本発明の実施形態に係るプラズマ処理装置は、反応室を有する容器と、反応室内で被処理物を支持するステージと、容器の開口を塞ぐとともにステージと対向する誘電体部材と、反応室内で誘電体部材を覆うように設置されたカバーと、誘電体部材の反応室に対して外側に設置され、反応室内にプラズマを発生させる誘導コイルと、を備える。誘電体部材とカバーとの間には、プラズマの原料ガスが導入されるガス導入路が設けられている。誘電体部材の反応室に対して外側の面には、溝が形成されている。よって、カバーは、溝と対向する部分P1と、溝と対向しない部分P2とを有する。誘導コイルの少なくとも一部は、溝の中に配置されている。これにより、誘導コイルの溝の中に配置された部分は、プラズマとの距離が近くなるため、高周波パワーの損失が抑制される。
一方、部分P1の直下には、プラズマ発生部が集中する。ただし、部分P1には、ガス導入路に導入された原料ガスを反応室内に供給するためのガス噴出口の少なくとも一部が設けられている。よって、プラズマ発生部が集中する部分P1の直下に原料ガスを効率的に供給することができる。これにより、原料ガスのラジカルへの乖離効率が向上する。
上記構成においては、部分P1のステージ2側の表面は、局所的に高密度プラズマに暴露される。よって、カバーの少なくともステージ側の表面は、プラズマによる侵食を受けにくい窒化アルミニウム(AlN)で形成された第1領域を有することが好ましい。第1領域は、部分P1のステージ側の表面の少なくとも一部を含むことが好ましい。これにより、カバーの消耗が抑制される。
上記構成においては、部分P1で囲まれた中央領域の部分P2の直下では、プロセスガスの乖離効率が低下する傾向がある。一方、被処理物の周辺部材(例えば被処理物を保持する搬送キャリア)は、高密度プラズマに暴露されやすくなる。よって、反応室内には、反応室内で生成したプラズマに含まれるラジカルおよび/またはイオンの流れを被処理物の表面に収束させる拡散防止部を設けることが望ましい。
拡散防止部は、例えば、容器の側壁の内面から部分P1の下方までフランジ状に延びる突出部材であることが好ましい。突出部材は、側壁の内面から斜め下方に延びる逆円錐台状部材であってもよい。これにより、部分P1の直下で発生した高密度プラズマを、被処理物の表面に均一に作用させやすくなる。また、被処理物にプラズマが集中するため、被処理物の周辺部材の劣化も抑制される。
なお、カバーのステージ側の表面は、窒化アルミニウムで形成された第1領域とは異なる第2領域を有してもよい。第2領域は、窒化アルミニウム以外の誘電体材料(例えば、石英やアルミナ)で形成してもよい。これにより、カバーの製造コストを大幅に低減することが可能となる。このとき、カバーの少なくとも溝と対向する部分P1においては、ステージ側の表面から10μm以上の深さまでが、窒化アルミニウムで形成されていればよい。
第1領域は、第2領域に対して、着脱可能であることが好ましい。これにより、プラズマ処理装置のメンテナンスが更に簡単になり、カバーに必要なコストも低減し易くなる。
溝は、誘導コイルの中心と同じ中心を有する環状であることが好ましい。これにより、誘導コイルを溝の中に配置することが容易となる。この場合、部分P1も環状となる。よって、第1領域は、円形または環状にすることが好ましい。これにより、カバーの製造が容易となる。
プラズマ処理装置は、更に、カバーのステージとは反対側に設置されたファラデーシールド電極(FS電極)を備えることが好ましい。これにより、カバーの消耗を抑制しつつ、カバーへの不揮発性物質の付着を抑制することができる。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。ただし、以下の図面および説明は本発明を限定するものではない。
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態に係るプラズマ処理装置である誘導結合プラズマ(ICP)型のドライエッチング装置10の構成を示す。ドライエッチング装置10は、減圧可能な反応室1aを有する容器1と、反応室1a内で被処理物(ここでは基板15)を支持するステージ2と、容器1の開口を塞ぐとともにステージ2と対向する誘電体部材3と、誘電体部材3の反応室1aに対して外側に設置され、反応室1a内にプラズマを発生させる誘導コイル4と、反応室1a内で誘電体部材3を覆うように設置されたカバー5と、を備える。
容器1は、概ね上部が開口した円筒状であり、上部開口は蓋体である誘電体部材3により密閉される。反応室1a内は、所定の排気装置(図示せず)により排気され、減圧雰囲気に維持される。容器1には基板15を搬入出するためのゲート(図示せず)が設けられている。ステージ2は、下部電極を内蔵しており、下部電極にバイアス電圧が印加される。ステージ2には、基板15を静電吸着により保持する機能や、冷媒の循環流路を設けることができる。
誘電体部材3は、概ね、容器1の開口形状に沿った円形の板状である。誘電体部材3の反応室1aに対して外側の面には、誘電体部材3を部分的に薄くするために溝3aが形成されている。よって、カバー5は、溝3aと対向する部分P1と、溝3aと対向しない部分P2とを有する。誘導コイル4の少なくとも一部は、溝3aの中に配置される。これにより、誘導コイル4の溝3aの中に配置された部分は、プラズマとの距離が近くなる。よって、高周波パワーの損失が抑制される。一方、溝3aは、板状の誘電体部材3の表面の一部に環状に形成されており、誘電体部材3の中央部には厚みを持たせているため、誘電体部材3の機械的強度は大きく低下しない。なお、溝を形成した誘電体部材と、溝を形成しない誘電体部材との2種類について、誘電体部材の一方の表面に均等な荷重を与えた場合の撓み量の計算を行って比較するシミュレーションを行なったところ、両者の撓み量は、ほぼ同等であるとの知見が得られている。
誘電体部材3は、溝3aが形成されていない状態では平坦な両面を有する。溝3aの無い部分の厚みは、誘電体部材が所定の強度を備えるように設定する必要がある。このため、誘電体部材の一方の表面に均等な荷重を与えた場合の撓み量を計算し、この撓み量が基準値を超えないように、誘電体部材3の溝3aの無い部分の厚みを設定する。この厚みは、例えば、誘電体部材3の直径が540mmの場合、35〜40mmである。
容器1の側壁上端には、カバー5を支持する第1ホルダ17と、誘電体部材3を支持する第2ホルダ18とが設けられている。第1ホルダ17上に第2弾性リング14を介してカバー5が支持されている。カバー5は、例えば、窒素アルミニウム(AlN)により形成されている。カバー5の周縁部は、誘電体部材3を支持する第2ホルダ18により固定される。第2ホルダ18上には、第1弾性リング13を介して、誘電体部材3が支持されている。カバー5は、誘電体部材3の反応室1a側の表面をプラズマから保護する役割を果たす。
第2ホルダ18には、所定のガス供給源からプラズマの原料ガス(プロセスガス)を反応室1a内に導入するためのガス導入口8が設けられている。プロセスガスは、誘電体部材3とカバー5との間に形成される微小な隙間(ガス導入路)8aに滞留した後、カバー5に設けられた複数のガス噴出口9から反応室1a内に噴出される。図示例では、複数のガス噴出口9は、全て部分P1に形成されている。複数のガス噴出口9は、例えば同心円状に分布させることが好ましい。
図2(a)は、本実施形態に係る誘電体部材3と誘導コイル4の配置を模式的に示している。誘導コイル4を誘電体部材3(の面方向)に対して垂直な方向から見るとき、誘導コイル4は、中心から外周側に向けて螺旋状に延びる導体4aにより形成されている。導体4aは、例えば、リボン状の金属板であってもよいし、金属線であってもよい。誘導コイル4を形成する導体4aの数は特に限定されず、誘導コイル4の形状も特に限定されない。例えば、1本の導体4aからなるシングルスパイラル型のコイルであってもよいし、複数の導体4aからなる誘導コイルを並列に接続したマルチスパイラル型のコイルであってもよい。また、誘電体部材3の面と平行な同一平面内で導体4aを螺旋状に延ばして形成した平面型のコイルであってもよいし、導体4aを螺旋状に延ばしながら誘電体部材3の面に対して垂直方向に変化を持たせた立体型のコイルであってもよい。誘導コイル4は、マッチング回路(図示せず)などを介して第1高周波電源11と電気的に接続されている。図1、2では、誘導コイル4の中心付近の誘電体部材3からの距離が外周側よりも大きくなるように形成されているが、誘導コイル4と誘電体部材3との位置関係は、これに限定されない。
図2(b)に示すように、溝3aは、誘導コイル4の中心と同じ中心を有する環状であることが好ましい。これにより、誘導コイル4を溝3aの中に配置することが容易となる。なお、誘導コイル4と環状の溝3aの中心が同じであるとは、必ずしもそれぞれの中心が一致することを意味しない。ここでは、誘導コイル4と環状の溝3aの中心が同じであるとは、誘電体部材3および誘導コイル4を、誘電体部材3に対して垂直な方向から見たときに、それぞれの中心が半径100mmの円内に存在していることを意味する。
溝3aの深さは、特に限定されない。溝3aの深さが小さくても、高周波パワーの損失を抑制する相応の効果は得られる。ただし、溝3aを形成する前の均一な厚さの板状の誘電体部材3の厚さをTとするとき、溝3aの最大深さDは、D=0.14T〜0.71Tとなるように形成することが好ましい。さらに好ましくは、D=0.28T〜0.57Tとなるように形成することが好ましい。このとき、強度確保の観点から、誘電体部材3の溝3aが形成される表面の面積Sのうち、溝3aが掘られる面積sの割合(100s/S(%))は、2〜50%とすることが好ましい。
溝3aは、両面が平坦で均一な厚さの板状の誘電体部材の一方の面を切削するなど、誘電体部材を機械加工することにより形成すればよい。なお、切削加工を行うと、加工面に微小なクラック(マイクロクラック)が形成され、誘電体部材の強度が低下する場合がある。この場合、切削加工を行った後で、ラッピング(研磨)等の後処理を行ってマイクロクラックを除去することが望ましい。
誘導コイル4に高周波電流を流すことにより、反応室1a内の上部の誘導コイル4に近い領域にプラズマ(誘導結合プラズマ)が生成する。誘導コイル4とプラズマとの誘導結合の度合いは、誘導コイル4と反応室1aとの距離を近づけたり、誘導コイル4の密度を高くしたりすることにより、高めることができる。
基板15の表面において面内均一性の良好なプラズマを得るためには、反応室1a内の上部に、外周部のプラズマ密度が中心付近のプラズマ密度より高い分布(ドーナツ状の分布)を有するプラズマを生成し、これを基板上に拡散させることが好ましい。ドーナツ状の分布を持つプラズマを反応室1a内の上部に形成するためには、中心付近の誘導コイル4と反応室1aとの距離を相対的に大きくすればよく、これにより誘導コイル4とプラズマとの結合の程度を低くすることができる。よって、誘導コイル4の中心側は、溝3aの中に配置しなくてもよい。図1、2に示すように、少なくとも誘導コイル4の中心に対応する部分は完全に溝3aの外側に配置してもよい。
一方、誘導コイル4の外周側部分においては、誘導コイル4を溝3aの中に配置し、誘導コイル4と反応室1aとの距離を相対的に近づけることで、誘導コイル4とプラズマとの結合の度合いを高くすることができる。よって、誘導コイル4を形成する長さLの導体4aを、中心から0.5Lまでの中心側部分と、残りの外周側部分とに区分するとき、中心側部分が溝3aの中に配置される割合よりも、外周側部分が溝3aの中に配置される割合を大きくすることが好ましい。また、少なくとも誘導コイル4の最外周に対応する部分は、その少なくとも一部を溝3aの中に配置することが好ましい。更には、少なくとも最外周の端部(巻き終わり)から0.3Lまでの外周側部分は、溝3aの中にその少なくとも一部を配置することが好ましい。
このとき、誘導コイル4において、中心側部分のコイル密度よりも、外周側部分のコイル密度を大きくすることが好ましい。すなわち、誘電体部材3に対して垂直な方向から見たとき、誘導コイル4の中心(巻き始め)に近い部分ほど、隣接する導体4a間の隙間(誘電体部材3の面方向と平行な方向における距離)が広く、外周側に近い部分ほど、隣接する導体4a間の隙間が狭くなっていることが好ましい。これにより、外周部における誘導コイル4とプラズマとの結合の度合いを、より高くすることができる。一方、中心付近においては、誘電体部材3やカバー5がプラズマにより削られて劣化することを抑制することができる。
容器1、第1ホルダ17、第2ホルダ18などを構成する材料としては、アルミニウムやステンレス鋼(SUS)のように、十分な剛性を有する金属材料や、表面をアルマイト加工したアルミニウムなどを使用できる。また、誘電体部材3およびカバー5を構成する材料としては、酸化イットリウム(Y2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)、石英(SiO2)などの誘電体材料を使用できる。
誘導コイル4の少なくとも一部が誘電体部材3の溝3aの中に配置される場合、プラズマの発生部は溝3aの直下(すなわちカバー5の部分P1の直下)の反応室1a内に局在しやすくなる。一方、それ以外の部分(すなわちカバー5の部分P2の直下)では、プロセスガスのラジカルへの乖離効率が低下する。従って、プロセスガスを反応室1a内に噴出させるガス噴出口9は、カバー5の部分P1に選択的に形成されている。これにより、プラズマ発生部が局在する部分P1の直下には、それ以外の空間に比べ、より多くのプロセスガスが供給される。よって、プロセスガスのラジカルへの乖離効率が向上する。なお、誘電体部材3およびカバー5を、これらの法線方向(誘電体部材3に対して垂直な方向)から見るとき、溝3aと重複するカバー5の部分が部分P1であり、それ以外の部分が部分P2である。
ガス噴出口9の少なくとも一部を部分P1に形成することで、プロセスガスのラジカルへの乖離効率は大きく向上する。乖離効率を最大限に向上させる観点からは、50%以上のガス噴出口9を部分P1に形成することがより好ましい。さらに好ましくは、全てのガス噴出口9を部分P1に形成することがより好ましい。この場合、部分P2(部分P1で囲まれた中央領域および部分P1の外側領域)は、ガス噴出口9を有さない。
なお、50%以上のガス噴出口9を部分P1に形成する場合、部分P1に形成されるガス噴出口9の割合は、個数基準で50%以上であればよい。また、ガス噴出口9の反応室1a側の端部(すなわちガス出口)の面積基準で50%以上のガス噴出口9を部分P1に形成してもよい。複数のガス噴出口9のガス出口の面積が全て同じである場合、個数基準と面積基準の上記割合は同じである。
図示例の場合、環状の溝3aに対応して部分P1も環状である。従って、ガス噴出口9も環状の部分P1に内包されるように設けることが好ましい。例えば、全てのガス噴出口9を同心円状に設ければよい。図3に、同心円Ccに沿って設けられた複数のガス噴出口9を具備するカバー5の一例を平面図で示す。
ガス噴出口9の形状は特に限定されず、円形、楕円形、矩形、丸角の矩形等が例示できる。なかでも、ガス噴出口9を形成し易い点で、円形であることが好ましい。ガス噴出口9の直径(円形以外の場合は最大径)は、特に限定されないが、プロセスガスの供給性能に優れる点で、0.1〜1.5mmであることが好ましく、0.3〜1.0mmであることがより好ましく、0.5〜0.8mmであることが特に好ましい。
プラズマ発生部が局在する部分P1の直下でのプロセスガスの滞留時間を長くする観点から、部分P1のステージ側の表面の単位面積あたりに形成されるガス噴出口9の数を、従来に比べて多くしてもよい。これにより、各ガス噴出口9からのガス流速を抑制することができる。例えば、部分P1のステージ側の表面の面積1cm2あたり、0.1〜10個のガス噴出口9を設けることが好ましい。
ガス噴出口9が円形であり、その直径が0.1〜1.5mmである場合、カバー5に形成されるガス噴出口9の数は、48〜60個程度であることが好ましい。また、十分量のプロセスガスを反応室1a内に供給する観点から、ガス噴出口9の合計面積は、カバー5の内側表面Saの0.5〜5%程度であることが好ましい。
部分P1の直下でのプロセスガスの滞留時間を長くする観点から、ガス噴出口9の反応室1a側の端部、すなわちガス出口を拡径してもよい。これにより、噴出直後のプロセスガスの進行方向が水平方向に分散され、鉛直方向の流速が抑制される。ガス噴出口9のガス出口の面積は、ガス噴出口9の最も狭い部分のガス流に垂直な断面積の1.1倍〜5倍程度にすることが好ましい。図4に、縦断面図で見たときにガス出口9aがデーパー形状に広がるガス噴出口9の一例を示す。
プラズマ処理においては、誘電体部材3およびカバー5への不揮発性の反応生成物の付着を抑制することも重要である。誘電体部材3およびカバー5に付着した不揮発性物質は、プラズマ処理のプロセス中に剥離し、反応室1a内を浮遊して基板に付着したり、基板上に落下したりすることがある。また、不揮発性物質が導電性を備える場合、誘電体部材3およびカバー5に付着した不揮発性物質は、誘導コイルからの反応室への高周波パワーの伝達を阻害することもある。一方、誘電体部材3およびカバー5の近傍にファラデーシールド(FS)を形成することにより、誘電体部材3およびカバー5への不揮発性物質の付着を抑制することができる。FSを形成するには、カバー5のステージ2とは反対側にFS電極を設けることが望ましい。誘電体部材3に高周波電力を印加することにより、FS電極は反応室1a内のプラズマと容量結合する。これにより、誘電体部材3およびカバー5の近傍にFSが形成され、誘電体部材3およびカバー5への不揮発性物質の付着が抑制される。
誘電体部材3の反応室1a側の面は、凹凸のない平坦面とすることができる。このような平坦面には、所定の電極パターンを含む電極層19を容易に形成することができる。よって、電極パターンとして、誘電体部材3に高周波電力を印加するための平板電極(すなわちFS電極)を形成すればよい。
電極層19は、例えば、電極パターンと、これを被覆する絶縁膜とを具備する。電極パターンは導電性材料により形成される。絶縁膜は、例えば、セラミックス(例えばアルミナ)のような誘電体材料により形成すればよい。絶縁膜は、電極パターンを構成する金属に由来する反応室1a内の金属汚染やパーティクルの発生を抑制する。また、プロセスガスやプラズマによる電極パターンの損傷も抑制する。電極層19は、複数層の電極パターンと絶縁膜との積層体でもよい。
図5(a)は、本実施形態に係る誘電体部材3と電極層19の構成を模式的に示す縦断面図である。図5(b)には、理解を容易にするために、誘電体部材3および電極層19の縦方向(厚さ方向)の寸法を拡大して示す。
図示例の電極層19は、誘電体部材3の反応室1a側の面に形成された第1電極層6と、第1電極層6の反応室1a側の面に形成された第2電極層7とを具備する複層構造である。第1電極層6は、誘電体部材3の表面にダイレクトに形成された第1電極パターン6bと、これを被覆する第1絶縁膜6cとを具備する。同様に、第2電極層7は、第2電極パターン7bと、これを被覆する第2絶縁膜7cとを具備する。このように、少なくとも1つの電極パターンを誘電体部材3の反応室1a側の面にダイレクトに形成することにより、簡易な構造の電極層19を形成することができる。
以下、第1電極パターン6bが電熱ヒータであり、第2電極パターン7bが平板電極である場合について説明する。
プラズマ処理のプロセスを安定化させるためには、誘電体部材3を所定の温度域に加熱することが望ましい。例えば、誘電体部材3の反応室1aに対して外側の面の全体に接触するように平板状のヒータを配置して、誘電体部材3の温度管理を行うことも可能である。しかし、その場合、誘電体部材3と誘導コイル4との間にヒータを配置することになり、プラズマと誘導コイル4との距離が遠くなり、プラズマと誘導コイル4との誘導結合の度合いが低下し、プラズマ密度が低下する。一方、誘電体部材3の反応室1a側の面に電熱ヒータ6bを設ける場合、電熱ヒータ6bの存在によりプラズマと誘導コイル4との距離が遠くなることがない。よって、プラズマ密度を低下させることなく、プロセスを安定化させることができる。
一方、平板電極7bに高周波電力を印加することにより、誘電体部材3およびカバー5の近傍にFSが形成される。すなわち、誘電体部材3およびカバー5とプラズマとの間にバイアス電圧が生じ、プラズマ中のイオンは被処理物に作用するだけでなく、誘電体部材3およびカバー5にも作用する。これにより、不揮発性物質の誘電体部材3およびカバー5への付着が抑制される。
上記構成によれば、電熱ヒータ6bは、誘電体部材3を直接加熱できるため、少ない電力で効率的に誘電体部材3の温度管理を行うことができる。また、平板電極7bと反応室1aとの距離が近いため、平板電極7bに供給する電力が低くてもバイアス電圧を発生させることが可能であり、かつ不揮発性物質の誘電体部材3およびカバー5への付着を抑制する効果も大きくなる。ただし、上記構成は例示に過ぎず、誘電体部材3の反応室1a側の面にダイレクトに平板電極を第1電極パターンとして設け、電熱ヒータを第2電極パターンとして設けてもよい。
図6に、電熱ヒータ6bの一例を平面図で示す。電熱ヒータ6bは、高抵抗の金属からなるライン状のパターンを含む。ライン状のパターンは、例えば、サーペンタイン型の形状に描かれる。電熱ヒータ6bは、誘電体部材3を貫通するヒータ端子6aと接続されており、ヒータ端子6aは交流電源16と電気的に接続されている。交流電源16からヒータ端子6aに電力を供給することにより、第1電極パターン6bが発熱する。高抵抗の金属としては、例えばタングステン(W)を用いることが好ましい。
図7に、平板電極7bの一例を平面図で示す。平板電極7bは、幅広の金属薄膜からなる平面的なパターンを含む。平板電極7bにも、タングステン(W)を用いることができる。平板電極7bは、誘電体部材3の反応室1a側の面の、例えば50%以上を覆うように形成することが好ましい。これにより、誘電体部材3およびカバー5の大半をシールドすることが可能となる。平板電極7bには、第1高周波電源11および誘導コイル4から出力される高周波パワーを透過させるための複数のスリット3sが放射状に設けられている。
平板電極7bは、誘電体部材3の中央付近で誘電体部材3を貫通するFS端子7aと接続されており、FS端子7aは第2高周波電源12と電気的に接続されている。第2高周波電源12からFS端子7aに電力を供給することにより、第2電極パターン7bの近傍にバイアス電圧が生じ、不揮発性物質の誘電体部材3およびカバー5への付着が抑制される。
なお、図1では、誘導コイル4には第1高周波電源11が接続され、第2電極層7(平板電極7b)には第2高周波電源12が接続されているが、誘導コイル4と平板電極7bとを並列に、可変チョークまたは可変コンデンサを介して、同じ高周波電源に接続してもよい。また、誘導コイル4には第1高周波電源11を接続し、平板電極7bには可変チョークまたは可変コンデンサを接続し、第1高周波電源11から発振された電力を誘導コイル4から空気を介して平板電極7bに重畳させ、誘導コイル4および平板電極7bに印加される電力比を可変チョークまたは可変コンデンサで調整してもよい。
誘電体部材3をこれに対して垂直な方向から見たとき、電熱ヒータ6bは、図5に破線で示すように、平板電極7bからはみ出さないように配置されていることが好ましい。これにより、スリット3sを透過する高周波パワーの損失を抑制することができる。
電熱ヒータ6bは、第1電極パターンに対応するマスクを介在させて、タングステンのような高抵抗の金属を誘電体部材3の表面に溶射させることにより形成できる。溶射パターンの厚さは、例えば10〜300μmである。あるいは、タングステン線を第1電極パターンの形状に屈曲させ、その後、タングステン線を誘電体部材3の表面に固定してもよい。このとき、溶射パターンまたはその他の手法を用いて形成した電極パターンは、ヒータ端子6aと電気的に接続される。
第1絶縁膜6cは、例えばホワイトアルミナを溶射により誘電体部材3の表面に吹き付けることで形成される。ホワイトアルミナを溶射する前に、誘電体部材3と第1絶縁膜6cとの密着性を高めるために、イットリアのような密着層を誘電体部材3の表面に溶射してもよい。第1電極層6の厚さは、例えば10〜300μmである。
平板電極7bは、第2電極パターンに対応するマスクを介在させて、金属を第1電極層6の表面に溶射させることにより形成できる。このとき、平板電極7bは、放射状に配置された複数のスリット3sを有する形状に形成される。平板電極7bの厚さは、例えば10〜300μmである。あるいは、金属箔もしくは金属板から第2電極パターンの形状の平板電極7bを形成し、その後、平板電極7bを第1電極層6の表面に固定してもよい。平板電極7bは、第1絶縁膜6cを介して、電熱ヒータ6bを完全に覆うように配置され、FS端子7aと電気的に接続される。
第2絶縁膜7cも、例えばホワイトアルミナを溶射により第1電極層6の表面に吹き付けることで形成される。第2電極層7の厚さは、例えば10〜300μmである。なお、第1および第2絶縁膜の成膜方法は、特に限定されず、例えばスパッタ、化学気相成長(CVD)、蒸着、塗布などで成膜してもよい。
以下、本実施形態のドライエッチング装置10の動作の一例を説明する。まず、容器1に設けられたゲートから被処理物が搬出され、反応室1a内に設置されたステージに被処理物が支持される。その後、反応室1a内が排気される。反応室1a内は減圧雰囲気であり、誘電体部材3には大気圧とほぼ同じ圧力が付与される。また、誘電体部材3は溝3aを有し、溝3aに対応する部分は薄肉である。ただし、機械的強度が十分に維持されるように溝3aは環状に形成されているため、誘電体部材3が破損することはない。
その後、所定のガス供給源から、ガス導入口8を介してプロセスガスが反応室1a内に導入される。エッチングされる基板15は、エッチングのパターンに応じたレジストマスクを有している。基板15が例えばSiである場合、プロセスガスには例えばフッ素系ガス(SF6など)が使用される。また、基板15がアルミニウムの場合、プロセスガスには例えば塩素系ガス(HClなど)が使用される。
次に、第1高周波電源11から誘導コイル4に高周波電力が投入され、反応室1a内にプラズマが発生する。このとき、基板15を保持するステージ2にも、所定の高周波電源からバイアス電圧が印加される。これにより、プラズマ中のラジカルやイオンが基板15の表面に輸送され、バイアス電圧により加速されて基板15に衝突する。その結果、基板15がエッチングされる。
ここで、誘導コイル4を形成する導体4aのうち、コイル密度の高い外周側部分は、誘電体部材3に形成された環状の溝3aの中に配置されている。よって、比較的小さい電力の投入により、反応室1a側の誘電体部材3の近傍にドーナツ状の高密度プラズマが生成し、これが拡散プラズマとなって基板15に到達する。
一方、誘電体部材3の反応室1a側の面に配置された平板電極7bには、第2高周波電源12から電力が供給され、反応室1a内の平板電極の近傍においてバイアス電圧が生じる。これにより、プラズマ中のイオンの一部は、バイアス電圧により加速され、誘電体部材3(もしくは電極層19)およびカバー5に入射する。その結果、誘電体部材3(もしくは電極層19)およびカバー5への不揮発性物質の付着が抑制される。
エッチングプロセスは、複数の基板15に対して連続的に行われる。そこで、プロセスの安定性を確保するため、交流電源16から誘電体部材3の反応室1a側の面に設けられた電熱ヒータ6bに電力が投入され、誘電体部材3の加熱による温度管理が行われる。
(第2実施形態)
本実施形態に係るプラズマ処理装置は、カバーが異なること以外、第1実施形態と同様である。ここでは、第1実施形態と同じ図面を参照する。
誘導コイル4の少なくとも一部が誘電体部材3の溝3aの中に配置され、プラズマの発生部が溝3aの直下(すなわちカバー5の部分P1の直下)に局在する場合、カバー5のステージ2側の表面(内側表面Sa)は局所的に高密度プラズマに暴露される。これにより、部分P1のステージ2側の表面は、プラズマによる侵食を受け易くなる。一方、カバー5の少なくとも一部を窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)、もしくは酸化イットリウム(Y2O3)で形成することにより、特にフッ素系のプラズマの侵食によるカバー5Aの消耗が顕著に抑制される。
窒化アルミニウムは、特にプラズマに対する耐性が高く、例えばドライエッチング装置で多用されるフッ素ラジカルに暴露される場合でも、侵食を受けにくい。また、窒化アルミニウムは熱衝撃に強く、熱伝導性にも優れている。よって、プラズマから受ける熱を高効率で外部に伝達することができる。これにより、反応室1a内に設置される装置部材の熱による劣化も抑制される。
なお、カバーの第1領域の材料として上述の材料を用いることは、カバーの交換頻度を少なくし、プラズマ処理装置の生産性を高める効果をもたらすだけではない。誘導コイル4の少なくとも一部を誘電体部材3の溝3aの中に配置してプラズマ処理を行う場合、第1領域の材料として上述の材料を用いることにより、プラズマ処理のプロセスの精度にも有利になることが判明している。
従来はカバー全体を石英で形成することが一般的である。溝3aと対向する部分P1は、特に高密度プラズマに暴露され易く、プラズマによる侵食を受け易い。そのため、カバーが石英で形成されていると、石英がプラズマに侵食され、石英に含まれる酸素が反応室1a内に放出され、プラズマ処理のプロセスの精度に影響を与える。
具体的には、石英がプラズマに侵食され、反応室1a内の酸素が増えると、反応室1a内に生成されるプラズマ中の酸素ラジカルや酸素イオンの量が増加し、シリコンの加工速度を低下する不具合が生じる。また、レジストマスクを用いて基板15のプラズマ処理を行う場合には、基板15のエッチング速度に対するレジストマスクのエッチング速度が相対的に増加し、所望の加工形状が得られなくなる不具合が生じる。一方、カバー5に窒化アルミニウム、アルミナ、酸化イットリウムなどを用いることで、酸素の発生も抑制されるため、シリコンの加工速度の低下が起こりにくく、また、所望の加工形状が得られやすくなり、プロセスの精度が向上することが見出されている。
窒化アルミニウムを用いる場合、カバー5の全体を窒化アルミニウムで形成してもよいが、窒化アルミニウムは高価である。一方、カバー5の侵食を防止する観点からは、カバー5の内側表面Saのうち、プラズマによる侵食を受け易い部分を窒化アルミニウムで形成すれば十分である。以上より、カバー5は、少なくともそのステージ2側の表面が、窒化アルミニウム(AlN)で形成された第1領域を有すればよい。また、第1領域は、部分P1のステージ2側の表面の少なくとも一部を含むように形成すればよい。すなわち、誘電体部材3およびカバー5を、誘電体部材3に対して垂直な方向から見るとき、部分P1の少なくとも一部、好ましくは50%以上、さらに好ましくは100%が第1領域の輪郭内に内包されていればよい。
侵食に対する耐性を向上させる観点からは、部分P1において、ステージ2側の表面から10μm以上の深さまでが、例えば窒化アルミニウムで形成されていればよい。カバー5の厚さは、特に限定されないが、通常3〜15mmであり、5〜12mmが好ましく、6〜10mmがよりに好ましい。カバー5の厚さが上記範囲であり、上記深さが10μm以上であれば、十分な厚さの窒化アルミニウムなどの層を形成することができる。
(第3実施形態)
本実施形態に係るプラズマ処理装置は、プラズマに含まれるラジカルおよび/またはイオンの流れを被処理物の表面に収束させる拡散防止部を具備すること以外、第1実施形態と同様である。図8は、本実施形態に係るドライエッチング装置10Aの構成を示す。第1実施形態の各要素に対応する本実施形態の各要素には、同じ符号を付している。
ドライエッチング装置10Aの反応室1a内には、プラズマに含まれるラジカルおよび/またはイオンの流れを被処理物の表面に収束させる拡散防止部が設けられている。これにより、部分P1の直下で発生した高密度プラズマを、被処理物の表面に均一に作用させやすくなる。拡散防止部は、容器1の側壁の内面から部分P1の下方までフランジ状に延びる突出部材であり、図示例の突出部材は、側壁の内面から斜め下方に延びる逆円錐台状部材21である。
プラズマの発生部がカバー5の部分P1の直下に局在する場合、部分P1で囲まれた中央領域の部分P2の直下では、プロセスガスの乖離効率が低下する傾向がある。これを補うように、逆円錐台状部材21が、溝3aの直下で発生した高密度プラズマに含まれるラジカルおよび/またはイオンを、中央領域の部分P2に輸送する。これにより、被処理物15の周辺部材(被処理物を保持する搬送キャリア、搬送キャリアを保護する保護部材など)に輸送されるラジカルおよび/またはイオンは減少する。以上により、被処理物15の表面には、均一かつ高密度のラジカルおよび/またはイオンが集中的に作用し、一方で被処理物15の周辺部材の劣化は抑制される。
拡散防止部を構成する材料としては、アルミニウムやステンレス鋼(SUS)のように、十分な剛性を有する金属材料や、表面をアルマイト加工したアルミニウムなどを使用できる。逆円錐台状部材21は、板状の上記材料を逆円錐台状に加工して作製すればよい。逆円錐台状部材21の最も下方に位置する先端部は、ステージ2から5〜10cm程度は上方に位置させることが望ましい。
容器1の側壁の内面と、逆円錐台状部材21の上面とが成す角度θは、ラジカルおよび/またはイオンを効率的に輸送する観点から、例えば15〜75°であればよい。角度θが側壁の内面との結合部から先端部に向かって変化する場合、角度θの平均値が上記範囲であればよい。
(第4実施形態)
本実施形態に係るプラズマ処理装置は、カバーの構造が異なること以外、第1実施形態と同様である。図8は、本実施形態に係るカバー5Bを具備するドライエッチング装置10Bの構成を示す。第1実施形態の各要素に対応する本実施形態の各要素には、同じ符号を付している。
カバー5Bは、例えば窒化アルミニウムで形成された第1部分5aと、それ以外の誘電体材料(例えばアルミナ)で形成された第2部分5bとで構成されている。第1部分5aは、円盤状であり、第2部分5bは、第1部分5aの周縁部を支持する枠状体である。すなわち、カバー5Bの内側表面Saは、窒化アルミニウムで形成されている第1領域AR1だけでなく、第2部分に対応する第2領域を有する。これにより、窒化アルミニウムで形成すべき第1部分5aを比較的小さくすることが可能となる。なお、高価な窒化アルミニウムで直径の大きな板状部材を形成するには相当のコストが必要である。
図示例では、部分P1の全体が第1部分5aに含まれ、かつ全てのガス噴出口9が部分P1に形成されている。これにより、プロセスガスのラジカルへの乖離効率が大きく向上するとともに、プラズマの侵食によるカバー5Bの消耗が顕著に抑制される。
第2部分5bの内側には、第1部分5aの周縁部と当接する縁部Tが設けられている。第1部分5aの周縁部が、第2部分5bの縁部Tと、第2部分5bに対して着脱可能な押さえ板20とで挟まれることにより、第1部分5aが第2部分5bに固定される。第1部分5aは第2部分5bに対して着脱可能(すなわち第1領域AR1は第2領域に対して着脱可能)であり、押さえ板20を第2部分5bから外すことで、第1部分5aを第2部分5bから分離できるようになっている。これにより、カバー5Bのうち、必要に応じて第1部分5aだけを交換することが可能となる。よって、メンテナンス費用を削減することもできる。
第1領域AR1の外周を囲む第2領域は、部分P1で囲まれた中央領域と同じく、プラズマの密度が相対的に小さく、プラズマの侵食を受けにくい領域である。また、溝3aと対向する部分P1は、第1領域AR1に内包されている。よって、例えば第2部分5bを石英やアルミナで形成した場合でも、カバー5B全体を窒化アルミニウムで形成した場合と同様のメリットを享受できる。一方、カバー5Bに必要なコストは低減する。
次に、本発明に係る溝を有する誘電体部材を用いる場合の優位性を検証するための実験を行った。
まず、図10に示すように、誘電体部材3の形状として、構造1(従来の平板型)、構造2(従来の梁3bを有する構造)、構造3(本発明の一実施形態に係る溝3aを有する構造)の3種類を用意した。そして、これら3種類の誘電体部材をプラズマ処理装置に取り付け、それぞれの放電安定領域の評価を行った。
各構造の放電安定領域の評価結果を図11(a)〜(f)に示す。いずれも、横軸が圧力、縦軸が誘導コイルに投入する電力である。図11(a)、(c)および(e)には、それぞれ、構造1から構造3の誘電体部材を用いた場合に、放電が得られる領域を○、放電が得られない領域を×で示している。また、図11(b)、(d)および(f)はそれぞれ、構造1から構造3の誘電体部材を用いた場合に、高周波電力を印加した際に誘導コイルの両端に発生するコイル電圧の測定結果である。電圧値に応じて、A(>10000V)、B(8000〜10000V)、C(6000−8000V)、D(4000−6000V)、E(2000〜4000V)、F(<2000V)とランク分けして示している。
構造1では、図11(a)に示すように、広い領域でプラズマを生成可能であった。しかしながら、図11(b)に示すように、誘導コイルに投入する電力を高くすると、コイル電圧が大きくなる傾向が見られた。このことは、誘導コイルとプラズマの結合が弱く、電力損失が大きいことを示している。したがって、誘導コイルに投入した電力を効率よく放電に寄与させることは容易ではなく、高速加工は困難である。
構造2では、図11(c)に示すように、低圧力領域では安定したプラズマ放電を維持できるが、高圧力側では安定した放電が得られなかった。この原因を調べるため、プラズマの発光状態を観察した。その結果、低圧力領域では、反応室内の誘導コイル直下の領域(梁状構造により形成される凹部)に発生したプラズマが、梁状構造により形成される凸部を跨いで、ドーナツ状に繋がっていることが分かった。一方、高圧力領域では、梁状構造により形成される凹部の内側にプラズマが偏在することが分かった。高圧力領域においては、梁状構造により誘電体部材の反応室側の面に形成される凹凸により、誘導コイル直下で発生したプラズマの横方向への拡散が阻害されるため、プラズマが偏在し、誘導コイルとプラズマの結合が不安定化するものと考えられる。このように、構造2の場合、広い放電安定領域を得ることは困難である。
構造3では、図11(e)に示すように、実験を行った全領域において安定したプラズマ放電を維持できた。また、図11(f)に示すように、実験を行った全領域において、構造1および構造2に比べてコイル電圧が低下した。すなわち、誘電体部材の一部を薄くすることで、誘導コイルとプラズマの結合が強化され、電力損失の低減が実現できた。また、構造3では、誘電体部材の反応室側の面を平面にできるため、広い領域にわたって安定して均一なプラズマを維持することができる。よって、ガスの種類や圧力領域の異なる様々なプロセスへの展開が可能となる。
さらに、プラズマダイシングの性能を評価した。プラズマダイシングは、個々のデバイス層をフォトレジスト(PR)や保護膜でマスクして、開口しているストリート部をプラズマにより垂直方向に加工することで、個片化する工法である。処理条件の調整と組合せにより、デバイス毎の要求仕様に応じた個片化が実現できる。また、既存工法に比べて、滑らかな側面形状を得ることができるので、個片化されたチップの抗折強度が向上する。シリコン基板をプラズマダイシングする場合、通常、ボッシュプロセスと呼ばれる、シリコンエッチングステップとポリマー堆積ステップを交互に繰り返すプロセスにより、垂直方向への加工が行われる。
まず、誘電体部材として構造1と構造3を用いた場合の、シリコン加工速度とポリマー堆積速度を評価した。構造1の場合、最適化されたシリコン加工速度は20μm/minであり、ポリマー堆積速度は0.5μm/minであった。また、構造3の場合、最適化されたシリコン加工速度は30μm/minであり、ポリマー堆積速度は1.0μm/minであった。すなわち、誘電体部材として構造3を用いることにより、従来比1.5〜2倍の加工または堆積速度を得ることができた。
次に、最適化されたシリコンエッチング条件とポリマー堆積条件を用いて、シリコンのプラズマダイシングを行った。評価サンプルとして、レジストマスク厚7μm、ストリート幅20μm、マスク開口率1.0%、直径200mmのシリコン基板を用いた。上述のシリコン加工速度30μm/minのシリコンエッチングステップと、ポリマー堆積速度1.0μm/minのポリマー堆積ステップを交互に繰り返すことにより、マスク開口部に露出したシリコンを垂直に加工することができた。このときのシリコンダイシング速度は22μm/min、面内均一性は±3.0%であり、高速かつ高均一な加工特性が得られた。