JP2017043800A - 熱処理方法、及び転がり軸受用部材 - Google Patents

熱処理方法、及び転がり軸受用部材 Download PDF

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Abstract

【課題】鋼材の疲労寿命の向上と耐摩耗性の向上とを両立させる。【解決手段】鋼材に対して浸炭処理を行うと共に、この浸炭処理に続けて前記鋼材に対して脱炭窒化処理を行ってから焼入れを行う(第一工程)。第一工程を終えて焼入れした鋼材を軟化させるための熱処理を行う(第二工程)。第一工程では、浸炭処理の後に鋼材の表層に炭化物を析出させないで脱炭窒化処理を開始する。浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2以下に設定したカーボンポテンシャルで脱炭窒化処理を行う。【選択図】 図2

Description

本発明は、鋼材に対する熱処理方法、及び転がり軸受用部材に関する。
転がり軸受の軌道輪及び転動体の素材(材料)として、SCr420やSNCM420等の鋼材が用いられているが、これら軌道輪及び転動体は互いに大きな荷重で接触(転がり接触)することから、転がり疲労寿命及び耐摩耗性を可及的に向上させる必要がある。
軌道輪において、転がり疲労寿命を向上させるためには、せん断応力発生層における硬さの向上、残留オーステナイトの増加、残留圧縮応力の付与が有効とされており、また、耐摩耗性を向上させるためには、表層の高硬度窒化物や高硬度炭窒化物の増加が有効とされている。
そして、このような軸受用部材において転がり疲労寿命や耐摩耗性を確保するための熱処理技術として、例えば、特許文献1(表1のC−3)では、SCr420を予め浸炭焼入れしたものを素材として、脱炭雰囲気中で焼入れする処理が行われている。
特開2002−206523号公報
しかし、従来の熱処理(浸炭焼入れ処理)では、軌道輪の表層とせん断応力発生層との両領域において、熱処理性状を最適化することは困難であった。具体的に説明すると、転がり疲労寿命を確保するためには、炭素を深部まで侵入させ拡散させる必要があるが、この場合、必然的に表層の炭素固溶量も多くなるため、窒素の侵入が阻害され、表層の窒素濃度が充分に得られず、窒化物や炭窒化物の析出量が少なくなって耐摩耗性を向上させることができない。
また、表層における窒化物や炭窒化物の析出量を増加させるために窒素濃度を増加させると、多量に析出する窒化物や炭窒化物によって炭素の侵入が阻害され、せん断応力発生層まで炭素を充分拡散させることができない。
このように、せん断応力発生層における硬さを高めようとすると、表層における窒化物や炭窒化物の析出が少なくなり、そして、表層における窒化物や炭窒化物の析出を増加させようとすると、せん断応力発生層における炭素量の増加が困難となる。つまり、従来の熱処理では、転がり疲労寿命の向上と耐摩耗性の向上とを両立させることはできない。
なお、特許文献1(表1のC−3)の場合、表面における炭素濃度が0.72%であるが、窒素濃度が0.21%であって低く、表層における耐摩耗性について期待できない。このような濃度分布となる理由は、特許文献1の場合、鋼材(SCr420)を浸炭焼入れして表面の炭素濃度を1%程度に高めたものを素材とし、この素材を脱炭雰囲気中で加熱して焼入れしているためである。つまり、鋼材を浸炭焼入れすることにより、一旦、表層に炭化物を析出させた状態とし、その後で、脱炭雰囲気で焼入れを行っているためであり、この場合、効果的に脱炭させるためには、一旦析出した炭化物がマトリクス中に溶け込む必要がある。このように表層に炭化物が析出していることから脱炭の作用が弱く、この結果、窒素の侵入が阻害され窒化物や炭窒化物の析出量が少なくなり、表面における窒素濃度が低くなる。
そこで、本発明は、転がり疲労寿命の向上と耐摩耗性の向上とを両立させることが可能となる熱処理方法、及び、転がり疲労寿命と耐摩耗性とを共に向上させた転がり軸受用部材を提供することを目的とする。
本発明の熱処理方法は、鋼材に対して浸炭処理を行うと共に、当該浸炭処理に続けて前記鋼材に対して脱炭窒化処理を行ってから焼入れを行う第一工程と、当該第一工程を終えて焼入れした鋼材を軟化させるための熱処理を行う第二工程と、を含み、前記第一工程では、前記浸炭処理の後に前記鋼材の表層に炭化物を析出させないで前記脱炭窒化処理を開始し、前記浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2以下に設定したカーボンポテンシャルで前記脱炭窒化処理を行う。
本発明によれば、浸炭処理によって表層から深い領域まで浸炭させ、深い領域での硬さを高めることが可能となり、そして、この浸炭後に表層の脱炭を促しつつ窒化する脱炭窒化処理を行うことで、鋼材の表層において高硬度の窒化物や炭窒化物が析出され、しかも、その増加が可能となる。特に、浸炭処理の後に鋼材の表層に炭化物を析出させないで脱炭窒化処理を開始している。つまり、浸炭処理の後に焼入れを行わずに脱炭窒化処理を行っている。これにより、脱炭窒化処理前において鋼材の表層に炭化物を析出させておらず、炭素はマトリクス中に溶け込んだ状態にあるため、容易に脱炭され、表層における炭素濃度を低下させ、その代わりに窒素濃度を高めることが可能となる。また、脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルが、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2以下に設定されていることで、脱炭効果を高めることができる。以上より、転がり疲労寿命の向上と耐摩耗性の向上とを両立させることが可能となる。
また、前記第一工程では、前記浸炭処理と前記脱炭窒化処理とを所定の温度以上を確保して続けて行うことで、当該浸炭処理の後に前記鋼材の表層において炭化物を析出させないで当該脱炭窒化処理を開始させることができる。
なお、前記「所定の温度」は、例えば、第一工程における焼入れ温度とすることができる。
また、前記浸炭処理を終えた鋼材の表層の炭素量よりも低いカーボンポテンシャルで前記脱炭窒化処理を行うのが好ましい。これにより、脱炭効果を高めることができる。
また、カーボンポテンシャルが0.3%未満である雰囲気で前記脱炭窒化処理を行うのが好ましい。これにより、脱炭効果を高めることができる。
また、前記鋼材は、炭素量が0.1〜0.5質量%であるものとすることができる。この場合、熱処理の対象となる鋼材が低炭素鋼や中炭素鋼であっても、転がり疲労寿命の向上と耐摩耗性の向上とを両立させることが可能となる。
また、本発明は、表面から所定深さまでの表層と、当該表層から更に所定深さまでのせん断応力発生層と、を有する転がり軸受用部材であって、前記表層は、窒素濃度が炭素濃度よりも高くなっている部分を有し、前記せん断応力発生層は、炭素濃度が窒素濃度よりも高くなっている部分を有している。
本発明によれば、転がり軸受用部材において、転がり疲労寿命と耐摩耗性とを共に向上させることが可能となる。
本発明の熱処理方法によれば、転がり疲労寿命の向上と耐摩耗性の向上とを両立させることが可能となる。
また、本発明の転がり軸受用部材によれば、転がり疲労寿命と耐摩耗性とを共に向上させることが可能となる。
転がり軸受の断面図である。 熱処理方法の説明図である。 熱処理の対象とする鋼材の成分を示す説明図である。 実施例A(実施例D、F)の熱処理方法である。 実施例Bの熱処理方法である。 実施例C(実施例E、G)の熱処理方法である。 比較例A(比較例D、E)の熱処理方法である。 比較例Bの熱処理方法である。 比較例Cの熱処理方法である。 実施例、比較例の性状を示す説明図である。 実施例、比較例の摩耗量と転がり疲労寿命を評価した結果を示している説明図である。 実施例に係る転がり軸受用部材の炭素・窒素濃度分布を示す説明図である。 従来の転がり軸受用部材の炭素・窒素濃度分布を示す説明図である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔転がり軸受について〕
図1は、転がり軸受の断面図である。この転がり軸受10は、内輪11と、外輪12と、これら内輪11と外輪12との間に介在している複数の転動体とを有している。図1に示す転がり軸受10では、前記転動体が玉13であり、転がり軸受10は玉軸受である。また、転がり軸受10は、複数の玉13を保持する環状の保持器14を更に有している。
内輪11、外輪12、及び玉13の各転がり軸受用部材は、低炭素鋼又は中炭素鋼等の鋼材を素材としたものであり、この素材に対して下記の熱処理が行われて製造されている。なお、保持器14については、鋼製であってもよく、樹脂製であってもよい。
〔熱処理方法について〕
図2は、熱処理方法の説明図である。この熱処理方法は、第一工程と第二工程とを含む。第一工程では、前記鋼材に対して浸炭処理を行うと共に、この浸炭処理に続けて前記鋼材に対して脱炭窒化処理を行ってから焼入れを行う。第二工程では、第一工程を終えて焼入れした鋼材を軟化させるための熱処理を行う。
更に説明すると、第一工程では、浸炭処理の後に鋼材の表層において炭化物を析出させないで脱炭窒化処理を開始する。そして、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2以下に設定したカーボンポテンシャルで脱炭窒化処理を行う。つまり、第一工程では、浸炭処理と脱炭窒化処理とを所定の温度以上を確保して続けて行うことで、浸炭処理の後に鋼材の表層において炭化物を析出させないで脱炭窒化処理を開始させている。なお、前記「所定の温度」は、第一工程における焼入れ温度であり、例えば、830〜930℃である。以下の実施例では前記「所定の温度」は860℃であり、浸炭処理と脱炭窒化処理とが860℃以上に保たれて続けて行われる。
本実施形態の第二工程では、前記鋼材を軟化させるための処理として、焼戻し処理が行われる。
〔実施例及び比較例について〕
実施例A〜G、比較例A〜Eについて説明する。これら実施例及び比較例それぞれにおいて熱処理の対象とする鋼材の成分を図3に示す。実施例A〜C及び比較例A〜CではSCr420(低炭素鋼)であり、実施例D,E及び比較例DではSCM420(低炭素鋼)であり、実施例F,G及び比較例EではSNCM420(低炭素鋼)である。
〔実施例A〕
図4に示すように、第一工程において、浸炭処理では、浸炭時の保持温度(浸炭温度)を930℃とし、浸炭雰囲気中のカーボンポテンシャルを1.2とし、前記浸炭温度での保持時間を6時間としている。その後、脱炭窒化処理では、脱炭窒化時の保持温度(脱炭窒化温度)を860℃とし、脱炭窒化雰囲気中のカーボンポテンシャルを0とし、脱炭窒化雰囲気中の浸炭変成ガスに対するアンモニア濃度を3%とし、前記脱炭窒化温度での保持時間を3時間としている。そして、焼入れを行う。
その後、第二工程において、温度を180℃、時間を2時間とする焼戻しを行う。
この図2に示す方法で熱処理し終えた鋼材(実施例A)の性状を図10に示す。
前記実施例Aの熱処理方法(図4参照)では、浸炭処理でのカーボンポテンシャル「1.2」に対して、その後の脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルを「0」としている。つまり、実施例Aでは、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2(1.2/2=0.6)以下に設定したカーボンポテンシャル(0)で脱炭窒化処理を行っている。このため、脱炭効果が高く、図10の実施例Aに示すように表層における析出物面積率が29%と高い。このため、表層における耐摩耗性を向上させることができる。なお、図10に示す析出物面積率は、表層の範囲内における表面から所定深さの位置(10μm程度の深さ位置)で、ある領域を100%とした場合に、その領域中に存在する析出物の面積の比率である。また、最大せん断応力発生深さ(本実施形態では100μm)におけるビッカース硬さとして740HVの高い値が得られており、転がり疲労寿命を向上させることができる。
〔実施例B〕
図5に示すように、第一工程において、浸炭処理では、浸炭時の保持温度(浸炭温度)を930℃とし、浸炭雰囲気中のカーボンポテンシャルを1.25とし、前記浸炭温度での保持時間を6時間としている。その後、脱炭窒化処理では、脱炭窒化時の保持温度(脱炭窒化温度)を860℃とし、脱炭窒化雰囲気中のカーボンポテンシャルを0とし、脱炭窒化雰囲気中の浸炭変成ガスに対するアンモニア濃度を2%とし、前記脱炭窒化温度での保持時間を3時間としている。そして、焼入れを行う。
その後、第二工程において、温度を180℃、時間を2時間とする焼戻しを行う。
この図4に示す方法で熱処理し終えた鋼材(実施例B)の性状を図10に示す。
前記実施例Bの熱処理方法(図5参照)では、浸炭処理でのカーボンポテンシャル「1.25」に対して、その後の脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルを「0」としている。つまり、実施例Aでは、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2(1.25/2=0.625)以下に設定したカーボンポテンシャル(0)で脱炭窒化処理を行っている。このため、脱炭効果が高く、図10の実施例Bに示すように表層における析出物面積率が20%と高い。このため、表層における耐摩耗性を向上させることができる。また、最大せん断応力発生深さ(本実施形態では100μm)におけるビッカース硬さとして702HVの高い値が得られており、転がり疲労寿命を向上させることができる。
〔実施例C〕
図6に示すように、第一工程において、浸炭処理では、浸炭時の保持温度(浸炭温度)を930℃とし、浸炭雰囲気中のカーボンポテンシャルを1.0とし、前記浸炭温度での保持時間を6時間としている。その後、脱炭窒化処理では、脱炭窒化時の保持温度(脱炭窒化温度)を860℃とし、脱炭窒化雰囲気中のカーボンポテンシャルを0とし、脱炭窒化雰囲気中の浸炭変成ガスに対するアンモニア濃度を3%とし、前記脱炭窒化温度での保持時間を3時間としている。そして、焼入れを行う。
その後、第二工程において、温度を180℃、時間を2時間とする焼戻しを行う。
この図6に示す方法で熱処理し終えた鋼材(実施例C)の性状を図10に示す。
前記実施例Cの熱処理方法(図6参照)では、浸炭処理でのカーボンポテンシャル「1.0」に対して、その後の脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルを「0」としている。つまり、実施例Aでは、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2(1.0/2=0.5)以下に設定したカーボンポテンシャル(0)で脱炭窒化処理を行っている。このため、脱炭効果が高く、図10の実施例Cに示すように表層における析出物面積率が27%と高い。このため、表層における耐摩耗性を向上させることができる。また、最大せん断応力発生深さ(本実施形態では100μm)におけるビッカース硬さとして723HVの高い値が得られており、転がり疲労寿命を向上させることができる。
〔実施例D〕
実施例Dの熱処理方法は、図4に示す方法と同じであり、熱処理の対象とする鋼材が実施例Aと異なる(実施例DがSCM420、実施例AがSCr420)。実施例Dの熱処理を終えた鋼材の性状を図10に示す。
実施例Dの熱処理方法(図4参照)では、浸炭処理でのカーボンポテンシャル「1.2」に対して、その後の脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルを「0」としている。つまり、実施例Dでは、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2(1.2/2=0.6)以下に設定したカーボンポテンシャル(0)で脱炭窒化処理を行っている。このため、脱炭効果が高く、図10の実施例Dに示すように表層における析出物面積率が25%と高い。このため、表層における耐摩耗性を向上させることができる。また、最大せん断応力発生深さ(本実施形態では100μm)におけるビッカース硬さとして727HVの高い値が得られており、転がり疲労寿命を向上させることができる。
〔実施例E〕
実施例Eの熱処理方法は、図6に示す方法と同じであり、熱処理の対象とする鋼材が実施例Cと異なる(実施例EがSCM420、実施例CがSCr420)。実施例Eの熱処理を終えた鋼材の性状を図10に示す。
実施例Eの熱処理方法(図6参照)では、浸炭処理でのカーボンポテンシャル「1.2」に対して、その後の脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルを「0」としている。つまり、実施例Eは、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2(1.2/2=0.6)以下に設定したカーボンポテンシャル(0)で脱炭窒化処理を行っている。このため、脱炭効果が高く、図10の実施例Eに示すように表層における析出物面積率が23%と高い。このため、表層における耐摩耗性を向上させることができる。また、最大せん断応力発生深さ(本実施形態では100μm)におけるビッカース硬さとして709HVの高い値が得られており、転がり疲労寿命を向上させることができる。
〔実施例F〕
実施例Fの熱処理方法は、図4に示す方法と同じであり、熱処理の対象とする鋼材が実施例Aと異なる(実施例FがSNCM420、実施例AがSCr420)。実施例Fの熱処理を終えた鋼材の性状を図10に示す。
実施例Fの熱処理方法(図4参照)では、浸炭処理でのカーボンポテンシャル「1.2」に対して、その後の脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルを「0」としている。つまり、実施例Fでは、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2(1.2/2=0.6)以下に設定したカーボンポテンシャル(0)で脱炭窒化処理を行っている。このため、脱炭効果が高く、図10の実施例Fに示すように表層における析出物面積率が21%と高い。このため、表層における耐摩耗性を向上させることができる。また、最大せん断応力発生深さ(本実施形態では100μm)におけるビッカース硬さとして738HVの高い値が得られており、転がり疲労寿命を向上させることができる。
〔実施例G〕
実施例Gの熱処理方法は、図6に示す方法と同じであり、熱処理の対象とする鋼材が実施例Cと異なる(実施例GがSNCM420、実施例CがSCr420)。実施例Gの熱処理を終えた鋼材の性状を図10に示す。
実施例Gの熱処理方法(図6参照)では、浸炭処理でのカーボンポテンシャル「1.2」に対して、その後の脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルを「0」としている。つまり、実施例DEは、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2(1.2/2=0.6)以下に設定したカーボンポテンシャル(0)で脱炭窒化処理を行っている。このため、脱炭効果が高く、図10の実施例Gに示すように表層における析出物面積率が23%と高い。このため、表層における耐摩耗性を向上させることができる。また、最大せん断応力発生深さ(本実施形態では100μm)におけるビッカース硬さとして720HVの高い値が得られており、転がり疲労寿命を向上させることができる。
〔比較例A〕
図7に示すように、第一工程において、浸炭処理では、浸炭時の保持温度(浸炭温度)を930℃とし、浸炭雰囲気中のカーボンポテンシャルを1.2とし、前記浸炭温度での保持時間を6時間としている。その後、脱炭窒化処理では、脱炭窒化時の保持温度(脱炭窒化温度)を860℃とし、脱炭窒化雰囲気中のカーボンポテンシャルを1.1とし、脱炭窒化雰囲気中の浸炭変成ガスに対するアンモニア濃度を3%とし、前記脱炭窒化温度での保持時間を3時間としている。そして、焼入れを行う。
その後、第二工程において、温度を180℃、時間を2時間とする焼戻しを行う。
この図7に示す方法で熱処理し終えた鋼材(比較例A)の性状を図10に示す。
前記比較例Aの熱処理方法(図7参照)では、浸炭処理でのカーボンポテンシャル「1.2」に対して、その後の脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルを「1.1」としており、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2(1.2/2=0.6)以下に設定したカーボンポテンシャルで脱炭窒化処理を行っていない。すなわち、一般的な浸炭窒化と同様の処理となっており、このため、脱炭効果が低く、窒素の侵入が阻害され、図10の比較例Aに示すように表層における析出物面積率が5%と低い。
〔比較例B〕
図8に示すように、第一工程において、浸炭処理では、浸炭時の保持温度(浸炭温度)を930℃とし、浸炭雰囲気中のカーボンポテンシャルを1.2とし、前記浸炭温度での保持時間を6時間としている。その後、脱炭窒化処理では、脱炭窒化時の保持温度(脱炭窒化温度)を860℃とし、脱炭窒化雰囲気中のカーボンポテンシャルを0.8とし、脱炭窒化雰囲気中の浸炭変成ガスに対するアンモニア濃度を0%とし、前記脱炭窒化温度での保持時間を3時間としている。そして、焼入れを行う。
その後、第二工程において、温度を180℃、時間を2時間とする焼戻しを行う。
この図8に示す方法で熱処理し終えた鋼材(比較例B)の性状を図10に示す。
前記比較例Bの熱処理方法では、浸炭処理でのカーボンポテンシャル「1.2」に対して、その後の脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルを「0.8」としており、比較例Aよりも脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルを小さくしているが、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2(1.2/2=0.6)以下に設定したカーボンポテンシャルで脱炭窒化処理を行っていない。このため、脱炭効果が低く、また、脱炭窒化雰囲気中の浸炭変成ガスに対するアンモニア濃度を0%としていることから、一般的な浸炭と同様の処理となっており、図10に示すように表層における析出物面積率が1%未満と低い。
〔比較例C〕
図9に示すように、第一工程において、浸炭処理では、浸炭時の保持温度(浸炭温度)を930℃とし、浸炭雰囲気中のカーボンポテンシャルを0.6とし、前記浸炭温度での保持時間を6時間としている。その後、脱炭窒化処理では、脱炭窒化時の保持温度(脱炭窒化温度)を860℃とし、脱炭窒化雰囲気中のカーボンポテンシャルを0.6とし、脱炭窒化雰囲気中の浸炭変成ガスに対するアンモニア濃度を7%とし、前記脱炭窒化温度での保持時間を3時間としている。そして、焼入れを行う。
その後、第二工程において、温度を180℃、時間を2時間とする焼戻しを行う。
この図9に示す方法で熱処理し終えた鋼材(比較例C)の性状を図10に示す。
前記比較例Cの熱処理方法では、浸炭処理でのカーボンポテンシャル「0.6」に対して、その後の脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルについても「0.6」としており、カーボンポテンシャルが同じである。つまり、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2(0.6/2=0.3)以下に設定したカーボンポテンシャルで脱炭窒化処理を行っていない。このため、脱炭窒化雰囲気中の浸炭変成ガスに対するアンモニア濃度を7%と高く設定しているにも関わらず、脱炭効果が低いことから、図10に示すように表層における析出物面積率が18%と低い。また、浸炭処理でのカーボンポテンシャルは、脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルと同じであり、低いことから、せん断応力発生層において充分に炭素を侵入させ拡散させることができず、最大せん断応力発生深さにおけるビッカース硬度が512HVと小さくなっている。
〔比較例D〕
比較例Dの熱処理方法は、図7に示す方法と同じであり、熱処理の対象とする鋼材が比較例Aと異なる(比較例DがSCM420、比較例AがSCr420)。比較例Dの熱処理を終えた鋼材の性状を図10に示す。
比較例Dの熱処理方法(図7参照)では、浸炭処理でのカーボンポテンシャル「1.2」に対して、その後の脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルを「1.1」としており、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2(1.2/2=0.6)以下に設定したカーボンポテンシャルで脱炭窒化処理を行っていない。すなわち、一般的な浸炭窒化と同様の処理となっており、このため、脱炭効果が低く、窒素の侵入が阻害され、図10の比較例Dに示すように表層における析出物面積率が9%と低い。
〔比較例E〕
比較例Eの熱処理方法は、図7に示す方法と同じであり、熱処理の対象とする鋼材が比較例Aと異なる(比較例EがSNCM420、比較例AがSCr420)。比較例Eの熱処理を終えた鋼材の性状を図10に示す。
比較例Eの熱処理方法(図7参照)では、浸炭処理でのカーボンポテンシャル「1.2」に対して、その後の脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルを「1.1」としており、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2(1.2/2=0.6)以下に設定したカーボンポテンシャルで脱炭窒化処理を行っていない。すなわち、一般的な浸炭窒化と同様の処理となっており、このため、脱炭効果が低く、窒素の侵入が阻害され、図10の比較例Dに示すように表層における析出物面積率が7%と低い。
図11は、前記実施例A〜G及び前記比較例A〜Eそれぞれの摩耗量(耐摩耗性)と転がり疲労寿命とを評価した結果(試験結果)を示している。なお、図11では、比較例Aを基準としている。つまり比較例Aの摩耗量及び転がり疲労寿命を「1」とし、この比較例Aとの比を表している。実施例A〜Gは、比較例Aと比べて摩耗量が少なくなっており、また、転がり疲労寿命も伸びている。
なお、前記摩耗量(耐摩耗性)を評価するために行った摩耗試験の条件は、次のとおりである。実施例及び比較例それぞれの熱処理方法で得られた鋼材は、外径30ミリ、内径16ミリ、幅8ミリの円筒部材(テストピース:評価材)とされており、これを円筒状である相手部材(鋼材)に対して外周面同士で接触させ、相互を回転させる。円筒部材と相手部材との接触圧を1.5GPa、回転数を100rpm、2cc/分の油滴による潤滑環境とし、滑り率9.1%の条件で円筒部材の摩耗試験を行った。そして、8時間後の円筒部材の重量変化量を摩耗量として評価した。
また、前記転がり疲労寿命を評価するために行った転がり疲労試験の条件は、次のとおりである。試験軸受を6206とし、外輪及び玉をSUJ2とし、内輪を実施例及び比較例それぞれの熱処理方法で得られた軌道輪としている。そして、次の条件で内輪のはく離寿命を評価した。ラジアル荷重Frを9kN(0.46Cr)、軸受の回転数を2500rpm、タービン油♯68により潤滑(油温70℃)、最大接触面圧(内輪)を2.84GPa、動的せん断応力の最大値及びその深さ(内輪)を708MPa及び100μmとした。
〔熱処理の対象とする鋼材について〕
以上のように、図1に示す内輪11、外輪12、及び玉13の各転がり軸受用部材は、炭素を含む鋼材を素材としたものであり、この素材に対して熱処理が行われる。前記実施例では軸受用部材の素材をSCr420、SCM420、SNCM420としたが、それ以外であってもよい。つまり、熱処理が行われる対象となる鋼材は、0.1〜0.5質量%の炭素、0.35質量%以下のケイ素、0.3〜1.7質量%のマンガン、0.03質量%以下のリン、0.03質量%以下の硫黄、和が0.5質量%よりも多く4.5質量%未満となるクロムとモリブデンを含み、残部が鉄および不可避不純物であるものとすることができる。
炭素について、熱処理後に必要となる心部硬さを得るためには0.1質量%以上であるのが好ましい。しかし、多すぎると硬さが高くなり過ぎ、鍛造性や切削性といった加工性が悪化することから0.5質量%以下としている。
ケイ素について、鋼の製錬時における脱酸に必要な元素であるため,少量の添加は不可欠であるが,多すぎると硬さが高くなり過ぎ、鍛造性や切削性といった加工性が悪化することから0.35質量%以下としている。
マンガンについては、焼入れ性を高め、焼入れ後の心部硬さや、せん断応力発生層まで十分な硬さを得ることができ、更にオーステナイトを安定化させることができる元素である。せん断応力発生層まで必要な残留オーステナイト量を得るために0.3質量%以上とするのが好ましい。しかし、多すぎると、鍛造性や切削性といった加工性が悪化するとともに、焼入れ後の表層の残留オーステナイト量が増加しすぎて耐摩耗性が低下するため、1.7質量%以下としている。
リンについて、不純物であり、可能な限り低いほうが好ましい。オーステナイト粒界に偏析することで靭性を低下させるため,0.03質量%以下としている。
硫黄について、不純物であり、可能な限り低いほうが好ましい。鋼中の酸素と結合して酸化物を形成し、靭性の低下や転動時にはく離の起点となり寿命を低下させるため、0.03質量%以下としている。
クロムとモリブデンの和について、クロムとモリブデンは炭素や窒素と容易に結合し、炭化物や窒化物、炭窒化物を形成する。目的とする耐摩耗性を得るために必要な析出物面積率を確保するために、前記和を0.5質量%以上とするのが好ましい。なお、多すぎると材料コストが上昇するとともに、素材の硬さが高くなり過ぎ鍛造性や切削性といった加工性が悪化する。さらに,上記析出物が粗大化し、転動時にはく離の起点となり寿命を低下させるため、前記和を4.5質量%%以下としている。
〔本発明の熱処理方法について〕
図2を参照して、浸炭時の保持温度(浸炭温度)を830〜980℃とし、この浸炭温度での保持時間(浸炭時間)を3時間以上としている。浸炭温度が低すぎると、炭素の鋼中の拡散速度が遅くなり、せん断応力が発生する所定の深さまで炭素を侵入させるために必要な処理時間が長くなり、この結果、熱処理コストが大きくなる。一方、浸炭温度が高すぎると、結晶粒が粗大化するため、降伏点が下がり、部品の強度が低下する。したがって、浸炭温度は830〜980℃とするのが好ましい。また、浸炭時間は、鋼中に十分な炭素を侵入させるために3時間以上とするのが好ましい。なお、浸炭時間は長いほど炭素の拡散が進むため、必要に応じて長くすることが可能である。
浸炭雰囲気中のカーボンポテンシャルを0.7〜1.4としている。浸炭雰囲気中のカーボンポテンシャルが低すぎれば、せん断応力が発生する所定の深さにおける炭素濃度が0.8%未満となり、硬さ、残留γ量、残留圧縮応力が低下し、この結果、転がり疲労寿命が低下する。一方、カーボンポテンシャルが高すぎると、表層の炭素濃度が高くなり、応力集中源となる粗大な炭化物を形成するため部品の寿命が低下する。したがって、浸炭雰囲気中のカーボンポテンシャルを0.7〜1.4としている。
脱炭窒化時の保持温度(脱炭窒化温度)を830〜930℃とし、脱炭窒化での保持時間(脱炭窒化時間)を2〜4時間としている。脱炭窒化温度が低すぎると、表層に粗大な窒化物や炭窒化物が形成されるため、部品の寿命が低下する。一方、脱炭窒化温度が高すぎると、雰囲気中のアンモニアの分解量が多くなり、表層の窒素濃度が0.8%未満となって、耐摩耗性が低下する。したがって、脱炭窒化温度を830〜930℃とするのが好ましい。また、脱炭窒化時間が短すぎると、表層の窒素濃度が0.8%未満となって、耐摩耗性が低下する。一方、脱炭窒化時間が長すぎると、脱炭深さが深くなり、せん断応力が発生する深さの炭素濃度が低下する。したがって、脱炭窒化時間を2〜4時間とするのが好ましい。
脱炭窒化雰囲気中のカーボンポテンシャルを0.7以下としている。これは十分な脱炭効果を得るためである。なお、脱炭効果の向上のため、脱炭窒化雰囲気中のカーボンポテンシャルを、浸炭雰囲気中のカーボンポテンシャルの1/2以下としており、例えば、浸炭雰囲気中のカーボンポテンシャルが1.4である場合は、脱炭窒化雰囲気中のカーボンポテンシャルを0.7以下とし、また、浸炭雰囲気中のカーボンポテンシャルが0.7である場合は、脱炭窒化雰囲気中のカーボンポテンシャルを0.35以下とする。
また、脱炭窒化処理におけるカーボンポテンシャルについて更に説明すると、脱炭効果を高める観点から、浸炭処理を終えた鋼材の表層の炭素量よりも低いカーボンポテンシャルで脱炭窒化処理を行うのが好ましい。例えば、浸炭処理を終えた鋼材の表層の炭素量が1%である場合、これより低いカーボンポテンシャルで脱炭窒化処理を行うのが好ましい。特に、前記実施例A〜Gに示すように、カーボンポテンシャルが0.3%未満である雰囲気で脱炭窒化処理を行うのが好ましい。
脱炭窒化雰囲気中の浸炭変成ガスに対するアンモニア濃度を2〜10%としている。脱炭窒化雰囲気中のアンモニア濃度が低すぎると、表層の窒素濃度が0.8%以下となり、耐摩耗性の向上が望めない。一方、脱炭窒化雰囲気中のアンモニア濃度が高すぎると、表層に粗大な窒化物が形成するため、部品の寿命が低下する。したがって、脱炭窒化雰囲気中のアンモニア濃度を2〜10%としている。
焼入れ温度を830〜930℃とし、焼入れ温度での保持時間を1時間以内としている。焼入れ温度が低すぎると,マトリクス中に十分な炭素量を固溶させることができず、硬さが低下する。これに対して、焼入れ温度が高すぎると、結晶粒が粗大化し、結晶粒界に沿った粗大な析出物が生成しやすくなり、転がり軸受用部材としての機能を低下させる。したがって、焼入れ温度を830〜930℃とするのが好ましい。なお,焼入れ温度での保持時間は、部品全体が所定の焼入れ温度になるために必要な時間以上であればよいが、1時間以上の保持は結晶粒の粗大化をもたらす。したがって,焼入れ温度での保持時間を1時間以内とするのが好ましい。
焼戻し温度を150〜200℃とし、焼戻し時間を0.5〜4時間としている。焼戻し温度が低すぎると、十分な靭性を得ることができない。これに対して、焼戻し温度が高すぎると、硬さが低下し、耐摩耗性と転がり疲労寿命が低下する。したがって、焼戻し温度を150〜200℃とするのが好ましい。また、焼戻し温度での保持時間が短すぎると、十分な靭性を得ることができない。これに対して、焼戻し温度での保持時間が長すぎると、硬さが低下し、耐摩耗性と転がり疲労寿命が低下し、さらに熱処理コストが増加する。したがって、焼戻し温度での保持時間を0.5〜4時間とするのが好ましい。
以上、本実施形態の熱処理方法によれば、第一工程において、浸炭処理により、表層からせん断応力発生層まで浸炭させ、最大せん断応力発生深さでの硬さを高めることが可能となり、そして、この浸炭後に表層の脱炭を促しつつ窒化する脱炭窒化処理を行うことで、特殊な鋼材を使用しなくても、つまり、一般的な(安価な規格材である)低炭素鋼や中炭素鋼であっても、その鋼材の表層において主にクロム(Cr)とモリブデン(Mo)から形成される高硬度の窒化物や炭窒化物が析出され、しかもその増加が可能となる。特に、浸炭処理の後に鋼材の表層に炭化物を析出させないで脱炭窒化処理を開始している。つまり、浸炭処理の後に焼入れを行わずに脱炭窒化処理を行っている。これにより、脱炭窒化処理前において鋼材の表層に炭化物を析出させておらず、炭素はマトリクス中に溶け込んだ状態にあるため、容易に脱炭され、表層における炭素濃度を大きく低下させ、その代わりに窒素濃度を高めることが可能となる。
また、脱炭窒化処理でのカーボンポテンシャルが、浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2以下に設定されていることで、脱炭効果を高めることができる。以上の熱処理方法によって得られる転がり軸受用部材では、転がり疲労寿命の向上と、耐摩耗性の向上とを両立させることが可能となる。
そして、前記実施例では、鋼材の炭素量が0.1〜0.5質量%である(つまり、低炭素鋼又は中炭素鋼である)。このように熱処理の対象が低炭素鋼や中炭素鋼であっても、転がり疲労寿命の向上と耐摩耗性の向上とを両立させることが可能となる。
なお、前記特許文献1の場合、鋼材(SCr420)を予め浸炭焼入れして表面の炭素濃度を1%程度に高めたものを素材として、この素材を脱炭雰囲気中で加熱して焼入れしている。つまり、鋼材を浸炭焼入れすることにより、一旦、炭化物を析出させた状態とし、そして、常温まで温度が下がってから、脱炭雰囲気で焼入れを行っている。このため、脱炭を効果的に行わせるためには、一旦析出した炭化物がマトリクス中に溶け込む必要がある。このように表層に炭化物が析出していることから脱炭の作用が弱く、この結果、窒素の侵入が阻害され、表面における窒素濃度が低くなり、耐摩耗性を十分に向上させることができない。
〔前記実施例により製造される転がり軸受用部材について〕
前記実施例により製造される内輪11及び外輪12(転がり軸受用部材)の軌道部は、表層(極表層)、せん断応力発生層(動的せん断応力発生層)、及び内部の三層を有しており、前記実施例の熱処理方法によって、各層において熱処理品質が適正化されたものとなっている。
表層は、表面から深さ20μmまでの範囲と定義することができ、窒素濃度が0.8質量%以上であり、比較例より高硬度の窒化物や炭窒化物の析出量を増加させることができる。つまり、析出物面積率を20〜30%とすることができる。そして、硬さは740HV以上を確保することができ、これにより耐摩耗性が向上する。このように、表層では、窒化物や炭窒化物を多く析出させることで析出強化が実現されている。
せん断応力発生層は、表面からの深さが20μmから300μmまでの範囲と定義することができ、炭素濃度が0.8質量%以上であり、硬さは700HV以上、残留オーステナイト量(残留γ量)が25%以上であり、残留圧縮応力が150MPa以上とされており、転がり疲労寿命を向上させている。このように残留オーステナイト、残留圧縮応力の付与による相変態強化が実現されている。
内部は、せん断応力発生層よりも更に鋼材中央側の範囲と定義することができ、ここでは、通常の低炭素マルテンサイトとフェライト組成となっている。
そして、前記のとおり実施例の熱処理方法では、低炭素鋼(中炭素鋼)に対して浸炭処理を行って、せん断応力発生層まで炭素を侵入させた後に、アンモニア雰囲気に切り換え、窒化焼入れを行うが、この窒化焼入れの際のカーボンポテンシャルをゼロ又はゼロに近い値(0.3%未満)に設定する。これにより、表層の脱炭が促されることで窒素の侵入量が増え、従来の浸炭窒化と比較して表層における窒素濃度を高めることが可能となる。
実施例に係る転がり軸受用部材の炭素・窒素濃度分布を図12に示す。図12に示すように、実施例に係る転がり軸受用部材(内輪11及び外輪12)は、表面から所定深さまでの表層21と、この表層21から更に所定深さまでのせん断応力発生層22と、このせん断応力発生層22よりも更に深い領域の内部23とを有している。そして、
表層21は、窒素濃度が炭素濃度よりも高くなっている部分を有している。図12に示す形態では、表層21の全てにおいて、窒素濃度が炭素濃度よりも高くなっている。そして、せん断応力発生層22は、炭素濃度が窒素濃度よりも高くなっている部分を有している。図12に示す形態では、窒素が含まれる領域の全範囲で、炭素濃度が窒素濃度よりも高くなっている。
実施例では、せん断応力発生層22に、硬さ、残留オーステナイト、残留圧縮応力が確保されている炭素リッチ層が形成されており、表層21において、高硬度の窒化物や炭窒化物の析出量を増加させた窒素リッチ層が形成されている。そして、これら二層の領域を形成するために、第一工程において、浸炭処理後に表層の脱炭を促しつつ窒化する熱処理が行われる。
このような転がり軸受用部材(内輪11及び外輪12)によれば、転がり疲労寿命と、耐摩耗性とを共に向上させることが可能となる。
なお、図13は、従来の転がり軸受用部材の炭素・窒素濃度分布を示している。図13に示すように、せん断応力発生層22では炭素濃度が窒素濃度よりも高くなっている。そして、表層21では、実施例と反対に、炭素濃度が窒素濃度よりも高くなっている。なお、図10に示す比較例A、B、D、Eにおいても、表層では、炭素濃度が窒素濃度よりも高くなっている。更に、図10に示すように、実施例では、最大せん断応力発生深さにおける炭素濃度(炭素量)が、表層21における炭素濃度(炭素量)よりも高く(多く)なっている。これにより、転がり疲労寿命を高くすることが可能となる。これに対して、比較例では、反対に、最大せん断応力発生深さにおける炭素濃度(炭素量)が、表層21における炭素濃度(炭素量)よりも低く(少なく)なっている。特に比較例Cでは最大せん断応力発生深さにおける炭素濃度が低く、硬さも低い。このため、図11に示すように、比較例Cでは転がり疲労寿命が極めて短くなっている。
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。
前記実施例の熱処理方法では、脱炭窒化処理の際、窒化効率の向上のために浸炭処理よりも温度を下げている(930℃から860℃へ下げている)が、浸炭処理と脱炭窒化処理とを同じ温度としてもよい。
また、前記実施形態では転がり軸受が玉軸受である場合について説明したが、ころ軸受やその他の構造の軸受であってもよい。
更に、前記熱処理方法は、転がり軸受の内輪11、外輪12及び転動体のために用いられる以外に、自動車用のハブユニット、変速機、等速ジョイント、ギア、ピストンピン等の疲労寿命と耐摩耗性との両者を向上させる必要がある機械部品の熱処理に適用可能である。
また、熱処理の対象となる鋼材は、低炭素鋼(例えばSCr420)及び中炭素鋼(例えばSCr440)以外であってもよく、高炭素鋼(SUJ2等)や、その他の軸受用鋼材であってもよい。
10:転がり軸受 11:内輪 12:外輪
13:玉 14:保持器 21:表層
22:せん断応力発生層 23:内部

Claims (6)

  1. 鋼材に対して浸炭処理を行うと共に、当該浸炭処理に続けて前記鋼材に対して脱炭窒化処理を行ってから焼入れを行う第一工程と、
    当該第一工程を終えて焼入れした鋼材を軟化させるための熱処理を行う第二工程と、を含み、
    前記第一工程では、前記浸炭処理の後に前記鋼材の表層に炭化物を析出させないで前記脱炭窒化処理を開始し、前記浸炭処理でのカーボンポテンシャルの1/2以下に設定したカーボンポテンシャルで前記脱炭窒化処理を行う、熱処理方法。
  2. 前記第一工程では、前記浸炭処理と前記脱炭窒化処理とを所定の温度以上を確保して続けて行うことで、当該浸炭処理の後に前記鋼材の表層において炭化物を析出させないで当該脱炭窒化処理を開始させる、請求項1に記載の熱処理方法。
  3. 前記浸炭処理を終えた鋼材の表層の炭素量よりも低いカーボンポテンシャルで前記脱炭窒化処理を行う、請求項1又は2に記載の熱処理方法。
  4. カーボンポテンシャルが0.3%未満である雰囲気で前記脱炭窒化処理を行う、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱処理方法。
  5. 前記鋼材の炭素量は0.1〜0.5質量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱処理方法。
  6. 表面から所定深さまでの表層と、当該表層から更に所定深さまでのせん断応力発生層と、を有する転がり軸受用部材であって、
    前記表層は、窒素濃度が炭素濃度よりも高くなっている部分を有し、前記せん断応力発生層は、炭素濃度が窒素濃度よりも高くなっている部分を有している、転がり軸受用部材。
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