以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るロボット装置の概略構成を示す斜視図である。図1に示すロボット装置650は、産業用ロボットであり、ワークWの組み立て等の作業を行うロボット600と、ロボット600を制御する制御装置630と、制御装置630に接続されたティーチングペンダント640と、を備えている。
ロボット600は、多関節のロボットアーム601と、ロボットアーム601の先端に接続されたエンドエフェクタであるロボットハンド602と、を備えている。
ロボットアーム601は、垂直多関節のロボットアームであり、作業台に固定されるベース部(リンク)6100と、変位や力を伝達する複数のリンク6101〜6106と、を有している。複数のリンク6100〜6106は、複数の関節J1〜J6で回転可能に互いに連結されている。ロボットアーム601の関節J1〜J6のうち少なくとも1つ、第1実施形態では全ての関節J1〜J6がアクチュエータ10を有している。各関節J1〜J6のアクチュエータ10は、必要なトルクの大きさに合わせて適切な出力のものが用いられる。なお、アクチュエータ10については、後に詳しく説明する。
ロボットハンド602は、ワークWを把持する複数の把持爪604と、複数の把持爪604を駆動する不図示のアクチュエータと、不図示のアクチュエータの回転角度を検出する不図示のエンコーダと、回転を把持動作に変換する不図示の機構とを有している。この不図示の機構は、カム機構やリンク機構などで必要な把持動作に合わせて設計される。なお、ロボットハンド602に用いる不図示のアクチュエータに必要なトルクは、ロボットアーム601の関節用と異なるが、基本構成は同じである。また、ロボットハンド602は、把持爪604等に作用する応力(反力)を検出可能な不図示の力覚センサを有している。
ティーチングペンダント640は、制御装置630に接続可能に構成され、制御装置630に接続された際に、ロボットアーム601やロボットハンド602を駆動制御する指令を制御装置630に送信可能に構成されている。
制御装置630は、コンピュータにより構成されている。制御装置630を構成するコンピュータは、例えばCPUと、データを一時的に記憶するRAMと、各部を制御するためのプログラムを記憶するROMと、入出力インタフェース回路とを備えている。制御装置630は、アクチュエータ10の動作に要求される電力を、不図示の電源装置からアクチュエータ10に供給させて、ロボットアーム601やロボットハンド602の位置及び姿勢を制御する。
上述のように構成されたロボット装置650は、入力された設定等に従って、制御装置630がロボットアーム601の各関節J1〜J6のアクチュエータ10を動作させることでロボットハンド602を任意の位置及び姿勢に移動させる。そして、任意の位置及び姿勢で、把持爪604に作用する応力を力覚センサで検出しながらアクチュエータ10の駆動を制御し、ロボットハンド602にワークWを把持させて、ワークWの組み立て等の作業を行うことができる。
次に、第1実施形態に係るアクチュエータ10について説明する。図2は、本発明の第1実施形態に係るアクチュエータ10を示す断面図である。図2には、アクチュエータ10の中央断面を図示している。
アクチュエータ10は、回転駆動源である電動モータ120と、電動モータ120のトルクを増大させるために電動モータ120の出力(回転)を減速(変速)する変速機である減速機130と、を備えている。
減速機130は、揺動型減速機である。減速機130は、入力軸ユニット20と、1組の揺動歯車装置12と、出力軸ユニット30と、ベース90とを備えている。なお、第1実施形態では、減速機130が揺動歯車装置12を1組有する場合について説明するが、揺動歯車装置12は1組以上であれば何組でもよい。揺動歯車装置12は、傾斜軸ユニット13と、揺動歯車機構17とを有する。
入力軸ユニット20は、電動モータ120に接続されて回転する入力軸部21と、ベース23と、入力軸部21をベース23に軸支するための2つの軸受からなる軸受22とを有する。
入力軸部21は、電動モータ120の不図示のモータ軸部(回転軸部)に接続された軸部材である。入力軸部21は、ベース23に例えば組合せアンギュラ軸受等の軸受22を介して軸心(軸芯)70まわりに回転可能に支持されている。電動モータ120のモータ軸部(不図示)が軸心70を中心に回転することで、入力軸部21が軸心70を中心に回転する。第1実施形態では、電動モータ120のモータ軸部(不図示)と入力軸部21とは、別部材で形成されてねじ止め等により固定されているが、一体に形成されていてもよい。
出力軸ユニット30は、出力軸部31と、ベース33と、出力軸部31をベース33に軸支するための2つの軸受からなる軸受32とを有する。出力軸部31は、入力軸部21と同軸に配置された軸部材であり、例えば組合せアンギュラ軸受等の軸受32を介して軸心70まわりに回転可能にベース33に支持されている。ベース23とベース33とは、ベース90を介して連結されている。
なお、これらベース23,33,90は、別部材で形成されているが、一体に形成されていてもよい。ベース23,33,90は、図1のリンク610i−1(i=1〜6)及びリンク610iのうち一方に固定(又は一体に形成)されている。出力軸部31は、リンク610i−1及びリンク610iのうち他方に固定(又は一体に形成)されている。
傾斜軸ユニット13は、傾斜軸部14と、軸受15と、傾斜ホルダ16とを有する。傾斜軸ユニット13の中心軸(軸心)である傾斜軸心71は、入力軸部21の中心軸である軸心70に対して傾斜角度θで傾斜している。傾斜ホルダ16は、例えば組合せアンギュラ軸受等の軸受15を介して傾斜軸部14に傾斜軸心71まわりに回転可能に支持されている。
傾斜軸部14は、入力軸部21に接続され、軸心70に対して所定角度θ傾斜する傾斜軸心(傾斜軸芯)71の方向に延びて形成された軸部材である。つまり、傾斜軸部14は、入力軸部21に対して傾斜角度θだけ傾斜している。傾斜軸部14は、入力軸部21と一体に軸心70まわりに回転(揺動回転)する。第1実施形態では、傾斜軸部14は入力軸部21とは別部材として形成され、入力軸部21に対してねじ止めや溶接等により固定して一体化している。なお、傾斜軸部14は、入力軸部21に一体形成されていてもよい。
揺動歯車機構17は、固定歯車(歯車、第1歯車)40、出力歯車(歯車、第2歯車)50及び揺動歯車60を有する。固定歯車40は、入力軸部21と同軸に配置され、ベース90に固定して支持されている。固定歯車40は、ねじ止め等によりベース90に固定されているが、ベース90と一体に形成されていてもよい。
出力歯車50は、固定歯車40と同軸に配置され、出力軸部31と一体に軸心70まわりに回転する。出力歯車50は、出力軸部31とは別部材で形成されており、ねじ止め等により出力軸部31に固定されているが、出力軸部31と一体に形成されていてもよい。
一対の歯車40,50は、揺動歯車60を挟み込むように同軸に配置されている。そして、揺動歯車60は、固定歯車40及び出力歯車50に部分的に噛合して傾斜軸心71まわりに相対回転可能になっている。
これらの歯車40,50,60を構成する材質としては、高強度歯車鋼から低コストの一般鋼、非鉄金属や焼結材や樹脂等、一般的に使用される材質を適用することができる。また、各歯面に対して、歯形の寸法誤差や組立誤差等による片当たりを軽減するクラウニング加工等を施してもよい。
図3(a)は、図2の揺動歯車装置12の側面図である。図3(b)は、図3(a)の紙面奥行き方向の断面図である。図4は、揺動歯車装置12を構成する揺動歯車機構17の断面斜視図である。
固定歯車40は、第1歯である歯41を複数有する。歯41の歯数をz1とする。複数の歯41は円環状に配置されている。複数の歯41は、軸心70の方向の一方側に指向して形成されている。
即ち、固定歯車40は、複数の歯41が形成された円環状の基体40Aで構成されている。基体40Aには、円環状の固定部47と、歯41を支持する複数の支持部45と、固定部47と支持部45とを接続する複数の接続部46と、が形成されている。固定部47は、他部材であるベース90(図2)に固定される。接続部46は、固定部47から半径方向(具体的には半径方向内側)に延びて形成されている。支持部45は、接続部46から固定歯車40の軸方向に延びて形成されている。歯41は、支持部45に設けられている。
揺動歯車60は、傾斜軸心71の方向で歯41と対向する側に形成され、歯41と噛み合う第2歯である歯61と、傾斜軸心71の方向で歯41の側とは反対側に形成された第3歯である歯62と、を複数有する。歯61の歯数をz2、歯62の歯数をz3とする。複数の歯61及び複数の歯62は、円環状に配置されている。
即ち、揺動歯車60は、複数の歯61及び複数の歯62が形成された円環状の基体60Aで構成されている。基体60Aには、円環状の固定部67と、歯61,62を支持する円環状の支持部65と、固定部67と支持部65とを接続する円環状の接続部66とが形成されている。固定部67は、他部材である傾斜ホルダ16に固定される。接続部66は、固定部67から半径方向(具体的には半径方向外側)に延びて形成されている。支持部65は、接続部66から揺動歯車60の軸方向に延びて形成されている。歯61,62は、支持部65に設けられている。
出力歯車50は、軸心70の方向で歯62と対向する側に形成され、歯62と噛み合う第4歯である歯51を有している。歯51の歯数をz4とする。複数の歯51は、円環状に配置されている。
即ち、出力歯車50は、複数の歯51が形成された円環状の基体50Aで構成されている。基体50Aには、円環状の固定部57と、歯51を支持する複数の支持部55と、固定部57と支持部55とを接続する複数の接続部56とが形成されている。固定部57は、他部材である出力軸部31(図2)に固定される。接続部56は、固定部57から半径方向(具体的には半径方向外側)に延びて形成されている。支持部55は、接続部56から出力歯車50の軸方向に延びて形成されている。歯51は、支持部55に設けられている。
固定歯車40の歯41の歯数z1と、出力歯車50の歯51の歯数z4とは、異なる歯数である。また、揺動歯車60の歯61の歯数z2と、揺動歯車60の歯62の歯数z3とは、異なる歯数である。そして、固定歯車40の歯数z1と揺動歯車60の歯61の歯数z2、及び揺動歯車60の歯62の歯数z3と出力歯車50の歯51の歯数z4のうち少なくとも一方は、異なる歯数の組合せである。第1実施形態において、歯61の歯数z2は、z1+1(固定歯車40の歯41との歯数差が1)、歯62の歯数z3は、z4+1(出力歯車50の歯51との歯数差が1)となっている。なお、固定歯車40の歯41の歯数z1と、出力歯車50の歯51の歯数z4とは、同数でもよい。
揺動歯車60は、固定歯車40及び出力歯車50の間に歯車40,50に対して傾斜して配置され、固定歯車40及び出力歯車50と噛合しながら傾斜ホルダ16と一体的に傾斜軸心71を中心に回転する。これにより、揺動歯車60の歯62は、揺動歯車60の歯61と固定歯車40の歯41との噛合部位の径方向及び軸方向の反対側で、出力歯車50に噛合するようになっている。
上述した減速機130の減速動作について説明する。まず、入力軸部21が1回転すると、傾斜軸部14に回転可能に支持された揺動歯車60が、軸心70と傾斜軸心71の交点である基準点72を中心として1回揺動運動する。このとき、揺動歯車60は、固定歯車40に対して360/(z1+1)度だけ公転する。一方、歯数z4の出力歯車50と揺動歯車60との間にも、揺動による公転が生じる。即ち、減速機130は、揺動歯車60の公転を出力歯車50により取り出すように構成されている。
このようなタイプの減速機130の減速比は、1−(z1(z4+1)/((z1+1)z4)で計算できることが知られている。例えば、z1=24、z4=48の時、1/50の減速比が得られる。また、例えば、z1=48、z4=49とすれば、1/2401という大減速比も可能であり、このタイプの減速機130は、1/20程度の低減速比から数千分の1という大減速比まで、広い範囲の減速比を一段で実現することが可能になる。
以上の構成で、入力軸部21の回転に伴い、揺動歯車60は固定歯車40との噛合いによって揺動運動を行い、出力歯車50との噛合いも含めた2組の歯車40,60及び歯車60,50の差動によって減速する。このように、減速機130は、入力軸部21に入力された回転を揺動歯車装置12によって減速し、出力軸部31から出力する。
歯車40,50,60のうち少なくとも1つの歯車、第1実施形態では歯車40,50が、それぞれ複数の弾性変形部44,54を有する弾性歯車である。
各弾性変形部44は、複数の歯41を1つ以上の歯41で複数のグループにグループ分けしたとき、グループごとに歯41を支持し、支持している歯41に接触する歯61から受ける力により弾性変形するよう構成されている。各グループに含まれる歯41の数は2以下が好ましく、第1実施形態では各グループに含まれる歯41の数は1である。つまり、各弾性変形部44は、複数の歯41うち1つの歯41を支持している。
各弾性変形部44は、固定部47から半径方向内側に延びて形成されている。各弾性変形部44の基端が固定部47に固定されており、各弾性変形部44の先端には、1つの歯41が設けられている。
弾性変形部44により支持された歯41が相手側の歯61から受ける力によって変位することにより、揺動歯車機構17の部品の寸法誤差や組立誤差があっても、噛み合い状態を均一化することが可能となる。
第1実施形態では、基体40Aにスリット42が形成されることにより、接続部46及び支持部45で弾性変形部44が形成されている。即ち、固定歯車40の基体40Aには、歯41と歯41の間、つまり歯間(歯41の歯底41B)から放射状に半径方向に延びるスリット42が形成されている。そして、隣り合う2つのスリット42,42により弾性変形部44が形成されている。スリット42は歯底41Bおよび接続部46を貫通している。
接続部46は、半径方向に延びる板状のばね部材である。したがって、弾性変形部44のうち接続部46が大きく弾性変形する。よって、弾性変形部44は、固定部47に固定された基端を支点として先端に設けられた歯41に受けた力により弾性変形する。なお、スリット42には、ゴム等の、弾性変形部44よりも弾性係数が低い弾性部材が配置(充填)されていてもよい。つまり、各弾性変形部44の弾性変形に支障を及ぼさない限り、スリット42に充填部材が充填されていてもよい。
各弾性変形部54は、複数の歯51を1つ以上の歯51で複数のグループにグループ分けしたとき、グループごとに歯51を支持し、支持している歯51に接触する歯62から受ける力により弾性変形するよう構成されている。各グループに含まれる歯51の数は2以下が好ましく、第1実施形態では、各グループに含まれる歯51の数は1である。つまり、各弾性変形部54は、複数の歯51うち1つの歯51を支持している。
各弾性変形部54は、固定部57から半径方向外側に延びて形成されている。各弾性変形部54の基端が固定部57に固定されており、各弾性変形部54の先端には、1つの歯51が設けられている。
弾性変形部54により支持された歯51が相手側の歯62から受ける力によって変位することにより、揺動歯車機構17の部品の寸法誤差や組立誤差があっても、噛み合い状態を均一化することが可能となる。
第1実施形態では、基体50Aにスリット52が形成されることにより、接続部56及び支持部55で弾性変形部54が構成されている。即ち、出力歯車50の基体50Aには、歯51と歯51の間、つまり歯間(歯51の歯底51B)から放射状に半径方向に延びるスリット52が形成されている。そして、隣り合う2つのスリット52,52により弾性変形部54が形成されている。スリット52は歯底51Bおよび接続部56を貫通している。
接続部56は、半径方向に延びる板状のばね部材である。したがって、弾性変形部54のうち接続部56が大きく弾性変形する。よって、弾性変形部54は、固定部57に固定された基端を支点として先端に設けられた歯51に受けた力により弾性変形する。なお、スリット52には、ゴム等の、弾性変形部54よりも弾性係数が低い弾性部材が配置(充填)されていてもよい。つまり、各弾性変形部54の弾性変形に支障を及ぼさない限り、スリット52に充填部材が充填されていてもよい。
図11は、固定歯車40の歯41と揺動歯車60の歯61との噛み合いを説明するための模式図である。具体的には、図11(a)は固定歯車40の歯41と揺動歯車60の歯61との位相が一致している(基準位相に対して半ピッチずれている)状態を示す模式図である。図11(b)〜図11(d)は、固定歯車40の歯41と揺動歯車60の歯61との位相が基準位相と、基準位相から半ピッチずれた位相との間の位相の状態を示す模式図である。図11(e)は、固定歯車40の歯41と揺動歯車60の歯61との位相が半ピッチずれた基準位相の状態を示す模式図である。説明を簡便にするために、固定歯車40にスリット42を形成していない基準歯形43,64としている。
図11(e)には、歯41と歯61が最も深く噛み合う最噛合位置を表している。この最噛合位置では、歯先41A,61Aと歯底41B,61Bとが接している。図11(a)は、最噛合位置の周方向反対側で歯先41A,61A同士がすれ違うすれ違い位置を表す。すれ違い位置では、歯先41Aと歯先61Aは接触点81で接触している。最噛合位置では、歯41と歯61は接触点83,84で噛み合っている。最噛合位置とすれ違い位置の間の領域では、歯41と歯61は、図11(b)〜図11(d)に示すように、接触点81,83,84で噛み合い状態を形成する。出力歯車50の歯51と揺動歯車60の歯62についても同様の噛み合い状態である。
即ち、固定歯車40の歯41と揺動歯車60の歯61、出力歯車50の歯51と揺動歯車60の歯62は、それぞれほぼ全周に亘って接触している。したがって、伝達トルクが多数の歯に分担され、非常に大きな負荷容量を小型軽量の揺動歯車機構17で得ることができる。また、噛合部のバックラッシのない揺動歯車機構17を得ることができる。
ここで、第1実施形態の揺動歯車装置12では、固定歯車40の歯41の各々の間である歯底41Bにスリット42が形成されている。スリット42により歯底41Bが分断されているため、図11(e)に示す最噛合位置の点84では、歯41の歯底41Bと歯61の歯先61Aとは接触しない。同様に、出力歯車50の歯51の各々の間である歯底51Bにもスリット52が形成されている。スリット52により歯底52Bが分断されているため、最噛合位置の点では、歯51の歯底51Bと歯62の歯先62Aとは接触しない。
したがって、固定歯車40と揺動歯車60の歯同士は、スリット42により歯先61Aが相手側の歯底41Bに接触しない歯61(歯先61Aがスリット42に対向する歯61)を除き、実質的に全て接触していることになる。また、出力歯車50と揺動歯車60の歯同士は、スリット52により歯先62Aが相手側の歯底51Bに接触しない歯62(歯先62Aがスリット52に対向する歯62)を除き、実質的に全て接触していることになる。ここで、「実質的に全て接触している」としたのは、固定歯車40と揺動歯車60、又は出力歯車50と揺動歯車60の歯同士が全て接触するように設計しても、製造誤差等により、接触しない歯が存在するためである。例えば、最も深く噛み合う位置(図11(e))と、最も噛み合いが浅い位置(図11(a))の近辺は接触しない可能性がある。したがって、「実質的に全て接触している」とは、このような場合を除いて全て接触しているという意味である。もちろん、実質的に全て接触している場合には、全て接触している場合も含まれる。なお、実質的に全て接触しているとしたが、全て接触しているのが好ましい。
スリット42の間の接続部46及び支持部45は、固定歯車40の歯41のいずれか1つに軸方向荷重を付与した場合に、荷重を受けた歯41の変位が、他の歯41の変位分布に対して不連続な特異点となることが可能な弾性変形部44としての機能を果たす。スリット52の間の接続部56及び支持部55は、出力歯車50の歯51のいずれか1つに軸方向荷重を付与した場合に、荷重を受けた歯51の変位が、他の歯51の変位分布に対して不連続な特異点となることが可能な弾性変形部54としての機能を果たす。
固定歯車40は、弾性変形部44である接続部46及び支持部45、特に接続部46をばねとして、揺動歯車60に対して軸方向(軸心70の方向)に予圧をかけた状態で固定部47がベース90に固定されている。このように、固定歯車40は、弾性変形部44の弾性変形による反力によって固定歯車40と噛み合う揺動歯車60に対して予圧を付与した状態で配置されている。
同様に、出力歯車50は、弾性変形部54である接続部56及び支持部55、特に接続部56をばねとして、揺動歯車60に対して軸方向(軸心70の方向)に予圧をかけた状態で固定部57が出力軸部31に固定されている。このように、出力歯車50は、弾性変形部54の弾性変形による反力によって出力歯車50と噛み合う揺動歯車60に対して予圧を付与した状態で配置されている。
固定歯車40において、支持部45から接続部46にかけてスリット42が形成されている。そのため、固定歯車40と揺動歯車60との噛み合いによって支持部45が荷重を受けると、弾性変形部44の弾性変形により複数の歯41の各々が揺動歯車60との噛み合い力の大きさに応じて変位する。出力歯車50においても、支持部55から接続部56にかけてスリット52が形成されている。そのため、出力歯車50と揺動歯車60との噛み合いによって支持部55が荷重を受けると、弾性変形部54の弾性変形により複数の歯51の各々が揺動歯車60との噛み合い力の大きさに応じて変位する。
各歯車40,50の予圧により、噛み合い歯数の減少による伝達トルクの低下等や歯41と歯61との噛合部分、又は歯51と歯62との噛合部分のバックラッシの発生を抑制することができる。
さらに、固定歯車40と出力歯車50の歯41,51の各々が噛み合い力の大きさに応じて変位する。これにより、揺動型の減速機130、具体的には揺動歯車装置12を構成する部品の寸法誤差や組立誤差によって発生する噛み合いのムラを抑制することが可能となる。特に複数の歯の各々に寸法誤差があった場合、他の歯への影響を抑えて噛み合い力が大きい歯のみの力を緩和することができ、所望の噛み合いを維持することが可能となる。したがって、揺動歯車機構17の剛性低下や振動発生を抑制し、揺動歯車機構17の安定した性能を確保することができる。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る揺動型の減速機について説明する。図5は、本発明の第2実施形態に係る減速機の揺動歯車機構217を示す断面斜視図である。なお、第2実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同一符号を付して説明を省略する。第2実施形態では、固定歯車240及び出力歯車250が、第1実施形態の固定歯車40及び出力歯車50と構成が異なり、他は第1実施形態と同様の構成である。
第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様、固定歯車240、出力歯車250及び揺動歯車60のうち少なくとも1つの歯車、第2実施形態では歯車240,250がそれぞれ弾性変形部244,254を有する弾性歯車で構成されている。
そして、固定歯車240は、歯車240の複数の歯241を1つ以上の歯241で複数のグループにグループ分けしたとき、該グループごとに歯241を支持し、支持している歯241に接触する歯61から受ける力により弾性変形する。同様に、出力歯車250は、歯車250の複数の歯251を1つ以上の歯251で複数のグループにグループ分けしたとき、該グループごとに歯251を支持し、支持している歯251に接触する歯62から受ける力により弾性変形する。また、各歯車240,250においても、各グループに含まれる歯241,251の数が1である。
固定歯車240の基体240Aには、円環状の固定部247と、歯241を支持する複数の支持部245と、固定部247と支持部245とを接続する円環状の接続部246と、が形成されている。固定部247は、他の部材であるベース90(図2)に固定される。接続部246は、固定部247から半径方向(具体的には半径方向内側)に延びて形成されている。支持部245は、接続部246から固定歯車240の軸方向に延びて形成されている。第2実施形態では、支持部245が弾性変形部244である。歯241は、弾性変形部244の先端に設けられている。
出力歯車250の基体250Aには、円環状の固定部257と、歯251を支持する複数の支持部255と、固定部257と支持部255とを接続する円環状の接続部256と、が形成されている。固定部257は、他の部材である出力軸部31(図2)に固定される。接続部256は、固定部257から半径方向(具体的には半径方向外側)に延びて形成されている。支持部255は、接続部256から出力歯車250の軸方向に延びて形成されている。第2実施形態では、支持部255が弾性変形部254である。歯251は、弾性変形部254の先端に設けられている。
第2実施形態においても、固定歯車240の基体240Aには、歯間から放射状に半径方向に延びるスリット242が形成されており、隣り合うスリット242,242により弾性変形部244が形成されている。また、出力歯車250の基体250Aには、歯間から放射状に半径方向に延びるスリット252が形成されており、隣り合うスリット252,252により弾性変形部254が形成されている。
換言すると、固定歯車240のスリット242と出力歯車250のスリット252は、それぞれ接続部246,256に延伸しておらず、支持部245,255にのみ形成されている。固定歯車240の弾性変形部244は、支持部245の軸方向の全体ということになる。同様に、出力歯車250の弾性変形部254は、支持部255の軸方向の全体ということになる。
第2実施形態においても、第1実施形態と同様、弾性変形部244,254により支持された歯が相手側の歯から受ける力によって変位することにより、揺動歯車機構217の部品の寸法誤差や組立誤差があっても、噛み合い状態を均一化することが可能となる。特に複数の歯の各々に寸法誤差があった場合、他の歯への影響を抑えて噛み合い力が大きい歯のみの力を緩和することができ、所望の噛み合いを維持することが可能となる。したがって、揺動歯車機構217の剛性低下や振動発生を抑制し、揺動歯車機構217の安定した性能を確保することができる。
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る揺動型の減速機について説明する。図6は、本発明の第3実施形態に係る減速機の揺動歯車機構317を示す断面斜視図である。なお、第3実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
第3実施形態では、固定歯車340及び出力歯車350が、第1実施形態の固定歯車40及び出力歯車50と構成が異なり、他は第1実施形態と同様の構成である。
第3実施形態においても、上記第1実施形態と同様、固定歯車340、出力歯車350及び揺動歯車60のうち少なくとも1つの歯車、第3実施形態では歯車340,350がそれぞれ弾性変形部344,354を有する弾性歯車で構成されている。
そして、固定歯車340は、歯車340の複数の歯341を1つ以上の歯341で複数のグループにグループ分けしたとき、該グループごとに歯341を支持し、支持している歯341に接触する歯61から受ける力により弾性変形する。同様に、出力歯車350は、歯車350の複数の歯351を1つ以上の歯351で複数のグループにグループ分けしたとき、該グループごとに歯351を支持し、支持している歯351に接触する歯62から受ける力により弾性変形する。また、各歯車340,350においても、各グループに含まれる歯341,351の数が1である。
固定歯車340の基体340Aには、円環状の固定部347と、歯341を支持する円環状の支持部345と、固定部347と支持部345とを接続する円環状の接続部346と、が形成されている。固定部347は、他の部材であるベース90(図2)に固定される。接続部346は、固定部347から半径方向(具体的には半径方向内側)に延びて形成されている。支持部345は、接続部346から固定歯車340の軸方向に延びて形成されている。第3実施形態では、支持部345の一部が弾性変形部344である。歯341は、弾性変形部344の先端に設けられている。
出力歯車350の基体350Aには、円環状の固定部357と、歯351を支持する円環状の支持部355と、固定部357と支持部355とを接続する円環状の接続部356と、が形成されている。固定部357は、他の部材である出力軸部31(図2)に固定される。接続部356は、固定部357から半径方向(具体的には半径方向外側)に延びて形成されている。支持部355は、接続部356から出力歯車350の軸方向に延びて形成されている。第3実施形態では、支持部355の一部が弾性変形部354である。歯351は、弾性変形部354の先端に設けられている。
第3実施形態においても、固定歯車340の基体340A(具体的には支持部345)には、歯間から延びるスリット342が形成されており、隣り合うスリット342,342により弾性変形部344が形成されている。また、出力歯車350の基体350A(具体的には支持部355)には、歯間から延びるスリット352が形成されており、隣り合うスリット352,352により弾性変形部354が形成されている。
換言すると、固定歯車340のスリット342と出力歯車350のスリット352は、各々支持部345,355を貫通しておらず、各々の歯間が薄肉部によって連結していている。薄肉部は十分に剛性が低く、歯の各々が噛み合い力に応じて変形可能となっている。固定歯車340の弾性変形部344は、支持部345の軸方向の一部ということになる。同様に、出力歯車350の弾性変形部354は、支持部355の軸方向の一部ということになる。
第3実施形態においても、第1実施形態と同様、弾性変形部344,354により支持された歯が相手側の歯から受ける力によって変位することにより、揺動歯車機構317の部品の寸法誤差や組立誤差があっても、噛み合い状態を均一化することが可能となる。特に複数の歯の各々に寸法誤差があった場合、他の歯への影響を抑えて噛み合い力が大きい歯のみの力を緩和することができ、所望の噛み合いを維持することが可能となる。したがって、揺動歯車機構317の剛性低下や振動発生を抑制し、揺動歯車機構317の安定した性能を確保することができる。
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態に係る揺動型の減速機について説明する。図7は、本発明の第4実施形態に係るアクチュエータ410を示す断面図である。図7には、アクチュエータ410の中央断面を図示している。なお、第4実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
第1実施形態では、固定歯車40と出力歯車50に弾性変形部を形成した場合について説明したが、第4実施形態では、揺動歯車460に弾性変形部を形成した場合について説明をする。
アクチュエータ410は、回転駆動源である電動モータ120と、電動モータ120のトルクを増大させるために電動モータ120の出力(回転)を減速(変速)する変速機である減速機430と、を備えている。
減速機430は、揺動型減速機である。減速機430は、入力軸ユニット20と、1組の揺動歯車装置412と、出力軸ユニット30と、ベース90とを備えている。なお、第4実施形態では、減速機430が揺動歯車装置412を1組有する場合について説明するが、揺動歯車装置412は1組以上であれば何組でもよい。揺動歯車装置412は、傾斜軸ユニット413と、揺動歯車機構417とを有する。傾斜軸ユニット413は、傾斜軸部14と、軸受15と、傾斜ホルダ416とを有する。揺動歯車機構417は、固定歯車(歯車、第1歯車)440、出力歯車(歯車、第2歯車)450及び揺動歯車460を有する。
固定歯車440は、入力軸部21と同軸に配置され、ベース90に固定して支持されている。固定歯車440は、ねじ止め等によりベース90に固定されているが、ベース90と一体に形成されていてもよい。
出力歯車450は、固定歯車440と同軸に配置され、出力軸部31と一体に軸心70まわりに回転する。出力歯車450は、出力軸部31とは別部材で形成されており、ねじ止め等により出力軸部31に固定されているが、出力軸部31と一体に形成されていてもよい。
一対の歯車440,450は、揺動歯車460を挟み込むように同軸に配置されている。そして、揺動歯車460は、固定歯車440及び出力歯車450に部分的に噛合して傾斜軸心71まわりに相対回転可能になっている。
これらの歯車440,450,460を構成する材質としては、高強度歯車鋼から低コストの一般鋼、非鉄金属や焼結材や樹脂等、一般的に使用される材質を適用することができる。また、各歯面に対して、歯形の寸法誤差や組立誤差等による片当たりを軽減するクラウニング加工等を施してもよい。
図8(a)は、図7の揺動歯車装置412の側面図である。図8(b)は、図8(a)の紙面奥行き方向の断面図である。図9は、揺動歯車装置412を構成する揺動歯車機構417の断面斜視図である。図10は、揺動歯車装置412を構成する揺動歯車460の断面斜視図である。
固定歯車440は、第1歯である歯441を複数有する。第1実施形態と同様、歯441の歯数をz1とする。複数の歯441は円環状に配置されている。複数の歯441は、軸心70の方向の一方側に指向して形成されている。
即ち、固定歯車440は、複数の歯441が形成された円環状の基体440Aで構成されている。基体440Aには、他部材であるベース90(図7)に固定される円環状の固定部447と、固定部447から固定歯車440の軸方向に延びる円環状の支持部445とが形成されている。歯441は、支持部445に設けられている。
揺動歯車460は、傾斜軸心71の方向で歯441と対向する側に形成され、歯441と噛み合う第2歯である歯461と、傾斜軸心71の方向で歯441の側とは反対側に形成された第3歯である歯462と、を複数有する。第1実施形態と同様、歯461の歯数をz2、歯462の歯数をz3とする。複数の歯461及び複数の歯462は、円環状に配置されている。
即ち、揺動歯車460は、複数の歯461及び複数の歯462が形成された円環状の基体460Aで構成されている。基体460Aには、円環状の固定部469と、歯461を支持する複数の支持部465と、歯462を支持する複数の支持部466とが形成されている。更に、基体460Aには、固定部469と支持部465とを接続する複数の接続部467と、固定部469と支持部466とを接続する複数の接続部468とが形成されている。固定部469は、他部材である傾斜ホルダ416に固定される。接続部467,468は、固定部469から半径方向(具体的には半径方向外側)にそれぞれ延びて形成されている。支持部465,466は、各接続部467,468から揺動歯車460の軸方向にそれぞれ延びて形成されている。歯461,462は、支持部465,466に設けられている。支持部465と支持部466、及び接続部467と接続部468は、円環状のスリット475により分離されている。
出力歯車450は、軸心70の方向で歯462と対向する側に形成され、歯462と噛み合う第4歯である歯451を有している。第1実施形態と同様、歯451の歯数をz4とする。複数の歯451は、円環状に配置されている。
即ち、出力歯車450は、複数の歯451が形成された円環状の基体450Aで構成されている。基体450Aには、他部材である出力軸部31(図7)に固定される円環状の固定部457と、固定部457から出力歯車450の軸方向に延びる円環状の支持部455とが形成されている。歯451は、支持部455に設けられている。
揺動歯車460は、固定歯車440及び出力歯車450の間に歯車440,450に対して傾斜して配置され、固定歯車440及び出力歯車450と噛合しながら傾斜ホルダ416と一体的に傾斜軸心71を中心に回転する。これにより、揺動歯車460の歯462は、揺動歯車460の歯461と固定歯車440の歯441との噛合部位の径方向及び軸方向の反対側で、出力歯車450に噛合するようになっている。
歯車440,450,460のうち少なくとも1つの歯車、第4実施形態では揺動歯車460が、複数の弾性変形部476,477を有する弾性歯車である。
各弾性変形部476は、複数の歯461を1つ以上の歯461で複数のグループにグループ分けしたとき、グループごとに歯461を支持し、支持している歯461に接触する歯441から受ける力により弾性変形するよう構成されている。各グループに含まれる歯461の数は2以下が好ましく、第4実施形態では各グループに含まれる歯461の数は1である。つまり、各弾性変形部476は、複数の歯461うち1つの歯461を支持している。
各弾性変形部476は、固定部469から半径方向外側に延びて形成されている。各弾性変形部476の基端が固定部469に固定されており、各弾性変形部476の先端には、1つの歯461が設けられている。
弾性変形部476により支持された歯461が相手側の歯441から受ける力によって変位することにより、揺動歯車機構417の部品の寸法誤差や組立誤差があっても、噛み合い状態を均一化することが可能となる。
第4実施形態では、基体460Aにスリット473が形成されることにより、接続部467及び支持部465で弾性変形部476が構成されている。即ち、揺動歯車460の基体460Aには、歯461と歯461の間、つまり歯間(歯461の歯底461B)から放射状に半径方向に延びるスリット473が形成されている。そして、隣り合う2つのスリット473,473により弾性変形部476が形成されている。スリット473は歯底461Bおよび接続部467を貫通している。
接続部467は、半径方向に延びる板状のばね部材である。したがって、弾性変形部476のうち接続部467が大きく弾性変形する。よって、弾性変形部476は、固定部469に固定された基端を支点として先端に設けられた歯461が受けた力により弾性変形する。なお、スリット473には、ゴム等の、弾性変形部476よりも弾性係数が低い弾性部材が配置(充填)されていてもよい。つまり、各弾性変形部476の弾性変形に支障を及ぼさない限り、スリット473に充填部材が充填されていてもよい。
各弾性変形部477は、複数の歯462を1つ以上の歯462で複数のグループにグループ分けしたとき、グループごとに歯462を支持し、支持している歯462に接触する歯451から受ける力により弾性変形するよう構成されている。各グループに含まれる歯462の数は2以下が好ましく、第4実施形態では各グループに含まれる歯462の数は1である。つまり、各弾性変形部477は、複数の歯462うち1つの歯462を支持している。
各弾性変形部477は、固定部469から半径方向外側に延びて形成されている。各弾性変形部477の基端が固定部469に固定されており、各弾性変形部477の先端には、1つの歯462が設けられている。
弾性変形部477により支持された歯462が相手側の歯451から受ける力によって変位することにより、揺動歯車機構417の部品の寸法誤差や組立誤差があっても、噛み合い状態を均一化することが可能となる。
第4実施形態では、基体460Aにスリット474が形成されることにより、接続部468及び支持部466で弾性変形部477が構成されている。即ち、揺動歯車460の基体460Aには、歯462と歯462の間、つまり歯間(歯462の歯底462B)から放射状に半径方向に延びるスリット474が形成されている。そして、隣り合う2つのスリット474,474により弾性変形部477が形成されている。スリット474は歯底462Bおよび接続部468を貫通している。
接続部468は、半径方向に延びる板状のばね部材である。したがって、弾性変形部477のうち接続部468が大きく弾性変形する。よって、弾性変形部477は、固定部469に固定された基端を支点として先端に設けられた歯462に受けた力により弾性変形する。なお、スリット474には、ゴム等の、弾性変形部477よりも弾性係数が低い弾性部材が配置(充填)されていてもよい。つまり、各弾性変形部477の弾性変形に支障を及ぼさない限り、スリット474に充填部材が充填されていてもよい。
円環状のスリット475と放射状のスリット473,474とは繋がっている。なお、スリット475にも、弾性変形部476,477の弾性変形に支障を及ぼさない限り、弾性部材等の充填部材を配置してもよい。
ここで、第4実施形態の揺動歯車装置412では、揺動歯車460の歯461の各々の間である歯底461Bにスリット473が形成されている。スリット473により歯底461Bが分断されているため、最噛合位置の点では、歯461の歯底461Bと歯441の歯先441Aとは接触しない。
同様に、揺動歯車460の歯462の各々の間である歯底462Bにスリット474が形成されている。スリット474により歯底462Bが分断されているため、最噛合位置の点では、歯462の歯底462Bと歯451の歯先451Aとは接触しない。
したがって、固定歯車440と揺動歯車460の歯同士は、スリット473により歯先441Aが相手側の歯底461Bに接触しない歯441(歯先441Aがスリット473に対向する歯441)を除き、実質的に全て接触していることになる。また、出力歯車450と揺動歯車460の歯同士は、スリット474により歯先451Aが相手側の歯底462Bに接触しない歯451(歯先451Aがスリット474に対向する歯451)を除き、実質的に全て接触していることになる。なお、実質的に全て接触しているとしたが、全て接触しているのが好ましい。
スリット473の間の接続部467は、揺動歯車460の歯461のいずれか1つに軸方向荷重を付与した場合に、荷重を受けた歯461の変位が、他の歯461の変位分布に対して不連続な特異点となることが可能な弾性変形部476としての機能を果たす。スリット474の間の接続部468は、揺動歯車460の歯462のいずれか1つに軸方向荷重を付与した場合に、荷重を受けた歯462の変位が、他の歯462の変位分布に対して不連続な特異点となることが可能な弾性変形部477としての機能を果たす。
固定歯車440は、揺動歯車460の弾性変形部476、特に接続部467をばねとして、揺動歯車460により軸方向(軸心70の方向)に予圧がかけられた状態で、固定部447がベース90に固定されている。このように、揺動歯車460は、弾性変形部476の弾性変形による反力によって揺動歯車460と噛み合う固定歯車440に対して予圧を付与した状態で配置されている。
同様に、出力歯車450は、揺動歯車460の弾性変形部477、特に接続部468をばねとして、揺動歯車460により軸方向(軸心70の方向)に予圧がかけられた状態で、固定部457が出力軸部31に固定されている。このように、揺動歯車460は、弾性変形部477の弾性変形による反力によって揺動歯車460と噛み合う出力歯車450に対して予圧を付与した状態で配置されている。
揺動歯車460は、支持部465,466から接続部467,468にかけてスリット473,474,475が形成されている。そのため、揺動歯車460と固定歯車440との噛み合いによって、支持部465に荷重を受けると、支持部465の各々の歯461が噛み合い力の大きさに応じて変位する。同様に、揺動歯車460と出力歯車450との噛み合いによって支持部466に荷重を受けると、支持部466の各々の歯462が噛み合い力の大きさに応じて変形する。この予圧により、噛み合い歯数の減少による伝達トルクの低下等や歯441と歯461との噛合部分、又は歯451と歯462との噛合部分のバックラッシの発生を抑制することができる。
さらに、揺動歯車460の歯461,462の各々が噛み合い力の大きさに応じて変位する。これにより、揺動型減速機430、具体的には揺動歯車装置412を構成する部品の寸法誤差や組立誤差によって発生する噛み合いのムラを抑制することが可能となる。特に複数の歯の各々に寸法誤差があった場合、他の歯への影響を抑えて噛み合い力が大きい歯のみの力を緩和することができ、所望の噛み合いを維持することが可能となる。これにより、揺動歯車機構417の剛性低下や振動発生を抑制し、揺動歯車機構417の安定した性能を確保することができる。
なお、第4実施形態では、弾性変形部476,477を、第1実施形態で説明した弾性変形部と略同様の構成とした場合について説明したが、これに限定するものではなく、第2、第3実施形態で説明した弾性変形部と略同様の構成としてもよい。
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されない。
第1〜第4実施形態では、垂直多関節のロボットアームの場合について説明したが、これに限定するものではない。例えば、水平多関節のロボットアーム、パラレルリンクのロボットアーム等、種々のロボットアームについて本発明は適用可能である。
また、弾性変形部は、支持する歯が噛み合い力に応じて変形できる構成であれば、いかなるものであってもよい。また、必ずしも各々の歯の間の全てにスリットを設ける必要はなく、例えば2歯毎にスリットを設けてもよい。
また、第1〜第3実施形態では、固定歯車と出力歯車の両方にそれぞれ弾性変形部を形成した場合について説明し、第4実施形態では、揺動歯車の両側にそれぞれ弾性変形部を形成した場合について説明したが、これに限定するものではない。弾性変形部は、少なくとも1つの歯車に形成していればよい。例えば、固定歯車と揺動歯車の噛み合いと、出力歯車と揺動歯車の噛み合いのうち、部品の寸法誤差や組立誤差によって接触状態にムラが発生しやすい方の噛み合い側の歯車に弾性変形部を形成するだけでもよい。また、全ての歯車に弾性変形部を形成してもよい。
また、第1〜第4実施形態では、固定歯車の歯41,441と揺動歯車の歯61,461との歯数差が1、出力歯車の歯51,451と揺動歯車の歯62,462との歯数差が1である場合について説明したが、これに限定するものではない。例えばどちらか一方の歯数差が1で、他方の歯数差が同数であってもよい。
また、第1〜第4実施形態では、軸受15,22,32は組合せアンギュラ軸受を使用した例を示しているがこれに限定されるものではなく、他の軸受を使用しても良い。また軸受の代替として、潤滑性に優れた材料、例えばPOM樹脂で形成された円筒形状部品等で代用しても良い。
また、第1〜第4実施形態では、入力軸部21に入力された回転を、揺動歯車機構によって減速し、出力軸部31から出力を取り出す構成としたが、これに限定されない。例えば、出力軸部31を固定することで、入力軸部21に入力された回転を、揺動型減速機構によって減速し、固定歯車を介してベース90から出力を取り出すこともできる。
また、第1〜第4実施形態では、出力歯車に直結された出力軸部から取り出す構成である場合について説明したが、これに限定されない。例えば、出力歯車を有さず、出力軸部と揺動歯車を自在継手等によって傾斜した状態で連結し、回転を出力するように構成してもよい。この場合、所定の減速比を得るためには、固定歯車の歯と揺動歯車の歯との歯数差を異ならせればよい。
また、第1〜第4実施形態では、揺動歯車の内径側に位置する傾斜軸部14を用いて入力軸部21の回転を揺動歯車の揺動運動に変換したが、これに限定されない。傾斜軸部14を中空として、揺動歯車の外径側に配置し、入力軸部21の回転を揺動歯車の揺動運動に変換してもよい。さらには、傾斜軸部14を用いずに、揺動歯車の固定部または傾斜ホルダの周方向の1点を軸心70の方向に機械的な力又は電磁力等によって押圧し、その押圧点を周方向に順次移動させることで揺動歯車を直接、揺動運動させてもよい。