以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件等の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
[ポリカーボネート樹脂(A)]
前記ポリカーボネート樹脂(A)は、少なくとも、下記の式(1)で表されるジヒドロキシ化合物由来の構成単位(以下、これを適宜「構成単位(a1)」という)を含む。ポリカーボネート樹脂(A)は、構成単位(a)のホモ重合体であってもよいし、構成単位(a1)と、構成単位(a1)以外の他の構成単位(a2)とを含む共重合体であってもよい。分子量を上げる観点、耐衝撃性をより向上させるという観点からは、ポリカーボネート樹脂(A)は共重合体であることが好ましい。
ポリカーボネート樹脂(A)において、全ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位100モル%に対する構成単位(a1)の含有割合は、50モル%を超えることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂(A)中の生物起源物質含有率を高めることができるという効果、耐熱性をより向上させることができるという効果が得られる。かかる効果をさらに向上させるという観点からは、全ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位100モル%に対する構成単位(a1)の含有割合は、55モル%以上95モル%以下であることがより好ましく、60モル%以上90モル%以下であることがさらに好ましく、65モル%以上85モル%以下であることが特に好ましい。なお、構成単位(a1)を含んでいるポリカーボネート樹脂(A)を2種以上用いる場合には、その混合比率から計算した構成単位(a1)の含有割合が前記の範囲であれば、同様の効果が得られると考えられる。
式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド(すなわち、ISB)、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の中でも、ISBが、入手及び製造のし易さ、耐候性、光学特性、成形性、耐熱性及びカーボンニュートラルの面から最も好ましい。ISBは、植物由来の資源として豊富に存在すると共に容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られる。
なお、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は、酸素によって徐々に酸化されやすい。したがって、保管中又は製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが好ましい。
また、ポリカーボネート樹脂(A)は、上述の構成単位(a1)以外の構成単位(a2)として、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(これを、適宜「構成単位(a2−1)」という)を含むことが好ましい。構成単位(a2−1)を構成するジヒドロキシ化合物は、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物であることが好ましい。より好ましくは、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、及びエーテル含有ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物がよい。これらのジヒドロキシ化合物は、柔軟な分子構造を有するため、構成単位(a1)と構成単位(a2−1)とを含むポリカーボネート樹脂の靭性をより向上させることができる。構成単位(a2−1)を構成するジヒドロキシ化合物の中でも、靭性を向上させる効果の大きい脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物を用いることがさらに好ましく、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物を用いることが最も好ましい。脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、エーテル含有ジヒドロキシ化合物の具体例としては、以下の通りである。
脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、以下のジヒドロキシ化合物を採用することができる。エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール等の直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物;1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等の分岐鎖を有する脂肪族ジヒドロキシ化合物。
脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、以下のジヒドロキシ化合物を採用することができる。2,2,4,4―テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノール、リモネン等の、テルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等に例示される、脂環式炭化水素の1級アルコールであるジヒドロキシ化合物;1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−アダマンタンジオール、水添ビスフェノールA、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール等に例示される、脂環式炭化水素の2級アルコール又は3級アルコールであるジヒドロキシ化合物。
エーテル含有ジヒドロキシ化合物としては、オキシアルキレングリコール類やアセタール環を含有するジヒドロキシ化合物が挙げられる。オキシアルキレングリコール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等を採用することができる。
アセタール環を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、下記構造式(2)で表されるスピログリコールや、下記構造式(3)で表されるジオキサングリコール等を採用することができる。
また、構成単位(a2−1)としては、例えば、芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物に由来の構成単位を含むことも可能である。ただし、耐衝撃性をより向上させるという観点からは、全ジヒドロキシ化合物に由来の構成単位100モル%に対する芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物に由来の構成単位の含有割合は、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることより好ましい。
芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば以下のジヒドロキシ化合物を採用することができるが、これら以外のジヒドロキシ化合物を採用することも可能である。2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3−フェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4−ヒドロキシ−3−ニトロフェニル)メタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,3−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル)ベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル等の芳香族ビスフェノール化合物;2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等の芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物;9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等のフルオレン環を有するジヒドロキシ化合物。
前記その他のジヒドロキシ化合物は、ポリカーボネート樹脂に要求される特性に応じて適宜選択することができる。また、前記その他のジヒドロキシ化合物は、1種のみを用いてもよく、複数種を併用してもよい。前記その他のジヒドロキシ化合物を前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と併用することにより、ポリカーボネート樹脂(A)の柔軟性や機械物性の改善、及び成形性の改善などの効果を得ることが可能である。
ポリカーボネート樹脂(A)の原料として用いられる上述のジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤又は熱安定剤等の安定剤を含んでいても良い。特に、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は、酸性状態において変質しやすい性質を有する。したがって、ポリカーボネート樹脂(A)の合成過程において塩基性安定剤を使用することにより、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の変質を抑制することができ、ひいては得られるポリカーボネート樹脂組成物の品質をより向上させることができる。
塩基性安定剤としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations2005)における1族又は2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩及び脂肪酸塩;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド及びブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物;ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピロリジン、ピペリジン、3−アミノ−1−プロパノール、エチレンジアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール及びアミノキノリン等のアミン系化合物、並びにジ−(tert−ブチル)アミン及び2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系化合物。
前記ジヒドロキシ化合物中における前記塩基性安定剤の含有量に特に制限はないが、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は酸性状態では不安定であるため、塩基性安定剤を含むジヒドロキシ化合物の水溶液のpHが7付近となるように塩基性安定剤の含有量を設定することが好ましい。
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に対する塩基性安定剤の含有量は、0.0001〜1質量%であることが好ましい。この場合には、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の変質を防止する効果が得られると共に、ジヒドロキシ化合物の変性を防止することができる。これらの効果をさらに高めるという観点から、塩基性安定剤の含有量は0.001〜0.1質量%であることがより好ましい。
前記ポリカーボネート樹脂[A]の原料に用いる炭酸ジエステルとしては、通常、下記一般式(4)で表される化合物を採用することができる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記一般式(4)において、A1及びA2は、それぞれ置換もしくは無置換の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基又は置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であり、A1とA2とは同一であっても異なっていてもよい。A1及びA2としては、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を採用することが好ましく、無置換の芳香族炭化水素基を採用することがより好ましい。
前記一般式(4)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート(すなわち、DPC)及びジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート並びにジ−tert−ブチルカーボネート等を採用することができる。これらの炭酸ジエステルの中でも、ジフェニルカーボネート又は置換ジフェニルカーボネートを用いることが好ましく、ジフェニルカーボネートを用いることが特に好ましい。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、不純物が重縮合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色調を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
ポリカーボネート樹脂(A)は、上述したジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルをエステル交換反応により重縮合させることにより合成できる。より詳細には、重縮合と共に、エステル交換反応において副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得ることができる。
前記エステル交換反応は、エステル交換反応触媒(以下、エステル交換反応触媒を「重合触媒」と言う。)の存在下で進行する。重合触媒の種類は、エステル交換反応の反応速度及び得られるポリカーボネート樹脂(A)の品質に非常に大きな影響を与え得る。
重合触媒としては、得られるポリカーボネート樹脂(A)の透明性、色調、耐熱性、耐候性、及び機械的強度を満足させ得るものであれば限定されない。重合触媒としては、例えば、長周期型周期表における第I族又は第II族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、並びに塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を使用することができ、中でも1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が好ましい。
前記の1族金属化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩及び2セシウム塩等。
1族金属化合物としては、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色調の観点から、リチウム化合物が好ましい。
前記の2族金属化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸ストロンチウム等。
2族金属化合物としては、マグネシウム化合物、カルシウム化合物又はバリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色調の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましく、カルシウム化合物が最も好ましい。
なお、前記の1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
前記の塩基性リン化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン及び四級ホスホニウム塩等。
前記の塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド及びブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等。
前記のアミン系化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン及びグアニジン等。
前記重合触媒の使用量は、反応に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1〜300μmolであることが好ましく、0.5〜100μmolであることがより好ましく、1〜50μmolであることが特に好ましい。
重合触媒として、長周期型周期表における第1属金属および第2族金属及びリチウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物を用いる場合は、重合触媒の使用量は、該金属を含む化合物の金属原子量として、反応に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、0.1μmol以上が好ましく、0.3μmol以上がより好ましく、0.5μmol以上が特に好ましい。また、重合触媒の使用量は、金属原子量として、10μmol以下が好ましく、5μmol以下がより好ましく、3μmol以下が特に好ましい。
重合触媒の使用量を上述の範囲に調整することにより、重合速度を高めることができるため、重合温度を必ずしも高くすることなく所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ることが可能になる。さらに、副反応の併発を抑制することができる。その結果、ポリカーボネート樹脂(A)の色調の悪化をより一層防止することができると共に、成形加工時の着色をより一層防止することができる。
1族金属の中でもナトリウム、カリウム、又はセシウムを含む化合物がポリカーボネート樹脂の色調へ与える影響や、鉄がポリカーボネート樹脂へ与える影響を考慮すると、ポリカーボネート樹脂(A)中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、1質量ppm以下であることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化をより一層防止することができ、ポリカーボネート樹脂の色調をより一層良好なものにすることができる。同様の観点から、ポリカーボネート樹脂(A)中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、0.5質量ppm以下であることがより好ましい。なお、これらの金属は使用する触媒からのみではなく、原料又は反応装置から混入する場合がある。出所にかかわらず、ポリカーボネート樹脂(A)中のこれらの金属の化合物の合計量は、ナトリウム、カリウム、セシウム及び鉄の合計の含有量として、上述の範囲にすることが好ましい。
(ポリカーボネート樹脂(A)の合成)
ポリカーボネート樹脂(A)は、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物等の原料として用いられるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、重合触媒の存在下、エステル交換反応により重縮合させることによって得られる。
原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。混合の温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上、かつ、通常250℃以下、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下の範囲とし、中でも100℃以上120℃以下が好適である。この場合には、溶解速度を高めたり、溶解度を十分に向上させたりすることができ、固化等の不具合を十分に回避することができる。さらに、この場合には、ジヒドロキシ化合物の熱劣化を十分に抑制することができ、結果的に得られるポリカーボネート樹脂(A)の色調をより一層良好なものにすることができると共に、耐候性の向上も可能になる。
原料のジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルと混合する操作は、酸素濃度10vol%以下、更には0.0001〜10vol%、中でも0.0001〜5vol%、特には0.0001〜1vol%の雰囲気下で行うことが好ましい。この場合には、色調をより良好なものにすることができると共に、反応性を高めることができる。
ポリカーボネート樹脂(A)を得るためには、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対して、炭酸ジエステルを0.90〜1.20のモル比率で用いることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂(A)のヒドロキシ基末端量の増加を抑制することができるため、ポリマーの熱安定性の向上が可能になる。そのため、成形時の着色をより一層防止したり、エステル交換反応の速度を向上させたりすることができる。また、所望の高分子量体をより確実に得ることが可能になる。さらに炭酸ジエステルの使用量を前記範囲内に調整することにより、エステル交換反応の速度が低下を抑制することができ、所望の分子量のポリカーボネート樹脂(A)のより確実な製造が可能になる。また、この場合には、反応時の熱履歴の増大を抑制することができるため、ポリカーボネート樹脂(A)の色調や耐候性をより一層良好なものにすることができる。さらにこの場合には、ポリカーボネート樹脂(A)中の残存炭酸ジエステル量を減少させることができ、成形時の汚れや臭気の発生を回避又は緩和することができる。以上と同様の観点から、全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステル使用量は、モル比率で、0.95〜1.10であることがより好ましい。
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせの方法があるが、より少ない熱履歴でポリカーボネート樹脂が得られ、生産性にも優れている連続式を採用することが好ましい。
重合速度の制御や得られるポリカーボネート樹脂(A)の品質の観点からは、反応段階に応じてジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが重要である。具体的には、重縮合反応の反応初期においては相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、反応後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましい。この場合には、未反応のモノマーの留出を抑制し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのモル比率を所望の比率に調整し易くなる。その結果、重合速度の低下を抑制することができる。また、所望の分子量や末端基を持つポリマーをより確実に得ることが可能になる。
また、重縮合反応における重合速度はヒドロキシ基末端とカーボネート基末端のバランスによって制御される。そのため、未反応モノマーの留出によって末端基のバランスが変動すると、重合速度を一定に制御することが難しくなり、得られる樹脂の分子量の変動が大きくなるおそれがある。樹脂の分子量は溶融粘度と相関するため、得られた樹脂を溶融加工する際に、溶融粘度が変動し、成形体の品質を一定に保つことが難しくなることがある。かかる問題は、特に連続式で重縮合反応を行う場合に起こりやすい。
留出する未反応モノマーの量を抑制するためには、重合反応器に還流冷却器を用いることが有効であり、特に未反応モノマーが多い反応初期において高い効果を示す。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができるが、通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45〜180℃であり、好ましくは80〜150℃、特に好ましくは100〜130℃である。冷媒温度をこれらの範囲に調整することにより、還流量を十分に高め、その効果が十分得られると共に、留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率を十分に向上させることができる。その結果、反応率の低下を防止することができ、得られる樹脂の着色をより一層防止することができる。冷媒としては、温水、蒸気、熱媒オイル等が用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、得られるポリカーボネート樹脂(A)の色調をより良好なものにするためには、前述の重合触媒の種類と量の選定が重要である。
ポリカーボネート樹脂(A)は、重合触媒を用いて、通常、2段階以上の工程を経て製造される。重縮合反応は、1つの重縮合反応器を用い、順次条件を変えて2段階以上の工程で行ってもよいが、生産効率の観点からは、複数の反応器を用い、それぞれの条件を変えて多段階で行うことが好ましい。
重縮合反応を効率よく行う観点から、反応液中に含まれるモノマーが多い反応初期においては、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制することが重要である。また、反応後期においては、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることにより、平衡を重縮合反応側にシフトさせることが重要になる。従って、反応初期に好適な反応条件と、反応後期に好適な反応条件とは通常異なっている。それ故、直列に配置された複数の反応器を用いることにより、それぞれの条件を容易に変更することができ、生産効率を向上させることができる。
ポリカーボネート樹脂(A)の製造に使用される重合反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3つ以上、好ましくは3〜5つ、特に好ましくは4つである。重合反応器が2つ以上であれば、各重合反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数行ったり、連続的に温度・圧力を変えたりしてもよい。
重合触媒は、原料調製槽や原料貯槽に添加することもできるし、重合反応器に直接添加することもできる。供給の安定性、重縮合反応の制御の観点からは、重合反応器に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、水溶液で重合触媒を供給することが好ましい。
重縮合反応の温度を調整することにより、生産性の向上や製品への熱履歴の増大の回避が可能になる。さらに、モノマーの揮散、及びポリカーボネート樹脂(A)の分解や着色をより一層防止することが可能になる。具体的には、第1段目の反応における反応条件としては、以下の条件を採用することができる。即ち、重合反応器の内温の最高温度は、通常150〜250℃、好ましくは160〜240℃、更に好ましくは170〜230℃の範囲で設定する。また、重合反応器の圧力(以下、圧力とは絶対圧力を表す)は、通常1〜110kPa、好ましくは5〜70kPa、さらに好ましくは7〜30kPaの範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間の範囲で設定する。第1段目の反応は、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施されることが好ましい。
第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を1kPa以下にすることが好ましい。また、重合反応器の内温の最高温度は、通常200〜260℃、好ましくは210〜250℃の範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1〜10時間、好ましくは0.3〜6時間、特に好ましくは0.5〜3時間の範囲で設定する。
ポリカーボネート樹脂(A)の着色や熱劣化をより一層抑制し、色調がより一層良好なポリカーボネート樹脂(A)を得るという観点からは、全反応段階における重合反応器の内温の最高温度を210〜240℃とすることが好ましい。また、反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重縮合反応の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
連続重合において、最終的に得られるポリカーボネート樹脂(A)の分子量を一定水準に制御するには、必要に応じて重合速度を調節することが好ましい。その場合は、最終段の重合反応器の圧力を調整することが操作性の良い方法である。
また、前述したようにヒドロキシ基末端とカーボネート基末端の比率によって重合速度が変化するため、あえて片方の末端基を減らして、重合速度を抑制し、その分、最終段の重合反応器の圧力を高真空に保つことで、モノヒドロキシ化合物をはじめとした樹脂中の残存低分子成分を低減することができる。しかし、この場合には、片方の末端が少なくなりすぎると、末端基バランスが少し変動しただけで、極端に反応性が低下し、得られるポリカーボネート樹脂(A)の分子量が所望の分子量に満たなくなるおそれがある。かかる問題を回避するため、最終段の重合反応器で得られるポリカーボネート樹脂(A)は、ヒドロキシ基末端とカーボネート基末端とも10mol/ton以上含有することが好ましい。一方、両方の末端基が多すぎると、重合速度が速くなり、分子量が高くなりすぎてしまうため、片方の末端基は60mol/ton以下であることが好ましい。
このようにして、末端基の量と最終段の重合反応器の圧力を好ましい範囲に調整することで、重合反応器の出口において、樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量を低減することができる。重合反応器の出口における樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量は、2000質量ppm以下であることが好ましく、1500質量ppm以下であることがより好ましく、1000質量ppm以下であることが更に好ましい。このように、重合反応器の出口におけるモノヒドロキシ化合物の含有量を低減することにより、後の工程においてモノヒドロキシ化合物等の脱揮を容易に行うことができる。
モノヒドロキシ化合物の残存量は少ない方が好ましいが、100質量ppm未満まで減らそうとすると、片方の末端基の量を極端に少なくし、重合反応器の圧力を高真空に保つような運転条件を取る必要がある。この場合には、前述のとおり、得られるポリカーボネート樹脂(A)の分子量を一定水準に保つことが難しくなるので、通常100質量ppm以上、好ましくは150質量ppm以上である。
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じて精製を行った後、他の化合物の原料として再利用することが好ましい。例えば、モノヒドロキシ化合物がフェノールである場合、ジフェニルカーボネートやビスフェノールA等の原料として用いることができる。
ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は、90℃以上が好ましい。この場合には、前記ポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性と生物起源物質含有率とをバランス良く向上させることができる。同様の観点から、ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は、100℃以上がより好ましく、110℃以上がさらに好ましく、120℃以上が特に好ましい。一方、ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は170℃以下が好ましい。この場合には、前述の溶融重合によって溶融粘度を小さくすることができ、充分な分子量のポリマーを得ることができる。また、重合温度を高くして溶融粘度を下げることにより、分子量を高くしようとした場合には、構成単位(a1)の耐熱性が充分でないため、着色し易くなるおそれがある。分子量の向上と着色の防止をよりバランス良く向上できるという観点から、ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は、165℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましく、150℃以下が特に好ましく、145℃未満が最も好ましい。
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度が高いほど分子量が大きいことを示す。還元粘度は、通常0.30dL/g以上であり、0.33dL/g以上が好ましい。この場合には、成形体の機械的強度をより向上させることができる。一方、還元粘度は、通常1.20dL/g以下であり、1.00dL/g以下がより好ましく、0.80dL/g以下が更に好ましい。これらの場合には、成形時の流動性を向上させることができ、生産性や成形性をより向上させることができる。なお、ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度は、塩化メチレンを溶媒として樹脂組成物の濃度を0.6g/dLに精密に調整した溶液を用いて、ウベローデ粘度管により温度20.0℃±0.1℃の条件下で測定した値を使用する。還元粘度の測定方法の詳細は実施例において説明する。
ポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度は、400Pa・s以上3000Pa・s以下が好ましい。この場合には、樹脂組成物の成形体が脆くなることを防止し、機械物性をより向上させることができる。さらにこの場合には、成形加工時における流動性を向上させ、成形体の外観が損なわれたり、寸法精度が悪化したりすることを防止することができる。さらにこの場合には、剪断発熱により樹脂温度が上昇することに起因する、着色や発泡をより一層防止することができる。同様の観点から、ポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度は、600Pa・s以上2500Pa・s以下であることがより好ましく、800Pa・s以上2000Pa・s以下であることがさらにより好ましい。なお、本明細書において溶融粘度とは、キャピラリーレオメータ[東洋精機(株)製]を用いて測定される、温度240℃、剪断速度91.2sec-1における溶融粘度をいう。溶融粘度の測定方法の詳細は、後述の実施例において説明する。
ポリカーボネート樹脂(A)は、触媒失活剤を含むことが好ましい。触媒失活剤としては、酸性物質で、重合触媒の失活機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸、オクチルスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、P−トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩のごときホスホニウム塩;デシルスルホン酸テトラメチルアンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩のごときアンモニウム塩;およびベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸ブチル、ヘキサデシルスルホン酸エチルのごときアルキルエステル等を挙げることができる。
前記触媒失活剤は、下記構造式(5)または下記構造式(6)で表される部分構造のいずれかを含むリン系化合物(以下、「特定リン系化合物」という。)を含んでいることが好ましい。前記特定リン系化合物は、重縮合反応が完了した後、即ち、例えば混練工程やペレット化工程等の際に添加することにより後述する重合触媒を失活させ、それ以降に重縮合反応が不要に進行することを抑制できる。その結果、成形工程等においてポリカーボネート樹脂(A)が加熱された際の重縮合の進行を抑制でき、ひいては前記モノヒドロキシ化合物の脱離を抑制することができる。また、重合触媒を失活させることにより、高温下でのポリカーボネート樹脂(A)の着色をより一層抑制することができる。
構造式(5)又は構造式(6)で表される部分構造を含む特定リン系化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、ホスホン酸エステル、酸性リン酸エステル等を採用することができる。特定リン系化合物のうち、触媒失活と着色抑制の効果がさらに優れているのは、亜リン酸、ホスホン酸、ホスホン酸エステルであり、特に亜リン酸が好ましい。
ホスホン酸としては、例えば以下の化合物を採用することができる。ホスホン酸(亜リン酸)、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ビニルホスホン酸、デシルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、アミノメチルホスホン酸、メチレンジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、4−メトキシフェニルホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、プロピルホスホン酸無水物等。
ホスホン酸エステルとしては、例えば以下の化合物を採用することができる。ホスホン酸ジメチル、ホスホン酸ジエチル、ホスホン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ホスホン酸ジラウリル、ホスホン酸ジオレイル、ホスホン酸ジフェニル、ホスホン酸ジベンジル、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、エチルホスホン酸ジエチル、ベンジルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジプロピル、(メトキシメチル)ホスホン酸ジエチル、ビニルホスホン酸ジエチル、ヒドロキシメチルホスホン酸ジエチル、(2−ヒドロキシエチル)ホスホン酸ジメチル、p−メチルベンジルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノ酢酸、ジエチルホスホノ酢酸エチル、ジエチルホスホノ酢酸tert−ブチル、(4−クロロベンジル)ホスホン酸ジエチル、シアノホスホン酸ジエチル、シアノメチルホスホン酸ジエチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノアセトアルデヒドジエチルアセタール、(メチルチオメチル)ホスホン酸ジエチル等。
酸性リン酸エステルとしては、例えば以下の化合物を採用することができる。リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジビニル、リン酸ジプロピル、リン酸ジブチル、リン酸ビス(ブトキシエチル)、リン酸ビス(2−エチルヘキシル)、リン酸ジイソトリデシル、リン酸ジオレイル、リン酸ジステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸ジベンジルなどのリン酸ジエステル、又はジエステルとモノエステルの混合物、クロロリン酸ジエチル、リン酸ステアリル亜鉛塩等。
前記特定リン系化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
前記ポリカーボネート樹脂(A)中の特定リン系化合物の含有量は、リン原子として0.1質量ppm以上5質量ppm以下であることが好ましい。この場合には、前記特定リン系化合物による触媒失活や着色抑制の効果を十分に得ることができる。また、この場合いは、特に高温・高湿度での耐久試験において、ポリカーボネート樹脂(A)の着色をより一層防止することができる。
また、前記特定リン系化合物の含有量を重合触媒の量に応じて調節することにより、触媒失活や着色抑制の効果をより確実に得ることができる。前記特定リン系化合物の含有量は、重合触媒の金属原子1molに対して、リン原子の量として0.5mol当量以上5mol当量以下とすることが好ましく、0.7mol当量以上4mol当量以下とすることがより好ましく、0.8mol当量以上3mol当量以下とすることが特に好ましい。
[耐衝撃改良材(B)]
耐衝撃改良材(B)は、コア・シェル型構造のエラストマーからなる。本明細書において、「コア・シェル型構造のエラストマー」とは最内層(すなわち、コア層)とそれを覆う1層以上の外層(すなわち、シェル層)とから構成される。コア・シェル型構造のエラストマーとしては、コア層に対してグラフト共重合可能な単量体成分がシェル層としてグラフト共重合されたコア・シェル型グラフト共重合体であることが好ましい。
コア・シェル型グラフト共重合体は、通常、ゴム成分と呼ばれる重合体成分をコア層とする。コア・シェル型グラフト共重合体においては、コア層を構成する重合体成分と、この重合体成分と共重合可能な単量体成分がシェル層としてグラフト共重合されていることが好ましい。
コア・シェル型グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁
重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトで
も多段グラフトであってもよい。但し、通常、市販で入手可能なコア・シェル型エラストマーをそのまま使用することができる。市販で入手可能なコア・シェル型エラストマーは後に例示する。
コア層を形成する重合体成分のガラス転移温度は、通常0℃以下であり、−10℃以下が好ましく、−20℃以下がより好ましく、−30℃以下がさらに好ましい。コア層を形成する重合体成分の具体例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブチルアクリレートやポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2−エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレート、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン−アクリル複合体、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体やエチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体などのエチレン−αオレフィン系共重合体、エチレン−アクリル共重合体、フッ素ゴムなど挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエン、ポリアルキルアクリレート、ポリオルガノシロキサン、ポリオルガノシロキサンとポリアルキルアクリレートとか
らなる複合体、ブタジエン−スチレン共重合体が好ましい。
シェル層を構成する、コア層の重合体成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物が好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等が挙げられ、これらの中でも比較的入手しやすい(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルがより好ましい。ここで、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」と「メタクリル」とを総称するものである。
コア・シェル構造のエラストマーとしては、ポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種の重合体成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルをグラフト共重合して形成されたシェル層からなる、コア・シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。コア・シェル型グラフト共重合体におけるコア層の重合体成分の含有量は、40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。また、シェル層の(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、10質量%以上であることが好ましい。
これらコア・シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(すなわち、MBS)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(すなわち、MABS)、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体(すなわち、MB)、メチルメタクリレート−アクリルゴム共重合体(すなわち、MA)、メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン共重合体(すなわち、MAS)、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル・シリコーン複合体)共重合体等が挙げられる。
市販で入手可能なコア・シェル型グラフト共重合体としては、例えば、ダウケミカル・ジャパン社製の「パラロイド(登録商標)EXL2602」、「パラロイド(登録商標)EXL2603」、「パラロイド(登録商標)EXL2690」、「パラロイド(登録商標)EXL2691J」、「パラロイド(登録商標)EXL2650J」「パラロイド(登録商標)EXL2655」、「パラロイド(登録商標)EXL2311」、「パラロイド(登録商標)EXL2313」、「パラロイド(登録商標)EXL2315」、「パラロイド(登録商標)KM330」、「パラロイド(登録商標)KM336P」、「パラロイド(登録商標)KCZ201」、三菱レイヨン社製の「メタブレン(登録商標)C−223A」、「メタブレン(登録商標)E−901」、「メタブレン(登録商標)S−2001」、「メタブレン(登録商標)W−450A」「メタブレン(登録商標)SRK−200」、カネカ社製の「カネエース(登録商標)M−210」、「カネエース(登録商標)M−511」、「カネエース(登録商標)M−600」、「カネエース(登録商標)M−400」、「カネエース(登録商標)M−580」、「カネエース(登録商標)M−711」、「カネエース(登録商標)MR−01」等が挙げられる。
これらのコア・シェル型グラフト共重合体等のコア・シェル型構造のエラストマーからなる耐衝撃改良材(B)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリカーボネート樹脂組成物における耐衝撃改良材(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して3〜20質量部であることが好ましい。この範囲における上限を超えると、得られる成形体の外観不良や耐熱性の低下が生じる傾向があり、下限を下回ると、耐面衝撃性、耐衝撃性の改良効果が発現しにくくなる。耐衝撃改良材(B)の含有量の下限は5質量部であることがより好ましい。一方、含有量の上限は15質量部であることがより好ましい。
ポリカーボネート樹脂(A)と前記耐衝撃改良材(B)との屈折率の差が±0.015以内、すなわち、−0.015以上、+0.015以下であることが好ましく、−0.013以上、+0.013以下であることがより好ましく、−0.010以上、+0.010以下であることがさらに好ましい。屈折率の差がかかる範囲内であれば、透明性に優れ、さらに着色時の鮮映性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を提供することができる。
[紫外線吸収剤(C)]
ポリカーボネート樹脂組成物は、2種類以上のベンゾトリアゾール系化合物からなる紫外線吸収剤(C)を含有する。なお、ポリカーボネート樹脂組成物は、2種以上のベンゾトリアゾール系化合物からなる紫外線吸収剤(C)を含有しているため、紫外線吸収剤(C)の融点が少なくとも2段階になる。そのため、耐光性効果が長く発揮されるため、上述のように優れた耐候性効果を発揮できると考察される。効果発現の詳細なメカニズムは、未だ明らかではないが、以下のように推察される。一般に、ハロゲン原子を含むベンゾトリアゾール系化合物はハロゲン原子を含まないベンゾトリアゾール系化合物に比較して融点が高い。耐候性効果の発現時に、ハロゲン原子を含まない融点の低いベンゾトリアゾール系化合物(C2)が先に消費されると、ポリカーボネートの劣化によって例えば曇りや表面クラックの発生等の外観不良が生じ易くなるが、ハロゲン原子を含む融点の高いベンゾトリアゾール系化合物(C1)がさらに存在すると耐候性向上効果を補てんできる。したがって、上述のように、紫外線吸収剤(C)は、分子内にハロゲン原子を含むベンゾトリアゾール系化合物(C1)と、分子内にハロゲン原子を含まないベンゾトリアゾール系化合物(C2)とを含有することが好ましい。
分子内にハロゲン原子を含まないベンゾトリアゾール系化合物(C2)の具体的な例としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(例えば、BASF・ジャパン社製のTINUVIN・P、ADEKA社製のLA−32、住友化学社製のSumisorb200)、2‐(3’,5’‐ジ−tert−アミル−2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(例えば、住友化学社製のSumisorb350)、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール(例えば、BASF・ジャパン社製のTINUVIN234)、2‐(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−ドデシル−4‐メチルフェノル(BASF・ジャパン社製のTINUVIN571)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール(例えば、BASF・ジャパン社製のTINUVIN320)、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(例えば、BASF・ジャパン社製のTINUVIN329、ADEKA社製のLA−29)、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(例えば、住友化学社製のSumisorb340)、2−[2−ヒドロキシ−3−[(1,3,4,5,6,7―ヘキサヒドロ−1,3−ジオキソ−2H−イソインドール−2−イル)メチル)−5−メチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール(例えば、住友化学社製のSumisorb250)、2−(3,5―ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(例えば、BASF・ジャパン社製のTINUVIN328)、2,2’−メチレンビス[6−(ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−tert−オクチルフェノール](例えば、ADEKA社製のLA−31)等が挙げられる。
分子内にハロゲン原子を含むベンゾトリアゾール系化合物(C1)の具体的な例としては、2−(3’−t−ブチル−2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(例えば、ADEKA社製のLA−36、住友化学社製のSumisorb300)、2−(3’,5’−ジ−t−ブチル−2’−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(例えば、BASF・ジャパン社製のTINUVIN327)等が挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物(C1)は、例えば同程度の分子量のベンゾトリアゾール系化合物(C2)に比較して、一般的に融点が高い。
2種類以上のベンゾトリアゾール系化合物からなる紫外線吸収剤(C)の合計含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.05〜0.5質量部であることが好ましい。合計含有量が0.05質量部未満の場合には、ポリカーボネート樹脂組成物の耐候性が不十分になるおそれがある。一方、合計含有量が0.5質量部を超える場合には、成形時に金型、口金、ロールなどが汚染されることにより成形体の外観が悪化する場合がある。ポリカーボネート樹脂組成物の耐候性をより向上させ、成形体の外観の悪化をより防止するという観点から、紫外線吸収剤(C)の合計含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.07〜0.4質量部がより好ましく、0.1〜0.3質量部が特に好ましい。
分子内にハロゲン原子を含まないベンゾトリアゾール化合物(C2)は、耐候性効果として、クラック発生抑制効果が高い。一方、分子内にハロゲン原子を含むベンゾトリアゾール化合物(C1)は、クラック発生抑制効果は低いが、耐候性効果として、色差ΔE*を低く抑える効果が高い。したがって、分子内にハロゲン原子を含まない化合物(C2)と分子内にハロゲン原子を含む化合物(C1)の比率を調整することが好ましい。具体的には、ベンゾトリアゾール系化合物(C1)とベンゾトリアゾール化合物(C2)との質量比(ただし、C1:C2)は10:90〜90:10であることが好ましく、20:80〜80:20がより好ましく、30:70〜70:30が特に好ましい。
[ヒンダードアミン系光安定剤(D)]
ポリカーボネート樹脂組成物は、さらにヒンダードアミン系光安定剤(D)(以下、適宜「光安定剤(D)という」)を含有することが好ましい。光安定剤(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.01〜0.5質量部であることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体の耐候性をより向上させることができ、着色などを防止することができる。その結果、例えばポリカーボネート樹脂組成物に例えば着色剤を添加して樹脂組成物を漆黒に着色した場合には、深みと清澄感のある漆黒をより維持することが可能になる。このようなポリカーボネート樹脂組成物は、例えば自動車内外装品用途に好適である。光安定剤(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.05〜0.3質量部であることがより好ましい。
光安定剤(D)の分子量は1000以下が好ましい。この場合には、成形体の耐候性をより向上させることができる。同様の観点から光安定剤(D)の分子量は900以下がより好ましい。また、光安定剤(D)の分子量は300以上が好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性を向上させることができ、成形時における金型の汚染をより確実に防止することができる。その結果、表面外観のより優れた成形体を得ることができる。同様の観点から、光安定剤(D)の分子量は400以上がより好ましい。
光安定剤(D)は、ピペリジン構造を有する化合物であることが好ましい。ここで規定するピペリジン構造とは、飽和6員環のアミン構造となっていればよく、ピペリジン構造の一部が置換基により置換されているものも含む。置換基としては、炭素数4以下のアルキル基があげられ、特にはメチル基が好ましい。光安定材(D)は、ピペリジン構造を複数有する化合物がより好ましく、それら複数のピペリジン構造がエステル構造により連結されている化合物がさらに好ましい。
光安定剤(D)としては、4−ピペリジノール,2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6‐テトラメチルピペリジン‐4‐カルボン酸)1,2,3,4‐ブタンテトライル、2,2,6,6−テトラメチル−ピレリジノールとトリデシルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の縮合物、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル、及びトリデシルアルコールとトリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,3,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、デカン二酸ビス(2,2,26,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル、1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、1−[2−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,6−ヘキサンジアミンポリマーと2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジン、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β,β−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン−ジエタノールとの縮合物、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物等が挙げられる。
[着色剤(E)]
ポリカーボネート樹脂組成物は、さらに着色剤(E)を含有することができ、樹脂組成物及びその成形体を所望の色に着色させることができる。好ましくは、ポリカーボネート樹脂組成物は、着色剤(E)によって漆黒に着色されていることがよい。この場合には、ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体の耐光性の向上効果が顕著になる。すなわち、例えば従来の漆黒に着色された樹脂組成物及びその成形体においては、耐候性の劣化が、外観不良(例えばクラックの発生や白いモヤ(曇り)の発現)として現れやすい。これに対し、上述のようにポリカーボネート樹脂(A)と耐衝撃改良剤(B)と紫外線吸収剤(C)とを含有する前記ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体は、耐候性が優れているため、漆黒に着色されていても、クラックの発生や白いモヤの発現等の外観不良を十分に抑制することができる。着色剤としては、下記に列挙する無機顔料;有機顔料及び有機染料等の有機染顔料を用いることができる。
無機顔料としては具体的には、例えば、カーボンブラック;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料が挙げられる。これらの無機顔料は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
有機顔料及び有機染料としては、具体的には、例えば、フタロシアニン系染顔料;アゾ系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の縮合多環染顔料;アンスラキノン系、ペリノン系、ペリレン系、メチン系、キノリン系、複素環系、メチル系等の染顔料が挙げられる。これら染顔料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、無機顔料と有機染顔料とを併用することも可能である。
ポリカーボネート樹脂組成物は、着色剤(E)として少なくとも無機顔料を含有することが好ましい。無機顔料を着色剤(E)として使用することにより、高い鮮映性が得られると共に、樹脂組成物の成形体を屋外等で使用してもその鮮映性等が長期間保持することが可能になる。着色剤(E)としては、少なくとも黒系の無機顔料を含むことがより好ましい。
着色剤(E)により漆黒に着色された樹脂組成物及びその成形体は、明度L*が0.5〜3であることが好ましい。この場合には、樹脂組成物及びその成形体の鮮映性を向上させることができ、意匠性に優れたより深みのある漆黒性の成形体が実現可能となる。明度L*は、上述の各種着色剤の種類、組み合わせ、配合量等を適宜調整することにより上記範囲に調整することができる。
着色剤の種類が多すぎたり、着色剤の量が多すぎたりすると着色剤による光の反射や散乱の影響が大きくなり、ポリカーボネート樹脂組成物の鮮映性が低下する場合がある。したがって、ポリカーボネート樹脂組成物の鮮映性を高めるためには使用する着色剤の種類と量が少ない方が好ましい。また、高い鮮映性を得るためには、着色剤(E)の合計量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.001質量部以上3質量部以下であることが好ましい。着色剤(E)の合計量の下限は、0.005質量部がより好ましく、0.01質量部が更に好ましくい。着色剤(E)の合計量の上限は、2質量部がより好ましく、1質量部が更に好ましい。
[ポリカーボネート樹脂組成物]
ポリカーボネート樹脂組成物は、これを成形してなる厚さ2mmの成形体の厚さ方向の全光線透過率が80%以上であることが好ましい。また、透明用途への適用性と原着時の鮮映性が良好になるという観点から、全光線透過率は、85%以上がより好ましく、88%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。また、厚さ2mmの成形体のヘイズは、3%以下が好ましく、2.5%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。なお、全光線透過率の測定方法は、後述の実施例において説明する。ヘイズも全光線透過率と同様の方法により測定することができる。
ポリカーボネー樹脂組成物を漆黒に着色した場合は、上述のように明度L*値が0.5〜3であることが好ましい。明度L*を前記範囲内にするためには、ポリカーボネート樹脂(A)と耐衝撃改良剤(B)との屈折率の差を小さくすること、ポリカーボネート樹脂組成物において耐衝撃改良剤(B)を均一に分散させること、耐候性とのバランスを考慮することが好ましい。明度L*0.5〜3の漆黒に着色されたポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体は、上述の着色剤(E)の種類、配合を調整する等の方法により達成することができる。なお、L*a*b*表色系における明度L*値は、JIS K7105(1981年)に規定されている。
また、ポリカーボネート樹脂組成物においては、DSC法で測定したガラス転移温度のピークが単一であることが好ましい。また、ポリカーボネート樹脂組成物のガラス転移温度は、100℃〜150℃が好ましい。この場合には、耐熱性をより向上させることができるため、成形体の変形をより防止することができる。また、この場合には、樹脂組成物の製造時におけるポリカーボネート樹脂(A)の熱劣化をより一層抑制することができ、耐衝撃性をより向上させることができる。さらに、成形時における樹脂組成物の熱劣化をより一層抑制することができる。同様の観点から、ポリカーボネート樹脂組成物のガラス転移温度は、90℃〜145℃がより好ましく、100℃〜140℃さらに好ましい。
ポリカーボネート樹脂組成物は、長周期型周期表における第1族及び第2族に属する金属群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことができる。なお、「金属」とは、金属単体だけでなく、その金属の金属イオン、その金属を含む金属化合物を含む概念である。第1族、第2族に属する金属を含有する組成物は、一般には耐候性が劣化する傾向にあるが、前記ポリカーボネート樹脂組成物は、このような金属を含有していても、優れた耐光性を発揮することが可能になる。
ポリカーボネート樹脂組成物中に含まれうる上述の第1族、第2族の金属は、例えばポリカーボネート樹脂(A)の重合触媒、塩基性安定剤などからもたらされ、例えばアルカリ金属(例えば、Na、K)化合物については、その大部分が乳化重合によって製造されたコア・シェル型構造のエラストマーなどからもたらされると考えられる。
[その他の添加剤]
ポリカーボネート樹脂組成物には、さらに種々の添加剤を添加することができる。前記添加剤としては、酸化防止剤、離型剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、無機充填剤、加水分解抑制剤、発泡剤、核剤等があり、ポリカーボネート樹脂に通常用いられる添加剤を使用することができる。
「酸化防止剤」
酸化防止剤としては、樹脂に使用される一般的な酸化防止剤が使用できるが、酸化安定性、熱安定性観点から、ホスファイト系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、およびフェノール系酸化防止剤が好ましい。ここで、酸化防止剤の添加量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、5質量部以下が好ましい。この場合には、成形時における金型の汚染をより確実に防止し、表面外観のより優れた成形体を得ることが可能になる。同様の観点から、酸化防止剤の添加量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、3質量部以下がより好ましく、2質量部以下が更に好ましい。また、酸化防止剤の添加量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.001質量部以上が好ましい。この場合には、成形安定性に対する改良効果を十分に得ることができる。同様の観点から、酸化防止剤の添加量は、ポリカーボネート樹脂(A)及び芳香族ポリカーボネート樹脂(B)の合計100質量部に対し、0.002質量部以上がより好ましく、0.005質量部以上が更に好ましい。
(ホスファイト系酸化防止剤)
ホスファイト系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
これらの中でも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく使用される。これらの化合物は、1種又は2種以上を併用することができる。
(イオウ系酸化防止剤)
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)などをあげることができる。上記のうち、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。これらの化合物は、1種又は2種以上を併用することができる。
(フェノール系酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール等の化合物が挙げられる。
これらの化合物の中でも、炭素数5以上のアルキル基によって1つ以上置換された芳香族モノヒドロキシ化合物が好ましく、具体的には、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が好ましく、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが更に好ましい。これらの化合物は、1種又は2種以上を併用することができる。
「離型剤」
ポリカーボネート樹脂組成物は、成形時における離型性を付与するための離型剤として、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、多価アルコールの脂肪酸エステルを0.0001質量部以上2質量部以下含有してもよい。多価アルコールの脂肪酸エステルの量をこの範囲に調整することにより、添加効果が充分に得られ、成形加工における離型の際に、離型不良により成形体が割れることをより確実に防止することができる。さらにこの場合には、樹脂組成物の白濁や成形加工時に金型に付着する付着物の増大をより一層抑制することができる。多価アルコールの脂肪酸エステルの含有量は、0.01質量部以上、1.5質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以上、1質量部以下であることがさらに好ましい。
多価アルコールの脂肪酸エステルとしては、炭素数1〜炭素数20の多価アルコールと炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸との部分エステル又は全エステルが好ましい。かかる多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステル又は全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ベヘニン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、イソプロピルパルミテート、ソルビタンモノステアレート等が挙げられる。なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレートが好ましく用いられる。
また、耐熱性及び耐湿性の観点から、多価アルコールの脂肪酸エステルとしては、全エステルがより好ましい。
脂肪酸としては、高級脂肪酸が好ましく、炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸がより好ましい。かかる脂肪酸としては、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等が挙げられる。
また、多価アルコールの脂肪酸エステルにおいて、多価アルコールは、エチレングリコールであることが好ましい。この場合には、樹脂に添加した際に、樹脂の透明性を損なわずに離型性を向上させることができる。
また、前記多価アルコールの脂肪酸エステルは、2価アルコールの脂肪酸ジエステルであることが好ましい。この場合には、樹脂に添加した際に、湿熱環境下における樹脂組成物の分子量の低下を抑制することができる。
ポリカーボネート樹脂組成物に離型剤を配合する場合には、その添加時期、添加方法は特に限定されない。添加時期としては、例えば、エステル交換法でポリカーボネート樹脂を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂組成物と他の配合剤との混練途中等のポリカーボネート樹脂組成物が溶融した状態;押出機等を用い、ペレットまたは粉末等の固体状態のポリカーボネート樹脂組成物とブレンド・混練する際等が挙げられる。添加方法としては、ポリカーボネート樹脂組成物に離型剤を直接混合または混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂組成物または他の樹脂等と離型剤を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして添加することもできる。
「その他の樹脂」
またポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABS、ASなどの合成樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂などの1種又は2種以上と混練して、ポリマーアロイとしても用いることもできる。
「無機充填剤、有機充填剤」
前記ポリカーボネート樹脂組成物には、意匠性を維持できる範囲において、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、シリカ、アルミナ、酸化チタン、硫酸カルシウム粉体、石膏、石膏ウィスカー、硫酸バリウム、タルク、マイカ、ワラストナイト等の珪酸カルシウム、カーボンブラック、グラファイト、鉄粉、銅粉、二硫化モリブデン、炭化ケイ素、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素、窒化ケイ素繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、チタン酸カリウム繊維、これらのウィスカー等の無機充填剤や、木粉、竹粉、ヤシ澱粉、コルク粉、パルプ粉などの粉末状有機充填剤;架橋ポリエステル、ポリスチレン、スチレン・アクリル共重合体、尿素樹脂などのバルン状・球状有機充填剤;炭素繊維、合成繊維、天然繊維などの繊維状有機充填剤を添加することもできる。
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
ポリカーボネート樹脂組成物は、前記成分を所定の割合で同時に、または任意の順序でタンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等の混練機により混合して製造することができる。中でも、溶融混合の際、減圧の状態で混合できるものがより好ましい。
混練機については、減圧状態での混合を達成できる構成であれば二軸押出機もしくは単軸押出機の種別の如何を限定するものではないが、耐衝撃改良材(B)の分散性を高めるという観点から、二軸押出機がより好ましい。ポリカーボネート樹脂組成物の混合温度は200℃〜300℃が好ましい。この場合には、樹脂の劣化に伴う色調の悪化をより確実に防止することができる共に、耐衝撃性や耐湿熱性などの実用面での物理特性をより向上させることができる。同様の観点から、混合温度は210℃〜280℃であることがより好ましく、220〜260℃であることが特に好ましい。また混合時間については、上記と同様に樹脂劣化をより確実に回避するという観点から無用な長大化は回避されるべきであり、10秒以上150秒以下が好ましく、より好ましくは10秒以上90秒以下である。
[成形体]
ポリカーボネート樹脂組成物は、透明性、耐熱性、耐衝撃性等に優れ、さらに耐候性にも優れるため、電気・電子部品、筐体、自動車用部品、ガラス代替用途等の射出成形分野;フィルム、シート分野、ボトル、容器分野などの押出成形分野;カメラレンズ、ファインダーレンズ、CCDやCMOS用レンズなどのレンズ用途;液晶や有機ELディスプレイなどに利用される位相差フィルム、拡散シート、導光板、偏光フィルム等の光学フィルム、光学シート;光ディスク、光学材料、光学部品;色素及び電荷移動剤等を固定化するバインダー用途といった幅広い分野へ適用が可能である。
前記ポリカーボネート樹脂組成物は、自動車内外装部品や電気・電子部品、筐体等の用途により好適である。自動車外装部品としては、例えばフェンダー、バンパー、フェーシャ、ドアパネル、サイドガーニッシュ、ピラー、ラジエータグリル、サイドプロテクター、サイドモール、リアプロテクター、リアモール、各種スポイラー、ボンネット、ルーフパネル、トランクリッド、デタッチャブルトップ、ウインドリフレクター、ミラーハウジング、アウタードアハンドル等がある。自動車内装部品としては、例えばインストルメントパネル、センターコンソールパネル、メーター部品、各種スイッチ類、カーナビケーション部品、カーオーディオビジュアル部品、オートモバイルコンピュータ部品等がある。
電気・電子部品、筐体としては、例えばデスクトップパソコン、ノートパソコンなどのパソコン類の外装部品、プリンター、コピー機、スキャナーおよびファックス(これらの複合機を含む)等のOA機器の外装部品、ディスプレイ装置(CRT、液晶、プラズマ、プロジェクタ、および有機ELなど)の外装部品、マウスなどの外装部品、キーボードのキーや各種スイッチなどのスイッチ機構部品、ゲーム機(家庭用ゲーム機、業務用ゲーム機、およびパチンコ、およびスロットマシーンなど)の外装部品などがある。さらに、携帯情報端末(いわゆるPDA)、携帯電話、携帯書籍(辞書類等)、携帯テレビ、記録媒体(CD、MD、DVD、次世代高密度ディスク、ハードディスクなど)のドライブ、記録媒体(ICカード、スマートメディア、メモリースティックなど)の読取装置、光学カメラ、デジタルカメラ、パラボラアンテナ、電動工具、VTR、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器、電子レンジ、ホットプレート、音響機器、照明機器、冷蔵庫、エアコン、空気清浄機、マイナスイオン発生器、および時計など電気・OA機器、家庭用電化製品を挙げることができる。
ポリカーボネート樹脂組成物は、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等の通常知られている方法で成形することができる。成形によって得られる成形体は、上述のように耐熱性、耐候性、及び耐衝撃性などの機械的強度に優れるため、車両用内装部品に特に好適である。また、成形体においては、色調、透明性、光学特性を高めることができると共に、残存低分子成分、異物の低減が可能であるという観点からも、車両用内装部品に特に好適である。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
[評価方法]
以下において、ポリカーボネート樹脂(A)、耐衝撃改良材(B)及びポリカーボネート樹脂組成物の物性ないし特性の評価は次の方法により行った。
(1)還元粘度の測定
ポリカーボネート樹脂(A)のサンプルを塩化メチレンに溶解させ、0.6g/dLの濃度のポリカーボネート樹脂溶液を調製した。森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃の条件で溶媒の通過時間t0と溶液の通過時間tとを測定し、次式(i)に基づいて相対粘度ηrelを算出した。次いで、相対粘度ηrelから、次式(ii)に基づいて比粘度ηspを求めた。
ηrel=t/t0 ・・・(i)
ηsp=ηrel−1 ・・・(ii)
得られた比粘度ηspを溶液の濃度c(g/dL)で割ることにより、還元粘度(ηsp/c)を求めた。この還元粘度の値が高いほど分子量が大きいことを意味する。
(2)屈折率の測定
ポリカーボネート樹脂(A)及び耐衝撃改良剤(B)の屈折率は、次のようにして測定した。まず、ポリカーボネート樹脂(A)又は耐衝撃基量剤(B)を160〜240℃でプレス成形し、厚み80μm〜500μmのフィルムを作製し、得られたフィルムを幅約8mm、長さ10mm〜40mmの短冊状に切り出した。これを測定試験片とした。アッベ屈折計(アタゴ社製DR−M4)により、波長589nm(D線)の干渉フィルターを用いて、測定試験片の屈折率nDを測定した。測定は、界面液として1−ブロモナフタレンを用い、20℃の温度条件で行った。
(3)ガラス転移温度(Tg)の測定
示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220)を用いて測定した。ポリカーボネート樹脂試料約10mgを同社製アルミパンに入れて密封し、50mL/分の窒素気流下、昇温速度20℃/分で室温から250℃まで昇温した。3分間温度を保持した後、30℃まで20℃/分の速度で冷却した。30℃で3分保持し、再び200℃まで20℃/分の速度で昇温した。2回目の昇温で得られたDSCデータより、JIS‐K7121(1987年)の方法に準拠し、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求め、それをガラス転移温度とした。
(4)溶融粘度の測定
ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度は、(株)東洋精機製作所製キャピラリーレオメータ「キャピログラフ1B」を用い、ダイス直径1mm、長さ10mm、流入角90℃、予熱時間2分、測定温度240℃にてせん断速度12.16〜6080sec-1の範囲で測定し、せん断速度(SR)91.2sec-1の時の粘度である。また、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度の測定においては、測定に用いるポリカーボネート樹脂は予め90℃で4時間以上乾燥したものを使用する。理想粘度は、ポリカーボネート樹脂組成物の各成分の溶融粘度に配合率(質量%)を掛けて足し合わせたものであり、理想粘度に対する比率は、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度を理想粘度で割り、100をかけたものである。
(5)耐衝撃性(ノッチ付シャルピー衝撃値)の測定
ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機を用いて、90℃で4時間以上乾燥した。次に、乾燥したペレットを射出成形機(東芝機械株式会社製EC−75SX型)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃、成形サイクル40秒間の条件で、機械物性用ISO試験片を成形した。このISO試験片についてISO179(2000年)に準拠してノッチ付シャルピー衝撃試験を実施した。この試験によって得られるノッチ付シャルピー衝撃値が高いほど耐衝撃性が高いことを示す。
(6)耐熱性(荷重たわみ温度)の測定
ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機を用いて、90℃で4時間以上乾燥した。次に、乾燥したペレットを射出成形機(東芝機械株式会社製EC−75SX)により引張試験用ダンベル型試験片を成形した。このダンベル型試験片を切削し、荷重たわみ温度測定用試験片を作製した。この荷重たわみ温度測定用試験片を用いて、ISO 75−2(2004年)に準拠して荷重たわみ温度を測定した。試験は、フラットワイズにて行い、試験片のたわみが規定のたわみに達したときの温度を荷重たわみ温度とした。荷重は1.80MPaである。この値が高いほど耐熱性が高いことを示す。実用性の観点からは、荷重撓み温度が85℃以上であれば合格である。
(7)全光線透過率及びへイズの測定
ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機を用いて、90℃で4時間以上乾燥した。次に、乾燥したペレットを射出成形機(東芝機械株式会社製EC−75SX型)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃、成形サイクル50秒間の条件で成形を行うことにより、射出成形板(幅100mm×長さ100mm×厚さ2mm)を得た。JIS K7136(2000年)に準拠し、日本電色工業(株)製ヘイズメータ「NDH2000」を使用し、D65光源にて、射出成形板の全光線透過率を測定した。
(8)漆黒性の測定(明度L*値及び光沢度Gs60°)
ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機を用いて、90℃で4時間以上乾燥した。次に、乾燥したペレットを射出成形機(東芝機械株式会社製EC−75SX型)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃、成形サイクル50秒間の条件で成形を行うことにより、射出成形板(幅100mm×長さ100mm×厚さ2mm)を得た。JIS K7105(1981年)に準じ、分光色差計(日本電色工業社製のSE2000)を使用し、C/2光源反射法(2°視野)にてL*値、a*値、b*値を測定した。明度L*値が小さいほど黒色性が高いと言える。また、射出成形板を使用し、JIS K7105(1981年)に準じ、光沢計(日本電色工業社製のVG−2000)を用いて、入射受光角60度の光沢度Gs60°を測定した。また、後述の耐候性試験後のサンプルについても同様の方法で測定を行った。
(9)耐候性試験
(9−1)色差ΔE*の測定
ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機を用いて温度90℃で4時間以上乾燥した。次に、ペレットを射出成形機(東芝機械株式会社製のEC−75SX型)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃、成形サイクル50秒間の条件で成形を行うことにより、射出成形板(幅100mm×長さ100mm×厚さ2mm)を得た。この射出成形板を半分に切断し、東洋精機製作所社製アトラス・ウェザーメーターCi4000を用いて、射出成形板の正方形の面に対して、放射露光量200MJ/m2まで照射処理を行った。なお、照射処理は、ブラックパネル温度89℃、相対湿度50%の条件下にて行うと共に、光源としてキセノンアークランプを、インナーフィルターとしてタイプSポロシリケイトを、またランプの周囲にアウターフィルターとしてタイプSポロシリケイトを取り付け、波長300nm〜400nmの放射照度が100w/m2になるように設定して行った。そして、照射処理前後において上記の分光測色方法で測定したL*、a*、b*値を用いて色差を求めた。照射前の値をL0 *,a0 *,b0 *、照射後の値をL*、a*、b*とし、下記の式で色差ΔE*を求めた。色差ΔE*の値がそれぞれ小さいほど耐候性に優れることを意味する。
ΔE*=[(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2]1/2
(9−2)光沢度保持率の測定
下記の式で光沢度保持率を求めた。光沢度保持率の値が高い程、耐候性に優れることを意味する。
光沢度保持率=照射処理後の光沢度/照射処理前の光沢度×100(%)
(9−3)外観目視の評価
外観を目視で観察し、サンプルの照射面の50%以上にクラックや荒れがある場合には「×」と評価し、クラックや荒れの存在が照射面の10%以下の場合には「△」と評価し、クラックや荒れが無ければ「○」と評価した。
[使用原料]
以下の実施例及び比較例で用いた化合物の略号、及び製造元は次の通りである。
<ジヒドロキシ化合物>
・ISB:イソソルビド[ロケットフルーレ社製]
・CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール[SKChemical社製]
・TCDDM:トリシクロデカンジメタノール[OXEA社製]
<炭酸ジエステル>
・DPC:ジフェニルカーボネート[三菱化学(株)製]
<触媒失活剤(酸性化合物(D))>
・亜リン酸[太平化学産業(株)製](分子量82.0)
<熱安定剤(酸化防止剤)>
・Irganox1010:ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート][BASF社製]
・AS2112:トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト[(株)ADEKA製](分子量646.9)⇒復活
<離型剤>
・E−275:エチレングリコールジステアレート[日油(株)製]
[ポリカーボネート樹脂(A)の製造例1]
温度100℃に制御された還流冷却器と撹拌翼とを具備した重合反応装置に、ISB、TCDDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPC、及び酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/TCDDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.70/0.30/1.00/1.3×10-6になるように仕込み、窒素置換を十分に行うことにより、反応装置内の酸素濃度を0.0005〜0.001体積%に調節した。続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。
その後、昇温を開始し、40分かけて内温を210℃に調節し、内温が210℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、210℃に到達してから90分かけて13.3kPa(絶対圧力、以下同様)まで減圧させ、この圧力でさらに60分間保持した。重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度が100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導いた。フェノール蒸気中に若干量含まれるジヒドロキシ化合物や炭酸ジエステルを重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼及び上記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温及び減圧を開始して、60分かけて内温を220℃、圧力を200Paに調節した。その後、20分かけて内温を230℃、圧力を133Pa以下に調節して、所定の撹拌動力になった時点で大気圧に復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターによりカーボネート共重合体をペレット状にした。このようにして、ISB/TCDDMのモル比が70/30mol%のポリカーボネート樹脂を得た。なお、このポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、124℃であった。
次いで、ポリカーボネート樹脂に対して0.65質量ppmの亜リン酸(リン原子の量として0.24質量ppm)を添加した。なお、亜リン酸は次のようにして添加した。製造例1において得られたポリカーボネート樹脂のペレットに、亜リン酸のエタノール溶液をまぶして混合したマスターバッチを調製し、押出機の第1ベント口の手前(押出機の樹脂供給口側)から、押出機中のポリカーボネート樹脂100質量部に対して、マスターバッチを1質量部となるように供給した。本製造例にて得られたポリカーボネート樹脂(A)を以下適宜PC−A1という。なお、PC−A1の溶融粘度(240℃、せん断速度91.2sec-1)は720Pa・sである。
[ポリカーボネート樹脂(A)の製造例2]
竪型攪拌反応器3器と横型攪拌反応器1器、並びに二軸押出機からなる連続重合設備を用いて、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。具体的には、まず、ISB、CHDM、及びDPCをそれぞれタンクで溶融させ、ISBを35.2kg/hr、CHDMを14.9kg/hr、DPCを74.5kg/hr(モル比でISB/CHDM/DPC=0.700/0.300/1.010)の流量で第1竪型攪拌反応器に連続的に供給した。同時に、触媒として酢酸カルシウム1水和物の水溶液を全ジヒドロキシ化合物1molに対して1.5μmolとなるように第1竪型攪拌反応器に供給した。各反応器の反応温度、内圧、滞留時間はそれぞれ、第1竪型攪拌反応器:190℃、25kPa、90分、第2竪型攪拌反応器:195℃、10kPa、45分、第3竪型攪拌反応器:210℃、3kPa、45分、第4横型攪拌反応器:225℃、0.5kPa、90分とした。得られるポリカーボネート樹脂の還元粘度が0.41dL/g〜0.43dL/gとなるように、第4横型攪拌反応器の内圧を微調整しながら運転を行った。
第4横型攪拌反応器より60kg/hrの流量でポリカーボネート樹脂を抜き出し、続いて樹脂を溶融状態のままベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製のTEX30α、L/D:42.0、L(mm):スクリューの長さ、D(mm):スクリューの直径]に供給した。押出機を通過したポリカーボネート樹脂を、引き続き溶融状態のまま、目開き10μmのキャンドル型フィルター(SUS316製)に通して、異物を濾過した。その後、ダイスからストランド状にポリカーボネート樹脂を排出させ、水冷、固化させた後、回転式カッターでペレット化し、ISB/CHDMのモル比が70/30mol%の共重合体からなるポリカーボネート樹脂のペレットを得た。なお、このポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、128℃であった。
押出機は3つの真空ベント口を有しており、ここで樹脂中の残存低分子成分を脱揮除去した。第2ベントの手前で樹脂に対して2000質量ppmの水を添加し、注水脱揮を行った。第3ベントの手前で、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、Irganox1010、AS2112、E−275をそれぞれ0.1質量部、0.05質量部、0.3質量部添加した。以上により、ISB/CHDM共重合体よりなるポリカーボネート樹脂を得た。
次に、ポリカーボネート樹脂に対して0.65質量ppmの亜リン酸(リン原子の量として0.24質量ppm)を添加した。なお、亜リン酸は次のようにして添加した。製造例2において得られたポリカーボネート樹脂のペレットに、亜リン酸のエタノール溶液をまぶして混合したマスターバッチを調製し、押出機の第1ベント口の手前(押出機の樹脂供給口側)から、押出機中のポリカーボネート樹脂100質量部に対して、マスターバッチを1質量部となるように供給した。本製造例にて得られたポリカーボネート樹脂(A)を以下適宜PC−A2という。なお、PC−A2の溶融粘度(240℃、せん断速度91.2sec-1)は1120Pa・sである。
[耐衝撃改良材(B)]
・パラロイドEXL−2690(ダウ・ケミカル社製、メチルメタクリレート−ブタジエン(MB)コアシェルコポリマー)
パラロイドEXL−2690の屈折率は1.519であった。この耐衝撃改良剤を以下適宜「B1」という。
[紫外線吸収剤(C)]
・C1:2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(ADEKA社製、アデカスタブLA−29 融点=102〜106℃、分子量323)
・C2:2−(2’−ヒドロキシ−3’−t―ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(ADEKA社製、アデカスタブLA−36 融点=138〜141℃、分子量315)
[ヒンダードアミン系光安定剤(D)]
・D1:セバシン酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)(BAF・ジャパン社製、チヌビン770)
・D2:高分子量型HALS(ADEKA社製,アデカスタブLA−63P)
[着色剤(E)]
・E1:スミプラスト ブラック HLG(住化ケムテックス社製の合成樹脂用着色剤)
・E2:三菱カーボンブラック#960(三菱化学社製、粒子径:16nm、窒素吸着比表面積:260m2/g、DBP吸油量(粒状):64cm3/100g)
[実施例1]
本例においては、ポリカーボネート樹脂(A)として上述のPC−A1及びPC−A2を用い、耐衝撃改良剤(B)として上述のB1を用い、紫外線吸収剤(C)として上述のC1及びC2を用い、ヒンダードアミン系光安定剤(D)として上述のD1を用い、漆黒性着色材(E)として上述のE1及びE2を用いた。具体的には、まず、60質量部のPC−A1、40質量部のPC−A2、10質量部のB1、0.15質量部のC1、0.15質量部のC2、0.1質量部のD1を0.1質量部、及び0.6質量部のE1、0.3質量部のE2を二軸混練機(日本製鋼所社製、TEX−30α(L/D=52.5、L(mm):スクリューの長さ、D(mm):スクリューの直径))に投入し、溶融混練を行った。混練機スクリューの直径D(mm)に対するニーディングゾーンの合計長さLtの比は6.5であり(Lt/D=6.5)、混練条件は、流量:30kg/h、スクリュー回転速度:200rpm、シリンダー温度:230℃である。
押出機は2つの真空ベント口を有しており、ベント真空度:11kPaの条件で溶融混練後の樹脂組成物の押出を行った。具体的には、溶融混練後の樹脂組成物を押出機からストランド状に押出し、水冷工程を経てペレット状にカッティングを行うことにより、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。この組成物について、上記の評価を行い、その結果を表1に示す。
[実施例2]
本例は、2種類のヒンダードアミン系安定剤(D)を用いた例である。具体的には、ヒンダードアミン系光安定材であるD1の量を0.05質量部に変更し、さらにヒンダードアミン系光安定剤として0.05質量部のD2を用いた点を除いては、実施例1と同様にポリカーボネート樹脂組成物の製造を行った。本例の評価結果を表1に示す。
[比較例1]
本例は、1種類の紫外線光吸収材(C)を用いた例である。具体的には、C1を用いずに、C2の量を0.3質量部に変更した点を除いては、実施例1と同様にしてポリカーボネート樹脂組成物の製造を行った。本例の評価結果を表1に示す。
[比較例2]
本例も、比較例1と同様に1種類の紫外線吸収剤を用いた例である。具体的には、C2を用いずに、C1の量を0.3質量部に変更した点を除いては、実施例1と同様にしてポリカーボネート樹脂組成物の製造を行った。本例の評価結果を表1に示す。
[実施例3]
本例は、ポリカーボネート樹脂(A)の配合組成を変更し、さらに2種類のヒンダードアミン系安定剤(D)を用いた例である。具体的には、PC−A1の量を70質量部に変更し、PC−A2の量を30質量部に変更した。また、ヒンダードアミン系光安定材であるD1の量を0.05質量部に変更し、さらにヒンダードアミン系光安定剤として0.05質量部のD2を用いた。その他は実施例1と同様にしてポリカーボネート樹脂組成物の製造を行った。本例の評価結果を表1に示す。
[比較例3]
本例は、ポリカーボネート樹脂(A)の配合組成を変更し、1種類の紫外線吸収剤を用いた例である。具体的には、PC−A1の量を70質量部に変更し、PC−A2の量を30質量部に変更した。また、紫外線吸収剤(C)として、C2を用いずに、C1の量を0.3質量部に変更した。その他は実施例1と同様にしてポリカーボネート樹脂組成物の製造を行った。本例の評価結果を表1に示す。
[比較例4]
本例は、ポリカーボネート樹脂(A)の配合組成を変更し、1種類の紫外線吸収剤(C)を用い、光安定剤(D)の種類を変更した例である。具体的には、PC−A1の量を70質量部に変更し、PC−A2の量を30質量部に変更した。また、紫外線吸収剤(C)として、C2を用いずに、C1の量を0.3質量部に変更した。また、ヒンダードアミン系光安定剤として、D1の代わりに0.1質量部のD2を用いた。その他は実施例1と同様にしてポリカーボネート樹脂組成物の製造を行った。本例の評価結果を表1に示す。
[参考例1]
60質量部PC−A1、及び40質量部のPC−A2のみを用いて、実施例1と同様の操作を行ってペレットを得た。このペレットの屈折率を前述の測定法に従って測定したところ、1.516であった。耐衝撃改良材(B)との屈折率の差は、0.003であった。
[参考例2]
60質量部PC−A1、40質量部のPC−A2、及び10質量部の耐衝撃改良材(B)のみを用いて、実施例1と同様の操作を行ってペレットを得た。このペレットの全光線透過率及びヘイズを前述の測定法に従って測定した。その結果、全光線透過率が88.8%、ヘイズが1.5%であった。
表1より知られるように、実施例のポリカーボネート樹脂組成物は、前述の式(1)で表される化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、コア・シェル型構造のエラストマーからなる耐衝撃改良剤(B)と、少なくとも2種類以上のベンゾトリアゾール系化合物からなる紫外線吸収剤(C)とを含有する。さらに、実施例のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、耐衝撃改良材(B)を3〜20質量部含有し、紫外線吸収剤(C)の合計含有量が0.05〜0.5質量部である。このようなポリカーボネート樹脂組成物は、耐熱性、耐衝撃性及び耐候性を高いレベルでバランスよく兼ね備えていた。また、透明性及び鮮映性にも優れていた。