以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1〜図3は、本発明の第1実施形態による振動抑制装置を示している。振動抑制装置は、建物Cの振動を抑制するためのものであり、左右一対の振動抑制装置1L、1Rで構成されている。建物Cは、例えば高層のビルであり、基礎Fに立設されている。ここで、基礎Fは、建物の基礎に限らず、地下構造物などでもよい。
図1及び図2に示すように、左側の振動抑制装置1Lは、建物Cの外周に配置された第1ダンパ2と、建物Cの内部に配置された第2ダンパ3を備えている。第1ダンパ2は、第1シリンダ21と、第1シリンダ21内に互いに上下に並んだ状態で上下方向に摺動自在に設けられた第1ピストン22及び第2ピストン23と、第1シリンダ21に部分的に収容されたピストンロッド24などで構成されている。
第1シリンダ21は、上下方向に延びる円筒状の周壁21aと、周壁21aの上端部及び下端部に一体に設けられた円板状の上壁21b及び下壁21cと、周壁21aにおける上下の壁21b、21cの間の中央に一体に設けられた円板状の仕切壁21dで構成されている。これらの周壁21a、上壁21b及び仕切壁21dにより画成された第1室には、例えばシリコンオイルで構成された作動流体HFが充填されるとともに、第1ピストン22が摺動自在に設けられており、この第1室は、第1ピストン22によって、上側の第1流体室21eと、下側の第2流体室21fとに区画されている。また、周壁21a、仕切壁21d及び下壁21cにより画成された第2室には、作動流体HFが充填されるとともに、第2ピストン23が摺動自在に設けられており、この第2室は、第2ピストン23によって、上側の第3流体室21gと、下側の第4流体室21hとに区画されている。第1シリンダ21の断面積、ならびに作動流体HFの密度及び粘性の設定については、後述する。
また、上壁21b及び仕切壁21dの各々の径方向の中央には、上下方向に貫通するロッド案内孔が形成されており、各ロッド案内孔には、シールが設けられている。さらに、下壁21cには、下方に突出する凸部21iが一体に設けられている。さらに、凸部21iには、自在継手を介して第1取付具FL1が設けられており、凸部21iは、自在継手により第1取付具FL1に対して回動自在である。第1取付具FL1は、基礎Fに取り付けられている。これにより、第1ダンパ2の第1シリンダ21は基礎Fに連結されている。
前記第1及び第2ピストン22、23は、円柱状に形成されており、その径方向の中央にピストンロッド24が一体に設けられている。また、第1及び第2ピストン22、23の周面にはそれぞれ、シールが設けられており、第1及び第2ピストン22、23の径方向の外端部には、上下方向に貫通する複数の孔が形成されている(それぞれ2つのみ図示)。第1ピストン22のこれらの孔には、第1リリーフ弁25及び第2リリーフ弁26がそれぞれ設けられており、第2ピストン23のこれらの孔には、第3リリーフ弁27及び第4リリーフ弁28がそれぞれ設けられている。
第1リリーフ弁25は、弁体と、これを閉弁側に付勢するばねで構成されており、第1流体室21e内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第1及び第2流体室21e、21fが互いに連通される。第2〜第4リリーフ弁26〜28は、第1リリーフ弁25と同様に構成されている。第2リリーフ弁26は、第2流体室21f内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第2及び第1流体室21f、21eが互いに連通される。また、第3リリーフ弁27は、第3流体室21g内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第3及び第4流体室21g、21hが互いに連通される。さらに、第4リリーフ弁28は、第4流体室21h内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第4及び第3流体室21h、21gが互いに連通される。
ピストンロッド24は、第1及び第2ピストン22、23から上下に延びるとともに、第1シリンダ21の前記ロッド案内孔に、シールを介して挿入されており、その上端部以外の大部分が第1シリンダ21に収容されている。また、ピストンロッド23の上端部には、自在継手を介して第2取付具FL2が設けられており、ピストンロッド23は、自在継手により第2取付具FL2に対して回動自在である。第2取付具FL2は、第1支持部材4の下端部に取り付けられている。
この第1支持部材4は、上下方向に互いに接合・固定された複数の柱材4aで構成されており、各柱材4aは、例えばH形鋼で構成され、弾性を有している。第1支持部材4の剛性(ばね定数)の設定については、後述する。また、第1支持部材4は、建物Cの外側に配置され、建物Cに沿って上下方向に延びており、その上端部が、建物Cの上端部、例えば最上部のブレース階FBの左端部に連結されている。以上の構成により、第1ダンパ2の第1及び第2ピストン22、23は、第1支持部材4を介して建物Cの上端部に連結されている。
また、建物Cには、第1ダンパ2よりも上側の部分に、4つの座屈防止機構BPが設けられている。各座屈防止機構BPは、建物Cの振動に伴って作用する圧縮荷重による第1支持部材4の座屈を防止するためのものである。座屈防止機構BPの構成は、本出願の発明者により提案された特許第5149453号に開示されたものと同じであるので、その詳細な説明については省略する。
前記第2ダンパ3は、基礎F、建物Cの梁BU及び左右の柱PL、PRによって取り囲まれた空間に配置されている。この梁BUは、建物Cの下部に設けられ、左右方向に延びており、その左端部及び右端部が左右の柱PL、PRにそれぞれ接合されている。また、第2ダンパ3は、第2シリンダ31と、第2シリンダ31内に左右に並んだ状態で摺動自在に設けられた第3ピストン32及び第4ピストン33などで構成されている。
第2シリンダ31は、左右方向に延びる円筒状の周壁31aと、周壁31aの左右の端部に一体に設けられた円板状の左壁31b及び右壁31cと、周壁31aにおける左右の壁31b、31cの間の中央に一体に設けられた円板状の仕切壁31dで構成されている。第2シリンダ31の断面積の設定については、後述する。これらの周壁31a、左壁31b及び仕切壁31dにより画成された第3室には、作動流体HFが充填されるとともに、第3ピストン32が摺動自在に設けられており、この第3室は、第3ピストン32によって、左側の第5流体室31eと、右側の第6流体室31fとに区画されている。また、周壁31a、仕切壁31d及び右壁31cにより画成された第4室には、作動流体HFが充填されるとともに、第4ピストン33が摺動自在に設けられており、この第4室は、第4ピストン33によって、左側の第7流体室31gと、右側の第8流体室31hとに区画されている。また、左壁31b及び右壁31cの各々の径方向の中央には、左右方向に貫通するケーブル案内孔(図示せず)が形成されるとともに、仕切壁31dの径方向の中央には、左右方向に貫通するロッド案内孔(図示せず)が形成されており、ケーブル案内孔及びロッド案内孔にはそれぞれ、シール(図示せず)が設けられている。さらに、周壁31aは、第2支持部材5の連結部5bに取り付けられている。
この第2支持部材5は、例えばH形鋼から成るブレース状のものであり、左右の斜め材5a、5aで構成されており、弾性を有している。第2支持部材5の剛性(ばね定数)の設定については、後述する。左右の斜め材5a、5aは、それらの上端部が左右の柱PL、PRと梁BUとの接合部にそれぞれ連結されており、基礎Fの付近まで延びている。また、左右の斜め材5a、5aの下端部は、互いに連結されており、上記の連結部5bになっている。以上の構成により、第2ダンパ3の第2シリンダ31は、第2支持部材5を介して、建物Cの下部に連結されている。
前記第3及び第4ピストン32、33は、円柱状に形成され、その周面には、シールがそれぞれ設けられており、金属製のロッド34を介して互いに連結されている。ロッド34は、仕切壁31dの前記ロッド案内孔に、シールを介して挿入されている。また、第3及び第4ピストン32、33の径方向の外端部には、左右方向に貫通する複数の孔が形成されている(それぞれ2つのみ図示)。第3ピストン32のこれらの孔には、第1リリーフ弁35及び第2リリーフ弁36がそれぞれ設けられており、第4ピストン33のこれらの孔には、第3リリーフ弁37及び第4リリーフ弁38がそれぞれ設けられている。
これらの第1〜第4リリーフ弁35〜38はそれぞれ、前述した第1ダンパ2の第1リリーフ弁25と同様に構成されている。第1リリーフ弁35は、第5流体室31e内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第5及び第6流体室31e、31fが互いに連通される。第2リリーフ弁36は、第6流体室31f内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第6及び第5流体室31f、31eが互いに連通される。また、第3リリーフ弁37は、第7流体室31g内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第7及び第8流体室31g、31hが互いに連通される。さらに、第4リリーフ弁38は、第8流体室21h内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第8及び第7流体室21h、21gが互いに連通される。
また、振動抑制装置1Lは、第2シリンダ31に部分的に収容された左右一対のケーブル6L、6Rと、第2シリンダ31に取り付けられた左右一対の第1滑車7L、7Rと、基礎Fに連結された左右一対の第2滑車8L、8Rをさらに備えている。左右のケーブル6L、6Rは、例えば鋼線で構成され、弾性を有している。左右のケーブル6L、6Rの剛性(ばね定数)は、互いに同じ大きさに設定されており、その設定については後述する。左ケーブル6Lは、その一端部が第3ピストン32の左端部でかつ径方向の中央に取り付けられており、第3ピストン32から左方に延びるとともに、第2シリンダ31の左壁31bの前記ケーブル案内孔に、シールを介して挿通されている。また、左ケーブル6Lの他端部は、左連結部9Lに取り付けられている。左連結部9Lは、例えばH形鋼で構成されており、基礎F及び左柱PLに取り付けられている。
左側の第1滑車7Lは第2シリンダ31の左壁31bに、左側の第2滑車8Lは左連結部9Lに、それぞれ取り付けられている。左ケーブル6Lは、その中間の部分において、第1及び第2滑車7L、8Lに折り返された状態で巻き回されており、所定のテンションが付与されている。
右ケーブル6Rは、その一端部が第4ピストン33の右端部でかつ径方向の中央に取り付けられており、第4ピストン33から右方に延びるとともに、第2シリンダ31の右壁31cの前記ケーブル案内孔に、シールを介して挿通されている。また、右ケーブル6Rの他端部は、右連結部9Rに取り付けられている。右連結部9Rは、左連結部9Lと同様に例えばH形鋼で構成されており、基礎F及び右柱PRに取り付けられている。以上の構成により、第2ダンパ3の第3及び第4ピストン32、33は、左右のケーブル6L、6R及び左右の連結部9L、9Rを介して、基礎Fに連結されている。
右側の第1滑車7Rは第2シリンダ31の右壁31cに、右側の第2滑車8Rは右連結部9Rに、それぞれ取り付けられている。右ケーブル6Rは、その中間の部分において、第1及び第2滑車7R、8Rに折り返された状態で巻き回されており、左ケーブル6Lのテンションと同じ大きさのテンションが付与されている。
さらに、振動抑制装置1Lは、作動流体HFが充填された第1連通路10、第2連通路11、第3連通路12及び第4連通路13を備えている。第1連通路10は、第1流体室21eと第5流体室31eとを互いに連通するように、第1及び第2シリンダ21、31に接続されている。第1シリンダ21との第1連通路10の接続部分は、周壁21aの上端部に位置しており、第2シリンダ31との第1連通路10の接続部分は、周壁31aの左端部に位置している。
第2連通路11は、第2流体室21fと第6流体室31fとを互いに連通するように、第1及び第2シリンダ21、31に接続されている。第1シリンダ21との第2連通路11の接続部分は、周壁21aにおける仕切壁21dのすぐ上側の部分に位置しており、第2シリンダ31との第2連通路11の接続部分は、周壁31aにおける仕切壁31dのすぐ左側の部分に位置している。また、第3連通路12は、第3流体室21gと第7流体室31gとを互いに連通するように、第1及び第2シリンダ21、31に接続されている。第1シリンダ21との第3連通路12の接続部分は、周壁21aにおける仕切壁21dのすぐ下側の部分に位置しており、第2シリンダ31との第3連通路12の接続部分は、周壁31aにおける仕切壁31dのすぐ右側の部分に位置している。
上記の第4連通路13は、第4流体室21hと第8流体室31hとを互いに連通するように、第1及び第2シリンダ21、31に接続されている。第1シリンダ21との第4連通路13の接続部分は、周壁21aの下端部に位置しており、第2シリンダ31との第4連通路13の接続部分は、周壁31aの右端部に位置している。第1〜第4連通路10〜13の通路面積の設定については後述する。
以上の構成の振動抑制装置1Lでは、建物Cが静止しているときには、第1〜第4ピストン22、23、32、33は、図2に示す中立位置にある。
図1及び図3に示すように、右側の振動抑制装置1Rは、上述した左側の振動抑制装置1Lと同様に構成されており、これと左右対称に配置されている点のみが異なっている。このような相違から、振動抑制装置1Rの第1及び第2室、第3及び第4ピストン32、33、ならびに、第2シリンダ31の第5〜第8流体室31e〜31hの位置関係は、振動抑制装置1Lのそれらと左右逆の関係になっている。すなわち、振動抑制装置1Rの第1室及び第3ピストン32は、仕切壁31dよりも右側に配置され、振動抑制装置1Rの第2室及び第4ピストン33は、仕切壁31dよりも左側に配置されている。また、振動抑制装置1Rの第5〜第8流体室31e〜31hは、右側からこの順で並んでいる。
また、このような相違から、振動抑制装置1Rの第2シリンダ31との第1連通路10の接続部分は、周壁31aの右端部に位置しており、第2シリンダ31との第2連通路11の接続部分は、周壁31aにおける仕切壁31dのすぐ右側の部分に位置している。さらに、第2シリンダ31との第3連通路12の接続部分は、周壁31aにおける仕切壁31dのすぐ左側の部分に位置しており、第2シリンダ31との第4連通路13の接続部分は、周壁31aの左端部に位置している。
次に、図1及び図4を参照しながら、建物Cが1次モードの振動モードで振動したときにおける振動抑制装置1Lの動作について説明する。図1に二点鎖線で示すように、1次モードによる建物Cの振動は、その上端側が左右方向に繰り返し往復動するような態様で行われる。この場合、建物Cの曲げ変形による変位の方向と、剪断変形による変位の方向は互いに同じ方向になり、建物Cの振動による曲げ変形の度合いは、建物Cの上側の部分であるほど、より大きくなり、建物Cの振動による剪断変形の度合いは、建物Cの下側の部分であるほど、より大きくなる。
また、図4に示すように、1次モードの振動により建物Cが基礎Fに対して右側に変位すると、この建物Cの変位が、第1支持部材4を介して第1ダンパ2に伝達されるとともに、第2支持部材5やケーブル6L、6Rを介して第2ダンパ3に伝達される。以上により、建物C及び基礎Fから第1シリンダ21、第1及び第2ピストン22、23に、第1及び第2ピストン22、23を第1及び第3流体室21e、21g側にそれぞれ移動させる方向の力が作用するとともに、建物C及び基礎Fから第2シリンダ31、第3及び第4ピストン32、33に、第3及び第4ピストン32、33を第5及び第7流体室31e、31g側にそれぞれ移動させる方向の力が作用する。図4では、建物C及び基礎Fから第1〜第4ピストン22、23、32、33にそれぞれ作用する力を、格子状のハッチング付きの矢印で示している。
この動作例では、建物C及び基礎Fから第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力が、建物C及び基礎Fから第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力よりも大きい。このため、図4に示すように、第3及び第4ピストン32、33が、図2に示す中立位置から第5及び第7流体室31e、31g側にそれぞれ移動し、第5及び第7流体室31e、31g内の作動流体HFが第3及び第4ピストン32、33でそれぞれ圧縮される。これにより、第5及び第7流体室31e、31g内の作動流体HFの一部はそれぞれ、建物C及び基礎Fから第1及び第2ピストン22、23にそれぞれ作用する第1及び第3流体室21e、21g側に第1及び第2ピストン22、23を移動させる方向の力に抗して、第1及び第2連通路10、11を介して、第1及び第3流体室21e、21gに流入する。それにより、第1及び第2ピストン22、23が、図2に示す中立位置から第2及び第4流体室21f、21h側にそれぞれ移動することによって、第2及び第4流体室21f、21h内の作動流体HFの一部がそれぞれ、第2及び第4連通路11、13を介して、第6及び第8流体室31f、31hに流入する。図4では、作動流体HFの流れの方向を、第1〜第4連通路10〜13の付近に付した矢印で示している。
また、図示しないものの、1次モードの振動により建物Cが基礎Fに対して左側に変位したときには、建物C及び基礎Fから第1シリンダ21、第1及び第2ピストン22、23に、第1及び第2ピストン22、23を第2及び第4流体室21f、21h側にそれぞれ移動させる方向の力が作用するとともに、建物C及び基礎Fから第2シリンダ31、第3及び第4ピストン32、33に、第3及び第4ピストン32、33を第6及び第8流体室31f、31h側にそれぞれ移動させる方向の力が作用する。
この場合、建物C及び基礎Fから第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力が、建物C及び基礎Fから第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力よりも大きい。このため、第3及び第4ピストン32、33が第6及び第8流体室31f、31h側にそれぞれ移動し、第6及び第8流体室31f、31h内の作動流体HFが第3及び第4ピストン32、33でそれぞれ圧縮される。これにより、第6及び第8流体室31f、31h内の作動流体HFの一部はそれぞれ、建物C及び基礎Fから第1及び第2ピストン22、23にそれぞれ作用する第2及び第4流体室21f、21h側に第1及び第2ピストン22、23をそれぞれ移動させる方向の力に抗して、第2及び第4連通路11、13を介して、第2及び第4流体室21f、21hに流入する。それにより、第1及び第2ピストン22、23が第1及び第3流体室21e、21g側にそれぞれ移動することによって、第1及び第3流体室21e、21g内の作動流体HFの一部がそれぞれ、第1及び第3連通路10、12を介して、第5及び第7流体室31e、31gに流入する。
また、図示しないものの、以上のような建物Cの振動時における左側の振動抑制装置1Lの動作は、右側の振動抑制装置1Rにおいて同様に行われる。
以上のように、第1実施形態によれば、上下方向に延びる第1シリンダ21が基礎Fに連結されており、第1シリンダ21には、作動流体HFが充填された第1室及び第2室が上下方向に並んだ状態で設けられるとともに、第1及び第2ピストン22、23が、第1及び第2室に上下方向に摺動自在にそれぞれ設けられている。第1室は、第1ピストン22によって第1流体室21eと第2流体室21fに区画されており、第2室は、第2ピストン23によって第3流体室21gと第4流体室21hに区画されている。また、第1及び第2ピストン22、23は、互いに連結されるとともに、建物Cの上端部に連結されている。第1シリンダ21、第1及び第2ピストン22、23を、上記のように建物C及び基礎Fに設けることによって、建物Cの1次モードの振動により発生した曲げ変形による変位を、第1シリンダ21、第1及び第2ピストン22、23に適切に伝達することができる。
また、左右方向に延びる第2シリンダ31が、建物Cの下部に設けられた梁BUに連結されており、第2シリンダ31には、作動流体HFが充填された第3室及び第4室が左右方向に並んだ状態で設けられるとともに、第3及び第4ピストン32、33が、第3及び第4室に、左右方向に摺動自在にそれぞれ設けられている。第3室は、第3ピストン32によって第5流体室31eと第6流体室31fに区画されており、第4室は、第4ピストン33によって第7流体室31gと第8流体室31hに区画されている。また、第3及び第4ピストン32、33は、互いに連結されるとともに、基礎Fに連結されている。第2シリンダ31、第3及び第4ピストン32、33を、上記のように建物C及び基礎Fに設けることによって、建物Cの1次モードの振動により発生した剪断変形による変位を、第2シリンダ31、第3及び第4ピストン32、33に適切に伝達することができる。
さらに、図4を参照して説明したように、振動抑制装置は、建物Cが1次モードの振動モードで振動することにより基礎Fに対して右側に変位したときに、建物C及び基礎Fから第1シリンダ21、第1及び第2ピストン22、23に、第1及び第2ピストン22、23を第1及び第3流体室21e、21g側にそれぞれ移動させる方向の力が作用するとともに、建物C及び基礎Fから第2シリンダ31、第3及び第4ピストン32、33に、第3及び第4ピストン32、33を第5及び第7流体室31e、31g側にそれぞれ移動させる方向の力が作用するように構成されている。
この場合、第1及び第5流体室21e、31eが、第1連通路10を介して互いに連通しており、第2及び第6流体室21f、31fが、第2連通路11を介して互いに連通している。また、第3及び第7流体室21g、31gが、第3連通路12を介して互いに連通しており、第4及び第8流体室21h、31hが、第4連通路13を介して互いに連通している。
また、前述した動作例では、建物C及び基礎Fから第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力が第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力よりも大きい。このため、建物C及び基礎Fから第1及び第2ピストン22、23にそれぞれ作用する第1及び第3流体室21e、21g側に移動させる方向の力に抗して、第5及び第7流体室31e、31g内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第3及び第4ピストン32、33による圧縮により第1及び第2連通路10、12を介して、第1及び第3流体室21e、21gに流入させるとともに、第2及び第4流体室21f、21h内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第2及び第4連通路11、13を介して、第6及び第8流体室31f、31hに流入させることができる。したがって、第2及び第1シリンダ31、21内の作動流体HFの粘性減衰効果に加え、第1〜第4連通路10〜13を介した作動流体HFの流動による慣性効果がさらに得られる。
さらに、振動抑制装置は、建物Cが1次モードの振動モードで振動することにより基礎Fに対して左側に変位したときに、建物C及び基礎Fから第1シリンダ21、第1及び第2ピストン22、23に、第1及び第2ピストン22、23を第2及び第4流体室21f、21h側にそれぞれ移動させる方向の力が作用するとともに、建物C及び基礎Fから第2シリンダ31、第3及び第4ピストン32、33に、第3及び第4ピストン32、33を第6及び第8流体室31f、31h側にそれぞれ移動させる方向の力が作用するように構成されている。
この場合、前述した動作例では、建物C及び基礎Fから第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力が第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力よりも大きい。このため、建物C及び基礎Fから第1及び第2ピストン22、23にそれぞれ作用する第2及び第4流体室21f、21h側に移動させる方向の力に抗して、第6及び第8流体室31f、31h内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第3及び第4ピストン32、33による圧縮により第2及び第4連通路11、13を介して、第2及び第4流体室21f、21hに流入させるとともに、第1及び第3流体室21e、21g内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第1及び第3連通路10、12を介して、第5及び第7流体室31e、31gに流入させることができる。したがって、第2及び第1シリンダ31、21内の作動流体HFの粘性減衰効果に加え、第1〜第4連通路10〜13を介した作動流体HFの流動による慣性効果がさらに得られる。
以上から明らかなように、建物Cが1次モードの振動モードで振動することにより基礎Fに対して左側及び右側に繰り返し変位したときに、第1及び第2シリンダ21、31内の作動流体HFの粘性減衰効果と、第1〜第4連通路10〜13を介した作動流体HFの流動による慣性効果とが得られることによって、建物Cの振動を十分に抑制することができる。この場合、振動抑制装置が、左右一対の振動抑制装置1L、1Rで構成されているので、この効果をより有効に得ることができる。
以上のように、第1実施形態によれば、建物Cの振動時、第1及び第2ダンパ2、3を互いに適切に連動させることができ、それにより、建物Cの振動を十分に抑制することができる。
なお、図4は、建物C及び基礎Fから第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力が第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力よりも大きい場合の例であるが、これとは逆に、建物C及び基礎Fから第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力が第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力よりも大きいときには、振動抑制装置は次のように動作する。
すなわち、建物Cが1次モードの振動モードで振動することにより基礎Fに対して右側に変位したときには、第1及び第3流体室21e、21g内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第1及び第2ピストン22、23による圧縮により、第1及び第3連通路10、12を介して、第5及び第7流体室31e、31gに流入させるとともに、第6及び第8流体室31f、31h内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第2及び第4連通路11、13を介して、第2及び第4流体室21f、21hに流入させることができる。したがって、第1及び第2シリンダ21、31内の作動流体HFの粘性減衰効果に加え、第1〜第4連通路10〜13を介した作動流体HFの流動による慣性効果がさらに得られる。
また、建物Cが1次モードの振動モードで振動することにより基礎Fに対して左側に変位したときには、第2及び第4流体室21f、21h内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第1及び第2ピストン22、23による圧縮により、第2及び第4連通路11、13を介して、第6及び第8流体室31f、31hに流入させるとともに、第5及び第7流体室31e、31g内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第1及び第3連通路10、12を介して、第1及び第3流体室21e、21gに流入させることができる。したがって、第1及び第2シリンダ21、31内の作動流体HFの粘性減衰効果に加え、第1〜第4連通路10〜13を介した作動流体HFの流動による慣性効果がさらに得られる。
以上により、建物C及び基礎Fから第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力が第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力よりも大きい場合にも、第1及び第2ダンパ2、3を適切に連動させることができ、それにより、建物Cの振動を十分に抑制することができる。
また、第1及び第2ピストン22、23が建物Cの上端部に、第1支持部材4を介して連結されている。さらに、第2シリンダ31が建物Cの下部に、第2支持部材5を介して連結されており、第3及び第4ピストン32、33が基礎Fに、左右のケーブル6L、6Rを介して連結されている。以上の構成により、作動流体HFから成る慣性接続要素及び粘性要素と、弾性を有する第1支持部材4が、直列に接続された関係になるとともに、作動流体HFから成る慣性接続要素及び粘性要素と、弾性を有する第2支持部材5及び左右のケーブル6L、6Rとが、直列に接続された関係になるので、これらの要素によって付加振動系を構成することができる。
また、第1及び第2支持部材4、5ならびに左右のケーブル6L、6Rの剛性(ばね定数)や、作動流体HFの密度及び粘度、第1及び第2シリンダ21、31の断面積、第1〜第4連通路10〜13の通路面積などの諸元は、上記の付加振動系の固有振動数が建物Cの1次の固有振動数に同調(共振)するように、設定されている。これにより、建物Cの振動エネルギを付加振動系で吸収することによって、建物Cの振動をさらに良好に抑制することができる。
また、第2シリンダ31には、第3及び第4ピストン32、33を間にして左右方向に互いに反対側に配置された一対の第1滑車7L、7Rが設けられており、基礎Fには、第3及び第4ピストン32、33を間にして左右方向に互いに反対側に配置された一対の第2滑車8L、8Rが連結されている。さらに、左右のケーブル6L、6Rの各々の中間の部分は、第1及び第2滑車7L、7R、8L、8Rに巻き回されている。以上の構成により、建物Cの振動時、第1及び第2滑車7L、7R、8L、8Rの一方は他方に対して、いわゆる動滑車として機能し、それにより、建物Cの振動による変位が増大された状態で第3及び第4ピストン32、33に伝達されるので、第3及び第4ピストン32、33の移動量及び作動流体HFの流動量を増大でき、ひいては、建物Cの振動抑制効果を高めることができる。
また、左右のケーブル6L、6Rが、第3及び第4ピストン32、33を間にして左右方向に互いに反対側に延びているので、1次モードの振動により建物Cが基礎Fに対して左側及び右側に繰り返し変位したとき(図1の二点鎖線参照)に、建物Cの変位を、両ケーブル6L、6Rを介して第3及び第4ピストン32、33に適切に伝達することができる。
さらに、第1流体室21e又は第2流体室21fの作動流体HFの圧力が所定値に達したときに、第1ピストン22に設けられた第1リリーフ弁25又は第2リリーフ弁26が開弁し、第1及び第2流体室21e、21fを互いに連通させることによって、作動流体HFの圧力が、両流体室21e、21fの一方から他方に逃がされる。さらに、第3流体室21g又は第4流体室21hの作動流体HFの圧力が所定値に達したときに、第2ピストン23に設けられた第3リリーフ弁27又は第4リリーフ弁28が開弁し、第3及び第4流体室21g、21hを互いに連通させることによって、作動流体HFの圧力が、両流体室21g、21hの一方から他方に逃がされる。
また、第5流体室31e又は第6流体室31fの作動流体HFの圧力が所定値に達したときに、第3ピストン32に設けられた第1リリーフ弁35又は第2リリーフ弁36が開弁し、第5及び第6流体室31e、31fを互いに連通させることによって、作動流体HFの圧力が、両流体室31e、31fの一方から他方に逃がされる。さらに、第7流体室31g又は第8流体室31hの作動流体HFの圧力が所定値に達したときに、第4ピストン33に設けられた第3リリーフ弁37又は第4リリーフ弁38が開弁し、第7及び第8流体室31g、31hを互いに連通させることによって、作動流体HFの圧力が、両流体室31g、31hの一方から他方に逃がされる。以上により、作動流体HFによる慣性効果及び粘性減衰力を制限することによって、左右のケーブル6L、6Rに弾性限界を超える過大な引張荷重が作用するなどの振動抑制装置の過負荷状態を防止することができる。
さらに、所定のテンションが左右のケーブル6L、6Rに付与されているので、建物Cの振動時、第3及び第4ピストン32、33の移動量がテンションによる左ケーブル6L又は右ケーブル6Rの引張量に達するまでは、両ケーブル6L、6Rの反力が作用するため、左右のケーブル6L、6R全体のばね定数kは、両ケーブル6L、6Rのばね定数k1、k2の和(=k1+k2)になる。これに対して、第3及び第4ピストン32、33の移動量がテンションによる左ケーブル6L又は右ケーブル6Rの引張量に達した後には、一方のケーブルのテンションが消失し、他方のケーブルの反力だけが作用するようになるため、左右のケーブル6L、6R全体のばね定数kは、左ケーブル6Lのばね定数k1又は右ケーブル6Rのばね定数k2になる。
このように、左右のケーブル6L、6Rにテンションを予め付与することによって、建物Cの変位に対する両ケーブル6L、6Rから成る弾性要素の剛性の特性として、バイリニアな特性を得ることができる。したがって、例えば、振動による建物Cの変位が大きくなるのに伴って振動抑制装置の反力が過大にならないうちに、この弾性要素の剛性がより小さな値(k1又はk2)に切り替わるようにすることが可能になる。それにより、付加振動系の固有振動数を構造物の固有振動数と異ならせることで、振動抑制装置の反力の過大化を防止することができる。
また、図5及び図6は、振動抑制装置の第1変形例を示している。この第1変形例は、第1〜第4連通路10〜13の途中に、回転慣性による慣性効果を付与するための歯車ポンプ41及び第1回転マス47をそれぞれ設けたものである。なお、図5及び図6では、第1連通路10の構成のみが示されており、第2〜第4連通路11〜13のものについては図示が省略されている。
図5及び図6に示すように、歯車ポンプ41は、ケーシング42と、ケーシング42に収容された第1ギヤ43及び第2ギヤ44を有している。ケーシング42は、第1連通路10よりも大きな流路面積を有しており、互いに対向する2つの出入口42a、42aを介して、第1連通路10に連通している。
また、第1ギヤ43は、スパーギヤで構成され、第1回転軸45に一体に設けられている。第1回転軸45は、ケーシング42に回転自在に支持され、第1連通路10に直交する方向に水平に延びており、ケーシング42の外部に若干、突出している。第2ギヤ44は、第1ギヤ43と同様、スパーギヤで構成され、第2回転軸46に一体に設けられており、第1ギヤ43と噛み合っている。第2回転軸46は、ケーシング42に回転自在に支持されており、第1回転軸45と平行に延びている。また、第1及び第2ギヤ43、44の互いの噛合い部分は、ケーシング42の出入口42a、42aに臨んでいる。
第1回転マス47は、比重の比較的大きな材料、例えば鉄から成る円板で構成されている。また、第1回転マス47は、上記の第1回転軸45に同心状に取り付けられており、第1ギヤ43及び第1回転軸45と一体に回転する。
以上の構成により、この第1変形例では、建物Cが振動するのに伴って前述したように作動流体HFが第1〜第4連通路10〜13を流動する際に、ケーシング42に流入した作動流体HFによって第1及び第2ギヤ43、44が回転駆動され、第1ギヤ43と一体の第1回転マス47が回転する。このように、作動流体HFの流動を歯車ポンプ41で回転運動に変換し、第1回転マス47を回転させることによって、第1実施形態による作動流体HFの慣性効果及び粘性減衰効果に、第1回転マス47の回転慣性による慣性効果が付加されるので、建物Cの振動抑制効果をさらに高めることができる。
また、第1変形例による振動抑制装置では、第1回転マス47から成る慣性接続要素が作動流体HFから成る慣性接続要素に並列に付加されている。したがって、この第1変形例の場合、付加振動系の固有振動数を定める諸元には、第1実施形態の場合の前述した諸元に加えて、歯車ポンプ41の容積効率や第1回転マス47の質量や径などが含まれる。したがって、これらの諸元を適切に設定することによって、この付加振動系の固有振動数を建物Cの1次の固有振動数に同調させることができる。
図7は、振動抑制装置1の第2変形例を示している。この第2変形例は、上述した第1変形例の第1回転マス47に対して、第2回転マス51をさらに付加したものである。なお、図7では、図5及び図6に示した第1変形例と同じ構成要素については、同じ符号を付している。
図7に示すように、前述した第1回転軸45は、第1回転マス47を越えてケーシング42と反対側に延びており、その先端部に、粘弾性ゴム52を介して、第2回転マス51が同心状に設けられている。第2回転マス51は、第1回転マス47と同様、例えば鉄から成る円板で構成されており、その径は第1回転マス47よりも小さい。また、粘弾性ゴム52は、粘性及び弾性の双方を有している。
以上の構成により、この第2変形例では、建物Cが振動するのに伴い、第1回転軸45及び第1回転マス47が回転すると、第1回転軸45の回転が粘弾性ゴム52を介して第2回転マス51に伝達される。これにより、第2回転マス51が回転することによって、第2回転マス51の回転慣性による慣性効果がさらに付加されるので、建物Cの制振効果をさらに高めることができる。
以上の構成の第2変形例の振動抑制装置では、第2回転マス51から成る慣性接続要素と粘弾性ゴム52から成る弾性要素及び粘性要素が直列に接続されるとともに、これらの要素が、第1変形例の振動抑制装置の作動流体HF及び第1回転マス47などから成る要素に、並列に接続された関係になる。
以上の関係から、この第2変形例の振動抑制装置では、付加振動系として、第1変形例による作動流体HF及び第1回転マス47などから成る第1付加振動系と、第2回転マス51などから成る第2付加振動系が、互いに別個に存在することになる。この場合、第2付加振動系の諸元も建物Cの1次の固有振動数に同調するように設定されているので、第1及び第2付加振動系の組合わせ固有振動数を、建物Cの1次の固有振動数に多重同調させることができ、ひいては、建物Cの1次モードによる振動をさらに適切に抑制することができる。この場合、第1付加振動系の諸元は、第1変形例の場合について前述したとおりであり、第2付加振動系の諸元には、第2回転マス51の質量や径、粘弾性ゴム52のばね定数及び粘度などが含まれる。
なお、第2変形例では、粘性及び弾性を有する粘弾性ゴム52を用いているが、弾性のみを有するゴムやばねなどを用いてもよい。また、第1及び第2変形例では、歯車ポンプ41及び第1回転マス47を第1〜第4連通路10〜13のすべてに設けているが、これらのいずれか1つ、2つ又は3つに設けてもよい。
さらに、第1及び第2変形例では、作動流体HFの流動を第1回転マス47の回転に変換する機構として、歯車ポンプ41を有する歯車ポンプ機構を用いているが、これに代えて、作動流体HFの流動によって回転するスクリュー羽根を有するスクリュー機構を用いてもよい。この場合には、スクリュー羽根の角度などを変えることによって、作動流体HFの慣性効果を調整することが可能である。あるいは、上記の歯車ポンプ機構に代えて、本出願人による特許第5161395号の図2などに記載されたピストンがナットに一体に設けられたボールねじや、ベーンモータ、羽根車機構などを用いてもよい。
さらに、第1及び第2変形例では、第2ダンパ3及び第1回転マス47(第2回転マス51)を、いわゆるパッシブ式のダンパとして構成しているが、いわゆるアクティブ式のダンパとして構成し、第1回転マス47(第2回転マス51)を電動機で強制的に回転駆動することによって、建物Cの風揺れを防止するようにしてもよい。
次に、図8を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置について説明する。この振動抑制装置は、第1実施形態と比較して、第2ダンパ61の構成が主に異なっている。図8は、左側の振動抑制装置の第2ダンパ61などを拡大して示しており、図8において、第1実施形態で説明した構成要素と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
第2ダンパ61は、第2シリンダ62、第3及び第4ピストン63、64、ナット65、ねじ軸66、及び左右一対の回転マス67、67を有している。第2シリンダ62の構成は、第1実施形態の第2シリンダ31の構成と基本的に同じであり、第2シリンダ62は、周壁62a、左右の壁62b、62c及び仕切壁62dで構成されている。
左壁62b及び右壁62cの各々には、その径方向の中央に、左右方向に貫通するねじ軸案内孔(図示せず)が形成されており、ねじ軸案内孔の上側及び下側に、左右方向に貫通するケーブル案内孔(図示せず)が形成されている。ねじ軸案内孔及びケーブル案内孔にはそれぞれ、シール(図示せず)が設けられている。また、仕切壁62dの径方向の中央には、左右方向に貫通するナット案内孔(図示せず)が形成されており、ナット案内孔には、シールが設けられている。周壁62a、左壁62a及び仕切壁62dによって画成された第3室には、作動流体HFが充填されるとともに、第3ピストン63が左右方向に摺動自在に設けられており、この第3室は、第3ピストン63によって、左側の第5流体室62eと、右側の第6流体室62fに区画されている。また、周壁62a、仕切壁62d及び右壁62cによって画成された第4室には、作動流体HFが充填されるとともに、第4ピストン64が左右方向に摺動自在に設けられており、この第4室は、第4ピストン64によって、左側の第7流体室62gと、右側の第8流体室62hに区画されている。
また、第5及び第6流体室62e、62fはそれぞれ、第1及び第2連通路10、11を介して前述した第1シリンダ21の第1及び第2流体室21e、21fに連通しており、第7及び第8流体室62g、62hはそれぞれ、第3及び第4連通路12、13を介して前述した第1シリンダ21の第3及び第4流体室21g、21hに連通している。なお、図8では、便宜上、第1〜第4連通路10〜13を途中で省略して示している。
また、第2シリンダ62の周壁62aの内面には、一対のレール62i、62iが一体に設けられている。便宜上、図8では、レール62i、62iの断面を示すハッチングを省略している。図8に示すように、両者62i、62iは、第2シリンダ62の径方向に若干、突出するとともに、径方向において互いに対向するように配置されている。各レール62iは、第2シリンダ62の第1連通路10との接続部と第4連通路13との接続部との間の全体にわたって左右方向に延びている。
第3及び第4ピストン63、64は、円筒状に形成されていて、それらの径方向の外端部には、左右方向に延びる一対の凹部(図示せず)が設けられており、これらの一対の凹部は、上記のレール62i、62iに、シール(図示せず)を介して、係合している。これらの凹部及びレール62i、62iによって、第2シリンダ62に対する第3及び第4ピストン63、64の回転が阻止される。また、第3ピストン63には、第1実施形態の第1リリーフ弁35と同様に構成された第1及び第2リリーフ弁68、69が設けられており、第4ピストン64には、第1実施形態の第1リリーフ弁35と同様に構成された第3及び第4リリーフ弁70、71が設けられている。なお、図8では、便宜上、第3及び第4ピストン63、64のハッチングを省略している。
第1リリーフ弁68は、第5流体室62e内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第5及び第6流体室62e、62fが互いに連通される。第2リリーフ弁69は、第6流体室62f内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第6及び第5流体室62f、62eが互いに連通される。また、第3リリーフ弁70は、第7流体室62g内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第7及び第8流体室62g、62hが互いに連通される。さらに、第4リリーフ弁71は、第8流体室62h内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第8及び第7流体室62h、62gが互いに連通される。
いる。
前記ナット65は、円筒状に形成されるとともに、第3及び第4ピストン63、64の径方向の中央部に一体に取り付けられており、仕切壁62dの前記ナット案内孔に、シールを介して挿入されている。ねじ軸66は、複数のボール(図示せず)を介してナット65に螺合するとともに、ナット65から左右に延びている。すなわち、ナット65、ボール及びねじ軸66は、ボールねじを構成している。また、ねじ軸66は、第2シリンダ62の左右の壁62b、62cの前記ねじ軸案内孔に、シールを介して挿入されるとともに、左右の連結部72L、72Rに、ラジアル軸受け73、73をそれぞれ介して回転自在に支持されている。
左右の連結部72L、72Rは、第1実施形態の左右の連結部9L、9Rと同様にH形鋼で構成されており、左右の柱PL、PRには取り付けられておらず、基礎Fにのみ取り付けられている。また、左連結部72Lは左柱PLと第2シリンダ62の間に、右連結部72Rは右柱PRと第2シリンダ62の間に、それぞれ配置されている。さらに、左右の連結部72L、72Rには、左右方向に貫通するねじ軸支持孔が形成されており、各ねじ軸支持孔に、上記のラジアル軸受け73が設けられている。
また、ねじ軸66は、左連結部72Lよりも左側に延びるとともに、右連結部72Rよりも右側に延びている。さらに、ねじ軸66の左端部及び右端部には、摩擦材74が取り付けられており、摩擦材74は、摩擦係数が比較的安定している材料、例えばテフロン(登録商標)などで構成されている。左側の摩擦材74と左連結部72Lの間及び右側の摩擦材74と右連結部72Rの間にはそれぞれ、スラスト軸受け75が設けられている。
前記回転マス67、67の各々は、比重の比較的大きい材料、例えば鉄で構成されており、ドーナツ板状に形成されている。回転マス67の中央の孔には、上記の摩擦材74が同心状に嵌合している。摩擦材74の摩擦係数は、回転マス67の回転トルクが所定値以上になったときに、回転マス67が摩擦材74に対して滑るように設定されている。これにより、回転マス67は、その回転トルクが所定値に達するまでは、ねじ軸66と一緒に回転する。
また、ねじ軸66には、回転マス67、67の左右方向(軸線方向)への移動を規制するフランジが設けられている。以上のように、ねじ軸66に左右方向に移動不能に設けられた左右の回転マス67、67の間に、左右の連結部72L、72Rが挟み込まれていることによって、ねじ軸66は、左右の連結部72L、72Rから抜けないようになっている。
また、第2実施形態による振動抑制装置は、左右一対のケーブル76L、76R、第1滑車77L、77R及び第2滑車78L、78Rを、それぞれ上下に2組ずつ備えており、これらの左右のケーブル76L、76R、第1滑車77L、77R及び第2滑車78L、78Rはそれぞれ、第1実施形態の左右のケーブル6L、6R、第1滑車7L、7R及び第2滑車8L、8Rと同様に構成されている。
具体的には、左ケーブル76Lは、第2シリンダ62に部分的に収容されており、その一端部が第3ピストン63の左端部に取り付けられていて、第3ピストン63から左方に延びるとともに、第2シリンダ62の左壁62bの前記ケーブル案内孔に、シールを介して挿通されている。また、左ケーブル76Lの他端部は、左連結部72Lに取り付けられている。
左側の第1滑車77Lは第2シリンダ62の左壁62bに、左側の第2滑車78Lは左連結部72Lに、それぞれ取り付けられている。左ケーブル76Lは、その中間の部分において、第1及び第2滑車77L、78Lに折り返された状態で巻き回されており、所定のテンションが付与されている。
右ケーブル76Rは、第2シリンダ62に部分的に収容されており、その一端部が第4ピストン64の右端部に取り付けられていて、第4ピストン64から右方に延びるとともに、第2シリンダ62の右壁62cの前記ケーブル案内孔に、シールを介して挿通されている。また、右ケーブル76Rの他端部は、右連結部72Rに取り付けられている。
右側の第1滑車77Rは第2シリンダ62の右壁62cに、右側の第2滑車78Rは右連結部72Rに、それぞれ取り付けられている。右ケーブル76Rは、その中間の部分において、第1及び第2滑車77R、78Rに折り返された状態で巻き回されており、左ケーブル76Lのテンションと同じ大きさのテンションが付与されている。
なお、右側の振動抑制装置の第2ダンパは、上述した左側の振動抑制装置の第2ダンパ61と同様に構成されており、これと左右対称に配置されていることが異なるだけなので、その詳細な説明については省略する。
以上のように、第2実施形態によれば、ナット65が、第3及び第4ピストン63、64に一体に取り付けられており、回転自在のねじ軸66が、ボールを介して、ナット65に螺合している。また、ねじ軸66には、回転マス67、67が設けられている。以上の構成により、建物Cの振動時、第3及び第4ピストン63、64がナット65と一緒に第2シリンダ62に対して移動するのに伴い、ねじ軸66が回転マス67、67と一緒に回転するので、回転マス67、67の回転慣性による慣性効果が付加されることによって、建物Cの振動抑制効果をさらに高めることができる。
また、摩擦材74がねじ軸66と回転マス67の間に設けられており、回転マス67の回転トルクが所定値に達したときに、回転マス67がねじ軸66に対して滑り、ねじ軸66と一緒に回転しなくなる。これにより、回転マス67による慣性効果を制限することによって、左右のケーブル76L、76Rに弾性限界を超える過大な引張荷重が作用するなどの振動抑制装置の過負荷状態を防止することができる。その他、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、第2実施形態では、回転マス67、67を用いているが、第1実施形態の第2変形例と同様に、ねじ軸66に、粘弾性ゴムを介して、あるいは、弾性を有するゴムやばねを介して、第2回転マスを設けてもよい。この場合、各種の要素の諸元を第2変形例で説明したように設定することによって、作動流体HF及び回転マス67などから成る第1付加振動系と、第2回転マスなどから成る第2付加振動系との組合わせ固有振動数を、建物Cの1次の固有振動数に多重同調させることができ、ひいては、建物Cの1次モードによる振動をさらに適切に抑制することができる。
また、第2実施形態では、ねじ軸66を、左右の連結部72L、72Rから抜けないように設けることによって、基礎Fに対して左右方向(軸線方向)に移動不能に設けているが、第2シリンダ62に対して回転可能かつ左右方向(軸線方向)に移動不能に設けるとともに、基礎Fに対して左右方向に移動可能に設けてもよい。これにより、第2シリンダ62に対する第3及び第4ピストン63、64の移動を回転運動に変換し、回転マス67に伝達することができる。
なお、本発明は、説明した第1及び第2実施形態ならびに変形例(以下、総称して「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、第1シリンダ21を基礎Fに、第1及び第2ピストン22、23を第1支持部材4に、それぞれ連結しているが、これとは逆に、第1及び第2ピストンを基礎に、第1シリンダを第1支持部材に、それぞれ連結してもよい。
また、実施形態では、第1及び第2ピストン22、23を建物Cの上端部に、第1支持部材4を介して連結しているが、第1支持部材4を介さずに直接、連結するとともに、第1シリンダを、第1支持部材を介して基礎に連結してもよい。これとは逆に、第1シリンダを建物の上端部に直接、連結するとともに、第1及び第2ピストンを、第1支持部材を介して基礎に連結してもよい。
さらに、実施形態では、第1シリンダ21を、基礎Fに直接、連結しているが、柱材で構成された支持部材を介して連結してもよい。これとは逆に、第1及び第2ピストンを、支持部材を介して基礎に連結するとともに、第1シリンダを、第1支持部材を介して建物の上端部に連結してもよい。これらの場合、第1ダンパの位置は任意である。
また、実施形態では、第2シリンダ31、62を、第2支持部材5を介して左右の柱PL、PRと梁BUとの接合部に連結しているが、第2支持部材5を省略するとともに、第2シリンダを梁に直接、連結してもよい。
さらに、実施形態では、第2シリンダ31、62を左右の柱PL、PRと梁BUとの接合部に、第3及び第4ピストン32、33、63、64を基礎Fに、それぞれ連結しているが、これとは逆に、第3及び第4ピストンを左右の柱と梁との接合部に、第2シリンダを基礎に、それぞれ連結してもよい。この場合、第2シリンダを、逆V字状に設けられた第2支持部材を介して、左右の柱と基礎との接合部に連結するとともに、梁の付近に配置してもよく、あるいは、第2支持部材を省略するとともに、第2シリンダを基礎に直接、連結してもよい。これらのいずれの場合にも、第2滑車は、左右の柱と梁との接合部に取り付けられる。
また、実施形態では、第2ダンパ3、61を、基礎Fとそのすぐ上側の梁BUとの間に設置し、2層間の層間変位を抑制しているが、3層以上の間の層間変位を抑制してもよいことはもちろんである。この場合にも、上述した第2シリンダ、第3及び第4ピストンの連結の仕方に関するバリエーションが同様に当てはまることは、もちろんである。また、振動抑制装置による振動抑制効果を高めるために、第2ダンパ3、61が連結された建物Cの連結部分の剛性を、他の部分の剛性よりも低くなるように設定してもよい。さらに、実施形態では、左右のケーブル6L、6R、76L、76Rは、鋼線であるが、テンションを付与することにより剛性を発揮するものであればよく、例えば帯状の鋼板でもよい。
また、実施形態では、第1ダンパ2を建物Cに、柱材4aで構成された第1支持部材4を介して連結しているが、ケーブルCAを介して連結してもよい。この場合、図9及び図10に示すように、ケーブルCAを上下方向にまっすぐ延びるように設けてもよく、図11及び図12に示すように、ケーブルCAを上下方向に斜めに延びるように設けてもよい。これらのいずれの場合においても、ケーブルCAを、複数の滑車PUを用いて案内するのが好ましい。
また、図10及び図12に示すように、ケーブルCAの中間の部分を、上下2つの滑車PU、PUに折り返した状態で巻き回してもよい。この場合には、建物Cの振動時、これらの上下の2つの滑車PU、PUの一方が他方に対して動滑車として機能し、それにより、建物Cの振動による変位が増大された状態で第1ダンパ2の第1及び第2ピストンに伝達されるので、第1及び第2ピストンの移動量及び作動流体HFの流動量を増大でき、ひいては、建物Cの振動抑制効果を高めることができる。
なお、図9〜図12では、ケーブルCA及び第1ダンパ2は、建物Cの外周に配置されているが、建物Cの内部に配置してもよい。この場合、ケーブル及び第1ダンパを配置するスペースとして、例えば、建物のエレベータの配置スペースや、水道管などの配置スペースを利用してもよい。また、上記のようにケーブルを用いて第1ダンパを建物に連結する場合にも、前述した第1シリンダ、第1及び第2ピストンの連結の仕方に関するバリエーションが同様に当てはまることは、もちろんである。また、ケーブルCAは、テンションを付与することにより剛性を発揮するものであればよく、例えば鋼線でもよく、帯状の鋼板でもよい。
なお、滑車PUへのケーブルCAの巻き数、及び、実施形態の第1及び第2滑車7L、7R、8L、8R、77L、77R、78L、78Rへの左右のケーブル6L、6R、76L、76Rの巻き数は任意に設定可能であり、当該設定により、第1及び第2ダンパ2、3、61に伝達される建物Cの変位の増幅倍率を自由に設定することができる。
さらに、実施形態では、第3及び第4ピストン32、33、63、64を基礎Fに、左右のケーブル6L、6R、76L、76Rを介して連結しているが、これに代えて、第3及び第4ピストンに一体に設けられたピストンロッドを介して連結してもよい。この場合にも、前述した第2シリンダ、第3及び第4ピストンの連結の仕方に関するバリエーションが同様に当てはまることは、もちろんである。
また、実施形態では、第1ダンパ2、2を建物Cの上端部の左端部及び右端部にそれぞれ連結するとともに、第2ダンパ3、61を左右方向に延びる梁BUに連結することによって、建物Cの振動による左右方向の変位を抑制しているが、建物の振動による前後方向の変位を抑制してもよい。この場合には、第1ダンパは、建物の上端部の前端部(後端部)に連結されるとともに、第2ダンパは、前後方向に延びる梁に連結され、第2ダンパの第2シリンダは、前後方向に延びるように設けられる。この場合にも、前述した第1及び第2シリンダならびに第1〜第4ピストンの連結の仕方に関するバリエーションが同様に当てはまることは、もちろんである。
さらに、実施形態では、第1及び第2シリンダ21、31、62ならびに第1〜第4ピストン22、32、63、64の断面形状は、円形状であるが、他の適当な形状、例えば矩形状や、多角形状でもよい。このように第2実施形態の第2シリンダ62、第3及び第4ピストン63、64の断面形状を矩形状や多角形状に設定した場合には、前述した凹部及びレール62i、62iを省略することができる。また、実施形態では、本発明における作動流体は、作動流体HFであるが、粘性を有する他の適当な流体でもよい。これらの第1シリンダ21などの断面形状に関するバリエーション及び作動流体HFに関するバリエーションは、後述する第3実施形態についても同様に当てはまる。
さらに、実施形態では、左右一対の振動抑制装置1L、1Rを設けているが、両者のいずれか一方を省略してもよく、また、本発明の第1ピストン連結対象としてのブレース階FBは、最上階でなくてもよい。また、実施形態は、本発明による振動抑制装置を高層の建物Cに適用した例であるが、本発明はこれに限らず、他の適当な構造物、例えば鉄塔などにも適用可能である。また、以上の実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
次に、図13〜図18を参照しながら、本発明の第3実施形態による振動抑制装置について説明する。この振動抑制装置は、第1実施形態と比較して、第1ダンパ2が伝達部材102を介して構造物C’に連結されている点が、主に異なっている。図13〜図18では、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第3実施形態による振動抑制装置について、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
第3実施形態による振動抑制装置は、構造物C’の振動を抑制するためのものであり、構造物C’内に設けられた左右一対の振動抑制装置101L、101Rで構成されている。構造物C’は、例えば高層のビルであって、互いに併設された上下方向に延びる複数の柱Pと、互いに併設された左右方向に延びる複数の梁Bとを互いに組み合わせたラーメン構造を有しており、基礎梁F’に立設されている。柱P及び梁Bは、複数のH形鋼などの鋼材を直列に接合することで構成されている。なお、図13では便宜上、一部の構成要素の符号を省略している。
図13及び図14に示すように、左側の振動抑制装置101Lは、前述した第1及び第2ダンパ2、3に加え、伝達部材102を備えている。第1シリンダ21及びピストンロッド24は、上下方向に延び、かつ、上端部が下端部よりも左方に位置するように斜めに延びている。なお、第1シリンダ21及びピストンロッド24を上下方向にほぼまっすぐに(ほぼ鉛直方向に)延びるように設けてもよい。第1シリンダ21の凸部21iには、自在継手を介して第1取付具FL1’が設けられており、凸部21iは、自在継手により第1取付具FL1’に対して回動自在である。第1取付具FL1’は、正面形状が台形状の鋼材から成る第1連結部材EN1を介して、基礎梁F’に取り付けられている。これにより、第1ダンパ2の第1シリンダ21は基礎梁F’に連結されている。
また、ピストンロッド24の上端部には、自在継手を介して第2取付具FL2’が設けられており、ピストンロッド24は、自在継手により、第2取付具FL2’に対して回動自在である。第2取付具FL2’は、正面形状が三角形状の鋼材から成る第2連結部材EN2を介して、前記伝達部材102の下端部の右端部に取り付けられており、伝達部材102との接合部分が、伝達部材102の後述する付加柱102aの延長軸線上に位置している。
伝達部材102は、上下方向に互いに接合・固定された複数の柱材から成る付加柱102aと、構造物C’の各階ごとに設けられたX字状のブレース材102bを有しており、付加柱102a及びブレース材102bは、例えばH形鋼で構成され、弾性を有している。付加柱102aは、構造物C’の上端部から下部にわたって、柱Pと平行に上下方向に延びており、その下端部が構造物C’の2階部分を支持する梁Bに接合されるとともに、下端部よりも上側の部分が対応する各階の梁Bに接合されている。このように、付加柱102aは、各階において、柱P及び梁Bとともに井桁状のラーメン構造を構成している。本実施形態では、梁Bへの付加柱102aの接合位置の中心は、隣り合う一対の柱P、Pのそれぞれの軸線の間の距離をLとすると、伝達部材102が設けられた柱Pの軸線からL/4の位置に設定されている(図13参照)。
また、ブレース材102bは、各階において、柱Pと梁Bとの上下2つの接合部分と、付加柱102aと梁Bとの上下2つの接合部分とから成る4つの接合部分に、接合されており、それにより、柱P、梁B及び付加柱102aから成るラーメン構造の剛性が高められている。
以上のように、伝達部材102として、構造物C’の柱P及び梁Bの一部が兼用されており、伝達部材102は、上述したように構成されていることによって、柱Pよりも高い剛性を有している。伝達部材102の剛性の設定については、後述する。
第2ダンパ3は、基礎梁F’と、構造物C’の2階部分を支持する梁Bと、伝達部材102が設けられた柱Pと、この柱Pの左側の隣の柱Pとによって取り囲まれた空間に配置されている。以下の説明及び図14では、第2ダンパ3から見て左側及び右側に位置する柱Pをそれぞれ、「左柱PL’」及び「右柱PR’」とする。
第2シリンダ31の周壁31aは、第2支持部材5の連結部5bに取り付けられており、第2支持部材5の左右の斜め材5a、5aは、それらの上端部が左右の柱PL’、PR’と2階部分を支持する梁Bとの接合部分にそれぞれ連結されており、基礎梁F’の付近まで延びている。以上の構成により、第2ダンパ3の第2シリンダ31は、第2支持部材5を介して、構造物C’の下部に連結されている。
また、振動抑制装置101Lの左ケーブル6Lの左端部及び左側の第2滑車8Lが取り付けられた左連結部9Lは、基礎梁F’及び左柱PL’に取り付けられている。振動抑制装置101Lの右ケーブル6Rの右端部及び右側の第2滑車8Rが取り付けられた右連結部9Rは、基礎梁F’及び右柱PR’に取り付けられている。
さらに、振動抑制装置101Lでは、第2シリンダ31における第3及び第4室の位置関係、第3及び第4ピストン32、33の位置関係、ならびに、第5〜第8流体室31e〜31hの位置関係は、第1実施形態の振動抑制装置1Lのそれらと左右逆の関係になっている。すなわち、第3室及び第3ピストン32は、仕切壁31dよりも右側に配置され、第4室及び第4ピストン33は、仕切壁31dよりも左側に配置されている。また、第5〜第8流体室31e〜31hは、右側からこの順で配置されている。
さらに、上述した位置関係の相違から、振動抑制装置101Lにおける第2シリンダ31との第1連通路10の接続部分は、周壁31aの右端部に位置しており、第2シリンダ31との第2連通路11の接続部分は、周壁31aにおける仕切壁31dのすぐ右側の部分に位置している。また、第2シリンダ31との第3連通路12の接続部分は、周壁31aにおける仕切壁31dのすぐ左側の部分に位置しており、第2シリンダ31との第4連通路13の接続部分は、周壁31aの左端部に位置している。
以上の構成の振動抑制装置101Lでは、構造物C’が静止しているときには、第1〜第4ピストン22、23、32、33は、図14に示す中立位置にある。
図13及び図15に示すように、右側の振動抑制装置101Rは、上述した左側の振動抑制装置101Lと同様に構成されており、これと左右対称に配置されている点のみが異なっている。このような相違から、振動抑制装置101Rの第2シリンダ31における第3及び第4室の位置関係、第3及び第4ピストン32、33の位置関係、ならびに、第5〜第8流体室31e〜31hの位置関係は、振動抑制装置101Lのそれらと左右逆の関係になっている。すなわち、振動抑制装置101Rの第3室及び第3ピストン32は、仕切壁31dよりも左側に配置され、第4室及び第4ピストン33は、仕切壁31dよりも右側に配置されている。また、第5〜第8流体室31e〜31hは、左側からこの順で配置されている。
さらに、上述した位置関係の相違から、振動抑制装置101Rにおける第2シリンダ31との第1連通路10の接続部分は、周壁31aの左端部に位置しており、第2シリンダ31との第2連通路11の接続部分は、周壁31aにおける仕切壁31dのすぐ左側の部分に位置している。また、第2シリンダ31との第3連通路12の接続部分は、周壁31aにおける仕切壁31dのすぐ右側の部分に位置しており、第2シリンダ31との第4連通路13の接続部分は、周壁31aの右端部に位置している。
次に、図13、図16及び図17を参照しながら、構造物C’が1次モードの振動モードで振動したときにおける右側の振動抑制装置101Rの動作例について説明する。図13に二点鎖線で示すように、1次モードによる構造物C’の振動は、その上端側が左右方向に繰り返し往復動するような態様で行われる。この場合、構造物C’の曲げ変形による変位の方向と、剪断変形による変位の方向は互いに同じ方向になり、構造物C’の振動による曲げ変形の度合いは、構造物C’の上側の部分であるほど、より大きくなり、構造物C’の振動による剪断変形の度合いは、構造物C’の下側の部分であるほど、より大きくなる。
また、1次モードの振動により構造物C’が基礎梁F’に対して右側に変位すると、図16に示すように、右側の付加柱102aと梁Bとの接合部分が、この付加柱102aの隣の右側の柱Pと梁Bとの接合部分から前後方向(同図の奥行き方向)に延びる軸線を中心として、上方に回動するように変位する。その結果、この構造物C’の変位が、伝達部材102を介して第1ダンパ2に伝達される。また、基礎梁F’に対する構造物C’の下部の変位が、第2支持部材5やケーブル6L、6Rを介して、第2ダンパ3に伝達される。
以上により、図17に格子状のハッチング付きの矢印で示すように、構造物C’及び基礎梁F’から第1シリンダ21、第1及び第2ピストン22、23に、第1及び第2ピストン22、23を第1及び第3流体室21e、21g側にそれぞれ移動させる方向の力(第1ダンパ21を伸張するような力)が作用するとともに、構造物C’及び基礎梁F’から第2シリンダ31、第3及び第4ピストン32、33に、第3及び第4ピストン32、33を第5及び第7流体室31e、31g側にそれぞれ移動させる方向の力が作用する。
この動作例では、構造物C’及び基礎梁F’から第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力が、構造物C’及び基礎梁F’から第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力よりも大きい。このため、図17に示すように、第1及び第2ピストン22、23がそれぞれ、図15に示す中立位置から第1及び第3流体室21e、21g側に移動し、第1及び第3流体室21e、21g内の作動流体HFが、第1及び第2ピストン22、23でそれぞれ圧縮される。これにより、第1及び第3流体室21e、21g内の作動流体HFの一部はそれぞれ、構造物C’及び基礎梁F’から第3及び第4ピストン32、33にそれぞれ作用する第5及び第7流体室31e、31g側に第3及び第4ピストン32、33を移動させる方向の力に抗して、第1及び第3連通路10、12を介して、第5及び第7流体室31e、31gに流入する。それにより、第3及び第4ピストン32、33がそれぞれ、図15に示す中立位置から第6及び第8流体室31f、31h側に移動することにより、第6及び第8流体室31f、31h内の作動流体HFの一部がそれぞれ、第2及び第4連通路11、13を介して、第2及び第4流体室21f、21hに流入する。図17では、作動流体HFの流れの方向を、第1〜第4連通路10〜13の付近に付した矢印で示している。
また、図16に示すFRは、振動抑制装置101Rの第1ダンパ21の反力を表している。同図に示すように、第1ダンパ21の反力FRは、右側の付加柱102aと梁Bとの接合部分を下方に押し戻すように作用し、すなわち、伝達部材102を介して、構造物C’の1次モードの振動による曲げ変形を抑制するように作用する。また、図17から明らかなように、第2ダンパ31の反力は、構造物C’の下部における剪断変形を抑制するように作用する。
また、図示しないものの、1次モードの振動により構造物C’が基礎梁F’に対して左側に変位したときには、構造物C’の変位が第1及び第2ダンパ2、3に伝達されることによって、構造物C’及び基礎梁F’から第1シリンダ21、第1及び第2ピストン22、23に、第1及び第2ピストン22、23を第2及び第4流体室21f、21h側にそれぞれ移動させる方向の力(第1ダンパ21を短縮するような力)が作用するとともに、構造物C’及び基礎梁F’から第2シリンダ31、第3及び第4ピストン32、33に、第3及び第4ピストン32、33を第6及び第8流体室31f、31h側にそれぞれ移動させる方向の力が作用する。
この場合、構造物C’及び基礎梁F’から第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力が、構造物C’及び基礎梁F’から第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力よりも大きい。このため、第1及び第2ピストン22、23が第2及び第4流体室21f、21h側にそれぞれ移動し、第2及び第4流体室21f、21h内の作動流体HFが、第1及び第2ピストン22、23でそれぞれ圧縮される。これにより、第2及び第4流体室21f、21h内の作動流体HFの一部はそれぞれ、構造物C’及び基礎梁F’から第3及び第4ピストン32、33にそれぞれ作用する第6及び第8流体室31f、31h側に第3及び第4ピストン32、33を移動させる方向の力に抗して、第2及び第4連通路11、13を介して、第6及び第8流体室31f、31hに流入する。それにより、第3及び第4ピストン32、33が第5及び第7流体室31e、31g側にそれぞれ移動することによって、第5及び第7流体室31e、31g内の作動流体HFの一部がそれぞれ、第1及び第3連通路10、12を介して、第1及び第3流体室21e、21gに流入する。
また、以上のような構造物C’の振動時における右側の振動抑制装置101Rの動作は、左側の振動抑制装置101Lにおいて同様に行われるので、以下、振動抑制装置101Lの動作について簡単に説明する。1次モードの振動により構造物C’が基礎梁F’に対して右側に変位したときには、図16に示すように、左側の付加柱102aと梁Bとの接合部分が、この付加柱102aの隣の左側の柱Pと梁Bとの接合部分から前後方向(同図の奥行き方向)に延びる軸線を中心として、下方に回動するように変位する。その結果、第1ダンパ2が短縮され、第1ダンパ2の反力FLが、左側の付加柱102aと梁Bとの接合部分を上方に押し戻すように、すなわち、構造物C’の1次モードの振動による曲げ変形を抑制するように作用する。
一方、1次モードの振動により構造物C’が基礎梁F’に対して左側に変位したときには、左側の付加柱102aと梁Bとの接合部分が、上記の軸線を中心として上方に回動するように変位する結果、第1ダンパ2が伸張され、この場合にも、第1ダンパ2の反力FLが構造物C’の1次モードの振動による曲げ変形を抑制するように作用する。左側の振動抑制装置101Lの第2ダンパ3及び作動流体HFの動作は、右側の振動抑制装置101Rのそれと同様であるので、その説明を省略する。
以上のように、第3実施形態によれば、上下方向に延びる第1シリンダ21が基礎梁F’に連結されており、第1シリンダ21には、作動流体HFが充填された第1及び第2室が上下方向に並んだ状態で設けられるとともに、第1及び第2ピストン22、23が、第1及び第2室に上下方向に摺動自在にそれぞれ設けられている。第1室は、第1ピストン22によって第1流体室21eと第2流体室21fに区画されており、第2室は、第2ピストン23によって第3流体室21gと第4流体室21hに区画されている。また、第1及び第2ピストン22、23は、互いに連結されるとともに、伝達部材102の下端部の右端部(左端部)に連結されている。第1シリンダ21、第1及び第2ピストン22、23を、上記のように伝達部材102及び基礎梁F’に連結することによって、構造物C’の1次モードの振動により発生した曲げ変形による変位を、伝達部材102を介して、第1シリンダ21、第1及び第2ピストン22、23に適切に伝達することができる。
また、左右方向に延びる第2シリンダ31が、構造物C’の下部に設けられた梁Bに連結されており、第2シリンダ31には、作動流体HFが充填された第3室及び第4室が左右方向に並んだ状態で設けられるとともに、第3及び第4ピストン32、33が、第3及び第4室に、左右方向に摺動自在にそれぞれ設けられている。第3室は、第3ピストン32によって第5流体室31eと第6流体室31fに区画されており、第4室は、第4ピストン33によって第7流体室31gと第8流体室31hに区画されている。また、第3及び第4ピストン32、33は、互いに連結されるとともに、基礎梁F’に連結されている。第2シリンダ31、第3及び第4ピストン32、33を、上記のように梁B及び基礎梁F’に連結することによって、構造物C’の1次モードの振動により発生した剪断変形による変位を、第2シリンダ31、第3及び第4ピストン32、33に適切に伝達することができる。
さらに、図17を参照して説明したように、振動抑制装置101Rは、構造物C’が1次モードの振動モードで振動することにより基礎梁F’に対して右側に変位したときに、構造物C’及び基礎梁F’から第1シリンダ21、第1及び第2ピストン22、23に、第1及び第2ピストン22、23を第1及び第3流体室21e、21g側にそれぞれ移動させる方向の力が作用するとともに、構造物C’及び基礎梁F’から第2シリンダ31、第3及び第4ピストン32、33に、第3及び第4ピストン32、33を第5及び第7流体室31e、31g側にそれぞれ移動させる方向の力が作用するように構成されている。
この場合、第1実施形態と同様、第1及び第5流体室21e、31eが、第1連通路10を介して互いに連通しており、第2及び第6流体室21f、31fが、第2連通路11を介して互いに連通している。また、第3及び第7流体室21g、31gが、第3連通路12を介して互いに連通しており、第4及び第8流体室21h、31hが、第4連通路13を介して互いに連通している。
また、この場合、前述した動作例では、構造物C’及び基礎梁F’から第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力が第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力よりも大きい。このため、第5及び第7流体室31e、31g側に第3及び第4ピストン32、33をそれぞれ移動させる方向の力に抗して、第1及び第3流体室21e、21g内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第1及び第2ピストン22、23による圧縮により、第1及び第3連通路10、12を介して、第5及び第7流体室31e、31gに流入させるとともに、第6及び第8流体室31f、31h内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第2及び第4連通路11、13を介して、第2及び第4流体室21f、21hに流入させることができる。したがって、第1及び第2シリンダ21、31内の作動流体HFの粘性減衰効果に加え、第1〜第4連通路10〜13を介した作動流体HFの流動による慣性効果がさらに得られる。
さらに、振動抑制装置101Rは、構造物C’が1次モードの振動モードで振動することにより基礎梁F’に対して左側に変位したときに、構造物C’及び基礎梁F’から第1シリンダ21、第1及び第2ピストン22、23に、第1及び第2ピストン22、23を第2及び第4流体室21f、21h側にそれぞれ移動させる方向の力が作用するとともに、構造物C’及び基礎梁F’から第2シリンダ31、第3及び第4ピストン32、33に、第3及び第4ピストン32、33を第6及び第8流体室31f、31h側にそれぞれ移動させる方向の力が作用するように構成されている。
この場合、前述した動作例では、構造物C’及び基礎梁F’から第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力が第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力よりも大きい。このため、第6及び第8流体室31f、31h側に第3及び第4ピストン32、33をそれぞれ移動させる方向の力に抗して、第2及び第4流体室21f、21h内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第1及び第2ピストン22、23による圧縮により、第2及び第4連通路11、13を介して、第6及び第8流体室31f、31hに流入させるとともに、第5及び第7流体室31e、31g内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第1及び第3連通路10、12を介して、第1及び第3流体室21e、21gに流入させることができる。したがって、第1及び第2シリンダ21、31内の作動流体HFの粘性減衰効果に加え、第1〜第4連通路10〜13を介した作動流体HFの流動による慣性効果がさらに得られる。
以上から明らかなように、構造物C’が1次モードの振動モードで振動することにより基礎梁F’に対して左側及び右側に繰り返し変位したときに、第1及び第2シリンダ21、31内の作動流体HFの粘性減衰効果と、第1〜第4連通路10〜13を介した作動流体HFの流動による慣性効果とが得られることによって、構造物C’の振動を十分に抑制することができる。この場合、振動抑制装置が、左右一対の振動抑制装置101L、101Rで構成されているので、この効果をより有効に得ることができる。
以上のように、第3実施形態によれば、構造物C’の振動時、第1実施形態と同様、第1シリンダ21、第1及び第2ピストン22、23を有する第1ダンパ2と、第2シリンダ31、第3及び第4ピストン32、33を有する第2ダンパ3とを適切に連動させることができ、それにより、構造物C’の振動を十分に抑制することができる。
なお、図17は、構造物C’及び基礎梁F’から第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力が第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力よりも大きい場合の例であるが、これとは逆に、構造物C’及び基礎梁F’から第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力が第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力よりも大きいときには、振動抑制装置101Rは次のように動作する。
すなわち、構造物C’が1次モードの振動モードで振動することにより基礎梁F’に対して右側に変位したときには、第5及び第7流体室31e、31g内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第3及び第4ピストン32、33による圧縮により、第1及び第3連通路10、12を介して、第1及び第3流体室21e、21gに流入させるとともに、第2及び第4流体室21f、21h内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第2及び第4連通路11、13を介して、第6及び第8流体室31f、31hに流入させることができる。したがって、この場合にも、第2及び第1シリンダ31、21内の作動流体HFの粘性減衰効果に加え、第1〜第4連通路10〜13を介した作動流体HFの流動による慣性効果がさらに得られる。
また、構造物C’が1次モードの振動モードで振動することにより基礎梁F’に対して左側に変位したときには、第6及び第8流体室31f、31h内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第3及び第4ピストン32、33による圧縮により、第2及び第4連通路11、13を介して、第2及び第4流体室21f、21hに流入させるとともに、第1及び第3流体室21e、21g内の作動流体HFの一部をそれぞれ、第1及び第3連通路10、12を介して、第5及び第7流体室31e、31gに流入させることができる。したがって、この場合にも、第2及び第1シリンダ31、21内の作動流体HFの粘性減衰効果に加え、第1〜第4連通路10〜13を介した作動流体HFの流動による慣性効果がさらに得られる。
以上により、構造物C’及び基礎梁F’から第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力が第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力よりも大きい場合にも、前述した構造物C’及び基礎梁F’から第1及び第2ピストン22、23に作用する圧力が第3及び第4ピストン32、33に作用する圧力よりも大きい場合と同様に、第1及び第2ダンパ2、3を適切に連動させることができ、それにより、構造物C’の振動を十分に抑制することができる。
また、第1及び第2ピストン22、23が構造物C’の柱Pに、伝達部材102を介して連結されている。さらに、第2シリンダ31が構造物C’の下部に、第2支持部材5を介して連結されており、第3及び第4ピストン32、33が基礎梁F’に、左右のケーブル6L、6Rを介して連結されている。以上の構成により、作動流体HFから成る慣性接続要素及び粘性要素と、弾性を有する伝達部材102が、直列に接続された関係になるとともに、作動流体HFから成る慣性接続要素及び粘性要素と、弾性を有する第2支持部材5及び左右のケーブル6L、6Rとが、直列に接続された関係になるので、これらの要素によって付加振動系を構成することができる。
また、伝達部材102、第2支持部材5、及び左右のケーブル6L、6Rの剛性(ばね定数)や、作動流体HFの密度及び粘度、第1及び第2シリンダ21、31の断面積、第1〜第4連通路10〜13の通路面積などの諸元は、上記の付加振動系の固有振動数が構造物C’の1次の固有振動数に同調(共振)するように、設定されている。これにより、構造物C’の振動エネルギを付加振動系で吸収することによって、構造物C’の振動をさらに良好に抑制することができる。さらに、第1及び第2ダンパ2、3の反力FL(FR)は、第1及び第2ピストン22、23の断面積、ならびに、第3及び第4ピストン32、33の断面積を調整することによってそれぞれ変更可能であり、この場合、第1〜第4ピストン22、23、32、33の断面積が大きいほど、より大きくなる。
また、図18は、構造物C’が1次モードの振動モードで振動したときの左右の振動抑制装置101L、101Rの第1ダンパ2、2の反力FL、FRの関係を示している。同図から明らかなように、左側の第1ダンパ2の反力FLの上下方向の分力は、基礎梁F’を下方に押圧するように作用し、右側の第1ダンパ2の反力FRの上下方向の分力は、基礎梁F’を上方に押圧するように作用する。このように、左右の第1ダンパ2、2の反力FL、FRの上下方向の分力を互いに相殺させるように作用させることができ、したがって、基礎梁F’への第1ダンパ2、2の反力FL、FRの負担を軽減することができる。なお、当該効果を得る上では、左右の第1ダンパ2、2の基礎梁F’への連結部分を、左右方向(水平方向)に可能な限り近づけるのが好ましい。
さらに、構造物C’の振動時、第1実施形態と同様、第1及び第2滑車7L、7R、8L、8Rの一方が他方に対して、いわゆる動滑車として機能し、それにより、構造物C’の振動による変位が増大された状態で第3及び第4ピストン32、33に伝達される。したがって、第3及び第4ピストン32、33の移動量及び作動流体HFの流動量を増大でき、ひいては、構造物C’の振動抑制効果を高めることができる。また、左右のケーブル6L、6Rが、第3及び第4ピストン32、33を間にして左右方向に互いに反対側に延びているので、1次モードの振動により構造物C’が基礎梁F’に対して左側及び右側に繰り返し変位したとき(図13の二点鎖線参照)に、構造物C’の変位を、両ケーブル6L、6Rを介して第3及び第4ピストン32、33に適切に伝達することができる。
また、第1実施形態と同様、第1〜第4リリーフ弁25〜28、35〜38を有するとともに、所定のテンションが左右のケーブル6L、6Rに付与されているので、振動抑制装置の過負荷状態を防止できるとともに、振動抑制装置の反力の過大化を防止することができる。
なお、本発明は、説明した第3実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第3実施形態に関し、第1実施形態の第1変形例と同様に、第1〜第4連通路10〜13の少なくとも1つに、歯車ポンプ41及び第1回転マス47を設けてもよく、第2変形例と同様に、歯車ポンプ41、第1及び第2回転マス47、51を設けてもよい。この場合にも、第1及び第2変形例に関する前述したバリエーションを適用してもよいことは、もちろんである。また、第3実施形態に関し、第2ダンパ31に代えて、第2実施形態の第2ダンパ61を用いてもよい。この場合にも、第2実施形態に関する前述したバリエーションを適用してもよいことは、もちろんである。
また、第3実施形態では、伝達部材102に対する第1及び第2ピストン22、23の連結位置を、付加柱102aの延長軸線上に、すなわち、伝達部材102における水平方向の柱Pと反対側の他端部に設定しているが、この他端部側の他の適当な部位に設定してもよい。さらに、第3実施形態では、第1シリンダ21を、構造物C’が立設された基礎梁F’に連結しているが、構造物C’の下部に設けられた梁や、構造物C’の下方に設けられた地下構造物などに連結してもよい。また、第3実施形態では、第1シリンダ21を基礎梁F’に、第1及び第2ピストン22、23を伝達部材102に、それぞれ連結しているが、これとは逆に、第1シリンダ21を伝達部材102に、第1及び第2ピストン22、23を基礎梁F’に、それぞれ連結してもよい。
さらに、第3実施形態では、第1ダンパ2及び伝達部材102を構造物C’の内側に設けているが、図19に示すように、構造物C’の外側に設けてもよい。また、第3実施形態では、梁Bへの付加柱102aの接合位置、すなわち、伝達部材102の左右方向の長さを、伝達部材102が設けられた柱Pの軸線からL/4の長さに設定しているが、これに限らず、他の適当な長さを採用可能である。さらに、第3実施形態では、伝達部材102を、柱Pの上端部から下部にわたって設けているが、図20に示すように、柱Pの上部に設けてもよい。その場合には、第1ダンパ2の第1シリンダ又は第1及び第2ピストンは、柱Pよりも剛性が高い壁部Wなどを介して基礎梁F’に連結される。この壁部Wは、例えば鉄筋コンクリートで構成されている。また、伝達部材を、構造物C’の上端部(最上階)まで設けなくてもよく、最上階よりも若干、下側の階まで設けてもよい。
また、第3実施形態では、柱P及び梁Bの一部を伝達部材102として兼用しているが、これらの少なくとも一方を兼用せずに、伝達部材を構成してもよい。さらに、第3実施形態では、伝達部材102を、付加柱102aやブレース材102bの組み合わせで構成しているが、柱Pよりも剛性の高い鉄筋コンクリート製の壁などで構成してもよい。また、第3実施形態では、伝達部材102を、構造物C’のラーメン構造を構成する柱Pや梁Bに設けているが、構造物(建物)の吹き抜け部分やエレベータの設置スペースなどの空間を画成する壁部や柱などに、設けてもよい。
さらに、第3実施形態では、第2シリンダ31を、第2支持部材5を介して左右の柱PL’、PR’と梁Bとの接合部分に連結しているが、第2支持部材5を省略するとともに、第2シリンダを梁に直接、連結してもよい。また、第3実施形態では、第2シリンダ31を左右の柱PL’、PR’と梁Bとの接合部分に、第3及び第4ピストン32、33を基礎梁F’に、それぞれ連結しているが、これとは逆に、第3及び第4ピストンを左右の柱と梁との接合部分に、第2シリンダを基礎梁に、それぞれ連結してもよい。この場合、第2シリンダを、逆V字状に設けられた第2支持部材を介して、左右の柱と基礎梁との接合部分に連結するとともに、梁の付近に配置してもよく、あるいは、第2支持部材を省略するとともに、第2シリンダを基礎梁に直接、連結してもよい。これらのいずれの場合にも、第2滑車は、左右の柱と梁との接合部分に取り付けられる。
さらに、第3実施形態では、本発明における第2シリンダ連結対象は、構造物C’の2階部分を支持する梁Bであり、第3ピストン連結対象は、構造物C’が立設された基礎梁F’であるが、第2シリンダ連結対象及び第3ピストン連結対象として、構造物の他の適当な部位を採用してもよいことは、もちろんである。また、第3実施形態では、第2ダンパ3を、基礎梁F’とそのすぐ上側の梁Bとの間に設置し、2層間の層間変位を抑制しているが、3層以上の間の層間変位を抑制してもよいことはもちろんである。また、振動抑制装置による振動抑制効果を高めるために、第2ダンパ3が連結された構造物C’の連結部分の剛性を、他の部分の剛性よりも低くなるように設定してもよい(ソフトファーストストーリー)。
さらに、第3実施形態では、第3及び第4ピストン32、33を基礎梁F’に、左右のケーブル6L、6Rを介して連結しているが、これに代えて、第3及び第4ピストンに一体に設けられたピストンロッドを介して連結してもよい。また、第3実施形態では、左右のケーブル6L、6Rは、鋼線であるが、テンションを付与することにより剛性を発揮するものであればよく、例えば帯状の鋼板でもよい。さらに、第3実施形態の第1及び第2滑車7L、7R、8L、8Rへの左右のケーブル6L、6Rの巻き数は任意に設定可能であり、当該設定により、第2ダンパ3に伝達される構造物C’の変位の増幅倍率を自由に設定することができる。
また、第3実施形態では、第1ダンパ2、2を伝達部材102の下端部の右端部及び左端部にそれぞれ連結するとともに、第2ダンパ3を左右方向に延びる梁Bに連結することによって、構造物C’の振動による左右方向の変位を抑制しているが、構造物の振動による前後方向の変位を抑制してもよい。この場合には、第1ダンパは、伝達部材の下端部の前端部(後端部)に連結されるとともに、第2ダンパは、前後方向に延びる梁に連結され、第2ダンパの第2シリンダは、前後方向に延びるように設けられる。
さらに、第3実施形態では、1つの柱Pに対して、1つの振動抑制装置101L(101R)を設けているが、2つの振動抑制装置を設けてもよい。この場合、2つの振動抑制装置の一方の伝達部材及び第1ダンパは、柱の水平方向の一方の側に設けられ、2つの振動抑制装置の他方の伝達部材及び第1ダンパは、柱の水平方向の他方の側に設けられる。また、第3実施形態では、左右一対の振動抑制装置101L、101Rを設けているが、両者のいずれか一方を省略してもよい。また、第3実施形態は、本発明による振動抑制装置を高層の構造物C’に適用した例であるが、本発明はこれに限らず、他の適当な構造物、例えば鉄塔などにも適用可能である。また、以上の第3実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。