JP2017036711A - 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ - Google Patents

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友輔 土井
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Abstract

【課題】摺動面に容易に設けられた潤滑性樹脂層を有する半球シューを提供する。【解決手段】斜板式コンプレッサに用いられる半球シュー4は、硬質部材を基材5とし、斜板と摺動する平面部4bの表面およびピストンと摺動する球面部4aの表面に樹脂層6が設けられ、平面部4bの樹脂層6bと球面部4aの樹脂層6aは、基材5を挟んでそれぞれ別個の成形体からなる。また、基材5の中心軸部分に中空部7が設けられ、平面部4bの樹脂層6bとなる成形体および球面部4aの樹脂層6aとなる成形体の各成形体に設けられた脚部6c、6dが、中空部7に嵌合するとともに、各成形体の外周部同士が弾性嵌合などにより接合されている。【選択図】図2

Description

本発明は、自動車用エアコンなどに用いられる斜板式コンプレッサにおいて、斜板とピストンとの間に介在して斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換するための半球シューに関する。
斜板式コンプレッサは、冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角および斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させている。この半球シューを介して斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させている。斜板式コンプレッサには、両頭形のピストンを用いて冷媒を両側で圧縮、膨張させる両斜板タイプのものと、片頭形のピストンを用いて冷媒を片側のみで圧縮、膨張させる片斜板タイプのものとがある。また、半球シューは斜板の片側面のみで摺動するものと、斜板の両側面で摺動するものとがある。これらの斜板式コンプレッサでは、斜板と半球シューの摺動面に毎秒20m以上の大きな相対速度の滑りが発生して、半球シューは非常に過酷な環境で使用される。
また、潤滑については、潤滑油は冷媒に溶け込みながら薄められハウジング内を循環し、ミスト状となって摺動部に供給される。しかし、運転休止状態から運転を再開した場合において、液化した冷媒により潤滑油が洗い流されてしまい、運転開始時の斜板と半球シューとの摺動面は、潤滑油のないドライ状態となり、焼付きが発生しやすいという問題がある。
この焼付きを防止する手段としては、例えば、斜板および半球シューの少なくとも摺動面にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂被膜を静電粉体塗装法により直接形成したもの(特許文献1参照)、固体潤滑剤を含有する熱可塑性ポリイミド被膜を静電粉体塗装法により形成したもの(特許文献2参照)が提案されている。
また、高速・高温条件において高い摺動性を確保するため、斜板、半球シューおよびピストンの少なくとも一の摺接部位にPEEK樹脂からなるバインダと、該バインダ中に分散された固体潤滑剤とからなる摺動層を形成したもの(特許文献3参照)が提案されている。
特開2002−180964号公報 特開2003−049766号公報 特開2002−039062号公報
従来技術では、斜板と半球シューの潤滑特性の向上のために、上記したとおり、斜板や半球シューの摺動面を潤滑性被膜で形成する方法が提案されてきたが、現実には斜板への潤滑性被膜の形成はあっても、半球シューへの潤滑性被膜の形成は皆無であった。
この理由は、斜板に比べて半球シューは非常に小さく、斜板と摺動する平面部やピストンと摺動する球面部への潤滑性被膜(潤滑性樹脂層)の形成において困難性が高いためであると考えられる。これは、例えば、特許文献1〜3のいずれも、半球シューへの潤滑性被膜の形成の具体的な記載がないことから容易に推測される。また、半球シューは斜板との摺動面積が小さいうえに、ピストンの球面座との摺動も受けるため、摩擦熱によって潤滑性被膜の耐久性が十分に得られていないということが推測される。また、半球シューの摺動面は面圧が高いために、潤滑性被膜には強度的にも高いレベルが要求される。
また、潤滑性被膜を有する斜板は、摺動面の平面度、平行度、厚さ精度の加工精度が厳しいだけでなく、高価な材料からなる潤滑性被膜の被膜面積が大きいため低価格化できないという問題がある。
本発明はこれらの問題に対処するためになされたものであり、摺動面に容易に設けられた潤滑性樹脂層を有する半球シューを提供することを目的とする。また、運転開始時の潤滑油のないドライ状態においても、焼付きが発生せず、摩擦発熱による潤滑特性の低下や樹脂層の剥離がなく耐久性が十分に確保された半球シューを提供することを目的とする。さらに、この半球シューを使用した斜板式コンプレッサを提供することを目的とする。
本発明の斜板式コンプレッサの半球シューは、冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角および斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して上記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサの半球シューであって、上記半球シューは、硬質部材を基材とし、上記斜板と摺動する平面部の表面および上記ピストンと摺動する球面部の表面に樹脂層が設けられ、上記平面部の樹脂層と上記球面部の樹脂層は、上記基材を挟んでそれぞれ別個の成形体からなることを特徴とする。
上記平面部の樹脂層と上記球面部の樹脂層は、それぞれ別個の射出成形体であることを特徴とする。
本発明の一形態として、上記基材の中心軸部分に中空部が設けられ、上記平面部の樹脂層となる成形体Aおよび上記球面部の樹脂層となる成形体Bの各成形体に設けられた脚部が上記中空部に嵌合するとともに、上記各成形体の外周部同士が弾性嵌合して、上記成形体Aと上記成形体Bとが上記基材を挟んで一体化されていることを特徴とする。
また、本発明の他形態として、上記基材の中心軸部分に中空部が設けられ、上記平面部の樹脂層となる成形体Aおよび上記球面部の樹脂層となる成形体Bの各成形体に設けられた脚部が上記中空部に嵌合するとともに、上記各成形体の外周部同士が超音波溶着されて、上記成形体Aと上記成形体Bとが上記基材を挟んで一体化されていることを特徴とする。
上記基材において、上記平面部の樹脂層となる成形体Aが設けられる面に、上記成形体Aの上記基材に対する回転を防止するための凹部が形成され、上記球面部の樹脂層となる成形体Bが設けられる面に、上記成形体Bの上記基材に対する回転を防止するための凹部が形成されていることを特徴とする。
本発明の斜板式コンプレッサは、冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角および斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して上記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサであり、上記半球シューが本発明の半球シューであることを特徴とする。
本発明の斜板式コンプレッサの半球シューは、硬質部材を基材とし、斜板と摺動する平面部の表面およびピストンと摺動する球面部の表面に樹脂層が形成され、上記平面部の樹脂層と上記球面部の樹脂層は、基材を挟んでそれぞれ別個の成形体からなる。したがって、半球シューの摺動面に対する樹脂層の形成が容易である。樹脂層を形成する樹脂組成物に、潤滑性に優れ、耐熱性および機械強度の高いエンジニアリングプラスチックを採用することで、運転開始時の潤滑油のないドライ状態においても、焼付きが発生せず、摩擦発熱による潤滑特性の低下や樹脂層の剥離がなく耐久性が十分に確保される。
上記平面部の樹脂層と上記球面部の樹脂層は、それぞれ別個の射出成形体であるので、半球シューに応じた種々の形状やサイズの樹脂層として容易に形成でき、量産性にも優れる。
上記基材の中心軸部分に中空部が設けられ、平面部の成形体および球面部の成形体の各成形体に設けられた脚部が該中空部に嵌合するとともに、各成形体の外周部同士が弾性嵌合し、平面部の成形体と球面部の成形体とが基材を挟んで一体化される場合、基材と樹脂層の密着性に優れる。また、基材と樹脂層の一体化が容易である。
上記基材の中心軸部分に中空部が設けられ、平面部の成形体および球面部の成形体の各成形体に設けられた脚部が該中空部に嵌合するとともに、各成形体の外周部同士が超音波溶着され、平面部の成形体と球面部の成形体とが基材を挟んで一体化される場合、基材と樹脂層の密着性に優れる。また、樹脂層を構成する各成形体同士を強固に結合できる。
上記基材において各成形体が設けられる面に、その成形体の基材に対する回転を防止するための凹部が形成されているので、基材に対する樹脂層の相対的な回転を防止できる。
本発明の斜板式コンプレッサは、上述した半球シューを備えたものであるので、半球シューと摺動する斜板およびピストンにおいては、潤滑性被膜を除くことができる。これにより、機能面で同等であるにも拘らず、低価格の斜板式コンプレッサを提供できる。
本発明の斜板式コンプレッサの一例を示す断面図である。 図1の半球シューを拡大して示す縦断面図である。 半球シューの他の例を示す縦断面図である。 成形体の回転防止用の凹部を設けた基材の一例を示す正面図および平面図である。 成形体の回転防止用の凹部を設けた基材の他の例を示す正面図および平面図である。
本発明の斜板式コンプレッサの一実施例を図面に基づき説明する。図1は、本発明の斜板式コンプレッサの一例を示す縦断面図である。図1に示す斜板式コンプレッサは、炭酸ガスを冷媒に用いるものであり、両斜板タイプのものである。この斜板式コンプレッサは、冷媒が存在するハウジング1内で、回転軸2に直接固定するように斜めに取り付けた斜板3の回転運動を、斜板3の両側面で摺動する半球シュー4を介して両頭形ピストン9の往復運動に変換する。そして、ハウジング1の周方向に等間隔で形成されたシリンダボア10内の各ピストン9の両側で、冷媒を圧縮、膨張させる。高速で回転駆動される回転軸2は、ラジアル方向を針状ころ軸受11で支持され、スラスト方向をスラスト針状ころ軸受12で支持されている。この構成において、斜板3は、連結部材を介して間接的に回転軸2に固定される態様でもよい。また、斜めではなく直角に取り付けられる態様であってもよい。
各ピストン9には斜板3の外周部を跨ぐように凹部9aが形成され、この凹部9aの軸方向対向面に形成された球面座13に、半球シュー4が着座されており、ピストン9を斜板3の回転に対して相対移動自在に支持する。これによって、斜板3の回転運動からピストン9の往復運動への変換が円滑に行われる。半球シュー4は、平面部が斜板3と摺動し、球面部がピストン9(球面座13)と摺動する。
本発明の半球シューの構造を図2に基づき詳細に説明する。図2は本発明の半球シューの一例を示す縦断面図である。なお、図2における右図が縦断面図であり、左図がその分解図である。半球シュー4は、球体の一部を構成する球面部4aと、球面部4aの反対側において該球体を略平面でカットした形態の平面部4bと、球面部4aと平面部4bとを繋ぐ外周部4cとを備えた略半球状の構造を有する。半球シュー4は、平面形状が円形状となる。半球シュー4の全体形状は、円柱体の一方の底面を半球の一部を構成する凸形状とした形状である。なお、半球シュー4の全体形状は、これに限定されるものではなく、少なくとも、斜板と摺動する平面部とピストンと摺動する球面部とを有していればよい。
半球シュー4は、金属製などの硬質部材を基材5とし、斜板と摺動する平面部4bの表面およびピストン(球面座)と摺動する球面部4aの表面に樹脂層6が設けられている。樹脂層6は樹脂の成形体であり、該樹脂層のうち、球面部4aの表面に形成されるものが樹脂層6aであり、平面部4bの表面に形成されるものが樹脂層6bである。ここで、左図に示すように、平面部4bの樹脂層6bと、球面部4aの樹脂層6aとは、基材5を挟んでそれぞれ別個の成形体として形成されている。このような構造のため、半球シューに対する樹脂層の形成が容易である。
樹脂層を潤滑性に優れ、耐熱性および機械強度の高いエンジニアリングプラスチックで形成することにより、運転開始時の潤滑油のないドライ状態においても、焼付きが発生せず、摩擦発熱による潤滑特性の低下や樹脂層の剥離がなく耐久性が十分に確保される。樹脂層を形成する合成樹脂(ベース樹脂)としては、半球シューに要求される潤滑特性および耐熱性を確保できるものであれば特に限定されず、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。これらの各合成樹脂は単独で使用してもよく、2種類以上混合したポリマーアロイであってもよい。これらの中でも、耐熱性、耐摩耗性に優れたPAI樹脂、PEEK樹脂、PI樹脂が好ましく、さらに疲労特性および射出成形時の流動性に優れるPEEK樹脂が特に好ましい。これらの合成樹脂には、機械強度や耐摩耗性を向上させる目的で、炭素繊維、ガラス繊維、マイカ、タルクなどを配合してもよい。また、低摩擦化、油枯渇時の焼付き性向上させる目的で、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、黒鉛、二硫化モリブデンなどを配合してもよい。
平面部の樹脂層と球面部の樹脂層は、それぞれ別個の射出成形体とすることで、樹脂層の形成が容易となる。射出成形は、樹脂組成物に溶融状態で圧力を加えるため、樹脂層が緻密に形成され、耐荷重性や耐摩耗性が高くなる。また、平面部の樹脂層と球面部の樹脂層とを別個に成形することで、それぞれを異なった樹脂で成形することができる。例えば、平面部は鉄系材料からなる斜板と摺動するため耐摩耗性の優れた樹脂組成物を採用し、球面部はアルミニウム系材料からなるピストンと摺動するため軟質材への攻撃性の低い樹脂組成物を採用するという材料選定が可能となる。なお、射出成形で樹脂層を形成する場合、射出成形で所望の寸法に一発成形する他、射出成形後に所望の寸法に機械加工してもよい。
図2に示すように、本発明の半球シュー4では、基材5の表面のほぼ全体を覆うように樹脂層6が設けられている。半球シューの直径10mm程度(5〜15mm)の場合において、基材5の外側を覆う樹脂層6の厚みは0.1〜0.7mm程度の薄肉であり、基材5の形状は半球シュー4の全体形状に沿った形状である。このため、基材5は、半球シュー4の球面部4a、平面部4b、外周部4cにそれぞれ対応する、球面部5a、平面部5b、外周部5cを有する。樹脂層を上記範囲のような薄肉とすることで、摩擦熱が摩擦摺動面から基材側に逃げ易く、蓄熱し難いので、好ましい。
図2に示す形態では、基材5は、中心軸部分に中空部7が設けられている。平面部4bの樹脂層6bとなる成形体は、非摺動側の中心軸に棒状の脚部6dを有する。同様に、球面部4aの樹脂層6aとなる成形体は、非摺動側の中心軸に棒状の脚部6cを有する。基材5の中空部7に、これらの脚部6c、6dが圧入される。また、この形態の半球シュー4では、平面部4bの樹脂層6bとなる成形体の外周部と、球面部4aの樹脂層6aとなる成形体の外周部とが弾性嵌合されている。詳細には、一方の成形体の外周部に凹部8aが設けられており、他方の成形体の外周部にはそれに対応する凸部8bが設けられており、一方の成形体の外周部の凹部8aに、他方の成形体の外周部の凸部8bが組み合わされて弾性嵌合されている。図中の8が弾性嵌合部である。弾性嵌合部における凹凸関係は、図2に示す場合と反対であってもよい。これにより、成形体同士がその中心軸部と外周部の両方において基材をサンドイッチ状に保持した状態で強固に固定される。この結果、半球シューの基材を挟んで平面部と球面部の樹脂層が一体化され、基材と樹脂層の密着性が向上する。
本発明の半球シューの他の例を図3に基づき説明する。図3に示す形態の半球シュー4は、平面部4bの樹脂層6bと球面部4aの樹脂層6aとが基材5を挟んでそれぞれ別個の成形体から形成されており、各成形体の外周部の弾性嵌合部(凹凸部)がないことを除いて、その構成は図2に示す半球シューと同じである。この形態では、平面部4bの樹脂層6bとなる成形体の外周部端面と、球面部4aの樹脂層6aとなる成形体の外周部端面とが超音波溶着により結着されている。詳細には、まず、平面部4bの樹脂層6bとなる成形体の棒状の脚部6dと、球面部4aの樹脂層6aとなる成形体の棒状の脚部6cとを基材5の中空部7に圧入する。そして、棒状脚部6c、6dの先端同士を超音波溶着で結着させるとともに、平面部4bの樹脂層6bとなる成形体の外周部端面と、球面部4aの樹脂層6aとなる成形体の外周部端面とを超音波溶着で結着させる。図中の14が超音波溶着部である。これにより、成形体同士がその中心軸部と外周部の両方において基材をサンドイッチ状に保持した状態で強固に結着されて固定され、基材と樹脂層の密着性が向上する。
図2と図3のいずれの場合においても、平面部4bの樹脂層6bとなる成形体と、球面部4aの樹脂層6aとなる成形体との接合箇所が、半球シューの外周部4cに位置している。外周部4cは、球面部や平面部と異なり、ピストンや斜板と摺接しない部位である。このため、当該箇所において、弾性嵌合や超音波溶着により両部材を接合することで、接合部が摺接面に位置することにより摺動特性に悪影響を与えるなどの懸念がない。
半球シューは非常に過酷な環境で使用されるため、なんらかの理由で異常発熱などが生じて基材と樹脂層の密着性が低下した場合など、基材に対して樹脂層が相対的に回転するおそれがある。これを防止するために、基材において各成形体が設けられる面に、その成形体の基材に対する回転を防止するための凹部を形成することが好ましい。
このような凹部の一形態として放射状に形成された溝を図4に基づき説明する。図4(a)は基材の正面図であり、図4(b)は基材の底面図(平面部側からみた図)である。図4(a)および図4(b)に示すように、基材5の表面には基材中心軸から放射状に凹部である溝15が形成されている。溝15は、平面部5bおよび球面部5aの両方の基材表面に形成されている。平面部5bにおける放射状の溝15は、中心軸に対して等角度(90度)毎に4本配置されており、4本ともに同一形状である。同様に、球面部5aにおける放射状の溝15も、基材の中心軸から放射状に等配分で4本配置されている。
凹部の他形態として軸方向に形成された溝を図5に基づき説明する。図5(a)は基材の正面図であり、図5(b)は基材の底面図(平面部側からみた図)である。図5(a)および図5(b)に示すように、基材5の外径面(外周部5cの表面)に軸方向の溝16が形成されている。軸方向の溝16は、基材中心軸に対して等角度(90度)毎に4本配置されており、4本ともに同一形状である。
平面部の樹脂層(成形体)と球面部の樹脂層(成形体)は、これら溝に対応する凸部を基材との接触面に有しており、この樹脂層の凸部と、基材の凹部である溝とが嵌合する。これにより、基材に対する樹脂層の相対的な回転を防止できる。樹脂層(成形体)の凸部は、凹部である溝と相補的な形状であり、各成形体の射出成形時などにおいて容易に形成できる。
放射状の溝を形成する場合、基材への形成が容易であり、かつ、樹脂層に薄肉部分ができないため、樹脂層の強度低下を防ぎ、該樹脂層の割れなどを防止できる。軸方向の溝を形成する場合、回転防止と同時に基材に対する成形体の組み込み性が向上する。
また、軸方向の溝を設ける形態において、該溝部分に上述の弾性嵌合部を配置する構成とすることが好ましい(図2参照)。この溝部分に、上述の弾性嵌合部を配置することで、弾性嵌合する凹部と凸部の肉厚を厚くでき、弾性嵌合部の割れなどを防止でき、強固な接合が可能となる。
溝は基材の各表面(15については球面部5aの表面、平面部5bの表面のそれぞれ、16については外周部5cの表面)に2〜8本形成することが好ましい。等配分された放射状の溝が1本であると基材の重心位置が中心軸からずれるため、半球シューの動きに何らかの悪影響が生じるおそれがある。また、9本以上であると基材表面に対して溝をはっきりと形成することが難しくなる。
溝の深さは、最も深い部分が0.2〜1.3mmであることが好ましい。基材の溝の深さを0.2〜1.3mmにすることで、確実に基材に対して樹脂層のずれによる相対的な回転を防止できる。0.2mmより浅いと溝に対応する樹脂層の凸部が溝を乗り越えるおそれがある。また、1.3mmより深いと、対応する樹脂層の凸部を形成する際に、その凸部裏側の樹脂層表面に射出成形のヒケが生じるなどのおそれがある。なお、放射状の溝については、摺動面である球面部と平面部の樹脂層に対応する位置に形成するため、深すぎる場合の上記悪影響を極力避けるため、その深さは0.2〜1.0mmであることがより好ましい。
溝の基材表面とのエッジ部は、シャープエッジにすることが好ましい。すなわち、溝の基材表面とのエッジ部に面取りを設けないことが好ましい。溝のエッジ部に面取りを設けると、溝に対応する樹脂層の凸部が溝を乗り越え易くなる。
本発明の半球シューは、硬質材料からなる半球シューの基材に対して、平面部の樹脂層となる成形体と、球面部の樹脂層となる成形体とを用意し、平面部の成形体と、球面部の成形体とによって半球シューの基材をサンドイッチ状に挟み込んでパチンと嵌合(スナップフィット)させることで製造可能となる。
本発明の半球シューの基材となる硬質部材の材質としては、金属、セラミックス、硬質な合成樹脂などが挙げられる。硬質部材に金属を採用する場合は、プレス加工、機械加工、ダイカストなどにより製造された溶製金属製や焼結金属製が採用できる。特に、生産性、強度、コストなどのバランスが良いことから、基材を焼結金属製の金属焼結体とすることが好ましい。溶製金属としては、例えば、軸受鋼(SUJ1〜5など)、クロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼、軟鋼、ステンレス鋼、もしくは高速度鋼などの鋼や、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金が挙げられる。焼結金属としては、例えば、鉄系、銅鉄系、銅系、ステンレス系などが挙げられる。また、基材を焼結金属とする場合の密度は、材質の理論密度比0.7〜0.9とすることが好ましく、この範囲内にすることで、高い緻密性を有し、基材の熱伝導性を十分に確保できる。
斜板またはピストンとの摺動面となる樹脂層の表面は、樹脂層の成形後、またはこれを基材に固定した後に、研磨加工してもよい。研磨加工により、個々の高さ寸法にばらつきがなくなり精度が向上する。また、樹脂層の該表面の表面粗さRaは、0.05μm〜1.0μm(JIS B0601)に調整することが好ましい。この範囲内にすることで、斜板またはピストンと摺動する樹脂層摺動面における真実接触面積が大きくなり、実面圧を下げることができ、焼き付きを防止できる。表面粗さRaが、0.05μm未満では摺動面への潤滑油の供給が不足し、1.0μmをこえると摺動面での真実接触面積の低下により、局部的に高面圧となり、焼き付くおそれがある。さらに好ましくは、表面粗さRaが、0.1μm〜0.5μmである。
斜板またはピストンとの摺動面となる樹脂層の表面には、希薄潤滑時における潤滑作用を補うため、上述の中空部以外にオイルポケットや動圧溝を形成してもよい。オイルポケットの形態としては、斑点状または筋状の凹部が挙げられる。斑点状または筋状としては、平行な直線状、格子状、渦巻状、放射状または環状などが挙げられる。オイルポケットの深さは、樹脂層の厚み未満で適宜決定できる。
本発明の半球シューが使用される斜板式コンプレッサは、冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角および斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して上記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサである。この斜板式コンプレッサに本発明の半球シュー(樹脂層あり)を使用することによって、半球シューと摺動する斜板およびピストンにおいては、潤滑性被膜を除くことができる。すなわち、斜板などの表面は基材の研磨面のままの状態で斜板式コンプレッサに組み込み半球シューと摺動させることが可能となる。このため、機能面で同等でありながら、低価格の斜板式コンプレッサを提供できる。また、運転開始時の潤滑油のないドライ状態においても、半球シューの摺動面での焼付きが発生せず、摩擦発熱による潤滑特性の低下や樹脂層の剥離がなく耐久性に優れ、安心、長寿命な斜板式コンプレッサとなる。
なお、斜板やピストンの半球シューとの摺動面には、樹脂製などの潤滑性被膜が形成されていてもよいが、潤滑性被膜が無くても十分な摺動特性が発揮できるものである。
本発明の斜板式コンプレッサの半球シューは、摺動面に容易に設けられた樹脂層を有し、運転開始時の潤滑油のないドライ状態においても、焼付きが発生せず、摩擦発熱による潤滑特性の低下や樹脂層の剥離がなく耐久性が十分に確保されるので、種々の斜板式コンプレッサに利用できる。特に、炭酸ガスやHFC1234yfを冷媒とし、高速高負荷仕様(例えば、面圧が8MPaをこえる)である近年の斜板式コンプレッサにも好適に利用できる。
1 ハウジング
2 回転軸
3 斜板
4 半球シュー
5 基材
6 樹脂層
7 中空部
8 弾性嵌合部
9 ピストン
10 シリンダボア
11 針状ころ軸受
12 スラスト針状ころ軸受
13 球面座
14 超音波溶着部
15 放射状の溝
16 軸方向の溝

Claims (6)

  1. 冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角および斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して前記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサの半球シューであって、
    前記半球シューは、硬質部材を基材とし、前記斜板と摺動する平面部の表面および前記ピストンと摺動する球面部の表面に樹脂層が設けられ、
    前記平面部の樹脂層と前記球面部の樹脂層は、前記基材を挟んでそれぞれ別個の成形体からなることを特徴とする斜板式コンプレッサの半球シュー。
  2. 前記平面部の樹脂層と前記球面部の樹脂層は、それぞれ別個の射出成形体であることを特徴とする請求項1記載の斜板式コンプレッサの半球シュー。
  3. 前記基材の中心軸部分に中空部が設けられ、
    前記平面部の樹脂層となる成形体および前記球面部の樹脂層となる成形体の各成形体に設けられた脚部が前記中空部に嵌合するとともに、前記各成形体の外周部同士が弾性嵌合して、前記平面部の樹脂層となる成形体と前記球面部の樹脂層となる成形体とが前記基材を挟んで一体化されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の斜板式コンプレッサの半球シュー。
  4. 前記基材の中心軸部分に中空部が設けられ、
    前記平面部の樹脂層となる成形体および前記球面部の樹脂層となる成形体の各成形体に設けられた脚部が前記中空部に嵌合するとともに、前記各成形体の外周部同士が超音波溶着されて、前記平面部の樹脂層となる成形体と前記球面部の樹脂層となる成形体とが前記基材を挟んで一体化されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の斜板式コンプレッサの半球シュー。
  5. 前記基材において、前記平面部の樹脂層となる成形体が設けられる面に、前記平面部の樹脂層となる成形体の前記基材に対する回転を防止するための凹部が形成され、前記球面部の樹脂層となる成形体が設けられる面に、前記球面部の樹脂層となる成形体の前記基材に対する回転を防止するための凹部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の斜板式コンプレッサの半球シュー。
  6. 冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角および斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して前記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサであって、
    前記半球シューが、請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の半球シューであることを特徴とする斜板式コンプレッサ。
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