以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、本実施形態に係るインクリメンタル型デルタシグマAD変換器100のブロック図の一例を示す。インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、デジタル信号を出力する前に内部をリセットしつつ、入力するアナログ信号をデジタル信号に変換する。インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、サンプルホールド部110と、加算部120と、アナログ積分部130と、変調処理部140と、DA変換部150と、デジタル演算部160と、リセット部170と、を備える。
サンプルホールド部110は、入力するアナログ信号の振幅値をサンプリングして、サンプリングした値を保持(ホールド)する。サンプルホールド部110は、クロック信号等に同期したサンプリングクロック信号を用いて、サンプリングおよびホールドを繰り返す。ここで、サンプリングクロック信号の周波数は、入力信号の周波数と比較して数倍から数十倍程度以上の周波数であることが望ましく、この場合、サンプルホールド部110は、入力するアナログ信号をオーバーサンプリングすることになる。なお、サンプリングクロック信号は、クロック信号の分周信号でよく、この場合、分周比が数分の1から数百分の1程度でよい。なお、このようなクロック信号およびサンプリングクロック信号は、当該インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100の内部または外部に設けられたクロック信号発生部等で発生し、当該インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100の内部の各部に供給される。
図1は、サンプルホールド部110が入力するアナログ信号AINをサンプリングし、ホールドした値AIN'を出力する例を示す。サンプルホールド部110は、ホールドした値AIN'を加算部120に出力する。
加算部120は、サンプルホールド部110の出力に、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100のフィードバック信号を加算する。加算部120は、例えば、サンプルホールド部110から差動信号を受け取り、当該差動信号の正側の信号および負側の信号に、それぞれ符号の異なるフィードバック信号を加算する。加算部120は、加算結果をアナログ積分部130に供給する。
アナログ積分部130は、アナログ積分器を有し、アナログ入力信号を積分する。アナログ積分部130は、複数のアナログ積分器を有してよい。アナログ積分部130は、積分した結果を変調処理部140に供給する。
変調処理部140は、アナログ積分部130の積分結果に応じた変調信号を出力する。変調処理部140は、アナログ積分部の積分結果を量子化する量子化器を有し、積分結果に応じたビットストリームを変調信号MOD0として出力する。なお、ビットストリームは、予め定められた数の1ビットデータ(デジタルコード)の列(シリアルデジタルコード)であり、当該デジタルコードを積算した値が入力信号の振幅値に比例または略一致するデジタル値となる。
即ち、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、アナログ入力信号を一定の変換サイクル毎にデジタル値へ変換し、変調処理部140は、1変換サイクル毎にアナログ入力信号に対応するシリアルデジタルコードを出力する。このように、クロック信号に同期した複数のサンプル毎に、アナログ信号はデジタル値へ変換され、1変換サイクルに対するサンプリング数をオーバーサンプリング比とする。即ち、シリアルデジタルコードに含まれるデジタルコードの数は、オーバーサンプリング比に等しくなる。
例えば、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100のオーバーサンプリング比が60の場合、変調処理部140は、1変換サイクル毎に60個のデジタルコードを含むシリアルデジタルコードを出力する。変調処理部140は、クロック信号と同期して変調信号MOD0を出力してよい。変調処理部140は、変調信号MOD0をDA変換部150およびデジタル演算部160に供給する。
DA変換部150は、変調処理部140が有する量子化器の出力をDA変換し、アナログ積分部130にフィードバックする。DA変換部150は、変調処理部140が出力するデジタル信号であるビットストリームを、対応するアナログ信号に変換し、変換したアナログ信号をフィードバック信号として加算部120へと供給する。DA変換部150は、クロック信号と同期してアナログ信号に変換してよい。DA変換部150は、一例として、加算部120において基準電圧がサンプルホールド部110の出力に加算または減算されるように、デジタルコードに応じて正または負の基準電圧に対応するアナログ信号に変換する。
デジタル演算部160は、変調処理部140から変調信号を受け取り、変調信号を積算してデジタル値を出力する。デジタル演算部160は、一例として、デジタル積分部を有し、当該デジタル積分部がデジタルコードを積算して対応するデジタル値を演算してよい。また、デジタル演算部160は、積算した値に予め定められた係数を乗じてデジタル値を演算してもよい。デジタル演算部160は、クロック信号と同期してデジタル値を演算してよい。
デジタル演算部160は、一例として、ローパスフィルタを有し、変調処理部140で発生する量子化ノイズを低減させる。また、デジタル演算部160は、デシメーションフィルタを有し、サンプリング周波数を低減させてもよい。デジタル演算部160は、演算結果のデジタル値を当該インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100の変換結果DOUTとして出力する。
リセット部170は、アナログ積分部130が保持する積分値をリセットする。リセット部170は、デジタル演算部160のデジタル積分部を更にリセットしてもよい。リセット部170は、当該インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100がデジタル値へ変換する毎に、アナログ積分部130およびデジタル演算部160をリセットしてよい。リセット部170は、一例として、デジタル値への1変換サイクル毎に、アナログ積分部130およびデジタル演算部160にリセット信号を供給してそれぞれリセットする。
以上のように、本実施形態に係るインクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、リセット部170によるアナログ積分部130およびデジタル演算部160のリセットと、入力するアナログ信号のデジタル値への変換とを、クロック信号に同期して繰り返す。なお、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、リセット部170によるリセット動作が無ければ、デルタシグマAD変換器として動作してよい。
また、図1のインクリメンタル型デルタシグマAD変換器100において、デジタル演算部160を除く部分は、インクリメンタル型デルタシグマ変調器10の一例である。なお、インクリメンタル型デルタシグマ変調器10は、サンプルホールド部110およびデジタル演算部160を除く部分であってもよい。本実施形態において、インクリメンタル型デルタシグマ変調器10は、サンプルホールド部110、加算部120、アナログ積分部130、変調処理部140、DA変換部150、およびリセット部170を備えるものとする。
以上のインクリメンタル型デルタシグマAD変換器100について、より詳細な構成例について次に説明する。図2は、本実施形態に係るインクリメンタル型デルタシグマAD変換器100の構成例を示す。図2は、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100が、入力するアナログ信号AINをデジタル値DOUTに変換する例を示す。なお、アナログ信号AINは、正側信号AINPおよび負側信号AINNによる差動信号で入力する例を示す。
図2に示すインクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、図1に示されたアナログ積分部130のより詳細な構成例を示す。また、図2に示すインクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、第1フィードフォワード部250、第2フィードフォワード部260、第3フィードフォワード部270、および第4フィードフォワード部280を更に備える。なお、サンプルホールド部110およびDA変換部150については、後に述べるのでここでは省略する。
アナログ積分部130は、複数のアナログ積分器と、複数のスイッチトキャパシタとを有する。図2に示すアナログ積分部130は、第1アナログ積分器210、第2アナログ積分器220、および第3アナログ積分器230の3つのアナログ積分器を有する例を示す。また、アナログ積分部130は、第1スイッチトキャパシタ240および第2スイッチトキャパシタ245の2つのスイッチトキャパシタを有する例を示す。
また、図2は、3つのアナログ積分器が、2つの入力端子と2つの出力端子をそれぞれ有し、差動信号を入力して差動信号を出力する例を示す。なお、アナログ積分器の2つの入力端子のうちの一方を第1入力端子とし、他方を第2入力端子とする。また、アナログ積分器の2つの出力端子のうちの一方を第1出力端子とし、他方を第2出力端子とする。
アナログ積分器は、アナログ増幅器、帰還キャパシタ、およびリセットスイッチをそれぞれ含む。図2は、第1アナログ積分器210が、第1アナログ増幅器212、正側帰還キャパシタCi1p、負側帰還キャパシタCi1n、正側リセットスイッチ214、および負側リセットスイッチ216を含む例を示す。また、第2アナログ積分器220が、第2アナログ増幅器222、正側帰還キャパシタCi2p、負側帰還キャパシタCi2n、正側リセットスイッチ224、および負側リセットスイッチ226を含み、また、第3アナログ積分器230が、第3アナログ増幅器232、正側帰還キャパシタCi3p、負側帰還キャパシタCi3n、正側リセットスイッチ234、および負側リセットスイッチ236を含む例を示す。
アナログ増幅器は、正側入力端子および負側入力端子に入力される信号を増幅して出力する。アナログ増幅器は、例えば、差動入力型の増幅回路である。また、アナログ増幅器は、シングルエンド出力でよく、これに代えて、差動出力もよい。アナログ増幅器は、一例として、OPアンプである。図2は、第1アナログ増幅器212、第2アナログ増幅器222、および第3アナログ増幅器232、の3つのアナログ積分器が、差動入力および差動出力のアナログ増幅器をそれぞれ含む例を示す。なお、図2において、アナログ増幅器の正側入力端子は、アナログ積分器の第1入力端子に、負側入力端子は、第2入力端子に接続されるものとする。
帰還キャパシタは、サンプルホールド部110がホールドした電荷を順次蓄積する。帰還キャパシタは、例えば、1サンプリング毎に、前段から後段へと電荷を順次蓄積する。一例として、第1クロックにおいて正側帰還キャパシタCi1pに蓄積された電荷は、次の第2クロックにおいて正側帰還キャパシタCi2pで蓄積され、次の第3クロックにおいて正側帰還キャパシタCi3pで蓄積される。同様に、第1クロックにおいて負側帰還キャパシタCi1nに蓄積された電荷は、次の第2クロックにおいて負側帰還キャパシタCi2nで蓄積され、次の第3クロックにおいて負側帰還キャパシタCi3nで蓄積される。
リセットスイッチは、リセット部170からの指示に応じて、帰還キャパシタに蓄積された電荷を放電させてアナログ積分器をリセットする。リセットスイッチは、例えば、リセット部170から供給されるリセット信号に応じて、帰還キャパシタの端子間を接続し、蓄積された電荷を放電させる。図2の例は、リセット部170からの指示に応じて、正側リセットスイッチ214、負側リセットスイッチ216、正側リセットスイッチ224、負側リセットスイッチ226、正側リセットスイッチ234、および負側リセットスイッチ236がオン状態に切り換わり、第1アナログ増幅器212、第2アナログ増幅器222、および第3アナログ増幅器232をリセットする。
スイッチトキャパシタは、アナログ積分器の間に設けられ、前段に接続されたアナログ積分器に蓄積された電荷を後段に接続されたアナログ積分器へと伝達する。スイッチトキャパシタは、充放電用のキャパシタと、当該キャパシタの前段および後段に設けられるスイッチを含む。前段のスイッチは、キャパシタの一方の端子の接続先を、スイッチトキャパシタの前段回路および基準電位のいずれかに切り換える。後段のスイッチは、キャパシタの他方の端子の接続先を、スイッチトキャパシタの後段回路および基準電位のいずれかに切り換える。ここで、基準電位は、予め定められた電位でよく、一例として0Vである。
スイッチトキャパシタは、例えば、一のクロックにおいて、キャパシタの一方の端子が前段のアナログ積分器に接続され、キャパシタの他方の端子が基準電位と接続されることで、前段に接続されるアナログ積分器の出力電荷を当該キャパシタが充電する。この場合、スイッチトキャパシタは、次のクロックにおいて、キャパシタの一方の端子が基準電位に接続され、キャパシタの他方の端子が後段のアナログ積分器と接続されることで、当該キャパシタが充電した電荷を後段のアナログ積分器へと放電する。
図2は、第1スイッチトキャパシタ240が、第1アナログ積分器210および第2アナログ積分器220の間に接続され、前段スイッチ242および後段スイッチ244を用いて、前段の正側帰還キャパシタCi1pに蓄積された電荷を、キャパシタCs2pが充電して、後段の正側帰還キャパシタCi2pへと放電して伝達する例を示す。この場合、同様に、第1スイッチトキャパシタ240は、前段の負側帰還キャパシタCi1nに蓄積された電荷を、キャパシタCs2nが充電して、後段の負側帰還キャパシタCi2nへと放電して伝達する。
また、図2は、第2スイッチトキャパシタ245が、第2アナログ積分器220および第3アナログ積分器230の間に接続され、前段スイッチ246および後段スイッチ248を用いて、前段の正側帰還キャパシタCi2pに蓄積された電荷を、キャパシタCs3pが充電して、後段の正側帰還キャパシタCi3pへと放電して伝達する例を示す。この場合、同様に、第2スイッチトキャパシタ245は、前段の負側帰還キャパシタCi2nに蓄積された電荷を、キャパシタCs3nが充電して、後段の負側帰還キャパシタCi3nへと放電して伝達する。
以上のように、アナログ積分部130は、複数のアナログ積分器が直列に接続され、サンプルホールド部110がホールドした電荷を、クロック毎に前段のアナログ積分器から後段のアナログ積分器へと電荷を順次蓄積して伝達する。アナログ積分部130は、最も後段のアナログ積分器の帰還キャパシタに蓄積された電荷を、変調処理部140へと出力する。例えば、図2に示すアナログ積分部130は、3段のアナログ積分器を有するので、第1クロックで第1アナログ積分器210に蓄積された電荷は、第3クロックで第3アナログ積分器230に伝達されて変調処理部140へと出力される。
なお、図2は、アナログ積分部130が3つのアナログ積分器を有する例を説明したが、これに代えて、アナログ積分部130は、2つ、または4以上のアナログ積分器を有してもよい。この場合、スイッチトキャパシタは、アナログ積分器の数に応じて、アナログ積分部130に1または3以上設けられてよい。
第1フィードフォワード部250は、一または複数のスイッチトキャパシタを含み、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100に入力するアナログ信号AINPおよびAINNを、変調処理部140へと伝達する。図2は、第1フィードフォワード部250が、複数のスイッチトキャパシタを含む例を示す。第1フィードフォワード部250は、オーバーサンプリング比と同一の数のスイッチトキャパシタを含んでよい。第1フィードフォワード部250が含む一のスイッチトキャパシタは、一例として、第1FFスイッチ252、キャパシタC0ffpj、およびキャパシタC0ffnjを含む。なお、jは、1からオーバーサンプリング比の数(一例として、60)までの自然数とした。
第1FFスイッチ252は、キャパシタC0ffpjの一方の端子を、アナログ信号AINPが入力する入力端子および基準電位のいずれかに切り換える。また、キャパシタC0ffpjの他方の端子は、変調処理部140に接続される。キャパシタC0ffpjは、第1タイミングにおいて、一方の端子が入力端子に接続され、アナログ入力信号を充電する。そして、キャパシタC0ffpjは、第1タイミングからj番目にずれたタイミングにおいて、一方の端子が基準電位に接続され、充電したアナログ入力信号を変調処理部140へと放電する。
第1FFスイッチ252は、同様に、キャパシタC0ffnjの一方の端子を、アナログ信号AINNが入力する入力端子および基準電位のいずれかに切り換える。キャパシタC0ffnjは、第1タイミングにおいて、一方の端子が入力端子に接続され、アナログ入力信号を充電する。そして、キャパシタC0ffnjは、第1タイミングからj番目にずれたタイミングにおいて、一方の端子が基準電位に接続され、充電したアナログ入力信号を変調処理部140へと放電する。即ち、複数のスイッチトキャパシタは、第1クロックにおいてそれぞれアナログ入力信号を充電し、第1クロック以降の対応するクロック信号に応じて、充電したアナログ入力信号を変調処理部140へと順次放電する。
第2フィードフォワード部260は、スイッチトキャパシタを含み、第1アナログ積分器210が出力する信号(一例として、INT10PおよびINT10N)を、変調処理部140へと伝達する。第2フィードフォワード部260は、スイッチトキャパシタを含んでよい。第2フィードフォワード部260は、一例として、第2FFスイッチ262、キャパシタC1ffp、およびキャパシタC1ffnを含む。
第2FFスイッチ262は、正側のキャパシタC1ffpの一方の端子を、第1アナログ積分器210が信号INT10Pを出力する第1出力端子および基準電位のいずれかに切り換える。また、キャパシタC1ffpの他方の端子は、変調処理部140に接続される。例えば、キャパシタC1ffpは、第1クロックにおいて、一方の端子が出力端子に接続され、信号INT10Pを充電する。そして、キャパシタC1ffpは、第2クロックにおいて、一方の端子が基準電位に接続され、充電した信号を変調処理部140へと放電する。
第2FFスイッチ262は、同様に、負側のキャパシタC1ffnの一方の端子を、第1アナログ積分器210が信号INT10Nを出力する第2出力端子および基準電位のいずれかに切り換える。また、キャパシタC1ffnの他方の端子は、変調処理部140に接続される。例えば、キャパシタC1ffnは、第1クロックにおいて、一方の端子が出力端子に接続され、信号INT10Nを充電する。そして、キャパシタC1ffnは、第2クロックにおいて、一方の端子が基準電位に接続され、充電した信号を変調処理部140へと放電する。
第3フィードフォワード部270は、スイッチトキャパシタを含み、第2アナログ積分器220が出力する信号(一例として、INT20PおよびINT20N)を、変調処理部140へと伝達する。第3フィードフォワード部270は、スイッチトキャパシタを含んでよい。第3フィードフォワード部270は、一例として、第3FFスイッチ272、キャパシタC2ffp、およびキャパシタC2ffnを含む。
第3FFスイッチ272は、キャパシタC2ffpの一方の端子を、第2アナログ積分器220が信号INT20Pを出力する第1出力端子および基準電位のいずれかに切り換える。また、キャパシタC2ffpの他方の端子は、変調処理部140に接続される。例えば、キャパシタC2ffpは、第1クロックにおいて、一方の端子が出力端子に接続され、信号INT20Pを充電する。そして、キャパシタC2ffpは、第2クロックにおいて、一方の端子が基準電位に接続され、充電した信号を変調処理部140へと放電する。
第3FFスイッチ272は、同様に、キャパシタC2ffnの一方の端子を、第2アナログ積分器220が信号INT20Nを出力する第2出力端子および基準電位のいずれかに切り換える。例えば、キャパシタC2ffnは、第1クロックにおいて、一方の端子が出力端子に接続され、信号INT20Nを充電する。そして、キャパシタC2ffnは、第2クロックにおいて、一方の端子が基準電位に接続され、充電した信号を変調処理部140へと放電する。
第4フィードフォワード部280は、スイッチトキャパシタを含み、第3アナログ積分器230が出力する信号(一例として、INT30PおよびINT30N)を、変調処理部140へと伝達する。第4フィードフォワード部280は、スイッチトキャパシタを含んでよい。第4フィードフォワード部280は、一例として、第4FFスイッチ282、キャパシタC3ffp、およびキャパシタC3ffnを含む。
第4FFスイッチ282は、キャパシタC3ffpの一方の端子を、第3アナログ積分器230が信号INT30Pを出力する第1出力端子および基準電位のいずれかに切り換える。また、キャパシタC3ffpの他方の端子は、変調処理部140に接続される。例えば、キャパシタC3ffpは、第1クロックにおいて、一方の端子が出力端子に接続され、信号INT30Pを充電する。そして、キャパシタC3ffpは、第2クロックにおいて、一方の端子が基準電位に接続され、充電した信号を変調処理部140へと放電する。
第4FFスイッチ282は、同様に、キャパシタC3ffnの一方の端子を、第3アナログ積分器230が信号INT30Nを出力する第2出力端子および基準電位のいずれかに切り換える。例えば、キャパシタC3ffnは、第1クロックにおいて、一方の端子が出力端子に接続され、信号INT30Nを充電する。そして、キャパシタC3ffnは、第2クロックにおいて、一方の端子が基準電位に接続され、充電した信号を変調処理部140へと放電する。
このように、第4フィードフォワード部280は、アナログ積分部130の出力を変調処理部140へと伝達する。また、第1フィードフォワード部250、第2フィードフォワード部260、および第3フィードフォワード部270は、アナログ積分部130に入力する信号と、アナログ積分部130が有するアナログ積分器がそれぞれ出力する信号とを、フィードフォワード信号として、変調処理部140へと伝達する。このようなフィードフォワード信号により、変調処理部140がクロック毎に出力するデジタルコードは、より高速にアナログ入力信号を反映させたものにすることができる。
なお、本実施形態に係るインクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、このようなフィードフォワード動作に限定されることはない。即ち、第1フィードフォワード部250、第2フィードフォワード部260、および第3フィードフォワード部270は、無くてもよい。次に、サンプルホールド部110およびDA変換部150について説明する。
図3は、本実施形態に係るサンプルホールド部110およびDA変換部150の構成例を示す。図2に示すサンプルホールド部110およびDA変換部150は、図1および図2に示されたサンプルホールド部110およびDA変換部150のより詳細な構成例を示す。
サンプルホールド部110は、一または複数のスイッチトキャパシタを含み、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100に入力するアナログ信号AINPおよびAINNを、アナログ積分部130へと伝達する。図3は、サンプルホールド部110が、複数のスイッチトキャパシタを含む例を示す。サンプルホールド部110は、オーバーサンプリング比と略同一の数のスイッチトキャパシタを含んでよい。複数のスイッチトキャパシタは、キャパシタCs1pjと、キャパシタCs1njと、各キャパシタの前段および後段に切換スイッチをそれぞれ有する。なお、jは、1からmまでの自然数とし、mは、オーバーサンプリング比の数(一例として、60)とする。
キャパシタCs1pjの前段のスイッチは、キャパシタCs1pjの一方の端子を、アナログ信号AINPが入力する入力端子および基準電位のいずれかに切り換える。また、キャパシタCs1pjの後段のスイッチは、キャパシタCs1pjの他方の端子を、基準電位および加算部120のいずれかに切り換える。
キャパシタCs1pjのそれぞれは、第1タイミング(一例として、信号φtがハイ電位)において、一方の端子が入力端子AINPに接続され、他方の端子が基準電位に接続されて、アナログ入力信号を充電する。そして、j番目のキャパシタCs1pjは、第1タイミングからj番目にずれたタイミング(一例として、信号φijがハイ電位)において、一方の端子が基準電位に接続され、他方の端子が加算部120に接続され、充電したアナログ入力信号をアナログ積分部130へと順次放電する。
同様に、キャパシタCs1njの前段のスイッチは、キャパシタCs1njの一方の端子を、アナログ信号AINNが入力する入力端子および基準電位のいずれかに切り換える。また、キャパシタCs1njの後段のスイッチは、キャパシタCs1njの他方の端子を、基準電位および加算部120のいずれかに切り換える。
キャパシタCs1njのそれぞれは、第1タイミング(信号φtがハイ電位)において、一方の端子が入力端子AINNに接続され、他方の端子が基準電位に接続されて、アナログ入力信号を充電する。そして、j番目のキャパシタCs1njは、第1タイミングからj番目にずれたタイミング(信号φijがハイ電位)において、一方の端子が基準電位に接続され、他方の端子が加算部120に接続され、充電したアナログ入力信号をアナログ積分部130へと順次放電する。
即ち、複数のスイッチトキャパシタは、第1クロックにおいてそれぞれアナログ入力信号を充電し、第1クロック以降の対応するクロック信号に応じて、充電したアナログ入力信号をアナログ積分部130へと順次放電する。これにより、サンプルホールド部110は、第1クロックにおいて複数のスイッチトキャパシタがサンプリングした略同一のアナログ値を、第1クロック以降においてアナログ積分部130へと順次供給することができる。即ち、サンプルホールド部110は、アナログ信号が高速に変化しても、一のタイミングの値を保持してデジタル値へと変換することができる。
これに代えて、サンプルホールド部110は、一のスイッチトキャパシタを有し、クロック毎にアナログ信号をサンプリングしてもよい。この場合、アナログ信号に雑音等の変動が重畳する場合、クロック信号に同期したタイミング毎にサンプリングすることで、当該雑音による変動を平均化して低減させることができる。なお、サンプルホールド部110が有するスイッチトキャパシタの数は、第1フィードフォワード部250が有するスイッチトキャパシタの数と略同一であってよい。
DA変換部150は、第1基準電圧REFPと、第2基準電圧REFNと、キャパシタCfbpと、キャパシタCfbnと、第1スイッチ部152と、第2スイッチ部154と、第3スイッチ部156と、を有する。第1基準電圧REFPおよび第2基準電圧REFNは、絶対値が略同一の電圧値を有し、極性が互いに逆となる電圧をそれぞれ出力する。一例として、第1基準電圧REFPは、正極性の電圧を出力し、第2基準電圧REFNは、負極性の電圧を出力する。
第1スイッチ部152は、キャパシタCfbpの一方の端子を、第1基準電圧REFPおよび基準電位のいずれかに切り換える。また、第1スイッチ部152は、キャパシタCfbnの一方の端子を、第2基準電圧REFNおよび基準電位のいずれかに切り換える。第1スイッチ部152は、例えば、信号φsがハイ電位のタイミングにおいて、キャパシタCfbpの一方の端子を第1基準電圧REFPに接続し、キャパシタCfbnの一方の端子を第2基準電圧REFNに接続する。また、第1スイッチ部152は、信号φiがハイ電位のタイミングにおいて、キャパシタCfbpの一方の端子をおよびキャパシタCfbnの一方の端子を基準電位に接続する。
第2スイッチ部154は、キャパシタCfbpおよびキャパシタCfbnの他方の端子を、基準電位に接続するか否かを切り換える。第2スイッチ部154は、例えば、信号φsがハイ電位のタイミングにおいて、キャパシタCfbpおよびキャパシタCfbnの他方の端子を基準電位に接続し、信号φiがハイ電位のタイミングにおいて、当該他方の端子および基準電位の電気的接続を切断する。第1スイッチ部152および第2スイッチ部154により、キャパシタCfbpおよびキャパシタCfbnは、信号φsがハイ電位のタイミングにおいて、対応する基準電圧とそれぞれ接続されて、基準電圧およびキャパシタの容量に応じた電荷が充電される。
第3スイッチ部156は、キャパシタCfbpおよびキャパシタCfbnの他方の端子を、加算部120に接続するか否かを切り換える。第3スイッチ部156は、例えば、信号φiがハイ電位のタイミングにおいて、キャパシタCfbpおよびキャパシタCfbnの他方の端子を加算部120に接続し、信号φsがハイ電位のタイミングにおいて、当該他方の端子および加算部120の電気的接続を切断する。これにより、第3スイッチ部156は、キャパシタCfbpおよびキャパシタCfbnに充電された電荷を加算部120に供給することができる。
また、第3スイッチ部156は、変調処理部140から供給される変調信号MOD0に応じて、キャパシタCfbpおよびキャパシタCfbnの他方の端子の接続先を切り換える。ここで、キャパシタCfbpおよびキャパシタCfbnの接続先である加算部120は、サンプルホールド部110から受け取る差動信号に対応して、当該差動信号の正側信号および負側信号にそれぞれフィードバック信号を伝送する経路を有する。
第3スイッチ部156は、例えば、変調信号MOD0のデジタルコードが「0」の場合、キャパシタCfbpに充電された第1基準電圧REFPに応じた電荷を、差動信号の正側信号に加算させ、キャパシタCfbnに充電された第2基準電圧REFNに応じた電荷を、差動信号の負側信号に加算させるように接続を切り換える。第3スイッチ部156は、一例として、デジタルコードが「0」に応じて信号φipがハイ電位とし、当該タイミングにおいて、キャパシタCfbpの他方の端子を正側信号の伝送線路に接続し、キャパシタCfbnの他方の端子を負側信号の伝送線路に接続する。
また、第3スイッチ部156は、例えば、変調信号MOD0のデジタルコードが「1」の場合、キャパシタCfbpに充電された第1基準電圧REFPに応じた電荷を、差動信号の負側信号に加算させ、キャパシタCfbnに充電された第2基準電圧REFNに応じた電荷を、差動信号の正側信号に加算させるように接続を切り換える。第3スイッチ部156は、一例として、デジタルコードが「1」に応じて信号φinがハイ電位とし、当該タイミングにおいて、キャパシタCfbpの他方の端子を負側信号の伝送線路に接続し、キャパシタCfbnの他方の端子を正側信号の伝送線路に接続する。
このように、DA変換部150は、変調処理部140がアナログ積分部130の積分結果を量子化したデジタル信号「0」に応じて、正の基準電圧に応じたアナログ信号をフィードバック信号として加算部120に出力し、当該フィードバック信号を差動信号に加算させる。また、DA変換部150は、変調処理部140がアナログ積分部130の積分結果を量子化したデジタル信号「1」に応じて、負の基準電圧に応じたアナログ信号をフィードバック信号として加算部120に出力し、当該フィードバック信号を差動信号に加算させる。
即ち、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、入力するアナログ信号の積分結果の量子化結果に応じて、当該アナログ信号に基準電圧を加算または減算するフィードバック制御しつつ、シリアルデジタルコードを出力する。このようなインクリメンタル型デルタシグマAD変換器100のクロック信号に応じた各部の動作について、次に説明する。
図4は、本実施形態に係るインクリメンタル型デルタシグマAD変換器100の各部における信号波形の一例を示す。図4の横軸は時間を示し、縦軸は波高値(一例として、電圧値)を示す。図4は、入力するアナログ信号をサンプリングして保持する時間領域をトラッキングフェーズとして、「tracking」と示す。また、保持したアナログ信号をデジタル信号に変換する時間領域をコンバージョンフェーズとして、「conversion」と示す。なお、入力するアナログ信号の一例を、信号AIN(=AINP−AINN)として示す。
リセット部170は、トラッキングフェーズにおいて、アナログ積分部130およびデジタル演算部160をリセットする。リセット部170が出力するリセット信号の一例を、図4の信号φrに示す。信号φrは、トラッキングフェーズにおいて、ハイ電位となる。
また、サンプルホールド部110は、トラッキングフェーズにおいて、アナログ信号AINPおよびAINNをサンプリングする。即ち、サンプルホールド部110の複数のスイッチトキャパシタは、図4のトラッキングフェーズにおいてハイ電位となる信号φtに応じて、アナログ入力信号を充電する。なお、第1フィードフォワード部250が含む複数のスイッチトキャパシタも、信号φtに応じて、アナログ入力信号を充電してよい。
また、サンプルホールド部110は、コンバージョンフェーズにおいて、充電したアナログ入力信号をアナログ積分部130へと順次放電する。即ち、サンプルホールド部110に含まれるキャパシタCs1pjおよびキャパシタCs1njは、コンバージョンフェーズにおいて、互いに異なるタイミングで順次ハイ電位となる信号φij(jは1からmの自然数とし、mはオーバーサンプリング比の数)に応じて、充電したアナログ入力信号を順次放電する。なお、第1フィードフォワード部250が含む複数のスイッチトキャパシタも、信号φtに応じて、アナログ入力信号を順次放電してよい。
これにより、アナログ積分部130は、サンプルホールド部110から順次放電されるアナログ入力信号を積分し、変調処理部140は、積分結果を量子化して変調信号MOD0として出力する。なお、図4は、変調処理部140が出力する変調信号の一例を、信号MOD0として示す。
また、図4は、DA変換部150の第1スイッチ部152および第2スイッチ部154を制御する信号φsおよび信号φiの一例を示す。信号φsおよび信号φiによって第1スイッチ部152および第2スイッチ部154が制御されることにより、キャパシタCfbpおよびキャパシタCfbnは、対応する基準電圧に応じた電荷が充電される。なお、図4は、第1基準電圧REFPおよび第2基準電圧REFNの一例を示す。
また、図4は、信号MOD0に応じて、DA変換部150の第3スイッチ部156を制御する信号φipおよび信号φinの一例を示す。信号φipは、信号MOD0のビット値が0であることに応じて、ハイ電位となる信号であり、信号φinは、信号MOD0のビット値が1であることに応じて、ロー電位となる信号である。信号φipおよび信号φinによって第3スイッチ部156が制御されることにより、加算部120は、フィードバック信号を差動信号に加算できる。
なお、アナログ積分部130のアナログ積分器の段数をLとすると、コンバージョンフェーズの最初の(L−1)回の出力は、データ伝送遅延のため、アナログ積分部130は、積分結果を0とする。なお、アナログ積分部130へのアナログ入力信号は、1からm番目のクロック信号に応じてm個のスイッチトキャパシタから順次入力され、(m+1)から(m+L−1)番目のクロックに対しては出力に影響を与えないので不定または0でよい。
コンバージョンフェーズにおいて、サンプルホールド部110の全ての(即ち、m個の)スイッチトキャパシタが放電を完了し、変調処理部140がm個のデジタルコードを順次出力した場合、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、1つの変換サイクルを終了させてよい。即ち、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、コンバージョンフェーズからトラッキングフェーズへと移行し、リセット部170は、アナログ積分部130およびデジタル演算部160をリセットする。
このように、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、トラッキングフェーズおよびコンバージョンフェーズを含む変換サイクルを繰り返して、アナログ入力信号をデジタル信号に変換する。インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、デルタシグマAD変換器とは異なり、トラッキングフェーズにおいてアナログ積分部130に蓄積された電荷を放電してリセットする。これにより、一の変換サイクルにおいて変換されたデジタル値は、一の変換サイクルとは異なるサイクルで蓄積された電荷の影響を受けることなく、アナログ入力信号の値をより正確に変換した値にすることができる。
なお、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、変換サイクル毎にアナログ積分部130をリセットすることから、コンバージョンフェーズにおいて、先に蓄積された電荷は、後に蓄積された電荷と比較して、変換後のデジタル信号に対してより大きな影響を与えることになる。
例えば、図2に示すような、L=3のアナログ積分部130は、コンバージョンフェーズとなってから1番目に入力されるアナログ入力信号を、3つの積分器に順次蓄積して、3番目のクロックに同期して積分結果として出力する。そして、1番目のアナログ入力信号は、第3アナログ積分器230に蓄積されるので、アナログ積分部130が3番目のクロックから(m+2)番目のクロックに同期して出力する積分結果の全てに含まれて影響を及ぼすことになる。一方、m番目に入力されるアナログ入力信号は、アナログ積分部130が(m+2)番目のクロックに同期して出力する積分結果に含まれるだけである。
したがって、アナログ積分部130に入力するアナログ入力信号は、入力する順番に応じて、変調処理部140が出力するシリアルデジタルコードに対する重み(Weight値または寄与度)が異なることになる。ここで、アナログ入力信号の値を規格化して1とすると、i番目に入力するアナログ入力信号の重みは、残りの(m−i+1)回、(L−1)次積分されることになるので、次式のように算出できる。
なお、アナログ入力信号は、コンバージョンフェーズとなってから1からm番目のクロック信号に同期して順次入力され、それぞれ(L−1)次積分されるので、全体の重みは次式のように算出できる。
したがって、アナログ入力信号の伝達関数のゲインが1となるように、i番目に入力するアナログ入力信号の重みを規格化すると、次式が得られる。
なお、(数3)式を整理することで、i番目に入力するアナログ入力信号の重みとして、次式を得る。
以上のインクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、アナログ入力信号を差動信号として受け取り、アナログ積分部130が当該差動信号を積分するので、差動信号の正側信号および負側信号にオフセット誤差が含まれると、当該オフセット誤差が蓄積され、シリアルデジタルコードに誤差が生じてしまう。このような場合、差動信号の伝送ラインにチョッパ回路を設け、差動信号をチョッピングしてオフセット誤差を低減させてよい。
例えば、差動信号の正側信号に+Vのオフセット信号が含まれても、チョッピングによって正側伝送ラインを負側伝送ラインに切り換えることで、負側信号に+Vのオフセット信号を含めることができる。これにより、正側信号および負側信号の差分信号は、+Vのオフセット信号を相殺して、理想的にはオフセット誤差がゼロとなる。このようなチョッピングによるオフセット誤差の低減は、デルタシグマAD変換器のように、アナログ入力信号の入力する順番に関わらず、変換結果のシリアルデジタルコードに対する当該アナログ入力信号の重みが略同一の場合に有効である。
しかしながら、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、前述したように、変換結果のシリアルデジタルコードに対するアナログ入力信号の重みが、当該アナログ入力信号の入力する順番に応じて異なってしまう。したがって、例えば、チョッピング前の正側信号と、チョッピング後の負側信号では、アナログ入力信号の重みが異なるので、これらの差分信号は、オフセット誤差を相殺することができない場合がある。
例えば、(数4)式より、重みの奇数番目の合計から、重みの偶数番目の合計を差し引いた値は次式のように算出される。なお、(数5)式のWeight
Δsum_evenは、L>2、mが偶数の場合の算出結果であり、(数6)式のWeight
Δsum_oddは、L>2、mが奇数の場合の算出結果である。
また、L=2、mが偶数の場合の算出結果を、(数7)式に、L=2、mが奇数の場合の算出結果を(数8)式に示す。
(数7)式および(数8)式より、例えば、L=2、m=60の場合、チョッピングを実行しても、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、差動信号の正側信号および負側信号に含まれるチョッピング動作をさせない場合のオフセット誤差の1/60程度のオフセット誤差が少なくとも発生することがわかる。そこで、本実施形態に係るインクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、チョッパパターンに応じたチョッピングを実行して、このようなオフセット誤差を低減させる。このようなチョッパパターンによる制御を実行するアナログ積分部130について、次に説明する。
図5は、本実施形態に係るチョッパパターンによる制御を実行するアナログ積分部130の構成例を示す。図5に示すアナログ積分部130において、図2に示された本実施形態に係るアナログ積分部130の動作と略同一のものには同一の符号を付け、説明を省略する。本実施形態に係るアナログ積分部130は、第1アナログ積分器210がV01、第2アナログ積分器220がV02、第3アナログ積分器230がV03のオフセット誤差を有する例を説明する。
本実施形態に係るアナログ積分部130は、入力切換スイッチと、出力切換スイッチと、チョッパパターン発生部370を更に備える。図5は、第1アナログ積分器210が第1入力切換スイッチ310および第1出力切換スイッチ320を有し、第2アナログ積分器220が第2入力切換スイッチ330および第2出力切換スイッチ340を有し、第3アナログ積分器230が第3入力切換スイッチ350および第3出力切換スイッチ360を有する例を示す。
ここで、差動信号の正側信号が入力する第1アナログ積分器210の第1入力端子が、第1アナログ増幅器212の正側入力端子に接続され、差動信号の負側信号が入力する第1アナログ積分器210の第2入力端子が、第1アナログ増幅器212の負側入力端子に接続された状態を第1接続状態とする。また、第1アナログ積分器210の第1入力端子が、第1アナログ増幅器212の負側入力端子に接続され、第1アナログ積分器210の第2入力端子が、第1アナログ増幅器212の正側入力端子に接続された状態を第2接続状態とする。第1入力切換スイッチ310は、第1接続状態とするか、第2接続状態とするかを、チョッパパターンに応じて切り換える。
同様に、第2アナログ積分器220の第1入力端子が、第2アナログ増幅器222の正側入力端子に接続され、第2アナログ積分器220の第2入力端子が、第2アナログ増幅器222の負側入力端子に接続された状態を第1接続状態とする。また、第2アナログ積分器220の第1入力端子が、第2アナログ増幅器222の負側入力端子に接続され、第2アナログ積分器220の第2入力端子が、第2アナログ増幅器222の正側入力端子に接続された状態を第2接続状態とする。第2入力切換スイッチ330は、第1接続状態とするか、第2接続状態とするかを、チョッパパターンに応じて切り換える。
同様に、第3入力切換スイッチ350は、第3アナログ積分器230を第1接続状態とするか、第2接続状態とするかを、チョッパパターンに応じて切り換える。なお、図5は、第1アナログ積分器210、第2アナログ積分器220、および第3アナログ積分器230が、第1接続状態の場合の例を示す。第1アナログ増幅器212、第2アナログ増幅器222、および第3アナログ増幅器232は、正側入力端子および負側入力端子に入力される信号を増幅して、増幅した信号を正側出力端子および負側出力端子からそれぞれ出力する。
出力切換スイッチのそれぞれは、第1接続状態と第2接続状態でアナログ増幅器の出力の接続先を切り換える。第1出力切換スイッチ320は、第1接続状態において第1アナログ増幅器212の正側出力端子を当該第1アナログ積分器210の第1出力端子に接続し第1アナログ増幅器212の負側出力端子を当該第1アナログ積分器210の第2出力端子に接続する。また、第1出力切換スイッチ320は、第2接続状態において正側出力端子を第2出力端子に接続し負側出力端子を第1出力端子に接続する。
第1入力切換スイッチ310および第1出力切換スイッチ320は、複数のスイッチを有し、当該複数のスイッチの切り換えを指示する信号を含むチョッパパターンに応じて、接続状態を切り換える。図5は、第1入力切換スイッチ310が、スイッチ312、スイッチ314、スイッチ316、およびスイッチ318を有し、第1出力切換スイッチ320が、スイッチ322、スイッチ324、スイッチ326、およびスイッチ328を有する例を示す。第1入力切換スイッチ310および第1出力切換スイッチ320は、一例として、信号φp1および信号φn1の2つの信号を含むチョッパパターンに応じて、接続状態を切り換える。
図6は、本実施形態に係るチョッパパターン発生部370が発生するチョッパパターンの一例を示す。図6は、第1接続状態および第2接続状態を交互に切り換えるチョッパパターンの例を示す。即ち、スイッチ312、スイッチ314、スイッチ326、およびスイッチ328は、信号φp1がハイ電位のタイミングに応じてオン状態となり、ロー電位のタイミングに応じてオフ状態となる。また、スイッチ316、スイッチ318、スイッチ322、およびスイッチ324は、信号φn1がハイ電位のタイミングに応じてオン状態となり、ロー電位のタイミングに応じてオフ状態となる。
同様に、第2出力切換スイッチ340は、第1接続状態において第2アナログ増幅器222の正側出力端子を第2アナログ積分器220の第1出力端子に接続し第2アナログ増幅器222の負側出力端子を第2アナログ積分器220の第2出力端子に接続する。また、第2出力切換スイッチ340は、第2接続状態において正側出力端子を第2出力端子に接続し負側出力端子を第1出力端子に接続する。
同様に、第3出力切換スイッチ360は、第1接続状態において第3アナログ増幅器232の正側出力端子を第3アナログ積分器230の第1出力端子に接続し第3アナログ増幅器232の負側出力端子を第3アナログ積分器230の第2出力端子に接続する。また、第3出力切換スイッチ360は、第2接続状態において正側出力端子を第2出力端子に接続し負側出力端子を第1出力端子に接続する。
チョッパパターン発生部370は、連続する一部のサイクルにおいて、第1接続状態および第2接続状態の間の切換を含まないチョッパパターンを発生する。チョッパパターン発生部370は、第1接続状態および第2接続状態を交互に切り換えるチョッピング動作とは異なる切り換え動作のチョッパパターンを発生させる。即ち、チョッパパターン発生部370は、第1接続状態および第2接続状態を交互に切り換えた場合と比較して、アナログ増幅器のオフセット誤差により生じる変調信号の誤差を低減させるチョッパパターンを発生する。
チョッパパターン発生部370は、予め定められたチョッパパターンを記憶する記憶部を有してよい。これに代えて、チョッパパターン発生部370は、予め定められたチョッパパターンを演算等によって出力する演算回路を有してもよい。チョッパパターン発生部370は、当該チョッパパターンを第1入力切換スイッチ310、第1出力切換スイッチ320、第2入力切換スイッチ330、第2出力切換スイッチ340、第3入力切換スイッチ350、および第3出力切換スイッチ360に供給してよい。
なお、リセット部170は、予め定められた周期(即ち、コンバージョンフェーズ)毎にアナログ積分部130が保持する積分値をリセットする。ここで、リセット部170がリセットする周期内には、複数のサイクルを含む。そして、チョッパパターン発生部370は、周期内の第1接続状態の各サイクルにおいて、アナログ積分器への入力が変調信号MOD0に与える重みの合計と、周期内の第2接続状態の各サイクルにおいてアナログ積分器への入力が変調信号MOD0に与える重みの合計との差を、第1接続状態および第2接続状態を交互に切り換えた場合と比較して小さくするチョッパパターンを発生する。
即ち、チョッパパターン発生部370は、(数5)から(数8)式によって算出される、第1接続状態および第2接続状態を交互に切り換えた場合の重みの合計と比較して、重みの合計が小さくなるチョッパパターンを発生する。ここで、一例として、アナログ積分器の段数L=3、オーバーサンプリング比m=8とし、アナログ増幅器のオフセットをV0として、第1接続状態および第2接続状態を交互に切り換えた場合の重みの合計を算出する。
アナログ積分部130がリセットされ、j=1、3、5、7番目のアナログ入力信号に対して、第1アナログ積分器210は、第1接続状態で当該アナログ入力信号を積分することとする。そして、j=2、4、6、8番目のアナログ入力信号に対して、第1アナログ積分器210は、第2接続状態で当該アナログ入力信号を積分することとする。なお、ここでは、第1アナログ積分器210がチョッピング動作を実行し、第2アナログ積分器220および第3アナログ積分器230にはオフセット誤差が無く、チョッピング動作をしない例を考える。このようなアナログ積分部130によって、アナログ入力信号が積分された場合の変調信号MOD0に与える重みの合計を、図7に示す。
図7は、本実施形態に係るアナログ積分部130が、第1接続状態および第2接続状態を交互に繰り返した場合の重みの合計値の一例を示す。図7において、第1接続状態をチョッパ極性「+」とし、第2接続状態をチョッパ極性「−」とした。インクリメンタル型デルタシグマAD変換器100は、前述したように、変換結果のシリアルデジタルコードに対するアナログ入力信号の重みが、当該アナログ入力信号の入力する順番が遅いほど、小さくなる。したがって、当該重みの合計が、0.167V0となり、差動信号のオフセット誤差V0の1/8程度の値が、変換後のデジタル信号の誤差として残ってしまうことがわかる。
そこで、チョッパパターン発生部370は、第1接続状態および第2接続状態を交互に繰り返さないチョッパパターンを発生させる。チョッパパターン発生部370は、例えば、第1接続状態および第2接続状態のうち少なくとも一方の接続状態を、少なくとも1回、反転させずに連続させたチョッパパターンを生成させる。チョッパパターン発生部370は、一例として、第1番目と第2番目のチョッパ極性を反転させた後、第3番目のチョッパ極性を反転させない。また、チョッパパターン発生部370は、チョッパ極性を反転させない組を、交互に繰り返してよい。チョッパパターン発生部370は、一例として、第4番目のチョッパ極性を反転させ、第5番目のチョッパ極性を反転させない。また、チョッパパターン発生部370は、例えば、第6番目のチョッパ極性を反転させ、第7番目のチョッパ極性を反転させない。このようなチョッパパターンの例を、図8に示す。
図8は、本実施形態に係るチョッパパターン発生部370が発生するチョッパパターンの第1例を示す。チョッパパターン発生部370は、アナログ入力信号の入力する順番が早い段階(一例として、j=1および2)で、第1接続状態および第2接続状態を交互に切り換えてから、第1接続状態または第2接続状態を連続させる。これによって、図8に示すチョッパパターンの第1例は、図7に示す第1接続状態および第2接続状態を交互に繰り返すチョッピング動作と比較して、重みの合計を小さくすることができる。図8の例は、当該重みの合計を0.033V0とすることができ、変換後のデジタル信号の誤差を低減できることがわかる。
また、チョッパパターン発生部370は、周期内の第1接続状態の各サイクルにおいてアナログ積分器への入力が変調信号に与える重みの合計と、周期内の第2接続状態の各サイクルにおいてアナログ積分器への入力が変調信号に与える重みの合計との差を最小とするチョッパパターンを発生してよい。チョッパパターン発生部370は、例えば、第1番目と第2番目のチョッパ極性を反転させた後、第3番目のチョッパ極性を反転させない。そして、チョッパパターン発生部370は、例えば、第4番目および第5番目のチョッパ極性を反転させ、第6番目のチョッパ極性を反転させない。また、チョッパパターン発生部370は、例えば、第7番目のチョッパ極性を反転させる。このようなチョッパパターンの例を、図9に示す。
図9は、本実施形態に係るチョッパパターン発生部370が発生するチョッパパターンの第2例を示す。チョッパパターンの第2例は、段数L=3、オーバーサンプリング比m=7とした例を示す。図9に示すチョッパパターンの第2例は、図8に示す第1接続状態および第2接続状態を交互に繰り返すチョッピング動作と比較して、重みの合計をより小さくすることができる。図9の例は、当該重みの合計を略0V0とすることができ、変換後のデジタル信号の誤差を最小にさせることがわかる。
チョッパパターン発生部370は、図8および図9の例で説明したチョッパパターン等を、第1アナログ積分器210に供給してよい。また、チョッパパターン発生部370は、チョッパパターンを第2アナログ積分器220および/または第3アナログ積分器230に供給してもよい。即ち、アナログ積分部130は、複数のアナログ積分器を有してよく、複数のアナログ積分器のうちの少なくとも1つのアナログ積分器は、第1接続状態および第2接続状態をチョッパパターンに応じて切り換えてよい。
この場合、チョッパパターン発生部370は、略同一のチョッパパターンを、複数のアナログ積分器に供給してよく、これに代えて、少なくとも一つのチョッパパターンを異なるチョッパパターンにして複数のアナログ積分器に供給してもよい。例えば、複数のアナログ積分器のうちの2以上のアナログ積分器のそれぞれが、互いに異なるチョッパパターンに応じて第1接続状態および第2接続状態を切り換える。これにより、より多くのチョッパパターンと、異なるチョッパパターンの組み合わせとを用いることができるので、チョッパパターンの設計自由度を向上させることができる。また、これにより、例えば図5に示すアナログ積分部130は、オフセット誤差V01、オフセット誤差V02、およびオフセット誤差V03を低減させることができる。
また、チョッパパターン発生部370は、互いに異なる複数のチョッパパターンのうち選択されたチョッパパターンを出力可能でよい。例えば、チョッパパターン発生部370は、図7で説明した、第1接続状態および第2接続状態を交互に切り換える交互切換チョッパパターンを出力可能でよい。また、チョッパパターン発生部370は、図9で説明したような、アナログ増幅器のオフセット誤差により生じる変調信号の誤差を最小化する最小誤差チョッパパターンを出力可能でよい。
また、チョッパパターン発生部370は、図8で説明したような、最小誤差チョッパパターンと比較し接続状態の切換回数が少なく交互切換チョッパパターンよりも変調信号の誤差が小さい切換低減チョッパパターンを出力可能でよい。また、チョッパパターン発生部370は、第1接続状態または第2接続状態のまま固定する無切換チョッパパターンを出力可能でよい。
また、チョッパパターン発生部370は、交互切換チョッパパターン、最小誤差チョッパパターン、切換低減チョッパパターン、および、無切換チョッパパターンのうちの少なくとも1つを含む複数のチョッパパターンのうち選択されたチョッパパターンを出力可能でよい。チョッパパターン発生部370は、インクリメンタル型デルタシグマAD変換器の使用環境、要求仕様、および経時変化等に応じて、チョッパパターンを選択して出力してよい。
以上の本実施形態に係るアナログ積分部130は、差動信号を入力して、差動信号を出力するアナログ積分器を複数有する例を説明した。これに代えて、アナログ積分部130は、差動信号を入力して、シングルエンド信号を出力するアナログ積分器を有してもよい。この場合、アナログ積分器は、第1接続状態において正側入力端子および負側入力端子の入力に応じたアナログ増幅器の出力値を出力し、第2接続状態において正側入力端子および負側入力端子の入力に応じたアナログ増幅器の出力値の反転値を出力することになる。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。