JP2016180658A - 金属材料の遅れ破壊特性の評価方法及び金属材料 - Google Patents

金属材料の遅れ破壊特性の評価方法及び金属材料 Download PDF

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Abstract

【課題】大気腐食環境下で用いられる金属材料の遅れ破壊特性を正確かつ簡便に評価する。【解決手段】金属材料に塩化物を主体とする成分を付着させる工程(A)と、該工程(A)を経た金属材料に対して、相対湿度を変えることにより金属材料表面を乾燥させる乾燥工程(b1)と湿潤させる湿潤工程(b2)を付与することを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程(B)からなる工程を1回以上行うことにより金属材料の遅れ破壊特性を評価する方法であって、工程(A)では、金属材料に付着させる塩化物を主体とする成分量を1〜10000mg/m2とし、工程(B)では、温度変動を±5℃以下とするとともに、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)間で相対湿度を変化させる際の移行期間中に、湿度50〜60%RHで0.5時間以上保持する湿度保持工程(b3)を設ける。【選択図】なし

Description

本発明は、大気腐食環境下で用いられる金属材料について、腐食に伴って金属材料内部に侵入する水素により引き起こされる遅れ破壊に対する特性(遅れ破壊発生の有無及びその程度)を評価するための方法に関するものである。
近年、自動車の構造部材を軽量化する観点から、使用する鋼板を高強度化することによって板厚を低減する努力が進められている。このような鋼板の高強度化に伴い、従来の自動車用部品では問題になることのなかった遅れ破壊に対する懸念が新たに浮上してきた。
遅れ破壊とは、高強度鋼部品が静的な負荷応力を受けた状態で、ある時間が経過したとき、外見的にはほとんど塑性変形を伴うことなしに、突然脆性的に破壊する現象であり、広義には液体金属接触割れや応力腐食割れなども含まれるが(非特許文献1)、自動車用部品で問題になるのは腐食に伴い鋼中に侵入する水素によって引き起こされる水素脆化型の遅れ破壊である。遅れ破壊を引き起こす因子としては、材料(強度)、加工(歪・応力)、水素の3因子であることが知られている。ここで、金属材料への水素の侵入原因としては、金属材料と接触する溶液・溶媒からの侵入や、使用される環境下で金属材料が腐食することに伴って発生する水素の侵入が考えられる。
従来、溶液・溶媒からの水素侵入量の多いラインパイプ等の厚板分野や、引張強度が1200MPa以上を達成した高強度鋼製ボルト(非特許文献2)においては、遅れ破壊を課題とした研究が幅広く行われており、遅れ破壊の発生を評価する方法について規格化がなされてきた。
また、近年、高強度化が図られている薄板分野における遅れ破壊の評価方法についても、種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、鋼材に陰極チャージによって拡散性水素を含有させ、限界拡散性水素量を測定することによって、鋼材の遅れ破壊特性を評価する方法において、限界拡散性水素量の測定中に鋼材から水素が放出されることを防止するために、鋼材に亜鉛めっきを施す方法が提案されている。
しかし、特許文献1に記載された技術は、陰極チャージにより強制的に鋼中に水素を侵入させる加速試験を行うものであるため、実際の使用環境とは異なる条件の下で、供試材の種類による遅れ破壊発現の優劣をつけることはできるものの、実際の使用環境での腐食に伴う水素侵入によって遅れ破壊が起こるか否かを推定することは難しい。
すなわち、大気腐食は、金属材料に塩化物が付着し、乾湿繰り返しがなされることで引き起こされる腐食であり、このような大気腐食に伴う水素侵入によって遅れ破壊が起こるか否かを評価するためには、大気腐食を模擬した腐食環境下で遅れ破壊を評価することが重要である。
従来、大気腐食を模擬した腐食試験方法に関して、例えば、以下のような提案がなされている。
特許文献2には、被試験体の表面に塩化物イオンを含む塩分を7日間に1回乃至1日間に1回付着させる(A)工程と、この後に行う(B)工程、すなわち、被試験体に温度と相対湿度をステップ状に変化させて設定した、乾燥工程を先に行い、その後に湿潤工程を行うことを1サイクルとする工程であって、このサイクルを複数回行う(B)工程、を繰り返し行う家電用金属材料の大気腐食試験方法が開示されている。
また、特許文献3には、(A)工程と(B)工程からなる工程を複数回繰り返して鋼材等の耐食性を評価する方法であって、(A)工程では、NaCl、硫酸イオン、MgClを含み、pHが3.0〜5.0、塩化物の総濃度が0.1〜2.0重量%、NaCl濃度がMgCl濃度の3倍以下である溶液を、鋼材表面に処理時間1〜15分で付着させ、(B)工程は、相対湿度10〜50%で3〜12時間の乾燥工程と、相対湿度80〜98%で2〜8時間の湿潤工程からなり、温度範囲を10〜60℃とし且つ乾燥工程温度≧湿潤工程温度として、乾燥工程時間に含まれる湿潤工程から乾燥工程への移行時間を20〜60分に設定した乾燥工程と湿潤工程を1サイクルとし、このサイクルを1乃至複数回行うようにした、鋼材等の耐食性評価方法が開示されている。
また、特許文献4には、金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる(A)工程と、金属材に対して、温度と相対湿度を変化させて設定した乾燥工程及び湿潤工程を繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う(B)工程からなる工程を1回以上行うことにより金属材の耐食性を評価する方法であって、(A)工程では、金属材に付着した塩水の平均粒径を1〜300μm、塩分付着量を0.1〜10000mg/mとし、所要時間を10分以内とし、(B)工程では、乾燥工程と湿潤工程の露点変動を±5℃以内とする、金属材の耐食性評価方法が開示されている。
特開2005−134152号公報 特開2012−26945号公報 特開2005−181102号公報 特開2011−169918号公報
松山晋作、遅れ破壊、日刊工業新聞社、1989年 大村等、腐食防食シンポジウム資料、Vol.170、p.47−54、2010年 Corrosiveness of various atmospheric test sites as measured by specimens of steel and zinc, in metal corrosion in the Atmosphere,STP 435.pp360-391, American Society for Testing and Materials, Philadelphia,1968
特許文献2〜4に記載された技術は、いずれも大気腐食環境下での腐食挙動を実験室的に再現することを目的としたものであるが、従来、遅れ破壊特性の評価に適しているかどうかはよく分からなかった。このため、本発明者らが種々の腐食環境において遅れ破壊特性の評価を行った結果、特許文献2〜4に示されるような腐食試験サイクルを用いた場合、遅れ破壊特性を正確に評価ができないことが判った。
したがって本発明の目的は、大気腐食環境下で用いられる金属材料について、腐食に伴って金属材料内部に侵入する水素により引き起こされる遅れ破壊に対する特性(遅れ破壊発生の有無及びその程度)を正確かつ簡便に評価することができる評価方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、大気腐食を模擬した腐食環境下で遅れ破壊特性を評価する際の試験条件について、以下のような知見を得た。
(i)金属材料の腐食速度を大きくすることにより、腐食に伴って発生する水素量は多くなるため、金属中への水素侵入量が多くなるが、金属材料の腐食速度を大きくすることは、実環境の腐食挙動から外れることになる。このため、金属材料の腐食速度を大きくすることなく、水素侵入量を多くする必要があり、これにより金属内部へ腐食に伴って侵入する水素により引き起こされる遅れ破壊を適正に評価することができる。
(ii)塩化物を付着させた金属材料に対し、相対湿度を変えることにより乾燥工程と湿潤工程を付与するサイクルを少なくとも1回行う工程において、乾燥工程と湿潤工程間での工程移行時に相対湿度を変化させる際に多くの水素が金属材料に侵入するが、乾燥工程と湿潤工程間で相対湿度を変化させる際の移行期間中に湿度を50〜60%RHに保持する工程を設けることで、金属材料の腐食速度を大きくすることなく、多くの水素を金属材料に侵入させることができ、遅れ破壊特性を評価すべき温度環境での遅れ破壊の発生の有無や程度をより正確に判断できる。さらに、乾燥工程と湿潤工程間の工程移行時に相対湿度を変化させる際の湿度変化速度を30%RH/hr未満とすることにより、遅れ破壊特性をより適切に評価することができる。
(iii)遅れ破壊特性は環境の温度によって変化し、環境から入る水素侵入量も大きく変化するため、金属材料の遅れ破壊特性について、部材の適用部位を考慮した適切な評価を行うためには、一定の温度で遅れ破壊特性を評価する必要がある。また、環境の温度変化が十分に小さければ、環境から入る水素侵入量を、目的とする環境の温度での水素侵入量に対して十分に小さい変動幅で評価でき、遅れ破壊特性を正確に評価することができる。
本発明は、以上のような知見に基づきなされたものであり、その要旨は次のとおりである。
[1]下記工程(A)と工程(B)からなる工程を1回以上行うことにより金属材料の遅れ破壊特性を評価する方法であって、工程(A)では、金属材料に付着させる塩化物を主体とする成分量を1〜10000mg/mとし、工程(B)では、温度変動を±5℃以下とするとともに、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)間で相対湿度を変化させる際の移行期間(但し、「乾燥工程(b1)から湿潤工程(b2)への移行期間」及び/又は「湿潤工程(b2)から乾燥工程(b1)への移行期間」)中に、湿度50〜60%RHで0.5時間以上保持する湿度保持工程(b3)を設けることを特徴とする金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。
・工程(A):金属材料に塩化物を主体とする成分(但し、当該成分が塩化物のみからなる場合を含む。)を付着させる工程
・工程(B):工程(A)を経た金属材料に対して、相対湿度を変えることにより金属材料表面を乾燥させる乾燥工程(b1)と湿潤させる湿潤工程(b2)を付与することを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程
[2]上記[1]の評価方法において、工程(B)において、乾燥工程(b1)、湿潤工程(b2)及び湿度保持工程(b3)が下記条件で行われることを特徴とする金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。
・乾燥工程(b1) 温度:5〜60℃、相対湿度:40%以下、保持時間:1〜12時間
・湿潤工程(b2) 温度:5〜60℃、相対湿度:80〜98%、保持時間:1〜12時間
・湿度保持工程(b3) 温度:5〜60℃、相対湿度:50〜60%、保持時間:0.5〜4時間
[3]上記[1]又は[2]の評価方法において、工程(A)は、実施時間を10分以内とすることを特徴とする金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの評価方法において、工程(B)では、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)間で相対湿度を変化させる移行期間(但し、湿度保持工程(b3)の期間を除く。)中の湿度変化速度を30%RH/hr未満とすることを特徴とする金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの評価方法において、工程(B)において、乾燥工程(b1)、湿潤工程(b2)、湿度保持工程(b3)及びそれぞれの工程から次の工程に移行する移行時間を含む1サイクルが24時間以内であることを特徴とする金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの遅れ破壊特性の評価方法により評価選定した金属材料。
[7]上記[1]〜[5]のいずれかの遅れ破壊特性の評価方法により評価選定した金属材料を使用した自動車部材。
本発明によれば、大気腐食環境下で用いられる金属材料について、腐食に伴って金属材料内部に侵入する水素により引き起こされる遅れ破壊に対する特性(遅れ破壊発生の有無及びその程度)を正確かつ簡便に評価することができる。このため、実際の使用環境での腐食に伴う水素侵入量で遅れ破壊が生じるか否かを判断するために必要な情報を得ることができる。
本発明法で行う腐食促進試験の工程を示す説明図 実施例で用いた遅れ破壊評価用試験片を模式的に示す図面
図1は、本発明に係る遅れ破壊特性の評価方法で行う腐食促進試験の工程を示すものである。図1に示すように、本発明では、実際の大気腐食環境を模擬するために、下記工程(A)と工程(B)からなる工程を1回以上(すなわち1回若しくは複数回繰り返し)行う。
・工程(A):被試験体である金属材料に塩化物を主体とする成分(但し、当該成分が塩化物のみからなる場合を含む。)を付着させる。
・工程(B):工程(A)を経た金属材料に対して、相対湿度を変えることにより金属材料表面を乾燥させる乾燥工程(b1)と湿潤させる湿潤工程(b2)を付与することを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行うとともに、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)間で相対湿度を変化させる際の移行期間(但し、「乾燥工程(b1)から湿潤工程(b2)への移行期間」及び/又は「湿潤工程(b2)から乾燥工程(b1)への移行期間」)中に、湿度50〜60%RHの湿度保持工程(b3)を設ける。
以下、工程(A)と工程(B)の詳細を説明する。
・工程(A)
この工程(A)において、被試験体である金属材料に付着させる塩化物を主体とする成分とは、塩化物であるNaCl、MgCl、CaClの1種以上を含み、それらの合計が全成分の50mass%超であるものを指す。したがって、当該成分が塩化物(NaCl、MgCl、CaClの1種以上)のみからなる場合を含む。塩化物以外の成分としては、硫化物や硝酸化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。実際の腐食環境を考慮すると、金属材料に付着させるのはNaClを主体とする成分(NaClが全成分の50mass%超である成分)であることが好ましい。
金属材料に付着させる塩化物を主体とする成分量(水などの溶媒を含まない固形分付着量)は1〜10000mg/mとする。この付着量は、実際の腐食環境で想定される付着量に対応したものである。付着量1mg/m未満の腐食環境については、ほとんど腐食が進行しないため、評価に適さない。実際の腐食環境を模擬し、かつ腐食を促進させる目的から好ましい付着量は100〜4000mg/m程度である。
塩化物を主体とする成分を金属材料表面に付着させる方法は特に限定されないが、通常、塩化物を主体とする成分を含む溶液を金属材料の表面に付着させる方法が採られ、具体例としては、例えば、塩化物を主体とする成分を含む溶液(通常、塩水などの水溶液)中に金属材料を浸漬する方法、同溶液を金属材料にスプレー塗布する方法などが挙げられる。
塩化物を主体とする成分を金属材料に付着させる工程の実施時間は10分以内とすることが好ましい。塩化物を主体とする成分を金属材料の表面に付着させる工程の実施時間、例えば、塩化物を主体とする成分を含む溶液に金属材料を浸漬する時間、或いは同溶液を金属材料にスプレー塗布する時間が10分を超えると、溶液による金属材料の腐食が進行することがあり、実際の腐食環境における腐食との相関が低くなるおそれがある。
なお、塩化物を主体とする成分の付着量は、工程(A)前後の被試験体(金属材料)の質量差を被試験体面積で除することにより算出することができる。付着量を変化させる場合は、例えば、塩化物を主体とする成分を含む溶液の濃度を変化させたり、スプレー塗布法であれば金属材料への溶液の付着量を変化させることで制御することができる。
・工程(B)
この工程(B)において、相対湿度を変えることにより金属材料表面を乾燥させる乾燥工程(b1)と湿潤させる湿潤工程(b2)を1サイクルとして実施するのは、実際の環境における昼夜の湿度変化を模擬するためである。
工程(B)では、工程(A)を経た金属材料を、乾燥工程(b1)において金属材料表面を乾燥させ、次いで、湿潤工程(b2)において金属材料表面を湿潤させるが、さらに必要に応じて、このような乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)からなるサイクルを1回以上繰り返す。
本発明者らは、遅れ破壊を引き起こす水素侵入量に及ぼす環境の温度の影響について詳細に調査するため、温度環境の異なる地域で暴露試験を実施した。その結果、腐食に伴う金属材料への水素侵入量は温度により大きく変化することを見出し、遅れ破壊特性が変化することが明らかとなった。そのため、金属材料の遅れ破壊特性について、部材の適用部位を考慮した適切な評価を行うためには、工程(A)での塩化物を主体とする成分の付着量のみならず、工程(B)での温度を適切に設定する必要があり、一定の温度で遅れ破壊特性を評価する必要がある。ここで、一定の温度とは±5℃以下であればよい。
また、本発明者らは、遅れ破壊を引き起こす水素侵入量に及ぼす環境の温度の影響について詳細に調査した。その結果、環境の温度変化が±5℃以下であれば、環境から入る水素侵入量が、目的とする環境の温度での水素侵入量に対して30%以内の変動幅で評価でき、遅れ破壊特性を正確に評価できることが判った。また、より好ましい温度変動幅は±2℃以下であり、この場合の水素侵入量は、目的とする環境の温度での水素侵入量に対して15%以下の変動幅で評価が可能となることが判った。
以上の理由から、工程(B)では温度変動を±5℃以下とし、実質的に一定温度環境で乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)を付与するサイクルを少なくとも1回行う。
さらに、本発明者らは、金属材料、特に鋼材への水素侵入量は湿度が変化するタイミングで大きくなるという事実を知見した。このような知見に基づきさらに検討を進めた結果、乾燥工程(b1)から湿潤工程(b2)に移行する際の工程移行時(移行期間)、湿潤工程(b2)から乾燥工程(b1)に移行する際の工程移行時(移行期間)に多量の水素が金属材料中に侵入することが明らかとなった。また、そのなかで、相対湿度が50〜60%RHの領域では、金属材料の腐食はほとんど引き起こされないが、金属材料中への水素侵入量が最も多くなることが明らかとなった。
上記のように湿度が変化するタイミングで金属材料中への水素侵入量が増加する理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考えることができる。まず、乾燥工程(b1)から湿潤工程(b2)に移行する場合、金属材料表面に存在する塩化物の潮解により水分を吸収し始め、金属材料の腐食が開始される。このときの金属材料表面に存在する腐食生成物が変化することが知られており、この腐食生成物の変化とともに水素が発生すると考えられる。また、湿潤工程(b2)から乾燥工程(b1)に移行する場合、水分は塩化物と腐食により溶出した鉄イオンを多量に含んだ濃厚溶液となり、溶液のpHが低下すると考えられる。すなわち、乾燥過程の溶液中に水素イオンが多量に含まれることとなり、金属材料中に水素が侵入しやすくなるものと考えられる。
上述したとおり、金属材料への水素侵入は、金属材料の腐食によって発生する水素の一部が金属材料中に取り込まれることにより生じるため、金属材料の腐食速度を高くすることによって水素侵入量を大きくすることができる。しかしながら、金属材料の腐食速度を大きくすると、実際の腐食挙動から外れることになる。ここで、実際の腐食挙動を知る方法として、鉄と亜鉛の腐食速度比を用いることで推し量ることが可能であり、一般的な大気腐食環境では、鉄と亜鉛の腐食速度比は10〜100であることが報告されている(非特許文献3)。例えば、大気腐食環境から著しく乖離した試験法である塩水噴霧試験の場合、鉄と亜鉛の腐食速度比は、本発明者らの結果から0.3程度である。このことから、鉄と亜鉛の腐食速度比が10〜100となる腐食試験が実環境の腐食結果を再現する方法として好適であると考えられる。
すなわち、金属材料の腐食速度を高めることなく、発生した水素を効率的に金属材料中に引き込むことができれば、実環境の腐食挙動を模擬しながら、実環境で起こり得るような金属材料中への多量の水素の侵入を生じさせることができるため、遅れ破壊を正確に評価することが可能となる。さきに述べたとおり、相対湿度が50〜60%RHの領域は、金属材料の腐食はほとんど引き起こされないが、金属材料中への水素侵入量が多くなる湿度領域であることが明らかとなった。このため本発明では、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)間で相対湿度を変化させる際の移行期間(但し、「乾燥工程(b1)から湿潤工程(b2)への移行期間」及び/又は「湿潤工程(b2)から乾燥工程(b1)への移行期間」)中に、湿度50〜60%RHの湿度保持工程(b3)を設ける。
湿度保持工程(b3)の時間、すなわち、湿度50〜60%RHに保持する時間は0.5時間以上とする。湿度保持工程(b3)が0.5時間未満では、水素侵入が効率的に行われないため、十分な効果が得られない。一方、本発明者らが保持中の水素侵入量の経時変化を調べた結果では、時間の経過とともに水素侵入量が徐々に減少する傾向がある。特に、湿度保持工程(b3)が4時間を超えると、腐食量に比べて水素侵入量の効率が低下するので、遅れ破壊を評価する時間が長くなる。このため、湿度保持工程(b3)は4時間以下が好ましい。
なお、湿度保持工程(b3)が行われる乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)間の移行期間は、「乾燥工程(b1)から湿潤工程(b2)への移行期間」、「湿潤工程(b2)から乾燥工程(b1)への移行期間」のいずれか一方でもよいし、両方でもよい。したがって、塩化物付与工程である工程(A)の後に工程(B)を2回以上繰り返す場合、すなわち、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)からなるサイクルを2回以上繰り返す場合には、湿潤工程(b2)から乾燥工程(b1)への移行期間で湿度保持工程(b3)を行うことができる。
また、乾燥工程と湿潤工程間での工程移行時の相対湿度を変化させる際に多くの水素が金属材料に侵入するという知見に基づき、湿度の移行速度と水素侵入量の関係を調べた結果、上記各工程移行時の湿度変化速度が30%RH/hr未満であれば、遅れ破壊特性をより適切に評価できること判った。このため工程(B)では、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)間で相対湿度を変化させる移行期間(但し、湿度保持工程(b3)の期間を除く。)中の湿度変化速度を30%RH/hr未満とすることが好ましい。
湿度変化速度の下限については、特に規定しないが、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)間の移行時間が長すぎると遅れ破壊特性の評価に長時間を要することとなるため、1.5%RH/hr以上であることが好ましい。
なお、湿度変化速度を上記のように制御する乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)間での工程移行時とは、乾燥工程(b1)から湿潤工程(b2)に移行する際の工程移行時と、湿潤工程(b2)から乾燥工程(b1)に移行する際の工程移行時を含む。したがって、塩化物付与工程である工程(A)の後に工程(B)を2回以上繰り返す場合、すなわち、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)からなるサイクルを2回以上繰り返す場合には、湿潤工程(b2)から乾燥工程(b1)に移行する際の工程移行時にも、相対湿度を変化させる際の湿度変化速度を上記のように制御する。
乾燥工程(b1)及び湿潤工程(b2)における温度は、5〜60℃であることが好ましい。60℃を超える温度は、実際の腐食環境から離れた評価を行うことになるだけでなく、腐食メカニズムが変化することが考えられるため適当でない。一方、5℃未満の温度での評価については、本発明の技術思想では問題がないが、現在の腐食試験を実施する腐食試験槽では5℃未満での湿度制御が困難であること、金属材料の腐食速度を著しく低下させるために評価日数が長くなること、などの観点からできれば避けた方がよい。
乾燥工程(b1)における相対湿度は、40%RH以下であることが好ましい。相対湿度が40%RHを超えると、金属材料表面を十分に乾燥させるためには長時間保持する必要があり、評価期間が長くなるため好ましくない。また、金属材料表面に付着させる成分に塩化マグネシウムや塩化カルシウムなど、より低い湿度で潮解性を示す物質が含まれる場合は、湿度の設定を低くすることが好ましい。
湿潤工程(b2)における相対湿度は、80〜98%RHであることが好ましい。湿潤工程の相対湿度が80%RH未満であると、湿潤の影響が不十分となり評価に時間がかかる。一方、相対湿度が98%RH超であっても本発明の技術思想では問題がないが、加工された被試験体を評価する場合、付着させた成分による吸水量が多くなり、厚い液膜を形成するために付着成分が流されることがあるので、できれば避けた方がよい。
乾燥工程(b1)及び湿潤工程(b2)の保持時間は、それぞれ1〜12時間が好ましい。保持時間が1時間未満では、金属材料表面が十分に乾燥しない場合や湿潤しない場合があったり、腐食試験槽内の湿度分布が大きくなり、試験結果にばらつきを生じやすくなる場合があり、適切でない。また、保持時間が12時間を超えると、遅れ破壊特性の評価に長時間を要することになるので、できれば避けた方がよい。
上述した通り、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)は、1日の昼夜の湿度変化を模擬することを目的としている。したがって、乾燥工程(b1)、湿潤工程(b2)、湿度保持工程(b3)及びそれぞれの工程から次の工程に移行する移行時間を含む1サイクルが24時間を超えると、実際の腐食より緩慢になることを意味するため、遅れ破壊特性の評価に長時間を要することなる。このような観点から、乾燥工程(b1)、湿潤工程(b2)、湿度保持工程(b3)及びそれぞれの工程から次の工程に移行する移行時間を含む1サイクルは24時間以下であることが好ましい。
以上の工程(A)と工程(B)からなる工程は、工程(A)と工程(B)を繰り返し行ってもよいし、工程(A)に続く工程(B)を複数回繰り返し行ってもよい。
本発明において、遅れ破壊特性を具体的に評価するには、金属材料に加工を施すことで金属材料に応力を付与する必要がある。加工方法としては、例えば、曲げ加工、張り出し加工、引張加工等が挙げられる。また、遅れ破壊特性を評価するには金属材料に応力を付与する必要があり、ボルト等を用いて応力を付与した形状で固定する方法や、加工後に残存する残留応力を用いて評価する方法などが挙げられる。
本発明において評価対象とする金属材料は、通常、鋼板などの鋼材であるが、これに限定されず、TiやAlなどの金属材料でもよい。
本発明の遅れ破壊特性の評価方法は、金属材料の遅れ破壊特性を正確に評価できるので、これにより評価選定された金属材料(特に鋼板などの鋼材)は優れた遅れ破壊特性を有するものであり、この金属材料により優れた遅れ破壊特性を有する各種部材(例えば自動車部材)を安定的に製造することができる。
商用の1.6mm厚さの1470MPa級鋼冷延鋼板を対象とし、発明例及び比較例による遅れ破壊特性の評価を行った。
対象とした冷延鋼板を幅35mm×長さ100mmにせん断し、せん断時の残留応力を除去するために幅が30mmとなるまで研削加工を施し、試験片(鋼板)を作製した。この試験片をトルエンに浸漬して5分間超音波洗浄した後、180°曲げ加工し、この状態でボルトとナットで拘束して試験片形状を固定し、図2に示すような遅れ破壊評価用試験片を得た。この遅れ破壊評価用試験片としては、(i)試験片(鋼板)を曲率半径4mmRで180°曲げ加工し、曲げ試験片の内側間隔を8mmとしたもの、(ii)試験片(鋼板)を曲率半径5mmRで180°曲げ加工し、曲げ試験片の内側間隔を10mmとしたもの、を作成した。
以上の遅れ破壊評価用試験片に対して、下記の工程(A)及び工程(B)からなる腐食促進試験を行った。この試験条件の詳細を表1〜表3に示す。試験では、「工程(A)」→「工程(B)」を繰り返し実施し、最大60日間実施した。なお、工程(B)は、「乾燥工程(b1)、乾燥工程(b1)から湿潤工程(b2)への移行、湿潤工程(b2)、湿潤工程(b2)から乾燥工程(b1)への移行」(「乾燥工程(b1)から湿潤工程(b2)への移行期間」及び/又は「湿潤工程(b2)から乾燥工程(b1)への移行期間」中に湿度保持工程(b3)を設ける)を1サイクルとし、この工程(B)を1回又は複数回(2〜4回)繰り返したのちに、塩化物付与工程である「工程(A)」を実施した。表1の「付着頻度(工程(B)サイクル数/回)」は、1回の工程(A)毎に行われる工程(B)のサイクル数(=「工程(b1)→工程(b2)」のサイクル数)である。また、「付着頻度(日/回)」は、1回の工程(A)が行われる頻度(日)であり、「1(日/回)」とは1日1回、「2(日/回)」とは2日に1回を意味する。
・工程(A)
遅れ破壊評価用試験片(説明の便宜上、以下単に「試験片」という。)表面に、種々の付着量で塩化物を付着させた。付着方法は、塩化物(一部の実施例は塩化物+硫酸ナトリウム)を純水に混合して水溶液とし、(i)水溶液に試験片を浸漬する方法、(ii)水溶液を試験片にスプレー塗布する方法、のいずれかの方法とした。なお、(i)の浸漬法では浸漬時間(工程(A)の実施時間)を5分間又は15分間としたが、(ii)のスプレー塗布法では瞬間的なスプレー塗布が行われたので、スプレー塗布時間(工程(A)の実施時間)は数秒である。付着量については、塩化物を付着させる前後の試験片質量差を試験片表面積で除することで、付着した水溶液量を算出し、水溶液の成分濃度から固形分の付着量を算出した。
・工程(B)
工程(A)を経た試験片(水溶液を付着させた試験片)に対して、相対湿度を変えることにより試験片表面を乾燥させる乾燥工程(b1)と湿潤させる湿潤工程(b2)を付与するサイクルを繰り返した。なお、大部分の試験例(発明例)では、工程(B)において「乾燥工程(b1)から湿潤工程(b2)への移行期間」、「湿潤工程(b2)から乾燥工程(b1)への移行期間」の両方で湿度保持工程(b3)を実施したが、一部の試験例(発明例)では、いずれか一方で湿度保持工程(b3)を実施した。工程(B)では、設定温度(表2及び表3)に対して所定幅の温度変動(表2及び表3)とし、乾燥工程(b1)、湿潤工程(b2)及び湿度保持工程(b3)の各湿度と保持時間などを変化させた。なお、一部の試験例では、試験槽内に加熱装置を配置し、加熱出力及び加熱時間を変化させることで槽内に温度変動を与える条件で試験を実施した。このときの温度上昇は1時間に1回で実施した。
(1)遅れ破壊特性の評価
上述した腐食促進試験を実施している間、試験片の180°曲げ部での割れの有無を1日1回目視により観察し、割れが発生するまでの日数(割れ発生日数)を調べた。ここで、割れ発生の判定については、加工試験後、腐食試験前の加工部表面状態から新たに発生した亀裂が1mm以上になった場合に、割れ発生と判定した。なお、この遅れ破壊特性を評価するための腐食促進試験は、1つの実施例(発明例、比較例)について3検体ずつ行い、2検体以上に割れが発生した日数を「割れ発生日数」とした。
この遅れ破壊特性の評価結果を表4に示す。なお、最終的に1検体のみ割れが発生した場合は、その旨を表4中に記載してある。
本実施例の腐食促進試験で使用したと同じ試験片(遅れ破壊評価用試験片)は、本発明者らによって行われた沖縄県での暴露試験に供されており、曲率半径4mmRの試験片では24日目に割れが発生し、曲率半径5mmRの試験片では1年間の暴露期間においても割れが発生していない。このときの平均気温は、曲率半径4mmRの試験片に割れが発生した期間で26℃、曲率半径5mmRの試験片の暴露期間である1年間では20℃であった。この結果をもとに、割れ発生期間が2倍以上(48日以上)必要であった試験サイクルは不適と判断して“×”と評価し、それ以外を“○”(適当)と評価した。
(2)腐食環境の適否評価
本発明では、遅れ破壊特性を評価するため実際の腐食環境を模擬可能であることが重要である。このため、腐食促進試験が実際の腐食環境を模擬できているか否か(腐食環境の適否)について、冷延鋼板及び亜鉛塊を用い、冷延鋼板の腐食量と亜鉛の腐食量の比により以下の基準で評価を行った。この評価試験では、冷延鋼板として商用の不純物が少ない冷延鋼板(JIS規格のSPCE)を、亜鉛塊として純度99%の亜鉛板を、それぞれ用いた。なお、基準とした腐食量比は、非特許文献3に記載の実環境での暴露試験等で得られた結果を元にしている。腐食試験サイクルの冷延鋼板の腐食量と亜鉛の腐食量の比が基準とした腐食量比を外れることは、実環境の腐食環境から外れていることを意味しており、亜鉛めっき鋼板を含む鋼材が異なった腐食状況で評価されることになるため、腐食によって発生し、遅れ破壊を引き起こす水素の発生状況も大きく異なることが考えられるため、実際の腐食環境を模擬することが必要である。
冷延鋼板の腐食量は、腐食前後の質量差を腐食面積で除することにより算出した。腐食後質量は、腐食後の鋼板を5%HCl溶液に浸漬させることで腐食生成物を除去した後に測定した。亜鉛塊の腐食量も同様に、腐食前後の質量差を腐食面積で除することにより算出し、腐食後質量は、腐食後の亜鉛塊を重クロム酸アンモンに15分間浸漬させることで腐食生成物を除去した後に測定した。
[冷延鋼板・亜鉛塊の腐食量比]=[冷延鋼板の腐食量]/[亜鉛塊の腐食量]
<評価基準>
○(好適な腐食環境):5≦[冷延鋼板・亜鉛塊の腐食量比]≦500
×(不適正な腐食環境):[冷延鋼板・亜鉛塊の腐食量比]<5、又は、500<[冷延鋼板・亜鉛塊の腐食量比]
Figure 2016180658
Figure 2016180658
Figure 2016180658
Figure 2016180658
表1〜表4において、No.1とNo.2は工程(B)での湿度保持工程(b3)の有無を評価した比較例と発明例であり、湿度保持工程(b3)がないNo.1の比較例では、実環境と同じ割れ発生状況ではあるが、割れ発生期間が長期化することが判る。このため評価結果は不適と判断される。一方、湿度保持工程(b3)があるNo.2の発明例では、正当な腐食環境下において早期に割れが発生していることが判る。
No.2とNo.6は塩化物の付着方法が異なる発明例であるが、塩化物の付着方法によっては、遅れ破壊特性の評価結果や腐食環境の適否評価は変わらないことが判る。
No.3〜8は、スプレー塗布法で塩化物を付着させる方法において、塩化物を異なる付着量で付着させた実施例である。このうち発明例であるNo.4〜7は、遅れ破壊発生日数に変化は認められるものの、遅れ破壊特性の評価結果は、実環境での結果(沖縄県での暴露試験の結果)と一致していることが判る。一方、塩化物の付着量が少ないNo.3の比較例は、曲率半径4mmRの試験片でも割れが発生しておらず、遅れ破壊特性の評価には適さないことが判る。さらに、塩化物の付着量が多すぎるNo.8の比較例は、不適正な腐食環境であり、さらに、遅れ破壊特性の評価結果についても、実環境での結果(沖縄県での暴露試験の結果)と一致していないことが判る。
No.9は、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)間での工程移行時間をNo.2に比べて短くし、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)間での湿度変化速度を大きくした発明例であるが、遅れ破壊評価結果は実環境と同一であるものの、No.2に比べて割れ発生時間が長期化していることが判る。このことから、湿度移行時間を遅くすることが好適であることが判る。
No.10とNo.11は、塩化物種を変えた発明例であるが、遅れ破壊特性の評価結果や腐食環境の適否評価は変わらず、好適であることが判る。
No.12とNo.13は、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)の保持時間をNo.2よりも長くした発明例であるが、割れ発生日数は多くなるものの、遅れ破壊特性の評価結果や腐食環境の適否評価は変わらず、好適であることが判る。
No.14は、湿度保持工程(b3)を乾燥工程(b1)から湿潤工程(b2)への移行期間中だけに設定した発明例、No.15は、湿度保持工程(b3)を湿潤工程(b2)から乾燥工程(b1)への移行期間中だけに設定した発明例であるが、No.2の発明例に較べて湿度保持工程(b3)の回数が少なくなることによって割れ発生日数が遅くなるが、遅れ破壊特性の評価結果や腐食環境の適否評価は変わらず、好適であることが判る。
No.2、No.16、No.17は、工程(B)の設定温度を変えた発明例であり、低温ほど割れ発生日数が遅くなるが、遅れ破壊特性の評価結果や腐食環境の適否評価は変わらず、好適であることが判る。
No.2、No.18、No.19、No.20、No.21は、湿度保持工程(b3)の保持時間を変えた発明例と比較例であり、湿度保持工程(b3)の保持時間が0.5時間未満であるNo.18の比較例は、実環境と同じ割れ発生状況ではあるが、湿度保持工程(b3)のないNo.1の比較例と同様に割れ発生期間が長期化することが判る。このため評価結果は不適と判断される。また、No.20及びNo.21の発明例のように湿度保持工程(b3)の保持時間が長くなると、割れ発生期間が長期化するが、遅れ破壊特性の評価結果や腐食環境の適否評価は変わらず、好適であることが判る。
No.6とNo.22は、工程(B)の温度変動が異なる発明例であるが、いずれも温度変動が±5℃以下であるため、遅れ破壊特性の評価結果や腐食環境の適否評価は変わらず、好適であることが判る。一方、温度変動が本発明範囲にないNo.23では、遅れ破壊特性が実環境と一致しておらず、不適であることが判る。
No.6とNo.24〜No.27は、湿度保持工程(b3)の湿度を変化させた例であるが、発明例であるNo.6、No.24、No.26では、遅れ破壊特性の評価結果や腐食環境の適否評価は変わらず、好適であることが判る。一方、湿度保持工程(b3)が本発明範囲にないNo.25及びNo.27では、実環境と同じ割れ発生状況ではあるが、湿度保持工程(b3)のないNo.1の比較例と同様に割れ発生期間が長期化することが判る。このため評価結果は不適と判断される。
No.6とNo.28、No.29は、湿潤工程(b2)の湿度を変えた発明例であるが、いずれも遅れ破壊特性の評価結果や腐食環境の適否評価は変わらず、好適であることが判る。

Claims (7)

  1. 下記工程(A)と工程(B)からなる工程を1回以上行うことにより金属材料の遅れ破壊特性を評価する方法であって、
    工程(A)では、金属材料に付着させる塩化物を主体とする成分量を1〜10000mg/mとし、
    工程(B)では、温度変動を±5℃以下とするとともに、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)間で相対湿度を変化させる際の移行期間(但し、「乾燥工程(b1)から湿潤工程(b2)への移行期間」及び/又は「湿潤工程(b2)から乾燥工程(b1)への移行期間」)中に、湿度50〜60%RHで0.5時間以上保持する湿度保持工程(b3)を設けることを特徴とする金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。
    ・工程(A):金属材料に塩化物を主体とする成分(但し、当該成分が塩化物のみからなる場合を含む。)を付着させる工程
    ・工程(B):工程(A)を経た金属材料に対して、相対湿度を変えることにより金属材料表面を乾燥させる乾燥工程(b1)と湿潤させる湿潤工程(b2)を付与することを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程
  2. 工程(B)において、乾燥工程(b1)、湿潤工程(b2)及び湿度保持工程(b3)が下記条件で行われることを特徴とする請求項1に記載の金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。
    ・乾燥工程(b1) 温度:5〜60℃、相対湿度:40%以下、保持時間:1〜12時間
    ・湿潤工程(b2) 温度:5〜60℃、相対湿度:80〜98%、保持時間:1〜12時間
    ・湿度保持工程(b3) 温度:5〜60℃、相対湿度:50〜60%、保持時間:0.5〜4時間
  3. 工程(A)は、実施時間を10分以内とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。
  4. 工程(B)では、乾燥工程(b1)と湿潤工程(b2)間で相対湿度を変化させる移行期間(但し、湿度保持工程(b3)の期間を除く。)中の湿度変化速度を30%RH/hr未満とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。
  5. 工程(B)において、乾燥工程(b1)、湿潤工程(b2)、湿度保持工程(b3)及びそれぞれの工程から次の工程に移行する移行時間を含む1サイクルが24時間以内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属材料の遅れ破壊特性の評価方法。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の遅れ破壊特性の評価方法により評価選定した金属材料。
  7. 請求項1〜5のいずれかに記載の遅れ破壊特性の評価方法により評価選定した金属材料を使用した自動車部材。
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