本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、雄ルアーの抜取り時における血液等の逆流を一層効果的に防止することのできる新規な構造のニードルレスコネクターを提供することにある。
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
本発明の第1の態様は、ハウジングに形成された薬液流路の先端開口部にスリットを設けた弾性弁体が配されており、雄ルアーを挿抜することで該薬液流路の連通と遮断とが切り換えられるニードルレスコネクターにおいて、前記弾性弁体には前記雄ルアーの挿抜によって変形する変形部が形成されており、該変形部が変形により前記ハウジングに当接すると共に、該変形部と該ハウジングとの当接面における該変形部と該ハウジングとの少なくとも一方に粗面領域が設けられていることを特徴とするものである。
本態様に従う構造とされたニードルレスコネクターによれば、変形部とハウジングとの当接面の少なくとも一部における変形部とハウジングとの少なくとも一方に粗面領域が設けられていることから、当接面における変形部とハウジングとの密着による吸着状の張付きが防止されると共に、実質的な当接面積が小さくされて摩擦抵抗の軽減も図られ得る。その結果、雄ルアーの抜取り時において、弾性弁体が元の形状に速やかに復帰し得る。即ち、雄ルアーの挿入時には、雄ルアーを押し込むことで弾性弁体の変形部は強制的に変形させられるが、雄ルアーの抜取り時には、弾性弁体の変形部は復元力のみで元の形状に復帰することから、弾性弁体が変形中にハウジングに張り付いたりして動きが阻害されてしまうと素早く復帰することが困難となり、スリットが安定して閉鎖されず目的とする血液等の逆流防止効果が十分に発揮され難くなるおそれもあるという、新たな課題が本発明者によって見出され得た。そして、本態様によれば、かかる課題を解決して、目的とする速やかな薬液流路の遮断と、薬液や血液等の逆流防止効果の向上とを、何れも安定して達成させることができるのである。
なお、変形部とハウジングとの当接面の少なくとも一部にシリコンオイル等を塗布してハウジングと弾性変形中の弾性弁体との張付きを防止することも考えられるが、本発明のように、当接面の少なくとも一部に粗面領域を設けることにより、シリコンオイルの塗布量を少なくしたり、シリコンオイルの塗布工程を省いたりすることができる。尤も、当接面の少なくとも一部に粗面領域を設けると共に、当接面における粗面領域を設けた部分と同一の部分または異なる部分、或いはその両方にシリコンオイルを塗布して張付防止効果の向上を図ってもよい。また、当接面において、粗面領域が設けられるのは、変形部とハウジングとの何れか一方であってもよいし、それら両方に設けられてもよい。
さらに、粗面領域は、変形部とハウジングとの少なくとも一方に粗面化処理を施すことで構成されてもよいし、如何なる処理も施されない状態で粗面とされていてもよい。上記粗面化処理としては、例えばハウジングの内面、変形部の内面または外面、或いはその何れに対しても、梨子地加工やエッチング加工、ショットブラスト加工等を施すことで粗面にしてもよい。また、ハウジングや弾性弁体が射出成形で形成される場合には、成形キャビティ内面の所定領域に上記各種加工方法等により凸部や凹部を設けると共に、それを転写することで、当該凸部や凹部と対応する凹部や凸部をハウジングや弾性弁体の所望の領域に設けて粗面領域としてもよい。なお、粗面領域における凹凸の形状、大きさ、密度等は何等限定されるものではない。
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係るニードルレスコネクターにおいて、前記ハウジングにおける前記薬液流路の先端開口部側の端面が、中央部分が突出し裾方向に広がって傾斜する突状支持面とされており、該突状支持面に対して前記弾性弁体が重ね合わされて配置されているものである。
本態様に従う構造とされたニードルレスコネクターによれば、ハウジングに突状支持面が設けられて、当該突状支持面に対して弾性弁体が重ね合わされて支持されるようになっている。そして、雄ルアーの挿入時には、弾性弁体が突状支持面に沿って拡開変形されるようになっていることから、弾性弁体が薬液流路側に入り込むことが防止される。また、変形部が突状支持面から離隔するように弾性変形することから、弾性弁体と突状支持面との間の容積が増大する。それ故、雄ルアーを抜き取った際には、変形部が突状支持面に再び重ね合わされて当接するように復元変形することから、広がっていた弾性弁体が閉じる分、および弾性弁体と突状支持面との間の容積分に相当する容積減少量だけ薬液流路に陽圧(正圧)が発生することとなり、血液等の逆流が防止されるようになっている。即ち、かかる構造のニードルレスコネクターは、上述の如き雄ルアー抜取り時における薬液流路容積の増大という問題を解消し得るものであり、優れた血液等の逆流防止効果を発揮し得る。
また、突状支持面と弾性復帰後の弾性弁体とは実質的に全体が密着状態で重ね合わされることが望ましい。これにより、雄ルアーの抜取り後において、突状支持面と弾性弁体とが再び密着状態とされ得ることから、更に大きな陽圧を発生し得る。このことから、突状支持面と弾性弁体との隙間内における血液等の残留が一層防止されると共に、血液等の逆流が更に一層効果的に防止され得る。
本発明の第3の態様は、前記第1又は2の態様に係るニードルレスコネクターにおいて、前記弾性弁体の外周側に変形許容空間が設けられており、該弾性弁体への前記雄ルアーの挿し入れにより該弾性弁体における前記変形部が該変形許容空間内に膨らみ変形するようになっているものである。
本態様に従う構造とされたニードルレスコネクターによれば、雄ルアーの挿入に際して、弾性弁体が変形し得るための変形許容空間を弾性弁体の外周側に設けている。特に、雄ルアーを挿し入れることにより、弾性弁体の変形部が突状支持面から離れて変形許容空間内に膨らむように変形することから、雄ルアーの挿入時において弾性弁体の膨らみ変形に際しての変形抵抗力を小さく抑えると共に、薬液流路の容積を増大させることができる。これにより、雄ルアーの抜取り時には当該薬液流路の容積が減少させられることから、一層確実に陽圧が発生させられて、血液等の逆流防止作用が効果的に発揮され得る。
本発明の第4の態様は、前記第1〜第3の何れかの態様に係るニードルレスコネクターにおいて、前記当接面において、前記弾性弁体への前記雄ルアーの挿抜により前記変形部が前記ハウジングに対して摺動しながら変形するようになっているものである。
本態様に従う構造とされたニードルレスコネクターによれば、弾性弁体へ雄ルアーを挿抜することにより、弾性弁体の変形部がハウジングに対して摺動しつつ変形して、かかる変形部とハウジングとの当接面の少なくとも一部が粗面領域とされている。これにより、当接面における弾性弁体とハウジングとの張付きが効果的に回避されて、雄ルアーの抜取りに伴う弾性弁体の復元変形時にも、弾性弁体がハウジングに対して滑らかに摺動する。この結果、薬液流路の遮断がより確実に実現され得て、血流等の逆流防止効果が一層安定して発揮され得る。
なお、本発明において、粗面領域は弾性弁体における変形部とハウジングとの少なくとも一方に設けられていればよいが、特にハウジングに設けられることが好適である。
すなわち、本発明の第5の態様は、前記第1〜第4の何れかの態様に係るニードルレスコネクターにおいて、前記粗面領域が前記ハウジングに設けられているものである。
本発明の第6の態様は、前記第1〜第5の何れかの態様に係るニードルレスコネクターにおいて、前記粗面領域における最大高さ粗さが10μm〜200μmの範囲内に設定されているものである。
本態様に従う構造とされたニードルレスコネクターによれば、粗面領域における最大高さ粗さが上記範囲内に設定されていることで、変形部とハウジングとの張付きが効果的に防止され得る。なお、粗面領域における最大高さ粗さとは、JIS B 0601:2013の最大高さ粗さRzに従うものであり、基準長さを2.5mmとしている。また、粗面領域上の凹凸が射出成形で形成される場合には、抜き勾配の角度が1°〜10°に設定されることが好適である。抜き勾配が上記数値範囲とされることにより、成形型の脱型が安定して実現されると共に、かかる数値範囲で形成される凹凸により、変形部とハウジングの張付きが効果的に防止され得る。
本発明の第7の態様は、前記第1〜第6の何れかの態様に係るニードルレスコネクターであって、前記ハウジングにおける前記薬液流路の先端開口部の端面が、中央部分が突出し裾方向に広がって傾斜する突状支持面とされており、該突状支持面に対して前記弾性弁体が重ね合わされて配置されていると共に、前記スリットの長さ方向と直交する縦断面において、該弾性弁体の外周側に変形許容空間が設けられていると共に、該突状支持面と該弾性弁体との重ね合わせ面の少なくとも一部における該突状支持面と該弾性弁体との少なくとも一方に前記粗面領域が設けられているものである。
本態様に従う構造とされたニードルレスコネクターによれば、スリットの長さ方向と直交する方向、即ち雄ルアーの挿入の際に弾性弁体が雄ルアーにより最も押し広げられる方向において変形許容空間が設けられていることから、弾性弁体の変形が安定して実現され得る。それに加えて、当該方向における突状支持面と弾性弁体との重ね合わせ面の少なくとも一部において粗面領域が設けられている。即ち、弾性弁体の最も変形量が大きい方向に粗面領域が設けられていることから、弾性弁体と突状支持面との張付防止作用が最も効果的に享受されて、高度な薬液や血液等の逆流防止効果が発揮され得る。
本発明の第8の態様は、前記第7の態様に係るニードルレスコネクターであって、前記スリットの長さ方向と直交する縦断面において、該スリットを挟んだ両側に位置してそれぞれ前記弾性弁体の外周面に開口して設けられた一対の抉れ状部を含んで前記変形許容空間が形成されているものである。
本態様に従う構造とされたニードルレスコネクターによれば、変形許容空間が弾性弁体の外周面に設けられた抉れ状部を含んで形成されていることから、変形許容空間が大きな容積をもって形成され得る。それ故、雄ルアー挿入時に、弾性弁体が突状支持面から離隔して容易に、且つ大きく膨らみ変形することができて、突状支持面と弾性弁体との間に安定して隙間を形成することができる。このことから、雄ルアー抜取り時に、より確実に陽圧が発生して、血液等の逆流防止効果が更に向上され得る。なお、抉れ状部の大きさは何等限定されるものではないが、例えば抉れ状部の最深部が、ハウジングにおける雄ルアーの挿入口よりも内方にまで広がっていることが好ましい。
本発明の第9の態様は、前記第1〜第8の何れかの態様に係るニードルレスコネクターにおいて、前記ハウジングにおける前記薬液流路の先端開口部の端面が、中央部分が突出し裾方向に広がって傾斜する突状支持面とされており、該突状支持面に対して前記弾性弁体が重ね合わされて配置されている一方、該突状支持面には傾斜角度を異ならせる変曲部が形成されていると共に、該変曲部より該先端開口部側における該突状支持面と該弾性弁体との重ね合わせ面の少なくとも一部において、該突状支持面と前記弾性弁体との少なくとも一方に前記粗面領域が設けられているものである。
本態様に従う構造とされたニードルレスコネクターによれば、突状支持面において傾斜角度を異ならせる変曲部が形成されていることから、突状支持面へ重ね合わされる弾性弁体には、変曲部に対応する位置に屈曲部分が形成される。それ故、雄ルアー挿入時において、突状支持面に沿って弾性弁体が変形する際に、かかる屈曲部分が突状支持面から離隔するような変形が発生し易い。従って、このような変曲部よりも先端開口部側の重ね合わせ面において粗面領域が設けられることにより、雄ルアー抜取り時における弾性弁体と突状支持面との張付きが発生しにくく、安定したスリットの閉作動が実現され得る。これにより、薬液や血液等の逆流防止効果が安定して発揮され得る。なお、本発明における変曲部は、突状支持面の断面において、当該突状支持面を構成する曲線または直線の変曲点または交点に相当する。
本発明の第10の態様は、前記第1〜第9の何れかの態様に係るニードルレスコネクターであって、前記弾性弁体において前記雄ルアーが挿入される側の外側端面に対して、弾性を有する第2弁体が重ね合わされていると共に、該第2弁体には第2のスリットが設けられており、該雄ルアーが該弾性弁体の前記スリットと該第2弁体の該第2のスリットとに挿し入れられることで、前記薬液流路と該雄ルアーとが連通するようにされているものである。
本態様に従う構造とされたニードルレスコネクターによれば、第2弁体が弾性弁体の外側端面に設けられており、弾性弁体および第2の弁体の両スリットに対して雄ルアーが挿抜される。特に、弾性弁体のスリットから抜き取られた雄ルアーが第2の弁体のスリットの壁面によりしごかれるようにして第2弁体から抜き取られることから、雄ルアーの先端に付着した薬液や血液等が外部へ漏出するおそれを一層低減させることができる。
本発明に従う構造とされたニードルレスコネクターによれば、雄ルアーの挿抜に伴い弾性弁体が変形してハウジングと当接するようにされており、かかるハウジングと弾性弁体の変形部との当接面の少なくとも一部におけるハウジングと変形部との少なくとも一方に粗面領域が設けられていることから、雄ルアーの抜取り時において、ハウジングと変形部との張付きが抑制される。これにより、弾性弁体のスリットが素早く閉状態となることから、血液等の逆流が効果的に防止され得る。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
先ず、図1,2には、本発明の1実施形態としてのニードルレスコネクター10が示されている。このニードルレスコネクター10は、ハウジング12に対して、弾性弁体としての下部弁14と第2弁体としての上部弁16とが組み込まれた構造とされている。なお、以下の説明中、上下方向とは、薬液流路の延びる方向および雄ルアーの挿抜方向である図1,2中の上下方向を言う。
より詳細には、ハウジング12は分割構造とされており、図1,2中の下方に位置するベースハウジング18と、図1,2中の上方に位置するカバーハウジング20とを含んで構成されている。
ベースハウジング18は、上下方向に延びる筒状部22の外周側に離れて周壁部24が設けられており、これら筒状部22と周壁部24の上端部間が上底部26で一体的に連結されている。また、筒状部22は、周壁部24から下方に突出しており、筒状部22の内部に薬液流路28が形成されている。なお、周壁部24の外周面において、長さ方向(図2中の上下方向)中間部分には、周上で部分的に複数の係合突部30が、外周側に突出して形成されている。かかる係合突部30は、上方の面が、下方になるにつれて突出寸法が大きくなる傾斜面とされていると共に、下方の面が、外周側に垂直に突出する垂直面とされている。一方、周壁部24の内周面にはロック溝32が形成されている。
そして、図示しない血管内留置カテーテル等が、ベースハウジング18の筒状部22の基端開口部に対して接続されるようになっている。本実施形態では、筒状部22と周壁部24とによってロック型のルアー構造が構成されており、カテーテル等が確実に且つ容易に接続可能とされている。
また、ベースハウジング18において、筒状部22と周壁部24を連結する上底部26の上端面には、中央部分から上方に向かって略山形に突出すると共に裾方向に傾斜して広がる突状支持面34が形成されている。この突状支持面34の上端には、軸直角方向の1方向(図2中の左右方向)に平坦に延びる頂部36が形成されている。これにより、本実施形態では、突状支持面34が全体として長山形状とされている。
さらに、筒状部22に形成された薬液流路28には、上方端部において、断面積を縮小されたノズル状の先端開口部38が形成されている。そして、このノズル状の先端開口部38が、突状支持面34において頂部36の中央に開口している。また、頂部36の延びる方向と直交する方向(図1中の左右方向)の突状支持面34には、頂部36を挟んだ両側に、先端開口部38から突状支持面34に沿って裾側下端まで直線状に延びる一対の連通溝40,40が形成されている。
また、頂部36の延びる方向と直交する方向の突状支持面34には、頂部36を挟んだ両側に、一対の湾曲凹部42,42が形成されている。これらの湾曲凹部42,42は、突状支持面34の表面を抉ったように形成されており、外方に凹となる円弧状断面形状をもって頂部36と同方向に延びている。
すなわち、図1にも示されているように、頂部36の延びる方向と直交する方向の縦断面において、突状支持面34は、軸方向上方が内方に凸となる曲線で構成されている一方、軸方向下方が、裾側下端に向かって延びる直線で構成されている。従って、湾曲凹部42,42の下端縁部を挟んで軸方向上方と下方とで突状支持面34の傾斜角度が異ならされている。即ち、本実施形態では、これら湾曲凹部42,42の下端縁部により変曲部44,44が構成されており、当該変曲部44,44を挟んで上方と下方とが外方に凸となるように屈曲して接続されている。なお、湾曲凹部42,42の表面には連通溝40,40は形成されておらず、突状支持面34において、湾曲凹部42,42を外れた傾斜面に連通溝40,40が形成されている。
なお、ベースハウジング18において、上底部26の上面には、突状支持面34の外周側を所定幅で周方向に広がる環状の平坦面46が形成されている。
このようなベースハウジング18と協働してハウジング12を構成するカバーハウジング20は、図1,2に示されているように、全体として段付の円筒形状を有している。即ち、かかるカバーハウジング20は、大径の円筒形状を有するカバー本体48と、小径の円筒形状を有する接続口部50とが、円環板形状の上底部52により一体的に連結されている。なお、カバー本体48には、ベースハウジング18の係合突部30と対応する位置において、係合孔54が厚さ方向で貫通して形成されている。
そして、下方に向かって開口するカバー本体48が、ベースハウジング18の上方から組み付けられて、カバー本体48の下方開口部がベースハウジング18の外周面に嵌め合わされている。なお、カバー本体48とベースハウジング18とは、係合突部30が係合孔54に入り込むことで周方向で位置決めされ得ると共に、係合突部30下端の垂直面と係合孔54の内面が当接することで、ベースハウジング18におけるカバー本体48の下方からの抜けが防止されている。このように、ベースハウジング18とカバーハウジング20は非接着で組み付けられ得るが、必要に応じて、適当な箇所で、溶着や接着等が施されてもよい。
このようにベースハウジング18に対してカバーハウジング20が組み付けられることにより、ベースハウジング18の上方において、カバーハウジング20で周囲を覆われた内部領域が形成されている。また、かかる内部領域は、カバーハウジング20の接続口部50を通じて、上方に開口されている。なお、接続口部50の外周面には、ロック溝56が形成されている。また、カバー本体48および接続口部50の各周壁には、内外に貫通する空気抜き孔58が周上で部分的に1つ、或いは複数(本実施形態では2つずつ)形成されている。
かかるベースハウジング18およびカバーハウジング20は、好適にはポリプロピレン、ポリカーボネート、またはポリエステル系の合成樹脂等の射出成形によって製造される。このポリエステル系の合成樹脂としては、例えばイーストマンケミカル社製「PETG」などが好適に採用される。
そして、上述の如きハウジング12内に形成された内部領域に対して、下部弁14と上部弁16が組み込まれている。なお、これら下部弁14および上部弁16は、弾性を有するゴムやエラストマにより形成される。
下部弁14は、図3,4に示されているように、全体としてオーバル形の外周面をもったブロック形状の弁本体部60を有している。この弁本体部60の上側部分は、全体として略楕円断面を有する柱体状部62とされており、当該柱体状部62には軸直角方向の1方向(図4中の左右方向)に延びるスリット64が上下方向に貫通して形成されている。また、弁本体部60の下側部分はテーパ状に広がる外周面形状をもった拡径部66とされている。
ここにおいて、スリット64と直交する方向(図3中の左右方向)の両方向における弁本体部60の外周面には、外周面に開口して内方に凸となるように抉った一対の抉れ状部68,68が形成されている。これらの抉れ状部68,68は互いに対称的な同一の断面形状とされて、スリット64と同方向に直線的に延びている。そして、スリット64と直交する方向における柱体状部62の外周面が内方に凸となる滑らかな湾曲面で構成されている一方、当該外周面の下端から拡径部66の外周面が延び出している。特に、本実施形態では、抉れ状部68,68の深さ寸法(図3中の左右方向寸法)が最大となる最深部70,70が、ニードルレスコネクター10の製品状態において、接続口部50よりも軸方向視で内方に位置していると共に、弁本体部60の軸方向中央よりも上方に位置している。
要するに、抉れ状部68が上記の如き形状とされることにより、スリット64と直交する方向における弁本体部60の両側外周面は、上下方向の全体に折れ点をもたないで滑らかにつながった略湾曲面形状とされており、かかる湾曲面の下側部分が拡径部66のテーパ面により構成されている。
なお、下部弁14の上下方向両端部には、弁本体部60の上端部および下端部から外周側に延び出す上下フランジ部72,74が一体形成されている。
また、下部弁14は上端面が平坦面とされている一方、下端面には、中央部分に開口する凹所76が形成されている。この凹所76は、前述のベースハウジング18の突状支持面34の外面形状に対応した内面形状とされており、拡径部66から柱体状部62に亘って形成されている。
具体的には、凹所76における開口側の内周面が、突状支持面34の軸方向下方側に対応したテーパ面形状とされている。また、凹所76における上底側の内周面が、突状支持面34の軸方向上方側に対応した形状とされており、突状支持面34の頂部36に対応する谷線を挟んだ両側(図3中の左右方向両側)には、突状支持面34の湾曲凹部42,42に対応した湾曲凸部78,78が形成されている。
そして、下部弁14におけるスリット64が、凹所76の谷線に沿って形成されている。なお、凹所76の内周面には、深さ方向中間部分において、突状支持面34の変曲部44,44に対応した位置で、湾曲凸部78,78の下端縁により構成される変曲部80,80が形成されている。これにより、凹所76の内周面において、変曲部80,80より開口側が直線状に傾斜するテーパ面とされている一方、変曲部80,80より上底側には内方に凸となる湾曲面が設けられている。本実施形態では、かかる変曲部80,80が、弁本体部60において下側部分とされた拡径部66よりも上方に位置している。そして、弁本体部60における拡径部66は、内外周面がテーパ面とされて、薄肉のテーパ筒部として形成されている。
一方、上部弁16は、全体として略円柱形状の弁本体部82を有しており、この弁本体部82の上下方向両端部からは外周側に突出する上下フランジ部84,86が一体形成されている。また、弁本体部82の中央部分には、軸直角方向の1方向(図2中の左右方向)に延びる第2のスリットとしてのスリット88が上下方向に貫通して形成されている。
そして、下部弁14の上端面に上部弁16が重ね合わされた状態で、これら下部弁14および上部弁16が、ハウジング12内に組み込まれている。ここにおいて、下部弁14における凹所76の内面が、ベースハウジング18における突状支持面34の実質的に全面に亘って略密着状態で重ね合わされていると共に、下部弁14のスリット64が突状支持面34の上端に設けられた頂部36に沿って延びる状態で重ね合わされている。即ち、下部弁14の柱体状部62が突状支持面34の頂部36側に重ね合わされている一方、下部弁14の拡径部66が突状支持面34の裾部側に重ね合わされている。また、下部弁14の下側のフランジ部74は、突状支持面34の外周側でベースハウジング18の平坦面46に対して略密着状態で重ね合わされている。
また、下部弁14の上側のフランジ部72には、上部弁16の下側のフランジ部86が重ね合わされており、略同じ外径寸法とされた両フランジ部72,86が、カバーハウジング20の上底部52の下面に重ね合わされている。
さらに、ハウジング12には、略円筒形状の押さえスリーブ90が組み込まれており、下部弁14の弁本体部60に外挿状態で配されている。この押さえスリーブ90は、下部弁14における上下のフランジ部72,74間に組み付けられており、押さえスリーブ90の軸方向下端面により、下部弁14の下側フランジ部74の外周部分が、ベースハウジング18の平坦面46に押し付けられてシール固定されている。また、押さえスリーブ90の軸方向上端面により、互いに重ね合わされた下部弁14の上側フランジ部72と上部弁16の下側フランジ部86との各外周部分が、カバーハウジング20の上底部52に押し付けられてシール固定されている。これにより、押さえスリーブ90がハウジング12内で軸方向に位置決めされると共に、カバーハウジング20に対するベースハウジング18の軸方向位置が規定される。
なお、かかる押さえスリーブ90の上下両端部では、径方向幅寸法(図1中の左右方向寸法)が大きくされて外周側に突出しており、これら突出面が、カバーハウジング20のカバー本体48の内周面に当接している。これにより、押さえスリーブ90による下部弁14の上下フランジ部72,74におけるシール固定力を大きくすることができると共に、径方向においても押さえスリーブ90がハウジング12内に位置決めされ得る。
また、押さえスリーブ90の軸方向略中央部分には、周壁を厚さ方向に貫通する貫通孔92が周上で1つ、或いは複数(本実施形態では2つ)形成されている。
そして、弁本体部60の外周側には、当該弁本体部60の外周側への弾性変形を許容する変形許容空間94が、周方向の全周に亘って形成されている。特に、押さえスリーブ90が弁本体部60の外周面から外方に離隔されており、これら押さえスリーブ90と弁本体部60との間、即ち、下部弁14の上下一対のフランジ部72,74の対向面間に変形許容空間94が形成されている。なお、本実施形態では、弁本体部60の外周面に、内方に凸となる抉れ状部68,68が形成されており、変形許容空間94と連通されて一体的に形成されている。換言すれば、弁本体部60の外周側において全周に亘って形成される変形許容空間94が、一対の抉れ状部68,68を含んで構成されている。また、押さえスリーブ90とカバーハウジング20のカバー本体48との間には間隙96が形成されており、押さえスリーブ90の貫通孔92,92と間隙96、カバー本体48の空気抜き孔58,58によって、変形許容空間94を外部空間に連通する空間連通路が形成されている。これにより、下部弁14の弾性変形時に、変形許容空間94内の空気ばねの作用により下部弁14の変形が阻害されるおそれが低減されている。
さらに、上部弁16のスリット88と直交する方向(図1中の左右方向)において、弁本体部82と接続口部50との間には隙間が形成されており、かかる隙間により、弁本体部82の弾性変形を許容する変形許容空間98が形成されている。かかる変形許容空間98は、接続口部50に形成された空気抜き孔58,58により外部空間に連通されている。これにより、上部弁16の弾性変形時に、変形許容空間98内の空気ばねの作用により上部弁16の変形が阻害されるおそれが低減されている。
そして、かかる上部弁16、下部弁14、押さえスリーブ90がハウジング12内に組み付けられることにより、本実施形態のニードルレスコネクター10が構成されている。かかる組付けは、例えばカバーハウジング20に対して、上部弁16、押さえスリーブ90を組み付けた下部弁14、およびベースハウジング18をカバーハウジング20の下方開口部から順次挿入すると共に、カバーハウジング20の係止孔54に対してベースハウジング18の係止突部30を嵌め入れて、適宜接着や溶着を行うことで実現され得る。かかるニードルレスコネクター10では、上部弁16と下部弁14とが、周方向で位置合わせされており、それぞれのスリット88,64が同一の方向に延びるようにされている。なお、これらのスリット88,64は、後述する雄ルアー102の挿入前は密着状態にあり、開口していない。
ここで、突状支持面34の外面と下部弁14における凹所76の内面との重ね合わせ面において、当該重ね合わせ面の少なくとも一部における突状支持面34と下部弁14との少なくとも一方が粗面領域とされている。本実施形態では、突状支持面34における変曲部44,44よりも上方、即ちスリット64の長さ方向と直交する方向において突状支持面34に形成される湾曲凹部42,42表面が粗面領域とされている。即ち、初期状態では、粗面領域とされる突状支持部34上の湾曲凹部42,42の表面と、下部弁14の凹所76上に形成された湾曲凸部78,78の内表面とが略密着状態で重ね合わされている。
なお、かかる領域を粗面とする手段は何等限定されるものではないが、本実施形態では、サンドブラスト加工により粗面領域が形成されている。即ち、前述の合成樹脂等を用いて射出形成する際に、予め成形キャビティの内面に砂状の粒体を吹き付ける等のブラスト加工を施しておき、かかる成形キャビティを用いて成形することにより、加工物(ワーク)に粒体の凹凸が転写されて、目的の領域が粗面化されたベースハウジング18を得ることができる。
また、粗面領域における凹凸の大きさ、密度等は何等限定されるものではないが、粗面領域の凹凸の大きさは、JIS B 0601:2013に規定された最大高さ粗さRzが、基準長さを2.5mmとして、10μm〜200μmの範囲内であることが好ましい。粗面領域における凹凸の大きさが上記範囲内とされることにより、スリット64の開閉作動が引っ掛かることなく実現されると共に、後述するスリット64の弾性復帰中における下部弁14と突状支持面34との張付防止効果が安定して発揮され得る。
さらに、粗面領域における凹凸の形状は何等限定されるものではないが、例えば粗面領域が射出形成にて形成される場合には、粗面領域における凹凸の抜き勾配は、1°〜10°の範囲内であることが好ましい。凹凸の抜き勾配が上記範囲内とされることにより、射出形成の際の脱型が安定して実現されると共に、製品および金型の形状を簡単なものとすることができる。
上述の如き構造とされたニードルレスコネクター10は、前述のように薬液流路28の他端側の開口部に対して図示しない血管内留置カテーテル等が接続されて使用される。そして、かかる使用状態下、図5,6に示されているように、上方から、シリンジ100等の雄ルアー102がハウジング12の接続口部50を通じて上部弁16のスリット88に挿し入れられると共に、下部弁14の上面に押し付けられることにより、それぞれのスリット88,64が拡開されて、雄ルアー102を通じてシリンジ100の内部が薬液流路28に連通状態とされる。また、使用後には、雄ルアー102が上部弁16および下部弁14から抜去されることにより、それぞれのスリット88,64が閉鎖されて、薬液流路28が遮断状態とされる。即ち、上下弁16,14に雄ルアー102を挿抜することにより、薬液流路28の連通と遮断が切り換えられるようになっている。
なお、図5,6に示されたシリンジ100の雄ルアー102は、雄型のルアーロック構造とされており、ハウジング12の接続口部50に対する接続状態が確実に、且つ容易に維持されるようになっている。尤も、この雄ルアー102は、ネジで固定するルアーロック構造だけでなく、挿し込んで固定するルアースリップ構造であっても良い。
ここにおいて、ニードルレスコネクター10に雄ルアー102を挿し入れた際には、雄ルアー102の押込力が下部弁14にまで及ぼされて、下部弁14の弁本体部60が下方に押し下げられる。この押し下げに伴い、下部弁14の弁本体部60は、略密着状態とされた突状支持面34に沿ってスリット64の両側に押し広げられるように弾性変形することとなる。即ち、本実施形態では、下部弁14の弁本体部60が、雄ルアー102の挿入に伴い、実質的に変形する変形部とされている。従って、変形部の内面が、湾曲凸部78,78の内表面や拡径部66の内周面を含んで構成されている一方、変形部の外面が、括れ状部68,68の表面や拡径部66の外周面を含んで構成されている。そして、かかる下部弁14に雄ルアー102を挿入することにより、拡開変形したスリット64と突状支持面34との間に隙間104が形成される。
特に、スリット64の延びる方向と直交する方向には、突状支持面34に湾曲凹部42,42が形成されている一方、下部弁14における内面の湾曲凹部42,42に対応する位置には湾曲凸部78,78が形成されており、雄ルアー102を挿入することにより湾曲凸部78,78が湾曲凹部42,42表面に沿って外周側へ摺動変形する。一方、弁本体部60の下側部分とされた拡径部66は薄肉のテーパ筒形状とされていることから、上方からの雄ルアー102の挿入により外周側へ変形し易く、スリット64の延びる方向と直交する方向において拡径部66が突状支持面34から容易に離れて膨らむようになっている。更に、柱体状部62と突状支持面34との間に形成される間隙と、拡径部66と突状支持面34との間に形成される間隙とは、例えば連通溝40,40を通じて連通され得て、これにより、下部弁14と突状支持面34との間に一層大きな隙間104を形成することができる。
かかる状態のニードルレスコネクター10から雄ルアー102を抜去することにより、下部弁14が図1,2等に示される状態へ復元変形して、薬液流路28が遮断される。その際、湾曲凹部42,42に対して湾曲凸部78,78が摺動しつつ変形するようになっている。そして、図1,2等に示される雄ルアー102の抜去状態(非挿入状態)では、突状支持面34の表面と下部弁14における凹所76の内面とが再び相互に重ね合わせられるようになっている。即ち、これら両面が、雄ルアー102の抜去に伴う変形部(弁本体部60)の復元変形により、相互に当接する当接面とされている。
この結果、雄ルアー102の抜き取りに際して薬液流路28に一層大きな陽圧(正圧)が発生して、血液等の逆流防止効果が更に安定して発揮され得る。即ち、雄ルアー102を抜き取った際に、広がっていたスリット64が閉じる分に相当する容積減少に加えて、下部弁14と突状支持面34との間に発生していた隙間104が消失することに伴う容積減少が発生することで、雄ルアー102の抜き取りに伴う陰圧の発生が完全に防止されて、血液等の逆流防止効果が安定して発揮されるのである。
特に、本実施形態のニードルレスコネクター10では、突状支持面34と下部弁14との当接面(重ね合わせ面)において、湾曲凹部42,42の表面が粗面領域とされていることから、雄ルアー102の抜取り時において、下部弁14の弾性復帰中に突状支持面34表面と下部弁14とが張り付いてスリット64の閉作動に不具合が発生するおそれが低減されている。これにより、薬液流路28における先端開口部38を速やかに遮断することができて、血液等の逆流防止効果が安定して発揮され得る。更に、下部弁14の弾性復元変形時には、湾曲凹部42,42と湾曲凸部78,78が摺動しつつ変形することから、湾曲凹部42,42に粗面領域を設けることにより、湾曲凹部42,42と湾曲凸部78,78とが滑らかに摺動して、これらの張付きが一層効果的に防止され得る。
また、下部弁14のスリット64と直交する方向、即ちスリット64へ雄ルアー102を挿入した際に、下部弁14が最も押し広げられて弾性変形する方向において粗面領域が形成されていることから、突状支持面34と下部弁14との張付防止作用が効果的に享受され得る。
さらに、突状支持面34上に変曲部44,44が形成されていることから、下部弁14が弾性変形する際には当該変曲部44,44から離れるように変形が生じ易い。そして、かかる変曲部44,44の上方に粗面領域が設けられていることから、下部弁14が大きく変形する位置に粗面領域が形成されており、突状支持面34と下部弁14との張付防止作用がより効果的に発揮され得る。
特に、本実施形態では、凹状断面の湾曲凹部42が設けられていることにより、雄ルアー102の下部弁14への押込時に、押込方向に対する傾斜角度が大きくなる湾曲凹部42の下部付近で下部弁14の強い密着力や大きな摩擦抵抗が発生し易い。一方、雄ルアー102のスリット64からの抜去時には、下部弁14の径方向復元力に対する傾斜角度が大きくなる湾曲凹部42の上部付近で強い密着力や大きな摩擦抵抗が発生し易い。ここにおいて、本実施形態では、かかる湾曲凹部42の下部付近と上部付近を含む広い領域において下部弁14との当接面(重ね合わせ面)に粗面領域が形成されていることから、雄ルアー102の下部弁14への押込時における押込抵抗力の軽減と、雄ルアー102の抜去時における下部弁14の弾性復元作用の向上とが、何れも一層効果的に達成され得るのである。
更にまた、下部弁14の上方には上部弁16が設けられていることから、血液等の逆流防止効果が更に確実に発揮され得る。特に、雄ルアー102の先端に付着した血液等が、上部弁16のスリット88内壁により拭い取られることから、ニードルレスコネクター10からの血液等の漏出が一層効果的に防止され得る。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良などを加えた態様で実施可能である。
例えば、前記実施形態では、下部弁14に加えて上部弁16が設けられていたが、上部弁の形状は何等限定されるものではなく、また、上部弁は必須なものではない。上部弁を設けない場合には、前記実施形態に記載の下部弁14のみが設けられてもよいし、前記実施形態に記載の下部弁14と上部弁16を合わせた形状の弾性弁体が採用されてもよい。
また、前記実施形態では、下部弁14と突状支持面34との当接面(重ね合わせ面)において、突状支持面34上の湾曲凹部42,42表面が粗面領域とされていたが、かかる態様に限定されない。即ち、例えば突状支持面34の全面に亘って粗面領域とされてもよいし、下部弁14上における湾曲凸部78,78の内表面が粗面領域とされたり、下部弁14における凹所76の内面が全面に亘って粗面領域とされてもよい。更に、下部弁14と突状支持面34との両方に粗面領域が設けられてもよく、例えば突状支持面34には全面に亘って粗面領域が設けられる一方、下部弁14には湾曲凸部78,78の表面のみに粗面領域が設けられる等、突状支持面34の粗面領域と下部弁14の粗面領域とは異なる箇所に設けられてもよい。
さらに、前記実施形態ではサンドブラスト加工により湾曲凹部42,42表面を粗面として形成していたが、かかる態様に限定されない。即ち、例えばベースハウジング18や下部弁14が射出成形にて形成される場合には、ショットブラスト加工、梨子地加工、エッチング加工、プレス加工またはレーザー加工等により射出成型の金型に凹凸を形成して、それを転写させることで粗面領域を形成するようにしてもよい。或いは、ベースハウジング18や下部弁14が射出成形、または射出成形以外で形成される場合には、突状支持面34の表面や下部弁14の内表面に、ショットブラスト加工、梨子地加工、エッチング加工、プレス加工またはレーザー加工等により粗面領域を形成するようにしてもよい。また、これらの加工手段を複数組み合わせて採用して、粗面領域を形成してもよい。尤も、上記の如き粗面化処理は必須なものではなく、例えば特別な処理を施さない状態で粗面領域を有する材質等を用いて、ベースハウジング18や下部弁14を形成してもよい。
また、粗面領域における凹凸の大きさ、形状、密度等は何等限定されるものではない。かかる粗面領域は、円や多角形の錐体または柱体、ドーム状の半球体等の独立した凹凸が複数形成されたものや、直線や湾曲、屈曲等した線条の凹凸や、線が部分的に相互交差したメッシュ状の凹凸等の連続した凹凸からなるもの、またはこれらの混合から構成されてもよい。
更にまた、前記実施形態において、ハウジング12や押さえスリーブ90に設けられていた空気抜き孔58や貫通孔92は必須なものではない。特に、カバーハウジング20の空気抜き孔58や押さえスリーブ90の貫通孔92を設けないことにより、雄ルアー102の挿入時に変形許容空間94内の空気が圧縮されることから、空気ばねの作用で下部弁14の弾性復元が更に効率的に達成され得る。
さらに、前記実施形態では、突状支持面34は、全体として長山形状とされていたが、かかる形状に限定されない。即ち、例えば、突状支持面は、ニードルレスコネクターの中心軸回りで回転対称な形状とされてもよい。尤も、本発明において、突状支持面は必須なものではない。
更にまた、突状支持面に形成される湾曲凹部の形状や大きさ、数、形成位置等は何等限定されるものではない。また、突状支持面上の変曲部の形状や大きさ、数、形成位置等は何等限定されるものではない。なお、前記実施形態では、湾曲凹部42,42の下端縁部が変曲部44,44とされていたが、湾曲凹部42,42の上端縁部が変曲部とされてもよいし、上端縁部と下端縁部の両方を変曲部としてもよい。尤も、本発明において、湾曲凹部および変曲部は必須なものではなく、突状支持面は頂部から裾部に亘って直線状の傾斜面で構成されていてもよいし、突状支持面上には凸部等が形成されてもよい。
更にまた、前記実施形態では、変形許容空間94は弁本体部60の外周側において周方向の全周に亘って延びて形成されていたが、その必要はない。即ち、図7に示されるニードルレスコネクター106のように、弾性弁体としての下部弁108の内部に変形許容空間110が設けられてもよく、本態様においても、突状支持面34と下部弁108との重ね合わせ面の少なくとも一部、例えば湾曲凹部42,42の表面が粗面領域とされることにより、突状支持面34と下部弁108との張付防止効果が発揮され得る。本態様では、変形許容空間110は密閉構造とされているため、圧縮された空気による空気ばねの効果が十分に発揮されて、雄ルアー102の抜取りに伴う下部弁108の復元時において、下部弁108の弾性復元力だけでなく、空気ばねの作用も得ることができる。尤も、本態様においても、変形許容空間110を外部空間に連通する空間連通路が設けられてもよい。なお、かかる変形許容空間110は、周方向に連続している必要はなく、周方向で独立した、または相互に接続された複数の変形許容空間を設けてもよい。
また、図8に示されるニードルレスコネクター112のように、前記実施形態に記載のニードルレスコネクター10の変形許容空間94が、ポリウレタン等のスポンジ状の連続気泡を有する合成発泡体114で充填されていてもよい。かかる合成発泡体114は、内部に連続気泡からなる実質的な空間を有しており、下部弁14の形状に合わせて弾性変形可能とされている。本態様においても、突状支持面34と下部弁14との重ね合わせ面の少なくとも一部、例えば湾曲凹部42,42の表面が粗面領域とされることにより、突状支持面34と下部弁14との張付防止効果が発揮され得る。即ち、本発明においては、変形許容空間として所定容積の空間を下部弁の外周側に設ける必要はなく、図7に示す態様のように変形許容空間を下部弁の内部に設けたり、図8に示す態様のように下部弁の外周側に実質的に内部に空間を有する弾性部材を設けてもよい。
なお、下部弁14と突状支持面34とは、前記実施形態のように、実質的に全面に亘って略密着状態で重ね合わされることが望ましい。これにより、雄ルアーを抜き取って弾性弁体が元の形状へ復元した後に、突状支持面と弾性弁体とが再び密着状態で重ね合わされることで更に大きな陽圧を発生し得る。この結果、突状支持面と弾性弁体との間に形成される隙間において血液等の残留が一層防止されると共に、血液等の逆流が更に効果的に防止され得る。
また、前記実施形態では、スリット64の延びる方向と直交する方向において、雄ルアー102の挿入の際に、拡径部66が突状支持面34から離れて膨らんでいたが、かかる態様に限定されない。即ち、例えばスリット64の延びる方向と同方向において、拡径部66が突状支持面34から離れて膨らんでもよいし、拡径部66より上方の柱体状部62が突状支持面34から離れて膨らむようにしてもよい。
なお、弾性弁体の形状は前記実施形態に記載のものに限定されない。例えば、特許第4469802号公報(特許文献2)に記載の弾性弁体の如き形状であってもよい。即ち、この弾性弁体においては、特許文献2の図3に示されているように、雄ルアーの挿入に伴い蛇腹状とされた圧縮性部分(特許文献2における図2,3中の48)が軸方向で圧縮変形させられると共に、軸直角方向で膨出変形させられる。従って、かかる圧縮性部分(48)が雄ルアーの挿入に伴い変形する変形部とされている。また、この変形部(48)は、軸直角方向に膨出変形して、ハウジング(14)の支持管(29)の外周面やボア(33)の内周面に当接することから、弾性弁体がかかる形状とされる場合にはこれらの当接面に粗面領域が設けられてもよい。即ち、かかる当接面に粗面領域が設けられることにより、雄ルアーの挿入に伴って変形部(48)が変形してハウジング(14)に当接する際にも、当該雄ルアーの抜去に伴う変形部(48)とハウジング(14)との張付きが効果的に低減又は回避されることから、スリットの閉鎖が速やかに実現され得る。
特に、上記特許文献2の図2,3に記載の弾性弁体では、雄ルアーの抜取り時には、蛇腹状とされた圧縮性部分(48)の山部がハウジング(14)に対して摺動しつつ復元変形することから、変形部(48)とハウジング(14)との当接面に粗面領域を設けることにより、これらの張付きがより効果的に防止されて、血液等の逆流防止効果が一層安定して享受され得る。また、雄ルアーの挿入時においても、圧縮性部分(48)の山部とハウジング(14)との張付きが防止されることから、挿入抵抗の低減も図られ得る。
なお、本発明に係る弾性弁体の変形部は、雄ルアーの挿抜に伴う変形時においてハウジングと当接すればよく、例えば初期状態(雄ルアーの非挿入状態)では、弾性弁体の変形部とハウジングは当接していなくてもよい。即ち、上記特許文献2の図2において、圧縮性部分(48)の内面や外面はハウジング(14)と当接していなくてもよい。
また、前記実施形態において、図5,6中では、雄ルアー102の挿入に伴い下部弁14の変形部(弁本体部60)が、外周側に位置する押さえスリーブ90と当接しない程度に膨らみ変形しているが、変形部と押さえスリーブが当接する場合には、変形部と突状支持面との当接面(重ね合わせ面)に代えて、または加えて、変形部と押さえスリーブとの当接面(重ね合わせ面)に粗面領域が設けられてもよい。