本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、二重管構造の回転軸を備えた変速機において、簡単な構造でシール部材からの作動油の滲みや漏れを防止できると共に、回転軸の径寸法の小型化を図ることができる回転軸支持構造を提供することにある。
上記課題を解決するための本発明にかかる変速機の回転軸支持構造は、軸方向の両側の端部がケーシング(10)に対して回転自在に支持された第一回転軸(14A)と、第一回転軸(14A)と同心軸上の外側に配置される中空の第二回転軸(14B)と、第一回転軸(14A)の外周面上(14e)又は第二回転軸(14B)の内周面上に設置したニードルベアリング(110)と、第一回転軸(14A)と第二回転軸(14B)との径方向の隙間に形成した油路(112)と、ニードルベアリング(110)に対して軸方向で隣接して配置されて油路(112)を密封するシール部材(121)と、を備え、ニードルベアリング(110)とそれに対向する第二回転軸(14B)の内周面(14a)又は第一回転軸(14A)の外周面との径方向の隙間には、環状のクリアランス部(107)が設けられていることを特徴とする。
本発明にかかる変速機の回転軸支持構造は、内周側の第一回転軸と外周側の第二回転軸との二重構造とした回転軸において、第一回転軸が環状のクリアランス部の隙間寸法以上に変形した際に対向する部材(第二回転軸の内周面又は第一回転軸の外周面)と接触するように設定したいわゆる偏心抑制用のニードルベアリングを設置している。これにより、第一回転軸に予め設定した寸法を超える大きな変形(撓み変形)が生じることを抑制できるため、第一回転軸に撓みが生じたときにも第一回転軸と第二回転軸との径方向の隙間に形成した油路の密封性能(シール性能)を確保できる。また、上記の偏心抑制用のニードルベアリングを備えることで、シール部材を設けた部分における第一回転軸の外周面と第二回転軸の内周面との隙間寸法をより小さな寸法に設定することが可能となる。したがって、シール部材からの作動油の滲みや漏れを効果的に低減することが可能となる。
また、本発明によれば、第一回転軸に予め設定した寸法を超える大きな変形(撓み変形)が生じるような大きな荷重がかかる場合に偏心抑制用のニードルベアリングが作用するように構成したことで、その分、内周軸又は外周軸を支持するベアリングなどの耐荷重性能を低く抑えることができる。したがって、内周軸又は外周軸の径寸法を小型化することができ、変速機の小型化及び軽量化を図ることができる。
また、本発明によれば、上記偏心抑制用のニードルベアリングを設けたことで、第一回転軸を回転自在に支持するベアリングなどの部品精度や取付位置の誤差(いわゆるミスアライメント)による当該ベアリングや第一回転軸の周辺部品の寿命低下を抑えることができる。
さらに、上記のニードルベアリングは、第一回転軸が予め設定した寸法以上に変形した場合にのみ荷重を受ける構造であるため、当該ニードルベアリングの耐久性及び長寿命化を確保でき、第一回転軸の撓み発生時の耐性を向上させることができる。
また、この変速機の回転軸支持構造では、ニードルベアリング(110)と軸方向の同位置における第二回転軸(14B)の外周側に設置され、ケーシング(10)に対して第二回転軸(14B)を回転自在に支持するボールベアリング(105)を備えるとよい。
この構成によれば、ニードルベアリングは、外径側の第二回転軸をケーシングに対して回転自在に支持するボールベアリングと軸方向の同位置に設置されていることで、ニードルベアリングの寸法及び容量(耐荷重容量)を小さく抑えることができる。また、ニードルベアリングが外径側の第二回転軸に接触する際の荷重がボールベアリングで受け止められるので、当該荷重による第二回転軸の変位を抑制できる。したがって、第二回転軸の変位による周辺の他の部品への影響を少なく抑えることができる。
また、この変速機の回転軸支持構造では、第二回転軸(14B)上に設置された固定プーリ(21A)及び可動プーリ(21B)を有する変速用のプーリ機構(21)と、可動プーリ(21B)を軸方向に駆動するための作動油の油圧が供給されるピストン室(111)と、第一回転軸(14A)の内周側から油路(112)に連通する第一連通路(113)と、油路(112)から第二回転軸(14B)の外周側のピストン室(111)に連通する第二連通路(115)と、を備え、シール部材(121)は、ニードルベアリング(110)に対して軸方向の一方に配置されており、第一連通路(113)及び第二連通路(115)は、ニードルベアリング(110)に対して軸方向の他方に配置されているとよい。
この構成によれば、ニードルベアリングを油路内に設置していることで、ニードルベアリングを潤滑するための油路を別途に追加する必要はない。したがって、変速機の構造の簡素化を図ることができる。
また、この変速機の回転軸支持構造では、ニードルベアリング(110)は、第一回転軸(14A)と第二回転軸(14B)とを相対回転可能に支持する第一ニードルベアリング(110)であり、シール部材(121)は、油室(112)の軸方向における一方の端部を密封する第一シール部材(121)であり、第一ニードルベアリング(110)に対して軸方向の他方で第一回転軸(14A)と第二回転軸(14B)とを相対回転自在に支持する第二ニードルベアリング(120)と、軸方向における第一ニードルベアリング(110)と第二ニードルベアリング(120)との間に配置した第二シール部材(122)と、を備え、第二ニードルベアリング(120)は、対向する第二回転軸(14B)の内周面(14a)又は第一回転軸(14A)の外周面と常時接触している構造であってよい。
この構成によれば、軸方向の二箇所に設けた第一ニードルベアリングと第二ニードルベアリングとで第一回転軸を支持することにより、第一回転軸に生じる撓み変形を最小限に抑えることができる。また、第二シール部材を設けたことで、油路のより高い密封性能(シール性能)を確保することが可能となる。
また、この変速機の回転軸支持構造では、第一回転軸(14A)の外周面(14e)には、第一ニードルベアリング(110)を収容してなる凹部(140)が形成されていてよい。
この構成によれば、第一回転軸の外周面にニードルベアリングを収容する凹部を形成したことで、ニードルベアリングの組付性の向上を図ることができると共に、ニードルベアリングに必要な設置スペースを確保でき、ニードルベアリングに最大限のベアリング容量を持たせることが可能となる。
また、この場合、第一回転軸(14A)の凹部(140)の位置の径寸法(D1)は、軸方向におけるその両側の位置の径寸法(D2)よりも大きな寸法に設定されていてよい。
この構成によれば、ニードルベアリングが対向する部材(外周軸の内周面又は内周軸の外周面)に接触する場合にも第一回転軸の剛性を確保することが可能となる。
また、この変速機の回転軸支持構造では、第二回転軸(14B)の軸方向の端部(14b)又はその近傍に設置したギヤ(109)を備え、第二回転軸(14B)の端部(14b)と軸方向の同位置における第一回転軸(14A)の径寸法(D2)は、凹部(140)の位置の径寸法(D3)よりも小さな寸法に設定されていてよい。
上記のような第二回転軸の軸方向の端部又はその近傍に設置したギヤを備える場合、当該ギヤに発生するスラスト荷重が第二回転軸の端部にかかることで第二回転軸の端部が撓むおそれがある。しかしながら上記構成では、第二回転軸の端部と軸方向の同位置における第一回転軸の径寸法を凹部の位置の径寸法よりも小さな寸法に設定していることで、第二回転軸の端部に撓みが生じた場合でも第二回転軸の端部が第一回転軸と干渉することを防止できる。
また、この変速機の回転軸支持構造では、クリアランス部(107)の隙間寸法(S1)は、第一回転軸(14A)にかかるトルクが最大値となるときにニードルベアリング(110)がそれに対向する第二回転軸(14B)の内周面(14a)又は第一回転軸(14A)の外周面に接触する寸法に設定されていてよい。
この構成によれば、第一回転軸に最大トルクが通過するときにのみニードルベアリングが第二回転軸の内周面又は第一回転軸の外周面に接触するように設定したことで、ニードルベアリングが他の部材に接触する時間及び接触する回数を最小限に抑えることができる。これにより、より小容量かつ小型のニードルベアリングを選択することが可能となるので、変速機及びそれを備える車両の低コスト化及び小型化・軽量化を図ることができる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
本発明にかかる変速機の回転軸支持構造によれば、二重管構造の回転軸を備えた変速機において、簡単な構造でシール部材からの作動油の滲みや漏れを防止できると共に、回転軸の径寸法の小型化を図ることができる。
本発明の一実施形態に係る回転軸支持構造を備えた変速機のスケルトン図である。
第一出力軸及びその周辺の部分拡大側断面図である。
図2のX部分の拡大図である。
図2のY部分の拡大図である。
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る回転軸支持構造を備える変速機のスケルトン図である。同図に示す変速機1は、車両に搭載されたエンジン(駆動源)Eからの駆動力の回転を変速して駆動輪側に出力する変速機であって、エンジンEのクランクシャフト16と入力軸13との間に設置されたトルクコンバータ12を備えている。本実施形態の変速機1を備えた車両では、発進時の半クラッチ制御はトルクコンバータ12によって行われる。変速機1は、駆動源Eからトルクコンバータ12を介して接続された入力軸13と、入力軸13に対して平行に配置された第一出力軸14と第二出力軸15とを備える。
入力軸13は、駆動源Eからの駆動力が入力される主入力軸13Aと、主入力軸13Aと回転中心が同じで第一クラッチ61を介して連結される中空の第一副入力軸13Bと、主入力軸13Aと回転中心が同じで第二クラッチ62を介して連結される第二副入力軸13Cとから構成される。第二副入力軸13Cは、第一副入力軸13Bの内部を貫通している。
第一出力軸14と第二出力軸15との間には、無段変速機構20が配設される。無段変速機構20は、第一出力軸14に設けられた第一プーリ21と、第二出力軸15に設けられた第二プーリ22と、第一プーリ21と第二プーリ22との間に巻き掛けられた無端ベルト23とを備える。第一プーリ21及び第二プーリ22の溝幅は油圧によって相互に逆方向に増減し、第一出力軸14及び第二出力軸15間の変速比を連続的に変化させる。第一プーリ21は、第一出力軸14の外周軸14Bに固定された第一固定プーリ21Aと、第一固定プーリ21Aに対して接近・離間可能な第一可動プーリ21Bとで構成される。また、第二プーリ22は、第二出力軸15に固定された第二固定プーリ22Aと、第二固定プーリ22Aに対して接近・離間可能な第二可動プーリ22Bとで構成される。
入力軸13と第一出力軸14との間には、入力軸13に配設される第一伝達駆動ギヤ51Aと、第一出力軸14の外周軸14Bに配設される第一伝達従動ギヤ51Bとからなる第一伝達経路51が設けられている。第一伝達駆動ギヤ51Aと第一伝達従動ギヤ51Bのギヤ比は1よりも大きい。そのため、第一伝達駆動ギヤ51Aと第一伝達従動ギヤ51Bは、入力軸13からの駆動力を減速させて伝達する減速ギヤ列として機能する。
入力軸13と第二出力軸15との間には、入力軸13に配設される第二伝達駆動ギヤ52Aと、第二出力軸15に配設される第二伝達従動ギヤ52Bとからなる第二伝達経路52が設けられている。第二伝達駆動ギヤ52Aと第二伝達従動ギヤ52Bのギヤ比は1よりも小さい。そのため、第二伝達駆動ギヤ52Aと第二伝達従動ギヤ52Bは、入力軸13からの駆動力を増速させて無段変速機構20に伝達する増速ギヤ列として機能する。
入力軸13と第一出力軸14との間には、入力軸13に配設される第三伝達駆動ギヤ53Aと、第一出力軸14に配設される第三伝達従動ギヤ53Cと、第三伝達駆動ギヤ53Aと第三伝達従動ギヤ53Cとの間に配設される第三伝達アイドルギヤ53Bとからなる第三伝達経路53が設けられている。第三伝達アイドルギヤ53Bはアイドル軸17上に支持されている。第三伝達アイドルギヤ53Bがあることによって、上記の3つのギヤ53A,53B,53Cからなるギヤ列は、駆動力の回転方向を逆転させて伝達するギヤ列として機能する。
第一出力軸14と第二出力軸15との間には、第二出力軸15に配設される中間伝達駆動ギヤ54Aと、第一出力軸14に配設される中間伝達従動ギヤ54Cと、中間伝達駆動ギヤ54Aと中間伝達従動ギヤ54Cとの間に配設される中間伝達アイドルギヤ54Bとからなる第四伝達経路54が設けられている。中間伝達アイドルギヤ54Bはアイドル軸18上に支持されている。ここで、図1において、中間伝達アイドルギヤ54Bと中間伝達従動ギヤ54Cは隣接していないが、実際には、中間伝達アイドルギヤ54Bと中間伝達従動ギヤ54Cとは互いに隣接し、これらは互いに噛合(係合)している。
入力軸13と同軸には、前後進切換機構70が配設される。前後進切換機構70は、入力軸13からの駆動力を第二伝達経路52に伝達するか第三伝達経路53に伝達するかを選択的に切り換えるように構成されている。入力軸13の第二副入力軸13Cには、第二伝達駆動ギヤ52A及び第三伝達駆動ギヤ53Aが相対回転自在に支持されており、前後進切換機構70のスリーブ71を中立位置から図中左に動かすと、第二伝達駆動ギヤ52Aと入力軸13の第二副入力軸13Cとが結合し、駆動力が入力軸13から第二伝達経路52側に伝達される。一方、前後進切換機構70のスリーブ71を中立位置から図中右に動かすと、第三伝達駆動ギヤ53Aと入力軸13の第二副入力軸13Cとが結合し、駆動力が入力軸13から第三伝達経路53側に伝達される。
第一出力軸14の下流側には、第一出力軸14へ伝達された駆動力が出力される最終出力機構25が配設される。最終出力機構25は、第一出力軸14上に配設される最終駆動ギヤ26と、この最終駆動ギヤ26に噛み合う最終従動ギヤ27が外周に形成されたディファレンシャルギヤ28と、ディファレンシャルギヤ28で配分された駆動力を図示しない左右の駆動輪に伝達するための駆動軸29とを備える。
また、本実施形態の変速機1は、動力伝達切替機構として4つのクラッチ(摩擦クラッチ)を備えている。具体的には、入力軸13から第一伝達経路51への動力伝達の有無を切り替える第一クラッチ(LOクラッチ)61と、入力軸13から第二伝達経路52への動力伝達の有無を切り替える第二クラッチ(HIクラッチ)62と、第二プーリ22から最終出力機構25への動力伝達の有無を切り替える第三クラッチ63と、第一プーリ21から最終出力機構25への動力伝達の有無を切り替える第四クラッチ64である。これら第一〜第四クラッチ61〜64は、いずれも油圧回路(図示せず)による油圧(作動油)の給排でその締結・解放の動作が制御されるようになっている。
図2は、第一出力軸14及びその周辺の部分拡大側断面図である。また、図3は、図2のX部分の拡大図、図4は、図2のY部分の拡大図である。図2に示すように、変速機1の第一出力軸14は、内周軸(第一回転軸)14Aと外周軸(第二回転軸)14Bとを備える二重管構造になっている。内周軸(第一回転軸)14Aは、軸方向の両側の端部がそれぞれボールベアリング101とローラベアリング102とによってケーシング10に対して回転自在に支持されている。外周軸(第二回転軸)14Bは、内周軸14Aと同心軸上の外側に配置される中空の回転軸である。
外周軸14Bは、ケーシング10に対してその外周側に設置したボールベアリング105で回転自在に支持されている。詳細には、外周軸14Bの外周面には、ピストン室111に供給される油圧により外周軸14B上を軸方向に移動する第一可動プーリ21Bと、外周軸14B上に固定されてピストン室111を形成してなるプーリカバー(カバー部材)118とが設置されている。そして、ボールベアリング105は、プーリカバー118の外周面上に設けられて該プーリカバー118を変速機1のケーシング10に対して回転自在に支持している。
また、外周軸14B上のプーリカバー118に隣接する位置には、第一伝達従動ギヤ(以下、単に「ギヤ」という。)51Bが設置されている。このギヤ51Bは、外周軸14Bの軸方向の端部(図の右側の端部)14bの近傍における外周面上に設置されている。ギヤ51Bの歯面はハスバギヤで構成されている。これにより、ギヤ51Bが発生するスラスト荷重(軸方向の荷重)は該ギヤ51Bをプーリカバー118側へ付勢している。
また、外周軸14Bの外周面には、径寸法が変化する段差部117が形成されている。プーリカバー118における軸方向の一方の端部(図の左側の端部)がこの段差部117に当接している。また、ギヤ51Bの軸方向の他方の端部(図の右側の端部)には、該ギヤ51Bの軸方向への移動を規制するナット(係止具)119が取り付けられている。これにより、段差部117とナット119との間にプーリカバー118とギヤ51Bとが挟まれていることで、それらの固定がなされている。
また、ボールベアリング105とギヤ51Bとの軸方向の隙間には、円形環状の皿バネ116が設置されている。この皿バネ116でボールベアリング105とギヤ51Bとが軸方向で互いに離れる方向に付勢されている。
外周軸14B上には、可動プーリ21Bを軸方向に駆動するための作動油の油圧が供給されるピストン室111が設けられている。そして、内周軸14Aの外周面14eと外周軸14Bの内周面14aとの隙間には、作動油が流通する油路112が形成されている。内周軸14Aの内周側(軸芯部)の油路114から油路112に連通する第一連通路113と、油路112から外周軸14Bの外周側のピストン室111に連通する第二連通路115(115a,115b)とが設けられている。また、ニードルベアリング110に隣接する位置には、内周軸14Aの外周面14eと外周軸14Bの内周面14aとの隙間(油路112)を密封するシールリング(第一シール部材)121が設置されている。シールリング121は、ニードルベアリング110に対して軸方向の一方の側(図の右側)に配置されており、第一連通路113及び第二連通路115は、ニードルベアリング110に対して軸方向の他方の側(図の左側)に配置されている。
さらに、ニードルベアリング110に対して軸方向の一方(図の左側)で内周軸14Aと外周軸14Bとを相対回転自在に支持する他のニードルベアリング(第二ニードルベアリング)120が設けられている。ニードルベアリング120は、対向する外周軸14Bの内周面14aと常時接触している構造である。また、軸方向におけるニードルベアリング110とニードルベアリング120との間には、油路112の他方の端部(図の左側の端部)を密封するシールリング(第二シール部材)122が設置されている。
内周軸14Aの内側の油路114に導入された作動油は、第一連通路113を通って内周軸14Aと外周軸14Bとの間の油路112に導かれる。油路112に導かれた作動油は、そこから第二連通路115を通って外周軸14Bの外側に設けたピストン室111に供給される。ここで、油路112は軸方向の両側の端部がそれぞれシールリング(第1シール部材)121とシールリング(第二シール部材)122で密封されている。そして、この油路112内にニードルベアリング110が配置されている。
図2及び図3に示すように、内周軸14Aの外周面14eには凹部140が形成されており、ニードルベアリング110はこの凹部140内に収容されている。そして、ニードルベアリング110とそれに対向する外周軸14Bの内周面14aとの隙間には、所定寸法(寸法S1)の環状のクリアランス部107(図4参照)が設けられている。
図4に示す二点鎖線L2は、内周軸14Aの撓み変形に伴うニードルベアリング110の移動量(ニードルベアリング110の外径線、以下同じ。)が最大である場合を示す線であり、一点鎖線L1は、内周軸14Aの撓み変形に伴うニードルベアリング110の移動量が最大よりも小さな値である場合を示す線である。同図に示すように、本実施形態では、ニードルベアリング110が外周軸14Bの内周面14aに接触(当接)する位置(L1の位置)まで内周軸14Aの撓み変形が許容され、それ以上の撓み変形は生じることがない。したがって、内周軸14Aの過度の撓み変形を抑制することができるので、内周軸14Aを回転自在に支持するベアリング101,102などの部品精度や取付位置の誤差(いわゆるミスアライメント)による当該ベアリング101,102や内周軸14Aの周辺部品の寿命低下を抑えることができる。
さらにここでは、内周軸14A又はギヤ51BにかかるトルクT1が最大値TMのとき(T1=TM)に、内周軸14Aの撓み変形によってニードルベアリング110が外周軸14Bの内周面14aに接触し、内周軸14A又はギヤ51BにかかるトルクT1が最大値TMよりも小さな値のときには、内周軸14Aの撓み変形によってニードルベアリング110が外周軸14Bの内周面14aには接触しないように設定するとよい。すなわち、クリアランス部107の径方向の隙間寸法S1は、内周軸14Aにかかるトルク又はギヤ51Bにかかるトルクが最大値となるとき(内周軸14Aの撓み変形量が最大となるとき)にニードルベアリング110が対向する外周軸14Bの内周面14aに接触する寸法に設定するとよい。このように設定すれば、内周軸14Aに最大トルクが通過するときにのみニードルベアリング110が外周軸14Bの内周面14aに接触するようになるので、ニードルベアリング110が接触する時間及び接触する回数を最小限に抑えることができる。これにより、より小容量かつ小型のニードルベアリングを選択することが可能となるので、変速機1及びそれを備える車両の低コスト化及び小型化・軽量化を図ることができる。
また、図3に示すように、内周軸14Aの軸方向におけるニードルベアリング110(凹部140)の両側に隣接する位置の径寸法D1は、更にその両側(軸方向の外側)の位置の径寸法D2よりも大きな寸法(D1>D2)に設定されている。この構成により、ニードルベアリング110が対向する外周軸14Bの内周面14aに接触する場合にも内周軸14Aの剛性を確保することが可能となる。
また、図2に示すように、ケーシング10に対して外周軸14Bを回転自在に支持するボールベアリング105は、ニードルベアリング110と軸方向の同位置におけるプーリカバー118の外周面上に設置されている。これにより、ニードルベアリング110の寸法及び容量(耐荷重容量)を小さく抑えることができる。また、ニードルベアリング110が外周軸14Bに接触する際の荷重がボールベアリング105で受け止められるので、当該荷重による外周軸14Bの変位を抑制できる。したがって、外周軸14Bの変位による周辺の他の部品への影響を少なく抑えることができる。
以上説明したように、本実施形態の変速機1は、軸方向の両側の端部それぞれがケーシング10に対して回転自在に支持された内周軸(第一回転軸)14Aと、この内周軸14Aと同心軸上の外側に配置される中空の外周軸(第二回転軸)14Bとを有する二重構造の第一出力軸14を備えている。そして、内周軸14Aの外周面14e上に設置したニードルベアリング110と、内周軸14Aと外周軸14Bとの径方向の隙間に形成した油路112と、ニードルベアリング110に対して軸方向で隣接して配置されて油路112を密封するシールリング121とを備え、ニードルベアリング110とそれに対向する外周軸14Bの内周面14aとの径方向の隙間に環状のクリアランス部107を設けている。
すなわち、本実施形態の変速機1では、二重管構造の第一出力軸14において、内周軸14Aと外周軸14Bとが重なる位置に環状のクリアランス部107を有するニードルベアリング110を配置した。そして、内周軸14Aに撓み変形が発生したときにのみニードルベアリング110が対向する外周軸14Bの内周面14aに接触するように構成した。これにより、内周軸14Aに予め設定した寸法を超える大きな変形(撓み変形)が生じることを抑制できるため、内周軸14Aに撓みが生じたときにも内周軸14Aと外周軸14Bとの径方向の隙間に形成した油路112の密封性能(シール性能)を確保できる。また、上記の偏心抑制用のニードルベアリング110を備えることで、シールリング121を設けた部分における内周軸14Aの外周面14eと外周軸14Bの内周面14aとの隙間寸法をより小さな寸法に設定することが可能となる。したがって、シールリング121からの作動油の滲みや漏れを効果的に低減することが可能となる。
また、内周軸14Aに予め設定した寸法を超える大きな変形(撓み変形)が生じるような大きな荷重がかかる場合、上記偏心抑制用のニードルベアリング110が作用するように構成したことで、その分、内周軸14A又は外周軸14Bを支持するベアリング101,102,105の耐荷重性能を低く抑えることができる。したがって、内周軸14A又は外周軸14Bの径寸法を小型化することができ、変速機1の小型化及び軽量化を図ることができる。
また、上記偏心抑制用のニードルベアリング110を設けたことで、内周軸14Aを回転自在に支持するベアリング101,102などの部品精度や取付位置の誤差(いわゆるミスアライメント)による当該ベアリング101,102や内周軸14Aの周辺部品の寿命低下を抑えることができる。
さらに、上記のニードルベアリング110は、内周軸14Aが予め設定した寸法以上に変形した場合にのみ外周軸の内周面に当接し、かつ内周軸と外周軸とに差回転(回転数差)がある状態(相対回転状態)でのみ作用する(荷重を受ける)構造である。そのため、ニードルベアリング110の耐久性及び長寿命化を確保でき、内周軸14Aの撓み発生時の耐性を向上させることができる。
また、ニードルベアリング110は、外周軸14Bをケーシング10に対して支持するボールベアリング105に対応する位置(軸方向の同位置)に設置されている。これにより、ニードルベアリング110の寸法及び容量(耐荷重容量)を小さく抑えることができる。また、ニードルベアリング110が外周軸14Bに接触する際の荷重がボールベアリング105で受け止められるので、当該荷重による外周軸14Bの変位を抑制できる。したがって、外周軸14Bの変位による周辺の他の部品への影響を少なく抑えることができる。また、内周軸14Aを回転自在に支持するベアリング101,102の部品精度や取付位置の誤差(いわゆるミスアライメント)による当該ベアリング101,102や内周軸14Aの周辺部品の寿命低下を抑えることができる。さらに、ニードルベアリング110は、内周軸14Aが予め設定した寸法以上に変形した場合にのみ荷重を受ける構造であるため、当該ニードルベアリング110の耐久性及び長寿命化も確保できるようになる。
また、本実施形態の変速機1では、内周軸14Aの内側から油路112に連通する第一連通路113と、油路112から外周軸14Bの外径側のピストン室111に連通する第二連通路115とを備えている。そして、油路112を密封するためのシールリング121は、ニードルベアリング110に対して軸方向の一方側(図の右側)で隣接する位置に配置されており、第一連通路113及び第二連通路115は、ニードルベアリング110に対して軸方向の他方の側(図の左側)に配置されている。
この構成によれば、ニードルベアリング110に隣接する位置に設置したシールリング121を備えることにより、内周軸14Aに撓み変形が生じたときにも油路112の密封性能(シール性能)を確保することができる。また、ニードルベアリング110を油路112内に設置していることで、ニードルベアリング110を潤滑するための潤滑構造(専用の油路など)を別途に追加する必要がない。したがって、変速機1の構造の簡素化を図ることができる。
また、本実施形態の変速機1では、ニードルベアリング110に対して軸方向の一方で内周軸14Aと外周軸14Bとを相対回転自在に支持する他のニードルベアリング120と、軸方向におけるニードルベアリング110とニードルベアリング120との間に配置したシールリング122とをさらに備えている。
この構成によれば、軸方向の二箇所に設けたニードルベアリング110とニードルベアリング120とで内周軸14Aを支持することにより、内周軸14Aの撓み量を最小限に抑えることができる。また、シールリング122を設けたことで、油路112のより高い密封性能(シール性能)を確保することが可能となる。
また、本実施形態の変速機1では、内周軸14Aの外周面14eには、ニードルベアリング110を収容してなる凹部140が形成されている。この構成によれば、ニードルベアリング110の組付性の向上を図ることができる。
また、内周軸14Aの凹部140の両側に隣接する位置の径寸法D1は、その軸方向の更に両側の位置の径寸法D2よりも大きな寸法に設定されている。これにより、ニードルベアリング110が外周軸14Bの内周面14aに接触する場合にも内周軸14Aの剛性を確保することが可能となる。
また、本実施形態の変速機1では、外周軸14Bの端部14bの近傍に設置したギヤ51Bを備えている。そして、外周軸14Bの端部14bと同位置(軸方向の同位置)における内周軸14Aの径寸法D2は、凹部140の両側に隣接する位置の径寸法D1よりも小さな寸法に設定されている。
上記のような外周軸14Bの端部14bの近傍に設置したギヤ51Bを備えることで、当該ギヤ51Bに発生するスラスト荷重が外周軸14Bの端部14bにかかることで外周軸14Bの端部14bが撓むおそれがある。しかしながら上記構成では、外周軸14Bの端部14bと同位置における内周軸14Aの径寸法D2を凹部140の両側に隣接する位置の径寸法D1よりも小さな寸法に設定していることで、外周軸14Bの端部14bに撓みが生じた場合でも外周軸14Bの端部14bが内周軸14Aと干渉することを効果的に防止できる。
また、本実施形態の変速機1では、クリアランス部107の径方向の隙間寸法S1は、内周軸14Aにかかるトルクが最大値となるときにニードルベアリング110が対向する外周軸14Bの内周面14aに接触する寸法に設定されている。
この構成によれば、内周軸14Aに最大トルクが通過するときにのみニードルベアリング110が外周軸14Bの内周面14aに接触するように設定したことで、ニードルベアリング110に荷重が作用する時間及び接触する回数を最小限に抑えることができる。これにより、ニードルベアリング110としてより小容量かつ小型のニードルベアリングを選択することが可能となるので、変速機1及びそれを備える車両の低コスト化及び小型化・軽量化を図ることができる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、互いに対向する内周軸14Aの外周面14eと外周軸14Bの内周面14aのうち、内周軸14Aの外周面14eにニードルベアリング110を設置し、このニードルベアリング110が外周軸14Bの内周面14aに接触するように構成した場合を示したが、これ以外にも、図示は省略するが、外周軸14Bの内周面14aにニードルベアリングを設置し、このニードルベアリングが内周軸14Aの外周面14eに接触するように構成することも可能である。
また、上記実施形態では、ギヤ51Bを外周軸14Bの端部14bの近傍(端部14bから若干離れた軸方向の内側の位置)に設置した場合を示したが、これ以外にも、図示は省略するが、ギヤ51Bを外周軸14Bの端部14bにより近付けた位置に設置することも可能である。