次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置1は、四輪自動車である車両2の各車輪3に付与する制動力を適宜制御する装置である。車両用ブレーキ液圧制御装置1は、液圧路や各種部品が設けられる液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部100とを主に備えている。
各車輪3には、それぞれ車輪ブレーキFL,RR,RL,FRが備えられ、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRには、液圧源であるマスタシリンダ5から供給される液圧により制動力を発生するホイールシリンダ4が備えられている。マスタシリンダ5とホイールシリンダ4とは、それぞれ液圧ユニット10に接続されている。そして、ブレーキペダル6の踏力に応じてマスタシリンダ5で発生したブレーキ液圧が、制御部100および液圧ユニット10で制御された上でホイールシリンダ4に供給されている。
制御部100には、マスタシリンダ5の液圧(マスタシリンダ圧Pm)を検出する圧力センサ91と、各車輪3の車輪速度Vwを検出する車輪速センサ92とが接続されている。制御部100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)および入出力回路を備えており、圧力センサ91や車輪速センサ92からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各種の演算処理を行うことによって、車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの液圧を増減する制御を実行する。
図2に示すように、液圧ユニット10は、マスタシリンダ5と車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとの間に配置されている。マスタシリンダ5の二つの出力ポート5a,5bは、液圧ユニット10の入口ポート11aに接続され、出口ポート11bが、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに接続されている。そして、通常時は液圧ユニット10内の入口ポート11aから出口ポート11bまでが連通した液圧路となっていることで、ブレーキペダル6の踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
液圧ユニット10には、基体11と、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに対応して四つの入口弁13、四つの出口弁14、および四つのチェック弁13aが設けられている。また、液圧ユニット10には、出力ポート5a,5bに対応した各出力液圧路19Aに対応して二つのリザーバ16、二つのポンプ17、二つのオリフィス17a、二つのポンプ17を駆動するモータの一例としての電動モータ21が設けられている。
入口弁13は、マスタシリンダ5から各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRへの液圧路(各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの上流側)に配置された常開型比例電磁弁である。入口弁13は、通常時に開いていることで、マスタシリンダ5から各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁13は、車輪3がロックしそうになったときに制御部100により閉塞されることで、ブレーキペダル6から各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達する液圧を遮断する。
また、詳細は図示しないが、入口弁13の弁体は、付与される電流に応じた電磁力によってマスタシリンダ5側へ付勢され、この付勢力によって車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの液圧を調整することができるようになっている。
出口弁14は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRからマスタシリンダ5への液圧路上(入口弁13のホイールシリンダ4側の液圧路からリザーバ16、ポンプ17およびマスタシリンダ5に通じる液圧路上)に配置された常閉型の電磁弁である。詳しくは、出口弁14は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRからリザーバ16への液圧路に介装されている。出口弁14は、通常時に閉塞されているが、車輪3がロックしそうになったときに制御部100により開放されることで、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに加わる液圧を各リザーバ16に逃がす。
チェック弁13aは、各入口弁13に並列に接続されている。チェック弁13aは、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側からマスタシリンダ5側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁であり、ブレーキペダル6からの入力が解除された場合に入口弁13を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側からマスタシリンダ5側へのブレーキ液の流れを許容する。
リザーバ16は、各出口弁14が開放されることによって逃がされるブレーキ液を吸収する機能を有している。
ポンプ17は、リザーバ16からマスタシリンダ5への液圧路上に配置されている。ポンプ17は、リザーバ16で吸収されているブレーキ液を吸入し、そのブレーキ液を、オリフィス17aを介してマスタシリンダ5へ戻す機能を有している。
入口弁13および出口弁14は、制御部100により開閉状態が制御されることで、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRのホイールシリンダ4における液圧(以下、「ホイールシリンダ圧Pw」という。)を制御する。例えば、入口弁13が開、出口弁14が閉となる通常状態では、ブレーキペダル6を踏んでいれば、マスタシリンダ5からの液圧がそのままホイールシリンダ4へ伝達して増圧状態となり、入口弁13が閉、出口弁14が開となれば、ホイールシリンダ4からリザーバ16側へブレーキ液が流出して減圧状態となり、入口弁13と出口弁14が共に閉となれば、ホイールシリンダ圧Pwが保持される保持状態となる。また、マスタシリンダ圧Pmが上昇している最中に、出口弁14を閉じた状態で、入口弁13に全閉に至らない適宜な電流を流せば、その電流に応じてマスタシリンダ5からホイールシリンダ4へのブレーキ液の流入が制限され、ホイールシリンダ圧Pwを徐々に上昇させることができる。
図3に示すように、電動モータ21は、2つのポンプ17を駆動するための偏心カム21aを有している。偏心カム21aは、円板状のカムであり、その中心が、電動モータ21の出力軸の中心から偏心した状態で、出力軸に固定されている。ポンプ17は、偏心カム21aを挟んだ両側に1つずつ設けられている。なお、2つのポンプ17は、同一の構造であるため、図3には代表して1つのみを図示する。
ポンプ17は、有底円筒状のシリンダ171と、シリンダ171内に移動可能に設けられるピストン172と、ピストン172を偏心カム21aに向けて付勢する戻しバネ173と、吐出弁174と、吸入弁175と、キャップ176を備えている。
シリンダ171は、開口を偏心カム21a側に向けた状態で、基体11に形成されたポンプ穴11H内に嵌め込まれて固定されている。シリンダ171の底部には、貫通孔状の吐出路171Aが形成されている。吐出路171Aの出口側(キャップ176側)の開口の周囲は、テーパ状に形成された弁座部171Bとなっている。
キャップ176は、シリンダ171の底部を覆うように、ポンプ穴11H内に嵌め込まれて固定されている。キャップ176とシリンダ171との間には、吐出路171Aと、基体11に形成された吐出流路11Aとを繋ぐための流路176Aが形成されている。なお、吐出流路11Aは、マスタシリンダ5等(図2参照)に繋がっている。
吐出弁174は、バネSP1とともにキャップ176とシリンダ171の底部との間に設けられ、バネSP1によって弁座部171Bに付勢されている。
ピストン172は、円柱ピストン部172Aと、大径ピストン部172Bとを備え、戻しバネ173によって偏心カム21a側に付勢されている。円柱ピストン部172Aの一端部は、偏心カム21aと当接可能な位置に配置され、他端部は、大径ピストン部172Bに圧入されて固定されている。
大径ピストン部172Bは、シリンダ171の内周面に摺動可能に係合している。大径ピストン部172Bは、円柱ピストン部172A側に開口する有底円筒状に形成されている。大径ピストン部172Bの底部には、貫通孔状の吸入路B1が形成されている。吸入路B1の出口側(キャップ176側)の開口の周囲は、テーパ状に形成された弁座部B3となっている。
大径ピストン部172Bの底部の外側には、有底円筒状のリテーナ177が設けられている。リテーナ177は、開口が大径ピストン部172Bを向くように配置され、その底部には、貫通孔177Aが形成されている。リテーナ177内には、吸入弁175とバネSP2が設けられている。吸入弁175は、バネSP2によって弁座部B3に付勢されている。
大径ピストン部172のうち円柱ピストン部172Aが圧入される内周面には、軸方向に沿った複数の溝B2が形成されている。溝B2は、一端が円柱ピストン部172Aの周囲の環状空間11Cに開口し、他端が吸入路B1に繋がっている。環状空間11Cは、基体11に形成された吸入流路11Bを介してリザーバ16(図2参照)に繋がっている。
次に、ポンプ17の動作について説明する。
偏心カム21aがピストン172を押圧すると、ピストン172が戻しバネ173の付勢力に抗して移動して、シリンダ171内の圧力が高まる。これにより、吸入弁175が閉じるとともに、吐出弁174が開くので、シリンダ171内のブレーキ液がマスタシリンダ5側に圧送される。
偏心カム21aがピストン172から離れるように回転すると、ピストン172が戻しバネ173の付勢力によって移動して、シリンダ171内の圧力が低くなる。これにより、吐出弁174が閉じるとともに、吸入弁175が開くので、リザーバ16内のブレーキ液がシリンダ171内に吸入される。
次に、制御部100の詳細について説明する。
図4に示すように、制御部100は、車輪減速度算出手段111、車体減速度算出手段112、液圧推定手段113、回転数取得手段114、アンチロックブレーキ(以下、「ABS」という。)制御手段120、路面摩擦係数(以下、「路面μ」という。)推定手段131、消費液量推定手段132、吐出量推定手段133、目標吐出時間設定手段141、リザーバ使用量推定手段142、目標回転数設定手段150、弁駆動部160、モータ駆動部170および記憶装置190を備えている。
車輪減速度算出手段111は、車輪速センサ92から取得した各車輪3の車輪速度Vwに基づいて、各車輪3の車輪減速度Awを算出する機能を有している。ここで、減速度は、加速度と同じ意味であり、負の値である場合には減速していることを示し、正の値である場合には加速していることを示す。車輪減速度Awは、例えば、車輪速度Vwの今回値から前回値を引くことで算出することができる。車輪減速度算出手段111は、算出した各車輪3の車輪減速度AwをABS制御手段120と路面μ推定手段131に出力する。
車体減速度算出手段112は、車輪速センサ92から取得した各車輪3の車輪速度Vwに基づいて、車体減速度Acを算出する機能を有している。車体減速度Acは、例えば、車輪速度Vwから算出した車体速度Vcの今回値から前回値を引くことで算出することができる。ABS制御時には、前回の増圧開始時の車輪速度Vwと、今回の増圧開始時の車輪速度Vwとから車体減速度Acを算出する。車体減速度算出手段112は、算出した車体減速度Acを路面μ推定手段131に出力する。
液圧推定手段113は、圧力センサ91から取得したマスタシリンダ圧Pmと、ABS制御手段120から出力されてくる入口弁13や出口弁14の制御履歴とに基づいて、各車輪3のホイールシリンダ圧Pwを推定する機能を有している。液圧推定手段113は、推定した各ホイールシリンダ圧Pwを消費液量推定手段132と路面μ推定手段131に出力する。
回転数取得手段114は、電動モータ21の回転数の情報を取得する機能を有している。具体的に、回転数取得手段114は、電動モータ21の回転数の情報として、電動モータ21の逆起電圧を取得する。回転数取得手段114は、取得した電動モータ21の回転数の情報を吐出量推定手段133に出力する。
ABS制御手段120は、車輪速センサ92から取得した各車輪3の車輪速度Vwと、車輪減速度算出手段111が算出した各車輪減速度Awとに基づいて、ABS制御を実行するか否かを車輪3ごとに判定し、実行すると判定した場合に、ABS制御時の液圧制御の指示(減圧制御、保持制御および増圧制御のいずれにするかの指示)を車輪3ごとに決定する機能を有している。
具体的に、ABS制御手段120は、各車輪3の車輪速度Vwと、各車輪速度Vwから推定した車体速度Vcとに基づいて、各車輪3のスリップ量SLを算出する。スリップ量SLとしては、例えば、車体速度Vcから車輪速度Vwを引いた値や、(Vc−Vw)/Vcで表されるスリップ率などを用いることができる。
そして、ABS制御手段120は、スリップ量SLが所定の減圧閾値SLth以上となり、かつ、車輪減速度Awが0以下であるときに車輪3がロックしそうになったと判定して、液圧制御の指示を減圧制御に決定する。また、ABS制御手段120は、車輪減速度Awが0よりも大きいときに、液圧制御の指示を保持制御に決定する。さらに、ABS制御手段120は、スリップ量SLが減圧閾値SLth未満となり、かつ、車輪減速度Awが0以下であるときに、液圧制御の指示を増圧制御に決定する。ABS制御手段120は、決定した液圧制御の指示(減圧、保持または増圧の指示)の情報を弁駆動部160に出力する。
路面μ推定手段131は、路面μを推定する機能を有している。詳しくは、路面μ推定手段131は、ABS制御を開始する際において、車輪減速度算出手段111が算出した各車輪3の車輪減速度Awと、液圧推定手段113が推定した各ホイールシリンダ圧Pwとに基づいて、各車輪3に対応した路面μを推定する。具体的に、路面μ推定手段131は、各車輪3の車輪減速度Awと、各ホイールシリンダ圧Pwと、路面摩擦係数推定マップとに基づいて、各車輪3に対応した路面μを推定する。
ここで、路面摩擦係数推定マップは、車輪減速度Awの大きさ(絶対値)と、ホイールシリンダ圧Pwと、路面μとを関連付けるためのマップであり、実験やシミュレーションなどにより予め設定されている。路面摩擦係数推定マップは、車輪減速度Awの大きさが大きくなるほど、路面μが低くなり、ホイールシリンダ圧Pwが小さくなるほど、路面μが低くなるように設定されている。路面μ推定手段131は、ホイールシリンダ圧Pwや車輪減速度Awの大きさが路面摩擦係数推定マップに示す数値以外の数値である場合には、線形補間により路面μを推定する。
また、路面μ推定手段131は、ABS制御中において増圧制御を2回実行した場合には、それ以降は、車体減速度算出手段112が算出した車体減速度Acに基づいて、路面μを推定する。詳しくは、路面μ推定手段131は、車体減速度Acの大きさが小さいほど、路面μを低い値に設定する。
路面μ推定手段131は、推定した路面μを目標吐出時間設定手段141に出力する。
消費液量推定手段132は、ABS制御の減圧制御において、減圧制御の開始時のホイールシリンダ圧Pwと減圧制御の終了時のホイールシリンダ圧Pwとに基づいて、車輪ブレーキFL,RR,RL,FRからリザーバ16内に流入したブレーキ液の量に相当する消費液量を車輪3ごとに推定する機能を有している。具体的に、消費液量推定手段132は、単位時間ΔTごとに、ホイールシリンダ圧Pwの前回値と、単位時間ΔTと、液圧推定マップとに基づいて、ホイールシリンダ圧Pwの今回値を推定する。
ここで、液圧推定マップは、図5(a)に示すように、ABS制御の減圧制御時におけるホイールシリンダ圧Pwの経時変化を示すマップであり、実験やシミュレーションなどにより車輪3ごとに予め設定されている。消費液量推定手段132は、例えば、ホイールシリンダ圧Pwの前回値がPw3であった場合、単位時間ΔTと、液圧推定マップとに基づいて、ホイールシリンダ圧Pwの今回値をPw2と推定する。
そして、消費液量推定手段132は、推定したホイールシリンダ圧Pwの今回値と、ホイールシリンダ圧Pwの前回値と、消費液量推定マップとに基づいて、消費液量Vsを推定する。
ここで、消費液量推定マップは、図5(b)に示すように、ホイールシリンダ圧Pwと、液圧損失とを関連付けるためのマップであり、実験やシミュレーションなどにより予め設定されている。消費液量推定マップは、ホイールシリンダ圧Pwが小さくなるほど、液圧損失が小さくなるように設定されている。消費液量推定手段132は、例えば、ホイールシリンダ圧Pwの前回値がPw3であり、今回値がPw2であった場合、消費液量推定マップに基づいて、ホイールシリンダ圧Pw3のときの液圧損失D3と、ホイールシリンダ圧Pw2のときの液圧損失D2を推定する。そして、液圧損失D3から液圧損失D2を引くことで、消費液量Vsを推定する。
消費液量推定手段132は、減圧制御中に、単位時間ΔTごとに消費液量Vsを算出することで、結果として、減圧制御の開始時のホイールシリンダ圧Pw(例えばPw3)と、減圧制御の終了時のホイールシリンダ圧Pw(例えばPw1)とに基づいて、減圧制御中のトータルの消費液量を推定している。消費液量推定手段132は、推定した消費液量Vsをリザーバ使用量推定手段142に出力する。
吐出量推定手段133は、ABS制御の減圧制御において、ポンプ17の駆動によりリザーバ16から吐出されるブレーキ液の量に相当する吐出量を電動モータ21の回転数から推定する機能を有している。具体的に、吐出量推定手段133は、単位時間ΔTごとに、回転数取得手段114が取得した電動モータ21の回転数(逆起電圧)と、吐出量推定マップとに基づいて、吐出量Vdを推定する。
ここで、吐出量推定マップは、図6に示すように、電動モータ21の逆起電圧と、吐出量Vdとを関連付けるためのマップであり、実験やシミュレーションなどにより予め設定されている。吐出量推定マップは、電動モータ21の逆起電圧の大きさが大きくなるほど、吐出量Vdが大きくなるように設定されている。吐出量推定手段133は、推定した吐出量Vdをリザーバ使用量推定手段142に出力する。
目標吐出時間設定手段141は、路面μ推定手段131が推定した路面μに基づいて、所定時間の一例としての目標吐出時間Tdを設定する機能を有している。具体的に、目標吐出時間設定手段141は、路面μと、目標吐出時間設定マップとに基づいて、目標吐出時間Tdを設定する。ここで、目標吐出時間設定マップは、図7に示すように、路面μと、目標吐出時間Tdとを関連付けるためのマップであり、実験やシミュレーションなどにより予め設定されている。目標吐出時間設定マップは、路面μが高いほど、目標吐出時間Tdが短くなるように設定されている。これにより、目標吐出時間設定手段141は、路面μが低いほど、目標吐出時間Tdを長い時間に設定し、路面μが高いほど、目標吐出時間Tdを短い時間に設定する。
また、目標吐出時間設定手段141は、ABS制御中において、減圧制御の終了から目標吐出時間Tdが経過する前に、次の減圧制御を開始した場合には、路面μと、目標吐出時間設定マップとに基づいて、目標吐出時間Tdを再設定する。
目標吐出時間設定手段141は、設定した目標吐出時間Tdを目標回転数設定手段150とモータ駆動部170に出力する。
リザーバ使用量推定手段142は、ABS制御の減圧制御において、リザーバ16内のブレーキ液の初期状態(空の状態)からの増加量に相当するリザーバ使用量を推定する機能を有している。詳しくは、リザーバ使用量推定手段142は、単位時間ΔTごとに、吐出量推定手段133が推定した吐出量Vdと、消費液量推定手段132が推定した消費液量Vsと、リザーバ使用量の前回値Vrn−1とに基づいて、リザーバ使用量Vrnを求める。具体的に、リザーバ使用量推定手段142は、リザーバ使用量の前回値Vrn−1に、消費液量Vsから吐出量Vdを引いた値を加えることで、リザーバ使用量Vrn(今回値)を算出する(Vrn=Vrn−1+(Vs−Vd))。リザーバ使用量推定手段142は、推定したリザーバ使用量Vrnを目標回転数設定手段150に出力する。
目標回転数設定手段150は、目標吐出時間設定手段141が設定した目標吐出時間Tdと、リザーバ使用量推定手段142が推定したリザーバ使用量Vrnとに基づいて、電動モータ21の目標回転数を設定する機能を有している。詳しくは、目標回転数設定手段150は、目標吐出時間Tdから吐出時間カウンタ値TdCを設定する。具体的には、目標回転数設定手段150は、ABS制御の減圧制御中は、目標吐出時間Tdを吐出時間カウンタ値TdCに設定し、減圧制御後(保持制御中および増圧制御中)は、単位時間ΔTごとに、吐出時間カウンタ値TdCの前回値から単位時間ΔTを引いた値を吐出時間カウンタ値TdCに設定する。
そして、目標回転数設定手段150は、リザーバ使用量Vrnを吐出時間カウンタ値TdCで割ることで目標吐出量Vtを算出し、算出した目標吐出量Vtと、目標回転数設定マップとに基づいて、目標回転数Rtを設定する。ここで、目標回転数設定マップは、目標吐出量Vtと、目標回転数Rtとを関連付けるためのマップであり、実験やシミュレーションなどにより予め設定されている。目標回転数設定マップは、目標吐出量Vtが大きくなるほど、目標回転数Rtが大きくなるように設定されている。目標回転数設定手段150は、設定した目標回転数Rtの情報をモータ駆動部170に出力する。
弁駆動部160は、ABS制御手段120から出力されてくる液圧制御の指示の情報に基づいて、入口弁13および出口弁14を制御することで、ホイールシリンダ圧Pwを制御する機能を有している。
具体的に、弁駆動部160は、液圧制御の指示が減圧制御である場合には、入口弁13および出口弁14に電流を流すことで、入口弁13を閉じ、出口弁14を開け、ホイールシリンダ圧Pwを減圧するように制御する。また、弁駆動部160は、液圧制御の指示が保持制御である場合には、入口弁13に電流を流し、出口弁14に電流を流さないことで、入口弁13および出口弁14を両方とも閉じ、ホイールシリンダ圧Pwを保持するように制御する。
さらに、弁駆動部160は、液圧制御の指示が増圧制御である場合には、出口弁14に電流を流さないことで出口弁14を閉じ、入口弁13に、電流を流さない、または、指示液圧に対応した駆動電流を流すことで、入口弁13の上下流の差圧をコントロールして、ホイールシリンダ圧Pwを意図した増圧レートで増圧するように制御する。
モータ駆動部170は、目標吐出時間設定手段141や目標回転数設定手段150などから出力されてくる情報に基づいて、ポンプ17を駆動させる電動モータ21の駆動を制御することで、ABS制御の減圧制御によってリザーバ16内に溜めたブレーキ液を、リザーバ16側からマスタシリンダ5側へ戻す制御を実行する機能を有している。
具体的に、モータ駆動部170は、ABS制御の減圧制御を開始する際に電動モータ21の駆動を開始する。詳しくは、モータ駆動部170は、ABS制御中に、電動モータ21に、目標回転数設定手段150が設定した目標回転数Rtに対応した電流を流すことで、電動モータ21を目標回転数Rtで駆動する。
そして、モータ駆動部170は、減圧制御の終了から目標吐出時間Tdが経過した場合には、リザーバ使用量が0になったと判断し、その後、電動モータ21をさらに1回転分だけ余分に回転させてから、電動モータ21を停止する。
詳しくは、モータ駆動部170は、目標回転数Rtに基づいて、目標回転数Rtで回転している電動モータ21が1回転するのにかかる余分時間Teを設定する。より詳しくは、例えば、目標回転数Rtの単位がrps(回転/秒)である場合には、モータ駆動部170は、余分時間Teを1/Rt(秒)に設定する。
なお、余分時間Teの設定は、減圧制御中においては、目標回転数Rtを設定した後であればどのようなタイミングで行ってもよい。また、余分時間Teの設定は、減圧制御後に行ってもよく、この場合、減圧制御の終了から目標吐出時間Tdが経過するまでの間に行えばよい。
そして、モータ駆動部170は、減圧制御の終了から目標吐出時間Tdが経過した時点から、余分時間Teだけ電動モータ21を目標回転数Rtで回転させ続けた後、電動モータ21へ電流を流すのを停止することで、電動モータ21の駆動を停止する。
記憶装置190は、上記した各手段での処理のための閾値やマップ、推定値や計算値などを記憶する装置である。
次に、以上のように構成された制御部100による処理について説明する。なお、図8の処理は、所定の制御サイクル(単位時間ΔT)ごとに繰り返し行われる。
図8に示すように、制御部100は、まず、ABS制御中であるか否かを判定する(S11)。そして、制御部100は、ABS制御中でない場合(S11,No)は、今回の処理を終了する。
一方、ABS制御中である場合(S11,Yes)、制御部100は、路面μを推定する(S23)。また、制御部100は、消費液量Vsを推定するとともに(S24)、吐出量Vdを推定する(S25)。そして、制御部100は、吐出量Vd、消費液量Vsおよびリザーバ使用量の前回値Vrn−1に基づいてリザーバ使用量Vrnを推定するとともに(S26)、路面μに基づいて目標吐出時間Tdを設定する(S27)。さらに、制御部100は、リザーバ使用量Vrnおよび目標吐出時間Tdに基づいて電動モータ21の目標回転数Rtを設定するとともに(S28)、目標回転数Rtに基づいて余分時間Teを設定する(S29)。
ステップS29の後、制御部100は、設定した目標回転数Rtで電動モータ21を駆動して(S32)、リザーバ16内に溜まったブレーキ液をリザーバ16からマスタシリンダ5側へ戻していく。
そして、制御部100は、減圧制御終了から目標吐出時間Tdが経過したか否かを判定する(S33)。そして、目標吐出時間Tdが経過していない場合(S33,No)、制御部100は、今回の処理を終了する。一方、目標吐出時間Tdが経過した場合(S33,Yes)は、制御部100は、リザーバ使用量が0になったと判断し、判断した時点からさらに1回転分(余分時間Te)だけ電動モータ21を回転させる(S34)。ステップS34の後は、リザーバ16内のブレーキ液が略すべてマスタシリンダ5側へ戻ってリザーバ16は略空となっているので、制御部100は、電動モータ21の駆動を停止して(S35)、今回の処理を終了する。
なお、ステップS35の後に、引き続き、ABS制御の保持制御や増圧制御が行われた場合には、リザーバ16内のブレーキ液の量が空の状態から増加しないため、制御部100は、ステップS26において、リザーバ使用量Vrnが0であると推定する。これにより、制御部100は、ステップS28において、電動モータ21の目標回転数Rtを0に設定する。その結果、制御部100は、ABS制御中であっても、電動モータ21を駆動することなく、今回の処理を終了する。
次に、制御部100による制御の一例について説明する。
図9に示すように、時刻t1において、ABS制御を開始し(ON)、減圧制御を開始すると、入口弁13が閉塞され、出口弁14が開放されることで、ブレーキ液がホイールシリンダ4からリザーバ16内に流入し、リザーバ使用量Vrn(リザーバ16内のブレーキ液の量)が増加していく。ここで、実線で示すリザーバ使用量Vrnは、計算で求めたリザーバ使用量を示し、破線で示すリザーバ使用量は、実際のリザーバ使用量を示している。
また、ABS制御を開始すると、制御サイクル(単位時間ΔT)ごとに、リザーバ使用量Vrnや目標吐出時間Td、吐出時間カウンタ値TdC、目標回転数Rtが設定され、設定された目標回転数Rtで電動モータ21が駆動する。なお、減圧制御中(時刻t1〜t2)には、電動モータ21の駆動によりポンプ17が駆動してブレーキ液の一部がリザーバ16側からマスタシリンダ5側へ吐出されるが、ホイールシリンダ4からリザーバ16内に流入するブレーキ液の量の方が多い場合には、リザーバ使用量Vrnは徐々に増加する。
時刻t2において、減圧制御が終了し、保持制御を開始すると、出口弁14が閉塞されることで、ホイールシリンダ4からリザーバ16内へのブレーキ液の流入が止まるため、リザーバ使用量Vrnの増加が止まる。その後は、目標回転数Rtに基づいたポンプ17の駆動によってブレーキ液がリザーバ16内からマスタシリンダ5側へ吐出されるので、リザーバ使用量Vrnが減少していく。
時刻t3において、減圧制御の終了(時刻t2)から目標吐出時間Tdが経過する前(吐出時間カウンタ値TdCが0になる前)に次の減圧制御を開始すると、再びリザーバ使用量Vrnが増加していく。
そして、時刻t4において、再び減圧制御が終了し、保持制御を開始すると、リザーバ使用量Vrnの増加が止まるので、目標回転数Rtに基づいたポンプ17の駆動によってブレーキ液がリザーバ16内からマスタシリンダ5側へ吐出され、再びリザーバ使用量Vrnが減少していく。
そして、時刻t5において、減圧制御の終了(時刻t4)から目標吐出時間Tdが経過すると(吐出時間カウンタ値TdCが0になると)、制御部100は、リザーバ使用量Vrnが0になったと判断する。その後、制御部100は、時刻t5から余分時間Teが経過するまでの間、電動モータ21の回転を継続し、余分時間Teの経過後に電動モータ21の駆動を停止させる(t6)。その後は、時刻t6〜t7に示すように、リザーバ使用量Vrnが0であるため、ABS制御中であっても、再び減圧制御が開始されない限り、電動モータ21が駆動することはない。
ところで、本実施形態において、目標吐出時間Tdは、路面μと、図7の目標吐出時間設定マップとに基づいて設定されるため、図10に示すように、路面μが低い場合、目標吐出時間Tdが長い時間TdLow(大きい値)に設定されることで吐出時間カウンタ値TdCが大きい値TdCLowとなり、路面μが高い場合、目標吐出時間Tdが短い時間TdHigh(小さい値)に設定されることで吐出時間カウンタ値TdCが小さい値TdCHighとなる。また、目標回転数Rtは、リザーバ使用量Vrnを吐出時間カウンタ値TdCで割ることで算出した目標吐出量Vtに基づいて設定されるため、路面μが低い場合、吐出時間カウンタ値TdCが大きい値TdCLowであることで目標回転数Rtは小さい回転数RtLowに設定され、路面μが高い場合、吐出時間カウンタ値TdCが小さい値TdCHighであることで目標回転数Rtは大きい回転数RtHighに設定される。
そのため、ロードノイズが小さくなる低μ路では、図10に実線で示すように、時刻t12〜t14において、小さな目標回転数RtLowで、長い時間(TdLow+Te)をかけて電動モータ21を駆動することで、電動モータ21の作動音を目立たなくすることができる。一方、ロードノイズが大きくなる高μ路では、図10に二点鎖線で示すように、時刻t12〜t13において、大きな目標回転数RtHighで、短い時間(TdHigh+Te)に電動モータ21を駆動しても、電動モータ21の作動音を目立たなくすることができる。
以上によれば、本実施形態において以下のような効果を得ることができる。
推定したリザーバ使用量Vrnが0になるまで電動モータ21を駆動させた後、さらに1回転分だけ電動モータ21を余分に回転させてから電動モータ21を停止させるので、偏心カム21aの回転位置による吐出量のバラツキの影響を受けずに、リザーバ16内のブレーキ液をマスタシリンダ5側に十分戻すことができる。
減圧制御の終了から目標吐出時間Tdが経過した場合に、制御部100がリザーバ使用量Vrnが0になったと判断するので、リザーバ使用量Vrnが0になったことを電動モータ21の駆動時間を見るだけの簡単な制御で判定することができる。
減圧制御の終了から時間(Td+Te)が経過した場合には、ABS制御中であっても電動モータ21を停止するので、ABS制御中における、電動モータ21の駆動時間が不要に長くなるのを抑えたり、電動モータ21の作動音により乗員が不快に感じるのを抑えたりすることができる。
また、減圧制御の終了から目標吐出時間Tdが経過する前に次の減圧制御を開始した場合には、路面μに基づいて目標吐出時間Tdを再設定するので、減圧制御ごとに目標吐出時間Tdが再設定される。これにより、各減圧制御の終了後において電動モータ21を適正な時間で駆動することができる。
また、リザーバ16内のブレーキ液の量(リザーバ使用量Vrn)と、路面μに基づいて設定した目標吐出時間Tdとに基づいて電動モータ21の目標回転数Rtを設定するので、車両2が走行している路面の路面μに応じて電動モータ21の作動音が目立たない回転数とすることができる。
また、消費液量Vs、吐出量Vdおよびリザーバ使用量の前回値Vrn−1を用いてリザーバ使用量Vrnを求めるので、例えば、消費液量Vsのみからリザーバ使用量を求める場合に比べ、リザーバ使用量Vrnを正確に求めることができる。
また、路面μが高いほど目標吐出時間Tdを短い時間に設定するので、ロードノイズが大きくなる高μ路では、大きな回転数で短い時間に電動モータ21を駆動しても作動音を目立たなくすることができる。また、路面μが低いほど目標吐出時間Tdを長い時間に設定するので、ロードノイズが小さくなる低μ路では、小さな回転数で長い時間をかけて電動モータ21を駆動することで、作動音を目立たなくすることができる。
また、ABS制御を開始する際において各ホイールシリンダ圧Pwと各車輪3の車輪減速度Awとに基づいて路面μを推定するので、ABS制御を開始した初期段階で路面μを推定することができる。これにより、例えば、ABS制御を開始した初期段階で路面μを高μに設定するような方法に比べ、低μ路においてABS制御が実行された場合に、低μ路に応じて電動モータ21の回転数を小さくできるので、電動モータ21の作動音を目立たなくすることができる。
また、ABS制御中において増圧制御を2回実行した場合に、それ以降は、車体減速度Acに基づいて路面μを推定するので、路面μを正確に推定することができる。
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
例えば、本発明は、ABS制御とともに、ABS制御以外の車両の姿勢制御を実行する車両用ブレーキ液圧制御装置に適用してもよい。
また、前記実施形態では、制御部100が、ABS制御中において増圧制御を2回実行した場合に、それ以降は、車体減速度Acに基づいて路面μを推定する構成であったが、これに限定されるものではない。例えば、制御部は、ABS制御中において増圧制御を3回以上実行した場合に、それ以降は、車体減速度に基づいて路面μを推定する構成であってもよい。また、制御部は、増圧制御の実行回数に関わらずに、各ホイールシリンダ圧と各車輪の車輪減速度とに基づいて路面μを推定する構成であってもよい。
また、前記実施形態では、制御部100が、推定したホイールシリンダ圧Pwを制御に用いる構成であったが、これに限定されるものではない。例えば、制御部は、各車輪のホイールシリンダ圧を検出するセンサから取得したホイールシリンダ圧を制御に用いる構成であってもよい。
また、前記実施形態では、制御部100が、制御サイクルごとに、リザーバ使用量Vrnや目標回転数Rtを算出する構成であったが、これに限定されるものではない。例えば、制御部は、1回の減圧制御の終了時に、リザーバ使用量や目標回転数を算出する構成であってもよい。
ここで、一例を説明すると、リザーバ使用量については、減圧制御終了時に、図5(a)に示すように、減圧制御の開始時のホイールシリンダ圧Pw3と、減圧制御の制御時間Tcと、液圧推定マップとに基づいて、減圧制御の終了時のホイールシリンダ圧Pw1を推定する。そして、図5(b)に示すように、ホイールシリンダ圧Pw1,Pw3と、消費液量推定マップとに基づいて、ホイールシリンダ圧Pw1のときの液圧損失D1と、ホイールシリンダ圧Pw3のときの液圧損失D3を推定する。そして、液圧損失D3から液圧損失D1を引くことで、減圧制御中の消費液量を推定する。また、減圧制御中の単位時間ごとに、モータの回転数(逆起電圧)と、図6に示す吐出量推定マップとに基づいて吐出量を推定し、単位時間ごとの各吐出量を積算してトータルの吐出量を推定する。そして、前回の減圧制御終了時のリザーバ使用量に、減圧制御中の消費液量からトータルの吐出量を引いた値を加えることでリザーバ使用量を算出することができる。また、目標回転数については、減圧制御の終了時に、リザーバ使用量を路面μに基づいて設定した目標吐出時間で割ることで目標吐出量を算出し、算出した目標吐出量と、目標回転数設定マップとに基づいて設定することができる。