以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は上から透視したときの第1実施形態のエンジン1の燃焼室30の形状を説明するための概略構成図、図2はクランク軸方向に直交する断面で見た第1実施形態のエンジン1の概略構成図、図3は図2のY−Y線断面図である。図2は図1のX−X線断面図でもある。図4は円筒状のシリンダ11及びこのシリンダ11の上方に位置する吸気ポート40の下流側を紙面手前側である排気側から紙面向こう側である吸気側に向かって紙面手前の斜め上から透視して見た第1実施形態の概略斜視図である。なお、エンジンにおいて上下方向は、クランク軸方向に直交する断面で見たエンジンの概略図である図2を中心に考えるものとする。
ここでは、エンジン1が車両に対して縦に置かれる場合であるとし、この場合に図1においてエンジンの長手方向の上側が車両のフロント側、エンジンの長手方向の下側が車両のリヤ側であるとする。このとき、図4において左側がフロント側、右側がリヤ側となる。以下、車両のフロント側を単に「フロント側」と、車両のリヤ側を単に「リヤ側」という。もちろん、本発明は縦置きエンジンの場合に限定されるものでない。
エンジン1は、例えば車両に搭載される直噴式直列3気筒ガソリンエンジンである。3つの気筒が、図1に示したように一列に配置されている。エンジン1は3気筒エンジンに限定されるものでなく、4気筒エンジン、6気筒エンジン等であってよい。
エンジン1には、シリンダブロック20及びシリンダヘッド10を備える。シリンダブロック10には、気筒数分のシリンダ11を上下方向に有する。各シリンダ11内には、ピストン12が図2に示したようにシリンダ11内に摺動自在に配設されている。
シリンダブロック10の上部にシリンダヘッド20が取り付けられる。シリンダヘッド20の下面21には、3つの各シリンダ11に対向する位置に、上方に向けてペントルーフ状に窪んだ気筒数分の凹部24が形成される。凹部24は、平らな長方形状の尾根25と、左右のルーフ26,27から構成される。すなわち、上方に向けて一番窪んだところが尾根25となり、尾根25はクランク軸方向に沿って延びている。この尾根25から図1に示したように左右に傾斜するルーフ26,27が形成される。以下、一方のルーフ26を「吸気側ルーフ」、他方のルーフ27を「排気側ルーフ」という。ここで、クランク軸方向に直交する断面において排気側ルーフ27の直線がシリンダヘッド20の下面21から立ち上がる、鋭角である角度(以下、この角度を「ルーフ角度」という。)αは予め定まっている(図5,図6,図7,図8参照)。また、クランク軸方向に直交する断面において吸気側ルーフ26の直線が水平線から立ち上がる、鋭角である角度も同じルーフ角度αであるとする(図5〜図8参照)。
シリンダヘッド20の下面21に形成されるペントルーフ状の凹部24、シリンダ11の側壁及びピストン15の冠面15aにより、一気筒分の燃焼室30が形成される。
エンジン1には、一つの気筒当たり、2つの吸気ポート40と2つの排気ポート60→70を備える。各吸気ポート40は、図2において右斜め上から左斜め下に向かって形成されている。各吸気ポート40は、一方がシリンダヘッド20の側壁22(図1で右側の側壁)に開口し、他方が吸気側ルーフ26に開口する。各排気ポート70は、図2において左斜め上から右斜め下に向かって形成されている。各排気ポート70は、一方がシリンダヘッド20の側壁23(図1で左側の側壁)に開口し、他方が排気側ルーフ27に開口する。図1には吸気ポート40が2つの独立ポートで構成される場合を示しているが、吸気ポート40はサイアミーズドポートであってもかまわない。ここでは、一気筒当たり4つのバルブを備える場合で説明する。一気筒当たり2つのバルブや3つのバルブを備える場合であってもかまわない。
吸気ポート40の吸気側ルーフ26への開口端には、バルブシート41(第1バルブシート)が形成され、このバルブシート41をチューリップ型の吸気バルブ60が開閉する。ここでは、右斜め上から左斜め下の方向に吸気バルブ60が傾けて配置されている。このため、吸気バルブ60は右方向に傾いてリフトする。この右方向に傾いてリフトする方向は予め定まっている。吸気バルブ60は、弁体としてのバルブヘッド61、棒状のバルブステム62などで構成される。吸気バルブ60は、シリンダヘッド20に設けたバルブガイド63をバルブステム62の軸方向に摺動可能である。
バルブシート41の中心は、吸気バルブ60が配置される方向にある。すなわち、図2に示したクランク軸方向に直交する断面において、等脚台形状のバルブシートが右方向に傾いている。バルブシート41は、吸気バルブ60が着座するシート面41a、リング状の上面41b、リング状の下面41cで構成されている。バルブシート41の中心とシート面41aとがなす角度であるシート角度は、例えば45°である。シート角度は45°に限定されるものでない。吸気バルブ60はチューリップ型に限定されるものでない。
吸気バルブ60の上部には動弁機構64を備える。動弁機構64は、吸気カム65、バルブスプリング66などで構成される。吸気バルブ60は、吸気カム65がベースサークルにある間、バルブスプリング66により上方に付勢されている。バルブヘッド61の上面にはシート面61aが形成されており、このシート面61aがバルブシート41のシート面41aと当接することで吸気ポート40を閉じて(吸気バルブ60が着座して)いる。吸気行程で吸気カム65によりバルブスプリング66に抗して吸気バルブ60が下方にリフトすると、バルブヘッド61とバルブシート41との間に隙間が生じる。この隙間を吸気ポート40から燃焼室30へと吸入空気が流れ込む。
排気ポート70の排気側ルーフ27への開口端には、バルブシート71(第2バルブシート)が形成され、このバルブシート71をチューリップ型の排気バルブ80が開閉する。ここでは、左斜め上から右斜め下の方向に排気バルブ80が傾けて配置されている。このため、排気バルブ80は左方向に傾いてリフトする。この左方向に傾いてリフトする方向は予め定まっている。排気バルブ80は、弁体としてのバルブヘッド81、棒状のバルブステム82などで構成される。排気バルブ80はシリンダヘッド20に設けたバルブガイド83をバルブステム82の軸方向に摺動可能である。
バルブシート71の中心は、排気バルブ80が配置される方向にある。すなわち、図2に示したクランク軸方向に直交する断面において、等脚台形状のバルブシート71が左方向に傾いている。バルブシート71は、排気バルブ80が着座するシート面71a、リング状の上面71b、リング状の下面71cで構成されている。バルブシート71の中心とシート面71aのなす角度であるシート角度は、例えば45°である。シート角度は45°に限定されるものでない。排気バルブ80はチューリップ型に限定されるものでない。
排気バルブ80の上部には動弁機構84を備える。動弁機構84は、排気カム85、バルブスプリング86などで構成される。排気バルブ80は、排気カム85がベースサークルにある間、バルブスプリング86により上方に付勢されている。バルブヘッド81の上面にはシート面81aが形成されており、このシート面81aがバルブシート71のシート面71aと当接することで排気ポート70を閉じて(排気バルブ80が着座して)いる。排気行程で排気カム85によりバルブスプリング86に抗して排気バルブ80が下方にリフトすると、バルブヘッド81とバルブシート71との間に隙間が生じる。この隙間を燃焼室30から排気ポート70へと燃焼ガスが流れ出る。排気バルブ80の軸と上記吸気バルブ60の軸とがなす、鋭角である角度を「バルブ挟み角」というが、上記のルーフ角度αはバルブ挟み角のちょうど1/2の角度となっている。
3つの気筒の各尾根25の中心には、図1にも示したように燃焼室30に臨んで直立する点火プラグ90を備える。また、シリンダヘッド20の吸気側の側壁22の側には、シリンダヘッド20の下面21の直上付近から燃焼室30に臨む燃料インジェクタ91を備える。なお、図2には燃料インジェクタ91が示されていない。燃料インジェクタ91は、吸気行程や圧縮行程の所定のタイミングで燃焼室30内に燃料を噴射する。この噴射燃料は燃焼室30内の空気と混合して混合気を生成する。点火プラグ90は、圧縮上死点前後の所定のタイミングで燃焼室30内の混合気に着火する。この着火によって、燃焼室30内の混合気が燃焼し、この混合気の燃焼圧力をピストン15が受ける。燃焼圧力を受けたピストン15はシリンダ11に沿って上下方向にストローク(往復運動)する。
3つのピストン12の各ピストンピン16にはコンロッド(図示しない)の一端が連結され、これらコンロッドの下端は全て一本のクランク軸に連結されている。各ピストン12の往復運動は、コンロッド及びクランク軸を介して回転運動に変換される。クランク軸は図1においてシリンダヘッド20の長手方向に配置されている。つまり、シリンダヘッド20の長手方向がクランク軸方向である。ここでは、直噴エンジンを記載しているが、ポート噴射エンジンであってかまわない。
さて、エンジンのダウンサイジング化によって、これまでよりも高回転速度・高負荷域で燃費を改善することが求められている。ここで、「ダウンサイジング化」とは、ある排気量の自然吸気エンジンを基準のエンジンとする。そして、この基準のエンジンより排気量を小さくする一方で、ターボチャージャなどの過給機を使うことにより、基準のエンジンと同等の動力性能を確保しようとするものである。ターボチャージャ(図示しない)によって燃焼室30内に吸入空気を多く押し込むと共に、押し込んだ吸入空気に見合った燃料を燃料インジェクタ91で噴射供給する。すると、燃焼室30内では燃焼が急速に進むので、特に高負荷域でノッキングが生じやすくなる。ノッキングが生じると、その回避のために点火時期を遅角せざるを得ない。点火時期はMBT(最良燃費点)に設定されているのであるから、点火時期をMBTより遅角させたのでは、燃費が悪くなる。そこで、エンジンからの排出ガスの一部を吸気通路に戻すEGR通路(図示しない)と、このEGR通路を開閉する常閉のEGR弁(図示しない)とを設けておき、高負荷域でEGR弁を開く。高負荷域では、EGR弁を開いて大量のEGRガス(不活性ガス)を燃焼室30に導入することで燃焼室内温度が上がりすぎないようにして、ノッキングを回避するのである。これによって、高負荷域でも点火時期をMBTから遅角させることがなくなり、燃費が向上する。また、エンジンのダウンサイジング化においては、燃焼室30をペントルーフ型として燃焼室30をコンパクトに設計すると共に、ロングストローク化することで低回転速度域でのトルクを増大し、これによって実用域での燃費を向上させている。
しかしながら、エンジンのダウンサイジング化において高負荷域でEGRガスを大量に導入するのでは、高負荷域での燃焼状態が悪くなる。この大量のEGRガスの存在下での燃焼状態の悪化を防ぐには、燃焼室30内でのガス流動、つまりタンブル流を強化することである。こうした要求から吸気ポートの下流側にタンブル流制御手段としてのガイド板を備える従来装置がある。この従来装置では、タンブル流が不必要であるときにガイド板を吸気ポート壁に収納しておき、タンブル流を強くしたいときにはガイド板を吸気ポート中心に向かって押し出させ、吸気を絞ることで、強いタンブル流を得ようとする。
しかしながら、吸気バルブ60を吸気下死点よりも遅く閉じる仕様のエンジンの場合に、燃焼する前の混合ガスが、ガイド板が備えられる吸気ポート40の下流側に戻ってくる。また、吸排気バルブ60,80のバルブオーバーラップ時には燃焼後の残留ガスが吸気ポート40の下流側に吹き返す。これら燃焼する前の混合ガスに含まれる燃料や、残留ガスに含まれる煤、未燃ガスがガイド板の駆動部分に付着する。混合ガスに含まれる燃料、残留ガスに含まれる煤、未燃ガスの少ない付着であれば、ガイド板が動き得るものの、付着量が多くなれば、やがてはガイド板が吸気ポート壁に収納したままで動かなくなってしまう。ガイド板が動かなくなってしまうと、エンジンをダウンサイジング化していても、高負荷域でタンブル流を強化することができなくなる。
ここで、本発明では、後述するように、排気側シリンダ壁12の上の点に向かって、燃焼室30に流れ込む吸入空気の流れが狭まるように吸気ポート下流端部42を形成している。この本発明と対比するため、排気側シリンダ壁12の上の点に向かって、燃焼室30に流れ込む吸入空気の流れが狭まるように吸気ポート下流端部42を形成する、ことはしていないエンジンを「現状のエンジン」であると定義する。前述したエンジンのダウンサイジング化の対象となるエンジンも現状のエンジンである。一方、低回転速度・低負荷域における燃費向上のため、吸気ポート40の下流側にタンブルコントロールバルブ(図示しない)を設け、低回転速度・低負荷域でこのタンブルコントロールバルブを作動させて吸入空気を絞っている現状のエンジンがある。このタンブルコントロールバルブを備える現状のエンジンでは、タンブルコントロールバルブを、大量のEGRガスを燃焼室30に導入する高負荷域において作動させることが考えられる。しかしながら、高負荷域でタンブルコントロールバルブを作動させて吸入空気を絞ると、吸気ポート40の通気抵抗が大きくなる。吸気ポート40の通気抵抗が大きくなると、その通気抵抗が大きくなる分だけ、ターボチャージャの仕事量が増えてしまう。
このように、吸気ポート40の下流端にガイド板のような駆動体を備えたり、タンブルコントロールバルブを高負荷域で作動させたりするのでは、ガイド板の固着や吸気ポート40の通気抵抗の増加に伴うターボチャージャの仕事量の増大の問題が生じてしまう。
図5は、クランク軸方向に直交する断面で見た、タンブル流を説明するためのエンジン1の概略構成図である。図5には、吸気ポート40のありたい姿を要求ベースで記載している。タンブル流は、クランク軸方向に直交する平面(断面)にある、クランク軸回りの旋回流(図5では左回り)のことである。ここで、タンブル流を現状のエンジンより強めるために吸気ポート40の下流端部(以下「吸気ポート下流端部」という。)42の形状で制約になっているところをブレークスルーできないかと本発明者が考察した。この考察を以下に説明する。考察に際しては、吸気ポート下流端部42をシリンダ中心BC側(図5で左側)と、シリンダ中心BCの反対側(図5で右側)とで区別する。以下、シリンダ中心BC側の吸気ポート下流端部43を「第1ポート下流端部」、シリンダ中心BCの反対側にある吸気ポート下流端部45を「第2ポート下流端部」という。また、シリンダ中心BCより排気側の燃焼室30aを「排気側燃焼室」、シリンダ中心BCより吸気側の燃焼室30bを「吸気側燃焼室」として区別する。
タンブル流を現状のエンジンよりも強めるためには、第1ポート下流端部43から燃焼室30に流れ込む吸入空気の運動エネルギー(流速エネルギー)が大きくなるようにすることである。運動エネルギーが大きいタンブル流を得るためには、クランク軸方向に直交する断面においてピストン15のストローク中心SCを通る水平線より上側の排気側燃焼室30aであって、タンブル中心TCからの距離が大きい位置を通過させることである。ここで、上記の「タンブル中心」とは、タンブル流の旋回中心のことである。この場合のポイントとして、クランク軸方向に直交する断面において吸入空気を第1ポート下流端部43及び第2ポート下流端部45(以下、「第1及び第2のポート下流端部43及び45」ともいう。)から排気側燃焼室30aに向かわせることである。しかしながら、現状のエンジンでは、シリンダヘッド20とは別体のバルブシート部品を圧入することによってバルブシート41を形成している。このバルブシート部品を有することによる吸気ポート下流端部42の形状制約のため、タンブル流を強化しづらいものとなっている。
ところで、汎用の技術としてコールドスプレー法という溶射技術が知られている。コールドスプレー法は、硬質表面処理の方法に含まれるもので、粉末材料を溶融温度以下の固相状態で基材へ衝突させ、基材表面に膜を形成(成膜)する技術である。本発明者は、当該技術を用いて吸気バルブ60のバルブシート41を形成することで、バルブシートレスの吸気ポートとする。バルブシートレスの吸気ポートを有するエンジンを新たに発想したのである。すなわち、シリンダヘッド20の材質は、鋳物用アルミ合金である。バルブシート41のシート面より一回り大きくした仮のシート面を形成したシリンダヘッド20を一体で鋳造する。鋳造後にはコールドスプレー法により、バルブ着座部として形成してある上記仮のシート面の基材の鋳物用アルミ合金よりも硬い膜をバルブシート層として形成する。すなわち、コールドスプレー法により、HeやN2を作動ガスとし、基材の鋳物用アルミ合金よりも硬質の金属粒子を、上記仮のシート面の基材に打ち込むことによって、基材の鋳物用アルミ合金よりも硬い膜をバルブシート層として形成する。このように、コールドスプレー法によってバルブシート層(硬質表面)をあらまし形成した後に、スロートカッターを用い、コールドスプレー法によってあらまし形成したバルブシート層を切削加工する。最後には切削加工した後のバルブシート層を研磨することによって、バルブシート41のシート面を仕様通り(寸法通り)に完成する。なお、排気バルブ80用のバルブシート71は、本発明に関係しないので、バルブシートレスとしてもよいし、バルブシート部品を圧入させることとしてもよい。
本発明では、コールドスプレー法を吸気バルブ60のバルブシート41に適用し、吸気バルブのバルブシート部品を圧入しないことによって、第1及び第2のポート下流端部43及び45の形状を大きく変えることができる。第1実施形態の図2はコールドスプレー法を吸気バルブ60のバルブシート41に適用したもので、吸気バルブ60のバルブシート部品は圧入されていない。バルブシートレスの吸気ポート40とすることで、第1及び第2のポート下流端部43及び45の形状の自由度が増す。
こうしたバルブシートレスの吸気ポート40を念頭に置きつつ、吸入空気によって燃焼室30内にタンブル流がどのように生成されるのかを、吸気ポート下流端部42の形状を変更しつつ、本発明者がCFDを用いたシミュレーションを行った。そして、CFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)を用いたシミュレーションの解析結果より、次のことを新たに見出すに至っている。すなわち、吸入空気が燃焼室30内の空間を進む際に、吸入空気の流れが狭まるように吸気ポート下流端部42を形成すれば、吸入空気の速度(流速)が、排気側シリンダ壁12に向かうほど吸気ポート下流端部42を通過するときの吸入空気の速度より大きくなる。排気側シリンダ壁12に到達するタイミングで吸入空気の速度が最大になるのである。しかも、排気側シリンダ壁12上の一箇所に吸入空気が寄り集まることによって流れの勢いが増す。そして、排気側シリンダ壁12上で吸入空気の速度が最大になりかつ一箇所に寄り集まって勢いを増す分だけ、吸気ポート下流端部42を通過するときの吸入空気の速度のままである場合より、タンブル流が強化されることを、本発明者が新たに見出したのである。
上記のように、吸気バルブ60のバルブシート部品を圧入することはせず、コールドスプレー法を用いて吸気バルブ60のバルブシート41を形成する(バルブシートレスのエンジンとする)ことによって、吸気ポート下流端部42の形状の自由度が増す。そこで、まずクランク軸方向に直交する断面についての吸気ポート下流端部42の形状を検討する。クランク軸方向に直交する断面についての吸気ポート下流端部42は、第1ポート下流端部43及び第2ポート下流端部45で構成される。第1及び第2のポート下流端部43及び45の形状の自由度が増すのであるから、現状のエンジンより強いタンブル流を得るための具体的な第1及び第2のポート下流端部43及び45の形状はどうあるべきかを図6,図7を参照して理論的に考察する。ここで、図6,図7は、クランク軸方向に直交する断面で見た、タンブル流を説明するためのエンジン1の概略構成図である。
第1及び第2のポート下流端部43及び45はそれぞれバルブシート41の直上にあってバルブシート41に隣接している。以下では、バルブシート41の直上部分の吸気ポート壁のうち、シリンダ中心BC側(図6で左側)と、シリンダ中心BCの反対側(図6で右側)とで区別する。シリンダ中心BC側のバルブシート41の直上部分の吸気ポート壁44を、「バルブシート直上部第1ポート壁」という。一方、シリンダ中心BCの反対側にあるバルブシート41の直上部分の吸気ポート壁46を、「バルブシート直上部第2ポート壁」という。
また、シリンダ11の側壁についても排気側と吸気側とで区別する。シリンダ11の排気側の側壁12を「排気側シリンダ壁」、シリンダ11の吸気側の側壁13を「吸気側シリンダ壁」という。
タンブル流の生成に特に強く影響するのは、図6,図7に示したように、バルブシート直上部第1ポート壁44及びバルブシート直上部第2ポート壁46(以下「バルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46」ともいう。)の形状である。この理由は次の通りである。すなわち、ここでは、吸気ポート40から排気側シリンダ壁12に向かって流れ込む吸入空気を、次のa,bのようにおおよそ2つの部分に分けて考える。
a:上流から吸気ポート40の上側壁(以下「吸気ポート上側壁」という。)40aに 沿って流れてくる吸入空気であって、上流から吸気ポート40の中心より上側を流れ てくる吸入空気、
b:上流から吸気ポート40の下側壁(以下「吸気ポート下側壁」という。)40bに 沿って流れてくる吸入空気であって、上流から吸気ポート40の中心より下側を流れ てくる吸入空気、
全体のほぼ半分である上記aの吸入空気が、バルブシート直上部第1ポート壁44にガイドされ排気側シリンダ壁12に向かって流れ込む。全体の残りほぼ半分である上記bの吸入空気が、バルブシート直上部第2ポート壁46にガイドされ排気側シリンダ壁12に向かって流れ込む。このように、上記a及びbを合わせた吸入空気全体の挙動が、バルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46の形状によって定まるためである。
以下、吸気ポート40から排気側シリンダ壁12に向かって流れ込む吸入空気を上記aの吸入空気と上記bの吸入空気との2つに分ける場合で説明するが、この場合に限定されるものでない。例えば、吸気ポート40から排気側シリンダ壁12に向かって流れ込む吸入空気を、次のc,d,eのようにおおよそ3つの部分に分けて考える場合であってよい。
c:上流から吸気ポート上側壁40aに沿って流れてくる吸入空気、
d:上流から吸気ポート下側壁40bに沿って流れてくる吸入空気、
e:上記c及びdの除く残りの吸入空気、つまり上流から吸気ポート40の中心側を流 れてくる大部分の吸入空気、
上記cの吸入空気が、バルブシート直上部第1ポート壁44にガイドされ排気側シリンダ壁12に向かって流れ込む。上記dの吸入空気が、バルブシート直上部第2ポート壁46にガイドされ排気側シリンダ壁12に向かって流れ込む。上記eの吸入空気は上記cの吸入空気と上記dの吸入空気に挟まれた状態で排気側シリンダ壁12に向かって流れ込む。このように、吸気ポート40から排気側シリンダ壁12に向かって流れ込む吸入空気を3つに分けた場合で合っても、上記c〜eを合わせた吸入空気全体の挙動が、バルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46の形状によって定まることとなるためである。
図6,図7においては、ピストン15のストローク中心SCを通る水平線に加えて、ピストン15の上死点TDC、下死点BDCの各位置をそれぞれ記載している。吸気行程で吸気バルブ60が下方にリフトしているときに、ピストン15が下死点BDCまで下降することによって、燃焼室30内の圧力が吸気ポート40内の圧力より低くなる。この圧力差によって吸気ポート40内の吸入空気が排気側シリンダ壁12に向けて引き込まれる。引き込まれて排気側シリンダ壁12に衝突した吸入空気は流れる方向を変え排気側シリンダ壁12の下方へと流れ、ピストン冠面15aに衝突する。ピストン冠面15aに衝突した吸入空気は流れる方向を変えピストン冠面15aに沿い吸気側シリンダ壁13に向かって流れる。そのあとに吸気下死点BDCを経てピストン15が上死点TDCへと上昇する。このピストン15の上動を受け、上記吸気側シリンダ壁13に向かっていた吸入空気の流れが吸気側シリンダ壁13の上方へと変わる。吸気側シリンダ壁13を上方に流れる吸入空気は吸気側ルーフ26に衝突する。吸気側ルーフ26に衝突した吸入空気は流れる方向を変え排気側ルーフ27へと流れる。このような関連する吸気バルブ60のリフトとピストン15の上下方向のストローク(往復動)とによって、燃焼室30の内部に図6,図7で左回りのタンブル流が生成される(図6,図7の太い矢印参照)。このため、タンブル中心TCは、ピストン15のストローク中心SCを通る水平線とシリンダ中心BCとが交わる点にくるものと考える。
バルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46は、図3にも示したように吸気ポート40の断面で見たとき円筒壁の一部を構成している。ここでは、特にクランク軸方向に直交する断面で考える。図6に示したようにクランク軸方向に直交する断面においてバルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46が直線であるとする。バルブシート直上部第1ポート壁44を直線とする理由は、上記aの吸入空気が、この場合に運動エネルギーの損耗となる剥離や乱れを生じることなく流れるためである。バルブシート直上部第2ポート壁46を直線とする理由は、上記bの吸入空気が、この場合に運動エネルギーの損耗となる剥離や乱れを生じることなく流れるためである。なお、話を簡単にするため、クランク軸方向に直交する断面においてバルブシート直上部第1ポート壁44に隣接する吸気ポート上側壁40aも直線であり、隣接する2つの直線は一つの直線を構成しているものとする。同様に、クランク軸方向に直交する断面においてバルブシート直上部第2ポート壁46に隣接する吸気ポート下側壁40bも直線であり、隣接する2つの直線は一つの直線を構成しているものとする。
ここで、バルブシート直上部第1ポート壁44から流れ込む上記aの吸入空気及びバルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気は、速度(流速)が相対的に大きいために排気側シリンダ壁12に向かって直進すると仮定する。以下、バルブシート直上部第1ポート壁44から流れ込む上記aの吸入空気及びバルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気全体を「第1及び第2のポート下流端部43及び45から流れ込む上記a+bの吸入空気全体」ともいう。あるいは、単に「上記a+bの吸入空気全体」ともいう。そして、直進する上記a及びbの各吸入空気を直線(図6の細破線)で表すとする。このとき、バルブシート直上部第1ポート壁44から流れ込む上記aの吸入空気の直線が、第1及び第2のポート下流端部43及び45から流れ込む上記a+bの吸入空気全体の上側の境界fupを定める。一方、バルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気の直線が、第1及び第2のポート下流端部43,45から流れ込む上記a+bの吸入空気全体の下側の境界fdwnを定める。
この場合に、本発明では、バルブシート直上部第1ポート壁44から流れ込む上記aの吸入空気の直線と、バルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気の直線との交点が排気側シリンダ壁12の上にくるようにする。以下、バルブシート直上部第1ポート壁44から流れ込む上記aの吸入空気の直線と、バルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気の直線との交点を「所定点1」という。このようにすると、第1及び第2のポート下流端部43及び45から流れ込む上記a+bの吸入空気全体は、燃焼室30の空間内でありながら、あたかも縮小管を流れるかのように、空間的に上下方向に狭まりつつ排気側シリンダ壁12に向かって流れる。ここで、図6には、燃焼室30内の空間を進む、上側の境界fupの直ぐ下を流れる吸入空気と、下側の境界fdwnの直ぐ上を流れる吸入吸気を破線矢印でそれぞれ示している。これより、第1及び第2のポート下流端部43及び45から流れ込む上記a+bの吸入空気全体が、燃焼室30内の空間を上下方向に狭まりつつ流れることが分かる。このように、上下方向に空間的に狭まりつつ排気側シリンダ壁12に向かって流れる上記a+bの吸入空気全体を解析したとき、周囲に管壁を有していないにも拘わらず、上記a+bの吸入空気全体の速度が徐々に大きくなる。そして、排気側シリンダ壁12上の所定点1(点A)に到達するタイミングで第1及び第2のポート下流端部43及び45から流れ込む上記a+bの吸入空気全体の速度が最大になるのである。しかも、排気側シリンダ壁12上の一箇所に第1及び第2のポート下流端部43及び45から流れ込む上記a+bの吸入空気全体が寄り集まることによって流れの勢いが増す。そして、所定点1で上記a+bの吸入空気全体の速度が最大となりかつ一箇所に寄り集まって勢いを増す分だけ、吸気ポート下流端部42を通過するときの吸入空気の速度のままである場合よりタンブル流が強化されることを本発明者が新たに見出したわけである。この場合、上下方向に空間的に狭まりつつ排気側シリンダ壁12に向かって流れる上記a+bの吸入空気全体に対して、周囲に管壁を有する場合の吸入空気の流れと同じにベルヌイの式が当てはまることとなる。
上記の所定点1が排気側シリンダ壁12の上にくるようにする理由は、次の通りである。すなわち、所定点1で排気側シリンダ壁12に向かう上記a+bの吸入空気全体の流れの断面積が最も小さくなり、流れの断面積が最も小さくなるときに上記a+bの吸入空気全体の速度が最大となる。排気側シリンダ壁12に衝突した上記a+bの吸入空気全体は流れる方向を変え排気側シリンダ壁12に沿い下方に向けて流れるのであるが、この排気側シリンダ壁12に沿って流れる上記a+bの吸入空気全体の速度が最大となるようにするためである。
上記のように、バルブシート直上部第1ポート壁44から流れ込む上記aの吸入空気及びバルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気をそれぞれ直線で仮定すれば、理論上、上記の所定点1で上記a+bの吸入空気全体の流れの断面積は最小のゼロとなる。しかしながら、実際には排気側シリンダ壁12に向かう上記a+bの吸入空気全体の流れの断面積をゼロにすることは物理的にできない。このため、上記の所定点1で上記a+bの吸入空気全体の流れの断面積ができるだけ小さくなるように、バルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46の形状と、2つのバルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46の位置関係を定める。
図6には、所定点1が相違する、次のア〜エの4つの場合を重ねて例示している。
ア:所定点1が排気側シリンダ壁12の直線(縦線)と、タンブル中心TCがあるスト ローク中心SCを通る水平線とが交わる点A(以下、単に「点A」ともいう。)より 上の排気側シリンダ壁12にある場合、
イ:所定点1が点Aにある場合、
ウ:所定点1がシリンダ中心BCより排気側のピストン冠面15aの上にある場合、
エ:所定点1が排気側シリンダ壁12の直線(縦線)と下死点のピストン冠面15aの 水平線とが交わる点C(以下、単に「点C」ともいう。)にある場合、
なお、ピストン冠面15aにキャビティは設けられておらず、ピストン冠面15aの全体は平面であるとする。そして、平面であるピストン冠面15aと、シリンダ中心BCと直交する面(水平面)とは、平行な位置関係にあるものとする。
上記アやイの場合には、上記a+bの吸入空気全体が排気側シリンダ壁12に衝突した後、流れる方向を変え排気側シリンダ壁12の下方に向かって流れるので、左旋回のタンブル流が生成される。上記ウの場合には、上記a+bの吸入空気全体がピストン冠面15aに衝突した後、流れる方向を変え排気側シリンダ壁12に向かって流れるので、右旋回の流れとなり左旋回のタンブル流は生成されない。従って、上記エの場合が、タンブル流が生成されるか否かの下方の境界である。クランク軸方向に直交する断面において所定点1が、点C(第2の点)にあることがタンブル流を生成させるための下方の条件である。
一方、図7には、次のオの場合を例示している。
オ:所定点1が、バルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気 の直線と、排気側シリンダ壁12の縦線に平行な線lprlとのなす角度が90度と なる点E(以下単に「点E」ともいう。)にある場合、
ここでは、上記オの場合に代えて次のオ’の場合を考える。
オ’:所定点1が、バルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空 気の直線と、排気側シリンダ壁12の縦線とのなす角度が90度となる点E’にある 場合、
バルブシート41の上下方向の厚さを考えると、上記オ’の場合のように、バルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気が、排気側シリンダ壁12に衝突することはないと考えられる。つまり、上記オ’は仮想の場合である。しかしながら、上記オ’の仮想の場合のほうが考えやすいので、こちらでまず考える。ここで、バルブシート直上部第1ポート壁44から流れ込む上記aの吸入空気の直線と、排気側シリンダ壁12の縦線とがなす、鈍角である角度を「第1角度β」とする。
上記オ’の仮想の場合に、バルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気は排気側シリンダ壁12に衝突して流れる方向を変え、その半分が排気側シリンダ壁12を下方に向けて流れる。残り半分は排気側シリンダ壁12を上方に向けて流れる。一方、バルブシート直上部第1ポート壁44から流れ込む上記aの吸入空気は排気側シリンダ壁12に衝突して向きを変え、その全量が排気側シリンダ壁12を下方に向けて流れる。この上記aの吸入空気の全量の排気側シリンダ壁12下方への流れが、上記bの吸入空気の残り半分の排気側シリンダ壁12上方への流れを打ち消すので、上記a及びbの吸入空気全体としては、排気側シリンダ壁12を下方に向けて流れる。
上記オ’の仮想の場合を、さらに数値で扱うため、上記aの吸入空気を1/2、上記bの吸入空気を1/2とすると、衝突後に上記aの吸入空気の全量である1/2が排気側シリンダ壁12の下方に向かう。衝突後に上記bの吸入空気の半分である1/4が排気側シリンダ壁12の上方に向かい、残り半分の1/4が排気側シリンダ壁12の下方に向かう。排気側シリンダ壁12の下方に向かう場合をプラス、排気側シリンダ壁12の上方に向かう場合をマイナスとして計算すると、1/2−1/4+1/4=1/2となる。つまり、上記オ’の仮想の場合には排気側シリンダ壁12の下方に向けて上記a+bの吸入空気全体の半分しか流れない。そこで、上記オ’の仮想の場合を、タンブル流が生成されるか否かの上方の境界であるとみなす。所定点1が、バルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気の直線と、排気側シリンダ壁12の縦線とのなす角度が90度となる点E(第1の点)にあることがタンブル流を生成させるための上方の条件であるとみなすのである。
上記オ’の仮想の場合には排気側シリンダ壁12の下方に向けて上記a+bの吸入空気全体の半分しか流れないのに対して、上記オの場合には排気側シリンダ壁12の下方に向けて流れる上記a+bの吸入空気全体が上記オ’の仮想の場合よりも多いと考えられる。しかしながら、ここでは、上記オ’の仮想の場合と上記オの場合を同一視し、上記オの場合を、タンブル流が生成されるか否かの上方の境界であるとみなす。この結果、クランク軸方向に直交する断面における、点Eから点Cまでの排気側シリンダ壁12の上の所定範囲における点1が所定点1であることになる。
ここまで、バルブシートレスの吸気ポートを有するエンジンについて、タンブル流を生成させるための下方の限界の条件と上方の条件をそれぞれ考えた。次にはバルブシートレスの吸気ポートを有するエンジンについて最も強いタンブル流が得られる場合とはどんな場合かを考える。図8に示したように、クランク軸方向に直交する断面において、タンブル中心TCを中心とする円(図8の一点鎖線参照)を描き、排気側シリンダ壁12の直線がこの円の接線となるようにする。一点鎖線で示した円の軌跡に沿ってタンブル流が左回りに生成されると仮想するわけである。実際には、燃焼室30の上下の形状の制約を受けるため、実際のタンブル流は上下方向に延びた楕円(図8の二点鎖線参照)の軌跡に沿う流れとなる。この場合、ストローク中心SCを通る水平線と排気側シリンダ壁12の直線(縦線)との交点、つまり点Aが二点鎖線で示した楕円への接点となる。言い換えると、排気側シリンダ壁12のうちの点Aは二点鎖線で示した楕円の短軸の一方の端(図8で左側)に対する接点である。短軸の他方の端(図8で右側)に対する接点をJとする。また、二点鎖線で示した楕円の長軸の一方の端(図8で下側)に対する接点をI、長軸の他方の端(図8で上側)に対する接点をKとする。ここで、図6,図7と同様に、図8もクランク軸方向に直交する断面で見た、燃焼室30に流れ込む吸入空気の流れを説明するための、エンジンの概略構成図である。
さて、4つの点A,I,J,Kが二点鎖線で示した楕円への接点となるのであるから、理論的には4つの点A,I,J,Kを楕円への接線方向に向けて上記a+bの吸入空気全体がそれぞれ流れるときに最も強いタンブル流が得られることとなる。この観点から、バルブシートレスの吸気ポート40を有するエンジンについて最も強いタンブル流が得られる場合とは、次の場合である。すなわち、最も強いタンブル流が得られる場合とは、図6で前述した上記イの場合である。つまり、所定点1が排気側シリンダ壁12の直線(縦線)と、タンブル中心TCがあるストローク中心SCを通る水平線とが交わる点である点Aにある場合である。
上記イの場合に最も強いタンブル流が得られる理由は、上記イの場合の上記a+bの吸入空気全体の挙動が、タンブル流を生成するのに最適な吸入空気の流れとほぼ一致するためである。すなわち、上記イの場合には、上記a+bの吸入空気全体が点Aに向かい点Aに到達するタイミングで最大の速度になる。しかも、上記a+bの吸入空気全体は、拡散するのではなくて点Aに向かって集められ一塊となる。この最大の速度を有しかつ一塊となった上記a+bの吸入空気全体は、点Aに衝突して流れる方向を変え排気側シリンダ壁12を下方に流れる。この場合、上記a+bの吸入空気全体は排気側シリンダ壁12に一塊で衝突するため、流れの勢いが衰えることがなく、大きな速度を維持したまま(つまり大きな運動エネルギーを保存したまま)排気側シリンダ壁12を流れ下る。このため、上記a+bの吸入空気全体は接点Aを、現状のエンジンよりも早い速度で、しかも流れの断面が塊状で楕円の接線方向に通過し、ピストン冠面15aに衝突する。このように、上記a+bの吸入空気全体が排気側シリンダ壁12を流れ始める当初に、上記a+bの吸入空気全体に大きな運動エネルギーが保存される。すると、上記a+bの吸入空気全体が、続いてピストン冠面15aに沿い吸気側シリンダ壁13に向かって流れるときにおいても、その後に吸気側シリンダ壁13を上方に流れるときにおいてもこの大きな運動エネルギーがあまり失われることなく保存されてゆく。すなわち、衝突した上記a+bの吸入空気全体は流れる方向を変え、ピストン冠面15aに沿い吸気側シリンダ壁13に向かって流れ、接点Iを楕円の接線方向に通過し、吸気側シリンダ壁13に衝突する。衝突した上記a+bの吸入空気全体は流れる方向を変え、今度は吸気側シリンダ壁13に沿う方向の上方へと流れ上がり、接点Jを楕円の接線方向に通過し、吸気側ルーフ26の壁面に衝突する。衝突した上記a+bの吸入空気全体は流れる方向を変え、吸気側ルーフ26の壁面に沿って流れ、排気側ルーフ27に衝突する。衝突した上記a+bの吸入空気全体は流れる方向を変え、シリンダ冠面15aに沿い吸気側シリンダ壁13に向かって流れる。こうして燃焼室30内の壁面を、大きな運動エネルギーを有する上記a+bの吸入空気全体が方向を変えつつ接点A,I,Jを楕円の各接線方向に通過して流れ(図8の太い矢印参照)、かつ接点Kの近くを吸入空気が流れることで、楕円の軌跡であるタンブル流が生成される。接点Kは空間の点であるため、上記a+bの吸入空気全体が接点を二点鎖線で示した楕円の接線方向に流れることはないので、図形上の楕円の軌跡を上記a+bの吸入空気全体が正確に辿ることはないのであるが、実用上は差し支えない程度に楕円状の軌跡を辿ることとなる。上記イの場合に点Aに到達するときに最大の速度になりかつ断面が塊状で流れの勢いを保持している上記a+bの吸入空気全体が、まずは点Aを二点鎖線で示した楕円の接線方向の下方に向けて流れることにより、最も強いタンブル流が得られることとなるのである。この点は、実際にシミュレーションを行って確認している。
具体的には、上記イの場合を図2に示した第1実施形態で示している。すなわち、クランク軸方向に直交する断面において、所定点1が点Aにくるように、シリンダヘッド20を鋳造する段階でバルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46を予め作成しておく。シリンダヘッド20の鋳造後には、前述したようにコールドスプレー法により、バルブ着座部として形成してある仮のシート面の基材の鋳物用アルミ合金よりも硬い膜をバルブシート層として形成する。すなわち、コールドスプレー法により、HeやN2を作動ガスとし、基材の鋳物用アルミ合金よりも硬質の金属粒子を、仮のシート面の基材に打ち込むことによって、基材の鋳物用アルミ合金よりも硬い膜をバルブシート層として形成する。このように、コールドスプレー法によってバルブシート層(硬質表面)をあらまし形成した後に、スロートカッターを用い、コールドスプレー法によってあらまし形成したバルブシート層を切削加工する。最後には切削加工した後のバルブシート層を研磨することによって、バルブシート41のシート面を仕様通り(寸法通り)に完成する。このように上記イの場合を第1実施形態に採用することで、バルブシートレスの吸気ポート40を有するエンジンについて、上記a+bの吸入空気全体の有する運動エネルギーを効率的に保存しつつ、最も強いタンブル流を得ることができる。
また、バルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46から流れ込む上記a+bの吸入空気全体の速度は、エンジンの運転条件によって相違する。ダウンサイジング化したエンジンにおいて、相対的に強いタンブル流を得たいのは上記のように大量のEGRガスを燃焼室30に導入するエンジンの高負荷域である。従って、エンジンの高負荷域に合わせて、排気側シリンダ壁12上の所定点1に向かう上記a+bの吸入空気全体の流れが狭まるように、バルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46を形成する。
ここで、第1実施形態の作用効果を説明する。
第1実施形態では、クランク軸に連結されるピストン15がシリンダ11を上下方向にストロークする。吸気側ルーフ26(吸気側のルーフ)に吸気ポート40が、排気側ルーフ27(排気側のルーフ)に排気ポート60がそれぞれ開口するペントルーフ型燃焼室30を備えている。前記吸気ポートの燃焼室への開口端に吸気バルブ50が着座するバルブシート41(第1バルブシート)を、前記排気ポートの燃焼室への開口端に排気バルブ70が着座するバルブシート61(第2バルブシート)をそれぞれ有している。吸気ポート下流端部42(吸気ポートの下流端部)から燃焼室30に流れ込む吸入空気によって燃焼室30内にタンブル流が生成される。以上のエンジンを前提として、クランク軸方向に直交する断面における、バルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46(第1バルブシートの直上部分の吸気ポート壁)が次のようになっている。すなわち、第1の点Eから第2の点Cまでの排気側シリンダ壁12の上の所定点1に向かって上記a+bの吸入空気全体(燃焼室に流れ込む吸入空気)の流れが狭まるように、バルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46を形成している。上記第1の点Eは、バルブシート直上部第2ポート壁46(シリンダ中心の反対側にある前記第1バルブシートの直上部分の吸気ポート壁)から流れ込む上記bの吸入空気の直線と、排気側シリンダ壁12の縦線とのなす角度が90度となる点である。上記第2の点Cは、排気側シリンダ壁12と下死点のピストン冠面15aとが交わる点である。第1実施形態によれば、燃焼室30内の空間を排気側シリンダ壁12の上の所定点1に向かって進む上記a+bの吸入空気全体の流れが上下方向に空間的に狭まることにより、上記a+bの吸入空気全体の速度が吸気ポート下流端部42を流れるときより大きくなる。排気側シリンダ壁12に到達するタイミングで上記a+bの吸入空気全体の速度が最大になるのである。しかも、上記a+bの吸入空気全体が排気側シリンダ壁12に向かって上下方向に集められることで一塊となる。そして、排気側シリンダ壁12に一塊で上記a+bの吸入空気全体が衝突するため勢いが大きく衰えるということがない。つまり、流れの断面が塊状の上記a+bの吸入空気全体が、大きな速度を維持した(つまり大きな運動エネルギーを保存した)まま排気側シリンダ壁12を流れ下る。これによって、従来技術のようにガイド板を設けることなく、上記a+bの吸入空気全体の速度増大分及び上記a+bの吸入空気全体が一塊となって流れの勢いが増す分だけ現状のエンジンよりタンブル流を強めることができる。
第1実施形態では、高負荷域に合わせて、排気側シリンダ壁12の上の所定点1に向かう上記a+bの吸入空気全体の流れが狭まるように、バルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46を形成している。これによって、ダウンサイジング化されたエンジンにおいて高負荷域で大量のEGRガスを導入しても、現状のエンジンより強めたタンブル流により高負荷域での燃焼を良好にしてノッキングの発生を抑制することができる。
第1実施形態では、クランク軸方向に直交する断面において、所定点1(排気側のシリンダ壁の上の所定範囲における点1)は、ピストンのストローク中心SCを通る水平線と排気側シリンダ壁12(排気側のシリンダ壁)とが交わる点である。このとき、排気側シリンダ壁12上にある所定点1が、タンブル流が作る楕円の接点となる。このため、所定点1で衝突した上記a+bの吸入空気全体は、流れる方向を変え、断面が塊状で流れの勢いを保持しつつ、流れの方向に連続する一本の筋となって、排気側シリンダ壁12を流れ下る。この断面が塊状で流れの勢いを保持しつつ、流れの方向に連続する一本の筋となって、排気側シリンダ壁12を流れ下る上記a+bの吸入空気全体が、楕円の接線方向に向けて流れる。これによって、上記a+bの吸入空気全体の有する運動エネルギーを効率的に保存しつつ、最も強いタンブル流の一つを得ることができる。
なお、ここまでで第1実施形態の図4は説明していない。第1実施形態の図4は、第6実施形態で図15を説明した後に、第6実施形態の図15との対比で説明する。
(第2〜第5の実施形態)
図9,図10,図11,図12は第2,第3,第4,第5の実施形態で、第1実施形態の図2と置き換わるものである。図9〜図12において図2と同一の部分には、同一の符号を付している。
第1実施形態では、クランク軸方向に直交する断面においてバルブシート直上部第1ポート壁44及びこれに隣接する吸気ポート上側壁40aが直線であり、隣接する2つの直線が一つの直線を構成しているとした。同様に、クランク軸方向に直交する断面においてバルブシート直上部第2ポート壁46及びこれに隣接する吸気ポート下側壁40bが直線であり、隣接する2つの直線が一つの直線を構成しているとした。このため、吸気ポート上側壁40aの直線と吸気ポート下側壁40bの直線とは上流に向けて広がっている。
一方、第2〜第5の実施形態は第1実施形態のバルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46のバリエーションである。第2〜第5の実施形態において、バルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46の各直線の傾きは、第1実施形態と同じである。一方、第2〜第5の各実施形態では、バルブシート直上部第1ポート壁44に隣接する吸気ポート上側壁40aの直線の傾きが、またはバルブシート直上部第2ポート壁46に隣接する吸気ポート下側壁40bの直線の傾きが、第1実施形態と相違する。すなわち、図9に示した第2実施形態では、バルブシート直上部第1ポート壁44の直線に対して、これに隣接する吸気ポート上側壁40aの直線の傾きが緩やかとなっている。そして、当該吸気ポート上側壁40aの直線と吸気ポート下側壁40bとは平行になっている。
図10に示した第3実施形態では、バルブシート直上部第2ポート壁46の直線に対して、これに隣接する吸気ポート下側壁40bの直線の傾きが急となっている。そして、当該吸気ポート下側壁40bの直線と吸気ポート上側壁40aとは平行になっている。
図11に示した第4実施形態では、バルブシート直上部第1ポート壁44の直線に対して、これに隣接する吸気ポート上側壁40aの直線の傾きが緩やかとなっている。また、第4実施形態では、バルブシート直上部第2ポート壁46の直線に対して、これに隣接する吸気ポート下側壁40bの直線の傾きが緩やかとなっている。そして、吸気ポート上側壁40aと吸気ポート下側壁40bの直線とは平行になっている。
図12に示した第5実施形態では、バルブシート直上部第1ポート壁44の直線に対して、これに隣接する吸気ポート上側壁40aの直線の傾きが急となっている。また、第5実施形態では、バルブシート直上部第2ポート壁46の直線に対して、これに隣接する吸気ポート下側壁40bの直線の傾きが急となっている。そして、吸気ポート上側壁40aと吸気ポート下側壁40bの直線とは平行になっている。
このように、バルブシート直上部第1ポート壁44の直線とこれに隣接する吸気ポート上側壁40aの直線とを折れ線とする理由は、次の通りである。すなわち、排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む上記aの吸入空気の流れの方向は当該吸入空気をガイドするバルブシート直上部第1ポート壁44によって定まるのであって、これに隣接する吸気ポート上側壁40aによっては定まらないためである。同様に、バルブシート直上部第2ポート壁46の直線とこれに隣接する吸気ポート下側壁40bの直線とを折れ線とする理由は、次の通りである。すなわち、排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む上記bの吸入空気の流れの方向は当該吸入空気をガイドするバルブシート直上部第2ポート壁46によって定まるのであって、これに隣接する吸気ポート下側壁40bによっては定まらないためである。
第2〜第5の実施形態では、クランク軸方向に直交する断面において吸気ポート上側壁40a及び吸気ポート下側壁40bが直線である場合を記載したが、これに限られるものでない。吸気ポート上側壁40aや吸気ポート下側壁40bが曲線である場合であってよい。
第2〜第5の実施形態でも、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
(第6実施形態)
図13,図14,図15は第6実施形態で、第1実施形態の図2,図3,図4と置き換わるものである。図13〜図15において図2〜図4と同一の部分には、同一の符号を付している。第6実施形態でも、エンジン1が車両に対して縦に置かれる場合であるとする。このとき、図15において左側がフロント側、右側がリヤ側となる。もちろん、第6実施形態も縦置きエンジンの場合に限定されるものでない。
第1実施形態では、クランク軸方向に直交する断面についてのみ吸気ポート下流端部42を考察し、点Aに向かう上記a+bの吸入空気全体の流れが空間的に上下方向に狭まるように、バルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46を形成した。一方、第6実施形態は、クランク軸方向に直交する断面ではなく、すぐ後で述べるように、シリンダ円断面についてのみ吸気ポート下流端部42を考察するものである。
第6実施形態ではクランク軸方向に直交する断面での上記a+bの吸入空気全体の挙動が第1実施形態と相違する。これについて先に説明すると、第6実施形態においても、バルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46から流れ込む上記a及びbの吸入空気は、速度が相対的に大きいために排気側シリンダ壁12に向かって直進すると仮定する。そして、直進する上記a及びbの各吸入空気を直線(図13の細破線)で表すとする。このとき、バルブシート直上部第1ポート壁44から流れ込む上記aの吸入空気の直線が、第1及び第2のポート下流端部43及び45から排気側燃焼室30aに向かって流れ込む上記a+bの吸入空気全体の上側の境界fupを定める。一方、バルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気の直線が、第1及び第2のポート下流端部43及び45から排気側燃焼室30aに向かって流れ込む上記a+bの吸入空気全体の下側の境界fdwnを定める。
図13に示したように、バルブシート直上部第1ポート壁44から流れ込む上記aの吸入空気が、燃焼室30内の空間を進み排気側シリンダ壁12上の点(この点を「B1」とする)に向かい衝突する。一方、バルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気は、燃焼室30内の空間を進み排気側シリンダ壁12上の点(この点を「B2」とする)に向かい衝突する。このように、バルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46から流れ込む上記a+bの吸入空気全体は、空間的に上下方向に拡がりを持ったまま進み、排気側シリンダ壁12上で上下方向に離れた点B1から点B2までの範囲に分布して衝突する。
第1実施形態の図2との比較のため、バルブシート直上部第1ポート壁44から流れ込む上記aの吸入空気の直線と、バルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気の直線とは、平行であるとする。そして、2つの点B1と点B2の間に、第1実施形態の所定点1(点A)があるものとする。ここで、上側の境界fupの直ぐ下を流れる吸入空気、下側の境界fdownの直ぐ上を流れる吸入空気を破線矢印で示す。また、点B1と点B2の間の排気側シリンダ壁12に向かい衝突する吸入空気があるので、点B1から点Aまでの間に点B3を、点Aから点B2までの間に点B4を代表として採り、これら2つの点B3,B4及び点Aに衝突する各吸入空気を同じく破線矢印で示す。このように、第6実施形態では、クランク軸方向に直交する断面において、排気側シリンダ壁12に向かう上記a+bの吸入空気全体の流れが空間的に上下方向に狭まるようにはしていない。前述のように、クランク軸方向に直交する断面において、バルブシート直上部第1ポート壁44から流れ込む上記aの吸入空気の直線と、バルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気の直線との交点を「所定点1」で定義した。このため、クランク軸方向に直交する断面を示す図13の2つの点B1とB2は所定点1ではない。しかしながら、後述するように図13の2つの点B1とB2はシリンダ円断面で定義される所定点2となる。
なお、図13には、第1実施形態の図2との比較のため、バルブシート直上部第1ポート壁44から流れ込む上記aの吸入空気の直線と、バルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気の直線とが平行である場合を示した。しかしながら、バルブシート直上部第1ポート壁44から流れ込む上記aの吸入空気の直線と、バルブシート直上部第2ポート壁46から流れ込む上記bの吸入空気の直線とが平行である場合に、第6実施形態が限定されるものでない。また、排気側シリンダ壁12上の点B1から点B2までの間に点Aがある場合に限定されるものでない。例えば排気側シリンダ壁12上の点B1及び点B2が2つとも点Aの上にあったり、この逆に排気側シリンダ壁12上の点B1及び点B2が2つも点Aの下にあったりしてもかまわない。
さて、第6実施形態においても、吸気バルブのバルブシート部品を圧入しないで、コールドスプレー法を用いて吸気バルブ60のバルブシート41を形成する(バルブシートレスのエンジンとする)ことによって、吸気ポート下流端部42の形状の自由度が増す。そこで、第6実施形態では、クランク軸方向に直交する断面とは別の断面についての吸気ポート下流端部42の形状を考える。
図15は円筒状のシリンダ11及びこのシリンダ11の上方に位置する吸気ポート40の下流側を、紙面の手前側である排気側から紙面の向こう側である吸気側に向かって紙面手前の斜め上から透視して見た第6実施形態の概略斜視図である。円筒状のシリンダ11の紙面手前側の半分が排気側燃焼室30a、紙面向こう側の半分が吸気側燃焼室30bである。当該概略斜視図では、シリンダ11の円筒状の側壁を水平方向に切断して見ていることに相当するので、この切断面を、以下単に「シリンダ円断面」という。このとき、図15はシリンダ円断面で見た概略斜視図となる。図15に示した概略斜視図において、シリンダ円断面における紙面手前側を排気側、シリンダ円断面における紙面向こう側を吸気側とする方向を新たに「吸排気方向」で定義する。なお、図15に「吸排気方向」を記載しているが、これは、シリンダ11の上下方向をいうのではない。あくまで、排気ポート70の下流側端(図示しない)がある側を紙面手前側とし、吸気ポート40の下流側端42がある側を紙面向こう側とする方向のことを意図させている。このようにシリンダ円断面における「吸排気方向」を定義するとき、図15において右側がリヤ側、左側がフロント側に、つまり左右方向がクランク軸方向になる。
第6実施形態では、シリンダ円断面についての吸気ポート下流端部42の形状を検討する。シリンダ円断面についての吸気ポート下流端部42を図15に示したようにフロント側とリヤ側とで区別する。以下、フロント側の吸気ポート下流端部47を「第3ポート下流端部」、リヤ側の吸気ポート下流端部49を「第4ポート下流端部」という。つまり、シリンダ円断面についての吸気ポート下流端部42は、第3ポート下流端部47及び第4ポート下流端部49(以下「第3及び第4のポート下流端部47及び49」ともいう。)で構成される。すると、吸気バルブのバルブシート部品を圧入しないで、コールドスプレー法を用いて吸気バルブ60のバルブシート41を形成する第6実施形態では、第3及び第4のポート下流端部47及び49の形状の自由度が増す。そこで、現状のエンジンより強いタンブル流を得るための具体的な第3及び第4のポート下流端部47及び49の形状はどうあるべきかを、図15を参照して理論的に考察する。
図15において、各吸気ポート40,40の第3及び第4のポート下流端部47及び49はそれぞれバルブシート41の直上にあってバルブシート41に隣接している。以下では、バルブシート41の直上部分の吸気ポート壁のうち、フロント側(図15で左側)と、リヤ側(図15で右側)とで区別する。フロント側のバルブシート41の直上部分の吸気ポート壁48を、「バルブシート直上部第3ポート壁」という。一方、リヤ側のバルブシート41の直上部分の吸気ポート壁50を、「バルブシート直上部第4ポート壁」という。
タンブル流の生成に特に強く影響するのは、図15に示したように、バルブシート直上部第3ポート壁48及びバルブシート直上部第4ポート壁50(以下「バルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50」ともいう。)の形状である。この理由は次の通りである。すなわち、ここでは、各吸気ポート40,40から排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む吸入空気を、次のg,hのようにおおよそ2つの部分に分けて考える。
g:上流から各吸気ポート40,40のフロント側壁(以下「吸気ポートフロント側 壁」という。)40cに沿って流れてくる吸入空気であって、上流から各吸気ポート 40,40の中心よりフロント側を流れてくる吸入空気、
h:上流から各吸気ポート40,40のリヤ側壁(以下「吸気ポートリヤ側壁」とい う。)40dに沿って流れてくる吸入空気であって、上流から各吸気ポート40, 40の中心よりリヤ側を流れてくる吸入空気、
各吸気ポートに40,40ついて全体のほぼ半分である上記gの吸入空気が、バルブシート直上部第3ポート壁48にガイドされて排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む。各吸気ポートに40,40ついて全体の残りほぼ半分である上記hの吸入空気が、バルブシート直上部第4ポート壁50にガイドされて排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む。このように、各吸気ポートに40,40ついて上記g及びhを合わせた吸入空気全体の挙動が、バルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50の形状によって定まるためである。
以下、各吸気ポート40,40から排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む吸入空気を上記gの吸入空気と上記hの吸入空気との2つに分ける場合で説明するが、この場合に限定されるものでない。例えば、各吸気ポート40,40から排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む吸入空気を、次のl,m,nのようにおおよそ3つの部分に分けて考える。
l:上流から各吸気ポート40,40の吸気ポートフロント側壁40cに沿って流れて くる吸入空気、
m:上流から各吸気ポート40,40の吸気ポートリヤ側壁40dに沿って流れてくる 吸入空気、
n:上記l及びmの除く残りの吸入空気、つまり上流から各吸気ポート40,40の中 心側を流れてくる大部分の吸入空気、
各吸気ポート40,40から上記lの吸入空気が、バルブシート直上部第3ポート壁48にガイドされ排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む。各吸気ポート40,40から上記mの吸入空気が、バルブシート直上部第4ポート壁50にガイドされ排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む。上記nの吸入空気は各吸気ポート40,40から上記lの吸入空気と上記mの吸入空気に挟まれた状態で排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む。このように、各吸気ポート40,40から排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む吸入空気を3つに分けた場合で合っても、上記l〜nを合わせた吸入空気全体の挙動が、バルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50の形状によって定まるためである。
図15においては、シリンダ11の上面14を一番上に実線の楕円で、下死点BDCにあるときのピストン冠面15aを一番下に実線の楕円でそれぞれ記載している。また、図13で点Aを通る水平面とシリンダ11の壁面とが交わる線を、図15においては上下方向の中央に二点鎖線の楕円で記載している。この二点鎖線の楕円の中心を水平方向に走る一点鎖線の直線がタンブル中心TCである。また、図13で点Aより上下方向に離れた2つの点B1,B2を通る各水平面とシリンダ11の壁面とが交わる線を、図15においては二点鎖線の楕円より少し離れた上下の各位置に一点鎖線の楕円でそれぞれ記載している。図15では、図13に示した排気側シリンダ壁12上の5つの点(A,B1,B2,B3,B4,C)がフロント側とリヤ側に2つ出現する。このため、リヤ側に位置する5つの点(A,B1,B2,B3,B4,C)を改めて点「A1」,「B11」,「B21」,「B31」,「B41」,「C1」として区別する。また、フロント側に位置する5つの点(A,B1,B2,B3,B4,C)を改めて点「A2」,「B12」,「B22」,「B32」,「B42」,「C2」として区別する。
図15では紙面向こう側の左右方向(クランク軸方向)に2つの吸気ポート40,40があり、各吸気ポート40,40から紙面手前側の排気側シリンダ壁12に向けて吸入空気が流れ込む。2つの吸気ポート40,40から排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む各吸入空気の挙動は同様であるので、ここではリヤ側(図15で右側)の吸気ポート40から排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む吸入空気のみの挙動を説明する。
バルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50は、図14にも示したように吸気ポート40の断面でみたとき円筒壁の一部を構成している。ここでは、特にシリンダ円断面で考える。図15に示したようにシリンダ円断面においてバルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50が直線であるとする。バルブシート直上部第3ポート壁48を直線とする理由は、上記gの吸入空気が、この場合に運動エネルギーの損耗となる剥離や乱れを生じることなく流れるためである。バルブシート直上部第4ポート壁50を直線とする理由は、上記hの吸入空気が、この場合に運動エネルギーの損耗となる剥離や乱れを生じることなく流れるためである。なお、話を簡単にするため、シリンダ円断面においてバルブシート直上部第3ポート壁48に隣接する吸気ポートフロント側壁40cも直線であり、隣接する2つの直線は一つの直線を構成しているものとする。同様に、シリンダ円断面においてバルブシート直上部第4ポート壁50に隣接する吸気ポートリヤ側壁40dも直線であり、隣接する2つの直線は一つの直線を構成しているものとする。
ここで、バルブシート直上部第3ポート壁48から流れ込む上記gの吸入空気及びバルブシート直上部第4ポート壁50から流れ込む上記hの吸入空気は、速度(流速)が相対的に大きいために排気側シリンダ壁12に向かって直進すると仮定する。以下、バルブシート直上部第3ポート壁48から流れ込む上記gの吸入空気及びバルブシート直上部第4ポート壁50から流れ込む上記hの吸入空気全体を「第3及び第4のポート下流端部48及び50から流れ込む上記g+hの吸入空気全体」ともいう。あるいは、単に「上記g+hの吸入空気全体」ともいう。そして、直進する上記g及びhの各吸入空気を直線(図15の細破線)で表すとする。このとき、バルブシート直上部第3ポート壁48から流れ込む上記gの吸入空気の直線が、第3及び第4のポート下流端部47及び49から流れ込む上記g+hの吸入空気全体のフロント側の境界ffrを定める。一方、バルブシート直上部第4ポート壁50から流れ込む上記hの吸入空気の直線が、第3及び第4のポート下流端部47及び49から流れ込む上記g+hの吸入空気全体のリヤ側の境界frrを定める。
この場合に、第6実施形態では、バルブシート直上部第3ポート壁48から流れ込む上記gの吸入空気の直線と、バルブシート直上部第4ポート壁50から流れ込む上記hの吸入空気の直線との交点が排気側シリンダ壁12の上にくるようにする。以下、バルブシート直上部第3ポート壁48から流れ込む上記gの吸入空気の直線と、バルブシート直上部第4ポート壁50から流れ込む上記hの吸入空気の直線との交点を「所定点2」という。このように、所定点2は、所定点1と相違して、シリンダ円断面で定義される値である。このため、図15において所定点2は、一つの点ではなく、点B11から点B21までの線分を意味することとなる。このようにすると、第3及び第4のポート下流端部47及び49から流れ込む上記g+hの吸入空気全体は、燃焼室30の空間内でありながら、あたかも縮小管を流れるかのように、クランク軸方向に空間的に狭まりつつ排気側シリンダ壁12に向かって流れる。ここで、図15には、燃焼室30内の空間を進む、フロント側の境界ffrの直ぐ右を流れる吸入空気と、リヤ側の境界frrの直ぐ左を流れる吸入吸気を破線矢印でそれぞれ示している。これより、第3及び第4のポート下流端部47及び49から流れ込む上記g+hの吸入空気全体が、燃焼室30内の空間をクランク軸方向(図15で左右方向)に狭まりつつ流れることが分かる。このように、クランク軸方向に空間的に狭まりつつ排気側シリンダ壁12に向かって流れる上記g+hの吸入空気全体を解析したとき、周囲に管壁を有していないにも拘わらず、上記g+hの吸入空気全体の速度が徐々に大きくなる。そして、排気側シリンダ壁12上の所定点2(点B11から点B21までの範囲)に到達するタイミングで第3及び第4のポート下流端部47及び49から流れ込む上記g+hの吸入空気全体の速度が最大になるのである。しかも、排気側シリンダ壁12上の一箇所に第3及び第4のポート下流端部47及び49から流れ込む上記g+hの吸入空気全体が寄り集まることによって流れの勢いが増す。そして、所定点2で上記g+hの吸入空気全体の速度が最大となりかつ一箇所に寄り集まって勢いを増す分だけ、吸気ポート下流端部42を通過するときの吸入空気の速度のままである場合よりタンブル流が強化されることを本発明者が新たに見出したわけである。この場合、クランク軸方向に空間的に狭まりつつ排気側シリンダ壁12に向かって流れる上記g+hの吸入空気全体に対して、周囲に管壁を有する場合の吸入空気の流れと同じにベルヌイの式が当てはまることとなる。
上記の所定点2が排気側シリンダ壁12の上にくるようにする理由は、次の通りである。すなわち、所定点2で排気側シリンダ壁12に向かう上記g+hの吸入空気全体の流れの断面積が最も小さくなり、流れの断面積が最も小さくなるときに上記g+hの吸入空気全体の速度が最も大きくなる。排気側シリンダ壁12に衝突した上記g+hの吸入空気全体は流れる方向を変え排気側シリンダ壁12に沿い下方に向けて流れるのであるが、この排気側シリンダ壁12に沿って流れる上記g+hの吸入空気全体の速度が最も大きくなるようにするためである。
上記のように、バルブシート直上部第3ポート壁48から流れ込む上記gの吸入空気及びバルブシート直上部第4ポート壁50から流れ込む上記hの吸入空気をそれぞれ直線で仮定すれば、理論上、上記の所定点2で上記g+hの吸入空気全体の流れの断面積は最小のゼロとなる。しかしながら、実際には排気側シリンダ壁12に向かう上記g+hの吸入空気全体の流れの断面積をゼロにすることは物理的にできない。このため、上記の所定点2で上記g+hの吸入空気全体気の流れの断面積ができるだけ小さくなるように、バルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50の形状と、2つのバルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50の位置関係を定める。
吸気行程で吸気バルブ60が下方にリフトしているときに、ピストン15が下死点BDCまで下降することによって、燃焼室30内の圧力が吸気ポート40内より低くなる。この圧力差によって吸気ポート40内の吸入空気が排気側シリンダ壁12に向けて引き込まれる。図15においては、バルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50から流れ込む上記g+hの吸入空気全体は、排気側シリンダ壁12上の所定点2に向かい衝突する。この場合、上記g+hの吸入空気全体が所定点2に到達するタイミングで上記g+hの吸入空気全体の速度が最大となる。しかも、上記g+hの吸入空気全体の流れがクランク軸方向に狭まることで上記g+hの吸入空気全体がクランク軸方向の一箇所に集合して一塊となる。このため、上記g+hの吸入空気全体が所定点2に衝突しても、上記g+hの吸入空気全体の流れの勢いを大きくは失わない。この場合に、上記の所定点2は上下方向の点B11から点B22までの線分(直線部分)であるので、上記g+hの吸入空気全体は点B11から点B21までの直線部分に分布して衝突する。排気側シリンダ壁12上の上下方向の点B11から点B21までの直線部分に分布して衝突した上記g+hの吸入空気全体は流れる方向を変える。この場合、点B11から点B21までの直線部分は上下方向にあり、上記g+hの吸入空気全体が排気側シリンダ壁12に衝突し、向きを変えて流れる方向と一致している。このため、排気側シリンダ壁12に衝突した上記g+hの吸入空気全体は、断面が塊状で流れの勢いを保持しつつ、流れの方向に連続する一本の筋となって排気側シリンダ壁12を下方へと流れ下る。この排気側シリンダ壁12の下方へと流れ下る上記g+hの吸入空気全体は点C1でピストン冠面15aに衝突する。
ピストン冠面15aに衝突した、断面が塊状で流れの勢いを保持する上記g+hの吸入空気全体は流れる方向を変え、ピストン冠面15aに沿い吸気側シリンダ壁13に向かって流れる。そのあとに吸気下死点BDCを経てピストン15が上死点TDCへと上昇する。このピストン15の上動を受け、吸気側シリンダ壁13に向かっていた、断面が塊状で流れの勢いを保持する上記g+hの吸入空気全体の流れが吸気側シリンダ壁13の上方へと変わる。吸気側シリンダ壁13を上方に流れる、断面が塊状で流れの勢いを保持する上記g+hの吸入空気全体は吸気側ルーフ26に衝突する。吸気側ルーフ26に衝突した、断面が塊状で流れの勢いを保持する上記g+hの吸入空気全体は流れる方向を変え排気側ルーフ27へと流れる。このようにして、燃焼室30の内部にタンブル流が生成される。このように、所定点2に衝突し排気側シリンダ壁12を流れ下る上記g+hの吸入空気全体は、断面が塊状で流れの勢いを保持するので、ピストン冠面15a上においてや吸気側シリンダ壁13上においても流れの勢いが衰えることなくよく保存される。
第6実施形態の図15と対応するのは、第1実施形態の図4である。図4では、図2に示した点A,Cがフロント側とリヤ側に2つ出現する。このため、リヤ側の点A,Cを改めて点「A1」,「C1」、フロント側の点A,Cを改めて点「A2」,「C2」として区別する。
図4に示す第1実施形態でも、紙面の向こう側の左右方向(クランク軸方向)に2つの吸気ポート40,40があり、各吸気ポート40,40から紙面の手前側の排気側シリンダ壁12に向けて上記a+bの吸入空気全体が流れ込む。2つの吸気ポート40,40から排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む吸入空気の挙動は同様であるので、ここでも、リヤ側(図4で右側)の吸気ポート40から排気側シリンダ壁12に流入する吸入空気のみの挙動を説明する。
バルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50は、図3にも示したように吸気ポート40の断面でみたとき円筒壁の一部を構成している。ここでは、特にシリンダ円断面で考える。図4に示したようにシリンダ円断面においてバルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50が直線であるとする。バルブシート直上部第3ポート壁48を直線とする理由は、上記gの吸入空気が、この場合に運動エネルギーの損耗となる剥離や乱れを生じることなく流れるためである。バルブシート直上部第4ポート壁50を直線とする理由は、上記hの吸入空気が、この場合に運動エネルギーの損耗となる剥離や乱れを生じることなく流れるためである。なお、話を簡単にするため、シリンダ円断面においてバルブシート直上部第3ポート壁48に隣接する吸気ポートフロント側壁40cも直線であり、隣接する2つの直線は一つの直線を構成しているものとする。同様に、シリンダ円断面においてバルブシート直上部第4ポート壁50に隣接する吸気ポートリヤ側壁40dも直線であり、隣接する2つの直線は一つの直線を構成しているものとする。
ここで、バルブシート直上部第3ポート壁48から流れ込む上記gの吸入空気及びバルブシート直上部第4ポート壁50から流れ込む上記hの吸入空気は、速度(流速)が相対的に大きいために排気側シリンダ壁12に向かって直進すると仮定する。そして、直進する上記g及びhの各吸入空気を直線(図4の細破線)で表すとする。このとき、バルブシート直上部第3ポート壁48から流れ込む上記gの吸入空気の直線が、第3及び第4のポート下流端部47及び49から流れ込む上記g+hの吸入空気全体のフロント側の境界ffrを定める。一方、バルブシート直上部第4ポート壁50から流れ込む上記hの吸入空気の直線が、第3及び第4のポート下流端部47及び49から排気側燃焼室30aに向かって流れ込む上記g+hの吸入空気全体のリヤ側の境界frrを定める。ここまでは、第6実施形態と同様である。
次に、第6実施形態の図15との違いを説明する。第1実施形態では、バルブシート直上部第3ポート壁48から流れ込む上記gの吸入空気の直線と、バルブシート直上部第4ポート壁50から流れ込む上記hの吸入空気の直線とが排気側シリンダ壁12に衝突するまで平行な関係を保つものとしている。このため、バルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50から流れ込む上記g+hの吸入空気全体はクランク軸方向に離れた排気側シリンダ壁12上の点A1から点A2までの円弧部分に分布して衝突する。これより、クランク軸方向に直交する断面を示す図2の点A(図4の点A1,A2)は所定点1であったが、シリンダ円断面を示す図4の点A1,A2は、第6実施形態において定義した所定点2ではない。
ここで、フロント側の境界ffrの直ぐ右を流れる吸入空気、リヤ側の境界frrの直ぐ左を流れる吸入空気を破線矢印で示す。また、点A1から点A2までの円弧部分の排気側シリンダ壁12に衝突する吸入空気があるので、点A1から点A2までの円弧部分に、点A3,A4,A5の3つの点を代表として採り、3つの点A3,A4,A5に衝突する各吸入空気を同じく破線矢印で示す。このように、第1実施形態ではシリンダ円断面において、燃焼室30内の空間で吸入空気の流れがクランク軸方向に空間的に狭まっていない。このため、バルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50から流れ込む上記g+hの吸入空気全体は、排気側シリンダ壁12上でクランク軸方向に離れた点A1から点A2までの円弧部分に分布して衝突するのである。
排気側シリンダ壁12上で点A1から点A2までの円弧部分に分布して衝突した上記g+hの吸入空気全体は流れる方向を変え排気側シリンダ壁12の下方へと流れ、点C1から点C2までの円弧部分に分布してピストン冠面15aに衝突する。
ここで、フロント側の境界ffrの直ぐ右を流れる吸入空気のその後の動きも破線矢印で示す。すなわち、フロント側の境界ffrの直ぐ右を流れる吸入空気は、排気側シリンダ壁12に衝突した後に流れる方向を変えて排気側シリンダ壁12を流れ下り点C1の直ぐ右に衝突する。同様に、リヤ側の境界frrの直ぐ左を流れる吸入空気のその後の動きも破線矢印で示す。すなわち、リヤ側の境界frrの直ぐ左を流れる吸入空気は、排気側シリンダ壁12に衝突した後に流れる方向を変えて排気側シリンダ壁12を流れ下り点C2の直ぐ左に衝突する。また、点A1から点A2までの円弧部分の排気側シリンダ壁12に衝突した吸入空気のその後の動きも破線矢印で示す。すなわち、点A3,A4,A5に衝突した吸入空気は、流れる方向を変えて排気側シリンダ壁12を流れ下り、ピストン冠面15a上の点C3,C4,C5に衝突する。
このように、シリンダ円断面においては、燃焼室30内の空間で上記g+hの吸入空気全体の流れがクランク軸方向に空間的に狭まっていない。このため、バルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50から流れ込む上記g+hの吸入空気全体は、排気側シリンダ壁12上でクランク軸方向に離れた点A1から点A2までの円弧部分に分布して衝突し、分布したまま流れ下る。そして、ピストン冠面15a上でも点C1から点C2までの円弧部分に分布して衝突するのである。
ピストン冠面15a上で点C1から点C2までの円弧部分に分布して衝突した上記g+hの吸入空気全体は流れる方向を変え、ピストン冠面15aに沿い、所定の幅をもって吸気側シリンダ壁13に向かって流れる。そのあとに吸気下死点BDCを経てピストン15が上死点TDCへと上昇する。このピストン15の上動を受け、上記吸気側シリンダ壁13に向かっていた、上記g+hの吸入空気全体の所定の幅を有する流れが吸気側シリンダ壁13の上方へと変わる。吸気側シリンダ壁13を上方に所定の幅をもって流れる上記g+hの吸入空気全体は吸気側ルーフ26に衝突する。吸気側ルーフ26に衝突した上記g+hの吸入空気全体は流れる方向を変え排気側ルーフ27へと流れる。このようにして、燃焼室30の内部にタンブル流が生成される。第1実施形態では、シリンダ円断面において、タンブル流が第6実施形態のように一本の流れではなくクランク軸方向に所定の幅を有する流れとなる。しかしながら、前述したようにクランク軸方向に直交する断面においては、上記a+bの吸入空気全体の流れが空間的に狭まることで吸入空気の速度が増しかつ排気側シリンダ壁12上の点Aに上記a+bの吸入空気全体が寄り集まることによって流れの勢いが増す。これによって、全体としては、タンブル流が現状のエンジンよりも強化されるのである。これで、図4の説明を終える。
シリンダ円断面を示す図15では、点B11から点B21までの直線部分(以下、「B1,B2」で略記する。)である上記所定点2の位置がリヤ側に偏った位置にある場合を記載したが、図15の場合に限定されるものでない。これについて説明すると、例えば、図16に1つのシリンダ11を、シリンダヘッド20の真上から透視した、第6実施形態の他の例の一部拡大概略平面図を示す。当該概略平面図でも、シリンダ11の円筒状の側壁を水平方向に切断して見ているので、この切断面を、以下単に「シリンダ円断面」という。このとき、図16はシリンダ円断面で見た概略平面図となる。図16においては、シリンダ円断面における左右方向が吸排気方向となり、点Gから点Hまでの左側半円部分(矢印参照)が排気側シリンダ壁12となる。ここで、点G及びHは、クランク軸方向と平行なシリンダ11の中心を通る線とシリンダ11の円との各交点である。この場合に、左側半円部分である排気側シリンダ壁12上の任意の位置に所定点2(B1,B2)があればよい。言い換えると、シリンダ円断面における、吸排気方向の排気側シリンダ壁12の上の所定範囲における点2が所定点2であることになる。例えば、所定点2の採り得る位置を具体的に示すと、次のカ、キ、クの3つの場合を図16に重ねて示している。
カ:所定点2が、クランク軸方向に直交しシリンダ11の中心を通る線(この線を以下 「クランク軸方向直交シリンダ中心線」という。)CL上にある場合、
キ:所定点2がクランク軸方向直交シリンダ中心線CLよりリヤ側に偏っている場合、
ク:所定点2がクランク軸方向直交シリンダ中心線CLよりフロント側に偏っている場 合、
簡単のため、図16には一つのシリンダ当たり一つの吸気ポート40を有するエンジンの場合を示しているが、一つのシリンダ当たり2つの吸気ポート40,40を有するエンジンの場合も同様である。
ここで、第6実施形態の作用効果を説明する。
第6実施形態では、第1実施形態が前提としたエンジンと同じエンジンを前提として、シリンダ円断面における、バルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50(第1バルブシートの直上部分の吸気ポート壁)が次のようになっている。すなわち、シリンダ円断面において排気側シリンダ壁12(排気側のシリンダ壁)の上の所定点2に向かって燃焼室30に流れ込む吸入空気の流れが狭まるように、バルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50を形成している。第6実施形態によれば、燃焼室内の空間を排気側シリンダ壁12上の所定点2に向かって進む上記g+hの吸入空気全体の流れがクランク軸方向に空間的に狭まることにより、上記g+hの吸入空気全体の速度が吸気ポート下流端部42を流れるときより大きくなる。排気側シリンダ壁12に到達するタイミングで上記g+hの吸入空気全体の速度が最大になるのである。しかも、上記g+hの吸入空気全体が排気側シリンダ壁12に向かってクランク軸方向に集められることで一塊となる。そして、排気側シリンダ壁12に一塊で上記g+hの吸入空気全体が衝突するため勢いが大きく衰えるということがない。つまり、流れの断面が塊状の上記g+hの吸入空気全体が、大きな速度を維持した(つまり大きな運動エネルギーを保存した)まま排気側シリンダ壁12を流れ下る。これによって、従来技術のようにガイド板を設けることなく、上記g+hの吸入空気全体の速度増大分及び上記g+hの吸入空気全体が一塊となって流れの勢いが増す分だけ現状のエンジンよりタンブル流を強めることができる。
(第7実施形態)
図17,図18は1つのシリンダ11を、シリンダヘッド20の真上から透視した、第7実施形態の一部拡大概略平面図である。第6実施形態の図15,図16と同一部分には同一の符合を付している。
第7実施形態でも、シリンダ円断面における吸気ポート40,40の形状は第6実施形態と同様である。すなわち、第7実施形態でも、シリンダ円断面においてバルブシート直上部第3ポート壁48及びこれに隣接する吸気ポートフロント側壁40cが直線であり、隣接する2つの直線が一つの直線を構成しているとする。同様に、シリンダ円断面においてバルブシート直上部第4ポート壁50及びこれに隣接する吸気ポートリヤ下側壁40dが直線であり、隣接する2つの直線が一つの直線を構成しているとする。このため、図17に示したように、吸気ポートフロント側壁40cの直線と吸気ポートリヤ側壁40dの直線とは上流(図17では右方)に向けて広がっている。
第6実施形態では図15に示す斜視図においてシリンダ円断面における「吸排気方向」を定義したが、上下方向にクランク軸方向を採っている図17においても、シリンダ円断面における「吸排気方向」を定義する。すなわち、図17に示す平面図においてシリンダ円断面における右側を吸気側、シリンダ円断面における左側を排気側とする方向を「吸排気方向」で定義する。このように定義したシリンダ円断面における「吸排気方向」は、後述する第8実施形態以降(図18〜図33)について同じ意味で用いる。
図15に示す第6実施形態では、左右方向(クランク軸方向)に2つの吸気ポート40,40があるものの、リヤ側の吸気ポート40から排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む吸入空気のみの挙動について考えた。一方、図17,図18に示す第7実施形態では、リヤ側の吸気ポート40から流れ込む吸入空気及びフロント側の吸気ポート40から流れ込む吸入空気の2つの吸入空気の挙動について考える。
ここで、図17には2つの吸気ポート40,40の各吸気ポート下流端部42,42から流れ込む2つの吸入空気の挙動を記載している。図18にはピストン冠面15aに衝突した後の2つの吸入空気の挙動を記載している。すなわち、第7実施形態では一つの燃焼室30内に2つの所定点2(B1,B2)が存在する。以下、2つの所定点2を区別するため、フロント側の所定値2を「フロント側所定点2」、リヤ側の所定点2を「リヤ側所定点2」という。また、吸気ポート下流端部42についてもフロント側とリヤ側を区別するため、フロント側の吸気ポート下流端部42を「フロント側吸気ポート下流端部」といい、符合は「51」とする。また、リヤ側の吸気ポート下流端部42を「リヤ側吸気ポート下流端部」といい、符合は「52」とする。ここで、フロント側吸気ポート下流端部51及びリヤ側吸気ポート下流端部52は、それぞれ第3ポート下流端部47と第4ポート下流端部49から構成される。フロント側吸気ポート下流端部51から流れ込む上記g+hの吸入空気全体を単に「フロント側吸入空気」、リヤ側吸気ポート下流端部52から流れ込む上記g+hの吸入空気全体を単に「リヤ側吸入空気」という。
さて、図15に示す第6実施形態では、シリンダ円断面においてリヤ側の吸気ポート40から排気側シリンダ壁12に向けて流れ込む吸入空気のみに着目し、所定点2が排気側シリンダ壁12の上にくるようにした。ここで、所定点2は、前述のように、シリンダ円断面において、バルブシート直上部第3ポート壁48から流れ込む上記gの吸入空気の直線と、バルブシート直上部第4ポート壁50から流れ込む上記hの吸入空気の直線との交点のことである。
一方、一つのシリンダ当たり2つの吸気ポート40,40を有する場合には、フロント側吸入空気及びリヤ側吸入空気(「フロント側及びリヤ側の吸入空気」ともいう。)で、一つの燃焼室30内に2つのタンブル流を独立に生成させることが好ましい。これは、フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが一つの燃焼室30内で衝突したり交差したり錯綜したりするのでは、各吸入空気の有する運動エネルギーが失われるためである。以下、フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが一つの燃焼室30内で衝突したり交差したり錯綜したりすることを、まとめて「フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが干渉する」ともいう。あるいは単に「吸入空気の干渉」ともいう。フロント側吸入空気とリヤ側吸入空気の流れが干渉することによって各吸入空気の有する運動エネルギーの一部でも失われると、その失われた分、各吸入空気の速度(流速)が小さくなり、良好なタンブル流が生成されなくなるのである。
これについて説明すると、第7実施形態に対する比較例1のエンジンを図19に、同じく第7実施形態に対する比較例2のエンジンを図20,図21に示す。ここで、比較例1のエンジンを示す図19は、第7実施形態の図17に対応する。比較例2のエンジンを示す図20,図21は、第7実施形態の図17,図18に対応する。図19,図20,図21において図17,図18と同一部分には同一の符合を付している。
図19に示す比較例1のエンジンは、シリンダ円断面においてフロント側所定点2及びリヤ側所定点2(「フロント側及びリヤ側の所定点2」ともいう。)を排気側シリンダ壁12の上で一致させたものである。比較例1のエンジンでは、フロント側及びリヤ側の吸入空気の各流れがクランク軸方向に空間的に狭まることによって、フロント側及びリヤ側の吸入空気の各速度が増した状態で排気側シリンダ壁12に衝突する。しかも、フロント側及びリヤ側の吸入空気の各速度が増した状態で同じ点(所定点2)に衝突するので、衝突した吸入空気の一部が四方に飛び散ることにもなり、フロント側及びリヤ側の吸入空気の各運動エネルギーが大きく失われることになると思われる。フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが干渉することによってフロント側及びリヤ側の吸入空気の各運動エネルギーが失われると、その失われた分、フロント側及びリヤ側の吸入空気の各速度が小さくなり、良好なタンブル流が生成されなくなる。このように、シリンダ円断面においてフロント側及びリヤ側の所定点2をクランク軸方向に近づけ過ぎることは避けるべきである。
一方、フロント側及びリヤ側の所定点2をクランク軸方向に遠ざけ過ぎるのも問題である。これについては比較例2によって説明する。図20,図21に示す比較例2は、シリンダ円断面においてフロント側所定点2(B1,B2)とリヤ側所定点2(B1,B2)のクランク軸方向の間隔L1を第6実施形態の場合より大きくしたものである。このようにフロント側及びリヤ側の所定点2をクランク軸方向に大きく離したとしても、フロント側及びリヤ側の吸入空気がピストン冠面15aに衝突するまでは、フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが干渉することはない。
しかしながら、図21に示したようにピストン冠面15aに沿ってフロント側及びリヤ側の吸入空気が流れると、吸入空気の干渉が生じる。すなわち、ピストン冠面15aに衝突したフロント側吸入空気は、流れる方向を変え、断面が塊状で流れの勢いを保持しつつ、流れの方向に連続する一本の筋となって、ピストン冠面15aに沿いつつ吸気側シリンダ壁13に向けて流れる。この場合、図21においてシリンダ11の円に対し、フロント側所定点2(B1,B2)で円の接線l1を引いたときに、フロント側吸入空気は、ピストン冠面15a上をこの円の接線l1と直交する方向の吸気側シリンダ壁13に向かう(図21の破線矢印参照)。一方、ピストン冠面15aに衝突したリヤ側吸入乳空気は、流れる方向を変え、断面が塊状で流れの勢いを保持しつつ、流れの方向に連続する一本の筋となって、ピストン冠面15aに沿いつつ吸気側シリンダ壁13に向けて流れる。この場合、図21においてシリンダ壁11の円に対し、リヤ側所定点2(B1,B2)で円の接線l2を引いたときに、リヤ側吸入空気は、ピストン冠面15a上をこの円の接線l2と直交する方向の吸気側シリンダ壁13に向かう(図21の破線矢印参照)。この結果、フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが、吸気側シリンダ壁13に到達する前にピストン冠面15a上の点Dで交差する(干渉する)。ここで、フロント側及びリヤ側の吸入空気のピストン冠面15aに沿う流れがピストン冠面15a上でなす、鋭角である角度γ1を「第2角度」で定義する。また、破線矢印で示すフロント側及びリヤ側の吸入空気をベクトルとしてみなすと、2つの各ベクトルはクランク軸方向直交シリンダ中心線CLに平行な成分Cpと、同じくクランク軸方向直交シリンダ中心線CLに直交する成分Cvとに分割することができる。このように各ベクトルを平行成分Cpと直交成分Cvに分割して考えると、ピストン冠面15a上でフロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが交差したとき、2つの各ベクトルの直交成分Cv,Cvが互いに打ち消し合う。2つの直交成分Cv,Cvが打ち消し合うということはフロント側及びリヤ側の吸入空気が有する各運動エネルギーの一部が失われることを意味する。そして、フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れの交差後には、2つの平行成分Cp,Cpのみが残り、この2つの平行成分Cp,Cpが合流して一つの流れとなり、点Fに向かって流れる。この場合に、比較例2のエンジンでは、第2角度γ1が相対的に大きいために、2つの直交成分Cv,Cvの打ち消し合いによって消失する運動エネルギーが相対的に大きくなる。なお、上記の点Fはクランク軸方向直交シリンダ中心線CLとシリンダ11の円との交点である。
一方、第7実施形態では、図17に示したように、フロント側所定点2(B1,B2)とリヤ側所定点2(B1,B2)のクランク軸方向の間隔L1を所定値Ladq1としている。これについて説明すると、第7実施形態でも図18に示したように、シリンダ11の円に対し、フロント側及びリヤ側の所定点2でシリンダ11の円の接線l1,l2をそれぞれ引く。そして、フロント側及びリヤ側の吸入空気が、この円の接線l1,l2と直交する方向の吸気側シリンダ壁13にそれぞれ向かうとする(図18の破線矢印参照)。このとき、第7実施形態でも、フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが吸気側シリンダ壁13の手前のピストン冠面15a上の点Dで交差する(干渉する)。第7実施形態でも、破線矢印で示しているフロント側及びリヤ側の吸入空気をベクトルとしてみなし、2つの各ベクトルをクランク軸方向直交シリンダ中心線CLに平行な成分Cpと、同じくクランク軸方向直交シリンダ中心線CLに直交する成分Cvとに分割する。このように各ベクトルを平行成分Cpと直交成分Cvに分割したとき、ピストン冠面15a上でフロント側及びリヤ側の各吸入空気の流れが交差することによって、2つの各ベクトルの直交成分Cv,Cvが互いに打ち消し合う。しかしながら、第7実施形態では、第2角度γ1が比較例2のエンジンよりも小さい。第2角度γ1が相対的に小さいと、その小さい分だけ2つの直交成分Cv,Cvの打ち消し合いによって消失する運動エネルギーが小さくなる。第2角度γ1が相対的に小さいことで、フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れの交差による、吸入空気の有する各運動エネルギーの消失が小さなものとなるのである。かつ、2つの平行成分Cp,Cpの吸入空気が単独で流れるよりも、フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが合流することで流れの抵抗が減少することから、合流した吸入空気の流れの勢いが却って増すものと考えられる。
実際には、フロント側所定点2(B1,B2)とリヤ側所定点2(B1,B2)のクランク軸方向の間隔L1を変化させて、フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れをシミュレーションする。そして、フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れがピストン冠面15a上でもできるだけ吸気側シリンダ壁13に近い位置で交差するように、つまり第2角度γ1ができるだけ小さくなるようにフロント側及びリヤ側の所定点2の各位置を定める必要がある。
さらに述べると、フロント側所定点2(B1,B2)とリヤ側所定点2(B1,B2)のクランク軸方向の間隔L1に依存して、第2角度γ1が定まる。この場合におけるクランク軸方向の間隔L1と第2角度γ1の関係は、シリンダ11のボア径を含むエンジンの仕様によって予め定まっている。つまり、第2角度γ1が最も小さくなるときのフロント側所定点2(B1,B2)とリヤ側所定点2(B1,B2)のクランク軸方向の最適な間隔は、エンジンの仕様によって予め定まっている。このフロント側所定点2(B1,B2)とリヤ側所定点2(B1,B2)のクランク軸方向の最適な間隔を「所定値Ladq1」とおくと、所定値Ladq1をシミュレーションや適合により予め求めておく。そして、フロント側所定点2(B1,B2)とリヤ側所定点2(B1,B2)のクランク軸方向の間隔L1がこの所定値Ladq1と一致するように、フロント側吸気ポート下流端部51及びリヤ側吸気ポート下流端部52の形状を定める。
ここで、第7実施形態の作用効果を説明する。
第7実施形態では、一つのシリンダ当たり2つの吸気ポート40,40を備え、2つの所定点2を有している。この場合に、シリンダ円断面において、各吸気ポートについて第3及び第4のポート下流端部47及び49から流れ込むフロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが排気側シリンダ壁12に到達したとき、フロント側及びリヤ側の吸入空気の速度が最も大きくなる。このフロント側及びリヤ側の吸入空気の速度が最も大きくなる状態でフロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが排気側シリンダ壁12の上で干渉するのでは、フロント側及びリヤ側の吸入空気の各運動エネルギーの一部が失われてしまう。一方、第7実施形態では、シリンダ円断面において、第3及び第4のポート下流端部47及び49から流れ込むフロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが排気側シリンダ壁12の上で干渉することがないように2つの所定点2をクランク軸方向に離して設定する。このため、フロント側及びリヤ側の吸入空気は、フロント側及びリヤ側の吸入空気がピストン冠面15aに衝突するまでは、断面が塊状で流れの勢いを保持しつつ、流れの方向に連続する一本の筋となって、独立に流れる。これによって、フロント側及びリヤ側の吸入空気の速度が最も大きくなる状態でフロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが排気側シリンダ壁12上で干渉することによるフロント側及びリヤ側の吸入空気の各運動エネルギーの損失を防止できる。一つのシリンダ当たり2つの吸気ポート40,40を備えるエンジンであっても、相対的に強いタンブル流を生成することができるのである。
フロント側及びリヤ側の吸入空気は、排気側シリンダ壁12に別々に衝突し、流れる方向を変え、流れの断面が塊状で流れの勢いを保持しつつ、流れの方向に連続する一本の筋となって、排気側シリンダ壁12を下方に向かいピストン冠面15aに衝突する。ピストン冠面15aに別々に衝突したフロント側及びリヤ側の吸入空気は、ピストン冠面15aに沿い、吸気側シリンダ壁13に向かう。このピストン冠面15aに沿い吸気側シリンダ壁13に向かうフロント側及びリヤ側の吸入空気の流れはピストン冠面15a上で交差する。この場合、比較例2のエンジンのように第2角度γ1が相対的に大きいと、フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが交差することによるフロント側及びリヤ側の吸入空気の各運動エネルギーの損失が相対的に大きくなる。一方、第7実施形態では、第2角度γ1が相対的に小さくなるようにフロント側及びリヤ側の所定点2(排気側のシリンダ壁の上の所定範囲における点2)のクランク軸方向の間隔L1を所定値Ladq1に設定している。これによって、フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが交差することによるフロント側及びリヤ側の吸入空気の各運動エネルギーの損失を相対的に小さなものとすることができる。かつ、フロント側及びリヤ側の吸入空気の交差後にフロント側及びリヤ側の吸入空気の流れを合流させることでフロント側及びリヤ側の吸入空気全体の流れの勢いを却って増すことができる。
(第8実施形態)
図22,図23は第8実施形態で、第7実施形態の図17,図18と置き換わるものである。図17,図18と同一部分は同一の符合を付している。
図17に示した第7実施形態では、フロント側所定点2(B1,B2)とリヤ側所定点2(B1,B2)を、クランク軸方向直交シリンダ中心線CLに対して線対称に配置した。一方、第8実施形態は、フロント側所定点2(B1,B2)とリヤ側所定点2(B1,B2)を、クランク軸方向直交シリンダ中心線CLに対して非対称に配置したものである。具体的にはフロント側所定点2(B1,B2)とリヤ側所定点2(B1,B2)を図22,図23に示すようにクランク軸方向直交シリンダ中心線CLよりもフロント側(図22,図23でCLよりも上側)に配置している。
第8実施形態でも、フロント側所定点2(B1,B2)とリヤ側所定点2(B1,B2)のクランク軸方向の間隔L1に依存して第2角度γ2が定まる。この場合におけるクランク軸方向の間隔L1と第2角度γ2の関係は、シリンダ11のボア径を含むエンジンの仕様によって予め定まっている。つまり、第2角度γ2が最も小さくなるときのフロント側所定点2(B1,B2)とリヤ側所定点2(B1,B2)のクランク軸方向の最適な間隔は、エンジンの仕様によって予め定まっている。このフロント側及びリヤ側の所定点2のクランク軸方向の最適な間隔を「所定値Ladq2」とおくと、所定値Ladq2を適合により予め求めておく。そして、フロント側所定点2(B1,B2)とリヤ側所定点2(B1,B2)のクランク軸方向の間隔L1がこの所定値Ladq2と一致するように、フロント側吸気ポート下流端部51及びリヤ側吸気ポート下流端部52の形状を定める。なお、第8実施形態の第2角度γ2と所定値Ladq2は、第7実施形態の第2角度γ1と所定値Ladq1に必ずしも一致するものでない。
図17に示した第7実施形態では、図18のようにフロント側及びリヤ側の吸入空気がピストン冠面15a上の点Dで合流した後、吸気側シリンダ壁13上の点Fに向かう。ここで、点Fは、クランク軸方向直交シリンダ中心線CLの上にある。このため、第7実施形態のタンブル流は、クランク軸回りの旋回流として生成される。言い換えると、タンブル中心TCがクランク軸方向と一致している。
一方、第8実施形態においても、図23のようにフロント側及びリヤ側の吸入空気がピストン冠面15a上の点Dで合流した後、吸気側シリンダ壁13上の点Fに向かう。しかしながら、第8実施形態の点Fの位置は、第7実施形態の点Fの位置と異なり、クランク軸方向直交シリンダ中心線CLよりもリヤ側に位置している。このため、第8実施形態により生成されるタンブル流のタンブル中心TCは、クランク軸方向と一致しておらず、クランク軸方向から偏った位置にある。
このように、第8実施形態では、タンブル中心TCがクランク軸方向と一致していなくても、第7実施形態と同様の作用効果が得られる。
(第9〜第11の実施形態)
図24,図25,図26は第9,第10,第11の実施形態で、第7実施形態の図17と置き換わるものである。図24,図25,図26において図17と同一の部分には、同一の符号を付している。
第7実施形態では、シリンダ円断面において、2つの各吸気ポート20,40についてバルブシート直上部第3ポート壁48及びこれに隣接する吸気ポートフロント側壁40cが直線であり、隣接する2つの直線が一つの直線を構成しているとした。同様に、シリンダ円断面において、2つの各吸気ポート20,40についてバルブシート直上部第4ポート壁50及びこれに隣接する吸気ポートリヤ下側壁40dが直線であり、隣接する2つの直線が一つの直線を構成しているとした。このため、2つの各吸気ポート20,40について吸気ポートフロント側壁40cの直線と吸気ポートリヤ側壁40dの直線とは上流(図17では右方)に向けて広がっている。
一方、第9〜第11の実施形態は第7実施形態のバリエーションである。ここでは、第7実施形態との違いを主に説明する。まず、図24に示した第9実施形態では、フロント側の吸気ポート40について、バルブシート直上部第3ポート壁48の直線に隣接する吸気ポートフロント側壁40cの直線が、右斜め上に向かうのではなく、右方(吸排気方向)に向かっている。一方、リヤ側の吸気ポート40について、バルブシート直上部第4ポート壁50の直線に隣接する吸気ポートリヤ側壁40dの直線が、右斜め下に向かうのではなく、右方(吸排気方向)に向かっている。次に、図25に示した第10実施形態では、フロント側の吸気ポート40について、バルブシート直上部第4ポート壁50の直線に隣接する吸気ポートリヤ側壁40dの直線が、右斜め下に向かうのではなく、右方(吸排気方向)に向かっている。一方、リヤ側の吸気ポート40について、バルブシート直上部第3ポート壁48の直線に隣接する吸気ポートフロント側壁40cの直線が、右斜め上に向かうのではなく、右方(吸排気方向)に向かっている。次に、図26に示した第11実施形態では、2つの各吸気ポート40,40について、バルブシート直上部第3ポート壁48の直線に隣接する吸気ポートフロント側壁40cの直線が、右斜め上や右斜め下に向かうのではなく、右方(吸排気方向)に向かっている。2つの各吸気ポート40,40について、バルブシート直上部第4ポート壁50の直線に隣接する吸気ポートリヤ側壁40dの直線についても、右斜め上や右斜め下に向かうのではなく、右方(吸排気方向)に向かっている。
第9〜第11の実施形態でも、第7実施形態と同様の作用効果が得られる。
(第12実施形態)
図27,図28,図29,図30,図31は第12実施形態で、第1実施形態の図2,図3,図4、第6実施形態の図15、第7実施形態の図17,図18と置き換わるものである。図27,図28において図2,図3と、図29において図15と、図30,図31において図17,図18と同一の部分には、同一の符号を付している。
第12実施形態は、一つのシリンダ当たり2つの吸気ポート40,40を備えるエンジンを対象とし、前述した第1、第6及び第7の3つの実施形態を組み合わせたものである。第12実施形態では、クランク軸方向に直交する断面及び吸排気方向の2つの断面において、流れ込むフロント側及びリヤ側の吸入空気の各流れが所定点1及び所定点2に向かって狭まるように、バルブシート41の直上部分の吸気ポート壁を形成している。すなわち、図27のようにクランク軸方向に直交する断面において、フロント側及びリヤ側の吸入空気の各流れが所定点1(点A)に向かって狭まるように、2つの各吸気ポートについてバルブシート直上部第1及び第2のポート壁44及び46を形成している。かつ、図29,図30のようにシリンダ円断面において、フロント側及びリヤ側の吸入空気の各流れが所定点2(点A1,A2)に向かって狭まるように、2つの各吸気ポートについてバルブシート直上部第3及び第4のポート壁48及び50を形成している。さらに、図29,図30のようにシリンダ円断面において、フロント側及びリヤ側の吸入空気の流れが排気側シリンダ壁12の上で干渉することがないようにフロント側所定点2(点A2)とリヤ側所定点2(点A1)をクランク軸方向に離して設定している。また、図30,図31のようにシリンダ円断面において、第2角度γ1が相対的に小さくなるようにフロント側所定点2(点A2)とリヤ側所定点2(点A1)のクランク軸方向の間隔L1を所定値Ladq1離して設定している。ここで、クランク軸方向に直交する断面を示す図27の所定点1(点A)と、シリンダ円断面を示す図29,図30の所定点2(点A1,A2)とは空間的に同じ点であるので、第12実施形態では、所定点1と所定点2とが一致している。
第12実施形態によれば、第1、第6及び第7の3つの実施形態の作用効果を合わせた作用効果が得られる。
第12実施形態の実際の作用効果を検証するため、エンジンの燃焼室30内に生成されるタンブル流に対して、CFDを用いたシミュレーションを本発明者が行っている。これについて説明すると、図32は一つの気筒当たり2つの吸気ポートを有する現状のエンジンの燃焼室30内に生成されるタンブル流に対して、CFDを用いたシミュレーションを行った結果を示した吸入空気の速度分布図である。一方、図33は一つの気筒当たり2つの吸気ポートを有する第18実施形態のエンジンの燃焼室30内に生成されるタンブル流に対して、CFDを用いたシミュレーションを行った結果を示した吸入空気の速度分布図である。以下では、フロント側吸入空気とリヤ側吸入空気を区別することなく、単に「2つの吸入空気」という。なお、現状のエンジンと第18実施形態のエンジンとではエンジンの仕様が異なり、現状のエンジンに対して第18実施形態のエンジンのほうがロングスローク化されている。
CFDを用いたシミュレーションにおいて、吸気行程でピストン15が上死点から下降し、再び上死点に戻るまで(つまりピストン15の1ストローク)の吸入空気の速度分布の動きを本発明者が2次元の動画で作成している。上記ピストン15の1ストロークで例えば2回転から3回転するタンブル流が生成される。図32,図33は上記2次元の動画から、最も特徴的な瞬間を切り取って示している。ここで、図32,図33においては、タンブル流を多数の小さな速度ベクトルの分布で示している。一つ一つの速度ベクトルの矢印は吸入空気の流れる方向を示す。また、各速度ベクトルが表す吸入空気の速度の違いを明確にするため、最大の速度を有する速度ベクトルを太実線で、最小の速度を有する速度ベクトルを相対的に細実線で記載している。以下、最大の速度を有する速度ベクトルを、「最速ベクトル」、最小の速度を有する速度ベクトルを「最遅ベクトル」という。最遅ベクトルは基本的に渦の中心付近に生じる。また、最大の速度と最小の速度との中間にある速度を有する速度ベクトル(以下「中間速度ベクトル」という。)を全て破線で記載している。
図32に示す現状のエンジンでは、特徴的な部分を一点鎖線で囲っている(L部,M部,N部参照)。すなわち、L部で示したように左半分に位置する排気側燃焼室30aで最速ベクトルが得られているものの、最速ベクトルの大部分が右斜め下の方向に向かっており、排気側シリンダ壁12を下方に向けて流れていない。おまけに、M部で示したように吸気側燃焼室30bの側にはみ出して下向きの最速ベクトルの一群が生じている。一方、N部で示したように右半分に位置する吸気側燃焼室30bで吸気側シリンダ壁13を上方に向かうのは、中間速度ベクトルの一群でしかない。これでは燃焼室30内の壁面を左回りに旋回する流れであるタンブル流を適切に生成することができない。
これに対して、図33に示す第12実施形態のエンジンにおいても、特徴的な部分を一点鎖線で囲っている(P部,Q部,R部,S部参照)。すなわち、P部で示したように最速ベクトルの一群が排気側シリンダ壁12を下方に向け揃って流れている。これは、クランク軸方向に直交する断面において2つの各所定点1に向かって進む2つの吸入空気の各流れが狭まるように、2つの吸気ポートについてバルブシート41の直上部分の吸気ポート壁(44,46)を形成することで初めて可能となったものである。かつ、シリンダ円断面において2つの各所定点2に向かって進む2つの吸入空気の各流れが狭まるように、2つの吸気ポートについてバルブシート41の直上部分の吸気ポート壁(48,50)を形成することで初めて可能となったものである。すなわち、排気側シリンダ壁12に到達するタイミングで2つの吸入空気の各速度が最も大きくなる(運動エネルギーが大きくなる)。しかも、運動エネルギーの大きな2つの吸入空気が、拡散するのではなく排気側シリンダ壁12上の所定点(所定点1及び所定点2)で寄り集まる。2つの吸入空気が一箇所に寄り集まって塊になることで2つの吸入空気の各流れの勢いが増すのである。排気側シリンダ壁12に衝突した後の2つの吸入空気は、断面が塊状で流れの勢いを保持しつつ、流れの方向に連続する一本の各筋となる。排気側シリンダ壁12に衝突した後、断面が塊状で流れの勢いを保持する2つの吸入空気は排気側シリンダ壁12を下方に向けて流れ下る。この排気側シリンダ壁12を下方に向けて流れ下る、断面が塊状で流れの勢いを保持する2つの吸入空気を速度ベクトルで表すと、同じ方向を向く一群の最速ベクトルとして表されるのである。このように、断面が塊状で流れの勢いを保持する2つの吸入空気はピストン冠面15aに衝突し、流れる方向を変えピストン冠面15aに沿い吸気側シリンダ壁13に向かう。このため、Q部で示したようにピストン冠面15aに沿い吸気側シリンダ壁13に向かう速度ベクトルには、最速ベクトルが多く含まれている。ピストン冠面15aに沿い吸気側シリンダ壁13に向けて流れる、断面が塊状で流れの勢いを保持している2つの吸入空気は、吸気側シリンダ壁13に到達する前にピストン冠面15a上で交差する(干渉する)。この場合、第2角度γ1が相対的に小さいので、交差に伴う運動エネルギーの消失が小さなものとなる。また、2つの吸入空気が合流することで流れの勢いが却って増す。合流した2つの吸入空気は吸気側シリンダ壁13に向かう。このように合流した2つの吸入空気は、吸気側シリンダ壁13に衝突し流れる方向を変え吸気側シリンダ壁13を上方に向かう。このため、R部で示したように吸気側シリンダ壁13を上方に向かう速度ベクトルにも、最速ベクトルが多く含まれている。吸気側シリンダ壁13を上方に流れる合流した2つの吸入空気は、断面が塊状で流れの勢いを保持した状態で流れる方向を変え、排気側シリンダ壁12を下方に向けて流れる吸入空気に合流する。このため、S部で示したように、左斜め上方向から左方向に向きを変えて進む一群の中間速度ベクトルが、排気側シリンダ壁12を下方に向かう最速ベクトルに合流している。このように、第12実施形態では、排気側シリンダ壁12、ピストン冠面15a、吸気側シリンダ壁13に沿って流れる一群の最速ベクトルが生じている(つまり強いタンブル流が生成されている)。
なお、図33に示す第12実施形態ではピストン冠面15aにキャビティ15aaが設けられているが、キャビティ15aaが設けられていても、強いタンブル流が生成されていることがわかる。
実施形態では、クランク軸方向に直交する断面と、シリンダ円断面の2つの断面について吸気ポート下流端部42、特にバルブシート直上部の吸気ポート壁(44,46,48,50)の形状を考察した。この場合、クランク軸方向に直交する断面、シリンダ円断面は、物理的に厳密な意味で用いているのでない。例えば、物理的に厳密な意味でのクランク軸方向に直交する断面から多少外れた断面やシリンダ円断面から多少外れた断面であっても、許容される範囲であれば本発明を適用することができる。
第1実施形態から第12実施形態までの各実施形態は、矛盾しない範囲で組み合わせ可能である。
実施形態では、バルブシート41が硬質表面処理の方法を用いて形成される場合で説明したが、この場合に限定されるものでない。たとえば、バルブシート部品を吸気ポートのスロート部に圧入することによって、バルブシートを形成するエンジンに対しても、本発明の適用がある。
実施形態では、ガソリンエンジンの場合で説明したが、デーゼルエンジンであってかまわない。
実施形態では、ピストンが上下方向にストロークする場合で説明したが、この場合に限られるものでない。例えばピストンが水平方向にストロークする水平対向エンジンや、寝かされたエンジン(ピストンは上下方向以外の方向、水平方向以外の方向にそれぞれストロークする)に対しても本発明の適用がある。