本発明の環状ハロシラン化合物について説明する。本発明の環状ハロシラン化合物は、ハロゲン化炭化水素化合物の含有量が2質量%以下であるところに特徴を有する。環状ハロシラン化合物にハロゲン化炭化水素化合物が多く含まれていると、環状ハロシラン化合物から環状水素化シランや環状有機シラン化合物の環状シラン化合物を合成する際に発熱反応を起こして、環状シラン化合物の合成の際の温度制御が難しくなる。しかし、環状ハロシラン化合物中のハロゲン化炭化水素化合物の含有量を2質量%以下とすることにより、環状ハロシラン化合物から環状シラン化合物を合成する際に、当該合成反応の際の温度制御が容易になり、合成を安定して行いやすくなる。その結果、環状シラン化合物を高収率で得ることが可能となり、製造バッチ間のばらつきを小さくすることも可能となる。また、環状ハロシラン化合物の保管時などに発熱反応が起こりにくくなり、環状ハロシラン化合物を取り扱う際の安全性も確保することができる。
ハロゲン化炭化水素化合物は、不純物として環状ハロシラン化合物に含まれる。従って、本発明の環状ハロシラン化合物は、ハロゲン化炭化水素化合物等の不純物が含まれ得る環状ハロシラン化合物含有組成物と見ることができる。本発明の環状ハロシラン化合物は、環状ハロシラン化合物自体を主成分として含有しており、好ましくは、環状ハロシラン化合物の含有量(すなわち純度)が80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。
本発明において、ハロゲン化炭化水素化合物とは、環状ハロシラン化合物の発熱性への影響が特に強いことから、炭素数1〜3のハロゲン化炭化水素化合物を意味するが、本発明の効果をより顕著なものとするためには炭素数1〜6のハロゲン化炭化水素化合物を意味することが好ましく、炭化水素化合物の少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された化合物を意味することがより好ましい。ハロゲン化炭化水素化合物としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等が挙げられる。ハロゲン化炭化水素化合物は、例えば、環状ハロシラン化合物の製造の際に、反応溶媒として用いたハロゲン化炭化水素化合物に由来して環状ハロシラン化合物に含まれたり、反応原料や反応触媒およびそれらに含まれる不純物に由来して環状ハロシラン化合物に含まれることが想定される。
環状ハロシラン化合物中のハロゲン化炭化水素化合物の含有量は2質量%以下であることが好ましいが、ハロゲン化炭化水素化合物由来の発熱を抑える点から、当該含有量は1.5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。一方、環状ハロシラン化合物中のハロゲン化炭化水素化合物の含有量の下限は低ければ低いほど好ましいが、ハロゲン化炭化水素化合物は環状シラン化合物の合成に影響を与えない程度含まれていても問題なく、完全なハロゲン化炭化水素化合物の除去は環状ハロシラン化合物の製造効率の低下を招くおそれがある。従って、実用上、環状ハロシラン化合物中のハロゲン化炭化水素化合物の含有量は、例えば0.01質量%以上であればよい。
環状ハロシラン化合物は、アミン塩の含有量が2質量%以下であることも好ましい。アミン塩は、環状ハロシラン化合物の反応原料として用いられる場合があるが、アミン塩も、環状ハロシラン化合物から環状シラン化合物を合成する際に発熱反応を起こすおそれがある。従って、環状ハロシラン化合物中のアミン塩の含有量を2質量%以下とすることで、環状ハロシラン化合物から環状シラン化合物を合成する際の温度制御がさらに容易になる。環状ハロシラン化合物中のアミン塩の含有量は、より好ましくは1.5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。一方、環状ハロシラン化合物中のアミン塩の含有量の下限は、実用上、例えば0.01質量%以上であればよい。なお本発明において、アミン塩とは、環状ハロシラン化合物の発熱性への影響が特に強いことから、炭素数3〜12のアミン塩を意味することが好ましく、炭素数3〜8のアミン塩を意味することがより好ましい。
前記アミン塩は、環状ハロシラン化合物と塩形成しているものは除く。なお、環状ハロシラン化合物に通常含まれ得るアミン塩としては、アミンハロゲン酸塩(特にアミン塩酸塩)が代表的に挙げられることから、前記アミン塩としてアミンハロゲン酸塩を代用してもよく、この場合、環状ハロシラン化合物は、アミンハロゲン酸塩の含有量が2質量%以下となることが好ましい。
環状ハロシラン化合物中のハロゲン化炭化水素化合物やアミン塩の含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定する。測定方法の詳細は実施例に記載する。
本発明の環状ハロシラン化合物は、示差走査熱量測定による総発熱量が100J/g以下であるものであってもよい。環状ハロシラン化合物の総発熱量が100J/g以下であれば、環状ハロシラン化合物から環状シラン化合物を合成する際に、当該合成反応の際の温度制御が容易になり、合成を安定して行いやすくなる。その結果、環状シラン化合物を高収率で得ることが可能となり、製造バッチ間のばらつきを小さくすることも可能となる。環状ハロシラン化合物の総発熱量は、好ましくは50J/g以下であり、より好ましくは30J/g以下である。示差走査熱量測定による総発熱量は、窒素雰囲気下、25℃〜250℃の温度範囲で10℃/分の昇温条件にて測定を行ったときの値を用いる。
環状ハロシラン化合物は、ケイ素原子が連なって単素環を形成し、当該単素環を構成する少なくとも1つのケイ素原子にハロゲン原子が結合した構造(環状ハロシラン構造)を有する化合物が好ましい。単素環を構成するケイ素原子の数は特に限定されないが、例えば、4以上が好ましく、5以上がより好ましく、また8以下が好ましく、7以下がより好ましい。環状ハロシラン化合物は、単素環を構成しないケイ素原子を含むものであってもよく、例えば、単素環を構成するケイ素原子に、ケイ素原子を含む置換基(例えばシリル基)が結合していてもよい。ケイ素原子から形成された単素環には、少なくとも1つのハロゲン原子が結合していればよく、好ましくは、単素環を構成するケイ素原子のそれぞれにハロゲン原子が1つまたは2つ(好ましくは2つ)結合している。
環状ハロシラン化合物は錯体であってもよく、これにより環状ハロシラン化合物の安定性を高めることができる。環状ハロシラン化合物の錯体は、中性錯体であってもよく、アニオン性錯体であってもよい。後者の場合、環状ハロシラン化合物のアニオン性錯体は対カチオンと塩を形成していることが好ましい。
環状ハロシラン化合物は、例えば、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
上記式(1)において、X1とX2はそれぞれ独立してハロゲン原子を表し、R1とR2はそれぞれ独立して水素原子または有機基を表し、Lは中性またはアニオン性の配位子を表し、pは配位子Lの価数として−2〜0の整数を表し、KはLがアニオン性の配位子の場合の対カチオンを表し、qは対カチオンKの価数として0〜2の整数を表し、nは0〜4の整数を表し、aは1〜2n+8の整数、bは0〜2n+7の整数、cは0〜2n+7の整数(ただし、a+b+c=2n+8)を表し、dは0〜3の整数、eは0〜3の整数(ただし、d+e=3)を表し、mは0〜2であり、sは1以上の整数を表し、tは0以上の整数を表す。
式(1)中、nは単素環を構成するケイ素原子の数を定め、その値は0〜4であり、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1または2がさらに好ましい。
式(1)中、X1は環を構成するケイ素原子に結合するハロゲン原子を表し、X2は環を構成するケイ素原子に結合したシリル基のハロゲン原子を表す。X1とX2のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子が挙げられ、好ましくは塩素原子、臭素原子であり、より好ましくは塩素原子である。X1が複数ある場合は、複数のX1は同一であっても異なっていてもよい。X2が複数ある場合は、複数のX2は同一であっても異なっていてもよい。
式(1)中、R1は環を構成するケイ素原子に結合する水素原子または有機基を表し、R2は環を構成するケイ素原子に結合したシリル基の水素原子または有機基を表す。なお、R2の有機基はシリル基であってもよいが、R1の有機基にはシリル基は含まれない。R1とR2の有機基としては、アルキル基またはアリール基が好ましい。R1とR2の有機基としては、例えば、炭素数が1〜10(好ましくは炭素数が1〜8、より好ましくは炭素数が1〜6)のアルキル基や炭素数が6〜18(好ましくは炭素数が6〜12、より好ましくは炭素数が6〜10)のアリール基が示され、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−プロピル基、tert−ブチル基、n−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。R1が複数ある場合は、複数のR1は同一であっても異なっていてもよい。R2が複数ある場合は、複数のR2は同一であっても異なっていてもよい。なお、R1とR2としては、水素原子が特に好ましい。
式(1)中、aは環を構成するケイ素原子に結合するハロゲン原子の数を表し、bは環を構成するケイ素原子に結合する水素原子と有機基の数を表し、cは環を構成するケイ素原子に結合するシリル基の数を表す。また、dは環を構成するケイ素原子に結合したシリル基のハロゲン原子の数を表し、eは環を構成するケイ素原子に結合したシリル基の水素原子と有機基の合計の数を表す。cが2以上のとき、環を構成するケイ素原子に結合した複数のシリル基は同一であっても異なっていてもよい。aは1〜2n+8の整数、bは0〜2n+7の整数、cは0〜2n+7の整数(ただし、a+b+c=2n+8)を表すが、aはn+4〜2n+8の整数で、bとcは0〜n+4の整数であることが好ましく、aはn+8〜2n+8の整数で、bとcは0〜nの整数であることがより好ましく、aが2n+8であり、bとcが0であることが特に好ましい。
式(1)中、Lは環を構成するケイ素原子に配位した中性またはアニオン性の配位子を表し、pは配位子の価数(−2〜0の整数)を表し、mは配位子の数(0〜2)を表す。中性の配位子としては、アンモニア、一酸化炭素、ホスフィン類(例えば、トリフェニルホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン)、ホスフィンオキシド類(例えば、トリフェニルホスフィンオキシド)、スルフィド類(例えば、ジメチルスルフィド)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル)、ニトリル類(例えば、p−メチルベンゾニトリル)、複素環化合物(例えば、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロフラン)等が挙げられる。アニオン性の配位子としては、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、シアン化物イオン等が挙げられる。
式(1)中、Kは、Lがアニオン性の配位子の場合の対カチオンを表し、qは対カチオンKの価数(0〜2の整数)を表す。Lが中性の配位子の場合は、対カチオンKは含まれず、sが1でtが0となる。Lがアニオン性の配位子の場合は、配位子Lの価数と数および対カチオンKの価数に応じて、sとtの値がそれぞれ定められる。対カチオンKとしては、オニウム類(例えば、ホスホニウムイオンやアンモニウムイオン)、ポリアミン・SiH2Cl+(例えば、ペデタ・SiH2Cl+、テエダ・SiH2Cl+)等が挙げられる。
上記式(1)で表される環状ハロシラン化合物としては、具体的には、テトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオン錯体([Si6Cl14 2-])の塩、テトラデカブロモシクロヘキサシラン・ジアニオン錯体([Si6Br14 2-])の塩、ドデカクロロシクロヘキサシラン・ビストリフェニルホスフィン錯体、ドデカブロモシクロヘキサシラン・ビストリフェニルホスフィン錯体等が挙げられる。
本発明の環状ハロシラン化合物は、環状ハロシラン化合物の粗製品を非ハロゲン系溶媒で洗浄することにより得ることができる。環状ハロシラン化合物に付随して含まれるハロゲン化炭化水素化合物は、比較的沸点の低いものであっても揮発除去することは難しく、例えば、ハロゲン化炭化水素化合物を含む環状ハロシラン化合物、すなわち環状ハロシラン化合物の粗製品を減圧乾燥させても、環状ハロシラン化合物からハロゲン化炭化水素化合物を分離することは難しい。しかしながら、環状ハロシラン化合物の粗製品を非ハロゲン系溶媒で洗浄することにより、環状ハロシラン化合物からハロゲン化炭化水素化合物を分離して、環状ハロシラン化合物中のハロゲン化炭化水素化合物の含有量を下げることができる。
従って、本発明は、環状ハロシラン化合物の粗製品を非ハロゲン系溶媒で洗浄する洗浄工程を有する環状ハロシラン化合物の製造方法も提供する。本発明の環状ハロシラン化合物の製造方法によれば、ハロゲン化炭化水素化合物の含有量の少ない(例えば2質量%以下)の環状ハロシラン化合物を得ることができる。
環状ハロシラン化合物の粗製品は、環状ハロシラン化合物を含有し、さらに不純物としてハロゲン化炭化水素化合物を含有するものであれば特に限定されず、例えば、未精製の環状ハロシラン化合物や、環状ハロシラン化合物の合成の際に得られる環状ハロシラン化合物を含有する液状物や固形物を用いることができる。具体的には、環状ハロシラン化合物を合成した反応液、環状ハロシラン化合物が溶解している溶液、環状ハロシラン化合物が分散している分散液、前記反応液、溶液、分散液から揮発成分を留去した濃縮物、前記分散液を固液分離することにより得られた固体成分(固形物)および液体成分(液状物)等が挙げられる。従って、本発明の環状ハロシラン化合物の製造方法は、環状ハロシラン化合物を合成し、環状ハロシラン化合物の粗製品を得る調製工程を有し、調製工程で得られた環状ハロシラン化合物の粗製品を非ハロゲン系溶媒で洗浄するものであってもよい。調製工程については、下記に詳述する。
洗浄溶媒として用いる非ハロゲン系溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、2−メチルペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
洗浄溶媒として用いる非ハロゲン系溶媒は、ハロゲン化炭化水素を極力含まないことが好ましいが、洗浄工程によって環状ハロシラン化合物の粗製品を洗浄できる(すなわちハロゲン化炭化水素化合物の含有量を低減できる)のであれば、少量のハロゲン化炭化水素を含有していてもよい。この場合、洗浄溶媒(非ハロゲン系溶媒)中のハロゲン化炭化水素化合物の含有量は10質量%以下であることが好ましい。例えば、非ハロゲン系溶媒をリサイクルする場合には、ハロゲン化炭化水素の含有量が上記範囲を超えないように、蒸留等してから反応液に添加したり、リサイクルする非ハロゲン系溶媒とフレッシュな非ハロゲン系溶媒を混合して上記範囲に調整してから反応液に添加してもよい。
洗浄溶媒としては、環状ハロシラン化合物に対する安定性が高いものを用いることが好ましく、この点で、非プロトン性溶媒を用いることが好ましい。洗浄溶媒はまた、環状ハロシラン化合物よりもハロゲン化炭化水素に対する相溶性または溶解性が高いものを用いることが好ましく、この点で、非極性溶媒を用いることが好ましい。つまり、洗浄溶媒としては、ハロゲン原子を含まない非極性非プロトン性溶媒を用いることが好ましい。上記に例示した溶媒の中では、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類、およびエステル類から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、およびエーテル類から選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましい。なお洗浄溶媒は、環状ハロシラン化合物の溶解性が低いことが好ましく、洗浄溶媒100質量部に対する環状ハロシラン化合物の溶解量が5質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以下であることがさらに好ましい。洗浄溶媒として非極性溶媒を用いる場合は、環状ハロシラン化合物は錯体(中性錯体またはアニオン性錯体)を用いることが好ましい。
洗浄溶媒の沸点は、乾燥効率を高める点から、200℃以下であることが好ましく、120℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。
洗浄溶媒は、水分含有量が少ないことが好ましく、使用前に蒸留や脱水等により精製しておくことが望ましい。洗浄溶媒の水分含有量は、例えば、質量基準で100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下がより好ましく、20ppm以下がさらに好ましい。溶媒の水分含有量の下限は特に限定されないが、溶媒から完全に水を取り除くことは困難となる場合があるため、溶媒の水分含有量は例えば0.01ppm以上であればよい。
本発明において「洗浄」とは、積極的に環状ハロシラン化合物の粗製品を非ハロゲン系溶媒と接触させる処理を意味し、具体的には、(1)環状ハロシラン化合物の粗製品に非ハロゲン系溶媒を十分な量加える処理、(2)環状ハロシラン化合物の粗製品に非ハロゲン系溶媒を加えて撹拌する処理、(3)環状ハロシラン化合物の粗製品に非ハロゲン系溶媒を加えて加熱する処理、の少なくとも1つを行うことを意味する。これら(1)〜(3)の処理は、組み合わせて行ってもよい。
上記(1)の処理では、環状ハロシラン化合物の粗製品に非ハロゲン系溶媒を十分量加えることにより、粗製品に含まれるハロゲン化炭化水素化合物を非ハロゲン系溶媒により多く分配させることを狙いとしている。(1)の処理では、環状ハロシラン化合物の粗製品1質量部に対して、非ハロゲン系溶媒を1質量部以上加えることとし、これにより環状ハロシラン化合物中のハロゲン化炭化水素化合物の含有量を例えば2質量%以下まで下げることができる。粗製品は、環状ハロシラン化合物を含有するものであれば液状物(例えば、環状ハロシラン化合物が溶解している溶液や環状ハロシラン化合物が分散している分散液)であっても固形物であってもよく、粗製品の質量はこれら液状物または固形物としての質量を意味する。なお、非ハロゲン系溶媒の添加量は、環状ハロシラン化合物の粗製品1質量部に対して、非ハロゲン系溶媒を2質量部以上とすることがより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、一方、非ハロゲン系溶媒を多量に加えすぎても、その後の非ハロゲン系溶媒の分離が煩雑になるおそれがあることから、非ハロゲン系溶媒の添加量は、環状ハロシラン化合物の粗製品1質量部に対して、100質量部以下とすることが好ましく、50質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
上記(1)の処理では、洗浄の際の環状ハロシラン化合物の粗製品への非ハロゲン系溶媒の添加は、一括で行ってもよく、分割して行ってもよい。上記(2)、(3)の処理についても同様である。非ハロゲン系溶媒の添加量は、非ハロゲン系溶媒を分割添加する場合は、その合計添加量を意味する。
上記(2)の処理では、環状ハロシラン化合物の粗製品に非ハロゲン系溶媒を加えて撹拌することにより、粗製品と非ハロゲン系溶媒との接触頻度を高めて、粗製品に含まれるハロゲン化炭化水素化合物を非ハロゲン系溶媒により多く移行させることを狙いとしている。(2)の処理では、スターラーや撹拌翼等によって機械的に撹拌したり、反応容器を振盪したり、超音波や機械的衝撃により振動を与えたり、粗製品と非ハロゲン系溶媒との混合液を循環させたり、粗製品と非ハロゲン系溶媒とをスタティックミキサー等の静止型混合器で混合したりすることにより、積極的に粗製品と非ハロゲン系溶媒との接触を促すようにする。
上記(3)の処理では、環状ハロシラン化合物の粗製品に非ハロゲン系溶媒を加えて加熱することにより、粗製品からのハロゲン化炭化水素化合物の遊離を促して、粗製品に含まれるハロゲン化炭化水素化合物を非ハロゲン系溶媒により移行させることを狙いとしている。この場合の加熱温度は、環状ハロシラン化合物の分解温度未満の範囲で任意に調整すればよいが、例えば、30℃以上が好ましく、45℃以上がより好ましく、また100℃以下が好ましく、80℃以下がさらに好ましい。加熱温度が非ハロゲン系溶媒の沸点以上となる場合は、還流しながら加熱を行うことが好ましい。
上記(2)、(3)の処理における非ハロゲン系溶媒の添加量は、環状ハロシラン化合物の粗製品1質量部に対して、0.1質量部以上とすることが好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また(1)の処理と組み合わせることにより、非ハロゲン系溶媒を、環状ハロシラン化合物の粗製品1質量部に対して、1質量部以上加えることも好ましい。
環状ハロシラン化合物の粗製品に加えた非ハロゲン系溶媒は、洗浄後に環状ハロシラン化合物から分離してもよい。洗浄工程では、非ハロゲン系溶媒の添加と分離を繰り返し行ってもよい。なお、上記(1)の処理では、洗浄中に非ハロゲン系溶媒の添加と分離を同時に行ってもよく、例えば、固形状の粗製品に非ハロゲン系溶媒を加えながら固液分離することにより洗浄を行ってもよい。
洗浄工程では、ハロゲン系溶媒による洗浄を組み合わせて行ってもよい。環状ハロシラン化合物の粗製品にハロゲン系溶媒を加えて洗浄した後、非ハロゲン系溶媒を加えて洗浄することにより、アミン塩を効率的に除去することが可能となる。この場合、洗浄工程では、ハロゲン系溶媒の添加と分離を行った後に、非ハロゲン系溶媒の添加と分離を行うことが好ましい。
環状ハロシラン化合物からの洗浄溶媒の分離は公知の分離手段を用いて行えばよく、例えば、ろ過、沈殿分離、遠心分離、デカンテーション等の固液分離手段および/または非ハロゲン系溶媒の留去等を採用することが好ましい。環状ハロシラン化合物の少なくとも一部が溶解している場合は、固液分離に先立って濃縮することにより、環状ハロシラン化合物を析出させてもよい。なお、次工程によっては、環状ハロシラン化合物から洗浄溶媒を分離せずに、そのまま次の工程を行ってもよい。
洗浄後の環状ハロシラン化合物は、加熱および/または減圧により、乾燥することが好ましい。これにより、環状ハロシラン化合物から揮発成分を除去し、環状ハロシラン化合物の安定性を高めることができる。乾燥の際に加熱を行う場合は、加熱温度としては、環状ハロシラン化合物の分解または融解温度以下(分解温度と融解温度の両方が存在する場合はそれらのうちの低い方の温度以下)とすることが好ましく、(分解または融解温度−20℃)以下の温度とすることがより好ましい。乾燥の際に減圧をする場合は、乾燥効率を高める点から、雰囲気圧力(絶対圧)を10kPa以下とすることが好ましく、5kPa以下がより好ましく、2kPa以下がさらに好ましい。
上記に説明した洗浄工程における一連の操作は、酸素濃度1体積%以下(より好ましくは0.1体積%以下であり、さらに好ましくは0.01体積%以下)の雰囲気下で行うことが好ましい。また、洗浄工程を、不活性ガス(例えば、窒素ガスやアルゴンガス)雰囲気下で行うことも好ましい。これにより、洗浄工程において、環状ハロシラン化合物の酸化分解を抑制することができる。洗浄工程はまた、水分濃度3000ppm(体積基準)以下(より好ましくは300ppm以下であり、さらに好ましくは30ppm以下)の雰囲気下で行うことが好ましい。これにより、洗浄工程において、環状ハロシラン化合物の加水分解を抑制することができる。
環状ハロシラン化合物の粗製品を得る調製工程について説明する。調製工程では、公知の製造方法により環状ハロシラン化合物を合成すればよく、例えば、ハロゲン化ケイ素化合物を環化カップリング反応させることにより環状ハロシラン化合物を合成して、環状ハロシラン化合物の粗製品を得ることができる。
ハロゲン化ケイ素化合物としては、下記式(2)で表される化合物を用いることが好ましい。下記式(2)において、X3はハロゲン原子を表し、R3は水素原子または有機基を表し、kは1〜6の整数を表し、hは0〜2k+1の整数を表す。
SikX3 2k+2-hR3 h (2)
式(2)中、X3のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子が挙げられ、好ましくは塩素原子、臭素原子であり、より好ましくは塩素原子である。
式(2)中、R3は水素原子または有機基を表す。R3の有機基としては、アルキル基またはアリール基が好ましい。R3の有機基としては、例えば、炭素数が1〜10(好ましくは炭素数が1〜8、より好ましくは炭素数が1〜6)のアルキル基や炭素数が6〜18(好ましくは炭素数が6〜12、より好ましくは炭素数が6〜10)のアリール基が示され、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−プロピル基、tert−ブチル基、n−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。なお、R3としては、水素原子が特に好ましい。
式(2)中、kは1〜6の整数を表すが、好ましくは1〜2であり、より好ましくは1である。hは0〜2k+1の整数を表すが、好ましくは0〜1であり、より好ましくは1である。なお、式(2)中、2k+2−hが2以上でありX3が複数存在する場合には、それぞれのX3は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。また式(2)中、hが2以上でありR3が複数存在する場合には、それぞれのR3は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
ハロゲン化ケイ素化合物の好ましい例としては、トリクロロシラン、トリブロモシラン、トリヨードシラン、トリフルオロシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロフェニルシラン等のトリハロゲン化シラン;ジクロロシラン、ジブロモシラン、ジヨードシラン、ジフルオロシラン、ジクロロジメチルシラン、ジクロロジフェニルシラン等のジハロゲン化シラン;テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラヨードシラン、テトラフルオロシラン等のテトラハロゲン化シラン;ヘキサクロロジシラン、ヘキサブロモジシラン、ヘキサヨードジシラン等のヘキサハロゲン化ジシラン;等が挙げられる。これらの中でも、トリハロゲン化シランが好ましく、特に好ましくはトリクロロシランである。
ハロゲン化ケイ素化合物の環化カップリング反応は、アミンの共存下で行うことが好ましい。また、錯体の方が化合物の安定性を高めることができ、取り扱いが容易となる。
環状ハロシラン化合物のアニオン性錯体を得る場合には、ハロゲン化ケイ素化合物の環化カップリング反応は、第3級ポリアミンおよび/またはハロゲン化オニウム塩の共存下で行うことが好ましい。
第3級ポリアミンとしては、例えば、N,N,N’,N”,N”−ペンタエチルジエチレントリアミン(ペデタ(pedeta))やN,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン(テエダ(teeda))等の、窒素原子にアルキレン基(特にエチレン基などの炭素数1〜6のアルキレン基が好ましい)とアルキル基(特にエチル基などの炭素数1〜6のアルキル基が好ましい)とが結合したポリアルキレンアミン類が挙げられる。上記第3級ポリアミンは、1分子に含まれるアミノ基の数が2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。また7以下が好ましく、5以下がより好ましい。ポリアルキレンアミン類において、アルキレンアミンの(繰り返し)単位の数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、また6以下が好ましく、4以下がより好ましい。
ハロゲン化オニウム塩としては、例えば、ホスホニウム類(R4 4P(R4は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を表す)で示されるテトラアルキルホスホニウムやテトラアリールホスホニウム等)、アンモニウム類(R5 4N(R5は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を表す)で示されるテトラアルキルアンモニウムやテトラアリールアンモニウム等)などのオニウム類と、クロロアニオン、ブロモアニオン、ヨ―ドアニオン等のハロゲンアニオン(好ましくはクロロアニオン)との塩(ホスホニウム塩やアンモニウム塩)が挙げられる。
環化カップリング反応に用いる各原料化合物の使用量は、適宜決定すればよい。例えば、ドデカクロロシクロヘキサシランを合成する際は、ハロゲン化ケイ素化合物1モルに対するハロゲン化オニウム塩(好ましくはホスホニウム塩および/またはアンモニウム塩)の使用量(複数種使用する場合は合計使用量)は、0.01モル以上が好ましく、0.05モル以上がより好ましく、0.08モル以上がさらに好ましく、また0.5モル以下が好ましく、0.4モル以下がより好ましく、0.35モル以下がさらに好ましい。デカクロロシクロペンタシランを合成する際は、ハロシラン化合物1モルに対するハロゲン化オニウム塩(好ましくはホスホニウム塩および/またはアンモニウム塩)の使用量(複数種使用する場合は合計使用量)は、例えば、0.01モル以上が好ましく、0.06モル以上がより好ましく、0.1モル以上がさらに好ましく、また0.65モル以下が好ましく、0.55モル以下がより好ましく、0.45モル以下がさらに好ましい。第3級ポリアミンを使用する場合には、ハロゲン化ケイ素化合物1モルに対する第3級ポリアミンの使用量は、0.01モル以上が好ましく、0.05モル以上がより好ましく、0.1モル以上がさらに好ましく、また1モル以下が好ましく、0.5モル以下がより好ましく、0.4モル以下がさらに好ましい。
環状ハロシラン化合物のアニオン性錯体を得る場合には、上記の第3級ポリアミンおよび/またはハロゲン化オニウム塩とともに、ポリエーテル化合物、ポリチオエーテル化合物、多座ホスフィン化合物等のキレート型配位子を用いることもできる。
ポリエーテル化合物としては、例えば、1,1−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジプロポキシエタン、1,2−ジイソプロポキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、1,2−ジフェノキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、1,3−ジエトキシプロパン、1,3−ジプロポキシプロパン、1,3−ジイソプロポキシプロパン、1,3−ジブトキシプロパン、1,3−ジフェノキシプロパン、1,4−ジメトキシブタン、1,4−ジエトキシブタン、1,4−ジプロポキシブタン、1,4−ジイソプロポキシブタン、1,4−ジブトキシブタン、1,4−ジフェノキシブタン等のジアルコキシアルカン類が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくは1,2−ジメトキシエタンが挙げられる。ポリチオール化合物としては、前記例示したポリエーテル化合物の酸素原子を硫黄原子に置換したものが挙げられる。
ホスフィン化合物としては、例えば、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジエチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジプロピルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジブチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジメチルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジエチルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジプロピルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジブチルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジメチルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジエチルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジプロピルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジブチルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン等のビス(ジアルキルホスフィノ)アルカン類やビス(ジアリールホスフィノ)アルカン類が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくは1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンが挙げられる。
キレート型配位子の使用量は適宜設定すればよいが、例えば、ハロゲン化ケイ素化合物1モルに対して0.01モル以上とすることが好ましく、0.05モル以上がより好ましく、0.1モル以上がさらに好ましく、また50モル以下が好ましく、40モル以下がより好ましく、30モル以下がさらに好ましい。
環状ハロシラン化合物の中性錯体を得る場合は、ハロゲン化ケイ素化合物の環化カップリング反応は、中性配位子を与える配位化合物の共存下で行うことが好ましい。中性配位子を与える配位化合物としては、ホスフィン類(例えば、トリフェニルホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン)、ホスフィンオキシド類(例えば、トリフェニルホスフィンオキシド)、スルフィド類(例えば、ジメチルスルフィド)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)、ニトリル類(例えば、p−メチルベンゾニトリル)、複素環化合物(例えば、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロフラン)等が挙げられる。この場合の配位化合物の使用量は、ハロゲン化ケイ素化合物1モルに対して、0.01モル以上が好ましく、0.05モル以上がより好ましく、0.1モル以上がさらに好ましく、また1モル以下が好ましく、0.5モル以下がより好ましく、0.4モル以下がさらに好ましい。
ハロゲン化ケイ素化合物の環化カップリング反応においては、さらに塩基性化合物を共存させることが好ましい。これにより、環化カップリング反応を進行させやすくなる。塩基性化合物としては、例えば、(モノ−、ジ−、トリ−、ポリ−)アミン化合物が挙げられる。これらの中でも、モノアミン化合物が好ましく用いられ、第3級モノアミン化合物がより好ましい。具体的には、例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルブチルアミン、ジメチル−2−エチルヘキシルアミン、ジイソプロピル−2−エチルヘキシルアミン、メチルジオクチルアミン等のトリアルキルアミンが挙げられ、これらの中でも、ジイソプロピルエチルアミンが好ましく用いられる。塩基性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
塩基性化合物の使用量は、使用する化合物の種類等に応じて適宜設定すればよい。例えば、環状ハロシラン化合物のアニオン性錯体を得る場合は、モノアミン化合物であれば、ハロゲン化ケイ素化合物1モルに対して、0.1モル以上が好ましく、0.2モル以上がより好ましく、0.4モル以上がさらに好ましく、また4モル以下が好ましく、3モル以下がより好ましく、2モル以下がさらに好ましい。環状ハロシラン化合物の中性錯体を得る場合は、モノアミン化合物であれば、ハロゲン化ケイ素化合物1モルに対して、0.5モル以上が好ましく、0.7モル以上がより好ましく、0.9モル以上がさらに好ましく、また4モル以下が好ましく、3モル以下がより好ましく、2モル以下がさらに好ましく、特に等モル(1モル)であることが最も好ましい。塩基性化合物(モノアミン化合物)の使用量が少なすぎると、未反応のハロゲン化ケイ素化合物が残存して環化カップリング反応収率が低下する傾向がある。一方、前記使用量が多すぎると、環化カップリング反応で得られるハロゲン化環状シラン化合物の収率低下や純度低下を引き起こすおそれがある。
ハロゲン化ケイ素化合物の環化カップリング反応は、溶媒(反応溶媒)中で行うことが好ましい。反応溶媒としては、有機溶媒を用いることが好ましい。当該反応溶媒としては、環化カップリング反応を妨げない溶媒が好ましく、例えば、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等)、エーテル系溶媒(例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等)、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒が好ましく挙げられる。これらの中でも、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒が好ましく用いられ、1,2−ジクロロエタンが特に好ましい。なお本発明では、反応溶媒としてハロゲン化炭化水素系溶媒を用いた場合でも、洗浄工程を行うことにより、最終的に得られる環状ハロシラン化合物のハロゲン化炭化水素化合物の含有量を低くすることができる。
環化カップリング反応に用いる反応溶媒の使用量は、特に制限されないが、通常、ハロゲン化ケイ素化合物の濃度が0.5〜10mol/Lとなるように調整することが好ましく、より好ましい濃度は0.8〜8mol/Lであり、さらに好ましい濃度は1〜5mol/Lである。
環化カップリング反応の反応温度は、反応性に応じて適宜調整すればよく、例えば0〜120℃程度、好ましくは15〜70℃程度である。ここで反応温度とは、反応器内の液温を意味する。反応温度を調整するには、例えば、反応器の周囲に設けたジャケット内に温度調整用の媒体を流通させればよいが、これに限定されるものではなく、反応液の一部を抜き出して外部熱交換器で調温して反応系に戻す方法や、反応器内に温度調整用の媒体を流通させる配管などを設ける方法等を採用してもよい。反応時間は、反応の進行の程度に応じて適宜調整すればよいが、通常30分以上72時間以下、好ましくは2時間以上48時間以下、より好ましくは3時間以上36時間以下、さらに好ましくは6時間以上24時間以下である。
上記の反応により生成した環状ハロシラン化合物は、反応液中に溶解している場合があり、そのような場合は、反応液を濃縮したり、反応液に貧溶媒(環状ハロシラン化合物に対する貧溶媒)を添加したり、反応液を冷却すること等により、環状ハロシラン化合物を析出させてもよい。
反応液中に環状ハロシラン化合物が固形物として存在している場合(環状ハロシラン化合物を析出させた場合も含む)は、固液分離することにより環状ハロシラン化合物を回収してもよい。固液分離は、ろ過、沈殿分離、遠心分離、デカンテーション等の公知の固液分離手段を用いて行うことができる。固液分離により得られた固形状の環状ハロシラン化合物は、反応溶媒の一部が残存していてもよく、例えば、ケーキ状であってもよい。
環状ハロシラン化合物の粗製品としては、上記のようにして得られた環状ハロシラン化合物が溶解または分散している反応液や、固液分離により得られた固形状の環状ハロシラン化合物を用いることができる。環状ハロシラン化合物が溶解している反応液を粗製品として用いる場合は、非ハロゲン系溶媒を、環状ハロシラン化合物の貧溶媒として作用させることが好ましく、これにより環状ハロシラン化合物の析出と洗浄を同時に行うことができる。
調製工程は、低酸素濃度雰囲気下で行うことが好ましく、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、低水分濃度雰囲気下で行うことが好ましい。これらの雰囲気条件の詳細は、上記に説明した洗浄工程の場合と同様である。
次に、環状シラン化合物の製造方法について説明する。環状ハロシラン化合物は、環状水素化シランや環状有機シラン化合物等の環状シラン化合物の製造原料として用いることができる。特に、上記に説明した環状ハロシラン化合物、あるいは上記に説明した洗浄工程を含む製造方法により得られた環状ハロシラン化合物を用いることにより、環状水素化シランや環状有機シラン化合物を高収率で製造することができ、製造バッチ間のばらつきを小さくすることも可能となる。また、環状水素化シランや環状有機シラン化合物の合成の際の発熱反応を抑えることができ、合成を安定して行いやすくなる。従って、本発明は、本発明の環状ハロシラン化合物から環状水素化シランまたは環状有機シラン化合物を合成する反応工程を有する環状シラン化合物の製造方法、および本発明の環状ハロシラン化合物の製造方法により環状ハロシラン化合物を得て、次いで、前記環状ハロシラン化合物から環状水素化シランまたは環状有機シラン化合物を合成する反応工程を有する環状シラン化合物の製造方法も提供する。
環状水素化シランとは、ケイ素原子が連なって構成される単素環を有し、ケイ素原子と水素原子から構成される化合物を意味する。環状水素化シランは、単素環を構成するケイ素原子の全ての置換位置に水素原子が結合してもよく、単素環を構成するケイ素原子に無置換のシリル基が結合しているものであってもよい。環状有機シラン化合物とは、ケイ素原子が連なって構成される単素環を有する化合物において、単素環を構成するケイ素原子に結合する水素原子の少なくとも一部が、有機基(有機基によって置換されたシリル基を含む)によって置換されている化合物を意味する。なお本発明において、環状シラン化合物には、環状水素化シランと環状有機シラン化合物の両方が含まれる。
環状シラン化合物は、例えば、下記式(3)で表される化合物であることが好ましい。下記式(3)において、zは4〜8の整数であり、R6は独立して水素、有機基、またはシリル基を表す。
SizR6 2z (3)
式(3)中、zは単素環を構成するケイ素原子の数を表し、4以上が好ましく、5以上がより好ましく、また8以下が好ましく、7以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。なお、薄膜シリコンの形成に有用となる点から、単素環を構成するケイ素原子の数は6(すなわちz=6)であることが特に好ましい。
式(3)中、R6は環を構成するケイ素原子に結合する水素原子、有機基、またはシリル基を表す。複数のR6は同一であっても異なっていてもよい。なお、環状シラン化合物が環状水素化シランである場合は、R6は全て水素原子であることが好ましい。
R6の有機基としては、置換基(有機基)を有していてもよいアルキル基、または置換基(有機基)を有していてもよいアリール基が好ましい。R6の有機基としては、例えば、炭素数が1〜10(好ましくは炭素数が1〜8、より好ましくは炭素数が1〜6)のアルキル基や炭素数が6〜18(好ましくは炭素数が6〜12、より好ましくは炭素数が6〜10)のアリール基が示される。なお、R6の有機基の炭素数は、置換基を有する場合は、置換基に含まれる炭素数も合わせた炭素数が前記範囲にあることが好ましい。R6の有機基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−プロピル基、tert−ブチル基、n−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。なお、有機基にはシリル基は含まれない。
R6のシリル基としては、ケイ素原子に水素原子または有機基(好ましくはアルキル基またはアリール基)が結合した基であることが好ましい。シリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
環状ハロシラン化合物からの環状水素化シランまたは環状有機シラン化合物の合成(反応工程)は公知の方法に従って行えばよく、例えば、環状ハロシラン化合物に対して、ヒドリド還元剤および/または有機金属反応剤を反応させることにより得ることができる。すなわち、環状水素化シランは、ヒドリド還元剤を用いて環状ハロシラン化合物を還元することにより得ることができ、環状有機シラン化合物は、有機金属反応剤を用いた反応(場合によっては、有機金属反応剤とヒドリド還元剤の両方を用いた反応)により得ることができる。以下、ヒドリド還元剤と有機金属反応剤をまとめて、「求核剤」と称する場合がある。
環状ハロシラン化合物の還元に用いるヒドリド還元剤は特に限定されず、例えば、水素化リチウムアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム等のアルミニウム系還元剤;水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム等のホウ素系還元剤等が挙げられる。これらのヒドリド還元剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
ヒドリド還元剤の使用量は適宜設定すればよく、例えば、環状ハロシラン化合物の有するケイ素−ハロゲン結合1個に対するヒドリド還元剤のヒドリドの当量が0.5当量以上となることが好ましく、0.8当量以上がより好ましく、0.9当量以上がさらに好ましく、また15当量以下が好ましく、5当量以下がより好ましく、2当量以下がさらに好ましい。ヒドリド還元剤の量が多すぎると、後処理に時間を要し、生産性が低下する傾向にある。一方、ヒドリド還元剤の量が少なすぎると、収率が低下する傾向にあるため好ましくない。
環状ハロシラン化合物の有機基置換反応に用いる有機金属反応剤は特に限定されず、例えば、グリニャール試薬、有機リチウム試薬が挙げられる。
グリニャール試薬としては、例えば、臭化メチルマグネシウム等のハロゲン化アルキルマグネシウム;臭化フェニルマグネシウム等のハロゲン化アリールマグネシウムが挙げられる。これらのグリニャール試薬は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
有機リチウム試薬としては、例えば、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等のアルキルリチウム化合物;フェニルリチウム等のアリールリチウム化合物が挙げられる。これらの有機リチウム試薬は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
有機金属反応剤の使用量は適宜設定すればよく、例えば、環状ハロシラン化合物の有するケイ素−ハロゲン結合1個に対する有機金属反応剤のモル当量が、少なくとも1当量以上であればよく、1.1当量以上が好ましく、1.2当量以上がより好ましく、1.5当量以上がさらに好ましく、また10当量以下が好ましく、5当量以下がより好ましく、3当量以下がさらに好ましい。有機金属反応剤の量が多すぎると、後処理に時間を要し、生産性が低下する傾向にある。一方、有機金属反応剤の量が少なすぎると、収率が低下する傾向にあるため好ましくない。有機基置換反応では、有機金属反応剤とヒドリド還元剤を併用することも可能である。
反応工程における還元反応および有機基置換反応の反応条件や反応手順は共通する部分が多いため、以下、まとめて説明する。
反応工程では、環状ハロシラン化合物を求核剤と接触させることにより、還元反応または有機基置換反応を進行させることができる。環状ハロシラン化合物と求核剤との接触は溶媒中で行うことが好ましい。
反応工程で用いる溶媒としては、例えば、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒等が好ましく用いられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これら中でも、エーテル系溶媒を用いることが好ましく、ジエチルエーテルやシクロペンチルメチルエーテルがより好ましい。エーテル系溶媒を用いれば、環状ハロシラン化合物の還元反応または有機基置換反応を高収率かつ再現性良く進行させやすくなる。また、反応後の反応液において、目的物である環状シラン化合物を溶解させつつ、不純物(例えば、環状ハロシラン化合物)は溶解させずに、固体として析出させやすくなる。そのため、ろ過等の固液分離により、効率良く環状シラン化合物を単離することができ、これにより、高純度の環状シラン化合物を効率良く製造することができる。
反応工程で使用する溶媒は、水や溶存酸素を取り除くため、反応前に蒸留や脱水等により精製しておくことが望ましい。反応工程で用いる溶媒の水分含有量は、例えば、質量基準で100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下がより好ましく、20ppm以下がさらに好ましい。溶媒の水分含有量の下限は特に限定されないが、溶媒から完全に水を取り除くことは困難となる場合があるため、溶媒の水分含有量は例えば0.01ppm以上であればよい。
反応工程で用いる溶媒の使用量は、反応液中の環状ハロシラン化合物の濃度が0.005mol/L以上1mol/L以下(より好ましくは0.01mol/L以上0.7mol/L以下であり、さらに好ましくは0.025mol/L以上0.5mol/L以下である)となるように、適宜調整することが好ましい。環状ハロシラン化合物の濃度が1mol/Lを超える場合、反応により発生した熱が十分に除熱されにくくなる。また、反応物が溶解しにくくなって、反応速度が低下する等の問題が生じる可能性もある。環状ハロシラン化合物の濃度が0.005mol/Lを下回る場合は、例えば蒸留により反応生成物を精製する際に留去すべき溶媒量が多くなり、生産性が低下しやすくなる。
溶媒中で環状ハロシラン化合物と求核剤とを接触させる方法としては、例えば、(1)環状ハロシラン化合物および求核剤のそれぞれを予め溶媒中に溶解または分散させることにより、環状ハロシラン化合物の溶液(または分散液)と求核剤の溶液(または分散液)を調製した後、これらの溶液(または分散液)を混合する方法、(2)溶媒に、環状ハロシラン化合物と求核剤を同時にまたは順次加える方法、(3)環状ハロシラン化合物の溶液(または分散液)に求核剤を加える方法、(4)環状ハロシラン化合物と求核剤の混合物に溶媒を加える方法等が挙げられる。中でも、反応効率が良いことから、(1)の接触方法を採用することが好ましい。
反応工程における環状ハロシラン化合物と求核剤との接触に際しては、環状ハロシラン化合物の溶液(または分散液)と求核剤の溶液(または分散液)の少なくとも一方を滴下しながら行うことが好ましい。滴下方法としては、例えば、反応器内に環状ハロシラン化合物と求核剤の一方を仕込み、そこへ他方の溶液(または分散液)を滴下する方法;空の反応器に、環状ハロシラン化合物の溶液(または分散液)と求核剤の溶液(または分散液)を、同時にまたは順次滴下する方法;が挙げられる。このように反応原料を滴下により加えると、滴下速度をコントロールできるため、反応で生じる発熱量を制御することができる。これにより、例えば、冷却のためのコンデンサーの小型化が可能になる等、生産性の向上が期待できる。
滴下に供する溶液または分散液の温度、および、反応器内に仕込んでおく溶液または分散液の温度は、−80℃以上が好ましく、−50℃以上がより好ましく、−30℃以上がさらに好ましく、また50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、0℃以下がさらに好ましい。
滴下速度は、反応液中の環状ハロシラン化合物の濃度に応じて適宜調整すればよく、例えば、0.01mL/分以上が好ましく、0.2mL/分以上がより好ましく、1mL/分以上がさらに好ましく、また100mL/分以下が好ましく、50mL/分以下がより好ましく、20mL/分以下がさらに好ましい。滴下時間は特に限定されないが、反応で生じる発熱を制御しつつ、生産性を確保する点から、例えば、10分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましく、また20時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましく、6時間以下がさらに好ましい。
反応時の反応温度は、環状ハロシラン化合物や求核剤の種類に応じて適宜設定すればよく、−80℃以上が好ましく、−50℃以上がより好ましく、−30℃以上がさらに好ましく、また100℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、30℃以下がさらに好ましい。
反応時間は、反応の進行の程度に応じて適宜調整すればよく、例えば、10分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、2時間以上がさらに好ましく、また72時間以下が好ましく、48時間以下がより好ましく、24時間以下がさらに好ましい。
環状シラン化合物は、禁酸素性物質である。そのため、環状シラン化合物の還元反応および有機基置換反応は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
反応工程では、原料である環状ハロシラン化合物が残らず全て反応するのが好ましいが、その一部が未反応で残る場合もある。その場合は、反応生成液中に未反応の環状ハロシラン化合物が析出し、生成した環状シラン化合物が溶解した状態で存在していることが好ましい。なお、環状シラン化合物は、常温で固体であっても液体であってもよく、いずれも反応生成液中に溶解(相溶)した状態で存在していることが好ましい。
反応工程で得られた環状水素化シランまたは環状有機シラン化合物は、純度を高めるために精製を行ってもよい。すなわち、本発明の環状シラン化合物の製造方法は、反応工程で得られた環状水素化シランまたは環状有機シラン化合物を精製する工程(精製工程)を有していてもよい。
精製工程においては、例えば、固液分離により、環状シラン化合物を精製することができる。上記のように環状シラン化合物を製造した場合、環状シラン化合物は反応生成液に溶解した状態で得られ、反応原料である環状ハロシラン化合物や副生した塩類の大半は反応生成液中に固体として存在する。従って、反応工程で得られた環状水素化シランまたは環状有機シラン化合物を含む反応生成液を固液分離することにより、不純物量の低減した反応生成液(分離液)を得ることができる。固液分離手段としては、ろ過、沈殿分離、遠心分離、デカンテーション等の公知の固液分離手段を用いればよいが、反応生成液中に溶解した環状シラン化合物の回収率を高める点から、ろ過を採用することが好ましい。
精製工程では、蒸留により、環状シラン化合物の精製を行うことも好ましい。反応生成液中には、環状シラン化合物以外に、環状シラン化合物よりも低沸点の軽沸不純物や、環状シラン化合物よりも高沸点の高沸不純物が溶解している場合がある。従って、環状シラン化合物を軽沸不純物や高沸不純物から分離し、高純度の環状シラン化合物を得るために、蒸留を行うことが好ましい。蒸留の際の温度は、反応生成液に含まれる環状シラン化合物と不純物組成に応じて適宜設定すればよい。精製工程で固液分離を行う場合は、固液分離により得られた分離液を蒸留することが好ましい。
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下の説明では特に断らない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
(1)分析方法
(1−1)ハロゲン化炭化水素化合物とアミン塩の含有量の測定
環状ハロシラン化合物中に含有するハロゲン化炭化水素化合物とアミン塩の種類は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を用いて特定し、それらの含有量は、ガスクロマトグラフィーの絶対検量線法により求めた。下記製造例で検出されたクロロホルムとジイソプロピルエチルアミン塩酸塩をガスクロマトグラフィーで測定し、ピーク面積から検量線を作成した。次いで、環状ハロシラン化合物をトルエンに超音波分散させたサンプル溶液を調製し同様に測定した。絶対検量線法により、ハロゲン化炭化水素化合物とアミン塩の含有量を求めた。測定条件は以下の通りである。
−カラム:Agilent J&W DB−5 0.25mmID 30m
−温度:40℃(1分保持)+40℃〜300℃(10℃/分)+300℃(5分保持)
−注入口温度:250℃
−検出器温度:300℃
−キャリアガス:窒素(カラム流量1.39mL/分)
−注入量:1.0μL
−希釈溶剤:トルエン
(1−2)示差走査熱量測定
示差走査熱量測定は、セイコーインスツル社のDSC6200を用い、SUS/Au耐圧セルを用いて窒素雰囲気下でサンプルセルを調製し、窒素雰囲気下、25℃〜250℃の温度範囲で10℃/分の昇温条件にて行った。
(2)製造例
(2−1)製造例1(環状ハロシラン化合物の粗製品の製造)
温度計、コンデンサー、滴下ロートおよび撹拌装置を備えた3L四つ口フラスコ内を窒素ガスで置換した後、当該フラスコ内に、配位化合物としてトリフェニルホスフィン155g(0.591mol)と、塩基性化合物としてジイソプロピルエチルアミン458g(3.54mol)と、溶媒として1,2−ジクロロエタン1789gとを入れた。続いて、フラスコ内の溶液を撹拌しながら、25℃条件下において、滴下ロートから、ハロシラン化合物としてトリクロロシラン481g(3.54mol)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、そのまま2時間撹拌し、続いて60℃で8時間加熱撹拌することにより環化カップリング反応を行い、均一な反応液を得た。得られた反応液を濃縮し、クロロホルム7200gを加えて室温で1時間撹拌し洗浄した後、ろ過を行い、ろ過残渣を減圧下で乾燥することにより、白色固形物を得た。濃縮から乾燥までの工程はすべて窒素雰囲気下で行った。この白色固形物は、環状ハロシラン化合物の中性錯体であるビス(トリフェニルホスフィン)ドデカクロロシクロヘキサシラン([Ph3P]2[Si6Cl12])の粗製品であった。この粗製品をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、粗製品には、ハロゲン化炭化水素化合物としてクロロホルムが3質量%、アミン塩(アミン塩酸塩)が3質量%含まれていた。また、示差走査熱量測定を行ったところ、発熱量は120J/g、発熱開始温度は125℃であった。
(2−2)製造例2(環状ハロシラン化合物の精製品の製造)
製造例1で得られた粗製品に、その5倍量(質量基準)の脱水ヘキサンを加えて室温で24時間撹拌し洗浄した後、ろ過を行った。得られたろ過残渣に対し、上記と同じ手順によりヘキサンで洗浄・ろ過を再度行い、得られたろ過残渣を減圧下で乾燥することで、環状ハロシラン化合物(ビス(トリフェニルホスフィン)ドデカクロロシクロヘキサシラン)の精製品を得た。洗浄から乾燥までの工程はすべて窒素雰囲気下で行った。得られた精製品をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、精製品には、ハロゲン化炭化水素化合物としてクロロホルムが1質量%、アミン塩(アミン塩酸塩)が1質量%含まれていた。また、示差走査熱量測定を行ったところ、発熱量は30J/g、発熱開始温度は125℃であった。
(2−3)製造例3(精製品原料を用いた環状水素化シランの製造)
窒素雰囲気下でフラスコに、上記(2−2)で得られた環状ハロシラン化合物の精製品33.0gとジエチルエーテル158gを入れ、−70℃で撹拌した。この中に、LiAlH4の1Mジエチルエーテル溶液61.7gを滴下ロートから60分間かけて滴下した。滴下終了後、−70℃で3時間撹拌し、還元反応を行った。その後、反応液を室温まで昇温した後、窒素雰囲気下でろ過し、得られたろ液から減圧下で溶媒を留去することにより、シクロヘキサシランの無色透明液体を得た。シクロヘキサシランの収率は79%であった。
(2−4)製造例3’、3”(環状水素化シランの別バッチの製造)
製造例3と同条件で、さらに2バッチの製造を行った(それぞれ製造例3’、3”)。製造例3〜3”の3バッチでのシクロヘキサシランの収率のばらつきは74〜79%であった。
(2−5)製造例4(粗製品原料を用いた環状水素化シランの製造)
上記(2−1)で得られた環状ハロシラン化合物の粗製品を用いた以外は、上記(2−3)と同様にして、LiAlH4による還元反応を行い、シクロヘキサシランの無色透明液体を得た。シクロヘキサシランの収率は63%であった。
(2−6)製造例4’、4”(環状水素化シランの別バッチの製造)
製造例4と同条件で、さらに2バッチの製造を行った(それぞれ製造例4’、4”)。製造例4〜4”の3バッチでのシクロヘキサシランの収率のばらつきは63〜70%であった。