JP2017166525A - 転がり摺動部材及び転がり軸受 - Google Patents

転がり摺動部材及び転がり軸受 Download PDF

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Abstract

【課題】安価に製造でき、高荷重条件下においても、長い転動疲労寿命を確保できる転がり摺動部材及び転がり軸受を提供する。【解決手段】転がり軸受である玉軸受1の転がり摺動部材である外内輪10,20及び玉30をC0.1〜0.5質量%と、Si0.35質量%以下と、Mn0.3〜1.0質量%と、Cr0.9〜2.5質量%と、Mo0.5〜0.9質量%とを含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である鋼材の表面層が表面硬化層である母材で構成し、転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置におけるビッカース硬さHvを700〜800、転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置における残留γ量を25〜50体積%、前記位置における析出物粒子の平均粒径を1〜5μm、前記位置における該析出物粒子の最近接粒子間距離を15〜25μmとする。【選択図】図1

Description

本発明は、転がり摺動部材及び当該転がり摺動部材を備える転がり軸受に関する。
近年、産業機械等の高性能化に伴い、軸受等に用いられる転がり摺動部材は、高荷重条件等の厳しい使用条件下で使用されることが多くなっている。そのため、前記使用条件下においても、長い転動疲労寿命を有する転がり摺動部材が求められている。
そこで、高荷重条件下に用いられる転がり軸受では、当該転がり軸受を構成する転がり摺動部材を構成する鋼材の表面層において、析出強化法によって析出物を析出させることにより、長寿命化を図ることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2001−98343号公報
しかし、前記特許文献1に記載の転がり摺動部材では、析出物面積率が30%を超える場合、析出物がはく離の起点となるため、かえって転動疲労寿命が短くなることがある。また、前記析出強化法は、析出物を析出させるための熱処理に際し、多くの工程数を要することから、製造コストの増大を招くという欠点がある。
本発明は、このような実状に鑑みてなされたもので、安価に製造することができ、高荷重条件下においても、長い転動疲労寿命を確保することができる転がり摺動部材及び転がり軸受を提供することを目的とする。
本発明は、1つの側面では、相手部材との間で相対的に接触する転がり摺動面を有する転がり摺動部材であって、炭素0.1〜0.5質量%と、ケイ素0.35質量%以下と、マンガン0.3〜1.0質量%と、クロム0.9〜2.5質量%と、モリブデン0.5〜0.9質量%とを含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である鋼材の表面層が表面硬化層である母材からなり、前記転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置におけるビッカース硬さHvが700〜800(ロックウェルC硬さHRCが60〜64)であり、前記転がり摺動面から前記最大直交せん断応力発生深さの位置における残留オーステナイト量が25〜50体積%であり、前記転がり摺動面から前記最大直交せん断応力発生深さの位置における析出物粒子の平均粒径が1〜5μmであり、前記転がり摺動面から前記最大直交せん断応力発生深さの位置における前記析出物粒子の最近接粒子間距離が15〜25μmであることを特徴とする転がり摺動部材に関する。
本実施形態に係る転がり摺動部材においては、前記転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置におけるビッカース硬さHvが700〜800(ロックウェルC硬さHRCが60〜64)、前記転がり摺動面から前記最大直交せん断応力発生深さの位置における残留オーステナイト量が25〜50体積%、前記位置における析出物粒子の平均粒径が1〜5μm、及び前記位置における前記析出物粒子の最近接粒子間距離が15〜25μmである。そのため、本実施形態に係る転がり摺動部材は、転がり軸受の構成部材として用いられた場合に最も大きい直交せん断応力が発生する深さの位置において、転動体の転動に伴なう残留オーステナイトの応力誘起マルテンサイト変態を起こしやすい組織構造を有している。したがって、本実施形態に係る転がり摺動部材は、高荷重条件下においても、長い転動疲労寿命を確保することができる。また、本実施形態に係る転がり摺動部材は、前記鋼材が用いられているため、製造に際して、少ない工程数の熱処理で前記組織構造を得ることができる。したがって、本実施形態に係る転がり摺動部材は、安価に製造することができる。
本発明の転がり軸受は、内周に転がり摺動面を有する外輪と、外周に転がり摺動面を有する内輪と、前記外内輪の両転がり摺動面の間に配置された複数個の転動体とを有する転がり軸受であって、前記外輪、内輪及び転動体のうちの少なくとも1つが、前述した転がり摺動部材であることを特徴としている。したがって、本発明の転がり軸受は、前述した転がり摺動部材を備えているので、前述の優れた作用効果を奏する。
本発明の転がり摺動部材及び転がり軸受によれば、安価に製造でき、高荷重条件下においても、長い転動疲労寿命を確保できる。
本発明の一実施形態に係る転がり軸受の一例である玉軸受を示す要部断面図である。 本発明の一実施形態に係る転がり摺動部材である外輪の製造方法の各工程を示す工程図である。 表面硬化処理の熱処理条件の一例を示す線図である。 熱処理条件aを示す線図である。 熱処理条件bを示す線図である。 熱処理条件cを示す線図である。 熱処理条件dを示す線図である。 熱処理条件eを示す線図である。 熱処理条件fを示す線図である。 熱処理条件gを示す線図である。 熱処理条件hを示す線図である。 熱処理条件iを示す線図である。 熱処理条件jを示す線図である。 熱処理条件kを示す線図である。 熱処理条件lを示す線図である。 試験例1において、ビッカース硬さHvとL10寿命との関係を調べた結果を示すグラフである。 試験例1において、残留オーステナイト量とL10寿命との関係を調べた結果を示すグラフである。 試験例1において、析出物粒子の粒子間距離とL10寿命との関係を調べた結果を示すグラフである。 試験例1において、析出物粒子の平均粒径とL10寿命との関係を調べた結果を示すグラフである。 試験例2において、最大直交せん断応力発生深さ(深さz0)位置の残留オーステナイト量の経時的変化を調べた結果を示すグラフである。 試験例2において、最大直交せん断応力発生深さ(深さz0)位置のビッカース硬さHvの経時的変化を調べた結果を示すグラフである。
[転がり軸受]
以下、添付の図面により本発明の一実施形態に係る転がり軸受及び転がり摺動部材を説明する。以下においては、転がり軸受の一例として玉軸受を挙げて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る転がり軸受の一例である玉軸受を示す要部断面図である。
図1に示される玉軸受1は、外輪10と、外輪10の内周側に当該外輪10と同心に配置された内輪20と、外内輪10,20間に配列された複数個の転動体(玉30)と、複数個の玉30を保持する保持器40とを備えている。
図1に示される玉軸受1においては、外内輪10,20及び玉30のそれぞれが、後述の本発明の一実施形態に係る転がり摺動部材である。なお、本発明においては、外内輪10,20及び玉30のうちの少なくとも1つが、後述の本発明の一実施形態に係る転がり摺動部材であればよい。また、本発明においては、転がり軸受は、特に限定されるものではなく、例えば、円筒ころ軸受、円すいころ軸受等の他の転がり軸受であってもよい。
[転がり摺動部材]
本実施形態に係る転がり摺動部材としての外輪10は、鋼材10a1の表面層が表面硬化層10a2である母材10aからなる。外輪10の内周面には、複数個の玉30が転動する軌道部11aが形成されている。軌道部11aの表面は、相手部材である玉30との間で相対的に転がり接触若しくは滑り接触又は両接触を含む接触をする転がり摺動面である。なお、外輪10の軌道部11a、端面11b、肩面11c及び外周面11dは、研磨仕上げが施された研磨部である。
本実施形態に係る転がり摺動部材としての内輪20は、鋼材20a1の表面層が表面硬化層20a2である母材20aからなる。内輪20の外周面には、軌道部11aに対向するとともに、複数個の玉30が転動する軌道部21aが形成されている。軌道部21aの表面は、相手部材である玉30との間で相対的に転がり接触若しくは滑り接触又は両接触を含む接触をする転がり摺動面である。内輪20の軌道部21a、端面21b、肩面21c及び内周面21dは、研磨仕上げが施された研磨部である。
本実施形態に係る転がり摺動部材としての玉30は、鋼材30a1の表面層が表面硬化層30a2である母材30aからなる。玉30の表面は、相手部材である外内輪10,20それぞれとの間で相対的に転がり接触若しくは滑り接触又は両接触を含む接触をする転がり摺動面である。
本明細書において、「表面硬化層」は、ビッカース硬さHvが700〜800(ロックウェルC硬さHRCが60〜64)である層をいう。表面硬化層10a2,20a2,30a2は、例えば、前記鋼材に対し、後述の浸炭処理又は浸炭窒化処理と、焼戻しとを行なうこと等によって形成させることができる。なお、本明細書において、ビッカース硬さHvは、JIS Z 2244に記載の方法にしたがって測定された値である。
前記鋼材は、炭素0.1〜0.5質量%と、ケイ素0.35質量%以下と、マンガン0.3〜1.0質量%と、クロム0.9〜2.5質量%と、モリブデン0.5〜0.9質量%とを含有し、残部が鉄及び不可避不純物である鋼材からなる。前記不可避不純物は、鋼材を製造する際に、原料等から混入する物質であって、本発明の目的を阻害しない範囲で許容される物質を意味する。前記不可避不純物としては、例えば、リン、硫黄、アルミニウム、窒素、酸素、ボロン、ニオブ、チタン等が挙げられる。外内輪10,20及び玉30は、前記鋼材が用いられているため、少ない工程数の熱処理で製造することができる。したがって、外内輪10,20及び玉30は、安価に製造することができる。
炭素は、転がり摺動部材の製造時における鋼材の焼入れ性を確保し、強度確保のための内部硬さを得るための元素である。しかしながら、鋼材における炭素の含有量が過剰量である場合、母材が硬くなりすぎ、熱間加工性の低下、切削時の工具寿命の低下などを引き起こす。前記鋼材における炭素の含有量は、十分な内部硬さを得る観点から、0.1質量%以上、好ましくは0.15質量%以上であり、熱処理前の加工性を十分に得る観点から、0.5質量%以下、好ましくは0.45質量%以下である。
ケイ素は、鋼の製錬時の脱酸のために必要な元素である。また、ケイ素は、炭化物に固溶しにくい性質を有するため、析出物の成長を抑制し、粗大化を防ぐための元素である。しかしながら、鋼材におけるケイ素の含有量が過剰量である場合、フェライトの強化によって硬さが上昇するため、鋼材の加工性が悪化する。前記鋼材におけるケイ素の含有量は、粗大な析出物の生成を抑制する観点から、0.05質量%以上、好ましくは0.07%以上であり、熱処理前において、十分な加工性を確保する観点から、0.35質量%以下、好ましくは0.33質量%以下である。
マンガンは、転がり摺動部材の製造時における鋼材の焼入れ性を確保し、強度確保のための内部硬さを得るための元素である。さらに、マンガンは、オーステナイトを安定化させる元素であるため、鋼材におけるマンガンの含有量を増やすことにより、オーステナイトを容易に増加させることができる。しかしながら、マンガンは、熱処理加熱時に炭化物の固溶温度の低下をもたらすことから、鋼材におけるマンガンの含有量が過剰量である場合、析出物の径が小さくなるため、十分な寿命が得られない。前記鋼材におけるマンガンの含有量は、十分な焼入れ性と残留オーステナイト量を得る観点から0.3質量%以上、好ましくは0.35質量%以上であり、適切な大きさの析出物を残存させる観点から1.0質量%以下、好ましくは0.95質量%以下である。
クロムは、転がり摺動部材の製造時における鋼材の焼入れ性を高め、モリブデンとの複合添加によって析出物を形成し、硬さを上昇させるための元素である。しかしながら、鋼材におけるクロムの含有量が過剰量である場合、熱処理前の未固溶炭化物の量が増加し、当該未固溶炭化物が析出核として働く。そのため、熱処理後の析出物の粒子間距離が小さくなり、十分な寿命が得られない。前記鋼材におけるクロムの含有量は、十分な硬さを得る観点から、0.9質量%以上、好ましくは0.95質量%以上であり、熱処理後の析出物の粒子間距離を確保する観点から、2.5質量%以下、好ましくは2.45質量%以下である。
モリブデンは、クロムと同様に鋼材の焼入れ性を高め、クロムとの複合添加によって析出物を形成し、硬さを上昇させるための元素である。しかしながら、モリブデンは、炭素との親和力が非常に強いため、鋼材におけるモリブデンの含有量が過剰量である場合、析出物の粗大化をまねく。前記鋼材におけるモリブデンの含有量は、十分な硬さを得る観点から0.5質量%以上、好ましくは0.55質量%以上であり、粗大な析出物を形成させない観点から0.9質量%以下、好ましくは0.85質量%以下である。
外内輪10,20の軌道部11a,21a及び玉30それぞれの転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置において、ビッカース硬さHvは、転がり軸受として十分な転動疲労寿命及び静的負荷容量を確保する観点から、700(ロックウェルC硬さHRC60)以上、好ましくは710(ロックウェルC硬さHRC60.6)以上であり、脆化を抑制し、十分な靱性を確保する観点から、800(ロックウェルC硬さHRC64)以下、好ましくは790(ロックウェルC硬さHRC63.6)以下である。
なお、本明細書において、「最大直交せん断応力発生深さ」は、転がり摺動部材の内部に生じる直交せん断応力が最大となる深さをいう。前記最大直交せん断応力発生深さは、通常、転がり摺動部材の種類、転がり摺動部材の形状、転がり摺動部材の使用条件等によって異なるが、転がり軸受を構成する転動体の大きさから決定することができる。
最大直交せん断応力発生深さは、通常、転動体の転がり摺動面から[転動体の直径Dの0.2〜2.5%]の深さである。ここで、「転動体の直径D」は、転動体が玉軸受の玉である場合、玉の直径を示し、転動体がころ軸受のころである場合、ころの大端径を示す。
外内輪10,20の軌道部11a,21a及び玉30それぞれの転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置における残留オーステナイト量は、転動体の転動中の応力誘起マルテンサイト変態によって組織を強靭化し、転動疲労寿命を向上させる観点から、25体積%以上、好ましくは26体積%以上であり、転がり軸受に要求される最低限の硬さを得る観点から、50体積%以下、好ましくは49体積%以下である。
表面硬化層10a2,20a2,30a2には、析出物粒子が存在している。なお、本明細書において、「析出物粒子」は、クロム炭化物からなる粒子、クロム炭窒化物からなる粒子、モリブデン炭化物からなる粒子、モリブデン炭窒化物からなる粒子、クロム−モリブデン複合炭化物からなる粒子及びクロム−モリブデン複合炭窒化物からなる粒子の総称を意味する。
外内輪10,20の軌道部11a,21a及び玉30それぞれの転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置において、前記析出物粒子の平均粒径は、前記位置において、析出強化により転がり軸受に要求される硬さを確保しつつ、応力誘起マルテンサイト変態による組織の強靭化を行なうために必要な残留オーステナイト量を確保する観点から、1μm以上、好ましくは1.5μm以上であり、前記位置での粗大な析出物粒子が起点となる内部起点はく離を防止する観点から、5μm以下、好ましくは4μm以下である。なお、前記析出物粒子の平均粒径は、顕微鏡観察下に、転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置において、透過型電子顕微鏡によって取得した1μm×1μm範囲の視野に存在する析出物粒子のすべての粒径を測定し、得られた測定値から平均値を算出することによって求められた値である。
外内輪10,20の軌道部11a,21a及び玉30それぞれの転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置において、前記析出物粒子の最近接粒子間距離は、前記位置での残留オーステナイトの応力誘起マルテンサイト変態を起こしやすくする観点から、15μm以上、好ましくは17μm以上であり、析出強化によって転がり摺動部材として十分な硬さを確保する観点から、25μm以下、より好ましくは23μm以下である。なお、前記析出物粒子の最近接粒子間距離は、前記析出物粒子の粒子間距離の最小値である。前記析出物粒子の粒子間距離(L)は、前記析出物粒子の平均粒径と、析出物粒子の粒子体積率とを用い、式(I):
(式中、Lは析出物粒子の粒子間距離、rは析出物粒子の平均粒径、fは析出物粒子の粒子体積率を示す)
にしたがって求めることができる。析出物粒子の粒子体積率は、画像解析により、1μm×1μmの範囲の視野に存在する析出物粒子の面積率を算出することによって求めることができる。なお、前記面積率は、析出物粒子の形状を高さ1μmの円柱と仮定することにより、体積率と同じものとして扱う。
転がり軸受においては、転動体が転動する際に、転がり摺動部材の転がり摺動面ではなく、転がり摺動面よりも内部において、最も大きい直交せん断応力が発生してはく離が生じる。これに対し、外内輪10,20及び玉30においては、転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置におけるビッカース硬さHvが700〜800(ロックウェルC硬さHRCが60〜64)、前記転がり摺動面から前記最大直交せん断応力発生深さの位置における残留オーステナイト量が25〜50体積%、前記位置における析出物粒子の平均粒径が1〜5μm、及び前記位置における前記析出物粒子の最近接粒子間距離が15〜25μmである。そのため、外内輪10,20及び玉30それぞれの転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置の組織は、玉30の転動に伴い、残留オーステナイトが応力誘起マルテンサイト変態を起こしやすい組織構造を有している。したがって、外内輪10,20及び玉30によれば、玉軸受1において、玉30が転動を開始した初期に、最大直交せん断応力が発生する深さの位置の硬さが向上し、組織が強靭化されるため、長い転動疲労寿命を確保することができる。
外内輪10,20及び玉30は、例えば、前記鋼材から形成された素形材を形成する前加工工程と、得られた素形材に対し、浸炭焼入れ処理又は浸炭窒化焼入れ処理を施し、中間素材を得る表面硬化処理工程と、得られた中間素材に仕上げ加工を施す仕上げ加工工程とを含む方法等によって得られる。以下、本実施形態に係る転がり摺動部材の製造方法の例として、外輪10の製造方法を説明する。図2は本発明の一実施形態に係る転がり摺動部材である外輪の製造方法の各工程を示す工程図、図3は表面硬化処理工程における熱処理条件の一例を示す線図である。
まず、前記鋼材から形成された軌道部11a、端面11b、肩面11c及び外周面11dに対応する部分を有する外輪10の素形材14を得る〔「前加工工程」、図2(a)参照〕。
つぎに、得られた素形材14に対し、表面硬化処理を施す〔「表面硬化処理工程」、図2(b)〕。表面硬化処理工程としては、例えば、浸炭焼入れ処理工程と焼戻し工程とを含む工程(図3(A)参照)、浸炭窒化焼入れ処理工程と焼戻し工程とを含む工程(図3(B)参照)等が挙げられる。
図3(a)に例示される表面硬化処理工程では、まず、素形材14を、浸炭炉内で、カーボンポテンシャル1.1〜1.3の浸炭雰囲気下に、900〜950℃の浸炭温度で3時間以上加熱保持して浸炭処理を行なった後、840〜870℃の焼入れ温度で1時間以内の焼入れ時間加熱保持し、つぎに、80℃に油冷する(浸炭焼入れ処理工程)。その後、得られた素形材14を160〜200℃の焼戻し温度で0.5〜4時間保持して焼戻しを行なう(焼戻し工程)。
浸炭雰囲気のカーボンポテンシャルは、鋼材の表面層において、十分な炭素濃度を確保してマルテンサイト組織を生成させ、かつ十分な大きさの析出物を分散させることにより、十分な大きさの転がり摺動部材に適した硬さを確保するとともに、十分な量の残留オーステナイトを生成させて転動疲労寿命を向上させる観点から、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.15以上であり、はく離の起点となる粗大な析出物の形成を抑制し、転動疲労寿命を向上させる観点から、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.25以下である。
浸炭温度は、所定の熱処理性状を得るために必要な処理時間を短縮するのに適した拡散速度で鋼材中に炭素を拡散させ、生産コストを低減させる観点から、好ましくは900℃以上、より好ましくは910℃以上であり、結晶粒の粗大化及び過剰浸炭組織の発生を抑制する観点から、好ましくは950℃以下、より好ましくは940℃以下である。
浸炭時間は、鋼材の表面層において、十分な炭素濃度を確保して転がり摺動部材に適した硬さを確保する観点から、通常、好ましくは3時間以上である。なお、浸炭時間が長いほど、炭素は、鋼材中に広く分散し、より深い位置まで、転がり摺動部材に適した硬さを確保することができる。したがって、浸炭時間は、必要に応じて長くしてもよい。
焼入れ温度は、鋼材中に十分な量の炭素を固溶させることにより、十分な量の残留オーステナイト量を確保して転動疲労寿命を向上させる観点から、好ましくは840℃以上、より好ましくは845℃以上であり、鋼材のマトリクス中への炭素の固溶量を、十分な量の析出物を分散させるのに適した量に調整し、かつ残留オーステナイトの過剰な生成を抑制し、転動疲労寿命を向上させる観点から、好ましくは870℃以下、より好ましくは865℃以下である。
焼入れ温度での保持時間は、素形材全体の温度が所定の焼入れ温度になるために必要な時間以上であればよい。粗大な析出物の形成を抑制し、転がり摺動部材に適した靱性を確保する観点から、好ましくは1時間以下である。
焼戻し温度は、転がり摺動部材に適した靱性を確保する観点から、好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上であり、転がり摺動部材に適した硬さを確保する観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下である。
焼戻し時間は、転がり摺動部材に適した靱性を確保する観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、転がり摺動部材に適した硬さを確保するとともに、熱処理コストを低減させる観点から、好ましくは4時間以下、より好ましくは3時間以下である。なお、本明細書において、「焼戻し時間」とは、素形材が所定の温度に達した時点から空冷を開始するまでの時間をいう。
一方、図3(b)に例示される表面硬化処理工程では、素形材14を、浸炭窒化炉内で、カーボンポテンシャル1.1〜1.3及びアンモニア濃度1〜3体積%の浸炭雰囲気下に、860〜890℃の浸炭窒化温度で3時間以上加熱保持して浸炭窒化処理を行なった後、840〜870℃の焼入れ温度で1時間以内の焼入れ時間加熱保持して焼入れを行なう。つぎに、焼入れ後の素形材14を80℃に油冷する。その後、得られた素形材14を160〜200℃の焼戻し温度で0.5〜4時間保持して焼戻しを行なう。
浸炭窒化雰囲気のカーボンポテンシャルは、浸炭雰囲気のカーボンポテンシャルと同様である。
浸炭窒化雰囲気のアンモニア濃度は、十分な大きさの析出物を分散させることにより、転がり摺動部材に適した硬さを確保する観点から、好ましくは1体積%以上、より好ましくは1.5体積%以上であり、はく離の起点となる粗大な析出物の形成を抑制し、転動疲労寿命を向上させる観点から、好ましくは3体積%以下、より好ましくは2.5体積%以下である。
浸炭窒化温度は、所定の熱処理性状を得るために必要な処理時間を短縮するのに適した拡散速度で鋼材中に炭素及び窒素を拡散させ、生産コストを低減させる観点から、好ましくは860℃以上、より好ましくは865℃以上であり、結晶粒の粗大化及び過剰浸炭組織の発生を抑制する観点から、好ましくは890℃以下、より好ましくは885℃以下である。
浸炭窒化時間は、鋼材の表面層において、十分な炭素濃度及び窒素濃度を確保して転がり摺動部材に適した硬さを確保する観点から、通常、好ましくは3時間以上である。なお、浸炭窒化時間が長いほど、炭素及び窒素は、鋼材中に広く分散し、より深い位置まで、転がり摺動部材に適した硬さを確保することができる。したがって、浸炭窒化時間は、必要に応じて長くしてもよい。
焼入れ温度は、鋼材中に十分な量の炭素及び窒素を固溶させることにより、十分な量の残留オーステナイト量を確保して転動疲労寿命を向上させる観点から、好ましくは840℃以上、より好ましくは845℃以上であり、鋼材のマトリクス中への炭素の固溶量を、十分な量の析出物を分散させるのに適した量に調整し、かつ残留オーステナイトの過剰な生成を抑制し、転動疲労寿命を向上させる観点から、好ましくは870℃以下、より好ましくは865℃以下である。
焼入れ温度での保持時間は、素形材全体の温度が所定の焼入れ温度になるために必要な時間以上であればよい。粗大な析出物の形成を抑制し、転がり摺動部材に適した靱性を確保する観点から、好ましくは1時間以下である。
焼戻し温度は、転がり摺動部材に適した靱性を確保する観点から、好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上であり、転がり摺動部材に適した硬さを確保する観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下である。
焼戻し時間は、転がり摺動部材に適した靱性を確保する観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、転がり摺動部材に適した硬さを確保するとともに、熱処理コストを低減させる観点から、好ましくは4時間以下、より好ましくは3時間以下である。
つぎに、焼戻し工程後の中間素材に、軌道部11a、端面11b及び外周面11dそれぞれを形成する部分に対して、研磨仕上げ加工、必要に応じ、超仕上げ加工を施すことにより、転がり摺動部材(外輪10)を得る〔「仕上げ加工」、図2(c)参照〕。
つぎに、実施例等により、本発明の一実施形態に係る転がり摺動部材及びその製造方法の作用効果を検証する。
実施例1〜7及び比較例1〜10
表1に示される代表的成分(残部鉄及び不可避不純物)を有する鋼材を所定形状に加工して、深溝玉軸受(軸受呼び番号6206)用外内輪及び玉それぞれの素形材を製造した。
つぎに、得られた素形材に、熱処理を施した後、研磨仕上げを施し、実施例1〜7及び比較例1〜10の深溝玉軸受を得た。実施例1〜7及び比較例1〜10それぞれにおける熱処理条件を表2及び図4〜15に示す。
図4に示される熱処理条件aは、(a1)カーボンポテンシャル1.3の浸炭雰囲気下に素形材を950℃で5時間加熱(浸炭)した後、得られた素形材を840℃で30分間加熱し、つぎに、80℃まで油冷(焼入れ)する浸炭焼入れと、(a2)浸炭焼入れ後の素形材を200℃で2時間加熱し、その後、空冷する焼戻しとを行なう条件である。
図5に示される熱処理条件bは、(b1)カーボンポテンシャル1.3の浸炭雰囲気下に素形材を950℃で5時間加熱(浸炭)した後、得られた素形材を840℃で30分間加熱し、つぎに、80℃まで油冷(焼入れ)する浸炭焼入れと、(b2)浸炭焼入れ後の素形材を160℃で2時間加熱し、その後、空冷する焼戻しとを行なう条件である。
図6に示される熱処理条件cは、(c1)カーボンポテンシャル1.3の浸炭雰囲気下に素形材を900℃で5時間加熱(浸炭)した後、得られた素形材を840℃で30分間加熱し、つぎに、80℃まで油冷(焼入れ)する浸炭焼入れと、(c2)浸炭焼入れ後の素形材を160℃で2時間加熱し、その後、空冷する焼戻しとを行なう条件である。
図7に示される熱処理条件dは、(d1)カーボンポテンシャル1.1の浸炭雰囲気下に素形材を950℃で5時間加熱(浸炭)した後、得られた素形材を860℃で30分間加熱し、つぎに、80℃まで油冷(焼入れ)する浸炭焼入れと、(d2)浸炭焼入れ後の素形材を160℃で2時間加熱し、その後、空冷する焼戻しとを行なう条件である。
図8に示される熱処理条件eは、(e1)カーボンポテンシャル1.3の浸炭雰囲気下に素形材を930℃で5時間加熱(浸炭)した後、得られた素形材を840℃で30分間加熱し、つぎに、80℃まで油冷(焼入れ)する浸炭焼入れと、(e2)浸炭焼入れ後の素形材を160℃で2時間加熱し、その後、空冷する焼戻しとを行なう条件である。
図9に示される熱処理条件fは、(f1)カーボンポテンシャル1.2の浸炭雰囲気下に素形材を950℃で5時間加熱(浸炭)した後、得られた素形材を870℃で30分間加熱し、つぎに、80℃まで油冷(焼入れ)する浸炭焼入れと、(f2)浸炭焼入れ後の素形材を160℃で2時間加熱し、その後、空冷する焼戻しとを行なう条件である。
図10に示される熱処理条件gは、(g1)カーボンポテンシャル1.3の浸炭雰囲気下に素形材を950℃で5時間加熱(浸炭)した後、得られた素形材を870℃で30分間加熱し、つぎに、80℃まで油冷(焼入れ)する浸炭焼入れと、(g2)浸炭焼入れ後の素形材を160℃で2時間加熱し、その後、空冷する焼戻しとを行なう条件である。
図11に示される熱処理条件hは、(h1)カーボンポテンシャル1.3の浸炭雰囲気下に素形材を950℃で5時間加熱(浸炭)した後、得られた素形材を860℃で30分間加熱し、つぎに、80℃まで油冷(焼入れ)する浸炭焼入れと、(h2)浸炭焼入れ後の素形材を840℃で2時間加熱し、80℃まで油冷する2次焼入れと、(h3)2次焼入れ後の素形材を160℃で2時間加熱し、その後、空冷する焼戻しとを行なう条件である。
図12に示される熱処理条件iは、(i1)カーボンポテンシャル1.3の浸炭雰囲気下に素形材を950℃で5時間加熱(浸炭)した後、得られた素形材を880℃で30分間加熱し、つぎに、80℃まで油冷(焼入れ)する浸炭焼入れと、(i2)浸炭焼入れ後の素形材を160℃で2時間加熱し、その後、空冷する焼戻しとを行なう条件である。
図13に示される熱処理条件jは、(j1)カーボンポテンシャル1.1の浸炭雰囲気下に素形材を950℃で5時間加熱(浸炭)した後、得られた素形材を830℃で30分間加熱し、つぎに、80℃まで油冷(焼入れ)する浸炭焼入れと、(j2)浸炭焼入れ後の素形材を160℃で2時間加熱し、その後、空冷する焼戻しとを行なう条件である。
図14に示される熱処理条件kは、(k1)カーボンポテンシャル1.3の浸炭雰囲気下に素形材を950℃で5時間加熱(浸炭)した後、得られた素形材を840℃で30分間加熱し、つぎに、80℃まで油冷(焼入れ)する浸炭焼入れと、(k2)浸炭焼入れ後の素形材を220℃で2時間加熱し、その後、空冷する焼戻しとを行なう条件である。
図15に示される熱処理条件lは、(l1)カーボンポテンシャル1.3の浸炭雰囲気下に素形材を950℃で5時間加熱(浸炭)した後、得られた素形材を840℃で30分間加熱し、つぎに、80℃まで油冷(焼入れ)する浸炭焼入れと、(l2)浸炭焼入れ後の素形材を150℃で2時間加熱し、その後、空冷する焼戻しとを行なう条件である。
試験例1
実施例1〜7及び比較例1〜10で得られた深溝玉軸受に用いられた外内輪について、転がり摺動面から0.1mmの深さ(最大直交せん断応力発生深さ)の位置でのビッカース硬さHv、転がり摺動面から0.1mmの深さの位置における残留オーステナイト量、転がり摺動面から0.1mmの深さの位置における析出物粒子の平均粒径、転がり摺動面から0.1mmの深さの位置における析出物粒子の最近接粒子間距離及び転動疲労寿命(L10寿命)を調べた。
ビッカース硬さHvは、実施例1〜7及び比較例1〜10で得られた外内輪を転がり摺動面から深さ方向に切断した後、JIS Z 2244に記載の方法にしたがい、転がり摺動面から0.1mmの深さの位置に圧子をあて、ビッカース硬さ試験機を用いて測定した。
残留オーステナイト量は、実施例1〜7及び比較例1〜10で得られた外内輪の転がり摺動面から0.1mmの深さの位置において、X線回折法により、α相(マルテンサイト)とγ相(オーステナイト)との積分強度の比を算出することによって調べた。
析出物粒子の平均粒径は、顕微鏡観察下に、実施例1〜7及び比較例1〜10で得られた外内輪の転がり摺動面から0.1mmの位置において、透過型電子顕微鏡によって取得した1μm×1μm範囲の視野に存在する析出物粒子のすべての粒径を測定し、得られた測定値から平均値を算出することによって求めた。
析出物粒子の最近接粒子間距離は、前記析出物粒子の粒子間距離の最小値である。前記析出物粒子の粒子間距離は、前記析出物粒子の平均粒径と、析出物粒子の粒子体積率とを用い、式(I)にしたがって求めた。析出物粒子の粒子体積率は、画像解析により、1μm×1μmの範囲の視野に存在する析出物粒子の面積率を算出することによって求めた。なお、前記面積率は、析出物粒子の形状を高さ1μmの円柱と仮定することにより、体積率と同じものとして扱った。
転動疲労寿命は、実施例1〜7及び比較例1〜10で得られた深溝玉軸受を用いて表3に示される条件で転動疲労寿命試験を行ない、その結果から求められる10%破損確率を示すL10寿命を調べることによって評価した。10%破損確率は、転動疲労試験の結果をワイブル確率紙上にプロットすることによって求めた。
実施例1〜7及び比較例1〜10それぞれで得られた外内輪について、転がり摺動面から0.1mmの深さ(最大直交せん断応力発生深さ)の位置でのビッカース硬さHv、転がり摺動面から0.1mmの深さの位置における残留オーステナイト量、転がり摺動面から0.1mmの深さの位置における析出物粒子の平均粒径、転がり摺動面から0.1mmの深さの位置における析出物粒子の最近接粒子間距離及び転動疲労寿命(L10寿命)を調べた結果を表4に示す。また、試験例1において、ビッカース硬さとL10寿命との関係を調べた結果を図16、残留オーステナイト量とL10寿命との関係を調べた結果を図17、析出物粒子の粒子間距離とL10寿命との関係を調べた結果を図18、析出物粒子の平均粒径とL10寿命との関係を調べた結果を図19に示す。図中、黒丸は実施例で得られた深溝玉軸受を用いた場合の結果、白三角は比較例で得られた深溝玉軸受を用いた場合の結果を示す。なお、外内輪及び玉は、すべて同じ熱処理条件で処理されたものであり、熱処理後の研磨仕上げ時の取り代が同じである外輪と内輪とは、熱処理性状が互いに同じになる。そこで、表4の「深さz位置での外内輪の熱処理性状」の欄には、代表的な結果として内輪の結果を示す。
表4、図16〜図19に示された結果から、実施例1〜7で得られた外内輪においては、前記ビッカース硬さHvが701.6〜790.8、前記残留オーステナイト量が26〜49体積%、前記析出物粒子の平均粒径が15.7〜23.8μm、前記析出物粒子の最近接粒子間距離が1.3〜4μmであることがわかる。また、実施例1〜7で得られた外内輪の転動疲労寿命(L10寿命)は、1800時間を超えていることがわかる。
これに対し、比較例1で得られた外内輪においては、前記ビッカース硬さHv及び残留オーステナイト量は、実施例1〜7で得られた外内輪と同様の範囲であるが、前記析出物粒子の平均粒径及び当該析出物粒子の粒子間距離が、実施例1〜7で得られた外内輪における前記析出物粒子の平均粒径及び当該析出物粒子の粒子間距離の最小値よりも小さいことがわかる。
また、比較例2で得られた外内輪においては、前記ビッカース硬さHv、残留オーステナイト量及び析出物粒子の粒子間距離は、実施例1〜7で得られた外内輪と同様の範囲であるが、前記析出物粒子の平均粒径が、実施例1〜7で得られた外内輪における前記析出物粒子の平均粒径の最小値よりも小さいことがわかる。一方、比較例3で得られた外内輪においては、前記ビッカース硬さHv、残留オーステナイト量及び析出物粒子の粒子間距離は、実施例1〜7で得られた外内輪と同様の範囲であるが、前記析出物粒子の平均粒径が、実施例1〜7で得られた外内輪における前記析出物粒子の平均粒径の最大値よりも大きいことがわかる。
さらに、比較例4〜6で得られた外内輪においては、前記ビッカース硬さHv、残留オーステナイト量及び析出物粒子の平均粒径は、実施例1〜7で得られた外内輪と同様の範囲であるが、前記析出物粒子の粒子間距離が、実施例1〜7で得られた外内輪における前記析出物粒子の粒子間距離の最小値よりも小さいことがわかる。
また、比較例7で得られた外内輪においては、前記ビッカース硬さHv、析出物粒子の平均粒径及び当該析出物粒子の粒子間距離は、実施例1〜7で得られた外内輪と同様の範囲であるが、前記残留オーステナイト量が、実施例1〜7で得られた外内輪における前記残留オーステナイト量の最大値よりも大きいことがわかる。一方、比較例8で得られた外内輪においては、前記ビッカース硬さHv、析出物粒子の平均粒径及び当該析出物粒子の粒子間距離は、実施例1〜7で得られた外内輪と同様の範囲であるが、前記残留オーステナイト量が、実施例1〜7で得られた外内輪における前記残留オーステナイト量の最小値よりも小さいことがわかる。
さらに、比較例9で得られた外内輪においては、前記残留オーステナイト量、析出物粒子の平均粒径及び当該析出物粒子の粒子間距離は、実施例1〜7で得られた外内輪と同様の範囲であるが、前記ビッカース硬さHvが、実施例1〜7で得られた外内輪における前記ビッカース硬さHvの最小値よりも小さいことがわかる。一方、比較例10で得られた外内輪においては、前記残留オーステナイト量、析出物粒子の平均粒径及び当該析出物粒子の粒子間距離は、実施例1〜7で得られた外内輪と同様の範囲であるが、前記ビッカース硬さHvが、実施例1〜7で得られた外内輪における前記ビッカース硬さHvの最大値よりも大きいことがわかる。
また、比較例1〜10で得られた外内輪の転動疲労寿命(L10寿命)は、1000時間未満であることがわかる。
したがって、これらの結果から、転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置におけるビッカース硬さHvが700〜800(ロックウェルC硬さHRCが60〜64)、前記転がり摺動面から前記最大直交せん断応力発生深さの位置における残留オーステナイト量が25〜50体積%、前記位置における析出物粒子の平均粒径が1〜5μm、当該位置における前記析出物粒子の最近接粒子間距離が15〜25μmである転がり摺動部材を備える転がり軸受によれば、長い転動疲労寿命を確保することができることが示唆される。
試験例2
実施例6及び比較例1で得られた深溝玉軸受について、表3に示される条件で試験を行ない、試験例1と同様の操作を行ない、前記転がり摺動面から0.1mmの深さの位置における残留オーステナイト量及び前記転がり摺動面から0.1mmの深さの位置におけるビッカース硬さHvを所定の時間で試験を停止し、抜き取り測定を行なうことで経時的に調べた。
試験例2において、最大直交せん断応力発生深さ(深さz0)位置の残留オーステナイト量の経時的変化を調べた結果を図20、最大直交せん断応力発生深さ(深さz0)位置のビッカース硬さHvの経時的変化を調べた結果を図21に示す。図中、黒斜方形は実施例6で得られた深溝玉軸受を用いた場合の結果、白四角は比較例1で得られた深溝玉軸受を用いた場合の結果を示す。
図20に示された結果から、実施例6で得られた深溝玉軸受は、比較例1で得られた深溝玉軸受に比べ、最大直交せん断応力発生深さ(深さz0)位置の残留オーステナイト量がより短い時間で減少することがわかる。また、図21に示された結果から、実施例6で得られた深溝玉軸受は、比較例1で得られた深溝玉軸受に比べ、最大直交せん断応力発生深さ(深さz0)位置のビッカース硬さHvがより短い時間で増加することがわかる。これらの結果から、実施例6で得られた深溝玉軸受の転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置では、比較例1で得られた深溝玉軸受の転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置に比べ、転動体の転動に伴なう残留オーステナイトの応力誘起マルテンサイト変態が起こりやすいことが示唆される。
したがって、転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置におけるビッカース硬さHvが700〜800(ロックウェルC硬さが60〜64)、前記転がり摺動面から前記最大直交せん断応力発生深さの位置における残留オーステナイト量が25〜50体積%、前記位置における析出物粒子の平均粒径が1〜5μm、当該位置における前記析出物粒子の最近接粒子間距離が15〜25μmである転がり摺動部材を備える転がり軸受は、前記位置における残留オーステナイトが応力誘起マルテンサイト変態を起こしやすい組織構造により、転動疲労寿命が向上していることが示唆される。
1:玉軸受、10:外輪、10a:母材、10a1:鋼材、10a2:表面硬化層、20:内輪、20a:母材、20a1:鋼材、20a2:表面硬化層、30:玉、30a:母材、30a1:鋼材、30a2:表面硬化層

Claims (2)

  1. 相手部材との間で相対的に接触する転がり摺動面を有する転がり摺動部材であって、
    炭素0.1〜0.5質量%と、ケイ素0.35質量%以下と、マンガン0.3〜1.0質量%と、クロム0.9〜2.5質量%と、モリブデン0.5〜0.9質量%とを含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である鋼材の表面層が表面硬化層である母材からなり、
    前記転がり摺動面から最大直交せん断応力発生深さの位置におけるビッカース硬さHvが700〜800であり、
    前記転がり摺動面から前記最大直交せん断応力発生深さの位置における残留オーステナイト量が25〜50体積%であり、
    前記転がり摺動面から前記最大直交せん断応力発生深さの位置における析出物粒子の平均粒径が1〜5μmであり、
    前記転がり摺動面から前記最大直交せん断応力発生深さの位置における前記析出物粒子の最近接粒子間距離が15〜25μmである
    ことを特徴とする転がり摺動部材。
  2. 内周に転がり摺動面を有する外輪と、外周に転がり摺動面を有する内輪と、前記外内輪の両転がり摺動面の間に配置されている複数個の転動体とを有する転がり軸受であって、
    前記外輪、内輪及び転動体のうちの少なくとも1つが、請求項1に記載の転がり摺動部材からなることを特徴とする転がり軸受。
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