JP2017015248A - セレクタブルワンウェイクラッチおよび車両 - Google Patents

セレクタブルワンウェイクラッチおよび車両 Download PDF

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Abstract

【課題】潤滑油を介して生じる引き摺りトルクによる誤係合を防止することのできるSOWCおよびそのSOWCを備えた車両を提供する。【解決手段】固定板2と、固定板2に対して相対回転可能に対向して配置された回転板4と、固定板2の回転板4に対向する側面に保持されかつ回転板4側に選択的に突出することにより回転板4に係合して固定板2と回転板4との間でトルクを伝達する係合片9と、固定板2と回転板4との間に設けられ所定の角度範囲で回転することにより係合片9を回転板4側に突出させる係合位置と係合片9を回転板4から固定板2側に後退させて回転板4に対する係合を外す解放位置とに移動させられる切替板3とを備えたセレクタブルワンウェイクラッチ1であって、固定板2と切替板3との間に潤滑油を流入させる流入部20が、固定板2に形成されている。【選択図】図5

Description

この発明は、正逆いずれか一方向にのみトルクを伝達し、他の方向にはオーバーラン状態となってトルクを伝達しないいわゆるワンウェイクラッチとしての機能を選択的に設定することのできるセレクタブルワンウェイクラッチ、およびセレクタブルワンウェイクラッチを備えている車両に関するものである。
エンジンとモータとを駆動力源として備えたハイブリッド車に用いられたセレクタブルワンウェイクラッチ(以下、SOWCと記す)の一例が特許文献1に記載されている。SOWCは、それぞれ円板状を成す固定側レースと回転側レースとを対向させて配置するとともに、これらの各レースの間にセレクタプレートを所定角度回転できるように配置して構成されている。固定側レースには、先端部が回転側レースに向けて起き上がるようにばねによって付勢された複数のストラットが設けられており、回転側レースには、ストラットの先端部を入り込ませて係合させる凹部であるノッチが形成されている。さらに、セレクタプレートには、ストラットに対応させた複数の窓孔が形成されている。その窓孔がストラットの位置に対してずれた状態にセレクタプレートが回転している場合には、ストラットが固定側プレート内に押し込められてノッチに係合することがなく、また窓孔がストラットに一致する位置にセレクタプレートが回転させられた場合には、ストラットが窓孔から回転側プレートに向けて起き上がり、その先端部がノッチの内部に入り込む。その状態で、ノッチの内側面がストラットに突き当たる方向に回転側プレートが回転しようとすると、回転側プレートの回転が止められる。また、回転側プレートがこれとは反対方向に回転しようとすると、ノッチの開口端縁がストラットの背面(上面)を押すために、ストラットが固定側プレートに向けて押し倒され、その結果、回転側プレートが回転する。すなわち、オーバーラン状態になる。
そして、特許文献1に記載されたハイブリッド車は、遊星歯車機構からなる動力分割機構にエンジンと第1モータ・ジェネレータとが連結され、その動力分割機構から出力されたトルクに、第2モータ・ジェネレータの出力トルクを加えるように構成されている。また、動力分割機構と同一の軸線上に、遊星歯車機構から構成されたオーバードライブ機構が配置され、前述した回転側プレートに、オーバードライブ機構における所定の回転要素が連結され、固定側プレートはケーシングなどの所定の固定部に取り付けられている。
特開2015−77846号公報
SOWCは、一方向クラッチとして機能することにより、上述した所定の回転要素の特定の一方向の回転を止めることができ、また一方向クラッチとしての機能を解除することにより前記所定の回転要素を正逆いずれの方向にも回転させることができる。一方、SOWCでは、固定側プレート(ポケットプレートと称されることがある。)と回転側プレート(ノッチプレートと称されることがある。)とセレクタプレートとの三者が相対回転し、また回転側プレートがオーバーランする場合にはストラットと回転側プレートとの間に摩擦が生じる。そのため、SOWCには潤滑油を供給し、摺動による摩耗や抵抗力などを減じるようにしている。
潤滑油は、ある程度の粘度を有しており、その粘度は温度が低いほど大きくなる。一方、SOWCは、特定の方向の回転を阻止し、またその回転の阻止を解除することができるクラッチ機構であるから、前記回転の阻止を解除することにより当該特定の方向の回転を許容することになる。その場合、例えば前述した所定の回転部材が特定の方向に回転することによって、セレクタプレートに対して潤滑油の粘性が要因となる引き摺りトルクが作用する。その引き摺りトルクは、潤滑油の温度が低いことにより潤滑油の粘度が大きい場合には大きいトルクになり、その結果、セレクタプレートが回転させられることがある。セレクタプレートが回転し、その窓孔がストラットの位置に一致すると、ストラットが回転側プレートに向けて起き上がるので、ストラットの先端部がノッチに入り込んでSOWCがいわゆる係合状態に切り替わり、前記所定の回転要素の回転が意図せずに止められてしまうことがある。すなわち、SOWCでは、潤滑油の粘度が大きい場合に誤係合が生じる可能性があった。
車両の動力伝達機構に組み込まれたSOWCにおいてこのような誤係合が生じると、ショックが発生したり、あるいはSOWCそのための部品の耐久性が低下したりする可能性がある。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、潤滑油の粘性が要因となる誤係合を回避もしくは抑制することができるセレクタブルワンウェイクラッチおよびそのセレクタブルワンウェイクラッチを備えた車両を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、この発明は、回転しないように保持される固定板と、前記固定板に対して相対回転可能に対向して配置された回転板と、前記固定板の前記回転板に対向する側面に保持されかつ前記回転板側に選択的に突出することにより前記回転板に係合して前記固定板と前記回転板との間でトルクを伝達する係合片と、前記固定板と前記回転板との間に設けられ所定の角度範囲で回転することにより前記係合片を前記回転板側に突出させる係合位置と前記係合片を前記回転板から前記固定板側に後退させて前記回転板に対する係合を外す解放位置とに移動させられる切替板とを有するセレクタブルワンウェイクラッチにおいて、前記固定板は、前記切替板に対向する対向部と、前記対向部に形成された溝部とを有し、前記溝部は、前記固定板と前記切替板との間に潤滑油を流入させる流入部となっていることを特徴とするものである。
前記係合片は、前記固定板の円周方向に所定の間隔をあけて複数配置され、前記流入部は、前記係合片の間に形成されていてよい。
また、前記切替板は、前記固定板より内径の大きい環状に形成され、前記固定板は、前記切替板の内周より小さい外径でかつ前記切替板の内周側を通って前記回転板側に延びている内周側縁部を有し、前記流入部である溝部は、前記内周側縁部の一部に形成されていてよい。
一方、この発明は、回転しないように保持される固定板と、前記固定板に対して相対回転可能に対向して配置された回転板と、前記固定板の前記回転板に対向する側面に保持されかつ前記回転板側に選択的に突出することにより前記回転板に係合して前記固定板と前記回転板との間でトルクを伝達する係合片と、前記固定板と前記回転板との間に設けられ所定の角度範囲で回転することにより前記係合片を前記回転板側に突出させる係合位置と前記係合片を前記回転板から前記固定板側に後退させて前記回転板に対する係合を外す解放位置とに移動させられる切替板とを有するセレクタブルワンウェイクラッチを備えた車両において、前記固定板は、所定の中心軸線を中心とした環状をなし、かつ前記中心軸線が水平になる状態に前記車両の所定の箇所に固定され、前記固定板は、前記切替板に対向する対向部を有し、前記固定板は、前記対向部に溝部として形成されかつ前記切替板との間に潤滑油を流入させる流入部を有しており、前記流入部は、前記固定板の前記回転中心軸線より重力方向における下側に形成されていることを特徴とするものである。
この発明においては、車両は、エンジンと、前記エンジンを始動する場合に前記エンジンと同方向に回転し、かつ予め定めた所定の走行状態の場合に前記エンジンと同方向の回転が止められる回転部材とを更に備え、前記回転板は、前記回転部材に連結されていてよい。
また、この発明における車両は、エンジンと、発電機能のある第1モータと、前記エンジンに連結された第1回転要素、および前記第1モータに連結された第2回転要素、ならびにトルクを出力する第3回転要素を有し、かつ前記第1回転要素および前記第2回転要素ならびに前記第3回転要素で差動作用を行う動力分割機構と、前記第3回転要素から出力されたトルクにトルクを加え、もしくは前記第3回転要素から出力されたトルクを減じる発電機能のある第2モータと、少なくとも前記第1モータおよび前記動力分割機構ならびに前記第2モータを収容しているケーシングとを更に備え、前記固定板は、前記ケーシングに固定され、前記回転板は、前記第2回転要素に連結されていてよい。
その場合、前記動力分割機構は、前記第2回転要素である第1サンギヤと、前記第3回転要素である第1リングギヤと、前記第1サンギヤおよび第1リングギヤに噛み合っている第1ピニオンギヤを保持している前記第1回転要素である第1キャリヤとを有するシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成されていてよい。
さらに、この発明における車両は、エンジンと、発電機能のある第1モータと、前記エンジンに連結された第1回転要素、および前記第1モータに連結された第2回転要素、ならびにトルクを出力する第3回転要素を有し、かつ前記第1回転要素および前記第2回転要素ならびに前記第3回転要素で差動作用を行う動力分割機構と、前記第3回転要素から出力されたトルクにトルクを加え、もしくは前記第3回転要素から出力されたトルクを減じる発電機能のある第2モータと、前記第1回転要素および前記エンジンに連結された第4回転要素、および前記第2回転要素および前記第1モータに連結された第5回転要素、ならびに選択的に固定される第6回転要素を有し、かつ前記第4回転要素および前記第5回転要素ならびに前記第6回転要素で差動作用を行う変速機構と、少なくとも前記第1モータおよび前記動力分割機構ならびに前記第2モータおよび前記変速機構を収容しているケーシングとを更に備え、前記固定板は、前記ケーシングに固定され、前記回転板は、前記第6回転要素に連結されていてよい。
その場合、前記動力分割機構は、前記第2回転要素である第1サンギヤと、前記第3回転要素である第1リングギヤと、前記第1サンギヤおよび第1リングギヤに噛み合っている第1ピニオンギヤを保持している前記第1回転要素である第1キャリヤとを有するシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成され、前記変速機構は、前記第5回転要素である第2サンギヤと、前記第6回転要素である第2リングギヤと、前記第2サンギヤに噛み合っている第2ピニオンギヤおよび前記第2ピニオンギヤと前記第2リングギヤとに噛み合っている第3ピニオンギヤを保持している第4回転要素である第2キャリヤとを有するダブルピニオン型遊星歯車機構によって構成されていてよい。
またさらに、この発明の車両は、エンジンと、発電機能のある第1モータと、前記エンジンに連結された第1回転要素、および前記第1モータに連結された第2回転要素、ならびにトルクを出力する第3回転要素を有し、かつ前記第1回転要素および前記第2回転要素ならびに前記第3回転要素で差動作用を行う動力分割機構と、前記第3回転要素から出力されたトルクにトルクを加え、もしくは前記第3回転要素から出力されたトルクを減じる発電機能のある第2モータと、少なくとも前記第1モータおよび前記動力分割機構ならびに前記第2モータを収容しているケーシングとを更に備え、前記固定板は、前記ケーシングに固定され、前記回転板は、前記エンジンおよび前記第1回転要素に連結されていてよい。
その場合、前記動力分割機構は、前記第2回転要素である第1サンギヤと、前記第3回転要素である第1リングギヤと、前記第1サンギヤおよび第1リングギヤに噛み合っている第1ピニオンギヤを保持している前記第1回転要素である第1キャリヤとを有するシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成されていてよい。
この発明においては、回転板は連続的に回転し、これに対して切替板は予め定めた所定の角度の範囲で回転する。したがって、回転板が切替板に対して連続して回転しても、接触や摩擦などが生じないようにクリアランスが確保されている。これに対して、固定板と切替板とは互いに接触しても特には支障がないので、両者の間のクリアランスは、切替板と回転板との間のクリアランスに比較して狭い。この発明では、切替板と固定板との間の狭いクリアランスに対して潤滑油を流入させる流入部が設けられているので、切替板と回転板との間だけではなく、切替板と固定板との間にも潤滑油を保持させることができる。そのため、回転板が回転することにより潤滑油を介して切替板に引き摺りトルクが作用した場合、切替板と固定板との間に前記流入部から流入した潤滑油によって切替板と固定板との間に引き摺りトルクが作用する。この切替板と固定板との間の引き摺りトルクは、切替板と固定板との間のクリアランスが狭いことにより大きい引き摺りトルクとなる。そして、固定板は回転していないから、固定板と切替板との間の引き摺りトルクは、切替板の回転を止める方向のトルクとなる。その結果、潤滑油の温度が低いことによってその粘度が高く、そのために切替板に対して、係合位置に回転させるトルクが回転板の回転によって作用しても、前記流入部から流入した潤滑油によって、その切替板の回転を止めるトルクが生じるので、特に制御を行うことなく切替板が係合位置に回転してしまったり、それに伴って固定板と回転板とがトルク伝達可能な状態に連結されたりすることを防止もしくは抑制することができる。
この発明では、流入部が固定板に形成した前記溝部であれば、切替板と固定板との間の潤滑油の保持量が多くなり、上記の回転板の回転による引き摺りトルクによって切替板が係合位置に回転することを、より確実に防止もしくは抑制することができる。
固定板が環状に形成されている場合、前記流入部をその固定板の内周部で、かつ中心軸線より下側に設けることにより、流入部を介して切替板と固定板との間に、潤滑油を確実かつ十分に流入させることができる。
その場合、固定板の前記内周側縁部を一部に形成することにより、切替板と固定板との間に潤滑油を流入させることができると同時に、切替板と回転板との間にクリアランスを、前記内周側縁部によって確保することができる。
そして、エンジンを始動する場合にエンジンと同方向に回転し、かつ所定の走行状態ではエンジンと同方向の回転を阻止する回転部材を前記回転板に連結してあっても、エンジンを始動などのために回転させる場合に前記切替板が係合位置に回転したり、そのためにエンジンを始動できなくなったりすることを防止もしくは抑制することができる。また、セレクタブルワンウェイクラッチが誤係合することを防止もしくは抑制することができることにより、駆動力が急激に変化するショックや、セレクタブルワンウェイクラッチを含む各種部品の耐久性の低下などを防止もしくは抑制することができる。
この発明の一実施例を示す斜視図である。 そのSOWCを分解して示す斜視図である。 SOWCの動作原理を説明するための模式図であり、(a)は係合状態を示し、(b)は解放状態を示す。 図1のIV−IV線に沿う部分断面図である。 (a)は図1のA−A線に沿う部分断面図であって図4とは縮尺が異なる部分断面図、(b)は図1のB−B線に沿う部分断面図である。 この発明の一実施例のSOWCを使用したハイブリッド車の動力伝達機構を模式的に示すスケルトン図である。 図6に示す動力分割機構についての共線図である。 この発明の一実施例のSOWCを使用したハイブリッド車の動力伝達機構の他の例を模式的に示すスケルトン図である。 図8に示す動力分割機構およびオーバードライブ機構を構成している複合遊星歯車機構についての共線図である。 図8に示すオーバードライブ機構およびSOWCを具体的に示す部分断面図である。 流入部による作用を説明するための部分断面図である。 この発明の一実施例のSOWCを使用したハイブリッド車の動力伝達機構の更に他の例を模式的に示すスケルトン図である。
つぎにこの発明の実施形態を図を参照して説明する。なお、以下の実施形態はこの発明を限定するものではなく、したがって各構成要素の形状や位置、取り付け姿勢、数などは、必要に応じて適宜に変更できる。
図1はこの発明の一実施形態におけるセレクタブルワンウェイクラッチ(以下、SOWCと記す。)1を示す斜視図であり、また図2はそのSOWC1の基本的な構成を説明するための分解斜視図である。SOWC1は、この実施形態における固定板に相当するポケットプレート2と、この実施形態における切替板に相当するセレクタプレート3と、この実施形態における回転板に相当するノッチプレート4とを備えている。そのポケットプレート2は全体として環状に形成され、その外周部に形成された円筒部5の一端部に内周側に向けて延びているフランジ状の側板部6を有し、その円筒部5の内部にセレクタプレート3とノッチプレート4とをここに挙げた順に収容し、円筒部5の開口端にスナップリング7を取り付けることにより、これらポケットプレート2と、セレクタプレート3と、ノッチプレート4との三者が一体に組み付けられている。組み付けた状態の一部を図3に模式的に示してある。
ポケットプレート2における上記の側板部6の内面(ノッチプレート4側を向く面)6aに、セレクタプレート3の回転中心軸線の軸線方向に窪んだ複数のポケット8が形成されている。その内面6はセレクタプレート3に対向しており、この発明の実施形態における対向部に相当している。ポケット8の内部にストラット9が回転(起倒)可能に収容されている。ストラット9は、この発明の実施形態における係合片に相当する部材であって、全体としてほぼ矩形状を成し、その一端部を中心に回転することにより、他端部がポケット8内に収まる伏せた状態と、当該他端部がポケット8からノッチプレート4側に突き出した状態とに変えるように構成されている。このような動作を行わせるために、ストラット9とポケット8との間に、ストラット9の前記他端部をノッチプレート4側に押すスプリング10が配置されている。
セレクタプレート3は、上記のポケットプレート2における側板部6とほぼ同形状の環状の部材であり、ポケット8もしくはストラット9に対応する箇所に窓孔11が板厚方向に貫通して形成されている。このセレクタプレート3は、ポケットプレート2に対して回転可能に保持されており、したがって図3の(a)に示すように、窓孔11がストラット9の位置と一致していると、ストラット9の前記他端部が上記のスプリング10に押されてノッチプレート4側に突出し、また図3の(b)に示すように、窓孔11がストラット9の位置に対してずれてポケット8がセレクタプレート3によって閉じられると、ストラット9がセレクタプレート3によってポケット8内に押し込められるように構成されている。
さらに、ノッチプレート4におけるポケットプレート2側の面のうち、前記ポケット8もしくはストラット9に対向する箇所に、これらに対応した凹部であるノッチ12が形成されている。このノッチ12は、前記窓孔11を通ってノッチプレート4側に突き出たストラット9の端部を入り込ませる凹部であって、ストラット9の端部に対向する内壁面がストラット9の端部を突き当てる係合面13となっている。
前記窓孔11がストラット9に一致してストラット9をノッチプレート4側に突出させる係合位置と、前記セレクタプレート3がポケット8に被さってストラット9をノッチ12から外す解放位置とに前記セレクタプレート3を切替動作させるアクチュエータ14が設けられ、そのアクチュエータ14は、図示の例ではソレノイドによって構成されている。そのアクチュエータ14は、通電することによる電磁力でプランジャ15を引き戻すように構成されている。そのプランジャ15にセレクタプレート3が接続されている。また、プランジャ15を引き戻す電磁力とは反対方向にプランジャ15に力を加えるコイルスプリング16が設けられている。
これらアクチュエータ14およびコイルスプリング16ならびにプランジャ15とセレクタプレート3との具体的な構成について説明すると、コイルスプリング16は図3に模式的に示す構成とは異なり、プランジャ15の外周側に嵌合させられていて、プランジャ15に取り付けられたスナップリングとソレノイドの本体部分(それぞれ図示せず)との間に圧縮した状態で配置され、プランジャ15をソレノイドの本体部分から押し出す方向に弾性力を作用させている。そのプランジャ15の中間部分にアーム片18の先端部が相対的に回転できるよう連結されている。アーム片18は、図2に一例を示す形状の部材であり、前記ポケットプレート2における円筒部5の内部に差し込まれて前記セレクタプレート3に係合する一端部18aと、前記円筒部5の外部に延び出ている他端部18bとがクランク状に屈曲して繋がった形状をなしている。前記他端部18bには、直線的に前後動する前記プランジャ15に相対回転可能に係合するように円弧状の輪郭部が設けられている。なお、前記円筒部5には、アーム片18を差し込みかつアーム片18の所定角度の回転を許容する開口部5aが形成されている。したがって、切替板3は、プランジャ15が直線的に前後動すること、それに伴ってアーム片18が所定角度の範囲で往復回転することにより、前記所定角度の範囲で回転するように構成されている。
ここで、ポケットプレート2に対するセレクタプレート3およびノッチプレート4の組み付け状態を更に具体的に説明すると、図4に示すように、ポケットプレート2における側板部6の内周端に軸線方向に僅かに延びたほぼ円筒状の内周側縁部19が形成されている。この内周側縁部19は、セレクタプレート3の内径より小さい外径でかつセレクタプレート3の内周側を通って軸線方向に延びた環状もしくは円筒状の部分であり、その前記側板部6の内面からの突出長さは、前記セレクタプレート3の厚さよりも僅かに長い長さとされている。したがって、前記側板部6の内面側すなわち前記円筒部5の突出方向側あるいはノッチプレート4側には、セレクタプレート3を回転可能に嵌め込むことのできる程度の浅い凹部6bが形成されている。
ノッチプレート4は、セレクタプレート3を上記のようにポケットプレート2に組み付けた状態で、前記円筒部5の内側に嵌め込まれ、その背面側(図4での右側。ポケットプレート2とは反対側。)に配置したスナップリング7を円筒部5の内面に嵌合させることにより、そのスナップリング7によって円筒部5に対して抜け止めされている。その状態で、ポケットプレート2における前記内周側縁部19の先端部とノッチプレート4の正面とが微小なクリアランスを設けて接近している。すなわち、ノッチプレート4の回転中心軸線方向での位置が内周側縁部19の先端部とスナップリング7とによって決められている。その結果、セレクタプレート3とノッチプレート4との間には、両者が接触しないような所定の幅のクリアランスが確保されている。これに対して、ポケットプレート2(より正確には側板部6)とセレクタプレート3との間のクリアランスは、両者がほぼ接触する程度に狭くなっている。ポケットプレート2とセレクタプレート3とが所定の一方向に連続して相対回転することがないからである。
潤滑油をセレクタプレート3とポケットプレート2との間に導くための流入部20が設けられている。流入部20は、潤滑油をセレクタプレート3とポケットプレート2との間に積極的に導くための一本もしくは複数本の溝部であり、SOWC1を使用状態に設置した場合すなわち車両用の動力伝達装置に組み込んで中心軸線をほぼ水平にして設置した場合に回転中心軸線より下側となる部分かつ前記ポケット8同士の間の部分に形成されており、図5に示すように、前記側板部6の内周面から半径方向で外側に向けて側板部6の外周部の近くまで延びている。すなわち、側板部6において前記ポケット8の間の一部が中心軸線方向に窪んだ溝部とされて前記流入部20となっており、その部分におけるセレクタプレート3とポケットプレート2(より正確には側板部6)との間のクリアランスが、円周方向での他の部分におけるクリアランスより大きくなっている。なお、流入部20の形状や寸法は、必要十分な量の潤滑油を保持でき、かつその潤滑油をセレクタプレート3とポケットプレート2(より正確には側板部6)との間のクリアランスに供給できるように、適宜に決めることができる。したがって、流入部20は、側板部6の正面(セレクタプレート3に対向する面)に形成した円弧状の溝部などであってもよい。
上述したSOWC1の作用を、この発明の実施形態での車両に相当するハイブリッド車に用いた場合を例に採って説明する。図6は複軸式の2モータタイプのハイブリッド車における動力伝達機構を模式的に示しており、駆動力源として、エンジン(ENG)21と、発電機能のある第1モータ(MG1)22と、発電機能のある第2モータ(MG2)23とを備えている。第1モータ22は、主として、エンジン21の回転数の制御およびエンジン21のクランキングを行うものであり、差動機構から構成された動力分割機構24にエンジン21と共に連結されている。
差動機構は、要は、シングルピニオン型遊星歯車機構やダブルピニオン型遊星歯車機構などの三つの回転要素によって差動作用を行う機構であって、図6に示す例では、この発明の実施形態における第2回転要素に相当するサンギヤ25およびこの発明の実施形態における第1回転要素に相当するキャリヤ26ならびにこの発明の実施形態における第3回転要素に相当するリングギヤ27を回転要素とするシングルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されている。サンギヤ25とリングギヤ27とに、この発明の実施形態における第1ピニオンギヤに相当するピニオンギヤP1が噛み合っており、このピニオンギヤP1がキャリヤ26によって保持されている。サンギヤ25に第1モータ22のロータが連結され、キャリヤ26にエンジン21の出力軸(クランクシャフト)が連結され、リングギヤ27が出力要素となっている。リングギヤ27に出力部材として出力ギヤ28が取り付けられており、その出力ギヤ28がカウンタドリブンギヤ29に噛み合っている。カウンタドリブンギヤ29が取り付けられているカウンタシャフト30には、カウンタドリブンギヤ29より小径のカウンタドライブギヤ31が取り付けられ、そのカウンタドライブギヤ31がデファレンシャルギヤ32におけるリングギヤ33に噛み合っている。このデファレンシャルギヤ32から左右の駆動輪34に駆動トルクを出力するようになっている。
第2モータ23は、主として、走行のための駆動力源として機能する発電機能のあるモータであって、そのロータ軸に取り付けられたドライブギヤ35が前記カウンタドリブンギヤ29に噛み合っている。このドライブギヤ35はカウンタドリブンギヤ29より小径のギヤであり、したがってドライブギヤ35およびカウンタドリブンギヤ29は減速機構を構成している。第2モータ23は、前記リングギヤ27から出力されたトルクにトルクを加え、またリングギヤ27から出力されたトルクを減じるように機能する。
そして、前記第1モータ22が連結されているサンギヤ25と所定の固定部であるケーシング36との間にセレクタブルワンウェイクラッチ1が設けられている。すなわち、サンギヤ25もしくはこれと一体のサンギヤ軸が、SOWC1におけるノッチプレート4に連結されている。したがって、サンギヤ25もしくはこれと一体のサンギヤ軸が、この発明の実施形態における回転部材に相当している。このSOWC1は、解放状態ではサンギヤ25もしくはこれと一体のサンギヤ軸の正逆いずれの方向の回転も可能にしてトルクを伝達することがなく、係合状態ではサンギヤ25もしくはこれと一体のサンギヤ軸の正回転を規制(もしくは阻止)しかつこれとは反対方向には回転を可能にしてトルクを伝達しないように構成されている。ここで、正回転とは、エンジン21の回転方向と同方向の回転であり、逆回転(もしくは負回転)とは、エンジン21の回転方向とは反対方向の回転である。
上記の第1モータ22と第2モータ23とは、図示しない蓄電装置やインバータなどのコントローラユニットに接続されるとともに、相互に電力を授受できるように電気的に接続されている。また、これらの蓄電装置やコントローラユニットあるいはSOWC1などを制御するための電子制御装置(ECU)38が設けられている。この電子制御装置38は、いわゆるコントローラに相当し、マイクロコンピュータを主体にして構成され、車速やアクセル開度、エンジン回転数ならびに推定出力トルク、各モータ22,23の回転数ならびにトルク、SOWC1の動作状態などの検出信号がデータとして入力され、そのデータに基づいて演算を行って各モータ22,23やSOWC1の制御のための指令信号を出力するように構成されている。
図7は、上記の動力分割機構24を構成している遊星歯車機構についての共線図であり、(a)はハイブリッドモード(HVモードもしくはパワースプリットモード)での前進状態を示しており、エンジン21が駆動状態になっていることによりキャリヤ26が正回転し、また前進走行していることによりリングギヤ27が正回転している。そして、SOWC1は解放状態(フリー)になっていてサンギヤ25およびこれに連結されている第1モータ22は正逆いずれの方向にも回転することができ、図7の(a)の状態では、第1モータ22は正回転しつつ発電機として機能している。すなわち、第1モータ22は負方向(図7の(a)における下向き)のトルクを出力し、これによりエンジン21の回転数を燃費効率の良好な回転数に制御している。その第1モータ22で発生した電力は第2モータ23に供給されて第2モータ23がモータとして機能し、走行のための駆動力を出力する。
図7の(b)は、サンギヤ25の正回転をSOWC1によって止めて、エンジン21の駆動力で前進走行し、もしくはこれに第2モータ23の駆動力を加えて前進走行している状態(いわゆるパラレルモード)を示している。この状態ではエンジン回転数(キャリヤ26の回転数)よりもリングギヤ27の回転数が大きくなってリングギヤ27からトルクが出力される。第2モータ23をモータとして動作させれば、その駆動力が、リングギヤ27から出力される駆動力に付加されてデファレンシャルギヤ32を介して駆動輪34に伝達される。またこの場合、第1モータ22がサンギヤ25と共に固定されて通電が止められている(オフ状態になっている)から、高車速で走行する際の燃費が良好になる。
図7の(c)はハイブリッド車が停止している状態でエンジン21を始動する場合の動作を示している。ハイブリッド車が停車している状態では、サンギヤ25およびキャリヤ26ならびにリングギヤ27の全ての回転が止まっている。また、ブレーキ操作され、あるいはパーキングロックされていることにより、リングギヤ27は停止状態に固定されている。この状態で第1モータ22によってサンギヤ25を正回転させると、キャリヤ26を正方向に回転させるトルクがキャリヤ26を介してエンジン21に作用する。すなわち、エンジン21がクランキングされる。その状態を図7の(c)には破線で示してある。
図8は、SOWC1を搭載したハイブリッド車の他の例を示す模式図であり、上述した図6に示す構成にオーバードライブ(O/D)機構39を追加して設け、そのオーバードライブ機構39をSOWC1によって選択的にロックするように構成した例である。オーバードライブ機構39はこの発明の実施形態における変速機構に相当し、この発明の実施形態における第5回転要素に相当するサンギヤ40およびこの発明の実施形態における第4回転要素に相当するキャリヤ41ならびにこの発明の実施形態における第6回転要素に相当するリングギヤ42を回転要素とするダブルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されている。サンギヤ40にはこの発明の実施形態における第2ピニオンギヤに相当するピニオンギヤP2が噛み合い、そのピニオンギヤP2とリングギヤ42とにこの発明の実施形態における第3ピニオンギヤに相当する他のピニオンギヤP3が噛み合っており、これらのピニオンギヤP2,P3がキャリヤ41によって保持されている。キャリヤ41に前述した動力分割機構24におけるキャリヤ26が連結され、したがってこれらのキャリヤ26,41にエンジン21の出力トルクが伝達されるようになっている。また、サンギヤ40に動力分割機構24におけるサンギヤ25が連結され、したがってこれらのサンギヤ25,40に第1モータ22のトルクが伝達されるように構成されている。さらに、リングギヤ42とケーシング36との間に前述したSOWC1が配置され、リングギヤ42の所定方向(正方向)の回転をSOWC1によって規制(阻止)してオーバードライブ状態を設定するように構成されている。すなわち、リングギヤ42が前述したノッチプレート4に連結され、リングギヤ42がこの発明の実施形態における回転部材に相当している。他の構成は、図6に示す構成と同様であるから、図8に図6と同様の参照符号を付してその説明を省略する。なお、この発明の実施形態における変速機構は、遊星歯車機構に限らず、適宜の歯車機構によって構成してもよい。
図9は、各回転要素が上記のように連結された動力分割機構24とオーバードライブ機構39とからなる複合遊星歯車機構についての共線図であり、(a)はハイブリッドモード(HVモードもしくはパワースプリットモード)での前進状態を示しており、エンジン21が駆動状態になっていることによりキャリヤ26が正回転し、また前進走行していることによりリングギヤ27が正回転している。そして、SOWC1は解放状態になっていて各サンギヤ25もしくはリングギヤ42およびこれらを回転させることのできる第1モータ22は正逆いずれの方向にも回転することができ、図9の(a)の状態では、第1モータ22は正回転しつつ発電機として機能している。すなわち、第1モータ22は負方向(図9の(a)における下向き)のトルクを出力し、これによりエンジン21の回転数を燃費効率の良好な回転数に制御している。その第1モータ22で発生した電力は第2モータ23に供給されて第2モータ23がモータとして機能し、走行のための駆動力を出力する。
図9の(b)は、リングギヤ42の正回転をSOWC1によって止めて、エンジン21の駆動力で前進走行し、もしくはこれに第2モータ23の駆動力を加えて前進走行している状態を示している。オーバードライブ機構39ではリングギヤ42が正回転方向に回転しないように固定された状態でキャリヤ41に正回転方向のトルクが入力されるから、サンギヤ40は逆回転する。動力分割機構24ではそのサンギヤ25がオーバードライブ機構39におけるサンギヤ40と一体となって逆回転する。したがって、動力分割機構24ではサンギヤ25が逆回転している状態でキャリヤ26にエンジン21のトルクが入力されるから、出力要素であるリングギヤ27がキャリヤ26(すなわちエンジン21)より高回転数で回転する。すなわち、オーバードライブ状態となる。なお、この状態で第2モータ23をモータとして動作させれば、その駆動力が、リングギヤ27から出力される駆動力に付加されてデファレンシャルギヤ32を介して駆動輪34に伝達される。なお、このオーバードライブ状態では、リングギヤ42と共に第1モータ22が固定されてオフ状態に制御されるから、高車速で走行する際の燃費が良好になる。
図9の(c)はハイブリッド車が停止している状態でエンジン21を始動する場合の動作を示している。ハイブリッド車が停車している状態では、サンギヤ25,40およびキャリヤ26,41ならびにリングギヤ27,42の全ての回転が止まっている。また、ブレーキ操作され、あるいはパーキングロックされていることにより、リングギヤ27は停止状態に固定されている。この状態で第1モータ22によってサンギヤ25,40を正回転させると、キャリヤ26,41を正方向に回転させるトルクがキャリヤ26を介してエンジン21に作用し、またリングギヤ42にはこれを正回転させるトルクが作用する。すなわち、エンジン21がクランキングされる。その状態を図9の(c)には破線で示してある。
SOWC1では、ノッチプレート4がポケットプレート2やセレクタプレート3に対して相対回転し、またストラット9がポケット8の内部で起き上がり、また倒れ込むなど、これらの部材の摺動が生じる。その摺動部で摩擦や摩耗などを減じ、各動作を円滑にするために潤滑油が供給される。図10は前述した図8に示すハイブリッド車に搭載した場合のSOWC1の具体的な配置状態を示している。
前述した動力分割機構24および第1モータ22などを収容しているケース50の開口端部51にエンドカバー52が取り付けられてそのエンドカバー52によってその開口部51が閉じられている。エンドカバー52の外周端部にフランジ53が形成され、エンドカバー52はそのフランジ53を貫通するボルト54によってケース50に取り付けられている。
フランジ53より幾分内周側の部分は、ケース50とは反対方向に膨らんでおり、その膨らんだ部分の内部が凹部となっている。その凹部の前記ケース50の内部に向けた開口端に板状のセンターサポート55がボルト56によって取り付けられている。センターサポート55は、主として、軸を支持するための部材であり、前記第1モータ22のロータと一体化されているロータ軸57がセンターサポート55を貫通するとともに、軸受58によって回転可能に支持されている。ロータ軸57は中空軸であって、そのロータ軸57の内部を、前記エンジン21の出力軸に一体化されている入力軸59が貫通している。その入力軸59の外周面とロータ軸57の内周面との間に配置された軸受60によって、入力軸59が回転可能に支持されている。なお、入力軸59は、ロータ軸57の端部から突出し、エンドカバー52の内面近くまで延びている。このように、センターサポート55は、エンドカバー52の内側に形成されている凹部を閉じており、その結果、センターサポート55とエンドカバー52との間に収容室61が形成されている。
収容室61の内部に前述したオーバードライブ機構39とSOWC1とが配置されている。収容室61内に突出したロータ軸57の先端部にサンギヤ40がスプライン嵌合されている。キャリヤ41は、上記のロータ軸57から突出している入力軸59にスプライン嵌合しているボス部62を有し、そのボス部62を介して入力軸59(すなわちエンジン21)に連結されている。このキャリヤ41用のボス部62の外周部に、リングギヤ42用のボス部63が相対回転可能に嵌合している。そのボス部63には半径方向で外側に延びている側板部分が一体化されており、その側板部分の外周端がリングギヤ42に連結されている。そのリングギヤ42用のボス部63にSOWC1におけるノッチプレート4が連結されている。すなわち、リングギヤ42の所定方向(正方向)の回転を選択的に止めるように構成されている。
エンドカバー52の内側端面(内壁部)には、前記入力軸59の中心軸線を中心にした円筒部64が形成されており、SOWC1はその円筒部64の内部に配置されている。SOWC1は前述したように、円板状のポケットプレート2とノッチプレート4とセレクタプレート3とを備えており、図10に示す例では、これらのプレート2,3,4はオーバードライブ機構39とほぼ等しい外径に形成されている。ポケットプレート2とノッチプレート4との軸線方向での配列は必要に応じて適宜に設定することができる。図10に示す例では、ノッチプレート4がオーバードライブ機構39側に位置し、ポケットプレート2がエンドカバー52の内壁面側に配置されている。そして、ポケットプレート2は、その外周部で前記円筒部64の内周部にスプライン嵌合されて、エンドカバー52に固定されている。したがって、エンドカバー52が図6あるいは図8に示すケーシング36に相当している。これに対して、ノッチプレート4は、その内周側に一体化されているボス部65をリングギヤ42用のボス部63の外周部にスプライン嵌合させることにより、リングギヤ42に連結されている。
図10に示す例では、オイルポンプ67が上記の収容室61に、前記オーバードライブ機構39およびSOWC1と並列に収容されている。オイルポンプ67は、潤滑や制御のための油圧を発生するためのポンプであり、ロータやギヤなどの回転体の回転によって油圧を発生するギヤポンプやベーンポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの適宜のポンプを採用することができる。このオイルポンプ67の回転軸68にギヤ69が取り付けられている。このギヤ69に噛み合っているギヤ70が、オーバードライブ機構39におけるキャリヤ41に取り付けられている。したがって、オイルポンプ67はエンジン21の動力によって駆動されるように構成されている。そして、オイルポンプ67における吸入ポートや吐出ポートならびにこれらのポートに連通する油路は、エンドカバー52の内部に形成されている。例えば吐出路71はオイルポンプ67に対向する箇所からエンドカバー52の内部を通って、前記入力軸59の先端部に対向する位置に到るように形成されている。入力軸59は中空軸であって、その中心軸線に沿って形成された油路は、入力軸59の先端部をエンドカバー52の内面に突出させた突起部に嵌合させることにより、エンドカバー52に形成されている吐出路71に連通されている。
図10に示す配置状態でSOWC1における前記流入部20は重力方向で下側に配置されている。潤滑油は、上記の吐出路71から入力軸59の内部を通って、入力軸59に半径方向に向けて形成されている油路から半径方向で外側に向けて流出する。さらに、その潤滑油は、軸受などの隙間を通ってオーバードライブ機構39やSOWC1に供給される。入力軸59が停止している状態では潤滑油に遠心力が作用しないので、上記の隙間などに流出した潤滑油は重力によって下側に流れる。その場合、ポケットプレート2の内周部に流れた潤滑油の一部は、前述した流入部20からセレクタプレート3とポケットプレート2との間に供給される。その状態を図5の(a)に矢印で示してある。また、セレクタプレート3とノッチプレート4との間のクリアランスが広いことにより、そのクリアランスの内部にも潤滑油が入り込む。このようにして各プレート2,3,4同士の間に入り込んだ潤滑油は、その粘性によって引き摺りトルクを生じ、低温であることにより粘度が高い場合には引き摺りトルクも大きくなる。この発明の実施例におけるSOWC1では、セレクタプレート3を挟んだ両側に潤滑油が十分に存在することになるので、引き摺りトルクが潤滑油を介して正逆両方向に作用し、セレクタプレート3がいわゆる係合位置に回転したり、それに伴ってSOWC1が誤係合することが防止もしくは抑制される。
その作用を具体的に説明する。図6あるいは図8に示す例では、エンジン21を始動する場合には正回転し、かつ主としてエンジン21の駆動力で前進走行する場合には正回転が止められる回転部材(サンギヤ25あるいはリングギヤ42)に、ノッチプレート4が連結されている。エンジン21を始動する場合、SOWC1は上記のサンギヤ25あるいはリングギヤ42の正回転を可能にするためにいわゆる解放状態に制御される。解放状態は、セレクタプレート3の窓孔11の位相がストラット9の位相に対してずれて、セレクタプレート3がストラット9をポケット8の内部に押し込めている状態である。これを図11に模式的に示してある。この状態でエンジン21を始動するべく第1モータ22を正回転させると、ノッチプレート4が図11の右向きの矢印で示してある方向(正回転方向)に回転しようとする。ノッチプレート4とセレクタプレート3との間に潤滑油Lが介在しているから、ノッチプレート4が移動することにより、引き摺りトルクがセレクタプレート3に作用する。引き摺りトルクの大きさは、潤滑油Lの粘度、ノッチプレート4とセレクタプレート3との間隔、相対速度などに応じて大きくなる。したがって,潤滑油Lの温度が低いことにより潤滑油Lの粘度が高い場合には、引き摺りトルクが前述したコイルスプリング16の弾性力によるトルクより大きくなる。このような引き摺りトルクによるセレクタプレート3の移動方向は正回転方向であって、窓孔11がストラット9に一致する方向への移動である。
一方、セレクタプレート3が正回転方向に移動すると、セレクタプレート3とポケットプレート2との間に介在している潤滑油Lを剪断する作用が生じる。また、前述した流入部20に保持されている潤滑油Lをセレクタプレート3とポケットプレート2との間の狭いクリアランスに引きずり込む作用が生じる。このようにしてセレクタプレート3とポケットプレート2との間に介在する潤滑油Lが要因となってセレクタプレート3とポケットプレート2との間に引き摺りトルクが作用する。ポケットプレート2は前述したようにエンドカバー52に取り付けられて固定されているから、セレクタプレート3とポケットプレート2との間の引き摺りトルクはセレクタプレート3の回転を止める方向(図11の左方向)のトルクとなる。セレクタプレート3とポケットプレート2との間のクリアランスは前述したように狭く、また流入部20によって十分な量の潤滑油Lが介在していることにより、セレクタプレート3の回転を止める方向の引き摺りトルクが十分に大きくなる。結局、ノッチプレート4が正回転することに起因してセレクタプレート3に対して正回転方向の引き摺りトルクが作用すると、セレクタプレート3とポケットプレート2との間で、セレクタプレート3の回転を止める方向の引き摺りトルクが生じ、セレクタプレート3の回転を止める方向の引き摺りトルクが十分に大きくなってセレクタプレート3の回転が止められる。その結果、セレクタプレート3がいわゆる係合位置に回転することが阻止され、SOWC1が誤係合することが回避される。
図6あるいは図8に示す構成では、エンジン21を始動する際に正回転するサンギヤ25あるいはリングギヤ42がノッチプレート4に連結され、SOWC1が係合状態となることによりそのサンギヤ25あるいはリングギヤ42の正回転を止めるように構成されている。エンジン21を始動する場合、SOWC1は解放状態に制御され、第1モータ22を正回転させてエンジン21をモータリング(クランキング)する。それに伴ってサンギヤ25あるいはリングギヤ42が正回転するが、SOWC1におけるセレクタプレート3は、前述した正回転方向の引き摺りトルクに対抗する引き摺りトルクが生じるので、係合状態にまで回転することがない。すなわち、極低温状態のように潤滑油Lの粘度が高い状態でエンジン21を始動する場合であってもSOWC1が誤係合することがなく、その結果、エンジン21の始動を支障なく行うことができる。
なお、SOWC1をハイブリッド車におけるブレーキとして用いる場合、前述した図6や図8に示す構成に替えて、図12に示すように構成してもよい。図12に示す例は、前述した図6に示す構成において、サンギヤ25あるいは第1モータ22のロータ軸をノッチプレート4に連結するのに替えて、エンジン21の出力軸あるいはキャリヤ26をノッチプレート4に連結し、その出力軸あるいはキャリヤ26の正回転を選択的に固定するように構成し、他の構成は図6に示す構成と同様にした例である。図12に示す構成では、キャリヤ26の正回転をSOWC1によって阻止した状態で第1モータ22を正回転させれば、リングギヤ27およびこれと一体の出力ギヤ28が正回転とは反対の負回転方向に回転し、後進走行するができる。第1モータ22と併せて第2モータ23を負回転方向にモータとして回転させることにより、後進走行のための駆動力を大きくすることができる。また、エンジン21を始動する場合、SOWC1をいわゆる解放状態に制御し、かつ第1モータ22によってエンジン21と共にキャリヤ26を正回転させる。その場合、この発明の実施例におけるSOWC1では、前述したように、引き摺りトルクによって係合状態に切り替わることが回避もしくは防止されるので、エンジン21の始動あるいはモータリングを支障なく行うことができる。
1…セレクタブルワンウェイクラッチ(SOWC)、 2…ポケットプレート、 3…セレクタプレート、 4…ノッチプレート、 5…円筒部、 6…側板部、 6a…対向部、 8…ポケット、 9…ストラット、 11…窓孔、 12…ノッチ、 13…係合面、 18…アーム片、 19…内周側縁部、 20…流入部、 21…エンジン(ENG)、 22…第1モータ(MG1)、 23…第2モータ(MG2)、 24…動力分割機構、 39…オーバードライブ(O/D)機構、 L…潤滑油。

Claims (11)

  1. 回転しないように保持される固定板と、前記固定板に対して相対回転可能に対向して配置された回転板と、前記固定板の前記回転板に対向する側面に保持されかつ前記回転板側に選択的に突出することにより前記回転板に係合して前記固定板と前記回転板との間でトルクを伝達する係合片と、前記固定板と前記回転板との間に設けられ所定の角度範囲で回転することにより前記係合片を前記回転板側に突出させる係合位置と前記係合片を前記回転板から前記固定板側に後退させて前記回転板に対する係合を外す解放位置とに移動させられる切替板とを有するセレクタブルワンウェイクラッチにおいて、
    前記固定板は、前記切替板に対向する対向部と、前記対向部に形成された溝部とを有し、
    前記溝部は、前記固定板と前記切替板との間に潤滑油を流入させる流入部となっている
    ことを特徴とするセレクタブルワンウェイクラッチ。
  2. 請求項1に記載のセレクタブルワンウェイクラッチにおいて、
    前記係合片は、前記固定板の円周方向に所定の間隔をあけて複数配置され、
    前記流入部は、前記係合片の間に形成されている
    ことを特徴とするセレクタブルワンウェイクラッチ。
  3. 請求項1または2に記載のセレクタブルワンウェイクラッチにおいて、
    前記切替板は、前記固定板より内径の大きい環状に形成され、
    前記固定板は、前記切替板の内周より小さい外径でかつ前記切替板の内周側を通って前記回転板側に延びている内周側縁部を有し、
    前記流入部である溝部は、前記内周側縁部の一部に形成されている
    ことを特徴とするセレクタブルワンウェイクラッチ。
  4. 回転しないように保持される固定板と、前記固定板に対して相対回転可能に対向して配置された回転板と、前記固定板の前記回転板に対向する側面に保持されかつ前記回転板側に選択的に突出することにより前記回転板に係合して前記固定板と前記回転板との間でトルクを伝達する係合片と、前記固定板と前記回転板との間に設けられ所定の角度範囲で回転することにより前記係合片を前記回転板側に突出させる係合位置と前記係合片を前記回転板から前記固定板側に後退させて前記回転板に対する係合を外す解放位置とに移動させられる切替板とを有するセレクタブルワンウェイクラッチを備えた車両において、
    前記固定板は、所定の中心軸線を中心とした環状をなし、かつ前記中心軸線が水平になる状態に前記車両の所定の箇所に固定され、
    前記固定板は、前記切替板に対向する対向部を有し、
    前記固定板は、前記対向部に溝部として形成されかつ前記切替板との間に潤滑油を流入させる流入部を有しており、
    前記流入部は、前記固定板の前記回転中心軸線より重力方向における下側に形成されている
    ことを特徴とする車両。
  5. 請求項4に記載の車両において、
    エンジンと、
    前記エンジンを始動する場合に前記エンジンと同方向に回転し、かつ予め定めた所定の走行状態の場合に前記エンジンと同方向の回転が止められる回転部材とを更に備え、
    前記回転板は、前記回転部材に連結されている
    ことを特徴とする車両。
  6. 請求項4に記載の車両において、
    エンジンと、
    発電機能のある第1モータと、
    前記エンジンに連結された第1回転要素、および前記第1モータに連結された第2回転要素、ならびにトルクを出力する第3回転要素を有し、かつ前記第1回転要素および前記第2回転要素ならびに前記第3回転要素で差動作用を行う動力分割機構と、
    前記第3回転要素から出力されたトルクにトルクを加え、もしくは前記第3回転要素から出力されたトルクを減じる発電機能のある第2モータと、
    少なくとも前記第1モータおよび前記動力分割機構ならびに前記第2モータを収容しているケーシングと
    を更に備え、
    前記固定板は、前記ケーシングに固定され、
    前記回転板は、前記第2回転要素に連結されている
    ことを特徴とする車両。
  7. 請求項6に記載の車両において、
    前記動力分割機構は、前記第2回転要素である第1サンギヤと、前記第3回転要素である第1リングギヤと、前記第1サンギヤおよび第1リングギヤに噛み合っている第1ピニオンギヤを保持している前記第1回転要素である第1キャリヤとを有するシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成されていることを特徴とする車両。
  8. 請求項4に記載の車両において、
    エンジンと、
    発電機能のある第1モータと、
    前記エンジンに連結された第1回転要素、および前記第1モータに連結された第2回転要素、ならびにトルクを出力する第3回転要素を有し、かつ前記第1回転要素および前記第2回転要素ならびに前記第3回転要素で差動作用を行う動力分割機構と、
    前記第3回転要素から出力されたトルクにトルクを加え、もしくは前記第3回転要素から出力されたトルクを減じる発電機能のある第2モータと、
    前記第1回転要素および前記エンジンに連結された第4回転要素、および前記第2回転要素および前記第1モータに連結された第5回転要素、ならびに選択的に固定される第6回転要素を有し、かつ前記第4回転要素および前記第5回転要素ならびに前記第6回転要素で差動作用を行う変速機構と、
    少なくとも前記第1モータおよび前記動力分割機構ならびに前記第2モータおよび前記変速機構を収容しているケーシングと
    を更に備え、
    前記固定板は、前記ケーシングに固定され、
    前記回転板は、前記第6回転要素に連結されている
    ことを特徴とする車両。
  9. 請求項8に記載の車両において、
    前記動力分割機構は、前記第2回転要素である第1サンギヤと、前記第3回転要素である第1リングギヤと、前記第1サンギヤおよび第1リングギヤに噛み合っている第1ピニオンギヤを保持している前記第1回転要素である第1キャリヤとを有するシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成され、
    前記変速機構は、前記第5回転要素である第2サンギヤと、前記第6回転要素である第2リングギヤと、前記第2サンギヤに噛み合っている第2ピニオンギヤおよび前記第2ピニオンギヤと前記第2リングギヤとに噛み合っている第3ピニオンギヤを保持している第4回転要素である第2キャリヤとを有するダブルピニオン型遊星歯車機構によって構成されていることを特徴とする車両。
  10. 請求項4に記載の車両において、
    エンジンと、
    発電機能のある第1モータと、
    前記エンジンに連結された第1回転要素、および前記第1モータに連結された第2回転要素、ならびにトルクを出力する第3回転要素を有し、かつ前記第1回転要素および前記第2回転要素ならびに前記第3回転要素で差動作用を行う動力分割機構と、
    前記第3回転要素から出力されたトルクにトルクを加え、もしくは前記第3回転要素から出力されたトルクを減じる発電機能のある第2モータと、
    少なくとも前記第1モータおよび前記動力分割機構ならびに前記第2モータを収容しているケーシングと
    を更に備え、
    前記固定板は、前記ケーシングに固定され、
    前記回転板は、前記エンジンおよび前記第1回転要素に連結されている
    ことを特徴とする車両。
  11. 請求項10に記載の車両において、
    前記動力分割機構は、前記第2回転要素である第1サンギヤと、前記第3回転要素である第1リングギヤと、前記第1サンギヤおよび第1リングギヤに噛み合っている第1ピニオンギヤを保持している前記第1回転要素である第1キャリヤとを有するシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成されていることを特徴とする車両。
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