JP2017170354A - ガス分離膜 - Google Patents

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Abstract

【課題】高圧下においても、二酸化炭素の高い膜透過速度が得られるとともに、二酸化炭素を混合ガスから分離する際の二酸化炭素選択性に優れるガス分離膜を提供する。【解決手段】カルボキシル基を有するビニルアルコール系共重合体と、アルカリ金属元素を含有する化合物とを含む樹脂組成物から構成されるガス分離膜であって、前記樹脂組成物に対する前記アルカリ金属元素の含有量が60質量%以上であるガス分離膜。【選択図】なし

Description

本発明は、混合ガスから特定のガス種を選択的に分離可能なガス分離膜及びガス分離方法に関する。
近年、石炭ガス化火力発電用途のガス分離膜の検討が進んでいる。かかる用途においては、水蒸気が含まれる混合ガスから二酸化炭素を効率的かつ選択的に分離することが求められる。
混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離する上では、その選択性(二酸化炭素選択性)を高め、高濃度の二酸化炭素を回収することが課題となる。二酸化炭素選択性に優れた分離膜を得るため、アミン化合物やアルカリ金属水酸化物塩等の二酸化炭素と選択的に反応するキャリア(以下、「キャリア」と略称することがある)を含む促進輸送膜と呼ばれるガス分離膜が古くから知られている(非特許文献1及び2)。しかし、これらの促進輸送膜は単に多孔性の基材に対してキャリアを含む水溶液をガス分離層として含浸させたものであったため、耐圧性や安定性に劣るものであった。
これを解決するため、キャリア含有のアクリル酸変性のポリビニルアルコール系重合体ゲルをガス分離層として有するガス分離膜が提案された(特許文献1)。このガス分離膜は、水蒸気が含まれた環境下にて優れた二酸化炭素選択性を有する。しかし、炭酸カリウムをキャリアとして用いるとガス分離膜の性能は水蒸気の供給量に敏感であり、特に水蒸気の供給量が少なくなると大きく選択性が低下する。
水蒸気供給量に対して選択性が大きく依存しない安定性の高いガス分離膜も提案されている。キャリアとしてセシウム又はルビジウムを含むアルカリ金属塩を用い、高温にて運転することで非常に選択性が安定し、二酸化炭素の透過性能も高くなる(特許文献2、3、4)。
さらなるガス分離膜の安定性向上のため、ポリビニルアルコール系重合体を特定の化学的架橋によりキャリアを含むゲルの安定性を大幅に向上させることも提案されている。このようなガス分離層の安定性を向上させると高圧力にて運転することが可能であり、容積効率を大幅に向上させることができるなどの大きな利点がある(特許文献5、6)。
同様の促進輸送型分離膜としてポリビニルアルコールからなる重合体ブロックとポリアクリル酸塩からなる重合体ブロックとを有するブロック共重合体をアセタール結合により架橋してなるポリビニルアセタール化合物と、酸性ガスキャリアと、特定のアニオンとを含む塗布液を、多孔質支持体上に塗工するガス分離膜の製造方法も提案されている(特許文献7)。
特開平7−112122号公報 国際公開第2009/093666号 特開2009−195900号公報 国際公開第2014/065387号 国際公開第2011/099587号 国際公開第2013/018538号 特開2014−208325号公報
J.Memb.Sci.12(1982)239〜259 J.Chem.Eng.Japan 30(1997)328〜335
特許文献1に記載されるガス分離膜は、高い二酸化炭素選択性を持つだけでなく、一定の圧力差にも耐えることが可能な分離膜と言える。しかし、該分離膜を水蒸気を含む混合ガスからの二酸化炭素の分離に使用する場合、分離膜に含有されていたアミン化合物が経時的に流出し、二酸化炭素選択性を維持することができず、実用に供することが困難である。また、特許文献2〜7に記載されるガス分離膜は、高い二酸化炭素選択性を持つだけでなく、一定の圧力差にも耐えることが可能な分離膜であるが、数MPa以上の高い圧力下においては膜透過速度が大幅に低下し、二酸化炭素選択性が大幅に低下するという課題がある。
さらに、これらのガス分離膜は、多孔質支持体上に良好に成膜可能であり、耐久性が良い分離膜であることが記載されているものの、数MPa以上の高い圧力下においては分離層自体が破れて分離性能を示さなくなるという課題がある。
本発明は上記従来技術の課題を解決するためになされたものであり、水蒸気が含まれる混合ガスを一定の圧力差を有する環境下で分離するにあたり、高圧下においても、二酸化炭素の膜透過速度及び二酸化炭素選択性が一層向上されたガス分離膜を提供することを目的とする。
本発明者らは、以下に説明する本発明のガス分離膜により上記目的を達成できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
〔1〕カルボキシル基を有するビニルアルコール系共重合体(A)と、アルカリ金属元素を含有する化合物(B)とを含む樹脂組成物から構成されるガス分離膜であって、前記樹脂組成物に対する前記アルカリ金属元素の含有量が60質量%以上である、ガス分離膜。
〔2〕前記共重合体(A)が非架橋である、前記〔1〕に記載のガス分離膜。
〔3〕前記ガス分離膜の膜厚が0.01〜100μmである、前記〔1〕又は〔2〕に記載のガス分離膜。
〔4〕前記樹脂組成物は、前記共重合体(A)とは異なる親水性の架橋重合体(C)をさらに含む、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のガス分離膜。
〔5〕前記親水性の架橋重合体(C)は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン及びポリビニルアミンからなる群から選択される少なくとも1種の構造単位を有する、前記〔4〕に記載のガス分離膜。
〔6〕前記共重合体(A)は、カルボキシル基を有する単量体単位及びビニルアルコール系単量体単位から構成される、前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のガス分離膜。
〔7〕前記共重合体(A)は、カルボキシル基を有する単量体単位及びビニルアルコール系単量体単位から構成されるブロック又はグラフト共重合体である、前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のガス分離膜。
〔8〕前記カルボキシル基を有する単量体単位はアクリル酸単位又はメタクリル酸単位である、前記〔6〕又は〔7〕に記載のガス分離膜。
〔9〕前記カルボキシル基を有する単量体単位の含有量は、前記共重合体(A)の全構造単位に基づいて0.1〜90モル%である、前記〔6〕〜〔8〕のいずれかに記載のガス分離膜。
〔10〕前記ビニルアルコール系単量体単位のけん化度が90モル%以上である、前記〔6〕〜〔9〕のいずれかに記載のガス分離膜。
〔11〕前記アルカリ金属元素を含有する化合物(B)は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属重炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種である、前記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載のガス分離膜。
〔12〕さらに支持膜を備え、前記樹脂組成物が該支持膜に担持されている、前記〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載のガス分離膜。
〔13〕前記樹脂組成物はアミンが配位した亜鉛錯体を含まない、前記〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のガス分離膜。
〔14〕前記〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載のガス分離膜を用いて、水蒸気を含む混合ガスから40℃以上の温度で炭酸ガスを分離する、ガス分離方法。
本発明によれば、高圧下においても、二酸化炭素の高い膜透過速度が得られるとともに、二酸化炭素を混合ガスから分離する際の二酸化炭素選択性に優れるガス分離膜を提供できる。
本発明のガス分離膜は、カルボキシル基を有するビニルアルコール系共重合体(A)(以下、「共重合体(A)」と略称することがある)、及びアルカリ金属元素を含有する化合物(B)(以下、「アルカリ金属化合物(B)」ともいう)を含む樹脂組成物から構成される。
(カルボキシル基を有するビニルアルコール系共重合体(A))
本発明のガス分離膜を構成する樹脂組成物に含まれる共重合体(A)は、本発明のガス分離膜において高分子マトリクスを形成するものである。共重合体(A)としては、例えば、ビニルアルコール系単量体単位及びカルボキシル基を有する単量体単位から構成される共重合体が挙げられる。カルボキシル基を有する単量体単位及びビニルアルコール系単量体単位から構成される共重合体は、例えばカルボキシル基を有する単量体とビニルアルコール系単量体との共重合体である。共重合体(A)はランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体であってよい。
ビニルアルコール系単量体単位及びカルボキシル基を有する単量体単位から構成されるランダム共重合体(以下、「ランダム共重合体」と略称することがある)は、酢酸ビニル等のビニルエステルと少なくとも1個のカルボキシル基を有する不飽和カルボン酸、金属塩、無水物又はエステルとを共重合させ、次いでその共重合体をケン化することにより得られる。すなわち、前記ビニルアルコール系単量体単位は、ビニルエステル単位及び/又はビニルアルコール単位を表す。
前記ランダム共重合体の粘度平均重合度(以下、「重合度(P)」と略記することがある)は、好ましくは300〜2500であり、より好ましくは330〜2200であり、さらに好ましくは360〜2000である。前記重合度(P)が上記の下限値以上であると、樹脂組成物が形成するガス分離層の強度が高く、耐圧性や耐水性に優れる。また、前記重合度(P)が上記の上限値以下であると、樹脂組成物の粘度が高くなりすぎることを抑制することができ、支持膜上に均質に塗布することが容易となる。
前記重合度(P)は、JIS−K6726に準拠して測定することができる。すなわち、ビニルアルコール系単量体単位部分を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
ビニルアルコール系単量体単位及びカルボキシル基を有する単量体単位から構成されるブロック共重合体又はグラフト共重合体(以下、「ブロック又はグラフト共重合体」と略称することがある)は、ビニルアルコール系単量体の重合体(以下、「ビニルアルコール系重合体」と略称することがある)部分を有するブロック又はグラフト共重合体である。前記ブロック又はグラフト共重合体は、ビニルアルコール系重合体のブロックとカルボキシル基を有する単量体が重合した重合体のブロックとを少なくとも含むブロック共重合体であるか、又は、カルボキシル基を有する単量体が重合した重合体がビニルアルコール系重合体にグラフトしたグラフト共重合体であることが、後述するアルカリ金属化合物(B)の溶解性や保水性の観点から好ましい。なお、前記ブロック共重合体には、かかるブロック共重合体のビニルアルコール系重合体部分にカルボキシル基を有する単量体が重合した重合体がグラフトした共重合体も含まれる。
本発明の一態様において、ブロック又はグラフト共重合体は、ビニルアルコール系重合体のブロックとカルボキシル基を有する単量体が重合した重合体のブロックとを少なくとも含むブロック共重合体である。このようなブロック共重合体は、例えばメルカプト基を末端に有するビニルアルコール系重合体の水溶液中で、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸及び/又はマレイン酸などのカルボキシル基を有する不飽和カルボン酸又はその酸無水物を重合することにより製造することができる(例えば特開昭59−187003号公報、特開2001−233678号公報参照)。
本発明の別の一態様において、ブロック又はグラフト共重合体は、カルボキシル基を有する単量体が重合した重合体がビニルアルコール系重合体にグラフトしたグラフト共重合体である。このようなグラフト共重合体は、例えば酢酸ビニル及びチオ酢酸S−7−オクテン−1−イルエステルのメタノール溶液に2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを加えて重合を行い、酢酸ビニルとチオエステル系単量体との共重合体を得て、得られた共重合体を常法によりけん化して、側鎖にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体を製造し、このビニルアルコール系重合体水溶液に上記のカルボキシル基を有する単量体を重合触媒存在下に重合することにより製造することができる。
ブロック又はグラフト共重合体の一部である、前記ビニルアルコール系重合体部分の粘度平均重合度は、好ましくは300〜2500であり、より好ましくは330〜2200であり、さらに好ましくは360〜2000である。ビニルアルコール系重合体部分の粘度平均重合度が上記の下限値以上であると、樹脂組成物が形成するガス分離膜の強度が高く、耐圧性や耐水性に優れる。また、ビニルアルコール系重合体部分の粘度平均重合度が上記の上限値以下であると、樹脂組成物の粘度が高くなりすぎることを抑制でき、支持膜上に均質に塗布することが容易となる。なお、ビニルアルコール系重合体部分の粘度平均重合度は、上記と同様に測定することができる。
本発明において、高圧下において二酸化炭素の高い膜透過速度が得られ、さらに二酸化炭素選択性に優れるガス分離膜を得る観点から、共重合体(A)は、ブロック又はグラフト共重合体であることが好ましい。
共重合体(A)におけるビニルアルコール系単量体単位部分のけん化度は、90モル%以上であることが好ましく、90〜99.9モル%であることがより好ましく、95〜99.9モル%であることがさらに好ましい。けん化度が上記の下限値以上であると、ガス分離膜の耐水性が良好であり、けん化度が上記の上限値以下であると、製膜時の作業性に優れ、また樹脂組成物の粘度安定性が良好である。また、けん化度が好ましい範囲にある効果としては、高分子マトリクス中にて、アルカリ金属化合物(B)やアルカリ金属化合物(B)と二酸化炭素との複合体が溶解しやすい環境となり、二酸化炭素の膜透過速度及び選択性を高めやすいという利点も挙げられる。また、共重合体(A)におけるビニルアルコール系単量体単位部分は、ビニルアルコール単位の他に、けん化されていないビニルエステル単位を含有し得る。本明細書において、けん化度とは、全ビニルアルコール系単量体単位、すなわち、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る単量体単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して、当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。なお、けん化度はJIS K6726−1994の記載に準拠して測定することができる。
前記ビニルアルコール系単量体単位とは、ビニルアルコール単量体単位、及びビニルアルコールを骨格として有する単量体単位であり、ビニルアルコール単量体単位中の水酸基がエステル化していてもよく、例えば酢酸ビニル等の単量体単位が挙げられる。
前記カルボキシル基を有する単量体単位は、カルボキシル基を有する単量体に由来する。該カルボキシル基を有する単量体は、少なくとも1つのカルボキシル基を有する不飽和カルボン酸、金属塩、無水物又はエステルであることが好ましい。少なくとも1個のカルボキシル基を有する不飽和カルボン酸、金属塩、無水物又はエステルとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−クロロアクリル酸及びけい皮酸等の不飽和モノカルボン酸;並びにマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸及びメサコン酸などの不飽和ジカルボン酸等、並びにこれらのアルカリ金属塩、メチルエステル又はエチルエステル酸が挙げられる。さらに無水物としては、例えば無水マレイン酸、無水イタコン酸及び無水シトラコン酸等が挙げられる。カルボキシル基を有する単量体は1種類以上の単量体を使用してもよい。アルカリ金属化合物(B)の溶解性や保水性の観点から、カルボキシル基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸及びイタコン酸、並びにこれらのアルカリ金属塩、メチルエステル又はエチルエステルからなる群から選択される少なくとも1種の単量体が好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸、並びにこれらのアルカリ金属塩、メチルエステル又はエチルエステルからなる群から選択される少なくとも1種の単量体がより好ましい。
共重合体(A)におけるカルボキシル基を有する単量体単位の含有量は、アルカリ金属化合物(B)の溶解性や保水性の観点から、共重合体(A)の全単量体単位に基づいて、0.1〜90モル%が好ましく、0.5〜80モル%がより好ましく、1〜70モル%がさらに好ましく、5〜60モル%が特に好ましく、10〜50モル%が最も好ましい。カルボキシル基を有する単量体単位の含有量が上記の下限値以上であると、アルカリ金属化合物(B)との溶解性が高まるため好ましく、上記の上限値以下であると、樹脂組成物を塗布することで支持膜上に形成される二酸化炭素分離層の製膜性が向上するため好ましい。カルボキシル基を有する単量体単位の含有量は、例えばビニルアルコール系単量体とカルボキシル基を有する単量体とのランダム共重合体の製造工程(例えば、特開昭57−119902号公報、特表2010−533760号公報等を参照)、及び後述するブロック又はグラフト共重合体の製造工程において使用するカルボキシル基を有する単量体の使用量を調整することによって、上記の好ましい範囲に調整することができる。
共重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上述したビニルアルコール系単量体単位及びカルボキシル基を有する単量体単位以外の他の単量体単位を含有していてもよい。他の単量体単位となる単量体としては、例えばエチレン;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド;N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。他の単量体単位の含有率は、共重合体(A)の全単量体単位に対して10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
共重合体(A)は、架橋されていてもよいが、さらに高いガス分離性能を発現させるという観点から、非架橋であることが好ましい。共重合体(A)を、例えばグルタルアルデヒドなどの一般的な架橋剤によりアセタール結合を介して架橋すると非常に脆いゲルが生成することがある。このようなゲルをガス分離膜に用いると高圧においてガス分離膜が破れ易くなり、ガス分離の選択性が低下することがある。共重合体(A)は、促進輸送膜において二酸化炭素のキャリアとなるアルカリ金属化合物(B)とイオン的な相互作用をするため、共重合体(A)が非架橋であると、共重合体(A)が固定されずアルカリ金属化合物(B)の拡散性が低下しにくいため、ガス分離性能の低下が起こりにくい。なお、共重合体(A)が非架橋であるとは、共重合体(A)の水酸基が、後述する架橋剤との間に共有結合を実質的に有していないことを意味する。例えばジエポキシド化合物等のエポキシド類を架橋剤として用いてアルカリ条件にてアミノ基を有する化合物の架橋を行う場合、反応系内に共重合体(A)が存在しても、共重合体(A)中の水酸基及びカルボキシル基よりもアミノ基に対して優先的に反応する。そのため、共重合体(A)中の水酸基及びカルボキシル基がわずかに反応し得るものの、共重合体(A)は実質的に架橋されない。
本発明のガス分離膜を構成する樹脂組成物に含まれる共重合体(A)の含有量は、アルカリ金属化合物(B)の溶解性や保水性の観点から、樹脂組成物の総量に対して1〜40質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましく、3〜20質量%であることがさらに好ましい。
(アルカリ金属元素を含有する化合物(B))
本発明のガス分離膜を構成する樹脂組成物は、共重合体(A)に加えて、アルカリ金属化合物(B)を含む。樹脂組成物がアルカリ金属化合物(B)を含むことにより、二酸化炭素の高い膜透過速度が得られるとともに、二酸化炭素を混合ガスから分離する際の選択性が向上する。ここで、アルカリ金属化合物(B)は二酸化炭素キャリアとして作用する。アルカリ金属化合物(B)は、高分子マトリクス中でそれ自体又は混合ガス中の水分と反応した際に放出される水酸化物イオンが二酸化炭素ガスと反応して重炭酸塩や炭酸塩を形成し、これらの重炭酸塩や炭酸塩が膜内に生じる濃度勾配に従って移動し、再び二酸化炭素ガスを放すことによって、二酸化炭素ガスを選択的にガス分離膜中で輸送する。その際の二酸化炭素選択性及び輸送速度は、用いる二酸化炭素キャリアの種類や、膜を構成する高分子マトリクスの状態によって異なる。
アルカリ金属化合物(B)は、二酸化炭素ガスとの反応性の観点から、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属重炭酸塩が好ましい。アルカリ金属水酸化物としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム及び水酸化セシウム等が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩としては、例えば炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム及び炭酸セシウム等が挙げられる。アルカリ金属重炭酸塩としては、例えば重炭酸リチウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸ルビジウム及び重炭酸セシウム等が挙げられる。共重合体(A)を含むガス分離膜へのアルカリ金属化合物(B)の溶解性の観点から、アルカリ金属化合物(B)を構成するアルカリ金属は、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。アルカリ金属化合物(B)はさらに、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属重炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
本発明のガス分離膜を構成する樹脂組成物に含まれるアルカリ金属化合物(B)の量は、ガス分離膜中に吸収される二酸化炭素の量を高める観点から、樹脂組成物の総量に対して50〜99質量%であることが好ましく、60〜97質量%であることがより好ましく、70〜95質量%であることがさらに好ましく、80〜90質量%であることが特に好ましい。
本発明のガス分離膜を構成する樹脂組成物に対するアルカリ金属化合物(B)に含まれるアルカリ金属元素の含有量は60質量%以上、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。前記樹脂組成物に対する前記アルカリ金属元素の含有量が上記下限値未満であると、高圧下(例えば1MPa以上)における二酸化炭素選択性をさらに高めることができる。なお、前記樹脂組成物に対する前記アルカリ金属元素の含有量の上限値は、90質量%以下であることが好ましい。前記アルカリ金属元素の含有量が上記の上限値を超えると高圧におけるガス分離膜の安定性が悪化するおそれがある。
(親水性の架橋重合体(C))
本発明のガス分離膜を構成する樹脂組成物は、共重合体(A)とは異なる親水性の架橋重合体(C)(以下、「親水性の架橋重合体(C)」と略称することがある)を含んでもよい。この場合、親水性の架橋重合体(C)は、本発明のガス分離膜において、共重合体(A)とともに高分子マトリクスを形成する。樹脂組成物が親水性の架橋重合体(C)を含むと、二酸化炭素の膜透過速度をさらに速くすることができる。ここで、親水性とは、架橋前の重合体が水溶性重合体であることを意味する。親水性の架橋重合体(C)は、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン及びポリビニルアミンからなる群から選択される少なくとも1種の構造単位を有する。前記構造単位のうち、架橋の導入の容易さ、及びアルカリ金属化合物(B)に対する安定性(すなわち耐加水分解性)の観点から、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン及びポリビニルアミンから選択される少なくとも1種の構造単位を有することが好ましい。親水性の架橋重合体(C)を得るための重合体(以下、「親水性の架橋性重合体」ともいう)としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン及びポリビニルアミンからなる群から選択される少なくとも1種の構造単位を有する重合体が挙げられる。
ポリアミドアミンデンドリマー、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン及びポリビニルアミンはポリマー鎖中に反応性の高いアミノ基を含有しており、これらにグルタルアルデヒド等の架橋剤を反応させると、共重合体(A)が同時に存在しても共重合体(A)を実質的に架橋させず、親水性の架橋性重合体を選択的に架橋させ、親水性の架橋重合体(C)を生成することができる。
前記親水性の架橋性重合体の架橋に使用される架橋剤としては、例えば次の式(1):
Figure 2017170354

[式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキレン基であり、X、X、X、X、X及びXは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基であり、Yはアニオンである。]
で示されるアゼチジニウム基を有した架橋剤、並びにエポキシ基、アルデヒド基及び/又はハロゲン原子などの官能基を2個以上有する化合物が好適なものとして挙げられる。
親水性の架橋重合体(C)として、具体的にはアミン系化合物が挙げられる。アミン系化合物は、共重合体(A)及びアルカリ金属化合物(B)に対して高い相溶性を有することが好ましく、製膜性に問題がなければよく、種々のアミン系化合物を適用することができる。親水性の架橋性重合体としては、例えばポリアミドアミンデンドリマー(C1)、並びにポリアリルアミン、ポリビニルアミン及びポリエチレンイミンからなる群から選択される少なくとも1種の構造単位を有するアミン系重合体(C2)が好適なものとして挙げられる。
ポリアミドアミンデンドリマー(C1)としては、式(2):
Figure 2017170354

[式中、Aは炭素数1〜3の二価有機基を示し、nは0又は1の整数を示す。]
で示される基及び/又は式(3):
Figure 2017170354

[式中、Aは炭素数1〜3の二価有機基を示し、nは0又は1の整数を示す。]
で示される基を含有するポリアミドアミンデンドリマー(C1)が好ましく、式(2)で示される基を有するポリアミドアミンデンドリマー(C1)がより好ましい。本発明の一実施態様において、親水性の架橋重合体(C)はポリアミドアミンデンドリマー(C1)及びアミン系重合体(C2)から構成される。ポリアミドアミンデンドリマー(C1)と上記のアミン系重合体(C2)とを親水性の架橋性重合体として併用すると、製膜性が良好で、かつ、二酸化炭素選択性の高いガス分離膜を得やすい。
本発明のガス分離膜を構成する前記樹脂組成物が前記親水性の架橋重合体(C)を含む場合、前記親水性の架橋重合体(C)の含有量は、本発明の効果を発現しかつ製膜性を維持する観点から、本発明のガス分離膜を構成する樹脂組成物の総量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、特に好ましくは50質量%以下、とりわけ好ましくは30質量%以下、なおさら好ましくは20質量%以下、なお一層好ましくは15質量%以下、例えば10質量%以下又は5質量%以下である。親水性の架橋重合体(C)の含有量が1質量%未満であると、親水性の架橋重合体(C)のもたらす効果が低くなるおそれがある。一方で、親水性の架橋重合体(C)の含有量が90質量%を超えると、含有させたポリアミドアミンデンドリマー等の一部が分離膜よりブリードアウトするなど、製膜性を損なうおそれがある。
式(2)又は式(3)におけるA及びAで示される炭素数1〜3の二価有機基としては、例えば直鎖状又は分枝状の炭素数1〜3のアルキレン基が挙げられる。例えば−CH−、−CH−CH−、−CH−CH−CH−、−CH−CH(CH)−などが挙げられ、−CH−であることが好ましい。また、式(2)又は式(3)において、水蒸気が含まれる混合ガスとの親和性が増すことから、n=1であることが好ましい。
本発明で用いられるポリアミドアミンデンドリマー(C1)は、上記式(2)で示される基及び/又は上記式(3)で示される基を1〜9meq/g含有することが好ましい。これにより、さらに高い二酸化炭素選択性を有するガス分離膜を得ることができる。なお「eq/g」はポリアミドアミンデンドリマー(C1)内の官能基の含有率、すなわちポリアミドアミンデンドリマー(C1)1g中の官能基の当量数(モル数と称される場合もある)を表し、1meq/gは分子1g中に1ミリ当量の官能基を有することを意味する。
本発明で用いられるポリアミドアミンデンドリマー(C1)は、エチレンジアミンによるアミド化反応で分岐構造を形成し、その分岐数を増やすことで、分子内の1級アミノ基の個数を増すことができる。本発明においては、分岐数によらず、どの世代のポリアミドアミンデンドリマーでも好適に用いることができるが、1級アミノ基の含有率が高く、分子ゲート機構の発現に有利と見込める下記式(4)〜(9)の中から選択される第0世代ポリアミドアミンデンドリマーが特に好適に用いられる。
Figure 2017170354
Figure 2017170354
Figure 2017170354
Figure 2017170354
Figure 2017170354
Figure 2017170354
親水性の架橋重合体(C)は、ポリアミドアミンデンドリマー(C1)に加えて、別のアミン系重合体(C2)又はそれらの一部が変性された重合体から構成されてもよい。アミン系重合体(C2)としては、例えばポリエチレンイミン、ポリアリルアミン及びポリビニルアミン等が挙げられ、中でも水蒸気雰囲気下における膜構造の安定性の観点から、ポリアリルアミンが好適である。
親水性の架橋重合体(C)がポリアミドアミンデンドリマー(C1)及び別のアミン系重合体(C2)から構成される場合、ポリアミドアミンデンドリマー(C1)とアミン系重合体(C2)との含有量の比((C1)/(C2))は、質量比で40/60〜95/5であることが、製膜性の維持及び二酸化炭素の膜透過速度向上の観点から好ましい。
(その他の成分)
本発明のガス分離膜を構成する樹脂組成物は可塑剤及び界面活性剤等の添加剤を含んでもよい。可塑剤としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリアセチルグリセリン、ジオクチルフタレート、トリエチレングリコールジカプリレート及びイオン液体等が挙げられる。界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び有機フルオロ化合物等が挙げられる。
本発明のガス分離膜を構成する樹脂組成物は、二酸化炭素の供給分圧が高い領域にて使用され、かつ二酸化炭素キャリアとして機能するアルカリ金属化合物(B)を含有するため、従来のような二酸化炭素の水和触媒を添加しても十分な効果が望めないという観点から、アミンが配位した亜鉛錯体を含まないことが好ましい。
(ガス分離膜)
本発明のガス分離膜は、例えば共重合体(A)及びアルカリ金属化合物(B)、並びに場合により親水性の架橋重合体(C)を溶媒等とともに混合して膜形成原液を調製し、得られた原液をダイからフィルム状に吐出させ、又はノズルから中空糸状に成形させ、乾燥させて製造することができる。溶媒としては、水、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)などの有機溶媒、並びにこれらの混合物が挙げられ、中でも水が好ましい。
本発明のガス分離膜は、単一層から形成され、該単一層中に共重合体(A)、アルカリ金属化合物(B)、及び場合により親水性の架橋重合体(C)が含有されていてもよい。あるいはガス分離膜が積層された複数の層から形成され、共重合体(A)及び場合により親水性の架橋重合体(C)を含む層と、アルカリ金属化合物(B)を含む層とが積層されていてもよい。
なお、共重合体(A)、アルカリ金属化合物(B)、及び場合により親水性の架橋重合体(C)を樹脂組成物中に含有させる方法としては、例えばガス分離膜が単一層から形成されるように、共重合体(A)中、又は共重合体(A)と親水性の架橋重合体(C)との混合物中にアルカリ金属化合物(B)を内包させて単一層のみの構造とする方法であってもよく、ガス分離膜が多層構造を有するように、共重合体(A)又は混合物の片面又は両面に積層、又は塗布する方法であってもよい。
本発明のガス分離膜の膜厚は、高い膜透過速度を維持しつつ選択性を確保する観点から、0.01〜100μmであることが好ましく、0.1〜40μmであることがより好ましく、0.1〜20μmであることがさらに好ましい。膜厚が上記の下限値未満であると高圧下での二酸化炭素選択性が大幅に低下し、上記の上限値を超えると二酸化炭素選択性は増大するが透過速度が低くなりすぎるおそれがある。ガス分離膜の膜厚は、例えばガス分離膜の断面を走査型電子顕微鏡や飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)を用いて特にアルカリ金属化合物(B)の分布を観測することで測定できる。また、後述する支持膜上に塗布されたガス分離膜の重量を例えば105℃、3時間以上乾燥後に測定することによってもゲル成分及びアルカリ金属化合物(B)の密度から膜厚を計算することも可能である。
本発明のガス分離膜は、ガス分離膜を補強する観点から、さらに支持膜を備えていてもよい。この態様において、前記の樹脂組成物は、該支持膜上に担持されている。支持膜としては、例えば有機又は無機材料からなる多孔質膜が挙げられる。好ましくは有機材料からなる多孔質膜であり、多孔性の高分子膜、例えば限外ろ過膜や精密ろ過膜等が挙げられる。膜の形状としては、例えばフィルムや中空糸などが挙げられる。孔の大きさ及び膜厚は、気体透過量と膜の機械的強度を考慮して適宜選択できる。支持膜を構成する高分子としては、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられる。樹脂組成物を該支持膜上に担持させる方法としては、例えば上述した膜形成原液を該支持膜上に適用し、乾燥させる方法が挙げられる。前記方法は、膜形成原液が支持膜の孔に浸透し、複合膜となることでガス分離膜の剥離を防ぐことができる観点から好ましい。
ガス分離膜が支持膜をさらに備える本発明の一態様において、共重合体(A)、アルカリ金属化合物(B)、及び場合により親水性の架橋重合体(C)を含有する層が支持膜上に形成されていてもよいし、共重合体(A)及び場合により親水性の架橋重合体(C)を含有する層が支持膜上に形成され、共重合体(A)及び場合により親水性の架橋重合体(C)を含有する層の上にアルカリ金属化合物(B)を含有する層が形成されていてもよいし、共重合体(A)及び場合により親水性の架橋重合体(C)を含有する層が支持膜の一部の表面上に形成され、アルカリ金属化合物(B)を含有する層が、共重合体(A)及び場合により親水性の架橋重合体(C)を含有する層が形成されていない支持膜の別の一部の表面上に形成されていてもよい。
(ガス分離方法)
本発明のガス分離膜を用いてガスの分離を行う際、二酸化炭素の膜透過速度をより向上させる観点から、ガス分離装置を高温・高圧で運転することが好ましい。高温・高圧での運転を行うにあたっては、膜が強い耐熱性及び耐圧性を有することが要求される。このような条件下でガス分離膜を使用する場合、膜の耐熱性及び耐圧性の観点から、本発明のガス分離膜を構成する樹脂組成物に親水性の架橋重合体(C)を含有させることが好ましい。親水性の架橋重合体(C)は、共重合体(A)が実質的に架橋されない状態で、親水性の架橋性重合体を架橋剤により選択的に架橋することによって生成することができる。本発明の好適な実施態様においては、本発明のガス分離膜を用いることにより、水蒸気を含む混合ガスから下記温度で炭酸ガスを効率的に分離することができる。本発明のガス分離膜を使用する温度範囲は、ガス分離膜の耐久性を考慮すると、例えば40℃以上が好ましく、55℃以上がより好ましく、100℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましい。
このようにして製造できる本発明のガス分離膜及び当該ガス分離膜を用いたガス分離方法は、特定のガス種、特に二酸化炭素を選択的に分離する性能が優れており、火力発電所、製鉄所、セメント工場等で好適に使用することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
[透過速度及び二酸化炭素選択性の測定]
以下の実施例及び比較例において得られたガス分離膜について、二酸化炭素の透過速度Q(CO)(m/[m・s・Pa])及びヘリウムの透過速度Q(He)(m/[m・s・Pa])を以下のようにして測定し、二酸化炭素選択性α(CO/He)を求めた。
組成をCO/He=80/20(mL/min)、相対湿度を70%RHに設定したガスを実施例及び比較例で得られたガス分離膜に供給し、透過側にスウィープガスとしてアルゴンを10mL/minで供給した等圧法及び供給側の全圧を2.4MPaまで上昇させた差圧法によって、該分離膜の透過速度を測定した。
Q(CO)=(CO透過流量)/(膜面積)・(CO供給分圧−CO透過分圧)
Q(He)=(He透過流量)/(膜面積)・(He供給分圧−CO透過分圧)
α=Q(CO)/Q(He)
<製造例1>
[末端メルカプト基含有ポリビニルアルコールPVA−1の合成]
特開昭59−187003号公報に記載の方法で、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコール(PVA−1)を合成した。H−NMR測定により求めたビニルアルコール単位の含有量(けん化度)は98.5モル%、JIS K6726に準拠して測定した粘度平均重合度は1500であった。
<製造例2>
[側鎖メルカプト基含有ポリビニルアルコールPVA−2の合成]
(1)攪拌機、還流冷却管、アルゴン導入管及び開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル4500g、下記式(10)で示されるチオ酢酸S−7−オクテン−1−イルエステル99g、及びメタノール1210gを仕込み、アルゴンバブリングをしながら30分間系内をアルゴン置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル3.6gを添加し重合を開始した。60℃で4時間重合した後、冷却して重合を停止した。重合停止時の重合率は38%であった。続いて、30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応のモノマーの除去を行い、チオエステル基を有するポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度35.6%)を得た。なお、下記式(10)で示されるチオ酢酸S−7−オクテン−1−イルエステルは、米国特許3632826号明細書に記載の方法で合成した。
Figure 2017170354
(2)上記(1)で得られたチオエステル基を有するポリ酢酸ビニルのメタノール溶液2809gにメタノール397gを加え(溶液中のチオエステル基を有するポリ酢酸ビニルは1000質量部)、さらに、水酸化ナトリウムメタノール溶液(濃度12.8%)を添加して、40℃でけん化を行った(けん化溶液のチオエステル基を有するポリ酢酸ビニル濃度30%、チオエステル基を有するポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.035)。水酸化ナトリウムメタノール溶液を添加後約8分でゲル化物が生成したので、これを粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で52分間放置してけん化を進行させた。これに酢酸メチルを加えて残存するアルカリを中和した後、メタノールでよく洗浄し、真空乾燥機で40℃、12時間乾燥することにより共重合体(PVA−2)を得た。また、H−NMR測定により求めた式(10)で表される化合物に由来する構造単位の含有量(変性量)は0.5モル%、ビニルアルコール単位の含有量(けん化度)は98.4%であった。さらに、JIS K6726に準拠して測定した粘度平均重合度は1600であった。
H−NMR(270MHz,DO(DSS含有),60℃)による測定の結果は、以下の通りである。
δ(ppm):1.3−1.9(−CHCH(OH)−、及び、−CHCH(CHCHCHCHCHCHSH)−)、2.05−2.15(−CHCH(OCOCH)−)、2.51−2.61(−CHCH(CHCHCHCHCHCHSH)−)、3.9−4.2(−CHCH(OH)−)
<製造例3>
[ブロック共重合体P−1の合成]
33.3gのPVA−1に水448gを加え、還流冷却管及び攪拌翼を備え付けた1Lの四つ口セパラブルフラスコ中にて95℃まで加熱して溶解させた。室温まで冷却した後、該水溶液に1/2規定の硫酸を添加してpHを3.0に調整した。これにアクリル酸6.0gを加え、該水溶液中に窒素をバブリングしつつ90℃まで加温し、さらに90℃で30分間窒素のバブリングを続けることで、窒素置換した。窒素置換後、該水溶液に重合開始剤として2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](AMHP、和光純薬工業株式会社製)の2%水溶液24mLを1.5時間かけて徐々に添加し、添加終了後90℃で2.5時間加熱して重合を完了させた。室温まで冷却し、固形分濃度7.5質量%のポリビニルアルコールとポリアクリル酸のブロック共重合体である、ブロック共重合体P−1の水溶液を得た。得られた水溶液の一部を乾燥した後、重水に溶解し、H−NMR測定を行ったところ、該ブロック共重合体中のカルボキシル基含有量、すなわち、該共重合体中の単量体単位の総数に対するアクリル酸単量体単位の含有量は10モル%であった。
<製造例4〜7>
[ブロック共重合体P−2〜P−3及びグラフト共重合体P−4〜P−5の合成]
ポリビニルアルコールの種類及び仕込み量、水、アクリル酸及び重合開始剤の仕込み量を表1に示すように変更したこと以外は製造例3と同様にして、ブロック共重合体P−2〜P−3及びグラフト共重合体P−4〜P−5の水溶液を得た。H−NMR測定により得られた該共重合体中の単量体単位の総数に対するアクリル酸単量体単位の含有量及び固形分濃度を表1に示す。
Figure 2017170354
[実施例1]
共重合体(A)として、酢酸ビニルとアクリル酸エステルのランダム共重合により調製した1モル%カルボキシル基変性ポリビニルアルコールP−6(けん化度98.6モル%、重合度1800)水溶液(固形分濃度10質量%)、アルカリ金属化合物(B)として水酸化セシウムを用い、表2に示される配合割合で混合し、イオン交換水を加えて溶液(固形分10質量%)を調製した。この溶液を分画分子量30万のポリエーテルスルホンを素材とした限外ろ過膜(ミリポア社製、商品名バイオマックス)上にバーコーター(ウエット膜厚500μm)を用いてキャスト製膜し、室温で風乾させることで、膜厚20μmのガス分離膜を得た。得られたガス分離膜中の樹脂組成物に対するアルカリ金属元素の含有量は73.6質量%であった。
得られたガス分離膜を所望の大きさに切断し、測定試料を作製した。得られた測定試料を用い、上記方法に従って、二酸化炭素の膜透過速度Q(CO)及び二酸化炭素選択性α(CO/He)を求めた。得られた結果を表3(全圧0.7MPa)及び表4(全圧2.4MPa)に示す。
[実施例2]
共重合体(A)としてP−6、架橋剤としてポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(25質量%水溶液、星光PMC社製、品番WS4020)、親水性の架橋性重合体としてポリアリルアミン(15質量%水溶液、日東紡社製、商品名「PAA−15C」)及び式(4)に係る第0世代ポリアミドアミンデンドリマー(20質量%メタノール溶液、アルドリッチ社製)、並びにグリセリンを、表2に示される配合割合で混合して溶液(固形分5質量%)を調製した。この溶液を限外ろ過膜上にバーコーター(ウエット膜厚100μm)を用いてキャスト製膜し、120℃で10分間熱処理することでろ過膜上にゲルを有する複合膜を得た。ゲルを形成させたろ過膜面とは反対側から、目的とするガス分離膜全体の組成が表2に示す配合割合となるように炭酸セシウム水溶液を塗布することで、膜厚20μmのガス分離膜を得た。得られたガス分離膜におけるアルカリ金属元素の含有量は72.6質量%であった。得られたガス分離膜の評価を、実施例1と同様に行った。その結果を表3及び4に示す。
Figure 2017170354
[実施例3〜7]
P−6を用いる代わりにP−1〜P−5(NaOHにてアクリル酸を中和したもの)をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして膜厚20μmのガス分離膜を作製した。得られたガス分離膜の評価を、実施例1と同様に行った。その結果を表3及び4に示す。
[実施例8〜11]
P−6を用いる代わりにP−1、P−2、P−3又はP−5(NaOHにてアクリル酸を中和したもの)をそれぞれ用いた以外は、実施例2と同様にして膜厚20μmのガス分離膜を作製した。得られたガス分離膜の評価を、実施例1と同様に行った。その結果を表3及び4に示す。
[実施例12]
共重合体(A)としてP−1(NaOHにてアクリル酸を中和したもの)、架橋剤としてエポライト400E(共栄社化学社製)、親水性の架橋性重合体としてポリアリルアミン(15質量%水溶液、日東紡社製、商品名「PAA−15C」)、並びにグリセリンを表2に示される配合割合で混合して溶液(固形分5質量%)を調製した。この溶液を限外ろ過膜上にバーコーター(ウエット膜厚100μm)を用いてキャスト製膜し、120℃で10分間熱処理することでろ過膜上にゲルを有する複合膜を得た。ゲルを形成させたろ過膜面とは反対側から、目的とするガス分離膜全体の組成が表2に示す配合割合となるように炭酸セシウム水溶液を塗布することで膜厚20μmのガス分離膜を得た。得られたガス分離膜の評価を、実施例1と同様に行った。その結果を表3及び4に示す。
[実施例13〜15]
P−1を用いる代わりにP−2、P−3又はP−5(NaOHにてアクリル酸を中和したもの)をそれぞれ用いた以外は、実施例12と同様にして膜厚20μmのガス分離膜を作製した。得られたガス分離膜の評価を、実施例1と同様に行った。その結果を表3及び4に示す。
[実施例16]
共重合体(A)としてP−3(NaOHにてアクリル酸を中和したもの)、アルカリ金属化合物(B)として水酸化セシウム、並びに共重合体(A)の架橋剤としてグルタルアルデヒド(溶液中の濃度2質量%)を用い、表2に記載の配合割合で配合したこと以外は、実施例1と同様にして、膜厚20μmのガス分離膜を得た。得られたガス分離膜の評価を、実施例1と同様に行った。その結果を表3に示す。
[比較例1]
特開2011−183379号公報の実施例1を参考に分離膜を調製した。1gの1モル%カルボキシル基変性ポリビニルアルコールP−6を水20gに溶解し、これにグルタルアルデヒド(25質量%水溶液)を0.136g加えて95℃、15時間攪拌することでカルボキシル基を有する架橋ビニルアルコール系共重合体溶液を得た。該溶液に対して炭酸セシウムを2.33g加えて、さらに室温で攪拌した。この溶液を分画分子量30万のポリエーテルスルホンを素材とした限外ろ過膜上にバーコーター(ウエット膜厚500μm)を用いてキャスト製膜し、室温で風乾させることで、膜厚20μmのガス分離膜を得た。得られたガス分離膜の評価を、実施例1と同様に行った。その結果を表3及び4に示す。
[比較例2〜3]
P−6を用いる代わりにP−2又はP−3をそれぞれ用いた以外は、比較例1と同様にして膜厚20μmのガス分離膜を作製した。得られたガス分離膜の評価を、実施例1と同様に行った。その結果を表3及び4に示す。
Figure 2017170354
Figure 2017170354
Figure 2017170354
本発明に係るガス分離膜は、混合ガス、特に水蒸気の含まれる混合ガスから、特定のガス種、特に二酸化炭素を高圧条件にて選択的に分離する性能が優れ、二酸化炭素透過速度が高く、石炭ガス化により産生される水性シフトガス及び天然ガスからの二酸化炭素の分離などにおいて有用である。

Claims (14)

  1. カルボキシル基を有するビニルアルコール系共重合体(A)と、アルカリ金属元素を含有する化合物(B)とを含む樹脂組成物から構成されるガス分離膜であって、前記樹脂組成物に対する前記アルカリ金属元素の含有量が60質量%以上である、ガス分離膜。
  2. 前記共重合体(A)が非架橋である、請求項1に記載のガス分離膜。
  3. 前記ガス分離膜の膜厚が0.01〜100μmである、請求項1又は2に記載のガス分離膜。
  4. 前記樹脂組成物は、前記共重合体(A)とは異なる親水性の架橋重合体(C)をさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載のガス分離膜。
  5. 前記親水性の架橋重合体(C)は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン及びポリビニルアミンからなる群から選択される少なくとも1種の構造単位を有する、請求項4に記載のガス分離膜。
  6. 前記共重合体(A)は、カルボキシル基を有する単量体単位及びビニルアルコール系単量体単位から構成される、請求項1〜5のいずれかに記載のガス分離膜。
  7. 前記共重合体(A)は、カルボキシル基を有する単量体単位及びビニルアルコール系単量体単位から構成されるブロック又はグラフト共重合体である、請求項1〜6のいずれかに記載のガス分離膜。
  8. 前記カルボキシル基を有する単量体単位はアクリル酸単位又はメタクリル酸単位である、請求項6または7に記載のガス分離膜。
  9. 前記カルボキシル基を有する単量体単位の含有量は、前記共重合体(A)の全構造単位に基づいて0.1〜90モル%である、請求項6〜8のいずれかに記載のガス分離膜。
  10. 前記ビニルアルコール系単量体単位のけん化度が90モル%以上である、請求項6〜9のいずれかに記載のガス分離膜。
  11. 前記アルカリ金属元素を含有する化合物(B)は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属重炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜10のいずれかに記載のガス分離膜。
  12. さらに支持膜を備え、前記樹脂組成物が該支持膜に担持されている、請求項1〜11のいずれかに記載のガス分離膜。
  13. 前記樹脂組成物はアミンが配位した亜鉛錯体を含まない、請求項1〜12のいずれかに記載のガス分離膜。
  14. 請求項1〜13のいずれかに記載のガス分離膜を用いて、水蒸気を含む混合ガスから40℃以上の温度で炭酸ガスを分離する、ガス分離方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN114474959A (zh) * 2022-01-29 2022-05-13 乐凯华光印刷科技有限公司 一种阻氧层及包含其的凸起部分表面砂目化的自平顶网点数字化柔性树脂版

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