以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
なお,本願明細書において,「A〜B」とは「A以上B以下」であることを意味する。
本発明は,ティシュペーパーやトイレットペーパーとして利用される家庭用の衛生用紙に関する。特に,本発明の衛生用紙は,坪量が10〜25g/m2の範囲にある薄葉紙であることが好ましい。また,本発明の衛生用紙は2枚又は3枚以上を重ね合わせて,2プライ又は3プライ以上の製品とすることもできる。
本発明の衛生用紙は,一般的な抄紙機を利用して製造することができる。一般的な抄紙機は,ワイヤーパート,プレスパート,ドライヤパート,カレンダパート,及びリールパートを備えている。
ワイヤーパートは,射出された抄紙原料(パルプ)を脱水してシート化する工程である。ワイヤーパートでは,予め成分が調製された抄紙原料を,水分を大量に含んだ状態でフォーミングユニットに供給し,衛生用紙の原型となる2層抄き合わせの紙層を形成する。抄紙原料に含まれる大量の水分はここで脱水されて,湿紙の地合いが整えられる。フォーミングユニットの具体的な構成について,詳しくは後述する。
プレスパートは,シート化した抄紙原料に圧力を掛けてさらに脱水する工程である。プレスパートでは,ワイヤーパートにおいて形成された2層抄き合わせの湿紙に圧力を掛け,この湿紙に含まれる水分を搾り取る。ここでは,湿紙の表面を平滑にすると同時に,湿紙の主要部を構成するパルプ成分の密度を高めて,強固な湿紙を形成する。
ドライヤパートは,乾燥機の内部に抄紙原料のシートを導入して,熱を加えることで完全に乾燥させる工程である。ドライパートでは,プレスパートを経た湿紙をヤンキードライヤーによって加熱することにより,余分な水分を強制的に蒸発させる。これにより,湿紙を乾燥させた紙を得る。ヤンキードライヤーの鏡面ロールに巻き付けて乾燥された紙は,クレーピングドクターによってクレーピング処理されつつ,この鏡面ロールの表面から剥離されて,その後のカレンダパートへと搬出される。
カレンダパートは,乾燥後のシートの表面を押圧しながら引き延ばして,シートの表面を滑らかにする工程である。すなわち,カレンダパートでは,ほぼ完成された状態の紙を一対のカレンダーロールの間に導入することにより,紙の表面を平滑に仕上げてその密度を高める。
リールパートは,各工程を経て得られた長尺の紙を巻き取って,紙が多重に巻き付けられたロール体を形成する工程である。リールパートでは,できあがった紙,つまり一枚のティシュペーパーとなる衛生用紙の原紙をロール状に巻き取る。また,その後,上記した工程を経て得られた衛生用紙の原紙ロールを2本用意し,別の工程にてこれらを重ね合わせて切断することにより,2枚一組(2プライ)のティシュペーパー製品を得ることができる。また,衛生用紙の原紙ロールを3本用意することで,3枚一組(3プライ)のティシュペーパー製品を得ることも可能である。
続いて,図1を参照して,ワイヤーパートに設置されるフォーミングユニットについて詳しく説明する。図1に示されるように,フォーミングユニット11は,フォーミングロール18と,無端状の内側ワイヤー12・外側ワイヤー13と,複数の案内ロール21を備えている。駆動ロール(不図示)に与えられた駆動力は,フォーミングロール18及び案内ロール21に伝達される。そして,フォーミングロール18及び案内ロール21が同期回転することにより,フォーミングロール18の周面の一部に接するように巻き掛けられた内側ワイヤー12と外側ワイヤー13が同速度にて走行する。これにより,フォーミングロール18の周面に巻き掛けられている内側ワイヤー12と外側ワイヤー13との間の領域に,初期フォーミング領域Zが形成される。初期フォーミング領域Zは,紙層Cの抄造及びその初期脱水を行うための湾曲した領域であり,内側ワイヤー12と外側ワイヤー13との間に形成される。
図1に示されるように,フォーミングユニット11は,ヘッドボックス19をさらに備える。ヘッドボックス19は,湾曲した初期フォーミング領域Zに向けて2種類の抄紙原料を同時に供給するための装置である。ヘッドボックス19の内部には,2種類の抄紙原料を排出口へ導くための2つの原料チャンバー23a,23bが仕切り壁24を隔てて設けられている。第1の原料チャンバー23aには,調製設備(図示省略)にて調製された第1の抄紙原料が供給される。同様に,第2の原料チャンバー23bには,調製設備(図示省略)にて調整された第2の抄紙原料が供給される。そして,第1の原料チャンバー23a内の第1の抄紙原料と第2の原料チャンバー23b内の第2の抄紙原料は,仕切り壁24によって分離され,互いに混合されることなく排出口へと導かれる。このように,ヘッドボックス19から2種類の抄紙原料を同時に噴射すると,外側ワイヤー13側には第1の抄紙原料を主体とする第1の紙層Aが形成され,内側ワイヤー12側には第2の抄紙原料を主体とする第2の紙層Bが形成される。そして,これらの紙層A及び紙層Bが一体となって,2層抄き合わせ状態の紙層(湿紙)が形成される。その後,この紙層は,内側ワイヤー12を介して,初期フォーミング領域Zからその後のプレスパートへ向けて搬送される。
上記構成のヘッドボックス19を利用することで,第1の抄紙原料を主体とする第1の紙層Aと第2の抄紙原料を主体とする第2の紙層Bからなる衛生用紙を製造することができる。そして,第1の抄紙原料と第2の抄紙原料を異なる成分に調整することで,衛生用紙の第1の紙層A(表面:第1面)と第2の紙層B(裏面:第2面)の物性値やその他の性質を異ならせることができる。例えば,第1の抄紙原料と第2の抄紙原料とでは,針葉樹パルプと広葉樹パルプの配合比率や,柔軟剤や紙力増強剤の添加量,あるいはパルプ繊維を叩解するか否かなど,種々の成分や条件を異ならせることができる。これにより,衛生用紙の表面と裏面の物性値を,独立してある程度自由に調節することが可能となる。また,ここにいう衛生用紙の物性値としては,引張強度やHF値(ハンドフィール値)などを代表例として挙げることができる。
例えば,衛生用紙の抄紙原料に関して言えば,針葉樹パルプは,剛直であって高い引張り強度を得られる反面,柔軟性や手触りが劣るという特性を有している。これに対し,広葉樹パルプは,細くしなやかで柔軟性および手触りが良好である反面,繊維長が短く,引張り強度が低くなるという特性を有している。このため,衛生用紙の強度を高くするためには針葉樹パルプの配合比率を高くすればよく,反対に衛生用紙の手触りを良化するためには広葉樹パルプの配合比率を高くすればよい。
また,抄紙原料に添加する薬剤に関して言えば,乾燥紙力剤や湿潤紙力剤のような紙力増強剤を抄紙原料に添加すると,衛生用紙の強度を増大させる効果はあるものの,紙の柔軟性や平滑性が低下するという特性を有している。これに対し,柔軟剤を抄紙原料に添加すると,衛生用紙の柔軟性や手触り感を向上させる効果があるものの,衛生用紙の強度を低下させるという特性を有している。このため,衛生用紙の強度を高くするためには紙力増強剤を添加すればよく,反対に衛生用紙の手触りを良化するためには柔軟剤を添加すればよい。
また,抄紙原料として用いるパルプ繊維(針葉樹パルプ,広葉樹パルプ等)を叩解することで,繊維間の結合が強まり引張強度を増大することができる反面,硬くなるため衛生用紙の柔軟性および手触り感が低下することとなる。このため,衛生用紙の手触りを重視する場合には,未叩解のパルプ繊維を抄紙原料として用いればよい。
上記のとおり,抄紙原料の成分は,衛生用紙の強度や手触りといった物性値に影響する。また,衛生用紙の物性値に影響を与える要因としては,パルプ繊維の配合比や,薬剤の添加の有無若しくは添加量,叩解作業の有無などが存在し,これらの要因の組み合わせによって衛生用紙の物性値が変化する。さらに,上記のように,衛生用紙を2層抄き合わせ状態のものとし,表面を構成する第1の抄紙原料と裏面を構成する第2の抄紙原料とをそれぞれ独立して調整する場合,抄紙原料の調製条件はさらに複雑なものとなる。
そこで,本発明の発明者は,衛生用紙の物性値を示すHF値に着目して研究を重ねたところ,2層抄き合わせの衛生用紙を以下の[a]及び[b]条件を満たすものとすることで,強度が高く維持し,かつ手触りを良化することができるという知見を得た。
[a]第1面のHF値が75.0以上である。
[b]第1面のHF値から第2面のHF値を差し引いた値が,4.0以上である。特に,第1面のHF値から第2面のHF値を差し引いた値は,7.0以上であることが好ましい。
[HF値の測定条件]
ここで,本願明細書において,「HF値」とは,以下の測定条件に従って測定した値を意味する。
・測定機:ティシューソフトネスアナライザー
・メーカー:Emtec Electronic GmbH(ドイツ)
・日本代理店:日本ルフト株式会社
・標準サンプル形状:直径約112.8mmの円形に切り取ったサンプル
・測定環境:ISO187に準拠した環境(23℃±1℃,湿度50%(±2%))
・測定条件:付属の説明書に従い標準サンプル(emtec ref.2X(nn.n))で1点校正し,アルゴリズムをfacialIIに設定する。計算用ソフトウェアは,emtec measurement system ver.2.98を使用した。
試料台に設置したサンプルに対し,ブレード付きローターを100mNの押し込み圧力で上方から押し込んだ後に回転数2.0(/sec)で回転させた時の振動周波数と,試料台に設置したサンプルに対し,ブレード付きローターを回転させずに100mNと600mNの押し込み圧力でそれぞれ上から押し込んだときの上下方向の変形変位量とからHF値(ハンドフィール値)が取得できる。測定は各サンプルの表面と裏面のそれぞれにつき8回ずつ行い,取得した8個のHF値の平均値から±2×[平均値の標準偏差]を超えて外れた数値を除外し,再度平均して各サンプルの表面と裏面のHF値を取得する。
上記ように,衛生用紙の第1面のHF値を75以上とすることで,衛生用紙の手触りや風合いを良化することができる。特に,第1面のHF値は77以上であることが好ましい。なお,第1面のHF値の上限値は特に限定されるものではないが,例えば85又は80とすることが好ましい。HF値が75未満であると,使用者に対して手触りや風合いが良いという感触を与えることができない。HF値が85を超えると,衛生用紙の表面の強度が著しく低下し,紙粉が発生しやすくなることが懸念される。このため,第1面のHF値は,75〜85の範囲とすることが好適である。
これに対して,衛生用紙の第2面ではHF値を敢えて低下させて,第1面とのHF値の差を4.0以上,好ましくは7.0以上とする。このように,第1面と第2面のHF値の差を大きくすることで,第1面の手触りの良さを維持しつつ,予想外にも衛生用紙全体の引張強度を高くすることができた。従って,第1面を衛生用紙の外面とすることで,手触りが良くかつ強度に優れた衛生用紙として使用することができる。他方,第2面は,第1面よりもHF値が低い反面,強度が高いため,紙粉の発生量が少ない。従って,第2面を衛生用紙の外面とすることで,衛生用紙全体の柔らかさを低下させることなく,紙粉の発生量が少ない衛生用紙として使用することができる。
衛生用紙の第1面と第2面のHF値の差(第1面のHF値−第2面のHF値)の上限値は特に限定されるものではないが,例えば20,15,又は10であることが好ましい。第1面と第2面のHF値の差が20又は15を超える場合,衛生用紙の第1面と第2面の物性値が乖離し過ぎてしまうため,第1面の抄紙原料と第2面の抄紙原料の結合力が弱まり,第1面と第2面のいずれかから紙粉が発生しやすくなるおそれがある。第1面と第2面のHF値の差は,4〜20又は7〜15の範囲とすることが好適である。
また,衛生用紙の第2面のHF値は,第1面のHF値と差が4.0以上又は7.0以上となる値であればよいが,例えば55〜75とすることが好ましい。第2面のHF値が55未満であると,第1面のHF値との差が20を超えることとなるため,上述したように衛生用紙の第1面と第2面の物性値が乖離し過ぎてしまう。他方で,第2面のHF値が75を超えると,第1面と第2面のHF値がともに高くなり過ぎてしまうため,衛生用紙全体として強度を維持することが難しくなる。そこで,衛生用紙の第2面のHF値は,55〜75の範囲とすることが好適である。
上記のように,第1面のHF値の最低条件[a]及び第1面と第2面のHF値の差の条件[b]を満たすものとすれば,手触りが良くかつ強度に優れた衛生用紙および柔らかく紙粉の発生量が少ない衛生用紙を得ることができる。このような衛生用紙を得るためには,適宜公知の製造方法や抄紙原料の調製条件を採用して,上記[a]及び[b]の条件を満たすものとすればよい。つまり,衛生用紙を製造する方法や,抄紙原料の成分,あるいは薬剤の添加量などについては特に限定されない。
衛生用紙を形成するセルロース繊維原料としては,例えば,クラフトパルプ(KP),サルファイトパルプ(SP),ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ,セミケミカルパルプ(SCP),ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ,砕木パルプ(GP),サーモメカニカルパルプ(TMP,BCTMP)等の機械パルプ,あるいは,楮,三椏,麻,ケナフ等を原料とする非木材パルプ,コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ,古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。これら単独で用いてもよいし,2種以上混合して用いてもよい。
例えば,本発明の衛生用紙において,第1面を構成する第1の抄紙原料は,広葉樹パルプを主体としたものであることが好ましい。例えば,第1面を構成する第1の抄紙原料は,この第1の抄紙原料に含まれるパルプの総質量に対し,広葉樹パルプを90〜100質量%含むものであることが好ましい。他方で,第2面を構成する第2の抄紙原料は,この第2の抄紙原料に含まれるパルプの総質量に対し,針葉樹パルプを10〜100質量%含むものであることが好ましく,特に,20〜100重量%,20〜80質量%,又は20〜70質量%含むことが好ましい。
また,例えば,衛生用紙の抄紙原料には,乾燥紙力剤や,湿潤紙力増強剤,柔軟剤などを添加することができる。乾燥紙力剤は,乾燥した状態での紙の強度を上げるための薬剤である。この乾燥紙力剤としては,例えばカチオン化澱粉,ポリアクリルアミド(PAM),及びカルボキシメチルセルロース(CMC)などの公知のものを単独または2種類以上混合して採用することができる。湿潤紙力増強剤は,紙が水に濡れたときに紙力の低下を抑えるための薬剤である。この湿潤紙力増強剤としては,例えばポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂,尿素樹脂,メラミン樹脂,及び熱架橋性付与ポリアクリルアミド(PAM)などの公知のものを単独または2種類以上混合して採用することができる。柔軟剤は,紙の柔軟性を向上させるための薬剤である。この柔軟剤としては,例えばアニオン系界面活性剤,非イオン性界面活性剤,カチオン性界面活性剤,及び両性イオン界面活性剤などの公知のものを単独または2種類以上を混合して採用することができる。
例えば,本発明の衛生用紙において,第1面を構成する広葉樹パルプを主体とした第1の抄紙原料にのみ,柔軟剤を添加することが好ましい。柔軟剤は,第1の抄紙原料に含まれるパルプの総質量に対して,0.01〜0.50質量%で添加すると良い。特に,柔軟剤の添加量は,0.015〜0.10質量%とすることが好ましい。他方で,第2面を構成する針葉樹パルプを主体とした第2の抄紙原料には,柔軟剤を添加しないことが好ましい。ただし,第2の抄紙原料には,第1の抄紙原料の1/10以下の柔軟剤が添加されていても問題はない。
また,本発明の衛生用紙において,第1面及び第2面の両方又はいずれか一方の抄紙原料に,湿潤紙力剤や乾燥紙力剤といった紙力増強剤を添加してもよい。例えば,紙力増強剤は,抄紙原料に含まれるパルプの総質量に対して,0.01〜0.15質量%又は0.05〜0.10質量%で添加すると良い。
また,本発明の衛生用紙を原紙とし,多価アルコール等の保湿成分を塗工もしくは含浸させることにより保湿ティシュを得ることができる。保湿成分としては,例えばグリセリン,ジグリセリン,ポリグリセリン,ポリエチレングリコール,プロピレングリコール等の多価アルコール類,果糖,ブドウ糖,オリゴ糖,トレハロース,乳酸,乳酸ナトリウム等が挙げられるが,これらに限定されるものではない。
また,例えば,衛生用紙の表面は,上述した湿紙を乾燥させるドライヤパートにおいて,ヤンキードライヤーの鏡面ロールに接した面(ヤンキー面)であることが好ましい。他方で,衛生用紙の裏面は,ヤンキードライヤーの鏡面ロールに接していない面(非ヤンキー面)となる。ヤンキー面は,そのHF値が向上する。他方,非ヤンキー面は,ヤンキー面と比較してHF値が低いものとなる。このため,衛生用紙の第1面をヤンキー面とすることで,この第1面のHF値を高くするとともに,第1面と第2面のHF値の差を広げることができる。
上記したように,本発明では,第1面のHF値の最低条件[a]及び第1面と第2面のHF値の差の条件[b]を満たすために,衛生用紙を製造する方法や,抄紙原料の成分,あるいは薬剤の添加量などを適宜工夫することができる。これらの衛生用紙の製造方法や抄紙原料の調製条件によらず,上記[a]及び[b]の条件を満たす衛生用紙とすれば,これらの条件の両方又はいずれか一方を満たさない衛生用紙と比較し,手触りが良く強度に優れた衛生用紙および柔らかく紙粉の発生量が少ない衛生用紙とすることができる。以下に,本発明の効果を確認するための実施例を示す。
上記表1および表2は,本発明の実施例と比較例に関する各種測定結果の一覧表を示している。汎用ティシュペーパー製品については表1に示し,CDやDVDディスク等の精密機器の拭き取り用のティシュペーパー製品については表2に示す。また,図2および図4は,縦軸を第1面のHF値とし,横軸をHF値の第1面と第2面の差の値とした分布図である。図2は,表1に示したデータの分布図であり,図4は,表2に示したデータの分布図である。また,図3は,表1のデータに関し,縦軸を官能評価のスコアとし,横軸を乾燥引張強度の測定結果とした分布図である。また,図5は,表2のデータに関し,縦軸を紙粉発生量とし,横軸を紙の曲げ剛性(KES−B)の測定結果とした分布図である。
本実施例及び比較例では,2プライのティシュペーパー製品を対象とした。2プライのティシュペーパー製品を一枚ずつに剥がして,個別の衛生用紙とした。衛生用紙は,ティシュペーパー製品の外面に相当する面を表面とし,ティシュペーパー製品の内面に相当する面を裏面とした。表1に示した汎用ティシュペーパー製品では,衛生用紙の第1面を表面とし,衛生用紙の第2面を裏面とした。他方で,表2に示した精密機器等の拭き取り用ティシュペーパー製品では,衛生用紙の第1面を裏面とし,衛生用紙の第2面を表面とした。なお,「表面」とは,衛生用紙のうち拭き取りの対象(使用者の肌や精密機器等)に直接触れることが想定されている面を意味し,「裏面」とは,この表面とは反対側の面を意味する。言い換えると,2プライのティシュペーパー製品は,衛生用紙の裏面同士を向かい合せて重ねたものとなる。
本発明の実施例1は,パルプスラリー全体(100%)のうち,第1面を構成する第1の抄紙原料に広葉樹クラフトパルプ(以下「LBKP」)を40%配合し,第2面を構成する第2の抄紙原料に針葉樹クラフトパルプ(以下「NBKP」)を50%,LBKPを10%配合した。つまり,第1の抄紙原料と第2の抄紙原料の重量比を,約4:6とした。また,第1の抄紙原料は,LBKP100%とし,第2の抄紙原料は,LBKP17%,NBKP83%とした。また,パルプスラリーには,湿潤紙力剤を第1の抄紙原料(第1面)及び第2の抄紙原料(第2面)の両方にそれぞれ0.09重量%(対パルプ重量)ずつ添加し,柔軟剤を第1の抄紙原料(第1面)のみに0.02重量%(対パルプ重量)添加した。添加薬品は,荒川化学工業株式会社製の湿潤紙力剤と,星光PMC株式会社製の柔軟剤を使用した。このように調成したパルプスラリーを,2層抄きクレセントフォーマーを用いて抄造し,坪量11.2g/m2の衛生用紙を得た。また,衛生用紙は,その第1面をヤンキー面(ヤンキードライヤーの鏡面ロールに接した面)とし,第2面を非ヤンキー面(ヤンキードライヤーの鏡面ロールに接していない面)とした。得られた衛生用紙2枚を,第1面が外面になるように重ね合せることにより汎用的なティシュペーパー製品を得た。
本発明の実施例2は,パルプスラリー全体(100%)のうち,第1面を構成する第1の抄紙原料にLBKPを50%配合し,第2面を構成する第2の抄紙原料にNBKPを10%,LBKPを40%配合した。つまり,第1の抄紙原料と第2の抄紙原料の重量比を,約5:5とした。また,第1の抄紙原料は,LBKP100%とし,第2の抄紙原料は,LBKP80%,NBKP20%とした。また,パルプスラリーには,湿潤紙力剤を第1の抄紙原料(第1面)及び第2の抄紙原料(第2面)の両方にそれぞれ0.09重量%(対パルプ重量)ずつ添加し,柔軟剤を第1の抄紙原料(第1面)のみに0.11重量%(対パルプ重量)添加した。湿潤紙力剤および柔軟剤は実施例1と同じものを使用した。このように調成したパルプスラリーを,2層抄きクレセントフォーマーを用いて抄造し,坪量13.9g/m2の衛生用紙を得た。また,衛生用紙は,その第1面をヤンキー面とし,第2面を非ヤンキー面とした。得られた衛生用紙2枚を,第1面が外面になるように重ね合せることにより汎用的なティシュペーパー製品を得た。
本発明の実施例3は,実施例2で得られた衛生用紙2枚を,第1面が外面になるように重ね合せた後,保湿剤を塗布し,汎用的な保湿ティシュペーパー製品を得た。保湿剤はミヨシ油脂株式会社製の保湿剤を使用した。保湿剤は,ティシュペーパー100重量部に対して,9.4重量%含有するようにティシュペーパーに塗布した。すなわち,2枚重ねのティシュペーパー27.8g/m2に対して保湿剤を2.6g/m2塗布した。
本発明の実施例4は,実施例1で得られた衛生用紙2枚を,第2面が外面になるように重ね合せることにより精密機器拭き取り用のティシュペーパー製品を得た。
本発明の実施例5は,実施例2で得られた衛生用紙2枚を,第2面が外面になるように重ね合せることにより精密機器拭き取り用のティシュペーパー製品を得た。
本発明の実施例6は,実施例2で得られた第2面が外面になるように重ね合せた後,保湿剤を塗布し,精密機器拭き取り用の保湿ティシュペーパー製品を得た。保湿剤はミヨシ油脂株式会社製の保湿剤を使用した。保湿剤は,ティシュペーパー100重量部に対して,9.4重量%含有するようにティシュペーパーに塗布した。すなわち,2枚重ねのティシュペーパー27.8g/m2に対して保湿剤を2.6g/m2塗布した。
比較例1は,パルプスラリー全体(100%)のうち,LBKPを80%,NBKPを20%配合した。パルプスラリーには,湿潤紙力剤を0.08重量%(対パルプ重量)添加し,柔軟剤を0.25重量%(対パルプ重量)添加した。湿潤紙力剤および柔軟剤は実施例1と同じものを使用した。このように調成したパルプスラリーを,長網抄紙機を用いて抄造し,坪量13.9g/m2の衛生用紙を得た。また,衛生用紙は,その第1面をヤンキー面とし,第2面を非ヤンキー面とした。得られた衛生用紙2枚を,第1面が外面になるように重ね合せることにより汎用的なティシュペーパー製品を得た。
比較例2は,パルプスラリー全体(100%)のうち,LBKPを50%,NBKPを50%配合した。パルプスラリーには,湿潤紙力剤を0.08重量%(対パルプ重量)添加し,柔軟剤を0.10重量%(対パルプ重量)添加した。湿潤紙力剤および柔軟剤は実施例1と同じものを使用した。このように調成したパルプスラリーを,長網抄紙機を用いて抄造し,坪量12.0/m2の衛生用紙を得た。また,衛生用紙は,その第1面をヤンキー面とし,第2面を非ヤンキー面とした。得られた衛生用紙2枚を,第1面が外面になるように重ね合せることにより汎用的なティシュペーパー製品を得た。
比較例3及び比較例4は,市販されている他社製の製品である。比較例3及び比較例4としては,市販品を購入したものを利用した。
比較例5は,比較例1で得られた衛生用紙2枚を,第2面が外面になるように重ね合せることにより精密機器拭き取り用のティシュペーパー製品を得た。
比較例6は,比較例2で得られた衛生用紙2枚を,第2面が外面になるように重ね合せることにより精密機器拭き取り用のティシュペーパー製品を得た。
比較例7及び比較例8は,市販されている他社製の製品である。比較例7及び比較例8としては,市販品を購入したものを利用した。
上記した実施例1〜6及び比較例1〜8のそれぞれについて,衛生用紙のHF値,坪量,厚さ,2プライのティシュペーパー製品の乾燥引張強度を測定した。また,上記した実施例1〜3および比較例1〜4のそれぞれについて,2プライのティシュペーパー製品のHF値を測定し,肌触りの良さの官能評価を行った。また,上記した実施例4〜6および比較例5〜8のそれぞれについて,2プライのティシュペーパー製品の紙粉の発生量および曲げ剛性(KES−B値)を測定した。
衛生用紙のHF値の測定には,ティシューソフトネスアナライザー(Emtec Electronic GmbH製)を用いた。測定環境や測定条件については,上述した[HF値の測定条件]のとおりである。
坪量の測定値は,ティシュペーパー製品を構成する1プライ(つまり,個別の衛生用紙)の測定値を示している。坪量は,JIS P8124の規定に従って測定した。
厚さの測定値は,ティシュペーパー製品を構成する1プライ(つまり,個別の衛生用紙)の測定値を示している。厚さは,ISO187に準拠した環境で,厚さ計(ハイブリッジ製作所製)を用いて,測定子を1秒間に1mm以下の速度で下ろした時の値を読み取った。なお,測定は試料8枚を1枚ずつ測定し,取得した8個の厚さを平均した。
ティシュペーパー製品のHF値は,2プライの状態のまま測定した値ある。ティシュペーパー製品のHF値は,上述した衛生用紙のHF値の測定条件と同じである。
ティシュペーパー製品の官能評価は,2プライの状態のままで実施した。官能評価は,肌触りの良さを5段階(5:良い 4:やや良い 3:普通 2:やや悪い 1:悪い)に分けて,男女各20人ずつ(合計40人)の試験者の回答の平均値を求めた。表1に示す官能評価の結果は,得られた平均値の小数点第2位以下を切り捨てた値である。官能評価の結果としては,平均点3.5以下のものを不適とした。
ティシュペーパー製品の乾燥引張強度は,2プライの状態のままで実施した。乾燥引張強度は,JIS P8113に準拠して測定した。縦方向と横方向の乾燥引張強度の幾何平均が1.5[N/25mm]を下回ると,抄造中に断紙等のトラブルが発生する。このため,乾燥引張強度の測定結果としては,幾何平均が1.5[N/25mm]以下のものを不適とした。
ティシュペーパー製品の紙粉量の測定は,2プライの状態のままで実施した。紙粉量は,メトロノームに合わせて0.5秒間隔で,ティシュペーパーボックスからすべてのティシュを抜き出し,その時に飛散した紙粉,ボックス内にたまった紙粉,およびフィルム窓に付着した紙粉を集めて重量を測定した。同試験を5回行い,その平均値を各サンプルの紙粉量とした。紙粉量が5mgを超えると,CDやDVDディスクなどの拭き取りの際に紙粉が付着しデータの読み取り等に支障をきたす危険性があるため,紙粉量が5mgを超えたものは不適とした。
ティシュペーパー製品の曲げ剛性(KES−B値)は,2プライの状態のままで実施した。KES−B値は,布服用布地の風合いの客観的評価方法として周知のKES(Kawabata Evaluation System)に基づいたものであり,柔軟性の指標とされる。縦方向と横方向のKES−B値の幾何平均が0.015[g・cm2/cm]を超えると柔軟性が乏しくなる。KES−B値に関する計測内容の詳細については,カトーテック株式会社製の同試験機の説明書にて公知であるが,特開2004−60114号公報などにても公知である。
まず,衛生用紙の第1面(HF値が高い面)を外面として2枚重ね合わせた汎用ティシュペーパー製品について検討する。汎用ティッシュペーパー製品の試験結果については,
表1,図2,及び図3に示されている。
上記の表1に示されるとおり,比較例1は,第1面(表面)のHF値が75以上であるものの,HF値の表裏差が4未満であった。その結果,比較例1は,乾燥引張強度の幾何平均が1.5[N/25mm]を下回るものとなった。従って,比較例1は,抄造が困難であるとともに,箱から取り出す際に破断が生じる可能性が高い。
比較例2は,第1面(表面)と第2面(裏面)ともにHF値が75未満であり,またHF値の表裏差も4未満であった。その結果,比較例2は,官能評価のスコアが3.1となり,肌触りに優れたものではなかった。
比較例3は,HF値の表裏差は4以上であるものの,第1面(表面)のHF値が75未満であった。その結果,比較例3は,官能評価のスコアが3.4となり,肌触りが良好であるとは認められないものであった。
比較例4は,第1面(表面)と第2面(裏面)ともにHF値が75未満であり,またHF値の表裏差も4未満であった。その結果,比較例4は,官能評価のスコアが2.9となり,肌触りに優れたものではなかった。
上記比較例1〜4に対して,本発明の実施例1は,第1面(表面)のHF値が77.6であると同時に,HF値の表裏差が13.6であった。その結果,実施例1は,官能評価のスコアが4.0であり,優れた肌触りを有していると認められるものであった。また,実施例1は,縦方向と横方向の乾燥引張強度の幾何平均が2.67[N/25mm]であり,抄造に耐え得る十分な強度を有していた。
本発明の実施例2は,第1面(表面)のHF値が77.7であると同時に,HF値の表裏差が7.6であった。その結果,実施例2は,官能評価のスコアが4.7であり,極めて優れた肌触りを有していると認められるものであった。また,実施例2は,縦方向と横方向の乾燥引張強度の幾何平均が1.87[N/25mm]であり,抄造に耐え得る十分な強度を有していた。
本発明の実施例3は,第1面(表面)のHF値が77.7であると同時に,HF値の表裏差が7.6であった。さらに,実施例3は,保湿剤を含有するものである。その結果,実施例3は,官能評価のスコアが最高点の4.9であり,最も優れた肌触りを有していると認められるものであった。また,実施例3は,縦方向と横方向の乾燥引張強度の幾何平均が1.72[N/25mm]であり,抄造に耐え得る十分な強度を有していた。
以上のとおり,衛生用紙は,表面のHF値を75.0以上とし,かつ,表面のHF値から裏面のHF値を差し引いた値を4.0以上とすることで,肌触りに優れ十分な強度を有するものとなることが確認できた。
続いて,衛生用紙の第2面(HF値が低い面)を外面として2枚重ね合わせた精密機器拭き取り用ティシュペーパー製品について検討する。精密機器拭き取り用ティッシュペーパー製品の試験結果については,表2,図4,及び図5に示されている。
上記の表2に示されるとおり,比較例5は,第1面(裏面)のHF値が75以上であるものの,HF値の表裏差が4未満であった。その結果,比較例5は,紙粉発生量が6.7[mg/箱]であり,紙粉発生量が多いものであった。従って,比較例5は,精密機器拭き取り用ティッシュペーパー製品としては不向きである。
比較例6は,第1面(裏面)と第2面(表面)ともにHF値が75未満であり,またHF値の表裏差も4未満であった。その結果,比較例6は,曲げ剛性が0.0154[g・cm2/cm]であり,基準値の0.015[g・cm2/cm]を超えるものであった。このため,比較例6は,柔軟性が乏しく,精密機器拭き取りに不向きである。
比較例7は,HF値の表裏差は4以上であるものの,第1面(裏面)のHF値が75未満であった。その結果,比較例7は,紙粉発生量が5.3[mg/箱]であり,紙粉発生量が多いものであった。このため,比較例7は,精密機器拭き取り用ティシュペーパー製品としては不向きである。
比較例8は,第1面(裏面)と第2面(表面)ともにHF値が75未満であり,またHF値の表裏差も4未満であった。その結果,比較例8は,曲げ剛性が0.0174[g・cm2/cm]であり,基準値の0.015[g・cm2/cm]を超えるものであった。このため,比較例8は,柔軟性が乏しく,精密機器拭き取りに不向きである。
上記比較例5〜8に対して,本発明の実施例4は,第1面(裏面)のHF値が77.6であると同時に,HF値の表裏差が13.6であった。その結果,実施例4は,紙粉発生量が0.7[mg/箱]と極めて少なく,また曲げ剛性が0.0115[g・cm2/cm]であり優れた柔軟性を有していた。
本発明の実施例5は,第1面(裏面)のHF値が77.7であると同時に,HF値の表裏差が7.6であった。その結果,実施例5は,紙粉発生量が3.2[mg/箱]と少なく,また曲げ剛性が0.0094[g・cm2/cm]であり優れた柔軟性を有していた。
本発明の実施例6は,第1面(裏面)のHF値が77.7であると同時に,HF値の表裏差が7.6であった。さらに,実施例6は,保湿剤を含有するものである。その結果,実施例6は,紙粉発生量が2.7[mg/箱]と少なく,また曲げ剛性が0.0064[g・cm2/cm]であり極めて優れた柔軟性を有していた。
以上のとおり,衛生用紙は,表面のHF値を75.0以上とし,かつ,表面のHF値から裏面のHF値を差し引いた値を4.0以上とすることで,柔らかくなり,しかも紙粉の発生量が少なくなることが確認できた。従って,実施例4〜6は,精密機器拭き取り用ティッシュペーパー製品として実用的な性能を有していることが確認できた。
以上,本願明細書では,本発明の内容を表現するために,本発明の実施形態及び実施例の説明を行った。ただし,本発明は,上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく,本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。