JP2017198212A - 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ - Google Patents
斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ Download PDFInfo
- Publication number
- JP2017198212A JP2017198212A JP2017082991A JP2017082991A JP2017198212A JP 2017198212 A JP2017198212 A JP 2017198212A JP 2017082991 A JP2017082991 A JP 2017082991A JP 2017082991 A JP2017082991 A JP 2017082991A JP 2017198212 A JP2017198212 A JP 2017198212A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- swash plate
- hemispherical shoe
- resin layer
- base material
- groove
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Images
Landscapes
- Compressors, Vaccum Pumps And Other Relevant Systems (AREA)
Abstract
【課題】運転開始時の潤滑油のないドライ状態においても、焼付きが発生せず、摩擦熱による潤滑特性の低下がなく耐久性が十分に確保され、高振動環境下でも樹脂層が剥離することなく使用可能である半球シューを提供する。
【解決手段】斜板式コンプレッサの半球シュー4は、金属焼結体を基材5とし、ピストンと摺動する球面部4aの表面が基材5自体からなり、斜板と摺動する平面部4bの表面が樹脂層6からなり、基材5は、その平面部5b表面の外縁部に溝7を有し、樹脂層6は、射出成形層であり、その一部が溝7に係合しつつ抱き付いて基材5に固定されている。
【選択図】図2
【解決手段】斜板式コンプレッサの半球シュー4は、金属焼結体を基材5とし、ピストンと摺動する球面部4aの表面が基材5自体からなり、斜板と摺動する平面部4bの表面が樹脂層6からなり、基材5は、その平面部5b表面の外縁部に溝7を有し、樹脂層6は、射出成形層であり、その一部が溝7に係合しつつ抱き付いて基材5に固定されている。
【選択図】図2
Description
本発明は、自動車用エアコンなどに用いられる斜板式コンプレッサにおいて、斜板とピストンとの間に介在して斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換するための半球シューに関する。
斜板式コンプレッサは、冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角または斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させるものである。このような斜板式コンプレッサには、両頭形のピストンを用いて冷媒を両側で圧縮、膨張させる両斜板タイプのものと、片頭形のピストンを用いて冷媒を片側のみで圧縮、膨張させる片斜板タイプのものとがある。また、半球シューは斜板の片側面のみで摺動するものと、斜板の両側面で摺動するものとがある。これらの斜板式コンプレッサでは、斜板と半球シューの摺動面に毎秒20m以上の大きな相対速度の滑りが発生して、半球シューは非常に過酷な環境で使用される。
また、潤滑については、潤滑油は冷媒に溶け込みながら薄められハウジング内を循環し、ミスト状となって摺動部に供給される。しかし、運転休止状態から運転を再開した場合において、液化した冷媒により潤滑油が洗い流されてしまい、運転開始時の斜板と半球シューとの摺動面は、潤滑油のないドライ状態となり、焼付きが発生しやすいという問題がある。また、シリンダボア内を出入りする冷媒が圧縮される工程から吐出される工程へと切り替わる時、および吐出される工程から圧縮される工程へと切り替わる時において、半球シューがピストンから受ける圧力差が増大し、その結果半球シューが大きな振動および衝撃を受ける。
まず、上記の焼付きを防止する手段としては、例えば、斜板および半球シューの少なくとも摺動面にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂被膜を静電粉体塗装法により直接形成したもの(特許文献1参照)、固体潤滑剤を含有する熱可塑性ポリイミド被膜を静電粉体塗装法により形成したもの(特許文献2参照)が提案されている。また、高速・高温条件において高い摺動性を確保するため、斜板、半球シューおよびピストンの少なくとも一の摺接部位にPEEK樹脂からなるバインダと、該バインダ中に分散された固体潤滑剤とからなる摺動層を形成したもの(特許文献3参照)が提案されている。
さらには、より高速・高温条件において高い摺動性を確保するため、半球シューの斜板との摺接部位である平面部に樹脂層(摺動層)を射出成形により形成し、かつ樹脂層が当該条件にて半球シューから剥がれないように、半球シュー平面部の斜板との摺動における圧力分布を考慮して樹脂層の厚さを変化させて密着性を高めたもの(特許文献4参照)が提案されている。
特許文献1〜3に示す従来技術では、斜板と半球シューの潤滑特性の向上のために、上記したとおり、斜板や半球シューの摺動面に潤滑性被膜を形成する方法が提案されてきたが、現実には斜板に潤滑性被膜を形成させるものがほとんどであった。この理由は、斜板に比べて半球シューの摺動面積が小さいうえに、ピストンの球面座との摺動も受けるため、摩擦熱によって潤滑性被膜の耐久性が十分に得られていないということが推測される。
例えば、従来技術のように、斜板およびピストンとの摺動のため半球シューの表面全体を樹脂被膜で覆った場合、摩擦熱の放熱性が低下するとともに半球シュー基材の温度上昇が発生し、樹脂被膜が溶融するおそれがある。また、静電粉体塗装法や塗液塗布による樹脂被膜の形成は、半球シューを焼成温度にさらすことになり強度低下の懸念がある。
また、特許文献4の手法では、斜板と摺接する平面部のみに必要最小限の樹脂層を形成させることで、摩擦熱の放熱性を高め、潤滑油の希薄な環境でも焼付くことなく、相手材である斜板に潤滑性被膜を形成させなくても正常に使用することが可能となった。しかしながら、焼付き性に関する課題は解決されたものの、油枯渇かつ高速高荷重環境下で摺動した際に、シリンダボア内を出入りする冷媒が圧縮される工程から吐出される工程へと切り替わる時、および吐出される工程から圧縮される工程へと切り替わる時において、半球シューがピストンから受ける圧力差が増大して振動が発生し、その結果、樹脂層が半球シューから剥離する懸念がある。
その他、潤滑性被膜を有する斜板は、摺動面の平面度、平行度、厚さ精度の加工精度が厳しいだけでなく、高価な材料からなる潤滑性被膜の被膜面積が大きいため低価格化できないという問題がある。
本発明はこれらの問題に対処するためになされたものであり、運転開始時の潤滑油のないドライ状態においても、焼付きが発生せず、摩擦熱による潤滑特性の低下がなく耐久性が十分に確保され、高振動環境下でも樹脂層が剥離することなく使用可能である半球シューを提供することを目的とする。また、この半球シューを使用することにより、斜板やピストンの摺動面から潤滑性被膜を除いた斜板式コンプレッサを提供することを目的とする。
本発明の斜板式コンプレッサの半球シューは、冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角または斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して上記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサの半球シューであり、上記半球シューは、金属焼結体を基材とし、上記ピストンと摺動する球面部表面が上記基材自体からなり、上記斜板と摺動する平面部表面が樹脂層からなり、上記基材は、その平面部表面の外縁部に溝を有し、上記樹脂層は、射出成形層であり、その一部が上記溝に係合しつつ抱き付いて上記基材に固定されていることを特徴とする。
上記基材の平面部表面において、上記溝の外径側に上記樹脂層で覆われていない露出部を有することを特徴とする。
上記基材は、中心軸部分に、該基材の平面部表面から窪んだ形状の凹部と、該基材の球面部側と平面部側とを貫通する中空部とを有し、上記樹脂層は、上記中空部の一部に充填されつつ、上記凹部の内面に沿って形成されていることを特徴とする。
上記溝は、上記外縁部に断面矩形で円周状に形成されていることを特徴とする。また、上記外縁部は、上記基材の平面部表面の外周端から中心軸に向かって所定距離の範囲であり、上記所定距離が該平面部表面の直径に対して1/4未満であることを特徴とする。
本発明の斜板式コンプレッサは、冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角または斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して上記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させるものであり、上記半球シューが本発明の半球シューであることを特徴とする。特に、上記斜板の上記半球シューとの摺動面は、斜板基材表面が研磨面もしくは旋削面であり潤滑性被膜を有さないことを特徴とする。
本発明の斜板式コンプレッサの半球シューは、斜板と摺動する平面部表面が樹脂層からなり、球面部表面が半球シューの基材(金属焼結体)自体からなるので、斜板との摺動による摩擦熱が発生しても放熱性に優れる。そのため、運転開始時のドライ状態においても樹脂層が溶融することを防止できる。また、半球シューの基材を金属焼結体とすることで、射出成形時に基材表面に存在する空隙に樹脂が入り込み、アンカー効果により基材と樹脂層との密着性に優れる。加えて、基材の平面部表面の外縁部に溝が設けられており、射出成形時に樹脂層が該溝に入り込み、射出成形金型内での冷却時に生じる収縮によって、溝に入り込んだ樹脂層が該溝に抱き付くことで更なる密着性が確保される。このため、高速・高温・高振動環境下においても、斜板と摺接する樹脂層が剥離することなく使用可能となる。
基材の平面部表面において、溝の外径側に樹脂層で覆われていない露出部を有するので、該露出部と斜板との隙間が潤滑油溜まりとなる。これにより、希薄潤滑時における潤滑作用を補うことができ、焼付きを防止できる。
基材は、中心軸部分に、該基材の平面部表面から窪んだ形状の凹部と、該基材の球面部側と平面部側とを貫通する中空部とを有し、樹脂層は、上記中空部の一部に充填されつつ、上記凹部の内面に沿って形成されているので、樹脂層と基材との密着性がより向上する。また、樹脂層が充填されていない中空部は基材の露出部となり、球面部と合わせて露出面積が増えるため、放熱性に優れ、樹脂層の溶融を防止できる。さらに、上記中空部と上記凹部は、潤滑油溜まりとなり、希薄潤滑時における潤滑作用を補うことができ、焼付きを防止できる。
基材の溝は、平面部表面の外縁部に断面矩形で円周状に形成されているので、樹脂層の溝への高い抱き付き効果が得られる。特に、溝を形成する外縁部は、基材の平面部表面の外周端から中心軸に向かって所定距離の範囲であり、この所定距離が該平面部表面の直径に対して1/4未満である。樹脂層の剥離の起点となる外周端に極力近い箇所に溝を設けることで、剥離を効果的に防止できる。また、射出成形直後の金型内での冷却時に樹脂収縮が起きることを考慮すると内周側より外周側の方が樹脂収縮量が大きく、上記範囲のような外縁部に溝を設けることで、樹脂層の溝への抱き付き効果が高く、優れた密着性が得られる。
本発明の斜板式コンプレッサは、上述した半球シューを備えたものであるので、運転開始時の潤滑油のないドライ状態においても、半球シューの摺動面(樹脂層)での焼付きが発生せず、摩擦発熱による潤滑特性の低下がなく耐久性に優れ、振動による樹脂層の剥離が生じることなく、安心、長寿命な斜板式コンプレッサとなる。
また、上述した半球シューを用い、斜板の該半球シューとの摺動面が斜板基材の研磨面もしくは旋削面であり潤滑性被膜を有さないので、機能面で同等でありながら、低価格の斜板式コンプレッサを提供できる。
本発明の斜板式コンプレッサの一実施例を図面に基づき説明する。図1は、本発明の斜板式コンプレッサの一例を示す縦断面図である。図1に示す斜板式コンプレッサは、炭酸ガスを冷媒に用いるものであり、冷媒が存在するハウジング1内で、回転軸2に直接固定するように斜めに取り付けた斜板3の回転運動を、斜板3の両側面で摺動する半球シュー4を介して両頭形ピストン14の往復運動に変換し、ハウジング1の周方向に等間隔で形成されたシリンダボア10内の各ピストン14の両側で、冷媒を圧縮、膨張させる両斜板タイプのものである。高速で回転駆動される回転軸2は、ラジアル方向を針状ころ軸受11で支持され、スラスト方向をスラスト針状ころ軸受12で支持されている。この構成において、斜板3は、連結部材を介して間接的に回転軸2に固定される態様でもよい。また、斜めではなく直角に取り付けられる態様であってもよい。
各ピストン14には斜板3の外周部を跨ぐように凹部14aが形成され、この凹部14aの軸方向対向面に形成された球面座13に、半球シュー4が着座されており、ピストン14を斜板3の回転に対して相対移動自在に支持する。これによって、斜板3の回転運動からピストン14の往復運動への変換が円滑に行われる。半球シュー4は、球面部がピストン14(球面座13)と摺動し、平面部が斜板3と摺動する。
半球シューの構造を図2に基づき詳細に説明する。図2(a)は本発明の半球シューの一例を示す縦断面図であり、図2(b)は半球シューの一例を示す樹脂層側からみた平面図である。図2(a)に示すように、半球シュー4は、球体の一部を構成する球面部4aと、球面部4aの反対側において該球体を略平面でカットした形態の平面部4bと、球面部4aと平面部4bとを繋ぐ外周部4cとからなる略半球状の構造を有する。また、半球シュー4は、平面形状が円形状であり、外周部4cの表面は円筒外周面となる。半球シュー4の全体形状は、円柱体の一方の底面を半球の一部を構成する凸形状とした形状である。なお、半球シュー4の全体形状は、これに限定されるものではなく、斜板と摺動する平面部とピストンと摺動する球面部とを有していればよく、上記外周部(円筒部)を有さない形状としてもよい。
半球シュー4は、金属焼結体(焼結金属)を基材5とする。基材5の形状は、半球シュー4の全体形状と略同一形状であり、半球シュー4の球面部4a、平面部4b、外周部4cにそれぞれ対応する、球面部5a、平面部5b、外周部5cを有する。基材5において、平面部5bの表面に樹脂層6が形成されている。一方、樹脂層6は、球面部5aと外周部5cの表面には形成されていない。このため、斜板との摺動面となる半球シュー4の平面部4bの表面は、樹脂層6からなり、ピストンとの摺動面となる半球シュー4の球面部4aの表面は、基材5の球面部5a自体となる。斜板との摺動による摩擦熱が発生しても、基材5の球面部5aや外周部5cから熱を逃がすことができ、樹脂層が溶融することを防止できる。
樹脂層6は、所定の合成樹脂を用いて射出成形により形成された射出成形層である。例えば、半球シューの基材を射出成形金型内にセットし、その上から合成樹脂を射出成形するインサート成形により形成することが好ましい。射出成形時に、基材(金属焼結体)の空隙に樹脂が入り込み、アンカー効果が得られる。また、潤滑性被膜を形成する場合のようなマスキングが不要であり、余分な製造工程が増えることがなく、価格上昇を抑制できる。
図2(a)および図2(b)に示すように、基材5は、平面部5bの表面に溝7を有する。溝7は、断面が矩形(長方形)であり、円周方向に連続して形成されている。樹脂層6は、平面部5bのうち溝7のない部分に対応する薄肉部6aと、溝7の部分に対応する凸部6bとが一体に形成されている。樹脂層6は、その一部である凸部6bが、溝7に係合しつつ抱き付いている。これは、射出成形時に樹脂が溝7に入り込み、射出成形金型内での冷却時に生じる収縮によって、上記樹脂が溝7に抱き付くためである。溝7に入り込んだ樹脂が、樹脂層6の凸部6bとなる。この凸部6bを介して、基材5の溝7を構成する内径側垂直面に対して、平面部5bの中心に向かう方向に、樹脂層6の収縮力が作用する。このため、高速、高温、および高振動環境下においても、斜板と摺接する樹脂層6が基材5から剥離することなく使用可能となる。
基材5は、中心軸16の部分に、平面部5bの表面から窪んだ形状の凹部9と、球面部5a側と平面部5b側とを貫通する中空部8とを有する。樹脂層6は、中空部8のある一定深さまで充填されている。この部分が充填部6dである。また、樹脂層6は、凹部9に沿って形成されている。この凹部9に沿って形成された部分6cは、薄肉部6aと一体であり、その厚さも略同一である。斜板との摺動面となる樹脂層6の表面(薄肉部6aの表面)は平坦面である。
基材5の平面部5b表面の中央の円状の凹部9と、基材5の中心軸16の部分の中空部8(樹脂未充填部分)は、潤滑油溜まりとなる。この部分に潤滑油が保持され、希薄潤滑時における潤滑作用を補うことができ、焼付きを防止できる。また、平面部5bの全面を平面とする場合よりも、上記のような凹形状がある方が樹脂層6と基材5との接触面積が増加し、樹脂層6の剥離をより防止できる。また、射出成形の観点から、この凹部位置にゲートを設けることで、ゲートカット後のゲート痕(凸部)が斜板摺動面に突出することを防止できる。さらに、樹脂が充填されていない中空部8は基材5の露出部となり、球面部5aと合わせて露出面積が増えるため、放熱性に優れる。
図2(a)に示すように、樹脂層6は、基材5の平面部5bの表面の形状に沿って形成された薄肉層である。半球シューの直径Rが10mm程度(5〜16mm程度)である場合において、樹脂層の厚さtは0.05mm〜0.5mmが好ましい。なお、本発明において以下に示す他の各寸法の好適範囲(mm)は、この5〜16mm程度の直径の半球シューを対象としたものである。樹脂層の厚さをこのような薄肉範囲とすることで、摩擦熱が摺動面から基材側に逃げ易く、蓄熱し難い。0.05mmより薄い場合、基材の平面精度によっては樹脂層に研磨加工を施した際に基材が露出するおそれがある。また、0.5mmよりも厚い場合、樹脂層の体積増加による放熱性および耐面圧特性の低下と、樹脂層の変形が発生し易くなり、耐久性が低下するおそれがある。なお、研磨加工なく射出成形のみで樹脂層を形成する場合、樹脂層の厚さは0.3mm以上とする。これは、0.3mmより薄い場合、流動性の低い樹脂材料を使用しても射出成形によって樹脂層を成形することが困難なためである。
溝7は、基材5の平面部5bの表面の外縁部に設けられている。外縁部は、基材5の平面部5bの表面の外周端15寄りの部位である。よって、外縁部は、少なくとも、上記外周端15から中心軸16に向かって、平面部表面の半径(FR/2)の半分(FR/4)未満の距離にある範囲である。すなわち、外周端15から、平面部表面の直径FRの1/4未満の距離にある範囲である。具体的な範囲としては、例えば平面部表面の直径FRがφ13mmの場合、溝7は、外周端15から中心軸16に向かって、0.2mm〜3.25mm未満の範囲に設けられていることが好ましい。
溝7は、この外縁部に含まれる範囲内であれば、該外縁部の全体に設けても、その一部に設けていてもよい。図2(b)において、樹脂層6は網掛け部分であり、溝7は2本の円状点線で囲まれる範囲にある。樹脂層6の剥離は、外周端15から発生し易く、また外径側ほど樹脂層の収縮率が大きくなるため、より外径側に溝7を形成することで、優れた密着性が得られる。
溝7の幅Wについて、溝幅が大きいほど樹脂層6の収縮によるアンカー効果が得られやすい。一方で、溝幅が大きすぎると樹脂層6の体積が増加し、放熱性が低下するおそれがある。特に、冷凍機油の希薄な環境で高速高荷重摺動が発生した場合に焼付きを生じるおそれがある。これらを考慮すると、溝7の幅Wとしては、例えば0.5mm〜3mmであることが好ましい。
溝7の深さDは、樹脂層6の凸部6bの高さとなる。溝7の幅Wと同様に、溝深さが深いほど樹脂層6の収縮によるアンカー効果が得られやすいが、一方で溝深さが深すぎると樹脂層6の体積が増加し、放熱性が低下するおそれがある。これらを考慮すると、溝7の深さDとしては、例えば0.1mm〜0.5mmであることが好ましい。
図2(a)に示す形態では、溝7の断面が矩形(長方形)であり、主にその内径側垂直面で樹脂層の収縮力を受けている。また、溝7は、アンダーカット構造のような樹脂層6を垂直方向に引き剥がした時に引っ掛かりが生じるような構造としてもよい。アンダーカット構造としては、溝入口の幅よりも溝底の幅が広いような形状が挙げられる。溝7をアンダーカット形状とした場合、樹脂層6の形成後は、溝7に樹脂が充填されて形成された凸部6bと溝7とが立体的に係合する。このため、物理的に樹脂層6が破壊されない限り、基材5からの剥離が起きることはなく、実使用時に剥離を懸念する必要がなくなる。
図3および図4に、基材における溝の他の形態を示す。図3の半球シュー4は、溝7が、外縁部において円周方向等間隔に4箇所で分かれて形成されている。溝7のそれぞれの形状は、一定の円弧長さを有する円弧状である。各溝7に係合する樹脂層6の凸部が、それぞれ平面部の中心方向に向けて収縮して溝に抱き付く。また、図2に示す形態と比較して、凸部体積が小さくなり、樹脂層全体の体積も小さくなる。このため、高い密着性を維持しながら、放熱性の低下を抑制できる。図4の半球シュー4は、図3と同様に、溝7が、外縁部において円周方向等間隔に4箇所で分かれて形成されており、それぞれの形状が平面視で正方形である。この場合、図2に示す形態と比較すると、密着性はやや劣るものの、溝形成による放熱性の低下はほぼ考慮する必要がなくなる。図3や図4の形態において、溝が円周方向で1箇所のみなど、抱き付き効果が薄くなるような配置を除いて、溝の分割数や配置箇所は適宜変更できる。
図5に、半球シューの平面部の外周端近傍の拡大図を示す。図5(a)が図2の形態における拡大図であり、図5(b)が他の形態である。図5(a)では、基材5の平面部5bの表面において、樹脂層6が溝7の僅かに外径側まで形成されている。図5(b)では、基材5の平面部5bの表面において、樹脂層6は溝7の外径側垂直面と同一位置まで形成されている。図5(a)および図5(b)のいずれの場合も、基材5は、平面部5bの表面において溝7の外径側に樹脂層6で覆われていない露出部5dを有する。露出部5dと斜板との間が隙間となり、この部分が潤滑油溜まりとなる。これにより、特に希薄潤滑時における潤滑作用を補うことができる。また、基材5の平面部5bの外周端15を避けて樹脂層6を形成することで、外周端15を起点に樹脂層が剥離することを防止できる。
半球シューの基材は金属焼結体であり、その焼結金属材質としては、鉄系、銅鉄系、銅系、ステンレス系などの焼結金属が挙げられる。射出成形時において、焼結基材表面に存在する焼結特有の空隙に樹脂層が入り込み、基材との密着性を向上できる。このようなアンカー効果が得られることにより、実使用時における基材からの樹脂層の剥離を防止できる。上記の焼結金属材質の中でも、鉄が主成分の焼結金属、さらには銅の含有量が10重量%以下の鉄系焼結金属とすることが好ましい。また、半球シューの球面部となる基材の球面部の表面においても、上記空隙が存在する。この表面に存在する空隙に潤滑油が入り込み、潤滑油の保持性が高まり、ピストンとの滑りにおいて円滑に焼付きなく使用することが可能となる。
上記のアンカー効果を得て樹脂層と基材との密着性を高めるために、焼結基材表面に適度な空隙が設けられていることが好ましい。アンカー効果による密着性を高めるためには空隙の大きさおよび深さは大きい方が好ましいが、一方で樹脂層体積が増加することによる放熱性の低下が懸念され、焼付きが発生するおそれもある。そのため、空隙の大きさは直径0.01mm〜0.3mm程度、空隙の深さは0.01mm〜0.05mm程度が好ましい。また、空隙は多孔質のような複雑な立体構造であることが好ましい。
樹脂層を形成する合成樹脂としては、射出成形可能で、潤滑特性および耐熱性に優れた合成樹脂が好ましい。このような合成樹脂としては、例えば、芳香族ポリエーテルケトン(PEK)系樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、射出成形可能なポリイミド樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、射出成形可能なフッ素樹脂などが挙げられる。これらの各合成樹脂は単独で使用してもよく、2種類以上混合したポリマーアロイであってもよい。
これらの合成樹脂の中でも、芳香族PEK系樹脂を主成分として用いることが好ましい。芳香族PEK系樹脂を用いることで、耐熱性、耐油・耐薬品性、耐クリープ特性、摩擦摩耗特性などに優れ、非常に信頼性の高い半球シューを得ることができる。 本発明で使用できる芳香族PEK系樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂などがある。本発明で使用できるPEEK樹脂の市販品としては、ビクトレックス社製:VICTREX PEEK(90P、150P、380P、450P、90G、150Gなど)、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製:Keta Spire PEEK(KT−820P、KT−880Pなど)、ダイセル・エボニック社製:VESTAKEEP(1000G、2000G、3000G、4000Gなど)などが挙げられる。また、PEK樹脂としては、ビクトレックス社製:VICTREX HTなどが、PEKEKK樹脂としてはビクトレックス社製:VICTREX STなどが、それぞれ挙げられる。
樹脂層を形成する合成樹脂は、上記した芳香族PEK系樹脂に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、黒鉛、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤や、各種ウィスカ、アラミド繊維、炭素繊維などの繊維状補強材を配合した樹脂組成物とすることが好ましい。なお、固体潤滑剤は、潤滑油が希薄な条件であっても低摩擦となり、焼付きを抑制できる。
樹脂層を形成する合成樹脂は、樹脂温度380℃、せん断速度1000s−1における溶融粘度が50Pa・s〜5000Pa・sであることが好ましい。溶融粘度がこの範囲であると、半球シューの基材の表面に樹脂層の薄肉インサート成形が円滑に行なえる。
斜板との摺動面となる樹脂層の表面(平面部表面)は、樹脂層形成後に研磨加工することが好ましい。研磨加工により、個々の高さ寸法にばらつきがなくなり非常に精度が向上する。また、射出成形で成形可能な樹脂厚みとしては最薄0.3mm程度であり、これよりも樹脂層を薄くするためには研磨加工が必要となる。さらには、樹脂層の該表面の表面粗さは、0.1μmRa〜1.0μmRa(JIS B0601)に調整することが好ましい。この範囲内にすることで、斜板と摺動する樹脂層摺動面における真実接触面積が大きくなり、実面圧を下げて焼付きを防止できる。表面粗さが、0.1μmRa未満では摺動面への潤滑油の供給が不足し、1.0μmRaをこえると摺動面での真実接触面積の低下により、局部的に高面圧となり、焼付くおそれがある。さらに好ましくは、表面粗さ0.2μmRa〜0.8μmRaである。
斜板との摺動面となる樹脂層の表面(平面部表面)には、希薄潤滑時における潤滑作用を補うため、オイルポケットを形成してもよい。オイルポケットの形態としては、斑点状または筋状の凹部が挙げられる。斑点状または筋状としては、平行な直線状、格子状、渦巻状、放射状または環状などが挙げられる。オイルポケットは、射出成形時に同時に形成することが好ましい。オイルポケットの深さは、樹脂層の厚み未満で適宜決定できる。また、斜板との摺動面となる樹脂層の表面(平面部表面)に動圧溝を設けてもよい。なお、オイルポケットの形成によって斜板との接触面積が減少し、高面圧となることで焼付き異常が発生しないよう留意する必要がある。
本発明の半球シューが使用される斜板式コンプレッサは、冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角または斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して上記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサである。この斜板式コンプレッサに本発明の半球シューを使用することによって、半球シューと摺動する斜板においては、潤滑性被膜を除くことができる。すなわち、斜板表面は基材の研磨面および旋削面のままの状態で斜板式コンプレッサに組み込み半球シューと摺動させることが可能となる。このため、機能面で同等でありながら、低価格の斜板式コンプレッサを提供できる。なお、斜板の基材は、機械構造用炭素鋼(S45C)、自動車構造用熱間圧延鋼板(SAPH440)、球状黒鉛鋳鉄(FCD)などの鋼材や銅合金などが採用できる。
本発明の斜板式コンプレッサの半球シューは、運転開始時の潤滑油のないドライ状態においても、焼付きが発生せず、摩擦発熱による潤滑特性の低下がなく耐久性が十分に確保されている。また、使用時の振動および斜板から受けるせん断力に対して半球シュー平面部の樹脂層が剥がれないので、種々の斜板式コンプレッサに利用できる。特に、炭酸ガスやHFC1234yfを冷媒とし、高速高負荷仕様である近年の斜板式コンプレッサにも好適に利用できる。
1 ハウジング
2 回転軸
3 斜板
4 半球シュー
5 基材
6 樹脂層
7 溝
8 中空部
9 凹部
10 シリンダボア
11 針状ころ軸受
12 スラスト針状ころ軸受
13 球面座
14 ピストン
15 外周端
16 中心軸
2 回転軸
3 斜板
4 半球シュー
5 基材
6 樹脂層
7 溝
8 中空部
9 凹部
10 シリンダボア
11 針状ころ軸受
12 スラスト針状ころ軸受
13 球面座
14 ピストン
15 外周端
16 中心軸
Claims (7)
- 冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角または斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して前記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサの半球シューであって、
前記半球シューは、金属焼結体を基材とし、前記ピストンと摺動する球面部表面が前記基材自体からなり、前記斜板と摺動する平面部表面が樹脂層からなり、
前記基材は、その平面部表面の外縁部に溝を有し、
前記樹脂層は、射出成形層であり、その一部が前記溝に係合しつつ抱き付いて前記基材に固定されていることを特徴とする斜板式コンプレッサの半球シュー。 - 前記基材の平面部表面において、前記溝の外径側に前記樹脂層で覆われていない露出部を有することを特徴とする請求項1記載の斜板式コンプレッサの半球シュー。
- 前記基材は、中心軸部分に、該基材の平面部表面から窪んだ形状の凹部と、該基材の球面部側と平面部側とを貫通する中空部とを有し、
前記樹脂層は、前記中空部の一部に充填されつつ、前記凹部の内面に沿って形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の斜板式コンプレッサの半球シュー。 - 前記溝は、前記外縁部に断面矩形で円周状に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の斜板式コンプレッサの半球シュー。
- 前記外縁部は、前記基材の平面部表面の外周端から中心軸に向かって所定距離の範囲であり、前記所定距離が該平面部表面の直径に対して1/4未満であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の斜板式コンプレッサの半球シュー。
- 冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角または斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して前記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサであって、
前記半球シューが、請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の半球シューであることを特徴とする斜板式コンプレッサ。 - 前記斜板の前記半球シューとの摺動面は、斜板基材表面が研磨面もしくは旋削面であり潤滑性被膜を有さないことを特徴とする請求項6記載の斜板式コンプレッサ。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
PCT/JP2017/015780 WO2017183669A1 (ja) | 2016-04-20 | 2017-04-19 | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ |
Applications Claiming Priority (2)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2016084315 | 2016-04-20 | ||
JP2016084315 | 2016-04-20 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2017198212A true JP2017198212A (ja) | 2017-11-02 |
Family
ID=60237694
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2017082991A Pending JP2017198212A (ja) | 2016-04-20 | 2017-04-19 | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2017198212A (ja) |
-
2017
- 2017-04-19 JP JP2017082991A patent/JP2017198212A/ja active Pending
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP6230803B2 (ja) | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ | |
WO2017183669A1 (ja) | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ | |
JP2017198212A (ja) | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ | |
WO2016027876A1 (ja) | 斜板式コンプレッサ用半球シューの製造方法および射出成形金型 | |
JP6313683B2 (ja) | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ | |
JP4955412B2 (ja) | 斜板式コンプレッサの斜板および斜板式コンプレッサ | |
US10598167B2 (en) | Semispherical shoe for swash plate compressor and swash plate compressor | |
JP6313681B2 (ja) | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ | |
JP6400419B2 (ja) | 斜板式コンプレッサ用半球シューの射出成形金型 | |
JP6466754B2 (ja) | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ | |
JP6571960B2 (ja) | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ | |
JP2018091142A (ja) | コンプレッサ用斜板 | |
JP2016044608A (ja) | 斜板式コンプレッサ用半球シューの製造方法 | |
JP2018059412A (ja) | コンプレッサ用斜板 | |
JP2017082730A (ja) | 斜板式コンプレッサ | |
JP6654056B2 (ja) | コンプレッサー用斜板および斜板式コンプレッサー | |
JP2016180381A (ja) | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ | |
JP6313682B2 (ja) | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ | |
JP2017036711A (ja) | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ | |
JP2007205315A (ja) | 斜板式コンプレッサの斜板および斜板式コンプレッサ | |
JP2017190675A (ja) | 斜板式コンプレッサ用半球シューの製造方法 | |
JP2017036712A (ja) | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ | |
JP2020007972A (ja) | 斜板式コンプレッサ用半球シューおよびその製造方法 | |
JP2019082216A (ja) | 摺動部材 |