JP2017158528A - 睡眠障害モデル非ヒト動物、睡眠障害評価用動物細胞、及びそれらを用いたスクリーニング方法 - Google Patents

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泰己 上田
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文哉 多月
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Shoi Shi
蕭逸 史
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玄志郎 砂川
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Abstract

【課題】簡便に作製でき、安定した表現型を呈する睡眠障害モデル非ヒト動物を提供する。【解決手段】本発明の睡眠障害モデル非ヒト動物は、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路(Ca2+−dependent hyperpolarization/depolarization pathway)に関連する遺伝子の機能の全部又は一部が欠損していることを特徴とする。本発明の睡眠障害評価用動物細胞は、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路(Ca2+−dependent hyperpolarization/depolarization pathway)に関連する遺伝子の機能の全部又は一部が欠損していることを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は、睡眠障害モデル非ヒト動物、睡眠障害評価用動物細胞、及びそれらを用いたスクリーニング方法に関する。
睡眠障害(例えば、不眠症、過眠症等)は未だ決定的な治療法が存在しない疾患である。また、睡眠障害は、その他の疾患との合併が多いことが知られている。特に、精神疾患(例えば、うつ病、痴呆症、統合失調症等)又は神経変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、てんかん等)との合併は広く知られている。睡眠障害に対する診断法及び治療法の開発には、睡眠覚醒のメカニズムを理解することが必要不可欠である。
睡眠はヒトを含む多種の生物で観察される基本的な生理現象であり、睡眠を制御する因子は主にハエを用いたフォワードジェネシスによる探索で、概日時計に関係した遺伝子を中心に複数特定されてきた。
特許文献1には、概日時計により発現が変動する遺伝子が開示されている。また、特許文献2には、概日時計に関連する遺伝子を変異させることにより、睡眠障害モデルマウスを作製する方法が記載されている。
また、非特許文献1には、Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)遺伝子が体内時計に関連する遺伝子であり、CaMKII阻害剤により概日時計の時刻をリセットできることが記載されている。
再公表WO99/14324号公報 特開2003−70376号公報
特許文献1、2及び非特許文献1に記載されている遺伝子は、概日時計に関連する遺伝子であり、概日時計とは別の睡眠時間を直接制御している遺伝子は未解明のままであった。
また、表現型から遺伝子に遡るフォワードジェネティクスに基づいた、睡眠時間を直接制御する遺伝子の探索は、遺伝子と表現型との結びつけに多くの時間とコストを要する。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、簡便に作製でき、安定した睡眠パターンの表現型を呈する睡眠障害モデル非ヒト動物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために、遺伝子と表現型とを直接結びつけることができるリバースジェネティクスを利用して、カルシウムイオンの流入に伴う神経細胞の過分極が睡眠を誘導することを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1]カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路(Ca2+−dependent hyperpolarization/depolarization pathway)に関連する遺伝子の機能の全部又は一部が欠損していることを特徴とする睡眠障害モデル非ヒト動物。
[2]前記カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子がコードするタンパク質が、細胞膜上、ミトコンドリア膜上、小胞体膜上或いはエンドソーム膜上に存在するタンパク質、又は細胞質内に存在し、カルシウムの結合により機能が調節されるタンパク質である、[1]に記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
[3]前記細胞膜上、ミトコンドリア膜上、小胞体膜上或いはエンドソーム膜上に存在するタンパク質が、電位依存性カルシウムチャネル、Transient Receptor Potential(TRP)チャネル、ストア作動性カルシウムチャネル(store−operated calcium channel;SOC channel、calcium release−activated calcium channel;CRAC channel)、amino−3−hydroxy−5−methyl−4−iaoxazolepropionic acid(AMPA)型グルタミン酸受容体、カイニン酸型グルタミン酸受容体、N−methyl−D−aspartate(NMDA)型グルタミン酸受容体、カルシウム依存性カリウムチャネル、カルシウムポンプ(Ca2+ATPase;PMCA)、陽イオン−カルシウム交換輸送体(Cation/Calcium antiporter;CaCA)ファミリータンパク質、Hyperpolarization−activated cyclic nucleotide−gatedチャネル(HCNチャネル)、Cyclic nucleotide−gatedチャネル(CNGチャネル)、Two−poreチャネル(TPC)、酸感受性イオンチャネル、Cys−loop受容体、P2X受容体、カルシウムユニポーター、BCL−2 likeサブファミリータンパク質、イノシトールトリスリン酸受容体(Inositol trisphosphate receptor;IPR)、TRICチャネル及びリアノジン受容体からなる群から選ばれる少なくとも一つである、[2]に記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
[4]前記細胞質内に存在し、カルシウムの結合により機能が調節されるタンパク質が、カルモジュリン、カルパイン、カルシニューリン、在来型プロテインキナーゼC(conventional/classical−Protein kinase;c−PKC)、カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ(calcium/calmodulin−dependent protein kinase;CaMK)、ホスホリパーゼC(phospholipase C;PLC)及びS100Bタンパク質からなる群から選ばれる少なくとも一つである、[2]又は[3]に記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
[5]前記CaMKをコードする遺伝子がCamk2a遺伝子又はCamk2b遺伝子である、[4]に記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
[6]前記カルシウム依存性カリウムチャネルをコードする遺伝子がKcnn2遺伝子又はKcnn3遺伝子である、[3]〜[5]のいずれか一つに記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
[7]前記電位依存性カルシウムチャネルをコードする遺伝子がCacna1g遺伝子又はCacna1h遺伝子である、[3]〜[6]のいずれか一つに記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
[8]前記カルシウムポンプをコードする遺伝子がAtp2b3遺伝子である、[3]〜[7]のいずれか一つに記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
[9]前記NMDA型グルタミン酸受容体をコードする遺伝子がNr2a遺伝子又はNr2b遺伝子である、[3]〜[8]のいずれか一つに記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
[10]カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路(Ca2+−dependent hyperpolarization/depolarization pathway)に関連する遺伝子の機能の全部又は一部が欠損していることを特徴とする睡眠障害評価用動物細胞。
[11]前記カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子がコードするタンパク質が、細胞膜上、ミトコンドリア膜上、小胞体膜上或いはエンドソーム膜上に存在するタンパク質、又は細胞質内に存在し、カルシウムの結合により機能が調節されるタンパク質である、[10]に記載の睡眠障害評価用動物細胞。
[12]前記細胞膜上、ミトコンドリア膜上、小胞体膜上或いはエンドソーム膜上に存在するタンパク質が、電位依存性カルシウムチャネル、TRPチャネル、SOCチャネル、AMPA型グルタミン酸受容体、カイニン酸型グルタミン酸受容体、NMDA型グルタミン酸受容体、カルシウム依存性カリウムチャネル、PMCA、CaCAファミリータンパク質、HCNチャネル、CNGチャネル、TPC、酸感受性イオンチャネル、Cys−loop受容体、P2X受容体、カルシウムユニポーター、BCL−2 likeサブファミリータンパク質、IPR、TRICチャネル及びリアノジン受容体からなる群から選ばれる少なくとも一つである、[11]に記載の睡眠障害評価用動物細胞。
[13]前記細胞質内に存在し、カルシウムの結合により機能が調節されるタンパク質が、カルモジュリン、カルパイン、カルシニューリン、c−PKC、CaMK、PLC及びS100Bタンパク質からなる群から選ばれる少なくとも一つである、[11]又は[12]に記載の睡眠障害評価用動物細胞。
[14]前記CaMKをコードする遺伝子がCamk2a遺伝子又はCamk2b遺伝子である、[13]に記載の睡眠障害評価用動物細胞。
[15]前記カルシウム依存性カリウムチャネルをコードする遺伝子がKcnn2遺伝子又はKcnn3遺伝子である、[12]〜[14]のいずれか一つに記載の睡眠障害評価用動物細胞。
[16]前記電位依存性カルシウムチャネルをコードする遺伝子がCacna1g遺伝子又はCacna1h遺伝子である、[12]〜[15]のいずれか一つに記載の睡眠障害評価用動物細胞。
[17]前記カルシウムポンプをコードする遺伝子がAtp2b3遺伝子である、[12]〜[16]のいずれか一つに記載の睡眠障害評価用動物細胞。
[18]前記NMDA型グルタミン酸受容体遺伝子がNr2a遺伝子又はNr2b遺伝子である、[12]〜[17]のいずれか一つに記載の睡眠障害評価用動物細胞。
[19]前記睡眠障害評価用動物細胞が神経細胞である、[10]〜[18]のいずれか一つに記載の睡眠障害評価用動物細胞。
[20]睡眠障害の治療に有用な化合物をスクリーニングする方法であって、被検化合物の投与下で[1]〜[9]のいずれか一つに記載の睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠パターンを測定する測定工程と、測定された前記睡眠パターンが、前記被検化合物の非投与下で測定された前記睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠パターンと比較して変化していた場合に、前記被検化合物は睡眠障害の治療に有用な化合物であると判定する判定工程と、を備えることを特徴とする方法。
[21]睡眠障害の治療に有用な化合物をスクリーニングする方法であって、被検化合物の投与下で、野生型の動物細胞又は[10]〜[19]のいずれか一つに記載の睡眠障害評価用動物細胞の細胞質内のカルシウムイオン濃度を測定する測定工程と、測定された前記カルシウムイオン濃度が、前記被検化合物の非投与下で測定された前記野生型の動物細胞又は前記睡眠障害評価用動物細胞の細胞質内のカルシウムイオン濃度と比較して変化していた場合に、前記被検化合物は睡眠障害の治療に有用な化合物であると判定する判定工程と、を備えることを特徴とする方法。
本発明によれば、簡便に作製でき、安定した睡眠パターンの表現型を呈する睡眠障害モデル非ヒト動物を提供することができる。
本発明におけるカルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路について示す概略図である。 一般的な徐波睡眠の脳波を示す図である。 神経細胞の細胞膜上に存在するイオンチャネルを示す図である。 (A)試験例1におけるSnappy Sleep Stager(SSS)法を用いて、Kcnn2遺伝子及びKcnn3遺伝子をノックアウトしたマウスでの睡眠パターンを測定した結果を示すグラフである。(B)試験例1における基礎EEG(Electroencephalogram、脳波(脳電図))/EMG(electromyogram、筋電図)を測定する方法を用いて、野生型マウス及びKcnn2遺伝子をノックアウトしたマウスでの睡眠パターンを計測した結果を示すグラフである。 試験例1におけるSnappy Sleep Stager(SSS)法を用いて、Cacna1g遺伝子及びCacna1h遺伝子をノックアウトしたマウスでの睡眠パターンを測定した結果を示すグラフである。 試験例1におけるSnappy Sleep Stager(SSS)法を用いて、Atp2b3遺伝子をSet1及びSet2のガイドRNAによりノックアウトしたマウスでの睡眠パターンを測定した結果を示すグラフである。 試験例1におけるSnappy Sleep Stager(SSS)法を用いて、Camk2a遺伝子及びCamk2b遺伝子をノックアウトしたマウスでの睡眠パターンを測定した結果を示すグラフである。 (A)試験例2におけるSnappy Sleep Stager(SSS)法を用いて、N−methyl−D−aspartate(NMDA)型グルタミン酸受容体阻害剤であるphencyclidine(PCP)を0mg/kg、13.3mg/kg又は26.7mg/kg腹腔内投与した野生型マウスでの睡眠パターンを測定した結果を示すグラフである。(B)試験例2におけるSnappy Sleep Stager(SSS)法を用いて、NMDA型グルタミン酸受容体阻害剤であるMK−801を0mg/kg、0.2mg/kg、2mg/kg又は20mg/kg腹腔内投与した野生型マウスでの睡眠パターンを測定した結果を示すグラフである。(C)試験例2における基礎EEG(Electroencephalogram、脳波(脳電図))/EMG(electromyogram、筋電図)を測定する方法を用いて、NMDA型グルタミン酸受容体阻害剤であるMK−801を0mg/kg又は2mg/kg腹腔内投与した野生型マウスでの睡眠パターンを測定した結果を示すグラフである。 試験例3におけるSnappy Sleep Stager(SSS)法を用いて、NMDA型グルタミン酸受容体阻害剤であるMK−801を0mg/L、16mg/L、32mg/L、64mg/L又は96mg/L経口投与した野生型マウスでの睡眠パターンを測定した結果を示すグラフである。
<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>
本発明は、一実施形態において、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路(Ca2+−dependent hyperpolarization/depolarization pathway)に関連する遺伝子の機能の全部又は一部が欠損している、睡眠障害モデル非ヒト動物を提供する。
本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物は、簡便に作製することができ、概日時計に影響を与えることなく、安定した表現型を呈する。さらに、前記睡眠障害モデル非ヒト動物を用いることにより、睡眠障害の原因解明、治療薬の探索の効率を飛躍的に向上させることができる。また、睡眠障害と密接な関係にある精神疾患や神経変性疾患の原因解明、治療薬の探索へ貢献することを期待できる。
本発明者らは、睡眠時に観察される特徴的な脳波である徐波形成に必要な遺伝子を特定するために、平均場近似(多数の要素が相互作用しているような集団を解析するために用いられる数学的な近似手法)を施したコンピュータモデルを作製し、解析することで、カルシウムイオンの流入に伴う神経細胞の過分極が徐波形成に極めて重要であることを見出した。さらに、この徐波形成に必要な遺伝子群を特定し、この遺伝子群の機能を全部又は一部欠損させることにより、睡眠障害モデル非ヒト動物を完成させた。
また、この遺伝子群がコードするタンパク質によって引き起こされる、睡眠覚醒に関連したカルシウムの細胞内外への流出及び流入による経路を、「カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路(Ca2+−dependent hyperpolarization/depolarization pathway)」と名付けた。
図1は、本発明におけるカルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路について示す概略図である。図1の「Sleep(徐波睡眠時)」において、神経細胞の細胞膜上に存在するカルシウム流入に関連する膜タンパク質(チャネル)が開くことにより、細胞質内にカルシウムが流入し、過分極となることにより睡眠が誘導され、Burstと呼ばれるギザギザとした高振幅の波形が形成される(図2中のX参照。)。また、細胞質内のカルシウム依存的にカリウムを流出するチャネルが開くことにより、細胞外へカリウムが流出し、波形が下がり落ち着く(図2中のY参照。)。徐波睡眠ではこのXとYとからなる波形を繰り返すことが知られている。
また、図1の「Wake(覚醒時)」において、神経細胞の細胞膜上に存在するカルシウム流出に関連する膜タンパク質(チャネル)が開くことにより、細胞外へカルシウムが流出し、脱分極となることにより神経細胞の興奮が誘導され、典型的な覚醒状態の脳波の波形を形成する。また、カルシウム依存性の酵素、ミトコンドリアや小胞体上に存在するカルシウムに関連する膜タンパク質の働きによっても、細胞質内のカルシウム濃度が変化し、徐波睡眠と覚醒とが切り替わると考えられる。
一般的に、「徐波睡眠」とは、ノンレム睡眠のうち、出現する脳波の特徴として、図2に示す周波数の低い成分が中心となる睡眠を意味する。ヒトにおいては、下記表1に示すステージIII及びIVが該当し、ノンレム睡眠の中では、深い睡眠にあたることから、健常者では熟眠感と関連があるとされている。
Figure 2017158528
<カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子がコードするタンパク質>
本実施形態において、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子がコードするタンパク質とは、上述のカルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路において、神経細胞の細胞質内のカルシウム濃度の変化を引き起こすタンパク質であればよい。カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子がコードするタンパク質としては、例えば、細胞膜上、ミトコンドリア膜上、小胞体膜上或いはエンドソーム膜上に存在するタンパク質、細胞質内に存在し、カルシウムの結合により機能が調節されるタンパク質等が挙げられる。
[細胞膜上、ミトコンドリア膜上、小胞体膜上或いはエンドソーム膜上に存在するタンパク質]
神経細胞の細胞膜上に存在するタンパク質としては、例えば、電位依存性カルシウムチャネル、Transient Receptor Potential(TRP)チャネル、ストア作動性カルシウムチャネル(store−operated calcium channel;SOC channel、calcium release−activated calcium channel;CRAC channel)、amino−3−hydroxy−5−methyl−4−iaoxazolepropionic acid(AMPA)型グルタミン酸受容体、カイニン酸型グルタミン酸受容体、N−methyl−D−aspartate(NMDA)型グルタミン酸受容体、カルシウム依存性カリウムチャネル、カルシウムポンプ(Ca2+ATPase;PMCA)、陽イオン−カルシウム交換輸送体(Cation/Calcium antiporter;CaCA)ファミリータンパク質、Hyperpolarization−activated cyclic nucleotide−gatedチャネル(HCNチャネル)、Cyclic nucleotide−gatedチャネル(CNGチャネル)、Two−poreチャネル(TPC)、酸感受性イオンチャネル、Cys−loop受容体、P2X受容体、カルシウムユニポーター、BCL−2 likeサブファミリータンパク質、イノシトールトリスリン酸受容体(Inositol trisphosphate receptor;IPR)、TRICチャネル、リアノジン受容体等が挙げられる。
電位依存性カルシウムチャネルとは、一般的に、細胞膜上に存在する膜タンパク質であって、膜電位の脱分極を感知して活性化(開口確率が上昇)し、細胞外から細胞内へカルシウムを選択的に透過させるイオンチャネルである。
電位依存性カルシウムチャネルをコードする遺伝子としては、例えば、Cav1.1(Cacna1s)遺伝子、Cav1.2(Cacna1c)遺伝子、Cav1.3(Cacna1d)、CaV1.4(Cacna1f)遺伝子、Cav2.1(Cacna1a)遺伝子、Cav2.2(Cacna1b)遺伝子、CaV2.3(Cacna1e)遺伝子、CaV3.1(Cacna1g)遺伝子、CaV3.2(Cacna1h)遺伝子、CaV3.3(Cacna1i)遺伝子等が挙げられる。中でも、脳に多く発現し、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させた際に睡眠障害の表現型を顕著に示すことから、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させる電位依存性カルシウムチャネルをコードする遺伝子としては、Cacna1g遺伝子又はCacna1h遺伝子であることが好ましい。
TRPチャネルとは、ショウジョウバエの光受容応答変異株の原因遺伝子として発見されたチャネル分子であり、哺乳類においては28種の遺伝子が同定され、C、M、V、ML、P、Aといった6つのサブファミリーを構成する。TRPチャネルは、温度、機械刺激、痛み、酸−塩基といった種々の物理化学的刺激によって活性化されるカチオンチャネルファミリーを形成している。その多くがCa2+透過能を有し、中枢及び末梢神経系を始めとするほぼ全ての組織に発現が見られる。
TRPチャネルをコードする遺伝子としては、例えば、TRP classic(canonical)(TRPC)ファミリー遺伝子群(Trpc1遺伝子、Trpc2遺伝子、Trpc3遺伝子、Trpc4遺伝子、Trpc5遺伝子、Trpc6遺伝子、Trpc7遺伝子)、TRP melastatin(TRPM)ファミリー遺伝子群(Trpm1遺伝子、Trpm2遺伝子、Trpm3遺伝子、Trpm4遺伝子、Trpm5遺伝子、Trpm6遺伝子、Trpm7遺伝子、Trpm8遺伝子)、TRP vanilloid receptor(TRPV)ファミリー遺伝子群(Trpv1遺伝子、Trpv2遺伝子、Trpv3遺伝子、Trpv4遺伝子、Trpv5遺伝子、Trpv6遺伝子)、TRP mucolipin(TRPML)ファミリー遺伝子群(Trpml1遺伝子、Trpml2遺伝子、Trpml3遺伝子)、TRP polycystin(TRPP)ファミリー遺伝子群(Trpp1遺伝子、Trpp2遺伝子、Trpp3遺伝子、Trpp5遺伝子)、TRP アンキリン(TRPA)遺伝子(Trpa遺伝子)等が挙げられる。
SOCチャネルとは、細胞膜上に存在し、小胞体に貯蔵されたCa2+の枯渇によって活性化(開口確率が上昇)し、細胞外から細胞内へCa2+を流入させるカルシウムチャネルである。SOCチャネルは、小胞体のCa2+枯渇を感知した小胞体Ca2+センサー分子stromal interacting molecule(STIM)(STIM1及びSTIM2が存在する。)との相互作用を介して4量体を形成し、活性化(開口確率が上昇)する。
SOCチャネルをコードする遺伝子としては、例えば、Oraiファミリー遺伝子群(Orai1遺伝子、Orai2遺伝子、Orai3遺伝子)等が挙げられる。
AMPA型グルタミン酸受容体とは、細胞膜上に存在し、学習や記憶において中心的な役割を果たす、GluR1−GluR4の4つのサブユニットからなる4量体の、グルタミン酸の結合により活性化される陽イオン透過性チャネルである。サブユニットの構成によって、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンに対する透過性が変化することが知られている。
AMPA型グルタミン酸受容体をコードする遺伝子としては、例えば、GluR1遺伝子、GluR2遺伝子、GluR3遺伝子、GluR4遺伝子等が挙げられる。
カイニン酸型グルタミン酸受容体とは、細胞膜上に存在し、GluK1−GluK5の五つのサブユニットからなる5量体の陽イオン透過性チャネルである。海馬での発現が強く、記憶、学習に重要な役割を果たすことが知られている。
カイニン酸型グルタミン酸受容体をコードする遺伝子としては、例えば、GluK1遺伝子、GluK2遺伝子、GluK3遺伝子、GluK4遺伝子、GluK5遺伝子等が挙げられる。
NMDA型グルタミン酸受容体とは、細胞膜上に存在し、興奮性のシナプス伝達に関与し、シナプス後膜に存在し、グルタミン酸の結合により、活性化(開口確率が上昇)するイオンチャネルである。また、NMDA型グルタミン酸受容体はカルシウムに対して、高い透過性を有する。
NMDA型グルタミン酸受容体をコードする遺伝子としては、3つのサブユニットが存在し、GluN1(Nr1)サブユニットをコードする遺伝子、GluN2(Nr2)サブユニットをコードするファミリー遺伝子群(GluN2A(Nr2a)遺伝子、GluN2B(Nr2b)遺伝子、GluN2C(Nr2c)遺伝子、GluN2D(Nr2d)遺伝子)、GluN3サブユニットをコードするファミリー遺伝子群(GluN3A(Nr3a)遺伝子、GluN3B(Nr3b)遺伝子)等が挙げられる。中でも、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させた際に睡眠障害の表現型を顕著に示すことから、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させるNMDA型グルタミン酸受容体をコードする遺伝子としては、Nr2a遺伝子又はNr2b遺伝子であることが好ましい。
カルシウム依存性カリウムチャネルとは、細胞膜上に存在し、細胞質内のカルシウム濃度の上昇によって、活性化(開口確率が上昇)し、細胞内から細胞外へカリウムを流出させるカリウムチャネルである。
カルシウム依存性カリウムチャネルをコードする遺伝子としては、例えば、KCa1.1(Kcnma1)遺伝子、KCa2.1(Kcnn1)遺伝子、KCa2.2(Kcnn2)遺伝子、KCa2.3(Kcnn3)遺伝子、KCa3.1(Kcnn4)遺伝子、KCa4.1(Kcnt1)遺伝子、KCa4.2(Kcnt2)、KCa5.1(Kcnu1)遺伝子等が挙げられる。中でも、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させた際に睡眠障害の表現型を顕著に示すことから、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させるカルシウム依存性カリウムチャネルをコードする遺伝子としては、Kcnn2遺伝子又はKcnn3遺伝子であることが好ましい。
PMCAとは、細胞膜上及び小胞体膜上に存在し、細胞質内のカルシウム濃度の上昇した際に、外部エネルギーとしてATPの加水分解で供給されるエネルギーにより活性化(開口確率が上昇)し、細胞内から細胞外へカルシウムを流出させるカルシウムチャネルである。
PMCAをコードする遺伝子としては、例えば、PMCA1(Atp2b1)遺伝子、PMCA2(Atp2b2)遺伝子、PMCA3(Atp2b3)遺伝子、PMCA4(Atp2b4)遺伝子等が挙げられる。中でも、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させた際に睡眠障害の表現型を顕著に示すことから、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させるPMCAをコードする遺伝子としては、Atp2b3遺伝子であることが好ましい。
CaCAとは、細胞膜上及びミトコンドリア膜上に存在し、細胞質内のカルシウム濃度の上昇した際に、1つのカルシウムイオンを細胞外又はミトコンドリアの外膜と内膜の膜間スペースに流出される代わりに、細胞内又はミトコンドリア内(マトリックス)へ3つのプロトン(水素イオン)、ナトリウムイオン又はカリウムイオンを流入させる輸送体である。
CaCAをコードする遺伝子としては、例えば、ナトリウム/カルシウム交換輸送体(Na/Ca2+ exchangers;NCX)ファミリー遺伝子群(Ncx1遺伝子、Ncx2遺伝子及びNcx3遺伝子)、カリウム依存性ナトリウム/カルシウム交換輸送体(K−dependent Na/Ca2+ exchangers;NCKX)ファミリー遺伝子群(Nckx1遺伝子、Nckx2遺伝子、Nckx3遺伝子、Nckx4遺伝子及びNckx6遺伝子)等が挙げられる。
HCNチャネルとは、細胞膜上に存在し、細胞膜の過分極に応じて開く非選択的陽イオンチャネルである。中枢神経系に発現しており、6回膜貫通型のαサブユニットが4つ集まって一つのイオンチャネルを構成する。
HCNチャネルをコードする遺伝子としては、例えば、Hcn1遺伝子、Hcn2遺伝子、Hcn3遺伝子、Hcn4遺伝子等が挙げられる。
CNGチャネルとは、細胞膜上に存在し、細胞の過分極や脱分極に伴い、細胞内の環状ヌクレオチドによって活性化される、非選択的陽イオンチャネルである。
CNGチャネルをコードする遺伝子としては、例えば、Cngaサブファミリー遺伝子群(Cnga1遺伝子、Cnga2遺伝子、Cnga3遺伝子、Cnga4遺伝子)、Cngbサブファミリー遺伝子群(Cngb1遺伝子、Cngb2遺伝子)等が挙げられる。
TPCとは、2回膜貫通型のイオンチャネルが2つ直列でつながったような、4回膜貫通型の選択的陽イオンチャンネルである。エンドリソソーム膜上に、ニコチン酸アデニンジヌクオチドリン酸(NAADP)関連カルシウムチャネルとして存在し、細胞小器官のカルシウムイオン放出に寄与することが知られている。
TPCをコードする遺伝子としては、例えば、Tpcn1遺伝子、Tpcn2遺伝子等が挙げられる。
酸感受性イオンチャネルとは、細胞膜上に存在し、細胞外水素イオンによって活性化される陽イオンチャネルである。
酸感受性イオンチャネルをコードする遺伝子としては、例えば、Sensing Ion Channels (Asic)1遺伝子、Asic2遺伝子、Asic3、Asic4遺伝子等が挙げられる。
Cys−loop受容体とは、細胞膜上に存在し、5量体のリガンド依存性チャネルファミリーの一種であり、非選択的陽イオン透過チャネルである。ニコチン型アセチルコリン受容体や、5−HT3受容体(セロトニン受容体の一つ)を含む。
Cys−loop受容体をコードする遺伝子としては、例えば、nAChRファミリー遺伝子群(Chrna1遺伝子、Chrna2遺伝子、Chrna3遺伝子、Chrna4遺伝子、Chrna5遺伝子、Chrna6遺伝子、Chrna7遺伝子、Chrna9遺伝子、Chrnb2遺伝子、Chrnb3遺伝子、Chrnb4遺伝子、Chrnd遺伝子、Chrne遺伝子、Chrng遺伝子)、5−HT3受容体ファミリー遺伝子群(Htr3a遺伝子、Htr3b遺伝子)等が挙げられる。
P2X受容体とは、細胞膜上に存在し、細胞外のATPをリガンドとして活性化されるリガンド依存性チャネルである。P2X1−P2X7からなる3量体の非選択的陽イオンチャネルである。
P2X受容体をコードする遺伝子としては、例えば、P2rx1遺伝子、P2rx2遺伝子、P2rx3遺伝子、P2rx4遺伝子、P2rx5遺伝子、P2rx6遺伝子、P2rx7遺伝子等が挙げられる。
カルシウムユニポーターとは、ミトコンドリア膜上に存在し、細胞質内のカルシウム濃度の上昇によって、活性化(開口確率が上昇)し、ミトコンドリアの外膜と内膜の膜間スペースからミトコンドリア内(マトリックス)へカルシウムを流入させるカルシウムチャネルである。
カルシウムユニポーターをコードする遺伝子としては、例えば、Mcu遺伝子等が挙げられる。
BCL−2 likeサブファミリータンパク質とは、BCL−2ファミリータンパク質のサブファミリーの一つであり、ミトコンドリア膜上及び小胞体膜上に存在しミトコンドリア膜と小胞体膜との間におけるカルシウムの制御を行うカルシウムチャネルである。また、BCL−2 likeサブファミリーはアポトーシスの抑制性を有する。
BCL−2 likeサブファミリータンパク質をコードする遺伝子としては、例えば、Bcl−2遺伝子、Bcl−xL遺伝子等が挙げられる。
IPRとは、小胞体膜上に存在し、イノシトールトリスリン酸(IP)により活性化(開口確率が上昇)し、小胞体内から細胞質へカルシウムを流出させるカルシウムチャネルである。IPRは特に、小脳において豊富に発現している。
IPRをコードする遺伝子としては、例えば、Ip3r1遺伝子、Ip3r2遺伝子、Ip3r3遺伝子等が挙げられる。
TRICチャネルとは、小胞体膜上に存在する陽イオン透過性チャネルである。リアノジン受容体、イノシトール3リン酸受容体によって小胞体からカルシウムイオンが放出された際に、カウンターイオンとして陽イオンを流入させる働きを有する。
TRICチャネルをコードする遺伝子としては、例えば、Tric−a遺伝子、Tric−b遺伝子等が挙げられる。
リアノジン受容体とは、小胞体膜上に存在し、細胞質のカルシウム濃度の上昇により活性化(開口確率が上昇)し、小胞体内から細胞質へカルシウムを流出させるカルシウムチャネルである。
リアノジン受容体をコードする遺伝子としては、例えば、Ryr1遺伝子、Ryr2遺伝子、Ryr3遺伝子等が挙げられる。
[カルシウムの結合により機能を調節されるタンパク質]
神経細胞内に存在するカルシウムの結合により機能を調節されるタンパク質としては、例えば、カルモジュリン、カルパイン、カルシニューリン、在来型プロテインキナーゼC(conventional/classical−Protein kinase;c−PKC)、カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ(calcium/calmodulin−dependent protein kinase;CaMK)、ホスホリパーゼC(phospholipase C;PLC)、S100Bタンパク質等が挙げられる。
カルモジュリンとは、細胞内の至る所に存在し、約148残基のアミノ酸から構成される約16kDaのカルシウム結合タンパク質である。カルモジュリンは4つのEFハンド型カルシウム結合性ドメイン(loop−helix−loop)を有するため、それぞれにカルシウムイオンが結合することができ(カルモジュリン1分子あたり4つのカルシウムイオンが結合可能)、小胞体におけるカルシウム貯蔵に関与するタンパク質である。
カルモジュリンをコードする遺伝子としては、例えば、Calm1遺伝子、Calm2遺伝子、Calm3遺伝子等が挙げられる。
カルパインとは、細胞内のカルシウム濃度の上昇に伴い、カルシウムが結合することにより活性化され、標的タンパク質の一部を分解することで、標的タンパク質の機能を不可逆的に変化させる細胞内プロテアーゼである。
カルパインをコードする遺伝子としては、例えば、カルパイン1(Capn1)遺伝子、カルパイン2(Capn2)遺伝子、カルパイン3(Capn3)遺伝子、カルパイン5(Capn5)遺伝子、カルパイン6(Capn6)遺伝子、カルパイ7(Capn7)遺伝子、カルパイン8(Capn8)遺伝子、カルパイン9(Capn9)遺伝子、カルパイン10(Capn10)遺伝子、カルパイン11(Capn11)遺伝子、カルパイン12(Capn12)遺伝子、カルパイン13(Capn13)遺伝子、カルパイン14(Capn14)遺伝子、カルパイン15(Capn15)遺伝子、アンドログロビン(Adgb)遺伝子、カルパインスモールサブユニット1(calpain small−subunit1;css1)(Cpns1)遺伝子、カルパインスモールサブユニット2(calpain small−subunit1;css2)(Cpns2)遺伝子等が挙げられる。
カルシニューリンとは、脳神経系に豊富に発現するカルシウム−カルモジュリン依存的セリン−スレオニンタンパク質脱リン酸化酵素であり、触媒サブユニットであるカルシニューリンAとカルシウム結合(調節)サブユニットであるカルシニューリンBとからなる。細胞内のカルシウム濃度の上昇に伴い、カルシウム結合(調節)サブユニットにカルシウムが結合すると、カルモジュリン(カルシウムにより活性化される)と結合し、触媒サブユニットが活性化され、標的タンパク質を脱リン酸化し、これによりシグナル伝達に関与する。
カルシニューリンをコードする遺伝子としては、カルシニューリンAファミリー遺伝子群(Ppp3ca遺伝子、Ppp3cb遺伝子、Ppp3cc遺伝子)、カルシニューリンBファミリー遺伝子群(Ppp3r1遺伝子、Ppp3r2遺伝子)等が挙げられる。
c−PKCとは、カルシウム依存性のタンパク質リン酸化酵素であり、標的タンパク質のセリン又はトレオニンのリン酸エステル化反応を触媒する。
c−PKCをコードする遺伝子としては、例えば、PKCα(Prkca)遺伝子、PKCβI(Prkcb)遺伝子、PKCβII遺伝子、PKCγ(Prkcg)遺伝子等が挙げられる。
CaMKとは、細胞内のカルシウム濃度の上昇に伴い、カルシウム−カルモジュリン複合体の直接結合により活性化される、カルシウム−カルモジュリン依存的セリン−スレオニンタンパク質リン酸化酵素である。本明細書において、CaMKは、脳内に豊富に存在することから、特に、複数のタンパク質をリン酸化する多機能性カルシウム−カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素を意味する。多機能性カルシウム−カルモジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素には、CaMKI、CaMKII、CaMKIVの3つのサブファミリーが存在する。
CaMKをコードする遺伝子としては、例えば、CaMKIサブファミリー遺伝子群(Camk1遺伝子、Pnck遺伝子、Camk1g遺伝子、Camk1d遺伝子)、CAMKIIサブファミリー遺伝子群(Camk2a遺伝子、Camk2b遺伝子、Camk2g遺伝子、Camk2d遺伝子)、CAMKIIサブファミリー遺伝子(Camk4遺伝子)等が挙げられる。中でも、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させた際に睡眠障害の表現型を顕著に示すことから、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させるカルシウム依存性カリウムチャネルをコードする遺伝子としては、Camk2a遺伝子又はCamk2b遺伝子であることが好ましい。
PLCとは、細胞内のカルシウム濃度の上昇に伴い、カルシウムが結合することにより活性化し、リン酸エステル基の直前でリン脂質を切断する酵素である。PLCは、ホスファチジルイノシトール4,5−ビスリン酸(PIP)をジアシルグリセロール(DAG) 及びイノシトール1,4,5−トリスリン酸(IP)へと切断する。切断されたIPは、上述のIPRを活性化させる。PLCは、6種類のアイソタイプ(β、γ、δ、ε、η、ζ)に分類される。
PLCをコードする遺伝子としては、例えば、PLCβファミリー遺伝子群(Plcb1遺伝子、Plcb2遺伝子、Plcb3遺伝子、Plcb4遺伝子)、PLCγファミリー遺伝子群(Plcg1遺伝子、Plcg2遺伝子)、PLCδファミリー遺伝子群(Plcd1遺伝子、Plcd3遺伝子、Plcd4遺伝子)、PLCε遺伝子(Plce1遺伝子)、PLCη遺伝子ファミリー遺伝子群(Plch1遺伝子、Plch2遺伝子)、PLCζ遺伝子(Plcz1遺伝子)、Phospholipase C−likeファミリー遺伝子群(Plcl1遺伝子、Plcl2遺伝子)等が挙げられる。
S100Bタンパク質とは、脳での発現の多く、EFハンド型カルシウム結合性ドメイン(loop−helix−loop)を有する、分子量が8〜14kDa程度の低分子量のS100タンパク質群の一つである。S100Bタンパク質は、中でもグリア細胞の一種であるアストロサイトに選択的に発現することが知られている。
S100Bタンパク質をコードする遺伝子としては、例えば、S100b遺伝子等が挙げられる。
本明細書において、「機能の全部又は一部が欠損している」とは、標的遺伝子(本発明においては、『カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子』)が、変更、削除、置換或いは挿入等される、又は相同組換えされることにより、本来の標的遺伝子が欠損、欠失又は変化し、標的遺伝子の全部又は一部が発現できず、標的遺伝子の生理的機能の全部又は一部を果たすことができない状態を意味する。「機能の全部又は一部が欠損している」状態において、相同染色体上の標的遺伝子の片方が欠損、欠失又は変化していてもよく、両方が欠損、欠失又は変化していてもよい。
すなわち、本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物は、標的遺伝子がノックアウト或いはノックダウンされた非ヒト動物、又は標的遺伝子に外来遺伝子がノックインされた非ヒト動物である。
さらに、本明細書において、「機能の全部又は一部が欠損している」とは、薬物等の化合物により、標的遺伝子(本発明においては、『カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子』)の転写又は翻訳の全部又は一部が抑制される、又は前記化合物が発現したタンパク質に結合することにより、機能の全部又は一部が阻害されている状態を意味する。
すなわち、本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物は、化合物存在下で標的遺伝子の機能の全部又は一部が阻害された非ヒト動物である。
本明細書において、変更、削除、置換或いは挿入等される、又は相同組換えされることを「遺伝子を改変する」と称する場合がある。
本明細書において、上述の用語「変更」、「削除」、「挿入」及び「置換」等の遺伝子改変手段は、限定した意味で使用されているものではない。また、いずれかの遺伝子改変手段に厳密に区別して使用する意図で用いる必要もなく、結果としていずれかの遺伝子改変手段によりカルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子が改変されてカルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子の発現が抑制され、その機能の全部又は一部が不能になっていることを意味するものとして使用される。しかしながら、上述の手段は、一般的には、後述のような意味として使用しているものと理解することができる。
つまり、一般的には、ゲノムDNAの「変更」とは、標的遺伝子のゲノムDNAフラグメントの1つ又はそれ以上の塩基が変更して、標的遺伝子の発現産物の全部又は一部が機能しないようにすることを意味する。
ゲノムDNAの「削除」とは、標的遺伝子のゲノムDNAフラグメントの全部又は一部を欠失させることにより、標的遺伝子の発現産物の全部或いは一部が機能しない、又は存在しないようにすることを意味する。
ゲノムDNAの「置換」とは、標的遺伝子のゲノムDNAフラグメントの全部又は一部を標的遺伝子とは関連しない別個の配列により置換し、標的遺伝子の発現産物の全部或いは一部が機能しない、又は存在しないようにすることを意味する。
ゲノムDNAの「挿入」とは、標的遺伝子中に、それ以外の配列を有するDNAを挿入することにより、当該標的遺伝子以外のDNAを挿入した標的遺伝子の発現産物の全部或いは一部が機能しない、又は存在しないようにすることを意味する。
また、遺伝子の変更、削除、挿入又は置換等の遺伝子改変手段は、2つ以上の方法を組み合わせて、標的遺伝子に対して同時に使用されていてもよい。
また、上述のカルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子において、単独の遺伝子を改変させてもよく、2つ以上の遺伝子を同時に改変させてよい。
本実施形態において、用いられる非ヒト動物としては、睡眠する非ヒト動物であれば、特別な限定はなく、例えば、神経システムの比較的発達した無脊椎動物(例えば、昆虫類(例えば、ショウジョウバエ、ミツバチ等)、甲殻類(例えば、サソリ等)等の節足動物、軟体動物(例えば、アメフラシ等)等)、脊椎動物(例えば、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類)等が挙げられる。中でも、脊椎動物が好ましく、鳥類又は哺乳類がより好ましく、哺乳類がさらに好ましい。哺乳類としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、マーモセット、サル等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ等の齧歯目の哺乳類が好ましい。
マウスとしては、例えば、純系としてはC57BL/6系統、DBA2系統等が挙げられ、交雑系としてはB6C3F1系統、BDF1系統、B6D2F1系統、BALB/c系統、ICR系統等が挙げられ、これらに限定されない。ラットの具体例としては、例えば、Wistar、SD等が挙げられ、これらに限定されない。
<睡眠障害モデル非ヒト動物の作製方法>
本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物は、標的遺伝子(本発明においては、『カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子』)を改変するための公知の遺伝子改変技術を用いて、作製することができる。
また、本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物は、野生型の非ヒト動物に、標的遺伝子(本発明においては、『カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子』)の機能を阻害する化合物を投与することにより、作製することができる。投与する化合物は、標的遺伝子の種類により、適宜選択することができる。例えば、NMDA型グルタミン酸受容体に直接結合する阻害剤としては、例えば、phencyclidine(PCP)、MK−801等が挙げられる。投与量は、対象となる非ヒト動物の年齢、性別、体重、症状、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。投与回数としては、1週間平均当たり、1回〜数回投与することが好ましい。投与形態としては、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法が挙げられる。
[ノックアウト又はノックインによる睡眠障害モデル非ヒト動物の作製方法]
本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物において、標的遺伝子をノックアウトされた非ヒト動物を作製する場合、又は標的遺伝子に外来遺伝子がノックインされた非ヒト動物を作製する場合に、用いられる公知の遺伝子改変技術としては、CRISPRシステム、Transcription Activator−Like Effector Nucleases(TALEN)を用いた方法、ジンクフィンガーヌクレアーゼを用いた方法、公知の相同組換え方法(例えば、外来遺伝子と該外来遺伝子の上流(5’側)及び下流(3’側)に標的遺伝子の挿入を行う遺伝子座と相同な配列を有する遺伝子を含むベクターを用いることで、対象となる非ヒト動物に導入する方法等)等が挙げられる。中でも、選択的且つ部位特異的に遺伝子を改変できることから、本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物は、従来のCRISPRシステムを活用した遺伝子改変技術を用いて作製することが好ましい。従来のCRISPRシステムを活用した遺伝子改変技術によれば、本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物を効率よく得ることができる。
従来のCRISPRシステムを活用した遺伝子改変技術を用いて、本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物を作製する方法を、以下に詳細に説明する。
(導入工程)
まず、睡眠障害モデルを構築したい非ヒト動物由来の受精卵に、Cas9タンパク質及びガイドRNAを導入する。ガイドRNAの導入方法としては、公知の遺伝子導入の手法(例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法等)を用いることができる。中でも、操作が簡便であることから、エレクトロポレーション法であることが好ましい。用いられる受精卵の由来元となる非ヒト動物としては、上述の<<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示したものと同様のものが挙げられる。
2つ以上の複数の遺伝子を標的遺伝子とする場合は、それぞれの遺伝子の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを5’末端領域に含むガイドRNAを2種類以上設計し、導入すればよい。これにより、複数の異なる遺伝子又は同一遺伝子内の複数箇所を同時に高効率で編集することができる。
Cas9タンパク質及びガイドRNAの導入後、前記受精卵を対応する非ヒト動物の子宮又は卵管へ移植し、発生させることで、睡眠障害モデル非ヒト動物を簡便に得ることができる。また、得られた睡眠障害モデル非ヒト動物において、標的遺伝子がヘテロ型遺伝子改変(ゲノム上の一方のアリルが改変された)非ヒト動物であった場合、該ヘテロ型遺伝子改変非ヒト動物同士を交配させることにより、ホモ型遺伝子改変(ゲノム上の両方のアリルが改変された)非ヒト動物を得ることができる。
本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物には、上述のヘテロ型遺伝子改変非ヒト動物及びホモ型遺伝子改変非ヒト動物の子孫も含まれる。
「Cas9」とは、細菌及び古細菌において侵入外来核酸に対する獲得耐性を提供する適応免疫系を構成するCasタンパク質ファミリーの一つであり、外来侵入性DNA中のPAM配列を認識して、その上流で二本鎖DNAを平滑末端になるように切断するエンドヌクレアーゼである。本明細書において、Cas9は、ガイドRNAと複合体を形成し、DNA切断活性を有するものを意味する。
本明細書において、Casタンパク質ファミリーとしては、例えば、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1及びCsx12としても公知)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、それらのホモログ、又はそれらの改変されたもの等が挙げられる。
Cas9は、標的遺伝子中のPAM配列の最初又は最後のヌクレオチドから、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、100、200、500又はそれ以上の塩基対以内での、一方又は両方の鎖の切断を指向する。PAM配列の上流の何bpのところを切断するかはCas9の由来となる細菌種によって異なるが、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes:S.pyogenes)を含め大部分のCas9はPAM配列の3塩基上流を切断する。
また、本実施形態で用いられるCas9としては、標的配列を含む標的遺伝子の一方又は両方の鎖を切断する能力を欠如している改変体であってよい。例えば、S.pyogenes由来のCas9のRuvC I触媒ドメイン中のアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、Cas9を、両方の鎖を切断するヌクレアーゼからニッカーゼ(一本鎖を切断する)に変換する。Cas9をニッカーゼにする変異の他の例には、H840A、N854A及びN863Aが含まれ、これらに限定されない。また、Cas9の2つ以上の触媒ドメイン(RuvC I、RuvC II及びRuvC III)は、全てのDNA切断活性を実質的に欠く変異したCas9を生産することができる。この場合、その他のDNA切断活性を有する酵素と融合したキメラ酵素であることが好ましい。D10A変異は、全てのDNA切断活性を実質的に欠くCas9を生産するために、H840A、N854A又はN863A変異のうち1つ又は複数と組み合わされていてもよい。変異したCas9のDNAの切断活性が、その非変異形態に対して約25%、10%、5%、1%、0.1%又は0.01%未満の場合に、全てのDNA切断活性を実質的に欠くとみなされる。
本明細書において、「ガイドRNA」とは細菌及び古細菌において侵入外来核酸に対する獲得耐性を提供する適応免疫系を構成する、外来配列(ガイド配列)を含む小さなRNA断片(CRISPR−RNA:crRNA)と該crRNAと一部相補的なRNA(trans−activating crRNA:tracrRNA)とを融合させたtracrRNA−crRNAキメラのヘアピン構造を模倣したものである。本実施形態におけるガイドRNAは、標的遺伝子中のPAM配列の1塩基上流から、好ましくは20塩基以上24塩基以下、より好ましくは22塩基以上24塩基以下までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを5’末端領域に含むものである。さらに、標的遺伝子と非相補的な塩基配列を含み、一点を軸として対称に相補的な配列になるように並び、ヘアピン構造をとり得る塩基配列からなるポリヌクレオチドを1つ以上含んでいてもよい。
本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物を作製する方法において、標的遺伝子は、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子である。カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において、例示したものと同様のものが挙げられる。カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子は遺伝子内又は近傍にPAM配列を有することが好ましい。
本明細書において、「PAM配列」とはCas9により認識され得る配列であって、PAM配列の長さや塩基配列はCas9の由来となる細菌種によってさまざまである。例えば、S.pyogenesでは「NGG」(Nは任意の塩基を表す)の3塩基を認識する。Streptococcus thermophilus(S.thermophilus)は2つのCas9を持っており、それぞれ「NGGNG」又は「NNAGAA」(Nは任意の塩基を表す)の5〜6塩基をPAM配列として認識する。認識するPAM配列が短く編集可能な標的遺伝子が制限されにくいことから、PAM配列は「NGG」であることが好ましい。
また、導入工程において、Cas9タンパク質の代わりに、Cas9タンパク質をコードする塩基配列からなるRNA或いはcDNAを含むベクターを導入してもよい。
本実施形態において、Cas9をコードする塩基配列は、真核生物細胞等の特定の細胞における発現のためにコドン最適化されていてもよい。真核生物細胞としては、特定の生物、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ又は非ヒト霊長類等が挙げられ、これらに限定されない。一般に、コドン最適化とは、ネイティブのアミノ酸配列を維持しつつ、ネイティブの配列の少なくとも1つのコドンを、導入される動物種の遺伝子においてより頻繁に又は最も頻繁に使用されるコドンで置き換えることによって、導入される動物種における増強された発現のために核酸配列を改変するプロセスを指す。種々の種が、特定のアミノ酸の特定のコドンについて特定のバイアスを示す。コドンバイアス(生物間のコドン使用頻度における差異)は、mRNAの翻訳効率と相関する場合が多く、これは、翻訳されているコドンの特性及び特定のtRNAの利用可能性にとりわけ依存すると考えられている。細胞中の選択されたtRNAの優勢は、一般に、ペプチド合成において最も頻繁に使用されるコドンの反映である。従って、遺伝子は、コドン最適化に基づいて、所与の生物における最適な遺伝子発現のために個別化され得る。コドン使用頻度表は、例えば、www.kazusa.or.jp/codon/(2015年12月16日に訪問)に掲載されている「Codon Usage Database」において容易に入手可能であり、これらの表を用いて、コドンを最適化することができる(例えば、Nakamura,Y.ら「Codon usage tabulated from the international DNA sequence databases:status for the year 2000」Nucl. Acids Res. 28:292 (2000)、参照)。特定の動物種における発現のために特定の配列をコドン最適化するためのコンピューターアルゴリズムについても、例えば、Gene Forge(Aptagen社;Jacobus、PA)等において入手可能である。本実施形態において、Cas9をコードする配列中の1つ又は複数のコドンは、特定のアミノ酸について最も頻繁に使用されるコドンに対応する。
本実施形態において、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクターは、発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターとしては特に制限されず、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のプラスミド;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のプラスミド;pSH19、pSH15等の酵母由来プラスミド;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、肝炎ウイルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。
本実施形態において、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクターは、該Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAに作動可能に連結された、プロモーターを含んでいてもよい。プロモーターとしては、例えば、ウイルス性プロモーター、発現誘導性プロモーター、組織特異的プロモーター又はエンハンサー配列やプロモーター配列を融合させたプロモーター等が挙げられる。上記プロモーターは、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAの上流(5’側)に連結されていることが好ましい。
本明細書において、「ウイルス性プロモーター」とは、ウイルス由来のプロモーターを意味する。由来となるウイルスとしては、例えばサイトメガロウイルス、モロニー白血病ウイルス、JCウイルス、乳癌ウイルス、シミアンウイルス、レトロウイルス等が挙げられる。
本明細書において、「発現誘導性プロモーター」とは、化学薬剤、物理的ストレスなどの特定の刺激を与えたときに発現させたい遺伝子(本実施形態においては、Cas9遺伝子)を発現することができ、刺激の非存在下では発現活性を示さないプロモーターを意味する。発現誘導性プロモーターとしては、例えば、TetO(テトラサイクリンオペレーター)プロモーター、メタロチオネイン(metallothionine)プロモーター、IPTG/lacIプロモーター系、エクジソンプロモーター系、及び翻訳又は転写についての阻害配列を不可逆的に欠失させるための「lox stop lox」系等が挙げられ、これらに限定されない。
本明細書において、「組織特異的プロモーター」とは、特定の組織においてのみ活性を有するプロモーターを意味する。組織特異的プロモーターとしては、例えば、黒色腫細胞又はメラニン細胞の場合は、チロシナーゼプロモーター又はTRP2プロモーター;乳房細胞又は乳癌の場合は、MMTVプロモーター又はWAPプロモーター;腸細胞又は腸癌の場合は、ビリンプロモーター又はFABPプロモーター;膵細胞の場合は、PDXプロモーター;膵ベータ細胞の場合は、RIPプロモーター;ケラチノサイトの場合は、ケラチンプロモーター;前立腺上皮の場合は、プロバシンプロモーター;中枢神経系(CNS)の細胞又は中枢神経系の癌の場合は、ネスチンプロモーター又はGFAPプロモーター;ニューロンの場合は、チロシンヒドロキシラーゼ、S100プロモーター又は神経フィラメントプロモーター;Edlundら、Science, 230:912-916(1985)に記載される、膵臓特異的プロモーター;肺癌の場合は、クラーラ細胞分泌タンパク質プロモーター;心細胞の場合は、αミオシンプロモーター等が挙げられ、これらに限定されない。
エンハンサー配列やプロモーター配列を融合させたプロモーターとしては、例えば、シミアンウイルス40(SV40)の初期遺伝子のプロモーターとヒトT細胞白血病ウイルス1のロング・ターミナル・リピートの一部の配列からなるSRαプロモーター、サイトメガロウイルスの前初期(IE)遺伝子エンハンサーとニワトリβ−アクチンプロモーターからなるCAGプロモーター等が挙げられる。特に、CAGプロモーターは、発現させたい遺伝子(本実施形態においては、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNA)の3’末端にウサギのβ−グロビン遺伝子のpolyA signalサイトを有することにより、発現させたい遺伝子(本実施形態においては、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNA)をほぼ全身で過剰発現させることができる。
中でも、プロモーターとしては、全身で恒常的に高発現させたい場合においては、ウイルス性プロモーター又はCAGプロモーターであることが好ましい。また、Cas9の発現する時期又は発現する組織を調整した場合においては、発現誘導性プロモーター又は組織特異的プロモーターであることが好ましい。
本明細書において、「作動可能に連結」とは、遺伝子発現制御配列(例えば、プロモーター又は一連の転写因子結合部位)と発現させたい遺伝子(本実施形態においては、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNA)との間の機能的連結を意味する。ここで、「発現制御配列」とは、その発現させたい遺伝子(本実施形態においては、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNA)の転写を指向するものを意味する。
本実施形態において、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクターは、該Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAの下流(3’側)に、mRNAの3’末端のポリアデニル化に必要なポリアデニル化シグナルが作動可能に連結されていてもよい。ポリアデニル化シグナルとしては、上記のウイルス由来、各種ヒト又は非ヒト動物由来の各遺伝子に含まれるポリアデニル化シグナル、例えば、SV40の後期遺伝子又は初期遺伝子、ウサギβグロビン遺伝子、ウシ成長ホルモン遺伝子、ヒトA3アデノシン受容体遺伝子等のポリアデニル化シグナル等を挙げることができる。その他Cas9タンパク質をコードする塩基配列からなるRNA或いはcDNAをさらに高発現させるために、各遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域、イントロンの一部をプロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間或いは翻訳領域の3’下流に連結してもよい。
本実施形態において、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクターは、該Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAの上流(5’側)又は下流(3’側)に、1つ又は複数の核局在化配列(NLS)が作動可能に連結されていてもよい。
NLSとしては、例えば、アミノ酸配列PKKKRKV(配列番号1)を有する、SV40ウイルスラージT抗原のNLS;ヌクレオプラスミン由来のNLS(例えば、配列KRPAATKKAGQAKKKK(配列番号2)を有するヌクレオプラスミンの二分NLS);アミノ酸配列PAAKRVKLD(配列番号3)又はRQRRNELKRSP(配列番号4)を有するc−myc NLS;配列NQSSNFGPMKGGNFGGRSSGPYGGGGQYFAKPRNQGGY(配列番号5)を有するhRNPA1 M9 NLS;インポーチン−アルファ由来のIBBドメインの配列RMRIZFKNKGKDTAELRRRRVEVSVELRKAKKDEQILKRRNV(配列番号6);筋腫Tタンパク質の配列VSRKRPRP(配列番号7)及びPPKKARED(配列番号8);ヒトp53の配列PQPKKKPL(配列番号9);マウスc−abl IVの配列SALIKKKKKMAP(配列番号10);インフルエンザウイルスNS1の配列DRLRR(配列番号11)及びPKQKKR(配列番号12);肝炎ウイルスデルタ抗原の配列RKLKKKIKKL(配列番号13);マウスMx1タンパク質の配列REKKKFLKRR(配列番号14);ヒトポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼの配列KRKGDEVDGVDEVAKKKSKK(配列番号15);ステロイドホルモンレセプター(ヒト)グルココルチコイドの配列RKCLQAGMNLEARKTKK(配列番号16)等が挙げられ、これらに限定されない。
本実施形態において、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクターは、該Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAの上流(5’側)又は下流(3’側)に、1つ又は複数の蛍光タンパク質等のマーカー遺伝子が作動可能に連結されていてもよい。蛍光タンパク質としては、例えば、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein:GFP)、黄色蛍光タンパク質(Yellow Fluorescent Protein:YFP)、青色蛍光タンパク質(Blue Fluorescent Protein:BFP)、シアン蛍光蛋白質(Cyan Fluorescent Protein)、赤色蛍光蛋白質(Red FluorescentProtein)等が挙げられる。
導入工程において、ガイドRNAとともに外来遺伝子を導入してもよい。外来遺伝子を一緒に導入することにより、標的遺伝子が切断後、相同組換えにより標的遺伝子は外来遺伝子に置換(ノックイン)され、標的遺伝子の発現の全部又は一部が抑制されることにより、睡眠障害モデル非ヒト動物を得ることができる。
外来遺伝子は、該外来遺伝子を含むベクターを用いて導入することが好ましい。使用するベクターとしては、発現ベクターが好ましい。発現ベクターとしては、上述の「Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクター」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
また、外来遺伝子を含むベクターは、外来遺伝子の5’末端及び3’末端に、標的遺伝子の挿入を行う部位と相同な配列を有するDNAが連結されていることが好ましい。標的遺伝子の挿入を行う部位と相同な配列を有するDNAの塩基数としては、100塩基以上300塩基以下であることが好ましい。
外来遺伝子を含むベクターは、さらに、外来遺伝子の5’末端又は3’末端に、上述のプロモーター、ポリアデニル化シグナル、NLS、蛍光タンパク質のマーカー遺伝子等が作動可能に連結されていてもよい。
(切断工程)
受精卵に導入されたCas9タンパク質(Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクターから発現されたCas9タンパク質も含む)と、ガイドRNAとは、温和な条件で混合することで、Cas9−ガイドRNA複合体を形成する。温和な条件とは、タンパク質が分解又は変性しない程度の温度及びpHを示しており、温度は4℃以上40℃以下であればよく、pHは4以上10以下であればよい。よって、生きた受精卵内においても、前記Cas9−ガイドRNA複合体を形成することができる。
前記Cas9−ガイドRNA複合体は、ガイドRNAの一部が標的遺伝子に結合し、Cas9が標的遺伝子中のPAM配列を認識する。続いて、3塩基上流に位置する切断部位で前記標的遺伝子を切断し、平滑末端を作製する。より具体的には、Cas9がPAM配列を認識し、PAM配列を起点として、標的遺伝子の二重らせん構造が引き剥され、ガイドRNA中の標的遺伝子に相補的な塩基配列とアニーリングすることで、標的遺伝子の二重らせん構造が部分的にほぐれる。このとき、Cas9は、PAM配列の3塩基上流に位置する切断部位で、標的遺伝子のリン酸ジエステル結合を切断し、平滑末端を作出する。
(改変工程)
続いて、前記ガイドRNAと前記標的遺伝子の相補的結合によって決定される領域において、標的遺伝子の機能の全部或いは一部が破壊(ノックアウト)又は置換(ノックイン)された睡眠障害モデル非ヒト動物を得ることができる。
本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物が得られたことの確認については、組織から染色体DNAを抽出しサザンブロット法やPCR法で行うことができる。さらに、組織からRNAを抽出し、ノーザンブロット解析により遺伝子の発現パターンを解析することもできる。目的遺伝子がコードするタンパク質に対する抗体を用いてウエスタンブロッティングを行なってもよい。
また、樹立した動物系統について、ヘテロ型遺伝子改変非ヒト動物及びホモ型遺伝子改変非ヒト動物の表現型を解析することもできる。
[ノックダウンによる睡眠障害モデル非ヒト動物の作製方法]
また、本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物において、標的遺伝子をノックダウンされた非ヒト動物を作製する場合に、用いられる公知の遺伝子改変技術としては、RNAi誘導性核酸(例えば、siRNA、miRNA等)を用いる方法等が挙げられ、これに限定されない。例えば、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子、又は該遺伝子に相補的な配列を有する遺伝子に対するsiRNA(small interfering RNA)を設計及び合成し、これを、レトロウイルスベクターやアデノウイルスベクターに組み込んで非ヒト動物に導入することによりRNAiを引き起こすことができる。
「ノックダウン」とは、特定の遺伝子の発現量を抑制することを意味する。遺伝子の発現量の抑制は、例えば、遺伝子の転写量を減少させること、翻訳を阻害することなどにより、達成することができる。本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物において、ノックダウン非ヒト動物とは、該動物のカルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子の発現量が、野生型と比較して低下している動物をいう。
「RNAi」とは、dsRNA(double−strand RNA)が標的遺伝子に特異的かつ選択的に結合し、当該標的遺伝子を切断することによりその発現を効率よく阻害する現象である。例えば、dsRNAを非ヒト動物に導入すると、そのRNAと相同配列の遺伝子の発現が抑制(ノックダウン)される。
RNAi誘導性核酸を用いて、本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物を作製する方法を、以下に詳細に説明する。
(siRNAの設計)
まず、標的遺伝子に対するsiRNAを設計する。siRNAは、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子、又は該遺伝子に相補的な配列を有する遺伝子であれば特に限定されるものではなく、任意の領域を全て候補にすることが可能である。また、選択した領域から、AAで始まる配列であって長さが18〜30塩基のもの、或いは、AAを5’側に加えたときの長さが18〜30塩基、好ましくは19〜23塩基の配列を選択する。その配列のGC含量は、例えば30〜70%となるものを選択すればよく、50%前後が好ましい。また、そのGC分布に偏りがないものを選択するとよい。siRNAは、さらに、選択した配列の3’側にdT又はUの2残基のオーバーハングを加えるとよい。また、設計したsiRNAの塩基配列に対応するアミノ酸配列について、BLASTサーチをおこない、選択した配列に類似した配列を有するタンパク質が存在しないことを確認することが好ましい。
さらに、数種類のsiRNAを同時に非ヒト動物に導入することにより、遺伝子の発現をより効果的に抑制できることがある。また、数種類のsiRNAを同時に非ヒト動物に導入することにより、2つ以上の標的遺伝子の発現を抑制することができる。
siRNA合成法としては、例えば、Dicer法等が挙げられる。Dicer法によるsiRNA合成法は、以下の通りである。まず、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子、又は該遺伝子に相補的な配列を有する遺伝子をコードする遺伝子の配列のスタートコドンから500bp〜1kbpの遺伝子配列をベクター等に組み込み、その遺伝子配列のセンスRNAとアンチセンスRNAを転写させた後、アニーリングしてdsRNAを作製する。次に、RNaseIIIファミリーに属するDicer Enzymeにより、このds−RNAを3’末端側に2塩基の突出末端をもつ21〜23塩基のsiRNAにプロセッシングさせることで、合成することができる。
また、siRNAの代わりに、shRNAを使用することもできる。shRNA とは、ショートヘアピンRNA(short hairpin RNA)と呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。このステムループ構造を有するRNA分子は生体内のDicer等によりプロセッシングを受け、siRNAが産生される。
shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を「配列A」とし、配列Aに対する相補鎖を「配列B」とすると、配列A、スペーサー、配列Bの順になるようにこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するようにし、全体で42〜120塩基の長さとなるように設計する。配列Aは、標的となるカルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子、又は該遺伝子に相補的な配列を有する遺伝子をコードする遺伝子の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列Aの長さは18〜50塩基、好ましくは21〜30塩基である。
また、siRNAの代わりに、マイクロRNA(miRNA)を利用することもできる。miRNAは小分子RNAであり、自身と相補的な配列をもつmRNAからのタンパク質への翻訳を阻害することにより、特定の遺伝子の発現を抑制することができる。
miRNAは、特定の遺伝子のmRNAを認識するように設計することができる。そのように設計するmiRNAの塩基配列の長さは、例えば、18〜25塩基(例えば、約22塩基)である。
(siRNAの導入)
続いて、睡眠障害モデルを構築したい非ヒト動物の体内に、設計したsiRNAを導入する。導入方法としては、注射剤等を用いた、皮下投与方法、静脈内投与方法、腹腔内投与等が挙げられる。
siRNAの代わりに、siRNAをコードするDNAを含むベクターを導入してもよい。発現ベクターが好ましい。発現ベクターとしては、上述の「Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクター」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
siRNAをコードするDNAは、さらに、siRNAをコードするDNAの5’末端又は3’末端に、上述のプロモーター、ポリアデニル化シグナル、NLS、蛍光タンパク質のマーカー遺伝子等が作動可能に連結されていてもよい。
本実施形態の睡眠障害モデル非ヒト動物が得られたことの確認については、上述の[ノックアウト又はノックダウンによる睡眠障害モデル非ヒト動物の作製方法]において、例示したものと同様の方法が挙げられる。
<<睡眠障害評価用動物細胞>>
一実施形態において、本発明は、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子の機能の全部又は一部が欠損している、睡眠障害評価用動物細胞を提供する。
本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞は、簡便に作製することができ、安定した睡眠パターンの表現型を呈する。また、前記睡眠障害評価用動物細胞の細胞質のカルシウム濃度を測定することにより、睡眠障害の程度を簡単に評価することができる。
<カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子>
本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞において、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様に、例えば、神経細胞の細胞膜上、ミトコンドリア膜上又は小胞体膜上に存在するタンパク質、細胞質内に存在し、カルシウムの結合により機能が調節されるタンパク質等が挙げられる。
[細胞膜上、ミトコンドリア膜上、小胞体膜上或いはエンドソーム膜上に存在するタンパク質]
神経細胞の細胞膜上に存在するタンパク質としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様に、例えば、電位依存性カルシウムチャネル、TRPチャネル、SOCチャネル、AMPA型グルタミン酸受容体、カイニン酸型グルタミン酸受容体、NMDA型グルタミン酸受容体、カルシウム依存性カリウムチャネル、PMCA、CaCAファミリータンパク質、HCNチャネル、CNGチャネル、TPC、酸感受性イオンチャネル、Cys−loop受容体、P2X受容体、カルシウムユニポーター、BCL−2 likeサブファミリータンパク質、IPR、TRICチャネル、リアノジン受容体等が挙げられる。
電位依存性カルシウムチャネルをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、脳に多く発現し、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させた際に睡眠障害の表現型を顕著に示すことから、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させる電位依存性カルシウムチャネルをコードする遺伝子としては、Cacna1g遺伝子又はCacna1h遺伝子であることが好ましい。
TRPチャネルをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
SOCチャネルをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
AMPA型グルタミン酸受容体をコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
カイニン酸型グルタミン酸受容体をコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
NMDA型グルタミン酸受容体をコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させた際に睡眠障害の表現型を顕著に示すことから、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させるNMDA型グルタミン酸受容体をコードする遺伝子としては、Nr2a遺伝子又はNr2b遺伝子であることが好ましい。
カルシウム依存性カリウムチャネルをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させた際に睡眠障害の表現型を顕著に示すことから、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させるカルシウム依存性カリウムチャネルをコードする遺伝子としては、Kcnn2遺伝子又はKcnn3遺伝子であることが好ましい。
PMCAをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させた際に睡眠障害の表現型を顕著に示すことから、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させるPMCAをコードする遺伝子としては、Atp2b3遺伝子であることが好ましい。
CaCAをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
HCNチャネルをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
CNGチャネルをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
TPCをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
酸感受性イオンチャネルをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
Cys−loop受容体をコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
P2X受容体をコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
カルシウムユニポーターをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
BCL−2 likeサブファミリータンパク質をコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
IPRをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
TRICチャネルをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
リアノジン受容体をコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
[カルシウムの結合により機能を調節されるタンパク質]
細胞質内に存在するカルシウムの結合により機能を調節されるタンパク質としては、例えば、カルモジュリン、カルパイン、カルシニューリン、在来型プロテインキナーゼC(conventional/classical−Protein kinase;c−PKC)、カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ(calcium/calmodulin−dependent protein kinase;CaMK)、ホスホリパーゼC(phospholipase C;PLC)、S100Bタンパク質等が挙げられる。
カルモジュリンをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
カルパインをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
カルシニューリンをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
c−PKCをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
CaMKをコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させた際に睡眠障害の表現型を顕著に示すことから、遺伝子の機能の全部又は一部を欠損させるカルシウム依存性カリウムチャネルをコードする遺伝子としては、Camk2a遺伝子又はCamk2b遺伝子であることが好ましい。
PLCをコードする遺伝子としては、例えば、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
S100Bタンパク質をコードする遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
本実施形態において、用いられる動物細胞としては、睡眠する動物由来の細胞であれば、特別な限定はない。由来となる動物としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。また、ヒト由来の細胞も含む。
細胞の種類としては、細胞質内のカルシウムイオン濃度が測定可能なものであれば、特別な限定はなく、例えば、生殖細胞(精子、卵子等)、生体を構成する体細胞、幹細胞、前駆細胞、生体から分離された癌細胞、生体から分離され不死化能を獲得して体外で安定して維持される細胞(細胞株)、生体から分離され人為的に遺伝子改変された細胞、生体から分離され人為的に核が交換された細胞等が挙げられる。
生体を構成する体細胞には、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(たとえば、平滑筋細胞、骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞、単核細胞等が挙げられる。
体細胞には、皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、大腸、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、血液、心臓、眼、脳、神経組織等の任意の組織から採取される細胞等が挙げられる。
幹細胞とは、自分自身を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力を兼ね備えた細胞であり、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞等が挙げられる。
前駆細胞とは、前記幹細胞から特定の体細胞または生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞である。
癌細胞とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞である。
細胞株とは、生体外での人為的な操作により無限の増殖能を獲得した細胞であり、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮頸癌細胞株)、HepG2(ヒト肝癌細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C−33A、HT−29、AE−1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five、Vero等が挙げられる。
本実施形態において、用いられる動物細胞としては、中でも、神経細胞であることが好ましい。
本明細書において、「神経細胞」とは、他の神経細胞或いは刺激受容細胞からの刺激を受け、別の神経細胞、筋或いは腺細胞に刺激を伝える機能を有する細胞を意味する。また、神経細胞は、細胞マーカー(例えば、β−チューブリン等)を発現しているものを意味する。
また、本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞は、神経細胞に分化し得る細胞として維持しておき、必要に応じて神経細胞に分化させてもよい。神経細胞に分化されていることは、例えば、抗β−チューブリン抗体により、細胞マーカーであるβ−チューブリンを検出することにより確かめることができる。神経細胞に分化し得る細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の万能細胞、神経幹細胞、神経前駆細胞等が挙げられる。
本明細書において、「神経幹細胞」とは、自己複製能を持つだけでなく、中枢神経系を構成する主要な細胞種であるニューロン、グリア細胞(例えば、アストロサイト、オリゴデンドロサイト等)のいずれにも分化する多分化能を有する幹細胞を意味する。この神経幹細胞から自己複製能を持つ少し分化した前駆細胞が分裂する。さらに、神経前駆細胞からは神経細胞、グリア前駆細胞からはグリア細胞が生み出される。
また、神経細胞に分化し得る細胞は、使用する培地に、神経細胞の分化を誘導する化合物を添加し培養することにより、神経細胞に分化誘導させることができる。また、該化合物を添加することにより、分化の速度をさらに早めることができ、また一定の分化方向に分化を制御することができる。神経細胞の分化を誘導する化合物としては、例えば、神経成長因子(Nerve growth factor;NGF)、dBu−cAMP、スタウロスポリン等が挙げられ、これら2種類以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
神経細胞の分化を誘導する化合物の濃度は、特に限定されず、1nM以上1μM以下であってよく、5nM以上500nM以下であってよい。上記範囲内であることにより、より効率的に神経細胞に分化し得る細胞から神経細胞へ分化誘導することができる。
<睡眠障害評価用動物細胞の作製方法>
本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞は、標的遺伝子(本発明においては、『カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子』)を改変するための公知の遺伝子改変技術を用いて、作製することができる。また、上述の睡眠障害モデル非ヒト動物から採取した細胞、これを株化した細胞を用いることもできる。
また、本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞は、野生型の動物細胞に、標的遺伝子(本発明においては、『カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子』)の機能を阻害する化合物を投与することにより、作製することができる。投与する化合物は、標的遺伝子の種類により、適宜選択することができる。例えば、NMDA型グルタミン酸受容体に直接結合する阻害剤としては、例えば、phencyclidine(PCP)、MK−801等が挙げられる。投与量は、対象となる動物細胞の数、処理時間、阻害剤の種類等を勘案して適宜調節される。投与回数としては、1日平均当たり、1回〜数回投与すればよい。投与形態としては、例えば、培地等に混合する方法が挙げられる。
[ノックアウト又はノックインによる睡眠障害評価用動物細胞の作製方法]
本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞において、標的遺伝子がノックアウトされた動物細胞を作製する場合、又は標的遺伝子に外来遺伝子がノックインされた動物細胞を作製する場合に、用いられる公知の遺伝子改変技術としては、上述の<睡眠障害モデル非ヒト動物の作製方法>において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、選択的且つ部位特異的に遺伝子を改変できることから、本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞は、従来のCRISPRシステムを活用した遺伝子改変技術を用いて作製することが好ましい。従来のCRISPRシステムを活用した遺伝子改変技術によれば、本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞を効率よく得ることができる。
従来のCRISPRシステムを活用した遺伝子改変技術を用いて、本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞を作製する方法を、以下に詳細に説明する。
(導入工程)
まず、睡眠障害を評価したい動物由来の細胞(好ましくは、神経細胞)に、Cas9タンパク質及びガイドRNAを導入する。ガイドRNAの導入方法としては、公知の遺伝子導入の手法(例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法等)を用いることができる。中でも、操作が簡便であることから、エレクトロポレーション法であることが好ましい。用いられる細胞の由来元となる動物としては、上述の<<睡眠障害評価用動物細胞>>において例示したものと同様のものが挙げられる。
2つ以上の複数の遺伝子を標的遺伝子とする場合は、それぞれの遺伝子の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを5’末端領域に含むガイドRNAを2種類以上設計し、導入すればよい。これにより、複数の異なる遺伝子又は同一遺伝子内の複数箇所を同時に高効率で編集することができる。
Cas9タンパク質及びガイドRNAの導入後、前記動物細胞を培養することで、睡眠障害評価用動物細胞を簡便に得ることができる。本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞には、睡眠障害評価用動物細胞を継代培養した細胞も含まれる。
本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞を作製する方法において、標的遺伝子は、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子である。カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子としては、上述の<<睡眠障害モデル非ヒト動物>>において、例示したものと同様のものが挙げられる。カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子は遺伝子内又は近傍にPAM配列を有することが好ましい。
また、導入工程において、Cas9タンパク質の代わりに、Cas9タンパク質をコードする塩基配列からなるRNA或いはcDNAを含むベクターを導入してもよい。
本実施形態において、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクターは、発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターとしては、特に制限されず、上述の<睡眠障害モデル非ヒト動物の作製方法>において例示したものと同様のものが挙げられる。
本実施形態において、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクターは、該Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAに作動可能に連結された、プロモーターを含んでいてもよい。プロモーターとしては、上述の<睡眠障害モデル非ヒト動物の作製方法>において例示したものと同様のものが挙げられる。
本実施形態において、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクターは、該Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAの下流(3’側)に、mRNAの3’末端のポリアデニル化に必要なポリアデニル化シグナルが作動可能に連結されていてもよい。ポリアデニル化シグナルとしては、上述の<睡眠障害モデル非ヒト動物の作製方法>において例示したものと同様のものが挙げられる。その他、Cas9タンパク質をコードする塩基配列からなるRNA或いはcDNAをさらに高発現させるために、各遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域、イントロンの一部をプロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間或いは翻訳領域の3’下流に連結してもよい。
本実施形態において、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクターは、該Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAの上流(5’側)又は下流(3’側)に、1つ又は複数の核局在化配列(NLS)が作動可能に連結されていてもよい。
NLSとしては、上述の<睡眠障害モデル非ヒト動物の作製方法>において例示したものと同様のものが挙げられる。
本実施形態において、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクターは、該Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAの上流(5’側)又は下流(3’側)に、1つ又は複数の蛍光タンパク質等のマーカー遺伝子が作動可能に連結されていてもよい。蛍光タンパク質としては、上述の<睡眠障害モデル非ヒト動物の作製方法>において例示したものと同様のものが挙げられる。
また、Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクターは、該Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAの上流(5’側)又は下流(3’側)に、1つ又は複数の薬剤耐性遺伝子が作動可能に連結されていてもよい。薬剤耐性遺伝子としては、ネオマイシン耐性遺伝子、ヒスティディノール耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。薬物耐性遺伝子を含むことにより、該薬物を含む培地を用いて細胞を培養することで、外来遺伝子が導入された細胞を選択することができる。
導入工程において、ガイドRNAとともに外来遺伝子を導入してもよい。外来遺伝子を一緒に導入することにより、標的遺伝子が切断後、相同組換えにより標的遺伝子は外来遺伝子に置換(ノックイン)され、標的遺伝子の発現の全部又は一部が抑制されることにより、睡眠障害評価用動物細胞を得ることができる。
外来遺伝子は、該外来遺伝子を含むベクターを用いて導入することが好ましい。使用するベクターとしては、発現ベクターが好ましい。発現ベクターとしては、上述の<睡眠障害モデル非ヒト動物の作製方法>において例示したものと同様のものが挙げられる。
また、外来遺伝子を含むベクターは、外来遺伝子の5’末端及び3’末端に、標的遺伝子の挿入を行う部位と相同な配列を有するDNAが連結されていることが好ましい。標的遺伝子の挿入を行う部位と相同な配列を有するDNAの塩基数としては、100塩基以上300塩基以下であることが好ましい。
外来遺伝子を含むベクターは、さらに、外来遺伝子の5’末端又は3’末端に、上述のプロモーター、ポリアデニル化シグナル、NLS、蛍光タンパク質のマーカー遺伝子、薬剤耐性遺伝子等が作動可能に連結されていてもよい。
(切断工程)
受精卵に導入されたCas9タンパク質(Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクターから発現されたCas9タンパク質も含む)と、ガイドRNAとは、温和な条件で混合することで、Cas9−ガイドRNA複合体を形成する。温和な条件とは、タンパク質が分解又は変性しない程度の温度及びpHを示しており、温度は4℃以上40℃以下であればよく、pHは4以上10以下であればよい。よって、生きた受精卵内においても、前記Cas9−ガイドRNA複合体を形成することができる。
前記Cas9−ガイドRNA複合体は、ガイドRNAの一部が標的遺伝子に結合し、Cas9が標的遺伝子中のPAM配列を認識する。続いて、3塩基上流に位置する切断部位で前記標的遺伝子を切断し、平滑末端を作製する。より具体的には、Cas9がPAM配列を認識し、PAM配列を起点として、標的遺伝子の二重らせん構造が引き剥され、ガイドRNA中の標的遺伝子に相補的な塩基配列とアニーリングすることで、標的遺伝子の二重らせん構造が部分的にほぐれる。このとき、Cas9は、PAM配列の3塩基上流に位置する切断部位で、標的遺伝子のリン酸ジエステル結合を切断し、平滑末端を作出する。
(改変工程)
続いて、前記ガイドRNAと前記標的遺伝子の相補的結合によって決定される領域において、標的遺伝子の機能の全部或いは一部が破壊(ノックアウト)又は置換(ノックイン)された睡眠障害評価用動物細胞を得ることができる。
本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞が得られたことの確認については、上述の[ノックアウト又はノックダウンによる睡眠障害モデル非ヒト動物の作製方法]において、例示したものと同様の方法が挙げられる。
[ノックダウンによる睡眠障害評価用動物細胞の作製方法]
また、本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞において、標的遺伝子をノックダウンされた動物細胞を作製する場合に、用いられる公知の遺伝子改変技術としては、RNAi誘導性核酸(例えば、siRNA、miRNA等)を用いる方法等が挙げられ、これに限定されない。例えば、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子、又は該遺伝子に相補的な配列を有する遺伝子に対するsiRNA(small interfering RNA)を設計及び合成し、これを、レトロウイルスベクターやアデノウイルスベクターに組み込んで非ヒト動物に導入することによりRNAiを引き起こすことができる。
RNAi誘導性核酸を用いて、本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞を作製する方法を、以下に詳細に説明する。
(siRNAの設計)
まず、標的遺伝子に対するsiRNAを設計する。siRNAは、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子、又は該遺伝子に相補的な配列を有する遺伝子であれば特に限定されるものではなく、任意の領域を全て候補にすることが可能である。また、選択した領域から、AAで始まる配列であって長さが18〜30塩基のもの、或いは、AAを5’側に加えたときの長さが18〜30塩基、好ましくは19〜23塩基の配列を選択する。その配列のGC含量は、例えば30〜70%となるものを選択すればよく、50%前後が好ましい。また、そのGC分布に偏りがないものを選択するとよい。siRNAは、さらに、選択した配列の3’側にdT又はUの2残基のオーバーハングを加えるとよい。また、設計したsiRNAの塩基配列に対応するアミノ酸配列について、BLASTサーチをおこない、選択した配列に類似した配列を有するタンパク質が存在しないことを確認することが好ましい。
さらに、数種類のsiRNAを同時に非ヒト動物に導入することにより、遺伝子の発現をより効果的に抑制できることがある。また、数種類のsiRNAを同時に非ヒト動物に導入することにより、2つ以上の標的遺伝子の発現を抑制することができる。
siRNA合成法としては、例えば、Dicer法等が挙げられる。Dicer法によるsiRNA合成法は、上述の[ノックダウンによる睡眠障害モデル非ヒト動物の作製方法]に示した通りである。
また、siRNAの代わりに、shRNAを使用することもできる。shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。
例えば、ある領域の配列を「配列A」とし、配列Aに対する相補鎖を「配列B」とすると、配列A、スペーサー、配列Bの順になるようにこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するようにし、全体で42〜120塩基の長さとなるように設計する。配列Aは、標的となるカルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子、又は該遺伝子に相補的な配列を有する遺伝子をコードする遺伝子の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列Aの長さは18〜50塩基、好ましくは21〜30塩基である。
また、siRNAの代わりに、マイクロRNA(miRNA)を利用することもできる。miRNAは小分子RNAであり、自身と相補的な配列をもつmRNAからのタンパク質への翻訳を阻害することにより、特定の遺伝子の発現を抑制することができる。
miRNAは、特定の遺伝子のmRNAを認識するように設計することができる。そのように設計するmiRNAの塩基配列の長さは、例えば、18〜25塩基(例えば、約22塩基)である。
(siRNAの導入)
続いて、睡眠障害評価を行いたい動物細胞に、設計したsiRNAを導入する。導入方法としては、公知の遺伝子導入の手法(例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法等)を用いることができる。中でも、操作が簡便であることから、エレクトロポレーション法であることが好ましい。
siRNAの代わりに、siRNAをコードするDNAを含むベクターを導入してもよい。発現ベクターが好ましい。発現ベクターとしては、上述の「Cas9をコードする塩基配列からなるRNA又はcDNAを含むベクター」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
siRNAをコードするDNAは、さらに、siRNAをコードするDNAの5’末端又は3’末端に、上述のプロモーター、ポリアデニル化シグナル、NLS、蛍光タンパク質のマーカー遺伝子、薬剤耐性遺伝子等が作動可能に連結されていてもよい。
本実施形態の睡眠障害評価用動物細胞が得られたことの確認については、上述の[ノックアウト又はノックダウンによる睡眠障害モデル非ヒト動物の作製方法]において、例示したものと同様の方法が挙げられる。
<<睡眠障害の治療に有用な化合物をスクリーニングする方法>>
<睡眠障害モデル非ヒト動物を用いる方法>
一実施形態において、本発明は、睡眠障害の治療に有用な化合物をスクリーニングする方法であって、被検化合物の投与下で上述の睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠パターンを測定する測定工程と、測定された前記睡眠パターンが、前記被検化合物の非投与下で測定された前記睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠パターンと比較して変化していた場合に、前記被検化合物は睡眠障害の治療に有用な化合物であると判定する判定工程と、を備える、方法を提供する。
本実施形態のスクリーニング方法によれば、睡眠障害の治療に有用な化合物を簡便にスクリーニングすることができる。また、睡眠障害と密接な関係にある精神疾患や神経変性疾患の治療薬の探索へ貢献することを期待できる。
睡眠障害と密接な関係にある精神疾患としては、例えば、統合失調症、うつ病、痴呆症、不安障害等が挙げられる。また、睡眠障害と密接な関係にある神経変性疾患としては、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、てんかん、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis;ALS)、ハンチントン病等が挙げられる。従って、本実施形態のスクリーニング方法によれば、これらの精神疾患や神経変性疾患の治療に有効な化合物を探索することができる。
本実施形態のスクリーニング方法について、以下に詳細に説明する。
[測定工程]
まず、上述の睡眠障害モデル非ヒト動物に被検化合物を投与し、睡眠時に睡眠パターンを測定する。被検化合物の投与量は、対象となる非ヒト動物の年齢、性別、体重、症状、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。投与回数としては、1週間平均当たり、1回〜数回投与することが好ましい。投与形態としては、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法が挙げられる。
睡眠パターンを測定方法としては、例えば、呼吸パターンを測定する方法、脳波及び筋電図の波形を測定する方法、目視により行動を観察する方法等が挙げられる。これらを組み合わせて行い、睡眠パターンを評価してもよい。
従来では、睡眠パターンの測定は、脳波及び筋電図の波形を測定する方法によってのみ行われており、脳波を取得するための電極を手術によって頭蓋骨に装着する必要があり、侵襲が大きく、多くの時間とコストを要していた。
これに対し、本実施形態において用いられる呼吸パターンを測定する方法(Snappy Sleep Stager(SSS)法)(参考文献:Sunagawa, A. G., “Mammalian reverse genetics without crossing reveals Nr3a as a short-sleeper gene”, Cell Reports, 14, 1-16, 2016.)は、非侵襲かつ高効率に睡眠表現型を解析することができる。SSS法を用いた睡眠表現型解析は以下の通りである。まず、マウスをチャンバー内に収容する。続いて、マウスに侵襲を加えることなく呼吸パターン(1〜10Hzの呼吸周波数)を検出する。続いて、検出した呼吸パターンに基づいて、全自動で睡眠及び覚醒の解析(総睡眠時間、睡眠/覚醒振幅、睡眠から覚醒に切り替わる確率(Psw)及び覚醒から睡眠に切り替わる確率(Pws))を行い、簡便に睡眠表現型を得ることができる。「睡眠/覚醒振幅」は、睡眠時間の変動係数であり、毎日の睡眠サイクル内における睡眠時間の変化、すなわち、概日時計の変化に関連している。よって、「睡眠/覚醒振幅」が野生型の非ヒト動物と変わらない場合、概日時計は変化していないと判定することができる。
被検化合物としては、睡眠障害の治療に有用である可能性がある化合物であればよく、特別な限定はない。また、被検化合物は、経口的投与等、脳内に直接投与されない場合が多いため、血液脳関門(Brain Blood Barrier:BBB)を通過することができると考えられている、約500ダルトンより小さい親油性分子であることが好ましい。また、被検化合物は、BBBを通過することができるようなキャリアを備えていてもよい。
また、被検化合物としては、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子がコードするタンパク質を標的とする化合物であることが好ましい。
[判定工程]
続いて、測定された前記睡眠パターンが、前記被検化合物の非投与下で測定された前記睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠パターンと比較する。比較した結果、前記被検化合物の投与下における睡眠パターンが変化している場合、前記被検化合物は睡眠障害の治療に有用な化合物であると判定する。
比較対象となる前記被検化合物の非投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠パターンの測定結果は、前記被検化合物投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠パターンの測定と並行して行った試験の測定結果でもよく、独立して行った試験の測定結果でもよい。
また、前記被検化合物の非投与下の試験に使用する前記睡眠障害モデル非ヒト動物は、前記被検化合物の投与下の試験に使用する前記睡眠障害モデル非ヒト動物と、同種、同系統、同腹の動物であること好ましく、さらには、同性、同じ週齢(年齢)の動物であることが好ましい。
例えば、前記被検化合物の非投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠時間と比較して、前記被検化合物の投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠時間が長くなっている場合、睡眠作用のある薬として有用な化合物と判定することができる。
一方、前記被検化合物の非投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠時間と比較して、前記被検化合物の投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠時間が短くなっている場合、覚醒作用のある薬として有用な化合物と判定することができる。
また、睡眠と覚醒とは互いが拮抗しあう関係にあり、上述のSSS法では、睡眠から覚醒に切り替わる確率(Psw)及び覚醒から睡眠に切り替わる確率(Pws)を測定することができる。よって、本実施形態のスクリーニング方法における睡眠パターンは、睡眠時間、脳波及び筋電図だけでなく、このPsw及びPwsも包含する。
よって、前記被検化合物の非投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠時間と比較して、前記被検化合物の投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠時間に変化が見られない場合においても、上述のPsw又はPwsに変化が見られることで、睡眠障害の治療薬として有用な化合物と判定することができる。
例えば、前記被検化合物の非投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物のPswと比較して、前記被検化合物の投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物のPswが上昇している場合、覚醒作用のある薬として有用な化合物と判定することができる。
一方、前記被検化合物の非投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物のPswと比較して、前記被検化合物の投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物のPswが低下している場合、睡眠作用のある薬として有用な化合物と判定することができる。
また、前記被検化合物の非投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物のPwsと比較して、前記被検化合物の投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物のPwsが上昇している場合、睡眠作用のある薬として有用な化合物と判定することができる。
一方、前記被検化合物の非投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物のPwsと比較して、前記被検化合物の投与下における前記睡眠障害モデル非ヒト動物のPwsが低下している場合、覚醒作用のある薬として有用な化合物と判定することができる。
さらに、うつ病患者のPsw及びPwsでは、健常者のPsw及びPwsと比較して、いずれの値も上昇することが知られているため、本実施形態のスクリーニング方法を用いて、いずれの値も低下する化合物を探索することにより、うつ病の治療薬を得ることができる。
また、統合失調症の患者のPsw及びPwsでは、健常者のPsw及びPwsと比較して、いずれの値も低下することが知られているため、本実施形態のスクリーニング方法を用いて、いずれの値も上昇する化合物を探索することにより、統合失調症の治療薬を得ることができる。
<睡眠障害評価用動物細胞を用いる方法>
一実施形態において、本発明は、睡眠障害の治療に有用な化合物をスクリーニングする方法であって、被検化合物の投与下で、野生型の動物細胞又は上述の睡眠障害評価用動物細胞の細胞質内のカルシウムイオン濃度を測定する測定工程と、測定された前記カルシウムイオン濃度が、前記被検化合物の非投与下で測定された前記野生型の動物細胞又は前記睡眠障害評価用動物細胞の細胞質内のカルシウムイオン濃度と比較して変化していた場合に、前記被検化合物は睡眠障害の治療に有用な化合物であると判定する判定工程と、を備える、方法を提供する。
本実施形態のスクリーニング方法によれば、睡眠障害の治療に有用な化合物を簡便にスクリーニングすることができる。また、睡眠障害と密接な関係にある精神疾患や神経変性疾患の治療薬の探索へ貢献することを期待できる。
本実施形態のスクリーニング方法について、以下に詳細に説明する。
[測定工程]
まず、野生型の動物細胞(好ましくは、又は上述の睡眠障害評価用動物細胞(好ましくは、動物細胞は神経細胞である。)に被検化合物を投与し、細胞質中のカルシウムイオン濃度を測定する。被検化合物の投与量は、対象となる動物細胞の数、処理時間等を勘案して適宜調節される。投与回数としては、1日平均当たり、1回〜数回投与することが好ましい。投与形態としては、例えば、培地等に混合する方法が挙げられる。カルシウムイオン濃度を測定するタイミングは、被検化合物の投与直後から24時間後までであることが好ましい。
本明細書において、「野生型の動物細胞」とは、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子が正常且つ健常な動物由来の細胞であってもよく、株化された動物細胞であってもよい。野生型の動物細胞の由来となる動物としては、上述の<<睡眠障害評価用動物細胞>>において、例示されたものと同様のものが挙げられる。また、野生型の動物細胞の種類としては、上述の<<睡眠障害評価用動物細胞>>において、例示されたものと同様のものが挙げられる。
使用する培地は、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)等を含む基本培地であればよい。培地としては、例えば、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:Nutrient Mixture F−12(DMEM/F−12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)、RPMI1640培地等が挙げられる。培養工程において、培地は細胞の増殖速度に応じて、適宜新しいものに交換すればよい。
培養条件は、動物細胞の培養に適した条件であれば、特に限定されず、例えば、動物細胞を培地に播種する密度は、1×10〜1×10cells/mLが好ましく、1×10〜1×10cells/mLがより好ましい。培養温度は、25℃以上40℃以下が好ましく、30℃以上39℃以下がより好ましく、35℃以上39℃以下がさらに好ましい。培養時間は動物細胞の生育状態によって適宜設定することができる。培養環境は、約5%のCO条件下であってもよい。
カルシウムイオン濃度の測定方法としては、公知の測定方法を用いることができる。公知の測定方法としては、例えば、fura−2、indo−1等のカルシウム指示薬を用いる方法(参考文献:Nature, 290, 527, 1981; J. Cell. Biol., 94, 325, 1982)、カルシウム二価イオン感受性微少電極を用いる方法(参考文献:“Detection and Measurement of Free Ca2+ in cells”, Elsevier, North-Holland, Amsterdam, 1979)、蛍光共鳴エネルギー移動(fluorescence resonance energy transfer;FRET)を利用する方法、カルシウムイオン感受性発光タンパク質エクオリンを用いる方法(参考文献:Biochem. Biophys. Res. Commun., 29, 229, 1967)等が挙げられる。
[判定工程]
続いて、測定された前記カルシウムイオン濃度が、前記被検化合物の非投与で測定した前記野生型の動物細胞又は前記睡眠障害評価用動物細胞と比較する。比較した結果、前記被検化合物の投与下におけるカルシウムイオン濃度が変化している場合、前記被検化合物は睡眠障害の治療に有用な化合物であると判定する。
比較対象となる前記被検化合物の非投与下における前記野生型の動物細胞又は前記睡眠障害評価用動物細胞のカルシウムイオン濃度の測定結果は、前記被検化合物投与下における前記野生型の動物細胞又は前記睡眠障害評価用動物細胞のカルシウムイオン濃度の測定と並行して行った試験の測定結果でもよく、独立して行った試験の測定結果でもよい。
また、前記被検化合物の非投与下の試験に使用する前記野生型の動物細胞又は前記睡眠障害評価用動物細胞は、前記被検化合物の投与下の試験に使用する前記野生型の動物細胞又は前記睡眠障害評価用動物細胞と、同種の動物由来であることが好ましく、さらには、同じ培養日数、同じ継代回数であることが好ましい。
例えば、前記被検化合物の非投与下における前記野生型の動物細胞又は前記睡眠障害評価用動物細胞のカルシウムイオン濃度と比較して、前記被検化合物の投与下における前記野生型の動物細胞又は前記睡眠障害評価用動物細胞のカルシウムイオン濃度が高くなって場合、睡眠作用のある薬として有用な化合物と判定することができる。
一方、前記被検化合物の非投与下における前記野生型の動物細胞又は前記睡眠障害評価用動物細胞のカルシウムイオン濃度と比較して、前記被検化合物の投与下における前記野生型の動物細胞又は前記睡眠障害評価用動物細胞のカルシウムイオン濃度が低くなっている場合、覚醒作用のある薬として有用な化合物と判定することができる。
本実施形態のスクリーニング方法は、in vitroで簡便に多数の被検化合物を評価することができるため、動物実験を行う前段階の予備的なスクリーニング方法として有用である。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(1)コンピュータモデルによる候補遺伝子の選定
睡眠時に観察される特徴的な脳波である徐波形成に必要な遺伝子を特定するために、平均場近似(多数の要素が相互作用しているような集団を解析するために用いられる数学的な近似手法)を施したコンピュータモデルを作製し、神経細胞の細胞膜上に存在するイオンチャネル(図3、参照)の開閉及び該イオンチャネルのノックアウトモデルをシミュレーションし、解析した。その結果、カルシウムイオンの流入に伴う神経細胞の過分極/脱分極が徐波形成に極めて重要であるが明らかとなった。さらに、この徐波形成に必要なカルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子のうち、7遺伝子(Camk2a遺伝子、Camk2b遺伝子、Kcnn2遺伝子、Kcnn3遺伝子、Cacna1g遺伝子、Cacna1h遺伝子、Atp2b3遺伝子)を選定した。
(2)ノックアウトマウスの作製
上記(1)で選定された7遺伝子のノックアウトマウスを作製した。作製方法は以下の通りである。なお、使用したマウスは全て、12時間明所、12時間暗所のサイクル下で飼育した。
(2−1)ガイドRNAの設計
上記(1)で選定された7遺伝子のガイドRNAをオンラインCRISPR ガイドRNAデザインツール(http://cas9.cbi.pku.edu.cn/index.jsp)、又はmm10CRISPR/Cas9データベース(http://www.crispr.riken.jp/)を用いて、設計した。また、各標的遺伝子におけるマウスゲノム内のオフターゲット配列をCRISPRデザインツール(http://tools.genome-engineering.org)を用いて、確認した。
(2−2)ガイドRNAの合成
まず、上記(1)で選定された7遺伝子を含むpX330 plasmid(Addgene社製、#42230)から一般的なリバースプライマー(配列番号17:5’−AAAAGCACCGACTCGGTGCC−3’)及びフォワードプライマー1(下記、表2参照。)を用いて、PCRにより各7遺伝子の標的配列を含むガイドRNAの部分断片を増幅した。Atp2b3については、Set1及びSet2の2種類のフォワードプライマーを用いて、それぞれ標的配列を含むガイドRNAを増幅した。
Figure 2017158528
続いて、T7プロモーターが融合した各ガイドRNA鋳型は、上述の一般的なリバースプライマー(配列番号17:5’−AAAAGCACCGACTCGGTGCC−3’)及びフォワードプライマー2(下記、表3参照。)を用いて、PCRにより増幅し、ガイドRNAを得た。続いて、T7プロモーターが融合した各ガイドRNAを鋳型として、MEGAshortscript(登録商標) T7 kit(ライフテクノロジー社製)を用いたインビトロ転写を行い、ガイドRNAを得た。得られたガイドRNAは、MEGAclear kit(ライフテクノロジー社製)を用いて精製した。
Figure 2017158528
(2−3)Cas9mRNAの合成
T7プロモーターと融合したCas9のコード領域を含むp3s−Cas9HC(Addgene社製、#43945)をXbaI(タカラ社製)で線状化し、MEGAshortscript(登録商標) T7 kit(ライフテクノロジー社製)を用いたインビトロ転写を行い、Cas9mRNAを得た。得られたCas9mRNAは、MEGAclear kit(ライフテクノロジー社製)を用いて精製した。
(2−4)受精卵へのマイクロインジェクション
C57BL/6N雌マウス(4〜6週齢、日本クレア社製)と、C57BL/6N雄マウス(日本クレア社製)とを交配させた。続いて、顕微解剖により、C57BL/6N雌マウスの卵管から受精卵を採取した。続いて、採取した受精卵は、KSOM培地(メルクミリポア社製又はARKリソース社製)を用いて、5%二酸化炭素環境下において、37℃で維持培養した。続いて、採取した受精卵をM2培地(メルクミリポア社製又はARKリソース社製)に移し、室温で、受精卵の細胞質に(2−2)及び(2−3)で得られた各ガイドRNA(150ng/μL)、並びにCas9mRNA(100ng/μL)を同時に注入した。細胞質への注入方法としては、公知の方法(参考文献:Sumiyama, K., et al., “A simple and highly efficient transgenesis method in mice with the Tol2 transposon system and cytoplasmic microinjection”, Genomics 95, 306-311, 2010.)を参考にして行った。
マイクロインジェクション後、受精卵をKSOM培地(メルクミリポア社製又はARKリソース社製)を用いて、5%二酸化炭素環境下において、37℃で1時間培養した。15〜30個の受精卵を、雌の偽妊娠ICRマウスの卵管に移植し、睡眠障害モデルマウスのF1世代を得た。
(2−5)ノックアウトの確認
上記(1)で選定された7遺伝子のノックアウトの確認を行った。まず、野生型マウス及びノックアウトマウスの尾静脈から血液を採取し、DNeasy Blood&Tissue Kit(QIAGEN社製)を用いて、取扱い説明書に従い、血液からゲノムDNAを得た。続いて、ABI PRISM 7900/QuantStudio 7 Flex(Applied Biosystems社製)及びSYBR Premix Ex Taq GC(タカラ社製)を用いた定量PCRを行った。使用したプライマーを表4に示す。野生型マウスのゲノムDNAを用いて、検量線を作成した。また、マウスのハウスキーピング遺伝子であるTbpの量を定量し、内部対照とした。
Figure 2017158528
定量PCRにより、ノックアウトした遺伝子は検出されなかった。さらに、ノックアウトされていることを確実にするために、Kcnn2遺伝子、Atp2b3遺伝子(Set2を用いてノックアウトしたもの)、Camk2a遺伝子及びCamk2b遺伝子については、第2の定量PCRを行った。使用したプライマーを表5に示す。
Figure 2017158528
第2の定量PCRにおいても、ノックアウトした遺伝子は検出されなかった。続いて、さらに、ノックアウトされていること確実にするために、Kcnn2遺伝子、Cacna1h遺伝子及びCamk2a遺伝子について、遺伝子座のシークエンシングを行った。まず、表6に示すプライマーを用いて、PCRにより該遺伝子座の領域を含むゲノムDNAを増幅した。
Figure 2017158528
続いて、得られたPCR産物をpGEM−T−easyベクター(Promega社製)にサブクローニングし、シークエンスを行った。シークエンスの結果、ノックアウトした遺伝子の塩基配列が欠損していることが確かめられた。
[試験例1]
実施例1で得られた8種のノックアウトマウスにおける睡眠パターンを測定した。
(1)Snappy Sleep Stager(SSS)法による睡眠パターンの測定
実施例1で作製した8種のノックアウトマウスについて、SSS法(参考文献:Sunagawa, A. G., “Mammalian reverse genetics without crossing reveals Nr3a as a short-sleeper gene”, Cell Reports, 14, 1-16, 2016.)を用いて睡眠パターンを測定した。
まず、実施例1で作製した8種のノックアウトマウスをそれぞれ5〜10匹ずつチャンバー内に収容した。続いて、7日間、マウスに侵襲を加えることなく、whole−body plethysmography(WBP)システムを用いて、呼吸パターン(1〜10Hzの呼吸周波数)を検出した。
続いて、検出した呼吸パターンに基づいて全自動で睡眠及び覚醒の解析を行い、睡眠時間、睡眠/覚醒振幅、Pws及びPswを得た。結果を図4(A)、図5〜7に示す。図4(A)は、Kcnn2遺伝子及びKcnn3遺伝子をノックアウトしたマウスにおける睡眠パターンを示すグラフである。図5〜7はそれぞれ、Cacna1g遺伝子、Cacna1h遺伝子、Atp2b3遺伝子(Set1及びSet2のガイドRNAを用いてノックアウトしたもの)、Camk2a遺伝子及びCamk2b遺伝子をノックアウトしたマウスにおける睡眠パターンを示すグラフである。各図中の「Sleep time」とは総睡眠時間を示し、「Amplitude」とは、睡眠/覚醒の振幅を示し、睡眠時間の変動係数である。睡眠/覚醒振幅は、毎日の睡眠サイクル内における睡眠時間の変化、すなわち、概日時計の変化に関連している。また、「Psw」は睡眠から覚醒に切り替わる確率を示し、「Pws」は覚醒から睡眠に切り替わる確率を示している。
図4(A)から、Kcnn2遺伝子及びKcnn3遺伝子をノックアウトしたマウスにおいて、睡眠時間が短くなることが明らかとなった。Kcnn2遺伝子をノックアウトしたマウスでは、睡眠時間が606.3±14.7分(mean±SEM、n=5)であり、野生型のマウスより129.3分(〜2.6S.D.)睡眠時間が短かった。また、Kcnn3遺伝子をノックアウトしたマウスでは、睡眠時間が629.1±11.8分(mean±SEM、n=6)であり、野生型のマウスより106.6分(〜2.1S.D.)睡眠時間が短かった。
また、Kcnn2遺伝子及びKcnn3遺伝子をノックアウトしたマウスにおいて、Pwsの値が低い傾向であり、Pswの値がやや高い傾向であることから、覚醒状態が優位であると推察された。
図5から、Cacna1g遺伝子及びCacna1h遺伝子をノックアウトしたマウスにおいて、睡眠時間が短くなることが明らかとなった。Cacna1g遺伝子をノックアウトしたマウスでは、睡眠時間が655.1±13.4分(mean±SEM、n=10)であり、野生型のマウスより80.5分(1.59S.D.、p<0.001)睡眠時間が短かった。また、Cacna1h遺伝子をノックアウトしたマウスでは、睡眠時間が647.6±20.1分(mean±SEM、n=5)であり、野生型のマウスより88.1分(1.73S.D.、p<0.001)睡眠時間が短かった。
また、Cacna1g遺伝子及びCacna1h遺伝子をノックアウトしたマウスにおいて、Pwsの値が低い傾向であり、覚醒状態が優位であると推察された。
図6から、Set1及びSet2のガイドRNAを用いてAtp2b3遺伝子をノックアウトしたマウスにおいて、睡眠時間が長くなることが明らかとなった。Set1のガイドRNAを用いてAtp2b3遺伝子をノックアウトしたマウスでは、睡眠時間が777.8±8.5分(mean±SEM、n=12)であり、野生型のマウスより53.6分(〜1.07S.D.、p<0.05)睡眠時間が長かった。
また、Set1及びSet2のガイドRNAを用いてAtp2b3遺伝子をノックアウトしたマウスにおいて、Pswの値がやや低い傾向であり、睡眠状態が優位であると推察された。
図7から、Camk2a遺伝子及びCamk2b遺伝子をノックアウトしたマウスにおいて、睡眠時間が短くなることが明らかとなった。Camk2a遺伝子をノックアウトしたマウスでは、睡眠時間が648.8±29.5分(mean±SEM、n=6)であり、野生型のマウスより50.1分(1.27S.D.、p<0.001)睡眠時間が短かった。また、Camk2b遺伝子をノックアウトしたマウスでは、睡眠時間が578.6±14.7分(mean±SEM、n=5)であり、野生型のマウスより120.3分(3.04S.D.、p<0.001)睡眠時間が短かった。
また、Camk2a遺伝子及びCamk2b遺伝子をノックアウトしたマウスにおいて、Pwsの値が低い傾向であり、Pswの値がやや低い傾向であることから、覚醒状態が優位であると推察された。特に、Camk2b遺伝子をノックアウトしたマウスにおいて、Pwsの値が低い傾向が顕著であり、そのため、Camk2a遺伝子をノックアウトしたマウスよりも睡眠時間がより短かったものと考えられた。
以上のことから、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子をノックアウトすることにより、睡眠障害モデルマウスを得られることが明らかとなった。
(2)脳波及び筋電図による睡眠パターンの測定
遺伝子のノックアウトが呼吸パターンの表現型に影響を与える可能性を排除するために、従来の睡眠パターンの測定方法である基礎EEG(Electroencephalogram、脳波(脳電図))/EMG(electromyogram、筋電図)の測定を行った。
まず、野生型のマウス(C57BL/6N、日本クレア社製)(n=3)及び実施例(1)で作製したKcnn2遺伝子をノックアウトしたマウス(n=7)を用いて、公知の方法(参考文献:Sunagawa, A. G., “FASTER: an unsupervised fully automated sleep staging method for mice”, Genes to Cells, 18, 502-518, 2013.)であるFASTER法に基づき、6日間、基礎EEG/EMGの測定を行った。結果を図4(B)に示す。図4(B)において、「Sleep duration」とは総睡眠時間を示し、「NREM duration」はノンレム睡眠期間を示し、「REM duration」はレム睡眠期間を示している。
図4(B)から、Kcnn2遺伝子をノックアウトしたマウスにおいて、野生型のマウスと比較して、総睡眠時間の有意な減少に加えて、ノンレム睡眠期間が有意に減少することが明らかとなった。
さらに、野生型のマウス及びKcnn2遺伝子をノックアウトしたマウスについて、睡眠不足試験後(After sleep deprivation(After SD))の睡眠パターンを計測した(図4(B)の「After SD」参照。)。
その結果、野生型のマウスでは、ノンレム睡眠期間が通常の計測結果と比較して有意に上昇したのに対し、Kcnn2遺伝子をノックアウトしたマウスでは、ノンレム睡眠期間に変化が見られなかった。
以上のことから、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子のノックアウトは呼吸パターンの表現型に影響を与えず、睡眠障害を引き起こすことが示唆された。
[試験例2]
(1)N−methyl−D−aspartate(NMDA)型グルタミン酸受容体阻害剤の投与
野生型のマウス(C57BL/6N、日本クレア社製)の腹腔内に、200μLの生理食塩水に0mg/kg、13.3mg/kg若しくは26.7mg/kgとなるように溶解したphencyclidine(PCP)塩酸塩(既報に従い合成。参考文献:Prashad, M., et al., “1,2,3-Triazole as a safer and practical substitute for cyanide in the Bruylants reaction for the synthesis of tertiary amines containing tertiary alkyl or aryl groups”, Tetrahedron Letters 46, 5455-5458, 2005.)、又は200μLの生理食塩水に0mg/kg、0.2mg/kg、2mg/kg若しくは20mg/kgとなるように溶解したMK−801マレイン酸塩(Tocris Bioscience社製、カタログNo.0924、ロットNo.9A/151915)をそれぞれ注射した。
PCP塩酸塩は、NMDA型グルタミン酸受容体に直接結合し、機能を阻害する阻害剤であり、MK−801マレイン酸塩は、NMDA型グルタミン酸受容体のうちGluN2A(Nr2a)及びGluN2B(Nr2b)に特異的に結合し、機能を阻害する阻害剤である。
(2)SSS法による睡眠パターンの測定
続いて、試験例1の(1)と同様の方法を用いて、睡眠パターンを検出した。
続いて、検出した呼吸パターンに基づいて全自動で睡眠及び覚醒の解析を行い、睡眠時間、振幅、Pws及びPswを得た。結果を図8(A)(PCP塩酸塩投与群)及び(B)(MK−801マレイン酸塩投与群)に示す。
図8(A)及び(B)から、PCP塩酸塩又はMK−801マレイン酸塩の濃度依存的に、睡眠時間が短くなることが明らかとなった。また、PCP塩酸塩又はMK−801マレイン酸塩の濃度依存的に、Pwsの値が低くなり、Pswの値が高くなっており、PCP塩酸塩又はMK−801マレイン酸塩の濃度の上昇に伴い、覚醒状態が優位になると推察される。
(3)脳波及び筋電図による睡眠パターンの測定
続いて、MK−801マレイン酸塩を2mg/kg投与した野生型マウスを用いて、試験例1の(2)と同様の方法を用いて、睡眠パターンを検出した。結果を図8(C)に示す。
図8(C)から、MK−801マレイン酸塩を2mg/kg投与した野生型マウスにおいて、MK−801マレイン酸塩を非投与である野生型マウスと比較して、総睡眠時間の有意な減少に加えて、ノンレム睡眠期間が有意に減少することが明らかとなった。
以上のことから、カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子がコードするタンパク質の一つであるNMDA型グルタミン酸受容体は、睡眠覚醒に関与していることが確かめられた。また、PCP又はMK−801のようなカルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子がコードするタンパク質に直接作用する化合物を投与することにより、睡眠障害の治療薬のスクリーニングを行うことができることが示唆された。
[試験例3]
(1)NMDA型グルタミン酸受容体阻害剤の投与
薬物の長期治療による影響を検証するために、野生型のマウス(C57BL/6J、日本クレア社製)の飲用水に、MK−801マレイン酸塩(Tocris Bioscience社製、カタログNo.0924、ロットNo.9A/151915)を0mg/L、16mg/L、32mg/L、64mg/L及び96mg/Lとなるように希釈し、7日間与えた。
(2)SSS法による睡眠パターンの測定
続いて、試験例1の(1)と同様の方法を用いて、睡眠パターンを検出した。
続いて、検出した呼吸パターンに基づいて全自動で睡眠及び覚醒の解析を行い、睡眠時間、振幅、Pws及びPswを得た。結果を図9に示す。
図9から、MK−801マレイン酸塩の濃度依存的に、睡眠時間が短くなることが明らかとなった。また、MK−801マレイン酸塩の濃度依存的に、Pwsの値が低くなり、Pswの値がやや低くなっており、MK−801マレイン酸塩の濃度の上昇に伴い、覚醒状態が優位になると推察される。
以上のことから、MK−801のようなカルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子がコードするタンパク質に直接作用する化合物を投与することにより、睡眠障害の治療薬のスクリーニングを行うことができることが示唆された。
本発明によれば、簡便に作製でき、安定した睡眠パターンの表現型を呈する睡眠障害モデル非ヒト動物を提供することができる。さらに、前記睡眠障害モデル非ヒト動物を用いることにより、睡眠障害の原因解明、治療薬の探索の効率を飛躍的に向上させることができる。また、睡眠障害と密接な関係にある精神疾患や神経変性疾患の原因解明、治療薬の探索へ貢献することを期待できる。

Claims (21)

  1. カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路(Ca2+−dependent hyperpolarization/depolarization pathway)に関連する遺伝子の機能の全部又は一部が欠損していることを特徴とする睡眠障害モデル非ヒト動物。
  2. 前記カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子がコードするタンパク質が、細胞膜上、ミトコンドリア膜上、小胞体膜上或いはエンドソーム膜上に存在するタンパク質、又は細胞質内に存在し、カルシウムの結合により機能が調節されるタンパク質である、請求項1に記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
  3. 前記細胞膜上、細胞膜上、ミトコンドリア膜上、小胞体膜上或いはエンドソーム膜上に存在するタンパク質が、電位依存性カルシウムチャネル、Transient Receptor Potential(TRP)チャネル、ストア作動性カルシウムチャネル(store−operated calcium channel;SOC channel、calcium release−activated calcium channel;CRAC channel)、amino−3−hydroxy−5−methyl−4−iaoxazolepropionic acid(AMPA)型グルタミン酸受容体、カイニン酸型グルタミン酸受容体、N−methyl−D−aspartate(NMDA)型グルタミン酸受容体、カルシウム依存性カリウムチャネル、カルシウムポンプ(Ca2+ATPase;PMCA)、陽イオン−カルシウム交換輸送体(Cation/Calcium antiporter;CaCA)ファミリータンパク質、Hyperpolarization−activated cyclic nucleotide−gatedチャネル(HCNチャネル)、Cyclic nucleotide−gatedチャネル(CNGチャネル)、Two−poreチャネル(TPC)、酸感受性イオンチャネル、Cys−loop受容体、P2X受容体、カルシウムユニポーター、BCL−2 likeサブファミリータンパク質、イノシトールトリスリン酸受容体(Inositol trisphosphate receptor;IPR)、TRICチャネル及びリアノジン受容体からなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項2に記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
  4. 前記細胞質内に存在し、カルシウムの結合により機能が調節されるタンパク質が、カルモジュリン、カルパイン、カルシニューリン、在来型プロテインキナーゼC(conventional/classical−Protein kinase;c−PKC)、カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ(calcium/calmodulin−dependent protein kinase;CaMK)、ホスホリパーゼC(phospholipase C;PLC)及びS100Bタンパク質からなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項2又は3に記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
  5. 前記CaMKをコードする遺伝子がCamk2a遺伝子又はCamk2b遺伝子である、請求項4に記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
  6. 前記カルシウム依存性カリウムチャネルをコードする遺伝子がKcnn2遺伝子又はKcnn3遺伝子である、請求項3〜5のいずれか一項に記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
  7. 前記電位依存性カルシウムチャネルをコードする遺伝子がCacna1g遺伝子又はCacna1h遺伝子である、請求項3〜6のいずれか一項に記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
  8. 前記PMCAをコードする遺伝子がAtp2b3遺伝子である、請求項3〜7のいずれか一項に記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
  9. 前記NMDA型グルタミン酸受容体をコードする遺伝子がNr2a遺伝子又はNr2b遺伝子である、請求項3〜8のいずれか一項に記載の睡眠障害モデル非ヒト動物。
  10. カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路(Ca2+−dependent hyperpolarization/depolarization pathway)に関連する遺伝子の機能の全部又は一部が欠損していることを特徴とする睡眠障害評価用動物細胞。
  11. 前記カルシウムイオン依存性過分極/脱分極経路に関連する遺伝子がコードするタンパク質が、細胞膜上、ミトコンドリア膜上、小胞体膜上或いはエンドソーム膜上に存在するタンパク質、又は細胞質内に存在し、カルシウムの結合により機能が調節されるタンパク質である、請求項10に記載の睡眠障害評価用動物細胞。
  12. 前記細胞膜上、ミトコンドリア膜上、小胞体膜上或いはエンドソーム膜上に存在するタンパク質が、電位依存性カルシウムチャネル、TRPチャネル、SOCチャネル、AMPA型グルタミン酸受容体、カイニン酸型グルタミン酸受容体、NMDA型グルタミン酸受容体、カルシウム依存性カリウムチャネル、PMCA、CaCAファミリータンパク質、HCNチャネル、CNGチャネル、TPC、酸感受性イオンチャネル、Cys−loop受容体、P2X受容体、カルシウムユニポーター、BCL−2 likeサブファミリータンパク質、IPR、TRICチャネル及びリアノジン受容体からなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項11に記載の睡眠障害評価用動物細胞。
  13. 前記細胞質内に存在し、カルシウムの結合により機能が調節されるタンパク質が、カルモジュリン、カルパイン、カルシニューリン、c−PKC、CaMK、PLC及びS100Bタンパク質からなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項11又は12に記載の睡眠障害評価用動物細胞。
  14. 前記CaMKをコードする遺伝子がCamk2a遺伝子又はCamk2b遺伝子である、請求項13に記載の睡眠障害評価用動物細胞。
  15. 前記カルシウム依存性カリウムチャネルをコードする遺伝子がKcnn2遺伝子又はKcnn3遺伝子である、請求項12〜14のいずれか一項に記載の睡眠障害評価用動物細胞。
  16. 前記電位依存性カルシウムチャネルをコードする遺伝子がCacna1g遺伝子又はCacna1h遺伝子である、請求項12〜15のいずれか一項に記載の睡眠障害評価用動物細胞。
  17. 前記PMCAをコードする遺伝子がAtp2b3遺伝子である、請求項12〜16のいずれか一項に記載の睡眠障害評価用動物細胞。
  18. 前記NMDA型グルタミン酸受容体をコードする遺伝子がNr2a遺伝子又はNr2b遺伝子である、請求項12〜17のいずれか一項に記載の睡眠障害評価用動物細胞。
  19. 前記睡眠障害評価用動物細胞が神経細胞である、請求項10〜18のいずれか一項に記載の睡眠障害評価用動物細胞。
  20. 睡眠障害の治療に有用な化合物をスクリーニングする方法であって、
    被検化合物の投与下で請求項1〜9のいずれか一項に記載の睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠パターンを測定する測定工程と、
    測定された前記睡眠パターンが、前記被検化合物の非投与下で測定された前記睡眠障害モデル非ヒト動物の睡眠パターンと比較して変化していた場合に、前記被検化合物は睡眠障害の治療に有用な化合物であると判定する判定工程と、
    を備えることを特徴とする方法。
  21. 睡眠障害の治療に有用な化合物をスクリーニングする方法であって、
    被検化合物の投与下で、野生型の動物細胞又は請求項10〜19のいずれか一項に記載の睡眠障害評価用動物細胞の細胞質内のカルシウムイオン濃度を測定する測定工程と、
    測定された前記カルシウムイオン濃度が、前記被検化合物の非投与下で測定された前記野生型の動物細胞又は前記睡眠障害評価用動物細胞の細胞質内のカルシウムイオン濃度と比較して変化していた場合に、前記被検化合物は睡眠障害の治療に有用な化合物であると判定する判定工程と、
    を備えることを特徴とする方法。
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