JP2016209911A - 熱伝達率モデルを構成するパラメータの推定方法 - Google Patents
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冷却装置における鋼板の冷却は、伝熱計算モデルによりシミュレートされ、冷却装置の諸条件(冷却水量や鋼板の搬送速度)などが決定される。
特許文献1に開示された技術は、水冷プロセスにおいて水冷処理を行う鋼板の熱伝達率をオンラインで正確に推定することにより精度の高い温度制御を可能とすることを目的とするものであって、水冷プロセスの入側および出側での表面温度、板厚、板幅、および移動速度と冷却水温および冷却水量密度とを入力として、前記水冷プロセス通過後の鋼板に対して、熱伝達計算によって水冷途中及び終了後の鋼板温度を計算し、前記計算した鋼板温度と実測した鋼板温度との誤差が小さくなる様に、シミュレーテッドアニーリング法などの探索法を用いて熱伝達率を修正することによって、正確な熱伝達率を推定する。得られた熱伝達率を用いて、水冷条件を変えて鋼板温度を繰り返し計算することにより、最適水冷条件を決定するようにしている。
例えば、特許文献1は、単点探索手法のシミュレーテッド・アニーリング法(SA法)を用いた技術ではあるが、探索条件によっては解空間の探索が不十分となり、最適解を見つけ出せない可能性がある。すなわち、特許文献1に開示された技術では、局所最適解を探索してしまう虞がある。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、熱伝達率αをモデルした熱伝達率モデルに含まれるパラメータを精確に推定する技術を提供することを目的とする。
本発明に係る熱伝達率モデルを構成するパラメータの推定方法は、熱間圧延後の鋼板を冷却する冷却装置における熱伝達の状況をモデル化した熱伝達率モデル内に存在するパラメータを、前記鋼板の冷却実績値を用いた推定計算を用いて推定する推定方法であって、前記冷却装置内を、異なる冷却状況となっている複数の領域に分けておくと共に、前記複数の領域の各領域が、当該領域内の冷却状況を規定するパラメータを有するものとし、複数の領域のうちの「一の領域」における前記冷却実績値を用いたパラメータの推定計算を行うに際しては、
(i)「他の領域」のパラメータの推定計算が未実施の場合は、他の領域のパラメータとして予め与えられた規定値を採用し、
(ii)「他の領域」の少なくとも1つ以上の領域のパラメータに対する推定計算が実施後の場合は、推定計算が既に行われた領域のパラメータとしては、推定計算後のパラメータを採用し、推定計算が行われていない領域のパラメータとしては、予め与えられた規定値を採用することを特徴とする。
好ましくは、前記一の領域が、他の領域よりも、鋼板からの抜熱量が大きい領域であるとよい。
好ましくは、前記異なる冷却状況となっている領域が、「鋼板に対して冷却水を噴射するノズル部を含む領域」、「鋼板に対して冷却水を非噴射としている非ノズル部を含む領域」、「鋼板上の冷却水を水切りするためのスプレー水を噴射する水切スプレー部を含む領域」のいずれかとされているとよい。
好ましくは、前記異なる冷却状況となっている領域が、「鋼板に接する冷却水が膜沸騰している領域」、「鋼板に接する冷却水が核沸騰している領域」のいずれかとされているとよい。
好ましくは、前記推定計算の手法として、PSO手法が採用されているとよい。
好ましくは、前記推定計算における評価関数が、「Σ(実績出側温度−予測出側温度)2」とされているとよい。
まず、図1に示すように、本発明の「熱伝達率モデルを構成するパラメータの推定方法」が適用される冷却装置7は、鋼板Xの圧延装置1に配備されたものである。
ここで、圧延装置1は、スラブ鋳片などの鋼板Xを厚鋼板Zに圧延するものであり、鋼板Xを加熱する加熱炉2と、加熱された鋼板Xを予め決定された板厚及び板幅に圧延する粗圧延機3と、粗圧延機3で圧延された鋼板Xを目標の板厚及び板幅になるまで圧延して最終製品となる厚鋼板Zを製造する仕上圧延機6と、を有している。
一方、仕上げ圧延機の下流側には、仕上げ圧延機で圧延が終了した鋼板Xを冷却する冷却装置7が設けられている。冷却装置7は、鋼板Xに冷却水を吹き付けることで鋼板Xを強制的に冷却し、所定の温度まで鋼板Xを冷却する。
冷却バンク8は、圧延板を搬送する搬送ローラを備えた搬送手段9と、鋼板Xの上面に冷却水を散水する複数(図例では3つ)のノズル部10(上面ノズル部)と、鋼板Xの下面に冷却水を散水する複数(図例では3つ)のノズル部11(下面ノズル部)とを有している。
加えて、冷却バンク8においては、鋼板Xの表面に滞留する冷却水(滞留水)が、上流側及び下流側へ広がるのを防ぐための水切スプレー部12を有している。水切スプレー部12は、鋼板Xの上面に対して、高圧の冷却水をスプレー状に噴射し、鋼板Xの上面に滞留し冷却水(滞留水)を、鋼板Xの板幅方向に吹き飛ばすようにするものである。この水切スプレー部12により、滞留水は、それより上流側乃至は下流側へと広がることはない。
例えば、図2、図3に示すように、冷却バンク8においては、冷却水のかけ方により異なる冷却状況となっている領域が複数存在する。
同様に、冷却バンク8には、鋼板Xの上面側(U)と下面側(D)とが存在する。鋼板Xの上面側は、噴射された冷却水が滞留するため、下面側とは異なった冷却状況となる。また、冷却水が、鋼板Xの温度により、核沸騰(C)を起こす領域と、膜沸騰(F)を起こす領域とが存在する。
それぞれの領域では冷却状況が異なるため、各領域毎に熱伝達率αの異なるモデル化(f1(a1,a2,a3)〜f5(e1,e2,e3))が行われており、各モデル内のパラメータ(図3におけるa1,a2,a3〜e1,e2,e3で、例えば10個以上)が異なるものとなっている。
前述した特許文献1では、3個といった少ないパラメータを同定するものとしており、同定手法としては、シミュレーテッドアニーリング法といった最適化手法を採用している。この手法であれば、局所最適解を探索する虞があり、正しい解を得ることができない場合がある。特に、本願発明のように、多数のパラメータを求めることは困難である。
本発明のパラメータ推定方法は、以下の通りである。
すなわち、上記した目的を達成するために、冷却装置7内に存在する「冷却状況の異なる領域」、例えば冷却バンク8の上面領域や下面領域、冷却水の噴射有りの領域、冷却水の噴射無しの領域などを考え、各領域毎にそれぞれで熱伝達率αのモデル化を行う。その上で、各モデル(熱伝達率モデル)を構成するパラメータ、言い換えれば、各領域毎のパラメータを冷却実績データに基づき推定する(同定する)。
具体的には、冷却装置7における熱伝達率をモデル化した熱伝達率モデル内に存在するパラメータを、冷却実績値を用いた推定計算を用いて推定するに際しては、
(i)冷却装置7内を、異なる冷却状況となっている複数の領域に分けておき、
(ii)複数の領域の各領域は、当該領域内の冷却状況を規定するパラメータを有するものとし、
(iii)複数の領域のうち、一の領域における、冷却実績値を用いたパラメータの推定計算を行うに際しては、
(iii)−1 他の領域のパラメータの推定計算が未実施の場合は、他の領域のパラメータとして予め与えられた規定値(例えば、ラボ値など)を採用し、
(iii)−2 他の領域の少なくとも1つ以上の領域のパラメータに対する推定計算が実施された後の場合は、推定計算が既に行われた領域のパラメータとしては、推定計算後のパラメータ(推定計算値)を採用し、推定計算が行われていない領域のパラメータとしては、予め与えられた規定値(例えば、ラボ値など)を採用する、ようにする。
本発明は、冷却装置7における熱伝達率モデル内に存在するパラメータを、冷却実績値を用いた推定計算を用いて推定する方法である。
推定においては、まず、冷却装置7内を、異なる冷却状況となっている複数の領域(第1の領域〜第Nの領域)に分けておく。この場合、わざわざ意図的に区分けする必要はなく、例えば、図3のように、冷却水のかけ方により、領域を区分けする。各領域が実際の冷却バンク8のどの部分に対応するかは、図2に示す通りである。
それぞれ領域においては、当該領域内の冷却状況を規定するパラメータを有している。例えば、「冷却水噴射領域(W)」であって「鋼板Xの上面側(U)」で、「膜沸騰状態(F)」(WUFと表記)においては、熱伝達率αは、α=f1(a1,a2,a3)で表現され、3つのパラメータ(a1,a2,a3)が存在する。
推定の具体的なやり方は、以下の通りである。
第1の領域(例えば、WUF)のパラメータを冷却実績値を基に推定するに際しては、他の領域、すなわち、第2の領域〜第5の領域のパラメータを「予め与えられた規定値」と置いた上で、推定計算を行う。
推定計算に関しては、様々な最適化手法が採用可能であるが、本実施形態の場合、PSO手法を採用している。PSO手法とは、粒子群最適化(Particle Swarm Optimization)といわれる最適化手法の1つであり、近年よく用いられているものである。このような最適化手法における評価関数としては、「Σ(実績出側温度−予測出側温度)2」を採用している。
より詳細には、図4に示す如く、まず、STEP100において、鋼板X(1〜N)の各冷却条件や冷却実績値(例えば、出側板温度など)を取得する。
STEP102において、冷却装置7における各鋼板Xの伝熱状態を、伝熱計算モデルにより求める。
STEP103において、評価関数「Σ(実績出側温度−予測出側温度)2」の計算を行う。
その後、第2の領域(例えば、WDF)のパラメータを冷却実績値を基に推定するに際しては、STEP100〜STEP104の推定計算で得られた第1の領域のパラメータの推定値を用いると共に、他の領域(第3の領域〜第5の領域)のパラメータを予め与えられた規定値として、推定計算を行うようにする。
STEP202では、冷却装置7における各鋼板Xの伝熱状態を、伝熱計算モデルによりもとめる。
STEP204では、得られた評価関数の値を用いて、最適化計算(PSO手法)により、実績出側温度と予測出側温度計算とが合うように、第2の領域(WDF)の熱伝達率αを構成するパラメータ(d1,d2,d3)を逐次修正し、同定を行う。
さらに、第3の領域(例えば、NUF)のパラメータを、冷却実績値を基に推定するに際しては、STEP100〜STEP104の推定計算で得られた第1の領域のパラメータ、およびSTEP201〜STEP204の推定計算で得られた第2の領域のパラメータの推定値を用いると共に、他の領域(第4の領域〜第5の領域)のパラメータを予め与えられた規定値として設定する。
上記した推定計算を行うに際しては、例えば、推定された熱伝達率に対して、その上下限値を与えるなどの制約を加えてもよい。また、推定された熱伝達率を用いて計算された温度履歴に対して、何らかの制約(例えば、鋼板Xの上面の温度履歴と下面の温度履歴との差が常に100℃以内)を加えると、正しい伝熱状況をシミュレートできる。
次に、本発明の熱伝達率モデルのパラメータ推定方法で得られた熱伝達率αを用いた、温度履歴の計算結果を以下に示す。
以上のように、本発明の熱伝達率モデルのパラメータ推定方法によれば、冷却装置7内における熱伝達率モデル内のパラメータを精確に推定することができると共に、精確な熱伝達率αを知ることができ、ひいては、冷却装置7における伝熱計算モデルの精度を上げることが可能となる。
2 加熱炉
3 粗圧延機
4 ワークロール
5 バックアップロール
6 仕上圧延機
7 冷却装置
8 冷却バンク
9 搬送手段(搬送ローラ)
10 ノズル部(上面ノズル部)
11 ノズル部(下面ノズル部)
12 水切スプレー部
X 鋼板
Z 厚鋼板
Claims (8)
- 熱間圧延後の鋼板を冷却する冷却装置における熱伝達の状況をモデル化した熱伝達率モデル内に存在するパラメータを、前記鋼板の冷却実績値を用いた推定計算を用いて、推定する推定方法であって、
前記冷却装置内を、異なる冷却状況となっている複数の領域に分けておくと共に、前記複数の領域の各領域が、当該領域内の冷却状況を規定するパラメータを有するものとし、
複数の領域のうちの「一の領域」における前記冷却実績値を用いたパラメータの推定計算を行うに際しては、
(i)「他の領域」のパラメータの推定計算が未実施の場合は、他の領域のパラメータとして予め与えられた規定値を採用し、
(ii)「他の領域」の少なくとも1つ以上の領域のパラメータに対する推定計算が実施後の場合は、推定計算が既に行われた領域のパラメータとしては、推定計算後のパラメータを採用し、推定計算が行われていない領域のパラメータとしては、予め与えられた規定値を採用する
ことを特徴とする熱伝達モデルのパラメータ推定方法。 - 前記一の領域が、他の領域よりも、鋼板からの抜熱量が大きい領域であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝達モデルのパラメータ推定方法。
- 前記異なる冷却状況となっている領域が、「鋼板に対して冷却水を噴射するノズル部を含む領域」、「鋼板に対して冷却水を非噴射としている非ノズル部を含む領域」、「鋼板上の冷却水を水切りするためのスプレー水を噴射する水切スプレー部を含む領域」のいずれかとされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝達モデルのパラメータ推定方法。
- 前記異なる冷却状況となっている領域が、「鋼板の上面の領域」、「鋼板の下面の領域」のいずれかとされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝達モデルのパラメータ推定方法。
- 前記異なる冷却状況となっている領域が、「鋼板に接する冷却水が膜沸騰している領域」、「鋼板に接する冷却水が核沸騰している領域」のいずれかとされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝達モデルのパラメータ推定方法。
- 前記予め与えられた規定値が、事前に行われた実験により得られた値であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱伝達モデルのパラメータ推定方法。
- 前記推定計算の手法として、PSO手法が採用されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱伝達モデルのパラメータ推定方法。
- 前記推定計算における評価関数が、「Σ(実績出側温度−予測出側温度)2」とされていることを特徴とする請求項8に記載の熱伝達モデルのパラメータ推定方法。
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