JP2019007414A - 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ - Google Patents
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Abstract
【課題】斜板式コンプレッサの小型化に伴う高速回転、高荷重条件下においても耐久性を確保するとともに、運転開始時の潤滑油の希薄なドライ潤滑に近い状態においても焼付きを抑えることができる半球シューを提供する。
【解決手段】斜板式コンプレッサの半球シュー4は、金属製部材を基材5とし、ピストンと摺動する球面部4a表面が基材5自体からなり、斜板と摺動する平面部4b表面が樹脂層6からなり、樹脂層6は、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物から形成され、樹脂組成物は、添加剤としてポリテトラフルオロエチレン樹脂、炭素繊維および高放熱材料を含み、該添加剤は該樹脂組成物全体に対して合計で20〜50体積%含まれている。
【選択図】図2
【解決手段】斜板式コンプレッサの半球シュー4は、金属製部材を基材5とし、ピストンと摺動する球面部4a表面が基材5自体からなり、斜板と摺動する平面部4b表面が樹脂層6からなり、樹脂層6は、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物から形成され、樹脂組成物は、添加剤としてポリテトラフルオロエチレン樹脂、炭素繊維および高放熱材料を含み、該添加剤は該樹脂組成物全体に対して合計で20〜50体積%含まれている。
【選択図】図2
Description
本発明は、自動車用エアコン等に用いられる斜板式コンプレッサにおいて、斜板とピストンとの間に介在して斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換するための、略半球状の半球シューに関する。
斜板式コンプレッサは、冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角または斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させるものである。このような斜板式コンプレッサには、両頭形のピストンを用いて冷媒を両側で圧縮、膨張させる両斜板タイプのものと、片頭形のピストンを用いて冷媒を片側のみで圧縮、膨張させる片斜板タイプのものとがある。また、半球シューは斜板の片側面のみで摺動するものと、斜板の両側面で摺動するものとがある。これらの斜板式コンプレッサでは、斜板と半球シューの摺動面に毎秒20m以上の大きな相対速度の滑りが発生して、半球シューは非常に過酷な環境で使用される。
更に、潤滑については、潤滑油は冷媒に溶け込みながら薄められハウジング内を循環し、ミスト状となって摺動部に供給される。しかし、運転休止状態から運転を再開した場合において、気化した冷媒により潤滑油が洗い流されてしまい、運転開始時の斜板と半球シューとの摺動面は、潤滑油が希薄なドライ潤滑に近い状態となり、焼付きが発生しやすいという問題がある。
この焼付きを防止する手法として、例えば、斜板と摺動する半球シューの平面部表面に芳香族ポリエーテルケトン系樹脂を主成分とする樹脂層を射出成形によって被覆する手法が提案されている(特許文献1参照)。また、半球シューの平面部表面に加え、球面部表面にも芳香族ポリエーテルケトン系樹脂を主成分とする樹脂層を被覆する手法が提案されている(特許文献2参照)。これらの手法では、斜板の半球シューとの摺動面には潤滑性被膜を形成しておらず、半球シューの斜板との摺動面に潤滑性被膜としての樹脂層を形成することで、斜板と半球シューの潤滑特性を向上させ、ひいては焼付き防止を図っている。
一方で、近年、コンプレッサの軽量化、小型化要求が高まり、斜板式コンプレッサにおいても小型化設計が検討されている。冷暖房機能はこれまでの斜板式コンプレッサと同等以上のものが求められ、斜板と半球シューの摺動面には毎秒20mよりも更に高速な環境、かつ高面圧な環境が負荷される機種が検討され始めている。そのため、斜板と半球シューには焼付きが一層抑制された設計が求められている。
この点、例えば特許文献1の半球シューは、斜板と摺動する平面部表面に芳香族ポリエーテルケトン系樹脂を主成分とする樹脂層を有しており、球面部表面は基材自体からなっている。また、特許文献2の半球シューは、斜板と摺動する平面部表面およびピストンと摺動する球面部表面に樹脂層を有しており、該樹脂層は、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂を主成分とし、さらにポリテトラフルオロエチレン樹脂が1〜30体積%、炭素繊維および黒鉛の少なくとも一方が5〜30体積%、含まれている。
しかしながら、従来の半球シューの耐焼付き性については、いまだ改善の余地があり、コンプレッサの小型化設計に伴う高速回転、高荷重条件下における耐久性を確保するため、半球シューの放熱性を更に高め、摺動熱を逃がす構成とすることが望ましい。また、摺動熱を逃がすことができなければ、樹脂層の機械的強度が低下し、樹脂層の座屈やかけ等の樹脂層破損が生じるおそれがある。
本発明はこれらの問題に対処するためになされたものであり、斜板式コンプレッサの小型化に伴う高速回転、高荷重条件下においても耐久性を確保するとともに、運転開始時の潤滑油の希薄なドライ潤滑に近い状態においても焼付きを抑えることができる半球シューを提供することを目的とする。また、この半球シューを使用することにより、斜板の摺動面から潤滑性被膜を除いた斜板式コンプレッサを提供することを目的とする。
本発明の斜板式コンプレッサの半球シューは、冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角または斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して上記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサの半球シューであり、上記半球シューは、金属製部材を基材とし、上記ピストンと摺動する球面部表面が上記基材自体からなり、上記斜板と摺動する平面部表面が樹脂層からなり、上記樹脂層は、芳香族ポリエーテルケトン系(芳香族PEK系)樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物から形成され、上記樹脂組成物は、添加剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、炭素繊維および高放熱材料を含み、該添加剤は該樹脂組成物全体に対して合計で20〜50体積%含まれていることを特徴とする。
上記高放熱材料は、黒鉛、カーボンブラック、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、および窒化アルミニウムからなる群より選ばれることを特徴とする。また、上記高放熱材料は、50W/(m・K)以上の熱伝導率を有する微細粉末であることを特徴とする。
上記添加剤の各成分について、上記PTFE樹脂は、上記樹脂組成物全体に対して5〜25体積%含まれ、上記炭素繊維は、上記樹脂組成物全体に対して5〜25体積%含まれ、上記高放熱材料は、上記樹脂組成物全体に対して3〜15体積%含まれていることを特徴とする。
上記樹脂層の厚みは0.05〜0.7mmであることを特徴とする。
本発明の斜板式コンプレッサは、冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角または斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して上記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させるものであり、上記半球シューが本発明の半球シューであることを特徴とする。
本発明の斜板式コンプレッサの半球シューは、斜板と摺動する平面部表面にのみ樹脂層を有し、当該樹脂層は芳香族PEK系樹脂をベース樹脂とし、さらに添加剤としてPTFE樹脂、炭素繊維および高放熱材料が配合されているので、樹脂層の放熱性が向上し、斜板式コンプレッサの小型化に伴う高速回転、高荷重条件下においても樹脂層が蓄熱することなく耐久性が担保される。これにより、運転開始時の潤滑油の枯渇したドライ潤滑に近い状態においても焼付きを防止でき、また樹脂層が溶融することを防止できる。更に、球面部表面が半球シューの基材自体からなるので、斜板との摺動による摩擦熱が発生しても放熱性に優れ、耐焼き付き性を向上させることができる。
特に、上記添加剤が、樹脂組成物全体に対して合計で20〜50体積%含まれているので、樹脂層に必要な機械物性を損なうことなく、樹脂層に優れた放熱性を付与することができる。これにより、樹脂層の座屈やかけ等の樹脂層破損を抑えることができるとともに、優れた放熱性により樹脂層の溶融や摩耗を防止することができる。
上記添加剤としての高放熱材料が、黒鉛、カーボンブラック、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、および窒化アルミニウムからなる群より選ばれ、該高放熱材料が、50W/(m・K)以上の熱伝導率を有する微細粉末であるので、熱伝導性に優れた微細粉末が樹脂層全体に分散されることで、樹脂層の放熱性をより向上させることができる。
上記平面部の樹脂層の厚みが0.05〜0.7mmと薄肉であるので、摺動熱が樹脂層に蓄積することなく焼付きを防止することができる。また、高荷重条件下に耐え得る厚さを有しているため、樹脂層の座屈を抑制することに効果的である。
本発明の斜板式コンプレッサは、上述した半球シューを備えたものであるので、斜板コンプレッサの小型設計に伴う高速回転、高荷重条件下での運転開始時の潤滑油のないドライ潤滑状態においても、半球シューの摺動面での焼付きが発生せず、摩擦熱による潤滑特性の低下がなく耐久性に優れ、安心、長寿命な斜板式コンプレッサとなる。
本発明の斜板式コンプレッサの一実施例を図面に基づき説明する。図1は、本発明の斜板式コンプレッサの一例を示す縦断面図である。図1に示す斜板式コンプレッサは、炭酸ガスを冷媒に用いるものであり、冷媒が存在するハウジング1内で、回転軸2に直接固定するように斜めに取り付けた斜板3の回転運動を、斜板3の両側面で摺動する半球シュー4を介して両頭形ピストン14の往復運動に変換し、ハウジング1の周方向に等間隔で形成されたシリンダボア10内の各ピストン14の両側で、冷媒を圧縮、膨張させる両斜板タイプのものである。高速で回転駆動される回転軸2は、ラジアル方向を針状ころ軸受11で支持され、スラスト方向をスラスト針状ころ軸受12で支持されている。この構成において、斜板3は、連結部材を介して間接的に回転軸2に固定される態様でもよい。また、斜めではなく直角に取り付けられる態様であってもよい。
各ピストン14には斜板3の外周部を跨ぐように凹部14aが形成され、この凹部14aの軸方向対向面に形成された球面座13に、半球シュー4が着座されており、ピストン14を斜板3の回転に対して相対移動自在に支持する。これによって、斜板3の回転運動からピストン14の往復運動への変換が円滑に行われる。半球シュー4は、球面部がピストン14(球面座13)と摺動し、平面部が斜板3と摺動する。
半球シューの構造を図2に基づき詳細に説明する。図2(a)は本発明の半球シューの一例を示す縦断面図であり、図2(b)は半球シューの一例を示す樹脂層側からみた平面図である。図2(a)に示すように、半球シュー4は、球体の一部を構成する球面部4aと、球面部4aの反対側において該球体を略平面でカットした形態の平面部4bと、球面部4aと平面部4bとを繋ぐ外周部4cとからなる略半球状の構造を有する。また、半球シュー4は、平面形状が円形状であり、外周部4cの表面は円筒外周面となる。半球シュー4の全体形状は、円柱体の一方の底面を半球の一部を構成する凸形状とした形状である。なお、半球シュー4の全体形状は、これに限定されるものではなく、斜板と摺動する平面部とピストンと摺動する球面部とを有していればよく、上記外周部(円筒部)を有さない形状としてもよい。
半球シュー4は、金属製部材を基材5とする。基材5の形状は、半球シュー4の全体形状と略同一形状であり、半球シュー4の球面部4a、平面部4b、外周部4cにそれぞれ対応する、球面部5a、平面部5b、外周部5cを有する。基材5において、平面部5bの表面に樹脂層6が形成されている。一方、樹脂層6は、球面部5aと外周部5cの表面には形成されていない。このため、斜板との摺動面となる半球シュー4の平面部4bの表面は、樹脂層6からなり、ピストンとの摺動面となる半球シュー4の球面部4aの表面は、基材5の球面部5a自体となる。斜板との摺動による摩擦熱が発生しても、基材5の球面部5aや外周部5cから熱を逃がすことができ、樹脂層6が溶融することを防止できる。
樹脂層6は、後述の所定の樹脂組成物を用いて射出成形により形成された射出成形層である。例えば、半球シューの基材5を射出成形金型内にセットし、その上から樹脂組成物を射出成形するインサート成形により樹脂層6を形成することが好ましい。例えば、基材5が金属焼結体で構成されている場合、射出成形時に樹脂が空隙に入り込むため、アンカー効果が得られる。また、潤滑性被膜を形成する場合のようなマスキングが不要であり、余分な製造工程が増えることがなく、価格上昇を抑制できる。
図2(a)および図2(b)に示すように、基材5は、平面部5bの表面に溝7を有する。溝7は、断面が矩形(長方形)であり、円周方向に連続して形成されている。溝7は、基材5の平面部5bの表面の外縁部に設けられている。樹脂層6は、平面部5bのうち溝7のない部分に対応する薄肉部6aと、溝7の部分に対応する凸部6bとが一体に形成されている。樹脂層6は、その一部である凸部6bが、溝7に係合しつつ抱き付いている。これは、射出成形時に樹脂が溝7に入り込み、射出成形金型内での冷却時に生じる収縮によって、上記樹脂が溝7に抱き付くためである。溝7に入り込んだ樹脂が、樹脂層6の凸部6bとなる。この凸部6bを介して、基材5の溝7を構成する内径側垂直面に対して、平面部5bの中心に向かう方向に、樹脂層6の収縮力が作用する。このため、高速・高温・高振動環境下においても、斜板と摺接する樹脂層6が基材5から剥離することなく使用可能となる。
基材5は、中心軸15の部分に、平面部5bの表面から窪んだ形状の凹部9と、球面部5a側と平面部5b側とを貫通する中空部8とを有する。樹脂層6は、中空部8のある一定深さまで充填されている。この部分が充填部6dである。また、樹脂層6は、凹部9に沿って形成されている。この凹部9に沿って形成された部分6cは、薄肉部6aと一体であり、その厚さも略同一である。斜板との摺動面となる樹脂層6の表面(薄肉部6aの表面)は平坦面である。
基材5の平面部5b表面の中央の円状の凹部9と、基材5の中心軸15の部分の中空部8(樹脂未充填部分)は、潤滑油溜まりとなる。この部分に潤滑油が保持され、希薄潤滑時における潤滑作用を補うことができ、焼付きを防止できる。また、平面部5bの全面を平面とする場合よりも、上記のような凹形状がある方が樹脂層6と基材5との接触面積が増加し、樹脂層6の剥離をより防止できる。また、射出成形の観点から、この凹部位置にゲートを設けることで、ゲートカット後のゲート痕(凸部)が斜板摺動面に突出することを防止できる。さらに、樹脂が充填されていない中空部8は基材5の露出部となり、球面部5aと合わせて露出面積が増えるため、放熱性に優れる。
図2(a)に示すように、樹脂層6は、基材5の平面部5bの表面の形状に沿って形成された薄肉層である。半球シューの直径Rが10mm程度(5〜16mm程度)である場合において、樹脂層の厚さtは0.05mm〜0.7mmが好ましい。樹脂層の厚さをこのような薄肉範囲とすることで、摩擦熱が摺動面から基材側に逃げ易く、蓄熱し難い。0.05mmより薄い場合、基材の平面精度によっては樹脂層に研磨加工を施した際に基材が露出するおそれがある。また、0.7mmよりも厚い場合、樹脂層の体積増加による放熱性および耐面圧特性の低下と、樹脂層の変形が発生し易くなり、耐久性が低下するおそれがある。なお、研磨加工なく射出成形のみで樹脂層を形成する場合、樹脂層の厚さは0.3mm以上とする。これは、0.3mmより薄い場合、流動性の低い樹脂材料を使用しても射出成形によって樹脂層を成形することが困難なためである。
本発明で使用できる半球シューの基材材質としては、機械的強度や熱伝導性に優れるものであれば特に限定されず、例えば、鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金等の溶製金属材や、セラミックス等が挙げられる。これらの中でも、機械的強度や熱伝導性に優れ、かつ熱処理によって硬度向上できる鋼が好ましい。鋼材としては、軸受鋼(SUJ1〜5など)、クロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼、軟鋼、ステンレス鋼、高速度鋼などが挙げられる。上記の中でも、低コストであることから、鉄系溶製材を用いることが好ましい。一方、信頼性の面からは軸受鋼を用いることが好ましい。
基材材質として溶製金属材を用いる場合、樹脂層との密着性を高めるために、樹脂層の形成前において、基材の平面部表面をショットブラスト、機械加工などの物理的表面処理により、凹凸形状に荒らすことが好ましい。また、酸性溶液処理(硫酸、硝酸、塩酸など、もしくは他の溶液との混合)、アルカリ性溶液処理(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど、もしくは他の溶液との混合)などの化学的表面処理を施し、基材の少なくとも平面部表面に微細凹凸形状を形成することが好ましい。微細凹凸形状は、濃度、処理時間、後処理などによって異なるが、アンカー効果による密着性を高めるためには、凹ピッチが数nm〜数十μmの微細な凹凸にすることが好ましい。化学的表面処理により形成された微細凹凸形状は、多孔質のような複雑な立体構造となっているため、アンカー効果を発揮しやすく、特に強固な密着が可能となる。
また、半球シューの基材材質として、鉄系、銅鉄系、銅系、ステンレス系などの焼結金属製の部材も採用できる。これらの中でも、圧縮強度、樹脂との接合強度に優れ、かつ低コストであることから鉄系焼結材を用いることが好ましい。金属材料として焼結金属を用いる場合、樹脂層形成面の表面積が大きく、表面凹凸によるアンカー効果も高いので、樹脂層との密着強さを高くできる。
樹脂層を構成する樹脂組成物は、芳香族PEK系樹脂をベース樹脂としている。芳香族PEK系樹脂を用いることで、耐熱性、耐油・耐薬品性、耐クリープ特性、摩擦摩耗特性などに優れ、非常に信頼性の高い半球シューを得ることができる。
本発明で使用できる芳香族PEK系樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂などがある。本発明で使用できるPEEK樹脂の市販品としては、ビクトレックス社製:VICTREX PEEK(90P、150P、380P、450P、90G、150Gなど)、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製:Keta Spire PEEK(KT−820P、KT−880Pなど)、ダイセル・エボニック社製:VESTAKEEP(1000G、2000G、3000G、4000Gなど)などが挙げられる。また、PEK樹脂としては、ビクトレックス社製:VICTREX HTなどが、PEKEKK樹脂としてはビクトレックス社製:VICTREX STなどが、それぞれ挙げられる。
樹脂層を形成する樹脂組成物には、(1)固体潤滑剤であるPTFE樹脂、(2)繊維状補強材である炭素繊維、(3)樹脂層の放熱性を向上させる高放熱材料が、必須の添加剤として配合されている。この場合、PTFE樹脂を配合することによって樹脂層の潤滑性を向上でき、炭素繊維を配合することによって樹脂層の耐摩耗性および高温時の機械特性を向上でき、高放熱材料を配合することによって樹脂層の放熱性を向上できる。
なお、この発明の効果を阻害しない程度に、上記必須成分(1)〜(3)以外に二硫化モリブデンや、二硫化タングステン、各種ウィスカ、アラミド繊維などを配合してもよい。
なお、この発明の効果を阻害しない程度に、上記必須成分(1)〜(3)以外に二硫化モリブデンや、二硫化タングステン、各種ウィスカ、アラミド繊維などを配合してもよい。
PTFE樹脂としては、懸濁重合法によるモールディングパウダー、乳化重合法によるファインパウダー、再生PTFEのいずれを採用してもよい。芳香族PEK系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の流動性を安定させるためには、成形時のせん断により繊維化し難く、溶融粘度を増加させ難い再生PTFEを採用することが好ましい。また、パーフルオロアルキルエーテル基、フルオロアルキル基、またはその他のフルオロアルキルを有する側鎖基で変性されたPTFE樹脂であってもよい。
再生PTFEとは、熱処理(熱履歴が加わったもの)粉末、γ線または電子線などを照射した粉末のことである。例えば、モールディングパウダーまたはファインパウダーを熱処理した粉末、また、この粉末をさらにγ線または電子線を照射した粉末、モールディングパウダーまたはファインパウダーの成形体を粉砕した粉末、また、その後γ線または電子線を照射した粉末、モールディングパウダーまたはファインパウダーをγ線または電子線を照射した粉末などのタイプがある。再生PTFEの中でも、凝集せず、芳香族PEK系樹脂の溶融温度において、全く繊維化せず、内部潤滑効果があり、芳香族PEK系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の流動性を安定して向上させることが可能なことから、γ線または電子線などを照射したPTFE樹脂を採用することがより好ましい。
炭素繊維としては、原材料から分類されるピッチ系またはPAN系のいずれのものであってもよいが、高弾性率を有するPAN系炭素繊維の方が好ましい。その焼成温度は特に限定するものではないが、2000℃またはそれ以上の高温で焼成されて黒鉛(グラファイト)化されたものよりも、1000〜1500℃程度で焼成された炭化品のものが、高PV下でも相手材である斜板やピストンを摩耗損傷しにくいので好ましい。炭素繊維としてPAN系炭素繊維を用いることで、樹脂層の弾性率が高くなり、樹脂層の変形、摩耗が小さくなる。さらには、摩擦面の真実接触面積が小さくなり、摩擦発熱も軽減する。
高放熱材料は、樹脂層の放熱性を向上させる成分であれば、特に制限されないが、50W/(m・K)以上の熱伝導性を有する微細粉末であることが好ましい。微細粉末の平均粒子径は、特に限定されないが、例えばレーザー解析法による平均粒子径が100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。微細粉末の平均粒子径が小さくなるほど、樹脂層に微細粉末が均一に分散されるため、樹脂層全体の放熱性を向上させることができる。例えば、高放熱材料は、黒鉛、カーボンブラック、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、および窒化アルミニウムからなる群より選択される。
黒鉛は、天然黒鉛と人造黒鉛に大別され、さらに燐片状、粒状、球状などがあり、いずれであっても使用できる。また、カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。少ない配合量で導電性を付与できるケッチェンブラックが好ましい。
上記必須成分(1)〜(3)を合わせた添加剤としての配合割合は、芳香族PEK系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物全体に対して20〜50体積%とする。すなわち、樹脂層全体体積に対して1/2〜1/5の割合とする。必須成分(1)〜(3)と、ほかの少量添加物等を除く残部が芳香族PEK系樹脂である。上記の配合割合とすることで、樹脂層に優れた放熱性を付与するとともに、低摩擦特性、耐摩耗性、高温時の機械特性、耐衝撃性を付与することができる。これにより、高速回転、高荷重条件下や、潤滑油の希薄なドライ潤滑に近い状態においても焼付きを防止することができ、ひいては半球シューを長期間に渡って破損することなく使用することができる。また、添加剤の合計配合割合は、樹脂組成物全体に対して、25〜40体積%であることがより好ましい。
さらに、上記必須成分(1)〜(3)の各配合割合については、樹脂組成物全体に対して、(1)PTFE樹脂が5〜25体積%であり、(2)炭素繊維が5〜25体積%であり、(3)高放熱材料が3〜15体積%であることが好ましい。また、(1)PTFE樹脂が8〜20体積%であり、(2)炭素繊維が8〜20体積%であり、(3)高放熱材料が4〜10体積%であることがより好ましい。
以上の諸原材料を混合し、混練する手段は、特に限定するものではなく、粉末原料のみをヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダー、レディゲミキサー、ウルトラヘンシェルミキサーなどにて乾式混合し、さらに二軸押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、該樹脂組成物の成形用ペレットを得ることができる。また、充填材の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。この成形用ペレットを用い、上述したとおり、基材に対して樹脂層を射出成形(インサート成形)で形成する。また、成形後に物性改善のためにアニール処理等の処理を施してもよい。
斜板との摺動面となる樹脂層の表面(平面部表面)は、樹脂層形成後に研磨加工してもよく、また、旋削加工してもよい。加工後の表面の高さ寸法にばらつきが小さいことから、研磨加工が好ましい。また、加工後における樹脂層の該表面の表面粗さは、0.1μmRa〜1.0μmRa(JIS B0601)に調整することが好ましい。この範囲内にすることで、斜板と摺動する樹脂層の表面における真実接触面積が大きくなり、実面圧を下げて焼付きを防止できる。表面粗さが、0.1μmRa未満では摺動面への潤滑油の供給が不足し、1.0μmRaをこえると摺動面での真実接触面積の低下により、局部的に高面圧となり、焼付くおそれがある。さらに好ましくは、表面粗さ0.2μmRa〜0.8μmRaである。
一方、半球シューとの摺動面となる斜板の表面は、研磨加工されてもよく、また、旋削加工されてもよい。さらに、加工後における斜板の該表面の表面粗さは、0.08〜1.0μmRa(JIS B0601)に調整することが好ましい。
本発明の半球シューが使用される斜板式コンプレッサは、冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角または斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して上記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサである。この斜板式コンプレッサに本発明の半球シューを使用することによって、半球シューと摺動する斜板においては、潤滑性被膜を除くことができる。すなわち、斜板表面は基材の研磨面もしくは旋削面のままの状態で斜板式コンプレッサに組み込み半球シューと摺動させることが可能となる。このため、機能面で同等でありながら、低価格の斜板式コンプレッサを提供することができる。なお、斜板の基材は、機械構造用炭素鋼(S45C)、自動車構造用熱間圧延鋼板(SAPH440)、球状黒鉛鋳鉄(FCD)などの鋼材や銅合金などが採用できる。
実施例1
(1)半球シューの作製
ベース樹脂としてPEEK樹脂(VICTREX社製、PEEK−90P)75体積%を配合し、添加剤として、PTFE樹脂(喜多村社製、PTFE KTL−610)10体積%、炭素繊維(クレハ社製、M101S)10体積%、高放熱材料としての黒鉛(TIMREX社製、TIMREX KS−25、平均粒子径25μm)5体積%を配合した樹脂材料を用いて、図2に示す基材5の平面部5bに射出成形した。射出成形後、樹脂層の厚さtが0.05mmとなるまで平面研磨を施して、半球シューを作製した。
(1)半球シューの作製
ベース樹脂としてPEEK樹脂(VICTREX社製、PEEK−90P)75体積%を配合し、添加剤として、PTFE樹脂(喜多村社製、PTFE KTL−610)10体積%、炭素繊維(クレハ社製、M101S)10体積%、高放熱材料としての黒鉛(TIMREX社製、TIMREX KS−25、平均粒子径25μm)5体積%を配合した樹脂材料を用いて、図2に示す基材5の平面部5bに射出成形した。射出成形後、樹脂層の厚さtが0.05mmとなるまで平面研磨を施して、半球シューを作製した。
(2)評価
(i)油中限界面圧試験
作製した半球シュー3個を、油中限界面圧試験用試験片として使用した。高速スラスト試験機の槽内下部に、半球シュー3個を互いに120°等配となるように配置し、半球シューの各平面部が上部を向く方向にセットした。セットした半球シューの上部から研磨加工が施された斜板を半球シューの平面部に当て、荷重を負荷した状態で斜板を高速回転させた。なお、試験モードとして槽内に十分な量の冷凍機油が存在するモードと、冷凍機油が枯渇したモードの2水準を交互に行なう設定とした。
上記試験により測定された面圧を下記の5段階で評価し、性能の判定を行った。
5点・・・15MPa以上
4点・・・14MPa以上15MPa未満
3点・・・13MPa以上14MPa未満
2点・・・12MPa以上13MPa未満
1点・・・12MPa未満
(i)油中限界面圧試験
作製した半球シュー3個を、油中限界面圧試験用試験片として使用した。高速スラスト試験機の槽内下部に、半球シュー3個を互いに120°等配となるように配置し、半球シューの各平面部が上部を向く方向にセットした。セットした半球シューの上部から研磨加工が施された斜板を半球シューの平面部に当て、荷重を負荷した状態で斜板を高速回転させた。なお、試験モードとして槽内に十分な量の冷凍機油が存在するモードと、冷凍機油が枯渇したモードの2水準を交互に行なう設定とした。
上記試験により測定された面圧を下記の5段階で評価し、性能の判定を行った。
5点・・・15MPa以上
4点・・・14MPa以上15MPa未満
3点・・・13MPa以上14MPa未満
2点・・・12MPa以上13MPa未満
1点・・・12MPa未満
(ii)熱伝導率測定
上記樹脂組成物からなるφ10×2mm円盤試験片を作製して、レーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定した。測定された熱伝導率を下記の5段階で評価し、物性の判定を行った。
5点・・・0.65W/(m・K)以上
4点・・・0.55W/(m・K)以上0.65W/(m・K)未満
3点・・・0.45W/(m・K)以上0.55W/(m・K)未満
2点・・・0.35W/(m・K)以上0.45W/(m・K)未満
1点・・・0.35W/(m・K)未満
上記樹脂組成物からなるφ10×2mm円盤試験片を作製して、レーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定した。測定された熱伝導率を下記の5段階で評価し、物性の判定を行った。
5点・・・0.65W/(m・K)以上
4点・・・0.55W/(m・K)以上0.65W/(m・K)未満
3点・・・0.45W/(m・K)以上0.55W/(m・K)未満
2点・・・0.35W/(m・K)以上0.45W/(m・K)未満
1点・・・0.35W/(m・K)未満
(iii)曲げ強さ測定
ASTM D790に準拠して曲げ試験片を射出成形により作製し、曲げ強さを測定した。測定された曲げ強さを下記の5段階で評価し、物性の判定を行った。
5点・・・170MPa以上
4点・・・140MPa以上170MPa未満
3点・・・110MPa以上140MPa未満
2点・・・80MPa以上110MPa未満
1点・・・80MPa未満
ASTM D790に準拠して曲げ試験片を射出成形により作製し、曲げ強さを測定した。測定された曲げ強さを下記の5段階で評価し、物性の判定を行った。
5点・・・170MPa以上
4点・・・140MPa以上170MPa未満
3点・・・110MPa以上140MPa未満
2点・・・80MPa以上110MPa未満
1点・・・80MPa未満
(iv)アイゾット衝撃強さ
ASTM D256に準拠してノッチ付アイゾット試験片を射出成形により作製し、アイゾット衝撃強さを測定した。測定されたアイゾット衝撃強さを下記の5段階で評価し、物性の判定を行った。
5点・・・40J/m以上
4点・・・35J/m以上40J/m未満
3点・・・30J/m以上35J/m未満
2点・・・25J/m以上30J/m未満
1点・・・25J/m未満
ASTM D256に準拠してノッチ付アイゾット試験片を射出成形により作製し、アイゾット衝撃強さを測定した。測定されたアイゾット衝撃強さを下記の5段階で評価し、物性の判定を行った。
5点・・・40J/m以上
4点・・・35J/m以上40J/m未満
3点・・・30J/m以上35J/m未満
2点・・・25J/m以上30J/m未満
1点・・・25J/m未満
実施例1における、これらの各評価の結果を表1に示す。
実施例2
高放熱材料をカーボンブラック(ライオン社製、ケッチェンブラックEC300J、平均粒子径40nm)に置き換えた以外は実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
高放熱材料をカーボンブラック(ライオン社製、ケッチェンブラックEC300J、平均粒子径40nm)に置き換えた以外は実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
実施例3
高放熱材料を酸化マグネシウム粉末(和光純薬社製、平均粒子径40〜70μm)に置き換えた以外は実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
高放熱材料を酸化マグネシウム粉末(和光純薬社製、平均粒子径40〜70μm)に置き換えた以外は実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
実施例4
高放熱材料を窒化ホウ素粉末(デンカ社製、デンカボロンナイトライド SGPS、平均粒子径12μm)に置き換えた以外は実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
高放熱材料を窒化ホウ素粉末(デンカ社製、デンカボロンナイトライド SGPS、平均粒子径12μm)に置き換えた以外は実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
実施例5
高放熱材料を窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、高純度窒化アルミニウム Hグレード、平均粒子径1μm)に置き換えた以外は実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
高放熱材料を窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、高純度窒化アルミニウム Hグレード、平均粒子径1μm)に置き換えた以外は実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
実施例6
ベース樹脂としてPEEK樹脂(VICTREX社製、PEEK−90P)50体積%を配合し、添加剤として、PTFE樹脂(喜多村社製、PTFE KTL−610)20体積%、炭素繊維(クレハ社製、M101S)20体積%、高放熱材料としての黒鉛(TIMREX社製、TIMREX KS−25、平均粒子径25μm)10体積%を配合した樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
ベース樹脂としてPEEK樹脂(VICTREX社製、PEEK−90P)50体積%を配合し、添加剤として、PTFE樹脂(喜多村社製、PTFE KTL−610)20体積%、炭素繊維(クレハ社製、M101S)20体積%、高放熱材料としての黒鉛(TIMREX社製、TIMREX KS−25、平均粒子径25μm)10体積%を配合した樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
実施例7
ベース樹脂としてPEEK樹脂(VICTREX社製、PEEK−90P)80体積%を配合し、添加剤として、PTFE樹脂(喜多村社製、PTFE KTL−610)8体積%、炭素繊維(クレハ社製、M101S)8体積%、高放熱材料としての黒鉛(TIMREX社製、TIMREX KS−25、平均粒子径25μm)4体積%を配合した樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
ベース樹脂としてPEEK樹脂(VICTREX社製、PEEK−90P)80体積%を配合し、添加剤として、PTFE樹脂(喜多村社製、PTFE KTL−610)8体積%、炭素繊維(クレハ社製、M101S)8体積%、高放熱材料としての黒鉛(TIMREX社製、TIMREX KS−25、平均粒子径25μm)4体積%を配合した樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
比較例1
ベース樹脂としてPEEK樹脂(VICTREX社製、PEEK−90P)75体積%を配合し、添加剤として、PTFE樹脂(喜多村社製、PTFE KTL−610)12.5体積%、炭素繊維(クレハ社製、M101S)12.5体積%を配合した樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
ベース樹脂としてPEEK樹脂(VICTREX社製、PEEK−90P)75体積%を配合し、添加剤として、PTFE樹脂(喜多村社製、PTFE KTL−610)12.5体積%、炭素繊維(クレハ社製、M101S)12.5体積%を配合した樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
比較例2
ベース樹脂としてPEEK樹脂(VICTREX社製、PEEK−90P)45体積%を配合し、添加剤としてPTFE樹脂(喜多村社製、PTFE KTL−610)22.5体積%、炭素繊維(クレハ社製、M101S)22.5体積%、黒鉛(TIMREX社製、TIMREX KS−25)10体積%を配合した樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
ベース樹脂としてPEEK樹脂(VICTREX社製、PEEK−90P)45体積%を配合し、添加剤としてPTFE樹脂(喜多村社製、PTFE KTL−610)22.5体積%、炭素繊維(クレハ社製、M101S)22.5体積%、黒鉛(TIMREX社製、TIMREX KS−25)10体積%を配合した樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
比較例3
ベース樹脂としてPEEK樹脂(VICTREX社製、PEEK−90P)85体積%配合し、添加剤として、PTFE樹脂(喜多村社製、PTFE KTL−610)6体積%、炭素繊維(クレハ社製、M101S)6体積%、黒鉛(TIMREX社製、TIMREX KS−25)3体積%を配合した樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
ベース樹脂としてPEEK樹脂(VICTREX社製、PEEK−90P)85体積%配合し、添加剤として、PTFE樹脂(喜多村社製、PTFE KTL−610)6体積%、炭素繊維(クレハ社製、M101S)6体積%、黒鉛(TIMREX社製、TIMREX KS−25)3体積%を配合した樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして半球シューおよび各試験片を作製した。
実施例2〜7、比較例1〜3で作製した半球シューおよび各試験片を用いて、実施例1と同様にして各評価試験を実施した。結果を表1に示す。
表1より、実施例1〜7は、比較例1〜3に比べて油中限界面圧が高い結果となった。油中限界面圧試験は、高速回転、高荷重の運動形態で実施され、さらに油枯渇モードも取り入れているため、摺動環境が極めて過酷となっている。このような環境では平面部の樹脂層の溶融摩耗が懸念されるが、実施例1〜7の樹脂層は放熱性に優れるため、溶融摩耗を抑制することが可能である。この優れた放熱性は、微細粉末からなる高放熱材料が、樹脂組成物に適量配合され、かつ均等に分散されていることからと考えられる。
一方、比較例1は、熱伝導性に優れる炭素繊維が実施例(実施例6以外)より多く配合されているものの、熱伝導率の改良が軽微となっている。これは、炭素繊維だけでは熱伝導パスが十分でなく、微細粉末からなる高放熱材料が樹脂層に分散されている方が熱伝導パスが優れるためと考えられる。
比較例2は、熱伝導性に優れる炭素繊維がさらに多く配合されており、熱伝導率は比較的高い数値となっている。しかしながら、ベース樹脂であるPEEKの配合量が少ないため、衝撃強さが乏しく、樹脂組成物として脆さが顕著であり、高速回転、高荷重条件下での耐久性は有さない。
比較例3は、固体潤滑剤であるPTFE樹脂、繊維状補強材である炭素繊維、および高放熱材料の配合量が少ないため、油中限界面圧は低い数値となっている。
本発明の斜板式コンプレッサの半球シューは、運転開始時の潤滑油のないドライ潤滑状態においても、焼付きが発生せず、摩擦熱による潤滑特性の低下がなく耐久性が十分に確保されるので、種々の斜板式コンプレッサに利用することができる。特に、炭酸ガスやHFC1234yfを冷媒とし、高速高負荷仕様である近年の斜板式コンプレッサにも好適に利用することができる。
1 ハウジング
2 回転軸
3 斜板
4 半球シュー
5 基材
6 樹脂層
7 溝
8 中空部
9 凹部
10 シリンダボア
11 針状ころ軸受
12 スラスト針状ころ軸受
13 球面座
14 ピストン
15 中心軸
2 回転軸
3 斜板
4 半球シュー
5 基材
6 樹脂層
7 溝
8 中空部
9 凹部
10 シリンダボア
11 針状ころ軸受
12 スラスト針状ころ軸受
13 球面座
14 ピストン
15 中心軸
Claims (6)
- 冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角または斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して前記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサの半球シューであって、
前記半球シューは、金属製部材を基材とし、前記ピストンと摺動する球面部表面が前記基材自体からなり、前記斜板と摺動する平面部表面が樹脂層からなり、
前記樹脂層は、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物から形成され、
前記樹脂組成物は、添加剤としてポリテトラフルオロエチレン樹脂、炭素繊維および高放熱材料を含み、該添加剤は該樹脂組成物全体に対して合計で20〜50体積%含まれていることを特徴とする斜板式コンプレッサの半球シュー。 - 前記高放熱材料が、黒鉛、カーボンブラック、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、および窒化アルミニウムからなる群より選ばれることを特徴とする請求項1記載の斜板式コンプレッサの半球シュー。
- 前記高放熱材料は、50W/(m・K)以上の熱伝導率を有する微細粉末である請求項1または請求項2記載の斜板式コンプレッサの半球シュー。
- 前記樹脂組成物において、前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂は、前記樹脂組成物全体に対して5〜25体積%含まれ、前記炭素繊維は、前記樹脂組成物全体に対して5〜25体積%含まれ、前記高放熱材料は、前記樹脂組成物全体に対して3〜15体積%含まれていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の斜板式コンプレッサの半球シュー。
- 前記樹脂層の厚みは0.05〜0.7mmであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の斜板式コンプレッサの半球シュー。
- 冷媒が存在するハウジング内で、回転軸に直接固定するように、または連結部材を介して間接的に、直角または斜めに取り付けた斜板に半球シューを摺動させ、この半球シューを介して前記斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して、冷媒を圧縮、膨張させる斜板式コンプレッサであって、
前記半球シューが、請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の半球シューであることを特徴とする斜板式コンプレッサ。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2017123507A JP2019007414A (ja) | 2017-06-23 | 2017-06-23 | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ |
Applications Claiming Priority (1)
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JP2017123507A JP2019007414A (ja) | 2017-06-23 | 2017-06-23 | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2019007414A true JP2019007414A (ja) | 2019-01-17 |
Family
ID=65029488
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
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JP2017123507A Pending JP2019007414A (ja) | 2017-06-23 | 2017-06-23 | 斜板式コンプレッサの半球シューおよび斜板式コンプレッサ |
Country Status (1)
Country | Link |
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JP (1) | JP2019007414A (ja) |
-
2017
- 2017-06-23 JP JP2017123507A patent/JP2019007414A/ja active Pending
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