JP2016195090A - 絶縁電線、該絶縁電線の製造方法および該絶縁電線を用いたコイル - Google Patents

絶縁電線、該絶縁電線の製造方法および該絶縁電線を用いたコイル Download PDF

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【課題】絶縁電線の各種性能を犠牲にすることなく製造コスト低減に貢献できる絶縁電線、該絶縁電線の製造方法および該絶縁電線を用いたコイルを提供する。【解決手段】本発明に係る絶縁電線は、金属導体線の外周に絶縁被覆が形成されている絶縁電線であって、前記絶縁被覆は、前記金属導体線の直上に所定の樹脂複合材を押出被覆した主絶縁層を含み、前記所定の樹脂複合材は、フェノキシ樹脂の分子鎖中のアルコール性水酸基をイソシアネート化合物で変性したイソシアネート変成フェノキシ樹脂と、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機フィラーとを含むことを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、回転電機や変圧器などの電気機器のコイルに用いられる絶縁電線に係り、特に、押出被覆層を含む絶縁被覆が形成された絶縁電線、該絶縁電線の製造方法および該絶縁電線を用いたコイルに関するものである。
回転電機や変圧器などの電気機器のコイルに用いられている絶縁電線(マグネットワイヤ)は、一般的に、コイルの用途・形状に合致した断面形状(例えば、丸形状や四辺形状)に成形された金属導体線の外周に単層または複数層の絶縁被覆が形成された構造を有している。
近年、コイルを有する電気機器への小型化・高出力化の要求により、当該コイルにおける絶縁電線の高密度巻線や、コイルの高電圧運転・インバータ制御が進展している。その結果、コイルの運転温度が以前よりも上昇傾向にあり、マグネットワイヤの絶縁被覆には、従来以上に高い耐熱性(例えば、H種相当以上の耐熱クラス)が求められている。また、該絶縁被覆には、曲率の大きい屈曲に耐えられる機械的特性(例えば、高い密着性や高い伸長性)も求められている。
絶縁被覆を形成する方法には、大別して、樹脂組成物またはその前駆体を有機溶剤に溶解させた絶縁塗料(絶縁ワニス)を金属導体線上に塗布・焼付する方法と、予め調合した樹脂組成物(熱可塑性樹脂組成物)を金属導体線上に押出被覆する方法とがある。そして、絶縁電線の絶縁被覆における耐熱性や機械的特性の確保は、通常、絶縁被覆材料として耐熱性および機械的特性の高い樹脂組成物を用いることによってなされる。
絶縁ワニスを金属導体線上に塗布・焼付する方法では、樹脂組成物として、しばしばイミド系樹脂(例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂)が用いられる(例えば、特許文献1参照)。また、樹脂組成物を金属導体線上に押出被覆する方法では、樹脂組成物として、しばしばスーパーエンジニアリングプラスチック(例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン)が用いられる(例えば、特許文献2参照)。
特開2013−155281号公報 特開2014−105257号公報 特開2010−108758号公報
絶縁ワニスを金属導体線上に塗布・焼付する方法は、従来からエナメル線の製造方法として広く利用されてきた。この方法によるエナメル線の製造は、均等な厚さの絶縁被覆を得るため、通常、絶縁ワニスの1回の塗布・焼付で極薄の被膜を形成し、それを多数回(例えば、10〜20回)繰り返すことによって行われる。ただし、本製造方法は、焼付工程毎に絶縁ワニスの溶剤成分が必然的に排出されるため、昨今の環境保護の要請から、その対策コストが非常に大きくなってきている。
一方、樹脂組成物を金属導体線上に押出被覆する方法は、製法上、溶剤を使用することなく所望厚さの絶縁被膜を1回の押出工程で形成できることから、工程数の削減と環境負荷の低減とに有利であると考えられている。しかしながら、高耐熱性絶縁電線を本方法で製造する場合、前述したようにスーパーエンジニアリングプラスチックを主絶縁層として用いることが多いが、スーパーエンジニアリングプラスチックは、汎用プラスチックや汎用エンジニアリングプラスチックに比して非常に高価であるため、全体としての製造コストが低くならないという問題があった。
また、各種電気機器への小型化・高出力化の要求に加えて、該電気機器に対するコスト低減要求は強まる一方である。このため、絶縁電線の各種性能(例えば、耐熱性、機械的特性)を少なくとも維持した上で(または向上させた上で)、全体としての製造コストを低減できる技術が非常に重要になってきている。
したがって、本発明の目的は、絶縁電線の各種性能を犠牲にすることなく製造コスト低減に貢献できる絶縁電線、該絶縁電線の製造方法および該絶縁電線を用いたコイルを提供することにある。
(I)本発明の一態様は、上記目的を達成するため、金属導体線の外周に絶縁被覆が形成されている絶縁電線であって、
前記絶縁被覆は、前記金属導体線の直上に所定の樹脂複合材を押出被覆した主絶縁層を含み、
前記所定の樹脂複合材は、フェノキシ樹脂の分子鎖中のアルコール性水酸基をイソシアネート化合物で変性したイソシアネート変成フェノキシ樹脂と、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機フィラーとを含むことを特徴とする絶縁電線を提供する。
なお、本発明において、主絶縁層とは最も厚い絶縁層と定義する。
(II)本発明の他の一態様は、上記目的を達成するため、本発明に係る絶縁電線の製造方法であって、
前記樹脂複合材を調合する工程と、前記金属導体線を加熱する工程と、調合した前記樹脂複合材を前記金属導体線の外周に押出被覆して前記主絶縁層を形成する工程と、形成した前記主絶縁層を加熱して被覆した前記樹脂複合材を熱硬化させる工程とを有することを特徴とする絶縁電線の製造方法を提供する。
(III)本発明の更に他の一態様は、上記目的を達成するため、本発明に係る絶縁電線を用いてコイル巻きされたことを特徴とするコイルを提供する。
本発明によれば、絶縁電線の各種性能を犠牲にすることなく製造コスト低減に貢献できる絶縁電線、該絶縁電線の製造方法および該絶縁電線を用いたコイルを提供することができる。
本発明の第1実施形態に係る絶縁電線の一例を示す断面模式図である。 本発明の第1実施形態に係る絶縁電線の他の一例を示す断面模式図である。 本発明に係る絶縁電線の縦断面の微細組織例を示す模式図である。 本発明に係る絶縁電線の製造方法の一例を示す模式図である。 本発明に係るコイルの一例(回転電機の固定子に組み込まれたコイル)を示す部分拡大模式図である。 実施例1の絶縁電線の縦断面組織の一例を示すSEM観察像である。 カールフィッシャー法による主絶縁層の吸水量測定の相対比較結果を示すグラフである。
本発明は、前述した本発明に係る絶縁電線(I)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記所定の樹脂複合材は、100質量部の前記イソシアネート変成フェノキシ樹脂と、10質量部以上40質量部以下の前記エポキシ樹脂と、10質量部以上40質量部以下の前記硬化剤と、10質量部以上30質量部以下の前記無機フィラーとからなる。
(ii)前記無機フィラーは板状粒子からなり、前記絶縁電線の縦断面を観察した時に、前記板状粒子の長軸方向が前記金属導体線の表面に対して45°以下の平均傾角となるように、前記無機フィラーが前記主絶縁層中に分散している。
(iii)前記無機フィラーは、その平均粒径が0.01μm以上10μm以下である。
(iv)前記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシとビスフェノールF型エポキシとの共重合体、または、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との混合物である。
(v)前記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂と所定の共重合体との混合物であり、前記所定の共重合体が、ビスフェノールA型エポキシとビスフェノールF型エポキシとの共重合体である。
(vi)前記イソシアネート変性フェノキシ樹脂は、前記アルコール性水酸基の10%超85%以下がイソシアネート化されている。
(vii)前記イソシアネート変性フェノキシ樹脂は、100質量部の前記フェノキシ樹脂に対して0.03当量超0.3当量以下の前記イソシアネート化合物を付加脱離反応してなる。
(viii)前記絶縁被覆は、前記主絶縁層の外周に自己融着層を更に有する。
(ix)前記主絶縁層は、押出被覆された後に、該押出被覆時の温度以上の温度で熱硬化処理されている。
(本発明の基本思想)
本発明者らは、金属導体線の外周に絶縁被覆を押出形成した絶縁電線において、絶縁電線の各種性能(例えば、耐熱性、機械的特性)を犠牲にすることなく製造コスト低減に貢献できる絶縁電線の構造について検討した。
前述したように、絶縁被覆を押出形成した高耐熱性絶縁電線では、絶縁被覆材料の樹脂組成物が高価であることが、製造コスト低減のネックになっていた。そこで、本発明者等は、押出被覆に好適で安価な熱可塑性樹脂を種々調査・検討したところ、フェノキシ樹脂が有力候補として考えられた。
フェノキシ樹脂は、汎用プラスチックの一種であることから安価であり、かつ優れた伸長性と金属に対する優れた密着性とを示すという特長がある。ただし、フェノキシ樹脂は、スーパーエンジニアリングプラスチックと比べると熱的特性に劣ることから、フェノキシ樹脂を主成分とした高耐熱押出被覆層を実現しようとした場合、フェノキシ樹脂の熱的特性(特に、耐熱性)を改善する技術が必要とされる。
フェノキシ樹脂を用いた絶縁被覆の熱的特性を改善する技術として、例えば、特許文献3がある。特許文献3には、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂80〜30質量%及びビスフェノールS型フェノキシ樹脂20〜70質量%のフェノキシ樹脂100質量部、ならびにブロックイソシアネート5〜50質量部を含有するフェノキシ樹脂絶縁ワニスが、開示されている。特許文献3によると、前記ビスフェノールA型フェノキシ樹脂のガラス転移点は60〜90℃であり、前記ビスフェノールS型フェノキシ樹脂のガラス転移点は100〜150℃であり、ガラス転移点が異なる2種類のフェノキシ樹脂をブレンドした絶縁ワニスを用いることで、高温時、高負荷下における絶縁被膜の耐軟化性が向上するとされている。
特許文献3の技術は、その記載内容から、絶縁電線の押出被覆層およびその耐熱性向上を意図したものでないことが判る。言い換えると、特許文献3の記載に基づいて、フェノキシ樹脂を主成分とした押出被覆層でH種相当以上の耐熱クラス(180℃)を実現することは困難と考えられた。
しかしながら、フェノキシ樹脂の価格および該樹脂が有する優れた伸長性と優れた密着性とは大変魅力的であったことから、本発明者等は、分子構造にまで遡って考察し、フェノキシ樹脂の熱的特性を改善する技術を鋭意検討した。その結果、フェノキシ樹脂の分子鎖中のアルコール性水酸基が該樹脂の熱的特性と強く相関している可能性が見出された。また、フェノキシ樹脂は分子構造中にエポキシ基を有していることに着目した。
そこで、本発明者等は、フェノキシ樹脂中のアルコール性水酸基を減少させるべく、該水酸基をイソシアネート化したイソシアネート変成フェノキシ樹脂を用い、さらにエポキシ樹脂と共に架橋重合反応させたところ、フェノキシ樹脂の熱的特性が劇的に改善されることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施形態を説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。また、同義の部材・部位については、同じ符号を付して重複する説明を省略する。
[第1実施形態]
(絶縁電線)
図1は、本発明の第1実施形態に係る絶縁電線の一例を示す断面模式図であり、金属導体線の断面形状が丸形状の場合を例示している。図2は、本発明の第1実施形態に係る絶縁電線の他の一例を示す断面模式図であり、金属導体線の断面形状が四辺形状の場合を例示している。図1,2に示したように、本実施形態に係る絶縁電線10,11は、金属導体線1,2の直上に所定の樹脂複合材を押出被覆した主絶縁層3が絶縁被覆として形成されている。なお、図1,2では単芯線の場合を示したが、金属導体線が撚線であってもよい。
(金属導体線)
金属導体線1,2に特段の限定は無く、エナメル線で常用される芯線(例えば、銅線、アルミ線、合金線)を用いることができる。より具体的には、例えば銅線の場合、銅素材としてタフピッチ銅、脱酸銅および無酸素銅のいずれでもよく、芯線の表面に錫、ニッケル、銀、アルミニウムなどがめっきされためっき銅線であってもよく、シランカップリング剤などの有機金属化合物で表面処理された表面処理銅線であってもよい。また、合金線の場合、合金素材として銅−錫合金、銅−銀合金、銅−亜鉛合金、銅−クロム合金、銅−ジルコニウム合金、アルミニウム−銅合金、アルミニウム−銀合金、アルミニウム−亜鉛合金、アルミニウム−鉄合金、イ号アルミ合金(Aldrey Aluminum)などを用いることができる。
(樹脂複合材)
本発明に係る絶縁電線10,11は、主絶縁層3として用いる樹脂複合材に最大の特徴がある。該樹脂複合材は、イソシアネート変成フェノキシ樹脂とエポキシ樹脂と硬化剤と無機フィラーとを含む。より具体的には、100質量部のイソシアネート変成フェノキシ樹脂と、10質量部以上40質量部以下のエポキシ樹脂と、10質量部以上40質量部以下の硬化剤と、10質量部以上30質量部以下の無機フィラーとからなる。
変性前のフェノキシ樹脂の一例の化学構造式を化学式(1)に示し、イソシアネート変成フェノキシ樹脂の一例の化学構造式を化学式(2)に示す。下記化学式(1),(2)に示したように、本発明で用いるイソシアネート変成フェノキシ樹脂(化学式(2))は、フェノキシ樹脂(化学式(1))中のアルコール性水酸基をイソシアネート化したものである。
Figure 2016195090
Figure 2016195090
上記樹脂複合材は、イソシアネート変成フェノキシ樹脂を主成分とすることからフェノキシ樹脂の基本特性を有し、押出成形時には該樹脂複合材を熱可塑性樹脂として取り扱うことができる(すなわち、押出被覆層の形成に好適である)。また、フェノキシ樹脂が元来有する優れた伸長性と優れた密着性とを示す。加えて、イソシアネート変成フェノキシ樹脂は、フェノキシ樹脂中のアルコール性水酸基をイソシアネート化したことにより、樹脂の耐湿性が改善される(例えば、加熱しても発泡しない)という付加的な作用効果も奏する。
一方、化学式(1),(2)に示したようにフェノキシ樹脂は分子構造中にエポキシ基を有し、上記樹脂複合材はイソシアネート変成フェノキシ樹脂の他にエポキシ樹脂と硬化剤とを含有する。そのため、上記樹脂複合材を押出成形した後に適切な加熱処理を施すと、それら構成成分が互いに架橋して、イソシアネート変性フェノキシ樹脂の重合度を増大させる熱硬化反応が生じる(すなわち、熱硬化性樹脂として振る舞い始める)。その結果、上記樹脂複合材を用いて形成した主絶縁層3は、構成樹脂の重合体を生成し分子量が増大することから、優れた耐熱性(H種相当以上の耐熱クラス)と長期の耐熱寿命とを示すという格別の作用効果を奏する。
樹脂複合材におけるエポキシ樹脂や硬化剤の配合比率が前述の規定よりも下回ると、フェノキシ樹脂の重合度増大が不十分になって熱的特性(例えば、耐熱性)の改善が不十分となる。一方、エポキシ樹脂や硬化剤の配合比率が前述の規定よりも上回ると、樹脂複合材の流動性が低下して押出成形性(例えば、寸法精度)が劣化する。また、無機フィラーの配合比率が前述の規定よりも上回ると、樹脂複合材の流動性が低下して押出成形性が劣化すると共に、絶縁被覆の伸長性が劣化する。一方、無機フィラーの配合比率が前述の規定よりも下回ると、無機フィラー添加による作用効果(例えば、耐熱性や絶縁性の向上)が不十分になる。
本発明で用いるイソシアネート変成フェノキシ樹脂について、より詳細に説明する。
本発明で用いるフェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシとビスフェノールF型エポキシとの共重合体、または、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との混合物が好ましい。あるいは、本発明で用いるフェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂と所定の共重合体との混合物であり、該共重合体がビスフェノールA型エポキシとビスフェノールF型エポキシとの共重合体であることが好ましい。
複数種のフェノキシ樹脂を組み合わせることにより、押出成形を容易にするためのガラス転移温度調整と粘度調整とを行うことができる。なお、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂は粘度が高いことから、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂を用いる場合は、イソシアネート変成フェノキシ樹脂中のビスフェノールA型フェノキシ樹脂の比率を50質量%以下とすることが好ましい。
上記のフェノキシ樹脂は、常法にしたがって調合してもよいし、市販品を利用してもよい。例えば、ビスフェノールA型エポキシとビスフェノールF型エポキシとの共重合体としては、新日鉄住金化学株式会社製のYP-70やZX-1356-2を用いることができる。ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂としては、それぞれ、新日鉄住金化学株式会社製のYP-50とFX-316とを用いることができる。
また、本発明で用いるイソシアネート変性フェノキシ樹脂は、フェノキシ樹脂中のアルコール性水酸基とイソシアネート化合物との付加脱離反応によって得られたものであり、該アルコール性水酸基の10%超85%以下がイソシアネート化されているものであることが好ましく、15%以上85%以下がより好ましい。イソシアネート化された水酸基が10%以下であると、耐湿性改善の作用効果が十分に得られない。一方、水酸基の85%超をイソシアネート化しても、耐湿性改善の作用効果が飽和するため、手間・コストが無駄になる。
当該イソシアネート変性フェノキシ樹脂を得るためには、例えば、100質量部のフェノキシ樹脂に対して0.03当量超0.3当量以下のイソシアネート化合物を付加脱離反応させればよい。0.05当量以上0.3当量以下のイソシアネート化合物を反応させるのがより好ましい。イソシアネート化合物に特段の限定はなく、例えば、シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製のフェニルイソシアネート、東京化成工業株式会社製の1,4-フェニレンジイソシアネート、昭和電工株式会社製のカレンズMOI、昭和電工株式会社製のカレンズMOI-BPなどを用いることができる。
前述したように、樹脂複合材はエポキシ樹脂を含む。用いるエポキシ樹脂に特段の限定はないが、押出成形時の粘度調整の観点から低分子量エポキシ樹脂が好ましく、例えば、三菱化学株式会社製のグレード828やグレード1001などを用いることができる。
さらに、樹脂複合材は硬化剤を含む。硬化剤としては、加熱処理によりエポキシ基と反応するものを任意に選択することができ、例えば、芳香族ポリアミン(ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォンなど)、酸無水物(4-メチルヘキサヒドロフタル酸など)、フェノールノボラック樹脂、ジシアンジアミドを用いることができる。また、必要に応じて硬化促進剤として、三級アミン類、イミダゾール類、ホスフィン類などを用いることができる。
前述したように、本発明の樹脂複合材は無機フィラーを含む。樹脂複合材に無機フィラーを含有させる(すなわち、主絶縁層3中に無機フィラーを分散させる)ことにより、該樹脂複合材(主絶縁層3)の耐熱性や絶縁性の向上に貢献する。無機フィラーとしては、例えば、ケイ素酸化物粉末、雲母(マイカ)粉末、滑石(タルク)粉末、六方晶窒化ホウ素粉末、水酸化アルミニウム粉末を好ましく用いることができる。特に、板状または鱗片状の粒子(板状粒子と総称する)からなるケイ素酸化物粉末(例えば、日本板硝子株式会社製のガラスフレーク)、マイカ粉末(例えば、株式会社ヤマグチマイカ製のY-1800やA-11)、タルク粉末(例えば、日本タルク株式会社製のMICRO ACEシリーズ)、六方晶窒化ホウ素粉末(例えば、昭和電工株式会社製のショウビーエヌ/UHP)が好ましい。
無機フィラーの平均粒子径としては、0.01μm以上10μm以下が好ましく、0.1μm以上10μm以下がより好ましく、0.1μm以上5μm以下が更に好ましい。無機フィラーの平均粒子径が0.01μm未満では、粒子が小さ過ぎて凝集し易くなり、主絶縁層3中での均等分散が困難になる。一方、無機フィラーの平均粒子径が10μm超になると、粒子が大き過ぎて主絶縁層3の押出成形性(例えば、寸法精度)や機械的特性が低下する。無機フィラーの平均粒子径は、例えばレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて見積もることができる。
図3は、本発明に係る絶縁電線の縦断面の微細組織例を示す模式図である。本発明の絶縁電線10は、主絶縁層3を押出被覆して形成していることから、図3に示したように、板状粒子からなる無機フィラー31が樹脂複合材の剪断応力方向(すなわち、押出方向、金属導体線1の表面に平行な方向)に配向する。より具体的には、板状粒子からなる無機フィラー31は、その長軸方向(図中のA−A’やB−B’)が金属導体線1の表面に対して45°以下の平均傾角となるように、主絶縁層3中に分散配向する。言い換えると、無機フィラー31の配向の様子から、主絶縁層3が押出被覆された様子を推定することができる。
なお、金属導体線1の表面に対する無機フィラー31の長軸方向の平均傾角は、例えば、ImageJ(Rasband, W.S作製、U. S. National Institutes of Health配布)などの画像解析ソフトを用い、無機フィラー31を楕円体と近似して、その長軸方向と金属導体線1の表面とのなす角を求めることで得ることができる。
(絶縁電線の製造方法)
次に、本発明に係る絶縁電線の製造方法について説明する。本発明に係る絶縁電線の製造方法は、基本的に押出成形による絶縁電線の製造方法であり、大きく分けて、前述した樹脂複合材を調合する工程と、金属導体線を加熱する工程と、調合した樹脂複合材を金属導体線の外周に押出被覆して主絶縁層を形成する工程と、形成した主絶縁層を加熱して被覆した樹脂複合材を熱硬化させる工程とを有する。
より具体的に説明する。図4は、本発明に係る絶縁電線の製造方法の一例を示す模式図である。まず、押出被覆する樹脂複合材30は、あらかじめ調合してペレット化しておくことが好ましい(樹脂複合材調合工程)。金属導体線加熱工程では、加熱装置41を用いて金属導体線1を所定の温度に加熱する。所定の温度としては、樹脂複合材30のガラス転移温度以上で、熱硬化反応の開始温度未満(熱硬化反応が実質的に進行しない温度)が好ましい。
次に、押出被覆工程において、加熱された金属導体線1の外周に、押出機42を用いて樹脂複合材30を押出被覆して主絶縁層3を形成する。あらかじめ調合された樹脂複合材30は、押出機42に設けられたホッパ43から投入され、押出機42内で金属導体線1と同等の温度に加熱され、十分に混練される。その後、押出機42の先端に設けられたクロスヘッド44を介して樹脂複合材31が押出成形され、主絶縁層3が形成される。
なお、上記の説明では、樹脂複合材30をあらかじめ調合してペレット化しておく場合を示したが、本発明はそれに限定されるものではなく、例えば、樹脂複合材30の調合原料をホッパ43から投入し、押出機42内で樹脂複合材30を調合してもよい。また、押出被覆工程の後に、必要に応じて、形成した主絶縁層3を冷却する冷却工程を行ってもよい。
次に、熱硬化工程において、加熱装置45を用いて主絶縁層3を加熱して、被覆した樹脂複合材30を熱硬化させて絶縁電線10を製造する。なお、図4では、押出被覆工程の直後に熱硬化工程を行っているが、本発明はそれに限定されるものではなく、例えば、押出被覆工程の後にコイル巻線工程を行い、その後、熱硬化工程を行ってもよい。
[第2実施形態]
(コイル)
本発明に係る絶縁電線は、回転電機や変圧器などの電機機器のコイル用電線として好適に用いることができる。図5は、本発明に係るコイルの一例(回転電機の固定子に組み込まれたコイル)を示す部分拡大模式図である。図5に示したように、回転電機の固定子50は、ステータコア51のスロット52の内部に、本発明のエナメル線11が捲回されたコイル20が組み込まれている。
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
(実施例1の作製と評価)
実施例1の樹脂複合材の構成成分として次の材料を用意した。フェノキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシとビスフェノールF型エポキシとの共重合体(新日鉄住金化学株式会社製のYP-70)を用い、イソシアネート化合物としてフェニルイソシアネート(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)を用い、エポキシ樹脂として低分子量エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製のグレード1001)を用い、硬化剤としてフェノールノボラックHF4Mを用い、無機フィラーとしてマイカ粉末(株式会社ヤマグチマイカ製のY-1800)を用いた。また、イミダゾールグレードの硬化促進剤(三菱化学株式会社製のP200)を用意した。
はじめに、フェノキシ樹脂100質量部に対して、イソシアネート化合物12質量部(0.1当量に相当)を加えて120℃で混練して、イソシアネート変成フェノキシ樹脂を用意した。続いて、これにエポキシ樹脂と硬化剤と無機フィラーとをそれぞれ10質量部ずつ加え、更に硬化促進剤5質量部を加えて120℃で混練し、実施例1の樹脂複合材を作製した。
次に、金属導体線として丸銅線(導体径1 mm)を用い、該丸銅線の外周に実施例1の樹脂複合材を140℃で押出被覆して、実施例1の絶縁電線(図1参照)を作製した。主絶縁層の厚さは100μmとした。なお、この段階では、主絶縁層の熱硬化処理を行わなかった。
得られた絶縁電線に対して光学顕微鏡を用いて断面観察を行い、主絶縁層の最大厚さと最小厚さとの差を調査して、押出成形性(寸法精度)の評価を行った。「合格/不合格」の判定基準を「10μm以下の差/10μm超の差」としたところ、合格であることが確認された。
また、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて主絶縁層中の無機フィラーの様子を観察した。図6は、実施例1の絶縁電線の縦断面組織の一例を示すSEM観察像である。図6に示したように、板状粒子からなる無機フィラー31が主絶縁層3中に分散配向している様子が確認された。金属導体線1の表面に対する無機フィラー31の長軸方向の傾角を画像解析により求めたところ、「平均傾角≒41°」であった。
次に、上記で作製した絶縁電線を、導体径と同じ径を有する巻付棒に巻き付けてコイル化し、光学顕微鏡を用いて主絶縁層の様子(主絶縁層での亀裂の有無、銅線からの剥離の有無)を観察した(JIS C3003に準拠した自己径巻付試験)。その結果、主絶縁層での亀裂および銅線からの剥離は観察されなかったが、主絶縁層に白濁が見られた。
次に、上記の自己径巻付コイルに対して熱硬化処理(180℃で30分間保持)を施し、光学顕微鏡を用いて主絶縁層の様子を再度観察した。その結果、主絶縁層での亀裂および銅線からの剥離が観察されなかったと共に、主絶縁層の白濁も消失した。
以上の結果から、実施例1の絶縁電線は、主絶縁層の主成分としてフェノキシ樹脂を用いながら、良好な耐熱性と良好な機械的特性とを確保できることが確認された。
(実施例2の作製と評価)
実施例2の樹脂複合材の構成成分として次の材料を用意した。フェノキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシとビスフェノールF型エポキシとの共重合体(新日鉄住金化学株式会社製のYP-70)およびビスフェノールA型フェノキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製のYP-50)の混合物(質量比で4:1)を用い、エポキシ樹脂として低分子量エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製のグレード828)を用いた。イソシアネート化合物、硬化剤、無機フィラー、および硬化促進剤は、実施例1と同じものを用いた。
まず、フェノキシ樹脂混合物100質量部に対して、イソシアネート化合物36質量部(0.3当量に相当)を加えて120℃で混練して、イソシアネート変成フェノキシ樹脂を用意した。続いて、これにエポキシ樹脂40質量部と硬化剤10質量部と無機フィラー10質量部とを加え、更に硬化促進剤5質量部を加えて120℃で混練し、実施例2の樹脂複合材を作製した。
次に、金属導体線として平角銅線(3 mm×1.5 mm)を用い、該平角銅線の外周に実施例2の樹脂複合材を140℃で押出被覆して、実施例2の絶縁電線(図2参照)を作製した。主絶縁層の厚さは150μmとした。なお、この段階では、主絶縁層の熱硬化処理を行わなかった。
得られた絶縁電線に対して光学顕微鏡を用いて断面観察を行い、実施例1と同様に押出成形性の評価を行ったところ、合格であることが確認された。
次に、上記で作製した絶縁電線を、直径3 mmの巻付棒にエッジワイズ方向に巻き付けてコイル化し、光学顕微鏡を用いて主絶縁層の様子(主絶縁層での亀裂の有無、銅線からの剥離の有無)を観察した。その結果、実施例1と同様に、主絶縁層での亀裂および銅線からの剥離は観察されなかったが、主絶縁層に白濁が見られた。
次に、上記のエッジワイズ巻付コイルに対して熱硬化処理(180℃で30分間保持)を施し、光学顕微鏡を用いて主絶縁層の様子を再度観察した。その結果、実施例1と同様に、主絶縁層での亀裂および銅線からの剥離が観察されなかったと共に、主絶縁層の白濁も消失した。
以上の結果から、実施例2の絶縁電線も、主絶縁層の主成分としてフェノキシ樹脂を用いながら、良好な耐熱性と良好な機械的特性とを確保できることが確認された。
(実施例3の作製と評価)
実施例3の樹脂複合材の構成成分として次の材料を用意した。フェノキシ樹脂としてビスフェノールA型フェノキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製のYP-50)とビスフェノールF型フェノキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製のFX-316)との混合物(質量比で5:1)を用いた。イソシアネート化合物、エポキシ樹脂、硬化剤、無機フィラー、および硬化促進剤は、実施例1と同じものを用いた。
まず、フェノキシ樹脂混合物100質量部に対して、イソシアネート化合物8質量部(0.07当量に相当)を加えて120℃度で混練して、イソシアネート変成フェノキシ樹脂を用意した。続いて、これにエポキシ樹脂40質量部と硬化剤40質量部と無機フィラー15質量部とを加え、更に硬化促進剤5質量部を加えて120℃で混練し、実施例3の樹脂複合材を作製した。
次に、実施例1と同様に、金属導体線として丸銅線(導体径1 mm)を用い、該丸銅線の外周に実施例3の樹脂複合材を140℃で押出被覆して、実施例3の絶縁電線(図1参照)を作製した。主絶縁層の厚さは100μmとした。なお、この段階では、主絶縁層の熱硬化処理を行わなかった。
得られた絶縁電線に対して光学顕微鏡を用いて断面観察を行い、実施例1と同様に押出成形性の評価を行ったところ、合格であることが確認された。
次に、上記で作製した絶縁電線を用いて、実施例1と同様に自己径巻き付けしてコイル化し、光学顕微鏡を用いて主絶縁層の様子(主絶縁層での亀裂の有無、銅線からの剥離の有無)を観察した。その結果、実施例1と同様に、主絶縁層での亀裂および銅線からの剥離は観察されなかったが、主絶縁層に白濁が見られた。
次に、上記の自己径巻付コイルに対して熱硬化処理(180℃で30分間保持)を施し、光学顕微鏡を用いて主絶縁層の様子を再度観察した。その結果、実施例1と同様に、主絶縁層での亀裂および銅線からの剥離が観察されなかったと共に、主絶縁層の白濁も消失した。
以上の結果から、実施例3の絶縁電線も、主絶縁層の主成分としてフェノキシ樹脂を用いながら、良好な耐熱性と良好な機械的特性とを確保できることが確認された。
(比較例1−1〜1−5の作製と評価)
比較例1−1〜1−5の樹脂複合材は、実施例1の樹脂複合材と比べて、構成成分の配合比率が異なる例である。比較例1−1〜1−5の樹脂複合材の構成成分(フェノキシ樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂、硬化剤、無機フィラー、および硬化促進剤)としては、実施例1と同じものを用いた。
比較例1−1〜1−5の樹脂複合材構成成分の配合比率を表1に示す。まず、フェノキシ樹脂100質量部に対して、イソシアネート化合物12質量部(0.1当量に相当)を加えて120℃で混練して、イソシアネート変成フェノキシ樹脂を用意した。続いて、該イソシアネート変成フェノキシ樹脂に表1の配合比率でエポキシ樹脂と硬化剤と無機フィラーと硬化促進剤とを加えて120℃で混練し、比較例1−1〜1−5の樹脂複合材を作製した。
Figure 2016195090
表1に示したように、比較例1−1,1−2はエポキシ樹脂の配合比率が本発明の規定を外れる例であり、比較例1−3,1−4は硬化剤の配合比率が本発明の規定を外れる例であり、比較例1−5は無機フィラーの配合比率が本発明の規定を外れる例である。
次に、金属導体線として丸銅線(導体径1 mm)を用い、該丸銅線の外周に比較例1−1〜1−5の樹脂複合材を140℃で押出被覆して、比較例1−1〜1−5の絶縁電線(図1参照)を作製した。主絶縁層の厚さは100μmとした。なお、この段階では、主絶縁層の熱硬化処理を行わなかった。
得られた絶縁電線に対して光学顕微鏡を用いて表面観察と断面観察とを行い、実施例1と同様に押出成形性の評価を行った。その結果、比較例1−2,1−4の絶縁電線は、主絶縁層表面に亀裂が生じており、樹脂複合材の押出被覆自体が困難であった。比較例1−1,1−3,1−5の絶縁電線は、主絶縁層の最大厚さと最小厚さとの差が10μm超となっており、押出成形性が不合格であった。
また、比較例1−5の絶縁電線を用いて、実施例1と同様の自己径巻付試験を行ったところ、主絶縁層での亀裂および銅線からの剥離が観察され、フェノキシ樹脂の利点(優れた伸長性、優れた密着性)が相殺されていることが確認された。
(比較例2−1,2−2の作製と評価)
比較例2−1,2−2の樹脂複合材は、実施例1の樹脂複合材と比べて、フェノキシ樹脂中のアルコール性水酸基の変性度合が異なる例である。比較例2−1,2−2の樹脂複合材の構成成分(フェノキシ樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂、硬化剤、無機フィラー、および硬化促進剤)としては、実施例1と同じものを用いた。
比較例2−1,2−2におけるフェノキシ樹脂とイソシアネート化合物との配合比率を表2に示す。表2に示したように、比較例2−1は、イソシアネート化合物で変性していない例である。比較例2−1は、フェノキシ樹脂100質量部に対して、イソシアネート化合物3.6質量部(0.03当量に相当)を加えて120℃で混練して、イソシアネート化した例である。他成分の調合は実施例1と同様にして、比較例2−1,2−2の樹脂複合材を作製した。
Figure 2016195090
次に、金属導体線として丸銅線(導体径1 mm)を用い、該丸銅線の外周に比較例2−1,2−2の樹脂複合材を140℃で押出被覆して、比較例2−1,2−2の絶縁電線(図1参照)を作製した。主絶縁層の厚さは100μmとした。なお、この段階では、主絶縁層の熱硬化処理を行わなかった。
得られた絶縁電線に対して光学顕微鏡を用いて表面観察と断面観察とを行い、実施例1と同様に押出成形性の評価を行った。その結果、比較例2−1,2−2の絶縁電線は、主絶縁層内に気泡が観察されると共に、主絶縁層の最大厚さと最小厚さとの差が10μm超となって押出成形性が不合格であった。ただし、比較例2−2は、比較例2−1よりも不具合の程度が少なかった。
次に、比較例2−1,2−2の絶縁電線を用いて、実施例1と同様の自己径巻付試験を行ったところ、主絶縁層の気泡を起点とした亀裂や銅線からの剥離が観察された。
比較例2−1,2−2における主絶縁層内の気泡発生は、フェノキシ樹脂中のアルコール性水酸基への水分吸着に起因すると考えられた。そこで、カールフィッシャー法を用いて、押出被覆後で熱硬化処理前における主絶縁層の吸水量を調査した。供試材としては、比較例2−1,2−2の他に、実施例1,3を用いた。
図7は、カールフィッシャー法による主絶縁層の吸水量測定の相対比較結果を示すグラフである。相対吸水量としては、比較例2−1の吸水量を基準とした。図7に示したように、イソシアネート変性した比較例2−2は、イソシアネート変性していない比較例2−1よりも吸水量が少ないことが確認された。また、比較例2−2よりもイソシアネート変性量が大きい実施例1,3は、吸水量が更に少ないことが確認された。
吸水量測定および主絶縁層内の気泡発生の有無の結果から、樹脂複合材に用いるイソシアネート変性フェノキシ樹脂は、ベースとなるフェノキシ樹脂中のアルコール性水酸基に対して、0.03当量超を変性したものが好ましいと考えられた。
(比較例3の作製と評価)
比較例3の樹脂複合材は、実施例1の樹脂複合材と比べて、イソシアネート変成フェノキシ樹脂のベースとなるフェノキシ樹脂が異なる例である。フェノキシ樹脂としては、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製のYP-50)のみを用いた。他の構成成分(イソシアネート化合物、エポキシ樹脂、硬化剤、無機フィラー、および硬化促進剤)としては、実施例1と同じものを用いた。実施例1と同様の手順で比較例3の樹脂複合材を作製した。
次に、金属導体線として丸銅線(導体径1 mm)を用い、該丸銅線の外周に比較例3の樹脂複合材を140℃で押出被覆して、比較例3の絶縁電線(図1参照)を作製した。主絶縁層の厚さは100μmとした。なお、この段階では、主絶縁層の熱硬化処理を行わなかった。
得られた絶縁電線に対して光学顕微鏡を用いて表面観察と断面観察とを行い、実施例1と同様に押出成形性の評価を行った。その結果、比較例3の絶縁電線は、主絶縁層表面に亀裂が生じており、樹脂複合材の押出被覆自体が困難であった。この結果は、ベースとなるフェノキシ樹脂の粘度が非常に高かったことに起因すると考えられた。
(比較例4の作製と評価)
比較例4では、実施例1に相当する樹脂複合材を絶縁ワニスとして調合し、該絶縁ワニスの塗布・焼付により絶縁電線を製造する例を検討した。樹脂複合材の構成成分(フェノキシ樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂、硬化剤、無機フィラー、および硬化促進剤)としては、実施例1と同じものを用いた。
まず、実施例1と同様にして用意したイソシアネート変成フェノキシ樹脂を、溶媒(400 mLのテトラヒドロフラン)に溶解して、イソシアネート変成フェノキシ樹脂溶液を作製した。次に、他の構成成分(エポキシ樹脂、硬化剤、無機フィラー、および硬化促進剤)を該溶液に添加・混合して、比較例4の絶縁ワニスを調合した。
次に、金属導体線として丸銅線(導体径1 mm)を用い、該丸銅線の外周に比較例4の絶縁ワニスを塗布し、160℃で焼付した。1回の塗布・焼付で得られる被膜厚さが約4μmであったことから、25回の塗布・焼付を繰り返して比較例4の絶縁電線(主絶縁層厚さ100μm)を作製した。
得られた絶縁電線に対して光学顕微鏡を用いて表面観察と断面観察とを行ったところ、主絶縁層内に多数の気泡発生が確認されると共に、主絶縁層の寸法精度が著しく悪いものであった。また、SEMを用いて主絶縁層中の無機フィラーの様子を観察したところ、無機フィラーの配向は認識できなかった(無機フィラーの長軸方向がランダムになっていた)。これらの結果から、本発明の樹脂複合材は、絶縁ワニスとしての利用は不適当であると考えられた。
なお、本明細書に記載した実施形態や実施例は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、本発明は、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施形態の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
10,11…絶縁電線、1,2…金属導体線、3…主絶縁層、
20…コイル、30…樹脂複合材、31…無機フィラー、
41,45…加熱装置、42…押出機、43…ホッパ、44…クロスヘッド、
50…固定子、51…ステータコア、52…スロット。

Claims (11)

  1. 金属導体線の外周に絶縁被覆が形成されている絶縁電線であって、
    前記絶縁被覆は、前記金属導体線の直上に所定の樹脂複合材を押出被覆した主絶縁層を含み、
    前記所定の樹脂複合材は、フェノキシ樹脂の分子鎖中のアルコール性水酸基をイソシアネート化合物で変性したイソシアネート変成フェノキシ樹脂と、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機フィラーとを含むことを特徴とする絶縁電線。
  2. 請求項1に記載の絶縁電線において、
    前記所定の樹脂複合材は、100質量部の前記イソシアネート変成フェノキシ樹脂と、10質量部以上40質量部以下の前記エポキシ樹脂と、10質量部以上40質量部以下の前記硬化剤と、10質量部以上30質量部以下の前記無機フィラーとからなることを特徴とする絶縁電線。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線において、
    前記無機フィラーは板状粒子からなり、
    前記絶縁電線の縦断面を観察した時に、前記板状粒子の長軸方向が前記金属導体線の表面に対して45°以下の平均傾角となるように、前記無機フィラーが前記主絶縁層中に分散していることを特徴とする絶縁電線。
  4. 請求項3に記載の絶縁電線において、
    前記無機フィラーは、その平均粒径が0.01μm以上10μm以下であることを特徴とする絶縁電線。
  5. 請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の絶縁電線において、
    前記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシとビスフェノールF型エポキシとの共重合体、または、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との混合物であることを特徴とする絶縁電線。
  6. 請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の絶縁電線において、
    前記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂と所定の共重合体との混合物であり、
    前記所定の共重合体が、ビスフェノールA型エポキシとビスフェノールF型エポキシとの共重合体であることを特徴とする絶縁電線。
  7. 請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の絶縁電線において、
    前記イソシアネート変性フェノキシ樹脂は、前記アルコール性水酸基の10%超85%以下がイソシアネート化されていることを特徴とする絶縁電線。
  8. 請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の絶縁電線において、
    前記イソシアネート変性フェノキシ樹脂は、100質量部の前記フェノキシ樹脂に対して0.03当量超0.3当量以下の前記イソシアネート化合物を付加脱離反応してなることを特徴とする絶縁電線。
  9. 請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の絶縁電線において、
    前記主絶縁層は、押出被覆された後に、該押出被覆時の温度以上の温度で熱硬化処理されていることを特徴とする絶縁電線。
  10. 請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の絶縁電線の製造方法であって、
    前記樹脂複合材を調合する工程と、
    前記金属導体線を加熱する工程と、
    調合した前記樹脂複合材を前記金属導体線の外周に押出被覆して前記主絶縁層を形成する工程と、
    形成した前記主絶縁層を加熱して被覆した前記樹脂複合材を熱硬化させる工程とを有することを特徴とする絶縁電線の製造方法。
  11. 請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の絶縁電線を用いてコイル巻きされたことを特徴とするコイル。
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