JP2017060422A - 成熟した心筋細胞を分化誘導させる方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】幹細胞より高効率かつ高均一で機能性の高い成熟心筋細胞を分化誘導させる方法の提供。
【解決手段】幹細胞を原料細胞として培養し、分化成熟した心筋細胞を製造する方法であって、培養細胞中においてSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させることを含む、心筋前駆細胞又は分化成熟した心筋細胞を製造する方法。
【選択図】なし
【解決手段】幹細胞を原料細胞として培養し、分化成熟した心筋細胞を製造する方法であって、培養細胞中においてSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させることを含む、心筋前駆細胞又は分化成熟した心筋細胞を製造する方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、成熟心筋細胞を高い均一性で、かつ高効率で誘導する方法に関する。
心筋細胞を未分化な幹細胞から分化誘導し成熟させ、移植用細胞や薬剤スクリーニング用細胞として用いる技術が注目されており、幹細胞から心筋細胞を分化誘導させる方法が報告されている。移植用や薬剤スクリーニングには成熟度が高く、高機能性で均一な心筋細胞が求められる。
iPS細胞やES細胞から心筋細胞を分化誘導させる方法として、浮遊培養により誘導させる方法が報告されており(非特許文献1を参照)、浮遊培養により分化した心筋細胞を含む細胞塊が得られる。しかしながら、該方法で分化誘導により形成された心筋細胞の細胞塊において、外側の細胞は分化成熟した心筋細胞であるが、細胞塊の内部の細胞は心筋細胞に分化していないことがあった。
また、多数のサイトカインを組合せて多数の培養工程を経て、ヒト胚様体から心筋細胞を分化誘導させる方法が報告されている(特許文献1及び非特許文献1を参照)。該方法においては、多数の培養工程を経るため個々の細胞の分化成熟の進行に誤差が生じ、必ずしも高均一な心筋細胞を得ることができなかった。分化していない細胞からはテラトーマが形成されるという問題もある。また、心筋細胞の分化が不均一である場合、心臓再生医療に用いたときに不整脈を誘発するという問題もある。さらに、多量のサイトカインを用いるため、コストもかかってしまうという問題もある。
一方、心臓形成に関わる因子としてSall1タンパク質を心筋細胞の誘導に用いることについて報告されていた(特許文献2を参照)。
また、他に心臓形成に関わる因子としてMesp1遺伝子が知られていた(非特許文献2〜4を参照)。
Yang et al. Nature 453:524-528, 2008
David et al., Nat. Cell. Biol. 10, 338-345, 2008
Bondue et al., Cell Stem Cell, 3, 69-84, 2008
Lindsley et al., Cell Stem Cell, 3, 55-68, 2008
本発明は、幹細胞より高効率かつ高均一で機能性の高い成熟心筋細胞を分化誘導させる方法の提供を目的とする。
本発明者らは、心筋及び心臓を誘導する特定因子の探索を行ってきた過程で、マウス-ヒト間で共通に機能する心臓誘導因子を見出した。すなわち、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子のダブルノックアウトマウスにおいて心臓形成・心筋誘導が認められないこと、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子は心臓誘導初期に一過的に協調的作用で心臓を形成することを見出した。
本発明者らは、ヒトiPS細胞においてこれらの心臓誘導因子を一過的に発現させることにより、心筋細胞が誘導されるか、及びどの程度の効率で誘導されるかを確認した。その結果、ヒトiPS細胞において、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過的に共発現させ、その後発現を停止させ培養を続けることにより、高効率で心筋細胞への分化が誘導され、高均一で機能性の高い成熟心筋細胞を得られることを見出した。
本発明者は、従来の複数のサイトカインを組合せて用い、多数の培養工程により心筋細胞を分化誘導させる方法(特表2011-517563号公報)とSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過的に共発現させる方法を組合せ、さらに用いるサイトカインの種類を減らして心筋細胞の誘導効率を確認した。
その結果、従来の方法よりも高効率で、機能性が高く均一に分化成熟した心筋細胞を得られること、及び従来の方法において心筋細胞の分化誘導に必要とされていたサイトカインを欠如させても、分化成熟した心筋細胞を得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 幹細胞を原料細胞として培養し、分化成熟した心筋細胞を製造する方法であって、培養細胞中においてSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させることを含む、心筋前駆細胞又は分化成熟した心筋細胞を製造する方法。
[2] 幹細胞を原料細胞として培養し、分化成熟した心筋細胞を製造する方法であって、培養細胞中においてSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させ、その後発現を停止させた後に一定期間培養を続けることを含む、[1]の分化成熟した心筋細胞を製造する方法。
[3] Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の一過性の共発現をテトラサイクリン発現誘導システムにより制御する、[1]又は[2]の方法。
[4] 細胞の培養を10日間以上行い、培養開始1〜2日経過後に培養細胞中でSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させ、培養開始3〜8日後に発現を停止させる[1]〜[3]のいずれかの方法。
[5] さらに、細胞をアクチビン、BMP4、Wntシグナリング阻害剤、bFGF及びVEGFからなる群から選択されるサイトカインの少なくとも1種のサイトカインを添加した培地で培養することを含む、[1]〜[4]のいずれかの方法。
[6] アクチビンがアクチビンAである、[5]の方法。
[7] サイトカインを添加した培地での細胞の培養が、アクチビン及びBMP4を添加した培地で培養する工程(a)、Wntシグナリング阻害剤を添加した培地で培養する工程(b)、並びにVFGF及びbFGFを添加した培地で培養する工程(c)をこの順序で含み、工程(a)及び工程(b)の間の全部期間又は一部期間において、培養細胞中においてSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させる、[5]又は[6]の方法。
[8] 工程(a)の培養を1〜4日間行い、その後、工程(b)の培養を3〜6日間行い、さらにその後、工程(c)の培養を6〜15日間行う、[7]の方法。
[9] アクチビン及びBMP4を添加した培地で培養する工程(a)において、さらにbFGFを添加する、[7]又は[8]の方法。
[10] Wntシグナリング阻害剤を添加した培地で培養する工程(b)において、さらにVEGFを添加する、[7]〜[9]のいずれかの方法。
[11] VFGF及びbFGFを添加した培地で培養する工程(c)において、さらにWntシグナリング阻害剤を添加する、[7]〜[10]のいずれかの方法。
[12] アクチビン及びBMP4を添加した培地で培養する工程(a)の前にBMP4を添加した培地で培養する工程を1〜2日行うことを含む、[7]〜[11]のいずれかの方法。
[13] 工程(b)の培養をWntシグナリング阻害剤を除いた培地で行う、[7]〜[12]のいずれかの方法。
[14] 工程(b)の培養をWntシグナリング阻害剤及びVEGFを除いた培地で行う、[13]の方法。
[15] 工程(a)の培養をアクチビン、BMP4及びbFGFを除いた培地で行う、[7]〜[14]のいずれかの方法。
[16] Wntシグナリング阻害剤が、DKK-1又はIWP-3である、[5]〜[15]のいずれかの方法。
[17] Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を含み、該遺伝子を一過性に共発現し得るベクターからなる、幹細胞からの心筋細胞の分化を誘導する心筋細胞の分化誘導剤。
[18] テトラサイクリン発現誘導システムを有し、該システムによりSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に発現する、[17]の分化誘導剤。
[19] ベクターがピギーバック(piggyBac)ベクターである、[17]又は[18]の分化誘導剤。
[20] 外来のSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に発現可能に含む、心筋前駆細胞。
[21] 外来のSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に発現可能に含む、心筋細胞。
[1] 幹細胞を原料細胞として培養し、分化成熟した心筋細胞を製造する方法であって、培養細胞中においてSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させることを含む、心筋前駆細胞又は分化成熟した心筋細胞を製造する方法。
[2] 幹細胞を原料細胞として培養し、分化成熟した心筋細胞を製造する方法であって、培養細胞中においてSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させ、その後発現を停止させた後に一定期間培養を続けることを含む、[1]の分化成熟した心筋細胞を製造する方法。
[3] Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の一過性の共発現をテトラサイクリン発現誘導システムにより制御する、[1]又は[2]の方法。
[4] 細胞の培養を10日間以上行い、培養開始1〜2日経過後に培養細胞中でSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させ、培養開始3〜8日後に発現を停止させる[1]〜[3]のいずれかの方法。
[5] さらに、細胞をアクチビン、BMP4、Wntシグナリング阻害剤、bFGF及びVEGFからなる群から選択されるサイトカインの少なくとも1種のサイトカインを添加した培地で培養することを含む、[1]〜[4]のいずれかの方法。
[6] アクチビンがアクチビンAである、[5]の方法。
[7] サイトカインを添加した培地での細胞の培養が、アクチビン及びBMP4を添加した培地で培養する工程(a)、Wntシグナリング阻害剤を添加した培地で培養する工程(b)、並びにVFGF及びbFGFを添加した培地で培養する工程(c)をこの順序で含み、工程(a)及び工程(b)の間の全部期間又は一部期間において、培養細胞中においてSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させる、[5]又は[6]の方法。
[8] 工程(a)の培養を1〜4日間行い、その後、工程(b)の培養を3〜6日間行い、さらにその後、工程(c)の培養を6〜15日間行う、[7]の方法。
[9] アクチビン及びBMP4を添加した培地で培養する工程(a)において、さらにbFGFを添加する、[7]又は[8]の方法。
[10] Wntシグナリング阻害剤を添加した培地で培養する工程(b)において、さらにVEGFを添加する、[7]〜[9]のいずれかの方法。
[11] VFGF及びbFGFを添加した培地で培養する工程(c)において、さらにWntシグナリング阻害剤を添加する、[7]〜[10]のいずれかの方法。
[12] アクチビン及びBMP4を添加した培地で培養する工程(a)の前にBMP4を添加した培地で培養する工程を1〜2日行うことを含む、[7]〜[11]のいずれかの方法。
[13] 工程(b)の培養をWntシグナリング阻害剤を除いた培地で行う、[7]〜[12]のいずれかの方法。
[14] 工程(b)の培養をWntシグナリング阻害剤及びVEGFを除いた培地で行う、[13]の方法。
[15] 工程(a)の培養をアクチビン、BMP4及びbFGFを除いた培地で行う、[7]〜[14]のいずれかの方法。
[16] Wntシグナリング阻害剤が、DKK-1又はIWP-3である、[5]〜[15]のいずれかの方法。
[17] Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を含み、該遺伝子を一過性に共発現し得るベクターからなる、幹細胞からの心筋細胞の分化を誘導する心筋細胞の分化誘導剤。
[18] テトラサイクリン発現誘導システムを有し、該システムによりSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に発現する、[17]の分化誘導剤。
[19] ベクターがピギーバック(piggyBac)ベクターである、[17]又は[18]の分化誘導剤。
[20] 外来のSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に発現可能に含む、心筋前駆細胞。
[21] 外来のSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に発現可能に含む、心筋細胞。
本発明の方法により、幹細胞においてSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過的に共発現させ、その後発現を停止させ、培養を続けることにより、幹細胞から高効率かつ高均一に心筋細胞が分化し得る。特に、従来の複数のサイトカインを組合せて用い多数の培養工程により心筋細胞を分化誘導させる方法と組合せた場合、従来の方法を単独で行うよりも効率よく、より高均一で心筋細胞を分化成熟させることができる。さらに、従来の方法では多数のサイトカインを必要としていたが、本発明のSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過的に共発現させることにより、従来必要とされていた総てのサイトカインを用いなくても心筋細胞に分化誘導させることができた。
本発明の方法で得られる心筋細胞は、FPD(QTインターバル)、拍動(BPM)解析、Naピーク解析等により、心筋細胞の成熟及び機能を解析した場合に、従来の方法に比べ、より成熟し、より機能的に優れた心筋細胞である。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.幹細胞から心筋細胞又は心臓前駆細胞を製造する方法
本発明は、幹細胞から成熟した機能性の心筋細胞への分化を誘導する方法である。本発明の方法により、高効率で高均一な分化心筋細胞を誘導することができる。
1.幹細胞から心筋細胞又は心臓前駆細胞を製造する方法
本発明は、幹細胞から成熟した機能性の心筋細胞への分化を誘導する方法である。本発明の方法により、高効率で高均一な分化心筋細胞を誘導することができる。
分化の誘導とは、幹細胞を心筋細胞に分化させ、成熟させることをいう。成熟した機能性の心筋細胞を誘導する方法は、成熟した機能性の心筋細胞を製造する方法、又は樹立する方法でもある。
心筋細胞を製造するための原料細胞となる幹細胞は、三胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)の細胞に分化する能力を有する多能性幹細胞(Pluripotent stem cell)ならば限定されないが、人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)等の多能性幹細胞が挙げられる。多能性幹細胞の由来生物種は限定されないが、好ましくは、霊長類であり、さらに好ましくは、ヒトである。
本発明の方法においては、幹細胞を原料細胞(出発細胞)として培養し、心筋細胞に分化成熟させる過程において、幹細胞中で外来のSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させ、これらの遺伝子の発現を停止させた後に一定期間さらに培養を続け、心筋細胞に分化成熟させる。幹細胞がヒト由来の場合、ヒトSall1遺伝子及びヒトMesp1遺伝子を用いればよい。
Sall1遺伝子は腎臓等の発生に関与することが報告されている遺伝子であり、Mesp1遺伝子は、塩基性へリックス・ループ・へリックス構造を有する転写因子であり、中胚葉の形成、心臓の形成等に関与することが報告されている。マウスSall1遺伝子の塩基配列を配列番号1に、マウスMesp1遺伝子の塩基配列を配列番号2に示す。
本発明においてSall1遺伝子又はMesp1遺伝子の塩基配列で表されるDNAは、それぞれのDNAが有する活性又はそれぞれのDNAがコードするタンパク質若しくはポリペプチドが有する活性を有している限り、塩基配列に変異を有していてもよい。例えば、それぞれの配列番号で表される塩基配列に相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、それぞれの配列番号で表される塩基配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の配列同一性を有しているDNAを包含する。ストリンジェントな条件は適宜設定することができる。
本発明の方法においては、幹細胞をトータルで10日間以上、好ましくは15日間以上、さらに好ましくは20日間以上、例えば10〜40日間、好ましくは15〜23日間、さらに好ましくは18〜20日間程度浮遊培養により培養する。培養期間の一部期間、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性で共発現させる。Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の共発現は、幹細胞の培養直後、又は培養開始1〜2日後、好ましくは1日後に開始させ、培養開始3〜12日後、好ましくは3〜8日後、さらに好ましくは3〜6日後に発現を停止させる。Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を共発現させる期間は、2〜6日間、好ましくは2〜4日間である。ここで、培養開始後1日後とは、幹細胞の培養を開始してから、15〜35時間、好ましくは20〜28時間、さらに好ましくは24時間をいう。
Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の一過性の共発現は、遺伝子の発現のオン、オフを制御できるシステムを利用して行えばよい。このようなシステムとして、誘導体の存在又は非存在により発現が可逆的に制御されるシステムが挙げられる。例えば、テトラサイクリン(Tet)遺伝子発現誘導システム(M Gossen, H Bujard, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.: 1992, 89(12);5547-51)、Cumateリプレッサータンパク質CymRシステム(Alala Mullich et al., BMC Biotechnology 2006, 6:43)、クメルマイシン/ノボビオシン調節システム(Zhao, H-F. et al, (2003) Hum. Gene Ther., 14, 1619-23)等が挙げられる。
テトラサイクリン(Tet)遺伝子発現誘導システムとして、Tet-On(登録商標)/Tet-Off(登録商標 Gene Expression Systemシステム(Clontech社)が挙げられ、Tet-On(登録商標)システムにおいては、リバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子(rtTA)を発現するTet‐On(登録商標)調節プラスミドと、tetO反復配列を有するテトラサイクリン応答因子(TRE)をコードするプラスミドを使用する。rtTAは変異型Tetリプレッサータンパク質(rTetR)及びVP16活性化ドメイン(AD)により構成される融合タンパク質であり、培地中にDox(ドキシサイクリン)を添加することによりテトラサイクリン応答因子(TRE)と結合し、下流の遺伝子発現を誘導する。Tet-Off(登録商標)システムにおいては、Doxの非存在下で遺伝子の発現を誘導する。
Cumateリプレッサータンパク質CymRシステムは、レンチウイルスベクターを用いて、目的遺伝子を可逆的に発現誘導できるシステムであり、目的遺伝子発現用ベクターとCymRリプレッサー発現用ベクターを細胞に導入し、発現誘導物質Cumateの添加により誘導を行うことができる。Cumateリプレッサータンパク質CymRシステムとして、SparQ Cumate Switch Inducible System(System Biosciences社)を用い得る。
クメルマイシン/ノボビオシン調節システムとして、Regulated Mammalian Expression System(Promega社)を用い得る。
上記の遺伝子の発現のオン、オフを制御できるシステムの中でも、テトラサイクリン(Tet)遺伝子発現誘導システムを好適に用いることができる。発現誘導物質としてドキシサイクリン(Dox)を用いるため、本発明においては、Dox-On/Offシステム又はDox-+/-システムと呼ぶ。
Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の一過性の共発現は、上記の遺伝子の発現のオン、オフを制御できるシステムを組込んだ発現ベクターにSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を組込み、該発現ベクターを心筋細胞に分化成熟させようとする幹細胞に導入すればよい。
ベクターとしては、トランスポゾンベクター、エピソーマルベクター、プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等を用いることができる。好ましくは、幹細胞のゲノムに組込まない方法やゲノムから容易に除去できる方法で導入する。このためには、エピゾーマルベクターやトランスポゾンベクターであるピギーバック(piggyBac)ベクターを用いることが好ましい。
遺伝子発現のためにもちるプロモーターは限定されないが、伸長因子1α(EF1-α)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、CMV-ニワトリβアクチンプロモーター、SV40プロモーター等を用いることができる。
導入したSall1遺伝子及びMesp1遺伝子は発現させる必要がなくなった時点で、細胞から取り除いてもよい。エピソーマルベクターを用いた場合、遺伝子導入ベクターは長期間の培養により自然に消滅する。また、ピギーバックベクターを用いた場合、一旦ゲノムに組込まれた遺伝子をPiggiyBack transposaseにより除去することができる。
幹細胞の培養に用いる培地、培養条件は通常の動物細胞の培養で用いる培地、培養条件を採用すればよい。また、公知の幹細胞培養用培地を用いてもよい。培地には、適宜ウシ胎児血清等の血清やペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質及び種々の生理活性物質を添加してもよい。好ましくは、無血清培地や非ヒト動物成分フリーの培地を用いる。培養器としては、細胞培養用のプレートを用いればよく、例えば96ウェルプレートを用いて1ウェルあたり1個から数個の幹細胞を出発細胞として培養を行えばよい。
本発明の方法においては、細胞の培養期間の一定期間において、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させることを必須の工程とするが、さらに細胞をサイトカインを添加した培地で培養してもよい。種々のサイトカインを添加した培地での培養により幹細胞より心筋細胞を分化させる方法が公知であり(例えば、特表2011-517563号公報及びYang et al. Nature 453:524-528, 2008に記載の方法等)、本発明の、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させる方法は、そのような心筋細胞を分化させる方法と組合せて行うことができる。例えば、細胞中でSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させることに加えて、細胞をさらにアクチビン、BMP4(Bone morphogenetic protein 4)、Wntシグナリング阻害剤(Wnt阻害剤)、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)及びVEGF(血管内皮細胞増殖因子)からなる群から選択されるサイトカインの少なくとも1種のサイトカインを添加した培地で培養すればよい。アクチビンとしては、アクチビンAが好ましい。Wntシグナリング阻害剤としては、DKK-1(Dickkopf1)が挙げられるが、低分子化合物等他のWntシグナリング阻害剤も用いることができる。低分子化合物のWntシグナリング阻害剤として、IWP-3(2-[[3-(4-fluorophenyl)-3,4,6,7-tetrahydro-4-oxothieno[3,2-d]pyrimidin-2-yl]thio]-N-(6-methyl-2-benzothiazolyl)acetamide)等が挙げられる。
ここで、サイトカインを添加した培地での培養とは、元々の培地に含まれておらず、また細胞が産生しないサイトカインを人為的に添加した培地で培養することをいい、細胞が産生するサイトカインは含まない。例えば、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を発現させることにより細胞のDKK-1の発現産生が誘導された場合、DKK-1を添加した培地での培養とは言わない。サイトカインを添加した培地での培養を、サイトカインを添加した状態若しくは条件での培養、又はサイトカインの存在下での培養ということもできる。
サイトカインを添加した培地で幹細胞を培養し、心筋細胞を分化成熟させる方法は、添加するサイトカインの種類が異なる多数の工程で培養を行い、各工程を数日間の日程で行う。このような方法においては、個々の細胞の分化、成熟の進行に誤差が発生し、結果的に心筋に分化成熟しない細胞の混入率が高くなる。
サイトカインを添加した培地での培養とSall1遺伝子及びMesp1遺伝子の一過性の共発現を組合せる本発明の方法によれば、高効率で心筋細胞を分化成熟させることができる。
上記のように、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性の共発現を従来のサイトカインを添加した培地での培養と組合せてもよいし、従来のサイトカインを添加した培地での培養を、添加するサイトカインの種類を減少させる等、簡略化した工程と組合せてもよい。また、従来のサイトカインを添加した培地での培養と組合せずにSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性の共発現させる方法のみで心筋細胞を分化成熟させることもできる。サイトカインを添加した培地での培養は、添加するサイトカインが異なるサイトカインである複数の培養工程で行うことができる。
以下、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の一過性の共発現を従来のサイトカインを添加した培地での培養と組合せて行う方法の例を示す。
サイトカインを添加した培地での培養工程として、アクチビン及びBMP4を添加した培地で培養する工程(a)、Wntの阻害剤であるDKK-1を添加した培地で培養する工程(b)、並びにVFGF及び/又はbFGFを添加した培地で培養する工程(c)が含まれ、工程(a)、(b)、(c)の順序で連続的に培養すればよい。1つの培養工程から、添加するサイトカインが異なる次の培養工程に移行するときには、細胞をサイトカインを含まない培地や生理食塩水等で洗浄し、培地を交換すればよい。
工程(a)においては、アクチビン及びBMP4に加え、bFGFを添加してもよく、工程(b)においては、DKK-1に加えて、VEGFを添加してもよく、さらに工程(a)のサイトカインに加えて、DKK-1又はDKK-1とVEGFを添加してもよい。また、工程(c)において、VEGF及びbFGFに加えてDKK-1を添加してもよい。
アクチビン及びBMP4を添加した培地で培養する工程(a)の前にBMP4を添加した培地で培養する工程を含んでいてもよい。該工程で浮遊培養を行うことにより幹細胞が凝集し細胞塊(クラスター)を形成し、胚様体(EB)が形成される。幹細胞がフィーダー細胞上に維持されている場合、フィーダー細胞を枯渇させればよい。胚葉体を経ずに心筋細胞を分化成熟させる場合や細胞塊を形成している胚様体から心筋細胞の分化成熟のための培養を行う場合は、工程(a)から行えばよい。BMP4を添加した培地で培養し胚様体を形成させる工程を前処理工程や胚様体形成工程と呼び、工程(a)以降を分化誘導工程と呼ぶこともある。
さらに、工程(a)において、アクチビン及びBMP4を添加した培地で培養することにより、中胚葉細胞が誘導される。工程(b)において、心筋細胞系列に分化し、工程(c)において、心筋細胞が分化成熟し得る。
BMP4を添加した培地で培養する工程は、培養開始後1〜2日間、好ましくは1日間行えばよい。工程(a)は1〜4日間、好ましくは2〜3日間、さらに好ましくは2日間行い、工程(b)は3〜10日間、好ましくは3〜7日間、さらに好ましくは5日間行い、工程(c)は3〜24日間、好ましくは4〜15日間、さらに好ましくは12日間行えばよい。工程(c)の後サイトカインを添加しない培地で培養を続けてもよい。トータルの培養期間は、10〜40日間、好ましくは15〜23日間、さらに好ましくは18〜20日間程度である。
サイトカインを添加した培地で工程(a)〜工程(c)の培養を行う場合、あるいは前処理工程と工程(a)〜工程(c)の培養を行う場合、工程(a)及び工程(b)の間の全部期間又は一部期間において、培養細胞中でSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させればよい。好ましくは工程(a)の間、又は工程(a)の間と工程(b)の最初の1〜5日間、好ましくは2〜4日間、さらに好ましくは3日間共発現させればよい。
また、工程(a)の培養を行う期間、アクチビン、BMP4及びbFGFを除いた培地で培養を行ってもよい。本発明においては、この工程を、「工程(a)の培養を、アクチビン、BMP4及びbFGFを添加しない培地での培養」あるいは「工程(a)の培養を、アクチビン、BMP4及びbFGFの非存在下での培養」ともいう。
同様に、工程(b)をDKK-1を除いた培地で行ってもよく、工程(b)をDKK-1及びVEGFを除いた培地で行ってもよい。
DKK-1は初期発生において器官形成等に関与しているWntシグナリング阻害剤として用いており、幹細胞から心筋細胞を分化成熟させるためには培養中の一定期間Wntシグナリングを阻害することが必要になる。細胞において、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を共発現させた場合、細胞におけるDKK-1の発現が誘導され、Wntシグナリングを阻害し得る。従って、上記のサイトカインを添加した培地で行う培養において、DKK-1を添加しない場合でも、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の共発現によりWntシグナリングが阻害され、細胞が心筋細胞へ分化成熟し得る。
また、上記のサイトカインのうち、DKK-1以外のサイトカインの一部、又は全部を添加しない場合でも、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の共発現により幹細胞から心筋細胞が分化成熟し得る。
幹細胞の培養において、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を共発現させると、心臓前駆細胞に分化する。その後、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の発現を停止させ、さらに培養を続けることにより心筋細胞に分化成熟する。
培養時のアクチビンの濃度は0.5ng/mL〜30ng/mL、好ましくは1ng/mL〜10ng/mL、BMP4の濃度は前処理工程においては0.2ng/mL〜1ng/mL、好ましくは0.5ng/mL、工程(a)においては、0.5ng〜20ng/mL、好ましくは0.5ng/mL〜15ng/mL、bFGFの濃度は1.0ng/mL〜10ng/mL、好ましくは3.0ng/mL〜6ng/mL、DKK-1の濃度は100ng/mL〜200ng/mL、好ましくは125ng/mL〜175ng/mL、VEGFの濃度は1.0ng/mL〜50ng/mL、好ましくは1.0ng/mL〜10ng/mLである。DKK-1は、他のWntシグナリング阻害剤と代替的に用いることができるが、例えば、IWP-3(2-[[3-(4-fluorophenyl)-3,4,6,7-tetrahydro-4-oxothieno[3,2-d]pyrimidin-2-yl]thio]-N-(6-methyl-2-benzothiazolyl)acetamide)等の低分子化合物を用いる場合、100nM〜2μMの濃度で用いればよい。
サイトカインを添加した培地で培養し、かつ培養の一部期間Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を共発現させる培養の具体的なプロトコールの例を以下に示す。以下に示すプロトコールは一例であり、本明細書の記載に従って、各工程の培養期間や各工程で添加させるサイトカインの種類を改変することができる。例えば、DKK-1に代えて100nM〜2μMのIWP-3を用いることができる。以下の記載において「+」は前の工程の培養に引き続いて連続的に後の工程の培養を行うことを意味する。
(1) BMP4(1ng/mL)を添加した培地で培養する工程(1日)+アクチビンA(6ng/mL)、BMP4(10ng/mL)及びbFGF(5ng/mL)を添加した培地で培養する工程(a)(2日間)+VEGF(5ng/mL)及びDKK-1(150ng/mL)を添加した培地で培養する工程(b)(5日間)+VFGF及びbFGFを添加した培地で培養する工程(c)(12日間)において、工程(a)の期間(培養開始後1日〜3日目)Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を共発現させる。
(2) BMP4(1ng/mL)を添加した培地で培養する工程(1日)+アクチビンA(6ng/mL)、BMP4(10ng/mL)及びbFGF(5ng/mL)を添加した培地で培養する工程(a)(2日間)+VEGF(5ng/mL)及びDKK-1(150ng/mL)を添加した培地で培養する工程(b)(5日間)+VFGF及びbFGFを添加した培地で培養する工程(c)(12日間)において、工程(a)の期間と工程(b)の最初の3日間(培養開始後1日〜6日目)Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を共発現させる。
(3) BMP4(1ng/mL)を添加した培地で培養する工程(1日)+アクチビンA(6ng/mL)、BMP4(10ng/mL)及びbFGF(5ng/mL)を添加した培地で培養する工程(a)(2日間)+VEGF(5ng/mL)を添加した培地で培養する工程(b)(5日間)+VFGF及びbFGFを添加した培地で培養する工程(c)(12日間)において、工程(a)の期間と工程(b)の最初の3日間(培養開始後1日〜6日目)Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を共発現させる。本プロトコールにおいては、(1)のプロトコールに対して、工程(b)においてDKK-1を除いた培地で培養する。
(4) BMP4(1ng/mL)を添加した培地で培養する工程(1日)+アクチビンA(6ng/mL)、BMP4(10ng/mL)及びbFGF(5ng/mL)を添加した培地で培養する工程(a)(2日間)+VEGF及びDKK-1を添加しない培地で培養する工程(b)(5日間)+VFGF及びbFGFを添加した培地で培養する工程(c)(12日間)において、工程(a)の期間と工程(b)の最初の3日間(培養開始後1日〜6日目)Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を共発現させる。本プロトコールにおいては、(1)のプロトコールに対して、工程(b)において、VEGF及びDKK-1を除いた培地を用いる。
(5) BMP4(1ng/mL)を添加した培地で培養する工程(1日)+アクチビンA、BMP4及びbFGFを添加しない培地で培養する工程(a)(2日間)+VEGF及びDKK-1を添加しない培地で培養する工程(b)(5日間)+VFGF及びbFGFを添加した培地で培養する工程(c)(12日間)において、工程(a)の期間と工程(b)の最初の3日間(培養開始後1日〜6日目)Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を共発現させる。本プロトコールにおいては、(1)のプロトコールに対して、工程(b)において、VEGF及びDKK-1を除いた培地を用い、工程(c)においてVEGF及びDKK-1を除いた培地を用いる。
上記プロトコール(2)〜(5)においては、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の共発現を培養開始後1日〜6日目に行っているが、これを工程(a)の培養期間である培養開始後1日〜3日に短縮してもよい。
これらのプロトコールの中でも(1)、(2)及び(4)のプロトコールにより、成熟した心筋細胞を高効率で製造することができ、特に(1)及び(4)のプロトコールが優れている。(4)のプロトコールは従来必須のサイトカインとして用いられていたWntシグナリング阻害剤である高価なDKK-1の添加が不要になるという点で特に有用である。
本発明の方法により、幹細胞を出発細胞として培養を行うことにより、最終的に心筋細胞の細胞塊が形成される。得られる細胞塊において塊の外側の細胞だけでなく、塊の内部の細胞も成熟分化した心筋細胞である。
上記のように、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させた後に発現を停止させ、さらに培養を続けると心筋細胞に分化成熟するが、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を共発現させたままでおき、発現を停止させないと細胞は心臓前駆細胞に留まる。また、サイトカインの組合せ方によっては、幹細胞が心臓前駆細胞まで分化し留まる。本発明は、心臓前駆細胞を製造する方法も包含する。
本発明の方法で得られた心臓前駆細胞は、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の発現のオン、オフを制御できるシステムを保持しており、心臓前駆細胞を心筋細胞に分化成熟させるときには、該発現制御システムをオフにした状態で、すなわちSall1遺伝子及びMesp1遺伝子が発現しない状態で培養すればよい。
2.本発明の方法で製造された心筋細胞の特性
本発明の方法で培養した幹細胞が心筋細胞に分化成熟したかどうかは心筋細胞のマーカーの発現を測定することにより確認することができる。
本発明の方法で培養した幹細胞が心筋細胞に分化成熟したかどうかは心筋細胞のマーカーの発現を測定することにより確認することができる。
心筋細胞のマーカーとしては、トロポニンT、トロポニンI、ミオシン軽鎖等が挙げられる。トロポニンTは心筋細胞か否かの判定の指標となり、トロポニンTが発現している場合、心筋細胞に分化したと判定することができる。また、トロポニンIは心筋細胞の成熟度の指標となり、トロポニンIが発現している場合、成熟した心筋細胞であると判定することができる。また、ミオシン軽鎖も心筋細胞の成熟度の指標となり、ミオシン軽鎖が発現している場合、成熟した心筋細胞であると判定することができる。
さらに、成熟した心筋細胞は集合し線維状のサルコメア(超分子集合体)を形成するので、培養により得られた細胞塊中にサルコメア構造が認められるときは心筋細胞が機能性の心筋を構成していると判定することができる。
マーカーの確認は、蛍光免疫染色等の免疫学的測定法により発現したタンパク質を測定してもよいし、PCR等によりmRNAを測定してもよい。これらの測定は公知の方法により行うことができる。
本発明の方法により幹細胞を培養することにより得られた細胞塊中において、95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは98.5%以上の細胞がトロポニンTを発現しており、心筋細胞へ分化している。
従来の心筋細胞の分化誘導方法では、心筋細胞を含む細胞塊において、外側には分化成熟した心筋細胞が存在するが、細胞塊の内部には未分化の細胞が多数存在する。一方、本発明の方法においては、心筋細胞を含む細胞塊において、外側だけでなく細胞塊の内部も成熟した心筋細胞がほとんどを占める。
本発明の方法により、均一性の高い分化成熟心筋細胞を製造することができる。均一性が高いとは、心筋前駆細胞等の未分化細胞の混入率が低いことをいい、前記のトロポニンT等の発現率で均一性を判断することができる。
さらに、本発明の方法で製造した心筋細胞の生理学的特性を解析することにより心筋細胞の成熟度及び機能性心筋であることを確認することができる。
生理学的特性の解析は、例えば得られた心筋細胞を1個の細胞として、又は細胞塊として用い、フィールドポテンシャル(細胞外活動電位)を計測すればよい。フィールドポテンシャルは、多数の電極を有するディッシュ上にサンプルを載せ測定する方法により測定することができ、例えば、MEA2100マルチ電極アレイシステム(Multi Channel Systems社)を用いて測定することができる。
フィールドポテンシャルの測定により、FPD(QTインターバル)、拍動(BPM)解析、Naピーク解析を行うことができ、これらの解析により心筋細胞の安定性、成熟及び機能を確認することができる。
FPD(QTインターバル)は、心室筋の収縮から拡張期に入るまでの時間であり、Naチャネルによる脱分極(20〜0mV)からKチャネルによる再分極が起こり、静止膜電位(-80〜90mV)にかかる時間をいう。FPDの延長(QT延長)が認められる場合、不整脈の原因となり得るので好ましくない。FPDが440ms以上の場合、QT延長があることを示す。
本発明の方法で分化成熟させた心筋細胞のFPDは、300ms以下、好ましくは200ms以下、さらに好ましくは180ms以下である。
ヒトの心筋細胞の拍動は約40〜60であり、未成熟の心筋細胞では早くなり、弱っている心筋細胞では遅くなる。本発明の方法で分化成熟させた心筋細胞の拍動は40〜60である。
Naピークは、心室筋の収縮、Naチャネルの脱分極による電位であり、拍動の強さを示し、成熟した心筋細胞ほど高くなる。
本発明の方法で分化成熟させた心筋細胞のNaピークは1500μV以上、好ましくは2000μV以上、さらに好ましくは2200μV以上である。
本発明の方法で分化成熟させた心筋細胞のFPD、拍動、Naピークは、該細胞の拍動が良好であり、QT延長が認められず、十分成熟していることを示している。
心筋細胞のマーカー及び生理学的解析の結果は、本発明の方法で分化成熟させた心筋細胞の成熟度が高くかつ機能性が高いことを示している。
本発明の方法により、心臓前駆細胞も得ることができるが、心臓前駆細胞のマーカーとしては、ISLET1を用いることができる。
本発明は、本発明の方法で得られた、心筋細胞及び心臓前駆細胞も包含する。該心筋細胞及び心臓前駆細胞は外来のSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に発現可能に含む。
3.本発明の方法で製造した心筋前駆細胞及び心筋細胞の利用法
本発明の方法で得られた心筋細胞は心臓の再生医療に用いることができる。心臓疾患に罹患している患者の心臓に本発明の方法で製造した心筋細胞の細胞塊を含む組成物を投与すればよい。心臓疾患としては、心筋梗塞、虚血性心疾患、心筋症、心筋炎、心不全等が挙げられる。
本発明の方法で得られた心筋細胞は心臓の再生医療に用いることができる。心臓疾患に罹患している患者の心臓に本発明の方法で製造した心筋細胞の細胞塊を含む組成物を投与すればよい。心臓疾患としては、心筋梗塞、虚血性心疾患、心筋症、心筋炎、心不全等が挙げられる。
本発明の方法で得られた心筋細胞は心筋細胞シートを形成することができ、単層又は多層のシートを心疾患患者の心臓に移植してもよい。
本発明の方法で得られた心筋細胞は均一性が高いため、テラトーマを形成するリスクも少ない。
さらに、本発明の方法で得られた心筋細胞は均一に成熟しており、心疾患の治療のための薬剤スクリーニングに利用することもできる。例えば、本発明の方法で得られた心筋細胞に候補薬剤を投与し、心筋細胞の応答を調べることにより、薬剤のスクリーニングや薬剤の効果の評価を行うことができる。
本発明の方法で得られた心臓前駆細胞は、サイトカインを添加した培養により、心筋細胞に分化成熟させることができる。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1 テトラサイクリン(Tet)遺伝子発現誘導システムによるヒトiPS細胞でのSall1遺伝子及びMesp1遺伝子の一過的発現
テトラサイクリン(Tet)遺伝子発現誘導システムを用いてヒトiPS細胞において、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過的に発現させた。
テトラサイクリン(Tet)遺伝子発現誘導システムを用いてヒトiPS細胞において、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過的に発現させた。
テトラサイクリン(Tet)遺伝子発現誘導システムとして、図1にコンストラクトの構造を示す"All-in-One" inducible piggyBac vectorを用い、該ベクターにSall1遺伝子及びMesp1遺伝子をエレクトロポレーションにより挿入し、ヒトiPS細胞に導入した。Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の発現のオンオフは、Dox(ドキシサイクリン)の培養への添加により行った。
Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の心筋細胞の分化成熟への関与を確認するため、マウス細胞を用いたSall1遺伝子、Mesp1遺伝子をノックアウトした場合の心筋マーカーの発現を示す。結果を図2に示す。Sall1遺伝子とMesp1遺伝子のDKO(ダブルノックアウト)は心臓転写因子の発現が見受けられず、心臓形成領域も消失していた(右下:白&ピンク色細胞の消失)。
図3に図1の一過的強制発現系のコンストラクトを用いて一過的に強制発現させた結果を示す。MLC2v及びcTNTは心筋マーカーであり、それぞれ、心室2型ミオシン軽鎖及び心筋トロポニンTを示す。図3に示すように、Sall1遺伝子とMesp1遺伝子の強制発現系は誘導後20日で心筋分化マーカーとなる心室筋特異的サルコメアタンパクが均一に発現していた(DOX+細胞:緑&黄色)。
また、トロポニンTは培養開始(誘導)20日後で、約80%の細胞に発現していた。また、細胞塊の外側の細胞だけでなく、内側の細胞においても発現していた。
実施例2 ヒトiPS細胞からの心筋誘導
Kellerグループのサイトカインを用いて心筋細胞を分化させるプロトコールをよりヒトiPS細胞用に適するように改変した(Yang et al., Nature 452 524-528, 2008)。基本培地としては、hMSC用の無血清培地であるSTEMPRO(登録商標)を用いた。図4#1(通常)に基本のプロトコールを示す。
Kellerグループのサイトカインを用いて心筋細胞を分化させるプロトコールをよりヒトiPS細胞用に適するように改変した(Yang et al., Nature 452 524-528, 2008)。基本培地としては、hMSC用の無血清培地であるSTEMPRO(登録商標)を用いた。図4#1(通常)に基本のプロトコールを示す。
各培養工程で用いた培地の詳細は以下の通りであった。
Wntシグナリング阻害剤としては、DKK-1やその他の化合物を代替的に用いることができるが、本実施例では、IWP-3(2-[[3-(4-fluorophenyl)-3,4,6,7-tetrahydro-4-oxothieno[3,2-d]pyrimidin-2-yl]thio]-N-(6-methyl-2-benzothiazolyl)acetamide)を用いた。
Wntシグナリング阻害剤としては、DKK-1やその他の化合物を代替的に用いることができるが、本実施例では、IWP-3(2-[[3-(4-fluorophenyl)-3,4,6,7-tetrahydro-4-oxothieno[3,2-d]pyrimidin-2-yl]thio]-N-(6-methyl-2-benzothiazolyl)acetamide)を用いた。
分化誘導の手順は以下の通りであった。
(1)0日目〜1日目:AGGREGATION(前処理工程)
培地を除去し、PBSで2回洗浄した。PBSを除去し、CTK solution 0.5ml入れ、37℃ 2min インキュベートした。CTK solutionを除去し、PBSで2回洗浄した。PBSを除去し、Accumax を1ml入れ、37℃ 5minインキュベートし、コロニーを浮かせた。その間に、50mlチューブにWash培地(ヒトiPS細胞用組成)を4ml分注した。コロニーが剥がれたら、ピペッティングで単一細胞とし、上記のチューブへ移した。その後、遠心し(800rpm, 5min)、遠心後、上清を除去し、Aggrigation medium 1mlで細胞を再懸濁し、細胞数をカウントした。細胞数を2500〜5000 cells/70μl (35714 cells/ml)になるように調整し、細胞懸濁液を96well plate(70μl/well)に播種し、低酸素用(5%)インキュベーターでインキュベートした。
(1)0日目〜1日目:AGGREGATION(前処理工程)
培地を除去し、PBSで2回洗浄した。PBSを除去し、CTK solution 0.5ml入れ、37℃ 2min インキュベートした。CTK solutionを除去し、PBSで2回洗浄した。PBSを除去し、Accumax を1ml入れ、37℃ 5minインキュベートし、コロニーを浮かせた。その間に、50mlチューブにWash培地(ヒトiPS細胞用組成)を4ml分注した。コロニーが剥がれたら、ピペッティングで単一細胞とし、上記のチューブへ移した。その後、遠心し(800rpm, 5min)、遠心後、上清を除去し、Aggrigation medium 1mlで細胞を再懸濁し、細胞数をカウントした。細胞数を2500〜5000 cells/70μl (35714 cells/ml)になるように調整し、細胞懸濁液を96well plate(70μl/well)に播種し、低酸素用(5%)インキュベーターでインキュベートした。
(2)1日目〜3日目(工程(a))
(1)で作製したEB(杯様体:embryoid body)(1well: 70μl)の上から2xInduction Medium 1を70μlずつ添加し、低酸素用(5%)インキュベーターでインキュベートした。
(1)で作製したEB(杯様体:embryoid body)(1well: 70μl)の上から2xInduction Medium 1を70μlずつ添加し、低酸素用(5%)インキュベーターでインキュベートした。
(3)3日目〜8日目(工程(b))
培養開始3日目又は4日目に以下の操作を行った。
EBを15mlチューブに回収し、数分静置してEBを自然落下させた後、上清を除去した。Accumaxを添加し、37℃で5分インキュベートした。インキュベート後、ピペッティングでEBを崩して単一細胞にし、IMDMを5ml加え遠心(800 rpm 5min)した。遠心後、上精をできるだけ除去し、1mlのInduction Medium 2を加えて細胞数をカウントした。細胞数を10000cells/100μl(1x105 cells/ml)になるように調整し、細胞懸濁液を96well plate(100μl/well)に播種し、低酸素用(5%)インキュベーターでインキュベートしたする。
培養開始3日目又は4日目に以下の操作を行った。
EBを15mlチューブに回収し、数分静置してEBを自然落下させた後、上清を除去した。Accumaxを添加し、37℃で5分インキュベートした。インキュベート後、ピペッティングでEBを崩して単一細胞にし、IMDMを5ml加え遠心(800 rpm 5min)した。遠心後、上精をできるだけ除去し、1mlのInduction Medium 2を加えて細胞数をカウントした。細胞数を10000cells/100μl(1x105 cells/ml)になるように調整し、細胞懸濁液を96well plate(100μl/well)に播種し、低酸素用(5%)インキュベーターでインキュベートしたする。
(4)8日目以降(工程(c))
EBを回収し、24 well plateに移し(1wellあたり10EBsまで)、全て移し終わったら、plateを傾けて数分静置し、上清を除去した。1wellあたり300〜400μlのINDUCTION MEDIUM 3を添加し、低酸素用(5%)インキュベーターでインキュベートした。
EBを回収し、24 well plateに移し(1wellあたり10EBsまで)、全て移し終わったら、plateを傾けて数分静置し、上清を除去した。1wellあたり300〜400μlのINDUCTION MEDIUM 3を添加し、低酸素用(5%)インキュベーターでインキュベートした。
サイトカインを添加した培地での培養中、一定期間実施例1のテトラサイクリン(Tet)遺伝子発現誘導システムを用い、ドキシサイクリン(Dox)の添加(on)、除去(off)によりSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過的に発現させた。基本のプロトコールでは、1日目〜3日目まで(3日間)発現させた。
基本のプロトコールは図4#1(通常)の通りであったが、添加するサイトカイン及びSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過的に発現させる期間を変更した(図4の#2〜#5)。
#2(2因子の長期強制発現)のプロトコールにおいては、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を1日目〜6日目まで発現させた。#3(DKK-1のみ無添加)のプロトコールにおいては、工程(b)において、Wntシグナリング阻害剤を除去し、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を1日目〜6日目まで発現させた。#4(心筋誘導に関わるDKK-1/VEGFの両方無添加)のプロトコールにおいては、工程(b)において、VEGF及びWntシグナリング阻害剤を除いて培養を行い、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を1日目〜6日目まで発現させた。また、#5(心臓中胚葉誘導(アクチビン)と心筋誘導に関わるDKK-1/VEGFの両方無添加)においては、工程(a)において、アクチビン、BMP4及びbFGFを除いて培養を行い、工程(b)において、VEGF及びWntシグナリング阻害剤を除いて培養を行い、Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を1日目〜6日目まで発現させた。
培養開始10日後に、培養細胞よりRNAを抽出し、心筋マーカー遺伝子(TNNT2(トロポニンT)、MYL7(Myosin, light chain 7, regulatory)、ISL1(Islet1)の発現を確認した。結果を図5に示す。プロトコール#1、#4でSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を発現させた場合(DOX+)で、心筋細胞マーカーの顕著な発現が認められた。また、プロトコール#2でもSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を発現させた場合(DOX+)に認められた。他のプロトコールでもSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を発現させた場合(DOX+)に、ISL1の発現が認められた。これは心臓前駆細胞への分化を示している。
本願発明のSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を発現させるプロトコールでは、単にサイトカインを添加した培地で培養する方法よりも、高い効率で均一な心筋細胞の分化成熟が認められ、さらに、Wnt阻害剤等一部のサイトカインを添加しなくても心筋細胞への分化成熟が認められた。
図6にプロトコール#1で分化成熟させた細胞塊(心臓塊)の心筋トロポニンIと心筋トロポニンTの発現を示す。トロポニンTは心筋細胞か否かの判定の指標となり、トロポニンTが発現している場合、心筋細胞に分化したと判定することができる。本発明の方法で樹立した心臓塊は99%の細胞が心筋細胞へと分化していた。
実施例3 細胞塊(心臓塊)の生理学的特性の解析
MEA2100マルチ電極アレイシステム(Multi Channel Systems社)を用いて、得られた分化成熟した細胞塊(心臓塊)について、FPD(QTインターバル)、拍動(BPM)解析、Naピーク解析を行った。結果を図7に示す。DOX+がSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を発現させて得られた細胞塊の結果である。
MEA2100マルチ電極アレイシステム(Multi Channel Systems社)を用いて、得られた分化成熟した細胞塊(心臓塊)について、FPD(QTインターバル)、拍動(BPM)解析、Naピーク解析を行った。結果を図7に示す。DOX+がSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を発現させて得られた細胞塊の結果である。
コントロールとして、他の従来法で分化させた心筋細胞塊(A及びB)の結果、並びにSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を発現させないで得られた細胞塊の結果(DOX-)を示す。
図7に示すように、本願発明の方法で得られた細胞塊の拍動数は53、FPD(ms)は180、Naピーク(μV)は2400であった。この結果は、本願発明の方法で得られた細胞塊が機能的に安定しており、成熟した心筋細胞塊(心臓塊)であることを示している。
一方、Aは安定しているが成熟度は低く、Bは成熟度は高いがQT延長が認められるという問題があった。
さらに、本願発明の方法で得られた細胞塊(心筋)を用いて心筋シート形成を行った。図8に示すように、本願発明の方法で得られた細胞塊は心筋シート形成能力を有していた。
本発明の方法で得られた心筋細胞は、心臓の再生医療や心疾患治療のための薬剤スクリーニングに利用することができる。
Claims (21)
- 幹細胞を原料細胞として培養し、分化成熟した心筋細胞を製造する方法であって、培養細胞中においてSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させることを含む、心筋前駆細胞又は分化成熟した心筋細胞を製造する方法。
- 幹細胞を原料細胞として培養し、分化成熟した心筋細胞を製造する方法であって、培養細胞中においてSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させ、その後発現を停止させた後に一定期間培養を続けることを含む、請求項1記載の分化成熟した心筋細胞を製造する方法。
- Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子の一過性の共発現をテトラサイクリン発現誘導システムにより制御する、請求項1又は2に記載の方法。
- 細胞の培養を10日間以上行い、培養開始1〜2日経過後に培養細胞中でSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させ、培養開始3〜8日後に発現を停止させる請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- さらに、細胞をアクチビン、BMP4、Wntシグナリング阻害剤、bFGF及びVEGFからなる群から選択されるサイトカインの少なくとも1種のサイトカインを添加した培地で培養することを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- アクチビンがアクチビンAである、請求項5記載の方法。
- サイトカインを添加した培地での細胞の培養が、アクチビン及びBMP4を添加した培地で培養する工程(a)、Wntシグナリング阻害剤を添加した培地で培養する工程(b)、並びにVFGF及びbFGFを添加した培地で培養する工程(c)をこの順序で含み、工程(a)及び工程(b)の間の全部期間又は一部期間において、培養細胞中においてSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に共発現させる、請求項5又は6に記載の方法。
- 工程(a)の培養を1〜4日間行い、その後、工程(b)の培養を3〜6日間行い、さらにその後、工程(c)の培養を6〜15日間行う、請求項7記載の方法。
- アクチビン及びBMP4を添加した培地で培養する工程(a)において、さらにbFGFを添加する、請求項7又は8に記載の方法。
- Wntシグナリング阻害剤を添加した培地で培養する工程(b)において、さらにVEGFを添加する、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
- VFGF及びbFGFを添加した培地で培養する工程(c)において、さらにWntシグナリング阻害剤を添加する、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
- アクチビン及びBMP4を添加した培地で培養する工程(a)の前にBMP4を添加した培地で培養する工程を1〜2日行うことを含む、請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法。
- 工程(b)の培養をWntシグナリング阻害剤を除いた培地で行う、請求項7〜12のいずれか1項に記載の方法。
- 工程(b)の培養をWntシグナリング阻害剤及びVEGFを除いた培地で行う、請求項13記載の方法。
- 工程(a)の培養をアクチビン、BMP4及びbFGFを除いた培地で行う請求項7〜14のいずれか1項に記載の方法。
- Wntシグナリング阻害剤が、DKK-1又はIWP-3である、請求項5〜15のいずれか1項に記載の方法。
- Sall1遺伝子及びMesp1遺伝子を含み、該遺伝子を一過性に共発現し得るベクターからなる、幹細胞からの心筋細胞の分化を誘導する心筋細胞の分化誘導剤。
- テトラサイクリン発現誘導システムを有し、該システムによりSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に発現する、請求項17記載の分化誘導剤。
- ベクターがピギーバック(piggyBac)ベクターである、請求項17又は18に記載の分化誘導剤。
- 外来のSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に発現可能に含む、心筋前駆細胞。
- 外来のSall1遺伝子及びMesp1遺伝子を一過性に発現可能に含む、心筋細胞。
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