JP2008203218A - 高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】高強度溶融亜鉛めっき鋼板において問題となる耐遅れ破壊性について、迅速、簡便に評価をする方法を提供する。
【解決手段】引張強度が980MPa以上の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法であって、前記めっき鋼板における素材鋼板を用いて作製された試験片1aを、電解液2中に浸漬し、電解液2の電解によって発生する水素を試験片1bに導入する水素導入工程(S1)と、水素を導入した試験片1cに、亜鉛を主体とするめっき層を5〜100μmの厚さで形成するめっき層形成工程(S2)と、めっき層が形成された試験片1dに、450〜600℃の水素拡散処理温度、5〜600秒の水素拡散処理時間で、水素拡散処理を行う水素拡散処理工程(S3)と、水素拡散処理を行った試験片1eに対し、耐遅れ破壊性試験を行う耐遅れ破壊性試験工程(S4)と、を含むことを特徴とする。
【選択図】図2
【解決手段】引張強度が980MPa以上の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法であって、前記めっき鋼板における素材鋼板を用いて作製された試験片1aを、電解液2中に浸漬し、電解液2の電解によって発生する水素を試験片1bに導入する水素導入工程(S1)と、水素を導入した試験片1cに、亜鉛を主体とするめっき層を5〜100μmの厚さで形成するめっき層形成工程(S2)と、めっき層が形成された試験片1dに、450〜600℃の水素拡散処理温度、5〜600秒の水素拡散処理時間で、水素拡散処理を行う水素拡散処理工程(S3)と、水素拡散処理を行った試験片1eに対し、耐遅れ破壊性試験を行う耐遅れ破壊性試験工程(S4)と、を含むことを特徴とする。
【選択図】図2
Description
本発明は、主に自動車用構造部材用鋼として用いられる引張強度980MPa以上の高強度薄鋼板の耐遅れ破壊性評価方法に係り、特に、耐食性が求められる部位に適用される高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法に関する。
従来より、ボルト、PC鋼線やラインパイプといった用途の鋼には、高強度鋼の適用が進んでおり、高強度化に伴い問題となる遅れ破壊についても種々の研究がなされてきた。これに対し、薄鋼板では、加工性が重視されてきたため、440MPa級までの強度の鋼板が主として適用されてきた。
しかし、近年、自動車の軽量化や衝突安全性の向上等のため、980MPa以上の超高強度鋼板にプレス成型や曲げ加工等を施した、バンパーやインパクトビーム等の補強材や、シートレール、ピラー等のプレス成型や曲げ加工等を施した部品への適用が進んでいる。また、今後は、冷延鋼板だけでなく、耐食性が求められる部位に適用される高強度溶融亜鉛めっき鋼板の適用が進んでいくと考えられている。
しかし、近年、自動車の軽量化や衝突安全性の向上等のため、980MPa以上の超高強度鋼板にプレス成型や曲げ加工等を施した、バンパーやインパクトビーム等の補強材や、シートレール、ピラー等のプレス成型や曲げ加工等を施した部品への適用が進んでいる。また、今後は、冷延鋼板だけでなく、耐食性が求められる部位に適用される高強度溶融亜鉛めっき鋼板の適用が進んでいくと考えられている。
ここで、鋼板の強度が980MPa以上の強度レベルになると、鋼中への水素の侵入により水素脆化(酸洗脆性、めっき脆性、遅れ破壊等)が発生しやすいことが知られており、鋼板の高強度化に伴い、水素脆化起因の遅れ破壊が懸念されている。そのため、従来から、高強度鋼の耐水素脆化特性(耐遅れ破壊性(耐遅れ破壊特性))の評価方法が種々提案されている。
例えば、非特許文献1には、高強度鋼に対してのこれまでの遅れ破壊に対する取り組みの歴史、改善法の例、および一部の耐遅れ破壊性評価方法について記載されている。特に、比較的鋼材の高強度化が早期に進んでいた高強度ボルト、PC鋼棒についての耐遅れ破壊性評価方法が種々紹介されている。
非特許文献2には、1180MPa、1670MPa級の高強度薄鋼板の耐遅れ破壊性評価方法が記載されており、耐遅れ破壊性評価試験に用いたU曲げ試験片の端面処理状態(切り出し時のバリあり、バリなし)が薄鋼板の耐遅れ破壊性に与える影響について開示されている。
特許文献1には、高強度鋼板をU曲げ加工して付加応力を付与した試験片を作製し、pH3〜6の塩化ナトリウム溶液、およびチオシアン酸アンモニウム溶液中にて電極に定電流を通電し、試験片に水素チャージを行い、試験片が破断するまでの時間を測定することにより、薄鋼板の水素脆化について評価をする方法が開示されている。
特許文献2には、鋼材に拡散性水素を含有させ、限界拡散性水素量を測定することにより、鋼材の遅れ破壊特性を評価する方法において、限界拡散性水素量を測定する際に、鋼材から水素が放出するのを防止するため、めっきを施すことについて記載されている。
特許文献3には、ビッカーズ硬さ(HV)250以上を有する鋼材から採取した試験片、および試験片と同一形状のダミー試験片に、同一条件の電解処理により同一量の拡散性水素をチャージしながら、あるいはチャージした後にめっき層を形成した後、定荷重試験または変動荷重試験を実施する耐遅れ破壊特性評価方法が開示されている。
また、鋼の脱水素処理方法として、特許文献4には、鋼製品を常温より加熱し、200〜300℃または400〜500℃の間で少なくとも(D・t)1/2=(製品最小厚みの1/2)の関係を満足する時間t以上(ただしDはα鉄中の水素の拡散係数)の間保持して脱水素する脱水素処理方法が開示されている。
「遅れ破壊」(松山晋作著 日刊工業新聞社刊 1989年8月31日発行)、P.159〜173 「高強度薄鋼板の耐水素脆化評価法」(まてりあ Vol.44 2005年3月発行)、P.254〜256 特開2005−134152号公報
特開2005−69815号公報
特開2006−29977号公報
特開平11−181517号公報
「遅れ破壊」(松山晋作著 日刊工業新聞社刊 1989年8月31日発行)、P.159〜173 「高強度薄鋼板の耐水素脆化評価法」(まてりあ Vol.44 2005年3月発行)、P.254〜256
しかしながら、従来の耐遅れ破壊性の評価方法には、以下に示す問題があった。
非特許文献1には、高強度ボルト、PC鋼棒についての耐遅れ破壊性評価方法は記載されているが、これまで引張強度が980MPaを超えるような鋼板の適用例が無かった自動車用高強度鋼板での耐遅れ破壊性評価方法についての記載はされていない。また、高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下、高強度溶融亜鉛めっき鋼板という)で問題となる亜鉛めっき層/鋼(鋼板)間の水素の拡散についての記述は何らなされていない。また、めっき鋼材(鋼板)中の水素を放出させるためのベーキングの例も記載されているが、本方法では、亜鉛めっき層から鋼中への水素拡散は考慮されていない。なお、亜鉛めっき鋼板中の脱水素処理としてのベーキングの例は、例えばJIS H8610(電気亜鉛めっき)には190〜230度の温度範囲で適正な温度を選ぶように指示されているが、実際、ベーキング条件は経験的になされることが多い。
非特許文献1には、高強度ボルト、PC鋼棒についての耐遅れ破壊性評価方法は記載されているが、これまで引張強度が980MPaを超えるような鋼板の適用例が無かった自動車用高強度鋼板での耐遅れ破壊性評価方法についての記載はされていない。また、高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下、高強度溶融亜鉛めっき鋼板という)で問題となる亜鉛めっき層/鋼(鋼板)間の水素の拡散についての記述は何らなされていない。また、めっき鋼材(鋼板)中の水素を放出させるためのベーキングの例も記載されているが、本方法では、亜鉛めっき層から鋼中への水素拡散は考慮されていない。なお、亜鉛めっき鋼板中の脱水素処理としてのベーキングの例は、例えばJIS H8610(電気亜鉛めっき)には190〜230度の温度範囲で適正な温度を選ぶように指示されているが、実際、ベーキング条件は経験的になされることが多い。
非特許文献2では、U曲げ試験片の端面処理状態の違いにより薄鋼板の水素脆化特性が著しく変化すると報告しているが、本報告では、端面処理状態の異なる2種類の高強度冷延鋼板の耐水素脆化評価方法を報告しているのみである。そのため、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の特性についての報告は記載されていない。また、めっき層形成工程における鋼中への水素侵入から水素拡散の過程についても全く考慮されていない。その上、本方法では、評価に数十〜数千時間もかかるため、工場での出荷検査時に耐遅れ破壊性を迅速に評価するには、時間がかかりすぎるため不適当である。
特許文献1の技術は、比較A鋼と比較B鋼を用いているが、両者ともに冷延鋼板であること、および本評価方法は、陰極チャージによる試験片への水素導入方法(陰極チャージ時の電極形状、試験溶液)を規定しているのみであり、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程におけるめっき層形成工程での鋼中へ侵入する水素の影響については何ら考慮されていない。そのため、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性を正確に評価することはできない。
特許文献2の技術は、対象鋼材が580MPa級の鋼であるため、一般的に遅れ破壊が問題となる強度レベルではない。そのため、鋼材の具体的な耐遅れ破壊性評価については何ら記載されていない。また、鋼中水素量の定量を行うために陰極水素チャージを行い、150時間後に水素が封入されているかを確認する作業があるため、評価を行うまでに非常に多大な時間を要する。さらに、特許文献2に記載のめっき方法は、鋼中からの水素飛散防止を主たる目的としているため、亜鉛めっき層から鋼中への水素進入(水素拡散)については何ら考慮されていない。そのため、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性を評価することはできない。
特許文献3の技術では、実際に鋼材の耐遅れ破壊性を評価する試験片の他に、同一形状のダミー試験片が必要なため、加工・分析を行うのに必要な作業が倍必要となるために、迅速性、簡易性に乏しい。また、耐遅れ破壊性を評価する試験片表面にめっき層を形成させる場合の目的は、鋼中からの水素飛散防止のためであるため、亜鉛めっき層から鋼中への水素侵入(水素拡散)の影響は何ら考慮されていない。これらの問題点があるため、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性を評価することはできない。
また、特許文献4では、鋼製品の脱水素処理方法について記載しているが、対象がめっき鋼板ではなく、亜鉛めっき等の表面処理がなされていない鋼材が対象であるため、高強度溶融亜鉛めっき鋼板で問題となる亜鉛めっき層から鋼中への水素進入(水素拡散)については何ら考慮されていない。従って高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性を評価することはできない。
このように、従来の高強度鋼の耐遅れ破壊性評価方法としては、鋼材の高強度化が比較的早期に進んでいた高強度ボルト、ばね鋼等を対象としたものがほとんどであった。その主な手法としては、遅れ破壊に影響を与える水素を酸浸漬や電気化学的手法等を用いて、実環境中で使用する場合よりも多量に鋼中に導入し、水素を導入した試験片に対して応力、歪付与を行うことにより高強度鋼の耐遅れ破壊性を評価する加速試験法である。
また、高強度鋼中に導入した水素が鋼中から飛散するのを防止する目的で鋼材にめっきを行う方法も紹介されているが、この場合のめっき、および熱処理は、鋼中の水素飛散防止および鋼中の水素濃度均一化が目的であり、高強度溶融亜鉛めっき鋼板で起きている亜鉛めっき層/鋼間における水素拡散については何ら考慮されていない。このため、従来のめっき、および熱処理方法では、高強度溶融亜鉛めっき鋼板における水素拡散の影響を考慮することができないので、その耐遅れ破壊性を評価することはできない。
さらに、近年自動車用薄鋼板における耐遅れ破壊性評価方法も紹介されているが、これらは、主に高強度冷延鋼板を対象としたものばかりであり、今後適用が進んでいくと考えられている高強度溶融亜鉛めっき鋼板における耐遅れ破壊性の評価方法について適用できるものはない。
前記のとおり、従来の技術では、主に自動車用構造部材用鋼として用いられる引張強度980MPa以上の高強度薄鋼板、その中でも特に、高強度溶融亜鉛めっき鋼板において問題となる耐遅れ破壊性を迅速、簡便に評価する手法は見あたらない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、高強度溶融亜鉛めっき鋼板において問題となる耐遅れ破壊性について、迅速、簡便に評価をする方法を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を解決するために、以下に述べる事項について検討を行った。
前記したとおり、従来の高強度鋼の耐遅れ破壊性の評価方法には亜鉛めっき層から鋼中への水素拡散現象を考慮したものはなかった。その詳細は以下のとおりである。
前記したとおり、従来の高強度鋼の耐遅れ破壊性の評価方法には亜鉛めっき層から鋼中への水素拡散現象を考慮したものはなかった。その詳細は以下のとおりである。
亜鉛めっき鋼板(溶融亜鉛めっき鋼板、または合金化溶融亜鉛めっき鋼板)は、連続めっきライン中で鋼板表面に亜鉛めっき層を形成させる処理を行う際、めっき付着性を向上させるために水素還元炉を通過することが知られている。水素還元炉中で焼鈍に必要な温度(約500℃以上)にまで鋼板の温度が上昇するため、鋼中に水素が侵入することが考えられる。その後溶融亜鉛めっき浴に浸漬され、溶融亜鉛めっき鋼板では亜鉛付着量を調整後、合金化溶融亜鉛めっき鋼板では亜鉛付着量を調整後合金化処理され、コイルとされる。
ここで、鋼板表面に付着した亜鉛層中では水素の動きが非常に遅い(ほとんど動かない)ことが知られている。そのため、連続めっきライン中で鋼中に侵入した水素がそのまま残留していることが考えられる。それに対して冷延鋼板では、酸洗等で鋼中に水素が侵入しても、その後室温で放置されることにより、鋼中に侵入した水素が大気中に逃散する。これらの理由から、亜鉛めっき鋼板は冷延鋼板に比べて鋼中水素量が多くなると考えられる。従来の高強度鋼の耐遅れ破壊性の評価方法には、この亜鉛めっき鋼板特有の現象が考慮されていなかった。
次に、従来の耐遅れ破壊性評価方法と、本発明に係る耐遅れ破壊性評価方法の鋼中における水素の挙動について説明する。
図1(a)は、亜鉛めっき層を形成した鋼板における従来の耐遅れ破壊性評価方法で考慮する水素の挙動を示す模式図、(b)は、本発明に係る高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法で考慮する水素の挙動を示す模式図である。
図1(a)に示すように、亜鉛めっき層Aを形成した鋼板における従来の耐遅れ破壊性評価方法では、亜鉛めっき層Aは、鋼B中からの水素飛散防止が目的であり、亜鉛めっき層Aから鋼Bへの水素拡散を考慮したものではなかった。しかし、図1(b)に示すように、亜鉛めっき層Aは、鋼Bへの水素拡散により、水素供給源になり得るものであり、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法においては、この水素拡散量を考慮する必要がある。
図1(a)は、亜鉛めっき層を形成した鋼板における従来の耐遅れ破壊性評価方法で考慮する水素の挙動を示す模式図、(b)は、本発明に係る高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法で考慮する水素の挙動を示す模式図である。
図1(a)に示すように、亜鉛めっき層Aを形成した鋼板における従来の耐遅れ破壊性評価方法では、亜鉛めっき層Aは、鋼B中からの水素飛散防止が目的であり、亜鉛めっき層Aから鋼Bへの水素拡散を考慮したものではなかった。しかし、図1(b)に示すように、亜鉛めっき層Aは、鋼Bへの水素拡散により、水素供給源になり得るものであり、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性の評価方法においては、この水素拡散量を考慮する必要がある。
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、高強度溶融亜鉛めっき鋼板に特有のめっき層形成工程における亜鉛めっき層から鋼中への水素拡散量を考慮した耐遅れ破壊性の評価方法を発明するに至った。
すなわち、本発明に係る高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法は、引張強度が980MPa以上の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法であって、前記めっき鋼板における素材鋼板を用いて作製された試験片を電解液中に浸漬し、前記電解液の電解によって発生する水素を前記試験片に導入する水素導入工程と、前記水素を導入した試験片に、亜鉛を主体とするめっき層を5〜100μmの厚さで形成するめっき層形成工程と、前記めっき層が形成された試験片に、450〜600℃の水素拡散処理温度、5〜600秒の水素拡散処理時間で、水素拡散処理を行う水素拡散処理工程と、前記水素拡散処理を行った試験片に対し、耐遅れ破壊性試験を行う耐遅れ破壊性試験工程と、を含むことを特徴とする。
このように構成すれば、水素導入工程により、実際の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程における還元炉での水素還元の際の水素と同等の水素が試験片に導入され、めっき層形成工程により、水素が導入された試験片に亜鉛を主体とするめっき層が形成される。そして、水素拡散処理工程により、めっき層が形成された試験片に、めっき層から試験片に、効果的に(十分に)水素が拡散され、耐遅れ破壊性試験工程により、めっき層から水素が拡散された試験片の耐遅れ破壊性が評価される。
また、本発明に係る高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法は、前記耐遅れ破壊性試験工程において、前記水素拡散処理工程における水素拡散処理を行った試験片を低歪み速度引張試験に供した際の伸び(Eg1)と、前記水素導入工程における水素を導入する前の試験片を低歪み速度引張試験に供した際の伸び(E0)の比(Eg1/E0)に対し、強度依存係数(前記高強度溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度(MPa)を980で割った値)を乗じた値により、耐遅れ破壊性を評価することを特徴とする。
このように構成すれば、耐遅れ破壊性試験として、低歪み速度引張試験を用いることで、耐遅れ破壊性を迅速、簡便に評価することができる。
また、本発明に係る高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法は、前記水素拡散処理工程において、水素拡散処理温度をT(℃)、水素拡散処理時間をt(秒)としたときに、2250≦T×t≦360000を満たすことを特徴とする。
このように構成すれば、めっき層から試験片中への水素の拡散が効果的(十分に)に行われる。
このように構成すれば、めっき層から試験片中への水素の拡散が効果的(十分に)に行われる。
本発明に係る高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法によれば、主に自動車用構造部材用鋼として、耐食性が求められる部位に適用される引張強度980MPa以上の高強度溶融亜鉛めっき鋼板における耐遅れ破壊性を、迅速、簡便に評価することができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図2(a)は、本発明に係る高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法の工程を示す模式図、(b)は、本発明に係る評価方法の対象となる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程の一例を示す模式図である。
図2(a)は、本発明に係る高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法の工程を示す模式図、(b)は、本発明に係る評価方法の対象となる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程の一例を示す模式図である。
図2(a)に示すように、本発明に係る高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法は、引張強度が980MPa以上の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法であって、水素導入工程(S1)と、めっき層形成工程(S2)と、水素拡散処理工程(S3)と、耐遅れ破壊性試験工程(S4)と、を含むものである。
なお、本発明でいう高強度溶融亜鉛めっき鋼板とは、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を含むものである。
以下、各工程について説明する。
なお、本発明でいう高強度溶融亜鉛めっき鋼板とは、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を含むものである。
以下、各工程について説明する。
<水素導入工程>
水素導入工程(S1)は、評価対象となる高強度溶融亜鉛めっき鋼板における素材鋼板を用いて作製された試験片1aを、電解質を含む溶液である電解液2中に浸漬して、電解液2の電解によって発生する水素を、浸漬した試験片1bに導入する工程である。
ここで、高強度溶融亜鉛めっき鋼板における素材鋼板とは、実際の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程(以下、実際の製造工程という)における還元炉で水素還元する前の、めっき層を形成していない鋼板のことをいう。
水素導入工程(S1)は、評価対象となる高強度溶融亜鉛めっき鋼板における素材鋼板を用いて作製された試験片1aを、電解質を含む溶液である電解液2中に浸漬して、電解液2の電解によって発生する水素を、浸漬した試験片1bに導入する工程である。
ここで、高強度溶融亜鉛めっき鋼板における素材鋼板とは、実際の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程(以下、実際の製造工程という)における還元炉で水素還元する前の、めっき層を形成していない鋼板のことをいう。
試験片1aの作製は、図2(a)、(b)に示すように、例えば、実際の製造工程において、冷延工程が終了し、還元炉で水素還元する前の冷延鋼板の成分、特性確認時に同時に切り出せばよい(試験片切り出し工程(S0))。このようにすることで、高強度溶融亜鉛めっき鋼板のコイルからのサンプリングの手間が省略できると共に、冷延鋼板の特性確認を行った部位の溶融亜鉛めっき(合金化溶融亜鉛めっき)後の耐遅れ破壊性を迅速、簡便に評価することができる。なお、本発明に係る評価方法の対象となる高強度溶融亜鉛めっき鋼板としては、引張強度が980MPa以上の高強度溶融亜鉛めっき鋼板であれば、どのようなものでもよい。また、試験片1aの形状は、後述する耐遅れ破壊性試験工程(S4)での耐遅れ破壊性試験(例えば、低歪み速度引張試験)に供せられるものであればどのようなものでもよいが、好ましくは簡単なフライス加工等を行い、JISに規定される試験片形状(例えばJIS 1号、5号試験片)にするのがよい。
次に、この試験片1aを、電解液2中に浸漬し、電極3、3を浸漬した試験片1bに対して対極に配置し、試験片1bに負の電流を付与する。なお、この負の電流は、定電流によって行う。このようにして、電解液2の電解によって発生する水素を試験片1bに導入する。試験片1bに付与する電流の電流密度、時間を調整することで、試験片1b中に導入する水素量をコントロールすることができるため、実際の製造工程における還元炉での水素還元の際の水素進入を模擬することができる。なお、電流のコントロールには、ポテンショスタット等を用いればよい。電流を付与する時間としては、5〜10分程度が好ましい。この時間であれば、実際の製造工程における還元炉で進入する0.20ppm程度の水素を、試験片1bに導入することができる。
また、試験片1b中へ水素を効率的に導入(吸蔵)させるために、電解液2のpHは6以下であることが好ましい。pHが6を超えると、効率的に水素を試験片1bに導入することが困難になる。また、電解液2としては、水素吸蔵の触媒作用があり、水素を鋼中へ導入しやすい溶液として知られている、チオシアン酸塩(チオシアン酸カリウム、チオシアン酸アンモニウム)を含む酸性の水溶液(例えば、H2SO4水溶液等)を使用するのが好ましい。
前記した方法で試験片1bに導入した水素のうち、高強度鋼の耐遅れ破壊性に影響を与える水素は、鋼中を比較的低温でも拡散することのできる拡散性水素と言われるものである。拡散性水素の定量は、好ましくは、室温〜300℃まで昇温速度を1〜20℃/minとして昇温分析を行い、該当温度域で放出される水素の全量(積分値)により行うことができる。なお、拡散性水素の定量には大気圧イオン化質量分析計(APIMS)等を用いればよい。また、測定時条件としては、昇温速度が1℃/min未満では、拡散性水素の測定に非常に時間がかかり効率が悪く、20℃/minを超えると、鋼材からの水素放出が不十分であるため、拡散性水素を正確に測定することができない。
<めっき層形成工程>
めっき層形成工程(S2)は、前記水素導入工程(S1)で水素を導入した試験片1cに、亜鉛を主体とするめっき層を5〜100μmの厚さで形成する工程である。
めっき層形成工程(S2)は、前記水素導入工程(S1)で水素を導入した試験片1cに、亜鉛を主体とするめっき層を5〜100μmの厚さで形成する工程である。
水素を導入した試験片1cに亜鉛を主体とするめっき層(被覆層)を形成することで、以下に説明するように、高強度溶融亜鉛めっき鋼板で起きている亜鉛めっき層/鋼間における水素拡散の影響を考慮した試験を行うことができる。
水素を導入した試験片1cに形成するめっき層(被覆層)は、亜鉛を主体とするめっき層(すなわち、亜鉛めっき層)である。所定厚さの亜鉛めっき層を形成することで、後述する水素拡散処理工程(S3)において、めっき層から試験片1dへ効果的に水素を拡散させることができ、実際の製造工程における亜鉛めっき層形成工程での水素拡散の影響を考慮した試験を行うことができる。なお、他の金属を主体とするめっき層では、めっき層中の水素量が不十分なこと、また、めっき層中での水素拡散速度が高すぎること、もしくは低すぎることがあり、効果的にめっき層から試験片1dへの水素拡散を行うことができない。
めっき層形成工程(S2)におけるめっき処理は、例えば、水素を導入した試験片1b(ここでは、水素を導入したもの)を、亜鉛めっき浴4中に浸漬し、電極3、3を浸漬した試験片1cに対して対極に配置して、試験片1cに負の電流を付与することにより行う。なお、この負の電流は、定電流によって行う。また、試験片1cに付与する電流の電流密度、時間を調整することで、試験片1cに形成するめっき層の厚さを調整することができ、電流のコントロールには、ポテンショスタット等を用いればよい。
ここで、亜鉛めっき浴4の溶液組成としては、例えば、硫化亜鉛水和物の含有量が100〜500g/L、硫酸の含有量が10〜30g/L、硫酸ナトリウムの含有量が30〜90g/L、光沢剤の含有量が5〜20g/Lのものを用いることができる。また、陰極電流密度が10〜50A/dm2、めっき時間は1分以上であることが好ましい。
なお、めっき層形成工程(S2)におけるめっき処理は、前記めっき処理に限るものではなく、通常行われるめっき処理により亜鉛めっき層を形成させればよい。
なお、めっき層形成工程(S2)におけるめっき処理は、前記めっき処理に限るものではなく、通常行われるめっき処理により亜鉛めっき層を形成させればよい。
ここで、亜鉛めっき層の厚さは、5〜100μmとする。亜鉛めっき層の厚さが5μm未満では、水素拡散処理工程(S3)において試験片1d中への水素の拡散が十分に行われず、また、めっき層の厚さを5μm以上とすることで、後述する水素拡散処理を所定時間実施しても、亜鉛めっき層が消失してしまう恐れが無い。一方、100μmを超えるほどの厚さは不必要であり、また、めっき厚を付与するためには、多大な時間を要するため、めっき層の厚さは、100μm以下とする。
<水素拡散処理工程>
水素拡散処理工程(S3)は、前記めっき層形成工程(S2)でめっき層が形成された試験片1dに、450〜600℃の水素拡散処理温度、5〜600秒の水素拡散処理時間で、水素拡散処理を行う工程である。
水素拡散処理工程(S3)は、前記めっき層形成工程(S2)でめっき層が形成された試験片1dに、450〜600℃の水素拡散処理温度、5〜600秒の水素拡散処理時間で、水素拡散処理を行う工程である。
水素拡散処理においては、水素拡散の観点から、水素拡散処理温度が、450〜600℃、水素拡散処理時間が、5〜600秒である必要がある。水素拡散処理温度が450℃未満では、亜鉛の融点以下であり、亜鉛めっき層から試験片1d中へ効果的に水素の拡散が行われない。一方、600℃を超えると、水素供給源となる亜鉛の飛散が多すぎて、十分に水素拡散が行われず、また、亜鉛の飛散により装置を汚染し、さらに、環境等の観点からも好ましくない。本発明は、亜鉛の融点以上で水素拡散処理を行うことにより、効果的に亜鉛めっき層から試験片1d中へ水素を拡散させることができることに特徴がある。
また、水素拡散処理時間が5秒未満では、亜鉛めっき層から試験片1d中へ水素を十分に拡散させることができない。一方、水素拡散処理時間が600秒を超えると、水素供給源となる亜鉛の飛散が多すぎて、十分に水素拡散が行われず、また、亜鉛の飛散により装置を汚染し、さらに、環境等の観点からも好ましくない。なお、好ましくは、500秒以下、さらに好ましくは、300秒以下である。
ここで、水素拡散処理は、前記水素拡散処理工程(S3)において、水素拡散処理温度をT(℃)、水素拡散処理時間をt(秒)としたときに、2250≦T×t≦360000を満たすこととなる。このように、水素拡散処理温度T(℃)および水素拡散処理時間t(秒)が、2250≦T×t≦360000の範囲に該当する条件を適宜選択すれば、水素の拡散を効果的に(十分に)行うことができる。2250>T×tでは、亜鉛めっき層から試験片1d中へ水素を十分に拡散させることができない。一方、T×t>360000では、水素供給源となる亜鉛の飛散が多すぎて、十分に水素拡散が行われず、また、亜鉛の飛散により装置を汚染し、さらに、環境等の観点からも好ましくない。
なお、前記した水素導入工程(S1)における水素を導入する前の試験片1a(工程S0で冷延鋼板から切り出したもの)中の拡散性水素量をHb、耐遅れ破壊性試験後の試験片1e(工程S4)(ここでは、耐遅れ破壊性試験後のもの)中の拡散性水素量をHaとしたときに、Ha/Hb>1となれば、水素拡散処理が適正に行われているといえる。
<耐遅れ破壊性試験工程>
耐遅れ破壊性試験工程(S4)は、前記水素拡散処理工程(S3)で水素拡散処理を行った試験片1eに対し、耐遅れ破壊性試験を行う工程である。耐遅れ破壊性試験としては、例えば、低歪み速度引張試験を用いることができる。
耐遅れ破壊性試験工程(S4)は、前記水素拡散処理工程(S3)で水素拡散処理を行った試験片1eに対し、耐遅れ破壊性試験を行う工程である。耐遅れ破壊性試験としては、例えば、低歪み速度引張試験を用いることができる。
従来から遅れ破壊試験法として用いられてきた定荷重法では、試験に多大な時間を要すること、およびデータを得るためには試験点数が多く必要であること等、鋼材の耐遅れ破壊性を評価するのに非常に長時間、高コストを要するものであった。一方、低歪み速度引張試験法(SSRT)では、低歪み速度による応力付加により試験片を強制破断させるため、試験環境によらず遅れ破壊感受性を高感度に迅速評価することができる。
具体的には、前記水素拡散処理工程(S3)における水素拡散処理を行った試験片1eを低歪み速度引張試験に供した際の伸び(Eg1)と、前記水素導入工程(S1)における水素を導入する前の試験片1aを低歪み速度引張試験に供した際の伸び(E0)の比(Eg1/E0)に対し、強度依存係数(高強度溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度(MPa)を980で割った値)を乗じた値により、耐遅れ破壊性を評価することができる。
ここで、前記水素導入工程(S1)において、水素を導入する前の試験片1aとは、電解液2中に浸漬させていない試験片1aのことであり、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度とは、本評価方法の対象となる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度のことである。
なお、低歪み速度引張試験での引張速度は、10μm/min以下とすることが好ましい。10μm/minを超える速度の場合で試験を行うと、感受性が低下する。また、この値が30を超えるような場合は、高強度亜鉛めっき鋼板における耐遅れ破壊性が劣ると考えられる。
なお、低歪み速度引張試験での引張速度は、10μm/min以下とすることが好ましい。10μm/minを超える速度の場合で試験を行うと、感受性が低下する。また、この値が30を超えるような場合は、高強度亜鉛めっき鋼板における耐遅れ破壊性が劣ると考えられる。
なお、本発明を行うにあたり、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間あるいは前後に、例えば、試験片を研磨する研磨工程や試験片を乾燥させる乾燥工程等、他の工程を含めてもよい。
以上説明したとおり、従来の耐遅れ破壊性評価方法における試験時のめっき層は、主に鋼中に導入した水素の飛散防止を目的としたものであるため、高強度溶融亜鉛めっき層形成工程で起きている亜鉛めっき層から鋼中への水素拡散は考慮されていない。また熱処理温度、および熱処理時間は、鋼中での水素濃度の均一化を図るためのものであり(200℃以下の低温で長時間を要する)、評価を実施するのに多大な時間を要するため簡便ではない。これに対し、本発明では、亜鉛めっき層から鋼(試験片)中への水素拡散が可能な温度と時間(亜鉛の融点以上で数秒〜数分)で熱処理を施すことを特徴としている。そのため、主に自動車用構造部材用鋼として用いられる引張強度980MPa以上の高強度薄鋼板、その中でも特に耐食性が求められる部位に適用される高強度溶融亜鉛めっき鋼板において問題となる耐遅れ破壊性を迅速、簡便に評価することができる。
また、工場での冷延鋼板の成分、特性確認時に同時に耐遅れ破壊性評価試験片を採取すればよく、この試験片の形状は引張試験等に供せる形状であればよいので、簡便に評価を行うことができる。本発明においては、工場内試験場で、試験片に水素導入、めっき処理、水素拡散処理、耐遅れ破壊性試験を行うことで、冷延鋼板がめっきラインを通過する前に、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性についての検証を迅速、簡便に行うことができる。
次に、本発明に係る高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法の実施例について、その比較例と比較して具体的に説明する。
まず、表1に示す化学組成の鋼(鋼種A、B)を真空溶製し、スラブとしてから板厚3.2mmまで熱間圧延後、室温で冷間圧延を行い、板厚1.2mmの冷延鋼板を得た。前記した冷延鋼板に連続めっきラインを模擬した熱処理を行うため、900℃で90秒保持後、500℃で60秒保持した後、再度600℃で30秒間保持し冷却を行った。この冷延鋼板から所定の大きさを切り出し、フライス加工等によりJIS 1号試験片を作成した。
まず、表1に示す化学組成の鋼(鋼種A、B)を真空溶製し、スラブとしてから板厚3.2mmまで熱間圧延後、室温で冷間圧延を行い、板厚1.2mmの冷延鋼板を得た。前記した冷延鋼板に連続めっきラインを模擬した熱処理を行うため、900℃で90秒保持後、500℃で60秒保持した後、再度600℃で30秒間保持し冷却を行った。この冷延鋼板から所定の大きさを切り出し、フライス加工等によりJIS 1号試験片を作成した。
次に、この試験片を電解液(H2SO4 0.5mol/L KSCN(チオシアン酸カリウム) 0.01mol/L pH2〜3)に浸漬し、電極を試験片に対して対極に配置して、電流密度0.1mA/mm2の条件で、試験片に負の電流を付与した。なお、電流を付与した時間は、鋼中に0.20ppmの水素が導入できる時間として、5分とした。
次に、この水素を導入した試験片にめっき処理を施すことにより、亜鉛めっき層を形成した。めっき処理は、試験片を、亜鉛めっき浴(硫化亜鉛水和物の含有量:400g/L、硫酸の含有量:20g/L、硫酸ナトリウムの含有量:50g/L、光沢剤の含有量:15g/L)に浸漬し、電極を試験片に対して対極に配置して、陰極電流密度30A/dm2の条件で、試験片に負の電流を付与した。なお、電流を付与した時間は、0.5〜20分の範囲で変化させ、表2に示すめっき層の厚さ(めっき厚)とした。
次に、この亜鉛めっき層を形成した試験片に、表2に示す温度、時間により、水素拡散処理を施した。
そして、この試験片および各試験片に対応する実際の製造工程における高強度溶融亜鉛めっき鋼板に対し、低歪み速度引張試験を行うことで、本発明の評価方法での耐遅れ破壊性と、実際の製造工程における高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性とを比較し、本発明の評価方法の妥当性を検証した。
そして、この試験片および各試験片に対応する実際の製造工程における高強度溶融亜鉛めっき鋼板に対し、低歪み速度引張試験を行うことで、本発明の評価方法での耐遅れ破壊性と、実際の製造工程における高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性とを比較し、本発明の評価方法の妥当性を検証した。
実際の製造工程における高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法としては、前記した板厚1.2mmの冷延鋼板に、連続溶融亜鉛めっきラインにおいて、通常の条件に従い、溶融亜鉛めっきを行った。この冷延鋼板から所定の大きさを切り出し、前記試験片と同様な形状等の試験片を作成した。
≪本発明の評価方法の妥当性の検証≫
低歪み速度引張試験では、引張速度を2μm/minとし、本発明の評価方法で水素拡散処理を行った試験片の伸びをEg1、水素導入工程において、水素を導入する前の試験片の伸びをE0、実際の製造工程を用いて冷延鋼板に溶融亜鉛めっきを形成した鋼板(すなわち、実際の製造工程における高強度溶融亜鉛めっき鋼板)から採取した試験片の伸びをEとして、以下の試験を行った。
低歪み速度引張試験では、引張速度を2μm/minとし、本発明の評価方法で水素拡散処理を行った試験片の伸びをEg1、水素導入工程において、水素を導入する前の試験片の伸びをE0、実際の製造工程を用いて冷延鋼板に溶融亜鉛めっきを形成した鋼板(すなわち、実際の製造工程における高強度溶融亜鉛めっき鋼板)から採取した試験片の伸びをEとして、以下の試験を行った。
<本発明の評価方法における試験片の低歪み速度引張試験>
まず、表1に示す試験片No.1〜29を低歪み速度引張試験に供し、伸び(Eg1)を求めると共に、水素導入工程を行う前の試験片を低歪み速度引張試験に供し、伸び(E0)を求めた。そして、この比(Eg1/E0)に対し、強度依存係数(高強度溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度(MPa)を980で割った値)を乗じた値(a)を求めた。
まず、表1に示す試験片No.1〜29を低歪み速度引張試験に供し、伸び(Eg1)を求めると共に、水素導入工程を行う前の試験片を低歪み速度引張試験に供し、伸び(E0)を求めた。そして、この比(Eg1/E0)に対し、強度依存係数(高強度溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度(MPa)を980で割った値)を乗じた値(a)を求めた。
<実際の製造工程における試験片の低歪み速度引張試験>
次に、実際の製造工程における高強度溶融亜鉛めっき鋼板から採取した試験片を低歪み速度引張試験に供し、伸び(E)を求め、前記した水素導入工程を行う前の試験片を低歪み速度引張試験に供した際の伸び(E0)との比(E/E0)に対し、強度依存係数(高強度溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度(MPa)を980で割った値)を乗じた値(b)を求めた。
次に、実際の製造工程における高強度溶融亜鉛めっき鋼板から採取した試験片を低歪み速度引張試験に供し、伸び(E)を求め、前記した水素導入工程を行う前の試験片を低歪み速度引張試験に供した際の伸び(E0)との比(E/E0)に対し、強度依存係数(高強度溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度(MPa)を980で割った値)を乗じた値(b)を求めた。
<本発明の評価方法の妥当性の評価>
前記aの値と、前記bの値を比較すること、すなわち、a/b=[鋼中に水素を導入し、亜鉛めっき層を形成し、水素拡散処理を行った試験片の低歪み速度引張試験での伸び:Eg1]/[実際の製造工程における高強度溶融亜鉛めっき鋼板から採取した試験片の低歪み速度引張試験での伸び:E]を求めることにより、本発明の評価方法の妥当性を検証した。この値が0.5〜1.5の範囲内であれば、評価方法が妥当なものであるとして、妥当性が合格(○)、この範囲にないものを妥当性が不合格(×)とした。この結果を表2に示す。なお、表2において、本発明の構成を満たさないもの等については、数値等に下線を引いて示す。
前記aの値と、前記bの値を比較すること、すなわち、a/b=[鋼中に水素を導入し、亜鉛めっき層を形成し、水素拡散処理を行った試験片の低歪み速度引張試験での伸び:Eg1]/[実際の製造工程における高強度溶融亜鉛めっき鋼板から採取した試験片の低歪み速度引張試験での伸び:E]を求めることにより、本発明の評価方法の妥当性を検証した。この値が0.5〜1.5の範囲内であれば、評価方法が妥当なものであるとして、妥当性が合格(○)、この範囲にないものを妥当性が不合格(×)とした。この結果を表2に示す。なお、表2において、本発明の構成を満たさないもの等については、数値等に下線を引いて示す。
また、表2において、水素量比は、冷延鋼板から切り出したJIS 1号試験片(水素を導入する前の試験片)中の拡散性水素量をHb、低歪み速度引張試験後の試験片中の拡散性水素量をHaとしたときの、Ha/Hbの値である。Ha/Hb>1となれば、水素拡散処理が適正に行われているといえる。試験片中の拡散性水素量は、大気圧イオン化質量分析計(APIMS)により、室温〜300℃までの昇温速度を12℃/minとして昇温分析を行うことにより求めた。
表2に示すとおり、実施例No.1〜14は、本発明の範囲を満たすため、妥当性が合格であり、評価方法として妥当であると判断できた。
一方、比較例No.15は、めっき層の厚さ(めっき厚)が本発明の範囲の下限値未満のため、水素の拡散が不十分であり、妥当性が不合格であった。比較例No.16は、水素拡散処理時間が本発明の範囲の下限値未満であり、「T×t」の値も小さかったため、水素の拡散が不十分であり、妥当性が不合格であった。
比較例No.17は、水素拡散処理時間が本発明の範囲の上限値を超え、「T×t」の値も大きかったため、水素供給源となる亜鉛の飛散により、水素の拡散が不十分であり、妥当性が不合格であった。また、亜鉛の飛散により装置を汚染した。比較例No.18は、水素拡散処理時間が本発明の範囲の上限値を超え、「T×t」の値も大きかったため、水素供給源となる亜鉛の飛散により、水素の拡散が不十分であり、また、めっき厚が本発明の範囲の下限値未満のため、水素の拡散が不十分であり、妥当性が不合格であった。さらに、亜鉛の飛散により装置を汚染した。
比較例No.19は、めっき厚が本発明の範囲の下限値未満のため、水素の拡散が不十分であり、妥当性が不合格であった。比較例No.20は、水素拡散処理時間が本発明の範囲の下限値未満であり、「T×t」の値も小さかったため、水素の拡散が不十分であり、妥当性が不合格であった。
比較例No.21は、水素拡散処理時間が本発明の範囲の上限値を超え、「T×t」の値も大きかったため、水素供給源となる亜鉛の飛散により、水素の拡散が不十分であり、妥当性が不合格であった。また、亜鉛の飛散により装置を汚染した。比較例No.22は、水素拡散処理時間が本発明の範囲の上限値を超え、「T×t」の値も大きかったため、水素供給源となる亜鉛の飛散により、水素の拡散が不十分であり、また、めっき厚が本発明の範囲の下限値未満のため、水素の拡散が不十分であり、妥当性が不合格であった。さらに、亜鉛の飛散により装置を汚染した。
比較例No.23、25は、水素拡散処理温度が本発明の範囲の下限値未満であり、亜鉛の融点以下である。そのため、亜鉛めっき層から試験片中へ効果的に水素拡散が行われず、妥当性が不合格であった。比較例No.24、26は、水素拡散処理温度が本発明の範囲の上限値を超えるため、水素供給源となる亜鉛の飛散により、水素の拡散が不十分であり、妥当性が不合格であった。また、亜鉛の飛散により装置を汚染した。比較例No.27〜29は、亜鉛を主体とするめっき層ではないため、効果的にめっき層から試験片への水素拡散を行うことができず、妥当性が不合格であった。
S1 水素導入工程
S2 めっき層形成工程
S3 水素拡散処理工程
S4 耐遅れ破壊性試験工程
A 亜鉛めっき層
B 鋼
1a〜1e 試験片
2 電解液
3 電極
4 亜鉛めっき浴
S2 めっき層形成工程
S3 水素拡散処理工程
S4 耐遅れ破壊性試験工程
A 亜鉛めっき層
B 鋼
1a〜1e 試験片
2 電解液
3 電極
4 亜鉛めっき浴
Claims (3)
- 引張強度が980MPa以上の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法であって、
前記めっき鋼板における素材鋼板を用いて作製された試験片を電解液中に浸漬し、前記電解液の電解によって発生する水素を前記試験片に導入する水素導入工程と、
前記水素を導入した試験片に、亜鉛を主体とするめっき層を5〜100μmの厚さで形成するめっき層形成工程と、
前記めっき層が形成された試験片に、450〜600℃の水素拡散処理温度、5〜600秒の水素拡散処理時間で、水素拡散処理を行う水素拡散処理工程と、
前記水素拡散処理を行った試験片に対し、耐遅れ破壊性試験を行う耐遅れ破壊性試験工程と、
を含むことを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法。 - 前記耐遅れ破壊性試験工程において、前記水素拡散処理工程における水素拡散処理を行った試験片を低歪み速度引張試験に供した際の伸び(Eg1)と、前記水素導入工程における水素を導入する前の試験片を低歪み速度引張試験に供した際の伸び(E0)の比(Eg1/E0)に対し、強度依存係数(前記高強度溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度(MPa)を980で割った値)を乗じた値により、耐遅れ破壊性を評価することを特徴とする請求項1に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法。
- 前記水素拡散処理工程において、水素拡散処理温度をT(℃)、水素拡散処理時間をt(秒)としたときに、2250≦T×t≦360000を満たすことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の耐遅れ破壊性評価方法。
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2007
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