JP2017203184A - アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材の製造方法、及び接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材の製造方法、及び接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2017203184A
JP2017203184A JP2016094920A JP2016094920A JP2017203184A JP 2017203184 A JP2017203184 A JP 2017203184A JP 2016094920 A JP2016094920 A JP 2016094920A JP 2016094920 A JP2016094920 A JP 2016094920A JP 2017203184 A JP2017203184 A JP 2017203184A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
aluminum alloy
film
alloy material
adhesive resin
resin layer
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2016094920A
Other languages
English (en)
Other versions
JP6721406B2 (ja
Inventor
佑輔 高橋
Yusuke Takahashi
佑輔 高橋
高田 悟
Satoru Takada
悟 高田
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kobe Steel Ltd
Original Assignee
Kobe Steel Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kobe Steel Ltd filed Critical Kobe Steel Ltd
Priority to JP2016094920A priority Critical patent/JP6721406B2/ja
Priority to PCT/JP2017/017615 priority patent/WO2017195802A1/ja
Publication of JP2017203184A publication Critical patent/JP2017203184A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6721406B2 publication Critical patent/JP6721406B2/ja
Expired - Fee Related legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Classifications

    • BPERFORMING OPERATIONS; TRANSPORTING
    • B32LAYERED PRODUCTS
    • B32BLAYERED PRODUCTS, i.e. PRODUCTS BUILT-UP OF STRATA OF FLAT OR NON-FLAT, e.g. CELLULAR OR HONEYCOMB, FORM
    • B32B15/00Layered products comprising a layer of metal
    • B32B15/01Layered products comprising a layer of metal all layers being exclusively metallic
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C23COATING METALLIC MATERIAL; COATING MATERIAL WITH METALLIC MATERIAL; CHEMICAL SURFACE TREATMENT; DIFFUSION TREATMENT OF METALLIC MATERIAL; COATING BY VACUUM EVAPORATION, BY SPUTTERING, BY ION IMPLANTATION OR BY CHEMICAL VAPOUR DEPOSITION, IN GENERAL; INHIBITING CORROSION OF METALLIC MATERIAL OR INCRUSTATION IN GENERAL
    • C23CCOATING METALLIC MATERIAL; COATING MATERIAL WITH METALLIC MATERIAL; SURFACE TREATMENT OF METALLIC MATERIAL BY DIFFUSION INTO THE SURFACE, BY CHEMICAL CONVERSION OR SUBSTITUTION; COATING BY VACUUM EVAPORATION, BY SPUTTERING, BY ION IMPLANTATION OR BY CHEMICAL VAPOUR DEPOSITION, IN GENERAL
    • C23C28/00Coating for obtaining at least two superposed coatings either by methods not provided for in a single one of groups C23C2/00 - C23C26/00 or by combinations of methods provided for in subclasses C23C and C25C or C25D

Landscapes

  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Chemical Kinetics & Catalysis (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Materials Engineering (AREA)
  • Mechanical Engineering (AREA)
  • Metallurgy (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • Laminated Bodies (AREA)
  • Other Surface Treatments For Metallic Materials (AREA)

Abstract

【課題】高温湿潤環境に曝されても、接着強度が低下し難く、接着耐久性に優れたアルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材の製造方法、及び接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金基材3と、アルミニウム合金基材3の表面の少なくとも一部に形成された、ケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる第1皮膜1と、第1皮膜1の少なくとも一部に形成された、分子内に加水分解可能なトリアルコキシシリル基を2つ以上有するシラン化合物、その加水分解物又はその重合体を含む第2皮膜2を備える接着樹脂層付きアルミニウム合金材10。
【選択図】図1

Description

本発明は、アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材の製造方法、及び接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法に関する。
自動車、船舶及び航空機などの輸送機に用いられる部材の軽量化の観点から、炭素繊維やアルミ合金、鉄鋼材料といった、強度、材質、質量等の異なる異種材料を接合する技術の開発が注目されている。特に、接着樹脂(樹脂接着剤)は、電食による材料の腐食がなく、多様な材料を腐食せずに接合可能なことから、近年積極的に研究されている。しかしながら、高湿環境下では、金属と接着樹脂の界面に水分が浸入し、金属表面の腐食・劣化が起こり、金属と接着樹脂の界面で容易に剥離するため、接着強度が著しく低下してしまう。そのため、金属と接着樹脂の界面を腐食から保護し、湿潤環境下でも接着強度を低下させないような前処理が、接着耐久性を左右する重要な因子となる。
ここで、接着用前処理としては、防食の観点から、金属表面の耐食性や塗料密着性を向上させるための表面処理が知られている。
例えば、特許文献1には、テトラエチルオルソシリケート等のテトラアルキルシリケートと、シリカゾル等の水和酸化物ゾルを含む水性組成物でアルミニウム等の金属を処理することにより、その上に形成される接着剤などの塗膜の初期密着性や密着性の長期安定性を向上させる手法が記載されている。
また、特許文献2には、少なくとも2個の3置換シリル基を有する少なくとも1種類の多官能性シランのみから本質的になる第一の処理溶液で金属基板を処理した後、少なくとも1種類のオルガノ官能性シランを含む第二の処理溶液を含む第二の被覆を施すことにより、金属の耐食性を向上させる手法が記載されている。
また、特許文献3には、アミノシランと多シリル官能シランを含む溶液により金属基材を処理することにより、金属の耐食性を向上させる手法が記載されている。
また、特許文献4には、亜鉛メッキ鋼板の表面をケイ酸化合物を含む水溶液でリンスした後、シランカップリング剤で処理することで耐食性を向上させる方法が記載されている。
また、特許文献5には、ケイ酸エステル、アルミニウム無機塩及びポリエチレングリコールを含有し、シランカップリング剤をさらに含有させた溶液を、亜鉛系めっき鋼板上に塗布、乾燥して皮膜を形成させることで、塗料密着性及び耐白錆性を向上させる手法が記載されている。
また、特許文献6には、ナトリウム水ガラス等の水ガラスと、アミノシラン等のシランを含む水溶液により、アルミニウムやアルミニウム合金等の金属材料の表面を処理することで、塗料密着性を向上させる手法が記載されている。
また、特許文献7には、無機珪酸塩、有機官能性シラン及び2以上のトリアルコキシシリル基を含む架橋剤を含有するアルカリ溶液で金属シートを処理することにより、耐食性及び塗料付着性を向上させる手法が記載されている。
特表平10−510307号公報 特許第4376972号公報 特許第4589364号公報 米国特許第5108793号明細書 特許第3289769号公報 特表2014−502287号公報 特表平9−510259号公報
しかしながら、特許文献1に記載の手法では、長期の湿潤劣化試験により接着強度が著しく減少してしまうため、接着耐久性は十分なものとはいえない。
また、特許文献2及び特許文献3に記載の手法では、生成するシラン皮膜の接着耐久性は十分でなく、高温乾燥または長時間の処理を必要とするなどプロセスへの実用性にも問題がある。
また、特許文献4〜特許文献7に記載の手法は、あくまで金属表面の防食や塗料の密着性の改善を目的とするものである。したがって、形成される皮膜は肉厚となるが、肉厚な皮膜では皮膜自身の機械強度が低く、張力や応力に対して脆くなり、高い接着強度を得ることができない。
また、表面処理後のアルミニウム合金材は、加工性向上のため表面処理後に塗油を行い、その後成形し、接着を行う。ここで、表面処理皮膜と接着剤の間に潤滑油やプレス油、加工油などの機械油が含まれると、接着剤の密着性が大きく低下し、高い接着強度を得ることができないことから、表面にプレス油、加工油等の機械油が付着しても接着耐久性が低下しないアルミニウム合金材の開発が求められている。
以上のような問題点を鑑みて、本発明は、高温湿潤環境に曝されても、接着強度が低下し難く、接着耐久性に優れたアルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材の製造方法、及び接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法を提供することを主目的とする。
本発明者は、前述した課題を解決するために、鋭意実験検討を行った結果、アルミニウム基材表面に、Mg量、Si量及びCu量が特定の範囲内であり、かつFT−IRスペクトルにおいて特定の吸収を有する、ケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる皮膜を形成し、さらに特定のシラン化合物の重合体を含む皮膜を形成することで、優れた接着耐久性が得られることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、アルミニウム合金基材と、前記アルミニウム合金基材の表面の少なくとも一部に形成された、ケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる第1皮膜と、前記第1皮膜の少なくとも一部に形成された、分子内に加水分解可能なトリアルコキシシリル基を2つ以上有するシラン化合物、その加水分解物またはその重合体を含む第2皮膜を備えるアルミニウム合金材であって、前記第1皮膜は、フーリエ変換式赤外分光法により入射角75°の平行偏光を入射して得られる皮膜処理前後の差スペクトルにおいて、波数1000〜1300cm−1の範囲に2つの吸収帯を有し、前記2つの吸収帯は波数1080〜1140cm−1および波数1180〜1240cm−1の範囲にあり、かつ、前記第1皮膜は、Siを15原子%以上70原子%未満及びMgを0.1原子%以上30原子%未満含有するとともに、Cuが0.6原子%未満に規制されている、アルミニウム合金材を提供する。
ここで、第1皮膜中のSi量、Mg量、Cu量は、高周波グロー放電発光分光分析法(GD−OES:Glow Discharge-Optical Emission Spectroscopy)により測定した値である。
本発明のアルミニウム合金材においては、前記皮膜は、直径1nm以上の粒子状の無機化合物を実質的に含まないことが好ましい。
本発明のアルミニウム合金材においては、第1皮膜中のSi量が20原子%以上65原子%未満であることが好ましく、30原子%以上60原子%未満であることがより好ましい。
本発明のアルミニウム合金材においては、第2皮膜が有機樹脂成分と化学結合しうる反応性官能基を有するシランカップリング剤、その加水分割物、またはその重合体をさらに含んでいてもよい。
本発明のアルミニウム合金材においては、第2皮膜の皮膜量が0.01〜30mg/mであることが好ましく、0.2〜20mg/mであることがより好ましく、0.5〜10mg/mであることがさらに好ましい。
本発明のアルミニウム合金材においては、アルミニウム合金基材が、Al−Mg系合金、Al−Cu−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金又はAl−Zn−Mg系合金からなるものであってもよい。
また、本発明は、上述したアルミニウム合金材の第2皮膜上に、接着樹脂層が形成されている、接着樹脂層付きアルミニウム合金材をも提供する。
本発明のアルミニウム合金材においては、接着樹脂層がエポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ニトリル系樹脂、ナイロン系樹脂及びアクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。
また、本発明は、アルミニウム合金基材の表面の少なくとも一部にケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる第1皮膜を形成する第1皮膜形成工程と、前記第1皮膜の少なくとも一部に、分子内に加水分解可能なトリアルコキシシリル基を2つ以上有するシラン化合物、その加水分解物またはその重合体を含む第2皮膜を形成する第2皮膜形成工程とを備え、前記第1皮膜形成工程は、前記アルミニウム合金基材の表面に酸化皮膜を形成させる加熱処理段階と、前記加熱処理段階後のエッチング処理段階及びシリケート処理段階とを含み、前記シリケート処理段階は前記エッチング処理段階より後あるいは前記エッチング処理段階と同時であり、かつ、前記シリケート処理段階として、テトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーを0.005質量%〜2質量%含む第1水溶液で前記酸化皮膜を処理し、前記第2皮膜形成工程では、分子内に加水分解可能なトリアルコキシシリル基を2つ以上有するシラン化合物、その加水分割物、またはその重合体を含む第2水溶液で前記第1皮膜を処理する、アルミニウム合金材の製造方法をも提供する。
本発明のアルミニウム合金材の製造方法においては、エッチング処理段階におけるエッチング量を700nm未満に制御することが好ましい。
本発明のアルミニウム合金材の製造方法においては、第1皮膜形成工程において、シリケート処理段階はエッチング処理段階より後であり、エッチング処理段階として、酸処理及びアルカリ溶液処理のうちの少なくとも1つを行ってもよい。
本発明のアルミニウム合金材の製造方法においては、第1皮膜形成工程において、シリケート処理段階はエッチング処理段階と同時であってもよい。
さらに、本発明は、上述したアルミニウム合金材の製造方法により製造されたアルミニウム合金材の第2皮膜の上に、接着樹脂層を形成する接着樹脂層形成工程を備える、接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法をも提供する。
本発明によれば、高温湿潤環境に曝されても、接着強度が低下し難く、接着耐久性に優れたアルミニウム合金材を実現することができる。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るアルミニウム合金材の構成を模式的に示す断面図である。 図2は、図1に示すアルミニウム合金材の製造方法を示すフローチャート図である。 図3は、本発明の第1の実施形態の変形例に係る接着樹脂層付きアルミニウム合金材の構成を模式的に示す断面図である。 図4は、図3に示す接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法を示すフローチャート図である。 図5は、本発明の第2の実施形態に係る接合体の構成例を模式的に示す断面図である。 図6Aは、本発明の第2の実施形態に係る接合体の他の構成例を模式的に示す断面図である。 図6Bは、本発明の第2の実施形態に係る接合体の他の構成例を模式的に示す断面図である。 図7は、本発明の第2の実施形態に係る接合体の他の構成例を模式的に示す断面図である。 図8Aは、本発明の第2の実施形態に係る接合体の他の構成例を模式的に示す断面図である。 図8Bは、本発明の第2の実施形態に係る接合体の他の構成例を模式的に示す断面図である。 図9Aは凝集破壊率の測定方法を模式的に示す側面図である。 図9Bは凝集破壊率の測定方法を模式的に示す平面図である。
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係るアルミニウム合金材について説明する。
本実施形態に係るアルミニウム合金材は、アルミニウム合金基材と、前記アルミニウム合金基材の表面の少なくとも一部に形成された、ケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる第1皮膜と、前記第1皮膜の少なくとも一部に形成された、分子内にトリアルコキシシリル基を2つ以上有するシラン化合物、その加水分解物またはその重合体を含む第2皮膜を備えるアルミニウム合金材であって、前記第1皮膜は、フーリエ変換式赤外分光法により入射角75°の平行偏光を入射して得られる皮膜処理前後の差スペクトルにおいて、波数1000〜1300cm−1の範囲に2つの吸収帯を有し、前記2つの吸収帯は波数1080〜1140cm−1および波数1180〜1240cm−1の範囲にあり、かつ、前記第1皮膜は、Siを15原子%以上70原子%未満及びMgを0.1原子%以上30原子%未満含有するとともに、Cuが0.6原子%未満に規制されている、アルミニウム合金材である。
図1は本実施形態のアルミニウム合金材の構成を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態のアルミニウム合金材10は、アルミニウム合金基材3(以下、基材3ともいう)の表面の少なくとも一部にケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる第1皮膜1(以下、皮膜1ともいう)が形成されており、第1皮膜1の少なくとも一部に、分子内にトリアルコキシシリル基を2つ以上有するシラン化合物、その加水分解物またはその重合体を含む第2皮膜2(以下、皮膜2ともいう)が形成されている。
[基材3]
基材3は、アルミニウム合金からなる。基材3を形成するアルミニウム合金の種類は、特に限定されるものではなく、加工される部材の用途に応じて、JISに規定される又はJISに近似する種々の非熱処理型若しくは熱処理型のアルミニウム合金から適宜選択して使用することができる。ここで、非熱処理型アルミニウム合金としては、純アルミニウム(1000系)、Al−Mn系合金(3000系)、Al−Si系合金(4000系)及びAl−Mg系合金(5000系)がある。また、熱処理型アルミニウム合金としては、Al−Cu−Mg系合金(2000系)、Al−Mg−Si系合金(6000系)及びAl−Zn−Mg系合金(7000系)がある。
例えば、本実施形態のアルミニウム合金材10を自動車用部材に用いる場合は、強度の観点から、基材3は0.2%耐力が100MPa以上であることが好ましい。このような特性を満足する基材を形成可能なアルミニウム合金としては、2000系、5000系、6000系及び7000系などのように、マグネシウムを比較的多く含有するものがあり、これらの合金は必要に応じて調質してもよい。また、各種アルミニウム合金の中でも、時効硬化能に優れ、合金元素量が比較的少なくスクラップのリサイクル性や成形性にも優れていることから、6000系アルミニウム合金を用いることが好ましい。
[第1皮膜1]
第1皮膜1(以下、皮膜1ともいう)は、基材3の表面の少なくとも一部に形成される、ケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる皮膜である。本実施形態のアルミニウム合金材10において、皮膜1は、フーリエ変換式赤外分光法(FT−IR)により入射角75°の平行偏光を入射して得られる皮膜処理前後の差スペクトルにおいて、波数1000〜1300cm−1の範囲に2つの吸収帯を有し、前記2つの吸収帯は波数1080〜1140cm−1および波数1180〜1240cm−1の範囲にあり、かつ、皮膜1は、Siを15原子%以上70原子%未満及びMgを0.1原子%以上30原子%未満含有するとともに、Cuが0.6原子%未満に規制されているものである。この皮膜1は、通常のアルミの酸化皮膜と比較して、緻密で耐食性に富む皮膜であり、接着剤との接合強度を高くするとともに、接着耐久性の向上を図るために設けられている。以下、皮膜1に含まれる各成分量の好適な範囲について説明する。なお、図1に示されるアルミニウム合金材では、基材3の一方の表面の全部に皮膜1が形成されているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、基材3の表面の一部のみに皮膜1が形成されていてもよい。また、基材3の両面に皮膜1が形成されていてもよい。
<FT−IRスペクトル>
テトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーに由来する薄膜は、波数1000〜1300cm−1の範囲にSi−O−Si結合の非対称性伸縮振動に由来する異なる2つの吸収帯を有し、これら2つの吸収帯は、それぞれ波数1080〜1140cm−1および波数1180〜1240cm−1の範囲に存在する。ただし、この2つの吸収帯は、皮膜が分厚くなるにつれてピークが平均化され、単一のブロードなピークとなる。ここで、皮膜が分厚くなると、機械的強度の低い脆弱な皮膜となり、高い接着耐久性を得ることができなくなる。そのため、当該領域に異なる2つの吸収帯を有することが、接着耐久性に優れた適切な皮膜であるかにおいて重要となる。本実施形態のアルミニウム合金材10において、皮膜1は、FT−IRによる皮膜処理前後の差スペクトルにおいて、テトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーに由来する波数1080〜1140cm−1および波数1180〜1240cm−1の範囲に2つの吸収帯を有しており、皮膜が十分に薄いため、高い接着耐久性を有する。なお、本明細書において、「ある波数の範囲に吸収帯を有する」とは、その波数の範囲に極大吸収波長を有することを表す。吸収帯の形状としては、変曲点を有していればよく、ピークであってもよく、ショルダーであってもよい。
FT−IRによる皮膜処理前後の差スペクトルにおいて上述した2つの吸収帯を有する皮膜は、例えば、アルミニウム合金基材上に形成された酸化皮膜に対して、後述するシリケート処理を行うことによって形成することができる。ここで、本明細書においては、シリケート処理とは、テトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーを用いた処理を表す。テトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーを用いてアルミニウム合金基材上の酸化皮膜をシリケート処理した場合、処理後の皮膜が薄い場合には、FT−IRによる皮膜処理前後の差スペクトルにおいて、2つの吸収帯が波数1080〜1140cm−1および波数1180〜1240cm−1の範囲に吸収帯を有することとなる。
なお、皮膜処理前後での差スペクトルとは、第1皮膜が形成されたアルミニウム合金材の、第1皮膜が形成されている表面の吸収スペクトルと、第1皮膜が形成されていないアルミニウム合金基材の吸収スペクトルとの間の差である。
本実施形態においては、皮膜1が直径1nm以上の粒子状の無機化合物(以下、単に「粒子状無機化合物」ともいう)を含むと、皮膜が肉厚となり接着強度及び接着耐久性が低下するおそれがある。したがって、皮膜1は、粒子状無機化合物を実質的に含まないことが好ましい。なお、「皮膜が粒子状無機化合物を実質的に含まない」とは、粒子状無機化合物を全く含まない態様に限定されるものではなく、粒子状無機化合物を不純物レベルで含有することは許容される。具体的には、皮膜1全体に対して、粒子状無機化合物が5質量%以下まで含有されることは許容される。また、粒子状無機化合物としては、シリカやアルミナといった無機酸化物のゾル等が挙げられる。なお、粒子状の無機化合物の直径は、処理液乾燥後の固形分の透過型電子顕微鏡(TEM)による観察や、希釈した処理液を液中パーティクルカウンターより測定される直径を表す。
<Mg含有量:0.1原子%以上30原子%未満>
アルミニウム合金材の基材を構成するアルミニウム合金には、通常、合金成分としてマグネシウム(Mg)が含まれており、このような基材3の表面にアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物である酸化皮膜を形成すると、表面にマグネシウムが濃化した状態で存在することとなる。このため、酸化皮膜上に接着樹脂を形成すると、表面のマグネシウムが接着界面の弱境界層となり、初期の接合強度が低下する。
また、水分、酸素などが浸透してくる高温湿潤環境においては、接着樹脂との界面の水和や基材の腐食の原因となり、アルミニウム合金材の接合強度を低下させる。具体的には、皮膜中のMg含有量が30原子%以上になると、アルミニウム合金材の接合強度が低下する傾向がある。そこで、本実施形態のアルミニウム合金材10では、皮膜1におけるMg含有量を30原子%未満に規制する。これにより、接着耐久性を向上することができる。皮膜1のMg含有量は、接着耐久性向上の観点から、25原子%未満が好ましく、20原子%未満がより好ましく、さらに好ましくは10原子%未満である。
一方、皮膜1のMg含有量の下限値は、経済性の観点から0.1原子%以上とする。なお、ここでいう皮膜1中のMg含有量は、高周波グロー放電発光分光分析法(GD−OES)により測定することができる。
皮膜1のMg含有量を調整する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、硝酸、硫酸及びフッ酸などの酸若しくは混酸等の酸性溶液、又は水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ケイ酸塩及び炭酸塩などを含むアルカリ溶液で表面処理する方法を適用することができる。この方法は、マグネシウムを酸又はアルカリ溶液に溶解させることにより、皮膜1のMg含有量を調整するものであり、処理時間、温度、表面処理液の濃度やpHを調整することで、皮膜1中のMg量を前述した範囲にすることができる。なお、不純物元素程度にMgが含有されている場合であっても、調質で高温の熱処理が行われるとMgが皮膜1中に濃化する場合があり、酸やアルカリでの表面処理による調整が適宜必要である。また、表面処理の薬液中にMgイオンを含有させて調整することも可能である。
<Si含有量:15原子%以上70原子%未満>
ケイ素は、皮膜1の耐食性を向上させ湿潤環境下で安定化させる効果があり、更に、後述する第2皮膜(皮膜2)との密着性を向上させる効果もある。このため、皮膜1にケイ素を含有させることにより、接着耐久性を高めることが可能となる。
ただし、皮膜1におけるSi含有量が15原子%未満の場合、前述した効果が小さくなる傾向があり、また、Si含有量が70原子%以上であると、スポット溶接性や化成処理の均一性が低下する傾向にある。そこで、本実施形態のアルミニウム合金材10では、皮膜1におけるSi含有量を、15原子%以上70原子%未満とする。
接着耐久性向上の観点から、皮膜1におけるSi含有量は、20原子%以上であることが好ましく、30原子%以上であることがより好ましい。また、スポット溶接性や化成処理の均一性の観点からは、皮膜1におけるSi含有量は、65原子%未満であることが好ましく、60原子%未満であることがより好ましい。
皮膜1中のSi含有量は、例えば、Mg量を調整する方法として記載したものと同様に、酸やアルカリによる表面処理を行うことによって調整される。また、後述する、シリケート水溶液による処理の条件によって調整される。
<Cu含有量:0.6原子%未満>
皮膜1を形成する際に基材3に対して脱脂工程や酸洗工程などにより過剰なエッチングを行うと、基材3に含まれるCuが表面に濃化し、皮膜1のCu含有量が増加する。皮膜1の表面にCuが存在すると、皮膜2との密着力が低下する。
そこで、本実施形態のアルミニウム合金材では、皮膜1中のCu含有量を0.6原子%未満に規制する。なお、皮膜1におけるCu量は、皮膜2との密着性向上の観点から、0.5原子%未満であることが好ましい。
皮膜1中のCu含有量の制御には、前処理によるエッチング量を調整する必要があるが、エッチング方法は限定されるものではなく、例えば、Mgの数値限定で記載したのと同様の処理方法を適用することができる。すなわち、例えば、酸又はアルカリ溶液による処理によりエッチングを行うことができる。
ここで、皮膜1中のMg量、Si量、及びCu量等の元素濃度は、例えば、高周波グロー放電発光分光分析法(GD−OES:Glow Discharge-Optical Emission Spectroscopy)により測定することができる。本実施形態においては、GD−OESにより、基材3の厚さ方向に、酸素(O)、窒素(N)及び炭素(C)を除く各元素、具体的にはアルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、鉄(Fe)及びチタン(Ti)などの金属元素並びに珪素(Si)などの元素を測定し、その結果からMg、Si、Cu等の含有量を百分率で算出した値を各元素の量とする。
<膜厚>
皮膜1の膜厚は、1〜30nmであることが好ましい。皮膜1の膜厚が1nm未満の場合、基材3を作製する際に使用される防錆油やアルミニウム合金材10から接合体又は自動車用部材を製造する際に使用されるプレス油中のエステル成分の吸着が抑制される。このため、皮膜1を設けなくても、アルミニウム合金材10の脱脂性、化成処理性及び接着耐久性を確保することができる。しかしながら、皮膜1の膜厚を1nm未満に制御するには、過度の酸洗浄などが必要となるため、生産性が劣り、実用性が低下しやすい。また、アルカリ脱脂や酸による過剰なエッチングは基材3に含有されるCuが表面濃化する原因となり、接着耐久性の低下の原因となる。
一方、皮膜1の膜厚が30nmを超えると、皮膜量が過剰となり、表面に凹凸ができやすくなる。そして、皮膜1の表面に凹凸が生じると、例えば自動車用途において塗装工程の前に行う化成処理の際に化成斑が生じやすくなり、化成性の低下を招く。なお、皮膜1の膜厚は、化成性及び生産性などの観点から、2nm以上20nm未満であることがより好ましい。
乾燥後の皮膜量は0.2mg/m以上20mg/m以下となるように調整することが好ましい。また、乾燥後の皮膜量が、より好ましくは1mg/m以上15mg/m以下、さらに好ましくは2mg/m以上10mg/m以下となるように調整する。シリケート水溶液の塗布量が少なすぎると、テトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーの量が少なくなりすぎ、良好な接着耐久性を得られない場合がある。また、シリケート水溶液の塗布量が多くなりすぎると、形成される皮膜が厚くなりすぎて皮膜内で剥離がおこり、接着耐久性が損なわれる場合がある。
[第2皮膜2]
第2皮膜2(以下、皮膜2ともいう)は、加水分解可能なトリアルコキシシリル基を分子内に複数有するシラン化合物、その加水分解物またはその重合体を主成分として含む。分子内に加水分解可能なトリアルコキシシリル基を複数有するシラン化合物は、自己重合により緻密なシロキサン結合を形成するだけでなく、金属酸化物と反応性が高く、化学的に安定な結合を形成するため、皮膜1の湿潤耐久性を更に高めることができる。また、上記シラン化合物、その加水分解物またはその重合体を含む皮膜は機械油や接着剤のような有機化合物との相互溶解性が高く、皮膜に機械油が付着してもその影響を緩和できるため、塗油による接着耐久性の低下を防ぐ役割も担う。上記シラン化合物の種類は特に限定されないが、経済性の観点からは、加水分解可能なトリアルコキシシリル基を分子内に2つ有するシラン化合物(ビスシラン化合物)が好ましく、例えばビストリアルコキシシリルエタン、ビストリアルコキシシリルベンゼン、ビストリアルコキシシリルヘキサン、ビストリアルコキシシリルプロピルアミン、ビストリアルコキシシリルプロピルテトラスルフィドなどを用いることができる。とりわけ、汎用性、経済性の観点から、ビストリエトキシシリルエタン(BTSE)が好ましい。ここで、上記シラン化合物、その加水分解物またはその重合体としては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
皮膜2中における、加水分解可能なトリアルコキシシリル基を分子内に複数有するシラン化合物、その加水分解物またはその重合体の量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、上限としても特に限定されないが、例えば100質量%であってもよい。
皮膜2は、上記シラン化合物、その加水分解物またはその重合体に加えて、有機樹脂成分と化学結合しうる反応性官能基を有するシランカップリング剤、その加水分解物またはその重合体をさらに含んでいてもよい。シランカップリング剤としては、例えば、アミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ビニル基又はメルカプト基などの反応性官能基をもつシランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤、その加水分解物またはその重合体を上記シラン化合物、その加水分解物またはその重合体と併用することで、皮膜2と樹脂との間に化学結合を形成させ、接着耐久性を更に高めることができる。なお、シランカップリング剤の官能基は、前述したものに限定されるものではなく、各種官能基を有するシランカップリング剤を、使用する接着樹脂に応じて適宜選択して使用することができる。シランカップリング剤の好適な具体例としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(N−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−アミノエチル)−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。ここで、シランカップリング剤としては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ただし、皮膜2の皮膜量が薄すぎると、基材3表面の元素の影響を受けやすくなり、また、皮膜2の皮膜量が多すぎると、皮膜2がそれ自体で凝集破壊し、接着耐久性が低下するおそれがある。そこで、接着耐久性向上の観点から、皮膜2の乾燥後の皮膜量は0.01mg/m以上30mg/m未満とすることが好ましい。また、皮膜2の乾燥後の皮膜量は、0.2mg/m以上20mg/m未満とすることがより好ましく、更に好ましくは0.5mg/m以上10mg/m未満である。
[製造方法]
次に、本実施形態のアルミニウム合金材の製造方法について説明する。図2は図1に示される本実施形態のアルミニウム合金材10の製造方法を示すフローチャート図である。図2に示すように、本実施形態のアルミニウム合金材10を製造する際は、基材作製工程S1、第1皮膜形成工程S2、及び、第2皮膜形成工程S3を行う。以下、各工程について説明する。
<ステップS1:基材作製工程>
基材の形状は特に限定されるものではなく、アルミニウム合金材を用いて作製する部材の形状等に応じて、板状の他、鋳造材、鍛造材、押し出し材(例えば、中空棒状等)等としてとりうる任意の形状であってもよい。基材作製工程S1では、例として板状の基材(基板)を作製する場合には、例えば下記の手順で、基板を作製する。先ず、所定の組成を有するアルミニウム合金を、連続鋳造により溶解し、鋳造して鋳塊を作製する(溶解鋳造工程)。次に、作製した鋳塊に均質化熱処理を施す(均質化熱処理工程)。その後、均質化熱処理された鋳塊に、熱間圧延を施して熱延板を作製する(熱間圧延工程)。そして、この熱延板に300〜580℃で荒焼鈍又は中間焼鈍を行い、最終冷間圧延率5%以上の冷間圧延を少なくとも1回施して、所定の板厚の冷延板(基板)を得る(冷間圧延工程)。
冷間圧延工程では、荒焼鈍又は中間焼鈍の温度を300℃以上とすることが好ましく、これにより、成形性向上の効果がより発揮される。また、荒焼鈍又は中間焼鈍の温度は、580℃以下とすることが好ましく、これにより、バーニングの発生による成形性の低下を抑制しやすくなる。一方、最終冷間圧延率は、5%以上とすることが好ましく、これにより、成形性向上の効果がより発揮される。なお、均質化熱処理及び熱間圧延の条件は、特に限定されるものではなく、熱延板を通常得る場合の条件で行うことができる。また、中間焼鈍は行わなくてもよい。
<ステップS2:第1皮膜形成工程>
第1皮膜形成工程(ステップS2)では、ステップS1の基材作製工程で作製された基材3の表面の少なくとも一部(すなわち、一部又は全部)に皮膜1を形成する。本実施形態において、第1皮膜形成工程(ステップS2)は、具体的には、例えば、基材3を加熱処理して基材3表面に酸化皮膜を形成する加熱処理段階と、当該加熱処理段階の後のエッチング処理段階及びシリケート処理段階を備える。ここで、シリケート処理段階としてテトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーを含む水溶液で処理する。これにより、皮膜中のMg量、Si量、及びCu量が特定の範囲になるように、また、FT−IRスペクトルにおいて特定の吸収を有するように、皮膜1を形成する。
加熱処理段階における加熱処理では、基材3を、たとえば400〜580℃に加熱して、基材3の表面に酸化被膜を形成する。また、加熱処理は、アルミニウム合金材10の強度を調整する効果もある。なお、ここで行う加熱処理は、基材3が熱処理型アルミニウム合金で形成されている場合には溶体化処理であり、基材3が非熱処理型アルミニウム合金で形成されている場合には、焼鈍(最終焼鈍)における加熱処理である。
この加熱処理は、強度向上の観点から、加熱速度100℃/分以上の急速加熱とすることが好ましい。また、加熱温度を400℃以上に設定して急速加熱することで、アルミニウム合金材10の強度や、そのアルミニウム合金材10の塗装後加熱(ベーキング)した後の強度を、より高めることができる。一方、加熱温度を580℃以下に設定して急速加熱することにより、バーニングの発生による成形性の低下を抑制することができる。更に、強度を向上させる観点からは、加熱処理における保持時間は3〜30秒とすることが好ましい。このように基材3を、加熱温度400〜580℃で加熱すると、基材3の表面に、例えば、膜厚が1〜30nmの酸化被膜が形成される。なお、加熱処理の前には、必要に応じてアルカリ脱脂等を行ってもよい。
加熱処理後のエッチング処理段階においては、基材3上に形成された酸化皮膜の表面の一部又は全部に対して、酸性溶液による処理(酸洗)及びアルカリ溶液による処理(アルカリ洗浄、アルカリ脱脂)のうちの少なくとも1つを行う。酸洗の際に用いる薬液(酸洗剤)は、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸、硝酸及びフッ酸から選ばれる群からなる1種以上を含む溶液を用いることができる。また、酸洗剤には、脱脂性を高めるために界面活性剤を含有させてもよい。また、酸洗の条件は、基材3の合金組成や酸化皮膜の厚み等を考慮して適宜設定することができ、特に限定されないが、たとえば、pHが2以下、処理温度10〜80℃、処理時間1〜120秒の条件を適用することができる。
また、アルカリ洗浄(アルカリ脱脂)の際に用いる薬液も、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれる群からなる1種以上を含む溶液を用いることができる。また、アルカリ溶液による処理の条件は、基材3の合金組成や酸化皮膜の厚み等を考慮して適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、pHが10以上、処理温度10〜80℃、処理時間1〜120秒の条件を適用することができる。
なお、アルカリ洗浄を行う場合においては、アルカリ洗浄よりも後に、酸洗を行うことが好ましい。この理由は以下のとおりである。すなわち、アルカリ洗浄では、基材表面のMgを除去することが難しく、基材表面のMgの存在によりエッチング量を増やす必要がある。しかしながら、エッチング量が増えるとCuの濃化の原因となることから、酸洗でMgを除去する必要があるためである。
また、各薬液での洗浄後にはリンスを行うことが好ましい。リンスの方法は特に限定されないが、例えば、スプレー、浸漬等が挙げられる。また、リンスに用いられる洗浄液としては、例えば、工業水、純水、イオン交換水等が挙げられる。
なお、銅を含むアルミニウム合金の過多のエッチングは、表面において銅の濃化を引き起し、劣化環境である高温湿潤環境において、接着樹脂の劣化の原因となる。したがって、酸化皮膜のエッチング量が、好ましくは700nm未満、より好ましくは500nm未満となるように処理条件を調整する。
ここで、本願明細書中におけるエッチング処理段階におけるエッチング量とは、酸化皮膜や酸化皮膜を含む基材の溶解量であり、エッチング処理前後の重量の減少量を測定し、それを厚み(膜厚)として見積もることができる。なお、重量の減少量から膜厚への換算は、便宜上、アルミニウムの密度:2.7g/cmを用い、アルミニウムの厚みとして計算することにより行うものとする。また、酸化皮膜に加えて、酸化皮膜下の基材の一部もエッチングされる場合には、酸化皮膜と基材のエッチング量の合計を、上記エッチング量とする。
また、シリケート処理段階として、酸化皮膜を有する基材を、テトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーを含む水溶液(以下、シリケート水溶液、又は第1水溶液ともいう)で処理する。ここで、シリケート水溶液による処理には、シリケート水溶液の塗布の他、シリケート水溶液中への浸漬等も包含される。シリケート水溶液による処理を行うと、アルミニウムの酸化皮膜が緻密で耐食性の優れたものとなり、皮膜自体の強度が向上するとともに、耐食性も向上する。なお、シリケート処理段階は、皮膜形成工程の実質的な膜形成の最終段階として行われるものであり、シリケート水溶液による処理の後に酸洗は行わない。ただし、シリケート水溶液による処理の後に水洗及び/又は乾燥を行う場合には、当該水洗及び/又は乾燥も、当該シリケート処理段階に含まれるものであり、その順序は問わない。
酸化皮膜に塗布するシリケート水溶液中のテトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーの濃度は、0.005質量%以上2質量%以下であることが好ましい。シリケート水溶液中のテトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーの濃度が0.005質量%以上であると、皮膜が緻密となり、強度と耐食性に優れた皮膜を形成することができる。同様の観点から、シリケート水溶液中のテトラアルキルシリケートまたはオリゴマーの濃度は、より好ましくは0.01質量%以上であり、さらに好ましくは0.05質量%以上である。一方、シリケート水溶液中のテトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーの濃度が過度に高いと、皮膜が厚くなりすぎ、接着耐久性が著しく低下するおそれがある。したがって、これを防止する観点から、シリケート水溶液中のシリケートの濃度は、2質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0.8質量%以下である。
なお、シリケート水溶液を調整する際には、まずエタノールに所定量のテトラアルキルシリケートを加えた後、水で所定の濃度に薄めることが好ましい。このようにすることにより、均一な水溶液を調整しやすくなる。エタノールの量としては、水に対して5〜20vol%とすることが好ましい。
また、テトラアルキルシリケートは塩基性条件下で過剰に重合するため、安定性の観点から、シリケート水溶液は中性〜酸性領域のpHとする必要がある。したがって、シリケート水溶液のpHは、7以下であり、好ましくは6.5以下であり、より好ましくは6以下である。一方、シリケート水溶液のpHの下限は特に限定されないが、例えば1以上である。また、pH調整剤としては特に限定されず、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸や、酢酸のようなカルボン酸を用いることができるが、揮発性や基材への腐食性を考慮すると、酢酸が望ましい。
シリケート水溶液に含まれるテトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーとしては、反応後に皮膜の腐食や接着樹脂の劣化の原因となるような副生成物を生じないテトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーが好ましい。この観点からは、例えば、テトラメチルオルソシリケート、テトラエチルオルソシリケート、テトライソプロピルオルソシリケート等、またはそれらのオリゴマーが好ましく、中でも、経済性や安全性の観点からは、テトラエチルオルソシリケートまたはそのオリゴマーが好ましい。ここで、テトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーとしては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、シリケート水溶液は直径1nm以上の粒子状の無機化合物(粒子状無機化合物)を実質的に含まないことが好ましい。ここで、粒子状無機化合物としては、シリカやアルミナなどの無機酸化物ゾルなどが挙げられる。シリカなどの粒子状無機化合物はテトラアルキルシリケート皮膜の緻密化、膜厚均一化のために汎用的に用いられるが、生成する皮膜が肉厚となる。一方、本発明では薄肉の皮膜を形成するため、このような効果を及ぼすシリカゾル等の使用は望ましくない。なお、「シリケート水溶液が粒子状無機化合物を実質的に含まない」とは、粒子状無機化合物を全く含まない態様に限定されるものではなく、粒子状無機化合物を不純物レベルで含有することは許容される。具体的には、シリケート水溶液に、粒子状無機化合物が0.05質量%以下まで含有されることは許容される。
なお、シリケート水溶液は、テトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマー以外にも、所望により、安定剤、補助剤等の1つ以上をさらに含んでいてもよい。例えば、安定剤として、ギ酸、酢酸等の炭素数1〜4のカルボン酸や、メタノール、エタノール等の炭素数1〜4のアルコール等の有機化合物等を含んでいてもよい。
シリケート水溶液の塗布方法としては、浸漬処理、スプレー、ロールコート、バーコート等が挙げられる。
また、酸化皮膜をシリケート水溶液で処理した後には、必要に応じて水洗(リンス)を行ってもよい。
シリケート水溶液による処理後には、シリケート水溶液を乾燥させる。乾燥温度は、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上である。また、乾燥温度が高すぎると、アルミニウム合金の特性に影響を及ぼすため、当該乾燥温度は、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは190℃以下である。また、乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、好ましくは2秒以上であり、より好ましくは5秒以上であり、さらに好ましくは10秒以上である。また、当該乾燥時間は、好ましくは20分以下、より好ましくは5分以下、さらに好ましくは2分以下である。
シリケート水溶液の塗布量は、上記したFT−IRスペクトルを有する皮膜を形成し、十分な接着耐久性の向上効果を得る観点から、乾燥後の皮膜量が0.1mg/m以上20mg/m以下となるように調整することが好ましい。また、乾燥後の皮膜量が、より好ましくは1mg/m以上15mg/m以下、さらに好ましくは2mg/m以上10mg/m以下となるように調整する。シリケート水溶液の塗布量が少なすぎると、テトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーの量が少なくなりすぎ、良好な接着耐久性を得られない場合がある。また、シリケート水溶液の塗布量が多くなりすぎると、形成される皮膜が厚くなりすぎて皮膜内で剥離がおこり、接着耐久性が損なわれる場合がある。
なお、上記したステップS1の皮膜形成工程では、エッチング処理段階の後にシリケート処理段階を行っているが、これらを1回の処理で行ってもよい。具体的には、例えば、テトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーを含む、中性又は酸性の水溶液を用いて酸化皮膜を処理してもよい。
<ステップS3:第2皮膜形成工程>
ステップS3では、第2皮膜形成工程として、加水分解可能なトリアルコキシシリル基を分子内に複数有するシラン化合物、その加水分解物またはその重合体を含む皮膜2を形成する。皮膜2は、加水分解可能なトリアルコキシシリル基を分子内に複数有するシラン化合物、その加水分解物またはその重合体を主に含む水溶液(以下、シラン化合物水溶液、又は第2水溶液ともいう)で皮膜1を処理することにより形成される。なお、シラン化合物水溶液は、シランカップリング剤、その加水分解物またはその重合体をさらに含有していてもよい。また、シラン化合物水溶液は、所望により、安定剤、補助剤等の1つ以上をさらに含んでいてもよい。例えば、安定剤として、ギ酸、酢酸等の炭素数1〜4のカルボン酸や、メタノール、エタノール等の炭素数1〜4のアルコール等の有機化合物等を含んでいてもよい。
第2水溶液の塗布量は、接着耐久性向上の観点から、乾燥後の皮膜2の皮膜量が、片面あたり、0.01mg/m以上30mg/m未満となるようにすることが好ましい。皮膜2の皮膜量は、例えば、溶媒(水、有機溶媒、又はそれらの混合物)によりシラン化合物を希釈してその固形分濃度や粘度を低くしたり、コータ番手によるウエットでの塗工量を調整したりすることで、容易に制御することができる。第2水溶液中の加水分解可能なトリアルコキシシリル基を分子内に複数有するシラン化合物、その加水分解物またはその重合体の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば0.005質量%〜5質量%、好ましくは0.01質量%〜2質量%、より好ましくは0.05質量%〜1質量%である。
また、第2水溶液の塗布方法は、特に限定されるものではなく、既存の方法を適用することができる。具体的には、浸漬による塗布方法、ロールコータ、バーコータ、グラビアコータ、マイクログラビアコータ、リバースグラビアコータ、ディップコータ、静電塗布などの各種塗布機を用いる方法、スプレーコートによる方法などを適用することができる。
第2水溶液は塗布後、加熱により乾燥させる。熱を加えて乾燥させることにより、皮膜2中のシラン化合物に含まれるトリアルコキシシリル基と皮膜1中の金属元素との共有結合形成を促進し、更には溶媒の水を除去して皮膜2を緻密化、安定化させる。加熱温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは75℃以上、更に好ましくは90℃以上である。また、加熱温度が高すぎると、シラン化合物の官能基の分解やアルミニウム合金の特性に影響を及ぼすため、当該加熱温度は、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。また、乾燥時間は、加熱温度にもよるが、好ましくは2秒以上であり、より好ましくは5秒以上であり、さらに好ましくは10秒以上である。また、当該乾燥時間は、好ましくは20分以下、より好ましくは5分以下、さらに好ましくは2分以下である。
<その他の工程>
本実施形態のアルミニウム合金材10の製造工程では、前述した各工程に悪影響を与えない範囲において、各工程の間又は前後に、他の工程を含めてもよい。例えば、第2皮膜形成工程S3後に、予備時効処理を施す予備時効処理工程を設けてもよい。この予備時効処理は、72時間以内に40〜120℃で、8〜36時間の低温加熱することにより行うことが好ましい。この条件で予備時効処理することにより、成形性及びベーキング後の強度向上を図ることができる。その他に、例えばアルミニウム合金材10の表面の異物を除去する異物除去工程や、各工程で発生した不良品を除去する不良品除去工程などを行ってもよい。
そして、製造されたアルミニウム合金材10は、接合体の作製前又は自動車用部材への加工前に、その表面にプレス油等の機械油が塗布される場合がある。プレス油は、エステル成分を含有するものが主に使用される。アルミニウム合金材10にプレス油を塗布する方法や条件は、特に限定されるものではなく、通常のプレス油を塗布する方法や条件が広く適用でき、例えば、エステル成分としてオレイン酸エチルを含有するプレス油に、アルミニウム合金材10を浸漬すればよい。なお、エステル成分もオレイン酸エチルに限定されるものではなく、ステアリン酸ブチルやソルビタンモノステアレートなど、様々なものを利用することができる。
ここで、本実施形態のアルミニウム合金材10は、最表面に機械油の溶解性に富む皮膜2を備えているため、機械油が塗布された後でも、その上に接着樹脂を良好に接合することができる。
以上詳述したように、本実施形態では、アルミニウム合金基材3の表面に形成された酸化皮膜をシリケート処理してケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる皮膜1を形成し、その後にシラン化合物水溶液で皮膜1を処理して皮膜2を形成することにより、アルミニウム合金材10を製造する。これにより、皮膜1と皮膜2の界面にシラン化合物と金属酸化物との共有結合が形成され、優れた接着耐久性を得ることができる。また、皮膜1中のMg量を特定の範囲に調整すれば、Mgを含んだ機械的に脆く、耐食性の低い酸化皮膜の生成を抑制でき、接着樹脂界面の劣化を抑制できる。さらに、皮膜1に特定量のSiを含有させるとともに、皮膜1中のCu量を特定量未満に規制すれば、皮膜1と皮膜2の接着性が向上する。その結果、本実施形態のアルミニウム合金材10は、高温湿潤環境に曝されても、界面剥離が抑制され、長期間に亘って接着強度の低下を抑制できる。
(第1の実施形態の変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の変形例に係る接着樹脂層付きアルミニウム合金材について説明する。図3は本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材の構成を模式的に示す断面図である。なお、図3においては、図1に示すアルミニウム合金材10の構成要素と同じものには同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。図3に示すように、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11は、前述した第1の実施形態のアルミニウム合金材の皮膜1及び皮膜2を覆うように、接着樹脂からなる接着樹脂層4が形成されている。
[接着樹脂層4]
接着樹脂層4は、接着樹脂等からなり、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11は、この接着樹脂層4を介して他の部材と接合される。なお、他の部材には、接着樹脂層付きアルミニウム合金材11と同様に皮膜が形成されている別のアルミニウム合金材、酸化皮膜が形成されていないアルミニウム合金材、樹脂成形体等が包含される。
接着樹脂層4を構成する接着樹脂は、特に限定されるものではなく、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ニトリル系樹脂、ナイロン系樹脂、アクリル系樹脂など、従来からアルミニウム合金材を接合する際に用いられてきた接着樹脂を用いることができる。なかでも、接着強度の観点からは、エポキシ系樹脂が好ましい。また、接着樹脂は1種のみを用いてもよく、あるいは複数を組み合わせて用いてもよい。
接着樹脂層4の厚さも、特に限定されるものではないが、10〜500μmが好ましく、50〜400μmがより好ましい。接着樹脂層4の厚さが10μm未満の場合には、接着樹脂層付きアルミニウム合金材11と、他の接着樹脂層を備えていないアルミニウム合金材とを接着樹脂層4を介して接合する場合に、高い接着耐久性が得られないことがある。一方、接着樹脂層4の厚さが500μmを超える場合には、接着強度が小さくなる場合がある。
[製造方法]
次に、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の製造方法について説明する。図4は本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の製造方法を示すフローチャート図である。図4に示すように、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11を製造する際は、前述したステップS1〜S3に加えて、接着樹脂層形成工程S4を行う。
<ステップS4:接着樹脂層形成工程>
接着樹脂層形成工程S4では、皮膜1及び皮膜2を覆うように、接着樹脂層4を形成する。接着樹脂層4の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、接着樹脂が固体である場合には、熱を加えて圧着したり、これを溶剤に溶解させて溶液とした後に、また、接着樹脂が液状である場合にはそのまま、皮膜2の表面に噴霧したり塗布する方法が挙げられる。
また、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11においても、前述した第1の実施形態と同様に、第1皮膜形成工程S2、第2皮膜形成工程S3及び/又は接着樹脂層形成工程S4の後に、予備時効処理を施す予備時効処理工程を設けてもよい。
本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材においては、接着樹脂層をあらかじめ備えるため、接合体や自動車用部材を作製する際に、アルミニウム合金材の表面に接着樹脂を塗布するなどの作業を省略することができる。なお、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る接合体について説明する。本実施形態の接合体は、前述した第1の実施形態のアルミニウム合金材又はその変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材を用いたものである。図5〜8Bは本実施形態の接合体の構成例を模式的に示す断面図である。なお、図5〜8Bにおいては、図1及び3に示すアルミニウム合金材10、接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の構成要素と同じものには同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
[接合体の構成]
本実施形態の接合体は、例えば、図5に示す接合体20のように、図1に示す2枚のアルミニウム合金材10を、皮膜1及び皮膜2が形成されている面同士が対向するように配置し、接着樹脂5を介して接合した構成とすることができる。即ち、接合体20では、接着樹脂5は、一面が一方のアルミニウム合金材10の皮膜2側に接合され、その他面が他方のアルミニウム合金材10の皮膜2側に接合されている。
ここで、本実施形態の接合体における接着樹脂5は、前述した接着樹脂層4を構成する接着樹脂と同様のものを使用することができる。具体的には、接着樹脂5は、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ニトリル系樹脂、ナイロン系樹脂、アクリル系樹脂などを使用することができる。また、接着樹脂5の厚さは、特に限定されるものではないが、接着強度向上の観点から、10〜500μmが好ましく、より好ましくは50〜400μmである。
接合体20では、前述したように、接着樹脂5の両面が、第1の実施形態のアルミニウム合金材10の皮膜1及び皮膜2であるため、自動車用部材に用いた際、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂5と皮膜1や皮膜2との界面の接着強度が低下しにくく、接着耐久性が向上する。また、本実施形態の接合体20では、接着樹脂5の種類に影響されず、従来からアルミニウム合金材の接合に用いられている接着樹脂全般において界面での接着耐久性が向上する。
また、図6Aに示す接合体21a又は図6Bに示す接合体21bのように、図1に示すアルミニウム合金材10の皮膜1及び皮膜2が形成されている面に、接着樹脂5を介して、第1皮膜及び第2皮膜が形成されていない他のアルミニウム合金材6又は樹脂成形体7を接合した構成とすることもできる。
ここで、第1皮膜及び第2皮膜が形成されていない他のアルミニウム合金材6には、前述した基材3と同様のものを使用することができ、具体的には、JISに規定される又はJISに近似する種々の非熱処理型若しくは熱処理型アルミニウム合金からなるものを使用することができる。
また、樹脂成形体7としては、例えば、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ボロン繊維強化プラスチック(BFRP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP,KFRP)、ポリエチレン繊維強化プラスチック(DFRP)及びザイロン強化プラスチック(ZFRP)などの各種繊維強化プラスチックにより形成した繊維強化プラスチック成形体を用いることができる。これらの繊維強化プラスチック成形体を用いることにより、一定の強度を維持しつつ、接合体を軽量化することが可能となる。
なお、樹脂成形体7は、前述した繊維強化プラスチック以外に、ポリプロピレン(PP)、アクリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリウレタン(PU)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ナイロン6、ナイロン6,6、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフタルアミド(PPA)などの繊維強化されていないエンジニアリングプラスチックを使用することもできる。
図6A及び図6Bに示す接合体21a,21bでは、接着樹脂5の片面がアルミニウム合金材10の皮膜1及び皮膜2側に接合されているため、前述した接合体20と同様に、自動車用部材に用いた際、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂の種類に影響されず、界面での接着耐久性が向上する。また、図6Bに示す接合体21bは、アルミニウム合金材10と樹脂成形体7とを接合しているため、アルミニウム合金材同士の接合体に比べて軽量であり、この接合体21bを用いることにより自動車の更なる軽量化を実現することができる。なお、図6A及び図6Bに示す接合体21a,21bにおける上記以外の構成及び効果は、図5に示す接合体20と同様である。
更に、図7に示す接合体22のように、図3に示す接着樹脂層4を備えた接着樹脂層付きアルミニウム合金材11と、図1に示す接着樹脂層4を備えていないアルミニウム合金材10とを接合した構成とすることもできる。具体的には、接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の接着樹脂層4側に、アルミニウム合金材10の皮膜1及び皮膜2側が接合されたものである。その結果、アルミニウム合金材10の皮膜1及び皮膜2側と接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の皮膜1及び皮膜2側は、それぞれ接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の接着樹脂層4を介して、互いに対向するように配置された構成となっている。
接合体22では、接着樹脂層4の両面がアルミニウム合金材10の皮膜1及び皮膜2側と接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の皮膜1及び皮膜2側にそれぞれ接合されているため、前述した接合体20と同様に、接合体22を自動車用部材に用いた際に、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂の種類に影響されず、界面での接着耐久性が向上する。なお、図7に示す接合体22における上記以外の構成及び効果は、図5に示す接合体20と同様である。
更に、図8Aに示す接合体23a又は図8Bに示す接合体23bのように、図3に示す接着樹脂層4を備えた接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の接着樹脂層4側に、第1皮膜及び第2皮膜が形成されていない他のアルミニウム合金材6又は繊維強化プラスチック成形体などの樹脂成形体7を接合した構成とすることもできる。これら接合体23a,23bでは、接着樹脂層4の片面が接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の皮膜1及び皮膜2側に接合されているため、前述した接合体20と同様に、接合体23を自動車用部材に用いる際、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂の種類に影響されず、界面での接着耐久性が向上する。
また、図8Bに示す接合体23bは、接着樹脂層付きアルミニウム合金材11と樹脂成形体7とを接合しているため、アルミニウム合金材同士の接合体に比べて軽量であり、軽量化が求められている自動車や車両の部材に好適である。なお、図8A及び図8Bに示す接合体23a,23bにおける上記以外の構成及び効果は、図5に示す接合体20と同様である。
[製造方法]
前述した接合体20〜23の製造方法、特に接合方法は、従来公知の接合方法を用いることができる。そして、接着樹脂5をアルミニウム合金材に形成する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、予め接着樹脂5によって作製した接着シートを用いてもよいし、接着樹脂5を皮膜2の表面に噴霧または塗布することによって形成してもよい。なお、接合体20〜23は、アルミニウム合金材10や接着剤層付きアルミニウム合金材11と同様に、自動車用部材への加工前に、その表面にプレス油を塗布してもよい。
また、図示しないが、本実施形態の接合体に、両面に皮膜1及び皮膜2が形成されたアルミニウム合金材を用いた場合、接着樹脂5又は接着樹脂層4を介して、これらのアルミニウム合金材、皮膜1及び皮膜2が形成されていない他のアルミニウム合金材又は樹脂成形体を、さらに接合することが可能となる。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る自動車用部材について説明する。本実施形態の自動車用部材は、前述した第2の実施形態の接合体を用いたものであり、例えば、自動車用パネルなどである。
また、本実施形態の自動車用部材の製造方法は、特に限定されるものではないが、従来公知の製造方法を適用することができる。例えば、図5〜8Bに示す接合体20〜23bに切断加工やプレス加工などを施して所定形状の自動車用部材を製造する。
本実施形態の自動車用部材は、前述した第2の実施形態の接合体から製造されるため、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂又は接着樹脂層と、酸化皮膜(第1皮膜)の水和の影響をほとんど受けることなく、アルミニウム合金基材の溶出も抑制できる。その結果、本実施形態の自動車用部材では、高温湿潤環境に曝された場合の界面剥離を抑制し、接着強度の低下を抑制することが可能となる。
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、以下に示す方法及び条件でアルミニウム合金材を作製し、接着耐久性などを評価した。
<実施例1>
JIS6016(Mg:0.54質量%、Si:1.11質量%、Cu:0.14質量%)の6000系アルミニウム合金を用いて、板厚1mmのアルミニウム合金冷延板を作製した。そして、この冷延板を長さ100mm、幅25mmに切断して基材とし、実体到達温度550℃まで加熱処理し、冷却した。
続いて、基材を、水酸化カリウムを含むpH13の水溶液で50℃にて40秒アルカリ脱脂し、さらに、温度50℃、処理時間40秒として硫酸及びフッ酸を含むpH1の溶液で酸洗した後、水洗し、乾燥させた。その後、0.013質量%のテトラエチルオルソシリケート(TEOS)を含む水溶液(TEOS水溶液)をバーコーターで表面に均一に塗布し、100℃で1分間加熱乾燥させて、第1皮膜を形成させた。さらに、0.10質量%のビストリエトキシシリルエタン(BTSE)を含む水溶液(BTSE水溶液)をバーコーターで表面に均一に塗布し、100℃で1分間加熱乾燥させて、第2皮膜を形成させ、実施例1のアルミニウム合金材を作製した。
次に、プレス油をトルエンで希釈し濃度を調整した後、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように実施例1のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<実施例2>
TEOS水溶液の濃度を0.325質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例2のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、実施例2のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<実施例3>
TEOS水溶液の濃度を0.065質量%とし、BTSE水溶液の濃度を1質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例3のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、実施例3のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<実施例4>
TEOS水溶液の濃度を0.065質量%とし、BTSE水溶液の濃度を0.01質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例4のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、実施例4のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<実施例5>
TEOS水溶液の濃度を0.065質量%とし、BTSE水溶液の濃度を0.025質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例5のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、実施例5のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<実施例6>
TEOS水溶液の濃度を0.13質量%とし、BTSE水溶液の濃度を0.1質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例6のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、実施例6のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<実施例7>
TEOS水溶液の濃度を0.065質量%とし、BTSE水溶液の濃度を0.41質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例7のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、実施例7のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<実施例8>
TEOS水溶液を塗布後に基材を水洗し、100℃で1分間加熱乾燥させた後にBTSE水溶液を塗布した以外は実施例2と同様にして、実施例8のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、実施例8のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<実施例9>
TEOS水溶液の濃度を0.013質量%とし、BTSE水溶液の濃度を0.025質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例9のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、実施例9のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<実施例10>
BTSE水溶液に3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)を0.1質量%加えた以外は実施例9と同様にして、実施例10のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、実施例10のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<実施例11>
BTSE水溶液に3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GPS)を0.1質量%加えた以外は実施例9と同様にして、実施例11のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、実施例11のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<実施例12>
BTSE水溶液の代わりに0.1質量%のビストリエトキシシリルベンゼン(BTSB)を含む水溶液を用いた以外は実施例4と同様にして、実施例12のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、実施例12のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<実施例13>
BTSE水溶液の代わりに0.1質量%のビストリエトキシシリルプロピルアミン(BTSA)を含む水溶液を用いた以外は実施例4と同様にして、実施例13のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、実施例13のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<実施例14>
BTSE水溶液の代わりに0.1質量%のビストリエトキシシリルプロピルテトラスルフィド(BTSS)を含む水溶液を用いた以外は実施例4と同様にして、実施例14のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、実施例14のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<比較例1>
TEOS水溶液の濃度を2.3質量%とした以外は実施例1と同様にして、比較例1のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、比較例1のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<比較例2>
TEOS水溶液の濃度を0.0061質量%とし、BTSE水溶液の濃度を0.025%とした以外は実施例1と同様の手法と同様にして、比較例2のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、比較例2のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<比較例3>
0.12質量%のTEOSを含み、さらに粒径4nmのシリカゾルを0.1質量%加えたTEOS水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例3のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、比較例3のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<比較例4>
BTSE水溶液による処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、比較例4のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、比較例4のアルミニウム合金材の第1皮膜側の表面に塗布した。
<比較例5>
TEOS水溶液の濃度を0.13質量%とし、TEOS水溶液による処理前の脱脂・酸洗処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、比較例5のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、比較例5のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
<比較例6>
TEOS水溶液の濃度を0.13質量%とし、TEOS水溶液による処理前の酸洗処理を300秒行った以外は実施例1と同様にして、比較例6のアルミニウム合金材を得た。また、トルエンで希釈したプレス油を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるように、比較例6のアルミニウム合金材の第2皮膜側の表面に塗布した。
(IRスペクトル測定)
第2皮膜形成前の第1皮膜を有するアルミニウム合金材について、入射角75°の平行偏光を使用して、FT−IR(フーリエ変換式赤外分光光度計:Nicolet社製 Magna−750 spectrometer)分析することによりIRスペクトルを測定し、皮膜処理前後の差スペクトルにおいて、波数1000〜1300cm−1の範囲に存在する吸収帯を読み取った。表1に、各吸収帯の吸収の極大点を示す。
<第1の皮膜成分の測定>
第1皮膜について、高周波グロー放電発光分光分析法(GD−OES:ホリバ・ジョバンイボン社製型式JY−5000RF)により膜厚方向にスパッタしながら測定し、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、鉄(Fe)及びチタン(Ti)等の金属元素、及び酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ケイ素(Si)及び硫黄(S)等の元素について、各成分量の測定を行った。マグネシウム(Mg)、銅(Cu)及びケイ素(Si)については、第1皮膜中の最大濃度を、その皮膜中の皮膜濃度とした。アルミニウム(Al)については、基材と第1皮膜との界面近傍では基材の影響を受けるため、最表面の濃度をアルミニウム(Al)の皮膜濃度とした。ここで、これら各元素の濃度の算出において、特に酸素(O)及び炭素(C)は最表面やその近傍でコンタミの影響を受けやすい。以上のことから、各元素の濃度計算では、酸素(O)及び炭素(C)を除いて、濃度を算出した。なお、酸素(O)は、最表面及びその近傍ではコンタミの影響を受ける可能性が高く、正確な濃度を測定することは難しいが、すべてのサンプルの皮膜1には酸素(O)が含まれていることは明確であった。
<エッチング量の測定>
エッチング量は、酸化皮膜や酸化皮膜を含む基材の溶解量であり、エッチング処理前後の重量の減少量を測定し、それを厚み(膜厚)として見積もった。なお、重量の減少量から膜厚への換算は、便宜上、アルミニウムの密度:2.7g/cmを用い、アルミニウムの厚みとして計算することにより行った。
<第1および第2皮膜の皮膜量の測定>
シリケートおよびシラン化合物水溶液での処理により形成された第1および第2皮膜の皮膜量は、蛍光X線によって測定した。具体的には、蛍光X線によってシリケート処理後の第1皮膜およびシラン化合物処理後の第2皮膜のケイ素量をそれぞれ測定し、校正曲線を用いて、蛍光X線の強度と皮膜量の換算を行うことによりそれぞれ算出した。結果を表1に示す。
<凝集破壊率(接着耐久性)>
図9A及び図9Bは凝集破壊率の測定方法を模式的に示す図であり、図9Aは側面図であり、図9Bは平面図である。図9A及び図9Bに示すように、構成が同じ2枚の供試材31a,31b(25mm幅)の端部を、熱硬化型エポキシ樹脂系接着樹脂によりラップ長10mm(接着面積:25mm×10mm)となるように重ね合わせ貼り付けた。
ここで用いた接着樹脂35は熱硬化型エポキシ樹脂系接着樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂量40〜50質量%)である。また、接着樹脂35の厚さが250μmとなるように微量のガラスビーズ(粒径250μm)を接着樹脂35に添加して調節した。
重ね合わせてから30分間、室温で乾燥させて、その後、170℃で20分間加熱し、熱硬化処理を実施した。その後、室温で24時間静置して接着試験体を作製した。
作製した接着試験体を、40℃、濃度5%の塩化ナトリウム水溶液に20日間浸漬後、引張試験機にて50mm/分の速度で引張り、接着部分の接着樹脂の凝集破壊率を評価した。凝集破壊率は下記数式1に基づいて算出した。なお、下記数式1においては、接着試験体の引張後の片側を試験片a、もう片方を試験片bとした。
各試験条件とも3本ずつ作製し、凝集破壊率は3本の平均値とした。また、評価基準は、凝集破壊率が60%未満を不良(×)、60%以上70%未満をやや良好(△)、70%以上90%未満を良好(○)、90%以上を優れている(◎)とした。その結果を表1に示す。
表1に示されるように、比較例1のアルミニウム合金材は、第1皮膜中のSi濃度が本発明に規定の範囲よりも高いものであり、接着耐久性に乏しかった。
また、比較例2のアルミニウム合金材は、第1皮膜中のSi濃度が本発明に規定の範囲よりも低く、また、吸収帯の一つが本発明に規定の波数の範囲外であり、接着耐久性に乏しかった。
また、比較例3のアルミニウム合金材は、第1皮膜の吸収帯の一つが本発明に規定の波数の範囲外であり、接着耐久性に乏しかった。
また、比較例4のアルミニウム合金材は、第2皮膜を形成せずに、プレス油の溶解性に乏しい第1皮膜の上にプレス油を塗布している。その結果、接着耐久性に乏しい結果となった。
また、比較例5のアルミニウム合金材は、第1皮膜中のMg濃度が本発明に規定の範囲よりも高いものであり、接着耐久性に乏しかった。
また、比較例6のアルミニウム合金材は、第1皮膜中のCu濃度が本発明に規定の範囲よりも高いものであり、接着耐久性に乏しかった。
一方、本発明に規定の各要件を満足する実施例1〜14のアルミニウム合金材は、高温高湿環境下での良好な湿潤耐久性を有していた。
1 第1皮膜
2 第2皮膜
3 基材
4 接着樹脂層
5、35 接着樹脂
6、10 アルミニウム合金材
11 接着樹脂層付きアルミニウム合金材
7 樹脂成形体
20、21a、21b、22、23a、23b 接合体
31a、31b 供試材

Claims (16)

  1. アルミニウム合金基材と、
    前記アルミニウム合金基材の表面の少なくとも一部に形成された、ケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる第1皮膜と、
    前記第1皮膜の少なくとも一部に形成された、分子内に加水分解可能なトリアルコキシシリル基を2つ以上有するシラン化合物、その加水分解物またはその重合体を含む第2皮膜を備えるアルミニウム合金材であって、
    前記第1皮膜は、フーリエ変換式赤外分光法により入射角75°の平行偏光を入射して得られる皮膜処理前後の差スペクトルにおいて、波数1000〜1300cm−1の範囲に2つの吸収帯を有し、前記2つの吸収帯は波数1080〜1140cm−1および波数1180〜1240cm−1の範囲にあり、かつ、前記第1皮膜は、Siを15原子%以上70原子%未満及びMgを0.1原子%以上30原子%未満含有するとともに、Cuが0.6原子%未満に規制されているアルミニウム合金材。
  2. 前記第1皮膜は、直径1nm以上の粒子状の無機化合物を実質的に含まない、請求項1に記載のアルミニウム合金材。
  3. 前記第1皮膜中のSi量が20原子%以上65原子%未満である、請求項2に記載のアルミニウム合金材。
  4. 前記第1皮膜中の前記Si量が30原子%以上60原子%未満である、請求項3に記載のアルミニウム合金材。
  5. 前記第2皮膜が有機樹脂成分と化学結合しうる反応性官能基を有するシランカップリング剤、その加水分解物またはその重合体をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材。
  6. 前記第2皮膜の皮膜量が0.01〜30mg/mである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材。
  7. 前記第2皮膜の前記皮膜量が0.2〜20mg/mである、請求項6に記載のアルミニウム合金材。
  8. 前記第2皮膜の前記皮膜量が0.5〜10mg/mである、請求項7に記載のアルミニウム合金材。
  9. 前記アルミニウム合金基材が、Al−Mg系合金、Al−Cu−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金又はAl−Zn−Mg系合金からなる、請求項1〜8のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材。
  10. 請求項1〜9のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材の前記第2皮膜上に、接着樹脂層が形成されている、接着樹脂層付きアルミニウム合金材。
  11. 前記接着樹脂層がエポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ニトリル系樹脂、ナイロン系樹脂及びアクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1つを含む請求項10に記載の接着樹脂層付きアルミニウム合金材。
  12. アルミニウム合金基材の表面の少なくとも一部にケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる第1皮膜を形成する第1皮膜形成工程と、
    前記第1皮膜の少なくとも一部に、分子内に加水分解可能なトリアルコキシシリル基を2つ以上有するシラン化合物、その加水分解物またはその重合体を含む第2皮膜を形成する第2皮膜形成工程とを備え、
    前記第1皮膜形成工程は、前記アルミニウム合金基材の表面に酸化皮膜を形成させる加熱処理段階と、前記加熱処理段階後のエッチング処理段階及びシリケート処理段階とを含み、前記シリケート処理段階は前記エッチング処理段階より後あるいは前記エッチング処理段階と同時であり、かつ、前記シリケート処理段階として、テトラアルキルシリケートまたはそのオリゴマーを0.005質量%〜2質量%含む第1水溶液で前記酸化皮膜を処理し、
    前記第2皮膜形成工程では、分子内に加水分解可能なトリアルコキシシリル基を2つ以上有するシラン化合物、その加水分解物またはその重合体を含む第2水溶液で前記第1皮膜を処理する、アルミニウム合金材の製造方法。
  13. 前記エッチング処理段階におけるエッチング量を700nm未満に制御する、請求項12に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
  14. 前記第1皮膜形成工程において、前記シリケート処理段階は前記エッチング処理段階より後であり、前記エッチング処理段階として、酸処理及びアルカリ溶液処理のうちの少なくとも1つを行う、請求項12又は13に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
  15. 前記第1皮膜形成工程において、前記シリケート処理段階は前記エッチング処理段階と同時である、請求項12又は13に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
  16. 請求項12〜15のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材の製造方法により製造されたアルミニウム合金材の前記第2皮膜の上に、接着樹脂層を形成する接着樹脂層形成工程を備える、接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法。
JP2016094920A 2016-05-10 2016-05-10 アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材の製造方法、及び接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法 Expired - Fee Related JP6721406B2 (ja)

Priority Applications (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2016094920A JP6721406B2 (ja) 2016-05-10 2016-05-10 アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材の製造方法、及び接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法
PCT/JP2017/017615 WO2017195802A1 (ja) 2016-05-10 2017-05-10 アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材の製造方法、及び接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2016094920A JP6721406B2 (ja) 2016-05-10 2016-05-10 アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材の製造方法、及び接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2017203184A true JP2017203184A (ja) 2017-11-16
JP6721406B2 JP6721406B2 (ja) 2020-07-15

Family

ID=60267625

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2016094920A Expired - Fee Related JP6721406B2 (ja) 2016-05-10 2016-05-10 アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材の製造方法、及び接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法

Country Status (2)

Country Link
JP (1) JP6721406B2 (ja)
WO (1) WO2017195802A1 (ja)

Family Cites Families (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP5036136B2 (ja) * 2005-04-21 2012-09-26 中部キレスト株式会社 金属加工用水性防錆潤滑剤およびこれを用いた金属材の加工法
JP6283240B2 (ja) * 2013-05-23 2018-02-21 株式会社神戸製鋼所 アルミニウム合金板、接合体及び自動車用部材
WO2017006804A1 (ja) * 2015-07-09 2017-01-12 株式会社神戸製鋼所 アルミニウム合金材の製造方法、アルミニウム合金材、及び接合体

Also Published As

Publication number Publication date
WO2017195802A1 (ja) 2017-11-16
JP6721406B2 (ja) 2020-07-15

Similar Documents

Publication Publication Date Title
WO2016076344A1 (ja) アルミニウム合金材、接合体、自動車用部材、及びアルミニウム合金材の製造方法
JP6426135B2 (ja) 酸性溶液および接着剤の塗布を含む、Zn−Al−Mgコーティングを有する金属シートを製造する方法、ならびに対応する金属シートおよびアセンブリ
JP6283240B2 (ja) アルミニウム合金板、接合体及び自動車用部材
WO2015125897A1 (ja) アルミニウム合金板、接合体及び自動車用部材
WO2017006804A1 (ja) アルミニウム合金材の製造方法、アルミニウム合金材、及び接合体
JP2015521233A (ja) 油を塗ったZn−Al−Mgコーティングを有する金属シートを製造する方法および対応する金属シート
CN109072440B (zh) 金属表面处理用水溶液、金属表面的处理方法和接合体
JP2017203209A (ja) アルミニウム合金材の製造方法、アルミニウム合金材、及び接合体
WO2017195806A1 (ja) アルミニウム合金材の製造方法、アルミニウム合金材、及び接合体
WO2017195811A1 (ja) アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材の製造方法、及び接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法
CN107849697B (zh) 金属表面处理用水溶液、金属表面的处理方法和接合体
JP2017203212A (ja) アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材の製造方法、及び接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法
JP2017203213A (ja) アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、接合体、及びアルミニウム合金材の製造方法
WO2017195802A1 (ja) アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材の製造方法、及び接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法
WO2017006805A1 (ja) 金属表面処理用水溶液、金属表面の処理方法、及び接合体
WO2017195808A1 (ja) アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、接合体、及びアルミニウム合金材の製造方法
WO2017195805A1 (ja) アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、接合体、及びアルミニウム合金材の製造方法
JP2017048456A (ja) アルミニウム合金材、接合体、自動車用部材、アルミニウム合金材の製造方法及び接合体の製造方法
JP6510844B2 (ja) 表面処理方法、表面処理装置およびアルミニウム表面処理材料
JP6278882B2 (ja) 表面処理アルミニウム合金板およびその製造方法
WO2017038573A1 (ja) アルミニウム合金材、接合体、自動車用部材、アルミニウム合金材の製造方法及び接合体の製造方法
JP2019085610A (ja) 金属表面処理用水溶液、金属表面の処理方法、及び接合体

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20190508

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20200519

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20200618

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 6721406

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees