排水路の新設又は古くなった排水路を撤去して当該箇所に新設の排水路を設置するに際し、従来同様のコンクリート製排水路を高所や傾斜地等で設置するとなると大型のクレーン等の重機器類の投入や多くの作業員を必要としていた。
また、近年の気候変動に伴い集中豪雨が多発し、従来では想定されなかった量の雨水が短時間に集中的に排水路に流入し、排水容量を超えて雨水の溢れ出し現象が生じている。この雨水のオーバーフローを防止するためには、従来のものより排水容量の大きな断面を有する排水路を設置したり、従来の排水路に換えて大容量のものに設置し直す必要が生じている。
上記に対応するためには大型のコンクリート製排水路の新設又は既設のコンクリート製排水路を撤去して排水容量の大きな断面のコンクリート製排水路へと設置し直すことになるが、いずれの場合も、従来のものより更に重量の大きな排水路の設置作業が必要となり、多くの作業員と時間と大型のクレーン等の重機器類を使用する必要があった。
特に、排水路を高所や法面等の傾斜地に設ける場合には、その設置にはより多くの作業員や時間及び大きな重機器類の投入が必要となり、更に、多くの危険を伴い、困難な作業を強いられるものであった。
また、既設の排水路を排水容量の大きな排水路へと交換するためには、当該既設の排水路の撤去後に、設置場所の拡幅作業を行い、新設の重量の有る大きなコンクリート製排水路へと設置し直す作業を行わなければならなかった。
他方、下記する特許文献1は、既設の側溝を除去することなく該側溝内に側溝嵩上げ材を入れ込むことで新設の側溝を形成するものであるが、該側溝嵩上げ材の周囲の原地盤面上に客土して嵩上げ地盤面を形成する必要があった。更に、排水路設置のための施工作業の簡便化を図ったものではなく、また、排水容量を増加することを可能とした排水路でもなく、本発明の課題を解決できるものではなかった。
本発明は、上記欠点を解決したもので、新設のための排水路への対応はもとより、既設の排水路を取り除くことなく従来のものより排水容量を増加させることを可能とした排水路を形成すると同時に、コンクリート製排水路に換えて軽量の薄板となる金属製材料或いは繊維強化合成樹脂材料等により排水路を形成することで作業員数や時間の省力化を達成し、且つ、危険な作業をなくし、大型の重機器類を投入使用する必要のない排水路形成部材の提供並びにその排水路形成部材を使用することで新設又は既設の排水路を改修構築できる排水路の提供及びその排水路の施工方法を提供するものである。
本発明は、長手方向に延出した底部及び該底部より立ち上がった両側壁よりなり上方部を開口部とした断面略U字形状とした排水路形成用薄板部材において、両側壁上端部を水平又はそれに近い状態で外方へ突出させて鍔部とし、該鍔部のいずれか一方又は両方の平面部に間隔を有して複数の充填材用貫通孔を設けた排水路形成部材を特徴とする。
また、底部又は/及び両側壁の背面側に付着力増加手段を形成してなる排水路形成部材を特徴とする。
更に、鍔部のいずれか一方又は両方の外方側端部を下方へ折り曲げてなる排水路形成部材を特徴とする。
また、いずれか一方の側壁の底部からの高さを他方の側壁より高く形成してなる排水路形成部材を特徴とする。
更に、両側壁間の底部側の幅を開口部側の幅よりやや狭く形成した排水路形成部材を特徴とする。
また、上記に記載した排水路形成部材を掘削地盤内に配設し、一方側鍔部を山側にし、他方側鍔部を谷側にして固定設置してなる排水路を特徴とする。
また、上記に記載した排水路形成部材を、設置済の既存の排水路の内側に挿入し、一方側鍔部を山側にし、他方側鍔部を谷側にして固定設置してなる排水路を特徴とする。
更に、掘削地盤内の底部又は設置済の既存の排水路の底部にモルタルを流し込んでモルタル層を形成し、該モルタルの流動状態下で、上記排水路形成部材を底部へ押し込み、該モルタルを該排水路形成部材の両側壁裏面側及び鍔部裏面側に生じている隙間に流動させ、該鍔部に設けた充填材用貫通孔よりモルタルが排出することにより隙間が充填されたことを確認してなる排水路の施工方法を特徴とする。
また、設置済の既存の排水路に上記排水路形成部材を挿入し、該排水路形成部材の底部、両側壁及び両鍔部の各々の裏面と該既存の排水路の底部、両側壁及び両天端部とに生じている隙間に、鍔部に設けた充填材用貫通孔のいずれかから充填材を充填し、他の充填材用貫通孔から充填材が排出することにより隙間が充填されたことを確認してなる排水路の施工方法を特徴とする。
本発明の排水路形成部材及びその施工方法は、軽量部材を採用することにより高所や傾斜地等の作業が困難な施工場所でも少ない作業員数での短時間作業で安全に排水路を構築することが可能となった。
また、古くなった既設の排水路を撤去することなく、本発明の排水路形成部材をその内側に挿入することで新設同様の排水路を構築することが可能となった。
更に、従来のものと比較して設置場所を拡幅する掘削作業や大規模な盛土等をすることなく排水容量を増加させることのできる排水路を構築することが可能となった。
また、傾斜地を利用することで排水容量を大幅に増加させることのできる排水路を構築することが可能となった。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1(a)、(b)は、本発明の薄板体を折り曲げ又は溶接等により連結することで一体化形成した板状体の成形体(以下、排水路形成部材という)の断面形状及び斜視図を示すものである。ステンレス製やその合金又は他の金属製材料或いはガラス繊維、炭素繊維等で補強された繊維強化合成樹脂材料等の防水性の良好な或いは防水処理した薄板を成形して断面略U字形状とし、その両側壁上端より鍔部を設けた排水路形成部材1である。例えば、ステンレス製にあっては約1.2mm厚のものが最適である。
該排水路形成部材1は、底部2、右側壁3、左側壁4、該右側壁3の右側上端部5より外方へ延出した一方側鍔部6及び該左側壁4の左側上端部7より外方へ延出した他方側鍔部8とより構成している。
該排水路形成部材1は、底部2と右・左の側壁3、4によって断面略U字形状とし、内側となる表面側を防水性で摩擦の少ない平滑面に形成し、長手方向に連続形成することで流動性の良好な水路を形成することが可能となる。
他方、該排水路形成部材1の外側となる該底部2及び該右側壁3、左側壁4の裏面側には、リブや凹凸部、或いは目荒し加工、腐食加工、塗材の吹き付け等の付着力増加手段9を設け、排水路形成部材1を設置するための掘削部となる地盤、補強地盤或いは先行して打設したモルタルやコンクリート等との付着力を高めることのできる手段としている。
該右側壁3の右側上端部5及び該左側壁4の左側上端部7から水平方向に一方側鍔部6及び他方側鍔部8を形成し、排水路形成部材1を設置するための掘削部の周縁となる地盤や補強地盤或いはコンクリート構造体等の補強体の上或いは上方に該一方側鍔部6及び他方側鍔部8が位置できるように形成している。
上記構成よりなる該排水路形成部材1を、図2に示すように、地盤の掘削部Aに設置する場合、排水路を構築する場所を掘削し、その掘削部Aを早強コンクリートやシールコンクリートを吹き付けたり、超速硬化ポリウレタン樹脂等の合成樹脂材を吹き付けたりすることで補強し或いはコンクリート等を打設して補強して該排水路形成部材1が設置できる形状を保持し、且つ、防水処理等の下地処理を施し、必要に応じて接着性の良好な状態となるように表面処理し、その内側に、排水路形成部材1を嵌入設置することになる。
また、掘削部Aの周縁となる表面側の地盤も、上記同様、必要に応じて早強コンクリートやシールコンクリートを吹き付けたり、超速硬化ポリウレタン樹脂等の合成樹脂材を吹き付けることで補強し、或いはコンクリート等を打設して補強地盤面として排水路周辺部の強度を高めることができる。設置後は排水路形成部材1と地盤との取り合い箇所をシール材等により防水処理を施すことになる。
上記一方側鍔部6及び他方側鍔部8の両方或いはいずれか一方の平面部に充填材Bを充填するための充填材用貫通孔10が設けられている。該充填材用貫通孔10を複数箇所に設けておくことにより、排水路形成部材1を掘削部Aに設置後、該排水路形成部材1の裏面側と掘削部Aとの間に生じている隙間Cに向けて該充填材用貫通孔10より注入管Dを挿入し、モルタルや樹脂材等の充填材Bを圧力をかけながら注入することで隙間Cが充填され、両者を一体化することができる。
隙間Cが充填されたことは、他の位置に形成された充填材用貫通孔10からの充填材Bの排出を目視することで確認することができる。排水路形成部材1の端部側となる未連結側の開放されている底部2や右・左側壁3、4と掘削部Aとの間に生じている隙間Cは、当て材等により閉塞することで、該端部側からの充填材の流出を防ぐことができる。
また、該鍔部6、8に、掘削部Aの周縁となる地盤、補強地盤或いは補強体等と固定するためのアンカーEを挿入するための打ち込み孔11を設けておき、上記充填材Bの充填と該打ち込み孔11からのアンカーEとにより排水路形成部材1の浮き上がり防止のための強固な固定手段としている。上記充填材用貫通孔10の使用後は、未使用の充填材用貫通孔10を含め閉塞し、シール材等により防水処理することになる。アンカーEのための打ち込み孔11も同様とする。
図3(a)、(b)は、上記構成よりなる排水路形成部材1を掘削部Aに固定する他の実施例を示すものである。図3(a)に示すように、掘削部Aの底部にモルタル等の流動性固定材Fを流し込んで下層を形成し、該下層がワーカビリティーの良好な流動状態を維持している時点で該排水路形成部材1を掘削部Aに嵌入して押し込み、その押し込み圧により、図3(b)に示すように、該流動性固定材Fが該排水路形成部材1の底部2の裏面側から両側壁3、4の裏面側及び両鍔部6、8の裏面側へと流動し、該流動性固定材Fの充填材用貫通孔10からの排出を目視することで隙間Cが充填されたことを確認することができる。充填後は地盤等との取り合い箇所や充填材用貫通孔10、打ち込み孔11等をシール材等により防水処理を施すことになる。
上記掘削部Aへの排水路形成部材1の設置により、図4の斜線で示すように、掘削部Aの掘削幅及び掘削深さが同一であれば、本発明の排水路形成部材1は、従来のコンクリート製の断面U字形排水路の側壁部及び底部の部材厚に比較して薄板体で形成しているので、その厚さ分だけ多くの排水容量を確保することが可能となる。
図5は、排水路形成部材1の他の実施例で、左側壁4の底部2から左側上端部7までの高さを、右側壁3の右側上端部5の底部2からの高さより高く形成し、その各々の右・左上端部5、7より一方側鍔部6及び他方側鍔部8を外方へ延出させ充填材用貫通孔10を形成している。材質や機能面、部材厚等は実施例1のものと同様である。上記した掘削部Aにおいて、雨水が多く流れ込む傾斜地に設置し、排水路の排水容量を大きくすることを目的とするものである。右側壁3を傾斜地の山側に位置させ、左側壁4を雨水をせき止めることが可能な谷側に位置させて掘削部Aに嵌入設置し固定している。
該排水路形成部材1を山側を法面等とした傾斜地に設置する場合、図6に示すように、該一方側鍔部6を傾斜地盤G側に位置させ、隙間Cへの充填材用貫通孔10からの充填材Bの充填やアンカーボルトや表面処理した差し筋等のアンカー(以下、単にアンカーEという)を掘削部Aの周辺地盤や該傾斜地盤Gへの打ち込みにより強固に固定することができる。
該他方側鍔部8は、その周辺部を立ち上げ、樹脂やコンクリート等により補強した盤面とすることで排水路周辺の強度を高めながら嵩上げ地盤Hを形成し、その表面側を該他方側鍔部8で覆い、隙間Cへの充填材Bの充填や嵩上げ地盤及び強固な地盤へのアンカーEの打ち込みにより強固に固定することができる。固定後は傾斜地盤Gや嵩上げ地盤H等との取り合い箇所や充填材用貫通孔10、打ち込み孔11等をシール材等により防水処理を施すことになる。
これにより、図7に示すように、右方となる山側からの雨水を谷側となる該左側壁4が堰面となり、通常の大きさの断面略U字形状の排水路で得る排水容量より斜線部で示した分の排水容量の増加を図ることが可能となる。また、傾斜地盤Gの表面側を補強して補強傾斜面Jとすることにより、該傾斜地盤Gを排水路の一部とすることが可能となる。
例えば、右側壁3の底部2からの右側上端部5の位置までの内寸高を240mm、右・左側壁3、4間の内寸幅を240mmとしたU字形状の断面積は57,600mm2となるが、左側壁4を底部2から左側上端部7の位置までの高さを150mm高くし、一方側鍔部6の水平部の長さを200mm、傾斜地盤Gの傾斜角度を45度とすると、斜線部で示す領域は36,000mm2+30,000mm2+11,250mm2の合計77,250mm2となり、大幅な断面積増加となり、2.3倍以上の排水容量を確保することが可能となる。底部2から左側上端部7の位置までの高さは、必要に応じて適宜選択することができる。
図8に示すように、一方側鍔部6及び他方側鍔部8には周縁部の形状に合わせるように様々な形状のものが考えられる。図8(a)は、一方側鍔部6又は/及び他方側鍔部8をその先端部を下方側へ折り曲げた実施例を示している。図8(b)は、一方側鍔部6をその先端部より斜め上方側へ折り曲げ延出させ、他方側鍔部8をその先端部より斜め下方側へ折り曲げ延出させたものである。
また、図8(c)は、左側壁4の立ち上がった左側上端部7から水平方向となる外方へ延出した他方側鍔部8を、その先端部から傾斜部及び該傾斜部8aの下端部より水平方向外方へ突出した延出部8bを形成した鍔部8で、該傾斜部8aや延出部8bをアンカーEによる地盤や嵩上げ地盤Hへの取り付け面としている。
更に、図8(d)は、左側壁4の立ち上がった左側上端部7から水平方向となる外方へ延出した他方側鍔部8を、その先端部から傾斜部8a及び該傾斜部8aの下端部より水平方向へ左側壁4側へ折り曲げた水平部8cを設けたもので、該傾斜部8a及び該水平部8cをアンカーEによる地盤への取り付け面としている。
上記一方側鍔部6及び他方側鍔部8の形状、地盤への取り付け位置、地盤、傾斜地盤G、嵩上げ地盤H、コンクリート補強盤等の形成及び取り付け手段は、上記実施例のみに限定されたものではなく、状況に応じて適宜組み合わせて対応することができる。
排水路形成部材1は、例えば、約1.2mmの薄板となる金属製材料或いは薄板の繊維強化合成樹脂材料等で形成し、その長手方向の長さを60cm〜120cmとすることにより軽量化を図ることができ、施工現場への運び込みを容易とすることができる。それらを現場において相互に連結することで長手方向に連続した排水路を形成することができる。
図9は、該排水路形成部材1の相互を連結する手段の一例を示している。図9(a)は、底部2及び右・左側壁3、4の外側面に裏板12を当てがって固定することにより連続一体化したものである。図9(b)は、右・左側壁3、4のいずれかの一端側に段部13を設け、該段部13に別体の排水路形成部材1の端部を重ねて固定して連続一体化したものである。
図10(a)に示すように、排水路形成部材1は、その断面U字形状となる底部2側の右・左側壁3、4間の幅W1を右側上端部5及び左側上端部7側となる開口部側幅W2より狭く形成することにより、図10(b)のように該排水路形成部材1の何枚かを重ね合わせることが可能となり、運搬及び設置作業を省力化することが可能となる。
排水路形成部材1を通常の地盤や傾斜地盤Gを掘削した掘削部Aに設置することで新設の水路として使用することができるが、図11に示すように、排水路形成部材1を既設のコンクリート製排水路20の内側に嵌入設置して固定することができる。
既設のコンクリート製排水路20が劣化し、補修ができない場合、或いは新設の排水路へ変更する場合等にあっては、該既設のコンクリート製排水路20を撤去し、所望の新設の排水路に設置換えすることになる。
そのためには、先ず、既設のコンクリート製排水路20を所定の大きさに破壊し、それをクレーン等で吊り上げ撤去することになるが、排水路を破壊する作業、その運搬作業及び破壊した材料の廃棄作業が必要になる。また、新設するためにはコンクリート製排水路の製造、その運搬作業、従来のものより排水容量の大きな排水路にあっては地盤の拡幅掘削作業、所定の位置に据え付けるための設置作業等の部材の製造から設置固定までに多くの作業が必要となる。
上記作業は、多くの作業員と重機器類を必要とし、時間と経費及び法面等の傾斜地にあっては危険を伴うものであった。そこで本実施例は、上記実施例で示した排水路形成部材1を既設のコンクリート製排水路20の内側に密着状態で嵌入固定することにより新設と同様の排水路を得ることができるようにしたものである。
図11に示すように、既設のコンクリート製排水路20に沈下が生じている場合、所定の排水勾配を得るために既設の排水路の底部21の内側表面に勾配調整用モルタル22を塗着する。また、コンクリート製排水路20の右・左側壁23、24に欠損25や亀裂26が生じている場合、モルタルや他の漏水防止手段により穴埋や充填作業を行い、補修する。
上記沈下によって生じた分の嵩上げ或いは上端部の補強のために必要に応じて既設のコンクリート製排水路20の周辺部にコンクリートを打設或いはコンクリートや樹脂を吹き付けたり注入することにより右左の補強層27、28を形成する。
上記既設のコンクリート製排水路20やその周辺部の地盤補修の後、底部21や右・左側壁23、24及び周辺部に早強コンクリートやシールコンクリートを吹き付けたり、超速硬化ポリウレタン樹脂等の合成樹脂材を吹き付けたり注入したり、接合部にエポキシ樹脂処理やプライマー処理等を施して接合部処理や防水処理を行う。
上記既設の排水路20やその周辺部の補修・補強、接合部処理、防水処理等の後、該排水路20の内側に排水路形成部材1を嵌入する。
既設の排水路20の内側に排水路形成部材1を嵌入した場合、開口部側の幅W2が底部2側の幅W1より拡開状態となるように形成しているので、既設のコンクリート製排水路20に嵌入したときに右・左側壁3、4の上方側が右・左側壁23、24の表面側へ強く押されることになり、既設のコンクリート製排水路20に強く密着することになる。また、断面U字形排水路内には雨水が溜まることになるので、その水圧は排水路形成部材1を拡げる方向に作用することになり、該排水路形成部材1は既設のコンクリート製排水路20の内側に強く密着して抜け出すことはない。
嵌入した時点では、排水路形成部材1の一方側鍔部6及び他方側鍔部8と既設のコンクリート製排水路20の右側上端部29と左側上端部30との間に隙間Kが生じるようにし、上記実施例と同様に、該鍔部6、8に設けた充填材用貫通孔10より注入管Dを介して上記隙間K及び既設のコンクリート製排水路20と排水路形成部材1との間の隙間Kにモルタルを充填する。
上記隙間Kへの充填は、実施例1の図2で示した方法又は実施例2の図3で示した方法と同様の方法或いはその組み合わせたもの等を採用することができる。
また、一方側鍔部6及び他方側鍔部8の表面側から充填層、補強層27、28や地盤、傾斜地盤Gに向けてアンカーEを打ち込むことにより排水路形成部材1を既設の排水路20を覆って強固に固定することが可能となる。地盤等との取り合い箇所、充填材用貫通孔10、アンカーEの打ち込み孔等についてはシール等の防水処理を施すことになる。
図12(a)は、図5に示す左側壁4側を高く形成した排水路形成部材1を既設のコンクリート製排水路20に嵌入した図を示している。左側壁4側の周縁部が高く形成されることになるが、該排水路形成部材1の設置方法やその後の処理等は上記実施例と同様である。
底部21の内側表面への勾配調整用モルタル22の塗着、右・左側壁23、24の欠損25や亀裂26の補修、周辺部の右左の補強層27、28の形成、接合部処理や防水処理の施工等、上記実施例と同様の処理を施した後、上記既設のコンクリート製排水路20の内側に左側壁4の高い排水路形成部材1を嵌着固定する。図12(b)に示すように、山側となる一方側が傾斜した法面の場合、該法面の傾斜地盤Gを雨水の貯留手段として利用することができる。該法面の傾斜地盤Gに法面に沿った補強傾斜面Jを右側補強層27に連続形成し、表面側に防水処理を施すことにより、排水路と同様の強化された排水面とすることができる。地盤等との取り合い箇所、充填材用貫通孔10、アンカーEの打ち込み孔等については防水処理を施すことになる。排水路形成部材1の部材厚は薄く、且つ、既設のコンクリート製排水路20の底部21や側壁23、24に密着固定されているので断面U字形排水路側の排水容量の減少は極めて少なく、斜線部で示す部分を大きな雨水の排水容量の増加領域とすることが可能となる。
上記では、補修が必要となった既設のコンクリート製排水路の補修後に、その大きさに沿って薄板の排水路形成部材1を内側に固定したものについて述べたが、新設したばかりの排水路であっても該排水路形成部材1を設置固定して排水容量を増加させることができる。
排水路の新設又は古くなった排水路を撤去して当該箇所に新設の排水路を設置するに際し、従来同様のコンクリート製排水路を高所や傾斜地等で設置するとなると大型のクレーン等の重機器類の投入や多くの作業員を必要としていた。
また、近年の気候変動に伴い集中豪雨が多発し、従来では想定されなかった量の雨水が短時間に集中的に排水路に流入し、排水容量を超えて雨水の溢れ出し現象が生じている。この雨水のオーバーフローを防止するためには、従来のものより排水容量の大きな断面を有する排水路を設置したり、従来の排水路に換えて大容量のものに設置し直す必要が生じている。
上記に対応するためには大型のコンクリート製排水路の新設又は既設のコンクリート製排水路を撤去して排水容量の大きな断面のコンクリート製排水路へと設置し直すことになるが、いずれの場合も、従来のものより更に重量の有る大きな排水路の設置作業が必要となり、多くの作業員と時間と大型のクレーン等の重機器類を使用する必要があった。
特に、排水路を高所や法面等の傾斜地に設ける場合には、その設置にはより多くの作業員や時間及び大きな重機器類の投入が必要となり、更に、多くの危険を伴い、困難な作業を強いられるものであった。
また、既設の排水路を排水容量の大きな排水路へと交換するためには、当該既設の排水路の撤去後に、設置場所の拡幅作業を行い、新設の重量の有る大きなコンクリート製排水路へと設置し直す作業を行わなければならなかった。
他方、下記する特許文献1は、既設の側溝を除去することなく該側溝内に側溝嵩上げ材を入れ込むことで新設の側溝を形成するものであるが、該側溝嵩上げ材の周囲の原地盤面上に客土して嵩上げ地盤面を形成する必要があった。更に、排水路設置のための施工作業の簡便化を図ったものではなく、また、排水容量を増加することを可能とした排水路でもなく、本発明の課題を解決できるものではなかった。
本発明は、上記欠点を解決したもので、新設のための排水路への対応はもとより、既設の排水路を取り除くことなく従来のものより排水容量を増加させることを可能とした排水路を形成すると同時に、コンクリート製排水路に換えて軽量の薄板となる金属製材料或いは繊維強化合成樹脂材料等により排水路を形成することで作業員数や時間の省力化を達成し、且つ、危険な作業をなくし、大型の重機器類を投入使用する必要のない排水路形成用薄板部材を使用することで新設又は既設の排水路を改修構築できる排水路の提供及びその排水路の施工方法を提供するものである。
本発明は、長手方向に延出した底部及び該底部より立ち上がった両側壁よりなり上方部を開口部とした断面略U字形状の排水路形成用薄板部材において、谷側に位置する側壁の底部からの高さを山側に位置する側壁より高く形成し、両側壁上端部を水平又はそれに近い状態で外方へ突出させて鍔部とし、該鍔部のいずれか一方又は両方の平面部に間隔を有して複数の充填材用貫通孔を設けた排水路形成用薄板部材とし、該排水路形成用薄板部材を掘削地盤内に低い側壁側の鍔部を山側にし、高い側壁側の鍔部を谷側にして配設固定してなる排水路を特徴とする。
また、底部又は/及び両側壁の背面側に付着力増加手段を形成してなる排水路を特徴とする。
更に、鍔部のいずれか一方又は両方の外方側端部を下方へ折り曲げてなる排水路を特徴とする。
また、両側壁間の底部側の幅を開口部側の幅よりやや狭く形成した排水路を特徴とする。
更に、長手方向に延出した底部及び該底部より立ち上がった両側壁よりなり上方部を開口部とした断面略U字形状の排水路形成用薄板部材において、谷側に位置する側壁の底部からの高さを山側に位置する側壁より高く形成し、両側壁上端部を水平又はそれに近い状態で外方へ突出させて鍔部とし、該鍔部のいずれか一方又は両方の平面部に間隔を有して複数の充填材用貫通孔を設けた排水路形成用薄板部材とし、該排水路形成用薄板部材を設置済の既存の排水路の内側に、低い側壁側の鍔部を山側にし、高い側壁側の鍔部を谷側にして配設固定してなる排水路を特徴とする。
また、掘削地盤内の底部又は設置済の既存の排水路の底部にモルタルを流し込んでモルタル層を形成し、該モルタルの流動状態下で、その上方から長手方向に延出した底部及び該底部より立ち上がった両側壁よりなり上方部を開口部とした断面略U字形状の排水路形成用薄板部材において、谷側に位置する側壁の底部からの高さを山側に位置する側壁より高く形成し、両側壁上端部を水平又はそれに近い状態で外方へ突出させて鍔部とし、該鍔部のいずれか一方又は両方の平面部に間隔を有して複数の充填材用貫通孔を設けた排水路形成用薄板部材とし、該排水路形成用薄板部材を設置済の既存の排水路の内側に、低い側壁側の鍔部を山側にし、高い側壁側の鍔部を谷側にし、該排水路形成用薄板部材を底部へ押し込み、該モルタルを該排水路形成用薄板部材の両側壁裏面側及び鍔部裏面側に流動させ、該鍔部に設けた充填材用貫通孔よりモルタルが排出することにより隙間が充填されたことを確認してなる排水路の施工方法を特徴とする。
更に、設置済の既存の排水路に、長手方向に延出した底部及び該底部より立ち上がった両側壁よりなり上方部を開口部とした断面略U字形状の排水路形成用薄板部材において、谷側に位置する側壁の底部からの高さを山側に位置する側壁より高く形成し、両側壁上端部を水平又はそれに近い状態で外方へ突出させて鍔部とし、該鍔部のいずれか一方又は両方の平面部に間隔を有して複数の充填材用貫通孔を設けた排水路形成用薄板部材とし、該排水路形成用薄板部材を設置済の既存の排水路の内側に、低い側壁側の鍔部を山側にし、高い側壁側の鍔部を谷側にし、該排水路形成用薄板部材を挿入し、該排水路形成用薄板部材の底部、両側壁及び両鍔部の各々の裏面と該既存の排水路の底部、両側壁及び両天端部とに生じている隙間に、該鍔部に設けた充填材用貫通孔のいずれかから充填材を充填し、他の充填材用貫通孔から充填材が排出することにより隙間が充填されたことを確認して充填を停止してなる排水路の施工方法を特徴とする。
本発明の排水路形成用薄板部材による排水路及びその施工方法は、軽量部材を採用することにより高所や傾斜地等の作業が困難な施工場所でも少ない作業員数での短時間作業で安全に排水路を構築することが可能となった。
また、古くなった既設の排水路を撤去することなく、本発明の排水路形成用薄板部材をその内側に挿入することで新設同様の排水路を構築することが可能となった。
更に、従来のものと比較して設置場所を拡幅する掘削作業や大規模な盛土等をすることなく排水容量を増加させることのできる排水路を構築することが可能となった。
また、傾斜地を利用することで排水容量を大幅に増加させることのできる排水路を構築することが可能となった。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1(a)、(b)は、薄板体を折り曲げ又は溶接等により連結することで一体化形成した板状体の成形体(以下、排水路形成用薄板部材という)の断面形状及び斜視図を示すものである。ステンレス製やその合金又は他の金属製材料或いはガラス繊維、炭素繊維等で補強された繊維強化合成樹脂材料等の防水性の良好な或いは防水処理した薄板を成形して断面略U字形状とし、その両側壁上端より鍔部を設けた排水路形成用薄板部材1である。例えば、ステンレス製にあっては約1.2mm厚のものが最適である。
該排水路形成用薄板部材1は、底部2、右側壁3、左側壁4、該右側壁3の右側上端部5より外方へ延出した一方側鍔部6及び該左側壁4の左側上端部7より外方へ延出した他方側鍔部8とより構成している。
該排水路形成用薄板部材1は、底部2と右・左の側壁3、4によって断面略U字形状とし、内側となる表面側を防水性で摩擦の少ない平滑面に形成し、長手方向に連続形成することで流動性の良好な水路を形成することが可能となる。
他方、該排水路形成用薄板部材1の外側となる該底部2及び該右側壁3、左側壁4の裏面側には、リブや凹凸部、或いは目荒し加工、腐食加工、塗材の吹き付け等の付着力増加手段9を設け、排水路形成用薄板部材1を設置するための掘削部となる地盤、補強地盤或いは先行して打設したモルタルやコンクリート等との付着力を高めることのできる手段としている。
該右側壁3の右側上端部5及び該左側壁4の左側上端部7から水平方向に一方側鍔部6及び他方側鍔部8を形成し、排水路形成用薄板部材1を設置するための掘削部の周縁となる地盤や補強地盤或いはコンクリート構造体等の補強体の上或いは上方に該一方側鍔部6及び他方側鍔部8が位置できるように形成している。
上記構成よりなる該排水路形成用薄板部材1を、図2に示すように、地盤の掘削部Aに設置する場合、排水路を構築する場所を掘削し、その掘削部Aを早強コンクリートやシールコンクリートを吹き付けたり、超速硬化ポリウレタン樹脂等の合成樹脂材を吹き付けたりすることで補強し或いはコンクリート等を打設して補強して該排水路形成用薄板部材1が設置できる形状を保持し、且つ、防水処理等の下地処理を施し、必要に応じて接着性の良好な状態となるように表面処理し、その内側に、排水路形成用薄板部材1を嵌入設置することになる。
また、掘削部Aの周縁となる表面側の地盤も、上記同様、必要に応じて早強コンクリートやシールコンクリートを吹き付けたり、超速硬化ポリウレタン樹脂等の合成樹脂材を吹き付けることで補強し、或いはコンクリート等を打設して補強地盤面として排水路周辺部の強度を高めることができる。設置後は排水路形成用薄板部材1と地盤との取り合い箇所をシール材等により防水処理を施すことになる。
上記一方側鍔部6及び他方側鍔部8の両方或いはいずれか一方の平面部に充填材Bを充填するための充填材用貫通孔10が設けられている。該充填材用貫通孔10を複数箇所に設けておくことにより、排水路形成用薄板部材1を掘削部Aに設置後、該排水路形成用薄板部材1の裏面側と掘削部Aとの間に生じている隙間Cに向けて該充填材用貫通孔10より注入管Dを挿入し、モルタルや樹脂材等の充填材Bを圧力をかけながら注入することで隙間Cが充填され、両者を一体化することができる。
隙間Cが充填されたことは、他の位置に形成された充填材用貫通孔10からの充填材Bの排出を目視することで確認することができる。排水路形成用薄板部材1の端部側となる未連結側の開放されている底部2や右・左側壁3、4と掘削部Aとの間に生じている隙間Cは、当て材等により閉塞することで、該端部側からの充填材の流出を防ぐことができる。
また、該鍔部6、8に、掘削部Aの周縁となる地盤、補強地盤或いは補強体等と固定するためのアンカーEを挿入するための打ち込み孔11を設けておき、上記充填材Bの充填と該打ち込み孔11からのアンカーEとにより排水路形成用薄板部材1の浮き上がり防止のための強固な固定手段としている。上記充填材用貫通孔10の使用後は、未使用の充填材用貫通孔10を含め閉塞し、シール材等により防水処理することになる。アンカーEのための打ち込み孔11も同様とする。
図3(a)、(b)は、上記構成よりなる排水路形成用薄板部材1を掘削部Aに固定する他の実施例を示すものである。図3(a)に示すように、掘削部Aの底部にモルタル等の流動性固定材Fを流し込んで下層を形成し、該下層がワーカビリティーの良好な流動状態を維持している時点で該排水路形成用薄板部材1を掘削部Aに嵌入して押し込み、その押し込み圧により、図3(b)に示すように、該流動性固定材Fが該排水路形成用薄板部材1の底部2の裏面側から両側壁3、4の裏面側及び両鍔部6、8の裏面側へと流動し、該流動性固定材Fの充填材用貫通孔10からの排出を目視することで隙間Cが充填されたことを確認することができる。充填後は地盤等との取り合い箇所や充填材用貫通孔10、打ち込み孔11等をシール材等により防水処理を施すことになる。
上記掘削部Aへの排水路形成用薄板部材1の設置により、図4の斜線で示すように、掘削部Aの掘削幅及び掘削深さが同一であれば、排水路形成用薄板部材1は、従来のコンクリート製の断面U字形排水路の側壁部及び底部の部材厚に比較して薄板体で形成しているので、その厚さ分だけ多くの排水容量を確保することが可能となる。
図5は、排水路形成用薄板部材1の他の実施例で、左側壁4の底部2から左側上端部7までの高さを、右側壁3の右側上端部5の底部2からの高さより高く形成し、その各々の右・左上端部5、7より一方側鍔部6及び他方側鍔部8を外方へ延出させ充填材用貫通孔10を形成している。材質や機能面、部材厚等は実施例1のものと同様である。上記した掘削部Aにおいて、雨水が多く流れ込む傾斜地に設置し、排水路の排水容量を大きくすることを目的とするものである。右側壁3を傾斜地の山側に位置させ、左側壁4を雨水をせき止めることが可能な谷側に位置させて掘削部Aに嵌入設置し固定している。
該排水路形成用薄板部材1を山側を法面等とした傾斜地に設置する場合、図6に示すように、該一方側鍔部6を傾斜地盤G側に位置させ、隙間Cへの充填材用貫通孔10からの充填材Bの充填やアンカーボルトや表面処理した差し筋等のアンカー(以下、単にアンカーEという)を掘削部Aの周辺地盤や該傾斜地盤Gへの打ち込みにより強固に固定することができる。
該他方側鍔部8は、その周辺部を立ち上げ、樹脂やコンクリート等により補強した盤面とすることで排水路周辺の強度を高めながら嵩上げ地盤Hを形成し、その表面側を該他方側鍔部8で覆い、隙間Cへの充填材Bの充填や嵩上げ地盤及び強固な地盤へのアンカーEの打ち込みにより強固に固定することができる。固定後は傾斜地盤Gや嵩上げ地盤H等との取り合い箇所や充填材用貫通孔10、打ち込み孔11等をシール材等により防水処理を施すことになる。
これにより、図7に示すように、右方となる山側からの雨水を谷側となる該左側壁4が堰面となり、通常の大きさの断面略U字形状の排水路で得る排水容量より斜線部で示した分の排水容量の増加を図ることが可能となる。また、傾斜地盤Gの表面側を補強して補強傾斜面Jとすることにより、該傾斜地盤Gを排水路の一部とすることが可能となる。
例えば、右側壁3の底部2からの右側上端部5の位置までの内寸高を240mm、右・左側壁3、4間の内寸幅を240mmとしたU字形状の断面積は57,600mm2となるが、左側壁4を底部2から左側上端部7の位置までの高さを150mm高くし、一方側鍔部6の水平部の長さを200mm、傾斜地盤Gの傾斜角度を45度とすると、斜線部で示す領域は36,000mm2+30,000mm2+11,250mm2の合計77,250mm2となり、大幅な断面積増加となり、2.3倍以上の排水容量を確保することが可能となる。底部2から左側上端部7の位置までの高さは、必要に応じて適宜選択することができる。
図8に示すように、一方側鍔部6及び他方側鍔部8には周縁部の形状に合わせるように様々な形状のものが考えられる。図8(a)は、一方側鍔部6又は/及び他方側鍔部8をその先端部を下方側へ折り曲げた実施例を示している。図8(b)は、一方側鍔部6をその先端部より斜め上方側へ折り曲げ延出させ、他方側鍔部8をその先端部より斜め下方側へ折り曲げ延出させたものである。
また、図8(c)は、左側壁4の立ち上がった左側上端部7から水平方向となる外方へ延出した他方側鍔部8を、その先端部から傾斜部及び該傾斜部8aの下端部より水平方向外方へ突出した延出部8bを形成した鍔部8で、該傾斜部8aや延出部8bをアンカーEによる地盤や嵩上げ地盤Hへの取り付け面としている。
更に、図8(d)は、左側壁4の立ち上がった左側上端部7から水平方向となる外方へ延出した他方側鍔部8を、その先端部から傾斜部8a及び該傾斜部8aの下端部より水平方向へ左側壁4側へ折り曲げた水平部8cを設けたもので、該傾斜部8a及び該水平部8cをアンカーEによる地盤への取り付け面としている。
上記一方側鍔部6及び他方側鍔部8の形状、地盤への取り付け位置、地盤、傾斜地盤G、嵩上げ地盤H、コンクリート補強盤等の形成及び取り付け手段は、上記実施例のみに限定されたものではなく、状況に応じて適宜組み合わせて対応することができる。
排水路形成用薄板部材1は、例えば、約1.2mmの薄板となる金属製材料或いは薄板の繊維強化合成樹脂材料等で形成し、その長手方向の長さを60cm〜120cmとすることにより軽量化を図ることができ、施工現場への運び込みを容易とすることができる。それらを現場において相互に連結することで長手方向に連続した排水路を形成することができる。
図9は、該排水路形成用薄板部材1の相互を連結する手段の一例を示している。図9(a)は、底部2及び右・左側壁3、4の外側面に裏板12を当てがって固定することにより連続一体化したものである。図9(b)は、右・左側壁3、4のいずれかの一端側に段部13を設け、該段部13に別体の排水路形成用薄板部材1の端部を重ねて固定して連続一体化したものである。
図10(a)に示すように、排水路形成用薄板部材1は、その断面U字形状となる底部2側の右・左側壁3、4間の幅W1を右側上端部5及び左側上端部7側となる開口部側幅W2より狭く形成することにより、図10(b)のように該排水路形成用薄板部材1の何枚かを重ね合わせることが可能となり、運搬及び設置作業を省力化することが可能となる。
排水路形成用薄板部材1を通常の地盤や傾斜地盤Gを掘削した掘削部Aに設置することで新設の水路として使用することができるが、図11に示すように、排水路形成用薄板部材1を既設のコンクリート製排水路20の内側に嵌入設置して固定することができる。
既設のコンクリート製排水路20が劣化し、補修ができない場合、或いは新設の排水路へ変更する場合等にあっては、該既設のコンクリート製排水路20を撤去し、所望の新設の排水路に設置換えすることになる。
そのためには、先ず、既設のコンクリート製排水路20を所定の大きさに破壊し、それをクレーン等で吊り上げ撤去することになるが、排水路を破壊する作業、その運搬作業及び破壊した材料の廃棄作業が必要になる。また、新設するためにはコンクリート製排水路の製造、その運搬作業、従来のものより排水容量の大きな排水路にあっては地盤の拡幅掘削作業、所定の位置に据え付けるための設置作業等の部材の製造から設置固定までに多くの作業が必要となる。
上記作業は、多くの作業員と重機器類を必要とし、時間と経費及び法面等の傾斜地にあっては危険を伴うものであった。そこで本実施例は、上記実施例で示した排水路形成用薄板部材1を既設のコンクリート製排水路20の内側に密着状態で嵌入固定することにより新設と同様の排水路を得ることができるようにしたものである。
図11に示すように、既設のコンクリート製排水路20に沈下が生じている場合、所定の排水勾配を得るために既設の排水路の底部21の内側表面に勾配調整用モルタル22を塗着する。また、コンクリート製排水路20の右・左側壁23、24に欠損25や亀裂26が生じている場合、モルタルや他の漏水防止手段により穴埋や充填作業を行い、補修する。
上記沈下によって生じた分の嵩上げ或いは上端部の補強のために必要に応じて既設のコンクリート製排水路20の周辺部にコンクリートを打設或いはコンクリートや樹脂を吹き付けたり注入することにより右左の補強層27、28を形成する。
上記既設のコンクリート製排水路20やその周辺部の地盤補修の後、底部21や右・左側壁23、24及び周辺部に早強コンクリートやシールコンクリートを吹き付けたり、超速硬化ポリウレタン樹脂等の合成樹脂材を吹き付けたり注入したり、接合部にエポキシ樹脂処理やプライマー処理等を施して接合部処理や防水処理を行う。
上記既設の排水路20やその周辺部の補修・補強、接合部処理、防水処理等の後、該排水路20の内側に排水路形成用薄板部材1を嵌入する。
既設の排水路20の内側に排水路形成用薄板部材1を嵌入した場合、開口部側の幅W2が底部2側の幅W1より拡開状態となるように形成しているので、既設のコンクリート製排水路20に嵌入したときに右・左側壁3、4の上方側が右・左側壁23、24の表面側へ強く押されることになり、既設のコンクリート製排水路20に強く密着することになる。また、断面U字形排水路内には雨水が溜まることになるので、その水圧は排水路形成用薄板部材1を拡げる方向に作用することになり、該排水路形成用薄板部材1は既設のコンクリート製排水路20の内側に強く密着して抜け出すことはない。
嵌入した時点では、排水路形成用薄板部材1の一方側鍔部6及び他方側鍔部8と既設のコンクリート製排水路20の右側上端部29と左側上端部30との間に隙間Kが生じるようにし、上記実施例と同様に、該鍔部6、8に設けた充填材用貫通孔10より注入管Dを介して上記隙間K及び既設のコンクリート製排水路20と排水路形成用薄板部材1との間の隙間Kにモルタルを充填する。
上記隙間Kへの充填は、実施例1の図2で示した方法又は実施例2の図3で示した方法と同様の方法或いはその組み合わせたもの等を採用することができる。
また、一方側鍔部6及び他方側鍔部8の表面側から充填層、補強層27、28や地盤、傾斜地盤Gに向けてアンカーEを打ち込むことにより排水路形成用薄板部材1を既設の排水路20を覆って強固に固定することが可能となる。地盤等との取り合い箇所、充填材用貫通孔10、アンカーEの打ち込み孔等についてはシール等の防水処理を施すことになる。
図12(a)は、図5に示す左側壁4側を高く形成した排水路形成用薄板部材1を既設のコンクリート製排水路20に嵌入した図を示している。左側壁4側の周縁部が高く形成されることになるが、該排水路形成用薄板部材1の設置方法やその後の処理等は上記実施例と同様である。
底部21の内側表面への勾配調整用モルタル22の塗着、右・左側壁23、24の欠損25や亀裂26の補修、周辺部の右左の補強層27、28の形成、接合部処理や防水処理の施工等、上記実施例と同様の処理を施した後、上記既設のコンクリート製排水路20の内側に左側壁4の高い排水路形成用薄板部材1を嵌着固定する。図12(b)に示すように、山側となる一方側が傾斜した法面の場合、該法面の傾斜地盤Gを雨水の貯留手段として利用することができる。該法面の傾斜地盤Gに法面に沿った補強傾斜面Jを右側補強層27に連続形成し、表面側に防水処理を施すことにより、排水路と同様の強化された排水面とすることができる。地盤等との取り合い箇所、充填材用貫通孔10、アンカーEの打ち込み孔等については防水処理を施すことになる。排水路形成用薄板部材1の部材厚は薄く、且つ、既設のコンクリート製排水路20の底部21や側壁23、24に密着固定されているので断面U字形排水路側の排水容量の減少は極めて少なく、斜線部で示す部分を大きな雨水の排水容量の増加領域とすることが可能となる。
上記では、補修が必要となった既設のコンクリート製排水路の補修後に、その大きさに沿って薄板の排水路形成用薄板部材1を内側に固定したものについて述べたが、新設したばかりの排水路であっても該排水路形成用薄板部材1を設置固定して排水容量を増加させることができる。