JP2016210979A - 繊維強化プラスチック成形体用シート - Google Patents

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【課題】本発明は、燃焼時は滴下物の発生が抑制された繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、強化繊維と、熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートであって、熱可塑性樹脂は限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂であるか、もしくは、繊維強化プラスチック成形体用シートは難燃剤を含み、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が0.5〜1.0であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体用シートに関する。
【選択図】図1

Description

本発明は、繊維強化プラスチック成形体用シートに関する。具体的には、本発明は、厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)を特定範囲とした繊維強化プラスチック成形体用シートに関する。
炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を含む不織布を加熱加圧処理し、成形した繊維強化プラスチック成形体は、既にスポーツ、レジャー用品、航空機用材料など様々な分野で用いられている。これらの繊維強化プラスチック成形体においてマトリックスとなる樹脂には、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、またはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられることが多い。しかし、熱硬化性樹脂を用いた場合、熱硬化性樹脂と強化繊維を混合したプレス成形加工前の不織布は冷蔵保管しなければならず、長期保管ができないという難点がある。
このため、近年は、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用い、強化繊維を含有した繊維強化不織布の開発が進められている。このような熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用いた繊維強化不織布は、保存管理が容易であり、長期保管ができるという利点を有する。また、熱可塑性樹脂を含む不織布は、熱硬化性樹脂を含む不織布と比較して成形加工が容易であり、加熱加圧処理を行うことにより成形加工品を成形することができるという利点を有している。
従来、熱可塑性樹脂は、耐薬品性や強度などにおいて、熱硬化性樹脂よりも劣るものが主流であった。しかし、近年は、耐熱性、耐薬品性などに優れた熱可塑性樹脂が盛んに開発されるようになり、これまで熱可塑性樹脂について常識とされてきた上記のような欠点が目覚ましく改善されてきている。このような熱可塑性樹脂は、いわゆる「エンプラ(エンジニアリングプラスチック)」と呼ばれる樹脂であり、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)等が挙げられる(例えば、非特許文献1)。
また、繊維強化プラスチック成形体は上述の航空機や自動車への使用に加え、建築材料や電気製品などにも使用されるため、発火による火災を防止する性能も求められている。このため、繊維強化プラスチック成形体にはより高い難燃性が求められている。例えば、特許文献1及び2では、繊維強化プラスチック成形体に難燃剤を含有させることによって、繊維強化プラスチック成形体の難燃性を高めることが提案されている。また、特許文献2では、ガラス繊維を添加することによって、燃焼時のポリカーボネートの滴下を抑制することが検討されている。
特開2002−226697号公報 特公昭60−16473号公報
「平成19年度 熱可塑性樹脂複合材料の機械工業分野への適用に関する調査報告書」、財団法人 次世代金属・複合材料研究開発協会、社団法人 日本機械工業連合会、平成20年3月発行
上述したように繊維強化プラスチック成形体に難燃剤を含有させることにより、難燃性をある程度高めることはできる。しかしながら、従来の繊維強化プラスチック成形体においては、その難燃性(不燃性)が十分ではなくさらなる改善が求められていた。
また、特許文献1に開示されたような繊維強化プラスチック成形体においては、燃焼時に熱可塑性樹脂等が溶融滴下し、このような滴下物が他の材料の点火剤となる場合があり問題となっていた。また、特許文献2に開示されている繊維強化プラスチック成形体においても、熱可塑性樹脂等の滴下を十分に抑制しきれないことが本発明者らの検討により明らかとなった。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、難燃性に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートを提供することを目的として検討を進めた。さらに、本発明者らは、繊維強化プラスチック成形体が燃焼した際には、滴下物の発生が抑制された繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートを提供することを目的として検討を進めた。すなわち、本発明は、燃焼しにくい繊維強化プラスチック成形体を提供することを目的としているものであるが、意図せず燃焼した場合に、熱可塑性樹脂の溶融滴下を抑制することを目的とするものである。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、強化繊維と、熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートにおいて、厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)を特定範囲とすることにより、繊維強化プラスチック成形体の難燃性と不滴下性を向上させ得ることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1]強化繊維と、熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートであって、熱可塑性樹脂は限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂であるか、もしくは、繊維強化プラスチック成形体用シートは難燃剤を含み、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が0.5〜1.0であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体用シート。
[2]繊維強化プラスチック成形体用シートが難燃剤を含む場合、熱可塑性樹脂が難燃剤を含む熱可塑性樹脂である[1]に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[3]熱可塑性樹脂が熱可塑性樹脂繊維である[1]又は[2]に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[4]バインダー成分をさらに含み、バインダー成分は、繊維強化プラスチック成形体用シートの全質量に対して0.1〜10質量%含まれている[1]〜[3]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[5]強化繊維の質量平均繊維長が6〜100mmである[1]〜[4]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[6]繊維強化プラスチック成形体用シートが難燃剤を含む場合、熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート又はポリアミドである[1]〜[5]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[7]限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂は、ポリエーテルイミドである[1]〜[6]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[8]熱可塑性樹脂は、限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂と、難燃剤を含有する熱可塑性樹脂と、を含む[1]〜[7]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[9][1]〜[8]のいずれかに記載されている繊維強化プラスチック成形体用シートを、熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度以上の温度で加圧加熱成形することにより形成される繊維強化プラスチック成形体であって、繊維強化プラスチック成形体における厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が0.5〜1.0であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体。
[10]厚みが0.4〜1.0mmである[9]に記載の繊維強化プラスチック成形体。
[11]厚みが0.2〜0.4mmである[9]に記載の繊維強化プラスチック成形体。
[12]曲げ強度の相乗平均値が200MPa以上である[9]〜[11]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体。
[13]繊維強化プラスチック成形体は、150〜600℃の温度で加熱加圧成形することにより形成されている[9]〜[12]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体。
[14]強化繊維と、熱可塑性樹脂繊維を混合したスラリーを、湿式抄紙する工程を含む繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法であって、熱可塑性樹脂繊維は限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂繊維であるか、もしくは、繊維強化プラスチック成形体用シートは難燃剤を含み、湿式抄紙する工程は、傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程であり、傾斜型抄紙機のワイヤーは、ジェットワイヤー比が0.98以下となるように走行する繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。
[15]スラリーの分散媒の25℃における粘度は1.00mPaを超え4.00mPa以下である[14]に記載の繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。
本発明によれば、難燃性が高められた繊維強化プラスチック成形体であって、燃焼時には滴下物の発生が抑制された繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。このため、本発明の繊維強化プラスチック成形体は、特に難燃性等の機能が求められる航空機や自動車、建築材料、電気製品等に好ましく用いられる。
図1は、本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートの繊維配向パラメーターを測定するための断面観察用試験片のイメージ図である。 図2は、従来の繊維強化プラスチック成形体中の一部の強化繊維の配向と、従来の繊維強化プラスチック成形体に着火して熱可塑性樹脂が溶けだした様子を示すイメージ図である。 図3は、本発明の繊維強化プラスチック成形体中の強化繊維の配向と、本発明の繊維強化プラスチック成形体に着火して熱可塑性樹脂が溶けだした様子を示すイメージ図である。 図4は、実施例で用いた傾斜型抄紙機の構成を説明する図である。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
(繊維強化プラスチック成形体用シート)
本発明は、強化繊維と、熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートに関する。本発明では、熱可塑性樹脂は限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂であるか、もしくは、繊維強化プラスチック成形体用シートは難燃剤を含む。また、本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値は0.5〜1.0である。
本明細書において、強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)は、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける強化繊維の配向状態を表すパラメーターである。繊維配向パラメーター(fp)は、繊維配向分布を−1.0〜1.0の数値で表すパラメーターであり、fp=−1.0及びfp=1.0のとき、強化繊維が一方向に配向していることを意味し、fp=0.0のとき、強化繊維が完全にランダムに配置されていることを意味する。
本発明では、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける、厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値は0.5〜1.0であればよい。厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値は、0.6〜1.0であることが好ましく、0.7〜1.0であることがより好ましく、0.8〜1.0であることがさらに好ましい。厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値を上記範囲内とすることにより、厚み方向の強化繊維の配向を一定方向とすることができ、繊維強化プラスチック成形体用シートから成形される繊維強化プラスチック成形体の難燃性と不滴下性を高めることができる。
なお、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)は、たとえば繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法等を適切に選択することによって制御することが可能である。
繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)を測定する場合は、繊維強化プラスチック成形体用シートに、一般的に電子顕微鏡観察で使用される包埋用エポキシ樹脂等を含浸させて、断面観察用試験片を作製する。ここで包埋用エポキシ樹脂を含浸させるのは、後述する断面の切り出しの際に繊維の配向方向が切断時のせん断力で変わってしまうことを防止するためである。包埋用樹脂としては、エポキシ樹脂やスチレン樹脂等、せん断力に耐えうる十分な強度・硬度を有する樹脂が好ましいが、本発明では、エポキシ樹脂を使用することで厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)を測定する。包埋用樹脂としては、例えば、日本電子株式会社製、アロニックス LCA D−800を例示することができる。なお、熱硬化タイプの樹脂や、硬化時に発熱する樹脂は、硬化時の熱で繊維強化プラスチック成形体用シート中のバインダーの強化繊維同士の接着力が低下し、強化繊維の角度が変わってしまう可能性がある。このため、紫外線等の光硬化タイプのエポキシ樹脂等、硬化時に熱源とならない樹脂を用いることが好ましい。
樹脂包埋の方法としては、電子顕微鏡観察や光学顕微鏡観察で一般的に用いられる方法を採用することができる。具体的には、繊維強化プラスチック成形体用シートを幅5mm、長さ10mmに切断し、上述した包埋用エポキシ樹脂を少なくとも試験片の表面が全て覆われるまで滴下して含浸させ、硬化させる。また、包埋用エポキシ樹脂の滴下は、たとえばスポイト等を用いて行うことができる。
図1は、繊維強化プラスチック成形体用シートに紫外線硬化タイプの包埋用エポキシ樹脂を含浸させて得られた断面観察用試験片の概念図である。図1(a)に示されているように、断面観察用試験片45は、繊維強化プラスチック成形体用シート5を構成する強化繊維20及び熱可塑性樹脂25、並びに包埋用エポキシ樹脂40を包含する。断面観察用試験片45においては、強化繊維20及び熱可塑性樹脂25の位置関係及び形状は繊維強化プラスチック成形体用シート5における状態と同一である。すなわち、断面観察用試験片45においては、強化繊維20及び熱可塑性樹脂25の位置関係及び形状を保持するように包埋用エポキシ樹脂40が存在している。
なお、図1(a)においては、熱可塑性樹脂25は繊維形状で示されているが、実際は、繊維形状でなくてもよく、後述するような粒子形状等であってもよい。図1(a)に示すように熱可塑性樹脂25が繊維形状である場合は、強化繊維20と同様の形状であり、見分けが付かないようにも見える。しかし、強化繊維の配向状態を観察する場合には、繊維径の差異や、繊維の色の差異、元素マッピング等を利用して強化繊維のみの配向を観察することができる。
厚み方向の繊維配向を観察する際には、断面観察用試験片から幅0.3〜0.6mmの試験片を切り出し、得られた試験片の厚み方向の断面を、光学顕微鏡で観察する。切り出す方法としては、安全カミソリ、手術用メス等の薄い鋭利な刃物で垂直に切断する方法を採用しうる。但し、手作業では垂直断面を得るのが難しいため、FT−IR測定用切片等を切り出すためのフィルムスライサー若しくは電子顕微鏡観察用の切片を切り出すためのイオンスライサーを用いることもできる。尚、フィルムスライサーとしては日本分光株式会社製、スライスマスター HS−1が、イオンスライサーとしては日本電子株式会社製 EM−09100ISが例示される。ここで試験片の切り出し方向は、後述する方法で求めた平面方向の基準線と平行な方向である。光学顕微鏡には、キーエンス社製、マイクロスコープを用い、モノフィラメントが視認できる倍率に拡大して繊維を観察する。強化繊維が透明な繊維ではない場合(例えば、炭素繊維などの場合)は、透過光で強化繊維を観察することができる。本実施形態においては、たとえば上記倍率を300倍、600倍、および800倍から選択することができる。また、強化繊維の観察は、試験片の観察面およびその反対面のそれぞれから深さ10μm以上の部分に焦点を合わせて観察する。なお、試験片は、ミクロトームを用いて切り出してもよい。
本発明では、エポキシ樹脂で包埋して、厚み方向の断面を切り出すことにより、切断時のせん断力で繊維の角度が変わってしまうことを防ぐことができる。
強化繊維が炭素繊維等の不透明な繊維である場合は、光学顕微鏡で観察した際の繊維の色度の違いによって、強化繊維の配向方向を観察することができる。例えば、炭素繊維を観察した場合、黒色の繊維を強化繊維として観察することができる。
なお、ガラス繊維のように透明な強化繊維などを用いた場合は、上記のような光学顕微鏡で観察しても強化繊維と樹脂の界面がはっきり視認できない場合も生じる。その場合は、上記と同様にエポキシ樹脂で繊維強化プラスチック成形体用シートを包埋し、断面観察用試験片の断面が露出するように切り出した後に、元素マッピングを行うことにより、強化繊維の配向を観察することができる。この場合、マッピングする元素は、強化繊維のみが含有し、熱可塑性樹脂とエポキシ樹脂は含有しない元素とする。例えば、ガラス繊維においては、Si又はCa元素を、エネルギー分散型X分析(EDS/EDX: Energy Dispersive X−Ray Spectroscopy)装置を備えた電子顕微鏡によりマッピングすることで、繊維配向を測定することができる。このような装置としては、オランダ フェノムワールド社製の卓上走査型電子顕微鏡「PRO X」等が例示される。
強化繊維の配向方向とは、強化繊維の長軸方向である。また、厚み方向の断面において、強化繊維は楕円形で確認される場合もある。強化繊維が楕円形で確認される場合はこの楕円の長軸方向を繊維の配向方向とする。強化繊維の配向角度θiは、基準線に対する選び出した強化繊維の配向方向(配向線)のなす角度である。本発明では、上記条件で試験片の厚み方向の断面を光学顕微鏡等で観察して、上記断面のうちの任意に選択される連続した1.5mm2の測定領域を観察し、この測定領域中に存在する視認し得る全ての強化繊維(繊維数はn本とする)の配向角度θiを測定する。配向角度θiは、基準線に対して時計回りの方向の角度を測定し、0°以上180°未満の角度とする。
厚み方向の繊維配向パラメーター(fp、以下fp値ともいう)は、上記の方法で測定した配向角度θiから以下の式(1)を用いて算出することができる。
fp=2×Σ(cos2θi/n)−1 式(1)
ここで、θiは基準線に対する選び出した強化繊維の配向角度(i=1〜n)である。
ここで、基準線は、下記の方法により決定することができる。
基準線を設定する際には、まず仮基準線pを選択し、上記測定領域内に存在する視認し得る全ての強化繊維n本の角度を測定する。この場合、仮基準線pと各繊維の角度は、α(p)i(i=1〜n)で表される。
仮基準線pとした際の繊維配向パラメーター(fp(p))は、下記式を用いて算出することができる。
fp(p)=2×Σ(cos2α(p)i/n)−1
(i=1、2、3、・・・、n)
次に、仮基準線pを±1°ずつ、±90°となるまで回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))をとり、仮基準線p+zと仮基準線p-zと繊維n本の角度を算出する。この場合の角度は、α(p+ziと、α(p-zi(i=1〜n)で表される。
回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))と強化繊維の繊維配向パラメーター(fp(p±z))は、下記式を用いて算出することができる。
fp(p±z)=2×Σ(cos2α(p±zi/n)−1
(i=1、2、3、・・・、n)
このようにして、得られたfp(p)値及びfp(p±z)値の絶対値のうち最大値が得られた場合に設定した仮基準線を基準線Pとすることができる。このように決定した基準線Pから算出される繊維配向パラメーターを、厚み方向における繊維配向パラメーター(fp)とすることができる。
図1(b)は、図1(a)に示した断面観察用試験片45をB−B'方向に切り出し、厚み方向を縦方向とした断面概念図である。B−B'方向は、繊維の大半が配向している方向と平行な方向であることが好ましい。すなわち、B−B'方向は、後述する方法で求めた平面方向の基準線と平行な方向である。
図1(b)では、上記の方法で決定された基準線はPで表される点線であり、各強化繊維の配向は、各々QとRの点線で表されている。なお、図1(b)において、P'とした点線は基準線と平行な線であり、基準線Pと、各強化繊維の配向線(Q及びR)がなす角度をわかりやすく説明するための補助線である。図1(b)では、P'とQがなす角度(配向角度θ1)は0°であるため、P'とQは重なっている。また、P'とRがなす角度(配向角度θ2)はθ2として表されている。このようにして、θ1〜θnが測定される。なお、図1(b)では、強化繊維の配向状態を確認しやすくするために、強化繊維のみを図示している。
なお、繊維配向パラメーター(fp)や仮基準線と強化繊維の繊維配向パラメーター(fp(p±z))を測定する部分としては、断面観察用試験片の厚み方向の断面の端部を避け、中央近辺とすることが好ましい。具体的には、断面観察用試験片の両端部辺から厚み方向に5%(断面観察用試験片の厚みに対して5%)までの領域を避けて測定領域とすることが好ましい。
本発明において、厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が上記範囲内であることは、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の強化繊維の配向が一定方向であることを意味する。すなわち、強化繊維は、繊維強化プラスチック成形体用シートの表面(抄紙面)に平行に配向している。
図2は、従来の繊維強化プラスチック成形体101の表面に平行な面における強化繊維の配向を示した図である。図2に示されているように、従来の繊維強化プラスチック成形体101においては、繊維強化プラスチック成形体101の表面に平行な方向に配向している強化繊維20と、繊維強化プラスチック成形体101の表面に垂直な方向に配向している強化繊維20'が存在している。その他にも、繊維強化プラスチック成形体101の表面と角度を有する強化繊維も多数存在している。
図2(a)に示されているように、従来の繊維強化プラスチック成形体101に炎50を接炎させた場合、図2(b)に示されているように、従来の繊維強化プラスチック成形体101から溶解した熱可塑性樹脂の滴60が滴下する。なお、このような燃焼時のプラスチック成形体の滴下状況は、所定の大きさとなるように切り出した繊維強化プラスチック成形体101に、UL94燃焼性試験で規定された20mm長の青色炎を10秒間接炎することで評価することができる。具体的には、実施例に記載した評価方法で滴下状況を評価することができる。
従来の繊維強化プラスチック成形体101では、表面に垂直な方向に配向している強化繊維が多く、表面に平行な面上の強化繊維の密度が低くなる。また、垂直な方向に配向している強化繊維20’が、繊維強化プラスチック成形体101の表面に平行に配向している強化繊維20の間に入り込むことで強化繊維間の距離が広くなっている。このため、溶けた熱可塑性樹脂が触れる強化繊維の本数が少なくなり、溶けた熱可塑性樹脂の表面張力が十分に働かず、溶解した熱可塑性樹脂の滴60が滴下する。
図3は、本発明の一実施形態の繊維強化プラスチック成形体100の表面に平行な断面における強化繊維の配向を示した図である。図3に示されているように、本発明の繊維強化プラスチック成形体100においては、大半の強化繊維20が繊維強化プラスチック成形体100の表面に平行な方向に配向している。
図3(a)に示されているように、本発明の繊維強化プラスチック成形体100に炎50を接炎させた場合は、図3(b)に示されているように、本発明の繊維強化プラスチック成形体100からは溶融した熱可塑性樹脂の滴60が滴下しにくい。
本発明の繊維強化プラスチック成形体100では、表面に垂直な方向に配向している強化繊維が少なく表面に平行な面上の強化繊維の密度が高くなる。また、表面に平行な方向に配向している強化繊維20が隙間なく並び、強化繊維間の距離が短くなっている。このため、溶けた熱可塑性樹脂が触れる強化繊維の本数が増え、熱可塑性樹脂の表面張力が働き、溶けた熱可塑性樹脂の滴60が滴下するのを抑えることができる。さらに、本発明の繊維強化プラスチック成形体100では、表面に平行な面上の強化繊維の密度が高く強化繊維の配向方向が表面に平行な面方向に沿うことで、熱伝導速度が高まり、放熱性が改善される。これにより、繊維強化プラスチック成形体の難燃性が高められているものと考えられる。
上述したように、本発明の繊維強化プラスチック成形体においては、強化繊維の厚み方向の配向方向を規定とすることにより、難燃性と不滴下性を向上させることができる。このため、繊維強化プラスチック成形体用シートが難燃剤を含む場合は、難燃剤の添加量を減らすことができ、従来のように多量の難燃剤を添加する必要がなくなる。その結果、熱可塑性樹脂の本来持つ特性も維持した繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。また、熱可塑性樹脂として限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂を使用する場合は、限界酸素指数が30未満の熱可塑性樹脂を併用することも可能となり、このような場合であっても、難燃性と不滴下性を向上させることができる。
また、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける平面方向の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値は0〜1.0であってもよい。繊維強化プラスチック成形体用シートにおける平面方向の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値は、0.18〜1.0であってもよく、0.20〜1.0であってもよく、0.25〜1.0であってもよい。すなわち、本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートにおいては、強化繊維は、厚み方向の配向が一定方向であることに加え、平面方向の配向も一定方向であってもよい。
このような場合、強化繊維は、繊維強化プラスチック成形体用シートの表面と平行であって、かつ平面方向においても一方向に配向していることとなる。強化繊維は、繊維強化プラスチック成形体の平面方向のいずれの方向に配向していてもよいが、繊維強化プラスチック成形体用シートのMD方向(抄紙ラインの流れ方向)に配向していることが好ましい。なお、上述したような繊維強化プラスチック成形体用シートから成形される繊維強化プラスチック成形体においても、強化繊維は、表面と平行であって、かつ平面方向においても一方向に配向していることとなる。
繊維強化プラスチック成形体用シートにおける平面方向の強化繊維の繊維配向パラメーターの測定は、特に樹脂包埋等の処理をせずとも測定することができる。具体的には、長さ3cm×幅3cmに切り出した繊維強化プラスチック成形体用シートをスライドガラス上に載せ、上から更にスライドガラスを載せて、マイクロスコープを用いて通常の反射光の測定で観察することができる。
本発明では、スライドガラスで挟んだ試験片の一方の面について光学顕微鏡にて観察する。光学顕微鏡には、キーエンス社製、マイクロスコープを用い、モノフィラメントが視認できる倍率に拡大して反射光にて、または反射光と透過光を併用して繊維を観察する。本実施形態においては、たとえば上記倍率を300倍、600倍、および800倍から選択することができる。これにより、一方の面のうちの任意に選択される連続した2.0mm2の測定領域を観察し、この測定領域中に存在する視認し得る全ての強化繊維(繊維数はm本とする)の配向角度θiを測定する。配向角度θiは、基準線に対して時計回りの方向の角度を測定し、0°以上180°未満の角度とする。繊維配向パラメーター(fp、以下fp値ともいう)は、上記の方法で測定した配向角度θiから以下の式(2)を用いて算出することができる。
fp=2×Σ(cos2θi/m)−1 式(2)
ただし、i=1〜mである。
そして、反対面についても同様に測定し、一方の面と反対面の平均値を求めて、これを平面方向の繊維配向パラメーター(fp)とする。なお、一方の面の測定領域と反対面の測定領域は、たとえば平面視において重なる領域である。また、一方の面および反対面のいずれの観察においても、たとえば一方の面および反対面のそれぞれから深さ10μm以上の部分に焦点を合わせて観察することができる。
平面方向の繊維配向パラメーターの測定をする際の基準線は、下記の方法により決定することができる。
基準線を設定する際には、まず仮基準線pを選択し、上記測定領域内に存在する視認し得る全ての強化繊維m本の角度を測定する。この場合、仮基準線pと各繊維の角度は、α(p)i(i=1〜m)で表される。
仮基準線pとした際の繊維配向パラメーター(fp(p))は、下記式を用いて算出することができる。
fp(p)=2×Σ(cos2α(p)i/m)−1
(i=1、2、3、・・・、m)
次に、仮基準線pを±1°ずつ、±90°となるまで回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))をとり、仮基準線p+zと仮基準線p-zと繊維m本の角度を算出する。この場合の角度は、α(p+ziと、α(p-zi(i=1〜m)で表される。
回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))と強化繊維の繊維配向パラメーター(fp(p±z))は、下記式を用いて算出することができる。
fp(p±z)=2×Σ(cos2α(p±zi/m)−1
(i=1、2、3、・・・、m)
このようにして、得られたfp(p)値及びfp(p±z)値のうち最大値が得られた場合に設定した仮基準線を基準線Pとすることができる。このように決定した基準線Pから算出される繊維配向パラメーターを、平面方向における繊維配向パラメーター(fp)とすることができる。
強化繊維の厚み方向及び平面方向の配向が一定方向の場合、繊維強化プラスチック成形体用シートを成形することで得られた繊維強化プラスチック成形体においては、難燃性と不滴下性がより効果的に高められる。また、繊維強化プラスチック成形体においては、一方向の曲げ強度が高められる。特に、強化繊維がMD方向に配向している場合、繊維強化プラスチック成形体においてはMD方向の強度が高められることとなる。このような繊維強化プラスチック成形体は、自動車や航空機等に用いられる一方向に機械的強度が要求される構造部品に好ましく用いられる。
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートにおいて、強化繊維の配合割合は、20〜83質量%であることが好ましい。強化繊維の配合割合を上記範囲内とすることにより特定方向に配向した繊維の本数を増やすことが可能となる。これにより、強化繊維間の距離が短くなり、加熱加圧成形後の強化繊維の充填密度が高くなり、繊維強化プラスチック成形体の強度を効果的に高めることができる。
また、強化繊維と熱可塑性樹脂の質量比は1:0.2〜1:10であることが好ましく、1:0.5〜1:5であることがより好ましく、1:0.7〜1:3であることがさらに好ましい。強化繊維と熱可塑性樹脂の質量比を上記範囲内とすることにより、軽量であり、かつ高強度の繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
繊維強化プラスチック成形体用シートのJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2に規定される透気度は、250秒以下であることが好ましく、230秒以下であることがより好ましく、200秒以下であることがさらに好ましい。この数値は、数字が小さいほど空気が通りやすい(通気性が良い)ことを表す。本発明では、繊維強化プラスチック成形体用シートの透気度を上記範囲内とすることにより、加熱加圧工程における成形速度を高めることができ、生産効率を高めることができる。
(強化繊維)
強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、炭素繊維であることがより好ましい。これらの強化繊維は、1種のみを使用してもよく、複数種を使用してもよい。また、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維等の耐熱性に優れた有機繊維を含有していてもよい。
強化繊維として、例えば、炭素繊維やガラス繊維等の無機繊維を使用した場合、繊維強化プラスチック成形体用シートに含まれる熱可塑性樹脂の溶融温度で加熱加圧処理することにより繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。また、強化繊維として、アラミド等の有機繊維を用いた場合は、一般的に強化繊維として無機繊維を使用した繊維強化プラスチック成形体用シートから形成される成形体よりも耐摩耗性を向上させ得る。
強化繊維の質量平均繊維長は、3〜100mmであることが好ましく、6〜100mmであることがより好ましく、6〜75mmであることがさらに好ましく、6〜50mmであることが特に好ましい。強化繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用シートから強化繊維が脱落することを抑制することができ、かつ、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。また、強化繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、強化繊維の分散性を良好にすることができる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
なお、本明細書において、質量平均繊維長は、100本の繊維について測定した繊維長の平均値である。
なお、強化繊維の繊維径は、平均繊維径として特に限定されないが、一般的には炭素繊維、ガラス繊維共に繊維径が5〜25μm程度の繊維が好適に使用される。また、強化繊維には、複数の素材や形状を併用してもよい。
なお、本明細書において、平均繊維径は、100本の繊維の繊維径を測定した際の平均値である。
(炭素繊維)
強化繊維としては炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維を用いると、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することができる。強化繊維に含まれる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等の炭素繊維を用いることができる。これらの炭素繊維は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせ用いてもよい。また、これら炭素繊維の中でも、工業規模における生産性及び機械特性の観点から、ポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維を用いることが好ましい。
炭素繊維の質量平均繊維長は、3〜100mmであることが好ましく、6〜100mmであることがより好ましく、6〜75mmであることがさらに好ましく、6〜50mmであることが特に好ましい。炭素繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用シートから炭素繊維が脱落することを抑制することができ、かつ、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することが可能となる。また、炭素繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、強化繊維の分散性を良好にすることができる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
炭素繊維の単繊維強度は、4500MPa以上であることが好ましく、4700MPa以上であることがより好ましい。単繊維強度とは、モノフィラメントの引っ張り強度をいう。このような炭素繊維を使用した場合、前述した強化繊維の繊維配向の効果との相乗効果で曲げ強度が大幅に向上する。なお、単繊維強度は、JIS R7601「炭素繊維試験方法」に準じて測定することができる。
炭素繊維の繊維径は特に限定されないが、概ね好ましい範囲としては5〜20μmが好ましい。炭素繊維の繊維径を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体の強度を高めることができる。
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂は、限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂であるか、もしくは、繊維強化プラスチック成形体用シートが難燃剤を含む場合、難燃剤を含む熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂として、限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂と、難燃剤を含む熱可塑性樹脂を併用してもよい。
熱可塑性樹脂は、繊維、粉末、ペレット又はフレーク状のものを、単独で又は組み合わせて用いることができる。中でも、熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂繊維又は熱可塑性樹脂粉末であることが好ましい。
本明細書中の「熱可塑性樹脂繊維」とは、熱可塑性樹脂のうち繊維状のものを言う。熱可塑性樹脂繊維は、熱可塑性樹脂を溶融紡糸することによって得られる。難燃剤を含む熱可塑性樹脂繊維は、難燃剤を含む熱可塑性樹脂を溶融紡糸することによって得られる。また、難燃剤を含む熱可塑性樹脂繊維は、難燃剤と溶融した熱可塑性樹脂を混合し、紡糸することによって得ることもできる。また、限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂繊維は、限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂を溶融紡糸することによって得られる。なお、本発明では、熱可塑性樹脂繊維は、チョップドストランドであることも好ましい。
熱可塑性樹脂繊維の質量平均繊維長は、2〜100mmであることが好ましく、2〜50mmであることがより好ましく、3〜50mmであることがさらに好ましく、3〜40mmであることが特に好ましく、3〜25mmであることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用シートから熱可塑性樹脂繊維が脱落することを抑制することができ、ハンドリング性に優れた繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。また、熱可塑性樹脂繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、熱可塑性樹脂繊維の分散性を良好にすることができるため、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。さらに、熱可塑性樹脂繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、熱可塑性樹脂繊維と強化繊維が均一に混ざり合い、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することが可能となる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
本明細書中の「熱可塑性樹脂粉末」とは、熱可塑性樹脂のうち粉末状のものを言う。熱可塑性樹脂粉末は、例えば、熱可塑性樹脂のペレットを凍結粉砕し、メッシュによる分級を行うことで得られる。熱可塑性樹脂粉末の平均1次粒子径は、3〜7000μmであることが好ましく、30〜3000μmであることがより好ましく、100〜1000μmであることがさらに好ましい。なお、熱可塑性樹脂粉末が球形ではない場合は、熱可塑性樹脂粉末の平均1次粒子径は、透過型電子顕微鏡写真により粒子の投影面積を求め、同じ面積を有する円の直径を平均1次粒子径とする。熱可塑性樹脂粉末の平均1次粒子径を上記範囲内とすることにより、網の抄き上げが可能となり湿式不織布法で繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。また、熱可塑性樹脂粉末の分散性を良好にすることができるため、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂としては、いわゆるスーパーエンプラ樹脂と呼ばれる樹脂を用いることができる。限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)等を挙げることができる。中でも、ポリエーテルイミド(PEI)は好ましく用いられる。このようなスーパーエンプラ繊維はその樹脂単体で難燃剤を付与せずとも難燃性が得られる。なお、本発明において、「限界酸素指数」とは、燃焼を続けるのに必要な酸素濃度を表し、JIS K7201に記載された方法で測定した数値をいう。すなわち、限界酸素指数が20以下は、通常の空気中で燃焼することを示す数値である。
繊維強化プラスチック成形体用シートが難燃剤を含む場合、熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66)、ABS樹脂等を挙げることができる。中でも、ポリカーボネート(PC)及びポリアミド(ナイロン6、ナイロン66)は好ましく用いられる。ポリカーボネートは曲げ強度・弾性率・耐衝撃強度等に優れ、軽量であっても強度の高い繊維強化プラスチック成形体を成形できるため好ましい。
難燃剤を含む熱可塑性樹脂においても、その限界酸素指数は一定以上であることが好ましい。具体的には、繊維状態において限界酸素指数が24以上であることが好ましく、27以上であることがより好ましい。難燃剤を含む熱可塑性樹脂の限界酸素指数を上記範囲とすることにより、より難燃性に優れた繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、140℃以上であるものが好ましい。熱可塑性樹脂には、繊維強化プラスチック成形体を形成する際に300℃から400℃というような温度条件下で十分に流動的であることが求められる。なお、PPS樹脂繊維のようにガラス転移温度が140℃未満のスーパーエンプラ繊維であっても、樹脂の荷重たわみ温度が190℃以上となるスーパーエンプラを繊維化したものであれば使用可能である。このような熱可塑性樹脂は、加熱・加圧により溶融して限界酸素指数が30以上という非常に高い難燃性を有する樹脂ブロックを形成する。
熱可塑性樹脂は、加熱加圧処理時にマトリックス、あるいは、繊維成分の交点に結着点を形成するため、マトリックス樹脂とも呼ばれる。このような熱可塑性樹脂を用いた不織布状の繊維強化プラスチック成形体用シートは、熱硬化性樹脂を使用したシートに比べて、オートクレーブ処理が不要で、加工する際の加熱加圧成形時間が短時間ですみ、生産性を高めることができる。
本発明で用いられる繊維強化プラスチック成形体用シートでは、熱可塑性樹脂が繊維形態をしていることが好ましく、このような場合はシート中に空隙が存在している。
熱可塑性樹脂が繊維形態をしている場合、熱可塑性樹脂繊維が加熱加圧成形前には、繊維形態を維持しているため、繊維強化プラスチック成形体を形成する前は、シート自体がしなやかでドレープ性がある。このため、繊維強化プラスチック成形体用シートを巻き取りの形態で保管・輸送することが可能であり、ハンドリング性に優れるという特徴を有する。
(難燃剤)
難燃剤としては、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤を配合することができる。
ハロゲン系難燃剤の好ましい具体例としては、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、グリシジル臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレート、ブロム化イミド等が挙げられ、中でも、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリスチレン樹脂、グリシジル臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレートが、耐衝撃性の低下を抑制しやすい傾向にあり、より好ましい。
リン系難燃剤としては、例えば、エチルホスフィン酸金属塩、ジエチルホスフィン酸金属塩、ポリリン酸メラミン、リン酸エステル、ホスファゼン等が挙げられ、中でも、ジエチルホスフィン酸金属塩、ポリリン酸メラミン、ホスファゼンが熱安定性に優れる点から好ましい。また、成形時のガスやモールドデポジットの発生、難燃剤のブリードアウトを抑制するために、リン系難燃剤と相溶性に優れる熱可塑性樹脂を配合してもよい。このような熱可塑性樹脂としては、好ましくは、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂である。
さらに、難燃剤と共に、難燃助剤を混合してもよい。難燃助剤としては、例えば、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化鉄、酸化チタン、酸化アルミニウム、アンチモン化合物、硼酸亜鉛等が挙げられ、2種以上併用してもよい。これらの中でも、難燃性がより優れる点からアンチモン化合物、硼酸亜鉛が好ましい。
アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン(Sb23)、五酸化アンチモン(Sb25)、アンチモン酸ナトリウム等が挙げられる。特に、ハロゲン系難燃剤を用いる場合、該難燃剤との相乗効果から、三酸化アンチモンを併用することが好ましい。
難燃助剤を用いる場合は、難燃助剤も難燃剤と共に熱可塑性樹脂に含有させることが好ましい。
繊維強化プラスチック成形体用シートに難燃剤を含ませる方法は、限定されるものではないが、下記の方法を挙げることができる。(1)難燃剤を含んだ熱可塑性樹脂を用いて繊維強化プラスチック成形体用シートを形成する方法、(2)粒子状の難燃剤を強化繊維と熱可塑性樹脂のスラリーに混合し、湿式抄紙する方法、(3)難燃剤を含んだ熱可塑性樹脂を用いて繊維強化プラスチック成形体用シートを形成し、そのシートに難燃剤のスラリーや水溶液、エマルジョン等をディッピング等の方法で含浸し、乾燥させる方法を挙げることができる。なお、これらの方法を併用することもできる。
繊維強化プラスチック成形体用シートが難燃剤を含む場合、熱可塑性樹脂が難燃剤を含むことが好ましい。本明細書中の「難燃剤を含む熱可塑性樹脂」とは、難燃性を付与するために、難燃剤を配合した熱可塑性樹脂を言う。難燃剤としては、上述した難燃剤を好ましい例として挙げることができる。なお、難燃剤は、熱可塑性樹脂中に均一に分散していることが好ましいが、表面に難燃剤を付着させたものを用いることもできる。難燃剤を含む熱可塑性樹脂を構成する熱可塑性樹脂としては、繊維強化プラスチック成形体用シートが難燃剤を含む場合に用いることができる熱可塑性樹脂と同様のものを列挙することができる。
(バインダー成分)
本発明では、バインダー成分は、繊維強化プラスチック成形体用シートの全質量に対して0.1〜10質量%となるように含有されることが好ましく、0.3〜10質量%であることがより好ましく、0.4〜9質量%であることがさらに好ましく、0.5〜8質量%であることが特に好ましい。バインダー成分の含有率を上記範囲内とすることにより、製造工程中の強度を高めることができ、ハンドリング性を向上させることができる。なお、バインダー成分の量は多くなると表面強度・層間強度共に強くなるが、逆に加熱成形時の臭気の問題が発生しやすくなる。しかし、上記の範囲においては臭気の問題はほとんど発生せず、また繰り返しの断裁工程を経ても層間剥離などを発生しない繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。
バインダー成分としては、一般的に不織布製造に使用される、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂及びこれらを組み合わせた芯鞘構造のバインダー繊維、アクリル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、PVA樹脂、各種澱粉、セルロース誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドーアクリル酸エステルーメタクリル酸エステル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が使用できる。また、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂も好適に使用することができ、これらを変性させて適宜融点を調整した樹脂を使用した合成パルプは少量でも十分な強度が得られるため好ましい。
バインダー成分は、メチル(メタ)アクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位、エチル(メタ)アクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位のうち少なくとも1つを含む共重合体を含有することが好ましい。中でも、バインダー成分は、メチルメタクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位及びエチルメタクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位のうち少なくとも1つを含む共重合体を含有することが好ましい。また、これらのモノマーは他のモノマー、例えばスチレンや酢酸ビニル、アクリルアミド等と共重合させてもよい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を含むことを意味し、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を含むことを意味する。
(繊維形状)
本発明では、熱可塑性樹脂繊維と強化繊維は、一定の長さにカットされたチョップドストランドであることが好ましい。また、バインダー繊維もチョップドストランドであることが好ましい。このような形態とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用シート中で、各種繊維を均一に混合することができる。また、繊維の断面形状は円形に限定されず、楕円形等、異形断面のものも使用できる。
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する際には、熱可塑性樹脂繊維、強化繊維、バインダー繊維のチョップドストランドを溶媒中に分散させ、その後溶媒を除去してウエブを形成する方法(湿式不織布法)が採用される。
(繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートの製造工程は、強化繊維と、熱可塑性樹脂繊維とを混合したスラリーを、湿式抄紙する工程を含む。ここで、熱可塑性樹脂繊維は限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂繊維であるか、もしくは、繊維強化プラスチック成形体用シートは難燃剤を含む。また、湿式抄紙する工程は、傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程であり、傾斜型抄紙機のワイヤーは、ジェットワイヤー比が0.98以下となるように走行することが好ましい。
強化繊維と、熱可塑性樹脂とを混合してスラリーを得る工程では、分散液の濃度や溶媒の粘度を調整することで、各繊維を十分に分散させることができる。溶媒の粘度は、例えばポリアクリルアミド系の高分子を添加する等の方法で調整できる。各繊維を十分に分散させることで、繊維強化プラスチック成形体用シート中の各繊維同士が均一に混抄される。これより、本シートを加熱加圧成形した繊維強化プラスチック成形体が、例えば、部分的に樹脂の割合が多くなるのを防ぐことができ、繊維強化プラスチックの曲げ強度を高めることができる。混合する工程では、強化繊維を単繊維状に分散させることが好ましい。
繊維強化プラスチック成形体用シートを抄紙する際には、スラリーの分散媒の25℃における粘度(ただし、JIS Z 8803「液体の粘度測定方法」に規定された測定方法による。)は、1.00mPa・sを超え4.00mPa・s以下であることが好ましく、1.05〜2.00mPa・sであることがより好ましい。
なお、ここでいうスラリーとは、抄紙工程直前のスラリーをいい、インレット中のスラリーのことである。また、スラリーの分散媒の粘度を測定する際は、インレットのスラリーを500ml採取し、150メッシュの金属製のフルイで繊維をろ過して得られるろ液を用いて測定する。
スラリーの分散媒の粘度は、インレットに、ポリアクリルアミド系等の粘剤を添加するなどして調整することができる。スラリーの分散媒の粘度を上記範囲内とすることにより、ワイヤー付近における分散液の流れの乱れを抑制し、層流とすることができる。これにより、繊維強化プラスチック成形体用シートの厚み方向の繊維配向パラメーター(fp)を所望の範囲内とすることができる。
湿式抄紙する工程は、傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程であることが好ましい。そして、傾斜型抄紙機のワイヤーは、ジェットワイヤー比が0.98以下となるように走行することが好ましい。ジェットワイヤー比は、0.92以下であることがより好ましく、0.90以下であることがさらに好ましい。
ここで、ジェットワイヤー比とは、強化繊維とバインダー成分を含むスラリーの供給速度とワイヤー走行速度の比であり、スラリーの供給速度/ワイヤー走行速度で表される。ジェットワイヤー比が1よりも大きい場合は、スラリーの供給速度がワイヤーの走行速度よりも速く、この場合を「押し地合」という。また、ジェットワイヤー比が1以下の場合は、スラリーの供給速度はワイヤーの走行速度よりも遅く、この場合を「引き地合」という。
本発明では、ジェットワイヤー比を上記範囲とし、「引き地合」で抄紙することにより、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の繊維配向パラメーター(fp)を所望の範囲内とすることができる。
なお、湿式抄紙する工程は、傾斜型抄紙機の代わりに、円網抄紙機又は長網抄紙機を用いて抄紙する工程であってもよい。円網抄紙機を用いて抄紙を行う場合、円網抄紙機の円網の直径は80cm以上であることが好ましい。円網抄紙機の円網の直径を上記範囲とすることにより、大半の強化繊維を繊維強化プラスチック成形体の表面と平行となるように配向させることが容易となり、難燃性と不滴下性をより高めることができる。
円網抄紙機を用いて抄紙を行う場合の抄造速度は、抄速は15m/min以上であることがさらに好ましい。抄造速度を上記とすることにより、大半の強化繊維を繊維強化プラスチック成形体の表面と平行となるように配向させることが容易となり、難燃性と不滴下性をより高めることができる。
湿式抄紙する工程が傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程である場合、傾斜型抄紙機の傾斜ワイヤーに備えられている複数のサクションボックスの吸引力を各々適宜調節することが好ましい。具体的には、サクションボックスの脱水量を同程度にしたり、傾斜ワイヤーの下流側のサクションボックスの脱水量が多くなるように調節することが好ましい。図4は、本発明で用いることができる傾斜型抄紙機200の一例の構成を説明する図である。図4に示されているように、傾斜型抄紙機200は、インレット210の底部に設けられた傾斜ワイヤー220の下方に第1のサクションボックス201、第2のサクションボックス202、第3のサクションボックス203、第4のサクションボックス204を備えている。このような、傾斜型抄紙機200においては、全てのサクションボックスにおける脱水量を100とした場合に、第1のサクションボックス201の脱水量を5〜65とすることが好ましく、20〜60とすることがより好ましく、35〜60とすることがさらに好ましい。なお、第1のサクションボックス201の脱水量を25よりも多くした場合は、第2〜第4のサクションボックスの脱水量は、順次低下するよう調節されることが好ましい。
このように脱水量を調節することによっても、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値を所望の範囲内とすることが可能となる。
湿式抄紙する工程が傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程である場合、傾斜型抄紙機の傾斜ワイヤーの通気度は、250cm3/cm2/sec以上であることが好ましい。なお、ワイヤーの通気度は上述したインレット内のスラリーの分散媒の粘度によって適宜調節することができる。
なお、繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程では、バインダー成分を抄紙工程後に後添することもできる。例えば、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを、抄紙されたシートに内添、塗布又は含浸させ、加熱乾燥させてもよい。このような工程を設けることにより、繊維強化プラスチック成形体用シートの表面繊維の飛散、毛羽立ちや脱落を抑制することができ、ハンドリング性に優れた繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。
湿式抄紙する工程では、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを不織布シートに内添、塗布又は含浸させ、加熱乾燥させる工程を含むことが好ましい。すなわち、繊維強化プラスチック成形体用シートを形成する工程は、湿式不織布法で湿式抄紙する工程と、バインダー成分を含む溶液等を不織布シートに内添、塗布又は含浸させる工程を含むことが好ましい。さらに、内添、塗布又は含浸後には、加熱乾燥させる工程を含む。このような工程を設けることにより、繊維強化プラスチック成形体用シートの表面繊維の飛散、毛羽立ちや脱落を抑制することができ、ハンドリング性に優れた繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。
なお、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを繊維強化プラスチック成形体用シートに内添、塗布又は含浸させた後は、その繊維強化プラスチック成形体用シートを急速に加熱することが好ましい。このような加熱工程を設けることにより、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを繊維強化プラスチック成形体用シートの表層領域に移行させることができる。さらに、バインダー成分を水掻き膜状に局在させることができる。
(繊維強化プラスチック成形体)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートは、目的とする成形体の形状や成形法に合わせて任意の形状に加工することができる。繊維強化プラスチック成形体用シートは、1枚単独、或いは所望の厚さとなるように積層して熱プレスで加熱加圧成形したり、あらかじめ赤外線ヒーター等で予熱し、金型によって加熱加圧成形することができる。このように、一般的な繊維強化プラスチック成形体用シートの加熱加圧成形方法を用いて加工することにより、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体とすることができる。
本発明の繊維強化プラスチック成形体においては、厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が0.5〜1.0である。このことは、強化繊維のうち大半の強化繊維が、繊維強化プラスチック成形体の表面とほぼ平行に存在していることを意味する。
繊維強化プラスチック成形体の厚みは、特に限定されないが、モバイル機器等の筐体として使用される場合などにおいて軽量化という観点からは薄いほうが好ましい。本発明の繊維強化プラスチック成形体の厚みとしては、具体的には、0.1〜50.0mmであることが好ましく、0.1〜10.0mmであることがより好ましく、0.2〜1.0mmであることがさらに好ましく、0.4〜1.0mmであることが特に好ましい。また、繊維強化プラスチック成形体の厚みは、0.2〜0.4mmであることも好ましい。なお、難燃性は成形体が厚い方が高くなる傾向にあるが、本発明の繊維強化プラスチック成形体においては、強化繊維が所定の条件となるように配向しているため、燃焼時に溶融した熱可塑性樹脂の滴下が抑制されている。このため、上記範囲の厚みであっても、燃焼時には滴下物の発生が抑制されており、難燃性が十分に高められている。
本発明の繊維強化プラスチック成形体は、不滴下性に優れている。具体的には、繊維強化プラスチック成形体を、幅13mm、長さ125mm(厚みは任意)に切り出して試験片とし、試験片の上端をクランプに取り付け、下端(幅方向の辺)中央に、長さ20mmの炎を10秒間接炎させた場合、繊維強化プラスチック成形体の12インチ下に設置した外科用脱脂綿が着火しないことが好ましい。これは、繊維強化プラスチック成形体に接炎した際に、繊維強化プラスチック成形体の溶融物が滴下物として滴下しない、もしくは、滴下量がごく少量であることを意味する。なお、上記試験はUL規格のUL94垂直燃焼性試験に準じた方法である。
また、本発明の繊維強化プラスチック成形体は、難燃性にも優れている。具体的には、本発明の繊維強化プラスチック成形体は、UL規格のUL94垂直燃焼性試験の評価において、∨−2以上であり、∨−1以上であることが好ましく、∨−0であることがより好ましい。
繊維強化プラスチック成形体のMD方向の曲げ強度とCD方向の曲げ強度の相乗平均値は、300MPa以上であることが好ましく、320MPa以上であることがより好ましく、400MPa以上であることがさらに好ましい。本発明で得られる繊維強化プラスチック成形体においては、表面に平行な面上の強化繊維の密度が高いため、力学的強度に優れている。
ここで、曲げ強度の相乗平均値とは、繊維強化プラスチック成形体における繊維の配向方向(MD方向)と強化繊維の配向方向と直交する方向(CD方向)の曲げ強度の相乗平均値であり、以下の式で表される強度をいう。
曲げ強度の相乗平均値=√(FMD×FCD)
ここで、FMDはFD方向の曲げ強度を表し、FCDはCD方向の曲げ強度を表す。
(繊維強化プラスチック成形体の成形方法)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートの成形方法は特に限定されず、成形体の用途等に応じて選択が可能である。代表的な方法としてはプレス成形が例示される。また、プレス成形の方法としては、各種存在するプレス成形の方法の中でも、大型の航空機などの成形体部材を作製する際によく使用されるオートクレーブ法や、工程が比較的簡便である金型プレス法が好ましく挙げられる。ボイドの少ない高品質な成形体を得るという観点からはオートクレーブ法が好ましい。一方、設備や成形工程でのエネルギー使用量、使用する成形用の治具や副資材等の簡略化、成形圧力、温度の自由度の観点からは、金属製の型を用いて成形をおこなう金型プレス法を用いることが好ましく、これらは用途に応じて選択することができる。
金型プレス法には、ヒートアンドクール法やスタンピング成形法を採用することができる。ヒートアンドクール法は、繊維強化プラスチック成形体用シートを型内に予め配置しておき、型締とともに加圧、加熱をおこない、次いで型締をおこなったまま、金型の冷却により該シートの冷却をおこない成形体を得る方法である。スタンピング成形法は、予め該シートを遠赤外線ヒーター、加熱板、高温オーブン、誘電加熱などの加熱装置で加熱し、熱可塑性樹脂を溶融、軟化させた状態で、成形体型の内部に配置し、次いで型を閉じて型締を行い、その後加圧冷却する方法である。また、低密度の成形体を得る場合など、成形時の温度が比較的低い場合は、ホットプレス法を採用することもできる。
成形用の金型は大きく2種類に分類され、1つは鋳造や射出成形などに使用される密閉金型であり、もう1つはプレス成形や鍛造などに使用される開放金型である。本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートを用いた場合、用途に応じていずれの金型も使用することが可能である。成形時の分解ガスや混入空気を型外に排除する観点からは開放金型が好ましいが、過度の樹脂の流出を抑制するためには、成形加工中においては開放部をできるだけ少なくし、樹脂の型外への流出を抑制するような形状を採用することも好ましい。
さらに、金型には打ち抜き機構、タッピング機構から選択される少なくとも一種を有する金型を使用することができる。2段プレス機構を用いるなどの工夫で、熱プレス後に連続して、成形体を打ち抜き加工することも可能である。また、成形体は、その使用目的などによってはリブやボス等の強度補強・加工用の突起やネジ穴の形成、意匠性の付与を目的とした模様の付与を行うことができる。
また、繊維強化プラスチック成形体用シートを成形すると同時、或いは成形後にアウトサート成形やインサート成形によって、より複雑な形状部材を接着することも可能である。
繊維強化プラスチック成形体用シートから繊維強化プラスチック成形体を成形する際に、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として使用する場合は、樹脂含有繊維強化プラスチック成形体用シートを150〜600℃で加圧成形することが好ましい。なお、加熱温度は、熱可塑性樹脂繊維が流動する温度であって強化繊維は溶融しない温度帯であることが好ましい。
樹脂含有繊維強化プラスチック成形体用シートを成形する際の圧力としては、0.5〜20MPaが好ましい。また、強化繊維の折れを抑制して強度を向上させる観点からは、0.5〜10MPaであることがより好ましく、1〜8MPaであることがさらに好ましい。熱硬化性樹脂を使用する場合や、繊維強化プラスチック成形体に樹脂を含浸する直前に硬化剤を混合して含浸させ、常温で硬化させる樹脂を使用する場合は、当該樹脂に応じて適宜成形温度を設定することができる。また、上記樹脂を使用する場合は、加熱せずに加圧のみで繊維強化プラスチック成形体を成形することもできる。
(繊維強化プラスチック成形体の用途)
本発明の繊維強化プラスチック成形体の用途としては、例えば、「OA機器、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末、タブレットPC、デジタルビデオカメラなどの携帯電子機器、エアコンその他家電製品などの筐体、及び筐体に貼り付けるリブ等の補強材、「支柱、パネル、補強材」などの土木、建材用部品、「各種フレーム、各種車輪用軸受、各種ビーム、ドア、トランクリッド、サイドパネル、アッパーバックパネル、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、などの外板またはボディー部品及びその補強材」、燃料電池用のセパレーターや拡散層、「インストルメントパネル、シートフレームなどの内装部品」、または「ガソリンタンク、各種配管、各種バルブなどの燃料系、排気系、または吸気系部品」、「エンジン冷却水ジョイント、エアコン用サーモスタットベース、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング」、などの自動車、二輪車用部品、「ウィングレット、スポイラー」などの航空機用部品、「鉄道車両用の座席用部材、外板パネル、外板パネルに貼り付ける補強材、天井パネル、エアコン等の噴出し口」などの鉄道車両用部品、「樹脂(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂)からなる成形体の補強材、樹脂と強化繊維からなる成形体の補強材、植物由来のシート(クラフト紙、段ボール、耐油紙、絶縁紙、導電紙、剥離紙、含浸紙、グラシン紙、セルロースナノファイバーシートなど)の補強材」などの部材等に好適に使用される。
このように、本発明の繊維強化プラスチック成形体は、強度が高く、また優れた難燃性と不滴下性を有するため安全性が高いので、電気、電子機器用の筐体、自動車用の構造部品、航空機用の部品、土木、建材用のパネル、その他多種多様な用途に好ましく用いられる。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
<実施例1>
(難燃剤含有ポリカーボネート繊維の製造)
ポリカーボネート樹脂(A成分)(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ユーピロンS−3000(粘度平均分子量:21,000))と、アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)(テクノポリマー(株)製、商品名:290FF(220°C、49N荷重におけるメルトフローレート(MFR):50g/10分))と、ポリカーボネートオリゴマー(C成分)(三菱ガス化学(株)製、商品名:AL071(平均重合度:7))と、燐系難燃剤(D成分)(燐酸エステル、大八化学(株)製、商品名:PX−200化学式:[OC63(CH322P(O)OC64OP(O)[OC63(CH322)を質量比率 100/5.5/12/16となるように混合した。混合物は、30mmφの2軸押し出し機にて溶融混合し、ペレット化した樹脂組成物を得た。
得られたペレットを紡糸温度300℃にて、紡糸ノズル(孔径0.6mm)を用いて溶融押出し、紡糸ノズル付近の温度を250℃に冷却し、繊度100dtexの紡糸フィラメントを得た。得られたフィラメントを、ギロチンカッターで15mm長に切断し、難燃剤含有ポリカーボネート繊維を得た。
(原料スラリーの作成)
繊維長12mmの炭素繊維(東レ社製、T700)をスラリー濃度0.5%となるように水中に投入し、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199V(花王株式会社製)を、炭素繊維100質量部に対して1質量部となるよう添加した。尚、エマノーン3199Vはあらかじめ0.5%濃度の水溶液となるように水に溶解して添加した。その後、古紙離解用パルパーを用いて30秒間攪拌して初期分散を行った後、スラリー濃度0.15%となるように水で希釈した(炭素繊維スラリー)。
別容器にて、粉末のアニオン性高分子ポリアクリルアミド系増粘剤(MTアクアポリマー株式会社製、スミフロック)を溶解した水溶液を作製した。粉末のアニオン性高分子ポリアクリルアミド系増粘剤は、水溶液の全質量に対して、0.1質量%となるように添加した。この水溶液を、上記の炭素繊維スラリーに添加した。水溶液の添加量は、水溶液の全質量に対して増粘剤の固形分が60ppmとなるように調整した。その後、攪拌し、炭素繊維がモノフィラメント化するまで分散させた。
次いで、上記の難燃性ポリカーボネート繊維と、バインダーとして用いるPVA繊維(クラレ社製 VPB−105−2)を、質量配合比が表1となるように計量した。これを、スラリー濃度が10%となるよう水中に投入して熱可塑性樹脂スラリーを得た。尚、難燃性ポリカーボネート繊維は分散性が良好であったため、特に攪拌等の処置をせずとも十分に分散した。
得られた熱可塑性樹脂スラリーを炭素繊維スラリーと混合し、均一に混合するように攪拌し、繊維スラリーを得た。
この繊維スラリーを、ヤンキードライヤー式の乾燥設備を備えた傾斜ワイヤー抄紙機に連続的に流送し、抄速30m/minで抄造し、坪量100g/m2である繊維強化プラスチック成形体用シートを得た。
抄造に際し、スラリーの分散媒の粘度(JIS Z 8803「液体の粘度測定方法」に規定された測定方法により測定した液温25℃における粘度)を表1に示すとおりに調整した。なお、スラリーの分散媒は、インレットのスラリーを500ml採取し、150メッシュの金属製のフルイで繊維をろ過して得られるろ液である。スラリーの分散媒の粘度は、循環白水に連続的にアニオン性高分子ポリアクリルアミド系増粘剤(MTアクアポリマー株式会社製、スミフロック)を溶解した水溶液を添加することで調整した。
また、実施例1で用いた傾斜型抄紙機には、傾斜ワイヤー部分に4つのサクションボックス(脱水ボックス)を備えるものを用いた。図4は、実施例で用いた傾斜型抄紙機200の構成を説明する図である。図4に示されているように、傾斜型抄紙機200は、インレット210の底部に設けられた傾斜ワイヤー220の下方に第1のサクションボックス201、第2のサクションボックス202、第3のサクションボックス203、第4のサクションボックス204を備えている。
なお、実施例1では、傾斜ワイヤー部分を構成するワイヤーは、125Paの差圧をかけた際の通気度が350cm3/cm2/secとなるものを使用した。そして、実施例1では、4つのサクションボックスから脱水される循環白水の総量を100とした場合の各サクションボックスの脱水量の比率を、各サクションボックスの吸引力を調整することで表1に示すとおりとなるようにした。
また、傾斜型抄紙機のワイヤーのジェットワイヤー比を循環白水の総量を制御することで表1に示す通りとなるよう調整した。このようにして、繊維強化プラスチック成形体用シートを作製した。得られた繊維強化プラスチック成形体用シートのfp値の絶対値は表1に示した。
<曲げ強度測定用の繊維強化プラスチック成形体の作製>
得られた各繊維強化プラスチック成形体用シートを、14枚積層し、プレス速度を3.5cm/secで上昇させ、プレス圧を10MPaとして260℃まで昇温し、60秒加熱加圧した後、50℃に冷却して厚み1.0mmの繊維強化プラスチック成形体を得た。
<燃焼試験用の繊維強化プラスチック成形体の作製>
得られた繊維強化プラスチック成形体用シートを表1に記載した重ね枚数となるように積層し、プレス速度を3.5cm/secで上昇させ、プレス圧を10MPaとして260℃まで昇温し、60秒加熱加圧した後、50℃に冷却して表1に記載した厚さの繊維強化プラスチック成形体を得た。
<実施例2>
実施例2は、実施例1においてサクションボックスの吸引力を調整して、全てのサクションボックスの脱水量が等量となるように変更した以外は実施例1と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例3>
アニオン性高分子ポリアクリルアミド系増粘剤(MTアクアポリマー株式会社製、スミフロック)を溶解した水溶液のインレットへの連続添加量を増加させることにより、分散媒の粘度を表1の通りとした以外は実施例1と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例4>
各サクションボックスの脱水量の比率を表1に示すとおりとなるように調整した以外は、実施例3と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例5>
傾斜ワイヤー部に用いるワイヤーを、通気度が275cm3/cm2/secのものに変更した以外は、実施例4と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例6>
インレット内の分散媒の粘度を表1の通りとなるように調整した以外は、実施例5と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例7〜9>
熱可塑性樹脂繊維をポリエーテルイミド繊維(クラレ社製、2.2dtex 、繊維長15mm)に変更し、ジェットワイヤー比が表1に示す通りとなるように調整した以外は実施例6と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例10>
重ね枚数を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例7と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例11>
難燃性ポリカーボネート繊維の代わりに難燃性ナイロン6繊維を使用し、分散媒の粘度を表1の通りとした以外は、実施例6と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
尚、難燃性ナイロン6繊維は、難燃性ポリカーボネート樹脂の製造に使用したA成分、B成分及びC成分に代えてナイロン6樹脂ペレット(ユニチカ社製 ユニチカナイロン6 A1030JR)を使用した以外は、実施例1の難燃性ポリカーボネート樹脂繊維の製造方法に準じて製造した。
<実施例12>
炭素繊維を、単繊維強度5880MPaのもの(東レ社製、T800)に変更した以外は、実施例7と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<比較例1及び2>
インレットへの増粘剤の添加を中止し、ジェットワイヤー比が表1となるように調整した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
(繊維強化プラスチック成形体用シートの評価)
<厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp値)の測定>
実施例・比較例で得られた繊維強化プラスチック成形体用シートを幅5mm、長さ10mmに切断し、紫外線硬化タイプの包埋用エポキシ樹脂(日本電子株式会社製、アロニックス LCA D−800)を、試験片の表面全面を覆うようにスポイトを用いて滴下して含浸させ、紫外線を照射して硬化させた。そして、日本分光株式会社製、スライスマスター HS−1を用いて、断面観察用試験片から幅0.4mm、長さ10mmの試験片を切り出した。なお、切断方向は、図1(b)におけるB−B'方向とした。B−B'方向とは、後述する方法で求めた平面方向の基準線と平行な方向である。
得られた試験片の厚み方向の断面を、キーエンス社製、マイクロスコープで、300倍に拡大して透過光にて強化繊維を観察した。ここでは、上記断面のうちの連続した1.5mm2の測定領域を観察した。また、試験片の観察面およびその反対面のそれぞれから深さ10μm以上の部分に焦点を合わせて観察を行った。そして、上記測定領域中に存在する、観察像において視認し得る全ての強化繊維(繊維数はn本とする)について、後述する方法で設定した基準線に対する角度θi(i=1〜n)を測定した。配向角度θiは、基準線に対して時計回りの方向の角度を測定し、0°以上180°未満の角度とした。そして、設定された基準線に対する繊維の角度θiから、以下の式(1)を用いて厚み方向の繊維配向パラメーターを算出した。
fp=2×Σ(cos2θi/n)−1 式(1)
なお、基準線は下記の方法で決定した。基準線を決定する際には、まず仮基準線pを選択し、上記測定領域内に存在する視認し得る全ての強化繊維n本の角度を測定した。この場合、仮基準線pと各繊維の角度は、α(p)i(i=1〜n)で表した。
仮基準線pとした際の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp(p))は、下記式を用いて算出した。
fp(p)=2×Σ(cos2α(p)i/n)−1
(i=1、2、3、・・・、n)
次に、仮基準線pを±1°ずつ、±90°となるまで回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))をとり、仮基準線p+zと仮基準線p-zと繊維n本の角度を算出した。この場合の角度は、α(p+ziと、α(p-zi(i=1〜n)で表した。
回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))と強化繊維の繊維配向パラメーター(fp(p±z))は、下記式を用いて算出した。
fp(p±z)=2×Σ(cos2α(p±zi/n)−1
(i=1、2、3、・・・、n)
このようにして、得られたfp(p)値及びfp(p±z)値の絶対値うち最大値が得られた場合に設定した仮基準線を基準線とした。
<平面方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp値)の測定>
実施例・比較例で得られた繊維強化プラスチック成形体用シートを幅3cm×長さ3cmとなるように切り出し、この試験片をスライドガラスで挟み、当該試験片の一方の面を光学顕微鏡にて観察した。光学顕微鏡には、キーエンス社製、マイクロスコープを用い、300倍に拡大して反射光にて強化繊維を観察した。ここでは、上記一方の面のうちの連続した2.0mm2の測定領域を観察した。そして、この測定領域中に存在する、観察像において視認し得る全ての強化繊維(繊維数はm本とする)について、後述する方法で設定した基準線に対する角度θi(i=1〜m)を測定した。配向角度θiは、基準線に対して時計回りの方向の角度を測定し、0°以上180°未満の角度とした。そして、設定された基準線に対する繊維の角度θiから、以下の式(2)を用いて厚み方向の繊維配向パラメーターを算出した。
fp=2×Σ(cos2θi/m)−1 式(2)
そして、反対面についても同様に測定し、一方の面と反対面の平均値を求めて、これを平面方向の繊維配向パラメーター(fp)とした。なお、一方の面の測定領域と反対面の測定領域は、平面視において重なる領域とした。また、一方の面および反対面のいずれの観察においても、一方の面および反対面のそれぞれから深さ10μm以上の部分に焦点を合わせて観察を行った。
なお、基準線は下記の方法で決定した。基準線を決定する際には、まず仮基準線pを選択し、上記測定領域内に存在する視認し得る全ての強化繊維m本の角度を測定した。この場合、仮基準線pと各繊維の角度は、α(p)i(i=1〜m)で表した。
仮基準線pとした際の繊維配向パラメーター(fp(p))は、下記式を用いて算出した。
fp(p)=2×Σ(cos2α(p)i/m)−1
(i=1、2、3、・・・、m)
次に、仮基準線pを±1°ずつ、±90°となるまで回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))をとり、仮基準線p+zと仮基準線p-zと繊維m本の角度を算出した。この場合の角度は、α(p+ziと、α(p-zi(i=1〜m)で表した。
回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))と強化繊維の繊維配向パラメーター(fp(p±z))は、下記式を用いて算出した。
fp(p±z)=2×Σ(cos2α(p±zi/m)−1
(i=1、2、3、・・・、m)
このようにして、得られたfp(p)値及びfp(p±z)値の絶対値うち最大値が得られた場合に設定した仮基準線を基準線とした。
<曲げ強度の測定>
実施例及び比較例で得られた曲げ強度測定用繊維強化プラスチック成形体を、JIS K 7074 炭素繊維強化 プラスチックの曲げ試験方法に従って、繊維の配向方向(マシンディレクション、以下MDとする)及び繊維の配向と直角方向(クロスディレクション、以下CDとする)について測定し、強度及びMD方向とCD方向の強度比を表1に示した。
曲げ強度の相乗平均値=√(FMD×FCD)
ここで、FMDはMD方向の曲げ強度を表し、FCDはCD方向の曲げ強度を表す。
<燃焼性及び滴下性の評価方法>
実施例及び比較例で得られた燃焼試験用の繊維強化プラスチック成形体の燃焼性を、以下のとおり「安全規格 UL 94 第6版 機器及び部品に使用されるプラスチック材料の燃焼性試験 8 50W(20mm)垂直燃焼性試験;V−0、V−1、又はV−2」に従って評価し、併せて不滴下性を評価した。
燃焼性試験に用いた燃焼試験用の繊維強化プラスチック成形体は、幅13mm、長さ125mmに切り出して試験片とした。この試験片の上端をクランプに取り付け、下端(幅方向の辺)中央に、長さ20mmの炎を10秒間接炎させ、その後炎を試験片から離し、消火後直ちに10秒間再び接炎し、炎を除去した。なお、評価に用いた長さ20mmの炎は、UL規格のUL94垂直燃焼性試験に規定された20mm長の青色炎である。燃焼状況は、上記試験方法のとおりV−0、V−1又はV−2及びこれらに適合しない(以下V不適合とする)の4段階で判定した。本発明では、V−0、V−1及びV−2を実用上使用可能レベルと判定し、V−0及びV−1を好ましいレベル、V−0をより好ましいレベルであると判定した。
また、燃焼性試験を行う際には、試験片の下端から12インチ下に、外科用脱脂綿を置き、滴下物による着火の有無を記録した。試験片からの滴下物及び脱脂綿の状態を観察し、以下の通り燃焼性を評価した。
○:滴下物が生じない。
△:滴下物は生じるが極少量であり、綿の着火が生じない。
×:滴下物により綿の着火が生じる。
<曲げ強度の測定>
実施例及び比較例で得られた曲げ強度測定用繊維強化プラスチック成形体を、JIS K 7074 炭素繊維強化 プラスチックの曲げ試験方法に従って、繊維の配向方向(マシンディレクション、以下MDとする)及び繊維の配向と直角方向(クロスディレクション、以下CDとする)について測定し、強度及びMD方向とCD方向の強度比を表1に示した。
曲げ強度の相乗平均値=√(FMD×FCD)
ここで、FMDはMD方向の曲げ強度を表し、FCDはCD方向の曲げ強度を表す。
Figure 2016210979
表1に示されているように、厚さ方向のfp値の絶対値が0.5以上の繊維強化プラスチック成形体用シートから形成される繊維強化プラスチック成形体においては、燃焼性が低く、燃焼試験時の不滴下性に優れていることがわかる。これは、表面に平行な面上の強化繊維の密度が高く、また強化繊維の配向方向が面方向に沿うことで、熱伝導速度が高まり、放熱性が改善されるため、燃焼性を低下でき、かつ不滴下性を高められるものと考えられる。
また、実施例の繊維強化プラスチック成形体用シートから形成される繊維強化プラスチック成形体は、曲げ強度相乗平均値が高く、十分な強度を発揮することができる。
また、実施例1〜4を比較すると、傾斜ワイヤー部分における脱水は、ワイヤーの前半部分の脱水量を増やすことによって、厚さ方向のfp値をより好ましい範囲に調整することができることがわかる。すなわち面方向に平行に整列する繊維が多くなることがわかる。これは、インレットにおける液面からワイヤーまでの距離が長い部分はスラリーの流速が遅いため乱流になりにくいため、この付近でウエットウエブの形成をすることにより繊維がシートの厚さ方向の制御がしやすくなるためと考えられる。なお、図4では、サクションボックス201が液面からワイヤーまでの距離が最も長くなる。
また、実施例1〜6を見ると、インレットの分散媒の粘度を高くすることでfp値をより好ましい範囲にすることができるが、ワイヤーの通気度を低くすることで、インレット内の分散媒の粘度が低くても、fp値をより好ましい範囲にできることがわかる。このことは、通気度が低いワイヤーを使用することで抄造時の粘剤の添加量を減少させ得ることを意味する。これにより、製造コストを低減させたり、粘剤に起因する抄紙用具の汚染を減少させることができる。
5 繊維強化プラスチック成形体用シート
20 強化繊維
20’ 強化繊維
25 熱可塑性樹脂
40 包埋用エポキシ樹脂
45 断面観察用試験片
50 炎
60 溶解した熱可塑性樹脂の滴
100 繊維強化プラスチック成形体
101 従来の繊維強化プラスチック成形体
200 傾斜型抄紙機
201 第1のサクションボックス
202 第2のサクションボックス
203 第3のサクションボックス
204 第4のサクションボックス
210 インレット
220 傾斜ワイヤー
P 基準線
P' 基準線と平行な線(補助線)
Q 基準線に対する強化繊維の角度を表す線
R 基準線に対する強化繊維の角度を表す線

Claims (15)

  1. 強化繊維と、熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートであって、
    前記熱可塑性樹脂は限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂であるか、もしくは、前記繊維強化プラスチック成形体用シートは難燃剤を含み、
    前記繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が0.5〜1.0であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体用シート。
  2. 前記繊維強化プラスチック成形体用シートが難燃剤を含む場合、前記熱可塑性樹脂が難燃剤を含む熱可塑性樹脂である請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
  3. 前記熱可塑性樹脂が熱可塑性樹脂繊維である請求項1又は2に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
  4. バインダー成分をさらに含み、前記バインダー成分は、前記繊維強化プラスチック成形体用シートの全質量に対して0.1〜10質量%含まれている請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
  5. 前記強化繊維の質量平均繊維長が6〜100mmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
  6. 前記繊維強化プラスチック成形体用シートが難燃剤を含む場合、前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート又はポリアミドである請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
  7. 前記限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂は、ポリエーテルイミドである請求項1〜6のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
  8. 前記熱可塑性樹脂は、限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂と、難燃剤を含有する熱可塑性樹脂と、を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載されている繊維強化プラスチック成形体用シートを、前記熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度以上の温度で加圧加熱成形することにより形成される繊維強化プラスチック成形体であって、
    前記繊維強化プラスチック成形体における厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が0.5〜1.0であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体。
  10. 厚みが0.4〜1.0mmである請求項9に記載の繊維強化プラスチック成形体。
  11. 厚みが0.2〜0.4mmである請求項9に記載の繊維強化プラスチック成形体。
  12. 曲げ強度の相乗平均値が200MPa以上である請求項9〜11のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体。
  13. 前記繊維強化プラスチック成形体は、150〜600℃の温度で加熱加圧成形することにより形成されている請求項9〜12のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体。
  14. 強化繊維と、熱可塑性樹脂繊維を混合したスラリーを、湿式抄紙する工程を含む繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法であって、
    前記熱可塑性樹脂繊維は限界酸素指数が30以上の熱可塑性樹脂繊維であるか、もしくは、前記繊維強化プラスチック成形体用シートは難燃剤を含み、
    前記湿式抄紙する工程は、傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程であり、
    前記傾斜型抄紙機のワイヤーは、ジェットワイヤー比が0.98以下となるように走行する繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。
  15. 前記スラリーの分散媒の25℃における粘度は1.00mPaを超え4.00mPa以下である請求項14に記載の繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。
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