JP2017040216A - エンジンの燃焼室構造 - Google Patents

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Abstract

【課題】エンジンの熱効率を効果的に向上させることができるエンジンの燃焼室構造を提供すること。
【解決手段】エンジンの燃焼室を形成する燃焼室構成部材を備えたエンジンの燃焼室構造であって、前記燃焼室構成部材における燃焼室形成面に、筒内ガスの主流方向に沿って延びる複数の溝が形成されている。
【選択図】図4

Description

本発明は、エンジンの燃焼室構造に関する。
エンジンの熱効率を向上させるための技術として、特許文献1には、ピストンの頂面に複数のディンプル(半球面状の凹部)が形成されたエンジンの燃焼室構造が開示されている。特許文献1に係る燃焼室構造によれば、燃料燃焼時にディンプル内に空気が留まることにより、この空気が断熱層の役割を果たすため、ピストンを介した熱損失が低減され、熱効率の向上を図ることができる。
特開2011−94496号公報
しかしながら、上記ディンプル内に空気を留めるためには、ディンプルは、燃料噴射弁からの燃料噴射が直接当たらない位置に設けられる必要がある。このため、特許文献1の図2に示されるように、ディンプルが形成される領域は狭い領域に限定されており、熱効率の向上が十分とは言えなかった。
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、エンジンの熱効率を効果的に向上させることができるエンジンの燃焼室構造を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は、エンジンの燃焼室を形成する燃焼室構成部材を備えたエンジンの燃焼室構造であって、前記燃焼室構成部材における燃焼室形成面に、筒内ガスの主流方向に沿って延びる複数の溝が形成されていることを特徴とする、エンジンの燃焼室構造を提供する。
本発明における「筒内ガスの主流」には、例えば、スワール、タンブル、およびスキッシュが含まれ、さらに、スワール、タンブル、スキッシュのうちの少なくとも2つの流れの合成流が含まれる。
本発明によれば、燃焼室構成部材における燃焼室形成面に、筒内ガスの主流方向に沿って延びる複数の溝が形成されているため、燃焼室内に発生する乱流に起因する熱損失を低減することができ、これにより、エンジンの熱効率を効果的に向上させることができる。
詳しく説明すると、筒内ガスの主流(スキッシュ等)には、主流方向を軸方向として旋回する渦(副流)が付随していることが多い。この渦は、熱を伝達および拡散する性質が強いため、燃焼室形成面と渦との距離が小さい程、燃焼室内の熱が燃焼室形成面を介して外部に放熱され易くなる。
例えば、燃焼室形成面が平坦であると、渦(乱流)が燃焼室形成面の近傍に発生するため、燃焼室内の熱が燃焼室形成面を介して外部に放熱され易くなる。これに対し、本発明のように、燃焼室形成面に筒内ガスの主流方向に沿って延びる複数の溝が形成されている場合には、渦が溝から離れた位置(頂部付近)に留まるため、渦と燃焼室形成面との距離が大きくなり、その結果、燃焼室内の熱が燃焼室形成面を介して外部に放熱されることが抑制される。従って、エンジンの熱効率を効果的に向上させることができる。しかも、筒内ガスの主流方向に沿った広い領域に溝を形成することが可能であるため、特許文献1のように放熱抑制領域が狭い領域に限定されてしまうことがない。
本発明においては、前記燃焼室形成面が遮熱材により形成されていることが好ましい。
この構成によれば、溝による熱損失抑制効果に加えて、遮熱材による熱損失抑制効果が奏され、より効果的にエンジンの熱効率を向上させることができる。しかも、遮熱材の遮熱機能により、燃焼室形成面が高温になるため、燃焼室形成面にカーボン粒子が接近しても、燃焼室形成面またはその近傍でカーボン粒子が燃焼し、これにより、溝内にカーボン粒子が蓄積することによる熱損失抑制機能の低下が抑えられる。
本発明においては、前記燃焼室形成面は、シリンダ内を往復動するピストンの冠面と、当該ピストンの冠面と対向するシリンダヘッドの底面と、吸気バルブの傘部における前記燃焼室に臨む吸気側傘表面と、排気バルブの傘部における前記燃焼室に臨む排気側傘表面とを有し、前記溝は、前記冠面、前記底面、前記吸気側傘表面、および、前記排気側傘表面のうちの少なくとも一つに形成されていることが好ましい。
この構成によれば、ピストン等を介した熱損失を効果的に抑制することができる。
本発明においては、前記燃焼室内にスキッシュ方向の主流が生じる場合に、前記複数の溝は、前記燃焼室の径方向中心から放射状に延びた状態で形成されることが好ましい。
この構成によれば、燃焼室内にスキッシュが生じた場合に、スキッシュに沿って形成される渦(スキッシュ方向を軸方向として旋回する渦)に起因する熱損失を低減することができる。
本発明においては、前記燃焼室内にスワール方向の主流が生じる場合に、前記複数の溝は、前記燃焼室の径方向中心を中心とする同心円状に形成されることが好ましい。
この構成によれば、燃焼室内にスワールが生じた場合に、スワールに沿って形成される渦(スワール方向を軸方向として旋回する渦)に起因する熱損失を低減することができる。
本発明においては、前記燃焼室内にタンブル方向の主流が生じる場合に、前記複数の溝は、前記タンブル方向に沿って直線状に形成されることが好ましい。
この構成によれば、燃焼室内にタンブルが生じた場合に、タンブルに沿って形成される渦(タンブル方向を軸方向として旋回する渦)に起因する熱損失を低減することができる。
本発明においては、前記溝の幅は、前記主流に沿って形成され、前記主流方向を軸方向として旋回する渦の径よりも小さいことが好ましい。
この構成によれば、渦(乱流)が溝内に入り込むことを防止して、溝内への渦の影響を抑制することができ、これにより、燃焼室内に発生する渦に起因する熱損失をより効果的に低減することができる。
以上説明したように、本発明によれば、エンジンの熱効率を効果的に向上させることができる。
本発明の実施形態に係るエンジンの燃焼室構造が適用されるエンジンを示す断面図である。 (a)は、図1における要部を示す断面図であり、(b)は、(a)におけるピストンの冠面の一部を拡大して示す図である。 図1における燃焼室をシリンダヘッド側から見た状態で示す図である。 (a)は、ピストンの冠面に形成される溝のパターンを示す図であり、(b)は、スキッシュおよびスキッシュに沿って形成される渦を模式的に示す図である。 (a)は、シリンダヘッドの底面に形成される溝のパターンを示す図であり、(b)は、スワールおよびスワールに沿って形成される渦を模式的に示す図である。 断面U字状の溝を示す図である。 溝と渦(乱流)との位置関係を示す図である。 ピストンの冠面に形成される溝のパターンを拡大して示す図である。 燃焼室形成面が平坦である場合における、燃焼室形成面と渦(乱流)との位置関係を示す図である。 溝による熱損失低減効果の一例を示すグラフであり、冷却損失低減率(熱損失低減率)と溝幅(無次元溝幅)との関係を示すグラフである。 (a)は、冠面にキャビティが形成されたピストンとシリンダヘッドの底面との間に形成される燃焼室にスワール方向の主流が生じている状態を示す図であり、(b)は、(a)の主流に沿った同心円状の溝がピストンの冠面に形成されている状態を示す図である。 (a)は、冠面にキャビティが形成されたピストンとシリンダヘッドの底面との間に形成される燃焼室にタンブル方向の主流が生じている状態を示す図であり、(b)は、(a)の主流に沿った直線状の溝がピストンの冠面に形成されている状態を示す図である。 断面V字状の溝を示す図である。 平板状の壁と壁の間に形成された溝を示す図である。 溝が形成される断熱層を示す断面図である。
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について詳述する。
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるエンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される往復ピストン型の多気筒ガソリンエンジンである。このエンジンのエンジン本体1は、紙面に直交する方向に並ぶ複数の気筒2(図中ではそのうちの1つのみを示す)を有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。シリンダヘッド4およびピストン5は、本発明における「燃焼室構成部材」に相当する。エンジン本体1に供給される燃料は、ガソリンを主成分とするものである。
ピストン5は、コネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。ピストン5の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。
シリンダヘッド4には、先端部から燃焼室6内に燃料(ガソリンを主成分とする燃料)を噴射するインジェクタ21が、各気筒2につき1つずつ取り付けられている。
インジェクタ21には燃料供給管23が接続されており、インジェクタ21は、この燃料供給管23を通じて供給された燃料を噴射する。燃料供給管23の上流側には、クランク軸7と連動連結されたプランジャー式のポンプ等からなる高圧燃料ポンプ(図示せず)が接続されているとともに、この高圧燃料ポンプと燃料供給管23との間には、全気筒に共通の蓄圧用のコモンレール(図示せず)が設けられている。そして、このコモンレール内で蓄圧された燃料が各気筒2のインジェクタ21に供給されることにより、各インジェクタ21からは、高い圧力の燃料が噴射される。
シリンダヘッド4には、燃焼室6内の混合気に点火エネルギーを供給する点火プラグ20が各気筒2につき1つずつ取り付けられている。この点火プラグ20は、その点火点が燃焼室6内に臨む姿勢でシリンダヘッド4に取り付けられている。この点火プラグ20は、図外の点火回路からの給電に応じてその先端から火花を放電して燃焼室6内の混合気に点火する。
シリンダヘッド4には、燃焼室6と連通する吸気ポート9および排気ポート10が形成されている。すなわち、燃焼室6には、吸気ポート9と連通する吸気側開口部61と排気ポート10と開口する排気側開口部62とが形成されている。シリンダヘッド4には、各開口部61,62を開閉する吸気バルブ11および排気バルブ12がそれぞれ設けられている。吸気バルブ11および排気バルブ12は、本発明における「燃焼室構成部材」に相当する。
なお、図例のエンジンはいわゆるダブルオーバーヘッドカムシャフト式(DOHC)エンジンである。吸気側開口部61と排気側開口部62とは、各気筒2につき2つずつ設けられるとともに、吸気バルブ11および排気バルブ12も2つずつ設けられている。
図2に示されるように、吸気バルブ11および排気バルブ12は、それぞれ、各開口部61,62を開閉する傘状の弁体(本発明における「傘部」に相当する)11a,12aと、この弁体11a,12aから垂直に延びるステム11b,12bとを有するいわゆるポペットバルブである。弁体11aは、燃焼室6に臨むバルブ面(本発明における「燃焼室形成面」および「吸気側傘表面」に相当する)11cを有し、弁体12aは、燃焼室6に臨むバルブ面(本発明における「燃焼室形成面」および「排気側傘表面」に相当する)12cを有している。
吸気バルブ11および排気バルブ12は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された動弁機構13,14によりクランク軸7の回転に連動して各ステム11b,12bが駆動され、これにより吸気側開口部61と排気側開口部62とを開閉する。
吸気バルブ11用の動弁機構13には、吸気側可変バルブタイミング機構(以下、吸気側VVT)と称する)15が組み込まれている。吸気側VVT15は、吸気カム軸に設けられた電動式のVVTであり、クランク軸7に対する吸気カム軸の回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更することにより、吸気バルブ11の開閉タイミングを変更する。
排気バルブ12用の動弁機構14には、排気側可変バルブタイミング機構(以下、排気側VVT)と称する)16が組み込まれている。排気側VVT16は、排気カム軸に設けられた電動式のVVTであり、クランク軸7に対する排気カム軸の回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更することにより、排気バルブ12の開閉タイミングを変更する。
(2)燃焼室の詳細構造
エンジンの燃焼室内における筒内ガスの流れの向きや形態は、燃焼室の形状、燃焼室内の圧力や温度等により様々に変化するが、以下の説明では、理解を容易にするために、燃焼室の形状、筒内ガスの流れの向きおよび形態について、一つのモデルを例に採ることとする。
具体的には、エンジン本体1における吸気工程、圧縮工程、膨張(爆発)工程、排気工程の4工程のうち、圧縮工程において、燃焼室6におけるピストン5付近でスキッシュ方向(径方向内向き)の主流30が生じる(図4(a)参照)とともに、燃焼室6におけるシリンダヘッド4付近でスワール方向の主流70(図5(a)参照)が生じるものとする。また、膨張工程において、燃焼室6におけるピストン5付近でスキッシュ方向(径方向外向き)の主流31が生じる(図4(a)参照)とともに、燃焼室6におけるシリンダヘッド4付近でスワール方向の主流70(図5(a)参照)が生じるものとする。
さらに、図4(b)に示されるように、主流30,31には、渦(副流)32が付随しているものとする。すなわち、渦32は、主流30,31に沿って形成され、主流方向を軸方向として旋回する渦である。
また、図5(b)に示されるように、主流70には、渦(副流)71が付随しているものとする。すなわち、渦71は、主流70に沿って形成され、主流方向を軸方向として旋回する渦である。
図2に示されるように、燃焼室6の底面を構成するピストン5の冠面(本発明における「燃焼室形成面」に相当する)50は、その中央部分に形成されて下方に凹状に湾曲するキャビティ40と、このキャビティ40の開口縁40a(図2,3参照)から径方向外側に向かうにつれて下方に傾斜する基準面41とからなる。基準面41は、上向きに凸の緩やかな曲面形状を有しており、燃焼室天井面60と平行に形成されている。
キャビティ40の内周面は、キャビティ40の径方向中心から外側に広がる円形状の平坦面40cと、平坦面40cの外周縁から外側へ斜め上向きに立ち上がり、キャビティ40の開口縁40aに繋がる傾斜面40bとを有しており、このキャビティ40とインジェクタ21とは対向している。傾斜面40bは、上向きに凸の曲面形状を有している。
このように、ピストン5の冠面50は、燃焼室天井面60と平行に延びる略円錐面状の基準面41の内側端部にキャビティ40が連続して形成された形状を有している。
図4(a)に示されるように、ピストン5の冠面50には、筒内ガスの主流方向(スキッシュ方向)に沿って延びる複数の溝51が形成されている。具体的には、複数の溝51は、ピストン5の冠面50における径方向中心から周縁部に亘る領域で、冠面50の径方向中心から放射状に形成されている。なお、図4(a)においては、溝51を見易くするために、溝51を破線で示している。
溝51は、図6に示されるように、主流方向(スキッシュ方向)に延びる平坦な底面51aと、底面51aの幅方向(主流方向に直交する方向)の両端部から立ち上がる側壁面51bとを有している。側壁面51bは、底面51aの幅方向端部から傾斜が徐々に大きくなるように、主流方向から見て円弧状に形成されている。このため、溝51は、断面U字状に形成されている。
溝51の幅S1(図6,7参照)は、渦32の径S2(図7参照)よりも小さい値に設定されている。これにより、溝51内に渦32が入り込むことが防止される。
なお、キャビティ40の開口縁40a(図2(b)参照)から傾斜面40bの上部に亘る領域R2(図2(b)参照)における溝51の幅S1a(図8参照)は、キャビティ40の傾斜面40bの下部から平坦面40cに亘る領域R1(図2(b)参照)における溝51の幅S1b(図8参照)および基準面41の領域R3における溝51の幅S1c(図8参照)よりも大きい値に設定されている。
図2に示されるように、燃焼室6の天井面60を構成するとともに、ピストン5の冠面50と対向するシリンダヘッド4の底面(本発明における「燃焼室形成面」に相当する)60aは、その径方向中心すなわち気筒2の軸線u1上の点を頂部として径方向外側に向かうに従って高さが低くなる略円錐面状に形成されている。なお、図2に示される例では、燃焼室6の天井面60は、径方向中心よりもやや外側の部分から周縁部までの領域が、上向きに凸の緩やかな曲面形状を有している。
図5(a)に示されるように、シリンダヘッド4の底面60aには、筒内ガスの主流方向(スワール方向)に沿って延びる複数の溝63が形成されている。具体的には、複数の溝63は、底面60aにおける径方向中心付近(インジェクタ21の外側)から周縁部に亘る領域で、底面60aの径方向中心を中心とする同心円状に形成されている。なお、図5(a)においては、溝63を見易くするために、溝63を破線で示している。
溝63は、図6に示されるように、主流方向(スワール方向)に延びる平坦な底面63aと、底面63aの幅方向(主流方向に直交する方向)の両端部から立ち上がる側壁面63bとを有している。側壁面63bは、底面63aの幅方向端部から傾斜が徐々に大きくなるように、主流方向から見て円弧状に形成されている。このため、溝63は、断面U字状に形成されている。
溝63の幅S3(図6,7参照)は、渦71の径S4(図7参照)よりも小さい値に設定されている。これにより、溝63内に渦71が入り込むことが防止される。溝63の幅S3は、長手方向全体において一定の値(同一幅)に設定されている。
図2に示されるように、燃焼室6の天井面60を構成するとともに、ピストン5の冠面50と対向する吸気バルブ11のバルブ面11cが、シリンダヘッド4の底面60aと同じ曲率で周方向および上向きに湾曲した状態で形成されている。同様に、排気バルブ12のバルブ面12cが、シリンダヘッド4の底面60aと同じ曲率で周方向および上向きに湾曲するように形成されている。
図5(a)に示されるように、吸気バルブ11のバルブ面11cおよび排気バルブ12のバルブ面12cには、筒内ガスの主流方向(スワール方向)に沿って延びる複数の溝63が形成されている。
インジェクタ21は、その先端部が燃焼室天井面60の頂部近傍(この頂部よりわずかに下方)に位置して、その軸線が気筒2の軸線u1と一致するように配設されている。
図3に示されるように、吸気側開口部61と排気側開口部62とは、燃焼室6の天井面60に、その周方向に並んで開口している。2つの吸気側開口部61と2つの排気側開口部62とは、燃焼室6の天井面60の中心を通る直線を挟んで両側に設けられている。図3に示される例では、2つの吸気側開口部61は、燃焼室天井面60の右側に設けられており、2つの排気側開口部62は、燃焼室天井面60の左側に設けられている。
(本実施形態の効果)
本実施形態によれば、燃焼室形成面(ピストン5の冠面50等)に、筒内ガスの主流方向に沿って延びる複数の溝51等が形成されているため、燃焼室6内に発生する乱流に起因する熱損失を低減することができ、これにより、エンジンの熱効率を効果的に向上させることができる。
詳しく説明すると、筒内ガスの主流(スキッシュ)には、主流方向を軸方向として旋回する渦32(副流)が付随し、同様に、筒内ガスの主流(スワール)には、主流方向を軸方向として旋回する渦71(副流)が付随している。これらの渦32,71は、熱を伝達および拡散する性質が強いため、燃焼室形成面(ピストン5の冠面50)と渦32との距離が小さい程、燃焼室6内の熱が燃焼室形成面を介して外部に放熱され易くなり、同様に、燃焼室形成面(シリンダヘッド4の底面60a、吸気バルブ11のバルブ面11c、排気バルブ12のバルブ面12c)と渦71との距離が小さい程、燃焼室6内の熱が燃焼室形成面を介して外部に放熱され易くなる。
例えば、図9に示されるように、燃焼室形成面が平坦であると、渦(乱流)が燃焼室形成面の近傍に発生するため、燃焼室内の熱が燃焼室形成面を介して外部に放熱され易くなる。
これに対し、本実施形態のように、燃焼室形成面(ピストン5の冠面50)に筒内ガスの主流方向に沿って延びる複数の溝51等が形成されている場合には、渦32が溝51から離れた位置(頂部付近)に留まるため、渦32と燃焼室形成面(溝51の内壁面)との距離が大きくなり、その結果、燃焼室6内の熱が燃焼室形成面を介して外部に放熱されることが抑制される。同様に、燃焼室形成面(シリンダヘッド4の底面60a、吸気バルブ11のバルブ面11c、排気バルブ12のバルブ面12c)に筒内ガスの主流方向に沿って延びる複数の溝63が形成されている場合には、渦71が溝63から離れた位置(頂部付近)に留まるため、渦71と燃焼室形成面(溝63の内壁面)との距離が大きくなり、その結果、燃焼室6内の熱が燃焼室形成面を介して外部に放熱されることが抑制される。
従って、エンジンの熱効率を効果的に向上させることができる。しかも、筒内ガスの主流方向に沿った広い領域に溝51,63を形成することが可能であるため、特許文献1のように放熱抑制領域が狭い領域に限定されてしまうことがない。
また、本実施形態においては、溝51の幅は、渦32の径よりも小さいため、渦(乱流)32が溝51内に入り込むことを防止して、溝51内への渦32の影響を抑制することができ、これにより、燃焼室6内に発生する渦32に起因する熱損失をより効果的に低減することができる。同様に、溝63の幅は、渦71の径よりも小さいため、渦(乱流)71が溝63内に入り込むことを防止して、溝63内への渦71の影響を抑制することができ、これにより、燃焼室6内に発生する渦71に起因する熱損失をより効果的に低減することができる。
また、本実施形態においては、領域R2(図2(b)参照)における溝51の幅S1a(図8参照)が、領域R1(図2(b)参照)における溝51の幅S1b(図8参照)および領域R3における溝51の幅S1c(図8参照)よりも大きい値に設定されているため、各領域R1〜R3において、渦32に起因する熱損失をより効果的に低減することができる。
詳しく説明すると、冷却損失低減効果(熱損失低減効果)と溝幅との間には一定の関係があり(図10参照)、具体的には、溝51による熱損失低減効果を発揮するためには、(i)渦32が溝51内に入り込まず、かつ、(ii)渦32の大きさに対して溝幅が小さ過ぎないことが必要とされる。つまり、溝幅が渦32の径よりも小さく、かつ、小さ過ぎない所定の範囲の大きさである場合に、溝51による熱損失低減効果を発揮することができるのである。なお、図10は、主流の流速が所定の値に設定された場合における冷却損失低減率(熱損失低減率)と無次元溝幅(溝幅を無次元化したもの)との関係を示すグラフであり、同図では、無次元幅がゼロを少し超えた辺りから30より少し小さい辺りまでの領域が熱損失低減効果が発揮される領域となっている。
上記(i)および(ii)の条件が必要とされる理由は、以下の通りである。すなわち、溝幅が渦32の径よりも大きいと、渦32が溝51内に入り込む可能性が高くなり、そして、渦32が溝51内に入り込むと、渦32が溝51の内壁面に接近してしまい、その結果、渦32に起因する熱伝達量が大きくなってしまうこと、および、溝幅が渦32の大きさに対して小さ過ぎると、燃焼室形成面が渦32に対して相対的に平滑面に近づいてしまい、その結果、溝51による熱損失低減効果が小さくなってしまうためである。
さらに、主流の流速と渦の径との間には、主流の流速が小さくなるにつれて渦の径が大きくなるという関係がある。
このため、上記(i)および(ii)の条件を満たす溝幅は、主流の流速が小さくなる程大きくなる。つまり、主流の流速が小さい領域R2における溝幅S1aは、主流の流速が大きい領域R1における溝幅S1bおよび主流の流速が大きい領域R3における溝幅S1cよりも大きい値に設定される必要がある。
ここで、溝幅の決定方法の一例について、具体的に説明する。
溝による熱損失の低減効果は、溝幅Sを無次元化したS(無次元幅)によって変化し、Sは以下の式1で定義される。
Figure 2017040216
式1におけるuτは以下の式2で定義され、νは以下の式3で定義される。
Figure 2017040216
Figure 2017040216
式1〜3における文字の意味は、S:無次元幅[−]、S:溝幅[m]、uτ:摩擦速度[m/s]、ν:動粘性係数[m/s]、τ:壁面せん断応力[Pa]、μ:粘性係数[Pas]、ρ:密度[kg/m]である。
溝幅Sは、式1〜3より、以下の式4で表すことができる。
Figure 2017040216
図10は、図6に示される溝について、主流の流速を所定の値に設定した場合の冷却損失低減率(熱損失低減率)と無次元幅Sとの関係を表すグラフである。図10に示されるグラフからは、冷却損失低減率すなわち熱損失の低減率は、無次元幅Sがゼロを少し超えた辺りから30より少し小さい辺りまでの領域(以下、「効果有り領域」と称する)で正の値であり、この効果有り領域で溝による熱損失低減効果が認められることがわかる。さらに、無次元幅Sが13〜17である場合に熱損失低減率が特に大きく、無次元幅Sが15である場合に熱損失低減率が最大になることが分かる。
上記の効果有り領域で熱損失の低減率が正の値となる理由は、溝が熱損失低減効果を発揮するために条件、すなわち上述の(i)渦が溝内に入り込まず、かつ、(ii)溝幅が渦の大きさに対して小さ過ぎないという条件が、Sが上記効果有り領域にある場合に満たされるためである。
なお、無次元幅Sが30以上になると、熱損失の低減率が負の値に転じているが、その理由は、上記の(i)の条件が満たされなくなるためである。
上記したように、無次元幅Sが15である場合に熱損失低減率が最大になるため、式4のSには15が代入され、τ、μ、ρには、各々、燃焼室内の条件から求められた値が代入される。この代入により、溝幅Sは、例えば、8μm程度に設定することができる。また、溝深さh(図6参照)は、例えば、溝幅Sを0.7倍した値(5.6μm程度)に設定することができる。
なお、上記実施形態を以下のように変更することも可能である。
例えば、上記実施形態では、燃焼室6におけるピストン5付近でスキッシュ方向の主流30が生じる場合について説明したが、図11(a)に示されるように、ピストン5付近でスワール方向の主流301が生じる場合には、図11(b)に示されるように、ピストン5の冠面50に、スワール方向に沿って延びる同心円状の複数の溝510を形成してもよい。
また、図12(a)に示されるように、ピストン5付近でタンブル方向の主流302が生じる場合には、図12(b)に示されるように、ピストン5の冠面50に、タンブル方向に沿って延びる直線状の複数の溝511を形成してもよい。
また、上記実施形態では、断面U字状の溝51,63が形成される場合について説明したが、図13に示されるように、断面V字状の溝512が形成されてもよく、或いは、図14に示されるように、ピストン5の冠面50に、当該冠面50から垂直方向に突出する平板状の突起513が所定間隔で互いに平行に設けられることにより、突起513,513間に溝514が形成されてもよい。この溝514は、シリンダヘッド4の底面60aや、吸気バルブ11のバルブ面11cおよび排気バルブ12のバルブ面12cに設けることも可能である。
また、ピストン5の冠面50、シリンダヘッド4の底面60a、吸気バルブ11のバルブ面11c、および排気バルブ12のバルブ面12cを遮熱材により構成し、この遮熱材からなる冠面50等に上記した溝(図6,13,14参照)を形成してもよい。
遮熱材の構成は、特に限定されるものではないが、例えば、以下のように構成することが可能である。
具体的には、図15に示される例では、ピストン5は、エンジンの燃焼室6を形成する冠面(壁面)に断熱層(本発明における「遮熱材」に相当する)100を備えている。この断熱層100は、ピストン5の金属製母材の頂面全体に亘って形成される第1樹脂層110と、第1樹脂層110の上面に順番に形成される第2樹脂層120、第3樹脂層130及び第4樹脂層140とからなる。なお、当例では、ピストン5の前記金属製母材は、例えば鋳物用アルミニウム合金AC8Aである。
第1樹脂層110は、シリコーン樹脂のみにより形成されており、前記金属製母材の上面全体に略一定の厚みで形成されている。
第2〜第4の各樹脂層120〜140はそれぞれ、複数の中空粒子200と当該中空粒子200を保持するシリコーン樹脂220とにより形成されている。各樹脂層120〜140の中空粒子200は、同図に示されるように、下位の樹脂層に沿って敷き詰められた状態でシリコーン樹脂220により保持されている。なお、図15に示されるように、第1樹脂層110の上面とその上の第2の樹脂層120におけるシリコーン樹脂220の下面や、第2の樹脂層120におけるシリコーン樹脂220の上面とその上の第3の樹脂層におけるシリコーン樹脂220の下面とは、部分的に非接触であってもよく、このような形態であれば非接触部分(A部)は断熱空気層を形成することになり、断熱性確保の点で有利である。
ここで、各樹脂層110〜140のシリコーン樹脂は、例えば、メチルシリコーン樹脂、メチルフェニルシリコーン樹脂に代表される、分岐度の高い3次元ポリマからなるシリコーン樹脂が好適である。具体的には、ポリアルキルフェニルシロキサンなどが好適である。
また、第2〜第4の各樹脂層120〜140に含まれる中空粒子200は、フライアッシュバルーン、シラスバルーン、シリカバルーン、エアロゲルバルーン等のSi系酸化物成分(例えばSiO)を含有するセラミック系中空粒子が好適である。
例えば、フライアッシュバルーンの化学組成は、質量%で、SiO;40.1〜74.4%、AI;15.7〜35.2%、Fe;1.4〜17.5%、MgO;0.2〜7.4%、CaO;0.3〜10.1%である。シラスバルーンの化学組成は、質量%で、SiO;75〜77%、AI;12〜14%、Fe;1〜2%、NaO;3〜4%、KO;2〜4%、IgLoss;2〜5%である。
なお、中空粒子の平均粒子径は5μm以上30μm以下であるのが好適であり、各樹脂層12〜14内における含有率は、20vol%以上60vol%以下であるのが好適である。これは、この範囲内にすれば、中空粒子内に含まれる空気量をある程度大きくしながら、各樹脂層12〜14の厚さに対して含有できる粒子量を多くすることができ、これにより、必要な断熱特性を良好に得ることができるためである。
また、断熱層100は、その厚さが60μm以上200μm以下となるように形成されている。これは、必要とする断熱特性を良好に確保しながら、エンジンの高温時における断熱層100の収縮、および断熱層100からのアウトガスの発生を抑制でき、断熱層100の剥離を防ぐことができるためである。
このように、燃焼室形成面が遮熱材により形成される場合には、溝による熱損失抑制効果に加えて、遮熱材(断熱層100)による熱損失抑制効果が奏され、より効果的にエンジンの熱効率を向上させることができる。しかも、遮熱材の遮熱機能により、燃焼室形成面(断熱層100の表面)が高温になるため、燃焼室形成面にカーボン粒子が接近しても、燃焼室形成面またはその近傍でカーボン粒子が燃焼し、これにより、溝内にカーボン粒子が蓄積することが抑制され、溝による熱損失抑制機能が維持される。
1 エンジン本体
4 シリンダヘッド(燃焼室構成部材)
5 ピストン(燃焼室構成部材)
6 燃焼室
11 吸気バルブ
11c 吸気側バルブ面(燃焼室形成面、吸気側傘表面)
12 排気バルブ
12c 排気側バルブ面(燃焼室形成面、排気側傘表面)
32 渦(スキッシュに沿った渦)
50 ピストンの冠面(燃焼室形成面)
51 溝(スキッシュ方向に延びる溝)
60a シリンダヘッドの底面(燃焼室形成面)
63 溝(スワール方向に延びる溝)
71 渦(スワールに沿った渦)
100 断熱層(遮熱材)
511 溝(タンブル方向に延びる溝)
S1,S3 溝幅
S2,S4 渦の径

Claims (7)

  1. エンジンの燃焼室を形成する燃焼室構成部材を備えたエンジンの燃焼室構造であって、
    前記燃焼室構成部材における燃焼室形成面に、筒内ガスの主流方向に沿って延びる複数の溝が形成されていることを特徴とする、エンジンの燃焼室構造。
  2. 前記燃焼室形成面が遮熱材により形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のエンジンの燃焼室構造。
  3. 前記燃焼室形成面は、シリンダ内を往復動するピストンの冠面と、当該ピストンの冠面と対向するシリンダヘッドの底面と、吸気バルブの傘部における前記燃焼室に臨む吸気側傘表面と、排気バルブの傘部における前記燃焼室に臨む排気側傘表面とを有し、
    前記溝は、前記冠面、前記底面、前記吸気側傘表面、および、前記排気側傘表面のうちの少なくとも一つに形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のエンジンの燃焼室構造。
  4. 前記燃焼室内にスキッシュ方向の主流が生じる場合に、前記複数の溝は、前記燃焼室の径方向中心から放射状に延びた状態で形成されることを特徴とする、請求項3に記載のエンジンの燃焼室構造。
  5. 前記燃焼室内にスワール方向の主流が生じる場合に、前記複数の溝は、前記燃焼室の径方向中心を中心とする同心円状に形成されることを特徴とする、請求項3に記載のエンジンの燃焼室構造。
  6. 前記燃焼室内にタンブル方向の主流が生じる場合に、前記複数の溝は、前記タンブル方向に沿って直線状に形成されることを特徴とする、請求項3に記載のエンジンの燃焼室構造。
  7. 前記溝の幅は、前記主流に沿って形成され、前記主流方向を軸方向として旋回する渦の径よりも小さいことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載のエンジンの燃焼室構造。
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