JP2017032503A - 残留塩素測定システム、残留塩素測定方法、及びプログラム - Google Patents

残留塩素測定システム、残留塩素測定方法、及びプログラム Download PDF

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Abstract

【課題】pH調整試薬や電極式のpH計を用いることなく、吸光光度法によって、pHの影響を補正した遊離塩素濃度を求める。【解決手段】試料液の第1の波長λ1(但し、230nm≦λ1≦260nm)における吸光度A1と第2の波長λ2(但し、270nm≦λ2≦320nm)における吸光度A2を測定する吸光光度計10と、記憶部21と演算部22とを有し、吸光光度計10で得られる吸光度が入力される演算装置20を備え、演算部22は、吸光度に基づき、測定対象液のpHであるpHXを算出するステップ1と、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度NfX’を求めるステップ2と、pHXを用いて、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度NfX’を、遊離塩素濃度NfXに補正するステップ3を行うことを特徴とする残留塩素測定システム。【選択図】図1

Description

本発明は残留塩素測定システム、残留塩素測定方法、及びプログラムに関する。さらに詳しくは、吸光光度法によるpH算出方法により得られたpHの値を用いて、吸光光度法により遊離塩素を測定する残留塩素測定システム、残留塩素測定方法、並びに残留塩素測定システムに必要な処理を行わせるプログラムに関する。
塩素処理は、上水、下水、工業用水、排水、食品洗浄水、プール水等、種々の水に対して、これを消毒するために行われている。この塩素処理において使用される塩素剤は、消毒するために十分な量を消毒対象の水中に投入しなければならないが、あまり過剰に投入することは、環境に悪影響を及ぼしたり、人体に害を与えたりするため望ましくない。また、近年水道水を「おいしい水」にするためにカルキ臭の原因である残留塩素濃度の低減化に向けた取り組みが始まっている。そこで、塩素剤を投入した水の残留塩素濃度を測定することが行われている。
残留塩素には、塩素剤が水に溶けて生成する次亜塩素酸(遊離塩素)と、これがアンモニア性窒素と結合して生じるクロロアミン(結合塩素)とがあり、遊離塩素濃度と結合塩素濃度とを合わせたものが、全残留塩素濃度である。
この残留塩素濃度を測定する手分析法としては、o−トリジン比色法(OT法)、ジエチル−p−フェニレンジアミン比色法(DPD法)、よう素滴定法等が用いられている。
しかし、手分析法は煩雑であると共に測定データが間欠的にしか得られないため、従来からポーラログラフ法による残留塩素測定装置が使用されている。このポーラログラフ法は、測定原理上、試料水の電気伝導率やpHの変動、結合塩素の共存などにより影響を受けやすい。また、ポーラログラフ法に用いる電極は研磨が必要であり、電極を研磨するための駆動部が必要になると共に研磨に用いるビーズのくずが発生する等の問題もある。
また、遊離塩素は290nm付近に、結合塩素は245nm付近に吸収があるため、吸光光度法による残留塩素測定方法も知られている。
しかし、290nm付近の吸光度により求めた遊離塩素濃度は、pHの影響を受ける。すなわち、290nm付近に吸収があるのは、遊離塩素の内でも次亜塩素酸イオン(ClO)の形態のものであり、次亜塩素酸(HClO)の形態のものは吸収がない。遊離塩素に占める次亜塩素酸イオンの割合はpHに依存するので、吸光光度法による残留塩素の測定はpHに依存することとなる。
そこで、特許文献1では、別途pH計により測定したpH値に基づき、吸光光度法により求めた濃度を補正することが行われている。
また、特許文献2では、電解水製造装置で製造した強酸性水に含まれる次亜塩素酸の濃度を測定するために、強酸性水に陰極側に発生した強アルカリ水を混合して、次亜塩素酸イオン濃度がほぼ100%となる強アルカリ性に調整してから吸光光度法により測定することが行われている。
特公昭61−33605号公報 特開2000−343080号公報
しかし、特許文献1の場合、吸光光度計の他に、別途pH電極を用いたpH計を用意してpHを測定しなければならない。
また、特許文献2のようにpHを調整することも考えられるが、pHを調整するためにはpH調整試薬が必要である。特許文献2では、電解水製造装置に係る発明のため、陰極側に発生した強アルカリ水を利用できるが、上水等の残留塩素を測定する場合は、pH調整試薬を別途用意しなければならない。
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、pH調整試薬や電極式のpH計を用いることなく、吸光光度法によって、pHの影響を補正した遊離塩素濃度を求められる残留塩素測定システム、残留塩素測定方法を提供することを課題とする。
また、残留塩素測定システムに必要な処理を行わせるプログラムを提供することを課題とする。
上記の課題を達成するために、本発明は、以下の構成を採用した。
[1]試料液の第1の波長λ1(但し、230nm≦λ1≦260nm)における吸光度A1と第2の波長λ2(但し、270nm≦λ2≦320nm)における吸光度A2を測定する吸光光度計と、
記憶部と演算部とを有し、前記吸光光度計で得られる吸光度が入力される演算装置を備え、
前記記憶部は、下記の関数f、f及びfの何れか一方、並びにfとpHを記憶し、
前記演算部は、前記吸光光度計から入力された吸光度と前記記憶部の情報に基づき、下記のステップS1〜S3を行うことを特徴とする残留塩素測定システム。
[ステップS1]下式(1)に基づき、測定対象液のpHであるpHを算出するステップ。
pH=f(A1,A2,A2/A1
=a×A1+b×A2+c×A2/A1+d ・・・(1)
A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A1。
A2:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2。
A2/A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)。
:吸光度A1、吸光度A2、及び吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、pHを示す関数。
a、b、c、d:統計解析により求めた係数。
[ステップS2]下式(2)または下式(3)に基づき、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度Nf’を求めるステップ。
Nf’=f(A2) ・・・(2)
Nf’=f(A2/A1) ・・・(3)
:pHがpHである校正液を試料液として求めた、吸光度A2を変数とする、遊離塩素濃度を示す関数。
:pHがpHである校正液を試料液として求めた、吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、遊離塩素濃度の関数。
[ステップS3]下式(4)に基づき、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度Nf’を、遊離塩素濃度Nfに補正するステップ。
Nf=Nf’×f(pH)/f(pH)・・・(4)
:pHを変数とする、遊離塩素に占める次亜塩素酸イオンの存在比率(%)を示す関数。
[2]前記記憶部は、さらに下記の関数fを記憶し、
前記演算部は、さらに下記のステップS4を行う[1]に記載の残留塩素測定システム。
[ステップS4]:下式(5)に基づき、測定対象液の結合塩素濃度Ncを求めるステップ。
Nc=f(A1) ・・・(5)
:校正液を試料液として求めた、吸光度A1を変数とする、結合塩素濃度の関数。
[3]前記吸光光度計は、さらに試料液の第3の波長λ3(但し、600nm≦λ3≦700nm)における吸光度A3を測定するものであり、
前記記憶部は、さらに下記の関数f、fを記憶し、
前記演算部は、下式(6)、下式(7)により吸光度A1及び吸光度A2を補正する[1]または[2]に記載の残留塩素測定システム。
A1=f(A1’,A3)・・・(6)
A2=f(A2’,A3)・・・(7)
A1’:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ1における吸光度。
A2’:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ2における吸光度。
A3:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ3における吸光度。
:吸光度A1’及び吸光度A3を変数とする、補正後の吸光度A1の関数。
:吸光度A2’及び吸光度A3を変数とする、補正後の吸光度A2の関数。
[4]測定対象液を試料液として、第1の波長λ1(但し、230nm≦λ1≦260nm)における試料液の吸光度A1と第2の波長λ2(但し、270nm≦λ2≦320nm)における試料液の吸光度A2を測定し、
測定した吸光度を用いて下記のステップS1〜S3を行い、測定対象液の遊離塩素濃度Nfを求める残留塩素測定方法。
[ステップS1]下式(1)に基づき、測定対象液のpHであるpHを算出するステップ。
pH=f(A1,A2,A2/A1
=a×A1+b×A2+c×A2/A1+d ・・・(1)
A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A1。
A2:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2。
A2/A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)。
:吸光度A1、吸光度A2、及び吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、pHを示す関数。
a、b、c、d:統計解析により求めた係数。
[ステップS2]下式(2)または下式(3)に基づき、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度Nf’を求めるステップ。
Nf’=f(A2) ・・・(2)
Nf’=f(A2/A1) ・・・(3)
:pHがpHである校正液を試料液として求めた、吸光度A2を変数とする、遊離塩素濃度を示す関数。
:pHがpHである校正液を試料液として求めた、吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、遊離塩素濃度の関数。
[ステップS3]下式(4)に基づき、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度Nf’を、遊離塩素濃度Nfに補正するステップ。
Nf=Nf’×f(pH)/f(pH)・・・(4)
:pHを変数とする、遊離塩素に占める次亜塩素酸イオンの存在比率(%)を示す関数。
[5]さらに、下記のステップS4を行い、測定対象液の結合塩素濃度Ncを求める[4]に記載の残留塩素測定方法。
[ステップS4]:下式(5)に基づき、測定対象液の結合塩素濃度Ncを求めるステップ。
Nc=f(A1) ・・・(5)
:校正液を試料液として求めた、吸光度A1を変数とする、結合塩素濃度の関数。
[6]さらに、測定対象液を試料液として第3の波長λ3(但し、600nm≦λ3≦700nm)における試料液の吸光度A3を測定し、
下式(6)、下式(7)により吸光度A1及び吸光度A2を補正する[4]または[5]に記載の残留塩素測定方法。
A1’:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ1における吸光度。
A2’:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ2における吸光度。
A3:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ3における吸光度。
:吸光度A1’及び吸光度A3を変数とする、補正後の吸光度A1の関数。
:吸光度A2’及び吸光度A3を変数とする、補正後の吸光度A2の関数。
[7]試料液の第1の波長λ1(但し、230nm≦λ1≦260nm)における吸光度A1と第2の波長λ2(但し、270nm≦λ2≦320nm)における吸光度A2を測定する吸光光度計、並びに記憶部及び演算部を有し、前記吸光光度計で得られる吸光度が入力される演算装置を備える残留塩素測定システムに、前記吸光光度計から入力された吸光度と前記記憶部が記憶する関数に基づき、以下のステップS1を実行させるプログラム。
[ステップS1]下式(1)に基づき、測定対象液のpHであるpHを算出するステップ。
pH=f(A1,A2,A2/A1
=a×A1+b×A2+c×A2/A1+d ・・・(1)
A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A1。
A2:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2。
A2/A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)。
:吸光度A1、吸光度A2、及び吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、pHを示す関数。
a、b、c、d:統計解析により求めた係数。
[8]試料液の第1の波長λ1(但し、230nm≦λ1≦260nm)における吸光度A1と第2の波長λ2(但し、270nm≦λ2≦320nm)における吸光度A2を測定する吸光光度計、並びに記憶部及び演算部を有し、前記吸光光度計で得られる吸光度が入力される演算装置を備える残留塩素測定システムに、前記吸光光度計から入力された吸光度と前記記憶部が記憶する関数とpHに基づき、以下のステップS1〜S3を実行させるプログラム。
[ステップS1]下式(1)に基づき、測定対象液のpHであるpHを算出するステップ。
pH=f(A1,A2,A2/A1
=a×A1+b×A2+c×A2/A1+d ・・・(1)
A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A1。
A2:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2。
A2/A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)。
:吸光度A1、吸光度A2、及び吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、pHを示す関数。
a、b、c、d:統計解析により求めた係数。
[ステップS2]下式(2)または下式(3)に基づき、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度Nf’を求めるステップ。
Nf’=f(A2) ・・・(2)
Nf’=f(A2/A1) ・・・(3)
:pHがpHである校正液を試料液として求めた、吸光度A2を変数とする、遊離塩素濃度を示す関数。
:pHがpHである校正液を試料液として求めた、吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、遊離塩素濃度の関数。
[ステップS3]下式(4)に基づき、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度Nf’を、遊離塩素濃度Nfに補正するステップ。
Nf=Nf’×f(pH)/f(pH)・・・(4)
:pHを変数とする、遊離塩素に占める次亜塩素酸イオンの存在比率(%)を示す関数。
[9]前記演算部に、前記ステップS1〜S3に加えて、さらに、以下のステップS4を実行させる[8]に記載のプログラム。
[ステップS4]:下式(5)に基づき、測定対象液の結合塩素濃度Ncを求めるステップ。
Nc=f(A1) ・・・(5)
:校正液を試料液として求めた、吸光度A1を変数とする、結合塩素濃度の関数。
[10]吸光光度計が試料液の第3の波長λ3(但し、600nm≦λ3≦700nm)における吸光度A3をさらに測定する前記残留塩素測定システムの前記演算部に、下式(6)、下式(7)により吸光度A1及び吸光度A2を補正させる[7]〜[9]のいずれか一項に記載のプログラム。
A1=f(A1’,A3)・・・(6)
A2=f(A2’,A3)・・・(7)
A1’:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ1における吸光度。
A2’:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ2における吸光度。
A3:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ3における吸光度。
:吸光度A1’及び吸光度A3を変数とする、補正後の吸光度A1の関数。
:吸光度A2’及び吸光度A3を変数とする、補正後の吸光度A2の関数。
本発明の残留塩素測定システム、残留塩素測定方法によれば、pH調整試薬や電極式のpH計を用いることなく、吸光光度法によって、pHの影響を補正した遊離塩素濃度を求められる。
また、本発明のプログラムによれば、本発明のシステムに必要な処理を行わせることができる。
本発明の1実施形態に係る残留塩素測定システムの全体構成図である。 種々のpHにおける遊離塩素と結合塩素の吸収スペクトル図である。 290nmにおける吸光度に対する遊離塩素濃度(DPD分析値)の関係を示す検量線である。 290nmにおける吸光度と245nmにおける吸光度の比に対する遊離塩素濃度(DPD分析値)の関係を示す検量線である。 pH6〜8の範囲における結合塩素濃度(DPD分析値)と245nmにおける吸光度の関係を示す検量線である。 次亜塩素酸イオンと次亜塩素酸の存在比率(%)のpH依存性を示す図である。 pH6〜8の範囲における次亜塩素酸イオンの存在比率(%)を示す図である。 pHを算出するための関数を、統計解析で求める方法の説明図である。
<残留塩素測定システム>
本発明の1実施形態に係る残留塩素測定システムについて図1を用いて説明する。本実施形態の残留塩素測定システムは、吸光光度計10と、吸光光度計10で得られる吸光度が入力される演算装置20とから構成されている。
吸光光度計10は、光源11と光源11から発せられた光を略平行光にするコリメートレンズ12と、該コリメートレンズ12により略平行光に変換された光を集光する集光レンズ13と、これらのレンズ12,13間の光路上に配置された測定セル14と、集光レンズ13の集光位置近傍に設けられたスリット15と、スリット15を通過した光を集光し、その波長に応じて特定の方向に回折させる凹面回折格子16と、該凹面回折格子16により分光された光のスペクトルを検出する光検出器17とから概略構成されている。
光源11としては、以下の第1の波長λ1から第3の波長λ3までの光を含む光源を用いることが好ましい。例えば、キセノンフラッシュランプ、LED等を使用することができる。
230nm≦λ1≦260nm
270nm≦λ2≦320nm
600nm≦λ3≦700nm
第1の波長λ1は、主として結合塩素が吸収を示す波長である。結合塩素による第1の波長λ1の吸光度は、pHの影響を殆ど受けない。遊離塩素による第1の波長λ1の吸光度は小さく、また、pHの影響も小さい。
第1の波長λ1は、240nm≦λ1≦250nmであることが好ましい。
第2の波長λ2は、主として遊離塩素が吸収を示す波長である。遊離塩素による第2の波長λ2の吸光度は、pHの影響を大きく受ける。結合塩素による第2の波長λ2の吸光度は極めて小さい。
第2の波長λ2は、280nm≦λ2≦300nmであることが好ましい。
第3の波長λ3は、濁度に依存する吸収を示す波長である。濁質は、第1の波長λ1と第2の波長λ2においても吸収を示す。第3の波長λ3における吸光度により、第1の波長λ1と第2の波長λ2における濁度の影響を除く補正ができる。
第3の波長λ3は、650nm≦λ3≦670nmであることが好ましい。
測定セル14は、試料液を収容可能な有底筒状のセルでもよいし、試料液が流通可能なフローセルであってもよい。測定セル14の光路上に配置される部分は、第1の波長から第3の波長までの光を透過可能な透明な材質で形成されている。
スリット15は、凹面回折格子16のブレーズ方向に直交する方向に延びる細長い隙間を有し、集光レンズ13によって集光された光の一部を通過させるようになっている。スリット15によって、測定されるスペクトルのスペクトル純度が決定される。
凹面回折格子16は、スリット15を通過した光を集光し、その波長に応じて特定の方向に回折させるようになっている。光検出器17は、凹面回折格子16のブレーズ方向に平行に複数の検出チャネルを配列してなるマルチチャネル検出器である。
本実施形態の吸光光度計10によれば、複数の波長における吸光度を実質的に同時に得られる。本発明では、第1の波長λ1における吸光度を吸光度A1と称し、第2の波長λ2における吸光度を吸光度A2と称し、第3の波長λ3における吸光度を吸光度A3と称す。
演算装置20は、記憶部21と演算部22を有している。記憶部21は、本発明の残留塩素測定方法を行うために必要な関数と、校正液のpHであるpHを記憶している。本明細書において、関数とは本発明の残留塩素測定方法において使用するf〜fの関数である。なお、fとfの関数は、いずれか一方を記憶していればよい。なお、関数は式の形に限らず、表の形で記憶されていてもよい。
記憶部21の記憶内容の全部または一部は、図示を省略する操作部によって、書き換え可能とされていることが好ましい。
演算部22には、本発明のプログラムが組み込まれており、当該プログラムに従い、吸光光度計10から入力される吸光度と記憶部21の情報に基づいて、後述する本発明の残留塩素測定方法の各ステップを行うようになっている。
<試料液>
本発明における試料液は、測定対象液または校正液である。測定対象液は、本発明の残留塩素測定システムまたは残留塩素測定方法により、残留塩素濃度を求めようとする試料液である。校正液は、本発明の残留塩素測定システムまたは残留塩素測定方法における各種関数の係数等を求めるための試料液である。
測定対象液としては、常時は残留塩素濃度とpHをコントロールされている試料が好ましい。例えば、水道水、下水放流水、越流水が挙げられる。
測定対象液のpHは6〜9の範囲であることが好ましい。また、次亜塩素酸イオンの濃度が、0.15mg/L以上であることが好ましい。本発明におけるpH算出は、次亜塩素酸イオンが存在する条件で成立すると考えられるからである。次亜塩素酸イオン濃度は、pHに依存するので、例えば、pH7.3であれば、遊離塩素濃度は0.5mg/L以上であることが好ましい。測定対象液の遊離塩素濃度は、5mg/L以下であることが好ましい。
校正液の残留塩素濃度範囲は、測定対象液が通常取り得る遊離塩素濃度範囲や結合塩素濃度範囲に分散していることが好ましい。
校正液は、測定対象液と同等のpHのものを使用することが好ましい。例えば、測定対象液がpH7.5前後に制御されている場合は、pH7.5程度に調整された校正液を用いることが好ましい。
校正液としては、少なくともゼロ液とスパン液を用いることが好ましい。ゼロ液は、ゼロ校正値を得るための校正液である。また、スパン液は、測定対象液が通常取り得る遊離塩素濃度ないしは結合塩素濃度の上限値付近の塩素濃度の校正液である。
また、共存成分の影響を考慮するため、校正液は、測定対象液と同等の試料液をベースに調製することが好ましい。例えば、測定対象液が水道水の場合、水道水の塩素分を除いた、脱塩素水をベースとし、これに次亜塩素酸塩やアンモニウム塩等を添加して調製することが好ましい。
塩素分の除去方法としては、塩素分を揮発させる方法や活性炭等に吸着させる方法が挙げられる。
ゼロ液としては、脱塩素水の他、純水を用いてもよい。
校正液の残留塩素濃度は、DPD法の他、o−トリジン比色法(OT法)、よう素滴定法等により確認することができる。
<残留塩素測定方法>
本発明の一実施形態に係る残留塩素測定方法は、以下のステップS1〜S4を行うようになっている。
[ステップS1]
ステップS1は、下式(1)に基づき、測定対象液のpHであるpHを算出するステップである。
pH=f(A1,A2,A2/A1
=a×A1+b×A2+c×A2/A1+d ・・・(1)
A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A1。
A2:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2。
A2/A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)。
:吸光度A1、吸光度A2、及び吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、pHを示す関数。
a、b、c、d:統計解析により求めた係数。
は、吸光度A1、吸光度A2、及び吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を説明変数とし、pHを目的変数とする統計解析により得られる関数である。本発明における統計解析としては、多変量データを解析することができる重回帰分析や判別分析等の手法が挙げられる。
係数a〜dを得るためのデータとしては、多数の試料液についてpH電極を用いて測定したpHと、吸光光度計を用いて測定した吸光度A1及び吸光度A2との組み合わせを用いる。
解析の精度を高めるため、係数a〜dを得るために用いる試料液のpH範囲は、測定対象液が通常取り得るpH範囲全体に分散していることが好ましい。また、遊離塩素濃度も吸光度A1、吸光度A2に影響を与えることから、係数a〜dを得るために用いる試料液の遊離塩素濃度範囲は、測定対象液が通常取り得る遊離塩素濃度範囲全体に分散していることが好ましい。
また、共存成分の影響を考慮するため、測定対象液と同等の試料液を用いてデータを取ることが好ましい。例えば、測定対象液が水道水の場合、係数a〜dを得るために用いる試料液は、水道水の塩素分を除いた脱塩素水をベースとして調製することが好ましい。
なお、本発明者は、当初、遊離塩素濃度を説明変数の一部とする解析を試みたが、遊離塩素濃度を説明変数の一部としてpHを予測する関数を導くことはできなかった。そして、意外にも、遊離塩素濃度を説明変数として使用せず、吸光度A1、吸光度A2、及び吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を説明変数としたfにより、pHを予測できることを見出した。そして、fにより算出したpHにより、吸光光度法により求めた遊離塩素濃度の補正が可能であることを見出した。
係数a〜dは、固定値として記憶部21に記憶されていてもよいが、係数dについては、関数fにより求めたpHとpH電極で求めたpHとのずれを校正液等により確認した際に、当該ずれを解消するよう係数dの値を更新することが好ましい。
[ステップS2]
ステップ2は、下式(2)または下式(3)に基づき、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度Nf’を求めるステップである。
Nf’=f(A2) ・・・(2)
Nf’=f(A2/A1) ・・・(3)
:pHがpHである校正液を試料液として求めた、吸光度A2を変数とする、遊離塩素濃度を示す関数。
:pHがpHである校正液を試料液として求めた、吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、遊離塩素濃度の関数。
としては、たとえば、以下の式(2−1)が挙げられる。
(A2)=e×(A2−g)・・・(2−1)
e:遊離塩素のスパン係数。
g:遊離塩素のゼロ校正値。
スパン係数e、ゼロ校正値gを得るためのデータとしては、pH電極を用いて測定したpHがpHである校正液について、吸光光度計を用いて測定した吸光度A2と、手分析法により求めた遊離塩素濃度Nfとの組み合わせを用いる。
としては、たとえば、以下の式(3−1)が挙げられる。
(A2/A1)=h×{(A2/A1)−i} ・・・(3−1)
h:遊離塩素のスパン係数。
i:遊離塩素のゼロ校正値。
スパン係数h、ゼロ校正値iを得るためのデータとしては、pH電極を用いて測定したpHがpHである校正液について、吸光光度計を用いて測定した吸光度A2及び吸光度A1と、手分析法により求めた遊離塩素濃度Nfを用いる。
スパン係数e、h、ゼロ校正値g、iは、固定値として記憶部21に記憶されていてもよいが、定期的な校正作業の都度、更新することが好ましい。
ステップS2では、pHがpHである校正液を用いて得られた式(2)または式(3)を用いている。吸光度と遊離塩素濃度との関係はpHの影響を受けるので、式(2)または式(3)を用いて得られた遊離塩素濃度Nf’は、見かけの遊離塩素濃度である。そのため、以下のステップS3により、本来の遊離塩素濃度Nfに換算する。
[ステップS3]
ステップS3は、下式(4)に基づき、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度Nf’を、遊離塩素濃度Nfに補正するステップである。
Nf=Nf’×f(pH)/f(pH)・・・(4)
:pHを変数とする、遊離塩素に占める次亜塩素酸イオンの存在比率(%)を示す関数。
はpH6〜9の範囲の関数とすることが好ましい。例えばpH6〜8の範囲では二次関数状となるため、以下の式(4−1)で近似できる。
(pH)=j×(pH)+k×(pH)+m ・・・(4−1)
j、k、m:酸解離定数より求めた次亜塩素酸イオンの存在比率(%)を二次関数に近似した際の係数。
係数j、k、mは、次亜塩素酸イオンの存在比率(%)を、pH6〜8の内、どのpH範囲で二次関数に近似するかにより異なる。係数j、k、mは、近似するpHの範囲を一定とするのであれば、固定値として記憶部21に記憶されていてもよい。係数jの値は10〜30の範囲であり、係数kの値は−100〜−250の範囲であり、係数mの値は400〜600の範囲である。
[ステップS4]
ステップ4は、下式(5)に基づき、測定対象液の結合塩素濃度Ncを求めるステップである。なお、ステップ4は、ステップ1〜3と同時に行ってもよいし、ステップ1〜3の前または後に行ってもよい。
Nc=f(A1) ・・・(5)
:校正液を試料液として求めた、吸光度A1を変数とする、結合塩素濃度の関数。
としては、たとえば、以下の式(5−1)が挙げられる。
(A1)=n×(A1−o) ・・・(5−1)
n:結合塩素のスパン係数。
o:結合塩素のゼロ校正値。
スパン係数n、ゼロ校正値oを得るためのデータとしては、校正液について、吸光光度計を用いて測定した吸光度A1と、手分析法により求めた結合塩素濃度Ncを用いる。なお、吸光度と結合塩素濃度との関係はpHの影響を殆ど受けないため、校正液のpHは、測定対象液が通常取り得るpHであれば特に考慮しなくてよい。
スパン係数n、ゼロ校正値oは、固定値として記憶部21に記憶されていてもよいが、定期的な校正作業の都度、更新することが好ましい。
上記ステップS1〜S4で使用される吸光度A1、A2は、試料液に濁質が含まれる場合に影響を受ける。そのため、吸光度A3を用いて、下式(6)、下式(7)により濁度補正することか好ましい。
A1=f(A1’,A3)・・・(6)
A2=f(A2’,A3)・・・(7)
A1’:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ1における吸光度。
A2’:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ2における吸光度。
A3:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ3における吸光度。
:吸光度A1’及び吸光度A3を変数とする、補正後の吸光度A1の関数。
:吸光度A2’及び吸光度A3を変数とする、補正後の吸光度A2の関数。
としては、たとえば、以下の式(6−1)が挙げられる。
(A1’,A3)=A1’−p×A3・・・(6−1)
p:補正係数。
としては、たとえば、以下の式(7−1)が挙げられる。
(A2’,A3)=A2’−q×A3・・・(7−1)
q:補正係数。
係数p、qを得るためのデータとしては、濁度標準液(カオリン、ホルマジン、PSL標準液等)を適宜希釈した溶液について、吸光光度計を用いて測定した吸光度A1と吸光度A3との組み合わせ、またはた吸光度A2と吸光度A3との組み合わせを用いる。
係数p、qは、それほど大きく変動することはないので、固定値として記憶部21に記憶されていてもよい。
係数pの値は0を超え1.0以下の範囲であり、係数qの値は0を超え1.0以下の範囲である。
なお、本発明の残留塩素測定方法において用いる吸光度は、純水や空気等の参照試料の吸光度を差し引いてゼロ補正した吸光度であることが好ましい。
そのため、本発明の残留塩素測定システムにおける吸光光度計は、測定試料と参照試料の吸光度を同時に測定できる、いわゆるダブルビーム型の分光光度計を用いてもよい。また、標準光束と測定光束の2光束を高速で切り換える自記分光光度計や、設定されたインターバルでゼロを定期的に補正するオンライン分光光度計を用いてもよい。
また、上記実施形態の残留塩素測定システムの吸光光度計は、測定セル14を通過した後の光を分光する態様としたが、測定セル14に入射する前に分光する態様であってもよい。また、分光する手段は回折格子に限定されず、例えば、金属干渉フィルター等を用いて波長を選択してもよい。また、光検出器はマルチチャネル検出器に限定されず、例えば、フォトダイオード、光電子増倍管を使用してもよい。
また、上記実施形態では、演算部22に各ステップを実行させるためのプログラムが演算装置20内の演算部22に組み込まれている態様としたが、演算装置20の機能の一部または全部は、直接または通信システムを利用して接続された外部コンピュータに担わせてもよい。
その場合、プログラムは、予めコンピュータに記録されていてもよいし、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータに読み込ませてもよい。
また、予めコンピュータに記録されているプログラムと、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録し、コンピュータに読み込ませるプログラムとを組み合わせてもよい。
また、上記実施形態の残留塩素測定システムではステップS1〜S4を行う態様としたが、ステップS4は省略してもよい。
また、ステップS3で遊離塩素濃度Nfを求めた後、関数fを用いて、次亜塩素酸イオン濃度と次亜塩素酸濃度の各々を計算してもよい。
<試料液の調製>
以下の実施例および実験例で用いた試料液は、以下の原液等を用いて調製した。
脱塩素水:水道水中の塩素を活性炭に吸着させた後に中空糸膜で濾過した水。
次亜塩素酸ナトリウム原液:約12質量%の次亜塩素酸ナトリウム溶液を純水で希釈して次亜塩素酸濃度1000mg/Lに調整したもの。
東亜ディーケーケー(株)製アンモニア標準液(1000mg/L)。
NaOH溶液:水酸化ナトリウムの約0.5質量%水溶液。
HCl溶液:約0.5質量%塩酸。
<DPD法による残留塩素濃度の測定>
各試料液のDPD法による残留塩素濃度は、上水試験方法2011年版「30.3 ジエチル−p−フェニレンジアミンによる吸光光度法」(以下「DPD法」という。)に従って求めた。具体的には以下のように測定した。
(a)DPD試薬の作製
N,N−ジエチル−フェニレンジアミン硫酸塩1.0gと無水硫酸ナトリウム24gを混合して、DPD(N,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン)試薬を作製した。
(b)リン酸緩衝液(pH=6.5)の調製
0.2mol/Lリン酸二水素カリウム100mLに0.2mol/L水酸化ナトリウム溶液35.4mLを加え、これにtrans−1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸−水和物0.13gを溶解し、リン酸緩衝液(pH=6.5)を調製した。
(c)遊離塩素濃度の測定
リン酸緩衝液2.5mLを共栓付き容器50mLに採り、これにDPD試薬0.5gを加え、次いで試料液を加えて全量を50mLとして、混和した。
得られた混和溶液の約3mLを吸収セルに採り、光電分光光度計を用いて、混和してから10秒後における波長528nmにおける吸光度を測定し、予め作成した検量線から、遊離塩素濃度を求めた。
(d)結合塩素濃度の測定
リン酸緩衝液2.5mLを共栓付き容器50mLに採り、これにDPD試薬0.5gを加え、次いで試料液を加えて全量を50mLとして、混和した。
得られた混和溶液50mLに、ヨウ化カリウム約0.5gを加えて溶解した。次にヨウ化カリウム添加後の溶液の約3mLを吸収セルに採り、光電分光光度計を用いて、ヨウ化カリウム添加後2分後における波長528nmにおける吸光度を測定し、予め作成した検量線から、全残留塩素濃度を求めた。
この全残留塩素濃度から、(c)で求めた遊離塩素濃度を差し引いた値を、結合塩素濃度とした。
<pH電極によるpHの測定>
東亜ディーケーケー株式会社製WM−22P型pH計を用いて、各試料液のpH電極によるpH測定値を得た。
<吸収スペクトル、吸光度の測定>
日立ハイテクノロジーズ社製U−3200型自記分光光度計を用いて測定した。
<実験例1>
下記の試料液について、吸収スペクトルを得た。結果を図2に示す。
・「F0.76mg/L pH7.35」
次亜塩素酸ナトリウム原液約0.8mLを脱塩素水で希釈して1000mLとした。得られた試料液の遊離塩素濃度(DPD法)は0.76mg/L、pH(pH電極による測定値)は7.35であった。
・「F0.76mg/L pH4.15」
pH電極によりpHを測定しながら、「F0.76mg/L pH7.35」の試料液に、pHが約4となるようにHCl溶液を添加した。得られた試料液のpH(pH電極による測定値)は4.15であった。
・「F0.76mg/L pH8.06」
pH電極によりpHを測定しながら、「F0.76mg/L pH7.35」の試料液に、pHが約8となるようにNaOH溶液を添加した。得られた試料液のpH(pH電極による測定値)は8.06であった。
・「C0.8mg/L pH6.89」
東亜ディーケーケー(株)製アンモニア標準液(1000mg/L)の約0.2mLと次亜塩素酸ナトリウム原液約0.8mLを脱塩素水で希釈して1000mLとした。得られた試料液の遊離塩素濃度(DPD法)は約0.04mg/L、結合塩素濃度(DPD法)は0.76mg/L、pH(pH電極による測定値)は6.89であった。
・「C0.8mg/L pH4.37」
pH電極によりpHを測定しながら、「C0.8mg/L pH6.89」の試料液に、pHが約4となるようにHCl溶液を添加した。得られた試料液のpH(pH電極による測定値)は4.37であった。
・「C0.8mg/L pH8.07」
pH電極によりpHを測定しながら、「C0.8mg/L pH6.89」の試料液に、pHが約8となるようにNaOH溶液を添加した。得られた試料液のpH(pH電極による測定値)は8.07であった。
図2に示すように、290nm付近に遊離塩素の吸収が見られた。また、245nm付近に結合塩素の吸収が見られた。245nm付近の結合塩素の吸収は、pHにかかわらずほぼ同等であったが、290nm付近の遊離塩素の吸収は、pHにより大きく変動することが確認できた。290nm付近の遊離塩素の吸収は、pHが高い程大きい。これは、290nm付近の吸収は、次亜塩素酸イオンに感度を有し、次亜塩素酸に感度を有しないためである。
<実験例2>
脱塩素水に、次亜塩素酸ナトリウム原液と、必要に応じてNaOH溶液またはHCl溶液を添加し、pHが6〜8で遊離塩素濃度が様々な試料液を各種調製した。調製した各試料液について、DPD法による遊離塩素濃度とpH電極によるpHを確認した。また、各々の試料液について、290nmの吸光度(290nm Abs)を測定した。図3に、pHが6である試料液、pHが7である試料液、pHが8である試料液の各々について、290nmの吸光度とDPD法による遊離塩素濃度との関係を示す。
図3に示すように、pHが一定であれば、290nmの吸光度とDPD法による遊離塩素濃度とは、良好な相関関係を示すことが確認できた。
<実験例3>
脱塩素水に、次亜塩素酸ナトリウム原液と、必要に応じてNaOH溶液またはHCl溶液を添加し、pHが6〜8で遊離塩素濃度が様々な試料液を各種調製した。調製した各試料液について、DPD法による遊離塩素濃度とpH電極によるpHを確認した。また、各々の試料液について、245nmの吸光度と290nmの吸光度とを測定し、245nmの吸光度に対する290nmの吸光度の比(290/245nm Abs)を求めた。図4に、pHが6である試料液、pHが7である試料液、pHが8である試料液の各々について、245nmの吸光度に対する290nmの吸光度の比と、DPD法による遊離塩素濃度との関係を示す。
図4に示すように、pHが一定であれば、245nmの吸光度に対する290nmの吸光度の比とDPD法による遊離塩素濃度とは、良好な相関関係を示すことが確認できた。
<実験例4>
脱塩素水に、次亜塩素酸ナトリウム原液と、東亜ディーケーケー(株)製アンモニア標準液(1000mg/L)と、必要に応じてNaOH溶液またはHCl溶液を添加し、pHが6〜8で結合塩素濃度が様々な試料液を各種調製した。調製した各試料液について、DPD法による結合塩素濃度とpH電極によるpHを確認した。また、各々の試料液について、245nmの吸光度を求めた。図5に、pHが6である試料液、pHが7である試料液、pHが8である試料液の各々について、245nmの吸光度と、DPD法による結合塩素濃度との関係を示す。
図5に示すように、pHにかかわらず、245nmの吸光度とDPD法による結合塩素濃度とは、良好な相関関係を示すことが確認できた。
<関数fの近似式>
遊離塩素に占める次亜塩素酸イオン(ClO)と次亜塩素酸(HClO)の存在比率(%)は、酸解離定数から計算で求めることができ、図6のようになる。図6における遊離塩素に占める次亜塩素酸イオンの存在比率(%)を、pHが6〜8の範囲で最小二乗法により以下の式(4−1)に示す二次関数に近似すると、係数j、k、mは、図7に示すように、以下の値となる。
(pH)=j×(pH)+k×(pH)+m ・・・(4−1)
j=16
k=−188
m=556
<実験例5>
脱塩素水に、次亜塩素酸ナトリウム原液と、必要に応じてNaOH溶液またはHCl溶液を添加し、遊離塩素濃度が0〜5mg/L、pHが6〜9の範囲で様々に異なる試料液を多種類調製した。調製した各試料液について、DPD法による遊離塩素濃度とpH電極によるpHを確認した。また、各々の試料液について、245nmの吸光度A1と290nmの吸光度A2とを測定した。また、吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を求めた。図8に、これらの結果の一部を示す。
各試料液の結果を元に、下記関数fの係数a〜dを重回帰分析により求めた。
(A1,A2,A2/A1)
=a×A1+b×A2+c×A2/A1+d ・・・(1−1)
その結果、以下の値が得られた。
a=156
b=−577
c=83
d=−16
<実験例6>
下記のゼロ液とスパン液について、吸光度(245nm、290nm)とDPD法による残留塩素濃度(遊離塩素濃度、結合塩素濃度)を求めた。また、スパン液については、pH電極によりpH値を求めた。結果を表1に示す。
・「ゼロ液」
脱塩素水をゼロ液とした。
・「スパン液」
次亜塩素酸ナトリウム原液1.7mLを脱塩素水で100mLとし、スパン液とした。
スパン液の吸光度を、実験例5で求めた式(1−1)に代入しpHを求めたところ、以下のようにpH7.40との計算値が得られ、pH電極により測定した値と良く一致した。計算値とpH電極による測定値(pH)を一致させるよう、係数dを−16から−16.4に更新した。
(A1,A2,A2/A1)=a×A1+b×A2+c×A2/A1+d
=156×0.1363−577×0.0668+83×0.4901−16
=21.26−38.54+40.68−16=7.40
関数fとして、以下の式(2−1)の係数e、gを表1のデータから求めた。
(A2)=e×(A2−g)・・・(2−1)
その結果、以下の値が得られた。
e=1.68/(0.0668−0.0307)=46.54
g=0.0307
関数fとして、以下の式(3−1)の係数h、iを表1のデータから求めた。
(A2/A1)=h×{(A2/A1)−i} ・・・(3−1)
その結果、以下の値が得られた。
h=1.68/(0.4901−0.2924)=8.498
i=0.2924
関数fとして、以下の式(5−1)の係数n、oを表1のデータから求めた。
(A1)=n×(A1−o) ・・・(5−1)
その結果、以下の値が得られた。
n=0.02/(0.1363−0.105)=0.6390
o=0.105
<実験例7>
水道水を測定対象液として、吸光度(245nm、290nm)とDPD法による残留塩素濃度(遊離塩素濃度)を求めた。また、pH電極によりpH値を求めた。結果を表2に示す。
測定対象液の吸光度を、実験例6で係数dを更新した式(1−1)に代入しpHを求めたところ、以下のようにpH7.81との計算値が得られ、pH電極により測定した値と良く一致した。
(A1,A2,A2/A1)=a×A1+b×A2+c×A2/A1+d
=156×0.1381−577×0.1115+83×0.8074−16.4
=21.54−64.34+67.01−16.4=7.81
実験例6で求めた式(3−1)に、測定対象液の(A2/A1)を代入し、以下のとおり、見かけの遊離塩素濃度Nf’を求めたところ、4.376mg/Lであった。
Nf’=f(A2/A1)=h×{(A2/A1)−i}
=8.498(0.8074−0.2924)=4.376
関数fとして近似式(4−1)を用い、式(4)によって、見かけの遊離塩素濃度Nf’を遊離塩素濃度Nfに補正したところ、1.72mg/Lであり、DPD測定値と良く一致していた。
Nf=Nf’×f(pH)/f(pH
=Nf’×f(7.0)/f(7.81)
=4.376×(16×7×7-188×7+556)/(16×7.81×7.81-188×7.81+556)
=4.376×24/63.65=1.72
10…吸光光度計、11…光源、12…コリメートレンズ、13…集光レンズ、
14…測定セル、15…スリット、16…凹面回折格子、17…光検出器、
20…演算装置、21…記憶部、22…演算部

Claims (10)

  1. 試料液の第1の波長λ1(但し、230nm≦λ1≦260nm)における吸光度A1と第2の波長λ2(但し、270nm≦λ2≦320nm)における吸光度A2を測定する吸光光度計と、
    記憶部と演算部とを有し、前記吸光光度計で得られる吸光度が入力される演算装置を備え、
    前記記憶部は、下記の関数f、f及びfの何れか一方、並びにfとpHを記憶し、
    前記演算部は、前記吸光光度計から入力された吸光度と前記記憶部の情報に基づき、下記のステップS1〜S3を行うことを特徴とする残留塩素測定システム。
    [ステップS1]下式(1)に基づき、測定対象液のpHであるpHを算出するステップ。
    pH=f(A1,A2,A2/A1
    =a×A1+b×A2+c×A2/A1+d ・・・(1)
    A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A1。
    A2:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2。
    A2/A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)。
    :吸光度A1、吸光度A2、及び吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、pHを示す関数。
    a、b、c、d:統計解析により求めた係数。
    [ステップS2]下式(2)または下式(3)に基づき、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度Nf’を求めるステップ。
    Nf’=f(A2) ・・・(2)
    Nf’=f(A2/A1) ・・・(3)
    :pHがpHである校正液を試料液として求めた、吸光度A2を変数とする、遊離塩素濃度を示す関数。
    :pHがpHである校正液を試料液として求めた、吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、遊離塩素濃度の関数。
    [ステップS3]下式(4)に基づき、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度Nf’を、遊離塩素濃度Nfに補正するステップ。
    Nf=Nf’×f(pH)/f(pH)・・・(4)
    :pHを変数とする、遊離塩素に占める次亜塩素酸イオンの存在比率(%)を示す関数。
  2. 前記記憶部は、さらに下記の関数fを記憶し、
    前記演算部は、さらに下記のステップS4を行う請求項1に記載の残留塩素測定システム。
    [ステップS4]:下式(5)に基づき、測定対象液の結合塩素濃度Ncを求めるステップ。
    Nc=f(A1) ・・・(5)
    :校正液を試料液として求めた、吸光度A1を変数とする、結合塩素濃度の関数。
  3. 前記吸光光度計は、さらに試料液の第3の波長λ3(但し、600nm≦λ3≦700nm)における吸光度A3を測定するものであり、
    前記記憶部は、さらに下記の関数f、fを記憶し、
    前記演算部は、下式(6)、下式(7)により吸光度A1及び吸光度A2を補正する請求項1または2に記載の残留塩素測定システム。
    A1=f(A1’,A3)・・・(6)
    A2=f(A2’,A3)・・・(7)
    A1’:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ1における吸光度。
    A2’:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ2における吸光度。
    A3:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ3における吸光度。
    :吸光度A1’及び吸光度A3を変数とする、補正後の吸光度A1の関数。
    :吸光度A2’及び吸光度A3を変数とする、補正後の吸光度A2の関数。
  4. 測定対象液を試料液として、第1の波長λ1(但し、230nm≦λ1≦260nm)における試料液の吸光度A1と第2の波長λ2(但し、270nm≦λ2≦320nm)における試料液の吸光度A2を測定し、
    測定した吸光度を用いて下記のステップS1〜S3を行い、測定対象液の遊離塩素濃度Nfを求める残留塩素測定方法。
    [ステップS1]下式(1)に基づき、測定対象液のpHであるpHを算出するステップ。
    pH=f(A1,A2,A2/A1
    =a×A1+b×A2+c×A2/A1+d ・・・(1)
    A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A1。
    A2:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2。
    A2/A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)。
    :吸光度A1、吸光度A2、及び吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、pHを示す関数。
    a、b、c、d:統計解析により求めた係数。
    [ステップS2]下式(2)または下式(3)に基づき、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度Nf’を求めるステップ。
    Nf’=f(A2) ・・・(2)
    Nf’=f(A2/A1) ・・・(3)
    :pHがpHである校正液を試料液として求めた、吸光度A2を変数とする、遊離塩素濃度を示す関数。
    :pHがpHである校正液を試料液として求めた、吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、遊離塩素濃度の関数。
    [ステップS3]下式(4)に基づき、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度Nf’を、遊離塩素濃度Nfに補正するステップ。
    Nf=Nf’×f(pH)/f(pH)・・・(4)
    :pHを変数とする、遊離塩素に占める次亜塩素酸イオンの存在比率(%)を示す関数。
  5. さらに、下記のステップS4を行い、測定対象液の結合塩素濃度Ncを求める請求項4に記載の残留塩素測定方法。
    [ステップS4]:下式(5)に基づき、測定対象液の結合塩素濃度Ncを求めるステップ。
    Nc=f(A1) ・・・(5)
    :校正液を試料液として求めた、吸光度A1を変数とする、結合塩素濃度の関数。
  6. さらに、測定対象液を試料液として第3の波長λ3(但し、600nm≦λ3≦700nm)における試料液の吸光度A3を測定し、
    下式(6)、下式(7)により吸光度A1及び吸光度A2を補正する請求項4または5に記載の残留塩素測定方法。
    A1’:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ1における吸光度。
    A2’:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ2における吸光度。
    A3:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ3における吸光度。
    :吸光度A1’及び吸光度A3を変数とする、補正後の吸光度A1の関数。
    :吸光度A2’及び吸光度A3を変数とする、補正後の吸光度A2の関数。
  7. 試料液の第1の波長λ1(但し、230nm≦λ1≦260nm)における吸光度A1と第2の波長λ2(但し、270nm≦λ2≦320nm)における吸光度A2を測定する吸光光度計、並びに記憶部及び演算部を有し、前記吸光光度計で得られる吸光度が入力される演算装置を備える残留塩素測定システムに、前記吸光光度計から入力された吸光度と前記記憶部が記憶する関数に基づき、以下のステップS1を実行させるプログラム。
    [ステップS1]下式(1)に基づき、測定対象液のpHであるpHを算出するステップ。
    pH=f(A1,A2,A2/A1
    =a×A1+b×A2+c×A2/A1+d ・・・(1)
    A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A1。
    A2:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2。
    A2/A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)。
    :吸光度A1、吸光度A2、及び吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、pHを示す関数。
    a、b、c、d:統計解析により求めた係数。
  8. 試料液の第1の波長λ1(但し、230nm≦λ1≦260nm)における吸光度A1と第2の波長λ2(但し、270nm≦λ2≦320nm)における吸光度A2を測定する吸光光度計、並びに記憶部及び演算部を有し、前記吸光光度計で得られる吸光度が入力される演算装置を備える残留塩素測定システムに、前記吸光光度計から入力された吸光度と前記記憶部が記憶する関数とpHに基づき、以下のステップS1〜S3を実行させるプログラム。
    [ステップS1]下式(1)に基づき、測定対象液のpHであるpHを算出するステップ。
    pH=f(A1,A2,A2/A1
    =a×A1+b×A2+c×A2/A1+d ・・・(1)
    A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A1。
    A2:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2。
    A2/A1:試料液が測定対象液であるときの吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)。
    :吸光度A1、吸光度A2、及び吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、pHを示す関数。
    a、b、c、d:統計解析により求めた係数。
    [ステップS2]下式(2)または下式(3)に基づき、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度Nf’を求めるステップ。
    Nf’=f(A2) ・・・(2)
    Nf’=f(A2/A1) ・・・(3)
    :pHがpHである校正液を試料液として求めた、吸光度A2を変数とする、遊離塩素濃度を示す関数。
    :pHがpHである校正液を試料液として求めた、吸光度A2と吸光度A1の比(A2/A1)を変数とする、遊離塩素濃度の関数。
    [ステップS3]下式(4)に基づき、測定対象液の見かけの遊離塩素濃度Nf’を、遊離塩素濃度Nfに補正するステップ。
    Nf=Nf’×f(pH)/f(pH)・・・(4)
    :pHを変数とする、遊離塩素に占める次亜塩素酸イオンの存在比率(%)を示す関数。
  9. 前記演算部に、前記ステップS1〜S3に加えて、さらに、以下のステップS4を実行させる請求項8に記載のプログラム。
    [ステップS4]:下式(5)に基づき、測定対象液の結合塩素濃度Ncを求めるステップ。
    Nc=f(A1) ・・・(5)
    :校正液を試料液として求めた、吸光度A1を変数とする、結合塩素濃度の関数。
  10. 吸光光度計が試料液の第3の波長λ3(但し、600nm≦λ3≦700nm)における吸光度A3をさらに測定する前記残留塩素測定システムの前記演算部に、下式(6)、下式(7)により吸光度A1及び吸光度A2を補正させる請求項7〜9のいずれか一項に記載のプログラム。
    A1=f(A1’,A3)・・・(6)
    A2=f(A2’,A3)・・・(7)
    A1’:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ1における吸光度。
    A2’:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ2における吸光度。
    A3:吸光光度計が直接測定した、試料液が測定対象液であるときの波長λ3における吸光度。
    :吸光度A1’及び吸光度A3を変数とする、補正後の吸光度A1の関数。
    :吸光度A2’及び吸光度A3を変数とする、補正後の吸光度A2の関数。
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