JP2016181316A - 磁気記録媒体用組成物、磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体 - Google Patents

磁気記録媒体用組成物、磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体 Download PDF

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Abstract

【課題】磁気記録媒体において強磁性粉末の分散性向上と磁性層の耐久性向上をともに達成するための新たな手段を提供すること。【解決手段】強磁性粉末と、結合剤と、ラジカル反応、イオン反応およびペリ環状反応からなる群から選ばれる少なくとも1つの反応により架橋構造を形成可能な成分と、を含み、上記架橋性成分は、少なくとも、ラジカル反応性基、イオン反応性基およびペリ環状反応性基からなる群から選ばれる反応性基と、酸性基と、をそれぞれ1分子中に1つ以上有し、かつ重量平均分子量が1,000〜20,000の範囲であるポリエステルを含む磁気記録媒体用組成物。磁気記録媒体の製造方法。磁気記録媒体。【選択図】なし

Description

本発明は、磁気記録媒体用組成物、磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体に関する。
塗布型磁気記録媒体(以下、単に「磁気記録媒体」とも記載する。)は、通常、強磁性粉末とともに結合剤を含む組成物を、非磁性支持体上に直接または非磁性層等の他の層を介して間接的に塗布し、必要に応じて加熱等の硬化処理を施し磁性層を形成することにより作製される。
従来、塗布型磁気記録媒体では、強磁性粉末の分散性や磁性層の耐久性向上等に、結合剤が重要な役割を果たしてきた。そのため結合剤について様々な検討が行われてきた(例えば一例として、特許文献1参照)。
特開2004−67941号公報
強磁性粉末の分散性向上に関しては、特許文献1に記載されているように、スルホン酸塩基等の極性基を結合剤に導入することが行われている。結合剤への極性基導入は、結合剤を強磁性粉末の表面に効率的に吸着させることにより分散性を高めるために行われている。しかるに特許文献1の段落0026にも記載されているように、極性基の過剰量の導入は、かえって強磁性粉末の分散性を低下させる傾向がある。したがって、結合剤への極性基導入では、強磁性粉末の分散性向上を十分に達成することは困難になってきている。
また、磁性層の耐久性向上に関しては、従来、磁性層の結合剤として力学物性の高い樹脂を用いることが検討されてきた。この点に関し、特許文献1には、磁性層の結合剤として用いられるポリウレタン樹脂の力学物性向上のためにウレタン基濃度を高めるべく、芳香族ポリイソシアネート等の所定の共重合成分を用いることが提案されている。しかるに、特許文献1の段落0025に記載されているように、結合剤として用いられる樹脂のウレタン基濃度を高めるほど、樹脂の力学物性を高めることはできるが溶解性は低下し、その結果、強磁性粉末の分散性は低下する傾向がある。そのため、特許文献1の段落0025には、ウレタン基濃度は、強磁性粉末の分散性を良好に維持できる範囲内にすべきであることが記載されている。
一方、近年、磁性層には、よりいっそう優れた耐久性を有することが求められている。この要因としては、市場の要求性能が高度化していること、強磁性粉末が微粒子化していること等が挙げられる。例えば近年の市場の要求性能としては、従来に比べてより長期間、高い信頼性をもって連続走行可能な高い耐久性を有することが挙げられる。また、強磁性粉末の微粒子化に伴い1ビット当たりの磁力は弱くなるため、そのようなビットから情報を読み出すために、再生ヘッドと磁気記録媒体(磁性層)表面とは、より近接化する傾向にある。そのため近年、再生ヘッドと磁気記録媒体(磁性層)表面との接触頻度は高まっている。したがって、磁気記録媒体は、磁性層表面が従来と比べ傷を受けやすい状態で使用されるようになってきている。
そこで磁性層の耐久性向上のために、従来検討されてきたように磁性層の結合剤として用いる樹脂の力学物性を高めることが考えられる。しかるに上記の通り、磁性層の耐久性向上のために結合剤の力学物性を高めようとするほど強磁性粉末の分散性は低下する傾向にある。即ち、近年求められている磁性層の更なる耐久性向上を強磁性粉末の分散性向上とともに達成することは、従来行われてきたような結合剤による対応では、困難になってきている。
そこで本発明の目的は、磁気記録媒体において強磁性粉末の分散性向上と磁性層の耐久性向上をともに達成するための新たな手段を提供することにある。
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の磁気記録媒体用組成物:
強磁性粉末と、
結合剤と、
ラジカル反応により架橋構造を形成可能な成分、イオン反応により架橋構造を形成可能な成分およびペリ環状反応により架橋構造を形成可能な成分からなる群から選ばれる架橋性成分と、
を含み、
上記架橋性成分は、少なくとも、ラジカル反応性基、イオン反応性基およびペリ環状反応性基からなる群から選ばれる反応性基と、酸性基と、をそれぞれ1分子中に1つ以上有し、かつ重量平均分子量が1,000〜20,000の範囲であるポリエステル(以下、「架橋性ポリエステル」とも記載する。)を含む磁気記録媒体用組成物、
を見出すに至った。上記磁気記録媒体用組成物を用いて磁性層を形成することによって、磁気記録媒体において強磁性粉末の分散性向上と磁性層の耐久性向上をともに達成することができる。この点に関する本発明者らによる推察は、以下の通りである。
分散性向上に関しては、上記架橋性ポリエステルに含まれる酸性基が、強磁性粉末の粒子表面への吸着部となることにより、上記架橋性ポリエステルは強磁性粉末に効率的に吸着することができると考えられる。そのうえで、上記架橋性ポリエステルに含まれるポリエステル鎖が立体障害効果をもたらし強磁性粉末の粒子同士の凝集を防ぐことができることが、強磁性粉末の分散性向上に寄与するのではないかと、本発明者らは考えている。
また、ポリエステルとは、ポリエステル鎖を含む重合体である。なお本発明および本明細書において、重合体とは、同一構造の重合性化合物の重合体であるホモポリマーと、異なる構造の2種以上の重合性化合物の重合体であるコポリマーとを包含する意味で用いるものとする。本発明者らは、上記架橋性ポリエステルに含まれるポリエステル鎖が、磁性層(塗膜)に適度な伸びやすさを付与することに寄与しているのではないかと考えている。より詳しくは、磁性層を単に高強度化するのみでは、磁性層の脆性が低下し破断しやすくなると考えられるが、上記架橋性ポリエステルが磁性層に適度な伸びやすさを付与することが、磁性層の耐久性向上に寄与しているのではないかと、本発明者らは推察している。加えて、上記範囲の重量平均分子量を有するポリエステルは、可塑剤的な作用を果たすことによって磁性層の脆性を改良することができると考えられ、このことも磁性層の耐久性向上に寄与しているのではないかと本発明者らは考えている。
更に、上記のように酸性基によって強磁性粉末の粒子表面に吸着したポリエステルが、このポリエステルが有する上記反応性基によって架橋反応し架橋構造を形成することにより、磁性層の塗膜強度は、より高まると考えられる。このことが、磁性層の耐久性をいっそう向上することに寄与すると、本発明者らは推察している。
ただし、以上は本発明者らによる推察に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
なお、上記の架橋反応として、ラジカル反応、イオン反応およびペリ環状反応からなる群から選ばれる反応を採用する理由は、これら反応が、磁気記録媒体の製造工程において行い得る処理(例えば、加熱、光照射等)によって開始させ得る反応だからである。ここで公知の通り、ラジカル反応とはラジカルが関与する反応であり、イオン反応とはイオンが関与する反応であり、ペリ環状反応とは2つのπ電子系が軌道相互作用により環化する反応である。
一態様では、上記架橋性ポリエステルは、上記反応性基を1分子中に2つ以上有する。
一態様では、上記架橋構造を形成可能な成分は、上記架橋性ポリエステルが有する反応性基と架橋反応可能な基を1分子中に2つ以上有する化合物を更に含む。以下において、かかる化合物を、「架橋剤」とも記載する。
一態様では、上記化合物(架橋剤)の分子量は、100〜5000の範囲である。なお本発明および本明細書において分子量とは、多量体については、重量平均分子量をいうものとする。重量平均分子量については、更に後述する。
一態様では、上記化合物(架橋剤)は、上記架橋性ポリエステルが有する反応性基と架橋反応可能な基を1分子中に3〜8つ有する。
一態様では、上記架橋構造を形成可能な成分は、上記架橋性ポリエステルが有する反応性基と架橋反応可能な基を1分子中に1つ以上有する結合剤(以下、「架橋性結合剤」とも記載する。)を含む。
一態様では、上記架橋性ポリエステルは、下記一般式1で表されるポリエステルおよび下記一般式2で表されるポリエステルからなる群から選択される。
一般式1中、Aは、上記反応性基およびポリエステル鎖を含む1価の基を表し、R11およびR12は、それぞれ独立に単結合または2価の連結基を表し、R13は、水素原子または1価の基を表し、mは2以上の整数を表し、複数存在するA、R11、R12、R13は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、Aはヒドロキシル基または−O−R14−Zで表される1価の基を表し、R14は単結合または2価の連結基を表し、Zは酸性基を表し、複数存在するAのうちの少なくとも1つは−O−R14−Zで表される1価の基を表し、Xはm価の連結基を表す。
一般式2中、R21は上記反応性基を表し、Xは−O−、−S−または−NR22−を表し、R22は水素原子または1価の基を表し、Lは2価の連結基を表し、Zは酸性基を1つ以上有するn価の部分構造を表し、m2は2以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。
一態様では、上記ポリエステルは、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリル基、ビニル基およびアリル基からなる群から選ばれるラジカル反応性基を1分子中に1つ以上有する。
一態様では、上記架橋性ポリエステルは、カルバメート基、ヒドロキシル基、メルカプト基、アルデヒド基、アセタール基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、メチロール基、メトキシメチル基、スチリル基、マレイミド基およびアミノ基からなる群から選ばれるイオン反応性基を1分子中に1つ以上有する。なお本発明および本明細書において、アミノ基とは、特記しない限り、一級アミノ基、二級アミノ基および三級アミノ基を包含する意味で用いるものとする。
一態様では、上記架橋性ポリエステルは、共役ジエン含有基および二重結合含有基からなる群から選ばれるペリ環状反応性基を1分子中に1つ以上有する。ここで共役ジエン含有基とは、単結合を1つ介して2つの二重結合が連結している構造(共役ジエン構造)を含む基をいう。二重結合含有基とは、二重結合を1つ以上含む基であって、二重結合を2つ以上含む場合には、共役ジエン構造を含んでいてもよく、含まなくてもよい。
一態様では、二重結合含有基は、マレイミド基である。
一態様では、上記ポリエステルは、カルボキシ基およびカルボキシ塩からなる群から選択される酸性基を有する。なお、後述の「カルボキシ(塩)基」とは、カルボキシ基とカルボキシ塩とを包含する意味で用いるものとする。
一態様では、上記架橋性ポリエステルは、少なくとも2つの酸性基を有し、隣り合う2つの炭素原子にそれぞれ酸性基が1つ結合している。
一態様では、上記ポリエステルは、下記部分構造:
を有する。上記部分構造において、AおよびAは、それぞれ独立に酸性基を表し、*は上記架橋性ポリエステルを構成する他の構造との結合位置を表す。
一態様では、上記部分構造において、*は上記架橋性ポリエステルに含まれるポリエステル鎖との結合位置を表す。
一態様では、上記強磁性粉末の平均粒子サイズは、10nm以上50nm以下である。
本発明の更なる態様は、
非磁性支持体上に磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、
上記磁性層を、上記磁気記録媒体用組成物を加熱する工程を経て形成することを含む磁気記録媒体の製造方法、
に関する。
本発明の更なる態様は、上記製造方法により製造された磁気記録媒体に関する。
本発明によれば、強磁性粉末の分散性向上と磁性層の耐久性向上を両立することが可能となる。
[磁気記録媒体用組成物]
本発明の一態様は、強磁性粉末と、結合剤と、ラジカル反応、イオン反応およびペリ環状反応からなる群から選ばれる少なくとも1つの反応により架橋構造を形成可能な成分と、を含み、上記架橋性成分は、少なくとも、ラジカル反応性基、イオン反応性基およびペリ環状反応性基からなる群から選ばれる反応性基と、酸性基と、をそれぞれ1分子中に1つ以上有し、かつ重量平均分子量が1,000〜20,000の範囲であるポリエステルを含む磁気記録媒体用組成物に関する。
磁気記録媒体用組成物とは、塗布型磁気記録媒体の製造に使用され得る組成物である。上記磁気記録媒体用組成物は、強磁性粉末を含むものであるため、塗布型磁気記録媒体の磁性層形成用組成物として用いることができる。以下において、磁気記録媒体用組成物を、「組成物」とも記載する。
本発明および本明細書において、数値範囲について記載する「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
また、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。ある基が置換基を有する場合、置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1〜6のアルキル基)、ヒドロキシル基、アルコキシ基(例えば炭素数1〜6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ(塩)基等を挙げることができる。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。
また、本発明および本明細書において、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。なお集合とは、これを構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、結合剤や添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。以上の点は、非磁性粉末等の他の粉末についても同様とする。
なお、本発明および本明細書において、粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定する値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて行うことができる。
本発明において、各種粉末についての平均粒子サイズとは、特記しない限り、上記方法により求められる平均粒子サイズをいうものとする。後述の実施例に示す平均粒子サイズの測定は、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H−9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて行った。
本発明および本明細書において、粉末を構成する粒子のサイズ(以下、「粒子サイズ」と言う)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚さまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径であり、平均板状比とは、(最大長径/厚さまたは高さ)の算術平均である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
以上記載した平均粒子サイズ等は、粉末として存在するものについては、この粉末を透過型電子顕微鏡により観察し求めることができる。一方、磁気記録媒体の磁性層等に含まれている粉末については、磁気記録媒体から粉末を採取し測定用試料を得ることができる。測定用試料の採取方法としては、例えば特開2011−048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
以下、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体用組成物について、更に詳細に説明する。
<架橋性成分>
上記組成物は、ラジカル反応により架橋構造を形成可能な成分、イオン反応により架橋構造を形成可能な成分およびペリ環状反応により架橋構造を形成可能な成分からなる群から選ばれる架橋性成分を含む。なお上記のラジカル反応、イオン反応およびペリ環状反応には、酸、塩基、反応開始剤等の成分が上記組成物中に共存することによって、反応が開始されるか、反応が促進されるか、または反応が開始しかつ促進される反応が包含されるものとする。そのような反応開始や促進のための成分は、上記組成物の調製時から含まれていてもよく、調製時には含まれず磁性層形成のために用いる前に添加されてもよい。
また、上記組成物は、いわゆる一液型の組成物であってもよく、二液型以上の多液型の組成物であってもよい。例えば、上記架橋性ポリエステルを含む組成物(第1液)と、このポリエステルと上記反応により架橋構造を形成可能な成分を含む組成物(第2液)とが別々に調製された後に、磁性層形成に用いられる前に混合される態様等も、上記組成物に包含される。以下に記載の各種成分に関する含有量は、多液型の組成物については、組成物をすべて混合した状態での含有量をいうものとする。
(架橋性成分の組み合わせ)
上記組成物は、上記架橋性成分として、上記架橋性ポリエステルを含む。第一の態様では、上記架橋構造は、上記架橋性ポリエステルの分子間で形成され得る。また、第二の態様では、上記架橋構造は、上記架橋性ポリエステルと上記架橋剤との間で形成され得る。第三の態様では、上記架橋構造は、上記架橋性ポリエステルと架橋性結合剤との間で形成され得る。第三の態様における架橋性結合剤は、上記架橋性ポリエステルが有する反応性基と架橋反応可能な基を1分子中に1つ以上有する。いずれの態様においても、強磁性粉末の粒子表面への吸着部になると考えられる酸性基を有する上記架橋性ポリエステルが架橋構造形成に関与することが、先に記載したように、磁性層の塗膜強度を高めることに寄与すると本発明者らは推察している。また第四の態様として、上記組成物が、架橋性成分として、上記架橋性ポリエステルと、上記架橋剤と、上記架橋性結合剤とを含み、上記架橋性ポリエステルが、上記架橋剤および上記架橋性結合剤の一方または両方と架橋構造を形成し得る態様を挙げることもできる。
以下に、上記各成分について、更に説明する。
<架橋性ポリエステル>
上記組成物は、少なくとも、ラジカル反応性基、イオン反応性基およびペリ環状反応性基からなる群から選ばれる反応性基と、酸性基と、をそれぞれ1分子中に1つ以上有し、かつ重量平均分子量が1,000〜20,000の範囲であるポリエスルを含む。なお上記組成物は、かかるポリエステルとして、同一構造のもののみを含んでいてもよく、構造の異なる二種以上のポリエステルを含んでいてもよい。構造の異なる二種以上のポリエステルが含まれる場合、後述する上記架橋性ポリエステルの含有量とは、これらの合計含有量をいうものとする。以上の点は、磁気記録媒体用組成物や磁気記録媒体に含まれ得る他の成分についても同様である。
(重量平均分子量)
上記架橋性ポリエステルの重量平均分子量は、1,000〜20,000の範囲である。上記架橋性ポリエステルは、重量平均分子量が上記範囲にあることにより、先に記載したように可塑剤的な作用を果たすことができると考えられる。この点から、上記架橋性ポリエステルの重量平均分子量は、12,000以下であることがより好ましく、10,000以下であることがより好ましい。また、上記の点から、上記架橋性ポリエステルの重量平均分子量は、好ましくは1,500以上であり、より好ましくは2,000以上である。
本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography;GPC)により測定され、標準ポリスチレン換算で求められる値をいうものとする。後述の実施例に示す重量平均分子量は、GPCを用いて下記測定条件により測定された値を標準ポリスチレン換算して求めた値である。
GPC装置:HLC−8220(東ソー社製)
ガードカラム:TSKguardcolumn Super HZM−H
カラム:TSKgel Super HZ 2000、TSKgel Super HZ 4000、TSKgel Super HZ−M(東ソー社製、4.6mm(内径)×15.0cm、3種カラムを直列連結)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、安定剤(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)含有
溶離液流速:0.35mL/分
カラム温度:40℃
インレット温度:40℃
屈折率(Refractive Index:RI)測定温度:40℃
サンプル濃度:0.3質量%
サンプル注入量:10μL
(ポリエステルが有する酸性基)
上記架橋性ポリエステルは、酸性基を1分子中に1つ以上有する。ここで酸性基とは、酸性基とは、水中または水を含む溶媒(水性溶媒)中でHを放出しアニオンに解離可能な基をいう。前述のように、酸性基が強磁性粉末の粒子表面への吸着部となることが、上記架橋性ポリエステルによって強磁性粉末の分散性向上が可能となる理由と考えられる。酸性基としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、それらの塩の形態等を挙げることができ、より一層の分散性向上の観点から、カルボキシ基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、それらの塩の形態が好ましく、カルボキシ基、スルホン酸基、それらの塩の形態がより好ましく、カルボキシ基およびその塩の形態が更に好ましい。ここでカルボキシ基(−COOH)の塩の形態とは、−COOMにおいてMがアルカリ金属イオン等のカチオンを表すカルボキシ塩を意味する。この点は、上記で例示した他の酸性基についても同様である。
上記架橋性ポリエステルは、1分子中に1つ以上の酸性基を有すればよく、2つ以上有することが好ましい。また、上記架橋性ポリエステル1分子中に含まれる酸性基の数は、例えば10以下であり、好ましくは8以下である。なお上記架橋性ポリエステルは、酸性基を一種のみ含んでもよく、二種以上の異なる酸性基を含んでいてもよい。
(ポリエステルが有する反応性基)
上記組成物は、ラジカル反応により架橋構造を形成可能な成分、イオン反応により架橋構造を形成可能な成分およびペリ環状反応により架橋構造を形成可能な成分からなる群から選ばれる架橋性成分を含み、かかる架橋性成分は、少なくとも、上記架橋性ポリエステルである。上記の架橋性成分である上記架橋性ポリエステルは、ラジカル反応性基、イオン反応性基およびペリ環状反応性基からなる群から選ばれる反応性基を1分子中に1つ以上含む。上記架橋性ポリエステルに含まれる上記反応性基の数は、1分子中に、好ましくは2つ以上である。また、上記架橋性ポリエステルに含まれる上記反応性基の数は、1分子中に、好ましくは8つ以下である。上記架橋性ポリエステルの構造中、いずれの位置に上記反応性基が含まれていてもよいが、上記架橋性ポリエステルの末端基として含まれることが好ましい。
以下、上記各反応性基について、更に説明する。なおラジカル反応性基、イオン反応性基、ペリ環状反応性基の2つ以上に該当する基もあり、そのような基が上記架橋性ポリエステルに含まれていてもよい。また、先に記載したように、酸、塩基、反応開始剤等の成分の共存によりラジカル反応、イオン反応またはペリ環状反応が開始される場合もあり、そのような成分の共存によってラジカル反応、イオン反応またはペリ環状反応する基も、上記反応性基に包含される。
−ラジカル反応性基−
ラジカル反応性基は、ラジカル反応し得る基であればよく、好ましい具体例としては、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリル基、ビニル基およびアリル基を挙げることができる。なお本発明および本明細書において、「(メタ)アクリル基」とは、アクリル基とメタクリル基とを包含する意味で用いられる。また、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、アクリロイル基とメタクリロイルオキシ基とを包含する意味で用いられる。(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリル基、ビニル基およびアリル基からなる群から選ばれるラジカル反応性基は、上記群から選ばれるいずれかのラジカル反応性基とラジカル反応することができ、それにより架橋構造を形成することができる。
−イオン反応性基−
イオン反応性基は、イオン反応し得る基であればよく、好ましい具体例としては、カルバメート基、ヒドロキシル基、メルカプト基、アルデヒド基、アセタール基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、メチロール基、メトキシメチル基、スチリル基、マレイミド基およびアミノ基を挙げることができる。
アセタール基は、下記構造:
の1価の基であり、アルデヒド基:
のアルコール保護体である。アセタール基は、脱保護することによってアルデヒド基となり、イオン反応により架橋構造を形成することができる。上記において、R100およびR101は、それぞれ独立にアルキル基を表す。アルキル基は、例えば、炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基であることができる。*は、アセタール基またはアルデヒド基と、架橋性ポリエステルを構成する他の構造との結合位置を表す。脱保護は、酸存在下で加熱することにより進行し得る。したがって、イオン反応性基としてアセタール基を有するポリエステルを含む磁気記録媒体用組成物は、酸を含む組成物として調製するか、または酸を添加した後に磁性層の形成のために用いるものとする。上記酸は、有機酸でもよく無機酸でもよく、特に限定されるものではない。また、アセタール基を脱保護しアルデヒド基とすることができる量の酸が、上記組成物に含まれるか、かかる量の酸を上記組成物に添加すればよい。例えば、イオン反応性基としてアセタール基を有するポリエステル100質量部に対して、0.1〜10質量部程度の酸を、脱保護のために上記組成物に含有させ、または添加することができる。また、脱保護は、通常、上記組成物を60〜140℃に加熱することにより、良好に進行させることができる。
カルバメート基とイオン反応により架橋構造を形成可能な基の具体例としては、アルデヒド基、メチロール基、メトキシメチル基等を挙げることができる。また、ヒドロキシル基とイオン反応により架橋構造を形成可能な基の具体例としては、アルデヒド基、メチロール基、メトキシメチル基等を挙げることができる。メルカプト基とイオン反応により架橋構造を形成可能な基の具体例としては、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリル基、マレイミド基、メチロール基、メトキシメチル基等を挙げることができる。アルデヒド基とイオン反応により架橋構造を形成可能な基の具体例としては、ヒドロキシル基、一級アミノ基、二級アミノ基、メルカプト基等を挙げることができる。また、エポキシ基とイオン反応により架橋構造を形成可能な基の具体例としては、メルカプト基、ヒドロキシル基、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基等を挙げることができる。(メタ)アクリル基および(メタ)アクリロイルオキシ基とイオン反応により架橋構造を形成可能な基の具体例としては、メルカプト基、一級アミノ基、二級アミノ基を挙げることができる。また、メチロール基およびメトキシメチル基とイオン反応により架橋構造を形成可能な基の具体例としては、カルバメート基、ヒドロキシル基、メルカプト基等を挙げることができる。スチリル基およびマレイミド基とイオン反応により架橋構造を形成な基の具体例としては、メルカプト基を挙げることができる。また、一級アミノ基および二級アミノ基とイオン反応により架橋構造を形成可能な基の具体例としては、アルデヒド基、エポキシ基等を挙げることができる。三級アミノ基とイオン反応により架橋構造を形成可能な基の具体例としては、エポキシ基を挙げることができる。なお二級アミノ基、三級アミノ基としては、例えば、一級アミノ基の水素原子を置換する置換基が、炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基であるものを例示できるが、これに限定されるものではない。
−ペリ環状反応性基−
ペリ環状反応性基は、ペリ環状反応し得る基であればよく、好ましい具体例としては、共役ジエン含有基および二重結合含有基を挙げることができる。共役ジエン含有基は、二重結合含有基とペリ環状反応により架橋構造を形成することができる。
共役ジエン含有基は、共役ジエン構造を、環状構造に含むものであってもよく、鎖状構造に含むものであってもよい。共役ジエン含有基に含まれる共役ジエン構造の数は少なくとも1つであり、2つ以上あってもよく、その数は限定されるものではない。また、二重結合含有基は、二重結合を、環状構造に含むものであってもよく、鎖状構造に含むものであってもよい。二級結合含有基に含まれる二重結合の数は少なくとも1つであり、2つ以上あってもよく、その数は限定されるものではない。
共役ジエン含有基は、メチル基、アルコキシ基、アミノ基等の、一般に電子供与性基と呼ばれる置換基を有することも好ましい。共役ジエン含有基の具体例としては、フリル基、シクロペンタジエニル基、アントラニル基、ピペリレン基、イソプレン基、等を挙げることができる。一方、二重結合含有基としては、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基等の、一般に電子求引性基と呼ばれる置換基を有することも好ましい。二重結合含有基の具体例としては、マレイミド基、α,β不飽和カルボニル基、メチレンマロン酸エステル基、等を挙げることができる。
上記組成物に含まれる上記架橋性ポリエステルは、ポリエステル鎖を含む重合体であって、重量平均分子量が上記範囲であり、かつ酸性基および上記反応性基をそれぞれ1分子中に1つ以上有する物である限り、その構造は特に限定されるものではない。なおポリエステル鎖とは、エステル結合を2つ以上含む分子鎖をいい、エステル結合がアルキレン基により連結されている脂肪族ポリエステル鎖であっても、エステル結合の間に芳香環を有する芳香族ポリエステル鎖であってもよい。強磁性粉末の分散性の更なる向上の観点からは、ポリエステル鎖は脂肪族ポリエステル鎖であることが好ましい。
上記架橋性ポリエステルは、強磁性粉末の分散性の更なる向上の観点から、少なくとも2つの酸性基を有し、隣り合う2つの炭素原子にそれぞれ酸性基が1つ結合している構造を有することが好ましい。そのような構造に含まれる酸性基とは、例えば、下記部分構造中のAで表される酸性基とAで表される酸性基である。
一態様では、上記架橋性ポリエステルは、下記部分構造:
を有し、この部分構造において、AおよびAは、それぞれ独立に酸性基を表し、*は上記架橋性ポリエステルを構成する他の構造との結合位置を表す。また、上記部分構造において、*は上記架橋性ポリエステルに含まれるポリエステル鎖との結合位置を表すことが、より好ましい。
以下に、上記架橋性ポリエステルの具体的態様を説明するが、本発明は下記具体的態様に限定されるものではない。
(ポリエステルの具体的態様)
上記架橋性ポリエステルの具体的態様としては、一般式1で表されるポリエステルおよび一般式2で表されるポリエステルを挙げることができる。以下に、これらポリエステルについて説明する。
−一般式1で表されるポリエステル−
(一般式1中、Aは、一般式1中、Aは、上記反応性基およびポリエステル鎖を含む1価の基を表し、R11およびR12は、それぞれ独立に単結合または2価の連結基を表し、R13は、水素原子または1価の基を表し、mは2以上の整数を表し、複数存在するA、R11、R12、R13は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、Aはヒドロキシル基または−O−R14−Zで表される1価の基を表し、R14は単結合または2価の連結基を表し、Zは酸性基を表し、複数存在するAのうちの少なくとも1つは−O−R14−Zで表される1価の基を表し、Xはm価の連結基を表す。)
一般式1中、Aは、上記反応性基およびポリエステル鎖を含む1価の基を表す。一般式1中、mは2以上の整数を表すため、一般式1で表されるポリエステルには、2つ以上のAが含まれる。2つ以上のAは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
上記反応性基の詳細は、先に記載した通りである。
一般式1中のAに含まれる1価の基としては、ラクトン化合物の開環重合により得られる、エステル結合を含む構造単位に直鎖炭化水素基を含むポリエステルの残基、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のエステル結合を含む構造単位に芳香族炭化水素基を含むポリエステルから、水素原子等の末端基が除かれた構造に、公知の反応により上記反応性基を導入したものを挙げることができる。
上記ラクトン化合物としては、例えば、ε−カプロラクトン、δ−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、エナントラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ヘキサノラクトン、γ−オクタノラクトン、δ−ヘキサラノラクトン、δ−オクタノラクトン、δ−ドデカノラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、ラクチド等を挙げることができ、特にε−カプロラクトン、ラクチドまたはδ−バレロラクトンが、反応性・入手性の観点から好ましい。ただし、これらに限定されるものではなく、開環重合によりポリエステルを得ることができるものであれば、いずれのラクトン化合物であってもよい。
一般式1中、R11およびR12は、それぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。一般式1においてmは2以上の整数であるため、R11およびR12は、一般式1で表される化合物中に、それぞれ2つ以上含まれる。2つ以上含まれるR11、R12は、同一であってもよく、異なっていてもよい。2価の連結基としては、例えば、直鎖、分岐または環構造であってもよいアルキレン基、直鎖、分岐または環構造であってもよいアルケニレン基、−C(=O)−、−O−およびアリーレン基からなる群から選ばれる1つまたは2つ以上の組み合わせから構成される2価の連結基であって、上記2価の連結基中に置換基またはアニオンとしてハロゲン原子を有してもよい2価の連結基を挙げることができる。より詳しくは、直鎖、分岐または環構造であってもよい炭素数1〜12のアルキレン基、直鎖、分岐または環構造であってもよい炭素数1〜6のアルケニレン基、−C(=O)−、−O−およびフェニレン基から選ばれる1つまたは2つ以上の組み合わせから構成される2価の連結基であって、上記2価の連結基中に置換基またはアニオンとしてハロゲン原子を有してもよい2価の連結基を挙げることができる。上記の2価の連結基は、好ましくは、1〜10個までの炭素原子、0〜10個までの酸素原子、0〜10個までのハロゲン原子、および1〜30個までの水素原子から成り立つ2価の連結基である。具体例としては、下記構造である。下記構造中、*は、一般式1中の他の構造との結合位置を示す。ただし本発明は、下記具体例に限定されるものではない。
11およびR12は、それぞれ独立に、好ましくはアルキレン基であり、より好ましくは炭素数1〜12のアルキレン基であり、更に好ましくは炭素数1〜5のアルキレン基であり、いっそう好ましくは炭素数1〜5の無置換アルキレン基である。
一般式1中、R13は、水素原子または1価の基を表す。1価の基としては、先に置換基として記載した1価の基を挙げることができ、好ましくはアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、更に好ましくはメチル基またはエチル基である。いっそう好ましくは、R13は、水素原子である。
一般式1中、mは2以上の整数を表し、好ましくは2〜10の範囲の整数であり、より好ましくは2〜8の範囲の整数であり、更に好ましくは2〜5の範囲の整数であり、いっそう好ましくは3または4である。
一般式1中、Xはm価の連結基を表す。mについては、上記の通りである。
で表されるm価の連結基としては、例えば、−C(=O)−O−、−O−、−C(=O)−NR−(Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す)、−O−C(=O)−NH−、フェニレン基、および炭素数1〜30のアルキレン基からなる群から選択される1つまたは2つ以上の組み合わせから構成される2価の連結基を挙げることができる。Xは、上記群から選択される2つ以上の組み合わせから構成される構造中に、環状構造を含むこともできる。Xで表されるm価の連結基としては、環状構造および分岐構造からなる群から選ばれる構造を1つまたは2つ以上含むものが好ましい。このような構造を有することは、強磁性粉末の分散性をより高めることに寄与するのではないかと、本発明者らは推察している。
で表される連結基の具体例としては、下記構造を例示することができる。下記構造中、*は一般式1中の他の構造との結合位置を示す。ただし、本発明は下記具体例に限定されるものではない。
一般式1中、Aはヒドロキシル基または−O−R14−Zで表される1価の基を表す。ここでR14は2価の連結基を表し、Zは酸性基を表す。一般式1中、mは2以上の整数であるため、一般式1中、Aは複数(2つ以上)含まれる。そして複数存在するAのうちの少なくとも1つは、−O−R14−Zで表される1価の基を表す。一般式1で表されるポリエステルは、複数存在するAの少なくとも1つが酸性基を含むことが、強磁性粉末の分散性向上に寄与するのではないかと、本発明者らは推察している。酸性基については、先に記載した通りである。
一般式1中、複数存在するAの少なくとも1つが上記の1価の基であり、2つ以上が上記の1価の基であることが好ましく、複数存在するAのすべてが上記の1価の基であることが好ましい。
14は、単結合または2価の連結基を表す。2価の連結基については、先にR11、R12で表される2価の連結基について記載した通りである。
合成方法
以上説明した一般式1で表されるポリエステルは、公知の方法で合成することができる。合成方法の一例としては、例えば、
母核構造にエポキシ基が2つ以上置換した多官能エポキシ化合物とAをもたらすポリエステルとの開環付加反応により、上記Aおよびヒドロキシル基を有する開環付加体を得る工程;
上記開環付加体を酸無水物により変性することにより、開環付加体のヒドロキシル基の少なくとも1つを上記の−O−R14−Zで表される1価の基に転換し酸無水物変性体を得る工程;
を含む合成方法を挙げることができる。
に含まれる上記反応性基は、一態様では、ポリエステル重合時に上記反応性基を有する出発原料を用いることにより導入することが可能である。また、他の一態様では、Aに含まれる上記反応性基は、ポリエステル重合後に導入することも可能である。
上記の多官能エポキシ化合物としては、2つ以上のエポキシ基とともに、先に記載したXで表される構造を部分構造として含む各種化合物を挙げることができる。
多官能エポキシ化合物とAをもたらすポリエステルとの開環付加反応は、例えば、ポリエステルの末端官能基がカルボキシ基の場合、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、カルボン酸を0.9〜1.2モルの割合で混合し、無溶媒、必要に応じて沸点が80℃以上の比較的高沸点の有機溶媒、更には3級アミンや4級アンモニウム塩などの反応触媒存在下で、3〜12時間程度加熱攪拌することにより実施することができる。
得られた開環付加体と反応させる酸無水物としては、先に記載した酸性基をもたらすものであれば何ら制限なく用いることができる。例えば、カルボン酸無水物、スルホン酸無水物等を挙げることができる。具体例としては、無水コハク酸、無水フタル酸、2,3‐ナフタレンジカルボン酸無水物等のカルボン酸無水物、2‐スルホ安息香酸無水物、テトラブロモ‐o‐スルホ安息香酸無水物等のスルホン酸無水物等を挙げることができる。
上記開環付加体を酸無水物により変性する反応は、例えば、無水フタル酸を用いた場合、ヒドロキシル基1当量に対して、無水フタル酸を0.9〜1.2モルの割合で混合し、無溶媒、必要に応じて沸点が50℃以上の有機溶媒、更には3級アミンや無機塩基などの反応触媒存在下で、3〜12時間程度加熱攪拌することにより実施される。
上記各反応の後、必要に応じて精製等の後工程を行ってもよい。
上記合成方法は一例であって、本発明を何ら限定するものではない。
−一般式2で表されるポリエステル−
(一般式2中、R21は上記反応性基を表し、Xは−O−、−S−または−NR22−を表し、R22は水素原子または1価の基を表し、Lは2価の連結基を表し、Zは酸性基を1つ以上有するn価の部分構造を表し、m2は2以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。)
一般式2中、Lはm2×n個含まれる。また、R21、Xは、それぞれn個含まれる。Lが一般式2中に複数含まれる場合、複数のLは同一であってもよく異なっていてもよい。この点は、R21、Xについても同様である。
一般式2中、Xは、−O−、−S−または−NR22−を表し、R22は水素原子または1価の基を表す。1価の基としては、先に置換基として記載した1価の基を挙げることができ、好ましくはアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、更に好ましくはメチル基またはエチル基である。いっそう好ましくは、R22は、水素原子である。Xは、−O−を表すことが好ましい。
21は、上記反応性基を表す。その詳細は、先に記載した通りである。
一般式2中、Lは2価の連結基を表す。2価の連結基としては、先に一般式1中のR11、R12で表される2価の連結基について記載した通りである。
Lは、好ましくはアルキレン基であり、より好ましくは炭素数1〜12のアルキレン基であり、更に好ましくは炭素数1〜5のアルキレン基であり、いっそう好ましくは炭素数1〜5の無置換アルキレン基である。
は、酸性基を1つ以上有するn価の部分構造を表す。Zに含まれる酸性基の数は、1つのZあたり少なくとも1つであり、2つ以上であることが好ましく、2〜4つであることがより好ましい。
は、直鎖構造、分岐構造、環状構造の1つ以上を含むことができる。合成の容易性等の観点から、好ましくは、Zはカルボン酸無水物の反応残基である。例えば具体例としては、下記構造が挙げられる。下記構造中、*は一般式2中の他の構造との結合位置を示す。ただし本発明は、下記具体例に限定されるものではない。
カルボン酸無水物として、先に記載した部分構造−(C=O)−O−(C=O)−を1つ有するものを用いて一般式2で表されるポリエステルを合成することにより、1価の上記反応残基を有する一般式2で表されるポリエステルを得ることができ、2つ有するものを用いることにより2価の上記反応残基を有する一般式2で表されるポリエステルを得ることができる。3価以上の上記反応残基を有する一般式2で表されるポリエステルも同様である。先に記載した通り、nは1以上の整数であり、例えば1〜4の範囲の整数であり、好ましくは2〜4の範囲の整数である。
カルボン酸無水物としては、例えばテトラカルボン酸無水物を用いることにより、n=2の一般式2で表されるポリエステルを得ることができる。なおテトラカルボン酸無水物とは、一分子中に4つのカルボキシル基を有する化合物において、各2つのカルボキシル基の脱水縮合により、上記部分構造を一分子中に2つ有するカルボン酸無水物である。一般式2中、Zがテトラカルボン酸無水物の反応残基に上記反応性基が導入された1価の基を表すポリエステルは、強磁性粉末の分散性および磁性層の耐久性の一層の向上の観点から好ましい。テトラカルボン酸無水物としては、例えば、脂肪族テトラカルボン酸無水物、芳香族テトラカルボン酸無水物、多環式テトラカルボン酸無水物等の各種テトラカルボン酸無水物を挙げることができる。
脂肪族テトラカルボン酸無水物としては、例えば、meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,3,5,6−テトラカルボキシシクロヘキサン二無水物、2,3,5,6−テトラカルボキシノルボルナン二無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボルナン−2−酢酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等を挙げることができる。
芳香族テトラカルボン酸無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、エチレングリコールジ無水トリメリット酸エステル、プロピレングリコールジ無水トリメリット酸エステル、ブチレングリコールジ無水トリメリット酸エステル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、M−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタン二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、9,9−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物等を挙げることができる。
多環式テトラカルボン酸無水物としては、例えば、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−6−メチル−1−ナフタレンコハク酸二無水物等を挙げることができる。
一般式2中、m2は2以上の整数を表す。一般式2で表されるポリエステルは、−((C=O)−L−O)m2−で表される構造(ポリエステル鎖)が、強磁性粉末の分散性向上および磁性層の耐久性向上に寄与すると考えられる。これらの観点から、m2は、5〜200の範囲の整数であることが好ましく、5〜100の範囲の整数であることがより好ましく、5〜60の範囲の整数であることが更に好ましい。
一般式2で表されるポリエステルの具体例としては、例えば、後述の実施例に示す各種ポリエステルを例示することができる。
合成方法
以上説明した一般式2で表されるポリエステルは、公知の方法で合成することができる。合成方法の一例としては、例えば、カルボン酸無水物と、下記一般式3で表される化合物とを開環付加反応等の反応に付す方法を挙げることができる。一般式3中、R21、X、L、m2は、それぞれ一般式2と同義である。Aは、水素原子、アルカリ金属原子または四級アンモニウム塩基を表し、好ましくは水素原子である。R21で表される上記反応性基は、一態様では、ポリエステル重合時に上記反応性基を有する出発原料を用いることにより導入することが可能である。また、他の一態様では、R21で表される上記反応性基は、ポリエステル重合後に導入することも可能である。
カルボン酸無水物と一般式3で表される化合物との反応は、例えば、ブタンテトラカルボン酸無水物を用いた場合、ヒドロキシル基1当量に対して、0.4〜0.5モルの割合でブタンテトラカルボン酸無水物を混合し、無溶媒、必要に応じて沸点が50℃以上の有機溶媒、更には三級アミンや無機塩基などの反応触媒存在下で、3〜12時間程度加熱攪拌することにより実施される。他のカルボン酸無水物を用いる場合にも、上記の反応条件に準じて、または公知の反応条件に準じて、カルボン酸無水物と一般式3で表される化合物との反応を実施することができる。
上記反応の後、必要に応じて精製等の後工程を行ってもよい。
また、一般式3で表される化合物は、市販品を用いてもよく、公知のポリエステル合成方法によって得ることもできる。例えばポリエステル合成法としては、ラクトンの開環重合を挙げることができる。ラクトンとしては、例えば、ε−カプロラクトン、δ−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、エナントラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ヘキサノラクトン、γ−オクタノラクトン、δ−ヘキサラノラクトン、δ−オクタノラクトン、δ−ドデカノラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、ラクチド等を挙げることができる。なおラクチドは、L体であってもD体であってもよい。ポリエステル合成において、ラクトンは一種のみ用いてもよく、異なる構造の二種以上を用いてもよい。ラクトンとしては、ε−カプロラクトン、ラクチドまたはδ−バレロラクトンが、反応性・入手性の観点から好ましい。ただし、これらに限定されるものではなく、開環重合によりポリエステルを得ることができるものであれば、いずれのラクトンであってもよい。
ラクトンの開環重合のための求核試薬としては、アルコール、チオール、アミン等を用いることができる。求核試薬は、一種用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
例えばアルコールを用いる場合、アルコールをROHで表すと、RO−部が、一般式2で表される構造中、R21−部として存在し得る。ここでXは−O−を表す。
チオールを用いる場合、チオールをRSHで表すと、RS−部が、一般式(1)で表される構造中、R21−部として存在し得る。ここでXは−S−を表す。
アミンを用いる場合、アミンをR2122NHで表すと、R2122N−部が、一般式2で表される構造中、R21−部として存在し得る。ここでXは−NR22−を表す。R21、R22は、それぞれ一般式(1)と同義である。
ただし、一般式3で表される化合物は、ラクトンの開環重合により得られたポリエステル由来の構造に限定されるものではなく、公知のポリエステル合成法、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合、ヒドロキシカルボン酸の重縮合、等により得られたポリエステル由来の構造であることもできる。
以上説明した合成方法は一例であって、本発明を何ら限定するものではない。一般式2で表されるポリエステルを合成可能な方法であれば、公知の合成方法を、何ら制限なく用いることができる。
(ポリエステルの含有量)
以上説明した上記架橋性ポリエステルの上記組成物における含有量は、強磁性粉末100.0質量部あたり0.5質量部以上とすることが、強磁性粉末の分散性および磁性層の耐久性向上の観点から好ましく、1.0質量部以上とすることがより好ましい。一方、記録密度の向上のためには、磁性層における強磁性粉末の充填率を高くすることが好ましい。この点からは、相対的に強磁性粉末以外の成分の含有量は低くすることが好ましい。以上の観点から、上記架橋性ポリエステルの含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して50.0質量部以下とすることが好ましく、40.0質量部以下とすることがより好ましく、30.0質量部以下とすることが更に好ましい。
<架橋剤>
上記組成物は、一態様では、上記架橋性成分として、上記架橋性ポリエステルが有する反応性基と架橋反応可能な基を1分子中に2つ以上有する化合物(架橋剤)を含むことができる。かかる架橋剤と上記架橋性ポリエステルが上記反応により架橋構造を形成することが、磁性層の塗膜強度向上に寄与すると本発明者らは推察している。
上記架橋剤が有する架橋反応可能な基は、上記架橋性ポリエステルが有する反応性基と上述の反応により架橋構造を形成できるものである限り、特に限定されるものではない。そのような基の具体例は、先に記載した通りである。上記架橋剤は、上記架橋反応可能な基を、1分子中に2つ以上有し、3つ以上有することが好ましい。また、架橋反応を良好に進行させる観点から、上記架橋剤が1分子中に有する上記架橋反応可能な基の数は、10以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。上記架橋剤の上記架橋反応可能な基以外の構造は、特に限定されず、上記組成物に含まれる上記架橋性ポリエステルや結合剤との相溶性の観点から任意に選ぶことができる。
上記架橋剤は、架橋反応を良好に進行させる観点から、分子量は100以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましい。また、結合剤との相溶性および架橋密度向上(これによる磁性層の塗膜強度の更なる向上)の観点から、上記架橋剤の分子量は5000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、1000以下であることが更に好ましい。
上記組成物が上記架橋剤を含む場合、この組成物における上記架橋剤の含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対し、例えば5.0〜30.0質量部の範囲とすることができ、5.0〜20.0質量部の範囲とすることが好ましい。
<結合剤>
上記組成物に含まれる結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常用いられている各種の樹脂を、何ら制限なく用いることができる。例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などから単独または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、塩化ビニル樹脂、より好ましいものは、ポリウレタン樹脂および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層においても結合剤として使用することができる。
以上の結合剤については、特開2010−24113号公報段落0028〜0031を参照できる。
上記架橋性ポリエステルの重量平均分子量は、先に記載したように、1,000〜20,000の範囲である。かかるポリエステルが結合剤に対して可塑剤的な作用を良好に発揮する観点から、結合剤の重量平均分子量は、20,000超であることが好ましく、より好ましくは30,000以上である。また、結合剤の重量平均分子量は、例えば120,000以下であり、好ましくは100,000以下であり、より好ましくは60,000以下である。
結合剤含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば5.0〜50.0質量部の範囲、好ましくは10.0〜30.0質量部の範囲とすることができる。
上記組成物は、一態様では、架橋性成分として、結合剤を含むことができる。架橋性成分としての結合剤(架橋性結合剤)は、上記架橋性ポリエステルが有する反応性基と架橋反応可能な基を1分子中に1つ以上有する。架橋性結合剤の上記架橋反応可能な基の含有率は、例えば5mol%〜50mol%の範囲とすることができ、10mol%〜40mol%の範囲とすることが好ましい。
また、架橋性結合剤の上記組成物における含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対し、例えば5.0〜50.0質量部の範囲とすることができ、10.0〜30.0質量部の範囲とすることが好ましい。
<強磁性粉末>
上記組成物は、以上説明した各種成分とともに、強磁性粉末を含む。強磁性粉末は、好ましくは、平均粒子サイズが50nm以下である。平均粒子サイズが50nm以下の強磁性粉末は、近年求められている高密度記録に対応し得る強磁性粉末であるが、その分散性を向上することは容易ではない。これに対し、上記ポリエステルを併用することにより、50nm以下の平均粒子サイズを有する強磁性粉末の分散性を向上することが可能となる。なお磁化の安定性の観点からは、平均粒子サイズは10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましい。
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末のサイズについては、高密度記録化と磁化の安定性の観点から、平均板径が10nm以上50nm以下であることが好ましく、20nm以上50nm以下であることがより好ましい。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば特開2011−216149号公報の段落0134〜0136を参照できる。
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末のサイズについては、高密度記録化と磁化の安定性の観点から、平均長軸長が10nm以上50nm以下であることが好ましく、20nm以上50nm以下であることがより好ましい。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011−216149号公報の段落0137〜0141を参照できる。
磁性層における強磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50〜90質量%の範囲であり、より好ましくは60〜90質量%の範囲である。上記充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
<溶媒>
上記組成物は、以上説明した各種成分を、通常、溶媒中に含む。溶媒としては、一般に塗布型磁気記録媒体製造のために使用される有機溶媒を挙げることができる。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を、一種、または二種以上を任意の比率で混合して、使用することができる。中でも、磁気記録媒体に通常使用される結合剤の溶解性および強磁性粉末の表面への結合剤の吸着の点からは、ケトン類を含有する有機溶媒(ケトン系有機溶媒)を用いることが好ましい。
上記有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶媒組成のうち、誘電率が15以上の溶媒が50質量%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。上記組成物における溶媒量は特に限定されるものではなく、通常の塗布型磁気記録媒体の磁性層形成用組成物と同様にすることができる。
<その他成分>
上記組成物には、以上説明した各種成分に加えて、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、カーボンブラックなど、塗布型磁気記録媒体形成に通常用いられる各種添加剤を挙げることができる。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。なお上記組成物において、上記架橋性ポリエステルは、分散剤として機能し得るものである。
上記組成物は、先に記載したように、前述の反応を開始し、促進し、または開始しかつ促進するための成分を含むことができる。そのような成分は、公知の酸、塩基、ラジカル開始剤等の反応開始剤から任意に選択して用いることができる。また、かかる成分の上記組成物における含有量は、反応の開始や促進に寄与し得る量に適宜設定すればよい。
<組成物の調製方法>
上記組成物は、以上説明した各種成分を同時にまたは任意の順序で順次添加し混合することにより、調製することができる。組成物の調製方法は特に限定されるものではなく、塗布型磁気記録媒体の磁性層形成用組成物の調製に関する公知技術を、何ら制限なく適用することができる。
[磁気記録媒体およびその製造方法]
上記組成物に含まれる架橋性成分を架橋させるための処理は、磁気記録媒体の製造工程において行い得る処理である加熱処理、光照射等により行うことができる。上記処理を加熱により行うことは、光照射のための設備を要さずに架橋構造を形成することができるため好ましい。また、磁気記録媒体の製造工程には、通常、磁性層形成用組成物を乾燥するための加熱処理が含まれる。一態様では、かかる加熱処理において、上記架橋性成分を架橋させることができる。
即ち、本発明の一態様は、非磁性支持体上に磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、上記磁性層を、上記組成物を加熱する工程を経て形成することを含む磁気記録媒体の製造方法に関する。
更に、本発明の一態様は、上記製造方法により製造された磁気記録媒体に関する。
<磁気記録媒体の構成、製造方法>
以下、上記磁気記録媒体の構成および製造方法について、更に詳細に説明する。
(磁性層)
磁性層は、上記組成物を非磁性支持体の表面に直接、または非磁性支持体上に設けられた非磁性層等の他の層の表面に塗布し乾燥させ、通常、加熱等の処理を施すことにより、形成することができる。磁性層に含まれる各種成分および磁性層の形成に使用可能な組成物については、先に記載した通りである。
(非磁性層)
次に非磁性層について説明する。
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に含まれる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011−216149号公報段落0146〜0150を参照できる。
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶媒、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。また、非磁性層にはカーボンブラックや有機質粉末を添加することも可能である。それらについては、例えば特開2010−24113号公報段落0040〜0042を参照できる。また、非磁性層を形成するための組成物は、磁気記録媒体の製造に通常用いられる硬化剤(例えばポリイソシアネート)を任意の量で含むことができる。この点は、後述するバックコート層についても同様である。なお磁性層は、かかる硬化剤を含んでもよく、含まなくてもよい。
(非磁性支持体)
次に、非磁性支持体について説明する。非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。
(層構成)
上記磁気記録媒体における非磁性支持体および各層の厚みについては、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3.0〜80.0μmである。磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には10nm〜150nmであり、好ましくは20nm〜120nmであり、更に好ましくは30nm〜100nmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.1〜2.0μmであることが好ましく、0.1〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明における磁気記録媒体の非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および抗磁力を持たないことが好ましい。
(バックコート層)
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バックコート層形成のための結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
(製造工程)
磁性層形成用組成物としては、上記磁気記録媒体用組成物が用いられる。磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性粉末、上記架橋性ポリエステル、結合剤、架橋剤、非磁性粉末、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶媒などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤を混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気記録媒体の製造方法では、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、各層形成用組成物を分散させるには、ガラスビーズやその他のビーズを用いることができる。このような分散ビーズとしては、高比重の分散ビーズであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散ビーズは、粒径と充填率を最適化して用いることが好ましい。分散機は公知のものを使用することができる。
磁性層形成用組成物の塗布後、通常、乾燥処理、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダー処理)等の各種の後処理が施される。また、磁性層形成用組成物の加熱処理は、塗布後の任意の段階で行うことができる。一態様では、乾燥処理やカレンダー処理における加熱において、架橋構造が形成され得る。このような加熱処理は、60〜140℃の加熱温度で行うことが好ましい。ここで加熱温度とは加熱処理を行う雰囲気温度、または乾燥処理のための乾燥風を磁性層形成用組成物の塗布面に吹き付ける場合には乾燥風の温度をいうものとする。また、カレンダー処理条件としては、カレンダーロールの表面温度を、例えば60〜100℃、好ましくは70〜100℃、さらに好ましくは80〜100℃の範囲とすることができる。
また、カレンダー処理工程後に得られた磁気記録媒体を、加熱処理して架橋反応を進行させることもできる。このような加熱処理における加熱温度は、例えば35〜100℃であり、好ましくは50〜80℃である。
得られた磁気記録媒体は、裁断機、打抜機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。磁気記録媒体の製造方法の詳細については、例えば特開2010−24113号公報段落0051〜0057も参照できる。
以上説明した本発明の一態様にかかる磁気記録媒体では、磁性層の耐久性向上を達成することができる。更に、上記磁気記録媒体は、強磁性粉末が良好に分散された、高い表面平滑性を有する磁性層を有することができる。例えば、後述の実施例に記載の方法により測定される中心線平均表面粗さRaが1.0〜5.0nmの範囲の高い表面平滑性を実現することができる。これにより、優れた電磁変換特性を発揮し得る高密度記録用磁気記録媒体を提供することが可能となる。本発明の一態様にかかる磁気記録媒体用組成物は、そのような磁性層形成のために好適に用いることができる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。なお、特記しない限り、以下に記載の「部」および「%」は質量基準の値である。なお以下に記載の室温とは、20〜25℃程度であった。
また、下記の重量平均分子量は、GPCにより先に記載した測定条件下で測定しポリスチレン換算値として求めた。
下記合成方法により目的の化合物が得られたことは、H−NMR(Nuclear Magnetic Resonance)、GPC、酸価測定により確認した。
また、以下に記載の「内温」とは、記載されている容器(フラスコ等)の内容物の温度である。
<前駆体の合成例>
(合成例1)前駆体1の合成
500mL三口フラスコに、ε-カプロラクトン197.2g、フルフリルアルコール11.3gを導入し、窒素を吹き込みながら、内温80℃で攪拌溶解した。このフラスコにモノブチル錫オキシド0.1gを加え、内温100℃に加熱した。8時間後、ガスクロマトグラフィーにて、原料が消失したことを確認後、室温まで冷却し、固体状の前駆体1(下記構造)を200g得た。
(合成例2)前駆体2の合成
500mL三口フラスコに、ε-カプロラクトン197.2g、N−(2−ヒドロキシエチル)マレイミド16.3gを導入し、窒素を吹き込みながら、内温80℃で攪拌溶解した。このフラスコにモノブチル錫オキシド0.1gを加え、内温100℃に加熱した。8時間後、ガスクロマトグラフィーにて、原料が消失したことを確認後、室温まで冷却し、固体状の前駆体2(下記構造)を200g得た。
(合成例3)前駆体3の合成
500mL三口フラスコに、ε-カプロラクトン197.2g、2−ヒドロキシエチルアクリレート13.4gを導入し、窒素を吹き込みながら、内温80℃で攪拌溶解した。このフラスコにモノブチル錫オキシド0.1gを加え、内温100℃に加熱した。8時間後、ガスクロマトグラフィーにて、原料が消失したことを確認後、室温まで冷却し、固体状の前駆体3(下記構造)を200g得た。
(合成例4)前駆体4の合成
500mL三口フラスコに、ε-カプロラクトン197.2g、メトカルバモール27.9gを導入し、窒素を吹き込みながら、内温80℃で攪拌溶解した。このフラスコにモノブチル錫オキシド0.1gを加え、内温100℃に加熱した。8時間後、ガスクロマトグラフィーにて、原料が消失したことを確認後、室温まで冷却し、固体状の前駆体4(下記構造)を200g得た。
(合成例5)前駆体5の合成
500mL三口フラスコに、ε-カプロラクトン197.2g、3−アミノプロピオンアルデヒドジエチルアセタール17.0gを導入し、窒素を吹き込みながら、内温80℃で攪拌溶解した。このフラスコにモノブチル錫オキシド0.1gを加え、内温100℃に加熱した。8時間後、ガスクロマトグラフィーにて、原料が消失したことを確認後、室温まで冷却し、固体状の前駆体5(下記構造)を200g得た。
(合成例6)前駆体6の合成
500mL三口フラスコに、ε−カプロラクトン197.2g、2−エチル−1−ヘキサノール15.0gを導入し、窒素を吹き込みながら、内温80℃で攪拌溶解した。このフラスコにモノブチル錫オキシド0.1gを加え、内温100℃に加熱した。8時間後、ガスクロマトグラフィーにて、原料が消失したことを確認後、室温まで冷却し、固体状の前駆体6(下記構造)を200g得た。
<上記架橋性ポリエステルの合成例>
(合成例7)ポリエステル1の合成
200mL三口フラスコに、前駆体1を40.5g導入し、窒素を吹き込みながら、80℃で攪拌溶解した。このフラスコにmeso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物2.2gを加え、内温110℃に加熱した。5時間後、H-NMRにて、原料が消失したことを確認後、室温まで冷却し、固体状のポリエステル1を38g得た。
(合成例8)ポリエステル2の合成
合成例7においてmeso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物2.2gを、ピロメリット酸二無水物2.4gに変更した点以外は合成例7と同様に合成を行い、固体状のポリエステル2を38g得た。
(合成例9)ポリエステル3の合成
合成例7においてmeso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物2.2gを、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物3.0gに変更した点以外は合成例7と同様に合成を行い、固体状のポリエステル3を39g得た。
(合成例10)ポリエステル4の合成
合成例7においてmeso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物2.2gを3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物3.6gに変更した点以外は合成例7と同様に合成を行い、固体状のポリエステル4を40g得た。
(合成例11)ポリエステル5の合成
合成例7において前駆体1(40.5g)を、前駆体2(40.7g)に変更した点以外は合成例7と同様に合成を行い、固体状のポリエステル5を38g得た。
(合成例12)ポリエステル6の合成
合成例7において前駆体1(40.0g)を、前駆体3(39.8g)に変更した点以外は合成例7と同様に合成を行い、固体状のポリエステル6を37g得た。
(合成例13)ポリエステル7の合成
合成例7において前駆体1(40.0g)を、前駆体4(40.3g)に変更した点以外は合成例7と同様に合成を行い、固体状のポリエステル7を37g得た。
(合成例14)ポリエステル8の合成
合成例7において前駆体1(40.0g)を、前駆体5(37.7g)に変更した点以外は合成例7と同様に合成を行い、固体状のポリエステル8を37g得た。
(合成例15)ポリエステル9の合成
合成例7において前駆体1(40.0g)を、前駆体6(39.6g)に変更した点以外は合成例7と同様に合成を行い、固体状のポリエステル9を37g得た。
[実施例1〜9]
<磁性層形成用組成物(磁気記録媒体用組成物)の調製>
(組成物の処方)
強磁性板状六方晶フェライト粉末:100.0部
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.2/1
保磁力Hc:160kA/m(2000Oe)
平均粒子サイズ(平均板径):20nm
平均板状比:2.7
BET法による比表面積:60m2/g
飽和磁化σs:46A・m2/kg(46emu/g)
表1に記載の架橋性ポリエステル:10.0部
ポリウレタン樹脂(東洋紡績株式会社製バイロン(登録商標)UR4800、官能基:SO3Na、官能基濃度:70eq/t、重量平均分子量7,0000):4.0部
塩化ビニル樹脂(カネカ社製MR104、重量平均分子量5,5000):10.0部
α−Al(平均粒子サイズ0.1μm):8.0部
カーボンブラック(平均粒子サイズ:0.08μm):0.5部
シクロヘキサノン:110.0部
(組成物の調製)
上記の各成分をオープンニ−ダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液に下記の成分を加え撹拌した後、超音波処理し、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層形成用組成物(磁気記録媒体用組成物)を得た。
ブチルステアレート:1.5部
ステアリン酸:0.5部
ステアリン酸アミド0.2部
メチルエチルケトン:50.0部
シクロヘキサノン:50.0部
トルエン:3.0部
表1に記載の架橋剤:表1参照
表1に記載の酸、塩基または反応開始剤:表1参照
実施例6の磁性層形成用組成物に含まれるポリエステル6が有するアクリロイルオキシ基は、表1に示す塩基の作用により、表1に示す架橋剤が有するメルカプト基とイオン反応し架橋構造を形成することができる。
実施例7の磁性層形成用組成物に含まれるポリエステル6は、表1に示す反応開始剤(アゾ系ラジカル開始剤)の作用により、ポリエステル6が有するアクリロイルオキシ基のラジカル反応により、ポリエステル6の分子間を架橋することができる。
実施例9の磁性層形成用組成物に含まれるポリエステル8が有するアセタール基は、表1に示す酸fにより脱保護されて生成したアルデヒド基が、塩化ビニル樹脂(カネカ社製MR104)が有するヒドロキシル基とイオン反応することにより架橋構造を形成することができる。
(非磁性層形成用組成物の調製)
非磁性粉末(αFe23 ヘマタイト):80.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長) 0.15μm
BET(Brunauer-Emmett-Teller)法による比表面積 52m2/g
pH 6
タップ密度 0.8
DBP(Dibutyl phthalate)吸油量 27〜38g/100g
表面処理剤 Al23、SiO2
カーボンブラック:20.0部
平均粒子サイズ 0.020μm
DBP吸油量 80ml/100g
pH 8.0
BET法による比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
ポリウレタン樹脂:19.0部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系
−SO3Na=100eq/ton
メチルエチルケトン:150.0部
シクロヘキサノン:150.0部
上記各成分をオープンニ−ダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液に下記の成分を加え撹拌した後、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層形成用組成物を調製した。
ブチルステアレート:1.5部
ステアリン酸:1.0部
メチルエチルケトン:50.0部
シクロヘキサノン:50.0部
トルエン:3.0部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製コロネート3041):5.0部
(バックコート層形成用組成物の調製)
カーボンブラック(平均粒子サイズ40nm):85.0部
カーボンブラック(平均粒子サイズ100nm):3.0部
ニトロセルロース:28.0部
ポリウレタン樹脂:58.0部
銅フタロシアニン系分散剤:2.5部
ニッポラン2301(日本ポリウレタン工業社製):0.5部
メチルイソブチルケトン:0.3部
メチルエチルケトン:860.0部
トルエン:240.0部
上記成分をロールミルで予備混練した後サンドミルで分散し、ポリエステル樹脂(東洋紡績株式会社製バイロン500)4.0部、ポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製コロネート3041)14.0部、α−Al23(住友化学社製)5.0部を添加、攪拌濾過してバックコート層形成用組成物を調製した。
(磁気テープの作製)
厚さ5.0μmのポリエチレンナフタレート支持体の両表面にコロナ放電処理を施した。
上記ポリエチレンナフタレート支持体の一方の表面に、上記の非磁性層形成用組成物を乾燥後の厚さが1.0μmになるように塗布し、さらにその直後にその上に磁性層の厚さが100nmになるように、上記磁性層形成用組成物を同時重層塗布した。両層が湿潤状態にあるうちに0.5T(5000G)の磁力をもつコバルト磁石と0.4T(4000G)の磁力をもつソレノイドにより配向処理を施した後に雰囲気温度140℃の加熱炉内で乾燥処理を施した。
その後、上記ポリエチレンナフタレート支持体のもう一方の表面に上記のバックコート層形成用組成物を乾燥後の厚さが0.5μmとなるように塗布した。次いで、金属ロールから構成される7段のカレンダーでカレンダーロールの表面温度100℃にて速度80m/minでカレンダー処理を行い、1/2インチ(0.0127メートル)幅にスリットして磁気テープを作製した。
[比較例1]
磁性層形成用組成物に架橋性ポリエステル、酸、塩基および反応開始剤は用いず、架橋剤に代えてポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製コロネート3041)を2.5部添加した点以外、上記実施例と同様の方法で磁気テープを作製した。
[参考例1]
磁性層形成用組成物に上記反応性基を持たない表1に示すポリエステルを用い、酸、塩基および反応開始剤は用いず、架橋剤に代えてポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製コロネート3041)を2.5部添加した点以外、上記実施例と同様の方法で磁気テープを作製した。
[測定方法]
<磁性層表面の中心線平均表面粗さ>
原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM:DIGITAL INSTRUMENT社製のNANOSCOPE III)を用い、コンタクトモードで磁性層表面について40μm×40μmの面積を測定し、中心線平均表面粗さ(Ra)を測定した。
<電磁変換特性:SN比(Signal-to-Noise Ratio)>
LTO(Linear-Tape-Open)−Gen4(Generation 4)ドライブを用いて、記録トラック幅11.5μm、再生トラック幅5.3μm、線記録密度172kfciと86kfciの信号を記録し、再生信号をスペクトラムアナライザーで周波数分析し、172kfci信号記録時のキャリア信号の出力と、86kfci信号記録時のスペクトル全帯域の積分ノイズとの比をSN比とした。レファレンステープとして富士フイルム製LTO−Gen4テープを用いた。レファレンステープのS/N比を0dBとし、各磁気テープのS/N比を相対値として求めた。S/N比が0dB以上であれば高密度記録用磁気記録媒体として優れた電磁変換特性を有すると判断することができる。
<磁性層の耐久性(磁性層表面の削れ)>
Al/TiC製の7mm×7mmの断面を有する角柱バーのエッジに磁性層表面を接触させるように150度の角度で磁気テープを渡し、荷重100g、秒速6mの条件で100mの長さの磁気テープを1パス摺動させて、角柱バーのエッジを光学顕微鏡にて観察し、汚れの付着状態を評価した。評価は官能評価とし、10段階評価した。10は汚れが少なく、1は最も汚れが多い。
上記方法により評価される汚れは、主に磁性層表面の削れに起因して発生し、評価結果の値が小さいほど磁性層表面が削れ、磁性層の耐久性に劣ることを意味する。評価値8以上であれば、汚れ(磁性層表面の削れ)が少なく磁性層の耐久性が良好と判断することができ、評価結果9以上であれば磁性層の耐久性が特に良好と判断することができる。
以上の結果を、下記表2に示す。
評価結果
表2に示す結果から、実施例の磁気テープは、磁性層の表面平滑性が高く、かつ耐久性に優れることが確認できる。中でも、酸無水物としてmeso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物を使用して得られた、前述の部分構造を有する架橋性ポリエステルを磁性層成分として用いた実施例1、5〜9において、特に良好な結果が得られた。
これに対し、磁性層成分として架橋性ポリエステルを用いず作製した比較例1の磁気テープは、磁性層の表面平滑性および耐久性に劣るものであった。
参考例1の磁気テープは、磁性層成分として、架橋性ポリエステルに代えて、酸性基を有し、かつ重量平均分子量が1,000〜20,000の範囲であるポリエステル(ただし上記反応性基を有さない)を用いて作製した磁気テープである。実施例と参考例1との対比から、磁性層成分として架橋性ポリエステルを用い、この架橋性ポリエステルが架橋構造を形成することにより、いっそう優れた磁性層の耐久性が得られる(評価値9以上)ことが確認できる。
本発明は、塗布型磁気記録媒体の製造分野において有用である。

Claims (18)

  1. 強磁性粉末と、
    結合剤と、
    ラジカル反応により架橋構造を形成可能な成分、イオン反応により架橋構造を形成可能な成分およびペリ環状反応により架橋構造を形成可能な成分からなる群から選ばれる架橋性成分と、
    を含み、
    前記架橋性成分は、少なくとも、ラジカル反応性基、イオン反応性基およびペリ環状反応性基からなる群から選ばれる反応性基と、酸性基と、をそれぞれ1分子中に1つ以上有し、かつ重量平均分子量が1,000〜20,000の範囲であるポリエステルを含む磁気記録媒体用組成物。
  2. 前記ポリエステルは、前記反応性基を1分子中に2つ以上有する請求項1に記載の磁気記録媒体用組成物。
  3. 前記架橋構造を形成可能な成分は、前記ポリエステルが有する反応性基と架橋反応可能な基を1分子中に2つ以上有する化合物を更に含む請求項1または2に記載の磁気記録媒体用組成物。
  4. 前記化合物の分子量は、100〜5000の範囲である請求項3に記載の磁気記録媒体用組成物。
  5. 前記化合物は、前記ポリエステルが有する反応性基と架橋反応可能な基を1分子中に3〜8つ有する請求項3または4に記載の磁気記録媒体用組成物。
  6. 前記架橋構造を形成可能な成分は、前記ポリエステルが有する反応性基と架橋反応可能な基を1分子中に1つ以上有する結合剤を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用組成物。
  7. 前記ポリエステルは、下記一般式1で表されるポリエステルおよび下記一般式2で表されるポリエステルからなる群から選択される請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用組成物;
    一般式1中、Aは、前記反応性基およびポリエステル鎖を含む1価の基を表し、R11およびR12は、それぞれ独立に単結合または2価の連結基を表し、R13は、水素原子または1価の基を表し、mは2以上の整数を表し、複数存在するA、R11、R12、R13は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、Aはヒドロキシル基または−O−R14−Zで表される1価の基を表し、R14は単結合または2価の連結基を表し、Zは酸性基を表し、複数存在するAのうちの少なくとも1つは−O−R14−Zで表される1価の基を表し、Xはm価の連結基を表す。
    一般式2中、R21は前記反応性基を表し、Xは−O−、−S−または−NR22−を表し、R22は水素原子または1価の基を表し、Lは2価の連結基を表し、Zは酸性基を1つ以上有するn価の部分構造を表し、m2は2以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。
  8. 前記ポリエステルは、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリル基、ビニル基およびアリル基からなる群から選ばれるラジカル反応性基を1分子中に1つ以上有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用組成物。
  9. 前記ポリエステルは、カルバメート基、ヒドロキシル基、メルカプト基、アルデヒド基、アセタール基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、メチロール基、メトキシメチル基、スチリル基、マレイミド基およびアミノ基からなる群から選ばれるイオン反応性基を1分子中に1つ以上有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用組成物。
  10. 前記ポリエステルは、共役ジエン含有基および二重結合含有基からなる群から選ばれるペリ環状反応性基を1分子中に1つ以上有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用組成物。
  11. 前記二重結合含有基は、マレイミド基である請求項10に記載の磁気記録媒体用組成物。
  12. 前記ポリエステルは、カルボキシ基およびカルボキシ塩からなる群から選択される酸性基を有する請求項1〜11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用組成物。
  13. 前記ポリエステルは、少なくとも2つの酸性基を有し、隣り合う2つの炭素原子にそれぞれ酸性基が1つ結合している請求項1〜12のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用組成物。
  14. 前記ポリエステルは、下記部分構造:
    を有し、前記部分構造において、AおよびAは、それぞれ独立に酸性基を表し、*は前記ポリエステルを構成する他の構造との結合位置を表す請求項1〜13のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用組成物。
  15. 前記部分構造において、*は前記ポリエステルに含まれるポリエステル鎖との結合位置を表す請求項14に記載の磁気記録媒体用組成物。
  16. 前記強磁性粉末の平均粒子サイズは10nm以上50nm以下である請求項1〜15のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用組成物。
  17. 非磁性支持体上に磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、
    前記磁性層を、請求項1〜16のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用組成物を加熱する工程を経て形成することを含む磁気記録媒体の製造方法。
  18. 請求項17に記載の製造方法により製造された磁気記録媒体。
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