JP2017037896A - コイル用線材 - Google Patents

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Abstract

【課題】周囲の交番磁界による渦電流を低減して、低損失なコイルを形成できるコイル用線材を提供する。【解決手段】導体線11と、導体線11の外周に磁性材料によって形成された磁性体層12とを備えるコイル用線材10である。磁性体層12は、炭素鋼によって形成された鋼含有層を備える。好ましくは、前記炭素鋼における炭素と、リンと、珪素との合計含有量が0超0.3質量%以下とする。さらに好ましくは、磁性体層12は、導体線11の軸方向に直交する断面において周方向にみて、厚さが異なる厚肉部と薄肉部とを有する不均一層を備え、前記薄肉部の最小厚さに対する前記厚肉部の最大厚さの比が1.1以上である。【選択図】図1

Description

本発明は、コイルに用いられる線材に関する。特に、周囲の交番磁界による渦電流を低減して、低損失なコイルを形成できるコイル用線材に関する。
各種の電気機器の一部品として、コイルが利用されている。コイルを備える電気機器としては、例えばモータ、トランス(変圧器)、リアクトルなどが挙げられる。一般に、コイルは、導体線を有する巻線を螺旋状に巻回することによって形成される。巻線は、エナメル線といった、導体線の上に絶縁層を備えるものが代表的である。
特許文献1は、ニッケルめっき銅線を芯材とし、その外周に密着層、絶縁層を順に備える絶縁電線を開示している。
特開平07−296643号公報
コイルに用いられる線材には、低損失なコイルを形成できることが望まれる。
例えば、小型化や高占積率などの目的から隣り合うターン間の間隔が狭いコイルでは、各ターンをつくる導体線同士が近接配置される。このようなコイルに交流電流を流すと、ある導体線Aに近接する別の導体線Bがつくる磁界からの磁束が導体線Aに鎖交して、導体線Aに渦電流が生じ得る。近年、各種の電気機器、例えばモータなどの高性能化・高効率化に伴い大電流化が進んでいる。大電流化に伴い発生する交番磁界も増大し、導体線に生じる渦電流も増大し得る。
上述のように近接する導体線や漏れ磁束などに基づく周囲の交番磁界からの磁束によって導体線に渦電流が生じて渦電流量が多くなると、導体線に生じる渦電流損が大きくなり、コイルの損失の増大を招く。そのため、コイル用線材には、周囲の交番磁界による渦電流を低減できることが望まれる。
また、絶縁層を備える場合には、導体線に割れなどの表面欠陥などが存在すると、この欠陥に起因して絶縁層が適切に形成されず、絶縁不良個所が生じて歩留りの低下を招く。従って、コイル使用時の渦電流を低減できる上に、絶縁性、製造性にも優れるコイル用線材が望まれる。
更に、コイルに成形する際の曲げ加工が行い易く、コイル成形性に優れるコイル用線材が望ましい。曲げ加工などが行い易い線材であれば、コイル成形後、スプリングバックによる変形を小さくし易く、寸法精度、形状精度に優れるコイルを形成できて、コイルの製造性にも優れる。
そこで、本発明の目的の一つは、周囲の交番磁界による渦電流を低減して、低損失なコイルを形成できるコイル用線材を提供することにある。
本発明の一態様に係るコイル用線材は、導体線と、前記導体線の外周に磁性材料によって形成された磁性体層とを備え、前記磁性体層は、炭素鋼によって形成された鋼含有層を備える。
上記のコイル用線材は、周囲の交番磁界による渦電流を低減して、低損失なコイルを形成できる。
実施形態1に係るコイル用線材の一例を示す概略断面図である。 実施形態2に係るコイル用線材の一例を示す概略断面図である。 実施形態3に係るコイル用線材(丸線)と、その製造方法の一例を説明する工程説明図である。 実施形態3に係るコイル用線材(角線)と、その製造方法の一例を説明する工程説明図である。 試験例1で損失の測定に用いた測定回路を示す概略構成図である。
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
(1)本発明の一態様に係るコイル用線材は、導体線と、上記導体線の外周に磁性材料によって形成された磁性体層とを備え、上記磁性体層は、炭素鋼によって形成された鋼含有層を備える。
上記のコイル用線材は、以下の理由により、周囲の交番磁界による渦電流を低減して、渦電流に起因する損失を低減でき、低損失なコイルを形成できる。
上記のコイル用線材は、銅などの一般に導電性に優れるものの非磁性である金属から構成される導体線の外周に、磁性材料から構成される磁性体層を備えるため、コイルを形成した場合に周囲の交番磁界からの磁束が磁性体層に流れて、導体線に鎖交し得る磁束を減らすことができる。磁性体層が実質的に磁性材料のみから構成されて磁性成分を十分に備えることからも、上記磁束が磁性体層に通過し易い。このように磁性体層は、周囲の交番磁界から導体線への磁束を遮蔽する磁気シールドとして機能する。
特に、上記のコイル用線材では磁性体層に炭素鋼から構成される鋼含有層を備える。炭素鋼は、飽和磁束密度が高いため周囲の交番磁界からの磁束を十分に流せて、導体線に鎖交し得る磁束を効果的に低減でき、導体線に生じる渦電流を低減できる。また、炭素鋼は、比抵抗が純鉄よりも高く、鋼含有層自体に生じる渦電流を低減できる。
このように導体線だけでなく、磁性体層に生じ得る渦電流を低減できるからである。
また、上記のコイル用線材は、以下の理由により製造性に優れる。
炭素鋼は、溶接を行った場合にブローホールが形成され難く、水素脆化などの脆化も生じ難い。そのため、後述するように溶接を利用して鋼含有層を形成する場合にブローホールや脆化に起因する割れなどの欠陥の発生を低減できて表面性状に優れる磁性体層を形成できる。表面性状に優れる磁性体層の外周に絶縁層を形成する場合には、ピンホールやフクレなどの欠陥の発生を低減できて、絶縁層を良好に形成でき、絶縁性に優れるコイル用線材とすることができる。
このように磁性体層だけでなく、絶縁層をも良好に形成でき、歩留りの低下を低減できるからである。
更に、上記のコイル用線材は、以下の理由によりコイルの製造性にも優れる。
炭素鋼は曲げ加工などの塑性加工性に優れており、上記のコイル用線材は、コイルの形成に必要な力が小さくてよく、容易に巻回できる。また、巻回に必要な力が小さければ、巻回後の線材に残存する応力も小さくなり、スプリングバックが生じ難く、寸法精度、形状精度に優れるコイルを成形できる。
このようにコイルを良好に形成でき、歩留まりの低下を低減できるからである。
(2)上記のコイル用線材の一例として、上記炭素鋼における炭素と、リンと、珪素との合計含有量が0超0.3質量%以下である形態が挙げられる。
炭素、リン、及びケイ素の合計含有量が上記の範囲を満たす炭素鋼は溶接時にブローホールや脆化などが生じ難い。従って、上記の形態は、渦電流を低減できて低損失なコイルを形成できる上に、表面性状に優れる磁性体層や健全な絶縁層を形成し易く、製造性により優れる。
(3)上記のコイル用線材の一例として、上記磁性体層が、上記導体線の軸方向に直交する断面において周方向にみて、厚さが異なる厚肉部と薄肉部とを有する不均一層を備え、上記薄肉部の最小厚さに対する上記厚肉部の最大厚さの比(以下、厚さ比と呼ぶことがある)が1.1以上である形態が挙げられる。
コイルには、周囲の交番磁束からの磁束をその他の領域に比較して受け易い領域(以下、鎖交領域と呼ぶことがある)が存在し得る。上記形態は、不均一層のうち、厚肉部を上記鎖交領域に配置でき、導体線に鎖交し得る磁束をより確実に低減できる。また、磁性材料が金属である場合でも、不均一層は薄肉部を備えるため、均一的な厚さでかつ厚肉部と同じ厚さを有する磁性体層を備える場合に比較して、不均一層自体に生じ得る渦電流を低減できる。特に、不均一層が比較的高抵抗である炭素鋼から構成されていれば(不均一層が鋼含有層であれば)、不均一層自体に生じ得る渦電流をより一層低減し易い。従って、上記形態は、導体線と磁性体層との双方について周囲の交番磁束に起因する渦電流を低減でき、より低損失なコイルを形成できる。その他、上記形態は、磁性体層の構成材料の低減、この低減による軽量化などの効果を奏する。
(4)上記のコイル用線材の一例として、上記導体線と上記磁性体層とを合わせた断面積に対する上記磁性体層の断面積の比率(以下、面積比と呼ぶことがある)が3%以上40%以下である形態が挙げられる。
上記形態は、磁路断面積を十分に備えて磁性体層に周囲の交番磁界からの磁束を流し易く、導体線に鎖交し得る磁束を十分に低減できる。かつ、上記形態は、磁性体層が厚過ぎないため、線材の大径化を抑制できる上に曲げ加工などを行い易い。従って、上記形態は、渦電流を低減できて低損失なコイル、特に小型なコイルを形成できる上に、コイルを形成し易く、コイルの製造性にも優れる。
(5)上記のコイル用線材の一例として、上記磁性体層の飽和磁束密度をBs、上記コイル用線材の最大幅をw、上記磁性体層の厚さをtとするとき、Bs×(t/w)≧0.01Tを満たす形態が挙げられる。
Bs×(t/w)が大きいほど、磁気シールド効果が高く、導体線に発生する損失の抑制効果が高くなる傾向がある。上記形態は、Bs×(t/w)が0.01T以上であり、より低損失なコイルを形成できる。
(6)上記のコイル用線材の一例として、上記導体線を構成する金属の平均結晶粒径が200μm以下である形態が挙げられる。
上記形態は、導体線が強度(0.2%耐力など)や靭性(破断伸びなど)といった機械的特性に優れており、耐へたり性や、曲げ加工などの加工性に優れる。従って、上記形態は、渦電流を低減できて低損失なコイルを形成できる上に、コイルを形成し易く、コイルの製造性にも優れる。
(7)上記のコイル用線材の一例として、0.2%耐力が60MPa以上であり、破断伸びが5%以上である形態が挙げられる。
上記形態は、高強度でありながら伸びも高く、耐へたり性や、曲げ加工などの加工性に優れる。従って、上記形態は、渦電流を低減できて低損失なコイルを形成できる上に、コイルを形成し易く、コイルの製造性にも優れる。
(8)上記のコイル用線材の一例として、上記導体線の外周に絶縁層を備える形態が挙げられる。
磁性体層の外周に絶縁層を備える場合には近接するコイル用線材間に介在する絶縁層によってこれらの線材間を絶縁できる。導体線と磁性体層との間に絶縁層を備える場合には導体線と磁性体層との間に介在する絶縁層によって、導体線と磁性体層とを絶縁できる。従って、上記形態は、磁性体層自体に生じた渦電流が近接するコイル用線材や下層の導体線に流れることを絶縁層によって防止できて、より低損失なコイルを形成できる。また、磁性体層が鋼含有層であれば表面性状に優れるため、この鋼含有層の上に絶縁層を良好に形成でき、上記形態は、製造性にも優れる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図1〜図4を適宜参照して、本発明の実施形態に係るコイル用線材の具体例を説明する。図中、同一符号は同一名称物を示す。図1〜図4は、コイル用線材10などを導体線11などの軸方向に直交する平面で切断した横断面を示す。図1〜図4は、分かり易いように磁性体層12などを厚く誇張して示す。図3の下図,図4の下図に示す厚肉部12a,薄肉部12bの形成領域、各部12a,12bの厚さは例示である。
(コイル用線材)
・概要
実施形態に係るコイル用線材10は、図1,図2,図3の下図、図4の下図などに示すように、導体線11と、導体線11を覆うように導体線11の外周に磁性材料によって形成された磁性体層12とを備える。以下に具体例を示す。その他の具体例は後述する。
図1に示す実施形態1に係るコイル用線材10は、導体線11と、磁性体層12とを備える例である。
図2に示す実施形態2に係るコイル用線材10は、導体線11と、磁性体層12と、更に導体線11の外周に形成された絶縁層13とを備える例である。
図3,図4に示す実施形態3に係るコイル用線材10は、導体線11と、磁性体層12とを備え、コイル用線材10の横断面において磁性体層12をコイル用線材10の周方向にみると、磁性体層12の厚さが異なっている。
実施形態に係るコイル用線材10は、磁性体層12が炭素鋼を含む鋼含有層を備えることを特徴の一つとする。以下、構成要素ごとに詳細に説明する。
・導体線
導体線11は、コイル用線材10において主として電流が流れる部分である。
・・組成
導体線11の構成材料は、金属、特に導電性に優れる金属である銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金から選択される少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。上記に列挙した金属を含む導体線11は、導電率が高く、電気抵抗も小さいため、所定の電流を低損失で流せる。低損失化の観点からは銅又は銅合金が好ましく、軽量化の観点からはアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。上記に列挙した金属は、一般に非磁性材である。
ここでの「銅」とは、Cuを99.9質量%以上含有する純銅である。具体的にはタフピッチ銅、脱酸銅(例、リン脱酸銅)、無酸素銅(OFC)が挙げられる。
ここでの「銅合金」とは、Cuを50質量%以上、好ましくは90質量%以上含有し、Cu以外の添加元素を含有する銅基合金である。銅合金の添加元素は、例えばSn,Zr,Fe,Zn,Ag,Cr,P,Si,Mn,Ti,Mg,Niなどが挙げられる。
ここでの「アルミニウム」とは、Alを99質量%以上含有する純アルミニウムである。
ここでの「アルミニウム合金」とは、Alを50質量%以上、好ましくは90質量%以上含有し、Al以外の添加元素を含有するアルミニウム基合金である。アルミニウム合金の添加元素は、例えばSi,Cu,Mg,Zn,Fe,Mn,Ni,Ti,Cr,Ca,Zr,Liなどが挙げられる。
その他、不可避不純物を含み得る。
より高い導電率を確保する観点からは、銅(純銅)が好ましい。
上記添加元素の含有量は、所望の導電率が得られる範囲で、添加元素の種類に応じて適宜設定するとよい。添加元素の合計含有量は、例えば0.1質量%以上30質量%以下、更に0.1質量%以上5.0質量%以下が挙げられる。導電率を高くする観点からは添加元素の含有量は少ない方が好ましい。添加元素の含有量が多いと強度などに優れる。
導体線11は、酸素及び水素の含有量が少ないことが好ましい。導体線11の外周直上に磁性体層12を備えて、導体線11と磁性体層12とが直接接触している場合に導体線11が酸素や水素を多く含有していると、この酸素や水素が磁性体層12中に拡散して、磁性体層12の延性や磁気的特性が損なわれる恐れがあるからである。
導体線11の酸素含有量は、質量割合で例えば50ppm以下、更に10ppm以下が好ましい。導体線11の水素含有量は、質量割合で例えば10ppm以下、更に5ppm以下が好ましい。酸素含有量の測定には、例えば、赤外分光法が利用できる。水素含有量の測定には、例えば、不活性ガス融解法が利用できる。その他、不活性ガス融解−赤外線吸収法などが挙げられる。
導電率、低損失、延性、磁性体層12の特性維持などを考慮すると、導体線11の構成材料は、純銅、特に純銅のなかでも酸素や水素などの不純物をほとんど含まず、純度が最も高い無酸素銅が好ましい。
・・組織
導体線11を構成する金属が微細な結晶組織を有すると機械的特性に優れて好ましい。例えば、導体線11を構成する金属の平均結晶粒径が200μm以下を満たすことが挙げられる。上記平均結晶粒径が200μm以下であれば、0.2%耐力や破断伸びなどが高い導体線11とすることができる。上記平均結晶粒径が小さいほど機械的特性に優れ、上限値が100μm以下、更に80μm以下、70μm以下である形態が挙げられる。上記平均結晶粒径の下限は特に問わない。製造上の観点から、上記平均結晶粒径は例えば1μm以上である。
ここでの「平均結晶粒径」は、JIS H 0501(1986年)に規定された「伸銅品結晶粒度試験方法」に記載の切断法に準拠して測定した平均結晶粒度である。平均結晶粒径は、コイル用線材10の横断面をとり、この横断面における導体線11の結晶組織を顕微鏡で観察することで測定する。
・・形状
導体線11の形状は、特に限定されない。例えば、導体線11は、横断面形状が円形状(図1,図2)、楕円形状(図3の下図)、レーストラック形状、六角形状や四角形状といった多角形状(図4の下図)など種々の形状が挙げられる。導体線11の外形は、製造条件にもよるが、代表的には、コイル用線材10の外形に類似した形状をとる。
・・大きさ
導体線11の横断面積は、例えば電流値に応じて適宜選択できる。例えば2A以上といった大電流を流す用途では、上記横断面積は0.4mm以上、更に0.5mm以上、0.8mm以上が挙げられる。低電流用途では、上記横断面積は0.4mm未満、更に0.3mm以下が挙げられる。上記横断面積の上限は特に問わないが、50mm以下であれば曲げ易く加工性に優れる上に、比較的細いため占積率が高いコイルを形成できる。
導体線11が丸線の場合に導体線11の直径φは、0.5mm以上8mm以下程度が挙げられる。
導体線11が平角線などの角線や楕円線などの場合に導体線11の長辺の長さは0.5mm以上10mm以下程度、短辺の長さは0.2mm以上5mm以下程度が挙げられる。
・・導電率
導体線11は導電率が高いほど低損失で電流を流せて好ましい。具体的な導電率は、70%IACS以上、更に80%IACS以上、90%IACS以上が挙げられる。
・磁性体層
磁性体層12は、磁性材料によって形成されて、周囲の交番磁界からの磁束が導体線11に通過することを阻止、低減する磁気シールドとして主に機能する。周囲の交番磁界がコイル用線材10に印加された際に交番磁界からの磁束が磁性体層12に流れることで、導体線11に鎖交する磁束を減らすことができる。
・・組成
磁性体層12の構成材料は、磁性材料、特に軟磁性材料とする。高い磁気シールド効果が期待できる強磁性体が好ましく、比透磁率や飽和磁束密度が高い鉄系材料がより好ましい。また、比抵抗が高い鉄系材料であれば、磁性体層12自体に生じる渦電流を低減できる。そこで、実施形態のコイル用線材10では、磁性体層12に、飽和磁束密度が高く、比抵抗が比較的高い鉄系材料である炭素鋼によって形成された鋼含有層を備える。
ここでの「炭素鋼」とは、炭素(C)を0超2質量%以下程度の範囲で含有し、その他、珪素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)などを微量に含有する鉄基合金である。例えば、JIS G 3141(2011年)、JIS G 3118(2010年)などに規定される低炭素鋼(代表的にはC:0.15質量%以下)や中炭素鋼(代表的にはC:0.30質量%以下、Si:0.15質量%〜0.4質量%)などが挙げられる。Mn、P、Sの含有量(質量%)は、例えば、以下が挙げられる。
Mn量:1.20%以下、P量:0.100%以下、S量:0.040%以下
特に、炭素鋼における炭素と、リンと、硫黄との合計含有量が少ないと、鋼含有層の形成に溶接を行う場合にブローホールや水素脆化などの脆化が生じ難いため、表面性状に優れる鋼含有層を形成し易く、コイル用線材10の製造性に優れる。また、鋼含有層の外周に絶縁層13を形成する場合に絶縁層13を良好に形成でき、絶縁層13を備えるコイル用線材10の製造性にも優れる。上記合計含有量は、少ないほどブローホールや脆化などが生じ難く、0.6質量%以下、更に0.5質量%以下が好ましい。良好な絶縁層13の形成を考慮すると、上記合計含有量は0超0.3質量%以下が好ましく、0.2質量%以下、更に0.15質量%以下がより好ましい。上記合計含有量が所望の範囲を満たすように、例えば精錬などを行って、鋼含有層の形成に用いる炭素鋼材の成分調整、特にリンや硫黄の低減を行うとよい。
・・構造
コイル用線材10は、磁性体層12を一層のみ備え、この一層が鋼含有層である単層構造の形態(図1〜図4)の他、絶縁層13(中間絶縁層)を介して複数の磁性体層12を備え、複数の磁性体層12のいずれも鋼含有層である形態(図示せず)、複数の磁性体層12として、少なくとも一層の鋼含有層と、残部が炭素鋼以外の磁性材料から構成される層とを備える形態(図示せず)が挙げられる。炭素鋼以外の磁性材料は、上述のように鉄系材料が好ましい。例えば、透磁率が高い鉄系材料からなる高μ層であれば、周囲の交番磁界からの磁束が通過し易く、飽和磁束密度が高い鉄系材料からなる高Bs層であれば、周囲の交番磁界からの磁束が十分に通過でき、比抵抗が高い鉄系材料からなる高電気抵抗層であれば、この層自身に発生する渦電流を低減できる。
絶縁層13を介さずに、異なる磁性材料からなる層が2層以上積層された多層構造の磁性体層12を備えることができる。多層のうち、少なくとも一層に鋼含有層を含むことができる。例えば、多層構造の磁性体層12として、磁性体層12のうち内側の領域が鋼含有層であり、表面側の領域が酸化鉄層である形態が挙げられる。
・・その他の磁性材料
ここでの「鉄系材料」とは、Feを含有する金属やFeを含有する化合物などである。具体的には、鉄、炭素鋼を除く鉄系合金、及び鉄系化合物から選択される少なくとも1種の軟磁性材料が挙げられる。
ここでの「鉄」とは、Feを99.8質量%以上含有する純鉄である。
鉄系合金は、例えば、パーマロイ(Fe−Ni合金)、パーメンジュール(Fe−Co合金)、珪素鋼(Fe−Si合金)、鉄系アモルファス合金、センダスト(Fe−Si−Al合金)などが挙げられる。パーメンジュールやパーマロイ、珪素鋼、鉄系アモルファス合金などは、比抵抗が大きい鉄系材料である(例えば20μΩ・cm以上)。
鉄系化合物は、例えばフェライト(Fe)やFeO,Feといった鉄酸化物(酸化鉄)などが挙げられる。
鉄系以外の磁性材料として、Coを含むコバルト系材料(純金属、合金など)、Niを含むニッケル系材料(純金属、合金など)などの軟磁性材料が挙げられる。
磁性体層12を構成する鉄系材料(上述の炭素鋼を含む鉄系合金、鉄、鉄系化合物など)の酸素含有量及び水素含有量も少ない方が好ましい。酸素や水素の含有量が多過ぎる鉄系材料で磁性体層12が形成されると、上述のように磁性体層12の延性や磁気的特性が損なわれたりする他、後述するように磁性体層12の形成にあたり、鉄系材料からなるテープなどを用いて溶接する場合にブローホールやその他の溶接不良などが生じたりする恐れがあるからである。磁性体層12を構成する鉄系材料の酸素含有量は、質量割合で例えば50ppm以下、10ppm以下が好ましい。磁性体層12を構成する鉄系材料の水素含有量は、質量割合で例えば10ppm以下、5ppm以下が好ましい。酸素含有量、水素含有量の測定方法は、導体線11で述べた方法を利用できる。
・・磁気的特性
磁性体層12の飽和磁束密度が高いほど、磁性体層12の磁気飽和を抑制し易く、磁性体層12に周囲の交番磁界からの磁束をより多く流せて、導体線11に鎖交し得る磁束をより低減できて好ましい。具体的な飽和磁束密度は、0.5T以上が挙げられ、更に1.0T以上、1.5T以上、1.8T以上、2.0T以上がより好ましい。複数の磁性体層12(多層構造を含む)を備える場合には、いずれの層の飽和磁束密度も高いことが好ましい。鋼含有層の飽和磁束密度は、例えば1.5T以上である。
・・電気的特性
磁性体層12の電気抵抗が大きいほど、磁性体層12自体に渦電流が発生し難く、渦電流損を低減できて好ましい。鋼含有層の比抵抗は、10μΩ・cm以上、更に12μΩ・cm以上が挙げられる。炭素鋼以外の鉄系材料からなる磁性体層の比抵抗は、例えば、20μΩ・cm以上が挙げられる。複数の磁性体層12(多層構造を含む)を備える場合には、いずれの層も比抵抗が高いことが好ましい。
・・面積比
コイル用線材10の横断面における磁性体層12の面積割合が大きいほど、磁路断面積を十分に確保できて磁性体層12の磁気飽和を抑制できる。その結果、磁性体層12に周囲の交番磁界からの磁束を十分に流せて、高い磁気シールド効果が期待できる。
上記面積割合がある程度小さければ、磁性体層12自体に生じ得る渦電流を低減できる上に、大径化の抑制、良好な加工性などが期待できる。
磁気シールド効果、磁性体層12自体での渦電流損の増大抑制などを考慮すると、導体線11と磁性体層12とを合わせた断面積に対する磁性体層12の断面積の比率(面積比)は3%以上40%以下であることが好ましい。面積比は、5%以上30%以下、更に10%以上25%以下がより好ましい。複数の磁性体層12(多層構造を含む)を備える場合には、「磁性体層12の断面積」とは、複数の磁性体層12の断面積の合計とする。
・・不均一層
図3,図4に示す実施形態3のコイル用線材10は、磁性体層12として、コイル用線材10の横断面において導体線11の周面に対する厚さが異なる厚肉部12aと薄肉部12bとを有する不均一層を備える。この不均一層を備えるコイル用線材10によって形成されたコイルは、厚肉部12aが存在する箇所と、薄肉部12bが存在する箇所とを備えるといえる。厚肉部12aが存在する箇所を、コイルにおいて周囲の交番磁界からの磁束を他の領域よりも受け易い鎖交領域に配置されるようにコイルを形成すれば、この不均一層による磁気シールド効果を良好に得られる。かつ、薄肉部12bによって磁性体層12の構成材料の削減、コイル用線材10の小径化、重量の低減による軽量化を図ることができる上に、磁性体層12の具備による剛性の増大を抑制して曲げ加工などを容易に行える。そのため、実施形態3のコイル用線材10は、コイルを形成し易く、コイルの製造性にも優れる上に、スプリングバックを低減できてコイルの保形性にも優れる。
上記鎖交領域は、例えば、以下が挙げられる。
(a)一つのコイルを形成する1本の線材において、ターンをつくる線材同士が隣り合う側の領域
(b)複数のコイルが近接配置される場合に、各コイルにおいて隣り合う側の領域
(c)コイルに近接配置されて磁束(漏れ磁束を含む)を発生し得る部材、例えばコイルが配置される磁性コア、コイルに近接される磁石などがある場合に、コイルにおいてこれらの部材に近接する側の領域
厚肉部12aが厚いほど磁気シールド効果を高められることから、薄肉部12bの最小厚さに対する厚肉部12aの最大厚さの比(厚さ比)が1.1以上であることが好ましい。厚さ比が1.2以上、更に1.4以上、1.5以上であれば、厚肉部12aに周囲の交番磁界からの磁束を十分に通過させて、磁気シールド効果をより高められる。厚肉部12aが厚過ぎると、厚肉部12aに生じる渦電流の増大や、コイル用線材10の加工性の低下などを招き易くなるため、厚さ比の上限は10以下程度、更に5以下程度が挙げられる。
一つの磁性体層12における厚肉部12a、薄肉部12bの判別は、磁性体層12の平均厚さtaを基準として行う。平均厚さtaは以下のように求める。
コイル用線材10の横断面において、測定対象とする一つの磁性体層12の周方向に等間隔に少なくとも10点以上の厚さを測定し、10点以上の厚さの平均をこの磁性体層12の平均厚さtaとする。この測定点には、測定対象の磁性体層12のうち最大厚さtxと最小厚さtnとを含む。
平均厚さtaよりも厚さが厚い部分を厚肉部12aとし、平均厚さta以下の部分を薄肉部12bとし、両部12a,12bを有する磁性体層12を不均一層とする。厚肉部12aは、最大厚さtxをとる最も厚い部分を含む。薄肉部12bは最小厚さtnをとる最も薄い部分を含む。
コイル用線材10の横断面において、導体線11に対する厚肉部12aの存在位置、及び導体線11の周長に対する厚肉部12aの長さ割合は、上述のコイルの鎖交領域に厚肉部12aが配置されるように、上記鎖交領域や導体線11の形状などを考慮して選択するとよい。
上記厚肉部12aの長さ割合が大きいほど、上記鎖交領域に厚肉部12aを確実に配置できて、磁気シールド効果を良好に得られる。上記鎖交領域が小さく、厚肉部12aの長さ割合が小さくてよい場合には、極一部のみが厚く、大半が均一的な厚さである不均一層を備えると、磁性体層12自体に生じ得る渦電流を低減できる上に、曲げ加工などが行い易いコイル用線材10とすることができる。
コイル用線材10の横断面において、導体線11の全周に亘って磁性体層12が存在しており、即ち環状又は枠状の磁性体層12を備える場合に、この磁性体層12が不均一層であれば、その周方向の一部が厚肉部12aであり、残部が薄肉部12bである。
又は、コイル用線材10の横断面において、導体線11の周方向の一部に磁性体層12が存在しておらず、導体線11の外周面が露出した露出領域を備える形態とすることができる。例えば、図3に示す導体線11に対して、C字状の磁性体層12を備える形態が挙げられる。露出領域を備える形態は、磁性体層12自体に生じ得る渦電流を低減でき、より低損失なコイル用線材10とすることができる。また、この形態は、磁性体層12による剛性の向上を低減して曲げ加工などが行い易いと期待される。この磁性体層12の厚さは、その全域に亘って均一的である形態、導体線11の周方向にみて厚さが異なる形態とすることができる。後者の形態は、露出領域と、厚肉部12aと薄肉部12bとを有する不均一層を備える形態といえる。鋼含有層は、このような不均一層とすることができる。
・・厚さ
一つの磁性体層12の平均厚さtaは、例えば10μm超300μm以下、更に30μm以上200μm以下が挙げられる。一つの磁性体層12の最大厚さtxは、例えば10μm超300μm以下、更に30μm以上250μm以下、更に200μm以下が挙げられ、最小厚さtnは、例えば最大厚さtxの2/3以下程度、又は、0μm超270μm以下、更に27μm以上180μm以下が挙げられる。
磁性体層12の厚さが導体線11の周方向にみて均一的な形態(図1,図2)では、磁性体層12の最大厚さtxと最小厚さtnと平均厚さtaとが実質的に等しい。
・その他の特性、構成など
・・(Bs×(t/w))
コイル用線材10は、磁性体層12の飽和磁束密度をBs、コイル用線材10の最大幅をw、磁性体層12の厚さをtとするとき、Bs×(t/w)≧0.01Tを満たすことが好ましい。コイル用線材10の最大幅wが大きいと、導体線11の最大幅も大きい傾向にあり、導体線11における周囲の交番磁界からの磁束が鎖交し得る領域が大きくなり易い。磁性体層12の飽和磁束密度Bsがある程度大きければ磁気飽和し難く、磁性体層12に周囲の交番磁界からの磁束を十分に流せて、磁性体層12の厚さtがある程度小さく薄くても、導体線11に鎖交し得る磁束を低減できる。磁性体層12が薄い場合には、コイル用線材10の小径化、薄肉化を図ることができる。又は、磁性体層12の厚さtがある程度大きければ飽和磁束密度Bsがある程度小さくても、磁性体層12に上記磁束を十分に流せて、導体線11に鎖交し得る磁束を低減できる。この場合、例えば、磁性体層12を構成する磁性材料の選択の自由度を高められる。
飽和磁束密度Bs及び厚さtの双方が大きければ、導体線11に鎖交し得る磁束を更に低減でき、より低損失なコイル用線材10とすることができる。つまり、Bs×(t/w)の値が大きいほど、導体線11の損失の低減効果を高められる傾向にある。従って、Bs×(t/w)は、0.02T以上、更に0.05T以上、0.1T以上がより好ましい。
「コイル用線材の最大幅」は、例えばコイル用線材10の横断面形状が円形(丸線)の場合は直径、楕円の場合は長径、矩形(平角線など)の場合は長辺の長さである。
「磁性体層の厚さ」は、コイル用線材10の横断面において測定した上述の磁性体層12の平均厚さtaである。
複数の磁性体層12(多層構造を含む)を備える場合には、Bs×(t/w)の「t」は、各層の平均厚さtaの合計厚さとする。Bs×(t/w)の飽和磁束密度「Bs」は、各層の飽和磁束密度のうち、最小値をとる層の値とする。
・・機械的特性
コイル用線材10は、コイル成形時に割れたり破断したり過度に変形したりし難いこと、コイル使用時にへたり難いことなどが望まれる。このようなコイル用線材10として、0.2%耐力が60MPa以上であり、破断伸びが5%以上であるものが好ましい。0.2%耐力や破断伸びが高いほど機械的特性に優れて、コイルの製造時に曲げ加工などを行い易く、コイルの使用時にへたり難くなる。そのため、0.2%耐力は70MPa以上、更に80MPa以上がより好ましく、破断伸びは10%以上、更に15%以上がより好ましい。
・・形状
コイル用線材10の形状は、特に限定されない。例えば、コイル用線材10は、横断面形状が円形状(図1〜図3)、楕円形状、レーストラック形状、六角形状や四角形状といった多角形状(図4)など種々の形状の線材とすることができる。コイル用線材10の外形は、導体線11の外形に相似した形状(図1,図2)の場合や、導体線11の外形とは異なる場合(図3,図4)がある。
・・絶縁層
コイル用線材10は、導体線11の外周に絶縁層13を備えることができる。絶縁層13を、磁性体層12の外周(径方向外側)に備える形態α(以下、この絶縁層を外側絶縁層と呼ぶことがある、図示せず)、導体線11と磁性体層12との間に備える形態β(以下、この絶縁層を介在絶縁層と呼ぶことがある、図2)、外側絶縁層と介在絶縁層との双方を備える形態γ(図示せず)、上述のように複数の磁性体層12を備える場合に磁性体層12間に中間絶縁層を備える形態δが挙げられる。代表的には、形態α,γでは外側絶縁層が、形態βでは磁性体層12がコイル用線材10の最外層を形成する。
外側絶縁層を備えるコイル用線材10で形成されたコイルは、外側絶縁層によって、ターン間の絶縁、コイルとその周囲部材との絶縁を図ることができる。また、外側絶縁層は、上述の露出領域を覆うこともできる。
介在絶縁層や中間絶縁層を備えるコイル用線材10で形成されたコイルは、これら絶縁層によって、導体線11と磁性体層12との間の絶縁、磁性体層12間の絶縁を図ることができる。そのため、磁性体層12自体に渦電流が生じても、この渦電流が導体線11や下層の別の磁性体層12に流れることを抑制できて低損失なコイルとすることができる。
絶縁層13の構成材料は、絶縁性樹脂が挙げられる。具体的には、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などが挙げられるが、その限りではない。
絶縁層13は、単層構造又は2層以上の多層構造とすることができる。多層構造の場合には各層の材質を異ならせることもできる。
絶縁層13の厚さは、導体線11に流れる電流の大きさなどに応じて適宜選択できる。例えば、絶縁層13の厚さは、5μm以上500μm以下、更に5μm以上100μm以下が挙げられる。特に下限値は30μm以上、50μm以上が挙げられる。
・・その他の構成層
コイル用線材10は、その最外層に潤滑層(図示せず)を備えたり、導体線11又は磁性体層12と絶縁層13(介在絶縁層、外側絶縁層、中間絶縁層)との間に密着層(図示せず)を備えたりすることなどができる。潤滑性向上剤などの添加剤を配合した潤滑層を備えると潤滑性を高められる。密着性向上剤などの添加剤を配合した密着層を備えると絶縁層13との密着性を高められる。
又は、絶縁層13のうち、コイル用線材10の最外層を形成する外側絶縁層を、潤滑性向上剤などの添加剤を配合して形成したり、絶縁層13に密着性向上剤などの添加剤を配合したりすることなどができる。
潤滑性向上剤は、例えば、流動パラフィン、固形パラフィンなどのパラフィン類、各種ワックスや、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などの潤滑剤が挙げられる。
潤滑層の構成材料は、上記潤滑剤をバインダ樹脂で結着したものが挙げられる。バインダ樹脂は、例えば絶縁層13の項で述べた絶縁性樹脂が挙げられる。潤滑層の構成材料は、パラフィン又はワックスを添加して潤滑性を付与したアミドイミド樹脂が好ましい。
密着性向上剤は、例えば、アセチレン類(1−ヘキシンなど)、アルキノール類(プロパルギルアルコール、1−ヘキシン−3−オールなど)、アルデヒド類(ベンズアルデヒド、桂皮アルデヒドなど)、アミン類(ラウリルアミン、N,N´−ジメチルセチルアミン、トリメチルセチルアンモニウムプロミドなど)、メルカプタン類(セチルメルカプタン、2−メルカプトイミダゾール、5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール−2−チオールなど)、チオ尿素類(チオ尿素、フェニルチオ尿素など)、メラミンなどが挙げられる。
これらの中でも密着性向上効果が大きいものは、メルカプタン類のうち、2−メルカプトイミダゾールである。
(コイル用線材の効果)
実施形態のコイル用線材10は、導体線11の外周に磁性体層12を備えるため、周囲の交番磁界からの磁束が磁性体層12を流れて、導体線11に鎖交しようとする磁束を低減できる。特に、コイル用線材10では、磁性体層12が炭素鋼から形成された鋼含有層を備えるため、磁気シールド効果を良好に発揮することができる上に、鋼含有層自体に生じ得る渦電流を少なくできる。従って、コイル用線材10は、周囲の交番磁界によって導体線11及び磁性体層12自体に生じ得る渦電流を低減して、低損失なコイルを形成できる。このようなコイル用線材10は、例えばモータなどの各種の電気機器に備えるコイルに好適に利用できる。
また、実施形態のコイル用線材10は、鋼含有層の形成に溶接を利用する場合に、溶接に起因する欠陥の発生を低減できて表面性状に優れる鋼含有層を備えられる。絶縁層13を備えるコイル用線材10である場合に、表面性状に優れる鋼含有層の外周に絶縁層13を良好に形成できるため、ピンホールやフクレなどの欠陥の発生を低減でき、絶縁性に優れるコイル用線材10とすることができる。上記欠陥の低減によって歩留りの低下を低減できることから、実施形態のコイル用線材10は、製造性にも優れる。
更に、実施形態のコイル用線材10は、鋼含有層を備えるものの、曲げ加工が行い易いため、巻回に必要な力が小さくてよく、コイル成形後にスプリングバックが生じ難い。そのため、実施形態のコイル用線材10は、寸法精度、形状精度に優れるコイルを形成できてコイルの製造性にも優れる。その他、炭素鋼は、純鉄や高機能磁性材料に比べて低コストであるため、実施形態のコイル用線材10は、磁性体層12に鋼含有層を備えることで経済性にも優れる。
(コイル用線材の製造方法)
コイル用線材10の製造方法として、例えば、以下の嵌合法を利用できる。
・嵌合法
ここでの嵌合法とは、最終的に導体線11となる素材線材を用意し、素材線材に磁性材料からなる部材(以下、磁性部材と呼ぶことがある)を嵌合した状態で、伸線や圧延などの塑性加工を行う方法である。磁性部材が最終的に磁性体層12となる。
(準備工程)素材線材の周囲に磁性部材を配置して、素材線材の外周を磁性部材で覆った準備材を作製する工程。
(嵌合工程)準備材に塑性加工を施して締め付け、素材線材の外周に磁性部材を嵌合した複合材を作製する工程。
(加工工程)複合材が所定の線径となるまで複合材に塑性加工を施して、導体線の外周に磁性体層を形成する工程。
・・準備工程
準備工程において素材線材の外周に磁性部材を配置するには、例えば以下が挙げられる。
(s)磁性材料から構成されるテープやシート、線材を素材線材の周囲に巻く。
(p)磁性材料から構成されるパイプの中に素材線材を挿通する。
(w)磁性材料から構成される線材を素材線材の周囲に軸方向に沿って縦添えする。
素材線材の外周に上述の磁性部材を配置した後、必要に応じて、磁性部材同士の端面や、素材線材と磁性部材とを溶接やロウ付けによって接合すると、次の嵌合工程が行い易い。特に、鋼含有層を形成する場合には、(s)テープなどを巻回して溶接によって固定する、という方法が好適に利用できる。
コイル用線材における最終的な磁性体層の厚さや厚さ比、磁性体層の面積比は、例えば、準備する上述の磁性部材の厚さを調整したり、加工工程での加工度(減面率)を調整したり、断面形状を調整したりすること等で変えられる。所望の厚さ、厚さ比、面積比などを満たす磁性体層が得られるように、導体線の横断面形状、加工度、加工状態などを考慮して、準備する磁性部材の大きさ(厚さなど)を選択するとよい。
素材線材は、代表的には、鋳造⇒熱間加工(圧延、鍛造、押出)⇒冷間加工(圧延、伸線)、適宜熱処理といった工程によって製造できる。
テープ、シート、線材、パイプといった磁性部材は公知の方法によって製造できる。
・・嵌合工程
嵌合工程では、磁性部材を径方向外方から締め付けて、素材線材と磁性部材とを嵌合して一体化する。締付の塑性加工は伸線や圧延などが挙げられる。
・・加工工程
加工工程では、素材線材や磁性部材が所定の大きさ(断面積、厚さなど)、形状となるように伸線や圧延といった塑性加工を行う。周方向にみて肉厚が異なるパイプを利用することもできる。
厚肉部と薄肉部とを備える不均一層を備えるコイル用線材(図3,図4参照)を製造する場合には、加工工程で、磁性部材が特定の厚さ比を満たすと共に、導体線の特定の領域(コイルの鎖交領域に対応する領域)に特定の厚さの部分を有する磁性体層(不均一層)となるように、加工状態を調整することが挙げられる。
例えば、伸線ダイスの形状を変更したり、圧延条件(圧延回数、各パスの圧下率、各パスに用いる圧延ロールの溝形状など)を調整したりして、断面形状を調整すること等が挙げられる。具体的には、図3の上図に示すように丸線の素材線材21の外周に円環状の磁性部材22を備える複合材30を用意し、適宜な形状の伸線ダイスや孔ダイスなどを用いて、外形が楕円状の加工材40を形成し(図3の中図)、この加工材40を円形の伸線ダイスで伸線することで、外形が円形のコイル用線材10を形成することが挙げられる。この丸線のコイル用線材10は、図3の下図に示すように、楕円状の導体線11を有し、導体線11の長径の端部近くの領域に薄肉部12bを有し、その他の領域に厚肉部12aを有する磁性体層12を備える。このように不均一層を備える丸線のコイル用線材10を形成する場合には、中間加工段階で楕円状などとしておき、最終的な加工で円形状に成形することが挙げられる。
又は、図4の上図に示すように矩形線の素材線材21の外周に矩形枠状の磁性部材22を備える複合材30を用意し、対向する二面の中間部を押圧するように圧延を行って各面の中間部が凹んだ異形の加工材40を形成し(図4の中図)、この加工材40に角線加工の圧延を行って、外形が矩形のコイル用線材10を形成することが挙げられる。この角線のコイル用線材10は、図4の下図に示すように、多角形状の導体線11を有し、導体線11における上下方向の中間部近くの領域に薄肉部12bを有し、その他の領域に厚肉部12aを有する磁性体層12を備える。コイル用線材10を角線とする場合に導体線11の短辺と長辺との比(縦横比)に応じて加工を行うことで、不均一層を備えるコイル用線材10を製造できる場合がある。
加工工程では、最終線径や最終形状となるまで加工を繰り返し行うことができる。この場合、必要に応じて、加工と加工との間に熱処理を行う中間熱処理工程を備えることができる。熱処理によって、加工対象を軟化させられて、次の加工を行い易くできる。
加工工程の後に熱処理を行う最終熱処理工程を備えることができる。最終熱処理工程では、軟化によるコイル成形性の改善を図りつつ、導体線の結晶粒径の粗大化を抑制するなどの観点から、熱処理の温度は例えば150℃以上900℃以下、熱処理の時間は例えば1秒以上10時間以下とすることが挙げられる。導体線を銅線とする場合には、最終熱処理の温度を500℃以下とすると平均結晶粒径を200μm以下にし易い。導体線の組成や加工度などを考慮して、上記の範囲から熱処理条件を選択するとよい。
・その他の方法
上述の磁性部材の利用に代えて、各種のめっき法によって素材線材の外周に形成した磁性材料からなるめっき層を利用することができる。加工工程は上述の嵌合法と同様である。
厚肉部と薄肉部とを備える不均一層を備えるコイル用線材の製造にめっき法を利用することができる。この場合、所定の線径及び形状の導体線を用意し、導体線の所定の領域にマスキングを行ってめっきを行った後、マスキングを除去してから再度めっきを行うことで、めっき層の厚さを調整できる。
・絶縁工程
導体線11の外周に絶縁層13を備えるコイル用線材10を製造する場合には、素材線材の外周、導体線11の外周、磁性体層12の外周などに絶縁層を形成する絶縁工程を備えることができる。絶縁層の形成は、例えば、上述の絶縁層13の項で説明した絶縁性樹脂を塗布した後、焼き付けることが挙げられる。
[実施例1]
導体線の外周に磁性材料から構成される磁性体層を備え、更に磁性体層の外周に絶縁層(外側絶縁層)を備えるコイル用線材であって、磁性体層の材質が異なるものについて、通電時の損失を調べた。
この試験では、素材線材として無酸素銅からなる銅線と、表1に示す各種の鉄系材料(炭素鋼、純鉄、パーマロイ、パーメンジュール)から構成される磁性部材とを用意し、嵌合法によってコイル用線材を作製する。用意した鉄系材料(以下のテープ)はいずれも、酸素含有量が10ppm以下、水素含有量が5ppm以下である。各含有量の測定には、不活性ガス融解−赤外線吸収法を用いる。
試料の作製手順の概略は以下の通りである。
直径φ11.5mmの無酸素銅からなる銅線と、上述の鉄系材料からなり、適宜な厚さのテープとを用意し、銅線の外周にテープを巻回して溶接によって固定して準備材を作製する。
上記準備材を伸線ダイスに通して伸線加工を施して締め付け、複合材を作製する。
上記複合材に適宜な形状、大きさの伸線ダイスや圧延ローラを用いて、線材の形状及び大きさが表1に示す形状及び大きさ(長径、短径)となるまで伸線加工、圧延加工を施す。
形状(外形)が楕円である線材は、楕円用の伸線ダイスを用いた伸線加工や、孔型ロールを用いた圧延加工を行う過程を含む。
加工工程では、所定の形状(外形)、大きさとなるまで伸線又は圧延を繰り返す場合には、適宜なパス後に中間熱処理を行い、加工と熱処理とを繰り返し行う。
得られた銅線と鉄系材料からなる被覆とを備える被覆線材に最終熱処理を施した後、絶縁層(厚さ50μm)を形成する。絶縁層は、最終熱処理後の線材の表面にポリアミドイミド樹脂の絶縁塗料を塗布、焼き付けして形成する。
以上の工程を経て、導体線(銅線)の全周に亘ってその表面に鉄系材料からなる環状又は枠状の磁性体層を備え、磁性体層の外周に絶縁層を備えるコイル用線材が得られる。
鉄系材料のテープとして厚さが異なる複数種のものを用意して、磁性体層の厚さ及び面積比をある程度調整する。この試験では、テープの厚さは0.8mm〜2.0mm程度である。
試料No.1−2〜1−4,1−12〜1−14,1−22〜1−24,1−32〜1−34,1−112〜1−114,1−132〜1−134(以下、これらの試料を不均一厚さ試料群と呼ぶことがある)については、伸線ダイスの形状の選択、圧延条件の調整などを行って磁性体層の厚さを調整する。この試験では、後述の損失の測定にあたり、導体線の外周面において磁束に対して実質的に平行に配置される領域に設けられる磁性体層の厚さが他の領域の磁性体層の厚さよりも厚くなるように調整する。
最終熱処理の温度は、200℃以上500℃以下の範囲から選択して、導体線を構成する純銅の平均結晶粒径を調整する。上記の温度範囲では、温度が低いほど平均結晶粒径が小さい傾向にある。
用意した各試料について行う評価は、以下の通りである。
(形状、大きさの測定)
各試料のコイル用線材の横断面を光学顕微鏡で観察し、撮影した顕微鏡写真から、コイル用線材(但し、絶縁層は除く)の大きさ、磁性体層の周方向に等間隔に16点以上測定した厚さの平均値ta、磁性体層の最大厚さtx、最小厚さtnを測定する。
各試料のコイル用線材の大きさは、短辺の長さ及び長辺の長さで示す。形状が円である丸線(直径)及び正方形状である角線では、長辺の長さと短辺の長さとが等しい。形状が楕円である楕円線では、長径を長辺、短径を短辺とする。
磁性体層の最大厚さtxと最小厚さtnとから厚さ比(=tx/tn)を求める。厚さ比が1.0である試料No.1−1,1−11,1−21,1−31,1−101,1−111,1−131,1−135はいずれも、磁性体層の厚さがその全周に亘って均一的であることを意味する。これらの試料(以下、均一厚さ試料群と呼ぶことがある)は、導体線の周方向の全周に亘って、均一的な厚さの磁性体層を備える。
コイル用線材について、絶縁層を除いた導体線と磁性体層との合計断面積に対する磁性体層の断面積の比率(面積比)を求めた。面積比は、顕微鏡写真を画像処理して、材質に基づいて導体線及び磁性体層を抽出し、合計断面積と、磁性体層の断面積とをそれぞれ求めて算出する。画像処理には市販の処理装置を利用できる。
各試料のコイル用線材について、線材の形状、長辺の長さ(mm)及び短辺の長さ(mm)、磁性体層の材質、最大厚さtx(μm)、厚さ比、面積比(%)を表1に示す。
なお、いずれの試料のコイル用線材も、上記横断面において、導体線の全周を覆うように環状又は枠状の磁性体層を備える。
(成分分析)
鉄系材料に炭素鋼を用いた試料について、磁性体層を構成する炭素鋼の成分を調べ、炭素鋼中の炭素、リン、硫黄の合計含有量(質量%)を表1に示す。炭素鋼以外の材料についても調べた結果を表1に示す。ここでは成分分析にICP発光分光分析法を利用したが、その他、原子吸光光度法などが利用できる。
(飽和磁束密度の測定)
振動試料型磁力計(理研電子株式会社製,BHV−5)を用いて磁束密度−磁場曲線を測定し、各試料のコイル用線材の飽和磁束密度を求めて、測定した値を用いて磁性体層の飽和磁束密度を求める。飽和磁束密度は、測定した磁化Mを、磁性体層の体積で除することで求められる。飽和磁束密度(T)を表1に示す。
また、求めた飽和磁束密度をBs、コイル用線材の最大幅(ここでは長辺)をw、磁性体層の厚さ(ここでは平均値ta)をtとしてBs×(t/w)を求め、その結果を表1に示す。
(比抵抗の測定)
各試料のコイル用線材について、磁性体層の比抵抗(μΩ・cm)を、四端子法を利用して測定し、その結果を表1に示す。ここでは、測定用の試験片は、上述の鉄系材料のテープから切り出した長さ150mmのリボンを用いる。各試料の磁性体層から試験片を切り出してもよい。
(硬さの測定)
各試料のコイル用線材について、磁性体層のビッカース硬さHvを測定し、その結果を表1に示す。ここでは、測定用の試験片は、各試料の磁性体層から切り出したが、上述の鉄系材料のテープを切り出して利用することができる。硬さの測定には、市販のビッカース硬さ試験機を利用できる。
(損失の測定)
図5に示す測定回路を構成し、この測定回路を用いて各試料のコイル用線材の損失を求める。図5に示す測定回路100は、ギャップ111が形成されたC字状の磁性コア110と、磁性コア110に巻回された1次コイル121及び2次コイル122と、信号発生器131を有するB−Hアナライザ130とを備える。
コイル用線材の損失の測定は、次のように行う。
コイル用線材を短冊に切断した測定試料Sを磁性コア110のギャップ111に挿入する。図5に示すように測定試料Sの長辺が、磁性コア110を通過する磁束(ここでは上下方向)に平行するように、測定試料Sをギャップ111に挿入する。
B−Hアナライザ130の信号発生器131から励磁信号を発生させ、増幅器132を介して1次コイル121に励磁電流iを流し、ギャップ111に交流磁界を発生させる。交流磁界の測定周波数、磁束密度を変えたときに抵抗133に流れる励磁電流iと2次コイル122の両端に生じた誘起電圧Vとを測定して得られる交流抵抗成分から、測定系の損失を求める。
ここでは、各試料のコイル用線材における導体線と材質・形状・サイズが実質的に同じで、磁性体層を有さない銅線のみからなる比較試料を用意し、同様にして各比較試料の損失も測定しておく。そして、各試料のコイル用線材の損失は、比較試料における損失を100として、これに対する相対値(%)で評価し、その結果を表1に示す。
(平均結晶粒径の測定)
各試料のコイル用線材の横断面を光学顕微鏡で観察して、平均結晶粒径(μm)を求める。ここでは、上記横断面をエッチングして、導体線の断面から結晶組織を露出させて、顕微鏡写真(倍率:25倍〜200倍)を取得する。この顕微鏡写真に対して、JIS H 0501(1986年)に規定された「伸銅品結晶粒度試験方法」に記載の切断法に基づいて平均結晶粒度を測定する。この平均結晶粒度を導体線の平均結晶粒径とし、その結果を表1に示す。
(引張試験)
各試料のコイル用線材について、引張試験機(株式会社島津製作所製,AG−5000D)を用いて引張試験を行って応力−ひずみ曲線を測定し、0.2%耐力(MPa)と破断伸び(%)とを求め、その結果を表1に示す。この引張試験におけるチャック間距離は250mm、クロスヘッド速度は50mm/minである。
(絶縁性)
各試料のコイル用線材について、絶縁層の絶縁性を調べ、その結果を表1に示す。
ここでは、送線されるコイル用線材の途中の適宜な位置であってコイル用線材近傍に電極を配置して、コイル用線材に電圧を印加して通電回数をカウントする。絶縁層に欠陥がある場合にはコイル用線材の導体線と電極との間で通電され、欠陥が多いほど通電回数が多くなる。従って通電回数を欠点の個数とみなせる。送線量(ton)に対する通電回数を検査欠点(個/t)とし、表1に示す。なお、コイル用線材は接地している。
Figure 2017037896
各試料のコイル用線材について、最大厚さtxなどの測定に用いた上述の光学顕微鏡の顕微鏡写真を用いて調べたところ、不均一厚さ試料群はいずれも、平均厚さtaよりも厚さが厚い厚肉部と、平均厚さta以下の薄肉部との双方を有しており、磁性体層を周方向にみると厚さが異なっているといえる。
表1に示すように、磁性体層を備えることで、磁性体層を有しない比較試料よりも低損失であることが分かる。ここではいずれの試料のコイル用線材も、磁性体層を有しない場合の損失の半分以下程度であり、1/4以下程度である試料も多い。特に、磁性体層に炭素鋼を含む鋼含有層を備える試料No.1−1〜1−4,1−11〜1−14,1−21〜1−24,1−31〜1−34のコイル用線材は、純鉄層を備える試料No.1−101やパーマロイ層を備える試料No.1−111〜1−114と比較して、より低損失である。この理由は、純鉄よりも比抵抗が高いことで鋼含有層自体に生じる渦電流を低減でき、パーマロイよりも飽和磁束密度が高いことで鋼含有層に磁束を十分に流せて、導体線に生じる渦電流を低減できたため、と考えられる。
また、炭素鋼はパーマロイやパーメンジュールと比較して硬さが低いことが分かる。そのため、上記鋼含有層を備える試料のコイル用線材は、曲げ加工を行い易く、コイル成形性に優れるといえる。一方、パーメンジュール層を備える試料No.1−131〜1−134のコイル用線材は、低損失であるものの硬く、コイル成形性の点で、上記鋼含有層を備える線材に劣るといえる。
上記鋼含有層を備える試料のコイル用線材のうち、特に、炭素鋼中の炭素、リン、硫黄の合計量が少ないと、好ましくは0.3質量%以下であると、絶縁層を備える場合に絶縁性にも優れることが分かる。この理由は、溶接時にブローホールや水素脆化などの脆化が生じ難く、表面性状に優れる準備材を形成でき、最終的に絶縁層の形成前の素材も表面性状に優れていたため、絶縁層にピンホールやフクレなどの発生を低減できたため、と考えられる。
これらのことから、上記鋼含有層を備える試料のコイル用線材は、低損失なコイルを形成できる上に、コイルの製造性にも優れると期待される。また、絶縁層を備える場合には、コイルの絶縁性にも優れると期待される。
その他、同じ成分の磁性体層を備える場合には、厚肉部と薄肉部とを備えて、その最小厚さと最大厚さとの比(厚さ比)が1.1以上を満たすと、厚さ比が1.0である場合、即ち磁性体層の全域に亘って厚さが均一的である場合に比較して、損失を更に低減できることが分かる。また、厚さ比がより大きいほど(例えば1.5以上)、損失を更に低減できることが分かる。更に、均一厚さ試料群の磁性体層の厚さと、厚肉部を備える試料の最大厚さとがほぼ同程度である場合でも、厚肉部を備える試料の方が損失を低減できるといえる。
このような結果が得られた理由として、以下が考えられる。
・ 厚肉部が磁束に平行に配置されることで磁路断面積を十分に大きく確保でき、この厚肉部に磁束を十分に流せて、導体線に流れようとする磁束を低減できたこと
・ 薄肉部を備えることで、磁性体層自体に生じ得る渦電流を低減できたこと
・ 磁性体層の面積比が3%以上40%以下を満たすこと、Bs×(t/w)≧0.01T以上、更に0.1T以上を満たすことで、導体線に対して磁性体層を十分に有することができたこと
その他、導体線の平均結晶粒径が200μm以下であると、0.2%耐力が60MPa以上、かつ破断伸びが5%以上、ここでは更に10%以上であり、優れた機械的特性を有していることが分かる。平均結晶粒径が150μm以下であれば、0.2%耐力が80MPa以上であり、90MPa以上である試料も多い。平均結晶粒径が100μm以下であれば、0.2%耐力が100MPa以上、平均結晶粒径が70μm以下であれば、0.2%耐力が120MPa以上であり、更に高強度である。また、この試験では、破断伸びが10%以上である。従って、より高強度でありながら、伸びにも優れることが分かる。
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
本発明のコイル用線材は、モータ、トランス(変圧器)、リアクトル、IHヒータ(誘導加熱装置)などに備えるコイルに利用できる。
10 コイル用線材
11 導体線 12 磁性体層 13 絶縁層
12a 厚肉部 12b 薄肉部
21 素材線材 22 磁性部材 30 複合材 40 加工材
S 測定試料(コイル用線材)
100 測定回路
110 磁性コア 111 ギャップ 121 1次コイル 122 2次コイル
130 B−Hアナライザ 131 信号発生器 132 増幅器 133 抵抗

Claims (8)

  1. 導体線と、
    前記導体線の外周に磁性材料によって形成された磁性体層とを備え、
    前記磁性体層は、炭素鋼によって形成された鋼含有層を備えるコイル用線材。
  2. 前記炭素鋼における炭素と、リンと、珪素との合計含有量が0超0.3質量%以下である請求項1に記載のコイル用線材。
  3. 前記磁性体層は、前記導体線の軸方向に直交する断面において周方向にみて、厚さが異なる厚肉部と薄肉部とを有する不均一層を備え、
    前記薄肉部の最小厚さに対する前記厚肉部の最大厚さの比が1.1以上である請求項1又は請求項2に記載のコイル用線材。
  4. 前記導体線と前記磁性体層とを合わせた断面積に対する前記磁性体層の断面積の比率が3%以上40%以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のコイル用線材。
  5. 前記磁性体層の飽和磁束密度をBs、前記コイル用線材の最大幅をw、前記磁性体層の厚さをtとするとき、Bs×(t/w)≧0.01Tを満たす請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のコイル用線材。
  6. 前記導体線を構成する金属の平均結晶粒径が200μm以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のコイル用線材。
  7. 0.2%耐力が60MPa以上であり、破断伸びが5%以上である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のコイル用線材。
  8. 前記導体線の外周に絶縁層を備える請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のコイル用線材。
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