JP2017020105A - オーステナイト系耐熱鋼及びオーステナイト系伝熱部材 - Google Patents

オーステナイト系耐熱鋼及びオーステナイト系伝熱部材 Download PDF

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Abstract

【課題】伝熱特性及び耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系耐熱鋼及びオーステナイト系伝熱部材を提供する。【解決手段】本実施形態によるオーステナイト系耐熱鋼は、基材と、基材の表面に酸化層Aとを備える。基材は、質量%で、C:0.01〜0.3%、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.01〜2.0%、P:0.10%以下、S:0.03%以下、Cr:15.0〜24.0%、Ni:6.0〜27.0%、N:0.005〜0.3%、sol.Al:0.001〜0.3%、及び、Cu、Mo、Ta、W、及びReを合計で0.5〜10.0%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する。酸化層Aは、質量%で、Cr及びMnを合計で20〜45%、及びCu、Mo、Ta、W、及びReからなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0.5〜10%を含有する化学組成と、1μm以上の厚さとを含む。【選択図】図1

Description

本発明は、耐熱鋼及び伝熱部材に関し、さらに詳しくは、高温の水蒸気酸化環境下等で用いられるオーステナイト系耐熱鋼及びオーステナイト系伝熱部材に関する。
火力発電プラントでは、CO2ガスの排出抑制及び経済性の観点から、発電効率の向上が求められており、タービン蒸気圧力の高温化及び高圧化が進められている。火力発電プラントで使用される伝熱部材は、高温高圧の水蒸気に長時間晒される。伝熱部材はたとえば、ボイラ用の配管である。高温の水蒸気に長時間晒されると、伝熱部材の表面に酸化スケールが生成する。伝熱部材の耐水蒸気酸化性が十分でない場合、伝熱部材の表面に多量の酸化スケールが生成する。ボイラの起動及び停止によって、伝熱部材は熱膨張及び収縮する。そのため、多量の酸化スケールが生成すれば、酸化スケールは剥離して配管の詰まりの原因となる。酸化スケールが多量に生成した場合はさらに、酸化スケールによって配管外部から配管内部への熱伝導が阻害される。そのため、配管内の温度を高く維持するために、外部からより多くの熱を与える必要がある。配管の温度上昇は、クリープ強度の低下を引き起こす。そのため、火力発電用ボイラ、タービン及び蒸気管等の機器に用いられる伝熱部材には、高い耐水蒸気酸化性が求められている。
このような特性を満たす材料としてたとえば、オーステナイト系耐熱鋼及びフェライト系耐熱鋼が開発されてきた。オーステナイト系耐熱鋼はたとえば、Cr含有量が18〜25質量%のオーステナイト系耐熱鋼である。フェライト系耐熱鋼はたとえば、Cr含有量が8〜13質量%のフェライト系耐熱鋼である。オーステナイト系耐熱鋼は、フェライト系耐熱鋼と比較して、高温強度が高い。オーステナイト系耐熱鋼はさらに、フェライト系耐熱鋼と比較して基地組織の安定性が高く、高温耐食性に優れる。そのため、オーステナイト系耐熱鋼は、フェライト系耐熱鋼と比較して伝熱部材により適している。しかしながら、オーステナイト系耐熱鋼は、フェライト系耐熱鋼と比較して伝熱特性に劣る。したがって、オーステナイト系耐熱鋼の耐水蒸気酸化性のみならず、伝熱特性を高めることができれば、火力発電プラントにおいて、さらなる発電効率の向上が可能である。
酸化スケールの脱落を抑制したフェライト系耐熱鋼がたとえば、特開平11−92880号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1に記載されたフェライト系耐熱鋼は、使用中に表面に酸化被膜が生成する高Cr含有のフェライト系耐熱鋼であって、酸化被膜との界面若しくはその近傍に1ミクロン以下の径の極微細な酸化物が形成される。このため、酸化被膜と母材との密着性が向上する、と特許文献1には記載されている。
フェライト系耐熱鋼の表面のCr濃度を上げることで耐水蒸気酸化性を改善させる方法がたとえば、特開2007−39745号公報(特許文献2)に開示されている。特許文献2に記載されたフェライト系耐熱鋼の耐水蒸気酸化性改善方法は、Crを含有するフェライト系耐熱鋼の表面にCrを含む粉末粒子を担持させて、高温下でフェライト鋼表面にCr濃度の高いCr酸化物層を生成させる。この方法により、Crを含有したフェライト鋼の耐酸化性を容易にかつ経済的に改善できる、と特許文献2には記載されている。
フェライト系耐熱鋼の表面にCr酸化被膜を形成することで、耐酸化性を改善させる方法がたとえば、特開2013−127103号公報(特許文献3)に開示されている。特許文献3に記載されたフェライト系耐熱鋼の耐酸化処理方法は、炭酸ガスと不活性ガスの混合ガスからなる低酸素分圧のガス雰囲気中で、クロムを含有するフェライト系耐熱鋼を熱処理して、その耐熱鋼の表面にクロムを含有する酸化被膜を形成することを特徴とする。この方法により、スケール中のCr濃度を増加させ、フェライト系耐熱鋼の耐酸化特性を容易にかつ経済的に改善できる、と特許文献3には記載されている。
フェライト系耐熱鋼の表面にCrを付着させることにより耐水蒸気酸化性を改善したフェライト系耐熱鋼がたとえば、特開2009−179884号公報(特許文献4)に開示されている。特許文献4に記載されたフェライト系耐熱鋼は、高温高圧水蒸気環境下で使用されるフェライト系耐熱鋼であって、粉末Crショット材のショットピーニング処理により付着されたCrが予備酸化処理されてなるCr酸化物皮膜を基材表面に有することを特徴とする。このフェライト系耐熱鋼は、酸化環境中で使用する前に、耐熱鋼に耐酸化性の酸化物の保護皮膜が形成されているため、耐水蒸気酸化性が向上している、と特許文献4には記載されている。
全体を均質な整粒の細粒組織とすることで耐水蒸気酸化性を高めたオーステナイト系ステンレス鋼管がたとえば、特開2003−268503号公報(特許文献5)に開示されている。特許文献5に記載されたオーステナイト系ステンレス鋼管は、質量%で、C:0.03〜0.12%、Si:0.1〜0.9%、Mn:0.1〜2%、Cr:15〜22%、Ni:8〜15%、Ti:0.002〜0.05%、Nb:0.3〜1.5%、sol.Al:0.0005〜0.03%、N:0.005〜0.2%、およびO(酸素):0.001〜0.008%を含み、残部がFeおよび不純物からなり、オーステナイト結晶粒度番号が7以上の細粒組織であることを特徴とする。全体を細粒組織とすることで、結晶粒界がCrの拡散経路となり、母材内部のCrが表層部に容易に供給される。その結果、表面に保護性の高いCr23からなる皮膜が生成し、耐水蒸気酸化性が向上する、と特許文献5には記載されている。
特開平11−92880号公報 特開2007−39745号公報 特開2013−127103号公報 特開2009−179884号公報 特開2003−268503号公報
しかしながら、上述の技術を用いても、伝熱部材の伝熱特性及び耐水蒸気酸化性を十分に高めることができない場合がある。
本発明の目的は、伝熱特性及び耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系耐熱鋼及びオーステナイト系伝熱部材を提供することである。
本実施形態によるオーステナイト系耐熱鋼は、基材と、基材の表面に酸化層Aとを備える。基材は、質量%で、C:0.01〜0.3%、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.01〜2.0%、P:0.10%以下、S:0.03%以下、Cr:15.0〜24.0%、Ni:6.0〜27.0%、N:0.005〜0.3%、sol.Al:0.001〜0.3%、Co:0〜5.0%、Ti:0〜1.0%、V:0〜1.0%、Nb:0〜1.0%、Hf:0〜1.0%、Ca:0〜0.1%、Mg:0〜0.1%、Zr:0〜0.1%、B:0〜0.1%、希土類元素:0〜0.1%、及び、Cu:0〜5.0%、Mo:0〜5.0%、Ta:0〜5.0%、W:0〜5.0%、及びRe:0〜5.0%からなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0.5〜10.0%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する。酸化層Aは、質量%で、Cr及びMnを合計で20〜45%を含有する化学組成を含む。酸化層Aは、質量%で、Cu、Mo、Ta、W、及びReからなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0.5〜10%を含有する化学組成を含む。酸化層Aは1μm以上の厚さを含む。
本実施形態によるオーステナイト系耐熱鋼及びオーステナイト系伝熱部材は、伝熱特性及び耐水蒸気酸化性に優れる。
図1は、本実施形態によるオーステナイト系耐熱鋼の断面図である。 図2は、本実施形態によるオーステナイト系伝熱部材の断面図である。
以下、図面を参照して、本実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
本発明者らは、オーステナイト系耐熱鋼及びオーステナイト系伝熱部材について種々検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
(1)本実施形態のオーステナイト系耐熱鋼は、ボイラ配管等の伝熱部材として利用できる。ボイラ配管等の伝熱部材は、高温の水蒸気と接する。高温の水蒸気に長時間晒されると、伝熱部材の表面には酸化スケールが生成する。酸化スケールは種々の酸化物及び不純物からなる。酸化物はたとえば、Fe34、Cr23等である。酸化スケールは、伝熱部材の表面に酸化皮膜を形成する。
(2)酸化皮膜の熱伝導率が低ければ、伝熱部材の外部から伝熱部材の内部への伝熱特性が低下する。そのため、伝熱部材の内部を高温に維持するために、伝熱部材の外部から多量の熱を与える必要が生じ、ボイラの伝熱特性が低下する。伝熱部材の外部から多量の熱を与えた場合さらに、伝熱部材のクリープ強度が低下する場合がある。したがって、酸化皮膜の熱伝導率は高い方が好ましい。しかしながら、酸化皮膜の熱伝導率が高すぎる場合、伝熱部材の内表面に、高温水蒸気の熱が伝わる。伝わった熱は、伝熱部材の内表面の酸化反応を促進するため、伝熱部材の内表面に多量の酸化スケールが生じる。多量の酸化スケールは、伝熱部材の内表面から剥離する。伝熱部材が配管の場合、剥離した酸化スケールは配管の詰まりの原因となる。したがって、酸化皮膜の熱伝導率は、ある一定の範囲に制御される必要がある。
(3)酸化スケールの厚みが厚すぎる場合、伝熱部材の外部から伝熱部材の内部への熱伝導が阻害される。そのため、ボイラの伝熱特性が低下する。したがって、酸化皮膜の厚みは、なるべく薄い方が好ましい。
(4)上述の酸化物のうち、Fe34は、高温の水蒸気酸化環境下(以下、高温蒸気環境ともいう)で、熱力学的に安定して形成される。Fe34はさらに、その熱伝導率が高い。したがって、Fe34を多量に含有する酸化皮膜を、高温の水蒸気と接する伝熱部材の表面に形成すれば、ボイラの熱効率が向上する。しかしながら、Fe34を多量に含有する酸化皮膜の熱伝導率は高すぎる。そのため、この酸化皮膜のみでは、上述のとおり、伝熱部材の内表面に多量の酸化スケールが生じる。
(5)ボイラ配管等の伝熱部材では、配管内表面のCr濃度を向上し、Cr23を多量に含有する酸化皮膜を伝熱部材の内表面に形成することが多い。これにより、多量の酸化スケールの生成が抑制され、伝熱部材の耐水蒸気酸化性が向上する。しかしながら、Cr23を多量に含有する酸化皮膜は熱伝導率が低い。そのため、伝熱部材の伝熱特性が低下する。そのため、この酸化皮膜のみでは、ボイラの伝熱特性を向上することはできない。
(6)そこで、高温蒸気環境下で、伝熱特性が優れた酸化層、及び、耐水蒸気酸化性と伝熱特性との両立を図った酸化層の2層からなる酸化皮膜を伝熱部材の内表面に形成する。これにより、優れた伝熱特性及び優れた耐水蒸気酸化性を両立できる。
(7)体積率で80%以上のFe34を含有する場合、酸化層の熱伝導率は高い。そのため、ボイラの伝熱特性を向上できる。そこで、高温の水蒸気と接する伝熱部材の表面に、体積率で80%以上のFe34を含有する酸化層Bを形成する。
(8)一方、耐水蒸気酸化性と伝熱特性との両立を図った酸化層として、酸化層Cを、酸化層Bと基材との間に形成させる。酸化層Cは、Cr及びMnを合計で5超〜30質量%、及び、Cu、Mo、Ta、W及びReからなる群から選択される1種又は2種以上を合計で1〜15質量%含有する。
Cr酸化物及びMn酸化物は基材の耐水蒸気酸化性を高める。しかしながら、Cr含有量が高すぎる場合、酸化皮膜の伝熱特性が低下する。Mn含有量が高すぎる場合、基材の高温強度が低下する。したがって、酸化層Cは、Cr及びMnを合計で5超〜30質量%含有する。
Cu、Mo、Ta、W及びReが酸化層Cに含有される場合、酸化層Cの熱伝導率が高まる。しかしながら、これらの元素の含有量が高すぎる場合、酸化層Cの耐水蒸気酸化性が低下することがある。したがって、酸化層Cは、Cu、Mo、Ta、W及びReからなる群から選択される1種又は2種以上を合計で1〜15質量%含有する。
以上により、酸化層Cは、優れた伝熱特性及び優れた耐水蒸気酸化性を有する。
(9)高温蒸気環境下で、上記の酸化層B及び酸化層Cを形成させるには、事前に基材上に、酸化層Aを形成させておくことが必要である。酸化層Aの厚さは1μm以上である。酸化層Aの化学組成は、質量%で、Cr及びMnを合計で20〜45%を含有する。酸化層Aの化学組成は、質量%で、Cu、Mo、Ta、W、及びReからなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0.5〜10%を含有する。高温蒸気環境において使用されると、酸化層Aは、後述の伝熱特性に優れた酸化皮膜に変化する。高温とはたとえば、500〜650℃である。
以上の知見に基づいて完成した本実施形態によるオーステナイト系耐熱鋼は、基材と、基材の表面に酸化層Aとを備える。基材は、質量%で、C:0.01〜0.3%、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.01〜2.0%、P:0.10%以下、S:0.03%以下、Cr:15.0〜24.0%、Ni:6.0〜27.0%、N:0.005〜0.3%、sol.Al:0.001〜0.3%、Co:0〜5.0%、Ti:0〜1.0%、V:0〜1.0%、Nb:0〜1.0%、Hf:0〜1.0%、Ca:0〜0.1%、Mg:0〜0.1%、Zr:0〜0.1%、B:0〜0.1%、希土類元素:0〜0.1%、及び、Cu:0〜5.0%、Mo:0〜5.0%、Ta:0〜5.0%、W:0〜5.0%及びRe:0〜5.0%からなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0.5〜10.0%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する。酸化層Aは、質量%で、Cr及びMnを合計で20〜45%含有する化学組成を含む。酸化層Aは、質量%で、Cu、Mo、Ta、W、及びReからなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0.5〜10%を含有する化学組成を含む。酸化層Aは1μm以上の厚さを含む。
本実施形態によるオーステナイト系耐熱鋼は、伝熱特性及び耐水蒸気酸化性に優れる。
上記オーステナイト系耐熱鋼の基材の化学組成は、Co:0.005〜5.0%を含有してもよい。上記基材の化学組成は、Ti:0.01〜1.0%、V:0.01〜1.0%、Nb:0.01〜1.0%、及びHf:0.01〜1.0%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。上記基材の化学組成は、Ca:0.0015〜0.1%、Mg:0.0015〜0.1%、Zr:0.0015〜0.1%、B:0.0015〜0.1%、及び、希土類元素:0.0015〜0.1%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
本実施形態による伝熱部材は、基材と、基材の表面に酸化皮膜とを備える。酸化皮膜は、酸化層Bと酸化層Cとを含む。酸化層Bは、80体積%以上のFe34を含有する。酸化層Cは、酸化層Bと基材との間に形成される。酸化層Cの化学組成は、Cr及びMnを合計で5超〜30質量%、及び、Cu、Mo、Ta、W及びReからなる群から選択される1種又は2種以上を合計で1〜15質量%含有する。
本実施形態による伝熱部材は、伝熱特性及び耐水蒸気酸化性に優れる。
好ましくは、酸化層Bは、Cr及びMnを合計で5質量%以下含有する。
好ましくは、酸化層Cは、Cr23を5体積%以下含有する。
この場合、熱伝導率が低いCr23の析出量を抑制することによって、酸化皮膜の熱伝導率が高まる。このため、ボイラの伝熱特性を向上できる。
好ましくは、酸化層Cの熱伝導率は1.0〜3.0W・m-1・K-1である。
以下に、本実施形態によるオーステナイト系耐熱鋼及びオーステナイト系伝熱部材について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
[オーステナイト系耐熱鋼]
本実施形態によるオーステナイト系耐熱鋼の形状は、特に限定されない。オーステナイト系耐熱鋼はたとえば、鋼管、棒鋼、及び鋼板である。本実施形態によるオーステナイト系耐熱鋼に対して酸化処理を行う。酸化処理によりオーステナイト系耐熱鋼の表面に酸化層Aが形成される。
図1は、本実施形態によるオーステナイト系耐熱鋼の断面図である。図1を参照して、オーステナイト系耐熱鋼1は、基材2と、酸化層Aとを備える。基材2と、酸化層Aとを備えるオーステナイト系耐熱鋼1は、オーステナイト系伝熱部材として、高温蒸気環境下に用いられる。これにより、酸化層Aは、後述の、伝熱特性に優れる酸化皮膜3に変化する。
[オーステナイト系伝熱部材]
本実施形態によるオーステナイト系伝熱部材の基材はオーステナイト系耐熱鋼である。本実施形態によるオーステナイト系伝熱部材の形状は、特に限定されない。オーステナイト系伝熱部材はたとえば、管、棒又は板材である。管状の形状を有する場合、伝熱部材はたとえば、ボイラ用配管等として使用される。
図2は、本実施形態によるオーステナイト系伝熱部材の断面図である。図2を参照して、伝熱部材4は、基材2と、酸化皮膜3とを備える。酸化皮膜3は、酸化層Bと酸化層Cとを含む。
[基材2の化学組成]
基材2は、以下の化学組成を有する。
C:0.01〜0.3%
炭素(C)は、オーステナイトを安定化させる。Cはさらに、固溶強化により基材2の高温強度を高める。しかしながら、基材2のC含有量が高すぎる場合、炭化物が過剰に析出し、基材の加工性及び溶接性が低下する。したがって、C含有量は0.01〜0.3%である。C含有量の好ましい下限は0.03%であり、C含有量の好ましい上限は0.15%である。
Si:0.01〜2.0%
シリコン(Si)は鋼を脱酸する。Siはさらに、基材2の耐水蒸気酸化性を向上する。しかしながら、Si含有量が高すぎる場合、基材2の靱性が低下する。したがって、Si含有量は0.01〜2.0%である。Si含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.1%である。Si含有量の好ましい上限は1.0%であり、さらに好ましくは0.5%である。
Mn:0.01〜2.0%
マンガン(Mn)は鋼を脱酸する。Mnはさらに、基材2中のSと結合してMnSを形成し、Sの粒界偏析を抑制する。これにより、基材2の熱間加工性が向上する。しかしながら、Mn含有量が高すぎる場合、基材2が脆くなりさらに、基材2の高温強度が低下する。したがって、Mn含有量は0.01〜2.0%である。Mn含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.1%である。Mn含有量の好ましい上限は1.0%であり、さらに好ましくは0.8%である。
P:0.10%以下
S:0.03%以下
燐(P)及び硫黄(S)は不純物である。P及びSは、基材2の結晶粒界に偏析して、基材2の熱間加工性を低下させる。P及びSはさらに、酸化皮膜3と基材2との界面に濃化して、酸化皮膜3の基材2に対する密着性を低下させる。したがって、P含有量及びS含有量はなるべく低い方が好ましい。P含有量は0.10%以下であり、好ましくは0.03%以下である。S含有量は0.03%以下であり、好ましくは0.015%以下である。
Cr:15.0〜24.0%
クロム(Cr)は、基材2の耐酸化性を高める。Crはさらに、Cr23及び(Fe、Cr)34で定義される酸化物として酸化皮膜3中に含有される。Cr酸化物は基材2の耐水蒸気酸化性を高める。Cr酸化物はさらに、酸化皮膜3の基材2に対する密着性を高める。しかしながら、Cr含有量が高すぎる場合、酸化皮膜3中のCr23の濃度が高くなり、酸化皮膜3の伝熱特性が低下する。したがって、Cr含有量は15.0〜24.0%である。Cr含有量の好ましい下限は16.0%であり、さらに好ましくは17.0%である。Cr含有量の好ましい上限は23.5%であり、さらに好ましくは23.0%である。
Ni:6.0〜27.0%
ニッケル(Ni)は、オーステナイトを安定化する。Niはさらに、オーステナイト系耐熱鋼の高温における強度を高める。しかしながら、Ni含有量が高すぎる場合、伝熱部材の熱伝導率が低下する。Niが高すぎる場合さらに、コストが高くなる。したがって、Ni含有量は6.0〜27.0%である。Ni含有量の好ましい下限は6.5%であり、さらに好ましくは7.0%である。Ni含有量の好ましい上限は26.5%であり、さらに好ましくは26.0%である。
N:0.005〜0.3%
窒素(N)は、基材2中に固溶し、基材2の強度を高める。Nはさらに、基材2中の合金成分と窒化物を形成して基材2中に析出し、基材2の強度を高める。しかしながら、N含有量が高すぎる場合、窒化物が粗大化し、基材2の靱性が低下する。したがって、N含有量は0.005〜0.3%である。N含有量の好ましい下限は0.01%であり、N含有量の好ましい上限は0.27%である。
sol.Al:0.001〜0.3%
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。しかしながら、Al含有量が高すぎる場合、基材2の熱間加工性が低下する。したがって、Al含有量は0.001〜0.3%である。Al含有量の好ましい下限は0.005%であり、Al含有量の好ましい上限は0.1%である。本実施形態において、Al含有量とは、酸可溶性Al(sol.Al)を意味する。
Cu:0〜5.0%、
Mo:0〜5.0%、
Ta:0〜5.0%、
W:0〜5.0%、及び
Re:0〜5.0%からなる群から選択される1種又は2種以上:合計で0.5〜10.0%
銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)及びレニウム(Re)からなる群から選択される1種又は2種以上が含有される。これらの元素を以降、特定酸化層形成元素ともいう。特定酸化層形成元素は、基材2の表面に酸化層Aを形成する。特定酸化層形成元素はさらに、500〜650℃の高温蒸気環境下で、伝熱特性に優れる酸化層Cを形成する。これらの元素のうち1種類でも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、特定酸化層形成元素の含有量が高すぎる場合、基材2の靱性、延性及び加工性が低下する。したがって、Cu含有量は0〜5.0%であり、Mo含有量は0〜5.0%であり、Ta含有量は0〜5.0%であり、W含有量は0〜5.0%であり、Re含有量は0〜5.0%である。各特定酸化層形成元素の含有量の好ましい下限は、それぞれ0.01%であり、さらに好ましくは、それぞれ0.1%である。各特定酸化層形成元素の含有量の好ましい上限は、それぞれ4.0%であり、さらに好ましくは、それぞれ3.0%である。特定酸化層形成元素の合計含有量は、0.5〜10.0%である。特定酸化層形成元素の合計含有量の好ましい下限は0.6%であり、さらに好ましくは1.0%である。特定酸化層形成元素の合計含有量の好ましい上限は9.0%であり、さらに好ましくは8.0%である。
本実施形態による基材2の残部は、Fe及び不純物である。本実施形態において、不純物とは、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップ、又は、製造過程の環境等から混入する元素をいい、本実施形態による伝熱部材4に悪影響を及ぼさない範囲で含有されるものをいう。不純物はたとえば、酸素(O)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、タリウム(Tl)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)等である。
本実施形態による伝熱部材4の基材2はさらに、Feの一部に代えて、以下の元素を含有してもよい。
Co:0〜5.0%
コバルト(Co)は必要に応じて任意で含有される。Coはオーステナイトを安定化させる。これにより、基材2の耐衝撃性を低下させるデルタフェライトの残留が抑制される。これらの元素のうち1種類でも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、これらの元素の含有量が高すぎる場合、基材2の熱間加工性が低下する。したがって、Co含有量は0〜5.0%である。Co含有量の好ましい上限は3.0%であり、さらに好ましくは2.0%である。Co含有量の好ましい下限は0.005%である。
Ti:0〜1.0%
V:0〜1.0%
Nb:0〜1.0%
Hf:0〜1.0%
チタン(Ti)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)及びハフニウム(Hf)は必要に応じて任意で含有される。これらの元素は、炭素及び窒素と結合して炭化物、窒化物又は炭窒化物を形成する。これらの炭化物、窒化物及び炭窒化物は、基材2を析出強化する。これらの元素のうち1種類でも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、これらの元素の含有量が高すぎる場合、基材2の加工性が低下する。したがって、Ti含有量は0〜1.0%であり、V含有量は0〜1.0%であり、Nb含有量は0〜1.0%であり、Hf含有量は0〜1.0%である。これらの元素の含有量の好ましい上限は、それぞれ0.8%であり、さらに好ましくは、それぞれ0.4%である。これらの元素の含有量の好ましい下限は、それぞれ0.01%である。
Ca:0〜0.1%
Mg:0〜0.1%
Zr:0〜0.1%
B:0〜0.1%
希土類元素:0〜0.1%
カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、ボロン(B)及び希土類元素(REM)は必要に応じて任意で含有される。これらの元素は基材2の強度、加工性及び耐酸化性を高める。これらの元素のうち1種類でも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、これらの元素の含有量が高すぎる場合、基材2の靱性及び溶接性が低下する。したがって、Ca含有量は0〜0.1%であり、Mg含有量は0〜0.1%であり、Zr含有量は0〜0.1%であり、B含有量は0〜0.1%であり、REMの含有量は0〜0.1%である。これらの元素の含有量の好ましい上限は、それぞれ0.05%である。これらの元素の含有量の好ましい下限は、それぞれ0.0015%である。ここで、REMとは、原子番号39番のイットリウム(Y)、ランタノイドである原子番号57番のランタン(La)〜原子番号71番のルテチウム(Lu)及び、アクチノイドである原子番号89番のアクチニウム(Ac)〜103番のローレンシウム(Lr)からなる群から選択される1種以上の元素である。
[酸化層A]
上述の化学組成を有する基材2に対して、酸化処理を行う。酸化処理により、基材2の表面に酸化層Aが形成される。基材2と酸化層Aとからなるオーステナイト系耐熱鋼は、高温蒸気環境下に用いられる。高温蒸気環境下において、酸化層Aは、耐水蒸気酸化特性を保持したまま、伝熱特性に優れる酸化皮膜3に変化する。すなわち、酸化層Aは、後述の、電熱特性に優れた酸化皮膜を形成するための素材となる。酸化層Aが酸化皮膜3に変化する仕組みは定かではないが、酸化層Aは、主に酸化層Cの形成に寄与する。
酸化層Aは、基材2の表面に厚さ1μm以上で形成する。酸化層Aの厚さが1μm未満であれば、高温蒸気環境下で酸化皮膜3が安定に形成されない。この場合、伝熱特性が低下する。そのため、酸化層Aの厚さは1μm以上とする。酸化層Aの厚さの上限は特に限定しないが、量産性を考慮すると、好ましくは20μm以下である。
酸化層Aの厚さは、たとえば次の方法で求めることができる。後述の酸化処理を施したオーステナイト系耐熱鋼から試験片を作成する。得られた試験片を樹脂に埋め込み、断面に対して走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて2000倍の倍率で観察を行う。酸化層に相当する部分の厚さを測定することで、酸化層Aの厚さを求めることができる。
酸化層Aの化学組成は、Cr及びMnを合計で20〜45%含有する。酸化層Aの化学組成はさらに、Cu、Mo、Ta、W、及びReからなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0.5〜10%を含有する。この場合、高温蒸気環境下において、優れた伝熱特性を有する酸化皮膜3を形成する。Cr及びMnの好ましい合計含有量は22〜40%である。特定酸化層形成元素の好ましい合計含有量は1〜8%である。
酸化層AにおけるCr及びMnの含有量は、たとえば次の方法で測定できる。酸化層Aの断面に対して、エネルギー分散型X線分析(EDS)法を用いて、元素組成を分析する。得られた各元素の組成のうち、Cr及びMnの合計量を算出する。さらに、酸素(O)及び炭素(C)の量を除外した組成を100%として、Cr及びMnの合計量の割合(質量%)を算出する。特定酸化層形成元素の合計の含有量についても、同様の方法で測定できる。
[酸化皮膜3]
上述の化学組成を有する基材2に対して、後述する酸化処理及び水蒸気酸化処理を行うことによって、基材2の表面に酸化皮膜3が形成される。図2を参照して、酸化皮膜3は、酸化層B及び酸化層Cからなる2層の酸化皮膜である。酸化層Bは、伝熱部材4の最上層に形成される。酸化層Cは、酸化層Bと基材2との間に形成される。伝熱部材4がボイラ用配管の場合、酸化層Bが、ボイラ用配管の内表面側に相当し、基材2が、ボイラ用配管の外表面側に相当する。この場合、酸化層Bは、高温の水蒸気と接する。
[酸化層B]
酸化層Bは、80体積%以上のFe34を含有する。Fe34の熱伝導率は高い。したがって、酸化層Bの熱伝導率は高く、伝熱部材の外部から与えられた熱を大きく減少させることなく伝熱部材の内部へと伝える。このため、ボイラの伝熱特性を向上できる。好ましくは、酸化層BにおけるFe34の含有量は90体積%以上である。酸化層Bは、Fe34からなるが、その一部がFe23であってもよい。酸化層Bは、Fe23を20体積%未満含有することができる。
酸化層Bには、基材2中に含まれるCr及びMnの一部が酸化物となって含有される場合がある。Cr23は特に、熱伝導率が小さい。そのため、酸化層Bに含まれるCr及びMnは合計で5%以下にする。酸化層Bに含まれるCr及びMnは合計で3%以下であることが好ましい。
酸化層Bの好ましい厚さは、10〜400μmである。
[酸化層C]
酸化層Cは、酸化層Bと基材2との間に形成され、基材2と接する。
酸化層Cの化学組成は、Cr及びMnを合計で5超〜30%含有する。酸化層C中において、Cr及びMnは、(Fe、M)34の化学式で示される酸化物として存在する。式中、Mには、Cr及びMnが代入される。(Fe、M)34の化学式で示される酸化物とは、Fe34と同じいわゆるスピネル型結晶構造を持ち、Feの一部がCr及びMnに置換された酸化物である。酸化層Cに含有されるCr及びMnの合計量が5%を超える場合、酸化層CにおけるFe34の割合を抑制できる。そのため、耐水蒸気酸化特性を保持したまま、酸化層Cの熱伝導率を適切な範囲に制御できる。一方で、酸化層Cに含有されるCr及びMnの合計量が30%より多い場合、酸化層Cの熱伝導率が低くなり過ぎる。この場合、ボイラの伝熱特性が低下する。したがって、酸化層CにおけるCr及びMnの含有量は、合計で5超〜30%である。酸化層Cにおける、Cr及びMn含有量の好ましい下限は10%であり、さらに好ましくは13%である。酸化層Cにおける、Cr及びMn含有量の好ましい上限は28%であり、さらに好ましくは25%である。
酸化層Cは、Cu、Mo、Ta、W及びReからなる群から選択される1種又は2種以上を合計で1〜15%含有してもよい。特定酸化層形成元素が酸化層Cに含有される場合、酸化層Cの熱伝導率が高まる。これらの元素が15%を超えて含有される場合、酸化層Cの耐水蒸気酸化性が低下することがある。したがって、含有量の上限は15%とするのが好ましい。酸化層Cにおけるこれらの元素の合計の含有量の好ましい上限は、9%である。酸化層Bにおけるこれらの元素の合計の含有量の好ましい下限は、1.5%である。
酸化層Cはさらに、その大部分が上述のスピネル型結晶構造を持つ酸化物であり、Cr23は5体積%以下であることが好ましい。熱伝導率の低いCr23の生成を5体積%以下に抑制し、スピネル型結晶構造を持つ酸化物を生成させることで、酸化層Bの熱伝導率を1.0〜3.0W・m-1・K-1の範囲に制御できる。酸化層CにおけるCr23の含有量は、好ましくは3体積%以下である。
酸化層Cの熱伝導率は、1.0〜3.0W・m-1・K-1の範囲に制御されるのが好ましい。この場合、基材2の表面へ伝わる高温水蒸気の熱を制御できる。これにより、基材2の表面の多量の酸化スケールの生成を抑制することができ、伝熱特性を損なうことなく伝熱部材4の耐水蒸気酸化性を向上できる。酸化層Cの熱伝導率が1.0W・m-1・K-1よりも小さければ、伝熱部材の外部から伝熱部材4の内部への熱伝導が阻害され、ボイラの伝熱特性が低下する。酸化層Bの熱伝導率が3.0W・m-1・K-1よりも大きければ、基材2の表面が過剰に加熱され、基材2の表面の酸化反応が促進される。そのため、基材2の表面で多量の酸化スケールが生成され、伝熱部材4の耐水蒸気酸化性が低下する。酸化層Cにおける、好ましい熱伝導率の下限は1.25W・m-1・K-1であり、さらに好ましくは1.3W・m-1・K-1である。酸化層Bにおける、好ましい熱伝導率の上限は2.8W・m-1・K-1であり、さらに好ましくは2.5W・m-1・K-1である。
各酸化層の酸化物の体積率は、たとえば次の方法で測定できる。始めに、酸化層Bの表面に対してX線回折(XRD)法を用いて、酸化物を同定する。次に、試験片を樹脂に埋め込み、試験片の断面に対して電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて、後方散乱電子(BSE)像を撮影する。得られた画像の濃淡から、各酸化物の面積率を求め、体積率に換算する。酸化層Aを除去した後、酸化層Bに対しても同様に測定することにより、各酸化層の酸化物の体積率を求めることができる。
各酸化層におけるCr及びMnの含有量は、たとえば次の方法で測定できる。酸化層Bの表面に対して、エネルギー分散型X線分析(EDS)法を用いて、元素組成を分析する。得られた各元素の組成のうち、Cr及びMnの合計量を算出する。さらに、酸素(O)及び炭素(C)の量を除外した組成を100%として、Cr及びMnの合計量の割合(質量%)を算出する。酸化層Bを除去した後、酸化層Bに対しても同様に測定することにより、各酸化層に含まれる元素の含有量を求めることができる。Cu、Mo、Ta、W及びReの合計の含有量についても、同様の方法で測定できる。
酸化層Cの熱伝導率は、たとえば次の方法で求めることができる。伝熱部材4の酸化層Bを除去した後、基材2を含む酸化層Cのかさ密度、比熱及び熱拡散率を測定する。次に、酸化層Cを除去した後、基材2に対しても同様に、かさ密度、比熱及び熱拡散率を測定する。それぞれの測定値の差を酸化層Cの測定値に換算し、次式に代入することによって、熱伝導率κを求めることができる。
κ=ρ×Cp×D
ここで、ρにはかさ密度、Cpには比熱、Dには熱拡散率が代入される。
酸化層C厚さの好ましい下限は、10μmである。
[酸化皮膜3の厚さ]
酸化皮膜3の厚さは、特に限定されないが、薄い方が好ましい。酸化皮膜3が薄いと、伝熱部材4の伝熱特性が高まる。このため、ボイラの伝熱特性を向上できる。伝熱部材4が長時間使用されれば、酸化皮膜3は厚くなる。伝熱部材4の水蒸気酸化処理の温度が高い場合も、酸化皮膜3は厚くなる。後述の酸化処理及び水蒸気酸化処理を行えば、酸化層B及び酸化層Cは、ほとんど同じ厚さで形成される。したがって、酸化層Cが薄い場合、酸化皮膜3も薄くなる。
酸化層B及び酸化層Cの厚さは、たとえば次の方法で求めることができる。後述の酸化処理及び水蒸気酸化処理を施した伝熱部材4から試験片を作成する。得られた試験片を樹脂に埋め込み、断面に対して走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて2000倍の倍率で観察を行う。各酸化層に相当する部分の厚さを測定することで、酸化層B及び酸化層Cの厚さを求めることができる。
[製造工程]
本実施形態による伝熱部材の製造工程は、準備工程、酸化処理工程及び水蒸気酸化処理工程を含む。準備工程では、上述の化学組成を有する素材を準備する。素材は、連続鋳造法により製造されたスラブ、ブルーム及びビレットであってもよい。素材は、造塊法により製造されたビレットであってもよい。たとえば、鋼管を製造する場合、準備された素材を加熱炉又は均熱炉に装入して加熱する。加熱された素材を熱間加工して基材2を製造する。熱間加工はたとえば、マンネスマン法である。マンネスマン法は、素材を、穿孔機を用いて穿孔圧延し素管にする。続いて、マンドレルミル及びサイジングミルを用いて素材を延伸圧延及び定形圧延する方法である。これにより継目無鋼管として基材2を製造する。基材2の製造法は、マンネスマン法に限定されず、素材を熱間押出又は熱間鍛造により製造してもよい。さらに、熱間加工により製造された基材2に対し、熱処理を実施してもよいし、冷間加工を実施してもよい。基材2は鋼板であってもよい。基材2を鋼板とする場合、素材を熱間加工し鋼板として基材2を製造する。溶接により鋼板を鋼管に加工し、溶接鋼管として基材2を製造してもよい。
[酸化処理]
上述の基材2に対して酸化処理を行う。酸化処理は、燃焼ガス等のガス雰囲気中で基材2を加熱することにより行う。酸化処理に用いるガスのCO/CO2比は、体積比で0.6以上とする。CO/CO2比を0.6以上とすることで基材2の表面に、酸化層Aが形成される。酸化層Aは、後述の水蒸気酸化処理後に、酸化皮膜3に変化する。酸化皮膜3は、基材2の表面に酸化層B及び酸化層Cからなる2層で形成される。CO/CO2比は特に上限を設けないが、操業上の実用性を考慮して、2.0が好ましい。酸化処理に用いるガスは、CO/CO2比が0.6以上であればよく、ガスの種類は特に限定されない。CO−CO2の混合ガスを用いてもよいし、燃焼ガスを用いてもよい。燃焼ガスを用いる場合は、空燃比を調節することによって、CO/CO2比を0.6以上に調節できる。
酸化処理ガス雰囲気では、たとえば燃焼ガスにおける空燃比が制御される。空燃比を制御すれば、酸化処理ガス雰囲気内のガス組成が変化する。燃料として、天然ガス、メタン、プロパン、ブタン等を用いてもよい。また、CO−CO2等の混合ガスを使用してもよい。さらには、これらを混合した酸化処理ガス雰囲気を使用してもよい。
酸化処理の温度は1050〜1240℃である。酸化処理温度が1050℃未満であれば、酸化層Aの厚さが1μm未満になる。この場合、高温蒸気環境下において、酸化皮膜3を基材2の表面に均一に形成できない。これにより、基材2を酸化皮膜3で完全に被覆できない。その結果、オーステナイト系伝熱部材4の表面における熱伝導率が低下する。酸化処理温度が1240℃を超えれば、酸化層Aが厚くなりすぎる。この場合、酸化層Aと基材2との密着性が低下し、酸化処理後の冷却工程において酸化層Aが剥離する。その結果、高温蒸気環境下において、酸化皮膜3の形成が不完全になり、伝熱特性が低下する。酸化処理後に形成される酸化皮膜3の厚さを抑制できる。このため、酸化皮膜の剥離を抑制でき、後述の水蒸気酸化処理後に酸化皮膜3を安定的に形成できる。したがって、酸化処理温度は1050〜1240℃である。酸化処理温度の好ましい下限は1060℃であり、さらに好ましくは1080℃である。酸化処理温度の好ましい上限は1230℃であり、さらに好ましくは1210℃である。
好ましい酸化処理時間は1分〜1時間である。酸化処理時間が短すぎると、酸化層Aの厚さが1μm未満になる。この場合、高温蒸気環境下において、酸化皮膜3を基材2の表面に均一に形成できない。これにより、基材2を酸化皮膜3で完全に被覆できない。その結果、オーステナイト系伝熱部材4の表面における熱伝導率が低下する。酸化処理時間が長すぎると、生産性が低下する。生産性を考慮すると、酸化処理時間は短い方が好ましい。そのため、さらに好ましい酸化処理時間は30分以下であり、さらに好ましくは20分以下である。酸化処理時間のさらに好ましい下限は3分である。
酸化処理の後にテンパー処理(低温焼鈍)を実施してもよい。さらに、酸化処理は基材2の全体に行ってもよいが、基材2が高温の水蒸気と接する面(例えば、鋼管の内表面)のみに行ってもよい。
酸化処理は1回実施してもよいし、複数回実施してもよい。酸化処理後に、基材2の表面に付着した汚れや油分を除去するため、脱脂や洗浄等を実施してもよい。脱脂や洗浄等を実施しても、酸化層Aには影響しない。脱脂や洗浄等を実施しても、その後の酸化皮膜3の形成には影響しない。
以上の製造方法により製造したオーステナイト系耐熱鋼は、高温蒸気環境下において、優れた伝熱特性を有する。
[水蒸気酸化処理]
上述の酸化処理を施したオーステナイト系耐熱鋼に対して水蒸気酸化処理を行う。水蒸気酸化処理は、オーステナイト系耐熱鋼を、550〜700℃の水蒸気に晒すことによって行う。水蒸気酸化処理は100時間以上であれば、処理時間の上限は特に限定されない。水蒸気酸化処理により、酸化層Aが酸化層B及び酸化皮膜3に変化する。これにより、酸化層B及び酸化層Cからなる酸化皮膜3が、基材2上に形成される。
以上の工程により、本実施形態によるオーステナイト系伝熱部材を製造できる。
表1に示す化学組成を持つ各鋼片を製造し、表2に示す条件で酸化処理及び水蒸気酸化処理を行った。具体的には、表1に示す化学組成を持つインゴットを溶製した。得られた各インゴットに対して熱間圧延及び冷間圧延を実施して鋼板を製造し、基材とした。得られた各基材から試験片を作成し、各試験片に対して、表2に示す条件で酸化処理を行った。酸化層Aの厚さ及び酸化層Aの金属元素含有量を測定した。
Figure 2017020105
Figure 2017020105
[酸化層Aの厚さ測定試験]
各試験片の酸化層Aの厚さを、上述の方法で求めた。結果を表2に示す。
[酸化層Aの金属元素の含有量測定試験]
各試験片の断面に対して、上述の方法で各金属元素の含有量を求めた。酸化層Aについて、Cr及びMnの合計量(質量%)、及び、Cu、Mo、Ta、W及びReの合計量(質量%)を求めた。結果を表2に示す。
各試験片に対して、表2に示す条件で水蒸気酸化処理を行った。得られた各試験片に対して、次の測定試験を行った。
[酸化物の体積率測定試験]
各試験片の断面に対して、上述の方法で酸化物の体積率を求めた。酸化層Bについて、Fe34の体積率及び、Fe23の体積率を求めた。結果を表2に示す。酸化層Cについて、Cr23の体積率を求めた。結果を表2に示す。
[金属元素の含有量測定試験]
各試験片の断面に対して、上述の方法で各金属元素の含有量を求めた。酸化層Bについて、Cr及びMnの合計量(質量%)を求めた。結果を表2に示す。酸化層Cについて、Cr及びMnの合計量(質量%)、及び、Cu、Mo、Ta、W及びReの合計量(質量%)を求めた。結果を表2に示す。
[酸化層Cの熱伝導率測定試験]
各試験片の酸化層Cの熱伝導率を、上述の方法で求めた。結果を表2に示す。
[酸化層C厚さ測定試験]
各試験片の酸化層Cの厚さを、上述の方法で求めた。結果を表2に示す。
[評価結果]
表1及び表2を参照して、試験番号1、2、4、8、10〜14の鋼の化学組成及び製造条件は適切であった。そのため、酸化層Aの厚さは1μm以上となった。これにより、酸化層Bは80体積%以上のFe34を含有した。酸化層CのCr+Mn合計含有量が5超〜30%であり、特定酸化層形成元素の含有量が1〜15%であった。その結果、酸化層Cの熱伝導率は1.0〜3.0W・m-1・K-1の範囲内となり優れた熱伝導率を示した。酸化層Cはさらに、厚さが60μm以下となり、優れた耐水蒸気酸化性を示した。
一方、試験番号3は、化学組成は適切であったものの、酸化処理を行わず酸化層Aを形成しなかった。そのため、酸化層Cの熱伝導率が1.0W・m-1・K-1未満となった。酸化層B中のCr及びMnの合計量が5%を超えたため、酸素の内方流速が抑制され、その結果、酸化層C中に熱伝導率の低いCr23が5体積%を超えて生成したからと考えられる。さらに、特定酸化層形成元素の合計量が1%未満であったため、熱伝導率を一層低下させたと考えられる。
試験番号5は、化学組成は適切であったものの、酸化処理温度が高すぎたため、酸化層AのCr及びMnの合計量が45質量%を超えた。そのため、酸化層Cの熱伝導率が1.0W・m-1・K-1未満となった。熱伝導率の低いCr23が5体積%を超え、さらに酸化層C中のCr及びMnの合計量が30%を超えて、酸化層Cに生成したためと考えられる。
試験番号6は、化学組成は適切であったものの、酸化処理温度が低すぎたため、酸化層Aの厚さが1μm未満となった。そのため、酸化層Cの熱伝導率が1.0W・m-1・K-1未満となった。酸化層C中の特定酸化層形成元素の合計量が1%未満であったためと考えられる。
試験番号7は、化学組成は適切であったものの、酸化処理におけるCO/CO2比が0.6未満であった。そのため、酸化層A中のCr及びMnの合計量が20%未満であり、さらに特定酸化層形成元素の合計量が0.5%未満であった。そのため、酸化層Cの熱伝導率が3.0W・m-1・K-1を超えた。これは、酸化層B中のFe34体積率が80%を下回ったため酸素の内方流束が大きくなり、酸化層Cの成長も促進されたためである。試験番号7はさらに、酸化層Cの厚さが60μmを超えた。酸化層Cの熱伝導率が高すぎたためと考えられる。
試験番号9は、化学組成は適切であったものの、酸化処理時間が短すぎたため、酸化層Aの特定酸化層形成元素の合計量が10%を超えた。そのため、酸化層Cの熱伝導率が3.0W・m-1・K-1を超えた。これは、酸化層C中の特定酸化層形成元素の合計量が15%を超えたためと考えられる。試験番号9はさらに、酸化層Cの厚さが60μmを超えた。酸化層Cの熱伝導率が高すぎたためと考えられる。
試験番号15及び16は、特定酸化層形成元素をいずれも含有しなかった。そのため、酸化層A中の特定酸化層形成元素が合計量で0.5%未満であった。そのため、酸化層Cの熱伝導率が1.0W・m-1・K-1未満となった。酸化層C中の特定酸化層形成元素の合計量が1%未満であったため、熱伝導率が低くなったと考えられる。
試験番号17は、Cr含有量が低すぎた。そのため、製造方法は適切であったにも関わらず、酸化層Cの熱伝導率が3.0W・m-1・K-1を超えた。Cr含有量が低すぎたことで、酸化層Cにおいて、Cr及びMnの合計量が5%未満になったためと考えられる。試験番号17はさらに、酸化層Cの厚さが60μmを超えた。酸化層Cの熱伝導率が高すぎたためと考えられる。
試験番号18は、Cr含有量が高すぎた。そのため、製造方法は適切であったにも関わらず、酸化層Cの熱伝導率が1.0W・m-1・K-1未満となった。熱伝導率の低いCr23が5体積%を超えて酸化層Cに生成したためと考えられる。
試験番号19は、Ni含有量が高すぎた。そのため、製造方法は適切であったにも関わらず、酸化層Cの熱伝導率が1.0W・m-1・K-1未満となった。熱伝導率の低いCr23が5体積%を超えて酸化層Cに生成したためと考えられる。
試験番号20は、特定酸化層形成元素の含有量が高すぎた。そのため、酸化層Aの特定酸化層形成元素の合計量が10%を超えた。そのため、酸化層Cの熱伝導率が3.0W・m-1・K-1を超えた。これは、酸化層C中の特定酸化層形成元素の合計量が15%を超えたためと考えられる。試験番号20はさらに、酸化層Cの厚さが60μmを超えた。酸化層Cの熱伝導率が高すぎたためと考えられる。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
1 オーステナイト系耐熱鋼
2 基材
3 酸化皮膜
4 オーステナイト系伝熱部材
A 酸化層A
B 酸化層B
C 酸化層C

Claims (7)

  1. 基材と、
    前記基材の表面に酸化層Aとを備え、
    前記基材は、
    質量%で、
    C:0.01〜0.3%、
    Si:0.01〜2.0%、
    Mn:0.01〜2.0%、
    P:0.10%以下、
    S:0.03%以下、
    Cr:15.0〜24.0%、
    Ni:6.0〜27.0%、
    N:0.005〜0.3%、
    sol.Al:0.001〜0.3%、
    Co:0〜5.0%、
    Ti:0〜1.0%、
    V:0〜1.0%、
    Nb:0〜1.0%、
    Hf:0〜1.0%、
    Ca:0〜0.1%、
    Mg:0〜0.1%、
    Zr:0〜0.1%、
    B:0〜0.1%、
    希土類元素:0〜0.1%、及び、
    Cu:0〜5.0%、Mo:0〜5.0%、Ta:0〜5.0%、W:0〜5.0%及びRe:0〜5.0%からなる群から選択される1種又は2種以上:合計で0.5〜10.0%、
    を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、
    前記酸化層Aは、
    質量%で、
    Cr及びMn:合計で20〜45%、及び、
    Cu、Mo、Ta、W、及びReからなる群から選択される1種又は2種以上:合計で0.5〜10%、
    を含有する化学組成と、
    1μm以上の厚さとを含む、オーステナイト系耐熱鋼。
  2. 請求項1に記載のオーステナイト系耐熱鋼であって、
    前記基材の化学組成は、
    Co:0.005〜5.0%を含有する、オーステナイト系耐熱鋼。
  3. 請求項1又は請求項2に記載のオーステナイト系耐熱鋼であって、
    前記基材の化学組成は、
    Ti:0.01〜1.0%、
    V:0.01〜1.0%、
    Nb:0.01〜1.0%、及び、
    Hf:0.01〜1.0%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、オーステナイト系耐熱鋼。
  4. 請求項1〜請求項3に記載のオーステナイト系耐熱鋼であって、
    前記基材の化学組成は、
    Ca:0.0015〜0.1%、
    Mg:0.0015〜0.1%、
    Zr:0.0015〜0.1%、
    B:0.0015〜0.1%、及び、
    希土類元素:0.0015〜0.1%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、オーステナイト系耐熱鋼。
  5. 請求項1〜請求項4に記載の化学組成を有する基材と、
    前記基材の表面に酸化皮膜とを備え、
    前記酸化皮膜は、
    体積%で80%以上のFe34を含有する酸化層Bと、
    前記酸化層Bと前記基材との間に形成される酸化層Cとを含み、
    前記酸化層Cの化学組成は、
    質量%で、
    Cr及びMn:合計で5超〜30%、及び、
    Cu、Mo、Ta、W及びReからなる群から選択される1種又は2種以上:合計で1〜15%を含有する、オーステナイト系伝熱部材。
  6. 請求項5に記載のオーステナイト系伝熱部材であって、
    前記酸化層Bの化学組成は、
    質量%で、
    Cr及びMn:合計で5%以下を含有する、伝熱部材。
  7. 請求項5又は請求項6に記載のオーステナイト系伝熱部材であって、
    前記酸化層Cは、
    体積%でCr23を5%以下を含有する、伝熱部材。
JP2016128425A 2015-07-10 2016-06-29 オーステナイト系耐熱鋼及びオーステナイト系伝熱部材 Active JP6805574B2 (ja)

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