以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
[蓄電デバイス用外装材]
図1は、本発明の蓄電デバイス用外装材の一実施形態を模式的に表す断面図である。図1に示すように、本実施形態の外装材(蓄電デバイス用外装材)10は、基材層11と、該基材層11の一方の面側に設けられた基材保護層12と、該基材層11の基材保護層12とは反対側に設けられた接着層13と、該接着層13の基材層11とは反対側に設けられた、両面に腐食防止処理層15a,15bを有する金属箔層14と、該金属箔層14の接着層13とは反対側に設けられたシーラント接着層16と、該シーラント接着層16の金属箔層14とは反対側に設けられたシーラント層17と、が積層された積層体である。ここで、腐食防止処理層15aは金属箔層14の接着層13側の面に、腐食防止処理層15bは金属箔層14のシーラント接着層16側の面に、それぞれ設けられている。外装材10は、基材保護層12が最外層、シーラント層17が最内層である。すなわち、外装材10は、基材保護層12を蓄電デバイスの外部側、シーラント層17を蓄電デバイスの内部側に向けて使用される。以下、各層について説明する。
(基材層11)
基材層11は、蓄電デバイスを製造する際のシール工程における耐熱性を付与し、成型加工や流通の際に起こりうるピンホールの発生を抑制する役割を果たす。特に大型用途の蓄電デバイスの外装材の場合等は、耐擦傷性、耐薬品性、絶縁性等も付与できる。
基材層11は、絶縁性を有する樹脂により形成された樹脂フィルムからなる層であることが好ましい。樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルム等の延伸又は未延伸フィルム等が挙げられる。基材層11は、これらいずれかの樹脂フィルムで構成された単層フィルムであってもよく、これらの樹脂フィルムの2種以上で構成された積層フィルムであってもよい。
これらのフィルムの内、基材層11としては、成型性に優れることから、ポリアミドフィルムが好ましく、二軸延伸ポリアミドフィルムがより好ましい。ポリアミドフィルムを形成するポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)、ナイロン11、ナイロン12等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、突刺強度及び衝撃強度に優れる観点から、ナイロン6(ONy)が好ましい。
二軸延伸フィルムにおける延伸方法としては、例えば、逐次二軸延伸法、チューブラー二軸延伸法、同時二軸延伸法等が挙げられる。二軸延伸フィルムは、より優れた深絞り成型性が得られる観点から、チューブラー二軸延伸法により延伸されたものであることが好ましい。
基材層11の厚さは、6〜40μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。基材層11の厚さが6μm以上であることにより、蓄電デバイス用外装材10の耐ピンホール性及び絶縁性を向上できる傾向がある。基材層11の厚さが40μmを超えると蓄電デバイス用外装材10の総厚が大きくなり、電池の電気容量を小さくしなければいけなくなる場合があるため望ましくない。
(基材保護層12)
基材保護層12は、基材層11の一方の面側に設けられる層であって、芳香族ポリエステルウレタン樹脂にポリイソシアネートを反応させて得られる層である。すなわち、基材保護層12は、芳香族ポリエステルウレタン樹脂及びポリイソシアネートを含む原料の硬化物である。元々ポリエステルウレタン樹脂は構造中にウレタン基を有するため基材密着性に優れる良好な保護層となり得るが、発明者らの知見によれば、基材保護層にさらに優れた耐電解液性を付与するという観点で、ポリエステルウレタン樹脂にさらにポリイソシアネートを併用することが好ましいことが分かった。
芳香族ポリエステルウレタン樹脂は、芳香族ポリエステル樹脂と硬化剤であるイソシアネートとを反応させて得られる樹脂である。すなわち、芳香族ポリエステルウレタン樹脂は、芳香族ポリエステル樹脂がポリイソシアネートにより鎖伸長されたものということができる。
なお、芳香族ポリエステル樹脂は、少なくとも一方が芳香族であるジカルボン酸及びジオールを原料とする共重合体である。
ジカルボン酸としては脂肪族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のいずれも用いることができ、具体的には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸等の脂肪族ジカルボン酸;イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジオール、水添キシリレングリコール等の脂環式系ジオール;キシリレングリコール等の芳香族ジオールが挙げられる。
硬化剤であるポリイソシアネートとしては、芳香族系、脂肪族系及び脂環族系の各種ポリイソシアネートを使用できる。具体例としては、脂肪族系のヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等;芳香族系のトリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等;脂環族系のイソホロンジイソシアネート(IPDI)等;これらのジイソシアネートの1種類又は2種類以上からのポリイソシアネート変性体等が挙げられる。
芳香族ポリエステルウレタン樹脂の分子量は、耐電解液性、基材層11への密着性という観点から、数平均分子量(Mn)が10000〜40000であることが好ましい。
芳香族ポリエステルウレタン樹脂の水酸基価は2〜20KOHmg/gであることが好ましく、3〜6KOHmg/gであることがより好ましい。水酸基が2KOHmg/g未満であると更なる耐久性の向上は期待できず、また20KOHmg/g超であると架橋による機能性が飽和する。
芳香族ポリエステルウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に制限されないが、−3〜100℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましい。ただし、本実施形態においては、ガラス転移温度が異なる2種以上の芳香族ポリエステルウレタン樹脂のブレンドであることが好ましい。一般に、ポリエステルウレタン樹脂のガラス転移温度が高い(40℃以上)場合は、芳香族ユニットが多く含まれているケースが多く、剛直な構造を有するため耐久性に優れるが、膜の伸度が低下し易く成型性に劣る傾向がある。一方、ガラス転移温度が低い(40℃未満)場合は、芳香族ユニットが少なくなり柔軟な構造を有するため、可とう性に優れる(成型性に優れる)が、タックが大きくなるため、コーティング巻取り時のブロッキングに劣る傾向がある。このような、樹脂の硬さとその他の特性とのバランスを取るという観点で、ガラス転移温度が異なる芳香族ポリエステルウレタン樹脂をブレンドすることで、優れた電解液耐性を発現しつつ、成型性をナイロンフィルムと同等レベルにすることが容易となる。好適な態様としては、少なくともガラス転移温度が20〜30℃である樹脂と、40〜50℃である樹脂とをブレンドした芳香族ポリエステルウレタン樹脂を用いることが好ましい。
芳香族ポリエステルウレタン樹脂と反応させるポリイソシアネートとしては、芳香族ポリエステルウレタン樹脂を合成する際に用いられる上記のポリイソシアネートを適宜使用することができる。ただし、芳香族系、脂肪族系及び脂環族系のポリイソシアネートのうち、本実施形態においては、電解液耐性を良好にするという観点から、脂環式構造を有しない(脂環族系ではない)ポリイソシアネートが好ましく、脂肪族ポリイソシアネートがより好ましい。特に、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体又はビューレット体が、電解液耐性の付与に好適に使用される。付言すると、ポリイソシアネートの全質量(100質量%)を基準として脂環式構造を有しないポリイソシアネートを50質量%以上用いた場合はアルコール耐性も発現される傾向がある。例えば電池セルメーカーがロットトレース管理のためにインクジェットプリンターで印字を行う際に、誤った情報を印字してしまうことがある。その場合、印字箇所をアルコールでふき取り、再度印字しなおすことが行われているが、このアルコールに対するふき取り耐性を向上させるという点でも、そのようなポリイソシアネートタイプが有効である。
主剤である芳香族ポリエステルウレタン樹脂と硬化剤であるポリイソシアネートとの配合割合は、主剤の水酸基のモル数を[OH]とし、硬化剤のイソシアネート基のモル数を[NCO]としたとき、比率[NCO]/[OH]が5〜20となるように調整する。当該比率が5未満であると更なる耐久性の向上は期待できず、また20超であるとウレタン結合による架橋点が密となるため、膜が硬くなりすぎる虞がある。この観点から、[NCO]/[OH]は5〜20であることが好ましい。
上記のとおり、基材保護層12は、芳香族ポリエステルウレタン樹脂及びポリイソシアネートを含む原料を用いて形成される。当該原料には、フィラー、難燃剤、滑剤(スリップ剤)、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤、塗工安定性を付与させるためのレベリング剤、消泡剤等の各種安定剤、塗工後のブロッキングを防止する(塗液の反応化を促進する)ための触媒、塗液のポットライフ制御のための反応遅延剤(好適に使われるのはアセチルアセトン)などの各種添加剤が含まれていてもよい。
原料にフィラーが含まれていることにより、基材保護層12の外表面にマット処理を施すことができる。本実施形態において基材保護層12は、芳香族ポリエステルウレタン樹脂とポリイソシアネートとから形成されるコーティング層であるため、例えばナイロン(基材層自体)と比較し、反応が関与する系であるためすべり性に劣る傾向があり、成型性が低下する虞がある。そのためマット処理をして表面粗さを調整することで、基材保護層12表面の滑り性が向上し、冷間成型において外装材10が過度に金型に密着することが抑制され易くなるので、良好な成型性を確保し易くなる。また、マット処理により艶消し効果等も得られるため、フィラーの配合量を調整する等して外装材10に外観意匠性を付与することができる。
フィラーとしては、シリカ、アクリル、アルミナ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化チタンなどの無機材料の微粒子(無機フィラー)や、アクリルビーズ、ウレタンビーズ、ポリエステルビーズ(有機フィラー)等を使用することができる。中でもシリカの微粒子は、外装材のプレス成型時に樹脂割れ(微細なクラックによる白化)が発生し難いので好ましい。なお、フィラーの平均粒子径は必要に応じて選定することができるが、蓄電デバイス用外装材は厚み管理が厳しいところがあるため、フィラーサイズとしてはサブミクロン(nmオーダー)から10μm未満が好ましい。その際、異なる粒径分布を有するフィラーをブレンドしてもよい。平均粒子径は、コールターカウンター法により測定することができる。
基材保護層12におけるフィラーの含有比率(基材保護層12の全質量に対するフィラーの含有比率)は1〜50質量%であることが好ましい。フィラーの含有比率を1質量%以上にすることにより、基材保護層12の表面に滑性を付与し易くなる。また、フィラーの含有比率を50質量%以下にすることにより、基材保護層12の表面の膜荒れを防止し易くなる。これにより、外装材10の表面の外観不良を防ぐことができる。
なお、滑剤としては、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド等の脂肪酸アミドが挙げられる。アンチブロッキング剤としては、シリカ等の各種フィラー系のアンチブロッキング剤が好ましい。
上述した添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
基材保護層12の厚さは、外装材10に対する要求特性に応じて選定されるが、例えば1〜10μm程度とすることができる。当該厚さが1μm未満では基材保護効果が不十分となる傾向があり、一方10μmを超えると基材保護効果としては十分であるが逆に厚すぎるため、外装材としての他の特性への影響も危惧される。
(接着層13)
接着層13は、基材層11と金属箔層14とを接着する層である。接着層13は、基材層11と金属箔層14とを強固に接着するために必要な密着力を有すると共に、冷間成型する際において、基材層11によって金属箔層14が破断されることを抑制するための追随性(部材が変形・伸縮したとしても、剥離することなく部材上に接着層13を確実に形成するための性能)も有する。
接着層13を構成する接着剤としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール等のポリオールよりなる主剤と、芳香族系、脂肪族系等のイソシアネートよりなる硬化剤と、を有する二液硬化型のポリウレタン系接着剤を用いることができる。上記接着剤において、主剤の水酸基に対する硬化剤のイソシアネート基のモル比(=[NCO]/[OH])は、1〜10が好ましく、2〜5がより好ましい。
上記ポリウレタン系接着剤は、塗工後、例えば40℃で4日以上のエージングを行うことで、主剤の水酸基と硬化剤のイソシアネート基との反応が進行し、基材層11と金属箔層14とのより強固な接着が可能となる。
接着層13の厚さは、所望の接着強度、追随性、及び加工性等を得る観点から、1〜10μmが好ましく、2〜6μmがより好ましい。
接着層13には、意匠性を付与するべく顔料を適量添加してもよい。顔料は、有機顔料もしくは無機顔料、又は、それら顔料の混合物であってもよい。
顔料の種類は、接着層13の接着性を損なわない範囲である場合は特に限定されない。有機顔料としては、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、ジオキサジン系、インジゴチオインジゴ系、ペリノン−ペリレン系、イソインドレニン系等が挙げられ、無機顔料としては、カーボンブラック系、酸化チタン系、カドミウム系、鉛系、酸化クロム系等が挙げられ、その他に、マイカ(雲母)の微粉末、魚鱗箔等が挙げられる。
有機顔料の具体例としては、例えば、以下の顔料が使用できる。
黄色:イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、アントラキノン(フラバトロン)、アゾメチン、キサンテン等。
橙色:ジケトピロロピロール、ペリレン、アントラキノン、ペリノン、キナクリドン等。
赤色:アントラキノン、キナクリドン、ジケトピロロピロール、ペリレン、インジゴイド等。
紫色:オキサジン(ジオキサジン)、キナクリドン、ペリレン、インジゴイド、アントラキノン、キサンテン、ベンツイミダゾロン、ビオランスロン等。
青色:フタロシアニン、アントラキノン、インジゴイド等。
緑色:フタロシアニン、ペリレン、アゾメチン等。
無機顔料の具体例としては、例えば、以下の顔料が使用できる。
白色:亜鉛華、鉛白、リトポン、二酸化チタン、沈降性硫酸バリウム、バライト粉等。
赤色:鉛丹、酸化鉄赤等。
黄色:黄鉛、亜鉛黄(亜鉛黄1種、亜鉛黄2種)等。
青色:ウルトラマリン青、プロシア青(フェロシアン化鉄カリウム)等。
黒色:カーボンブラック等。
接着層13の全質量を基準として、顔料の含有量は、より高い信頼性が得られることから、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、優れた接着性が得られることから、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
(金属箔層14)
金属箔層14としては、アルミニウム及びステンレス鋼等の各種金属箔が挙げられ、防湿性及び延展性等の加工性、並びにコストの面から、金属箔層14はアルミニウム箔であることが好ましい。アルミニウム箔は一般の軟質アルミニウム箔であってもよいが、耐ピンホール性及び成形時の延展性に優れる点から、鉄を含むアルミニウム箔であることが好ましい。
鉄を含むアルミニウム箔(100質量%)において、鉄の含有量は、0.1〜9.0質量%であることが好ましく、0.5〜2.0質量%であることがより好ましい。鉄の含有量が0.1質量%以上であることにより、より優れた耐ピンホール性及び延展性を有する外装材10を得ることができる。鉄の含有量が9.0質量%以下であることにより、より柔軟性に優れた外装材10を得ることができる。
また、アルミニウム箔としては、所望の成型時の延展性を付与できる点から、焼鈍処理を施した軟質アルミニウム箔(例えば、JIS規格でいう8021材、8079材よりなるアルミニウム箔)がさらに好ましい。
金属箔層14に使用する金属箔は、所望の耐電解液性を得るために、例えば、脱脂処理が施されていることが好ましい。また、製造工程を簡便にするためには、上記金属箔としては、表面がエッチングされていないものが好ましい。上記脱脂処理としては、例えば、ウェットタイプの脱脂処理またはドライタイプの脱脂処理を用いることができるが、製造工程を簡便にする観点から、ドライタイプの脱脂処理が好ましい。
上記ドライタイプの脱脂処理としては、例えば、金属箔を焼鈍処理する工程において、処理時間を長くすることで脱脂処理を行う方法が挙げられる。金属箔を軟質化するために施される焼鈍処理の際に、同時に行われる脱脂処理程度でも充分な耐電解液性が得られる。
また、上記ドライタイプの脱脂処理としては、上記焼鈍処理以外の処理であるフレーム処理及びコロナ処理等の処理を用いてもよい。さらに、上記ドライタイプの脱脂処理としては、例えば、金属箔に特定波長の紫外線を照射した際に発生する活性酸素により、汚染物質を酸化分解及び除去する脱脂処理を用いてもよい。
上記ウェットタイプの脱脂処理としては、例えば、酸脱脂処理、アルカリ脱脂処理等の処理を用いることができる。上記酸脱脂処理に使用する酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸等の無機酸を用いることができる。これらの酸は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、アルカリ脱脂処理に使用するアルカリとしては、例えば、エッチング効果が高い水酸化ナトリウムを用いることができる。また、弱アルカリ系の材料及び界面活性剤等が配合された材料を用いて、アルカリ脱脂処理を行ってもよい。上記説明したウェットタイプの脱脂処理は、例えば、浸漬法、スプレー法により行うことができる。
金属箔層14の厚さは、バリア性、耐ピンホール性及び加工性の点から、9〜200μmであることが好ましく、15〜150μmであることがより好ましく、15〜100μmであることが更に好ましい。金属箔層14の厚さが9μm以上であることにより、成型加工により応力がかかっても破断しにくくなる。金属箔層14の厚さが200μm以下であることにより、外装材の質量増加を低減でき、蓄電デバイスの重量エネルギー密度低下を抑制することができる。
(腐食防止処理層15a,15b)
腐食防止処理層15a,15bは、電解液、又は、電解液と水分の反応により発生するフッ酸による金属箔層14の腐食を抑制する役割を果たす。また、腐食防止処理層15aは、金属箔層14と接着層13との密着力を高める役割を果たす。また、腐食防止処理層15bは、金属箔層14とシーラント接着層16との密着力を高める役割を果たす。腐食防止処理層15a及び腐食防止処理層15bは、同一の構成の層であってもよく、異なる構成の層であってもよい。
腐食防止処理層15a,15bは、例えば、腐食防止処理層15a,15bの母材となる層に対して、脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理、腐食防止能を有するコーティング剤を塗工するコーティングタイプの腐食防止処理あるいはこれらの処理を組み合わせた腐食防止処理を実施することで形成することができる。
上述した処理のうち脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、特に熱水変性処理及び陽極酸化処理は、処理剤によって金属箔(アルミニウム箔)表面を溶解させ、耐腐食性に優れる金属化合物(アルミニウム化合物(ベーマイト、アルマイト))を形成させる処理である。このため、このような処理は、金属箔層14から腐食防止処理層15a,15bまで共連続構造を形成している構造を得るために、化成処理の定義に包含されるケースもある。
脱脂処理としては、酸脱脂、アルカリ脱脂が挙げられる。酸脱脂としては上述した硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸などの無機酸を単独あるいはこれらを混合して得られた酸脱脂を用いる方法などが挙げられる。また酸脱脂として、一ナトリウム二フッ化アンモニウムなどのフッ素含有化合物を上記無機酸で溶解させた酸脱脂剤を用いることで、金属箔層14の脱脂効果だけでなく不動態である金属のフッ化物を形成させることが可能であり、耐フッ酸性という点で有効である。アルカリ脱脂としては、水酸化ナトリウムなどを用いる方法が挙げられる。
上記熱水変成処理としては、例えば、トリエタノールアミンを添加した沸騰水中に金属箔層14を浸漬処理することで得られるベーマイト処理を用いることができる。上記陽極酸化処理としては、例えば、アルマイト処理を用いることができる。また、上記化成処理としては、例えば、クロメート処理、ジルコニウム処理、チタニウム処理、バナジウム処理、モリブデン処理、リン酸カルシウム処理、水酸化ストロンチウム処理、セリウム処理、ルテニウム処理、或いはこれらを2種以上組み合わせた処理を用いることができる。これらの熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理は、上述した脱脂処理を事前に施すことが好ましい。
なお、上記化成処理としては、湿式法に限らず、例えば、これらの処理に使用する処理剤を樹脂成分と混合し、塗布する方法を用いてもよい。また、上記腐食防止処理としては、その効果を最大限にすると共に、廃液処理の観点から、塗布型クロメート処理が好ましい。
腐食防止性能を有するコーティング剤を塗工するコーティングタイプの腐食防止処理に用いられるコーティング剤としては、希土類元素酸化物ゾル、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するコーティング剤が挙げられる。特に、希土類元素酸化物ゾルを含有するコーティング剤を用いる方法が好ましい。
希土類元素酸化物ゾルを含有するコーティング剤を用いる方法は、純粋なコーティングタイプの腐食防止処理であり、この方法を用いることで、一般的なコーティング方法でも金属箔層14に腐蝕防止効果を付与させることが可能である。また、希土類元素酸化物ゾルを用いて形成される層は、金属箔層14の腐蝕防止効果(インヒビター効果)を有し、かつ、環境側面的にも好適な材料である。
希土類元素酸化物ゾルには、液体分散媒中に希土類元素酸化物の微粒子(例えば、平均粒径100nm以下の粒子)が分散されている。希土類元素酸化物としては、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ネオジウム、酸化ランタン等が挙げられる。中でも、酸化セリウムが好ましい。これにより、金属箔層14との間の密着性をより向上させることができる。希土類元素酸化物ゾルの液体分散媒としては、例えば、水、アルコール系溶剤、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤など各種溶媒を用いることができる。中でも、水が好ましい。腐食防止処理層15a,15bに含まれる希土類元素酸化物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
希土類元素酸化物ゾルは、希土類元素酸化物粒子の分散を安定化させるために、分散安定化剤として、硝酸、塩酸、リン酸などの無機酸、酢酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、乳酸などの有機酸、それらの塩等を含有することが好ましい。これらの分散安定化剤のうち、特にリン酸又はリン酸塩を用いることが好ましい。これにより、希土類元素酸化物粒子の分散安定化だけでなく、蓄電デバイス用外装材の用途において、リン酸のキレート能力を利用した、金属箔層14との間の密着性向上、フッ酸の影響で溶出した金属物イオンを捕獲(不動態形成)することによる電解液耐性の付与、低温でもリン酸の脱水縮合起こし易いことによる希土類元素酸化物層の凝集力向上などの効果が期待できる。分散安定化剤として用いられるリン酸又はリン酸塩としては、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸、これらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。中でも、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、ウルトラメタリン酸などの縮合リン酸、あるいはこれらのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩が、蓄電デバイス用外装材としての機能発現に好ましい。特に、希土類元素酸化物ゾルを含むコーティング組成物を用いて、各種コーティング法により希土類酸化物を含む層を形成させる時の乾燥造膜性(乾燥能力、熱量)を考慮すると、低温での反応性に優れる剤が好ましく、低温での脱水縮合性に優れる点から、ナトリウム塩が好ましい。リン酸塩としては、水溶性の塩が好ましい。腐食防止処理層15a,15bに含まれるリン酸又はリン酸塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
希土類元素酸化物ゾル中、リン酸あるいはその塩の配合量としては、希土類元素酸化物100質量部に対し、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。1質量部以上であると、ゾルの安定化が良好であると共に蓄電デバイス用外装材としての機能を満たすことが容易である。希土類元素酸化物100質量部に対するリン酸あるいはその塩の配合上限は、希土類元素酸化物ゾルの機能低下を伴わない範囲であればよく、希土類元素酸化物100質量部に対し、100質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
ただし、上述した希土類元素酸化物ゾルから形成される層は無機粒子の集合体であるため、乾燥キュアの工程を経ても、その層自身の凝集力は低い。そこで、この層の凝集力を補うために、アニオン性ポリマーで複合化させることが好適である。
アニオン性ポリマーとしては、カルボキシ基を有するポリマーが挙げられ、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸(あるいはその塩)、あるいはポリ(メタ)アクリル酸を主成分として共重合した共重合体が挙げられる。該共重合体の共重合成分としては、アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等。);(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プ口ピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等。)、N−アルコキシ(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルコキシ(メタ)アクリルアミド、(アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基等。)、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有モノマー;(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリエ卜キシラン等のシラン含有モノマー;(メタ)アクリロキシプロピルイソシアネー卜等のイソシアネー卜基含有モノマー等が挙げられる。また、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、マレイン酸、アルキルマレイン酸モノエステル、フマル酸、アルキルフマル酸モノエステル、イタコン酸、アルキルイタコン酸モノエステル、(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ブタジエン等が挙げられる。
アニオン性ポリマーは、希土類元素酸化物ゾルを用いて得られた腐食防止処理層15a,15b(酸化物層)の安定性を向上させる役割を果たす。これは、硬くて脆い酸化物層をアクリル系樹脂成分で保護する効果、及び、希土類酸化物ゾルに含まれるリン酸塩由来のイオンコンタミネーション(特にナトリウムイオン)を捕捉する(カチオンキャッチャー)効果によって達成される。つまり、希土類元素酸化物ゾルを用いて得られた腐食防止処理層15a,15b中に、特にナトリウム等のアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンが含まれると、該イオンを含む場所を起点にして腐食防止処理層15a,15bが劣化し易くなる。そのため、アニオン性ポリマーによって希土類酸化物ゾルに含まれるナトリウムイオン等を固定化することで、腐食防止処理層15a,15bの耐性が向上する。
アニオン系ポリマーと希土類元素酸化物ゾルと組み合わせた腐食防止処理層15a,15bは、金属箔層14にクロメート処理を施して形成した腐食防止処理層15a,15bと同等の腐食防止性能を有する。アニオン系ポリマーは、本質的に水溶性であるポリアニオン系ポリマーが架橋された構造であることが好ましい。該構造の形成に用いる架橋剤としては、例えば、イソシアネー卜基、グリシジル基、カルボキシ基、オキサゾリン基を有する化合物が挙げられる。さらにはシランカップリング剤を用いてシロキサン結合を有する架橋部位を導入することも可能である。
イソシアネー卜基を有する化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートあるいはその水素添加物、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートあるいはその水素添加物、イソホロンジイソシアネー卜などのジイソシアネー卜類;あるいはこれらのイソシアネー卜類を、トリメチロールプロパンなどの多価アルコールと反応させたアダクト体、水と反応させることで得られたビューレッ卜体、あるいは三量体であるイソシアヌレート体などのポリイソシアネー卜類;あるいはこれらのポリイソシアネー卜類をアルコール類、ラクタム類、オキシム類などでブロック化させたブロックポリイソシアネー卜などが挙げられる。
グリシジル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類とエピク口ルヒドリンを作用させたエポキシ化合物、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリ卜ール、ソルビ卜ール等の多価アルコール類とエピク口ルヒドリンを作用させたエポキシ化合物、フタル酸、テレフタル酸、シュウ酸、アジピン酸等のジカルボン酸とエピクロルヒドリンとを作用させたエポキシ化合物などが挙げられる。
カルボキシ基を有する化合物としては、各種脂肪族あるいは芳香族ジカルボン酸などが挙げられ、さらにはポリ(メタ)アクリル酸及びポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ(土類)金属塩を用いることも可能である。
オキサゾリン基を有する化合物としては、例えば、オキサゾリンユニットを2つ以上有する低分子化合物、あるいはイソプロペニルオキサゾリンのような重合性モノマーを用いる場合には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル等のアクリル系モノマーを共重合させた化合物が挙げられる。
シランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピル卜リメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルトリエトキシシランが挙げられ、特にアニオン性ポリマーとの反応性を考慮すると、エポキシシラン、アミノシラン、イソシアネートシランが好ましい。
架橋剤の配合量は、アニオン性ポリマー100質量部に対し、1〜50質量部が好ましく、10〜20質量部がより好ましい。架橋剤の比率がアニオン性ポリマー100質量部に対して1質量部以上であれば、架橋構造が充分に形成され易い。架橋剤の比率がアニオン性ポリマー100質量部に対して50質量部以下であれば、塗液のポットライフが向上する。
アニオン性ポリマーを架橋する方法は、上記架橋剤に限らず、チタニウム、ジルコニウム化合物を用いてイオン架橋を形成する方法等であってもよい。また、これらの材料は、腐食防止処理層15aを形成するコーティング組成物を適用してもよい。
以上説明した腐食防止処理層15a,15bにおいて、クロメート処理に代表される化成処理による腐食防止処理層15a,15bは、金属箔層14との傾斜構造を形成させるため、特にフッ酸、塩酸、硝酸、硫酸あるいはこれらの塩を配合した化成処理剤を用いて金属箔層14に処理を施し、次いでクロム系又はノンクロム系の化合物を作用させて化成処理層を金属箔層14に形成させる。しかし、上記化成処理は、化成処理剤に酸を用いていることから、作業環境の悪化及びコーティング装置の腐食を伴う。
一方、前述したコーティングタイプの腐食防止処理層15a,15bは、クロメート処理に代表される化成処理とは異なり、金属箔層14に対して傾斜構造を形成させる必要がない。そのため、コーティング剤の性状は、酸性、アルカリ性、中性等の制約を受けることがなく、良好な作業環境を実現できる。加えて、クロム化合物を用いるクロメート処理は、環境衛生上、代替案が求められている点からも、コーティングタイプの腐食防止処理層15a,15bが好ましい。
腐食防止処理層15a,15bは、必要に応じて、さらにカチオン性ポリマーを積層した積層構造としてもよい。カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンとカルボン酸を有するポリマーとからなるイオン高分子錯体、アクリル主骨格に1級アミンをグラフ卜させた1級アミングラフトアクリル樹脂、ポリアリルアミンあるいはこれらの誘導体、アミノフェノール樹脂等が挙げられる。
イオン高分子錯体を形成する「カルボン酸を有するポリマー」としては、例えば、ポリカルボン酸(塩)、ポリカルボン酸(塩)にコモノマーを導入した共重合体、カルボキシ基を有する多糖類等が挙げられる。ポリカルボン酸(塩)としては、例えば、ポリアクリル酸あるいはそのイオン塩などが挙げられる。カルボキシ基を有する多糖類としては、例えば、カルボキシメチルセルロースあるいはそのイオン塩などが挙げられる。イオン塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられる。
1級アミングラフ卜アクリル樹脂は、アクリル主骨格に1級アミンをグラフ卜させた樹脂である。該アクリル主骨格としては、ポリ(メタ)アクリル酸など、上述したアクリルポリオールで用いられる各種モノマーが挙げられる。該アクリル主骨格にグラフ卜させる1級アミンとしては、エチレンイミン等が挙げられる。
ポリアリルアミンまたはその誘導体としては、アリルアミン、アリルアミンアミド硫酸塩、ジアリルアミン、ジメチルアリルアミンなどの単独重合体あるいは共重合体を用いることが可能であり、さらに、これらのアミンはフリーのアミンでも酢酸あるいは塩酸による安定化物でも用いることが可能である。またさらに共重合体成分として、マレイン酸、二酸化イオウなどを用いることも可能である。さらには1級アミンを部分メトキシ化させることで熱架橋性を付与させたタイプも用いることが可能である。これらのカチオン性ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。カチオン性ポリマーとしては、上記の中でも、ポリアリルアミン及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
カチオン性ポリマーは、カルボキシ基、グリシジル基等のアミン/イミンと反応が可能な官能基を有する架橋剤と併用することが好ましい。カチオン性ポリマーと併用する架橋剤としては、ポリエチレンイミンとイオン高分子錯体を形成するカルボン酸を有するポリマーも使用でき、例えば、ポリアクリル酸あるいはそのイオン塩等のポリカルボン酸(塩)、あるいはこれにコモノマーを導入した共重合体、カルボキシメチルセルロースあるいはそのイオン塩等のカルボキシ基を有する多糖類等が挙げられる。
本実施形態においては、カチオン性ポリマーも腐食防止処理層15a,15bを構成する一構成要素として記載している。その理由は、蓄電デバイス用外装材で要求される電解液耐性、フッ酸耐性を付与させるべく様々な化合物を用い鋭意検討を行った結果、カチオン性ポリマー自体にも、電解液耐性、耐フッ酸性を付与することが可能な化合物であることが判明したためである。この要因は、フッ素イオンをカチオン性基で捕捉する(アニオンキャッチャー)ことで、金属箔層14が損傷することを抑制しているためであると推測される。また、カチオン性ポリマーは、腐食防止処理層15bとシーラント接着層16の接着性の向上の点でも非常に好ましい。また、カチオン性ポリマーは、前述したアニオン性ポリマーと同様に水溶性であるため、上記架橋剤を用いて架橋構造を形成させることで耐水性を向上させることができる。このように、カチオン性ポリマーを用いても架橋構造を形成させることができることから、腐食防止処理層15a,15bの形成に希土類酸化物ゾルを用いた場合には、その保護層としてアニオン性ポリマーの代わりにカチオン性ポリマーを用いてもよい。
以上の内容から、上述したコーティングタイプの腐食防止処理の組み合わせの事例として、(1)希土類酸化物ゾルのみ、(2)アニオン性ポリマーのみ、(3)カチオン性ポリマーのみ、(4)希土類酸化物ゾル+アニオン性ポリマー(積層複合化)、(5)希土類酸化物ゾル+カチオン性ポリマー(積層複合化)、(6)(希土類酸化物ゾル+アニオン性ポリマー:積層複合化)/カチオン性ポリマー(多層化)、(7)(希土類酸化物ゾル+カチオン性ポリマー:積層複合化)/アニオン性ポリマー(多層化)、等が挙げられる。中でも(1)及び(4)〜(7)が好ましく、(4)〜(7)がより好ましい。また、腐食防止処理層15aの場合、腐食防止効果とアンカー効果(密着性向上効果)が一層で実現できることから、(6)が特に好ましい。また、腐食防止処理層15bの場合、シーラント層17側の電解液耐性をより保持し易くなることから、(6)及び(7)が特に好ましい。ただし、本実施形態は、上記組み合せに限られるわけではない。たとえば腐食防止処理の選択の事例として、カチオン性ポリマーは、後述するシーラント接着層16の説明で挙げる変性ポリオレフィン樹脂との接着性が良好であるという点でも非常に好ましい材料であることから、シーラント接着層16を変性ポリオレフィン樹脂で構成される場合においては、シーラント接着層16に接する面にカチオン性ポリマーを設ける(例えば、構成(5)及び(6)などの構成)といった設計が可能である。
ただし腐食防止処理層15a,15bは上述した層には限定されない。例えば、公知技術である塗布型クロメートのように、樹脂バインダー(アミノフェノール樹脂など)にリン酸とクロム化合物を配合した剤を用いて形成してもよい。該処理剤を用いれば、腐食防止機能と密着性を双方兼ね備えた層を形成することが可能になる。また、上述した化成処理層(脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理、あるいはこれら処理の組み合わせにより形成した層)に対して、密着性を向上させるために、上述してきたカチオン性ポリマー及び/又はアニオン性ポリマーを用いて複合的な処理を施したり、あるいはこれらの処理の組み合わせに対して多層構造としてカチオン性ポリマー及び/又はアニオン性ポリマーを積層させたりすることも可能である。また、塗液の安定性を考慮する必要があるが、上述してきた希土類酸化物ゾルとカチオン性ポリマーあるいはアニオン性ポリマーとを事前に一液化して得られたコーティング剤を使用して腐食防止機能と密着性の両方を兼ね備えた層とすることができる。
腐食防止処理層15a,15bの単位面積あたりの質量は0.005〜0.200g/m2の範囲内が好ましく、0.010〜0.100g/m2の範囲内がより好ましい。0.005g/m2以上であれば、金属箔層14に腐食防止機能を付与し易い。また、上記単位面積当たりの質量が0.200g/m2を超えても、腐食防止機能は飽和してあまり変らない。一方、希土類酸化物ゾルを用いた場合には、塗膜が厚いと乾燥時の熱によるキュアが不充分となり、凝集力の低下を伴う虞がある。なお、上記内容では単位面積あたりの質量で記載しているが、比重がわかればそこから厚みを換算することも可能である。
腐食防止処理層15a,15bの厚さは、腐食防止機能、及びアンカーとしての機能の点から、例えば10nm〜5μmであることが好ましく、20〜500nmであることがより好ましい。
(シーラント接着層16)
シーラント接着層16は、腐食防止処理層15bが形成された金属箔層14とシーラント層17を接着する層である。外装材10は、シーラント接着層16を形成する接着成分によって、熱ラミネート構成とドライラミネート構成に大きく分けられる。
熱ラミネート構成におけるシーラント接着層16を形成する接着成分は、ポリオレフィン系樹脂を酸でグラフト変性した酸変性ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。酸変性ポリオレフィン系樹脂は、無極性であるポリオレフィン系樹脂の一部に極性基が導入されていることから、無極性のポリオレフィン系樹脂フィルム等で構成された場合のシーラント層17と、極性を有することが多い腐食防止処理層15bの両方に強固に密着することができる。また、酸変性ポリオレフィン系樹脂を使用することで、外装材10の電解液等の内容物に対する耐性が向上し、電池内部でフッ酸が発生してもシーラント接着層16の劣化による密着力の低下を防止し易い。
酸変性ポリオレフィン系樹脂のポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度、中密度及び高密度のポリエチレン;エチレン−αオレフィン共重合体;ポリプロピレン;並びに、プロピレン−αオレフィン共重合体等が挙げられる。共重合体である場合のポリオレフィン樹脂は、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。また、ポリオレフィン樹脂としては、上記したものにアクリル酸若しくはメタクリル酸等の極性分子を共重合させた共重合体、又は、架橋ポリオレフィン等の重合体等も使用できる。ポリオレフィン系樹脂を変性する酸としては、カルボン酸、エポキシ化合物及び酸無水物等が挙げられ、無水マレイン酸であることが好ましい。シーラント接着層16に使用する酸変性ポリオレフィン系樹脂は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
熱ラミネート構成のシーラント接着層16は、上記接着成分を押出し装置で押し出すことで形成できる。熱ラミネート構成のシーラント接着層16の厚さは8〜50μmであることが好ましい。
ドライラミネート構成のシーラント接着層16を形成する接着成分としては、例えば、接着層13で挙げたものと同様の接着剤が挙げられる。この場合、電解液による膨潤及びフッ酸による加水分解を抑制するため、加水分解し難い骨格の主剤で、かつ架橋密度の向上が可能な組成となるように、接着剤の組成を設計することが好ましい。
架橋密度を向上させる場合、例えば、ダイマー脂肪酸、ダイマー脂肪酸のエステルもしくは水素添加物、ダイマー脂肪酸の還元グリコール、ダイマー脂肪酸のエステルもしくは水素添加物の還元グリコールを接着剤に添加するとよい。上記ダイマー脂肪酸は、各種不飽和脂肪酸を二量化させた酸であり、その構造としては、非環型、単環型、多環型、芳香環型が例示できる。
ダイマー脂肪酸の出発物質である脂肪酸は特に限定されない。また、このようなダイマー脂肪酸を必須成分として、通常のポリエステルポリオールで用いられるような二塩基酸を導入しても構わない。シーラント接着層16を構成する主剤に対する硬化剤としては、例えば、ポリエステルポリオールの鎖伸長剤としても使用できるイソシアネート化合物を用いることが可能である。これにより、接着剤塗膜の架橋密度が高まり、溶解性及び膨潤性の向上につながるとともに、ウレタン基濃度が高まることで基材密着性の向上も期待できる。
ドライラミネート構成のシーラント接着層16は、エステル基及びウレタン基等の加水分解性の高い結合部を有しているので、より高い信頼性が求められる用途には、シーラント接着層16として熱ラミネート構成の接着成分を用いることが好ましい。例えば酸変性ポリオレフィン樹脂を、トルエン、メチルシクロヘキサン(MCH)等の溶剤にて溶解、あるいは、分散させた塗液に上述した各種硬化剤を配合し、塗布、乾燥させることでシーラント接着層16を形成する。
シーラント接着層16を押出成型により形成する場合、押出成型時に発生する応力等により、接着樹脂がMD方向(押出す方向)に配向し易い。この場合、シーラント接着層16の異方性を緩和するために、シーラント接着層16にエラストマーを配合してもよい。シーラント接着層16に配合するエラストマーとしては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等を用いることができる。
上記エラストマーの平均粒径は、エラストマーと接着樹脂との相溶性が向上し、またシーラント接着層16の異方性を緩和する効果を向上させることが可能な粒径が好ましい。具体的には、上記エラストマーの平均粒径は、例えば、200nm以下が好ましい。
なお、エラストマーの平均粒径は、例えば、電子顕微鏡により、エラストマー組成物の断面を拡大した写真を撮影し、その後、画像解析により、分散した架橋ゴム成分の平均粒径を測定することで求められる。上記エラストマーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよい。
シーラント接着層16にエラストマーを配合する場合、シーラント接着層16(100質量%)中に添加するエラストマーの配合量は、例えば、1〜25質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。エラストマーの配合量を1質量%以上とすることで、接着樹脂との相溶性が向上すると共に、シーラント接着層16の異方性を緩和する効果が向上する傾向がある。また、エラストマーの配合量を25質量%以下とすることで、シーラント接着層16が電解液によって膨潤することを抑制する効果が向上する傾向がある。
シーラント接着層16として、例えば、接着樹脂を有機溶媒に分散させたディスパージョンタイプの接着樹脂液を用いてもよい。
シーラント接着層16の厚さは、熱ラミネート構成の場合には、8〜50μmであることが好ましく、20〜40μmであることがより好ましい。シーラント接着層16の厚さが8μm以上であることにより、金属箔層14とシーラント層17との十分な接着強度が得られ易く、50μm以下であることにより、外装材端面から内部の電池要素に浸入する水分量を低減し易くすることができる。また、シーラント接着層16の厚さは、ドライラミネート構成の場合には、1〜5μmであることが好ましい。シーラント接着層16の厚さが1μm以上であることにより、金属箔層14とシーラント層17との十分な接着強度が得られ易く、5μm以下であることにより、シーラント接着層16の割れの発生を抑制することができる。
(シーラント層17)
シーラント層17は、外装材10に対し、ヒートシールによる封止性を付与する層であり、蓄電デバイスの組み立て時に内側に配置されて熱融着される層である。シーラント層17としては、ポリオレフィン系樹脂、又はポリオレフィン系樹脂に無水マレイン酸等の酸をグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン系樹脂からなる樹脂フィルムが挙げられる。中でも、水蒸気のバリア性を向上させ、ヒートシールによって過度に潰れることなく蓄電デバイスの形態を構成可能なポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリプロピレンが特に好ましい。
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度、中密度及び高密度のポリエチレン;エチレン−αオレフィン共重合体;ポリプロピレン;並びに、プロピレン−αオレフィン共重合体等が挙げられる。共重合体である場合のポリオレフィン樹脂は、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。これらポリオレフィン系樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、上記各タイプのポリプロピレン、すなわち、ランダムポリプロピレン、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレンには、低結晶性のエチレン−ブテン共重合体、低結晶性のプロピレン−ブテン共重合体、エチレンとブテンとプロピレンの3成分共重合体からなるターポリマー、シリカ、ゼオライト、アクリル樹脂ビーズ等のアンチブロッキング剤(AB剤)、脂肪酸アマイド系のスリップ剤等を添加してもよい。
酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、シーラント接着層16で挙げたものと同様のものが挙げられる。
シーラント層17は、単層フィルムであってもよく、多層フィルムであってもよく、必要とされる機能に応じて選択すればよい。例えば、防湿性を付与する点では、エチレン−環状オレフィン共重合体及びポリメチルペンテン等の樹脂を介在させた多層フィルムが使用できる。
また、シーラント層17は、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤及び粘着付与剤等の各種添加材を含んでいてもよい。
シーラント層17として、押出成型により形成した熱溶着性フィルムを使用する場合、該熱溶着性フィルムの押出し方向に配向傾向がある。このため、配向によるシーラント層17の異方性を緩和する観点から、熱溶着性フィルムにエラストマーを配合してもよい。これにより、蓄電デバイス用外装材10を冷間成型して凹部を形成する際にシーラント層17が白化することを抑制できる。
シーラント層17を構成するエラストマーとしては、例えば、シーラント接着層16を構成するエラストマーとして例示した材料と同じ材料を用いることができる。シーラント層17が多層フィルム構造である場合、多層フィルム構造を構成する複数の層のうち、少なくとも1層がエラストマーを含むように構成してもよい。例えば、シーラント層17として、積層されたランダムポリプロピレン層/ブロックポリプロピレン層/ランダムポリプロピレン層よりなる3層積層構造の場合、エラストマーは、ブロックポリプロピレン層のみに配合してもよいし、ランダムポリプロピレン層のみに配合してもよいし、ランダムポリプロピレン層とブロックポリプロピレン層との両方に配合してもよい。
また、シーラント層17に滑り性を付与するために、滑剤を含有させてもよい。このように、シーラント層17が滑剤を含有することで、冷間成型により、蓄電デバイス用外装材10に凹部を形成する際、蓄電デバイス用外装材10において延伸率の高い凹部の辺又は角となる部分が必要以上に延伸されることを抑制可能となる。これにより、金属箔層14とシーラント接着層16との間が剥離したり、シーラント層17とシーラント接着層16とにおいてクラックによる破断及び白化が生じたりすることを抑制することができる。
シーラント層17に滑剤を含有させる場合、シーラント層17(100質量%)中の滑剤の含有量は、0.001〜0.5質量%が好ましい。滑剤の含有量が0.001質量%以上であると、冷間成型時にシーラント層17が白化することをより抑制できる傾向がある。また、滑剤の含有量が0.5質量%以下であると、シーラント層17の面と接触する他の層の面との間における密着強度の低下を抑制できる傾向がある。
シーラント層17の厚さは、10〜100μmであることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。シーラント層17の厚さが20μm以上であることにより、十分なヒートシール強度を得ることができ、90μm以下であることにより、外装材端部からの水蒸気の浸入量を低減することができる。
[外装材の製造方法]
次に、外装材10の製造方法について説明する。なお、外装材10の製造方法は以下の方法に限定されない。
外装材10の製造方法として、例えば、下記の工程S11〜S14を有する方法が挙げられる。
工程S11:金属箔層14の一方の面上に腐食防止処理層15aを形成し、金属箔層14の他方の面上に腐食防止処理層15bを形成する工程。
工程S12:腐食防止処理層15aの金属箔層14とは反対側の面と、基材層11とを、接着層13を介して貼り合わせる工程。
工程S13:基材層11の接着層13とは反対側の面に基材保護層12を形成する工程。
工程S14:腐食防止処理層15bの金属箔層14とは反対側の面上に、シーラント接着層16を介してシーラント層17を形成する工程。
(工程S11)
工程S11では、金属箔層14の一方の面上に腐食防止処理層15aを形成し、金属箔層14の他方の面上に腐食防止処理層15bを形成する。腐食防止処理層15a及び15bは、それぞれ別々に形成されてもよく、両方が一度に形成されてもよい。具体的には、例えば、金属箔層14の両方の面に腐食防止処理剤(腐食防止処理層の母材)を塗布し、その後、乾燥、硬化、焼付けを順次行うことで、腐食防止処理層15a及び15bを一度に形成する。また、金属箔層14の一方の面に腐食防止処理剤を塗布し、乾燥、硬化、焼き付けを順次行って腐食防止処理層15aを形成した後、金属箔層14の他方の面に同様にして腐食防止処理層15bを形成してもよい。腐食防止処理層15a及び15bの形成順序は特に制限されない。また、腐食防止処理剤は、腐食防止処理層15aと腐食防止処理層15bとで異なるものを用いてもよく、同じのものを用いてもよい。上記腐食防止処理剤としては、例えば、塗布型クロメート処理用の腐食防止処理剤等を用いることができる。腐食防止処理剤の塗布方法は、特に限定されないが、例えば、グラビアコート法、グラビアリバースコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、ダイコート法、バーコート法、キスコート法、コンマコート法等の方法を用いることができる。なお、金属箔層14として、未処理の金属箔層を用いてもよいし、ウェットタイプの脱脂処理又はドライタイプの脱脂処理により、脱脂処理を施した金属箔層を用いてもよい。
(工程S12)
工程S12では、腐食防止処理層15aの金属箔層14とは反対側の面と、基材層11とが、接着層13を形成する接着剤を用いてドライラミネーション等の手法で貼り合わせられる。工程S13では、接着性の促進のため、室温〜100℃の範囲でエージング(養生)処理を行ってもよい。エージング時間は、例えば、1〜10日である。
(工程S13)
工程S13では、基材層11の接着層13とは反対側の面に基材保護層12を形成する。まず、基材保護層12を形成するための原料(塗液:溶剤にて希釈した芳香族ポリエステルウレタン樹脂に対しポリイソシアネートを配合したもの)を準備する。次いでこの塗液を、公知の手法を用いて基材層11上に塗工し、加熱乾燥する。このような塗工手法としては、グラビアダイレクト、グラビアリバース(ダイレクト、キス)、バーコーター等が挙げられる。なお、上記記載のフィラーを配合する場合は、予めフィラーが溶媒中に分散したスラリーをワニス化した樹脂に混ぜてもよく、あるいはすでにワニス化された樹脂塗液中にフィラーを直接分散させてもよい。これらのフィラー配合液に、硬化剤等のその他の添加剤を配合させることも可能である。なお、基材保護層12を形成するタイミングは、本実施の形態に限定されない。
(工程S14)
工程S13後、基材保護層12、基材層11、接着層13、腐食防止処理層15a、金属箔層14及び腐食防止処理層15bがこの順に積層された積層体の腐食防止処理層15bの金属箔層14とは反対側の面上に、シーラント接着層16を介してシーラント層17が形成される。シーラント層17は、ドライラミネーション及びサンドイッチラミネーション等によって積層されてもよく、シーラント接着層16とともに共押出し法によって積層されてもよい。シーラント層17は、接着性向上の点から、例えばサンドイッチラミネーションによって積層される、又は、シーラント接着層16とともに共押出し法によって積層されることが好ましく、サンドイッチラミネーションによって積層されることがより好ましい。
以上説明した工程S11〜S14により、外装材10が得られる。なお、外装材10の製造方法の工程順序は、上記工程S11〜S14を順次実施する方法に限定されない。例えば、工程S12を行ってから工程S11を行う等、実施する工程の順序を適宜変更してもよい。
[蓄電デバイス]
次に、外装材10を容器として備える蓄電デバイスについて説明する。蓄電デバイスは、電極を含む電池要素1と、上記電極から延在するリード2と、電池要素1を収容する容器とを備え、上記容器は蓄電デバイス用外装材10から、シーラント層17が内側となるように形成される。上記容器は、2つの外装材をシーラント層17同士を対向させて重ね合わせ、重ねられた外装材10の周縁部を熱融着して得られてもよく、また、1つの外装材を折り返して重ね合わせ、同様に外装材10の周縁部を熱融着して得られてもよい。また、蓄電デバイスは、外装材20を容器として備えていてもよい。本実施形態の外装材は、様々な蓄電デバイスにおいて使用可能である。そのような蓄電デバイスとしては、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、及び鉛蓄電池等の二次電池、並びに電気二重層キャパシタ等の電気化学キャパシタが挙げられる。
リード2は、シーラント層17を内側として容器を形成する外装材10によって挟持され、密封されている。リード2は、タブシーラントを介して、外装材10によって挟持されていてもよい。
[蓄電デバイスの製造方法]
次に、上述した外装材10を用いて蓄電デバイスを製造する方法について説明する。なお、ここでは、エンボスタイプ外装材30を用いて二次電池40を製造する場合を例に挙げて説明する。図2は上記エンボスタイプ外装材30を示す図である。図3の(a)〜(d)は、外装材10を用いた片側成型加工電池の製造工程を示す斜視図である。二次電池40としては、エンボスタイプ外装材30のような外装材を2つ設け、このような外装材同士を、アライメントを調整しつつ、貼り合わせて製造される、両側成型加工電池であってもよい。また、エンボスタイプ外装材30は、外装材20を用いて形成されてもよい。
片側成型加工電池である二次電池40は、例えば、以下の工程S21〜S25により製造することができる。
工程S21:外装材10、電極を含む電池要素1、並びに上記電極から延在するリード2を準備する工程。
工程S22:外装材10の片面に電池要素1を配置するための凹部32を形成する工程(図3(a)及び図3(b)参照)。
工程S23:エンボスタイプ外装材30の成型加工エリア(凹部32)に電池要素1を配置し、凹部32を蓋部34が覆うようにエンボスタイプ外装材30を折り返し重ねて、電池要素1から延在するリード2を挟持するようにエンボスタイプ外装材30の一辺を加圧熱融着する工程(図3(b)及び図3(c)参照)。
工程S24:リード2を挟持する辺以外の一辺を残し、他の辺を加圧熱融着し、その後、残った一辺から電解液を注入し、真空状態で残った一辺を加圧熱融着する工程(図3(c)参照)。
工程S25:リード2を挟持する辺以外の加圧熱融着辺端部をカットし、成型加工エリア(凹部32)側に折り曲げる工程(図3(d)参照)。
(工程S21)
工程S21では、外装材10、電極を含む電池要素1、並びに上記電極から延在するリード2を準備する。外装材10は、上述した実施形態に基づき準備する。電池要素1及びリード2としては特に制限はなく、公知の電池要素1及びリード2を用いることができる。
(工程S22)
工程S22では、外装材10のシーラント層17側に電池要素1を配置するための凹部32が形成される。凹部32の平面形状は、電池要素1の形状に合致する形状、例えば平面視矩形状とされる。凹部32は、例えば矩形状の圧力面を有する押圧部材を、外装材10の一部に対してその厚み方向に押圧することで形成される。また、押圧する位置、すなわち凹部32は、長方形に切り出した外装材10の中央より、外装材10の長手方向の一方の端部に偏った位置に形成する。これにより、成型加工後に凹部32を形成していないもう片方の端部側を折り返し、蓋(蓋部34)とすることができる。
凹部32を形成する方法としてより具体的には、金型を用いた成型加工(深絞り成型)が挙げられる。成型方法としては、外装材10の厚さ以上のギャップを有するように配置された雌型と雄型の金型を用い、雄型の金型を外装材10とともに雌型の金型に押し込む方法が挙げられる。雄型の金型の押込み量を調整することで、凹部32の深さ(深絞り量)を所望の量に調整できる。外装材10に凹部32が形成されることにより、エンボスタイプ外装材30が得られる。このエンボスタイプ外装材30は、例えば図2に示すような形状を有している。ここで、図2(a)は、エンボスタイプ外装材30の斜視図であり、図2(b)は、図2(a)に示すエンボスタイプ外装材30のb−b線に沿った縦断面図である。
(工程S23)
工程S23では、エンボスタイプ外装材30の成型加工エリア(凹部32)内に、正極、セパレータ及び負極等から構成される電池要素1が配置され。また、電池要素1から延在し、正極と負極にそれぞれ接合されたリード2が成型加工エリア(凹部32)から外に引き出される。その後、エンボスタイプ外装材30は、長手方向の略中央で折り返され、シーラント層17同士が内側となるように重ねられ、エンボスタイプ外装材30のリード2を挟持する一辺が加圧熱融着される。加圧熱融着は、温度、圧力及び時間の3条件で制御され、適宜設定される。加圧熱融着の温度は、シーラント層17を融解する温度以上であることが好ましい。
なお、シーラント層17の熱融着前の厚さは、リード2の厚さに対し40%以上80%以下であることが好ましい。シーラント層17の厚さが上記下限値以上であることにより、熱融着樹脂がリード2端部を十分充填できる傾向があり、上記上限値以下であることにより、二次電池40の外装材10端部の厚さを適度に抑えることができ、外装材10端部からの水分の浸入量を低減することができる。
(工程S24)
工程S24では、リード2を挟持する辺以外の一辺を残し、他の辺の加圧熱融着が行われる。その後、残った一辺から電解液を注入し、残った一辺が真空状態で加圧熱融着される。加圧熱融着の条件は工程S23と同様である。
(工程S25)
リード2を挟持する辺以外の周縁加圧熱融着辺端部がカットされ、端部からははみだしたシーラント層17が除去される。その後、周縁加圧熱融着部を成型加工エリア32側に折り返し、折り返し部42を形成することで、二次電池40が得られる。
以上、本発明の蓄電デバイス用外装材及び蓄電デバイスの製造方法の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1では、以下の手法により、蓄電デバイス用外装材10を作製した。始めに、金属箔層14として、厚さ35μmの軟質アルミニウム箔8079材(東洋アルミニウム株式会社製)を準備した。次いで、金属箔層14の両面に、グラビアコートにより、溶媒として蒸留水を使用し、かつ固形分濃度10質量%に調整したポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾル(腐食防止処理剤)を塗布した。このとき、酸化セリウム100質量部に対して、リン酸は10質量部とした。
次いで、塗布されたポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾルを乾燥させた後、焼付け処理を順次行うことで、金属箔層14の一方の面に腐食防止処理層15aを形成し、他方の面に腐食防止処理層15bを形成した。このとき、焼き付け条件としては、温度を150℃、処理時間を30秒とした。
次いで、基材層11としてナイロンフィルム(厚さ15μm)を用い、基材層11の片面をコロナ処理した。
次いで、金属箔層14の腐食防止処理層15aの金属箔層14とは反対側の面に、接着層13として、ポリウレタン系接着剤(厚さ3μm)を塗布した。次いで、ドライラミネート法により、接着層13を介して、金属箔層14と基材層11のコロナ処理された面とを接着させた。その後、基材層11、接着層13、腐食防止処理層15a、金属箔層14、及び腐食防止処理層15bからなる構造体を、温度が60℃の雰囲気中で6日間放置することで、エージング処理した。
次いで、基材保護層形成用塗布液を準備し、基材層11の接着層13とは反対側の面に塗工して乾燥させることで、厚さ5μmの基材保護層12を形成した。なお、基材保護層形成用塗布液は次のように調整した。すなわち、表1に示す芳香族ポリエステルウレタン樹脂A及び/又はB、並びに無機フィラーを有機溶剤に加えた後、ポリイソシアネート樹脂を加えることで基材保護層形成用塗布液を作製した。
そして、腐食防止処理層15bの金属箔層14とは反対側の面に、シーラント接着層16として、母材となる無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三井化学社製、商品名:アドマー)を押出すことで形成した。このとき、シーラント接着層16の厚さは15μmとした。そして、サンドイッチラミネーション法により、シーラント接着層16を介して、腐食防止処理層15bに、シーラント層17となる厚さ20μmのポリオレフィンフィルム(無延伸ポリプロピレンフィルムのシーラント接着層16側の面をコロナ処理したフィルム)を180℃で接着(加熱圧着)した。これにより、蓄電デバイス用外装材10を作製した。
(その他の実施例及び比較例)
表2に示す基材保護層組成及び構成パターンを採用したこと以外は、実施例1と同様にして蓄電デバイス用外装材10を作製した。表2中、イソシアネートタイプにおける末尾−Aはアダクト体であることを示す。なお、一部の実施例については、以下のとおり手順を変更して外装材を作製した。
(実施例18〜21)
ポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾルを用いて腐食防止処理層15a及び15bを形成する代わりに、金属箔層14の両面にフェノール樹脂、フッ化クロム化合物、及びリン酸からなる処理液を塗布して被膜を形成し、焼付けすることによりクロメート処理を行って腐食防止処理層15a及び15bを形成した。
(実施例17、20、21)
腐食防止処理層15bの金属箔層14とは反対側の面に、トルエン及びメチルシクロヘキサンの混合溶媒に溶解させた酸変性ポリオレフィンにポリイソシアネートを配合したポリウレタン系接着剤(厚さ5μm)を塗布した。次いで、ドライラミネート法により、シーラント接着層16を介して、シーラント層17となる厚さ30μmのポリオレフィンフィルム(無延伸ポリプロピレンフィルムのシーラント接着層16側の面をコロナ処理したフィルム)と金属箔層14とを接着させた。その後、基材層11、接着層13、腐食防止処理層15a、金属箔層14、腐食防止処理層15b、シーラント接着層16、及びシーラント層17からなる構造体を、温度が40℃の雰囲気中で6日間放置することで、エージング処理した。
<電解液耐性の評価>
各例で得られた外装材の被覆層に、微量の水(1500ppm)を添加した電解液(エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/ジエチルカーボネート=1:1:1wt%、LiPF6、1M)を滴下し、規定時間経過後にイソプロピルアルコールで拭き取った。その後、滴下箇所の外観を以下の基準に従って評価した。結果を表3に示す。
◎:15分経過後に電解液を滴下した箇所が認識できなかった。
○:10分経過後に電解液を滴下した箇所が認識できなかったが、15分経過後には輪郭が発生した。
△:5分経過後に電解液を滴下した箇所が認識できなかったが、10分経過後には輪郭が発生した。
×:1分経過後に電解液を滴下した箇所が認識できなかったが、5分経過後には輪郭が発生した。
<アルコール耐性の評価>
各例で得られた外装材の被覆層に、エタノールを染み込ませた1cm四方のコットンを当て、その上から500gの加重をかけ一定速度でラビングした(アルコールラビング法)。そして、規定回数ラビングを繰り返した後、塗膜に剥がれがないかを以下の基準に従って評価した。結果を表3に示す。
◎:20回以上繰り返しても剥がれが発生しなかった。
○:15回繰り返し後には剥がれが発生しなかったが、20回繰り返し後には剥がれが発生した。
△:10回繰り返し後には剥がれが発生しなかったが、15回繰り返し後には剥がれが発生した。
×:1回目には剥がれが発生しなかったが、10回繰り返し後には剥がれが発生した。
<成型深度の評価>
各例で得られた外装材について、深絞り成型が可能な成型深度を以下の方法で評価した。まず、蓄電デバイス用外装材10を、シーラント層17が上方を向くように成型装置内に配置した。成型装置の成型深さを0.5mmごとに5.0〜7.5mmに設定し、室温23℃、露点温度−35℃の環境下で冷間成型した。なお、パンチ金型には、70mm×80mmの長方形の横断面を有し、底面に1.00mmのパンチラジアス(RP)を有し、側面に1.00mmのパンチコーナーラジアス(RCP)を有するものを使用した。また、ダイ金型には、開口部上面に1.00mmのダイラジアス(RD)を有するものを使用した。冷間成型を行った部分の破断及びピンホールの有無を、外装材にライトを照射しながら目視にて確認し、破断及びピンホールのいずれも生じることなく深絞り成型できた成型深度の最大値を求めた。また、成型深度について以下の基準に従って評価した。結果を表3に示す。
◎:基材保護層がない場合(比較例1)と比較して0.25mm以下の差。
〇:基材保護層がない場合と比較して0.25mm超0.50mm以下の差。
△:基材保護層がない場合と比較して0.50mm超1.0mm以下の差。
×:基材保護層がない場合と比較して1.0mm超の差。
本実施例の外装材であれば、電解液耐性、アルコール耐性、及び成型性をバランスよく発現することができる。