JP2017186223A - 誘電体組成物、誘電体磁器および積層複合電子部品 - Google Patents

誘電体組成物、誘電体磁器および積層複合電子部品 Download PDF

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Abstract

【課題】 低い比誘電率を実現し、線膨張係数がNiCuZnフェライトに近く、絶縁抵抗も良好であり、焼結体組織が均一である誘電体磁器、および、当該誘電体磁器を用いた積層複合電子部品を提供する。【解決手段】 独立空隙を有する基材を有する誘電体磁器である。基材が、ガラス相を有する。ガラス相は内部にSiO2リッチ粒子が分散しており、NiCuZn系フェライトと一体化可能な線膨張係数を有する。【選択図】 図4

Description

本発明は、誘電体組成物、誘電体磁器および積層複合電子部品に関する。
近年、携帯電話、PCなどの電子機器に高速シリアル伝送インターフェースが数多く採用されている。それに伴い、高いカットオフ周波数を有するコモンモードフィルタが求められている。
現在広く用いられているコモンモードフィルタのコイル部には、非磁性Cu−Zn系フェライト等が用いられている。しかし、現在コモンモードフィルタのコイル部に用いられている誘電体は、いずれも比誘電率が約4.2〜15と高いために浮遊容量の影響で高周波対応に限界がある。したがって、比誘電率がさらに低い誘電体が求められている。
また、コモンモードフィルタ等の複合電子部品は、コイル部の誘電体(非磁性材料)と磁性材料との異材質同時焼成により形成される。そのため、コイル部の誘電体と磁性材料とで線膨張係数を一致させることが好ましい。しかし、線膨張係数は各材料に固有の値となり、その値を任意に変化させることは困難である。なお、磁性材料としては、例えばNiCuZnフェライトが広く用いられている。
特許文献1には、ガラスセラミック誘電体材料の発明が記載されている。アルカリ金属酸化物の含有比率および含有量を厳密に制限したアルカリ硼珪酸ガラスを使用することで、比誘電率と誘電損失とを低くしたガラスセラミック誘電体材料を提供している。
特許文献2には、誘電体磁器組成物の発明が記載されている。二種類のガラス、石英、アモルファスシリカおよびアルミナをそれぞれ所定の範囲内で含むことで、比誘電率を低く抑えながら、NiCuZnフェライトと一体化同時焼成可能な誘電体磁器組成物を提供している。
特許文献3には、コモンモードノイズフィルタの発明が記載されている。ガラス系セラミック材料に空隙を導入することで、比誘電率を更に低下させる旨が記載されている。具体的には、ガラス系セラミック材料の原料にCaCOなどの焼成中に分解する無機発泡材を添加し、COなどの気体を発生させることでガラス系セラミック材料中に空隙を形成している。
特開2004−269269号公報 特開2014−152059号公報 特開2013−62459号公報
しかし、特許文献1に記載のガラスセラミック誘電体材料では、線膨張係数が4.8〜5.0ppm、すなわち48×10−7/℃〜50−7/℃となる。この線膨張係数はNiCuZnフェライトの線膨張係数(約100×10−7/℃)の約半分である。一般的に線膨張係数差が10×10−7/℃よりも大きいセラミック材料同士を接合して焼成すると、ほぼ100%の割合でクラックを生じる。したがって、特許文献1に記載のガラスセラミック誘電体材料ではNiCuZnフェライトと一体化同時焼成することは困難である。
特許文献2に記載の誘電体磁器組成物は、線膨張係数はNiCuZnフェライトとほぼ一致する。したがって一体化同時焼成は可能である。しかし、比誘電率のさらなる低減が求められる。
特許文献3に記載のガラス系セラミック材料は、その製造に用いられるCaCOなどの無機発泡材が硼珪酸ガラスに対して焼結阻害因子として働いてしまう。また、発泡の制御は困難であるため、製品によって比誘電率にばらつきが生じてしまい、比誘電率の制御が困難である。また、電子部品化した際に内部電極周辺で発泡が生じてしまうと内部電極が変形する原因となってしまう。さらに、残渣として残るCaOなどの物質が比誘電率を上昇させてしまう。
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、低い比誘電率を実現し、線膨張係数がNiCuZnフェライトに近く、絶縁抵抗も良好であり、焼結体組織が均一である誘電体磁器、焼結により当該誘電体磁器となる誘電体組成物、および、当該誘電体磁器を用いた積層複合電子部品を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本願第1の観点に係る誘電体組成物は、
主成分として、SiO−KO−B系ガラス、MO−SiO−Al−B系ガラス(Mはアルカリ土類金属)および石英を含有し、
主成分全体を100重量部として、
SiO−KO−B系ガラスおよびMO−SiO−Al−B系ガラスの合計含有量が48〜54重量部であり、
MO−SiO−Al−B系ガラスの含有量が22〜30重量部であり、
石英の含有量が12〜18重量部であり、
主成分の残部がアモルファスシリカであり、
主成分100重量部に対して、添加物としてSrO−SiO−B系ガラスを3〜9重量部、酸化アルミニウムを1.5〜4.5重量部含有し、NiCuZn系フェライトと一体化可能な線膨張係数を有する。
本願第1の観点に係る誘電体組成物は、上記の構成を有することで、焼結により以下に示す誘電体磁器を得ることができる。
本願第1の観点に係る誘電体磁器は、上記の誘電体組成物からなり、空隙を有し、開気孔率が15%未満である。当該誘電体磁器は、低い比誘電率を実現し、線膨張係数がNiCuZnフェライトに近く、絶縁抵抗も良好であり、焼結体組織が均一である。
本願第2の観点に係る誘電体磁器は、独立空隙を有する基材を有する誘電体磁器であって、
前記基材が、ガラス相を有し、
前記ガラス相は内部にSiOリッチ粒子が分散しており、
NiCuZn系フェライトと一体化可能な線膨張係数を有することを特徴とする。
本願第2の観点に係る誘電体磁器は、上記の構成を有することにより、低い比誘電率を実現し、線膨張係数がNiCuZnフェライトに近く、絶縁抵抗も良好であり、焼結体組織が均一である誘電体磁器となる。
本願第2の観点に係る誘電体磁器は、前記ガラス相に含まれるSiの割合がSiO換算で40〜70wt%であることが好ましい。
本願発明に係る積層複合電子部品は、
コイル用導体および非磁性体層で構成されるフィルタ部と、
磁性体相を含む外装部と、を有し、
前記コイル用導体が、導電材としてAgを含んでおり、
前記非磁性体層が本願発明に係る誘電体磁器で構成されていることを特徴とする。
図1Aは、本発明の一実施形態に係る積層コモンモードフィルタの斜視図である。 図1Bは、本発明の他の実施形態に係る積層コモンモードフィルタの斜視図である。 図2Aは、図1Aに示す積層コモンモードフィルタの積層構造を示す分解斜視図である。 図2Bは、図1Bに示す積層コモンモードフィルタの積層構造を示す分解斜視図である。 図2Cは、図1Bに示す積層コモンモードフィルタの他の実施形態に係る積層構造を示す分解斜視図である。 本発明の第2実施形態に係る誘電体磁器のSEM画像である。 試料45のSEM画像である。 試料3のSEM画像である。
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。なお、本実施形態では、誘電体組成物は焼結前の組成物を指すが、後述する焼失材は誘電体組成物には含まない。また、誘電体磁器は焼結後の磁器を指す。
(第1実施形態)
積層コモンモードフィルタ
図1Aに示すように、本発明の一実施形態に係る積層複合電子部品としての積層コモンモードフィルタ1は、本体積層部10に、外部電極2〜9が形成されている。積層コモンモードフィルタ1の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよいが、通常、2.0〜0.4mm×1.0〜0.3mm×0.7〜0.3mm程度である。まず、本実施形態に係る積層コモンモードフィルタの構造について説明する。
本体積層部10は、図2Aに示すように、本実施形態では、積層方向(Z軸方向)に、下側の外装部30と内装部20と上側の外装部30とが積層されている構造を有し、内装部20では、Z軸方向と垂直な平面(X−Y軸平面)に2つで、Z軸方向にも2つのコイルが形成してある。
下側と上側の外装部30は、それぞれ同様な積層構造を有し、最外層側の磁性体層31と、非磁性体層26と内側磁性体層32との積層構造を有する。これらの層31、26、32は、それぞれ単一層で構成されても良いが、複数の層で構成されても良い。
内装部20は、非磁性体層21〜25がZ軸方向に積層されている構造を有する。これらの非磁性体層21〜25は、外装部30に含まれる非磁性体層26と同一材質の誘電体磁器で構成されていることが好ましく、その材質については後述する。ただし、これらは、必ずしも全く同一の誘電体磁器で構成する必要はなく、外装部30と内装部20とで、非磁性体層の種類を変えても良い。また、非磁性体層21〜25は、それぞれ単一層で構成されても良いが、複数の層で構成されても良い。
本実施形態では、各非磁性体層21〜25には、X軸方向に所定距離離れて、1対の芯体用スルーホールが形成してあり、それぞれのスルーホールに、Z軸方向に貫通する芯体用磁性体33および34が埋め込まれている。これらの芯体用磁性体33および34は、好ましくは、外装部30に配置してある内側磁性体層32に接続してある。
各芯体用磁性体33および34の周囲に、コイルをそれぞれ形成するために、各非磁性体層21〜25には、所定パターンのコイル用導体12〜19が形成してあり、異なる層に位置するコイル用導体12〜19は、それぞれスルーホール電極41〜44を介して接続してある。各コイル用導体12〜19は、図1Aに示す外部電極2〜9にそれぞれ接続して、芯体用磁性体33および34の周囲に、それぞれZ軸方向に2つのコイルを形成するようなパターンを有している。
なお、図1Aおよび図2Aに示す実施形態では、平面方向に2つのコイルを有するコモンモードフィルタを例示したが、本発明では、コモンモードフィルタの構造は特に限定されない。たとえば図1Bおよび図2Bに示すような構造も考えられる。
このコモンモードフィルタ1aでは、図1Bに示すように、本体積層部10aに、外部電極2a〜5aと、ESD(静電気放電対策)用外部電極61および71が形成されている。本体積層部10aは、図2Bに示すように、本実施形態では、積層方向(Z軸方向)に、下側の外装部30aと内装部20と上側の外装部30とが積層されている構造を有し、内装部20では、Z軸方向と垂直な平面(X−Y軸平面)には単一でZ軸方向には2つのコイルが形成してある。
本実施形態では、下側の外装部30aと上側の外装部30は、異なる積層構造を有し、下側の外装部30aでは、上側の外装部30と異なり、所定パターンのEDS用導体層51〜55が、非磁性体層26a、26bの間に形成してある。これらの導体層51〜55は、コイル用導体12a〜15aと同様な導電層で構成することができ、コイル用導体12a〜15aは、図2Aに示すコイル用導体12〜19と同様な材質で構成することができる。
内装部20は、非磁性体層21〜25がZ軸方向に積層されている構造を有する。これらの非磁性体層21〜25は、外装部30、30aに含まれる非磁性体層26、26aと同一材質の誘電体磁器で構成されていることが好ましく、その材質(誘電体組成物)については後述する。ただし、これらは、必ずしも全く同一の誘電体磁器で構成する必要はなく、外装部30、30aと内装部20とで、非磁性体層の種類を変えても良い。また、非磁性体層21〜25は、それぞれ単一層で構成されても良いが、複数の層で構成されても良い。
本実施形態では、各非磁性体層21〜25には、単一の芯体用スルーホールが形成してあり、そのスルーホールに、Z軸方向に貫通する芯体用磁性体33が埋め込まれている。この芯体用磁性体33は、好ましくは、外装部30に配置してある内側磁性体層32に接続してある。
芯体用磁性体33の周囲に、コイルをそれぞれ形成するために、各非磁性体層21〜25には、所定パターンのコイル用導体12a〜15aが形成してあり、異なる層に位置するコイル用導体12a〜15aは、それぞれスルーホール電極41a、43aを介して接続してある。各コイル用導体12a〜15aは、図1Bに示す外部電極2a〜5aにそれぞれ接続して、芯体用磁性体33の周囲にZ軸方向に分離された2つのコイルを形成するようなパターンを有している。また、ESD用導体層51の両端が、ESD用外部電極61および71に接続してある。
図2Cは、図2Bに示すコモンモードフィルタの変形例を示し、この本体積層部10bでは、Z軸方向の両側の外装部30b、30cに、ESD用導体層51a〜53a、51b、54b、55bが形成してある。ESD用導体層51a、51bの両端が、図1Bに示すESD用外部電極61および71に接続してある。なお、図1A〜図2Cにおいて、共通する部材には、共通する符号を付し、その説明は一部省略する。
単一のコイルを形成するようにZ軸方向に隣り合う層に位置するコイル用導体に挟まれている非磁性体層22または24の厚みは、好ましくは5〜40μm、より好ましくは8〜25μm以下である。Z軸方向にコイルを分離するための非磁性体層23の厚みは、好ましくは5〜60μmである。
コイル用導体11〜19の厚みは、特に限定されず、非磁性体層の厚みに応じて適宜決定すればよい。
コイル用導体11〜19、ESD用導体層51〜54、51a〜53a、51b、54b、55bおよびスルーホール用導体41〜44、41a、43aとしては、導電材としてAgを含み、たとえばAg、Ag合金(たとえばAg−Pd合金、微量のZrを含むAg)などを導電体とすることが好ましい。本実施形態の誘電体組成物は、低温(たとえば、950℃以下)での焼成が可能なので、本実施形態では、導電材として直流抵抗の低い銀を用いることができる。
外部電極2〜9、2a〜5a、61、71は特に限定されないが、銀を含む導電材が使用でき、この電極は、Cu−Ni−Sn、Ni−Sn、Ni−Au、Ni−Ag等でめっきされていることが好ましい。
上述した非磁性体層21〜25、26、26a、26bは、本発明の一実施形態に係る誘電体磁器で構成してある。
本実施形態の誘電体磁器は、誘電体組成物からなり、空隙を有する。誘電体組成物は、主成分が、SiO−KO−B系ガラス、MO−SiO−Al−B系ガラス(Mはアルカリ土類金属)、石英およびアモルファスシリカを含有し、添加物としてSrO−SiO−B系ガラスおよび酸化アルミニウムを含有する。
本実施形態におけるSiO−KO−B系ガラスとは、SiO−KO−B系ガラス全体を100重量%として、SiOを77〜83重量%、KOを1.6〜2.4重量%、Bを16〜20重量%含有し、ガラス転移点が480〜520℃であるガラスを指す。SiO−KO−B系ガラスの比誘電率には特に制限はないが、3.8〜4.6とすることが好ましい。また、該ガラスの線膨張係数には特に制限はないが、例えば20〜30×10−7/℃とすることができる。なお、該ガラスは、本発明の効果を妨げない範囲でAl、ZrOを含んでいてもよく、好ましくはAlの含有量は0.5重量%以下、ZrOの含有量は0.5重量%以下である。
本実施形態におけるMO−SiO−Al−B系ガラスとは、MO−SiO−Al−B系ガラス全体を100重量%として、SiOを52〜56重量%、Alを10〜12重量%、MOを25.6〜31.5重量%、Bを3.0〜4.5重量%含有し、ガラス転移点が690〜730℃、軟化点が750〜790℃であるガラスを指す。また、該ガラスの線膨張係数には特に制限はないが、例えば60〜75×10−7/℃とすることができる。なお、該ガラスは、本発明の効果を妨げない範囲でNaO、ZrOおよびMgOなどを含んでいてもよい。NaOの含有量は好ましくは0.5重量%以下(0を含む)である。ZrOの含有量は好ましくは0.5重量%以下(0を含む)である。MgOの含有量は好ましくは1.0〜2.5重量%である。
なお、MOとは、アルカリ土類金属の酸化物であり、CaO、SrOおよびBaOからなる群から選択される少なくとも1種以上の金属酸化物である。また、本実施形態におけるMO−SiO−Al−B系ガラスでは、MO−SiO−Al−B系ガラス全体を100重量%として、CaOを2.5〜3.5重量%、SrOを23〜27重量%およびBaOを0.1〜1.0重量%、含有することが好ましい。
本実施形態におけるSrO−SiO−B系ガラスとは、SrO−SiO−B系ガラス全体を100重量%として、SrOの含有量が40〜45重量%、SiOの含有量が10〜15重量%、Bの含有量が40〜50重量%であり、ガラス転移点が640〜670℃であるガラスを指す。また、該ガラスの線膨張係数には特に制限はないが、例えば60〜75×10−7/℃とすることができる。なお、該ガラスは、本発明の効果を妨げない範囲でBaO、ZrOなどを含んでいてもよく、好ましくはBaOの含有量は1重量%以下、ZrOの含有量は0.3重量%以下である。
以下、SiO−KO−B系ガラスをガラス1、MO−SiO−Al−B系ガラスをガラス2、SrO−SiO−B系ガラスをガラス3と呼ぶことがある。
ガラス1の含有量とガラス2の含有量との合計は、主成分全体を100重量部として48〜54重量部である。ガラス1の含有量とガラス2の含有量との合計を上記の範囲内とすることにより、十分な焼結性を維持しつつ、後述する焼失材の添加によって比誘電率を低下させることができる。ガラス1の含有量とガラス2の含有量との合計が48重量部より少ない場合は、十分な焼結性が得られにくい傾向がある。54重量部より多い場合は、焼結過程でガラス相の軟化が進み過ぎ、後述する焼失材の添加による比誘電率低下効果が十分に発揮されにくくなる。
ガラス2の含有量は、22〜30重量部である。ガラス2の含有量が22重量部より少ない場合は、焼結時に液相の生成が不十分となりやすく、素体全体を液相で濡らすことが困難になり、焼結体組織が不均一になりやすい。30重量部より多い場合は、ガラス2自体の比誘電率(約7)の高さにより、比誘電率の低い誘電体磁器が得られにくくなる。
石英の含有量は、12〜18重量部である。石英を12〜18重量部、含有することで、後述する分相状の焼結体組織において石英がSiOリッチ粒子として生成し、誘電体組成物および最終的に得られる誘電体磁器の線膨張係数がNiCuZnフェライトの線膨張係数に近くなりやすくなる。石英の線膨張係数は140×10−7/℃と高いため、石英の含有量が12重量部より少ない場合は、線膨張係数がNiCuZnフェライトの線膨張係数を大きく下回りやすくなる。石英の含有量が18重量部より多い場合は、線膨張係数がNiCuZnフェライトの線膨張係数を大きく上回りやすくなる。
主成分の残部は、アモルファスシリカのみから構成されていてもよい。なお、アモルファスシリカの線膨張係数は6×10−7/℃である。
アモルファスシリカは、特に限定されず、例えば溶融法により製造された比較的低純度なアモルファスシリカや、四塩化ケイ素の熱分解などの気相法によって製造された比較的高純度なアモルファスシリカ等が挙げられる。
ガラス3の含有量は3〜9重量部である。また、酸化アルミニウムの含有量は1.5〜4.5重量部である。
前述したガラス2は酸化アルミニウム粒子が接触しなければ950℃程度以下では十分に焼結しにくい。一方、ガラス3はBの含有量が40〜50重量%である低軟化点ガラスである。焼結時において軟化したガラス3に酸化アルミニウム粒子が接触し、拡散することで、ガラス2に対して酸化アルミニウム粒子を含む液相で十分に濡らすことが可能になる。この結果、高い焼結性が得られ、950℃程度以下の焼成温度でも十分な焼結が可能となる。さらに、酸化アルミニウム粒子を含む液相とガラス1、石英およびアモルファスシリカとが焼結する際に、後述する分相状の焼結体組織に変化する。この結果、後述する保形性および焼結性がさらに向上する。
ガラス3の含有量が3重量部より少ない場合は、焼結時に液相の生成が不十分となりやすく、素体全体を液相で濡らすことが困難になり、焼結体組織が不均一になりやすい。ガラス3の含有量が9重量部より多い場合は、焼結工程において、液相の生成が過剰となりやすく、後述する焼失材の焼失により生じた空隙をつぶすとともに、過剰に生成した液相が冷却時に固体化し、誘電体磁器がセッターに張りつくセッター貼付不良が発生しやすくなる。
酸化アルミニウムの含有量が1.5重量部より小さい場合には、焼結時に液相の生成が不十分となりやすく、素体全体を液相で濡らすことが困難になり、焼結体組織が不均一になりやすい。酸化アルミニウムの含有量が4.5重量部より大きい場合には、焼結過程でガラス相の軟化が進み過ぎ、後述する焼失材の添加による比誘電率低下効果が十分に発揮されにくくなる。さらに、酸化アルミニウム自体の比誘電率(約10)の高さにより、誘電体磁器の比誘電率も高くなりやすくなる。
また、酸化アルミニウムの種類に特に制限はないが、微細かつ結晶性の低い酸化アルミニウム粒子を用いることが好ましく、平均粒径が2μm以下の酸化アルミニウムを用いることが好ましい。
本実施形態に係る誘電体組成物は、上記の構成を有すること、特にガラス1、石英およびアモルファスシリカの合計を70重量部以上とすることで、誘電体組成物自体の比誘電率を5.0以下に抑制することが可能になる。
さらに、本実施形態に係る誘電体磁器は、ガラス2を主成分に含み、添加物としてガラス3および酸化アルミニウムを含むことで、保形性を著しく向上させることができる。保形性が向上するメカニズムは不明であるが、本発明者らは以下の通りであると考える。
ガラス2は添加物であるガラス3および酸化アルミニウムと反応することで、軟化および焼結を促進する。その結果、ガラス1、石英およびアモルファスシリカと、ガラス2、ガラス3および酸化アルミニウムと、が焼結過程において軟化、混合されることになる。そして、主に石英および/またはアモルファスシリカからなるSiOリッチ粒子が誘電体磁器の組織中に生成し、ガラス相中に分散する現象が生じる。そして、ガラス相とSiOリッチ粒子とに分相した分相状の焼結体組織が得られる。当該分相状の焼結体組織により保形性が向上すると本発明者らは考える。
保形性が向上することにより、後述する焼失材の添加によって焼結時に生じさせることができる空隙が潰れにくくなる。具体的には、950℃程度以下の焼成温度領域で焼成する場合に、焼結後の誘電体磁器において空隙が残存可能となる。最終的に得られる誘電体磁器の比誘電率は、空隙が残存することで、誘電体組成物自体の比誘電率から格段に低誘電率とすることができる。
積層コモンモードフィルタ1の製造方法
本実施形態の積層コモンモードフィルタは、従来の積層コモンモードフィルタと同様に、非磁性体グリーンシートおよび磁性体グリーンシートを作製し、グリーン状態の本体積層部10、10a、10bを形成し、これを焼成した後、外部電極1〜9、2a〜5a、61、71を形成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
非磁性体グリーンシートの製造
まず、非磁性体層を構成することとなる誘電体磁器の原料、すなわち誘電体組成物の原料を準備する。
誘電体組成物の原料としては、SiO−KO−B系ガラス(ガラス1)、SrO−CaO−SiO−Al−B系ガラス(ガラス2)、SrO−SiO−B系ガラス(ガラス3)、石英、アモルファスシリカおよび酸化アルミニウムを用いることができる。また、いずれも市販のものを用いることができる。
本実施形態では、まず、誘電体組成物の各原料を混合する。混合を行う方法としては、特に限定されないが、たとえば、原料粉末を粉体状態で乾式混合により行っても良いし、原料粉末に水や有機溶媒や分散剤などを添加し、ボールミル等を使用し、湿式混合により行っても良い。
湿式混合後、得られたスラリーを乾燥機にて乾燥し、誘電体組成物原料を得る。
さらに、誘電体組成物原料の他に焼失材を準備する。焼失材としては、市販の樹脂微粒子を用いることができる。樹脂微粒子の平均粒径には特に制限はないが、2〜5μmが好ましい。また、樹脂微粒子は単分散であることが好ましい。
次に、乳鉢を用いて誘電体組成物原料および樹脂微粒子を混合する。誘電体組成物原料と樹脂微粒子との混合割合(重量割合)に特に制限はないが、誘電体組成物原料/樹脂微粒子=80/20〜90/10とすることが好ましく、さらに好ましくは80/20〜87.5/12.5である。
さらに、混合粉末に有機ビヒクルを添加して非磁性体層用ペーストを作製する。
また、コイル用導体用ペーストは、たとえば銀などの導電材と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
上記した非磁性体層用ペーストおよびコイル用導体用ペーストの中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、例えば、焼成前粉体100重量%に対して、バインダーは5〜30重量%程度、溶剤は50〜150重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
次に、非磁性体層用ペーストをドクターブレード法などによりシート化し、非磁性体グリーンシートを形成する。
次に、上記にて作製した非磁性体グリーンシート上に、コイル用導体を形成する。コイル用導体の形成は、コイル用導体用ペーストをスクリーン印刷等の方法によって、非磁性体グリーンシート上に形成する。なお、コイル用導体の形成パターンは、製造するコモンモードフィルタの回路構成等に応じて適宜選択すればよい。
次に、非磁性体グリーンシート上のコイル用導体にスルーホールを形成する。スルーホールの形成方法としては、特に限定されないが、たとえばレーザー加工などにより行うことができる。なお、スルーホールの形成位置は、コイル用導体上であれば特に限定されない。
磁性体グリーンシートの製造
まず、磁性体層および芯体用磁性体を構成することとなる磁性体材料の主成分原料を塗料化して、磁性体層用ペーストを調製する。磁性体層用ペーストは、上記の磁性体層用ペーストと同様に調製すればよい。
主成分原料としては、酸化鉄(α−Fe)、酸化銅(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)、あるいは複合酸化物などを用いることができる。さらに、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。また、磁性体の原料として、上記主成分以外にも必要に応じて添加物の出発原料を含有してもよい。
なお、誘電体材料は、磁性体層用ペーストとする前に、磁性体材料を構成する各出発原料の混合粉体を予備焼成し、その後、粉体の粉砕を行ってもよい。
そして、磁性体層用ペーストをドクターブレード法などによりシート化し、磁性体グリーンシートを形成する。
グリーンシートの積層
次に、上記にて作製した各非磁性体グリーンシートおよび磁性体グリーンシートを、順に積層し、グリーン状態の本体積層部10を形成する。
本体積層部の焼成および外部電極の形成
次に、磁性体グリーンシートおよび非磁性体グリーンシートを順次積層することにより作製したグリーン状態の本体積層部を焼成する。焼成条件としては、昇温速度を好ましくは50〜500℃/時間、さらに好ましくは200〜300℃/時間、保持温度を好ましくは840〜900℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、さらに好ましくは1〜3時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、さらに好ましくは200〜300℃/時間とする。
焼成後の非磁性体グリーンシート(誘電体磁器組成物)は焼成により有機ビヒクルが蒸発し、焼失材である樹脂微粒子が焼失している。この際、誘電体組成物および誘電体磁器の保形性が低いと焼失材の焼失により生じた空隙が周囲の誘電体組成物により潰れてしまい、十分な空隙を有する誘電体磁器が得られない。本実施形態に係る誘電体磁器は、上記の構成を有する誘電体組成物を用いるために、保形性が向上し、焼成によって生じた空隙が潰れず、十分な空隙を有する誘電体磁器となる。そして、当該誘電体磁器は十分な空隙を有することにより、誘電体組成物自身の比誘電率と比較して、十分に比誘電率を低下させることができる。
誘電体磁器が空隙を有するか否かについての判断方法には特に制限はない。例えば、誘電体磁器を破断した断面をFE−SEMで観察して得たSEM画像から目視で空隙の有無を確認することができる。
また、誘電体磁器の焼結体組織が均一であることが好ましい。焼結体組織が均一であるとは、空隙が均一に分散していることを意味する。本実施形態では、焼結体組織の均一性はSEM画像の目視にて判断することが可能である。また、誘電体磁器の開気孔率によっても判断することができ、開気孔率が低いほど焼結体組織の均一性が高い。開気孔率が低いことにより、後述する電極焼付後のめっき時に空隙に侵入するめっき液を少なくすることができ、めっき液によるショートを防止することができる。
開気孔率の測定方法に特に制限はないが、JIS−1634に記載の方法により実施することができる。なお、JIS−1634には開気孔率が10%以上の場合には適用しない旨が記載されているが、本実施形態では当該記載は無視する。開気孔率が10%以上の場合でも、焼結体組織の均一性を判断する上では十分に正確な開気孔率を測定できるためである。開気孔率には特に制限はないが、15%未満とすることが好ましい。開気孔率が15%以上であると、後述する電気めっき時にめっき液が侵入しやすくなり、特性の低下を招く場合がある。
なお、本実施形態に係る誘電体組成物および誘電体磁器には、上述した成分以外に、誘電体組成物原料中の不可避的不純物元素の酸化物が数ppm〜数百ppm程度含まれていてもよい。
また、本実施形態に係る非磁性体グリーンシートの製造では、主成分原料と添加物原料とを同時に混合等した後に焼失材を添加し塗料化して非磁性体層用ペーストを調整するが、これに限定されるものではなく、必要に応じて、主成分原料のみ、または、主成分原料および添加物原料の混合物を予備焼成(仮焼き)することができ、予備焼成にて得られた粉体を焼失材と混合し粉砕して塗料化したものを非磁性体層用ペーストとすることができる。また、主成分原料、添加物原料および焼失材を全て同時に混合してもよい。
次に、焼成を行った本体積層部に、たとえばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、本体積層部の両側面に外部電極用ペーストを塗布・乾燥した後、焼き付けする。外部電極用ペーストは、たとえば銀などの導電材と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製することができる。なお、このようにして形成した外部電極上には、Cu−Ni−Sn、Ni−Sn、Ni−Au、Ni−Ag等で電気めっきを行うことが好ましい。
以上、本発明の第1実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
第1実施形態では、誘電体磁器を、コモンモードフィルタのフィルタ部を構成する非磁性体層として用いている。しかし、上記の用途に特に制限されることはなく、各種電子部品の非磁性体層としても好適に用いることができる。
第1実施形態では、積層複合電子部品としてコモンモードフィルタを例示したが、積層複合電子部品としては、積層型フィルタに限定されない。また、第1実施形態に係る誘電体磁器を、積層複合電子部品以外、たとえば、LC複合電子部品に適用することも可能である。
また、第1実施形態に係る誘電体磁器は、コイル用導体および非磁性体層が積層して構成されるコイル部を有する積層セラミックコイルにおける非磁性体層に適用してもよい。この場合には、コイル用導体としてAgを導電体とすることが好ましい。
(第2実施形態)
以下、第2実施形態に係る誘電体磁器について説明する。また、第1実施形態との共通点については、説明を省略する。
第2実施形態に係る誘電体磁器は、独立空隙を有する基材からなる誘電体磁器であって、前記基材が、ガラス相を有し、前記ガラス相は内部にSiOリッチ粒子が分散していることを特徴とする。
第2実施形態に係る誘電体磁器のFE−SEM画像を図3に示す。
第2実施形態における独立空隙101とは、誘電体磁器において外部と連結した開気孔となっておらず、周囲を基材に囲まれた空隙のことである。第2実施形態に係る誘電体磁器は、独立空隙101を有する基材からなることにより、比誘電率を著しく低下させることができる。また、独立空隙101は、外部と連結した開気孔ではないため、めっき液が侵入することがない空隙である。
また、第2実施形態における基材は、ガラス相105の他にSiOリッチ粒子相103を有することに特徴がある。すなわち、ガラス相105は内部にSiOリッチ粒子が分散していることに特徴がある。
FE−SEM画像(図3)では、独立空隙101は黒色となり、SiOリッチ粒子相103が黒色に近い灰色、ガラス相105が白色に近い灰色となる。
また、SiOリッチ粒子相103は、ほぼ100wt%(96wt%以上)がSiO、すなわち後述する石英および/またはアモルファスシリカからなる相である。これに対し、ガラス相105は、主に後述するSiを含むガラス等からなる。ガラス相105におけるSiの含有量を40〜70wt%とすることができる。Siの含有量が上記の範囲内であることにより、ガラス相自体の誘電率を低く保つ効果が得られる。なお、SiOリッチ粒子相103およびガラス相105におけるSiの含有量は、例えばSTEM―EDXを用いて測定することができる。
本実施形態に係る基材が上記のガラス相105のみを有するのではなく、上記のガラス相105およびSiOリッチ相103を有することで、保形性が高まる。このことにより、焼結体組織が均一となりやすく、空隙の存在による比誘電率の低下、良好な絶縁抵抗の維持、および、空隙が独立空隙であることによる開気孔率の低減を同時に達成しやすくなる。なお、開気孔率は15%未満であることが好ましい。比誘電率は3.9以下であることが好ましい。
第2実施形態の誘電体磁器は、基材がガラス系セラミック材料からなり、独立空隙を含む。基材の組成には特に制限はないが、主成分が、SiO−KO−B系ガラス、MO−SiO−Al−B系ガラス、石英およびアモルファスシリカを含有し、添加物としてSrO−SiO−B系ガラスおよび酸化アルミニウムを含有することが好ましい。基材の組成が上記の組成であることにより、線膨張係数をNiCuZnフェライトの線膨張係数に近づけやすくなる。なお、石英がSiOリッチ粒子のうちの石英粒子発生の核となり、ガラス中のNaがSiOリッチ粒子のうちの石英粒子を析出させやすくし、ガラス中のAl成分がSiOリッチ粒子のうちの石英粒子を析出させにくくする。
以下、SiO−KO−B系ガラスをガラス1、MO−SiO−Al−B系ガラスをガラス2、SrO−SiO−B系ガラスをガラス3と呼ぶことがある。
ガラス1の含有量とガラス2の含有量との合計は、48〜54重量部であることが好ましい。ガラス2の含有量は、22〜30重量部であることが好ましい。石英の含有量は、12〜18重量部であることが好ましい。主成分の残部は、アモルファスシリカのみから構成されていてもよい。
ガラス3の含有量は3〜9重量部であることが好ましい。また、酸化アルミニウムの含有量は1.5〜4.5重量部であることが好ましい。
開気孔率の上限は特にないが、15%未満とすることが好ましい。また、開気孔率が低い場合には、焼失材の焼失により生じた独立空隙が焼成時に過剰に液相化したガラスにつぶされている場合がある。開気孔率が低い場合には、めっき液に対する信頼性および耐湿試験の結果が良好になりやすい傾向があるものの、比誘電率が低下しにくくなる傾向がある他、焼成時に過剰に液相化したガラスが固体化するときに誘電体磁器とセッターが貼り付くセッター貼付不良が生じている場合がある。ガラスが過剰に液相化する要因としては、ガラスの組成や焼成温度などがある。
以下、実施例により発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
まず、誘電体組成物を構成する主成分原料として、SiO−KO−B系ガラス(ガラス1;ガラス転移点510℃、平均粒径3.3μm)、MO−SiO−Al−B系ガラス(ガラス2;線膨張係数68×10−7/℃、軟化点770℃、平均粒径2.0μm)、石英およびアモルファスシリカを準備した。また、添加物原料として、アルミナ(Al)およびSrO−SiO−B系ガラス(ガラス3)を準備した。なお、SiO−KO−B系ガラス、MO−SiO−Al−B系ガラスおよびSrO−SiO−B系ガラスとしては、市販のガラスを用いた。アルミナとしては市販の平均粒径が2μm以下のものを用いた。
そして、上記原料を表1に示す組成となるように秤量し、ボールミルにより24時間湿式混合した。湿式混合後、得られたスラリーを乾燥機にて乾燥し、誘電体組成物を得た。得られた誘電体組成物に焼失材として樹脂微粒子を添加し、乳鉢を用いて混合した。樹脂微粒子としては、平均粒径が3μmで単分散である市販の架橋樹脂微粒子を用いた。樹脂微粒子の平均粒径の測定はFE−SEM観察で行った。なお、実施例1では、誘電体組成物と焼失材との重量比を85:15で一定とした。
得られた誘電体組成物と樹脂微粒子との混合物に、アクリル樹脂系バインダーを添加して顆粒とした後、加圧成形し、17Φディスク形状の成形体を得た。この成形体を、空気中、900℃にて、2時間焼成して誘電体磁器を得た。得られた誘電体磁器に対し、以下の評価を行った。
[比誘電率εs]
得られた誘電体磁器に対し、ベクトルネットワークアナライザー(Agilent Technologies社製 PNA N5222A)を使用して、共振法により測定を行い、比誘電率(単位なし)を算出した。評価基準は、3.9以下を良好とした。結果を表1および2に示す。
[絶縁抵抗ρ]
まず、電極を形成した誘電体磁器に対し、絶縁抵抗計(HEWLETT PACKARD社製4329A)を使用して、25℃においてDC25Vを30秒間印加した後の抵抗値を測定した。そして、この測定値と、電極面積および厚みとから、絶縁抵抗ρ(Ω・m)を算出した。本実施例では、20個の試料について測定を行い、その平均を求めることにより評価した。評価基準は、1.0×10Ω・m以上を良好とした。結果を表1に示す。
[線膨張係数α]
得られた誘電体磁器に対し、熱膨張計(BRUKER AXS社製TD5000SA)を使用して、25℃から700℃までの熱膨張を測定し、熱膨張係数α(10−7/℃)を算出した。評価基準は、90×10−7/℃〜110×10−7/℃を良好とした。結果を表1に示す。
[焼結体組織の均一性(開気孔率)]
開気孔率の測定はJIS−1634に記載の方法により実施した。具体的には以下に示す方法で実施した。なお、JIS−1634には開気孔率が10%以上の場合には適用しない旨が記載されているが、本実施例では当該記載を無視し、開気孔率が10%以上の場合にもJIS−1634に記載の方法を適用した。
得られた誘電体磁器に対し、乾燥重量を測定後、水中で脱泡処理し、水中重量および含水重量を測定した。得られた水中重量および含水重量の値を用いてアルキメデス法による比重を算出すると共に、吸水率を算出した。併せて、開気孔率を算出した。本実施例では、開気孔率15%未満である場合に焼結体組織が均一であると評価した。以下に示す表1および表2では、焼結体組織が均一である場合を○、焼結体組織が均一ではない場合を×と評価した。
[セッター貼付不良]
上記と同様にして誘電体磁器を5個焼結し、セッター貼付不良が生じたか否かを観察した。セッター貼付不良が生じなかった場合を○、1個でもセッター貼付不良が生じた場合を×とした。
Figure 2017186223
表1に示されるように、本発明に係る誘電体磁器(試料5〜7、13〜15、20〜22、27〜29、29aおよび34〜36)では、比誘電率、絶縁抵抗および線膨張係数のいずれの評価においても良好であることが確認された。さらに、開気孔率が低く焼結体組織の均一性が高くセッター貼付不良が生じないことが確認された。
これに対し、ガラス1とガラス2との合計重量が小さすぎる誘電体磁器(試料3)では、絶縁抵抗、線膨張係数および焼結体組織の均一性が悪化することが確認された。試料3では、焼結時における軟化量が不十分となり、ガラス相に取り込まれないフィラー粒子が多数存在していると考えられる。そして、当該フィラー粒子により焼失材の焼失で生じた空隙が立体的に連結した開気孔となり、焼結体組織の均一性等が悪化していると考える。
また、本発明の組成から外れる組成を有する誘電体磁器には、比抵抗の低下、焼結体組織の均一性の悪化、セッター貼付不良、線膨張係数の許容範囲からの逸脱および/または絶縁抵抗の低下が生じる場合があることが確認された。
実施例2
実施例1の試料6について、ガラス系セラミック材料の組成を一定とし、誘電体組成物(主成分+添加物)と焼失材との重量比のみを変化させて試料42〜46を作成した。また、ガラス1の含有率とアモルファスシリカの含有率とを試料45から変化させた試料48を作成した。さらに、ガラス系セラミック材料と焼失材との比を試料48から変化させた試料41を作成した。結果を表2に示す。
Figure 2017186223
表2より、誘電体組成物(主成分+添加物)と焼失材との重量比を80/20〜90/10の範囲内で変化させても、得られた誘電体磁器(試料43〜46および48)は比誘電率、絶縁抵抗および線膨張係数のいずれの評価においても良好であることが確認された。さらに、開気孔率が低く焼結体組織の均一性が高いことが確認された。
誘電体組成物(主成分+添加物)と焼失材との重量比を75/25とした試料41および42の比較例は、焼失材が多すぎるために誘電体組成物が空間に占める割合が減少している。この場合、誘電体磁器が焼成時に軟化しても誘電体粒子同士の距離が遠くなるため、開気孔となりやすくなる。したがって、焼結体組織が不均一となりやすくなる。
実施例3
開気孔率が5%であり焼結体組織が均一である試料45(実施例)、および、開気孔率が23%であり焼結体組織が均一ではない試料3(比較例)について、FE−SEMを用いて破断面のSEM画像を観察した。試料45のSEM画像を図4、試料3のSEM画像を図5に示す。
開気孔率が低く焼結体組織が均一な図4では略球形である焼失材(樹脂微粒子)の焼失により生じた独立空隙が多数みられる。独立空隙はそのほとんどが閉気孔であり、閉気孔には端子焼付後にめっきを行うためのめっき液は実質的に侵入しないと考えられる。また、STEM−EDXを用いて試料45のガラス相のSi含有量を測定したところ、40〜70%の範囲内であった。これに対し、開気孔率が高い図5では独立空隙が見られない。焼失材の焼失により生じた空隙同士が立体的に連結して大きな空隙になっている。当該空隙の多数が開気孔となり、そこから端子電極焼付後にめっきを行うためのめっき液が侵入する不具合が発生し、当該誘電体磁器を含むコモンモードフィルタの特性が低下すると考えられる。また、他の試料についても破断面のSEM画像を観察したところ、焼結体組織が均一な実施例の試料では独立空隙がみられたが、焼結体組織が均一ではない比較例の試料では、独立空隙がみられなかった。
1…積層コモンモードフィルタ
10、10a、10b…本体積層部
1〜9、61、72…外部電極
12〜19、12a〜15a…コイル用導体
20…内装部
21〜25…内層側非磁性体層
26、26a、26b…外層側非磁性体層
30、30a〜30c…外装部
31、32…磁性体層
33、34…芯体用磁性体
41〜44、41a、43a…スルーホール電極
51〜55…ESD用導体層
101…独立空隙
103…SiOリッチ粒子相
105…ガラス相

Claims (3)

  1. 独立空隙を有する基材を有する誘電体磁器であって、
    前記基材が、ガラス相を有し、
    前記ガラス相は内部にSiOリッチ粒子が分散しており、
    NiCuZn系フェライトと一体化可能な線膨張係数を有することを特徴とする誘電体磁器。
  2. 前記ガラス相に含まれるSiの割合がSiO換算で40〜70wt%である請求項1に記載の誘電体磁器。
  3. コイル用導体および非磁性体層で構成されるフィルタ部と、
    磁性体相を含む外装部と、を有し、
    前記コイル用導体が、導電材としてAgを含んでおり、
    前記非磁性体層が請求項1または2に記載の誘電体磁器で構成されていることを特徴とする積層複合電子部品。
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