本発明に係るプラズマ処理装置は、反応室と、前記反応室内で被処理物を支持するステージと、前記反応室内で前記ステージと対向するように設置されたカバーと、前記カバーの前記ステージとは反対側に設置されたFS電極と、前記カバーの前記ステージとは反対側に設置されるとともに前記反応室の開口を塞ぐ誘電体部材と、前記誘電体部材の前記反応室に対して外側に設置される誘導コイルと、を具備する。前記FS電極は、スリット部および窓部の少なくとも一方を有している。前記カバーと前記誘電体部材との間には、プラズマの原料ガスが導入されるガス導入路が設けられており、前記カバーは、前記スリット部および前記窓部の少なくとも一部の対向する部分に、前記ガス導入路に導入された前記原料ガスを前記反応室内に供給するためのガス吹出孔を有する。これにより、ガス吹出孔の孔径の変化が抑制され、反応室内に原料ガスを所定の分布で安定的に供給することができる。そのため、プラズマ処理を繰り返しても、被処理物に対して安定したエッチングが行われる。さらに、カバーの交換頻度が低減されるため、生産性に優れる。
また、カバーは、FS電極のスリット部または窓部と対向する部分に、複数のガス吹出孔を有することが好ましい。ガス吹出孔が複数あることにより、反応室内へ供給される原料ガスの分布ばらつきが少なくなり、被処理物のエッチング特性の面内均一性をより向上することができる。
カバーは、スリット部および窓部の少なくとも一部に対向する部分に溝を備えており、この溝が、内側にガス吹出孔を有することが好ましい。この場合、カバーを誘電体部材に接するように設置でき、原料ガスは、カバーに設けられた溝を通って、ガス吹出孔から反応室内に供給される。よって、カバーと誘電体部材との間の隙間が低減されるため、この隙間で発生する異常放電が抑制される。そのため、さらに安定したエッチングが可能となるとともに、誘電体部材およびカバーの損傷が抑制され易くなる。
FS電極は、誘電体部材とカバーとの間に設置されてもよい。これにより、FS電極とカバーとが近接するため、不揮発性物質のカバーへの付着の抑制を、少ない電力で効果的に行うことができる。この場合、FS電極は、誘電体部材のカバーと対向する面に形成されても良い。誘電体部材が一体的にFS電極を備えることで、プラズマ処理装置の構造が簡素化される。
FS電極を誘電体部材とカバーとの間に設置する場合、誘電体部材の誘導コイルと対向する面に凹部を形成してもよい。このとき、誘導コイルの少なくとも一部は、当該凹部の中に配置されていることが好ましい。誘導コイルと反応室との距離をより近づけることが可能となり、プラズマの高密度化が容易となるためである。
また、FS電極を誘電体部材と誘導コイルとの間に設置してもよい。この場合、FS電極が反応室外に配置されるため、FS電極のプラズマによる損傷を抑制できる。
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態に係るプラズマ処理装置である誘導結合プラズマ(ICP)型のドライエッチング装置100の構成を示す。ドライエッチング装置100は、減圧可能な反応室1と、反応室1内で被処理物である基板5を支持するステージ4と、反応室1内でステージ4と対向するように設置されたカバー8と、カバー8のステージ4とは反対側に設置されたFS電極10と、カバー8のステージ4とは反対側に設置されるとともに反応室1の開口を塞ぐ誘電体部材3と、誘電体部材3の反応室1に対して外側に設置される誘導コイル15と、を備える。
反応室1は、上部が開口した概ね円筒状である。上部開口は蓋体である誘電体部材3により塞がれ、下部開口は下蓋2により塞がれている。下蓋2には、真空ポンプ(図示せず)に接続するガス排出口7が形成されており、反応室1内のガス等は、ガス排出口7から排気される。
反応室1には基板5を搬入出するためのゲート(図示せず)が設けられている。ステージ4は、ステージ4に高周波電力を投入するための電極(図示せず)を備える。また、ステージ4には、基板5を静電吸着により保持する機能や、冷媒の循環流路(図示せず)を設けることができる。
反応室1の側壁上端には、カバー8を支持するリング状の第1ホルダ17が支持され、第1ホルダ17上に第1弾性リング18を介してカバー8が支持されている。カバー8の周縁部は、誘電体部材3を支持するリング状の第2ホルダ19により固定される。第2ホルダ19上には、第2弾性リング20を介して、誘電体部材3が支持されている。カバー8は、誘電体部材3の反応室1側の主面3Aをプラズマから保護する役割を果たす。
反応室1、第1ホルダ17、第2ホルダ19などを構成する材料としては、アルミニウムやステンレス鋼(SUS)のように、十分な剛性を有する金属材料や、表面をアルマイト加工したアルミニウムなどを使用できる。また、誘電体部材3、カバー8などを構成する材料としては、酸化イットリウム(Y2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)、石英(SiO2)などの誘電体材料を使用できる。
誘電体部材3とカバー8との間には、例えば、隙間を設けることにより、ガス導入路13が形成されている。ガス導入路13の形成方法としては、例えば、誘電体部材3とカバー8との間にスペーサを配置する方法が挙げられるが、他の方法であっても良い。
また、第2ホルダ19には、所定のガス供給源からプラズマの原料ガスを反応室1内に導入するためのガス導入口6が設けられている。さらに、本実施形態において、第2ホルダ19の誘電体部材3側の面の内周側には、例えばドーナツ状にザグリ加工等による切欠き部19cが形成されている。この切欠き部19cとガス導入口6とは、第2ホルダ19内部で連通している。この切欠き部19cと誘電体部材3との隙間により、ガス分配経路24が形成される。ガス導入路13とガス分配経路24とは連通する。
ガス導入口6から導入される原料ガスは、ガス分配経路24およびガス導入路13を通って、カバー8に設けられたガス吹出口9から反応室1内に供給される。ガス導入口6に導入される原料ガスの量は、流量制御装置およびバルブを含む流通制御手段(図示せず)によって制御することができる。
反応室1の外側には、誘導コイル15が設置されている。第一高周波電源16から、誘導コイル15に、高周波電力(例えば13.56MHz)が投入されると、誘導磁場が発生する。これと反応室内の原料ガスが作用して、反応室内に誘導結合プラズマが発生する。発生した誘導結合プラズマにより、基板5はエッチングされる。誘導コイル15の形状等については、後述する。
誘電体部材3は、反応室1の開口形状に沿った概ね円形の板状であり、厚みは例えば10〜40mmである。誘電体部材3の主面3Aのうち、カバー8に対向する対向領域には、FS電極として、所定のFS電極層10が形成される。FS電極層10は、電極領域10aと非電極領域10bからなり、電極領域10aは絶縁膜で被覆されている。本実施形態において、FS電極層10は誘電体部材3とカバーとの間に形成されているため、カバー8に付着する不揮発性物質を除去する効果が向上し易い。
FS電極層10は、図2(a)に示すように、カバー8の形状に沿った概ね円形であって、カバー8よりも一回り小さい。つまり、FS電極層10は、誘電体部材3のカバー8に対向する対向領域よりも一回り小さい。FS電極層10は、FS電極層10の中心C10と誘電体部材3の主面3Aの中心とが重なるように、誘電体部材3の主面3Aに形成されている。なお、図1および図2(a)では、便宜上、電極領域10aを被覆する絶縁膜を省略している。
このとき、誘電体部材3は主面3Aに平坦部を有しており、FS電極層10がこの平坦部に形成されていることが好ましい。FS電極層10を誘電体部材3の平坦部に形成する場合、蒸着や溶射など、比較的簡単な工程で形成可能となる。また、FS電極層10を平坦部に形成することで、電極領域10aの断線や、電極領域10aを被覆する絶縁膜の被覆不良による電極領域10aの短絡などの不具合が発生しにくくなる。さらに、FS電極層10形成後の主面3Aを平坦にすることができ、主面3Aと対向して配置されるカバー8もまた平坦な構造にすることができる。これにより、プラズマの分布が均一になりやすく、エッチングの安定性がより向上する。さらに、メンテナンスが容易となる。
誘電体部材3の主面3Aには、FS電極層10だけでなく、電熱ヒータ層などの複数の電極層を積層してもよい。この場合、まず、誘電体部材3の主面3Aに電熱ヒータ層を形成し、次いで、FS電極層10を積層することが好ましい。このような積層構造にすることにより、電極ヒータ層によって、誘電体部材3はより効率的に加熱されるとともに、FS電極層10とカバー8の距離を近づけることができるため、付着物の除去効率を高めることができる。
FS電極層10は、主面3Aに形成された、平坦な底面を有する窪みの中に形成されていてもよい。窪みは、誘電体部材3の主面3Aを切削等することにより形成することができる。窪みの深さは特に限定されず、窪み内にFS電極層10をすべて形成できる程度であってもよいし、FS電極層10の一部のみを形成できる程度であってもよい。窪みの深さは、例えば0.2〜3.0mmである。また、誘電体部材3は、第2ホルダ19との接触部分以外の部分に、平坦な頂部を有する凸部を有していても良い。この場合、FS電極層10は、この凸部に形成される。いずれの場合であっても、主面3Aの平坦な部分にFS電極層10を形成することで、比較的簡単にFS電極層10を形成することができる。
電極領域10aは、金属等の導電性材料により形成される。電極領域10aを形成する導電性材料としては、高抵抗のタングステン(W)を例示できる。電極領域10aを被覆する絶縁膜は、セラミックス(例えば、ホワイトアルミナ)などの誘電体材料により形成すればよい。電極領域10aは絶縁膜により被覆されているため、電極領域10aを構成する金属に由来する反応室内の金属汚染やパーティクルの発生を抑制することができる。さらに、絶縁膜は、原料ガスやプラズマによる電極領域10aの損傷を抑制する。
電極領域10aは、第1高周波電源16からの高周波電力の投入によって誘導コイル15から出力される誘導磁場が透過できるような形状に形成されている。すなわち、FS電極層10は、電極領域10aに加えて、電極領域が形成されていないスリット部10bsおよび窓部10bwの少なくとも一方を備える。以下、スリット部10bsおよび窓部10bwを、まとめて非電極領域10bと称す場合がある。非電極領域10bは、空隙あるいは絶縁膜で構成される。
ここで、窓部10bwとは、周囲すべてを電極領域10aに囲まれた非電極領域10bをいう。これに対してスリット部10bsとは、周囲の一部のみが、電極領域10aに接している非電極領域10bをいう。
本実施形態では、図2(a)に示すように、FS電極層10は、電極領域10aと、FS電極層10の中央部M10の外縁から放射状に延びるスリット部10bsとを備える。中央部M10とは、FS電極層10の半径をR10としたとき、例えば、中心C10から半径R10/4の円の内部をいう。
図2(a)において、スリット部10bsは等間隔で形成されているが、これに限定されない。なかでも、プラズマを均一に発生させる観点から、スリット部10bsは、FS電極層10の中心C10に対して点対称、あるいは、中心C10を通る直線に対して線対称になるように複数形成されることが好ましい。スリット部10bsの数は特に限定されず、適宜設定することができる。
図2(a)では、スリット部10bsは矩形である。スリット部の形状はこれに限定されず、FS電極層10の外周にかけて幅が大きくなる台形や三角形であっても良い。スリット部10bsの幅も特に限定されないが、スリット部10bsの幅はカバー8の厚みT8以下であることが好ましい。なお、カバー8の厚みT8は、例えば、3〜10mm程度である。また、後述するように、少なくとも一部のスリット部に対向する位置にガス吹出孔が配置されることを考慮すると、対向する位置にガス吹出孔が配置されたスリット部10bsのうちの少なくとも一部は、ガス吹出孔の直径rよりも大きな幅を有していることが好ましく、スリット部10bsの幅の平均がガス吹出孔の直径rよりも大きいことがより好ましい。なお、スリット部10bsの幅とは、中央部M10の外縁からFS電極層10の外周に向かう方向に垂直な方向の長さをいう(以下、同じ)。
スリット部10bsを含む非電極領域10bの合計の面積(あるいは、電極領域10aの合計の面積)は、FS電極層10に投入される電力やカバー8に付着する付着物の種類等によって適宜設定すればよい。例えば、スリット部10bsを含む非電極領域10bの合計の面積が、電極領域10aと非電極領域10bとの合計の面積の50%以下となるように、スリット部10bsの数、形状、幅等を設定して形成することができる。
FS電極層10には、誘電体部材3を貫通し、第2高周波電源14に接続する給電端子12が接続されている。FS電極層10には、第2高周波電源14から高周波電力(例えば13.56MHz)が投入される。FS電極層10に高周波電力を投入することにより、カバー8とプラズマとの間、具体的には、カバー8のステージ4と対向する面であって、電極領域10aの直下の領域と、プラズマとの間にバイアス電圧が生じる。バイアス電圧によって、プラズマ中のイオンは電極領域10aを目指して移動し、カバー8のステージ4に対向する面であって、電極領域10aの直下の領域に衝突する。これにより、カバー8に付着する反応生成物等の付着物が除去される。
なお、図1では、誘導コイル15には第1高周波電源16が接続され、FS電極層10には第2高周波電源14が接続されているが、誘導コイル15とFS電極層10とを並列に、可変チョークまたは可変コンデンサを介して、同じ高周波電源に接続してもよい。また、誘導コイル15には第1高周波電源16を接続し、FS電極層10には可変チョークまたは可変コンデンサを接続し、第1高周波電源16から発振された電力を誘導コイル15から空気を介してFS電極層10に重畳させてもよい。このとき、誘導コイル15およびFS電極層10に投入される電力比を、可変チョークまたは可変コンデンサで調整してもよい。
第2高周波電源14からFS電極層10に投入される高周波電力の周波数は、誘導コイル15に投入される高周波電力の周波数と異なっていても良い。FS電極層10に投入される高周波電力の周波数を、誘導コイル15に投入される高周波電力の周波数(例えば13.56MHz)と異なる周波数(例えば、2MHz)にすることで、誘導コイル15およびFS電極層10に投入される高周波同士の干渉が抑制され、高周波回路におけるインピーダンス整合状態が安定化する。
FS電極層10は、非電極領域10bに対応するマスクを介在させて、金属を誘電体部材3の表面に溶射または蒸着することにより形成できる。これにより、FS電極層10は、放射状に配置された複数のスリット部(非電極領域10b)を有する形状に形成される。電極領域10aの厚さは、例えば10〜300μmである。あるいは、金属箔もしくは金属板から電極領域10aの形状のFS電極層10を成形し、その後、FS電極層10を誘電体部材3の表面に固定してもよい。電極領域10aは、給電端子12と電気的に接続される。給電端子12は、誘電体部材3に所定数の貫通穴を形成し、この貫通穴に導体を充填または挿入することにより形成される。
電極領域10aを被覆する絶縁膜は、例えば、電極領域10aの表面にホワイトアルミナを溶射することにより形成される。絶縁膜は、絶縁膜を含むFS電極層10の厚さが、例えば10〜300μmになるような厚さに形成すれば良い。絶縁膜の成膜方法は溶射に限定されず、例えば、スパッタ、化学気相成長(CVD)、蒸着、塗布などでも良い。このとき、非電極領域10bを含むFS電極層10全体の表面に、絶縁膜を溶射等することにより、絶縁膜で被覆された電極領域10aとともに、絶縁膜からなる非電極領域10bを形成することができる。なお、非電極領域10bは必ずしも絶縁膜で構成されている必要はなく、単なる空隙であってもよい。
このような方法により形成されるFS電極層10は、誘電体部材3と一体的な構造である。そのため、FS電極層10形成後の誘電体部材3の主面3Aを平坦あるいは平坦に近い形状にすることができる。誘電体部材3に隣接して配置されるカバー8もまた、一枚の平板状の構造にすることができる。これにより、プラズマの分布が均一になりやすく、エッチングの安定性がより向上する。さらに、メンテナンスが容易となる。
カバー8は、誘電体部材3をプラズマから保護するとともに、原料ガスを反応室1に供給する機能を備える。すなわち、カバー8には、カバー8を厚み方向に貫通するガス吹出孔9が形成されている。
図2(b)に示すように、ガス吹出孔9は、少なくとも一部のFS電極層10のスリット部10bsに対向する位置に形成されている。言い換えれば、プラズマ処理装置に設置されたFS電極層10およびカバー8をFS電極層10側から見たとき、図2(c)に示すように、ガス吹出孔9は、電極領域10aに重ならないように配置されている。なお、ガス吹出孔9のすべてが電極領域10aに重ならないように配置されていなくても良い。例えば、ガス吹出孔の合計数の90%以上が、電極領域10aに重ならないように配置されていれば良い。
FS電極層10に高周波電力を投入した場合、カバー8のステージに対向する面であって電極領域10aの直下の領域において、バイアス電圧が発生し、このバイアス電圧によってプラズマ中のイオンがカバー8に入射する。その結果として、カバー8の表面に付着する付着物が除去される。一方、ガス吹出孔9は、電極領域10aの直下の領域以外の領域(すなわち、非電極領域10b)に配置されているため、FS電極層10に高周波電力を投入した場合に、ガス吹出孔9の近傍ではバイアス電圧が生じ難い。そのため、ガス吹出孔9へのプラズマ中のイオンの入射はあまり生じず、ガス吹出孔9のステージ側の開口端部はエッチングされ難い。
すなわち、ガス吹出孔9を電極領域10aに重ならないように、スリット部10bsおよび窓部10bwの少なくとも一部に対向する部分に配置することにより、ガス吹出孔9の孔径が大きくなったり、形状が変化したりすることが抑制される。そのため、反応室内に原料ガスを所定の分布で安定的に供給することができ、エッチングが安定的に進行する。さらに、ガス吹出孔9の変形が抑制されるため、カバー8の交換頻度が低減する。
なお、このように、カバー8の表面にバイアス電圧の強い部分と弱い部分を形成するためには、電極領域10aとカバー8とが近接していることが好ましい。電極領域10aとカバー8との距離は、例えば、5mm〜12mm程度であることが好ましい。カバー8と電極領域10aとの距離が近いほど、電極領域10aに高周波電力を投入した際に、カバー8の表面に生じるバイアス電圧の分布が、電極領域10aの形状を転写したものになり易い。そのため、カバー8における電極領域10aの直下の領域、および、非電極領域10bのバイアス電圧の強弱を明確にすることができる。
また、本発明によれば、上述した効果以外の別の効果も得られる。
カバーに設けられたガス吹出孔から反応室内に原料ガスを供給するには、反応室の内圧(通常、1〜50Pa程度)よりも高い圧力で、原料ガスをガス吹出孔から押し出さなければならない。そのため、ガス吹出孔付近には局所的に、例えば100Pa以上の高い圧力が加わる。また、ガス吹出孔の開口端部のように角のある部分には、一般に電界が集中しやすい。つまり、エッチング処理の際、ガス吹出孔付近は、高圧力かつ高電界の状態になり易い。その結果、ガス吹出孔付近で異常放電が発生し易くなる。さらに、カバーの付着物除去の効果を高めるため、FS電極を、カバーの近傍であって、かつ、反応室の内部に設置する場合、カバー付近では、FS電極による電界も生じる。すなわち、ガス吹出孔付近は、異常放電がより発生し易い状態になる。このように、カバーに設けられたガス吹出孔は、異常放電の原因となり易く、FS電極による付着物除去効果を高める上で、阻害要因の一つとされていた。
一方で、均一なエッチングを行う為には、カバーに複数のガス吹出孔を設け、基板に対して、反応室の上方からガスをシャワー状に供給することが有効である。
本発明によれば、ガス吹出孔9を、電極領域10aと重ならないように、カバー8のスリット部10bsおよび窓部10bwの少なくとも一部に対向する部分に配置することにより、FS電極10による付着物除去効果とエッチングの均一性向上とのトレードオフの関係を解消することができる。すなわち、カバー8にガス吹出孔9を設けることにより、均一なエッチング特性を得るとともに、FS電極10による付着物除去効果を高めることができる。
図2(b)に示すように、ガス吹出孔9は、少なくとも一部のスリット部10bsに対応するように、カバー8の中央部M8の外縁からカバー8の外周にかけて等間隔で放射状に並んでいる。ガス吹出孔9の配置はこれに限定されず、少なくとも一部のスリット部10bsに対応する位置にランダムに配置されていても良く、反応室内に発生するプラズマを均一に分布することができるような位置に、適宜配置すれば良い。カバー8の中央部M8とは、カバー8の半径をR8としたとき、例えば、中心C8から半径R8/4の円の内部をいう。
ガス吹出孔9の形状は特に限定されず、円形、楕円形、矩形、丸角の矩形等が例示できる。なかでも、形成し易い点で円形であることが好ましい。ガス吹出孔9の数も特に限定されず、ガス吹出孔9の形状や大きさに応じて適宜設定すれば良い。なかでも、原料ガスの分布をコントロールし易い点で、ガス吹出孔9は、複数配置されることが好ましい。例えば、ガス吹出孔9が円形であって、その直径rが0.1〜1.5mmである場合、ガス吹出孔9の数は、48〜60個程度であることが好ましい。また、エッチングに必要とされる十分な量の原料ガスをガス吹出孔9から反応室1内に供給する観点から、ガス吹出孔9の合計の面積は、カバー8の主面の面積の0.5〜5%程度であることが好ましい。
スリット部10bsの幅は、上記のとおり、FS電極層10への投入電力等に応じて適宜設定され得る。なかでも、ガス吹出孔9による原料ガスの供給性能およびFS電極層10によるバイアス電圧の発生性能の観点から、スリット部10bsの幅方向に円形のガス吹出孔9が1つ配置される場合、ガス吹出孔9の直径rとスリット部10bsの平均の幅Wとは、カバー8の厚みをT8として、r≦W≦T8の関係を満たすことが好ましい(図12参照)。また、ガス吹出孔9の中心は、スリット部10bsの幅を2等分する直線上にあることが好ましい。
ガス吹出孔9の直径rは特に限定されないが、形成の容易性および原料ガスの供給性能の観点から、0.1〜1.5mmであることが好ましく、0.3〜1.0mmであることがより好ましく、0.5〜0.8mmであることが特に好ましい。カバー8の厚みT8も特に限定されず、所望のバイアス電圧に応じて適宜設定すれば良い。カバー8の厚みT8は、3〜15mmであることが好ましく、5〜12mmであることがより好ましく、6〜10mmであることが特に好ましい。
図3に、本実施形態に係る誘電体部材3と誘導コイル15の配置を模式的に示す。図3は、誘導コイル15を、誘電体部材3の反応室1の外側の主面の法線方向から見た場合を示す平面図である。
コイル15は、中心から外周側に向けて螺旋状に延びる導体15aにより形成されている。導体15aは、例えば、リボン状の金属板であってもよいし、金属線であってもよい。コイル15を形成する導体15aの数は特に限定されず、コイル15の形状も特に限定されない。例えば、1本の導体15aからなるシングルスパイラル型のコイルであってもよいし、複数の導体15aからなるコイルを並列に接続したマルチスパイラル型のコイルであってもよい。
また、誘電体部材3の面と平行な同一平面内で導体15aを螺旋状に延ばして形成した平面型のコイルであってもよいし、導体15aを外側から内側へと螺旋状に延ばしながら、誘電体部材3の反応室1の外側の主面の法線方向に引張った立体型のコイルであってもよい。コイル15は、マッチング回路(図示せず)等を介して第1高周波電源16と電気的に接続されている。図1では、コイル15の中心付近の誘電体部材3からの距離が外周側よりも大きくなるように形成されているが、コイル15と誘電体部材3との位置関係は、これに限定されない。
以下、本実施形態のドライエッチング装置100の動作の一例を、図1を参照しながら説明する。
まず、反応室1内が排気される。反応室1内は減圧雰囲気であり、誘電体部材3には大気圧とほぼ同じ圧力が付与される。
その後、所定のガス供給源から、ガス導入口6、ガス導入路13およびガス吹出孔9を介して、原料ガスが反応室1内に供給される。エッチングされる基板5は、エッチングのパターンに応じたレジストマスクを有している。基板5の材質は、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)などの半導体材料でもよいし、アルミニウム、金、白金などの金属材料でもよいし、強誘電材料、貴金属材料、磁性材料などの不揮発性材料であってもよい。基板5の材質がSiである場合、原料ガスには、例えばフッ素系ガス(SF6など)が使用される。また、基板5の材質が金属材料や不揮発性材料の場合、原料ガスには、例えば塩素系ガス(BCl3、Cl2など)が使用される。
次に、第1高周波電源16からコイル15に高周波電力が投入され、反応室1側の誘電体部材3の近傍にドーナツ状の高密度プラズマが発生する。このとき、基板5を保持するステージ4にも、所定の高周波電源からバイアス電圧が印加される。これにより、プラズマ中のラジカルやイオンが基板5の表面に輸送され、バイアス電圧により加速されて基板5に衝突する。その結果、基板5がエッチングされる。
一方、FS電極層10には、第2高周波電源14から高周波電力が投入され、電極領域10aの近傍においてバイアス電圧が生じる。これにより、プラズマ中のイオンの一部は、バイアス電圧により加速され、カバー8のステージ4に対向する面であって、電極領域10aの直下の部分に衝突する。その結果、カバー8に付着する反応生成物等の付着物が除去される。
(第2実施形態)
本実施形態に係るプラズマ処理装置は、FS電極層10における非電極領域10bが、窓部およびスリット部を含んでいること以外、第1実施形態と同様である。図4は、本実施形態に係るFS電極層およびカバーの構成を模式的に示す上面図である。第1実施形態の各要素に対応する本実施形態の各要素には、同じ符号を付している。
非電極領域10bは、誘電体部材3の中央部M10の外縁から放射状に延びるスリット部10bs、および、中央部M10に形成される窓部10bwを含んでいる。窓部10bwの形状は特に限定されず、円形であっても良いし、矩形であっても良いし、これらの組み合わせであっても良い。
窓部10bwの大きさは特に限定されず、例えば、スリット部10bsおよび窓部10bwを含む非電極領域10bの合計の面積が、電極領域10aと非電極領域10bとの合計の面積の50%以下となるように、窓部10bwの大きさ、数等を、適宜設定すれば良い。なかでも、少なくとも一部の窓部に対向する位置にガス吹出孔が配置されることを考慮すると、窓部10bwは、少なくとも1つのガス吹出孔が収まる程度の大きさを有していることが好ましい。
なお、図4(a)では、FS電極層10の中心C10を含む直径の大きな窓部10bw1と、この窓部10bw1を囲むように複数配置された、直径のより小さな窓部10bw2とが形成されているが、窓部の配置はこれに限定されるものではない。なお、図4(a)において、窓部10bw1は、9個のガス吹出孔9が収まる程度の大きさであって、窓部10bw2は、それぞれ1個のガス吹出孔9が収まる程度の大きさである。
窓部10bwの径は、上記のとおり、FS電極層10への投入電力等に応じて適宜設定され得る。なかでも、ガス吹出孔9による原料ガスの供給性能およびFS電極層10によるバイアス電圧の発生性能の観点から、1個のガス吹出孔9が収まる程度の大きさを有する窓部に円形のガス吹出孔9が1つ配置される場合、ガス吹出孔9の直径rと窓部10bwの直径Wとは、カバー8の厚みをT8として、r≦W≦T8の関係を満たすことが好ましい(図12参照)。
ガス吹出孔9は、図4(b)に示すように、カバー8の中央部M8にも形成されている。これにより、原料ガスを反応室の中心付近にも分布させることができる。図4(c)に、プラズマ処理装置に設置されたFS電極層10およびカバー8をFS電極層10側から見た平面図を示す。カバー8の中央部M8に形成されたガス吹出孔9も、非電極領域10b(窓部10bw1および窓部10bw2)に対向する位置に配置されている。
(第3実施形態)
本実施形態に係るプラズマ処理装置は、カバー8が、誘電体部材3に対向する面8Aであって、非電極領域10b(スリット部および/または窓部)の少なくとも一部に対向する部分に溝8aを備えている。溝8aは、ガス吹出孔9を有している。言い換えれば、溝8aの内側には、ガス吹出孔9の誘電体部材側の開口端部が形成されており、ガス吹出孔9は、この開口端部からカバー8の他方の主面8Bまで貫通している。なお、溝8aは、すべてが非電極領域10b(スリット部および/または窓部)に対向していなくても良い。
図5Aは、本実施形態に係るカバーおよび第2ホルダの構成を模式的に示す上面図であり、図5Bの(a)、(b)、(c)および(d)は、それぞれ、図5AのX1−X1線、X2−X2線、X3−X3線、X4−X4線における拡大断面図である。なお、図5Bでは、便宜上、電極領域10aを被覆する絶縁膜を省略している。図6は、本実施形態に係るプラズマ処理装置の構造を模式的に示す断面図である。第2実施形態の各要素に対応する本実施形態の各要素には、同じ符号を付している。
溝8aは、カバー8の中心C8からカバー8の外周にかけて放射状に形成される複数の溝8a−1〜8を含む。溝8a−1〜8は、中心C8付近で連通している。また、溝8a−1〜8は、第2ホルダ19の誘電体部材3側の面であって、内周側に形成された切欠き部19cと連通している(図5B(c)参照)。この切欠き部19cとガス導入口6は、第2ホルダ19内部で連通している(図5B(a)参照)。この切欠き部19cと誘電体部材3との隙間により、カバー8の外縁を全周にわたって取り囲むガス分配経路24が形成される。図5Aでは、切欠き部19cを網掛けにより示している。
ガス導入口6には、原料ガスを供給するためのガス配管25が接続されている。ガス配管25からガス導入口6へと導入された原料ガスは、カバー8の外縁を全周にわたって取り囲むガス分配経路24を経由して分配され、溝8a−1〜8の外周側の端部から溝8a−1〜8に流入する(図5B(c)および(d)参照)。次いで、原料ガスは、溝8a−1〜8のそれぞれの内側(底部)に形成されるガス吹出孔9の誘電体部材側の開口端部からガス吹出孔9に流入し、反応室1内に供給される。
上記のように、第2ホルダ19に切欠き部19cを形成することにより、配管を複雑化することなく、比較的簡単な構造で、ガス導入口6から溝8a−1〜8に原料ガスを供給することができる。なお、ガス導入口6に導入される原料ガスの量は、流量制御装置22およびバルブ23を含む流通制御手段21によって制御することができる。
溝8aの底部の幅W8aは特に限定されず、少なくとも1つのガス吹出孔9が収まる程度の大きさであれば良い。溝8aの深さD8aも特に限定されない。原料ガスが導入され易く、ガス導入経路において異常放電が発生しにくい点で、溝8aの深さD8aは0.1〜1mm程度であることが好ましい。図5Aでは、溝8aの底部に一列に等間隔で並んだガス吹出孔9が示されているが、これに限定されない。ガス吹出孔9は、溝8aの底部に複数列配置されていても良いし、ランダムに配置されていても良い。ガス吹出孔9は、反応室内に発生するプラズマを均一に分布することができるような位置に、適宜配置すれば良い。
図5Bに示すように、本実施形態に係るプラズマ処理装置において、ガス導入路13は、誘電体部材3とカバー8の溝8aとの間に形成されている。つまり、カバー8の主面8Aの溝8a以外の部分と誘電体部材3とを、接するように設置できるため、カバー8と誘電体部材3との間に隙間が存在することに起因して発生する異常放電を、抑制することが可能となる。そのため、電極領域10aの損傷が抑制され易くなる。
(第4実施形態)
本実施形態に係るプラズマ処理装置は、図7Aに示すように、溝8aが、カバー8の中央部M8の外縁からカバー8の外周にかけて放射状に形成される溝8a−A、および、溝8a−Aとは連通しない溝8a−Bとを含んでいる。第3実施形態と同様に、溝8aは、ガス吹出孔9を有している。溝8a−Aおよび溝8a−Bには、それぞれ異なるガス配管25A、25Bから原料ガスが供給される。
図7Aは、本実施形態に係るカバーおよび第2ホルダの構成を模式的に示す上面図であり、図7Bの(a)、(b)、(c)、(d)および(e)は、それぞれ、図7AのY1−Y1線、Y2−Y2線、Y3−Y3線、Y4−Y4線およびY5−Y5線における拡大断面図である。なお、図7Bでは、便宜上、電極領域10aを被覆する絶縁膜を省略している。第3実施形態の各要素に対応する本実施形態の各要素には、同じ符号を付している。
溝8a−Aは、溝8a−A1〜A8から構成されており、溝8a−A1〜A8はそれぞれ直接的には連通していない。溝8a−Bは、溝8a−B1〜B10から構成されており、溝8a−B1〜B10は、カバーの中心C8付近で連通している。溝8a−B1〜B8は、カバー8の中央部M8に放射状に形成されており、溝8a−Aとは連通していない。溝8a−B9、10は、カバー8の中心C8(図示せず)からその外周にかけて形成されている。溝8a−B9、10は、それぞれガス分配経路24B、24Dに連通しているが、やはり溝8a−Aとは連通していない。溝8a−B1〜B8は、ガス分配経路24Bおよび24Dとも直接的には連通していない。
本実施形態において、第2ホルダ19には、4つのガス導入口(6A、6B、6Cおよび6D)が形成されている。ガス導入口6Aと6Cにはガス配管25Aが接続されており、ガス導入口6Bと6Dにはガス配管25Bが接続されている。
第2ホルダ19の誘電体部材3側の面であって、内周側には、切欠き部19c(19ca、19cb、19ccおよび19cd)が形成されている(図7B(a)〜(c)参照)。切欠き部19ca、19cb、19ccおよび19cdは、互いに連通していない。これら切欠き部19cとガス導入口6(6A、6B、6Cおよび6D)とは、それぞれ第2ホルダ19内部で連通している(図7B(a)参照)。この切欠き部19cと誘電体部材3との隙間により、4つのガス分配経路(24A、24B、24Cおよび24D)が形成される。図7Aでは、切欠き部19c(19ca、19cb、19ccおよび19cd)を網掛けにより示している。
ガス分配経路24Aは、溝8a−A1、A6、A7、A8と連通し、ガス分配経路24Cは、溝8a−A2、A3、A4、A5と連通する。また、ガス分配経路24Bは溝8a−B9と連通し、ガス分配経路24Dは溝8a−B10と連通する。
したがって、ガス配管25Aから供給された原料ガスは、ガス導入口6Aおよび6Cから導入され、ガス分配経路24Aおよび24Cを経由して分配され、溝8a−A1、A6、A7、A8の外周側の端部および溝8a−A2、A3、A4、A5の外周側の端部から、それぞれの溝8aに流入する。次いで、原料ガスは、溝8a−A1〜8のそれぞれの内側(底部)に形成されるガス吹出孔9の誘電体部材側の開口端部からガス吹出孔9へと流入し、反応室1内に供給される。
ガス配管25Bから供給された原料ガスは、ガス導入口6Bおよび6Dから導入され、ガス分配経路24Bおよび24Dを経由して、溝8a−B9および溝8a−B10に流入する。溝8a−B9およびB10に流入した原料ガスは、中心C8付近で連通する溝8a−B1〜B8に流入し、各溝の内側(底部)に形成されるガス吹出孔9の誘電体部材側の開口端部からガス吹出孔9へと流入し、反応室1内に供給される。なお、図7Aでは、便宜上、溝8a−A1〜A3およびA5〜A8を、単にA1〜A3およびA5〜A8と示し、溝8a−B1、B2およびB4〜B10を単にB1、B2およびB4〜B10と示している。
上記のように、第2ホルダ19に切欠き部19cを形成することにより、配管を複雑化することなく、比較的簡単な装置構造で、溝8a−A1〜A8および溝8a−B1〜B10に別々に原料ガスを供給することができる。
なお、ガス配管25Aから供給される原料ガスの量は、流量制御装置22Aおよびバルブ23Aを含む流通制御手段21Aによって制御することができる。ガス配管25Bから供給される原料ガスの量は、流量制御装置22Bおよびバルブ23Bを含む流通制御手段21Bによって制御することができる。流量制御装置22Aおよび22Bは、それぞれ独立した制御機構を有していても良い。これにより、反応室1の中央部およびそれ以外の部分の原料ガスの分布を個別に調整することができる。よって、反応室内に発生するプラズマの分布を均一にして、エッチングにおける面内分布を均一にすることが容易となる。
(第5実施形態)
本実施形態に係るプラズマ処理装置は、FS電極層10が、誘電体部材3と誘導コイル15との間、つまり、誘電体部材3の誘導コイル15側の主面に形成されていること以外、第1実施形態と同様である。図8は、プラズマ処理装置の構造を模式的に示す断面図である。第1実施形態の各要素に対応する本実施形態の各要素には、同じ符号を付している。
この場合にも、ガス吹出孔9は、非電極領域10bの少なくとも一部に対向する位置に配置されるため、ガス吹出孔9の孔径や形状の変化が抑制される。そのため、反応室内に原料ガスを所定の分布で供給することができ、エッチングが安定して進行する。さらに、ガス吹出孔9の変形が抑制されるため、カバー8の交換頻度が低減される。また、反応室1FS電極層10が反応室1の外に配置されるため、FS電極層10のプラズマによる損傷を抑制できる。この場合、電極領域10aは必ずしも絶縁層で被覆されている必要はなく、金属が露出していてもよい。また、非電極領域10bは必ずしも絶縁層で構成されている必要はなく、単なる空隙であってもよい。
(第6実施形態)
本実施形態に係るプラズマ処理装置は、誘電体部材3の主面3AとFS電極層10との間に、電熱ヒータ26が形成されていること以外、第1実施形態と同様である。図9は、プラズマ処理装置の構造を模式的に示す断面図である。図10は、電熱ヒータ26の一例を示す平面図である。第1実施形態の各要素に対応する本実施形態の各要素には、同じ符号を付している。
図10に示すように、電熱ヒータ26は、高抵抗の金属からなるライン状のヒータ電極26aを含む。ヒータ電極26aは、誘電体部材3を貫通する給電端子27と接続されており、給電端子27は交流電源28と電気的に接続されている。交流電源28から給電端子27に電力を供給することにより、ヒータ電極26aが発熱する。高抵抗の金属としては、例えばタングステン(W)を用いることが好ましい。ライン状のヒータ電極26aは、例えば、サーペンタイン型の形状に描かれる。
ヒータ電極26aは、FS電極層10の電極領域10aからはみ出さないように配置されていることが好ましい。これにより、誘導コイルに高周波電力を投入することにより発生した誘導磁場が、非電極領域10bを透過する時の高周波パワーの損失を抑制することができる。
上記構成は例示に過ぎず、電熱ヒータ26とFS電極層10との位置を逆にした構成でも良い。なかでも、誘電体部材3に近い方に電熱ヒータ26を配置することが好ましい。誘電体部材3の加熱が効率よく行われるためである。
電熱ヒータ26およびこれに積層するFS電極層10は、以下の要領で形成される。
まず、誘電体部材3に、所定数の貫通穴を形成する。貫通穴に導体を充填または挿入することにより、給電端子12および27を形成する。
次に、誘電体部材3の主面3Aにヒータ電極26aを形成する。ヒータ電極26aは、ヒータ電極26aに対応するマスクを介在させて、タングステンのような高抵抗の金属を、主面3Aに溶射することにより形成できる。あるいは、タングステン線をヒータ電極26aの形状に屈曲させ、その後、タングステン線を主面3Aに固定してもよい。このとき、溶射パターンあるいはその他の手法を用いて形成したヒータ電極26aは、給電端子27と電気的に接続される。ヒータ電極26aの厚さは、例えば10〜300μmである。
次に、ヒータ電極26aを完全に覆うように絶縁膜を形成する。絶縁膜の形成方法は、第1実施形態において、電極領域10aを被覆する絶縁膜を形成する方法として例示したのと同様の方法を用いればよい。絶縁膜を形成する前に、誘電体部材3と絶縁膜との密着性を高めるために、イットリアのような密着層を主面3Aに溶射してもよい。電熱ヒータ26の厚さは、例えば10〜300μmである。続いて、電熱ヒータ26の表面に、FS電極層10を形成する。FS電極層10は、上記と同様にして形成することができる。
電熱ヒータ26には、交流電源28から電力が投入され、誘電体部材3の温度制御が行われる。誘電体部材3を加熱することにより、カバー8に付着する揮発性物質が除去され易くなる。また、誘電体部材3の温度制御を行うことにより、繰り返しあるいは長時間のプラズマ処理に際しても、誘電体部材3の温度を所定の範囲内に維持することが可能となり、エッチング特性の経時変化を低減できる。
(第7実施形態)
本実施形態に係るプラズマ処理装置は、誘電体部材3のコイル側の面に凹部3aが形成されており、コイル15の少なくとも一部が凹部3aの中に配置されている。図11は、プラズマ処理装置の構造を模式的に示す断面図である。第1実施形態の各要素に対応する本実施形態の各要素には、同じ符号を付している。
誘電体部材3は、凹部3aにより部分的に薄くなっている。この凹部3aの中に、コイル15の少なくとも一部を配置することにより、コイル15の凹部3aの中に配置された部分は、反応室1との距離が近くなる。よって、高周波パワーの損失を抑制することができる。一方、凹部3aは、板状の誘電体部材3の一表面に部分的に形成することができるため、誘電体部材3の機械的強度の低下は抑制される。
凹部3aの深さは、特に限定されない。凹部3aの深さが小さくても、高周波パワーの損失を抑制する相応の効果は得られる。ただし、凹部3aを形成する前の均一な厚さの板状の誘電体部材3の厚さをT3とするとき、凹部3aの最大深さD3aは、D3a=0.25T3〜0.45T3となるように形成することが好ましい。このとき、強度確保の観点から、誘電体部材3の凹部3aが形成される表面の面積Sのうち、凹部3aが掘られる面積sの割合(100s/S(%))は、2〜50%とすることが好ましい。
凹部3aは、両面が平坦で均一な厚さの板状の誘電体部材の一方の面を、切削などの機械加工することにより形成することができる。図3に示すように、コイル15が螺旋状に形成されている場合、凹部3aを螺旋状に形成すると、コイル15のほぼ全体を凹部3aの中に配置することができる。また、凹部3aを、コイル15の中心とほぼ同じ中心を有する環状に形成しても良い。この場合、図11に示すように、コイル15の外周側にある導体15aが、凹部3aの中に配置される。