポリフェノール」欄に記載した。
そして、このようにして製造された加工葉の成分を水(湯)や牛乳などによって抽出することにより、飲用に供される抽出液を得ることができる。この加工葉の抽出液は、重量百分比で0.01〜0.1%のポリフェノールを含有していることが望ましく、それによって抽出液が飲用に適した味と香りを備え得る。加工葉の抽出液について実際に成分分析を行った結果、抽出液のポリフェノール含有量は、カツラの加工葉が0.07g/100g、イロハモミジの加工葉が0.04g/100g、イタヤカエデの加工葉が0.02g/100gであった。また、加工葉の抽出液のタンニン含有量は、カツラの加工葉が0.056g/100g、イロハモミジの加工葉が0.035g/100g、イタヤカエデの加工葉が0.018g/100gであった。なお、成分分析に用いた加工葉の抽出液は、5gの加工葉を300gの沸騰水で2分間煮出した後、濾紙(5A)を用いて加工葉を濾過することにより得た。また、加工葉の抽出液の成分分析結果における「ポリフェノール」と「タンニン」は、図2に記載された加工葉の成分分析結果と同様に測定した。
なお、加工葉から抽出液を得る方法は特に限定されるものではなく、例えば、加工葉を入れたポットなどの容器に熱湯を注いで蒸らした後で加工葉を取り除くことにより、加工葉の成分を湯中に抽出する淹茶式や、鍋に入れた加工葉を水や牛乳などで煮出して抽出液を得る煮出し式の他、冷水(常温の水を含む)に加工葉を入れて抽出する水出し式など、各種の抽出方法が採用され得る。
さらに、加工葉の抽出液をそのまま或いは砂糖などで味付けして飲用に供することにより、加工葉抽出液を含む紅葉樹葉飲料を得ることができる。また、加工葉の抽出液を他の液体(炭酸水など)と混合して紅葉樹葉飲料としても良い。
このような本実施形態に従う加工葉の製造方法によれば、揉捻工程と発酵工程で樹葉が含有するポリフェノールを適切に酸化(発酵)させて加工葉を得ることから、加工葉から抽出されるポリフェノールに起因する渋味が低減されて、飲み易い飲用に適した抽出液を得ることが可能になる。しかも、揉捻工程と発酵工程を有する製造方法で製造される加工葉は、ポリフェノール酸化物に由来する芳香成分の含有量が増すことから、より香り高い加工葉の抽出液を得ることができて、抽出液によって嗜好品として優れた紅葉樹葉飲料を得ることができる。
さらに、発酵工程において樹葉のポリフェノール含有量が重量百分比で2〜12%の範囲内となるように樹葉を発酵させることにより、抽出液中に適量のポリフェノールが溶存し得る加工葉を製造することができる。その結果、ポリフェノールに起因する渋味とポリフェノール酸化物に由来する香気を、加工葉の抽出液を含む紅葉樹葉飲料に適当に加えて、良好な風味を実現できると共に、摂取者がポリフェノールの抗菌作用や抗酸化作用などによる効能を十分に享受できる紅葉樹葉飲料を、製造された加工葉の抽出液によって得ることが可能になる。
本実施形態の加工葉製造方法では、揉捻工程よりも前に萎凋工程を有していることから、萎凋工程において紅葉樹葉の含有水分量が減少することで、揉捻工程において紅葉樹葉を揉み易くなる。しかも、萎凋工程で紅葉樹葉の含有水分量を調節して、発酵工程における紅葉樹葉の発酵の進み具合を制御することにより、紅葉樹葉の発酵物からなる加工葉を用いた抽出液において、より好ましい味や香りを実現することができ得る。加えて、樹葉に含まれる青葉アルコールや青葉アルデヒドが萎凋工程で蒸散して減少することにより、青臭さの更なる低減も期待できる。なお、適当な発酵が完了した時点で乾燥工程に移行して紅葉樹葉の発酵物を加熱および乾燥させることにより、紅葉樹葉の発酵物(加工葉)の発酵とそれに伴う味および香りの変化を停止させて、加工葉抽出液の味や香りを設定することができる。
また、加工葉の材料として落葉広葉樹の紅葉樹葉を選択して採用することにより、クロロフィルに起因する加工葉抽出液の青臭い臭味を低減することができて、製造した加工葉の抽出液によって良好な味や香りを備える紅葉樹葉飲料を得ることができる。更に、クロロフィル含有量が紅葉前の樹葉に対して60%以下である紅葉樹葉を、加工葉の材料として選択的に採用することにより、クロロフィルに起因する加工葉抽出液の青臭さを抑えることができる。特に、クロロフィル含有量が紅葉前の樹葉に対して25%以下である紅葉樹葉を加工葉の材料として選択的に採用すれば、加工葉の抽出液の青臭さがより効果的に低減されて、クロロフィルに起因する臭味が十分に防止される。
更にまた、紅葉樹葉を用いた加工葉によれば、加工葉の抽出液を含む紅葉樹葉飲料を摂取することにより、加工葉に含まれるカロチノイドの抗酸化作用などの人体に有益な作用を期待でき得る。特に、イロハモミジの樹葉のように赤く色づく樹葉(狭義の紅葉樹葉)では、加工葉の抽出液中に溶け出すアントシアンの止瀉作用や整腸作用を得ることも可能となる。
また、カツラ、イロハモミジ、イタヤカエデは日本の森林に広く存在していることから、紅葉樹葉を採取する落葉広葉樹としてカツラ、イロハモミジ、イタヤカエデを採用すれば、加工葉の材料の供給が容易である。しかも、樹幹が木材として有用なカツラおよびイタヤカエデの樹葉を加工葉の材料とすることにより、森林資源である樹木をより効率的に利用することができる。更に、カツラ、イロハモミジ、イタヤカエデの各紅葉樹葉を材料とする加工葉の抽出液は、何れも良好な味と香りを呈することが試作によって確認されている。特に、カツラの紅葉樹葉を加工葉の材料とすれば、カツラの樹葉に含まれるマルトールに由来する甘味とカラメル様の芳香を加工葉の抽出液に付与することができて、加工葉抽出液を含む紅葉樹葉飲料の味と香りをより一層良好なものとすることができる。
また、落葉広葉樹の紅葉樹葉を材料として抽出飲料用の加工葉を製造することにより、従来の茶などとは異なる新たな味覚の飲料を提供することができると共に、樹幹などに比して用途に乏しかった樹葉を活用することで森林資源の効率的な利用が可能となり得る。しかも、本発明は、これまで存在しなかった樹葉を用いた飲料用加工葉の製造という新たな産業を、山林が広がる地方に創出し得るものであって、産業上の利用性という観点からも極めて有用である。
なお、発明者らは、本実施形態に係る加工葉製造方法を発明するに至る過程で、種々の製造方法について検討し、それらの製造方法による加工葉の試作をそれぞれおこなっている。そこで、本実施形態に係る加工葉製造方法に至る過程で発明者らが試した各種の加工葉製造方法について、以下に説明する。
図4には、湯引工程と塩漬工程を有する加工葉の製造方法を示す。即ち、図4では、加工葉の材料となる樹葉として、オオシマザクラ、イロハモミジ、イタヤカエデの各樹葉を採取し、それら樹葉を剪定工程で剪定した後、洗浄工程で水洗いする。更に、各樹葉を洗浄工程後の湯引工程において熱湯で湯引きし、湯引きした樹葉を米酢に塩を混合した液に浸漬するとともに圧縮して放置することで塩漬工程をおこなう。所定の期間に亘って塩漬けをした樹葉を水洗いして余分な塩を洗い流す塩抜きをおこなった後、乾燥工程で樹葉を乾燥させて加工葉を得た。
図5には、湯引工程を有する加工葉の製造方法を示す。即ち、図5では、加工葉の材料となる樹葉として、イタヤカエデ、オオシマザクラ、イロハモミジ、クロモジ、ニッケイ、タムシバの各樹葉を採取し、それら樹葉を剪定工程で剪定した後、洗浄工程で水洗いする。更に、各樹葉を洗浄工程後の湯引工程において熱湯で湯引きし、湯引きした樹葉を乾燥工程で乾燥させて加工葉を得た。
図6には、粉砕工程を有する加工葉の製造方法を示す。即ち、図6では、加工葉の材料となる樹葉として、イタヤカエデ、イロハモミジ、エドヒガン、オオシマザクラ、カツラ、クロモジ、コハウチワカエデ、タカノツメ、ニッケイ、ハリギリ、ホオノキ、ヤマザクラの各樹葉を採取し、それら樹葉を剪定工程で剪定した後、洗浄工程で水洗いし、更に洗浄した樹葉を乾燥工程において乾燥させる。更に、乾燥させた樹葉を粉砕工程において乳鉢で粉砕して粉状に加工することにより加工葉を得た。
図7には、焙煎工程を有する加工葉の製造方法を示す。即ち、図7では、加工葉の材料となる樹葉として、アケビ、オオシマザクラ、ソメイヨシノ、タムシバ、ニッケイの各樹葉を採取し、それら樹葉を剪定工程で剪定した後、洗浄工程で水洗いし、更に洗浄した樹葉を乾燥工程において乾燥させる。更に、乾燥させた樹葉を鍋などで炒る焙煎工程を経て加工葉を得た。
図8には、樹葉ではなく樹枝を用いて抽出飲料用の加工物を製造する方法を示す。即ち、図8では、ニッケイの樹枝を採取し、採取した樹枝を剪定工程で剪定した後、洗浄工程で水洗いし、更に剥皮工程で樹皮を剥いでから乾燥工程で乾燥させる。更に、乾燥させた樹枝を乳鉢で粉砕して粉状に加工する粉砕工程を経て加工物を得た。
図9には、萎凋工程と揉捻工程と焙煎工程を有する加工葉の製造方法を示す。即ち、図9では、加工葉の材料となる樹葉として、イヌガヤ、コハウチワカエデ、タカノツメ、ニッケイ、ハリギリ、マタタビ、ヤマザクラの各樹葉を採取し、それら樹葉を剪定工程で剪定した後、洗浄工程で水洗いする。次に、洗浄した樹葉を萎凋工程である程度まで乾燥させた後、揉捻工程で樹葉を揉む。また次に、揉捻した樹葉を鍋などで炒る焙煎工程の後、乾燥工程で乾燥させることにより加工葉を得た。
そして、図4〜9に示す加工葉の抽出液について、試作評価と試飲による感応試験を繰り返し実施し、図10の評価結果を得た。以下に、図10に基づいて試作評価と試飲感応試験の結果について、説明する。なお、図10〜12の表において、製法欄に記載されている「湯引」は湯引工程を有する製法であることを、「塩漬」は塩漬工程を有する製法であることを、「乾燥」は乾燥工程を有する製法であることを、「萎凋」は萎凋工程を有する製法であることを、「揉捻」は揉捻工程を有する製法であることを、「焙煎」は焙煎工程を有する製法であることを、「発酵」は発酵工程を有する製法であることを、それぞれ示す。洗浄工程と剪定工程については、全ての紅葉樹葉に対して共通しておこなわれたことから記載を省略した。
先ず、試作評価1として、湯引工程と塩漬工程と乾燥工程を有する図4の製造方法で得たオオシマザクラ、イロハモミジ、イタヤカエデの各加工葉と、湯引き工程と乾燥工程を有する図5の製造方法で得たイタヤカエデ、オオシマザクラ、イロハモミジ、クロモジ、ニッケイ、タムシバの各加工葉と、乾燥工程と粉砕工程を有する図6の製造方法で得たイタヤカエデ、イロハモミジ、オオシマザクラ、クロモジ、ホオノキ、ヤマザクラの各加工葉と、乾燥工程と焙煎工程を有する図7の製造方法で得たアケビ、オオシマザクラ、タムシバの各加工葉と、剥皮工程を有する図8の製造方法で得たニッケイの樹枝の加工物について、抽出液の試飲評価をおこなった。
試作評価1によって、図10に○を付した12種類の加工葉(樹枝の加工物を含む)の抽出液について良好であると評価する一方、図10に×を付した7種類の加工葉の抽出液について不良であると評価した。
次に、試飲評価会において、試作評価1と同じ19種類の加工葉(樹枝の加工物を含む)について、抽出液の試飲評価をおこなった。試飲評価会では、湯引工程と塩漬工程と乾燥工程を有する図4の製造方法で得たイロハモミジの加工葉と、湯引工程と乾燥工程を有する図5の製造方法で得たイタヤカエデ、タムシバの各加工葉と、乾燥工程と粉砕工程を有する図6の製造方法で得たクロモジの加工葉と、乾燥工程と焙煎工程を有する図7の製造方法で得たアケビの加工葉について、商品化の可能性を有する良好な評価を得た。
試作評価2では、湯引工程と塩漬工程と乾燥工程を有する図4の製造方法で得たオオシマザクラの加工葉と、湯引き工程と乾燥工程を有する図5の製造方法で得たオオシマザクラ、ニッケイの各加工葉と、乾燥工程と粉砕工程を有する図6の製造方法で得たエドヒガン、オオシマザクラ、カツラ、コハウチワカエデ、タカノツメ、ニッケイ、ハリギリの各加工葉と、乾燥工程と焙煎工程を有する図7の製造方法で得たオオシマザクラ、ソメイヨシノ、ニッケイの各加工葉と、剥皮工程を有する図8の製造方法で得たニッケイの樹枝の加工物と、揉捻工程と焙煎工程と乾燥工程を有する図9の製造方法で得たコハウチワカエデ、タカノツメ、ハリギリ、ヤマザクラの各加工葉とについて、抽出液の試飲評価をおこなった。
試作評価2において、図10に○を付した9種類の加工葉について良好であると評価する一方、図10に△を付した9種類の加工葉については、実施予定地における材料の供給量が少ないなどの評価をした。
試作評価3では、揉捻工程と焙煎工程と乾燥工程を有する図9の製造方法で得たイヌガヤ、ニッケイ、マタタビの各加工葉とについて、抽出液の試飲評価をおこない、試作した3種類の加工葉について良好であると評価した。
次に、試飲会1を開催して、参加者10名による試飲評価をおこなった。試飲会1では、湯引工程と乾燥工程を有する図5の製造方法で得たイタヤカエデ、タムシバの各加工葉と、乾燥工程と粉砕工程を有する図6の製造方法で得たエドヒガン、オオシマザクラ、カツラ、クロモジ、コハウチワカエデ、タカノツメ、ハリギリ、ヤマザクラの各加工葉と、乾燥工程と焙煎工程を有する図7の製造方法で得たアケビ、オオシマザクラ、ソメイヨシノ、タムシバ、ニッケイの各加工葉と、揉捻工程と焙煎工程と乾燥工程を有する図9の製造方法で得たイヌガヤ、コハウチワカエデ、タカノツメ、ニッケイ、ハリギリ、マタタビ、ヤマザクラの各加工葉とについて、抽出液の試飲評価をおこなった。
試飲会1での評価結果を図11に示す。試飲会1での評価結果によって特徴的な香りを有する加工葉の抽出液の評価が高いことが明らかとなり、香りを更に高めることが重要であるとの知見を得た。そこで、発明者らは、加工葉の製造工程に発酵工程を設けることによって、香りの向上を図ることを検討した。なお、図10の試飲会1の項目には、試飲会1における評価結果の順位を記載した。
試作評価4では、試飲会1で得た知見に基づいて、製造工程に揉捻工程と発酵工程を有する加工葉を試作して、その抽出液を評価した。即ち、試作評価4では、揉捻工程と発酵工程と乾燥工程を有する製造方法で得たイヌザクラ(発酵工程後の乾燥工程なし)、カツラ(発酵工程後の乾燥工程なし)、ヤマザクラ(発酵工程後の乾燥工程なし)、ヤマボウシ(発酵工程後の乾燥工程なし)、カツラ(揉捻工程の前に萎凋工程あり)、カツラ、ガマズミ、クマノミズキ、クロモジ、コバンノキ、サワグルミ、ソメイヨシノ、タカノツメ、タムシバ、ヤマザクラ、ヤマボウシの各加工葉について、抽出液の試飲評価をおこなった。
試作評価4によって、加工葉の製造工程に揉捻工程と発酵工程を設けることが有効であることを確認したが、ソメイヨシノの加工葉は実施予定地域での材料供給量が少ないと評価した。
次に、試飲会2を開催して、試作評価4と同じ加工葉の抽出液について試飲評価をおこなった。試飲会2によって図12に示す評価結果を得ており、揉捻工程と発酵工程を有する製造工程で製造された加工葉の抽出液が、嗜好の個人差はあるものの、総じて飲料として成立し得る味や香りなどを備えていることを確認できた。なお、図10の試飲会2の項目には、試飲会2における評価結果の順位を記載した。
試作評価5では、揉捻工程と発酵工程と乾燥工程を有する製造方法で得たイヌザクラ(発酵工程後の乾燥工程なし)、カツラ(発酵工程後の乾燥工程なし)、ヤマザクラ、ヤマボウシ(発酵工程後の乾燥工程なし)、ガマズミ、コバンノキ、サワグルミ、ヤマザクラの各加工葉について、抽出液の試飲評価をおこなった。
試作評価5によって、図10に○を付したイヌザクラ(発酵工程後の乾燥工程なし)とヤマザクラの各加工葉の抽出液について良好であると評価する一方、図10に×を付した他の6種類の加工葉について不良であると評価した。
試作評価6では、揉捻工程と発酵工程と乾燥工程を有する製造方法で得たイヌザクラ(発酵工程後の乾燥工程なし)、カツラ(揉捻工程の前に萎凋工程あり)、カツラ、クマノミズキ、クロモジ、タカノツメ、タムシバ、ヤマザクラ、ヤマボウシ、イロハモミジ、イタヤカエデ、オオモミジ、ナンゴクミネカエデの各加工葉について、抽出液の試飲評価をおこなった。
試作評価6における各加工葉の抽出液の試飲評価結果は何れも良好であり、図10に◎を付したカツラ、イロハモミジ、イタヤカエデの各加工葉の抽出液が、飲用として特に優れていることを確認した。
このように、多くの試作および試飲評価によって、樹葉飲料の抽出用加工葉の材料として適した落葉広葉樹の樹種を選択すると共に、選択した樹葉を飲料抽出用の加工葉に加工する際に好適な製造方法を見出した。また、更なる試作を重ねることにより、青臭い臭味を防いで味や香りなどの更なる向上を実現するために、紅葉した樹葉を用いることに想到し、飲用としてより適した抽出液を得ることができる加工葉とその製造方法、更には加工葉抽出液を含む紅葉樹葉飲料を発明するに至ったのである。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、加工葉の材料となる樹葉は、カツラ、イロハモミジ、イタヤカエデに限定されるものではなく、実施形態でも一部を例示したように、落葉広葉樹の紅葉樹葉であれば特に限定されるものではない。なお、紅葉樹葉を採取する樹木の種類に応じて、萎凋工程や揉捻工程、発酵工程などにおける条件(時間や温度、湿度など)を適宜に変更することが望ましい。
また、前記実施形態において加工葉におけるポリフェノール含有量の好適な範囲を示したが、加工葉のポリフェノール含有量は、加工葉抽出液を含む紅葉樹葉飲料に求められる味や香り、ポリフェノール摂取量などに応じて、適宜に変更される。具体的には、例えば、紅葉樹葉飲料の摂取による人体への有益な作用を有利に得るために、ポリフェノール含有量をより多く設定しても良いし、より強い香りの付与や渋味の更なる低減などを目的として、ポリフェノール含有量をより少なく設定することもできる。
また、前記実施形態では、加工葉の材料となる紅葉樹葉として好適な紅葉の程度をクロロフィル濃度の範囲によって示したが、このクロロフィル濃度の好適な範囲はあくまでも目安であって、紅葉樹葉飲料に要求される味や香り、成分構成などによっては、よりクロロフィル濃度の高い紅葉樹葉が加工葉の材料となることもあり得る。
前記実施形態に示す萎凋工程は、揉捻工程で紅葉樹葉を揉み易くする他、紅葉樹葉の発酵を制御して味や香りを調節するなどの目的で、好適には実施されるが、必須ではなく、例えば、萎凋工程を省略して、水洗いした紅葉樹葉を水切りした後で直ちに揉んで発酵させるようにしても良い。また、萎凋工程の前に紅葉樹葉を裁断して細かくする裁断工程を設けても良いし、揉捻工程と発酵工程の間に、揉捻によって固まった紅葉樹葉をほどく玉解工程や、揉捻によって砕かれた紅葉樹葉片を大きさで分類する篩分工程などを設けることもできる。要するに、前記実施形態で示した加工葉製造方法の工程は、あくまでも例示であって、本発明の構成要件である揉捻工程と発酵工程以外の工程は、必要に応じて適宜に加減され得る。
また、加工葉は、1種類の落葉広葉樹の紅葉樹葉だけを材料とする必要はなく、複数の樹種の紅葉樹葉を材料とすることもできる。更に、加工葉の抽出液を含む紅葉樹葉飲料は、必ずしも1種類の加工葉の抽出液だけを含むものに限定されず、複数種類の加工葉抽出液の混合液を含んでいても良い。なお、複数種類の加工葉抽出液を混合して紅葉樹葉飲料を得る場合には、少なくとも1種類の抽出液が本発明に係る加工葉の抽出液であれば良く、全ての抽出液が本発明に係る加工葉によるものである必要はない。