JP2017082730A - 斜板式コンプレッサ - Google Patents

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Norikazu Soda
法和 宗田
福澤 覚
Satoru Fukuzawa
覚 福澤
友輔 土井
Yusuke Doi
友輔 土井
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Abstract

【課題】運転開始時の潤滑油のないドライ状態においても、半球シューと斜板との間および半球シューとピストンとの間でそれぞれ焼付きが発生しない斜板式コンプレッサを提供する。
【解決手段】冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角および斜めに取り付けた斜板3に半球シュー4を摺動させ、半球シュー4を介して斜板3の回転運動をピストン9の往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサであって、半球シュー4は、斜板3およびピストン9との摺動面に樹脂層を有し、斜板3およびピストン9は金属からなり、それぞれの半球シュー4との摺動面において地金が露出している。
【選択図】図2

Description

本発明は、自動車用エアコンなどに用いられる斜板式コンプレッサに関する。
斜板式コンプレッサは、冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角および斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させている。この半球シューを介して斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させている。斜板式コンプレッサには、両頭形のピストンを用いて冷媒を両側で圧縮、膨張させる両斜板タイプのものと、片頭形のピストンを用いて冷媒を片側のみで圧縮、膨張させる片斜板タイプのものとがある。また、半球シューは斜板の片側面のみで摺動するものと、斜板の両側面で摺動するものとがある。これらの斜板式コンプレッサでは、斜板と半球シューの摺動面に毎秒20m以上の大きな相対速度の滑りが発生して、半球シューは非常に過酷な環境で使用される。このため、斜板と半球シューとの摺動面において、焼付きなどの問題が発生しやすい。
従来、斜板と半球シューとの摺動面の焼付きを防止する手段として、斜板または半球シューの少なくともいずれかの摺動面に潤滑性被膜を形成することが提案されている(特許文献1〜3参照)。
また、斜板の潤滑被膜に複数の同心状の周方向の溝を有し、かつ隣接する溝間に山部を形成させて、膜摺動表面における油の保持性を高めることが提案されている(特許文献4参照)。その他、半球シューとピストンとの摺動面の焼付きを防止する手段として、ピストンの半球シューとの摺動面に潤滑性被膜を形成することが提案されている(特許文献5、6参照)
特開2002−180964号公報 特開2003−049766号公報 特開2002−039062号公報 国際公開2002/075172号 特開平08−247026号公報 特開2014−034929号公報
上記のように、従来技術では、半球シューとの潤滑特性向上のために、半球シューとの摺動面に潤滑性被膜を形成する方法が提案されてきた。中でも、斜板やピストンに潤滑性被膜を形成させ、半球シューには潤滑性被膜を形成させない組み合わせがほとんどである。この理由は、斜板やピストンに比べて半球シューの摺動面積が小さく、潤滑性被膜の形成において困難性が高いこと、および、斜板とピストンとの両方と摺動されるため、摩擦熱によって潤滑性被膜の耐久性が十分に得られないことが推測される。例えば、従来技術のように、斜板およびピストンとの摺動のため半球シューの表面全体を潤滑性樹脂被膜で覆った場合、摩擦熱の放熱性が低下するとともに半球シュー基材の温度上昇が発生し、潤滑性樹脂被膜の溶解が起こり得る。
さらに、潤滑については、潤滑油は冷媒に溶け込みながら薄められハウジング内を循環し、ミスト状となって摺動部に供給される。しかし、運転休止状態から運転を再開した場合において、液化した冷媒により潤滑油が洗い流されてしまい、運転開始時の半球シューと斜板との摺動面およびピストンとの摺動面は、潤滑油のないドライ状態となり、焼付きが発生しやすいという問題がある。
本発明はこれらの問題に対処するためになされたものであり、運転開始時の潤滑油のないドライ状態においても、半球シューと斜板との間および半球シューとピストンとの間でそれぞれ焼付きが発生しない斜板式コンプレッサを提供することを目的とする。
本発明の斜板式コンプレッサは、冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角および斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して上記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサであって、上記半球シューは、上記斜板および上記ピストンとの摺動面に樹脂層を有し、上記斜板および上記ピストンは金属からなり、それぞれの上記半球シューとの摺動面において地金が露出していることを特徴とする。
上記斜板および上記ピストンにおいて、それぞれの上記半球シューとの上記摺動面が機械加工面であることを特徴とする。また、上記機械加工面の表面粗さRaが0.3μm〜1.7μmであることを特徴とする。なお、本発明に用いられる表面粗さRaは、JIS B 0601で定められている算術平均粗さ(μm)である。
上記半球シューが硬質部材を基材とし、上記斜板と摺動する平面部の表面および上記ピストンと摺動する球面部の表面に上記樹脂層を有することを特徴とする。また、上記半球シューの上記基材が、中心軸部分に球面部側と平面部側とを貫通する中空部を有し、該中空部の少なくとも一部が上記樹脂層で覆われずに露出していることを特徴とする。また、上記半球シューが、上記球面部側の外表面に上記ピストンとの非接触部を有し、該非接触部において、上記基材が上記樹脂層で覆われずに露出していることを特徴とする。
本発明の斜板式コンプレッサは、半球シューの斜板との摺動面、および半球シューのピストンとの摺動面に樹脂層を有し、斜板およびピストンは金属製部材であり、それぞれの半球シューとの摺動面において地金が露出している。地金が露出している金属は、潤滑油に対する濡れ性が高くなるため、摺動面の油保持性が高くなる。また、半球シュー表面の樹脂層とあいまって潤滑効果が高くなる。そのため、斜板式コンプレッサの運転による半球シューと斜板との摺動、および半球シューとピストンとの摺動において焼付きが発生することを防止できる。
また、斜板およびピストンにおけるそれぞれの半球シューとの摺動面が機械加工面であるので、微細な凹凸が斜板およびピストンの摺動面に形成される。これにより、摺動面において潤滑油に対する濡れ性がさらに高くなる。また、潤滑油が液化冷媒によってすべて流されることなく機械加工面の上記凹凸に残留するため、運転開始時の斜板と半球シューとの摺動およびピストンと半球シューとの摺動は、潤滑油による境界潤滑環境を保つことができ、焼付きを抑え、低摩擦特性を維持できる。
また、上記半球シューは硬質部材を基材とし、斜板と摺動する平面部の表面およびピストンと摺動する球面部の表面に樹脂層を有するので、高面圧状態でも硬質部材からなる基材が荷重を受け止め、半球シューの割れ、潰れ、変形などを防止できる。
本発明の斜板式コンプレッサは、潤滑油枯渇雰囲気でも焼付きの発生を抑えるよう設計されている。そのため、従来の、斜板に潤滑性樹脂被膜を必要とするコンプレッサおよびピストンに潤滑性被膜を必要とするコンプレッサよりも高い面圧環境、高速環境でも使用可能である。これにより、コンプレッサの小型化による冷媒ガス吐出量の増加、斜板回転数の増加に対しても、優れた耐久性を有する。この結果、本発明の斜板式コンプレッサは、高面圧(例えば、8MPaをこえる)仕様にも使用可能であるため、炭酸ガスあるいはHFC1234yfを冷媒に用いたものに好適である。
本発明の斜板式コンプレッサは、斜板に潤滑性樹脂被膜を必要としない。そのため、同部位に潤滑性樹脂被膜を必要とする従来の斜板式コンプレッサと比較して安価に製造できる。また、本発明の斜板式コンプレッサは、ピストンの半球シュー摺動面にめっきなどの潤滑性被膜を必要としない。そのため、同部位に潤滑性被膜を必要とする従来の斜板式コンプレッサと比較して安価に製造できる。
本発明の斜板式コンプレッサを示す縦断面図である。 図1における一部拡大図である。 図1の半球シューを拡大して示す縦断面図および平面図である。 表面粗さが摩擦・摩耗特性に与える影響を示す図である。
本発明の斜板式コンプレッサの一実施例を図面に基づき説明する。図1は、本発明の斜板式コンプレッサの一例を示す縦断面図である。また、図2は、図1における半球シュー周囲の一部拡大図である。図1に示す斜板式コンプレッサは、炭酸ガスを冷媒に用いるものであり、しかも、両斜板タイプのものである。この斜板式コンプレッサは、冷媒が存在するハウジング1内で、回転軸2に直接固定するように斜めに取り付けた斜板3の回転運動を、斜板3の両側面で摺動する半球シュー4を介して両頭形ピストン9の往復運動に変換する。そして、ハウジング1の周方向に等間隔で形成されたシリンダボア10内の各ピストン9の両側で、冷媒を圧縮、膨張させる。高速で回転駆動される回転軸2は、ラジアル方向を針状ころ軸受11で支持され、スラスト方向をスラスト針状ころ軸受12で支持されている。この構成において、斜板3は、連結部材を介して間接的に回転軸2に固定される態様でもよい。また、斜めではなく直角に取り付けられる態様であってもよい。
図2に示すように、各ピストン9には斜板3の外周部を跨ぐように凹部9aが形成され、この凹部9aの軸方向対向面に形成された球面座13に、半球シュー4が着座されており、ピストン9を斜板3の回転に対して相対移動自在に支持する。これによって、斜板3の回転運動からピストン9の往復運動への変換が円滑に行われる。半球シュー4は、球面部がピストン9(球面座13)と摺動し、平面部が斜板3と摺動する。
ここで、本発明の斜板式コンプレッサでは、その斜板3およびピストン9が金属から形成された金属製部材であり、斜板3およびピストン9のそれぞれについて、半球シュー4との摺動面における基材金属の地金が露出している。換言すると、斜板3およびピストン9のそれぞれにおける半球シュー4との摺動面(基材表面)に、樹脂層や、潤滑被膜、めっき被膜などの被膜が形成されていない。なお、半球シュー4の摺動面には、後述するように樹脂層が形成されている。
斜板3およびピストン9の半球シューとの摺動面は常に潤滑油に晒されているわけではなく、例えば、運転開始時は潤滑油のないドライ状態であり、または液化冷媒によって潤滑油が洗い流されるような油枯渇環境が発生し得る。ドライ状態および油枯渇状態では動摩擦係数を低く保つことが困難であり、焼付きが発生しやすい。そのため、斜板3およびピストン9の半球シュー4との摺動面に意図的に加工目を付与し、適度な表面粗さとすることで、潤滑油の保持性を向上させ得る。この結果、潤滑油の希薄な環境でも耐焼付き性を向上させて、低摩擦性にも優れるものとなる。
特に、斜板3の半球シュー摺動面は平面であるため、加工目や表面粗さ調整をすることが比較的容易である。斜板3の半球シュー摺動面は、平面研磨、両頭研磨、円筒研磨、旋削およびフライス加工などの機械加工を施すことで、それぞれ特徴的な加工面および表面粗さを付与できる。また、仕上げ前のプレス加工時に、予め凹凸を付与しておき、仕上げ加工後にも適度に凹凸を残すことでも油保持効果を有する。
加工面の表面粗さRaは0.3μm〜1.7μm程度が適切である。表面粗さRaが0.3μmよりも低い値であると、鏡面仕上げに近い状態となり、凹凸が微小で潤滑油が残存するための凹部が小さく、潤滑油が十分に保持されないおそれがある。一方、表面粗さRaが1.7μmをこえる値であると、潤滑油は凹部に保持されるものの、凸部と半球シューを攻撃するアブレシブ摩耗の影響が大きくなり、潤滑油保持による焼付改善および摩擦改善効果が得られず、逆に摩耗が促進されるおそれがある。そのため、適切な微小凹凸を有する表面仕上げとすることで焼付き改善および摩擦特性改善の効果を付与できる。
ピストン9と半球シュー4の着座においては互いに球面であることから、全面均一当たりにすることは現実的に困難であり、線当たりに近い状態となる。そのため、想定より高面圧となる場合が多く、潤滑油が排出されやすくなる。斜板3の表面と同様に、加工面の表面粗さRaが0.3μm〜1.7μm程度であれば、冷媒により洗い流された後でも比較的安定して潤滑油を保持できる。
斜板3およびピストン9は、上述のとおり金属製部材であり、例えば、プレス加工、機械加工、ダイカストなどにより製造された溶製金属製の部材である。溶製金属の種類として、斜板については、自動車構造用熱間圧延鋼板、軸受鋼(SUJ1〜5など)、クロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼、軟鋼、ステンレス鋼、もしくは高速度鋼などの鋼や、銅、銅合金が挙げられる。また、ピストンについては、アルミニウム、アルミニウム合金が挙げられる。
本発明の斜板式コンプレッサに用いる半球シューの構造を図3に基づき詳細に説明する。図3の上図は半球シューの一例を示す縦断面図であり、図3の下図はその平面図である。図3に示すように、半球シュー4は、球体の一部を構成する球面部4aと、球面部4aの反対側において該球体を略平面でカットした形態の平面部4bと、球面部4aと平面部4bとを繋ぐ外周部4cとからなる略半球状の構造を有する。また、半球シュー4は、平面形状が円形状であり、外周部4cの表面(樹脂層6cの表面)は円筒外周面となる。半球シュー4の全体形状は、円柱体の一方の底面を半球の一部を構成する凸形状とした形状である。なお、半球シュー4の全体形状は、これに限定されるものではなく、斜板と摺動する平面部とピストンと摺動する球面部とを有していればよく、上記外周部(円筒部)を有さない形状としてもよい。
半球シュー4は、硬質部材を基材5とし、斜板と摺動する平面部4bの表面およびピストンと摺動する球面部4aの表面に樹脂層6が形成されている。樹脂層6のうち、球面部4aの表面に形成されるものが樹脂層6aであり、平面部4bの表面に形成されるものが樹脂層6bであり、外周部4cに形成されるものが樹脂層6cである。ここで、平面部4bの樹脂層6bと球面部4aの樹脂層6aとは、外周部4cの樹脂層6cを介して連続した樹脂層であり、基材5の表面を覆うように一体に形成されている。なお、外周部4cの全てを樹脂層6cで覆う必要はなく、外周部の一部を樹脂層で覆わずに露出した構造としてもよい。
半球シューの直径10mm程度の場合において、基材5の外側を覆う樹脂層の厚みは0.1〜0.7mmの薄肉であり、基材5の形状は半球シュー4の全体形状に沿った形状である。樹脂層を上記範囲のような薄肉とすることで、摩擦熱が摩擦摺動面から基材側に逃げ易く、蓄熱し難いので、好ましい。
半球シューは、金属製などの基材において、ピストンおよび斜板の両部材との直接の摺動面に上記の樹脂層を形成しつつ、それ以外の箇所に樹脂層で覆われていない露出部を有することが好ましい。この場合、斜板およびピストンとの摺動による摩擦熱が発生しても、基材を伝わって該露出部から熱を逃がすことができ、樹脂層の溶解などが起こらず、耐摩耗性や耐焼付き性に優れる。基材の露出部の位置や形態は、ピストンおよび斜板の両部材との直接の摺動面以外であれば特に限定されない。加工性や放熱性に優れることから、中心軸部分に(1)球面部側もしくは平面部側から凹部となる中空部、または、(2)球面部側と平面部側とを貫通する中空部が形成され、該中空部の少なくとも一部が樹脂層で充填されずに露出している形態が好ましい。
図3に示す形態では、基材5には、その円形中央の中心軸部分に球面部4a側と平面部4b側とを貫通する円筒空間状の中空部7が形成されている。中空部7は、平面部4b側から所定の軸方向深さまで樹脂層6dが充填され、それ以外の部分(露出部分)では、樹脂に覆われず、該中空部を構成する基材表面が露出した状態となっている。中空部7に露出部分を有することで、摩擦熱が該部分から外部に放熱される。また、この露出部分が潤滑油を保持するオイルポケットとしての機能も有する。
中空部7の露出部分の軸方向長さは、半球シューの高さの3分の1以上であることが好ましい。該範囲とすることで、放熱部の面積を大きくでき、放熱性に優れる。また、中空部7の直径としては、半球シュー4の直径に対して1/6〜1/3の範囲内とすることが好ましい。該範囲内とすることで、放熱性を確保しながら、基材の強度低下を防止できる。
また、図3に示す形態の半球シュー4は、球面部4a側の外表面にピストンとの非接触部8を有し、非接触部8において基材5が樹脂層6で覆われずに露出している。非接触部8は、球面部4aの一部を平面部4bと平行な面で切った形状の部位であり、ピストンとは摺動接触しない部位である(図2参照)。球面部4a側の外表面にこのような非接触部かつ基材の露出部を設けることで、球面部で発生した摩擦熱を該露出部分から放熱しやすくなる。
半球シューの樹脂層を形成する合成樹脂(ベース樹脂)としては、半球シューに要求される潤滑特性および耐熱性を確保できるものであれば特に限定されず、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。これらの各合成樹脂は単独で使用してもよく、2種類以上混合したポリマーアロイであってもよい。これらの中でも、耐熱性、耐摩耗性に優れたPAI樹脂、PEEK樹脂、PI樹脂が好ましく、さらに疲労特性および射出成形時の流動性に優れるPEEK樹脂が特に好ましい。これらの合成樹脂には、耐摩耗性を向上させる目的で、炭素繊維、ガラス繊維、マイカ、タルクなどを配合してもよい。また、低摩擦化、油枯渇時の焼付き性向上させる目的で、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、黒鉛、二硫化モリブデンなどを配合してもよい。
樹脂層の形成方法としては、射出成形、スプレーコーティング、パウダーコーティングなどを採用できる。これらの中でも、安価で緻密な樹脂層が形成できることから、射出成形が好ましい。射出成形は、樹脂組成物に溶融状態で圧力を加えるため、樹脂層が緻密に形成され、耐荷重性や耐摩耗性が高くなる。射出成形方法としては、例えば、半球シューの基材を金型内にセットし、その上から合成樹脂を射出成形(インサート成形)する方法が採用できる。また、射出成形で樹脂層を形成する場合、射出成形で所望の寸法に一発成形する他、射出成形後に所望の寸法に機械加工してもよい。
半球シューの硬質部材の材質としては、機械的強度や熱伝導性に優れた硬質材料であれば特に限定されず、例えば、鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金などの金属や、セラミックス等が挙げられる。特に金属製部材とすることが好ましい。硬質部材に金属を採用する場合は、プレス加工、機械加工、ダイカストなどにより製造された溶製金属製や焼結金属製が採用できる。溶製金属としては、上記斜板材料と同様のものが挙げられる。
半球シュー基材の金属材料として溶製金属を用いる場合、樹脂層との密着性を高めるために、樹脂層の形成前に基材表面をショットブラスト、機械加工などの物理的表面処理により、凹凸形状に荒らすことが好ましい。また、酸性溶液処理(硫酸、硝酸、塩酸など、もしくは他の溶液との混合)、アルカリ性溶液処理(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど、もしくは他の溶液との混合)などの化学的表面処理を施し、基材の少なくとも樹脂層形成表面に微細凹凸形状を形成することが好ましい。酸性溶液処理であるとマスキングを不要にできるため好ましい。微細凹凸形状は、濃度、処理時間、後処理などによって異なるが、アンカー効果による密着性を高めるためには、凹ピッチが数nm〜数十μmの微細な凹凸にすることが好ましい。化学的表面処理により形成された微細凹凸形状は、多孔質のような複雑な立体構造となっているため、アンカー効果を発揮しやすく、特に強固な密着が可能となる。
半球シュー基材の金属材料として焼結金属を用いる場合、樹脂層形成面の表面積が大きく、凹凸によるアンカー効果も高いので、樹脂層との密着強さを高くできる。特に樹脂層をインサート成形にて形成することで、射出成形時に樹脂層が焼結金属表面の凹凸に深く食い込み、真の接合面積が増大するため、樹脂層と基材の密着強さが向上する。さらに、樹脂層と基材の真の接合面積が増え、樹脂層と基材との間に隙間がないため、樹脂層の熱が基材へ伝わり易くなる。
また、焼結金属の密度は、材質の理論密度比0.7〜0.9とすることが好ましい。この範囲内にすることで、密着性を得るための表面の凹凸を確保すると同時に、高い緻密性を有し、基材の熱伝導性を十分に確保できる。また、樹脂層と基材の接合部の接合強度に優れるため、高面圧などの厳しい条件で使用される場合でも、樹脂層が基材から剥離することを防止できる。
本発明の斜板式コンプレッサは、(1)上述した金属製部材などの表面に樹脂層を形成した半球シューと、(2)金属製部材からなり、その摺動面に潤滑性被膜などが形成されておらず、地金が露出している斜板およびピストンとの、組み合わせに特徴を有する。
上述の半球シューと潤滑性被膜なしの斜板との組み合わせは、従来の金属製半球シューと潤滑性被膜ありの斜板との組み合わせと比較して、耐久性能が優れている。また、潤滑性被膜なしの斜板の表面粗さおよび表面形状を適切設計することで、優位性はより顕著となる。
また、上述の半球シューと潤滑性被膜なしのピストンとの組み合わせは、従来の金属製半球シューとめっき処理被膜ありのピストンとの組み合わせと比較して、耐久性能が優れている。この場合も、潤滑性被膜なしの斜板の表面粗さおよび表面形状を適切設計することで、優位性はより顕著となる。
実施例1〜実施例8
焼結金属製基材の表面に、PEEK樹脂をベースとし、充填剤としてPTFE樹脂を10体積%、炭素繊維を10体積%配合した樹脂材料を用いて、厚さ0.4mmの樹脂被膜を形成し、試験片となる半球シューを製造した。この試験片を3個用いてスラスト型摩擦摩耗試験機に120°等配でセットし、相手材である材質SAPH440の斜板の加工目および表面粗さ(Ra)を表1のようにそれぞれ変更し、油枯渇環境で半球シューを摺動させる試験を実施した。
試験片と相手材を接触させた後、PAG油を一度試験片周辺に満たし、その後PAG油を排出し、試験開始時には試験片表面および相手材表面にPAG油が付着している状態で表2の条件にて摩擦摩耗試験を行ない、斜板と摺動する半球シュー樹脂層の摩耗量[μm]と動摩擦係数の測定値を得た。摩耗特性として摩耗量[μm]を、摩擦特性として動摩擦係数を、それぞれ表3のように点数付けした。この試験結果を図4に示した。
斜板の表面粗さRaが0.3μm〜1.7μmである場合、合計得点7以上であり、樹脂の摩耗量は比較的軽微に抑制でき、かつ低摩擦特性が得られた。
表面粗さRaが0.3μmよりも低い場合、樹脂の摩耗量は比較的大きくなり、かつ動摩擦係数も値が大きくなった。これは、斜板表面が鏡面に近づくことで斜板表面に保持される潤滑油が欠乏し、ドライ環境に近づくためと考える。
表面粗さRaが1.7μmをこえる場合、樹脂の摩耗量および動摩擦係数はともに増大した。これは、潤滑油は十分に保持されるものの、斜板表面の凸が高くなることで、斜板表面凸部が樹脂面を攻撃するアブレシブ摩耗形態になるためと推測する。
本発明の斜板式コンプレッサは、運転開始時の潤滑油のないドライ状態においても、半球シューと斜板との間および半球シューとピストンとの間でそれぞれ焼付きが発生しないので、種々の斜板式コンプレッサに利用できる。特に、炭酸ガスやHFC1234yfを冷媒とし、高速高負荷仕様である近年の斜板式コンプレッサに好適に利用できる。
1 ハウジング
2 回転軸
3 斜板
4 半球シュー
5 半球シューの基材(硬質部材)
6 樹脂層
7 中空部
8 非接触部
9 ピストン
10 シリンダボア
11 針状ころ軸受
12 スラスト針状ころ軸受
13 球面座

Claims (7)

  1. 冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角および斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して前記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサであって、
    前記半球シューは、前記斜板および前記ピストンとの摺動面に樹脂層を有し、
    前記斜板および前記ピストンは金属からなり、それぞれの前記半球シューとの摺動面において地金が露出していることを特徴とする斜板式コンプレッサ。
  2. 前記斜板および前記ピストンにおいて、それぞれの前記半球シューとの前記摺動面が機械加工面であることを特徴とする請求項1記載の斜板式コンプレッサ。
  3. 前記機械加工面の表面粗さRaが0.3μm〜1.7μmであることを特徴とする請求項2記載の斜板式コンプレッサ。
  4. 前記半球シューが硬質部材を基材とし、前記斜板と摺動する平面部の表面および前記ピストンと摺動する球面部の表面に前記樹脂層を有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の斜板式コンプレッサ。
  5. 前記半球シューの前記基材が、中心軸部分に球面部側と平面部側とを貫通する中空部を有し、該中空部の少なくとも一部が前記樹脂層で覆われずに露出していることを特徴とする請求項4記載の斜板式コンプレッサ。
  6. 前記半球シューが、前記球面部側の外表面に前記ピストンとの非接触部を有し、該非接触部において、前記基材が前記樹脂層で覆われずに露出していることを特徴とする請求項4記載の斜板式コンプレッサ。
  7. 前記冷媒が、炭酸ガスであることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の斜板式コンプレッサ。
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