JP2017166036A - 高強度ばね用鋼、ばね及び高強度ばね用鋼の製造方法 - Google Patents

高強度ばね用鋼、ばね及び高強度ばね用鋼の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】強度及び延性を兼ね備え、かつ、ばね製造時のひずみ取り焼鈍後も強度低下が起きない高強度ばね用鋼、ばね及び高強度ばね用鋼の製造方法を提供する。【課題手段】鋼成分が質量%で、C:0.40〜0.80%、Si:0.8〜3.0%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:0.1〜2.0%、Mo:0.1〜1.0%を含み、P:0.030%以下、S:0.030%以下に制限し、残部がFeと不可避的不純物からなり、任意の断面におけるミクロ組織において、ベイナイトが70%以上、残部がマルテンサイト及び残留オーステナイトである高強度ばね用鋼を採用する。【選択図】なし

Description

本発明は、高強度ばね用鋼、ばね及び高強度ばね用鋼の製造方法に関するものであり、特に、熱間または冷間でコイリングされ、熱処理後に高強度かつ高靭性を有する懸架ばねに供される高強度ばね用鋼に関する。
自動車の高性能化に伴い、懸架ばねの高強度化が求められている。最近では、熱処理後において引張強度1800MPaを越えるような高強度のばね用鋼が懸架ばねに供されており、近年では引張強度2000MPaを超えるばね鋼も使用されている。このような高強度のばね用鋼は、一般に焼戻しマルテンサイト組織を有しているが、焼戻しマルテンサイト組織では強度に対して延性や靭性がトレードオフの関係にあるため、強度・延性・靭性のバランスを維持したまま高強度化を進めることが徐々に難しくなっている。
これに対して、特許文献1には、熱処理後のばね鋼組織をベイナイトとすることで、焼戻しマルテンサイト組織とは異なる強度・延性・靭性バランスが追求したばね鋼が提案されている。一般に、Siを多く含むばね用鋼においてベイナイト組織を得ようとすると、熱処理後に比較的大量の残留オーステナイトが生じるが、特許文献1では、この残留オーステナイトによるTRIP効果を活用することで、従来の焼戻しマルテンサイト組織のばね用鋼では為し得なかった高強度かつ高延性なばね用鋼を実現している。
また、特許文献2には、FCC構造の残留オーステナイトがBCC構造の焼戻しマルテンサイトやベイナイトと比較して水素吸蔵能力が高いことに着目し、残留オーステナイトにより耐水素脆化特性を向上させたばね鋼が提案されている。
一方で、ベイナイト組織を有するばね用鋼にもいくつかの課題がある。その一つが加熱による硬さの低下が大きいことである。ベイナイトばね鋼の強度を高めるには、ベイナイト変態温度を低下させる必要がある。たとえば特許文献1では、250〜350℃でベイナイト変態させることで、ばね鋼ワイヤ状態で引張強さ1800〜2100MPaを達成している。しかし実際にばねとして使用する際には、このワイヤをばね加工し、更に加工による残留応力を除去するために通常は約350℃のひずみ取り焼鈍を行う必要がある。この場合、ベイナイトの変態温度よりも高温でひずみ取り焼鈍を行うため、ベイナイト組織が焼戻されてしまい、ばねとして使用する際にはばね加工前のワイヤの強度よりも低下してしまう。
なお、従来の焼戻しマルテンサイト組織のばね鋼では、焼戻し時点で350℃以上の熱処理を受けているために、ひずみ取り焼鈍後も強度がほとんど劣化しない。従って、ひずみ取り焼鈍後の強度低下は、ベイナイト組織を有するばね用鋼に特有な課題である。
特開2010−222671号公報 特開平5−255733号公報
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、強度及び延性を兼ね備え、かつ、ばね製造時のひずみ取り焼鈍後も強度低下が起きない高強度ばね用鋼、ばね及び高強度ばね用鋼の製造方法を提供することを課題とする。
ひずみ取り焼鈍後の強度低下を起こさせないためには、ベイナイトの変態温度をひずみ取り焼鈍温度と同等以上にする必要がある。さらに、ベイナイト変態によって焼戻しマルテンサイト組織と同等以上の強度・延性バランスを発揮させる必要がある。
焼入れ後に温度T1で焼戻ししたマルテンサイト組織と比較して、温度T1でベイナイト変態させた組織では炭化物が粗大に析出するために、鋼の強度が低下する懸念がある。
そこで、ベイナイト変態温度を高くしても高強度を得る方法について研究した結果、本発明では、ベイナイト変態に特徴的な変態界面での炭素濃化と、微細な炭化物を析出させる合金元素を、組み合わせて活用することで、従来よりも少ない合金元素の添加で炭化物を析出させることが可能となり、ベイナイト組織でもひずみ取り焼鈍温度でも強度低下を抑制できることを見出した。
(1) 鋼成分が質量%で、C:0.40〜0.80%、Si:0.80〜3.00%、Mn:0.10〜1.50%、Cr:0.10〜2.00%、Mo:0.10〜1.00%を含み、P:0.030%以下、S:0.030%以下に制限し、残部がFeと不純物からなり、
任意の断面におけるミクロ組織において、ベイナイトが70体積%以上、残部がマルテンサイト及び残留オーステナイトであることを特徴とする高強度ばね用鋼。
(2) 前記鋼成分に、さらに質量%で、V:0.05〜1.00%を含む(1)記載の高強度ばね用鋼。
(3) 前記鋼成分に、さらに質量%で、Ni:0.10〜1.00%、Cu:0.10〜0.50%、W:0.10〜0.50%、Ti:0.020〜0.100%、Nb:0.020〜0.100%、Al:0.050%未満、B:0.0010〜0.0060%、N:0.0010〜0.0070%のうち1種または2種以上を含む(1)または(2)記載の高強度ばね用鋼。
(4) (1)〜(3)のいずれか一項に記載の高強度ばね用鋼からなるばね。
(5) 質量%で、C:0.40〜0.80%、Si:0.80〜3.00%、Mn:0.10〜1.50%、Cr:0.10〜2.00%、Mo:0.10〜1.00%を含み、P:0.030%以下、S:0.030%以下に制限し、残部がFeと不純物からなる熱間圧延後の鋼材を用い、
加熱によりフェライト相からオーステナイト相への変態が完了する温度をAc3点、Ac3点以上の温度から冷却してベイナイト変態が開始する上限温度をBs点として、
前記鋼材を、Ac3点を超え(Ac3点+300℃)以下の温度でオーステナイト化後、10℃/s以上の速度で冷却し、(Bs点−250℃)を超えBs点以下の温度で300〜3600s保持し、その後10℃/s以上の冷却速度で室温まで冷却することを特徴とする高強度ばね用鋼の製造方法。
(6) 前記鋼材に、さらに質量%で、V:0.05〜1.00%が含まれる(5)記載の高強度ばね用鋼の製造方法。
(7) 前記鋼材に、さらに質量%で、Ni:0.10〜1.00%、Cu:0.10〜0.50%、W:0.10〜0.50%、Ti:0.020〜0.100%、Nb:0.020〜0.100%、Al:0.050%未満、B:0.0010〜0.0060%、N:0.0010〜0.0070%のうち1種または2種以上を含む(5)または(6)記載の高強度ばね用鋼の製造方法。
本発明によれば、強度及び延性を兼ね備え、かつ、ばね製造時のひずみ取り焼鈍後も強度低下が起きないばね用鋼及びその製造方法を提供できる。
発明者は、ベイナイト変態と合金元素の添加を組み合わせて活用することにより、従来のベイナイト組織のばね鋼の高強度・高延性を維持しつつ、さらに焼戻し軟化抵抗にも優れるばね鋼を発明するに至った。その詳細を以下に示す。
本実施形態のばね用鋼の化学成分について説明する。化学成分の含有率の単位は質量%であるが、以下の説明では「%」と省略して表記する。
[C:0.40〜0.80%]
Cは、鋼材の基本強度に大きな影響を及ぼす元素であり、ばね鋼として十分な強度を得るためには0.40%以上のC添加が必要である。一方でCを過剰に添加するとベイナイト変態後に粗大な炭化物が生成して延性・靭性が著しく低下する。このため、C添加量の上限を0.80%とした。
[Si:0.80〜3.00%]
Siは、ばねの強度と耐へたり性を確保するために必要な元素であると同時に、セメンタイトの粗大化を抑制する効果もあるためにベイナイト強度を向上させる働きもある。これらの効果を得るためには、0.80%以上のSi添加が必要である。一方で、Siを過剰に添加すると鋼材の延性を著しく低下させ鋼材の脆化をもたらす。このため、Si添加量の上限を3.00%とした。
[Mn:0.10〜1.50%]
Mnは、鋼材の焼入れ性を向上させる元素であり、また鋼中に存在するSをMnSとして固定するために必要な元素である。これらの効果を得るためには、0.10%以上のMn添加が必要である。より好ましくは0.20%以上である。一方で、Mnを過剰に添加すると鋼材中の成分偏析を著しく悪化させ、残留オーステナイト量を過剰にする働きがあるため、鋼材の靭性や疲労特性を劣化させる。このため、Mn添加量の上限を1.50%とした。
[Cr:0.10〜2.00%]
Crは、鋼材の焼入れ性の向上や、セメンタイト析出を微細化して、ベイナイトの強度を向上させるために有効な元素である。これらの効果を得るためには、0.10%以上のCr添加が必要である。一方でCrを過剰に添加すると、焼入れ時に未溶解炭化物が増加して鋼材の焼入れ性が低下すると同時に、これらの炭化物が破壊起点として働いて疲労特性を低下させる。このため、鋼材強度も低下する。このため、Cr添加量の上限を2.00%とした。
[Mo:0.10〜1.00%]
Moは、Crと複合添加することでセメンタイトを微細に析出させるとともに、Cr及びMoを含む炭化物(CrMo炭化物)を微細に析出させることで、ベイナイトの強度向上に有効な元素である。これらの効果を得るためには、0.10%以上のMo添加が必要である。一方で過剰なMoを添加するとオーステナイト温度域で粗大な炭化物を形成してしまい、ベイナイト変態時の強度上昇に貢献しないだけでなく、これらの粗大な炭化物が疲労破壊の起点として働く。このため、Mo添加量の上限を1.00%とした。
[V:0.05〜1.00%]
Vは、セメンタイトや析出炭化物を微細化させることでベイナイト強度を向上させると同時に、オーステナイト域で析出するVNやV(N,C)粒子がピン止め粒子としてオーステナイト粒成長を抑制し、ばね鋼の高靭性化にも寄与する。これらの効果を得るためには、Vを0.05%以上添加することが望ましい。一方で、Vを過剰に添加すると、粗大な炭化物を形成してしまい、疲労特性を低下させる。このためVの添加量は1.00%以下が望ましい。
[Ni:0.10〜1.00%]
Niは鋼材の耐食性と靭性を向上させる元素であり、これらの効果を得るためには、0.10%以上のNi添加が望ましい。一方で、Niを過剰に添加すると残留オーステナイトの増加を招き、耐へたり性やばね疲労特性の低下をもたらす。このため、Niの添加量は1.00%以下が望ましい。
[Cu:0.10〜0.50%]
Cuは、Niと同様にiは鋼材の耐食性と靭性を向上させる元素であり、これらの効果を得るためには、0.10%以上のCu添加が望ましい。一方で、Cuを過剰に添加すると熱間圧延時の脆化をもたらし、製造性を著しく低下させる。このため、Cuの添加量は0.50%以下が望ましい。
[W:0.10〜0.50%]
Wは、析出炭化物を微細化させることでベイナイト強度を向上させる元素であり、この効果を得るためには0.10%以上のW添加が望ましい。一方で過剰なW添加は鋼材を脆化させるため、Wの添加量は0.50%以下が望ましい。
[Ti:0.020〜0.100%]
Tiは、オーステナイト中でピン止め粒子として働く微細なTiNやTi(C,N)を析出させる元素であり、熱処理中のオーステナイト粒粗大化を抑制する働きがある。この効果を得るためには、0.020%以上のTi添加が望ましい。一方でTi添加量が過剰であると、凝固直後から粗大なTiNが生成し、破壊起点として疲労寿命を低下させるため、Ti添加量は0.100%以下が望ましい。
[Nb:0.020〜0.100%]
Nbは、オーステナイト中でピン止め粒子として働く微細なNbNやNb(C,N)を析出させる元素であり、熱処理中のオーステナイト粒粗大化を抑制する働きがある。この効果を得るためには、0.020%以上のNb添加が望ましい。一方でNb添加量が過剰であると、凝固直後から粗大なNbNが生成し、破壊起点として疲労寿命を低下させるため、Nb添加量は0.100%以下が望ましい。
[B:0.0010〜0.0060%]
Bは、鋼の焼入れ性を向上させる効果を有する。さらにBは、破壊の起点となりやすい旧オーステナイト粒界に優先的に偏析することで粒界へのP及びSなどの偏析を抑制し、結果として粒界強度の上昇および靭性の向上に寄与する元素である。これらの効果を得るためには、0.0010%以上のB添加が望ましい。一方、過剰にBを含有させてもこれら効果は飽和し、さらに鋼の靱性が損なわれるおそれがあるため、B添加量は0.0060%以下が望ましい。
[N:0.0010〜0.0070%]
Nは、鋼中で各種窒化物を生成する元素であり、高温でも安定な窒化物粒子はオーステナイト粒成長のピン止め効果による旧オーステナイト粒の微細化効果を発揮する。これらの効果を得るためには、0.0010%以上のN添加が望ましい。一方で、N量が過剰であるとCrNやTiNなどの粗大な窒化物粒子が生成し、靭性低下や疲労特性低下をもたらすため、N添加量は0.0070%以下が望ましい。
[P:0.030%未満]
Pは、不純物元素として鋼中に存在し、鋼を脆化させる。特に、旧オーステナイト粒界に偏析したPは、衝撃値の低下、および水素の侵入による遅れ破壊などを引き起こす。そのため、P含有量は少ない方がよい。鋼の脆化を防ぐためには、P含有量を0.030%未満に制限する必要がある。
[S:0.030%未満]
Sは、Pと同様に不純物元素として鋼中に存在し、鋼を脆化させる。Sは、Mnを含有させることによりMnSとして固定することができるが、MnSも、粗大化すると破壊起点として働き、これにより鋼の破壊特性を劣化させる。これらの悪影響を抑制するためには、S含有量を0.030%未満に制限する必要がある。
[Al:0.050%未満]
Alは脱酸元素として使用される元素であり、通常の脱酸工程後のAl含有量は約0.050%未満である。過剰なAlは粗大介在物が発生する原因となり、破壊特性を劣化させる。これらの悪影響を抑制するためには、Al含有量を0.050%未満に制限することが望ましい。
残部は、Fe及び不純物である。不純物には、前述のPやS以外の元素であって、原料や製造工程中から不可避的に混入する微量元素が含まれる。
次に、本実施形態のばね用鋼の金属組織は、任意の断面におけるミクロ組織において、ベイナイトが70%以上、残部がマルテンサイト及び残留オーステナイトである。
ベイナイト組織を主体とすることで、せん断変態による高転位密度・高強度の組織が得られ、熱処理後の強度を高めることができる。また旧オーステナイト粒界から内部に向けて変態が進むために、粒界への脆化元素偏析・粒界炭化物の析出を抑制できるために、延性も向上させることができる。ベイナイトの体積分率は70%以上が好ましい。
ベイナイト以外の残部は、マルテンサイト及び残留オーステナイトである。それぞれの体積分率は、マルテンサイトが0〜25%の範囲であり、残留オーステナイトが5〜15%の範囲である。本実施形態のばね用鋼においては、残留オーステナイトが5%以上存在していることが延性を向上できる点で好ましい。ただし、残留オーステナイトの体積分率が高いと鋼が軟化するので、高強度を維持するには残留オーステナイト量を15%以下に制限する必要がある。
ベイナイトは、Ac3点以上に加熱された鋼がベイナイト変態開始温度(Bs点)以下まで冷却されることで生成する組織である。なお、Ac3点は、加熱によりフェライト相からオーステナイト相への変態が完了する温度であり、Bs点は、Ac3点以上の温度から冷却してベイナイト変態が開始する上限温度である。ベイナイトはラスと呼ばれる微細な板状の組織の集合であり、ベイナイト変態が進むにつれて、ベイナイトラス間にオーステナイト中の炭素が濃化される。この濃化した炭素が、鋼に固溶していたMoと結合してMo炭化物を生成させる。
本実施形態のばね用鋼の金属組織中には、CrMo炭化物が析出していることが望ましい。鋼にCr及びMoが含まれることでCrMo炭化物が大量に微細析出し、これにより、ベイナイト組織が析出強化されて、強度がより高められる。また、CrMo炭化物は、加熱を受けた際に、Cr炭化物に比べて比較的安定しているので、ばねの製造時にひずみ取り焼鈍が実施されても粗大化・消失することなく存在し続けることができ、これにより、ばねにした場合であっても強度低下が抑制される。Cr炭化物のみの場合は、ばねの製造時にひずみ取り焼鈍が実施されると、粒成長が起きるとともにCr酸化物の個数密度が低減してしまい、析出強化能が低下して強度を保つことが困難になる。
次に、本実施形態のばね用鋼の製造方法を説明する。
本実施形態のばね用鋼は、上記組成の熱間圧延後の鋼材を、Ac3点を超え(Ac3点+300℃)以下の温度でオーステナイト化後、10℃/s以上の速度で冷却し、(Bs点−250℃)を超えBs点以下の温度で300〜3600s保持し、その後10℃/s以上の冷却速度で室温まで冷却することにより得られる。
上記成分を有する鋼材をベイナイト変態させ、かつ合金元素を有効に活用するためには、ベイナイト変態の温度条件の制御が必要である。その詳細を以下に示す。なお、鋼材は、成分調整した溶鋼を連続鋳造してビレットとし、このビレットを熱間圧延することにより鋼線材として得られる。その後、酸洗や、必要に応じて伸線を経てからベイナイト組織を得るための熱処理が行われる。熱間圧延の条件は特に制限されるものではない。
ベイナイト組織を得るためには、鋼材を加熱してオーステナイト相に変態させた後に、冷却してベイナイト変態させる必要がある。オーステナイト相に変態させる温度は、Ac3点を超え(Ac3点+300℃)以下の温度が適切である。Ac3点より低温ではオーステナイト単相が得られないので、最終組織に未変態の初析フェライトが残存するため、必要な強度が得られない。一方、(Ac3点+300℃)より高温では、オーステナイト粒径が粗大化して、熱処理後の靭性が低下する。
オーステナイト相に加熱後、オーステナイト粒制御のために適切な時間保持した後に、冷却してベイナイト組織を得る。本発明の高強度ベイナイトを得るためには、Ac3点以上の温度から冷却してベイナイト変態が開始する上限温度をBs点とすると、Ac3点以上から10℃/s以上の速度で冷却し、(Bs点−250℃)を超えBs点以下の温度で300〜3600s保持し、その後10℃/s以上の冷却速度で室温まで冷却することが必要である。
Ac3点からの冷却速度が小さいと、初析フェライトが析出するために、必要な強度が得られない場合がある。保持温度がBs点より高温ではベイナイト組織が得られない。保持温度が(Bs点−250℃)より低温では、ばね加工後のひずみ取り焼鈍温度に近接しすぎるため、最終のばね加工後のばね強度を維持できない。(Bs点−250℃)を超えBs点以下の温度での保持時間が300sより短いと、ベイナイト変態が未完了のためにマルテンサイトの分率が高くなりすぎて、熱処理後の靭性が不足する。保持時間が3600sより長い、または保持後の冷却速度が10℃/sより小さいと、ベイナイト変態した組織が軟化するために必要な強度を維持できない。
以上のようにして、本実施形態のばね用鋼が製造される。
更に、得られたばね用鋼をばねの形状に加工し、更に加工による残留応力を除去するために約350℃のひずみ取り焼鈍を行う。本実施形態では、ベイナイトさせる温度が、ひずみ取り焼鈍の温度よりも高温であるため、ひずみ取り焼鈍時にベイナイト組織が焼戻されることがなく、ばねとして使用する際にはばね加工前のワイヤと同等の強度を発揮できる。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
実施例および比較例の各成分、Ac3点、Bs点を表1A及び表1Bに、ベイナイト変態後の各組織の分率と引張強度、伸びの値を表2A及び表2Bに示す。Ac3点とBs点は、それぞれ以下の数式から計算した値である。なお、[C]等の表記は各合金元素のmass%を意味する。また、組織中のCrMo炭化物の析出の有無を観察した。鋼中の炭化物を透過型電子顕微鏡で観察し、100μm四方の矩形の領域においてCr及びMoを同時に含む炭化物が見つかった場合を○、見つからなかった場合を×とした。結果を表2A及び表2Bに示す。
Ac3(℃)=910−203×√[C]―15.2[Ni]+44.7[Si]+104[V]+31.5[Mo]+13.1[W]
Bs(℃)=830−270[C]−90[Mn]−37[Ni]−70[Cr]−83[Mo]
これら実施例および比較例は、熱間圧延前に鋼塊を950℃以上1200℃以下の温度で、120minを超えない時間だけ加熱後に熱間圧延する工程と、Ac3(℃)を超え(Ac3+300)(℃)以下の温度で加熱後に10℃/s以上の速度で冷却し、(Bs−250)(℃)を超えBs(℃)以下の温度で300〜3600秒間等温保持し、その後、10℃/s以上の速度で室温まで冷却してベイナイト変態させる工程によって製造された。製造条件の詳細を表3A及び表3Bに示す。
Figure 2017166036
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実施例はいずれも、70%以上のベイナイトと5%以上15%以下の残留オーステナイトと残部マルテンサイトからなる組織を有しており、引張強度(TS)1800MPa以上、伸び(EL)6%以上を有していた。これは、全ての発明がベイナイト主体の組織で強度−延性を高い水準で満たしていることを示している。
一方、比較例のうち20、21、23は、それぞれMo、C、Siが不足しているためにベイナイト変態後の強度が不足している。
また、比較例のうち22、24、25、26、30、31、32は、それぞれC、Mn、Cr、Mo、Ni、Cu、Wが過剰であるためにベイナイト変態が進まず、硬質な焼入れマルテンサイトが過剰に生じているために、延性が低下している。
比較例のうち29は、Vが過剰であるために残留オーステナイト分率が低下し、TRIP効果が発現せず延性が低下している。
比較例のうち27、28、36は、それぞれP、S、Bが過剰であるために延性が低下している。また33、34、35、37は、それぞれTi、Nb、Al、Nが過剰で窒化物等の析出物が粗大となるために、それぞれ延性が低下する。
また、実施例の鋼について、更に350℃のひずみ取り焼鈍温度に相当する熱処理を実施後、引張強度TSを測定したが、強度の低下は見られなかった。これは、等温保持温度がひずみ取り焼鈍温度よりも高いことに加えて、組織中に安定なCrMo炭化物が生成し、このCrMo炭化物がひずみ取り焼鈍を経ても粗大化せず、ベイナイト強化の効果を発揮し続けたためと推測される。一方、No.20の鋼は、CrMo炭化物が見つからなかった。このため、ひずみ取り焼鈍温度に相当する熱処理後に強度の低下が見られた。
化学成分が適切であっても、熱処理条件が異なり適正なベイナイト組織が得られない場合にも、ばね鋼としての特性は不十分となる。比較例38は、熱処理時の加熱温度が高過ぎるために旧オーステナイト粒が粗大化し、延性が低下している。比較例39は等温保持温度が低すぎるため、また比較例40は等温保持時間が不足するために、それぞれ、ベイナイト組織分率が不足してマルテンサイト組織が過剰となり、高強度−低延性となっている。一方、比較例41は、等温保持時間が過剰であるために組織の軟化が進み、変態後の強度が不足している。
本発明に係るばね鋼は、オーステナイトに加熱後に適切な温度でベイナイト変態させることによって、強度と延性を高い水準で両立させることができる。従って、本発明によれば、1800MPa以上の高強度を有しながら十分な延性を有する、ベイナイト組織のばね鋼を得ることができる。

Claims (7)

  1. 鋼成分が質量%で、C:0.40〜0.80%、Si:0.80〜3.00%、Mn:0.10〜1.50%、Cr:0.10〜2.00%、Mo:0.10〜1.00%を含み、P:0.030%以下、S:0.030%以下に制限し、残部がFeと不純物からなり、
    任意の断面におけるミクロ組織において、ベイナイトが70体積%以上、残部がマルテンサイト及び残留オーステナイトであることを特徴とする高強度ばね用鋼。
  2. 前記鋼成分に、さらに質量%で、V:0.05〜1.00%を含む請求項1記載の高強度ばね用鋼。
  3. 前記鋼成分に、さらに質量%で、Ni:0.10〜1.00%、Cu:0.10〜0.50%、W:0.10〜0.50%、Ti:0.020〜0.100%、Nb:0.020〜0.100%、Al:0.050%未満、B:0.0010〜0.0060%、N:0.0010〜0.0070%のうち1種または2種以上を含む請求項1または請求項2記載の高強度ばね用鋼。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の高強度ばね用鋼からなるばね。
  5. 質量%で、C:0.40〜0.80%、Si:0.80〜3.00%、Mn:0.10〜1.50%、Cr:0.10〜2.00%、Mo:0.10〜1.00%を含み、P:0.030%以下、S:0.030%以下に制限し、残部がFeと不純物からなる熱間圧延後の鋼材を用い、
    加熱によりフェライト相からオーステナイト相への変態が完了する温度をAc3点、Ac3点以上の温度から冷却してベイナイト変態が開始する上限温度をBs点として、
    前記鋼材を、Ac3点を超え(Ac3点+300℃)以下の温度でオーステナイト化後、10℃/s以上の速度で冷却し、(Bs点−250℃)を超えBs点以下の温度で300〜3600s保持し、その後10℃/s以上の冷却速度で室温まで冷却することを特徴とする高強度ばね用鋼の製造方法。
  6. 前記鋼材に、さらにV:0.05〜1.00%が含まれる請求項5記載の高強度ばね用鋼の製造方法。
  7. 前記鋼材に、さらにNi:0.10〜1.00%、Cu:0.10〜0.50%、W:0.10〜0.50%、Ti:0.020〜0.100%、Nb:0.020〜0.100%、Al:0.050%未満、B:0.0010〜0.0060%、N:0.0010〜0.0070%のうち1種または2種以上を含む請求項5または請求項6記載の高強度ばね用鋼の製造方法。
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