JP2017115099A - 溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物 - Google Patents

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Yusuke Matsumura
裕介 松村
孝典 科野
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孝典 科野
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Abstract

【課題】パーフルオロポリエーテル油やフッ素グリースが有する優れた性能を維持しつつ、使用時における固体潤滑剤成分の沈降を抑制し、かつ、保管時における沈降に伴う固体潤滑剤の凝集を防止した溶剤希釈型のフッ素系潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は、フッ素グリースが溶剤に分散してなる溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物であって、基油であるパーフルオロポリエーテル油と、固体潤滑剤と、分散性向上剤とを含有し、分散性向上剤は、炭素数1〜10のフッ化アルキル基と、アクリル基とを有する。
【選択図】なし

Description

本発明は、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物に関するものであり、フッ素グリースを溶剤に分散させてなる潤滑剤組成物であって、固体潤滑剤を良好に分散させて沈降を抑制した溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物に関する。
グリースは、基油や増ちょう剤により分類されることが多い。中でも、パーフルオロポリエーテル油をポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマーや無機増ちょう剤により増ちょうさせたグリースを、フッ素グリースと呼ぶ。そして、そのフッ素グリースをフッ素系の溶剤であるハイドロフルオロエーテルやハイドロフルオロカーボン等の溶剤に分散した液状潤滑剤は、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤と呼ばれる。
フッ素グリースは、その基油に由来する優れた性能により、潤滑性、耐熱性、酸化安定性、対樹脂性、対ゴム性、低発塵性、耐薬品性といった非常に多くの優れた機能を有するグリースである一方、高価なものでもある。そのため、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤は、フッ素グリースが薄膜で塗布されるものであるため、フッ素グリースの使用量が減り、コストを低減することができる。また、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤は、液状潤滑剤であるため、ディッピングや刷毛塗りといった塗布方法により作業効率・生産性を向上させることができ、また有効成分量をコントロールすることで溶剤の塗布量を調整することができるため、結果として生産コストを低減することができる。
フッ素グリースは、特に、家電製品等の精密でデリケートな部分に使用されることが多い。家電製品は、製品によっては10年以上をノーメンテナンスで取り扱うため、フッ素グリースの多機能性は要求仕様を十分満足させうる。
さて、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は、上述したように、簡易に塗布することができるが、その組成物に用いられる固体潤滑剤成分は、溶剤の比重よりも大きいものを用いることが多い。固体潤滑剤の比重が溶剤比重よりも軽い場合は、液の界面に固体潤滑剤が浮遊し、均一に塗布することが困難となる。一方で、溶剤比重よりも比重が大きい固体潤滑剤を用いた場合は、放置すると固体潤滑剤が底部に沈降するものの、再度撹拌することにより容易に再分散させることができる。
その比重差による沈降は、液の均一性を大きく阻害する。均一な状態で使用するためには撹拌が必須であるため、こまめに撹拌をしなくてはならない。また、沈降した状態で長期間保管すると、固体潤滑剤が凝集して粗大粒子化してしまい、均一性だけでなく潤滑性をも大きく阻害することもある。
ここで、塗料の場合、顔料を溶剤成分に含浸させる際に、分散剤又は凝集防止剤を配合する。例えば、潤滑剤組成物に分散剤を配合した場合、その分散剤が固体潤滑剤に吸着し、静電反発により粒子同士の吸着を抑制して、粒子の分散性を向上させることが可能となる。また、潤滑剤組成物に凝集防止剤を配合した場合には、液中に立体障害の大きい化合物が存在するようになるため、その大きな立体構造に粒子の移動が遮られることによって、粒子同士の吸着が抑制される。
しかしながら、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物に用いられる溶剤成分は、フッ素原子を有した化学構造であるため、ほとんどの添加剤が溶解せず、効果を示さない。また、溶解し得るものがあったとしても、十分な沈降防止効果又は凝集防止効果を発現するものはなかった。
このように、撹拌の手間を省くことができ、沈降による生じる固体潤滑剤の粗大粒子化を抑制することが可能な溶剤希釈型フッ素系潤滑剤が求められている。
特開2007−217511号公報
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、パーフルオロポリエーテル油及びフッ素グリースが有する優れた性能を維持しつつ、使用時における固体潤滑剤成分の沈降を抑制し、また保管時における沈降に伴う固体潤滑剤の凝集を防止した溶剤希釈型のフッ素系潤滑剤組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、組成物中に、特定のフッ素化合物を分散性向上剤として配合させることで、固体潤滑剤成分の沈降を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
(1)本発明の第1の発明は、フッ素グリースが溶剤に分散してなる溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物であって、基油であるパーフルオロポリエーテル油と、固体潤滑剤と、分散性向上剤とを含有し、前記分散性向上剤は、炭素数1〜10のフッ化アルキル基と、アクリル基とを有する溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物である。
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記分散性向上剤は、前記固体潤滑剤100質量部に対して、1質量部〜100質量部の割合で含有されている、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物である。
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレンである、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物である。
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記溶剤は、ハイドロフルオロエーテル又はハイドロフルオロカーボンである、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物である。
本発明によれば、優れた性能を維持しつつ、使用時における固体潤滑剤成分の沈降を抑制し、保管時における沈降に伴う固体潤滑剤の凝集を防止することができる。
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
≪1.溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物の構成≫
本実施の形態に係る溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は、フッ素グリースがフッ素系溶剤に分散してなるものであって、基油であるパーフルオロポリエーテル油と、固体潤滑剤と、分散性向上剤とを含有する。そして、その分散性向上剤が、炭素数1〜10のフッ化アルキル基と、アクリル基とを有するフッ素化合物であることを特徴としている。
なお、フッ素系溶剤にフッ素グリースが「分散」した状態とは、フッ素系溶剤にフッ素グリースが溶解している状態も含む意味である。
この溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物では、特定の化学構造を有する分散性向上剤を含有させてなることにより、フッ素系溶剤中において固体潤滑剤の効果的に分散させることができ、その固体潤滑剤の沈降を抑制することができる。また、保管時における沈降に伴う固体潤滑剤の凝集も効果的に防止することができ、使用時に撹拌するといった手間を省略することができ、ハンドリング性に優れる。
(1)基油(パーフルオロポリエーテル油)
基油のパーフルオロポリエーテル油としては、特に限定されないが、例えば下記一般式(i)〜(iv)で表される構造を有するものを挙げることができる。
F−(CFCF−CF−O−)−CF−CF・・(i)
(なお、式(i)中のnは、0又は正の整数である。)
CF−(O−CFCF−CF−(O−CF−)−O−CF・・(ii)
(なお、式(ii)中のp及びqは、それぞれ独立に、0又は正の整数である。)
F−(CF−CF−CF−O−)−CF−CF・・(iii)
(なお、式(iii)中のrは、0又は正の整数である。)
CF−(O−CF−CF−)−(O−CF−)−O−CF・・(iv)
(なお、式(iv)中のs及びtは、それぞれ独立に、0又は正の整数である。)
具体的には、例えば、Krytoxシリーズ(デュポン株式会社製)、Fomblin Yシリーズ(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製)、Fomblin Mシリーズ(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製)、Fomblin Wシリーズ(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製)、Fomblin Zシリーズ(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製)、デムナムSシリーズ(ダイキン工業製)等の市販品を使用することができる。
パーフルオロポリエーテル油としては、上述したように構造を有するものを挙げることができるが、その中でも、粘度が40℃で15〜600mm/sの範囲であるものを用いることが好ましい。
(2)固体潤滑剤
固体潤滑剤としては、後述する溶剤であるフッ素系溶剤の比重よりも大きいものを用いることができる。具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、メラミンシアヌレート、窒化ホウ素、グラファイト、二硫化モリブデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等が挙げられる。その中でも特に、白色で低摩擦係数を有するポリテトラルオロエチレンを用いることが好ましい。
例えば、固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレンを用いる場合、平均粒径が10.0μm以下のものを使用することが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンの粒径が細かいほど、基油のパーフルオロポリエーテル油との接触面積が大きくなるため、パーフルオロポリエーテル油の油分離を小さくする効果が得られる。
一方で、ポリテトラフルオロエチレンとして平均粒径が10.0μmより大きい粒径のものを用いた場合、基油のパーフルオロポリエーテル油との接触面積が小さくなり、すなわち親和力が小さくなる。そのため、同量を配合した場合でも、平均粒径が10.0μm以下のものに比べて油分離が多くなり、またちょう度が大きくなって流動性が増すために適用部からの流出が起こり易くなる。ここで、ポリテトラフルオロエチレンの配合量を増やすことで、グリースのちょう度及び油分離量を低減させることは可能であるが、グリース中の固体成分比が大きくなってしまうため、グリースの粘性が増大し、ハンドリング及び低温下でのトルクが増大してしまう。
このように、固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレンを用いる場合、その粒径が細かいものほどパーフルオロポリエーテル油との親和力が大きくなるため好ましい。具体的には、上述したように平均粒径が10.0μm以下のものを用いることが好ましく、0.1μm〜5.0μmのものを用いることがより好ましい。
固体潤滑剤の配合量としては、基油であるパーフルオロポリエーテル油との配合比に基づいて決定する。具体的には、パーフルオロポリエーテル油:固体潤滑剤の比率が、97:3〜50:50の範囲となるように配合させることが好ましい。パーフルオロポリエーテル油との配合比との関係において、固体潤滑剤の配合比率が3質量%未満であると、潤滑性に乏しくなり、一方で、固体潤滑剤の配合比率が50質量%を超えると、乾燥後の状態においてハンドリング性が悪く、トルクが高くなる等の弊害が生じる可能性がある。
ここで、上述した固体潤滑剤と、基油であるパーフルオロポリエーテル油とが、当該溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物における実質的な有効成分となる。この有効成分の組成物中における割合としては1質量%〜50質量%であることが好ましく、3質量%〜25質量%の割合で含まれることがより好ましい。組成物中における有効成分量が1質量%未満であると、潤滑性に乏しくなり、一方で、有効成分量が50質量%を超えると、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤の流動性がほとんど無くなってしまい、ハンドリング性が悪くなる。また、有効成分量が多くなりすぎると、もともとの要求特性の一つである、均一薄膜塗布が困難となる。
(3)分散性向上剤
本実施の形態に係る溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物においては、上述した潤滑剤組成物としての有効成分である固体潤滑剤とパーフルオロポリエーテル油に対して、分散性向上剤が含有されていることを特徴としている。
分散性向上剤としては、炭素数1〜10のフッ化アルキル基と、アクリル基とを有する化合物を用いる。この分散性向上剤は、基油であるパーフルオロポリエーテル油の種類によらず、フッ素系溶剤に溶解するものであればよい。
ここで、分散性向上剤は、上述したように、炭素数1〜10のフッ化アルキル基と、アクリル基とを有する化合物である。本発明者は、このような化学構造を有する分散性向上剤によれば、フッ素系溶剤中において固体潤滑剤の効果的に分散させることができ、沈降を抑制できることを見出した。
すなわち、このような化学構造を有する分散性向上剤では、例えば固体潤滑剤がポリテトラフルオロエチレン等である場合、化学構造におけるフッ化アルキル基が固体潤滑剤表面に吸着し、アクリル基がフッ素系溶剤側に向くようになるものと推定され、固体潤滑剤が炭化水素系である場合には、その逆になると推定される。すると、この分散性向上剤の界面活性剤のような働きにより、フッ素系溶剤と親和性を保ちながら、すなわち有効に溶剤中に溶解しながら、固体潤滑剤の粒子間を静電反発により遠ざける作用を示す。
本実施の形態に係る溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物では、分散性向上剤のこのような作用により、固体潤滑剤を1次粒子のレベルまで分散させることができ、静電反発と粒子同士の衝突によって、効果的に沈降を抑制することができる。
分散性向上剤におけるフッ化アルキル基は、炭素数が1〜10のアルキル基であり、パーフルオロアルキル基であることが好ましい。また、炭素数は4〜8であることが好ましく、炭素数が8であるものが特に好ましい。
分散性向上剤の配合量としては、固体潤滑剤の種類やその粒子径に基づく表面積によって適宜調整することが好ましい。分散性向上剤は、上述したように固体潤滑剤の表面に吸着するため、固体潤滑剤の粒子径が細かい、すなわち表面積が大きいものである場合には、分散性向上剤の配合量が多くなる。具体的には、例えば、分散性向上剤の配合量として、固体潤滑剤100質量部に対して1質量部〜100質量部であることが好ましく、5質量部〜50質量部であることがより好ましく、10質量部〜30質量部であることが特に好ましい。なお、固体潤滑剤として平均粒径が10μm以下のポリテトラフルオロエチレンを用いる場合、同様に、ポリテトラフルオロエチレン100質量部に対して1質量部〜100質量部であることが好ましい。
分散性向上剤の配合量に関して、固体潤滑剤100質量部に対して1質量部未満であると、良好に分散せずに沈降を効果的に抑制することができない可能性がある。一方で、固体潤滑剤100質量部に対して100質量部を超える割合で配合しても、その効果が頭打ちとなり、また過剰に配合することによって固体潤滑剤の沈降時にハードケーキ化する可能性があり、再分散性が低下する。
(4)フッ素系溶剤
本実施の形態に係る溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は、基油としてのパーフルオロポリエーテル油を含有するグリースをフッ素系溶剤に分散(又は溶解)させた潤滑剤組成物である。フッ素系溶剤としては、特に限定されるものではないが、ハイドロフルオロエーテルやハイドロフルオロカーボンを使用することが好ましい。
ハイドロフルオロエーテルやハイドロフルオロカーボンは、パーフルオロポリエーテル油との溶解性が高く、また他のハロゲン系溶剤に比べて地球温暖化係数が低いため、近年の環境への意識を鑑みた際に特に好ましい。具体的には、NOVECシリーズ(スリーエムジャパン製)、アサヒクリンシリーズ(旭硝子株式会社製)、バートレルシリーズ(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)等の市販品を使用することができる。
また、近年環境対応型として普及し始めている、ハイドロフルオロオレフィンも使用することができる。例えば、スープリオン(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)等の製品が市販されており、好適に使用することができる。
(5)その他
なお、溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物には、上述した成分のほか、その効果を阻害しない範囲で種々の添加剤を配合させることができる。例えば、摩擦調整剤、金属腐食防止剤、防錆剤といった種々の添加剤を配合させることができる。
≪2.溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物の製造方法≫
本実施の形態に係る溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物は、公知の方法により製造することができる。具体的には、例えば、フッ素系溶剤であるハイドロフルオロエーテル等を容器に秤量し、公知の撹拌方法にて撹拌しながら、分散性向上剤を添加し、そこにフッ素グリースを投入して分散させる。また、必要に応じて各種の添加剤を加えて分散させる。これにより、フッ素グリースを溶剤に分散させてなる溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を得ることができる。
フッ素系溶剤へのフッ素グリースの分散処理に際しては、例えば、プロペラ撹拌機、ディゾルバー、ディスパーマット、スターミル、ダイノーミル、アジテーターミル、クレアミックス、フィルミックス等の湿式撹拌・分散処理装置を用いて行うことができる。なお、上述したような順序で各成分を添加することに限られず、各成分を同時に添加して撹拌してもよい。
なお、フッ素系溶剤に分散させるフッ素グリースの製造方法についても、特に限定されるものではなく、公知の方法により製造することができる。具体的には、例えば、基油であるパーフルオロポリエーテル油に、固体潤滑剤と、必要に応じて各種の添加剤とを混合した後、100℃〜150℃程度の温度にて混練することによって得ることができる。
フッ素グリースの製造に際しての混練処理や分散処理についても、例えば、3本ロールミル、万能撹拌機、ホモジナイザー、コロイドミル等の周知の撹拌・分散処理装置を用いて行うことができる。
以下に、本発明の具体的な実施例を示してより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
<溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物の作製>
実施例、比較例において、下記表1に示す配合割合にて含有させた溶剤希釈型潤滑剤組成物を作製した。なお、配合量は「質量%」で表され、組成物を構成する成分材料としてはそれぞれ以下のものを用いた。
[成分]
(基油)
パーフルオロポリエーテル油A :デムナムS−65(ダイキン工業株式会社製)
パーフルオロポリエーテル油B :Fomblin M03
(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン社製)
(固体潤滑剤)
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE) :ZONYL TLP 10F−1
(デュポン株式会社製)
窒化ホウ素 :ボロンナイトライド SP−2(デンカ社製)
(分散性向上剤)
分散性向上剤:フロロサーフ FS−1020(フロロテクノロジー社製)
(フッ素系溶剤)
フッ素系溶剤:NOVEC7100(スリーエムジャパン社製)
なお、分散性向上剤である「フロロサーフ FS−1020」は、炭素数8のパーフルオロアルキル基と、アクリル基とを有する化合物であると推測される。
[作製手順]
実施例の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物については、先ず、基油であるパーフルオロポリエーテル油と固体潤滑剤とを混練し、3本ロールミルで分散処理を施して、グリース組成物を作製した。一方で、容器に所定量秤量したフッ素系溶剤をプロペラ撹拌機で撹拌しながら、そこに分散性向上剤を添加して含有させた。次に、分散性向上剤を添加したフッ素系溶剤に、作製したグリース組成物を投入して撹拌混合した。これにより、フッ素系溶剤にフッ素グリースを分散させてなる溶剤希釈型潤滑剤組成物を作製した。
比較例の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物については、先ず、基油であるパーフルオロポリエーテル油と固体潤滑剤とを混練し、3本ロールミルで分散処理を施して、グリース組成物を作製した。次に、容器に所定量秤量したフッ素系溶剤をプロペラ攪拌機で撹拌しながら、そこに作製したグリース組成物を投入して撹拌混合した。これにより、フッ素系溶剤にフッ素グリースを分散させてなる溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を作製した。
<評価>
作製した溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物について、以下の評価を行った。
[沈降性試験]
溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物の沈降性については、以下の手順で沈降性試験を行って評価した。すなわち、容量50mlのスクリュー瓶に溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物を35mlになるよう封入し、60回上下に振とうした後、平面に静置した。底面からの高さを「H」mmとし、時間とともに均一に分散している固体潤滑剤層が沈降をはじめ、1時間後の段階での沈降層の高さを「h」mmとしたときに、次式で算出される沈降割合(%)を求めた。なお、この沈降割合が大きいほど、沈降が抑制されていることを示し、ハンドリング性に優れるといえる。
沈降割合(%)=(H−h)/H×100
[再分散性試験]
溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物の再分散性については、以下の手順で再分散性試験を行って評価した。すなわち、容量50mlのスクリュー瓶に溶剤希釈型フッ素系潤滑剤を35mlになるよう封入し、60回上下に振とうした後、平面に24時間静置した。24時間静置後、ゆっくりと逆さに向けて底面を観察した。このとき、沈降成分が底面に残存している場合には、その残存物がなくなるまで1回ずつ振とうを繰り返した。この底面における残存物がなくなるのに要した振とう回数を測定した。なお、その回数が少ないほど、再分散性に優れているといえる。
[塗布量測定]
溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物の塗布量については、以下のようにして測定した。すなわち、20mm×20mm×2mmのポリエチレン製の樹脂片をフッ素系溶媒で洗浄し、常温で乾燥させた後、十分に振とうした溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物に、ピンセットで樹脂片をつまんでディッピングした。そして、引き上げた後、2回上下に液切りして、常温で乾燥させた。試験前後における樹脂片の重量変化より、塗布量を求めた。
[潤滑性試験]
溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物の潤滑剤については、試験機として株式会社レスカ製のフリクションプレイヤーを用い、下記表1に示す試験条件で、5000回摺動させたときの平均摩擦係数を測定することによって評価した。
(試験条件)
評価試験機 :フリクションプレイヤー
テストピース :上 球(ABS樹脂)、下 板(PC)
ボールオンディスク
荷重 :200gf
摺動形態 :円弧往復運動
回転半径 :25mm
回転速度 :9.5rpm
回転角度 :46度
振幅の幅(弧の長さ) :20mm
摺速 :24.9mm/s
温度 :室温
往復回数 :5000回
<結果>
下記表1に、実施例、比較例における溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物の組成を示すとともに、上述した評価試験の結果をまとめて示す。
Figure 2017115099
表1に示す結果から、分散性向上剤を含有させてなる実施例1〜5の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物では、沈降割合がほぼ100%となり、固体潤滑剤を良好に分散させ、沈降を効果的に抑制することが分かった。また、良好な潤滑性を有することも確認され、良好な潤滑性を奏しながらも、塗布量に関して、比較例の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物よりも低減させることができ、歩留まりが向上した。なお、実施例1〜5の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物において、分散性向上剤の配合量が多くなるに従って、再分散性が低下する傾向となることが分かった。
一方で、分散性向上剤を含有しない比較例1〜3の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物では、沈降割合が低く、固体潤滑剤の沈降を十分に抑制できないことが分かった。

Claims (4)

  1. フッ素グリースが溶剤に分散してなる溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物であって、
    基油であるパーフルオロポリエーテル油と、固体潤滑剤と、分散性向上剤とを含有し、
    前記分散性向上剤は、炭素数1〜10のフッ化アルキル基と、アクリル基とを有する
    溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
  2. 前記分散性向上剤は、前記固体潤滑剤100質量部に対して、1質量部〜100質量部の割合で含有されている
    請求項1に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
  3. 前記固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレンである
    請求項1又は2に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
  4. 前記溶剤は、ハイドロフルオロエーテル又はハイドロフルオロカーボンである
    請求項1乃至3のいずれか1項に記載の溶剤希釈型フッ素系潤滑剤組成物。
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