JP2017029039A - ヘムタンパク質の生産方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】カイコにおいてヘムタンパク質を生産する方法を提供することを課題とする。【解決手段】ヘムタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入された鱗翅目昆虫個体に、ヘム前駆体およびヘム類縁体からなる群より選択される少なくとも1つを投与し、前記鱗翅目昆虫個体においてヘムタンパク質を産生させる工程、および前記鱗翅目昆虫個体から、前記ヘムタンパク質を取得する工程を含む、ヘムタンパク質の生産方法によって上記の課題を解決する。【選択図】なし

Description

本発明は、ヘムタンパク質の生産方法に関する。
従来、微生物細胞等を用いる有用ヒトタンパク質の量産が行われている。薬物代謝に関与するヘムタンパク質であるシトクロムP450等を、大腸菌細胞等を用いて量産する技術もその一つである。特許文献1は、大腸菌発現系において、ヘムの類似体であるヘミンを添加することによりヘムを内包したシトクロムP450を製造する方法を開示する。しかしながら、培地中で細胞を培養することが必須のこの技術では、大量のヘミンを投与する必要がある。
米国特許出願公開第2005−0130116号
本発明者らは、上記のような培地を必要としない発現系として、カイコ発現系に注目した。本発明者らは、カイコ発現系にてヘムタンパク質の組み換え体を製造する場合、ウイルス感染等の手法により発現誘導されたタンパク質の産生量に対し、カイコの持つ内在性のヘム合成が追いつかず、結果としてヘムを欠落したタンパク質が主として産生されるという問題があることを見出した。大腸菌や昆虫細胞などの培養発現系では、培地中に補因子を添加することでヘムを補充する手法がとられているが、カイコ発現系においてはそのような検討はなされていない。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、組換えタンパク質発現誘導後の鱗翅目昆虫個体にヘム前駆体やヘム類縁体を投与することにより、ヘムを内包した活性型のヘムタンパク質の調製が可能になり、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、ヘムタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入された鱗翅目昆虫個体に、ヘム前駆体およびヘム類縁体からなる群より選択される少なくとも1つを投与し、前記鱗翅目昆虫個体においてヘムタンパク質を産生させる工程、および前記鱗翅目昆虫個体から、前記ヘムタンパク質を取得する工程を含む、ヘムタンパク質の生産方法が提供される。
また、本発明によれば、シトクロムP450のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと、シトクロムP450還元酵素を含むポリヌクレオチドとが導入された第1の鱗翅目昆虫個体、およびシトクロムをコードするポリヌクレオチドが導入された第2の鱗翅目昆虫個体のそれぞれに、ヘム前駆体およびヘム類縁体からなる群より選択される少なくとも1つを投与し、前記鱗翅目昆虫個体においてヘムタンパク質を産生させる工程、前記第1および第2の鱗翅目昆虫個体から、それぞれシトクロムP450とシトクロムP450還元酵素とを含む第1のミクロソーム画分およびシトクロムを含む第2のミクロソーム画分を取得する工程、前記第2のミクロソーム画分を可溶化し、可溶化画分を取得する工程、前記第1のミクロソーム画分と前記可溶化画分とを混合し、組成物を取得する工程を含む、シトクロムP450と、シトクロムP450還元酵素と、シトクロムとを含む組成物の生産方法が提供される。
本発明によれば、鱗翅目昆虫を用いるタンパク質産生系において、ヘムを内包した活性型のヘムタンパク質を産生する方法が提供される。
ベクターpM01のベクターマップである。 精製CYP3A4タンパク質溶液の吸光スペクトルを示す図である。 ヘミン投与後のカイコ蛹におけるヘミン分布を示す写真である。 ウイルス感染後4日目または5日目にヘミンを投与した蛹から調製したミクロソーム画分のCYP3A4代謝活性を示すグラフである。 ウイルス感染後3日目または4日目にヘミンを投与した蛹から調製したミクロソーム画分のCYP3A4代謝活性を示すグラフである。 アミノレブリン酸および鉄イオンを投与した蛹から調製したミクロソーム画分のCYP3A4代謝活性を示すグラフである。 種々の濃度のアミノレブリン酸を投与した蛹から調製したミクロソーム画分のCYP3A4代謝活性を示すグラフである。 ヘミンおよび/またはアミノレブリン酸を投与した蛹から調製したミクロソーム画分のCYP3A4代謝活性を示すグラフである。 アミノレブリン酸を投与した蛹から精製したCYP3A4タンパク質溶液の吸光スペクトルを示す図である。 ヘミンを投与した蛹から精製したCytochrome b5タンパク質溶液の吸光スペクトルを示す図である。 Cytochrome b5を添加したミクロソーム画分のCYP3A4代謝活性を示すグラフである。 カイコ由来ミクロソーム画分および市販ミクロソーム画分の電気泳動図である。 ヘミンおよびアミノレブリン酸を投与した蛹から調製したミクロソーム画分のCYP1A2代謝活性を示すグラフである。 ヘミンおよびアミノレブリン酸を投与した蛹から調製したミクロソーム画分のCYP2C8代謝活性を示すグラフである。 ヘミンおよびアミノレブリン酸を投与した蛹から調製したミクロソーム画分のCYP2C9代謝活性を示すグラフである。 ヘミンおよびアミノレブリン酸を投与した蛹から調製したミクロソーム画分のCYP2C19代謝活性を示すグラフである。 ヘミンおよびアミノレブリン酸を投与した蛹から調製したミクロソーム画分のCYP2D6代謝活性を示すグラフである。
本発明のヘムタンパク質の生産方法は、ヘムタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入された鱗翅目昆虫個体に、ヘム前駆体およびヘム類縁体からなる群より選択される少なくとも1つを投与し、鱗翅目昆虫個体においてヘムタンパク質を産生させる工程を含む。
ヘムタンパク質は、ヘムと呼ばれるポルフィリン鉄錯体が結合したホロタンパク質であれば特に限定されない。
ヘムタンパク質としては、例えばシトクロムP450、シトクロム、ヘモグロビン、ミオグロビン、ペルオキシダーゼ、シトクロムc、シトクロムb、CooA、HemT等が挙げられる。本実施形態においては、ヘムタンパク質は、好ましくはシトクロムP450および/またはシトクロムである。シトクロムP450は、好ましくはCYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A5、CYP2J2、CYP4F2、CYP2C9*2、CYP2C9*3、CYP2D6*10、CYP2D6*39である。なお、「*」は遺伝子多型を表す。シトクロムは、好ましくはシトクロムb、シトクロムcである。具体的には、シトクロムb5(以下、「Cytochrome b5」ともいう)が例示される。
また、ヘムタンパク質中におけるヘムとアポタンパク質との結合態様は特に限定されない。例えば、アポタンパク質の空孔(ヘムポケットと呼ばれることがある)に対して配位結合していてもよいし、疎水性相互作用または静電相互作用によって結合していてもよい。一部のヘムタンパク質については立体構造解析が行われており、それによるとアポタンパク質の空孔にヘムが内包されるように結合するように見えることから、当該技術分野においては、ヘムタンパク質のアミノ酸配列部分(アポタンパク質)とヘムとが結合してヘムタンパク質化することを、「ヘムを内包する」と表現する場合がある。
一般に、ヘムタンパク質はヘムが活性中心となり、ヘムタンパク質全体の構造によって多様な機能を生み出すことが公知である。このような機能としては、例えばヘモグロビンやミオグロビン等の酸素運搬・貯蔵機能、シトクロムP450やペルオキシダーゼ等の酸化酵素的機能、シトクロムcおよびシトクロムb等の電子伝達機能、CooAやHemT等のガスセンサー機能等が挙げられる。本実施形態において、ヘムタンパク質は、これらの如何なる機能を有していてもよいし、ヘムタンパク質が有し得ることが公知のその他の如何なる機能を有していてもよい。
本実施形態では、ヘムタンパク質は、例えば以下の表1に示されるものであり得る。これらのヘムタンパク質をコードする遺伝子は、それらヘムタンパク質を有する所望の動物種に由来する単離されたヘムタンパク質をコードする遺伝子であれば特に限定されないが、好ましくはヒト由来のヘムタンパク質をコードする遺伝子である。
本発明において、ヘムとは、生体内に存在する主要なヘムであるヘムa、ヘムbおよびヘムcを含む。すなわち、本発明において意図されるヘムタンパク質は、これらのうちいずれのヘムが結合したホロタンパク質であってもよい。好ましい実施形態においては、ヘムタンパク質は、鱗翅目昆虫の生体内で合成されるヘムが結合したホロタンパク質である。
鱗翅目昆虫は、組換えタンパク質の発現に適する公知の鱗翅目昆虫であれば特に限定されない。例えばカイコ(Bombyx mori)、クワゴマダラヒトリ(Spilosoma imparilis)、サクサン(Antheraea pernyi)、スポドプテラ・フルギペルーダ(Spodoptera frugiperda)、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)などが挙げられる。それらの中でもカイコが特に好ましい。
鱗翅目昆虫個体は、成虫、蛹および幼虫のいずれの形態であってよいが、セリンプロテアーゼの活性およびバキュロウイルスへの感受性の観点から、蛹を用いることが好ましい。
好ましい実施形態では、カイコの蛹を用いるので、宿主である大腸菌または酵母あるいは昆虫由来の培養細胞株と比べ、少量の補因子で培養設備を必要とせずに、純度が高く、高濃度のヘムタンパク質を含有する高比活性のミクロソーム画分を製造できる。また、カイコ蛹に直接補因子を投与する手法であるため、大腸菌や昆虫細胞といった培地を使用する発現系と比べて高価な補因子の使用量を低減することができる。
鱗翅目昆虫個体には、ヘムタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入されている。
ポリヌクレオチドは、鱗翅目昆虫個体においてヘムタンパク質のアミノ酸配列部分(アポタンパク質)を発現しさえすれば如何なる形態で導入されていてもよい。好ましくは、ポリヌクレオチドは、鱗翅目昆虫個体における遺伝子発現を可能にするプロモータを有し、プロモータの下流にポリヌクレオチドを挿入可能なベクターDNAに組み込まれており、より好ましくは、バキュロウイルスDNAとの相同組換えにより組換えバキュロウイルスを作製可能なトランスファーベクターに挿入されている。そのようなベクターDNA自体は当該技術において公知であり、例えばpM01、pM02、pYNG、pBM030、pBM050、pVL1392などが挙げられる。好ましい実施形態では、pM01が用いられる。pM01のベクターマップを図1に示す。なお、上記のプロモータは当該技術において公知のプロモータから適宜選択することができ、例えばポリへドリンプロモータ、p10プロモータ、カイコアクチンプロモータなどが挙げられる。
また、ポリヌクレオチドには、当業者に公知のタグをコードするポリヌクレオチド、例えばDDDDKタグをコードするポリヌクレオチド、例えば配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド等が融合していてもよい。このようなタグは、ヘムタンパク質の取得を容易にし得る。
上記のヘムタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを組み込まれたベクターDNAでは、プロモータの下流にヘムタンパク質をコードするポリヌクレオチドが組み込まれることとなる。ここで、このポリヌクレオチドにタグをコードするポリヌクレオチドが融合している場合には、タグをコードするポリヌクレオチドは、ヘムタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの上流または下流のいずれに挿入されていてもよい。
ポリヌクレオチドは、当業者に公知の方法に従って、人工的に合成することができる。
本発明の生産方法では、鱗翅目昆虫個体においてヘムタンパク質のアミノ酸配列部分(アポタンパク質)を発現させる。
鱗翅目昆虫個体においてアポタンパク質を発現させる手段は特に限定されず、当業者が適宜決定できる。例えば、ベクターDNAを公知の遺伝子導入法により鱗翅目昆虫個体に直接トランスフェクションすることによって、アポタンパク質を発現させてもよい。本発明の好ましい実施形態においては、上記のベクターDNAで組み換えたバキュロウイルスを鱗翅目昆虫個体に感染させることによってアポタンパク質を発現させる。
バキュロウイルスを、所望の塩基配列を有するDNAで組み換える方法自体は当該技術において公知である。例えば、ベクターDNAがトランスファーベクターである場合は、制限酵素などにより直線化したバキュロウイルスDNAと、ヘムタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが組み込まれたベクターDNAとを鱗翅目昆虫の培養細胞にコトランスフェクションし、感染細胞をスクリーニングすることにより、組換えバキュロウイルスを得ることができる。
本発明の実施形態において、バキュロウイルスの種類は、上記の鱗翅目昆虫またはその昆虫の培養細胞に感染可能なウイルスであれば特に限定されないが、好ましくは核多角体病ウイルス(NPV)またはその改変ウイルスである。具体的には、BmNPV、HycuNPV、AnpeNPV、AcNPV、カイコガ科のカイコ(Bombyx mori)やヤガ科のオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)などの両宿主に感染する組換えバキュロウイルス(特開2003−52371号公報参照)などが例示される。好ましい実施形態においては、システインプロテアーゼ欠損(CPd)バキュロウイルスを用いる(特開平7-303488号参照)。
組換えバキュロウイルスを鱗翅目昆虫個体に感染させる手段は特に限定されず、当該技術において公知の方法から適宜選択できる。例えば、鱗翅目昆虫に感染させる場合は、組換えバキュロウイルスを含む液を該昆虫に注射する方法などが挙げられる。鱗翅目昆虫またはその昆虫の培養細胞にウイルスを感染させてから所定の期間(例えば、1〜4日間)飼育または培養することにより、ヘムタンパク質のアミノ酸配列部分(アポタンパク質)を発現させることができる。
鱗翅目昆虫には、ヘムタンパク質の補酵素のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドがさらに導入されていてもよい。導入方法は、ヘムタンパク質について上記で述べたことと同様である。
このような補酵素としては、例えばシトクロムP450還元酵素等が挙げられる。ヘムタンパク質の近傍に補酵素を発現させることができる。
1つの実施形態では、補酵素は、シトクロムP450還元酵素(CPR)である。CPRをコードする遺伝子は、CPRを有する所望の動物種に由来する単離されたCPR遺伝子であれば特に限定されないが、好ましくはヒトCPRをコードする遺伝子である。なお、ヒトCPRのアミノ酸配列部分の遺伝子の塩基配列自体は公知であり、例えば、米国国立医学図書館の国立生物情報センターにより提供されるデータベースには、アクセッションナンバーNM_000941で登録されている。
別の実施形態では、補酵素は、シトクロムの1つであるCytochrome b5である。Cytochrome b5については、上述のとおりである。
さらに別の実施形態では、補酵素は、ヒトCPRおよびCytochrome b5の両方である。
鱗翅目昆虫個体において補酵素を発現させる手段は特に限定されず、当業者が適宜決定できる。例えば、ベクターDNAを公知の遺伝子導入法により鱗翅目昆虫個体に直接トランスフェクションすることによって、補酵素を発現させてもよい。本発明の好ましい実施形態においては、上記のベクターDNAで組み換えたバキュロウイルスを鱗翅目昆虫個体に感染させることによってアポタンパク質を発現させる。
この場合、補酵素のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、ヘムタンパク質のアミノ酸をコードするポリヌクレオチドと同一のベクターDNAに挿入されていてもよいし、別々のベクターDNAに挿入されていてもよい。
また、ヘムタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと、補酵素をコードするポリヌクレオチドとは、同一のバキュロウイルスに組み込まれてもよいし、別々のバキュロウイルスに組み込まれてもよい。
ヘムタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと、補酵素をコードするポリヌクレオチドとが別々のバキュロウイルスに組み込まれている場合、これらのバキュロウイルスを1頭の鱗翅目昆虫個体に共感染させることによって、ヘムタンパク質と補酵素とを共発現させることができる。また、これらのバキュロウイルスをそれぞれ2体の鱗翅目昆虫個体に別々に感染させることによって、異なる鱗翅目昆虫個体において発現させてもよい。
ヘムタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと、補酵素をコードするポリヌクレオチドとを同一の鱗翅目昆虫個体において共発現させる場合、それらの混合比率は、ヘムタンパク質の産生が可能である限り特に限定されない。混合比率は、例えばウイルス力価で500:1〜1:500、好ましくは150:1〜1:150程度である。
ヘム前駆体は、生体内でヘムに変換され得る分子であれば特に限定されないが、分子量が小さい方が好ましい。好ましくは、ヘム前駆体は、ヘム合成経路の中間体である。このような中間体としては、例えばアミノレブリン酸(以下、「ALA」ともいう)、ポルホビリノーゲン、ヒドロキシメチルビラン、ウロポルフィリノーゲンIII、コプロポルフィリノーゲンIII、ポルトポルフィリノーゲン、プロトポルフィリノーゲンIX等が挙げられる。より好ましくは、ヘム前駆体は、アミノレブリン酸である。
ヘム類縁体としては、ヘムに類似の構造および/または機能を有する分子であれば特に限定されないが、分子量が小さい方が好ましい。ヘム類縁体としては、いわゆる合成ヘムを包含することが意図され、ポルフィリン骨格を有する化合物に鉄が配位した分子、例えばヘミン、ヘマチン等が挙げられる。
ヘム前駆体またはヘム類縁体は、溶液として投与されてもよいし、固体として投与されてもよい。好ましくは、溶液として投与される。溶液として投与する場合、溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水、生理食塩水、緩衝液および水酸化ナトリウム水溶液ならびにそれらの混合物等が挙げられる。好ましくは、溶媒はジメチルスルホキシドである。
上記の溶媒は、溶解促進剤をさらに含んでいてもよい。このような溶解促進剤自体は、固体、液体または気体のいずれであってもよく、固体または気体である場合には適宜溶媒に溶解させて用いることができる。溶解促進剤としては、例えば炭素数1〜6の低級アルコールが挙げられる。炭素数1〜6の低級アルコールの具体例としては、エタノール、プロピレングリコール、これらの混合物等が挙げられる。溶解促進剤が液体である場合、溶解促進剤を溶媒そのものとして用いることもできる。
ヘム前駆体またはヘム類縁体に加えて、さらに鉄を投与してもよい。鉄は、2価であってもよいし、3価であってもよい。鉄は、当業者に公知の方法によって製造することができる。鉄は、商業的に入手することもできる。例えば、塩化鉄(II) (Iron(II)chloride Tetrahydrate、和光純薬)、クエン酸鉄(III) (Iron(III)citrate、Sigma-Aldrich)等が挙げられる。
鉄自体は任意の溶媒中にイオンとして存在していてもよいし、固体であってもよい。好ましい実施形態では、ヘム前駆体および/またはヘム類縁体と同じ溶媒中にイオンとして存在する。
カウンターイオンは、ヘムタンパク質の産生が可能な限り特に限定されない。好ましくは、塩化物イオンまたはクエン酸イオンである。
上記ヘム前駆体の投与量は、ヘムタンパク質産生が可能である限り特に限定されない。ヘム前駆体の投与量の上限は、好ましくは一個体あたり0.7 mg、より好ましくは一個体あたり0.27 mg、さらに好ましくは一個体あたり0.067 mgである。ヘム前駆体の投与量の下限は、好ましくは一個体あたり0.001 mg、より好ましくは一個体あたり0.0034 mg、さらに好ましくは一個体あたり0.017 mgである。本実施形態では、例えば、ヘム前駆体として2 mM (0.34 mg/ml)の濃度のアミノレブリン酸が1カ所当たり50μlの量で2カ所に投与される。すなわち、本実施形態では、一個体あたり0.034 mgのアミノレブリン酸が投与される。
上記ヘム類縁体の投与量は、ヘムタンパク質産生が可能である限り特に限定されない。ヘム類縁体の投与量の上限は、好ましくは一個体あたり3 mg、より好ましくは一個体あたり0.65 mg、さらに好ましくは一個体あたり0.16 mgである。ヘム類縁体の投与量の下限は、好ましくは一個体あたり0.001 mg、より好ましくは一個体あたり0.02 mg、さらに好ましくは一個体あたり0.04 mgである。本実施形態では、例えば、ヘム類縁体として1.25 mM (0.82 mg/ml)の濃度のヘミンが1カ所当たり50μlの量で2カ所に投与される。すなわち、本実施形態では、一個体あたり0.082 mgのヘミンが投与される。
上記ヘム前駆体およびヘム類縁体の投与手段は、ヘムタンパク質産生が可能である限り特に限定されない。例えば、注射、経口、塗布等によって投与することができる。好ましくは、注射によって投与される。
好ましい実施形態では、ヘム類縁体としてのヘミン、ヘム前駆体としてのアミノレブリン酸またはそれらの混合物が、鱗翅目昆虫個体としてのカイコ蛹の腹部体節、より具体的には腹部体節4-5間および6-7間の2カ所に投与される。しかしながら、この実施形態は、カイコ蛹個体のその他の場所にヘム類縁体およびヘム前駆体を投与することを除外するものではなく、ヘムタンパク質産生が可能である限り如何なる場所に投与してもよい。
上記ヘム前駆体およびヘム類縁体の投与時期は、ヘムタンパク質産生が可能である限り特に限定されない。好ましくは、ポリヌクレオチドの導入後2〜5日目、より好ましくは3〜4日目に投与される。
上記ヘム前駆体およびヘム類縁体として2以上の物質を投与する場合、それらは混合されてもよいし、混合されずに同時もしくは別々に投与されてもよいし、または任意の順序で逐次的に投与されてもよい。
ヘム前駆体およびヘム類縁体は、鱗翅目昆虫個体内で分解等されてヘムに変換されるか、またはそのままの状態でヘムタンパク質のアミノ酸配列部分(アポタンパク質)と結合し、ヘムタンパク質(ホロタンパク質)が産生されると考えられる。従来、カイコを用いるヘムタンパク質産生においては、ヘムタンパク質のアミノ酸配列部分(アポタンパク質)とヘムとの結合がうまく起こらず、得られるタンパク質は、アポタンパク質の状態であった。これは、カイコ体内における内在性のヘム合成が量的に不足しているためであると本発明者らは考えた。今回、ヘム前駆体またはヘム類縁体をカイコ蛹に投与することにより、この内在性のヘム合成の不足を補い、カイコ発現系においてもヘムタンパク質を合成できるようにしたことは、本発明者らによる驚くべき成果である。本発明の生産方法は、大腸菌や昆虫細胞のような培地を必要とする発現系と比較して、高価な補因子の使用量を抑えることができる。
本発明の産生工程に係る好ましい実施形態を以下に例示する。しかし、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。
第1の好ましい実施形態では、ヘムタンパク質としてシトクロムP450が用いられる。シトクロムP450は、脂質二重膜を足場として機能を発揮するタンパク質であり、薬物代謝に関与する。具体的には、薬物の-H基を-OH基に変換し、薬物の代謝を担う。
第1の好ましい実施形態では、シトクロムP450のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入されたカイコに、ヘミン、アミノレブリン酸またはそれらの混合物を投与し、カイコにおいてシトクロムP450を産生させる。
第2の好ましい実施形態では、ヘムタンパク質としてシトクロムb5が用いられる。シトクロムb5は、脂質二重膜を足場とする膜タンパク質として機能し得る。
第2の好ましい実施形態では、シトクロムb5のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入されたカイコに、ヘミン、アミノレブリン酸またはそれらの混合物を投与し、カイコにおいてシトクロムb5を産生させる。
第3の好ましい実施形態では、ヘムタンパク質としてシトクロムP450および補酵素としてシトクロムP450還元酵素(CPR)が用いられる。シトクロムP450還元酵素は、シトクロムP450の近傍で機能し、NADPHをNADP+に変換する過程で得られた電子をシトクロムP450に供与する。シトクロムP450還元酵素がシトクロムP450の近傍に存在することにより、シトクロムP450の代謝機能が発揮されるため、好ましい。
第3の好ましい実施形態では、シトクロムP450のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドおよびシトクロムP450還元酵素をコードするポリヌクレオチドが導入されたカイコに、ヘミン、アミノレブリン酸またはそれらの混合物を投与し、カイコにおいてシトクロムP450およびシトクロムP450還元酵素を産生させる。
第4の好ましい実施形態では、ヘムタンパク質としてシトクロムP450ならびに補酵素としてシトクロムP450還元酵素およびシトクロムb5が用いられる。上述のとおり、シトクロムb5は、脂質二重膜を足場とする膜タンパク質としても機能し得るが、可溶化および/または精製してシトクロムP450およびシトクロムP450還元酵素を含むミクロソーム画分に添加することにより、膜から遊離した状態でシトクロムP450による薬物代謝活性を増大する補因子としても機能し得る。
第4の好ましい実施形態では、シトクロムP450のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドおよびシトクロムP450還元酵素をコードするポリヌクレオチドが導入された第1のカイコ、およびシトクロムb5をコードするポリヌクレオチドが導入されたポリヌクレオチドが導入された第2のカイコのそれぞれに、ヘミン、アミノレブリン酸またはそれらの混合物を投与し、これらのカイコにおいてシトクロムP450、シトクロムP450還元酵素およびシトクロムb5を産生させる。
本発明のヘムタンパク質の生産方法は、鱗翅目昆虫個体から、ヘムタンパク質を取得する工程を含む。
取得方法は、特に限定されず、生産するヘムタンパク質の種類や性質に応じて当業者が適宜選択することができる。例えば、ヘムタンパク質が機能を発揮するために脂質二重層の足場が必要な場合には、ミクロソーム画分を得ることによって取得でき、ヘムタンパク質がミトコンドリアにおいて機能する場合には、ミトコンドリア画分を得ることによって取得できる。
取得の時期は、特に限定されず、生産するヘムタンパク質や宿主鱗翅目昆虫個体の種類や性質に応じて当業者が適宜選択することができる。例えば、ポリヌクレオチドの導入から3〜8日後、好ましくは4〜6日後等が挙げられる。好ましい実施形態においては、ポリヌクレオチド導入から6日後にヘムタンパク質を取得する。
好ましい実施形態においては、ヘムタンパク質は脂質二重層を足場として機能を発揮するシトクロムP450である。シトクロムP450は小胞体に多く存在するので、ミクロソーム画分を取得することによってヘムタンパク質を取得する。より具体的には、まず、磨砕、超音波破砕または界面活性剤などの細胞溶解剤を含む溶液に溶解すること等によって鱗翅目昆虫個体の細胞を破砕してホモジェネートを調製し、1,000 g程度の低回転数で遠心分離することによって核画分を沈殿させ、その上清を9,000 g程度のやや高回転数で遠心分離することによってミトコンドリア画分を沈殿させ、さらにその上清を100,000 g程度の回転数での超遠心分離によってミクロソーム画分を沈殿させることによって、脂質二重層の足場に結合した状態のシトクロムP450 (ヘムタンパク質)を取得することができる。
上記のように脂質二重層の足場に結合した状態でヘムタンパク質等を取得した場合、得られたヘムタンパク質は、可溶化剤を用いて、さらに可溶化してもよい。可溶化によって、脂質二重層が除去され、ヘムタンパク質を遊離させることができる。可溶化剤は、得られるヘムタンパク質の構造および機能に影響を与えない限り特に限定されない。可溶化剤としては、例えば、当業者に公知の界面活性剤が用いられる。より具体的にはコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドなどのカチオン系界面活性剤、CHAPSなどの両性界面活性剤、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
可溶化の原料は、ミクロソーム画分に限定されない。カイコ蛹を破砕し、分画したいずれの画分からでも可溶化できる。好ましくは、ミクロソーム画分である。
上記のようにして可溶化したヘムタンパク質等は、クロマトグラフィ等の当業者に公知の方法を用いてさらに精製してもよい。好ましい実施形態では、ゲル濾過クロマトグラフィまたは陽イオン交換クロマトグラフィが用いられる。
可溶化して得られた精製ヘムタンパク質等は、リポソームやナノディスク等の当業者に公知の方法を用いて、脂質二重膜上に再構築してもよい。
本発明の取得工程に係る好ましい実施形態を以下に例示する。しかし、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。
第1の好ましい実施形態では、産生工程において産生されるヘムタンパク質は、シトクロムP450である。上記のとおり、シトクロムP450は、脂質二重膜を足場として機能を発揮するタンパク質であり、小胞体に多く存在する。よって、取得工程においては、ミクロソーム画分を取得する。ミクロソーム画分は、上記したような当業者に公知の遠心分離法に従って取得することができる。シトクロムP450は、脂質二重層の足場と結合した状態のものを取得することが望ましい。
第2の好ましい実施形態では、産生工程において産生されるヘムタンパク質は、シトクロムb5である。上記のとおり、シトクロムb5は、脂質二重膜を足場として機能を発揮するタンパク質であり、小胞体に多く存在する。よって、取得工程においては、ミクロソーム画分を取得する。ミクロソーム画分は、上記したような当業者に公知の遠心分離法に従って取得することができる。シトクロムb5は、脂質二重層の足場と結合した状態のものを取得することが望ましい。
第3の好ましい実施形態では、産生工程において産生されるヘムタンパク質は、シトクロムP450であり、補酵素はシトクロムP450還元酵素である。シトクロムP450還元酵素もまた、脂質二重層を足場とする膜タンパク質であり、小胞体に多く存在する。よって、取得工程においては、ミクロソーム画分を取得する。ミクロソーム画分は、上記したような当業者に公知の遠心分離法に従って取得することができる。シトクロムP450還元酵素は、脂質二重層の足場と結合した状態のものを取得することが望ましい。
第4の好ましい実施形態では、産生工程において産生されるヘムタンパク質は、シトクロムP450であり、補酵素はシトクロムP450還元酵素およびシトクロムb5である。上記のとおり、補因子としてのシトクロムb5は、好ましくは、可溶化および/または精製してシトクロムP450およびシトクロムP450還元酵素を含むミクロソーム画分に添加することにより、膜から遊離した状態でシトクロムP450による薬物代謝活性を増大する。よって、この実施形態では、シトクロムP450およびシトクロムP450還元酵素については、1体の鱗翅目昆虫個体からミクロソーム画分を取得することによって取得し、一方で、シトクロムb5については、シトクロムb5が導入されたカイコから、まず膜タンパク質として存在するシトクロムb5を含むミクロソーム画分を取得し、得られたミクロソーム画分を可溶化および/または精製することによって、膜から遊離した状態のシトクロムb5を取得することが望ましい。このような精製シトクロムb5は、上記したような当業者に公知の方法に従ってミクロソーム画分を取得した後、当業者に公知の精製方法、好ましくはアフィニティクロマトグラフィ、ゲル濾過クロマトグラフィまたは陽イオン交換クロマトグラフィを用いて取得することができる。
本発明の範囲には、上記の生産方法によって得られるヘムタンパク質それ自体も含まれる。
また、本発明の範囲には、上記のヘムタンパク質および/または補酵素を含む組成物およびその生産方法も包含される。このような組成物は、例えば、薬物代謝試験用試薬として有用である。
ヘムタンパク質がミクロソーム画分に存在する場合、そのような組成物は、当業者に公知の方法に従って、鱗翅目昆虫個体の細胞を破砕し、ミクロソーム画分を得ることによって生産することができる。得られたミクロソーム画分は、さらに可溶化し、精製することによって精製品のヘムタンパク質としてもよい。
ヘムタンパク質が核に存在する場合およびミトコンドリアに存在する場合、組成物は、上記したような当業者に公知の遠心分離法に従って、核画分またはミトコンドリア画分を得ることによって生産することができる。得られた核画分またはミトコンドリア画分は、さらに可溶化し、精製することによって精製品のヘムタンパク質としてもよい。
ヘムタンパク質が細胞質中に存在する場合、上記の組成物は、当業者に公知の方法に従って、鱗翅目昆虫個体の細胞を破砕し、上澄みを取ることによって生産することができる。得られた組成物は、濃縮して更に高濃度の液体組成物としてもよいし、溶媒を飛ばしてまたは凍結乾燥させて、固体組成物としてもよい。また、得られた組成物は精製することによって精製品のヘムタンパク質としてもよい。好ましい実施形態では、組成物は、ミクロソーム画分そのものまたはそれを可溶化および精製することによって得られた精製品、あるいはそれらの精製品をリポソーム等の公知の方法に従って脂質二重膜上に再構築したものである。
本発明の組成物に係る好ましい実施形態を以下に例示する。しかし、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。
第1の好ましい実施形態では、組成物は、シトクロムP450を含む。シトクロムP450を含む組成物は、シトクロムP450のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入された鱗翅目昆虫個体から、ミクロソーム画分を取得することによって生産することができる。上記のとおり、シトクロムP450は、脂質二重膜を足場として機能を発揮するタンパク質である。よって、組成物は、足場としての脂質二重層に結合したシトクロムP450を含むことが好ましい。すなわち、組成物がシトクロムP450を含む場合、組成物はミクロソーム画分そのものであることが好ましい。
第1の好ましい実施形態に係る組成物は、例えば、
シトクロムP450のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入された鱗翅目昆虫個体に、ヘム前駆体およびヘム類縁体からなる群より選択される少なくとも1つを投与し、前記鱗翅目昆虫個体においてヘムタンパク質を産生させる工程、
前記鱗翅目昆虫個体から、シトクロムP450を含むミクロソーム画分を取得する工程
を含む、シトクロムP450を含む組成物の生産方法によって生産することができる。
第2の好ましい実施形態では、組成物は、シトクロムb5を含む。シトクロムb5を含む組成物は、シトクロムb5のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入された鱗翅目昆虫個体から、ミクロソーム画分を取得することによって生産することができる。上記のとおり、シトクロムb5は、脂質二重膜を足場として機能を発揮するタンパク質である。よって、組成物は、足場としての脂質二重層に結合したシトクロムb5を含むことが好ましい。すなわち、組成物がシトクロムb5を含む場合、組成物はミクロソーム画分そのものであることが好ましい。
第2の好ましい実施形態に係る組成物は、例えば、
シトクロムb5のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入された鱗翅目昆虫個体に、ヘム前駆体およびヘム類縁体からなる群より選択される少なくとも1つを投与し、前記鱗翅目昆虫個体においてヘムタンパク質を産生させる工程、
前記鱗翅目昆虫個体から、シトクロムb5を含むミクロソーム画分を取得する工程
を含む、シトクロムb5を含む組成物の生産方法によって生産することができる。
第3の好ましい実施形態では、組成物は、シトクロムP450およびシトクロムP450還元酵素を含む。シトクロムP450還元酵素を含む組成物は、シトクロムP450還元酵素のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入された鱗翅目昆虫個体から、ミクロソーム画分を取得することによって生産することができる。上記のとおり、シトクロムP450還元酵素は、脂質二重膜を足場として機能を発揮するタンパク質である。よって、組成物は、脂質二重層の足場と結合したシトクロムP450還元酵素を含むことが望ましい。すなわち、組成物がシトクロムP450還元酵素を含む場合、組成物はミクロソーム画分そのものであることが好ましい。
第3の好ましい実施形態に係る組成物は、例えば、
シトクロムP450のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドおよびシトクロムP450還元酵素をコードするポリヌクレオチドが導入された鱗翅目昆虫個体に、ヘム前駆体およびヘム類縁体からなる群より選択される少なくとも1つを投与し、前記鱗翅目昆虫個体においてヘムタンパク質を産生させる工程、
前記鱗翅目昆虫個体から、シトクロムP450およびシトクロムP450還元酵素を含むミクロソーム画分を取得する工程
を含む、シトクロムP450およびシトクロムP450還元酵素を含む組成物の生産方法によって生産することができる。
第4の好ましい実施形態では、組成物は、シトクロムP450、シトクロムP450還元酵素およびシトクロムb5を含む。上記のとおり、補因子としてのシトクロムb5は、好ましくは、可溶化および/または精製してシトクロムP450およびシトクロムP450還元酵素を含むミクロソーム画分に添加することにより、膜から遊離した状態でシトクロムP450による薬物代謝活性を増大する。よって、この実施形態では、シトクロムP450およびシトクロムP450還元酵素については、1体の鱗翅目昆虫個体からミクロソーム画分を取得することによって取得し、一方で、シトクロムb5については、シトクロムb5が導入されたカイコから、まず膜タンパク質として存在するシトクロムb5を含むミクロソーム画分を取得し、得られたミクロソーム画分を可溶化および/または精製することによって、膜から遊離した状態のシトクロムb5を取得し、シトクロムP450およびシトクロムP450還元酵素を含むミクロソーム画分と可溶化画分とを混合することによって、組成物を取得することが望ましい。
より具体的には、このような組成物は、
シトクロムP450のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと、シトクロムP450還元酵素を含むポリヌクレオチドとが導入された第1の鱗翅目昆虫個体、およびシトクロムb5をコードするポリヌクレオチドが導入された第2の鱗翅目昆虫個体のそれぞれに、ヘム前駆体およびヘム類縁体からなる群より選択される少なくとも1つを投与し、前記鱗翅目昆虫個体においてヘムタンパク質を産生させる工程、
前記第1および第2の鱗翅目昆虫個体から、それぞれシトクロムP450とシトクロムP450還元酵素とを含む第1のミクロソーム画分およびシトクロムを含む第2のミクロソーム画分を取得する工程、
前記第2のミクロソーム画分を可溶化し、可溶化画分を取得する工程、
前記第1のミクロソーム画分と前記可溶化画分とを混合し、組成物を取得する工程
を含む、シトクロムP450と、シトクロムP450還元酵素と、シトクロムとを含む組成物の生産方法によって生産することができる。
以下に、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
実施例1:カイコヘのヘミン投与によるヘム内包型CYP3A4の生産
ヒトCYP3A4の完全長をコードする遺伝子に、DYKDDDDKタグ配列をコードしたポリヌクレオチド(5’-GACTATAAAGACGACGATGATAAA-3’;配列番号1)を付加したDNA断片を人工合成(ファスマック社に外注)により作製した。このタグ配列は、ヒトCYP3A4アミノ酸配列のC末端に付加されるよう配置された。このDNA断片をpM01ベクター(シスメックス株式会社)のマルチクローニングサイト(制限酵素BglII/XhoI)へ組み込んだ。得られたプラスミドコンストラクトをCYP3A4_pM01と呼ぶ。
組換えバキュロウイルスの作製は、Maedaらの方法(Invertebrate Cell System and Applications, Vol.1, p.167-181,CRC Press, Boca Raton(1989))を改変して行った。具体的には、上記のプラスミドコンストラクトCYP3A4_pM01(50ng)と直鎖化したCPdバキュロウイルス(システインプロテアーゼ欠損ウイルス株、シスメックス)のDNA(20ng)とをリポフェクション試薬(X-tremeGENE 9 DNAトランスフェクション試薬:ロシュ社)を用いて、BmN細胞(Maeda, 1989)にコトランスフェクトした。感染兆候を確認した後、培養上清を回収した。これにより、ヒトCYP3A4遺伝子を組み込んだ組換えバキュロウイルスを得た。
組換えバキュロウィルスをカイコ蛹(品種:錦秋鐘和, 上田蚕種社より蚕卵を購入し、シスメックス株式会社にて蛹まで人工飼育)に接種し、ウイルス感染から3日経過した後に50 μLのヘミン溶液(ジメチルスルホキシド(以下DMSO)中10mMのヘミン(Hemin from bovine、Sigma-Aldrich)を蛹1頭あたりに2ヶ所、注射法で接種した。2ヶ所の接種箇所は、腹部体節4-5間および6-7間とした。ウイルス接種から6日後に蛹を回収し−80℃で凍結した。
凍結した蛹5頭あたりに25 mLの緩衝液(50 mM Tris酢酸、250 mM スクロース、プロテアーゼインヒビター、pH7.6)を加え、ホモジナイザー(エルメックス, 型式SH-IIM, パドル式破砕)を用いて蛹を破砕して懸濁液を得た。この懸濁液をメッシュで濾過することにより蛹表皮等の残渣を除去した後、遠心分離(1850×g, 4℃, 10分)して上清を回収し、この上清を第1上清とした。また、遠心分離後の沈殿物に25 mLの緩衝液(50 mM Tris酢酸、250 mMスクロース、プロテアーゼインヒビター、pH7.6)を加えて懸濁した後、微量超音波ホモジナイザー(QSonica, モデルQ55)で破砕した。超音波破砕物を含む懸濁液を遠心分離(1850×g, 4℃, 10分)して上清を回収し、この上清を第2上清とした。第1上清および第2上清を混合した後、遠心分離(9000×g, 4℃, 20分)して上清を回収した。この上清を超遠心分離(100,000×g, 4℃, 60分)した後、上清を除去し、沈殿物に緩衝液(50 mM Tris酢酸、250 mMスクロース、0.25 mM EDTA, pH7.6)15mLを加えて懸濁した。
さらに、テフロンホモジナイザー(アズワン、回転数5000rpm, 10ストローク)を用いて破砕することで粗膜画分懸濁液を得た。この粗膜画分懸濁液に、可溶化溶液(1.2%コール酸ナトリウム, 100 mMリン酸カリウム, 20%グリセロール, 0.1mM DTT)15 mLを加えて4℃で2時間インキュベートした後、遠心分離(100,000×g, 4℃, 60分)して上清を回収し、タグ融合CYP3A4を可溶化したタンパク質溶液を得た。この溶液に、抗DDDDKペプチド抗体が結合したレジン(DDDDK-タグ化タンパク質精製ゲル, MBL, 50%スラリー)4mLを添加し、タグ融合CYP3A4をレジンに特異的に結合させた。これに0.1mg/mLのDDDDKペプチドを含む溶出液(100mM リン酸カリウム, 0.1mM DTT, 0.1mM EDTA, 0.6% コール酸ナトリウム, pH7.6)を競合的に反応させることで、タグ融合CYP3A4をレジンから遊離させて回収した。回収したタンパク質溶液を限外ろ過膜(Apollo, MWCO: 20kDa)で1mL (1.3mg/mL)まで濃縮した。
得られたタグ融合CYP3A4タンパク質溶液を96ウェルプレートに100μL/ウェル入れ、280nm〜600nmの吸収スペクトルを測定した。同時に、緩衝液(100mM リン酸カリウム, 0.1mM DTT, 0.1mM EDTA, 0.6% コール酸ナトリウム, pH7.6)のスペクトルを測定し、タンパク質溶液との差分を算出することで、タグ融合CYP3A4由来のスペクトルを得た。尚、本来は一酸化炭素(CO)を結合させた状態で測定し、CO差スペクトルをとることで450nmのピークが検出されるようになるが、設備上困難であった為実施していない。
調製したCYP3A4タンパク質溶液のスペクトルを図2に示す。ヘミンを投与した蛹から調製したCYP3A4では、420nm付近に鋭い極大をもつスペクトルが観測された。この極大は、ヘムを内包した酸化型P450が示すソーレー帯のスペクトルと一致していた。一方、ヘミンを投与しなかったカイコ蛹から精製したCYP3A4では、ヘム内包P450由来の極大が認められなかった。また、精製CYP3A4タンパク質溶液にヘミンを終濃度225μMで添加した場合は、ヘミン由来の幅広い極大が観察された。可溶化・精製過程のバッファーにヘミンを終濃度100μMで添加した条件で調製したCYP3A4では、酸化型P450に類似したスペクトルが観察されたが、極大波長は408nmであった。以上の検討結果から、カイコ個体にヘミン投与することにより、ヘムを内包したCYP3A4を取得できることが示唆された。
実施例2:ヘミン溶解剤とカイコ蛹中の分布
実施例1と同様にしてヘミン溶液(10mM ヘミン、溶媒:DMSO)をカイコ蛹に接種した。また、実施例1で用いたヘミン溶液とは異なる溶媒のヘミン溶液(10mM ヘミン, 37.5mM L-アルギニン, 2.5% エタノール, 10% プロピレングリコール, PBS)をカイコ蛹1頭あたりに2ヶ所、注射法で接種した。ヘミン接種から2日後および3日後に蛹を回収し、-80℃で凍結した。また、対照として、ヘミンを接種していない蛹を-80℃で凍結した。これらの凍結蛹をカッターナイフで背割りにし、切断面を接写した。ヘミンを接種していない蛹の切断面を図3(1)に、ヘミン溶液(10mM ヘミンin DMSO)を接種した蛹の切断面を図3(2)に、ヘミン溶液(10mM ヘミン, 37.5mM L-アルギニン, 2.5% エタノール, 10% プロピレングリコール, PBS)を接種した蛹の切断面を図3(3)に示す。ヘミン(10mM)は濃い茶褐色の溶液であるため、ヘミン由来の色素を指標とすることで、カイコ蛹体内でのヘミンの分布を観察した。ヘミンを接種した場合は、蛹内部でヘミンが拡散している様子が観察された。溶解促進剤を用いた場合は、蛹全体により拡散している様子が観察された。
実施例3:種々の濃度のヘミン投与時のCYP3A4代謝活性の測定
実施例1で作製したヒトCYP3A4発現用ウイルスおよびヒトCPR発現用ウイルスをウイルス力価で1:1の比率となるように混合し、カイコ蛹に接種した。ここで、ヒトCPR発現用ウイルスは、以下のようにして作製した。まず、ヒトCPRをコードする遺伝子に、DYKDDDDKタグ配列をコードしたポリヌクレオチド(5’-GACTATAAAGACGACGATGATAAA-3’;配列番号1)を付加したDNA断片を人工合成(ファスマック社に外注)した。このタグ配列は、ヒトCPRアミノ酸配列のC末端に付加されるよう配置された。このDNA断片をpM01ベクターのマルチクローニングサイト(制限酵素BglII/XhoI)に組み込むことによってプラスミドコンストラクトCPR_pM01を作製し、上記と同様にしてヒトCPR遺伝子を組み込んだバキュロウイルスを得た。
ウイルス感染後、試験区A(以下の表2)および試験区B(以下の表3)に従い、50 μLのヘミン溶液を蛹1頭あたりに2ヶ所、注射法で接種した。ウイルス接種から6日後に蛹を回収し、−80℃で凍結した。凍結した蛹を用いて粗膜画分懸濁液を得た。粗膜画分懸濁液の調製は、実施例1に記載した手法に従った。得られた粗膜画分のCYP3A4活性を、市販P450-Glo CYP3A4 Screening System(プロメガ社)を用いて測定した。当該測定試薬に付随されているCYP3A4膜画分の代わりに、自家調製した粗膜画分を用い、その他の条件は測定試薬のマニュアルに従った。尚、検出にはプレートリーダー(Thermo Fisher Scientific, VarioSkan)を用い、CYP3A4の代謝活性に相関した発光強度(RLU)を測定した。
試験区A(表2)由来の粗膜画分のCYP3A4代謝活性を評価した結果、ウイルス感染後4日目および5日目にヘミンを投与した系のいずれにおいても、0.63 mM、2.5 mM、10 mMおよび40 mM全ての濃度において、ヘミンを投与しない場合よりも高いCYP3A4代謝活性が示された(図4)。
次に、投与濃度をさらに詳細に検討するため、試験区B(表3)由来の粗膜画分を評価した。その結果、ウイルス感染後4日目に1.25 mMヘミンを投与した条件において、最も高い活性が示された。ウイルス感染後3日目の投与と4日目の投与で有意差は認められなかった(図5)。
実施例4:種々の濃度のアミノレブリン酸投与時のCYP3A4代謝活性の測定
実施例1で作製したヒトCYP3A4発現用ウイルスと、実施例3で作製したヒトCPR発現用ウイルスとをウイルス力価で2:1の比率となるように混合し、カイコ蛹に接種した。ウイルス感染から3日経過した後に50 μLのアミノレブリン酸(5-Aminolevulinic Acid Hydrochloride、和光純薬)溶液をカイコ蛹1匹あたりに2ヶ所、注射法で接種した。アミノレブリン酸溶液は、試験区A(以下の表4)および試験区B(以下の表5)に従って調製した。ウイルス接種から6日後にカイコ蛹を回収し−80℃で凍結した。
凍結した蛹を用いて、第1上清および第2上清を得た。第1上清および第2上清の調製は、実施例1に記載した手法に従った。第1上清および第2上清を混合した後、遠心分離(9000×g, 4℃, 20分)して上清を回収した。この高速遠心上清を超遠心分離(105,000×g, 4℃, 90分)して上清を除去した後、沈殿物に154mM KCl溶液30 mLを加えた。ピペット操作で沈殿物のミクロソーム画分(茶褐色の上層)をグリコーゲン画分(無色透明の下層)から分離し、ミクロソーム画分のみを回収した後、テフロンホモジナイザー(アズワン、回転数5000rpm、10ストローク)でミクロソーム画分懸濁液を調製した。
これを超遠心分離(105,000×g, 4℃, 60分)して上清を除去した後、沈殿物に緩衝液(50mM Tris酢酸、250mMスクロース、0.25mM EDTA、pH7.6)3 mLを加えた。この沈殿物をダウンス型ホモジナイザーで破砕(30ストローク)することによりミクロソーム画分懸濁液を得た。得られたミクロソーム画分のCYP3A4活性を、市販P450-Glo CYP3A4 Screening System(プロメガ社)を用いて測定した。当該測定試薬に付随されているCYP3A4膜画分の代わりに、自家調製したミクロソーム画分を用い、その他の条件は測定試薬のマニュアルに従った。
試験区A(表4)由来ミクロソーム画分のCYP3A4代謝活性を評価した結果、アミノレブリン酸(ALA)濃度は、0.2 mMより2 mMにおいて活性が高かった。一方、同時に投与した鉄の種類については、塩化鉄(II) (Iron(II)chloride Tetrahydrate、和光純薬)とクエン酸鉄(III) (Iron(III)citrate、Sigma-Aldrich)の間に有意差は認められなかった。また、鉄の投与濃度0.2 mMと2 mMの間に有意差は認められなかった(図6)。そこで、今後の検討では塩化鉄(II)を用いることとした。次に、アミノレブリン酸投与濃度をさらに詳細に検討するため、試験区B(表5)由来のミクロソーム画分を評価した。
結果、アミノレブリン酸を投与することによって活性が向上することがわかった。また、ウイルス感染後2日目の投与と3日目の投与に有意差は認められなかった(図7)。以上の検討結果から、アミノレブリン酸を投与する系においては、ウイルス感染後3日目の蛹に、2 mM ALA, 0.2 mM 塩化鉄(II)溶液を投与する条件が最適であると判断した。
実施例5:ヘミン、アミノレブリン酸およびヘミンとアミノレブリン酸との混合物投与時のCYP3A4代謝活性の測定
実施例1で作製したヒトCYP3A4発現用ウイルスと、実施例3で作製したヒトCPR発現用ウイルスとをウイルス力価で2:1の比率となるように混合し、カイコ蛹に接種した。ウイルス感染後、試験区(以下の表6)に従って50 μLのヘムタンパク質化溶液を蛹1頭あたりに2ヶ所、注射法で接種した。ウイルス接種から6日後に蛹を回収し、−80℃で凍結した。凍結した蛹を用いてミクロソーム画分懸濁液を調製した。ミクロソーム画分懸濁液の調製は、実施例4に記載の手法に従った。得られたミクロソーム画分のCYP3A4活性を、市販P450-Glo CYP3A4 Screening System(プロメガ社)を用いて測定した。当該測定試薬に付随されているCYP3A4膜画分の代わりに、自家調製したミクロソーム画分を用い、その他の条件は測定試薬のマニュアルに従った。
試験区(以下の表6)由来ミクロソーム画分のCYP3A4代謝活性を評価した結果、ヘミンを投与した場合、アミノレブリン酸を投与した場合、およびヘミンとアミノレブリン酸の両方を投与した場合の何れにおいても、高活性のミクロソーム画分を取得することができた(図8)。
実施例6:アミノレブリン酸投与によるヘム内包型CYP3A4の生産
実施例1で作製したヒトCYP3A4発現用ウイルスをカイコ蛹に接種した。ウイルス感染から3日経過した後に50 μLのヘムタンパク質化溶液(2mM アミノレブリン酸, 0.2mM 塩化鉄(II))を蛹1頭あたりに2ヶ所、注射法で接種した。ウイルス接種から6日後に蛹を回収し、-80℃で凍結した。凍結した蛹を用いて第1上清を得た。第1上清の調製は、実施例1に記載の手法に従った。また、遠心分離後の沈殿物に25 mLの緩衝液(50mM リン酸カリウム, 6mM酢酸マグネシウム, 20%グリセロール, 1mM DTT, 1mM EDTA, pH7.4)を加えて懸濁した後、微量超音波ホモジナイザー(QSonica, モデルQ55)で破砕した。超音波破砕物を含む懸濁液を遠心分離(1850×g, 4℃, 10分)して上清を回収し、この上清を第2上清とした。第1上清および第2上清を用いて、ミクロソーム画分懸濁液を得た。
このミクロソーム画分懸濁液の調製は、実施例4に記載の手法に従った。ミクロソーム画分懸濁液24mLに、可溶化溶液(50mM リン酸カリウム, 20% グリセロール, 1mM DTT, 1mM EDTA, 5% Tergitol NP-10, pH7.4)6 mLを加えて4℃で2時間インキュベートした後、遠心分離(105,000×g, 4℃, 60分)して上清を回収し、DYKDDDDKタグ融合CYP3A4を可溶化したタンパク質溶液を得た。この溶液に、抗DDDDKペプチド抗体が結合したレジン(DDDDK-タグ化タンパク質精製ゲル, MBL, 50%スラリー)8mLを添加し、タグ融合CYP3A4をレジンに特異的に結合させた。これに0.1mg/mLのDDDDKペプチドを含む溶出液(100mM リン酸カリウム, 0.1mM DTT, 0.1mM EDTA, 0.2% Tergitol NP-10, pH7.4)を競合的に反応させることで、タグ融合CYP3A4をレジンから遊離させて回収した。
回収したタンパク質溶液を限外ろ過膜(ミリポア, AmiconUltra-15, MWCO: 3kDa)で2 mLまで濃縮した後、ゲルろ過クロマトグラフィー(カラム:GEヘルスケアSuperdex 200 Increase 10/300 GL、移動相:20mM Tris-HCl, 100mM NaCl, 5%グリセロール, 0.1% Tergitol NP-10, pH7.5)に供し、分子量依存的に分離・精製した。目的タンパク質を含むフラクションの溶液をまとめ、限外ろ過膜で2 mLまで濃縮した。得られたタグ融合CYP3A4タンパク質溶液を96ウェルプレートに100μL/ウェル入れ、280nm〜600nmの吸収スペクトルを測定した。同時に、緩衝液(20mM Tris-HCl, 100mM NaCl, 5%グリセロール, 0.1% Tergitol NP-10, pH7.5)のスペクトルを測定し、タンパク質溶液との差分を算出してタグ融合CYP3A4由来のスペクトルを得た。
調製したCYP3A4タンパク質溶液のスペクトルを図9に示した。実施例1で示したように、ヘムタンパク質化溶液を投与しなかったカイコ蛹から精製したCYP3A4では、極大波長が認められないが、ヘミンを投与した蛹から調製したCYP3A4では、ヘムを内包した酸化型P450由来の極大波長(420nm)が観察された(図2)。本実施例でも、同様に、アミノレブリン酸を投与した蛹においても、420nm付近に極大が観察された。アミノレブリン酸は420nm付近に吸収を持たない化合物であることから、投与したアミノレブリン酸からヘムが合成されCYP3A4に内包された結果であると考えられる。以上の検討結果から、カイコ個体にアミノレブリン酸を投与することにより、ヘムを内包したCYP3A4を取得できることが示唆された。
実施例7:ヘミン投与によるヘム内包型Cytochrome b5の生産
ヒトCytochrome b5の完全長をコードする遺伝子に、DYKDDDDKタグ配列をコードしたポリヌクレオチド(5’-GACTATAAAGACGACGATGATAAA-3’;配列番号1)を付加したDNA断片を人工合成(ファスマック社に外注)により作製した。このタグ配列は、ヒトCytochrome b5アミノ酸配列のN末端に付加されるよう配置された。このDNA断片をpM01ベクター(シスメックス株式会社)のマルチクローニングサイト(制限酵素BglII/XhoI)へ組み込んだ。得られたプラスミドコンストラクトをCytochrome b5_pM01と呼ぶ。
組換えバキュロウイルスの作製は、Maedaらの方法(Invertebrate Cell System and Applications, Vol.1, p.167-181,CRC Press, Boca Raton(1989))を改変して行った。具体的には、上記のプラスミドコンストラクトCYP3A4_pM01(50ng)と直鎖化したCPdバキュロウイルス(システインプロテアーゼ欠損ウイルス株、シスメックス)のDNA(20ng)とをリポフェクション試薬(X-tremeGENE 9 DNAトランスフェクション試薬:ロシュ社)を用いて、BmN細胞(Maeda, 1989)にコトランスフェクトした。感染兆候を確認した後、培養上清を回収した。これにより、シトクロムb5遺伝子を組み込んだ組換えバキュロウイルスを得た。
組換えバキュロウィルスをカイコ蛹に接種し、ウイルス感染から4日経過した後に50 μLのヘミン溶液(1.25mM ヘミン, 4.7mM L-アルギニン, 0.31% エタノール, 1.25% プロピレングリコール, PBS)を蛹1頭あたりに2ヶ所、注射法で接種した。ウイルス接種から6日後に蛹を回収し-80℃で凍結した。凍結した蛹を用いて第1上清を得た。第1上清の調製は、実施例4に記載の手法に従った。また、遠心分離後の沈殿物に25 mLの緩衝液(10mM リン酸カリウム, 1mM EDTA, pH7.4)を加えて懸濁した後、微量超音波ホモジナイザー(QSonica, モデルQ55)で破砕した。超音波破砕物を含む懸濁液を遠心分離(1850×g, 4℃, 10分)して上清を回収し、この上清を第2上清とした。第1上清および第2上清を用いて、実施例4と同様の方法でミクロソーム画分懸濁液を調製した。
このミクロソーム画分懸濁液40 mLに、可溶化溶液(10mM リン酸カリウム, 1mM EDTA, 5% Tergitol NP-10, pH7.4)10 mLを加えて4℃で2時間インキュベートした後、遠心分離(105,000×g, 4℃, 60分)して上清を回収した。このCytochrome b5を含む膜タンパク質を可溶化した溶液を陽イオン交換クロマトグラフィー(カラム:GEヘルスケアHiTrap Q HP、バッファー(A):20mM Tris-HCl, 1mM EDTA, 0.2% Tergitol NP-10, pH8.0、バッファー(B):20mM Tris-HCl, 1mM EDTA, 0.2% Tergitol NP-10, 0.4M NaCl, pH8.0)に供し、溶出バッファーの塩濃度を直線的に上げることで目的タンパク質を分離・精製した。Cytochrome b5を含むフラクションの溶液をまとめ、ゲルろ過クロマトグラフィー(カラム:GEヘルスケアSuperdex 200 Increase 10/300 GL、移動相:20mM リン酸カリウム, 0.1mM EDTA, pH7.4)に供し、分子量依存的に分離・精製した。目的タンパク質を含むフラクションの溶液をまとめ、限外ろ過膜(ミリポア, AmiconUltra-15, MWCO: 3kDa)で2 mLまで濃縮した。
得られたCytochrome b5タンパク質溶液を96ウェルプレートに100μL/ウェル入れ、280nm〜600nmの吸収スペクトルを測定した。同時に、緩衝液(20mM リン酸カリウム, 0.1mM EDTA, pH7.4)のスペクトルを測定し、タンパク質溶液との差分を算出してCytochrome b5由来のスペクトルを得た。調製したCytochrome b5タンパク質溶液のスペクトルを図10に示す。図10から、ヘミン溶液を投与しなかったカイコ蛹から精製したCytochrome b5では極大波長が認められないが、ヘミン投与蛹から調製したCytochrome b5ではヘム由来の極大波長(409nm〜426nm)が観察され、ヘムを内包していることが示唆された。以上の検討結果から、カイコ蛹にヘミンを投与することで組換えタンパク質にヘムを内包させる本手法は、P450(CYP3A4)のみならずCytochrome b5にも適用されることが証明され、ひいてはヘムタンパク質全般の調製に適用可能であると考えられた。
実施例8:Cytochrome b5による活性向上効果の確認および市販品(大腸菌発現系)との活性比較
P450の補酵素であるCytochrome b5の精製物を、カイコ発現系で調製したミクロソーム画分に添加することでCYP3A4代謝活性が向上するか否かを調べた。具体的には、実施例5と同様にして、CYP3A4発現用ウイルスとヒトCPR発現用ウイルスをカイコ蛹に接種した。ウイルス感染後、3日経過した時点でヘムタンパク質化溶液(1mM ヘミン, 5mM L-アルギニン, 0.3% エタノール, 1mM プロピレングリコール, PBS, 2mM ALA, 0.2mM 塩化鉄(II))50μLを蛹1頭あたりに2ヶ所、注射法で接種した。ウイルス接種から6日後に蛹を回収した。蛹からのミクロソーム画分の調製については、実施例6で記載した手法に従った。一方、Cytochrome b5の精製は、実施例7に従って調製した。
総タンパク質濃度4.4mg/mLのミクロソーム画分に対し、精製Cytochrome b5タンパク質溶液を終濃度で16.3〜326μg/mL(1.0〜20nmol/mL)になるように添加した。これを氷上で4時間以上反応させた後、Cytochrome b5添加ミクロソーム画分のCYP3A4活性を、市販P450-Glo CYP3A4 Screening System(プロメガ社)を用いて測定した。当該測定試薬に付随されているCYP3A4膜画分の代わりに、自家調製したミクロソーム画分を用い、その他の条件は測定試薬のマニュアルに従った。また、比較対象として、大腸菌発現系で調製されたCYP3A4ミクロソーム画分の市販品および同製品にCytochrome b5が添加された製品(Cytochrome b5: 5 nmol/mL)を用いた。得られたCYP3A4代謝活性値は、測定に用いたそれぞれのミクロソーム画分の総タンパク質濃度で補正し、比活性として算出した。
ミクロソーム画分のCYP3A4代謝活性を評価した結果、Cytochrome b5の添加により活性が向上することが示された(図11)。また、カイコ発現系で調製したCytochrome b5は、P450の補酵素として、CYP3A4代謝活性を向上させる機能を備えていることを確認した。同時に、カイコ発現系で調製したCYP3A4ミクロソーム画分は、市場で汎用されている大腸菌由来の製品よりも高い比活性を示すことを確認した。
実施例9:市販ミクロソーム画分(大腸菌発現系)との発現量比較
実施例8で調製したカイコ発現系CYP3A4ミクロソーム画分および大腸菌発現系で調製されたミクロソーム画分市販品について、それぞれBradford法で総タンパク質濃度を測定した。得られた濃度を基準に、1レーンあたり総タンパク質量2μgのミクロソーム画分をポリアクリルアミドゲルに供し、電気泳動によりタンパク質を分離・分析した(図12)。各レーンにアプライしたサンプルの詳細を以下の表7に示す。
図12に示されるように、カイコ発現系から得たミクロソーム画分では、ウイルス感染により強制発現させたCYP3A4およびヒトCPRを示す明確なバンドが確認された。一方、市販品である大腸菌由来ミクロソーム画分においては、CYP3A4およびヒトCPRの理論分子量付近に明確なバンドは確認されなかった。以上の結果から、カイコ発現系で調製したミクロソーム画分中のCYP3A4およびヒトCPRの発現量は、大腸菌由来の市販品のそれよりも顕著に高いことが示唆された。
実施例10:ヘムタンパク質化試薬の使用量比較(カイコ発現系 vs 大腸菌発現系)
大腸菌発現系でCYP3A4ミクロソーム画分を調製する場合、使用するヘムタンパク質化試薬(5-アミノレブリン酸塩酸塩)は、ミクロソーム画分1mgあたり280〜340μgとなる(Pritchard MP, McLaughlin L, Friedberg T. (2006) Establishment of functional human cytochrome P450 monooxygenase systems in Escherichia coli. Methods Mol Biol. 320, 19-29)。一方、カイコ蛹発現系で同様のミクロソーム画分を調製する場合、使用するアミノレブリン酸は、ミクロソーム画分1mgあたり5.7〜8.5μgである(表8)。以上より、カイコ発現系では、大腸菌発現系でのヘムタンパク質化試薬の使用量の1/40〜1/50を用いれば同等量のミクロソームを取得することができた。
実施例11:CYP1A2代謝活性の大腸菌発現系との比較
ヒトCYP1A2の完全長をコードする遺伝子に、DYKDDDDKタグ配列をコードするポリヌクレオチド(5’-GACTATAAAGACGACGATGATAAA-3’;配列番号1)を付加したDNA断片を人工合成(ファスマック社に外注)により作製した。このタグ配列は、ヒトCYP1A2アミノ酸配列のC末端に付加されるよう配置された。このDNA断片をpM01ベクター(シスメックス株式会社)のマルチクローニングサイト(制限酵素BglII/XhoI)へ組み込んだ。得られたプラスミドコンストラクトをCYP1A2_pM01と呼ぶ。
実施例1と同様にしてヒトCYP1A2発現用ウイルスを作製し、このウイルスと、実施例3で作製したヒトCPR発現用ウイルスとをウイルス力価で1:0.125の比率となるように混合し、カイコ蛹に接種した。ウイルス感染後、50 μLのヘムタンパク質化溶液(1 mMのヘミン(Hemin from bovine、Sigma- Aldrich)、2 mMの5-アミノレブリン酸塩酸塩(5-Aminolevulinic Acid Hydrochloride、和光純薬)、0.2 mMの塩化鉄(II) (Iron(II)chloride Tetrahydrate、和光純薬)、5mM L-アルギニン、0.3% エタノール、1mM プロピレングリコールを含むPBS)を蛹1頭あたりに2ヶ所、注射法で接種した。実施例1と同様にして粗膜画分懸濁液を調製し、CYP1A2ミクロソーム画分を得た。上記のようにしてカイコ発現系で調製したCYP1A2ミクロソーム画分および大腸菌発現系で調製されたミクロソーム画分市販品について、CYP1A2活性を、市販P450-Glo CYP1A2 Assay System(プロメガ社)を用いて測定した。当該測定試薬に付随されているCYP1A2膜画分の代わりに、自家調製したミクロソーム画分を用い、その他の条件は測定試薬のマニュアルに従った。結果を図13に示す。図13に示されるように、カイコ発現系から得たミクロソーム画分のCYP1A2代謝活性は、大腸菌発現系から調製された市販のミクロソーム画分の活性を上回っていた。
実施例12:CYP2C8代謝活性の大腸菌発現系との比較
ヒトCYP2C8の完全長をコードする遺伝子に、DYKDDDDKタグ配列をコードするポリヌクレオチド(5’-GACTATAAAGACGACGATGATAAA-3’;配列番号1)を付加したDNA断片を人工合成(ファスマック社に外注)により作製した。このタグ配列は、ヒトCYP2C8アミノ酸配列のC末端に付加されるよう配置された。このDNA断片をpM01ベクター(シスメックス株式会社)のマルチクローニングサイト(制限酵素BglII/XhoI)へ組み込んだ。得られたプラスミドコンストラクトをCYP2C8_pM01と呼ぶ。
実施例1と同様にしてヒトCYP2C8発現用ウイルスを作製し、このウイルスと、実施例3で作製したヒトCPR発現用ウイルスとをウイルス力価で1:0.0156の比率となるように混合し、カイコ蛹に接種した。ウイルス感染後、50 μLのヘムタンパク質化溶液(1 mMのヘミン(Hemin from bovine、Sigma- Aldrich)、2 mMの5-アミノレブリン酸塩酸塩(5-Aminolevulinic Acid Hydrochloride、和光純薬)、0.2 mMの塩化鉄(II) (Iron(II)chloride Tetrahydrate、和光純薬)、5mM L-アルギニン、0.3% エタノール、1mM プロピレングリコールを含むPBS)を蛹1頭あたりに2ヶ所、注射法で接種した。実施例1と同様にして粗膜画分懸濁液を調製し、CYP2C8ミクロソーム画分を得た。上記のようにしてカイコ発現系で調製したCYP2C8ミクロソーム画分および大腸菌発現系で調製されたミクロソーム画分市販品について、CYP2C8活性を、市販P450-Glo CYP2C8 Assay System(プロメガ社)を用いて測定した。当該測定試薬に付随されているCYP2C8膜画分の代わりに、自家調製したミクロソーム画分を用い、その他の条件は測定試薬のマニュアルに従った。結果を図14に示す。図14に示されるように、カイコ発現系から得たミクロソーム画分のCYP2C8代謝活性は、大腸菌発現系から調製された市販のミクロソーム画分の活性を上回っていた。
実施例13:CYP2C9代謝活性の大腸菌発現系との比較
ヒトCYP2C9の完全長をコードする遺伝子に、DYKDDDDKタグ配列をコードしたポリヌクレオチド(5’-GACTATAAAGACGACGATGATAAA-3’;配列番号1)を付加したDNA断片を人工合成(ファスマック社に外注)により作製した。このタグ配列は、ヒトCYP2C9アミノ酸配列のC末端に付加されるよう配置された。このDNA断片をpM01ベクター(シスメックス株式会社)のマルチクローニングサイト(制限酵素BglII/XhoI)へ組み込んだ。得られたプラスミドコンストラクトをCYP2C9_pM01と呼ぶ。
実施例1と同様にしてヒトCYP2C9発現用ウイルスを作製し、このウイルスと、実施例3で作製したヒトCPR発現用ウイルスとをウイルス力価で1:0.0313の比率となるように混合し、カイコ蛹に接種した。ウイルス感染後、50 μLのヘムタンパク質化溶液(1 mMのヘミン(Hemin from bovine、Sigma- Aldrich)、2 mMの5-アミノレブリン酸塩酸塩(5-Aminolevulinic Acid Hydrochloride、和光純薬)、0.2 mMの塩化鉄(II) (Iron(II)chloride Tetrahydrate、和光純薬)、5mM L-アルギニン、0.3% エタノール、1mM プロピレングリコールを含むPBS)を蛹1頭あたりに2ヶ所、注射法で接種した。実施例1と同様にして粗膜画分懸濁液を調製し、CYP2C9ミクロソーム画分を得た。上記のようにしてカイコ発現系で調製したCYP2C9ミクロソーム画分および大腸菌発現系で調製されたミクロソーム画分市販品について、CYP2C8活性を、市販P450-Glo CYP2C9 Assay System(プロメガ社)を用いて測定した。当該測定試薬に付随されているCYP2C9膜画分の代わりに、自家調製したミクロソーム画分を用い、その他の条件は測定試薬のマニュアルに従った。結果を図15に示す。図15に示されるように、カイコ発現系から得たミクロソーム画分のCYP2C9代謝活性は、大腸菌発現系から調製された市販のミクロソーム画分の活性を上回っていた。
実施例14:CYP2C19代謝活性の大腸菌発現系との比較
ヒトCYP2C19の完全長をコードする遺伝子に、DYKDDDDKタグ配列をコードしたポリヌクレオチド(5’-GACTATAAAGACGACGATGATAAA-3’;配列番号1)を付加したDNA断片を人工合成(ファスマック社に外注)により作製した。このタグ配列は、ヒトCYP2C19アミノ酸配列のC末端に付加されるよう配置された。このDNA断片をpM01ベクター(シスメックス株式会社)のマルチクローニングサイト(制限酵素BglII/XhoI)へ組み込んだ。得られたプラスミドコンストラクトをCYP2C19_pM01と呼ぶ。
実施例1と同様にしてヒトCYP2C19発現用ウイルスを作製し、このウイルスと、実施例3で作製したヒトCPR発現用ウイルスとをウイルス力価で1:0.0313の比率となるように混合し、カイコ蛹に接種した。ウイルス感染後、50 μLのヘムタンパク質化溶液(1 mMのヘミン(Hemin from bovine、Sigma- Aldrich)、2 mMの5-アミノレブリン酸塩酸塩(5-Aminolevulinic Acid Hydrochloride、和光純薬)、0.2 mMの塩化鉄(II) (Iron(II)chloride Tetrahydrate、和光純薬)、5mM L-アルギニン、0.3% エタノール、1mM プロピレングリコールを含むPBS)を蛹1頭あたりに2ヶ所、注射法で接種した。実施例1と同様にして粗膜画分懸濁液を調製し、CYP2C19ミクロソーム画分を得た。上記のようにしてカイコ発現系で調製したCYP2C19ミクロソーム画分および大腸菌発現系で調製されたミクロソーム画分市販品について、CYP2C8活性を、市販P450-Glo CYP2C19 Assay System(プロメガ社)を用いて測定した。当該測定試薬に付随されているCYP2C19膜画分の代わりに、自家調製したミクロソーム画分を用い、その他の条件は測定試薬のマニュアルに従った。結果を図16に示す。図16に示されるように、カイコ発現系から得たミクロソーム画分のCYP2C19代謝活性は、大腸菌発現系から調製された市販のミクロソーム画分の活性を上回っていた。
実施例15:CYP2D6代謝活性の大腸菌発現系との比較
ヒトCYP2D6の完全長をコードする遺伝子に、DYKDDDDKタグ配列をコードしたポリヌクレオチド(5’-GACTATAAAGACGACGATGATAAA-3’;配列番号1)を付加したDNA断片を人工合成(ファスマック社に外注)により作製した。このタグ配列は、ヒトCYP2D6アミノ酸配列のC末端に付加されるよう配置された。このDNA断片をpM01ベクター(シスメックス株式会社)のマルチクローニングサイト(制限酵素BglII/XhoI)へ組み込んだ。得られたプラスミドコンストラクトをCYP2D6_pM01と呼ぶ。
実施例1と同様にしてヒトCYP2D6発現用ウイルスを作製し、このウイルスと、実施例3で作製したヒトCPR発現用ウイルスとをウイルス力価で1:0.0078の比率となるように混合し、カイコ蛹に接種した。ウイルス感染後、50 μLのヘムタンパク質化溶液(1 mMのヘミン(Hemin from bovine、Sigma- Aldrich)、2 mMの5-アミノレブリン酸塩酸塩(5-Aminolevulinic Acid Hydrochloride、和光純薬)、0.2 mMの塩化鉄(II) (Iron(II)chloride Tetrahydrate、和光純薬)、5mM L-アルギニン、0.3% エタノール、1mM プロピレングリコールを含むPBS)を蛹1頭あたりに2ヶ所、注射法で接種した。実施例1と同様にして粗膜画分懸濁液を調製し、CYP2D6ミクロソーム画分を得た。上記のようにしてカイコ発現系で調製したCYP2D6ミクロソーム画分および大腸菌発現系で調製されたミクロソーム画分市販品について、CYP2D6活性を、市販P450-Glo CYP2D6 Assay System(プロメガ社)を用いて測定した。当該測定試薬に付随されているCYP2D6膜画分の代わりに、自家調製したミクロソーム画分を用い、その他の条件は測定試薬のマニュアルに従った。結果を図17に示す。図17に示されるように、カイコ発現系から得たミクロソーム画分のCYP2D6代謝活性は、大腸菌発現系から調製された市販のミクロソーム画分の活性を上回っていた。

Claims (16)

  1. ヘムタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入された鱗翅目昆虫個体に、ヘム前駆体およびヘム類縁体からなる群より選択される少なくとも1つを投与し、前記鱗翅目昆虫個体においてヘムタンパク質を産生させる工程、および
    前記鱗翅目昆虫個体から、前記ヘムタンパク質を取得する工程
    を含む、ヘムタンパク質の生産方法。
  2. 前記鱗翅目昆虫が、カイコである、請求項1に記載の方法。
  3. 前記ヘムタンパク質が、シトクロムP450およびシトクロムからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記ヘムタンパク質が、シトクロムP450およびシトクロムである、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
  5. 前記ヘムタンパク質が、シトクロムP450であり、
    前記産生工程において、前記鱗翅目昆虫個体に、前記シトクロムP450の補酵素のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドがさらに導入されている、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
  6. 前記補酵素が、シトクロムP450還元酵素である、請求項5に記載の方法。
  7. 前記産生工程において、前記鱗翅目昆虫個体に、前記ポリヌクレオチドが組み込まれたバキュロウイルスを感染させることにより、前記ポリヌクレオチドが導入されている、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
  8. 前記ヘム前駆体がヘミンであり、前記ヘム類縁体がアミノレブリン酸である、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
  9. 前記産生工程において、ヘム前駆体およびヘム類縁体からなる群より選択される少なくとも1つを含む溶液が投与される、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
  10. 前記溶液が、ヘム前駆体およびヘム類縁体からなる群より選択される少なくとも1つの溶解性を向上させる溶解促進剤をさらに含む、請求項9に記載の方法。
  11. 前記溶解促進剤が、炭素数1〜6の低級アルコールである、請求項10に記載の方法。
  12. 前記産生工程において、一個体あたり0.001 mg以上3 mg以下のヘミンが投与される、請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
  13. 前記産生工程において、一個体あたり0.001 mg以上0.7 mg以下のアミノレブリン酸が投与される、請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法。
  14. 前記溶液が鉄イオンを含む、請求項9〜11のいずれか1つに記載の方法。
  15. ヘムタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが導入された鱗翅目昆虫個体に、ヘム前駆体およびヘム類縁体からなる群より選択される少なくとも1つを投与し、前記鱗翅目昆虫個体においてヘムタンパク質を産生させることにより得られるヘムタンパク質。
  16. シトクロムP450のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと、シトクロムP450還元酵素を含むポリヌクレオチドとが導入された第1の鱗翅目昆虫個体、およびシトクロムをコードするポリヌクレオチドが導入された第2の鱗翅目昆虫個体のそれぞれに、ヘム前駆体およびヘム類縁体からなる群より選択される少なくとも1つを投与し、前記鱗翅目昆虫個体においてヘムタンパク質を産生させる工程、
    前記第1および第2の鱗翅目昆虫個体から、それぞれシトクロムP450とシトクロムP450還元酵素とを含む第1のミクロソーム画分およびシトクロムを含む第2のミクロソーム画分を取得する工程、
    前記第2のミクロソーム画分を可溶化し、可溶化画分を取得する工程、
    前記第1のミクロソーム画分と前記可溶化画分とを混合し、組成物を取得する工程
    を含む、シトクロムP450と、シトクロムP450還元酵素と、シトクロムとを含む組成物の生産方法。
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