以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(全体構成の説明)
図1は、本発明の第1実施形態に係るエンジン1の全体的な構成を示している。
図1において、太線は、気体(空気または排気)が流れる通路を示し、点線は、信号が伝わる経路を示す。
本実施形態において、エンジン1は、ガソリンを燃料とする内燃エンジン(ガソリンエンジン)であり、複数の気筒#1〜#4を有する。
エンジン1の吸気通路11には、導入部にエアクリーナ12が取り付けられ、エアクリーナ12により、吸入された空気中の粉塵等、異物が除去される。吸気通路11には、ターボチャージャ13のコンプレッサ部131が介装され、吸入空気は、ターボチャージャ13により圧縮された後、マニホールド部111を介してエンジン1の本体Eに供給される。
本実施形態では、コンプレッサ部131の下流側にインタークーラ14が設置され、インタークーラ14により、ターボチャージャ13により圧縮された空気が冷却される。コレクタ部の上流側、本実施形態において、インタークーラ14の下流側には、吸気絞り弁15が設置され、吸気絞り弁15により、エンジン本体Eに供給される吸入空気の流量(吸入空気量)が制御される。ターボチャージャ13には、コンプレッサ部131を迂回する通路が形成され、この通路にブローオフ弁13aが介装されている。吸気絞り弁15を閉じた際にブローオフ弁13aが開駆動することで、コンプレッサ部131の下流側に生じる余剰の過給圧がコンプレッサ部131の上流側に解放される。
エンジン本体Eには、4つの気筒#1〜#4が形成されている。本実施形態では、各気筒に対して個別に燃料を供給可能に構成されており、気筒ごとに燃料インジェクタ(図示せず)が設けられている。燃料インジェクタは、エンジン本体Eのシリンダヘッドに、各気筒のポート部に向けて燃料を噴射可能に埋設されている。燃料インジェクタとして、筒内に燃料を直接噴射するタイプのものを採用してもよい。さらに、シリンダヘッドには、気筒ごとに点火プラグ(図示せず)が設置されており、点火プラグにより、筒内に形成された所定空燃比の混合気に着火される。
エンジン1の排気通路21には、マニホールド部211の下流側にターボチャージャ13のタービン部132が介装されている。排気エネルギーによりタービン部132が駆動され、タービン部132の回転運動がコンプレッサ部131に伝達されることで、ターボチャージャ13が機能する。ターボチャージャ13には、タービン部132を迂回する通路が形成され、この通路にウエストゲート弁13bが介装されている。ウエストゲート弁13bの開駆動により、排気の一部がタービン部132を迂回して流れ、過給圧の過度な上昇が抑制される。
タービン部132の下流側には、触媒コンバータ22が設置されている。触媒コンバータ22には、排気浄化用の触媒が内蔵され、これにより、排気中の有害成分である窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)および炭化水素(HC)が浄化される。本実施形態では、排気浄化触媒として、三元触媒221およびNOxトラップ触媒222が設けられている。NOxトラップ触媒222により、希薄空燃比での燃焼時に排気中のNOxがトラップされ、排気が浄化される。NOxトラップ触媒222にトラップされているNOxは、空燃比を一時的に理論空燃比よりも低下させ、排気中の未燃燃料成分を増大させることで、触媒から脱離させ、還元させることが可能である。このような操作により、NOxトラップ触媒222を再生することができる。
さらに、触媒コンバータ22の下流側の排気通路21と、ターボチャージャ13のコンプレッサ部131の上流側の吸気通路11とがEGR管23を介して接続され、有害成分が浄化された排気の一部が、EGR管23を通じて吸気通路11に還流される。EGR管23には、EGR弁24が介装され、ERG弁24により、EGR管23の開口面積が変更され、EGR管23を通じて還流される排気の流量が調整される。還流された排気は、吸入空気と混合し、再度各気筒#1〜#4に分配される。残余の排気は、図示しないマフラーを介して大気中に放出される。
エンジン1の運転は、電子制御ユニット101により制御される。電子制御ユニット101へは、アクセルセンサ201、回転速度センサ202および冷却水温度センサ203の検出信号が入力されるほか、エアフローメータ204、吸気圧センサ205および空燃比センサ206等の検出信号が入力される。アクセルセンサ201は、運転者によるアクセルペダルの操作量を検出する。回転速度センサ202は、エンジン1の回転数を検出する。回転速度センサ202として、クランク角センサを採用することが可能である。冷却水温度センサ203は、エンジン冷却水の温度を検出する。エンジン冷却水の温度に代えて、エンジン潤滑油の温度を採用してもよい。エアフローメータ204は、吸入空気量を検出する。吸気圧センサ205は、ターボチャージャ13のコンプレッサ部131の下流側における吸気通路11内の圧力を検出する。空燃比センサ206は、排気の空燃比を検出する。電子制御ユニット101は、各種センサからの信号をもとに、燃料噴射量、点火時期等を設定するとともに、吸気絞り弁15およびEGR弁24の開度を設定して、エンジン1の運転を制御する。
本実施形態では、吸気弁および排気弁(図示せず)の動弁装置31、32として可変式のものが採用され、吸気弁および排気弁のバルブタイミングが変更可能に構成されている。可変動弁装置31、32は、機械的に駆動するタイプのものであっても、電磁的に駆動するタイプのものであってもよい。機械式可変動弁装置として、クランクシャフトに対するカムシャフトの位相を変化させることによりバルブタイミングを変更するように構成された、いわゆるVTCシステムのほか、吸気弁の作動角およびリフト量を連続的に変更するものとして実用されているVVELシステムを挙げることができる。そして、電磁式可変動弁装置として、ソレノイドを駆動源とする電磁駆動動弁装置を挙げることができる。
電子制御ユニット101は、「燃焼制御装置」を構成し、アクセルセンサ201および回転速度センサ202は、「状態検出装置」を構成する。
(エンジン制御の概要)
電子制御ユニット101が実行する制御の内容について説明する。
本実施形態では、エンジン1は、運転領域として複数の領域を有し、領域ごとに空燃比を切り換えて運転する。
図2は、エンジン1に関して予め作成された運転領域マップを示し、このような傾向を有するマップデータが、電子制御ユニット101に予め記憶されている。本実施形態において、電子制御ユニット101は、上記傾向のマップデータが格納された記憶ユニットを備える。
具体的には、エンジン1の運転領域は、低回転および低負荷側の領域(図2中、「λ2」により示し、以下「λ2領域」という)と、それ以外の領域(同図中、λ1により示し、以下「λ1領域」という)とに区画されている。後者のλ1領域では、エンジン1を定常状態で運転する際の空燃比の目標値(以下「定常目標空燃比」という)が理論空燃比に設定され、前者のλ2領域では、エンジン1の定常目標空燃比が理論空燃比よりも高い希薄空燃比に設定されている。本実施形態では、希薄空燃比として、空気過剰率換算(=空燃比/理論空燃比)でほぼ2となる、24〜29の範囲の空燃比を採用する。この希薄空燃比は、「第2空燃比」に相当する。
電子制御ユニット101は、エンジン1の運転を制御するに際し、アクセルセンサ201および回転速度センサ202の検出信号をもとに、エンジン1の運転状態を判断する。そして、図2に示す傾向のマップデータを参照して、エンジン1の運転状態が属する領域(λ1領域またはλ2領域)を判定し、その判定結果に応じてエンジン1の運転空燃比(定常目標空燃比)を切り換えるとともに、吸入空気量を運転空燃比に応じた目標空気量に制御する。
さらに、電子制御ユニット101は、NOxトラップ触媒222にトラップされているNOxの量を監視し、NOxトラップ量が許容限界量に達した場合に、空燃比を一時的に理論空燃比よりも低下させるリッチスパイク操作を実行する。この理論空燃比よりも低い空燃比は、本実施形態に関する「第1空燃比」に相当する。
(空気量制御の説明)
以下、本実施形態に係る空気量制御(以下、単に「空気量制御」という)について、タイミングチャートによりその全体的な動作を説明した後、フローチャートを参照して制御の流れを説明する。
本実施形態では、アクセルペダルの操作量に変化はなく、NOxトラップ触媒222の再生要求に基づき空燃比の切換えが生じる場合を想定する。具体的には、エンジン1の運転状態はλ2領域にあって(例えば、図2に示す点A)、空燃比の切換えの前後を通じて運転領域の移行はなく、NOxトラップ触媒222の再生要求に応じて空燃比が一時的に理論空燃比よりも低い空燃比に設定され、その後、再生終了の判断により、再びもとの希薄空燃比に切り換えられる。この一連のリッチスパイク操作を通じて、エンジン回転数および車速は、一定に維持される。NOxトラップ触媒222の再生要求は、電子制御ユニット101により生成される。電子制御ユニット101は、前回再生時からのエンジン回転数の累積値等をもとに、NOxトラップ触媒222にトラップされているNOxが許容限界量に達したか否かを判断し、許容限界量に達した場合に、再生要求を生成し、空燃比を理論空燃比よりも低下させる。さらに、電子制御ユニット101は、空燃比を理論空燃比よりも低下させてからの経過時間を計算し、これが所定時間に達した時点で再生終了の判断を下し、空燃比をもとの希薄空燃比に切り換える。
図3〜5は、本実施形態に係る空気量制御の内容を示すタイミングチャートである。
図3は、空気量制御により車両に現れる挙動を示している。同図に示すように、車速、アクセル開度およびエンジン回転数に実質的な変化はなく、運転領域の移行はないものの、時刻t6において、エンジントルクに若干の変動が生じている。このトルクショックは、再生終了後の希薄空燃比への切換えに伴うものである。本実施形態では、λ2領域において、空燃比を空気過剰率換算でほぼ2に設定する。このような高い空燃比での燃焼により、燃焼効率が改善される結果、同じエンジントルクを発生させるのに必要な燃料噴射量が少なくて済むことから、希薄空燃比への切換えに伴い、燃料噴射量を僅かに減少させるためである。
図4は、NOxトラップ触媒222の再生を終了した後、空燃比をもとの希薄空燃比に切り換える際の空気量制御の具体的な内容を示している。
NOxトラップ触媒222にトラップされているNOxが許容限界量に達したと判断すると(時刻t1)、NOxトラップ触媒222の再生要求を生成し、希薄燃焼許可条件を成立から不成立に変更する。これに伴い、空燃比を希薄空燃比から理論空燃比よりも低い空燃比に切り換えることで、リッチスパイク操作を開始する。リッチスパイク操作により、空燃比が理論空燃比よりも低い空燃比に設定されることで(時刻t2)、排気中の未燃燃料成分が増加し、これが還元剤として機能することで、NOxトラップ触媒222から脱離したNOxおよび排気中のNOxを還元させる。そして、空燃比を理論空燃比よりも低下させてからの経過時間が所定時間に達した時点で再生終了の判断を下し(時刻t3)、希薄燃焼許可条件を成立に変更する。
NOxトラップ触媒222の再生終了の判断に伴い、空燃比をもとの希薄空燃比に切り換える制御を開始する。本実施形態では、空燃比の切換えに際して空気量補正要求を生成し、これが解除されるまでの間(時刻t3〜t8)、吸入空気量または吸気圧に関わるエンジン制御量を切換後の希薄空燃比(定常目標空燃比)に応じた目標吸気圧に基づく制御量よりも増大させる制御(以下「空気量補正制御」という)を実行する。空気量補正制御により、これを実行しない場合と比較して、空燃比を切り換える際の過給圧の応答性を補正し、もって、吸入空気量の応答性を補正する。
本実施形態では、上記「吸入空気量に関わるエンジン制御量」としてターボチャージャ13の回転数(過給機回転数)Nchgを採用する。切換時における吸気圧の目標値(以下「補正目標吸気圧」という)Pamdを、切換後の希薄空燃比に応じた目標吸気圧(以下「定常目標吸気圧」という)Ptrgよりも増大させ、切換時におけるターボチャージャ13の回転数Nchg(Nchga)を、補正目標吸気圧Pamdを実現するように制御する。これにより、切換時における吸気圧Pintaを、ターボチャージャ13の回転数を切換後の定常目標吸気圧Ptrgに基づき制御した場合の吸気圧Pintbよりも増大させる。
空気量補正要求の生成に伴い、空気量補正制御を開始する(時刻t3)。空気量補正制御により、これを実行しない場合(吸気圧Pintb)と比較して、吸気圧Pintaを速やかに増大させ、吸入空気量の応答性を補正する。そして、吸気圧Pintaを監視し、これが所定圧力Pdtmに達したことを検知したときに(時刻t5)、空燃比を希薄空燃比に切り換え、これに併せて燃料噴射量を僅かに減少させる(時刻t6)。よって、本実施形態では、希薄燃焼許可条件が成立して空燃比を切り換える制御を開始した後(時刻t3)、実際に空燃比の切換えを達成するまでに(時刻6)、時間遅れDLYが存在する。既に述べたように、燃料噴射量の減少は、エンジントルクに若干の変動を生じさせる(図4)。所定圧力Pdtmは、切換後の定常目標吸気圧Ptrgよりも低く、定常目標吸気圧Ptrgに1よりも小さな所定係数を乗じた圧力に設定される。
吸気圧Pintaを引き続き監視し、これが切換後の定常目標吸気圧Ptrgを超えたことを検知したときに(時刻t7)、目標吸気圧を補正目標吸気圧Pamdから定常目標吸気圧Ptrgに変更し、定常目標吸気圧Ptrgを実現するように、ターボチャージャ13の回転数Nchgを制御する。その後、吸気圧Pintaが切換後の定常目標吸気圧Ptrgに達したことを検知したときに(時刻t8)、空気量補正要求を解除して空気量補正制御を終了し、通常制御に移行する。
図5は、過給圧の応答性を補正するための具体的な方法を示している。
本実施形態では、過給圧の応答性を補正するため、ターボチャージャ13のタービン部132の回転数を上昇させる。これにより、タービン部132に連結されたコンプレッサ部131の回転数を上昇させ、ターボチャージャ13の回転数Nchg(Nchga)を、切換後の定常目標吸気圧Ptrgに基づき制御した場合の回転数Nchgbよりも上昇させる。
本実施形態では、リッチスパイク操作において、ウエストゲート弁13bを開いて、λ2領域におけるよりも過給圧を低下させるとともに、点火時期を、エンジントルクが最大となる点火時期に設定する。そして、空気量補正要求の生成に伴い(時刻t3)、ウエストゲート弁13bの開度を減少させて、タービン部132のホイール上を流れる排気の流量を増大させるとともに、点火時期を遅角させ、排気の温度を上昇させる。これにより、タービン部132の回転数を上昇させる。その後、希薄空燃比への切換えに併せ(時刻t6)、点火時期を希薄空燃比での燃焼に適した点火時期に変更し、切換後の定常目標吸気圧Ptrgへの変更に併せ(時刻t7)、ウエストゲート弁13bの開度を所定開度だけ増大させて、タービン部132の回転数を低下させる。
図6および7は、本実施形態に係る空気量制御の流れを示すフローチャートである。
本実施形態において、電子制御ユニット101は、タイマー機能を有しており、空気量制御を所定周期で実行する。
図6は、空気量制御の全体的な流れを示している。
S101では、エンジン1の運転領域を判定する。運転領域の判定には、図2に示す傾向のマップデータが用いられる。電子制御ユニット101は、アクセルセンサ201および回転速度センサ202の検出信号をもとに算出したエンジン1の運転状態(トルクおよび回転数)が、マップ上のどの領域にあるかを判定する。λ1領域にある場合は、S104へ進み、λ2領域にある場合は、S102へ進む。
S102では、希薄燃焼許可条件が成立しているか否かを判定する。希薄燃焼許可条件は、基本的には、エンジン1の運転状態がλ2領域にある場合に成立するが、λ2領域にある場合であってもリッチスパイク操作により空燃比が一時的に理論空燃比よりも低く設定される期間は(時刻t1〜t3)、不成立とされる。希薄燃焼許可条件が成立している場合は、S103へ進み、不成立である場合は、S104へ進む。
S103では、希薄空燃比での燃焼に適した目標空気量を設定する。
S104では、理論空燃比での燃焼に適した目標空気量を設定する。
ここで、本実施形態では、NOxトラップ触媒222の再生時に空燃比を理論空燃比よりも低下させるリッチスパイク操作を実行する。この場合において、S104の処理により設定される目標空気量は、理論空燃比よりも低い空燃比での燃焼に適した目標空気量となる。
S105では、空気量補正要求があるか否かを判定する。空気量補正要求がある場合は、S106へ進み、空気量補正要求がない場合は、S107へ進む。
S106では、空気量補正制御を実行する。
S107では、通常制御を実行する。通常制御において、電子制御ユニット101は、吸入空気量をS103またはS104で設定した目標空気量に制御する。
図7は、空気量補正制御の具体的な内容を示している。
S201では、吸気圧Pintを読み込む。吸気圧Pintは、吸気圧センサ205の検出信号をもとに算出される。
S202では、目標吸気圧切換フラグFswcが0であるか否かを判定する。目標吸気圧切換フラグFswcは、エンジン始動時の初期化により0に設定され、先に述べたように、空燃比の切換時における吸気圧Pintaが切換後の定常目標吸気圧Ptrgに達した場合(時刻t7)に1に切り換えられる。目標吸気圧切換フラグFscwが0である場合は、S203へ進み、1である場合は、S208へ進む。
S203では、目標吸気圧を補正目標吸気圧Pamdに設定する。これにより、ターボチャージャ13の回転数Nchgが補正目標吸気圧Pamdを実現するように制御され(Nchga)、切換時における過給圧の応答性が高められ、吸入空気量が速やかに増大する。
S204では、吸気圧Pintaが空燃比切換判定圧Pdtmに達したか否かを判定する。空燃比切換判定値Pdtmに達した場合は、S205へ進み、達していない場合は、本ルーチンの制御を終了する。
S205では、空燃比の切換えを実行する。
S206では、吸気圧Pintaが切換後の定常目標吸気圧Ptrgに達したか否かを判定する。定常目標吸気圧Ptrgに達した場合は、S207へ進み、達していない場合は、本ルーチンの制御を終了する。
S207では、目標吸気圧切換フラグFswcを1に切り換える。
S208では、目標吸気圧を切換後の定常目標吸気圧Ptrgに設定する。これにより、ターボチャージャ13の回転数Nchg(Nchga)が定常目標吸気圧Ptrgを実現するように制御され、吸気圧Pintaが定常目標吸気圧Ptrgに収束する。
S209では、吸気圧Pintaが切換後の定常目標吸気圧Ptrgに達したか否か(本実施形態では、定常目標吸気圧Ptrgを超えた後、再びPtrgにまで減じたか否か)を判定する。定常目標吸気圧Ptrgに達した場合は、S210へ進み、達していない場合は、本ルーチンの制御を終了する。
S210では、空気量補正要求を解除する。これにより、空気量補正制御を終了し、通常制御に移行する。
S211では、目標吸気圧切換フラグFswcを0に設定する。
以上が空気量制御(切換時における空気量補正制御を含む)の内容であり、以下、本実施形態により得られる効果をまとめる。
(作用効果の説明)
第1に、エンジン1を運転する際の空燃比を複数の空燃比の間で切り換え、低回転および低負荷側の領域(λ2領域)では、空燃比を理論空燃比よりも高い空燃比に設定し、それ以外の領域(λ1領域)では、理論空燃比に設定することとした。これにより、λ1領域では、理論空燃比での燃焼により車両の運転性を確保し、λ2領域では、希薄空燃比での燃焼により燃料消費量を削減することができる。
第2に、空燃比の切換えに際し、吸入空気量(本実施形態では、吸気圧)に関わるエンジン制御量を積極的に増大または減少させる空気量補正制御を通じて切換時における吸入空気量の応答性を補正することとした。これにより、切換後の空燃比(定常目標空燃比)に応じた目標空気量に向けて実際の吸入空気量を速やかに変化させ、もって、切換えに要する時間(DLY)を短縮することが可能となる。よって、トルクショックを抑制しつつ、空燃比の切換えを速やかに達成することができる。
第3に、切換時における吸気圧の目標値に、切換後の定常目標吸気圧Ptrgよりも高い補正目標吸気圧Pamdを設定し、エンジン制御量をこの補正目標吸気圧Pamdをもとに設定することとした。これにより、吸気圧Pinta(換言すれば、過給圧)を積極的に増大または減少させ、吸入空気量を速やかに変化させることができる。
第4に、エンジン制御量としてターボチャージャ13の回転数Nchgを採用し、空気量補正制御により過給圧の応答性を補正することで、過給を行うエンジン1において、吸入空気量の補正を容易に実現することができる。そして、相対的に高い空燃比への切換え、例えば、リッチスパイク操作を終了する際の希薄空燃比への切換えに際し、ターボチャージャ13のタービン部132の回転数を上昇させることで、過給圧の応答性を容易に補正することができる。
第5に、切換後の目標噴射量に向けた燃料噴射量の変更(換言すれば、空燃比の実際の切換え)を、空気量補正制御を開始した後、吸気圧Pintaが切換後の定常目標吸気圧Ptrgよりも低い所定圧力(空燃比切換判定圧)Pdtmに達した時点で実行することとした。これにより、吸入空気量が切換後の目標空気量に近付いた状態で燃料噴射量の変更を実行することが可能となるので、トルクショックをより小さく抑えるとともに、NOxの排出自体を抑制することができる。
(変形態様の説明)
以上の説明では、切換時における過給圧の応答性を補正するため、点火時期の遅角操作により排気温度を上昇させ、排気エネルギーの増大によりターボチャージャ13のタービン部132の回転数を増大させることとした。排気温度を上昇させるには、上記以外に、バルブタイミングの変更により吸気弁および排気弁の間にオーバーラップ期間を設定し、スカベンジング効果により燃焼ガスの排出効率を増大させたり、排気に対して二次空気を供給し、排気通路内で未燃燃料成分の再燃焼を生じさせたりしてもよい。
図8は、バルブタイミングの変更による場合の動作を示している。図8(b)に示すように、通常時(同図(a))に対して吸気弁開時期IVOを進角側に移動させるとともに、排気弁閉時期EVCを遅角側に移動させることで、バルブオーバーラップ期間OVLを形成する。
さらに、過給圧の応答性を補正するには、ターボチャージャ13自体の回転数を上昇させることのほか、ターボチャージャ13以外に第2過給機51を設け、空燃比の切換えに際してこの第2過給機51を作動させることとしてもよい。
図9は、第2過給機51による場合のエンジン1’の全体的な構成を示している。吸気通路11に第2過給機51のコンプレッサ部511が設置され、吸入空気をターボチャージャ13および第2過給機51により多段式で過給するように構成されている。ここで、第2過給機51は、排気タービン以外の駆動源を有するものであり、例えば、機械駆動式または電動式の過給機である。本実施形態において、第2過給機51は、電動過給機であり、駆動源として電動モータ512を備え、電動モータ512の動力によりコンプレッサ部511が駆動される。機械駆動過給機による場合は、コンプレッサ部511に対してエンジン1’のクランクシャフトの動力を伝達させる。
図10は、第2過給機51による場合の空気量制御の内容を具体的に示している。
先に述べた空気量制御(図4、5)との相違を中心に説明すると、NOxトラップ触媒222の再生終了の判断に伴い(時刻t3)、空気量補正要求を生成し、これが解除されるまでの間(時刻t3〜t8)、空気量補正制御を実行する。空気量補正制御により、空燃比を切り換える際の過給圧の応答性を補正し、もって、吸入空気量の応答性を補正する。
空気量補正制御において、切換後の定常目標吸気圧Ptrgよりも高い補正目標吸気圧Pamdを設定し、ターボチャージャ13に加えて第2過給機51を作動させる。そして、ターボチャージャ13および第2過給機51のそれぞれの回転数Nchg1、Nchg2を、補正目標吸気圧Pamdを実現するように制御することで、切換時における吸気圧Pintaを、ターボチャージャ13のみを作動させた場合の吸気圧Pintbよりも増大させる。
吸気圧Pintaを監視し、これが切換後の定常目標吸気圧Ptrgを超えたことを検知したときに(時刻t7)、第2過給機51を停止させ、ターボチャージャ13の回転数Nchg1を、定常目標吸気圧Ptrgを実現するように制御する。そして、吸気圧Pintaが定常目標吸気圧Ptrgに達したことを検知したときに(時刻t8)、空気量補正要求を解除し、通常制御に移行する。
このように、過給機としてターボチャージャ13以外に第2過給機51を設け、相対的に高い空燃比への切換えに際してこの第2過給機51を作動させることで、ターボチャージャ13のみによる場合よりも吸気圧Pintaを増大または減少させ、吸入空気量を補正することができる。
ここで、第2過給機51に排気タービン以外の駆動源を有する過給機を採用することで、ターボチャージャ13のみにより形成される過給圧の不足を高い精度をもって補い、吸気圧Pintaを的確に増大または減少させることができる。
第2過給機51は、排気タービンを駆動源とする空気駆動式の過給機であってもよい。例えば、第2過給機51のコンプレッサ部に、ターボチャージャ13と比較してより小径または低慣性のインペラを採用することで、電動式または機械駆動式の過給機同様の高い応答性を得て、吸気圧Pintaを増大または減少させることができる。
(他の実施形態の説明)
以上の説明では、空燃比の切換えが運転領域の移行によらず、リッチスパイク操作からの復帰に伴って生じる場合について説明した。本発明は、これに限らず、空燃比の切換えが運転領域の移行による場合に適用することも可能である。そこで、以下、定速走行中にアクセルペダルを少しだけ戻すか、少しだけ踏み込むことにより、λ1領域およびλ2領域の間で運転領域が移行する場合について説明する。以下の説明において、λ1領域で設定する理論空燃比は、「第1空燃比」に相当する。
図11および12は、本発明の第2実施形態に係る空気量制御の内容を示すタイミングチャートである。
本実施形態では、比較的低速での一定走行中にアクセルペダルを微量だけ戻すことで、エンジン1の運転領域がλ1領域(例えば、図2中の点B1)からλ2領域(例えば、図2中の点B2)に移行した場合を想定する。
図11は、本実施形態について、上記アクセル操作により車両に現れる挙動を示している。
本実施形態では、第1実施形態とは違い、エンジン回転数に実質的な変化はないものの、アクセルペダルが微量だけ戻されており(時刻t3)、これに起因して、エンジントルクが減少し、車両に僅かな減速が生じている(時刻t6)。
図12は、空燃比をλ1領域における理論空燃比からλ2領域における希薄空燃比に切り換える際の空気量制御の具体的な内容を示している。
アクセルペダルが戻されることによりエンジン1の運転領域がλ1領域からλ2領域に移行すると(時刻t3)、空気量補正要求を生成して、空燃比を希薄空燃比に切り換える制御を開始する。本実施形態では、「吸入空気量に関わるエンジン制御量」として、第1実施形態と同様にターボチャージャ13の回転数Nchgを採用し、切換後の定常目標吸気圧Ptrgよりも高い補正目標吸気圧Pamdを設定することで、過給圧の応答性を補正する。具体的には、切換時におけるターボチャージャ13の回転数Nchg(Nchga)を、補正目標吸気圧Pamdを実現するように制御することで、切換時における吸気圧Pintaを、ターボチャージャ13の回転数を切換後の定常目標吸気圧Ptrgに基づき制御した場合の吸気圧Pintbよりも増大させる。そして、吸気圧Pintaが空燃比切換判定圧Pdtmに達したことを検知したときに(時刻t5)、空燃比の切換えを実行して、燃料噴射量を切換後の目標噴射量にまで減少させる。さらに、吸気圧Pintaが目標吸気圧Ptrgを超えたことを検知したときに(時刻t7)、目標吸気圧を補正目標吸気圧Pamdから切換後の定常目標吸気圧Ptrgに変更し、定常目標吸気圧Ptrgを実現するように、ターボチャージャ13の回転数Nchg(Nchga)を制御する。その後、吸気圧Pintaが定常目標吸気圧Ptrgに達したことを検知したときに(時刻t8)、空気量補正要求を解除して空気量補正制御を終了し、通常制御に移行する。
ターボチャージャ13の回転数Nchgを上昇させるための手段は、第1実施形態と同様であってよく、ウエストゲート弁13bの開度を減少させて、タービン部132のホイール上を流れる排気の流量を増大させたり、点火時期を遅角させて、排気の温度を上昇させたりすればよい。さらに、ターボチャージャ13自体の回転数を上昇させるほか、第2過給機を設け、空燃比の切換時にこれを作動させるようにしてもよい。
図13〜15は、本発明の第3実施形態に係る空気量制御の内容を示すタイミングチャートである。
本実施形態では、比較的低速での一定走行中にアクセルペダルを微量だけ踏み込むことで、エンジン1の運転領域がλ2領域(点B2)からλ1領域(点B1)に移行した場合を想定する。
図13は、本実施形態について、上記アクセル操作により車両に現れる挙動を示している。
本実施形態では、アクセルペダルが微量だけ踏み込まれている(時刻t3)。これにより、エンジン回転数に実質的な変化はないものの、エンジントルクが増大し、車両に僅かな加速が生じている(時刻t6)。
図14は、空燃比をλ2領域における希薄空燃比からλ1領域における理論空燃比に切り換える際の空気量制御の具体的な内容を示している。
アクセルペダルが踏み込まれることによりエンジン1の運転領域がλ2領域からλ1領域に移行すると(時刻t3)、空燃比を理論空燃比に切り換える制御を開始する。本実施形態では、相対的に低い空燃比への切換えに際し、第1実施形態と同様に空気量補正要求を生成し、これが解除されるまでの間(時刻t3〜t8)、吸入空気量に関わるエンジン制御量を切換後の空燃比(定常目標空燃比)に応じた定常目標吸気圧Ptrgに基づく制御量よりも減少させる空気量補正制御を実行する。
本実施形態では、上記「吸入空気量に関わるエンジン制御量」としてターボチャージャ13の回転数Nchgを採用するが、切換時における目標吸気圧である補正目標吸気圧Pamdを、切換後の定常目標吸気圧Ptrgよりも減少させる。そして、切換時におけるターボチャージャ13の回転数Nchg(Nchga)を、補正目標吸気圧Pamdを実現するように制御することで、切換時における吸気圧Pintaを、ターボチャージャ13の回転数を切換後の定常目標吸気圧Ptrgに基づき制御した場合の吸気圧Pintbよりも低下させる。
そして、吸気圧Pintaを監視し、これが空燃比切換判定圧Pdtmに達したことを検知したときに(時刻t5)、空燃比の切換えを実行して、燃料噴射量を切換後の目標噴射量にまで増大させる。本実施形態において、空燃比切換判定圧Pdtmは、切換後の定常目標吸気圧Ptrgよりも高く、定常目標吸気圧Ptrgに1よりも大きな所定係数を乗じた圧力に設定される。
吸気圧Pintaを引き続き監視し、これが切換後の定常目標吸気圧Ptrgに達したことを検知したときに(時刻t7)、目標吸気圧を補正目標吸気圧Pamdから定常目標吸気圧Ptrgに変更し、定常目標吸気圧Ptrgを実現するように、ターボチャージャ13の回転数Nchg(Nchga)を制御する。本実施形態では、吸気圧Pintaが切換後の定常目標吸気圧Ptrgに滑らかに収束しており、空気量補正要求が定常目標吸気圧Ptrgへの変更と同時に解消し(時刻t8)、通常制御に移行する。
図15は、過給圧の応答性を補正するための具体的な方法を示している。
本実施形態では、過給圧の応答性を補正するため、ターボチャージャ13の回転数Nchgを低下させる。
具体的には、空気量補正要求を生成すると(時刻t3)、ウエストゲート弁13bの開度を増大させて、タービン部132のホイール上を流れる排気の流量を減少させることで、タービン部132の回転数を低下させ、ターボチャージャ13の回転数Nchg(Nchga)を低下させる。その後、理論空燃比への切換えに併せ(時刻t6)、点火時期を理論空燃比での燃焼に適した点火時期に変更し、切換後の定常目標吸気圧Ptrgへの変更に併せ(時刻t7)、ウエストゲート弁13bの開度を所定開度だけ減少させる。理論空燃比での燃焼に適した点火時期は、一般的には、エンジントルクが最大となる点火時期であり、本実施形態でも、これを採用する。
このように、空燃比の切換えに際し、吸入空気量に関わるエンジン制御量を積極的に減少させる空気量補正制御を実行することで、切換後の空燃比(定常目標空燃比)に応じた目標空気量に向けて実際の吸入空気量を速やかに変化させ、切換えに要する時間(DLY)を短縮し、空燃比の切換えを速やかに達成することができる。本実施形態によれば、相対的に低い空燃比への切換えに際し、切換時における吸気圧の目標値に、切換後の定常目標吸気圧Ptrgよりも低い補正目標吸気圧Pamdを設定し、ターボチャージャ13の回転数Nchg(Nchga)をこの補正目標吸気圧Pamdをもとに設定することとした。これにより、ターボチャージャ13の回転数Nchg(Nchga)を積極的に低下させ、吸気圧Pintaを減少させ、吸入空気量を速やかに変化させることができる。
過給圧の応答性の補正は、ターボチャージャ13の回転数を低下させることのほか、吸気絞り弁15を通過する空気の流量を減少させることでも可能である。具体的には、空気量補正要求に対してブローオフ弁13aを開き、ターボチャージャ13により過給された空気の一部を、ブローオフ弁13aを介してコンプレッサ部131の上流側に還流させることで、吸気絞り弁15を通過して燃焼室に供給される吸入空気の流量を減少させることができる。過給圧の応答性の補正は、吸気絞り弁15を閉じることによっても可能である。図15は、吸気絞り弁15を閉じることによる場合の吸気絞り弁15の開度の変化を二転鎖線により示している。このように、空気量補正制御の開始により吸気絞り弁15を閉じ、吸気圧Pintaが減少して、切換後の定常目標吸気圧Ptrgに達したときに(時刻t7)、所定開度だけ開く。
以上の説明では、エンジン1の運転領域のうち少なくともλ2領域において、ターボチャージャ13を作動させて過給を行うこととした。しかし、本発明は、このような過給エンジンに限らず、定常目標空燃比での運転を目的とした過給を行わない自然吸入エンジンに適用することもできる。この場合は、吸気通路11に吸気コンプレッサを設け、これを間欠的に作動させること、具体的には、相対的に高い空燃比への切換えに際して吸気コンプレッサを一時的に作動させることで、吸入空気量の応答性を補正することができる。
以上の説明から導き出される概念の幾つかを、以下に列挙する。
空気量補正制御において、切換時における吸気圧の目標値を切換後の空燃比に応じた定常状態での吸気圧または切換後の目標吸気圧よりも増大または減少させ、エンジン制御量を吸気圧の目標値をもとに設定する、エンジンの制御方法である。
第1空燃比から第2空燃比への切換時において、過給機の排気タービンの回転数を切換後の空燃比に応じた定常状態での吸気圧に基づく回転数よりも上昇させる、エンジンの制御方法である。
第1過給機および第2過給機を設け、第2空燃比による運転時では、第1および第2過給機のうち第1過給機のみを作動させ、第1空燃比から第2空燃比への切換時では、第1および第2過給機の双方を作動させる、エンジンの制御方法である。
第2過給機を、排気タービン以外の駆動源を有する過給機とする、エンジンの制御方法である。
第2過給機を、第1過給機よりも排気の流量に対する応答性が高い過給機とする、エンジンの制御方法である。
第2空燃比から第1空燃比への切換時において、過給機の排気タービンの回転数を切換後の空燃比に応じた定常状態での吸気圧に基づく回転数よりも低下させる、エンジンの制御方法である。
過給機のコンプレッサ部よりも下流側の吸気通路に吸気絞り弁を設け、
第2空燃比から第1空燃比への切換時において、この吸気絞り弁を通過する空気の流量を減少させる、エンジンの制御方法である。
切換後の目標噴射量に向けた燃料噴射量の変更を、空気量補正制御を開始した後、実際の吸入空気量の変化に応じて実行する、エンジンの制御方法である。
なお、吸入空気量に関わるエンジン制御量としてターボチャージャ13の回転数Nchgを採用した場合を例に説明したが、上記「エンジン制御量」は、これに限らず、ターボチャージャ13による過給圧、エンジン回転数、排気の流量、排気の温度等、相関を有するものであればいかなるパラメータであってもよい。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において、様々な変更および修正を成し得ることはいうまでもない。