[エンジンの全体構成]
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係るエンジンの燃焼室構造を詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るエンジンの燃焼室構造が適用されるエンジンを示す概略断面図、図2は、図1に示す燃焼室付近を拡大して示す断面図、図3は、図1に前記燃焼室をシリンダヘッド側から見た平面図である。ここに示されるエンジンは、自動車等の車両の走行駆動用の動力源として、前記車両に搭載される往復ピストン型の多気筒ガソリンエンジンである。エンジンは、エンジン本体1と、これに組付けられた図外の吸排気マニホールド及び各種ポンプ等の補機とを含む。エンジン本体1に供給される燃料は、本実施形態では、ガソリンを主成分とするものである。
エンジン本体1は、シリンダブロック3、シリンダヘッド4及びピストン5(これらは、本発明における「燃焼室構成部材」の一例である)を備える。シリンダブロック3は、図1の紙面に垂直な方向に並ぶ複数の気筒2(図中ではそのうちの1つのみを示す)を有している。シリンダヘッド4は、シリンダブロック3の上面に取り付けられ、気筒2の上部開口を塞いでいる。ピストン5は、各気筒2に往復摺動可能に収容されており、コネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。ピストン5の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。
ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。シリンダヘッド4には、燃焼室6と連通する吸気ポート9及び排気ポート10が形成されている。シリンダヘッド4の底面4aには、吸気ポート9の下流端である吸気側開口部41と、排気ポート10の上流端である排気側開口部42とが形成されている。シリンダヘッド4には、吸気側開口部41を開閉する吸気バルブ11と、排気側開口部42を開閉する排気バルブ12とが組み付けられている。図3に示す通り、本実施形態のエンジンは、ダブルオーバーヘッドカムシャフト式(DOHC)エンジンである。吸気側開口部41と排気側開口部42とは、各気筒2につき2つずつ設けられるとともに、吸気バルブ11および排気バルブ12も2つずつ設けられている。
図2に示されるように、吸気バルブ11及び排気バルブ12は、いわゆるポペットバルブである。吸気バルブ11は、吸気側開口部41を開閉する傘状の弁体11aと、この弁体11aから垂直に延びるステム11bとを含む。同様に、排気バルブ12は、排気側開口部42を開閉する傘状の弁体12aと、この弁体12aから垂直に延びるステム12bとを含む。吸気バルブ11の弁体11aは、燃焼室6に臨むバルブ面11cを有する。排気バルブ12の弁体12aは、燃焼室6に臨むバルブ面12cを有する。
吸気バルブ11及び排気バルブ12も、上記の「燃焼室構成部材」に相当する。本実施形態において、燃焼室6を区画する燃焼室壁面は、気筒2の内壁面、ピストン5の上面である冠面50、シリンダヘッド4の底面4a、吸気バルブ11のバルブ面11c及び排気バルブ12のバルブ面12cからなる。本実施形態の燃焼室6は、上記燃焼室壁面にて区画されるペントルーフ型の燃焼室である。
シリンダヘッド4には、吸気バルブ11、排気バルブ12を各々駆動する吸気側動弁機構13、排気側動弁機構14が配設されている。これら動弁機構13、14によりクランク軸7の回転に連動して、各ステム11b、12bが駆動される。これらステム11b、12bの駆動により、吸気バルブ11の弁体11aが吸気側開口部41を開閉し、排気バルブ12の弁体12aが排気側開口部42を開閉する。
吸気側動弁機構13には、吸気側可変バルブタイミング機構(吸気側VVT)15が組み込まれている。吸気側VVT15は、吸気カム軸に設けられた電動式のVVTであり、クランク軸7に対する吸気カム軸の回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更することにより、吸気バルブ11の開閉タイミングを変更する。同様に、排気側動弁機構14には、排気側可変バルブタイミング機構(排気側VVT)16が組み込まれている。排気側VVT16は、排気カム軸に設けられた電動式のVVTであり、クランク軸7に対する排気カム軸の回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更することにより、排気バルブ12の開閉タイミングを変更する。
シリンダヘッド4には、燃焼室6内の混合気に点火エネルギーを供給する点火プラグ17が各気筒2につき1つずつ取り付けられている。点火プラグ17は、その点火点が燃焼室6内に臨む姿勢でシリンダヘッド4に取り付けられている。点火プラグ17は、図外の点火回路からの給電に応じてその先端から火花を放電して、燃焼室6内の混合気に点火する。
シリンダヘッド4には、先端部から燃焼室6内にガソリンを主成分とする燃料を噴射するインジェクタ18が、各気筒2につき1つずつ取り付けられている。インジェクタ18には燃料供給管19が接続されている。インジェクタ18は、燃料供給管19を通じて供給された燃料を噴射する。燃料供給管19の上流側には、クランク軸7と連動連結されたプランジャー式のポンプ等からなる高圧燃料ポンプ(図示せず)が接続されている。この高圧燃料ポンプと燃料供給管19との間には、全気筒2に共通の蓄圧用のコモンレール(図示せず)が設けられている。このコモンレール内で蓄圧された燃料が各気筒2のインジェクタ18に供給されることにより、各インジェクタ18からは、高い圧力の燃料が燃焼室6内に噴射される。
[燃焼室の詳細構造]
図2を参照して、燃焼室6の底面はピストン5の冠面50であり、燃焼室6の上面は燃焼室天井面60である。これら冠面50及び燃焼室天井面60が、燃焼室6を区画する燃焼室壁面のうち、燃焼室6の径方向に拡がりをもつ径方向壁面である。燃焼室天井面60は、シリンダヘッド4の底面4a、2つの吸気バルブ11のバルブ面11c及び2つの排気バルブ12のバルブ面12cによって構成されている。燃焼室天井面60は、上向きに凸の緩やかな曲面形状を有している。
詳述すると、シリンダヘッド4の底面4aは、その径方向中心、すなわち気筒2の軸線u1上の点を頂部として、径方向外側に向かうに従って高さが低くなる略円錐面状に形成されている。吸気バルブ11のバルブ面11c及び排気バルブ12のバルブ面12cは、シリンダヘッド4の底面4aと同じ曲率で湾曲する湾曲面に形成されている。インジェクタ18は、その先端部が燃焼室天井面60の頂部近傍に位置し、その軸線が軸線u1と一致するように配設されている。
図3に示されるように、弁体11aが開閉する吸気側開口部41と弁体12aが開閉する排気側開口部42とは、燃焼室天井面60に、その周方向に並んで開口している。2つの吸気側開口部41と2つの排気側開口部42とは、燃焼室6の天井面60の中心を通る直線u2を挟んで両側に設けられている。図3の例では、2つの吸気側開口部41(弁体11a)は、燃焼室天井面60の直線u2の左側に設けられており、2つの排気側開口部42(弁体12a)は、燃焼室天井面60の直線u2の右側に設けられている。
冠面50は、燃焼室天井面60と上下方向に対向する面であり、その径方向中央部分に配置されたキャビティ5Cと、キャビティ5Cの外周に同心円状に配置された基準面51とを備えている。キャビティ5Cは、冠面50の径方向中央部分が下方に凹没湾曲された部分であり、インジェクタ18から燃料の噴射を受ける部分である。基準面51は、燃焼室天井面60の湾曲形状に沿う、上向きに凸の緩やかな曲面形状を有している。すなわち、基準面51は、キャビティ5Cとの境界となる開口縁52から、径方向外側に向かうにつれて下方に傾斜する緩い凸曲面である。基準面51と燃焼室天井面60との間においては、燃焼室6の上下方向の間隔は略一定である。
冠面50は、上述のキャビティ5Cと基準面51とが径方向に連なった凹凸面である。冠面50の径方向中心付近には、キャビティ5Cの最深部である底面部53が位置している。キャビティ5Cの開口縁52には、基準面51の内周縁が連設されている。基準面51の外周縁54は、気筒2の壁面に近接している。
エンジン本体1における吸気工程、圧縮工程、膨張工程及び排気工程において、燃焼室6内には筒内ガスの流れが発生する。筒内ガスの流れの向きや形態は、燃焼室6の形状、燃焼室6内の圧力や温度等により様々に変化するが、モデル化すると、スキッシュ方向、スワール方向及びタンブル方向の筒内ガス主流に区分することができる。本実施形態に係る燃焼室6は、圧縮/膨張工程時において、スキッシュ方向の筒内ガス主流(スキッシュ流)、スワール方向の筒内ガス主流(スワール流)及びタンブル方向の筒内ガス主流(タンブル流)が生じる構造を有する燃焼室である。
図4(A)は、圧縮工程時に、燃焼室6内においてピストン5の冠面50上で発生するスキッシュ流30(正スキッシュ流)を示す模式的な平面図である。図4(A)には、吸気バルブ11及び排気バルブ12(吸気側開口部41及び排気側開口部42)の配置位置を点線で示している。圧縮工程においては、冠面50の外周縁54から径方向内側に向かい、キャビティ5Cに至る正スキッシュ流30が生じる。図示はしていないが、膨張工程では、キャビティ5Cの開口縁52から径方向外側に向かい、外周縁54に至る逆スキッシュ流が生じる。
図4(B)は、スキッシュ流30の態様を示す模式図である。スキッシュ流30は、主流31と、この主流31に伴う副流である渦流32とを含む。主流31は、スキッシュ方向に向かうガス流である。渦流32は、主流31の進行軸の軸回りに旋回する渦である。この渦流32には、熱を輸送する性質が強いという特徴がある。
本実施形態の燃焼室6は、ペントルーフ型の燃焼室であるため、スキッシュ流30の流動に関して特徴を有する。図5(A)は、図4(A)のVA−VA線断面図、図5(B)は、図4(A)のVB−VB線断面図である。ペントルーフ型の燃焼室6の天井面を区画する燃焼室天井面60は、傾斜方向の異なる一対の天井斜面部61(斜面部)と、これら天井斜面部61の上端同士が交差する頂部62(稜線部)とを含む。一方、燃焼室天井面60と対向し燃焼室6の底面を区画するピストン5の冠面50は、傾斜方向の異なる一対の冠面斜面部55と、これら冠面斜面部55の上端同士が交差する稜線部56とを含む。この稜線部56は、キャビティ5Cによって径方向中心付近で分断されている。天井斜面部61と冠面斜面部55とは、気筒2の軸線u1方向において互いに対向している。
ピストン5が上死点に達した状態において、燃焼室天井面60と冠面50との間にはスキッシュクリアランスが形成される。一般に、頂部62と稜線部56との間におけるスキッシュクリアランスd1の方が、天井斜面部61と冠面斜面部55との間におけるスキッシュクリアランスd2よりも大きく設定されている。すなわち、天井斜面部61と冠面斜面部55とは、気筒2の軸線u1方向に沿った断面視で、略平行に配置される。しかし、稜線部56は、一対の冠面斜面部55が上端で交差する頂点部分を面取りした形態で設けられる。従って、一般的な燃焼室6では、d1>d2の関係となる。
スキッシュ流30は、稜線部56が延びる径方向と交差する角度が大きいほど、強くなる傾向がある。図4(A)には、稜線部56が延びる径方向に対して交差する角度が異なるスキッシュ流30A、30B、30C、30Dを、それぞれ矢印で記載している。各々の矢印の太さは、各スキッシュ流30A〜30Dの強さを示している。稜線部56の延伸方向に対して直交する流動であるスキッシュ流30Aは、最も強い流れを有する。稜線部56の延伸方向に対する交差角が徐々に小さくなるスキッシュ流30B、30C、30Dの順に、スキッシュ流の流れは弱くなる。
次に、図6は、燃焼室6内においてピストン5の冠面50上で発生するスワール流33を説明するための模式的な平面図である。燃焼室6内に生じるスワール流33は、燃焼室6の中心軸(軸線u1)回りに一方向に旋回する主流である。スワール流33は、図4(B)に示したスキッシュ流と同様に、主流と、この主流に伴う副流である渦流とを含む。前記主流は、スワール方向に向かうガス流であり、冠面50の円周方向に進行する。つまりスワール流33は、稜線部56(頂部62)の位置を横切って流動する。前記渦流は、前記主流の進行軸の軸回りに旋回する渦であり、同様に熱を輸送する性質が強い。
図7は、前記燃焼室6内において冠面50上で発生するタンブル流34を説明するための模式図である。燃焼室6内に生じるタンブル流34は、燃焼室6の中心軸(軸線u1)と直交する軸回りに旋回する主流である。このタンブル流34も、タンブル方向に向かう主流と、この主流の進行軸の軸回りに旋回する渦流とを含む。タンブル流34もまた、稜線部56(頂部62)の位置を横切って流動する。
[微細溝の利点及び問題点]
上述の通り、渦流32が熱輸送の性質を有することから、スキッシュ流30が燃焼室壁面、つまりピストン5の冠面50に近接する位置を通過すると、渦流32と冠面50との間における熱エネルギーの授受(熱伝達)が活発となってしまう。このような熱伝達は、燃焼室6内の熱が燃焼室壁面を通して放熱されてしまう冷却損失に繋がり、エンジンの熱効率を低下させる。
この問題の解決手段として、燃焼室6を区画する燃焼室壁面に、筒内ガスの主流方向に沿って延びる複数の微細溝を形成する方法がある。図8は、スキッシュ方向に延びる微細溝20が形成された、ピストン5の冠面50を示す平面図である。冠面50の、キャビティ5Cを除くスキッシュエリア(基準面51)には、ピストン5の径方向中心から放射状に延びる複数の微細溝20が設けられている。図8では、図示簡略化のため複数の微細溝20が粗に配列されているが、実際は溝同士が隣接する程度に密に配列される。
このような微細溝20を形成することの利点を図9(A)、(B)に基づき説明する。図9(A)は比較例であり、燃焼室壁面(例えば冠面50)が平坦な場合における、スキッシュ流30の渦流32と当該燃焼室壁面との位置関係を示す図である。燃焼室壁面が平坦であると、渦流32は燃焼室壁面に接近することが可能となり、これに伴い両者間で熱伝達が行われ易くなる。このため、燃焼室6内の熱が前記燃焼室壁面を通して外部に放熱され易くなる。
一方、図9(B)は、燃焼室壁面(冠面50)に微細溝20が形成されている場合における、渦流32と冠面50との位置関係を示す図である。微細溝20は、断面U字状の溝であり、その溝幅Sは、スキッシュ流30の渦流32の渦スケールD(直径)よりも小さく設定されている。このような微細溝20が冠面50に設けられていることで、渦流32(乱流)は微細溝20に入り込むことができず、微細溝20の頂部に留まるようになる。つまり、図9(A)のように平坦な燃焼室壁面の場合に比べて、渦流32が燃焼室壁面(冠面50)から離間されるようになる。従って、渦流32と冠面50との間において熱伝達は行われ難くなり、冠面50を通した放熱が抑制される。
しかしながら、本発明者らの検討によれば、冠面50にスキッシュ方向へ放射状に延びる微細溝20を単に形成しただけでは、十分に冷却損失を抑制できない場合があることが判明した。換言すると、微細溝20に加えて構造的工夫を施すことで、より熱効率を向上させる余地があることが判明した。
図10は、燃焼室6内の筒内ガス主流Q(Q1〜Q4)の流動方向分布の一例を示す平面図である。図中の矢印は、冠面50の各位置における筒内ガス主流Qの流動方向を示している。既述の通り、燃焼室6には、径方向内側に向かうスキッシュ流30に加えて、スワール流33及びタンブル流34(図6及び図7)が生じる。スワール流33は、専ら燃焼室6の円周方向に移動する流動であり、タンブル流34も前記円周方向に向かう成分を含む流動である。
スキッシュ流30は、ピストン5が上死点付近に位置するときに強く発生する。とりわけ、本実施形態のように冠面50の径方向中央部分にキャビティ5Cが存在している場合、このキャビティ5Cの開口縁52付近でスキッシュ流30の流速が速くなる。その一方で、燃焼室6の径方向外側領域においては、スワール流33及びタンブル流34の影響を受け、筒内ガス主流Qの全体的な流動としては燃焼室6の円周方向に向かう成分が多くなる傾向がある。
図10に示す筒内ガス主流Qの流動方向分布は、上記の傾向を良く示している。図10には、冠面50の径方向中心から径方向Aの外側に延びる直線Lと、径方向Aの各点における筒内ガス主流Q(Q1〜Q4)とがなす角α(α1〜α4)が示されている。図11は、筒内ガス主流Q(スキッシュ流30)と微細溝20との交差状況を示す模式図である。微細溝20は径方向Aに放射状に延びているので、直線Lと筒内ガス主流Qとがなす角αは、微細溝20と筒内ガス主流Qとがなす角αでもある。
先ず、径方向Aの外側付近の筒内ガス主流Q1は、スワール流33及びタンブル流34の影響を強く受け、概ね円周方向へ流動している。このため、直線Lと筒内ガス主流Q1とがなす角α1は、比較的大きな角度となっている。これに対し、筒内ガス主流Q1よりも径方向A内側の筒内ガス主流Q2は、Q1よりも径方向Aを指向している。このため、直線Lと筒内ガス主流Q2とがなす角α2は、α1よりも小さい。同様に、筒内ガス主流Q2よりも径方向A内側の筒内ガス主流Q3は、Q2よりも径方向Aを指向し、直線Lと筒内ガス主流Q3とがなす角α3は、α2よりも小さい。径方向Aの最も内側付近の筒内ガス主流Q4は、筒内ガス主流Q3よりもさらに径方向Aを指向しており、直線LとQ4とがなす角α4は最も小さい。すなわち、直線Lと筒内ガス主流Q1〜Q4とがなす角α1〜α4は、
α1>α2>α3>α4
の関係となる。
直線Lと筒内ガス主流Qとがなす角が最も小さい角α4である筒内ガス主流Q4は、ほぼ微細溝20が延びる方向に流動する。次に小さい角α3である筒内ガス主流Q3も、概ね微細溝20が延びる方向に流動する。この場合、図9(B)に示した微細溝20の作用により、筒内ガス主流Q4、Q3(スキッシュ流30)の渦流32を冠面50から離間させ、燃焼室6の冷熱損失を抑制することができる。しかしながら、図11に示すように、直線Lと筒内ガス主流Qとがなす角が比較的大きい角α1、α2である筒内ガス主流Q1、Q2の場合、微細溝200となす角度も大きくなってしまう。この場合、前記冷熱損失の抑制効果は低減し、むしろ渦流32が微細溝20の凹凸に吹き当たることで、冠面50への熱伝達が促進されかねない。
[微細溝パターンの実施形態]
図12は、本実施形態に係る微細溝パターンが採用された、ピストン5の冠面50を示す平面図である。図12では、燃焼室6(冠面50)の径方向を矢印A、円周方向を矢印Bで示している。冠面50(燃焼室壁面/径方向壁面)には、基準面51の領域において、燃焼室6の径方向Aの中心側から外側へ放射状に延びる複数の微細溝20が設けられている。微細溝20の放射中心は冠面50の径方向中心Oである。さらに、冠面50には、燃焼室6内において生じる筒内ガス主流の流動方向を径方向Aの内側へ偏向させるガイド部57が備えられている。本実施形態のガイド部57は、冠面50(基準面51)に突設され、径方向Aに延びる凸条である。
冠面50の基準面51、すなわちキャビティ5Cの開口縁52から冠面50の外周縁54に至る領域には、径方向A(スキッシュ方向)に延びる多数の微細溝20が配置されている。多数の微細溝20は、開口縁52から外周縁54にかけて、放射線状に延びている。なお、図12では、微細溝20が基準面51の一部に刻設されているように描かれているが、これは図示簡略化のためであり、実際は微細溝20が基準面51の全域に刻設されている。なお、微細溝20は、開口縁52から外周縁54に至る径方向領域の少なくとも一部形成されていれば良く、必ずしも図12に示すように開口縁52から外周縁54の全域に形成されていなくとも良い。
微細溝20は、様々な加工方法にて冠面50に形成することができる。例えば、基準面51にレーザー加工を施して微細溝20を刻設する方法、微細溝構造を表面に備えたローラーを基準面51に押圧、転動させることによって微細溝20を刻設する方法、あるいは、ピストン5を成型する鋳型の内面に微細溝構造を設けておく方法、等を挙げることができる。
ピストン5の表面に遮熱層が設けられる場合がある。例えば、アルミニウム合金AC8Aなどの金属製母材にて鋳造されたピストン5の冠面50に、遮熱層として耐熱性シリコーン樹脂が施工される。この遮熱層により、燃焼室6の熱損失が抑制される。この場合、前記遮熱層の基準面51に相当する領域に微細溝20が形成される。前記金属製母材に遮熱層が施工された後、上述のレーザー加工或いは微細溝構造付きローラーによって前記遮熱層に微細溝20が刻設される。あるいは、前記遮熱層の形成用として内面に微細溝構造を有する鋳型を準備し、当該鋳型に前記金属製母材を収容して前記遮熱層材料を注型することによって、微細溝20付きの遮熱層が施工される。
続いて、図13(A)〜(C)も参照して、ガイド部57について説明する。図13(A)、(B)は、それぞれ図12のXIIIA−XIIIA線、XIIIB−XIIIB線断面図、図13(C)は、図13(A)の要部拡大図である。凸条からなるガイド部57は、冠面50の稜線部56に対応する位置に、当該稜線部56が延びる方向に延在している。ここでは、稜線部56の全長(開口縁52から外周縁54に至る径方向領域)に亘ってガイド部57が設けられている例を示しているが、稜線部56の一部に相当する領域にガイド部57が設けられていても良い。部分的なガイド部57とする場合は、少なくとも稜線部56の径方向外側部分に相当する領域にガイド部57を設けることが望ましい。
ガイド部57は、冠面斜面部55の上端が交差する通常の稜線部56よりも上方(燃焼室天井面60に接近する方向)に突出する凸条である。図13(B)、(C)には、通常の稜線部56の高さ位置を点線で示している。図13(C)を参照して、一対の冠面斜面部55の傾斜に沿った直線の上方への延長線をf1、f2とする。一対の冠面斜面部55傾斜方向が異なるので、これら延長線f1、f2は交差点faを持つことになる。通常の稜線部56は、上述の通り、この交差点faよりも低い位置に設定される。一方、本実施形態のガイド部57は、交差点faよりも高く突出するように、稜線部56に沿って突設されている。このような高さを有するガイド部57を具備させることで、筒内ガス主流Qはガイド部57に吹き当たり、流動方向が径方向Aの内側へ偏向されるようになる。
凸条からなるガイド部57の形成によって、稜線部56に対応する位置におけるスキッシュクリアランスは、一般的なペントルーフ型の燃焼室に比べて狭くなっている。本実施形態では、燃焼室天井面60の頂部62とガイド部57の頂面との間(稜線部の位置)におけるスキッシュクリアランスd11は、天井斜面部61と冠面斜面部55との間(斜面部の位置)におけるスキッシュクリアランスd2よりも小さく設定されている。このように、d11<d2の関係となるほどの凸条が、稜線部56に対応する位置に形成されることになる。一般的なペントルーフ型の燃焼室では、先に図5(A)に基づき説明した通りd1>d2の関係であり、本実施形態の燃焼室構造はこれとは逆の関係とされている。このようなガイド部57であれば、筒内ガス主流Qの円周方向の流れを阻害し、これを燃焼室6の径方向Aの内側へ良好に偏向させることができる。
図14(A)〜(D)は、ガイド部57の断面形状の例を示す図である。ここでは、各種形状のガイド部57A〜57Dの、径方向Aと直交する断面を示している。図14(A)は、断面矩形型のガイド部57Aである。図14(B)は、断面三角形のガイド部57Bである。図14(C)は、断面半円形乃至は半楕円形のガイド部57Cである。図14(D)は、図13(A)に例示したような、裾野部を有する断面山型のガイド部57Dである。いずれのガイド部57A〜57Dも、燃焼室6の円周方向と交差する側壁を有しており、この側壁に筒内ガス主流Qが吹き当たることにより、その流動方向が偏向されるものである。
図15(A)は、ガイド部57が存在しない場合の筒内ガス主流QAの流動状態を示す説明図、図15(B)は、ガイド部57が存在する場合の筒内ガス主流QBの流動状態を示す説明図である。ガイド部57が存在しない場合、先に図10に基づき説明した通り、筒内ガス主流QAは、キャビティ5Cの開口縁52付近では概ね径方向内側を指向するが、径方向外側付近ではスワール流及びタンブル流の影響を強く受けて概ね円周方向へ流動する。この場合、径方向外側付近では微細溝20の効果をあまり享受することができない。これに対し、ガイド部57が存在する場合、筒内ガス主流QBは、図15(B)に示す通りガイド部57の凸条に案内されて、全体的に径方向内側を指向するようになる。
図16は、図10との比較において示す、ガイド部57が存在する場合における、燃焼室内の筒内ガス主流Qの流動方向分布を示す平面図である。ここでは、基準面51のキャビティ5Cの開口縁52付近を除いた領域に、径方向Aに延びるガイド部57を周方向に所定のピッチで複数本設けた例を示している。図10の例とは異なり、筒内ガス主流Qがガイド部57によって径方向Aの内側に偏向されていることが分かる。
図16に示す筒内ガス主流Q2Aは、図10に示した筒内ガス主流Q2とほぼ同じ径方向位置に存在する筒内ガス主流である。ガイド部57が存在しない場合、径方向Aに延びる直線Lと筒内ガス主流Q2とがなす角α2は、約50°である。これに対し、ガイド部57が存在する場合、直線Lと筒内ガス主流Q2Aとがなす角α2Aは、約25°であり、径方向Aの内側への指向性が2倍程度に高められている。従って、ガイド部57を設けることで、径方向Aに延びる微細溝20の効果を良好に享受できるようになる。
図17(A)は、タンブル流34を積極的に発生させる燃焼室6において望ましいガイド部57の配置を示す平面図である。タンブル流34は、吸気側開口部41を起点として燃焼室6の中心軸と直交する軸回りに旋回する筒内ガス主流であり、ペントルーフ型の燃焼室の場合、冠面50の稜線部56の位置を横切って流動する傾向がある。このため、冠面50に凸条からなるガイド部を設ける場合は、図12に示した通り、稜線部56に沿ってガイド部57を設けることが望ましい。
一方、燃焼室天井面60に凸条からなるガイド部を設ける場合は、頂部62に沿って突設されたガイド部63とすることができる。図17(B)は、図17(A)のXVIIB−XVIIB線断面図であって、頂部62に沿うガイド部63の例を示している。頂部62は、一対の天井斜面部61の上端同士が交差する位置であって、冠面50の稜線部56と対向する位置にある。ガイド部63は、この頂部62を下方に膨出させる態様で、頂部62に沿って径方向に延びている。このようなガイド部63であっても、冠面50に設けたガイド部57と同様に、筒内ガス主流を径方向内側へ誘導することができる。
図18は、スワール流33を積極的に発生させる燃焼室6において望ましいガイド部57の配置を示す平面図である。スワール流33は、燃焼室6の円周方向に流動する主流である。このためガイド部57は、稜線部56の位置だけでなく、他の円周方向の位置にも設けることが望ましい。図18では、燃焼室6の径方向に延びる8本のガイド部57を周方向に均等ピッチで放射状に設けた例を示している。この態様によれば、スワール方向へ向かうベクトル成分が支配的な筒内ガス主流を、円周方向の各所に設置されたガイド部57によって、径方向内側へそれぞれ誘導させることができる。
[溝幅の決定方法]
図19は、微細溝20の断面形状の一例を示す断面図である。ここに示す微細溝20は、所定長の溝幅Sを有する、断面V字型の溝である。微細溝20は、V字溝の開口縁である一対の頂部201と、V字溝の最深部である谷部202と、一対の頂部201と谷部202との間に存在する一対の傾斜面203とからなる。一対の傾斜面203がなす角度θは、例えば60°に設定することができる。微細溝20の形状は適宜選択することができ、図9(B)に示したような断面U字型の溝、或いは断面矩形型の溝等であっても良い。
続いて、燃焼室6の冷却損失の低減効果を得ることができる微細溝20の溝幅Sの決定方法の一例について、具体的に説明する。微細溝20による冷却損失の低減効果は、溝幅Sを無次元化したS+(無次元溝幅)によって変化する。S+は、溝幅をS[m]、摩擦速度をUτ[m/s]、動粘性係数をν[m2/s]とするとき、次の式(1)で定義される。
式(1)における摩擦速度Uτは、スキッシュ流30(筒内ガス主流Q)の平均流速をUm[m/s]、摩擦係数をCfとするとき、次の式(2)で定義される。
上記式(1)及び式(2)より、溝幅Sは次の式(3)で与えられる。
ここで、摩擦係数Cfは、レイノルズ数Reを用いて、次の式(4)で表すことができる。また、レイノルズ数Reは、次の式(5)で定義される。式(5)において、Dhは水力相当直径[mm]である。
以上の式(1)〜式(5)より、溝幅Sは、次の式(6)にて求めることができる。
ここで、動粘性係数νは、エンジンの負荷によって決まる物理量であり、その数値範囲は、2.34×10−7〜4.5×10−7[m2/s]である。スキッシュ流30の平均流速Umは、エンジンの回転数によって決まる物理量であり、その数値範囲は、0.3〜50[m/s]である。水力相当直径Dhは、燃焼室6の形状によって定まる物理量であり、その数値範囲は、5.5〜6.4[mm]である。
図20は、微細溝20による冷却損失低減効果を示すグラフである。ここでは、筒内ガス主流(スキッシュ流)の流速を所定の値に設定した場合における、微細溝20の無次元溝幅S+と冷却損失低減率との関係を示している。図20のグラフより、冷却損失低減率(燃焼室6の熱損失低減率)は、無次元溝幅S+がゼロを少し超えた辺りから30より少し小さい辺りまでの領域(図20では「低減領域」と表示している)において正の値であり、この低減領域において微細溝による冷却損失低減効果が認められることがわかる。とりわけ、無次元溝幅S+が13〜17である場合に冷却損失低減率が特に大きく、無次元溝幅S+が15である場合に冷却損失低減率が最大になることが分かる。
上記の低減領域で冷却損失低減率が正の値となる理由は、渦流32が微細溝20の溝内に入り込まず、かつ、溝幅Sが渦流32の渦スケールDに対して小さ過ぎないという条件が、無次元溝幅S+が上記低減領域にある場合に満たされるためである。溝幅Sが渦流32の渦スケールDよりも狭広であれば、渦流32は微細溝20内に入り込むことができる。このため、図9(B)に示す状態が形成できず、渦流32を冠面50(径方向壁面)から離間させることができない。また、溝幅Sが渦流32の渦スケールDに対して小さ過ぎると、図9(A)に示す「平坦な燃焼室壁面」に近似してしまい、やはり渦流32を冠面50から離間させることができない。
無次元溝幅S+が30以上になると、冷却損失低減率が負の値に転じている(図20では「悪化領域」と表示している)。その理由は、渦流32が微細溝20の溝内に入り込むためである。渦流32が微細溝20内に入ってしまうと、渦流32による熱輸送の影響が燃焼室壁面の広範囲に及び、悪化領域を生んでしまうものである。
図20に示したように、無次元溝幅S+=15である場合に冷却損失低減率が最大になるため、溝幅Sの決定に際しては、式(6)のS+=15が代入される。式(6)の動粘性係数ν、平均流速Um及び水力相当直径Dhは、それぞれ、エンジンの負荷[kPa]、回転数[rpm]及び燃焼室6の形状に応じた値が代入される。
式(6)を用い、供試ガソリンエンジンについて、異なる運転条件下(負荷及び回転数を変更)において、スキッシュエリアの径方向内側から外側まで(キャビティ5Cの開口縁52から冠面50の外周縁54まで)の望ましい溝幅Sの分布を算出した例を下記に示す。
[回転数] [負荷] [溝幅分布:内側〜外側]
・1000rpm/250kPa: 10〜200μm
・1000rpm/550kPa: 7〜250μm
・2500rpm/900kPa: 2.5〜80μm
・3250rpm/530kPa: 2〜70μm
以上の算出結果より、微細溝20の溝幅Sは、2μm〜250μmの範囲から選ばれることが望ましい。上述の通り、溝幅Sが2μmよりも小さいと燃焼室壁面が平面に近くなり、溝幅が250μmを超過すると渦流32が微細溝20内に入り込み易くなり、いずれも冷却損失低減効果が期待できない。ここで、燃焼室6内で発生するスキッシュ流30の流速は、燃焼室6の径方向内側へ向かうほど大きくなる傾向がある。また、スキッシュ流30の流速が大きいほど、渦流32の渦スケールD(径)が小さくなる傾向がある。従って、2μm〜250μmの範囲内において、基準面51の径方向位置のスキッシュ流速に応じて、最適な微細溝20の溝幅Sを設定すれば良い。
溝幅Sは上記の通り決定するとして、溝高さhも適正に設定することが望ましい。渦流32を燃焼室壁面(冠面50)からなるべく離間させるには、溝高さhを高くすれば良いことになるが、過度にこれを高くすると燃焼室壁面の表面積が大きくなりすぎる。この場合、表面積の増加に伴う放熱性向上が、渦流32を燃焼室壁面から離間させる効果に勝ってしまう。従って、微細溝20の溝幅Sと、溝高さhとは、S≧hを満たす関係とすることが望ましい。
ここで、溝高さhが低すぎると、渦流32を燃焼室壁面から離間させる効果が比較的小さくなってしまう。従って、h/Sが0.5〜1.0の範囲となるよう、微細溝20の溝幅S及び溝高さhを設定することが特に望ましい。これにより、微細溝20の形成による燃焼室壁面の表面積増加と、渦流32を燃焼室壁面から離間させることによる熱伝導抑制の効果とのバランスを取ることができる。
[本実施形態の効果]
本実施形態に係るエンジンの燃焼室構造は、燃焼室6の径方向壁面である冠面50に、燃焼室6の径方向Aへ放射状に延びる複数の微細溝20を具備すると共に、燃焼室6内の筒内ガス主流Qの流動方向を径方向Aの内側へ偏向させるガイド部57を備える。燃焼室6内においてスキッシュ流30は、ピストン5が上死点付近に位置するときに強く発生するが、スワール流33やタンブル流34の影響を受ける。このため、筒内ガス主流Qの全体的な流動としては、燃焼室6の周方向に向かう成分を含むことになる。しかしながら、ガイド部57により、筒内ガス主流Qの全体的な流動を、径方向Aの内側(スキッシュ方向)に揃えることが可能となる。これにより、筒内ガス主流Qの流動方向を、微細溝20が延在する径方向Aに沿わせることができるようになる。従って、微細溝20による燃焼室6の冷却損失抑制機能を十分に発揮させることができる。
ガイド部57は、図14(A)〜(D)に例示した通り、冠面50(基準面51)に突設され、燃焼室6の径方向に延びる凸条である。このように、凸条という簡易な構造体からなるガイド部57によって、筒内ガス主流Qの流動方向を燃焼室6の径方向内側へ偏向させることができ、ピストン5の構造を特段複雑化させることはない。
上記実施形態の燃焼室6は、ペントルーフ型の燃焼室であって、ピストン5の冠面50には、一対の冠面斜面部55の上端同士が交差する稜線部56が備えられている。そして、前記凸条からなるガイド部57は、稜線部56に対応する位置に、当該稜線部56が延びる方向(径方向A)に延在している。一般にペントルーフ型の燃焼室6では、冠面斜面部55よりも稜線部56に対応する位置においてスキッシュクリアランスが大きい。このため、凸条(ガイド部57)という突起物を形成する位置として、稜線部56に対応する位置は好適である。また、スキッシュクリアランスを利用して、燃焼室6の軸方向高さの高い凸条が形成し易く、筒内ガス主流Qを偏向させるのに有利な凸条とすることができる。さらに、冠面50の稜線部56に対応する位置には、吸気/排気バルブリセスが設けられないので、前記凸条の形成には有利である。また、図17(B)のように、燃焼室天井面60の頂部62(稜線部)に凸条からなるガイド部63を設ける実施態様であっても、頂部62には吸気側、排気側開口部41、42が設けられないので、前記凸条の形成には有利である。
[変形実施形態の説明]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば下記のような変形実施形態を取ることができる。
(1)上記実施形態では、燃焼室6を形成する燃焼室壁面のうち、径方向Aに拡がりをもつ径方向壁面としてピストン5の冠面50に着目し、この冠面50の基準面51に微細溝20を形成する例を示した。これに代えて、燃焼室天井面60に図8、図12に示したような微細溝20を設けるようにしても良い。或いは、燃焼室天井面60の表面に遮熱層を設け、当該遮熱層に微細溝20を設けても良い。勿論、冠面50及び燃焼室天井面60の双方に微細溝20を設けても良い。
(2)微細溝20は、ガイド部57、63の表面に設けられていても良い。ガイド部57、63が広幅なものである場合、ガイド部57、63において渦流32からの熱伝達が起こり得る。ガイド部57、63は径方向Aに延びる凸条であるので、径方向Aに延伸することが求められる微細溝20を形成可能である。
(3)図21は、本実施形態の変形例に係る微細溝パターンを説明するための模式図である。上記実施形態では、冠面50(基準面51)の径方向全域に亘って直線状に延びる微細溝20が形成される例を示した。これに対し、図21では、冠面50を径方向Aに第1、第2、第3、第4、第5環状領域R1、R2、R3、R4、R5の5つに区分し、これら環状領域R1〜R5に、溝幅の異なる第1、第2、第3、第4、第5微細溝21、22、23、24、25を設けている。最も径方向内側の第1環状領域R1に形成される第1微細溝21の溝幅が最も小さく、最も径方向外側の第5環状領域R5に形成される第5微細溝25の溝幅が最も大きい。第2〜第4微細溝22〜24は、第1、第5微細溝21、25の溝幅の間において、徐々に大きくなる溝幅を有している。第1〜第5環状領域R1〜R5では、それぞれ第1〜第5微細溝21〜25が、概ね溝幅≒配列ピッチとなるように密に配列されている。
既述の通り、スキッシュ流30の流速は、燃焼室6の径方向内側へ向かうほど大きくなり、スキッシュ流30の流速が大きいほど、渦流32の渦スケールDが小さくなる傾向がある。このような現象に鑑みると、冠面50に配置する微細溝20の溝幅Sを径方向全長に亘って一定幅とするのではなく、スキッシュ流30の流速(渦スケールD)に応じて設定された溝幅を有する微細溝、径方向に複数段配置することが望ましいと言える。図21の変形例によれば、燃焼室6の径方向におけるスキッシュ流30の流速変化に応じた微細溝21〜25を、冠面50に設定することができる。つまり、冠面50上の微細溝21〜25が、冠面50の径方向Aにおける渦流32の渦スケールDの変化に応じた溝幅を具備するようになり、第1〜第5環状領域R1〜R5の各々において、渦流32を適正に冠面50から離間させることができる。従って、冷却損失を一層低減させることができ、エンジンの熱効率を高めることができる。
(4)図22は、本実施形態の他の変形例に係る微細溝パターンを説明するための模式図である。ここでは、冠面50の基準面51(スキッシュエリア)が、キャビティ5Cに近い径方向内側の第1環状領域R1と、径方向外側の第2環状領域R2とに区分されている。そして、第1環状領域R1には放射状に延びる複数の微細溝20が形成され、第2環状領域R2は微細溝20が形成されない平面とされている。第1環状領域R1においては、微細溝20によってスキッシュ流30の渦流32を径方向壁面から離間させ、渦流32から冠面50への熱伝達を抑制し、燃焼室6の冷熱損失を抑制することができる。
径方向外側の第2環状領域R2においては、ガイド部57、63を設けた場合においても、筒内ガス主流Qの流動は、円周方向に向かう成分が支配的となってしまう場合がある。この場合、筒内ガス主流Qの流動と微細溝20とがなす角度が大きくなる。その結果、前記冷熱損失の抑制効果は低減し、むしろ筒内ガス主流Qが含む渦流32が微細溝20の凹凸(頂部201)に吹き当たることで、冠面50への熱伝達が促進されかねない。しかしながら図22の変形例では、第2環状領域R2は平面とされているので、渦流32の微細溝20への吹き当たりが生じることはなく、前記熱伝達の促進を未然に防止することができる。