JP2017029996A - Pbを含まないAg−Sb系はんだ合金 - Google Patents
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Abstract
【課題】 電子部品の組立などで用いるのに好適な約500℃以下の固相線温度を有し、濡れ性に優れると共に接合性、加工性、信頼性にも優れ、Pbを含まず且つAu系はんだに比較し格段に安価なAg−Sb系合金からなる高温用はんだ合金を提供する。
【解決手段】 Pbを含まないAg−Sb系はんだ合金であって、必須成分としてSbを40.0質量%以上48.0質量%以下含有し、残部がAg及び製造上不可避的に含まれる元素からなる。このPbフリーAg−Sb系はんだ合金は、更にAl、Cu、Ge、Mg、Ni、Sn、Zn及びPの内の少なくとも1種を各々所定の含有量の範囲内で含有してもよい。
【選択図】 なし
【解決手段】 Pbを含まないAg−Sb系はんだ合金であって、必須成分としてSbを40.0質量%以上48.0質量%以下含有し、残部がAg及び製造上不可避的に含まれる元素からなる。このPbフリーAg−Sb系はんだ合金は、更にAl、Cu、Ge、Mg、Ni、Sn、Zn及びPの内の少なくとも1種を各々所定の含有量の範囲内で含有してもよい。
【選択図】 なし
Description
本発明は、Pbを含まない、いわゆるPbフリーのはんだ合金に関し、特に高温用として好適なPbフリーAg−Sb系はんだ合金に関する。
パワートランジスタ用素子のダイボンディングを始めとする各種電子部品の組立工程におけるはんだ付けでは高温はんだ付けが行われており、その際、300〜400℃程度の比較的高温の融点を有するはんだ合金(以下、「高温用はんだ合金」とも称する)が用いられている。このような高温用はんだ合金としては、Pb−5質量%Sn合金に代表されるPb系はんだ合金が従来から主に用いられている。しかし、近年、環境汚染に対する配慮からPbの使用を制限する動きが強くなってきており、例えばRoHS指令ではPbは規制対象物質になっている。こうした動きに対応して、電子部品などの組立の分野においても、Pbを含まない(無鉛)はんだ合金、即ちPbフリーはんだ合金によるはんだ付けが求められている。
かかる要望に対して、中低温用(約140〜230℃)のはんだ合金では、Snを主成分とするPbフリーのはんだ合金が既に実用化されている。例えば、特許文献1には、Snを主成分とし、Agを1.0〜4.0質量%、Cuを2.0質量%以下、Niを0.5質量%以下、Pを0.2質量%以下含有するPbフリーのはんだ合金が記載されている。また、特許文献2には、Agを0.5〜3.5質量%、Cuを0.5〜2.0質量%含有し、残部がSnからなるPbフリーのはんだ合金が記載されている。一方、高温用のPbフリーはんだ合金としては、Au−Sn系はんだ合金やAu−Ge系はんだ合金がある。しかし、これらはAuを主成分とするため非常に高価であり、高い信頼性が求められる光デバイス関係の素子など非常に限られた用途以外には用いられておらず、一般的な電子部品等に用いられることはほとんどない。
そこで、一般的な電子部品等に用いられる比較的安価な高温用のはんだ合金においてもPbフリーを実現するため、Bi系はんだ合金やZn系はんだ合金などが研究開発されている。例えば、Bi系はんだ合金については、特許文献3に、Biを30〜80質量%含有し、溶融温度が350〜500℃であるBi/Ag系のろう材が開示されている。また、特許文献4には、Biを含む共晶合金に2元共晶合金を加え、更に添加元素を加えることによって、液相線温度の調整とばらつきの減少が可能なはんだ合金の生産方法が開示されている。Zn系はんだ合金については、例えば特許文献5に、Znに融点を下げるべくAlが添加されたZn−Al合金を基本とし、これにGe又はMgを添加した高温用Zn系はんだ合金が記載されている。この特許文献5には、更にSn又はInを添加することによって、より一層融点を下げる効果があることも記載されている。
具体的には、特許文献5には、Alを1〜9質量%、Geを0.05〜1質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金;Alを5〜9質量%、Mgを0.01〜0.5質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金;Alを1〜9質量%、Geを0.05〜1質量%、Mgを0.01〜0.5質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金;Alを1〜9質量%、Geを0.05〜1質量%、Sn及び/又はInを0.1〜25質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金;Alを1〜9質量%、Mgを0.01〜0.5質量%、In及び/又はSnを0.1〜25質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金;Alを1〜9質量%、Geを0.05〜1質量%、Mgを0.01〜0.5質量%、Sn及び/又はInを0.1〜25質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金が記載されている。
一般的な電子部品や基板の材料には熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが多用されているため、はんだ接合時の作業温度は400℃未満であることが望ましく、SiC半導体デバイスなどの小型で高耐熱のデバイスが使用される場合でも500℃以下が望ましい。しかしながら、上記した特許文献3のBi/Ag系ろう材は液相線温度が400〜700℃と高いため、接合時の作業温度も400〜700℃以上になると推測され、接合される電子部品や基板が耐えうる温度を超えていると考えられる。また、上記特許文献4の方法は、液相線の温度調整のみで4元系以上の多元系はんだ合金になるうえ、Biの脆弱な機械的特性については効果的な改善がされていない。
上記した特許文献5に開示されているZn系はんだ合金は、その組成の範囲内では合金の濡れ性が不十分である場合が多い。即ち、主成分であるZnは還元性が強いため自らは酸化されやすく、その結果、濡れ性が極めて悪くなることが問題になっている。また、AlはZnよりも更に還元性が強いため、例えば1質量%以上添加した場合でも濡れ性を大きく低下させてしまう。そして、これら酸化されたZnやAlに対しては、GeやSnを添加しても還元することができず、濡れ性を向上させることはできない。
このように、Zn−Al系合金は融点については300〜400℃程度(Zn−Al共晶温度:381℃)と好ましい範囲にあるものの、濡れ性の観点からは好ましくない合金である。更に、Zn−Al系合金にMgなどが添加されると金属間化合物を生成して極めて硬くなり、良好な加工性が得られない場合が生じるという問題がある。例えば、Mgを5質量%以上含有したZn−Al系合金は、加工の困難なワイヤ状やシート状などに加工することが実質的にできなくなる。
以上述べたように、高温用のPbフリーはんだ合金、特にZnを主成分とするPbフリーはんだ合金については、加工性等の諸特性とのバランスを図りながら濡れ性を改善することが大きな課題となっているが、未だこの課題は解決されていない。このように、従来のPb−5質量%Sn合金、Au−Sn系合金、Au−Ge系合金などに代表される高温用はんだ合金に代替でき、Pbフリーであって且つ安価な高温用はんだ合金は、未だ実用化されていないのが実状である。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、電子部品の組立などで用いるのに好適な約500℃以下の固相線温度を有し、濡れ性に優れると共に接合性、加工性、信頼性にも優れ、Pbを含まず且つAu系はんだに比較し格段に安価なAg−Sb系合金からなる高温用はんだ合金を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明が提供する第1のPbフリーAg−Sb系はんだ合金は、Sb含有量が40.0質量%以上48.0質量%以下であり、残部がAg及び不可避不純物であることを特徴とする。
また、本発明が提供する第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金は、上記第1のPbフリーAg−Sb系はんだ合金が更にAl、Cu、Ge、Mg、Ni、Sn、Zn及びPの少なくとも1種を含有し、Alを含有する場合はその含有量が0.01質量%以上1.5質量%以下であり、Cuを含有する場合はその含有量が0.01質量%以上15.0質量%以下であり、Geを含有する場合はその含有量が0.01質量%以上7.0質量%以下であり、Mgを含有する場合はその含有量が0.01質量%以上0.5質量%以下であり、Niを含有する場合はその含有量が0.01質量%以上1.0質量%以下であり、Snを含有する場合はその含有量が0.01質量%以上5.0質量%以下であり、Znを含有する場合はその含有量が1.0質量%以上0.5質量%以下であり、Pを含有する場合はその含有量が0.500質量%以下であることを特徴とする。
本発明によれば、濡れ性、接合性、加工性及び信頼性に優れている上、約500℃以下の固相線温度を有しているので300℃程度のリフロー温度に十分耐えることが可能であり、且つAu系はんだに比較して格段に安価な高温用のPbフリーはんだ合金を提供することができる。この高温用のPbフリーはんだ合金は、パワートランジスタ用素子のダイボンディングなど各種電子部品の組立工程でのはんだ付や水晶振動子の封止用はんだ付などに好適であり、特に動作温度が高いSiC半導体デバイスなどの接合用や水晶振動子の封止用として好適に使用することができる。
本発明による第1のPbフリーAg−Sb系はんだ合金は、Pbを含まず、必須成分としてSbを含有し、残部が製造上不可避的に含まれる元素(不可避不純物)及びAgからなる。主成分であるAgは、融点が962℃と電子部品等の接合温度に対して高すぎる。このAgの融点を下げてはんだ合金として使えるようにするためにSbを含有させることが必須となる。すなわち、Ag−Sb合金とすることにより固相線温度が500℃以下になり、高温動作を特徴とするSiC半導体デバイスなどの接合材として好適な材料となり得る。Sbを含有させる重要なもう一つの理由は共晶合金とすることにあり、共晶合金とすることにより結晶が微細なラメラ組織状となってはんだを使用する際の形状、例えば、ワイヤ、リボン、プリフォーム材、そしてボールなどの形状に加工し易くなり、さらにはクラックが進行しづらくなり信頼性も格段に向上するのである。
また、本発明による第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金は、上記第1のPbフリーAg−Sb系はんだ合金に対して、更にAl、Cu、Ge、Mg、Ni、Sn、Zn及びPの内の少なくとも1種を含有したものであり、これらの元素を含有させることによりはんだ材料に求められる各種特性、例えば、濡れ性、接合性、加工性、応力緩和性、信頼性などを用途に合わせて適宜調整することができる。
尚、PはSbよりも還元性が強く、接合時に気体の酸化燐として接合面やはんだ中から酸素を持ち去ってくれるため、濡れ性を向上させるには最も適した元素である。当然、PはCu基板やNiメッキCu基板の表面酸化膜も還元除去できるため、接合時にフォーミングガス(基板の酸化膜を還元するために水素を含有させたガス)を使用しなくても濡れ性を向上させることが可能である。次に、上記した本発明のPbフリーAg−Sb系はんだ合金に含有される各元素について詳細に説明する。
<Ag、Sb>
AgとSbは本発明の第1及び第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金において、必須の成分をなす元素である。Ag及びSbの融点はそれぞれ962℃及び631℃であり、いずれも電子部品等のはんだ材料としてはかなり高い融点を有しているが、AgとSbを合金化することにより融点を大きく下げることができる。即ち、AgとSbは共晶合金を作り、共晶点の組成(Ag=56.1質量%、Sb=43.9質量%)において液相線温度が共晶温度の484℃まで下がる。この共晶合金化によって融点を電子部品の接合温度まで下げることが可能となり、特に高温動作可能であることが特徴であるSiC素子などの高温用デバイスには最適な温度領域とすることができ、また、水晶振動子の封止用としても適している。
AgとSbは本発明の第1及び第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金において、必須の成分をなす元素である。Ag及びSbの融点はそれぞれ962℃及び631℃であり、いずれも電子部品等のはんだ材料としてはかなり高い融点を有しているが、AgとSbを合金化することにより融点を大きく下げることができる。即ち、AgとSbは共晶合金を作り、共晶点の組成(Ag=56.1質量%、Sb=43.9質量%)において液相線温度が共晶温度の484℃まで下がる。この共晶合金化によって融点を電子部品の接合温度まで下げることが可能となり、特に高温動作可能であることが特徴であるSiC素子などの高温用デバイスには最適な温度領域とすることができ、また、水晶振動子の封止用としても適している。
更に、共晶組成付近では結晶が微細化するため非常に柔らかい合金となり、はんだ材料として加工性等の点で更に好ましいものとなる。即ち、高温用のPbフリーはんだであるAu−Sn系はんだ合金などは単に高コストであるだけでなく、金属間化合物から構成されているため非常に硬くなってしまうが、Ag−Sb系合金はSb固溶体とε相(金属間化合物)から構成される共晶合金であり、金属間化合物だけから構成されるわけではないため、Au−Sn系はんだ合金と比べて非常に柔らかく、かつ使い易い合金となる。
加えて、Ag−Sb系はんだ合金は濡れ性にも優れており、例えば、酸化され易いZnやAlから成るZn−Al系はんだ合金に比べると酸化され難いAgを約半分以上含有するため、濡れ広がりがよいのである。すなわち、Agは非常に酸化され難く、Agよりも酸化され易いSbでもZnやAlに比べれば酸化され難いため、接合時のはんだ表面の酸化が抑制されるので濡れ性に優れるのである。
上記のごとく本発明の第1及び第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金は、Ag−Sb共晶組成付近の組成を基本とすることによって、融点、加工性、応力緩和性などの諸特性に優れたはんだ材料となっている。ただし、Ag−Sbの共晶組成から大きく外れると、液相温度が高くなり過ぎ、良好な接合を確保することが難しくなる。そのため、Sbの含有量は40.0質量%以上48.0質量%以下とする。Sbの含有量が上記範囲から外れると、液相温度と固相線温度の差が大きくなり溶け別れ現象が起き接合強度を著しく落としてしまうなど、良好な接合が難しくなるからである。
<Al、Mg、Zn>
Al、Mg、Znは本発明の第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金において各種特性を改善または調整するために適宜含有される元素であり、これらの元素を含有させることで得られる主な効果は同じである。すなわち、Al、Mg、及びZnはAgやSbに比較して酸化され易いため、これら元素はAg−Sb系はんだ合金に含有させることにより優先的に酸化され、はんだ表面に析出して薄い酸化物層を生成するのである。これにより、はんだ内部に酸素原子が入っていきづらくなって母相を成すAgやSbの酸化が抑制され、結果として薄い酸化膜層が維持されて濡れ性が向上するのである。
Al、Mg、Znは本発明の第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金において各種特性を改善または調整するために適宜含有される元素であり、これらの元素を含有させることで得られる主な効果は同じである。すなわち、Al、Mg、及びZnはAgやSbに比較して酸化され易いため、これら元素はAg−Sb系はんだ合金に含有させることにより優先的に酸化され、はんだ表面に析出して薄い酸化物層を生成するのである。これにより、はんだ内部に酸素原子が入っていきづらくなって母相を成すAgやSbの酸化が抑制され、結果として薄い酸化膜層が維持されて濡れ性が向上するのである。
各元素についてより詳しく説明すると、AlはAgに数質量%固溶する。このように固溶したAlははんだを加熱、接合する際にAgやSbよりも酸素と圧倒的に結合し易いため、はんだ表面に析出してきて酸化物層を形成する。このようにAlが自ら酸化することによりAgやSbの酸化が抑制され、AgやSbが酸化しないことによって薄い酸化膜が形成されるのである。このように薄い酸化が形成することによって、接合時に基板や半導体素子とはんだとが金属同士で直接接触し易くなり、濡れ性や接合性を向上させるのである。
ただし、Alを多く含有させすぎると、Alによる酸化物層の厚さが厚くなってしまい、濡れ性を低下させてしまう。このため、Alの最適な含有量の上限値は1.5質量%である。1.5質量%以下であれば、良好な濡れ性や接合性が得られ、0.7質量%以下であればより一層、Alを含有させる効果が現れるので好ましい。一方、Al含有量の下限値は0.01質量%である。0.01質量%未満では含有量が少なすぎてその効果は実質的に現れてこない。
Mgの含有によって期待される効果もAlと同様に濡れ性の向上にある。MgはAlよりも酸化され易いため、濡れ性の向上効果を発揮する際はAlよりも効果が大きい。よって少量の添加で効果を発現させることができる。しかし、MgはAlよりも酸素と結合しやすいため強固な酸化物層を形成し、比較的薄い酸化膜であっても濡れ性を低下させる要因になってしまうので多く含有させることはできない。よって、Mgの含有量の上限値は0.5質量%である。0.5質量%以下であれば良好な濡れ性が得られ、0.3質量%以下であれば、その効果はより一層顕著に現れて好ましい。一方、Mg含有量の下限値は0.01質量%である。0.01質量%未満では少なすぎて実質的にその効果が現れない。
Znの含有によって期待される効果もAlやMgと同様に濡れ性の向上にある。ZnはAlやMgと同様に酸化され易い元素であり、少量含有させることにより自らが酸化して薄い酸化膜を形成し、濡れ性向上に寄与する。ただし、Znは蒸気圧が非常に高く、はんだ原料の溶解時に組成がずれたり、バラついたりしてしまう傾向が強いため、このような点も考慮して添加することが必要である。Znを含有させる場合は、その含有量を0.01質量%以上1.0質量%以下とする。Znの含有量が0.01質量%未満では、含有量が少なすぎるため上記した効果を発揮させることができない。一方、1.0質量%超えると、酸化膜が厚くなり過ぎてしまい、十分な接合強度が得られなくなる。
上記したようにAl、Mg、及びZnは共通する効果を有するが、各元素は個別の特徴を有するのでこれらを加味して適宜含有させればよい。例えば、Al、Mg、及びZnの融点はそれぞれ、Alが660℃、Mgが650℃、Znが419℃であるので、液相線温度等の融点調整を行う際にはこれら融点を参考にしてこれらの元素を含有させればよい。濡れ性については、Al、Mg、Znの順で還元性が強いので、この順に濡れ性の向上効果が大きくなる。また、これらの元素を含有させた際に生成される固溶体や金属間化合物の性質を考慮して、目的とするはんだ合金の特性になるように適宜各元素の含有量を調整すればよい。
<Cu、Ge>
Cu、Geは本発明の第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金において各種特性を改善または調整するために適宜含有される元素であり、これらの元素を含有させる主な効果は同じであり、加工性や応力緩和性の向上にある。すなわち、Cu及びGeの少なくとも一方をAg−Sb系合金に含有させることにより共晶合金を形成し、加工性や応力緩和性等を向上させる効果が得られる。
Cu、Geは本発明の第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金において各種特性を改善または調整するために適宜含有される元素であり、これらの元素を含有させる主な効果は同じであり、加工性や応力緩和性の向上にある。すなわち、Cu及びGeの少なくとも一方をAg−Sb系合金に含有させることにより共晶合金を形成し、加工性や応力緩和性等を向上させる効果が得られる。
具体的に説明すると、CuはAgとCu=40質量%付近で共晶点の組成となり、かつ固溶体のみから共晶合金を生成する。このため、組織の結晶が微細化して加工性等が向上し、かつ、金属間化合物を生成しないためより一層柔軟な性質を示す。CuはSbとはη相(金属間化合物)とSb固溶体で共晶合金を生成する。このように金属間化合物が生成されるものの、その割合が過剰でなければ共晶合金の性質が維持されるので良好な加工性等の効果が得られる。結果として、Ag−Sb系合金にCuを含有すると共晶合金を基本とする加工性及び応力緩和性に優れたはんだ材料になるのである。
Cuを含有させる場合はその含有量を0.01質量%以上15.0質量%以下とする。Cuの含有量が0.01質量%未満では、含有量が少なすぎるため上記した効果を発揮させることができない。一方、15.0質量%を超えると液相線温度が高くなりすぎ、良好な接合性が得られにくくなる。Cuの含有量は0.03質量%以上1.5質量%以下がより好ましい。この範囲内であれば、上記したCuの効果をより顕著に発現させることができる。
GeはAgと固溶体のみから構成される共晶合金を生成し、Sbとも同様にGe=10質量%付近で固溶体のみから構成される共晶合金を生成する。このようにAg−Sb系合金にGeを含有させると固溶体から成る共晶合金となるため、結晶が微細化して加工性や応力緩和性が向上する。Geを含有させる場合はその含有量を0.01質量%以上7.0質量%以下とする。Geの含有量が0.01質量%未満では、含有量が少なすぎるため上記した効果を発揮させることができない。一方、7.0質量%を超えると液相線温度が高くなりすぎ、良好な接合を得ることが困難になる。
<Ni>
Niは本発明の第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金において各種特性を改善または調整するために適宜含有される元素であり、Niを含有させる主な効果は加工性や応力緩和性の向上にあるが、そのメカニズムは前述したCuやGeと根本的に異なる。すなわち、Niは融点が1455℃と非常に高く、はんだが溶融してから固化する際に最初に析出し、それを核として微細な結晶が成長していくため組織が微細結晶構造となり、その結果、クラックの進行が粒界で止められ易くなる。これによってはんだに様々な応力が加わってもクラックが進展しづらくなり、シート材などに加工をしてもクラック等の不良の発生が抑えられ、接合信頼性なども飛躍的に向上する。
Niは本発明の第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金において各種特性を改善または調整するために適宜含有される元素であり、Niを含有させる主な効果は加工性や応力緩和性の向上にあるが、そのメカニズムは前述したCuやGeと根本的に異なる。すなわち、Niは融点が1455℃と非常に高く、はんだが溶融してから固化する際に最初に析出し、それを核として微細な結晶が成長していくため組織が微細結晶構造となり、その結果、クラックの進行が粒界で止められ易くなる。これによってはんだに様々な応力が加わってもクラックが進展しづらくなり、シート材などに加工をしてもクラック等の不良の発生が抑えられ、接合信頼性なども飛躍的に向上する。
Niは上記したメカニズムにより加工性向上の効果を発揮するため、Niの含有量をあまり多くすることは好ましくない。Ni含有量が多すぎると、Niの核の密度が多くなり、結晶粒が微細化せずに大きくなりすぎて、Ni添加効果が半減してしまうからである。従って、Niを含有させる場合の上限値は1.0質量%とする。一方、下限値は0.01質量%であり、この値に満たないと核の析出が少なすぎて実質的に加工性向上の効果が得られない。Niの含有量は0.03質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。この範囲内であれば、上記したNiの効果をより顕著に発現させることができる。
<Sn>
Snは本発明の第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金において各種特性を改善または調整するために適宜含有される元素であり、Snを含有させる主な効果は接合性の向上にある。SnはCuやNiとの反応性に富み、従ってCu基板やNiメッキ基板との良好な接合に寄与する。Snを含有させる場合はその含有量を0.01質量%以上5.0質量%以下とする。Snの含有量が0.01質量%未満では、含有量が少なすぎるため上記した効果を発揮させることができない。一方、5.0質量%を超えると金属間化合物の生成量が多くなってしまい、はんだ自体が硬くなって十分な応力緩和性を得ることが困難になる。
Snは本発明の第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金において各種特性を改善または調整するために適宜含有される元素であり、Snを含有させる主な効果は接合性の向上にある。SnはCuやNiとの反応性に富み、従ってCu基板やNiメッキ基板との良好な接合に寄与する。Snを含有させる場合はその含有量を0.01質量%以上5.0質量%以下とする。Snの含有量が0.01質量%未満では、含有量が少なすぎるため上記した効果を発揮させることができない。一方、5.0質量%を超えると金属間化合物の生成量が多くなってしまい、はんだ自体が硬くなって十分な応力緩和性を得ることが困難になる。
<P>
Pは、本発明の第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金において更に向上させたい特性がある場合に必要に応じて添加される元素であり、その添加により得られる主な効果は濡れ性の向上である。Pが濡れ性を向上させるメカニズムは以下のとおりである。即ち、Pは還元性が強く、自ら酸化することによって、はんだ合金表面の酸化を抑制する。極めて高い濡れ性が求められる水晶振動子の封止用として使う際などに十分な濡れ性が確保できなかった場合には、Pを含有させることによる濡れ性向上の役割は大きい。
Pは、本発明の第2のPbフリーAg−Sb系はんだ合金において更に向上させたい特性がある場合に必要に応じて添加される元素であり、その添加により得られる主な効果は濡れ性の向上である。Pが濡れ性を向上させるメカニズムは以下のとおりである。即ち、Pは還元性が強く、自ら酸化することによって、はんだ合金表面の酸化を抑制する。極めて高い濡れ性が求められる水晶振動子の封止用として使う際などに十分な濡れ性が確保できなかった場合には、Pを含有させることによる濡れ性向上の役割は大きい。
また、Pの含有により、接合時にボイドの発生を低減させる効果も得られる。即ち、既に述べているようにPは自らが酸化しやすいため、接合時にはんだ合金の主成分であるAgやSbよりも優先的に酸化が進む。その結果、はんだ母相の酸化を防ぎ、電子部品等の接合面を還元して濡れ性を確保することができる。そして、この接合の際に、はんだや接合面表面の酸化物がなくなるため、酸化膜によって形成される隙間(ボイド)が発生し難くなり、接合性や信頼性等を向上させることができる。尚、PはAgやSb等のはんだ合金や基板を還元して酸化物になると気化して雰囲気ガスに流されるため、はんだや基板表面等に残ることがない。このためPの残渣が信頼性等に悪影響を及ぼす可能性はなく、この点からもPは優れた元素と言える。
Pを含有させる場合はその含有量を0.500質量%以下とする。Pは非常に還元性が強いため、微量でも含有させれば濡れ性向上の効果が得られる。ただし、0.500質量%を超えて含有しても濡れ性向上の効果はあまり変わらず、過剰な含有によってPやP酸化物の気体が多量に発生してボイド率を上げてしまったり、Pが脆弱な相を形成して偏析し、はんだ接合部を脆化して信頼性を低下させたりする恐れがある。特にワイヤなどの形状に加工する場合に、断線の原因になりやすいことが確認されている。尚、Pの含有量が0.300質量%以下であれば、上記した効果がより一層顕著に現れるので好ましい。
原料として、それぞれ純度99.9質量%以上のAg、Sb、Al、Cu、Ge、Mg、Ni、Sn、Zn及びPを準備した。大きな薄片やバルク状の原料については、溶解後の合金においてサンプリング場所による組成のバラツキがなく、均一になるように留意しながら、切断及び粉砕などにより3mm以下の大きさに細かくした。次に、これらの原料からそれぞれ所定量を秤量して、高周波溶解炉用のグラファイト製坩堝に入れた。
上記各原料の入った坩堝を高周波溶解炉に入れ、酸化を抑制するために窒素ガスを原料1kg当たり0.7リットル/分以上の流量で流した。この状態で溶解炉の電源を入れ、原料を加熱溶融させた。金属が溶融しはじめたら混合棒でよく撹拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混ぜた。十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切り、速やかに坩堝を取り出し、坩堝内の溶湯をはんだ母合金の鋳型に流し込んだ。鋳型は、はんだ母合金の製造の際に一般的に使用している形状と同様のものを使用した。このようにして、上記各種原料の混合比率がそれぞれ異なる試料1〜40のPbフリーAg−Sb系はんだ母合金を作製した。得られた試料1〜40の組成をICP発光分光分析器(SHIMAZU S−8100)を用いて組成分析した。その組成分析結果を下記表1に示す。
次に、これら試料1〜40のはんだ母合金の各々に対して、下記の方法により圧延機でシート状に加工し、その際、下記の方法により加工性を評価した。また、シート状に加工した各はんだ合金について、下記の方法により濡れ性(接合性)の評価及びヒートサイクル試験による信頼性の評価を行った。尚、はんだの濡れ性及び接合性等の評価は、はんだ形状に依存しないためワイヤ、ボール、ペーストなどの形状で評価してもよいが、本実施例においてはシートの形状で評価した。
<加工性の評価>
上記表1に示す試料1〜40のはんだ母合金(厚さ5mmの板状インゴット)の各々を、圧延機を用いて厚さ0.08mmまで圧延した。その際、インゴットの送り速度を調整しながら圧延していき、その後スリッター加工により25mmの幅に裁断した。このようにしてシート状に加工した後、得られたシート状のPbフリーAg−Sb系はんだ合金を観察し、傷やクラックが全くなかった場合を「○」、シート長さ10m当たり割れやクラックが1〜3箇所ある場合を「△」、4箇所以上ある場合を「×」として加工性を評価した。
上記表1に示す試料1〜40のはんだ母合金(厚さ5mmの板状インゴット)の各々を、圧延機を用いて厚さ0.08mmまで圧延した。その際、インゴットの送り速度を調整しながら圧延していき、その後スリッター加工により25mmの幅に裁断した。このようにしてシート状に加工した後、得られたシート状のPbフリーAg−Sb系はんだ合金を観察し、傷やクラックが全くなかった場合を「○」、シート長さ10m当たり割れやクラックが1〜3箇所ある場合を「△」、4箇所以上ある場合を「×」として加工性を評価した。
<濡れ性(接合性)の評価>
上記のごとくシート状に加工した試料1〜40のPbフリーAg―Sb系はんだ合金から円板状に打抜いたものを用いて、濡れ性試験機(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機)で濡れ性を評価した。具体的には、濡れ性試験機のヒーター部に2重のカバーをして、ヒーター部の周囲4箇所から窒素を12リットル/分の流量で流しながら、ヒーター設定温度を各試料の融点より約30℃高い温度に設定して加熱した。設定したヒーター温度が安定した後、Cu基板(板厚:約0.70mm)をヒーター部にセッティングして25秒間加熱した。
上記のごとくシート状に加工した試料1〜40のPbフリーAg―Sb系はんだ合金から円板状に打抜いたものを用いて、濡れ性試験機(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機)で濡れ性を評価した。具体的には、濡れ性試験機のヒーター部に2重のカバーをして、ヒーター部の周囲4箇所から窒素を12リットル/分の流量で流しながら、ヒーター設定温度を各試料の融点より約30℃高い温度に設定して加熱した。設定したヒーター温度が安定した後、Cu基板(板厚:約0.70mm)をヒーター部にセッティングして25秒間加熱した。
次に、各試料のはんだ合金をCu基板の上に載せ、25秒加熱した。加熱が完了した後、Cu基板をヒーター部から取り上げ、その横の窒素雰囲気が保たれている場所に一旦設置して冷却した。十分に冷却した後、大気中に取り出して接合部分を確認した。各試料のはんだ合金とCu基板との接合部分を目視で確認し、接合できなかった場合を「×」、接合できたが濡れ広がりが悪い場合(はんだが広がらなかった場合)を「△」、良好に接合でき且つ濡れ広がりも良い場合(はんだが薄く濡れ広がった状態)を「○」、良好に接合でき且つほぼ円形に極めて薄く且つ良好に濡れ広がった場合を「◎」と評価した。
<ヒートサイクル試験>
はんだ接合の信頼性を評価するためにヒートサイクル試験を行った。尚、この試験は、上記した濡れ性の評価においてはんだ合金がCu基板に接合できた試料(濡れ性の評価が◎、○又は△の試料)を各々2個ずつ用いて行った。具体的には、各試料のはんだ合金が接合されたCu基板2個のうちの1個に対しては、−40℃の冷却と+200℃の加熱を1サイクルとするヒートサイクル試験を途中確認のため300サイクルまで繰り返し、残る1個に対しては同様のヒートサイクル試験を500サイクルまで繰り返した。
はんだ接合の信頼性を評価するためにヒートサイクル試験を行った。尚、この試験は、上記した濡れ性の評価においてはんだ合金がCu基板に接合できた試料(濡れ性の評価が◎、○又は△の試料)を各々2個ずつ用いて行った。具体的には、各試料のはんだ合金が接合されたCu基板2個のうちの1個に対しては、−40℃の冷却と+200℃の加熱を1サイクルとするヒートサイクル試験を途中確認のため300サイクルまで繰り返し、残る1個に対しては同様のヒートサイクル試験を500サイクルまで繰り返した。
その後、300サイクル及び500サイクルのヒートサイクル試験を実施した各試料に対して、はんだ合金が接合されたCu基板を樹脂に埋め込み、断面研磨を行い、SEM(装置名:HITACHI S−4800)により接合面の観察を行った。この観察の結果、接合面に剥がれが生じるか又ははんだにクラックが入った場合を「×」、そのような不良がなく、初期状態と同様の接合面を保っていた場合を「○」として、信頼性を評価した。この評価結果を上記した加工性評価及び濡れ性と共に下記表2に示す。
上記表2の結果から分かるように、本発明の実施例である試料1〜24の各PbフリーAg−Sb系はんだ合金は全ての評価項目において良好な特性を示している。即ち、シート状に加工しても傷やクラックの発生が無く、濡れ性及び信頼性も良好であった。特に、Ag−Sb系合金にPを添加した試料20、21、24において優れた濡れ性が得られた。その理由としては、濡れ性を阻害する酸化膜の形成が抑制され、かつ、酸化膜がPで還元されてはんだ合金が酸化膜層を介することなくCu基板金属に接触することが可能になったため、基板上に濡れ広がったと考えられる。
また、ヒートサイクル試験では、温度差が240℃という大変厳しい条件にも関わらず500サイクルまで割れなどが発生せず、良好な接合性と信頼性を示した。このような厳しい条件でも十分に機能することから本発明のPbフリーAg−Sb系はんだ合金はSiC半導体素子などの高い動作温度の使用環境下でも十分に耐え得ることを示しており、水晶振動子の封止用としても好適であることが分かる。
一方、比較例である試料25〜40の各はんだ合金は、Ag、Sbの含有量が適切でないか、若しくはAl、Cu、Ge、Mg、Ni、Sn、Zn、Pの含有量が適切でなかったため、いずれか1つ以上の評価で好ましくない結果となった。具体的には、加工性の評価において全ての試料で傷やクラックが発生し、濡れ性についても全ての試料で好ましくない結果となり、特にヒートサイクル試験では全ての試料(接合できなかった試料27〜40を除く)で300サイクルまでに不良が発生した。
Claims (3)
- Pbを含まないAg−Sb系はんだ合金であって、Sbを40.0質量%以上48.0質量%以下含有し、残部がAg及び不可避不純物であることを特徴とするAg−Sb系はんだ合金。
- Pbを含まないAg−Sb系はんだ合金であって、Sbを40.0質量%以上48.0質量%以下含有し、更にAl、Cu、Ge、Mg、Ni、Sn、Zn及びPの内の少なくとも1種を含有し、Alを含有する場合はその含有量が0.01質量%以上1.5質量%以下であり、Cuを含有する場合はその含有量が0.01質量%以上15.0質量%以下であり、Geを含有する場合はその含有量が0.01質量%以上7.0質量%以下であり、Mgを含有する場合はその含有量が0.01質量%以上0.5質量%以下であり、Niを含有する場合はその含有量が0.01質量%以上1.0質量%以下であり、Snを含有する場合はその含有量が0.01質量%以上5.0質量%以下であり、Znを含有する場合はその含有量が0.01質量%以上1.0質量%以下であり、Pを含有する場合はその含有量が0.500質量%以下であり、残部がAg及び不可避不純物であることを特徴とするAg−Sb系はんだ合金。
- 前記Cuを含有する場合の含有量が0.03質量%以上1.5質量%以下であり、Niを含有する場合の含有量が0.03質量%0.5質量%以下であり、Pを含有する場合の含有量が0.300質量%以下であることを特徴とする、請求項2に記載のAg−Sb系はんだ合金。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2015150178A JP2017029996A (ja) | 2015-07-29 | 2015-07-29 | Pbを含まないAg−Sb系はんだ合金 |
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Family Applications (1)
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-
2015
- 2015-07-29 JP JP2015150178A patent/JP2017029996A/ja active Pending
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