JP2016172919A - 軟磁性鋼板およびそれを用いた積層鋼板、ならびに軟磁性鋼板の製造方法 - Google Patents

軟磁性鋼板およびそれを用いた積層鋼板、ならびに軟磁性鋼板の製造方法 Download PDF

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Abstract


【課題】優れた磁気特性を有する軟磁性鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】成分組成が、質量%で、C:0.001〜0.02%、Si:0〜0.05%、Mn:0.05〜0.5%、P:0〜0.02%、S:0〜0.1%、Al:0〜0.01%、Cr:0〜0.1%、N:0〜0.005%であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる軟磁性鋼板であって、平均結晶粒径が50μm超150μm以下であり、さらに、当該軟磁性鋼板のKAM値Kaと、当該軟磁性鋼板を850℃で3時間焼鈍した後のKAM値Kbとの比Ka/Kbが1.0〜1.5である軟磁性鋼板。
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車、電車、船舶などの電装部品において、直流で使用されるソレノイドやリレーなどのケースやカバーあるいは鉄心、交流で使用されるモータやトランスなどの電磁気部品の磁心等として有用な軟磁性部材の材料となる軟磁性鋼板に関し、例えば、プレス成形により製造され、磁気特性を必要とする軟磁性部材において、優れたプレス成形性や良好な磁気特性を発揮することのできる軟磁性鋼板およびそれを用いた積層鋼板、ならびに軟磁性鋼板の製造方法に関するものである。
近年、自動車の燃費向上に対するニーズがますます強くなり、エンジンやトランスミッションその他に使用される電装部品には、よりいっそうの性能向上、たとえば応答性、省電力化、小型化が望まれている。そのためには、磁気特性として、磁化されやすく、保磁力が小さいことが有効である。
さらに製造コストの低減に対するニーズも大きい。すなわち、磁気回路を形成する部材、たとえばソレノイドの外郭を形成するケースやカバー、さらには鉄心にも、従来のように線材や棒鋼を冷間鍛造して切削する方法に代えて、鋼板をプレス成形して部材形状を作製する方法が注目されている。
たとえば、特許文献1には、本発明に係る軟磁性鋼板と近似した純鉄系の成分組成を有し、冷間鍛造性と電気伝導性に優れた電気部品用鋼材が開示されている。しかしながら、この電気部品用鋼材は、伸線して製造される線材に関するもので、鋼板に関する記載はない。
また、特許文献2には、成形性と磁気特性に優れた熱延鋼板が開示されている。しかしながら、熱延鋼板は表面状態が悪いため、そのまま電磁気部品に用いることはできない。また、結晶粒径が大きすぎるため、曲げ加工後の肌荒れが懸念される。
また、特許文献3には、磁気特性と加工性に優れたTVブラウン管マスクフレーム用冷延鋼板が開示されている。しかしながら、このTVブラウン管マスクフレーム用冷延鋼板は、Cu、Sn、Ni、Cr等の不純物元素の相当量の含有を前提とするものであり、純鉄系の成分組成を前提とする、本発明に係る軟磁性鋼板とはそもそも前提が異なる技術である。
特開2003−226938号公報 特開2010−53387号公報 特開平11−50207号公報
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた磁気特性を有する軟磁性鋼板およびそれを用いた積層鋼板、ならびに軟磁性鋼板の製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、優れた成形性を有する軟磁性鋼板およびそれを用いた積層鋼板、ならびに軟磁性鋼板の製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、優れた耐肌荒れ性を有する軟磁性鋼板およびそれを用いた積層鋼板、ならびに軟磁性鋼板の製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、優れた被削性を有する軟磁性鋼板およびそれを用いた積層鋼板、ならびに軟磁性鋼板の製造方法を提供することにある。
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述から明らかになるであろう。
本発明に係る第1発明は、
成分組成が、質量%で、
C:0.001〜0.02%、
Si:0〜0.05%、
Mn:0.05〜0.5%、
P:0〜0.02%、
S:0〜0.1%、
Al:0〜0.01%、
Cr:0〜0.1%、
N:0〜0.005%
であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる軟磁性鋼板であって、
平均結晶粒径が50μm超150μm以下であり、
さらに、当該軟磁性鋼板のKAM値Kaと、当該軟磁性鋼板を850℃で3時間焼鈍した後のKAM値Kbとの比Ka/Kbが1.0〜1.5である
ことを特徴とする軟磁性鋼板である。
ここに、「KAM値」とは、「Kernel Average Misorientation値」を意味する。
本発明に係る第2発明は、上記第1発明において、
板厚が0.8〜4.0mmである、軟磁性鋼板である。
本発明に係る第3発明は、上記第1発明において、
板厚が0.3〜1.0mmである、軟磁性鋼板である。
本発明に係る第4発明は、上記第1〜第3発明のいずれか1つの発明において、
前記Sの含有量が、S:0.015〜0.1質量%である、軟磁性鋼板である。
本発明に係る第5発明は、上記第1〜第3発明のいずれか1つの発明において、
前記Sの含有量が、S:0〜0.06質量%である、軟磁性鋼板である。
本発明に係る第6発明は、上記第1〜第5発明のいずれか1つの発明において、
さらに、Mn/S原子比が3〜20であり、
MnS析出物の平均粒径が0.05〜4μmで、かつ、
粒径0.2μm以上のMnS析出物の個数密度が0.02〜0.5個/μmである、軟磁性鋼板である。
本発明に係る第7発明は、上記第1〜第6発明の少なくとも1つの発明の軟磁性鋼板を2枚以上積層してなることを特徴とする積層鋼板である。
本発明に係る第8発明は、
上記第1、第4および第5発明のいずれか1つの発明の成分組成を有する鋼材を熱間圧延して熱延板とする熱延工程と、
前記熱延板を圧下率R1:30〜70%で冷間圧延して冷延板とする粗冷延工程と、
前記冷延板を、下記式1を満足するように、軟化焼鈍温度T1℃で軟化焼鈍時間H1秒間保持して軟化焼鈍板とする軟化焼鈍工程と、
を備えたことを特徴とする、軟磁性鋼板の製造方法である。
式1:270≦[{100−R1+0.2×(273+T1)}+H1×exp{−10/(273+T1)}]1/2 ≦340
ただし、750℃≦T1≦860℃である。
本発明に係る第9発明は、上記第8発明において、
さらに、前記軟化焼鈍板を、圧下率R2:0.1〜3%で冷間圧延する仕上げ冷延工程と、
を備えた、軟磁性鋼板の製造方法である。
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
本発明の一実施の形態によれば、優れた磁気特性を有する軟磁性鋼板を提供することができる。
軟磁性鋼板について高い磁性を得るための要件は、成分組成として添加元素や不純物を適正範囲に制御すること、磁気焼鈍後の部材において十分にひずみ(塑性変形による転位)を除去し、適正範囲の結晶粒径にすることが重要である。一方、成形性については、基本的な特性として、引張試験での伸びが大きいことが重要である。
そこで、本発明者らは、種々の成分組成の鋼板について、その製造条件と組織形態との関係、ならびにその組織形態と成形性および磁気特性との関係を詳細に検討した。その結果、鋼板の結晶粒径とひずみ量を適正化することで、成形性を向上させるとともに磁気特性も向上させることができることを見出した。上記知見に基づき、さらに検討を進め、本発明を完成するに至った。
以下、まず本発明に係る軟磁性鋼板を特徴づける組織について説明する。
〔軟磁性鋼板の組織〕
上述したとおり、本発明に係る軟磁性鋼板は、結晶粒径とひずみ量が制御されている点に特徴を有する。
<平均結晶粒径:50μm超150μm以下>
軟磁性鋼板の平均結晶粒径は、磁気特性に大きな影響を与え、当該平均結晶粒径が小さすぎると保磁力や透磁率が悪化するため、50μm超、好ましくは60μm以上、さらに好ましくは70μm以上とした。一方、当該平均結晶粒径が大きすぎると成形や曲げ加工後の肌荒れや打ち抜き加工後のバリが発生しやすくなり、後述の仕上げ圧延、例えばスキンパス圧延との組み合わせによっても肌荒れやバリを防止し切れなくなるため、150μm以下、好ましくは140μm以下、さらに好ましくは130μm以下とした。
<当該軟磁性鋼板のKAM値Kaと、当該軟磁性鋼板を850℃で3時間焼鈍した後のKAM値Kbとの比Ka/Kb:1.0〜1.5>
KAM(Kernel Average Misorientation)値は、材料は塑性変形したときの塑性ひずみ量に関係する指標である。本発明においては、当該軟磁性鋼板を850℃で3時間加熱焼鈍することによって結晶粒径をある程度以上に大きくして、かつ塑性ひずみが概ねなくなった状態におけるKAM値Kbを基準として、これに対する当該軟磁性鋼板のKAM値Kaの倍率Ka/Kbを用いて、当該軟磁性鋼板のひずみ量を相対的に評価するようにした。冷間圧延後の軟化焼鈍によって十分に結晶粒を粗大化させて磁気特性を高めようとすると、曲げ加工後の肌荒れや打抜き加工後のバリが発生しやすくなるため、仕上げ圧延として低圧下率のスキンパス圧延を実施することで肌荒れやバリを抑制することができる。ただし、スキンパス圧延で導入される塑性ひずみ量が過剰になる、すなわち、KAM値が過大になると、磁気特性が劣化するため、Ka/Kbの上限は1.5、好ましくは1.4、さらに好ましくは1.3とした。一方で、加工後の肌荒れやバリを考慮すると、Ka/Kbの下限は、1.0である。
次に、本発明に係る軟磁性鋼板を構成する成分組成について説明する。以下、化学成分の単位はすべて質量%である。
〔軟磁性鋼板の成分組成〕
C:0.001〜0.02%
Cは、鋼中に固溶して、あるいは炭化物を形成して磁気特性を劣化させるため、極力低減させるべきであるが、C含有量が0.001%を下回っても磁気特性の向上効果は小さいため、その下限を0.001%とする。一方、C含有量が0.02%を超えると急激に磁気特性が劣化するため、その上限を0.02%、好ましくは0.015%、さらに好ましくは0.01%とする。
Si:0〜0.05%
Siは、脱酸剤として使用されるが、伸びを低下させる作用があるため、Si含有量の上限を0.05%、好ましくは0.04%、さらに好ましくは0.03%とする。
Mn:0.05〜0.5%
Mnは脱酸作用を有するので、本発明においては、磁気特性とプレス成形性の両立のために、C、SおよびAlの各含有量を従来鋼に比べて低めにしている代わりに、Mnが脱酸剤としての役割を果たしており、Mn含有量を0.05%以上、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.15%以上としてその効果を発揮させる。一方、Mnを過剰に含有させると伸び、および磁気特性が低下するため、Mn含有量の上限を0.5%、好ましくは0.4%、さらに好ましくは0.3%とする。
P:0〜0.02%
Pは伸び、磁気特性ともに低下させるため、P含有量の上限を0.02%、好ましくは0.015%、さらに好ましくは0.01%とする。
S:0〜0.1%
Sは過剰に含まれると、伸び、および磁気特性を低下させるため、S含有量の上限を0.1%とし、高い磁気特性、または伸びが求められる場合においては、好ましくは0.06%、さらに好ましくは0.02%とする。
一方で、Sは適量含有させることにより、伸びや磁気特性を若干犠牲にしつつも、Mnとともに鋼中でMnSを形成し、打抜き加工時に応力が負荷されたときに応力集中箇所となって、被削性を向上し、打抜き時のバリ発生を抑制することができる。こうした効果を得るには、S含有量を0.015%以上、好ましくは0.04%以上とする。
Al:0〜0.01%
Alは脱酸剤として作用するため、磁気特性に有害なO、すなわち酸素と結合して無害化するために有効な元素である。しかしながら、Alを過剰に含有させるとNと結合してAlNを生成し、結晶粒を微細化して伸びを低下させたり、磁気焼鈍後にも結晶粒が微細なままとなって磁気特性も劣化させるため、Al含有量の上限を0.01%、好ましくは0.006%、さらに好ましくは0.005%とする。
Cr:0〜0.1%
Crは、鋼中に硫化物などの析出物を形成すると磁気特性の劣化を招くため、極力低減すべきであり、Cr含有量を0.1%以下、好ましくは0.07%以下、さらに好ましくは0.05%以下とする。
N:0〜0.005%
Nは鋼中に固溶すると磁気特性を劣化させ、またその一部がAlNを形成してもやはり結晶粒が微細化することによって磁気特性が劣化するため、N含有量を0.005%以下、好ましくは0.004%以下、さらに好ましくは0.003%以下とする。
さらに、本発明の軟磁性鋼板では、鋼板の被削性を改善するため、MnとSの比、およびMnSの形態を以下のように制御することも好ましい。
<Mn/S原子比:3〜20>
鋼中に含まれるMnとSが結合しMnS析出物として微細分散することで被削性が向上し、打抜き時のバリ発生が抑制される。こうした効果を得るため、Mn/Sの原子比で3以上を確保することが必要となる。Mn/S原子比のより好ましい範囲は5以上であり、上限は20である。
MnSの形態
<MnS析出物の平均粒径:0.05〜4μm>
打抜き時のバリ高さを低減するためには、MnSを分散させることが有効であるが、粗大すぎると磁気特性を低下させてしまうため、上限は4μmとする。また、微細すぎるとバリ高さ低減効果が発揮されなくなるため、下限を0.05μmとする。
ここで、MnS粒径とは、圧延板の圧延方向に平行で板面に垂直な断面において観察されるMnSの短径と長径の平均値を意味する。
<粒径0.2μm以上のMnS析出物:0.02〜0.5個/μm
MnS析出物を微細分散させる場合の個数密度も重要であり、0.02個/μm未満では効果がなく、0.5個/μm超では成形時の割れ発生が顕著になるため、その個数密度は0.02〜0.5個/μmとする。
本発明の軟磁性鋼板は、上記記載した以外の成分は、Feおよび不可避的不純物であることが望ましい。ただし、本発明の効果を害しない範囲内であれば、上記以外の成分の含有を拒むものではない。
<板厚>
本発明の軟磁性鋼板の板厚は、適用する部品形状やサイズに応じて選定すればよいが、本発明の対象となる自動車、電車、船舶などの電装部品のうち、直流で使用されるソレノイドやリレーなどのケースやカバーあるいは鉄心等に適用する場合では、磁気回路を形成するため、板厚が薄くなると部材を通る磁束が不足して吸引力や応答性などの部品特性が低下してしまう。また部品に必要な強度が確保できなくなるため、その下限は0.8mmとする。また、厚すぎると部品サイズの小型化ニーズに対応できなくなるため、その上限は4mmとする。
一方、交流で使用されるモータ、トランスなどの電磁気部品の磁心などに適用する場合では、渦電流損の低減や、渦電流損とヒステリシス損の和である鉄損の低減を考慮すると、薄いことが望ましく、その上限は1mm程度が好ましい。一方で薄すぎると、部品の製造が困難となるため、製造性を考慮した下限は0.3mm程度である。
<積層鋼板>
本発明の軟磁性鋼板は、2枚以上重ね合わせてなる積層鋼板としても好適に用いることができる。特に、交流で使用される電磁気部品などに適用する場合では、板厚の薄い軟磁性鋼板を複数枚積層することにより、部品の製造性や強度を確保しつつ、渦電流損をさらに低減できるため、好ましい態様である。また、積層鋼板のさらなる磁気特性の向上や、それぞれの軟磁性鋼板間の絶縁性の確保のため、各軟磁性鋼板の間に、絶縁性の被膜を設けることも好ましい。絶縁性の被膜としては、例えば燐酸系化成被膜やシリコーン樹脂被膜などの無機被膜、無機化合物と有機樹脂とを含む半有機被膜、主に樹脂を含有する有機被膜などが適用できるが、特に制限するものではない。なお、積層鋼板の板厚は、交流で使用されるモータ、トランスなどの電磁気部品に適用する場合は、上記と同様、上限は1.0mm程度、下限は0.3mm程度とすることが好ましい。また、積層鋼板を構成する2枚以上の軟磁性鋼板としては、必ずしも、同じ成分組成で同じ組織を有する同じ板厚のものを用いることに限定されるものではなく、異なる成分組成や組織を有するものや異なる板厚のものを適宜組み合わせて用いても構わない。
次に、本発明に係る軟磁性鋼板の製造方法について述べる。特に製造方法を限定するものではないが、たとえば下記のように製造することができる。
〔軟磁性鋼板の好ましい製造方法〕
上記のような軟磁性鋼板を製造するには、まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブとしてから熱間圧延を行い、熱延材とする。この工程を熱延工程と呼ぶ。熱間圧延時の温度条件などは特に限定する必要はないが、例えば、950℃以下の圧延終了温度で、熱間圧延を行えばよい。
次いで、この熱延材を圧下率R1:30〜70%で冷間圧延して冷延板とする。この工程を粗冷延工程と呼ぶ。その後、この冷延板を、式1:270≦[{100−R1+0.2×(273+T1)}+H1×exp{−10/(273+T1)}]1/2≦340、ただし、750℃≦T1≦860℃を満足するように、軟化焼鈍温度T1℃で軟化焼鈍時間H1秒間保持して軟化焼鈍板とする。この工程を軟化焼鈍工程と呼ぶ。そして、この軟化焼鈍板を、さらに、圧下率R2:0.1〜3%で冷間圧延することも好ましい。この工程を仕上げ冷延工程と呼ぶ。これらの工程を経ることにより軟磁性鋼板を得ることができる。
<圧下率R1:30〜70%>
粗冷延工程における圧下率R1は、その後の軟化焼鈍工程における平均結晶粒径の制御のために重要である。圧下率R1が30%未満では鋼板上がりの結晶粒が大きくなりすぎる一方、圧下率R1が70%を超えると結晶粒が小さすぎて、軟化焼鈍条件との組合せで所定の結晶粒径に制御することが難しくなる。このため、圧下率R1の下限は30%、より好ましくは40%、特に好ましくは50%とする。一方、圧下率R1の上限は70%、より好ましくは60%とする。
<式1:270≦[{100−R1+0.2×(273+T1)}+H1×exp{−10/(273+T1)}]1/2 ≦340 ただし、750℃≦T1≦860℃ を満足するように、軟化焼鈍温度T1℃で軟化焼鈍時間H1秒間保持>
上記粗冷延工程における圧下率R1の調整と併せて軟化焼鈍条件が上記式1を満たすように組み合わせることによって平均結晶粒径を50μm超150μm以下に制御できる。 上記式1の中辺の値が270未満では平均結晶粒径が小さくなりすぎる。
なお、上記式1は以下のようにして導出したものである。すなわち、フェライト単相温度域での焼鈍時における再結晶および粒成長挙動は、冷間圧延のひずみ量と焼鈍温度と焼鈍時間の兼ね合いで決まるという一般論がある。そこで、ひずみ量が大きいほど、また焼鈍温度が低いほど再結晶粒径が小さくなり、その後の粒成長による結晶粒径を半径で表したrは、初期粒径を半径で表したrと、焼鈍温度Tと、焼鈍時間tとの関数として、r−r =k×tの関係式が成り立つと仮定した。ここで速度定数kはアレニウスの式である∝exp(−A/RT)に従うと仮定した。なお、Tの単位はKである。上記関係式は、たとえば、西沢泰二:「単相鋼と二相鋼における結晶粒成長」,鉄と鋼(1984)第15号,p.194−2020に詳しい。この一般論において、特別な粒成長抑制要因である析出物を極力減らした本発明の成分系の鋼板に対してはひずみの影響が通常より小さいとの仮説を当てはめ、粗冷延工程における圧下率R1と、軟化焼鈍条件であるT1およびH1との組合せを種々変更して実験を行い、プレス成形性と後の焼鈍後の磁気特性との関係を調査して回帰分析により上記式1を導出した。
<圧下率R2:0.1〜3%>
また、軟化焼鈍後に圧下率R2=0.1〜3%で仕上げ冷間圧延することも好ましい。仕上げ冷間圧延をすることで、曲げ加工後の肌荒れや、打抜き加工後のバリを防止することができる。これらの効果を発揮させるためには、圧下率R2を0.1%以上とする。ただし、圧下率R2が3%を超えるとひずみ量が過剰となり、磁気特性が低下する。
上記のようにして製造された本発明に係る軟磁性鋼板は良好な成形性を示すとともに、成形後の部材には良好な磁気特性が確保される。
このように、本発明に係る軟磁性鋼板をプレス成形するだけでも、成形後の部材には十分に良好な磁気特性が確保される。この工程をプレス成形工程と呼ぶ。
しかしながら、成形部材にさらに高い磁気特性の付与が求められる場合や、成形によって成形部材に非常に大きな塑性変形が付与され、その結果ひずみ量が増加して磁気特性が劣化するような場合などに対しては、成形後に、さらに磁気焼鈍を追加してもよい。この磁気焼鈍の推奨条件は、磁気焼鈍温度:750〜900℃、磁気焼鈍時間:3600s以上である。この工程を磁気焼鈍工程と呼ぶ。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することももちろん可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
〔実施例1〕
下記表1に示す成分の鋼材を熱間圧延して所定厚さの熱延板とした。この熱延板を酸洗した後、下記表2に示す条件で、粗冷延、軟化焼鈍、仕上げ冷延の順に処理を施して最終板厚1.0mmの軟磁性鋼板とした。なお、表2には、上記磁気焼鈍の条件を規定する上記式1の中辺の値を併記した。
この各軟磁性鋼板について、成形性を評価するために、JIS 13B試験片に加工して引張試験を実施し、伸びを測定して、それを成形性の評価指標とした。
また、成形後の肌荒れを評価するために、曲げ試験として、内径R:2mm、曲げ角度:180°に曲げ加工してR外側の表面粗さをカットオフ0.8μm、測定長5mmで測定し、それを肌荒れの評価指標とした。
また、成形後の鋼板ままの磁気特性、および、成形後さらに磁気焼鈍を施した後の磁気特性をそれぞれ評価するために、上記各軟磁性鋼板を60mm×60mmに切断して、鋼板まま、および、850℃×3時間水素中で磁気焼鈍した後のそれぞれについて、単板測定枠を用い、JIS C2556に準じて直流磁気特性を評価した。なお、磁束密度および保磁力は印加磁場300A/mにて測定した。
また、鋼板ままの平均結晶粒径およびKAM値、ならびに、850℃×3時間磁気焼鈍した鋼板のKAM値を、それぞれ測定した。
鋼板ままの平均結晶粒径については、各鋼板の縦断面をナイタール腐食した後、板厚をtとしたときのt/4位置を顕微鏡観察し、写真撮影した。そして、JIS G0551の標準図との比較法により粒度番号を求め、平均結晶粒径に換算した。
鋼板ままおよび磁気焼鈍後の鋼板のKAM値については、各鋼板を鏡面研磨し、走査型電子顕微鏡としてJEOL社製 JSM−5410を用いて、板厚をtとしたときのt/4位置において、1step 0.2μmで500μm×500μmの領域の電子線後方散乱回折像を測定し、それを解析ソフトとしてTSL社製 OIM analysis 6を用いて、各測定点におけるKAM値を求め、それらを算術平均してKAM値とした。
下記表3に測定結果を示す。同表において、鋼板ままについて、磁気特性は、保磁力100A/m以下、磁界の強さ300A/m における磁束密度0.70T以上、伸び30%以上の3項目について、すべての基準を満たすものを、磁気特性と成形性に優れる軟磁性鋼板として、総合判定をAで表示した。同表中、鋼No.1〜4、9〜12および16は全ての基準を満たすことを確認した。
また、同表において、総合判定がAのもののうち、曲げ加工後のRa2.5μm以下の基準をも満たすものを、耐肌荒れ性にも優れる軟磁性鋼板として、その評価をAAで表示した。同表中において、鋼No.1〜4および9〜12は、良好な耐肌荒れ性を示していることを確認した。
また、同表において、総合判定Aのもののうち、磁気焼鈍後の鋼板の磁気特性が、保磁力37A/m以下、磁界の強さ300A/m における磁束密度1.25T以上をともに満たすものを、磁気特性により優れる軟磁性鋼板として、その評価をAAAで表示した。同表中において、鋼No.1〜4、9〜12および16は、磁気焼鈍後においても、良好な磁気特性を示していることを確認した。
一方で、鋼種Eを用いた鋼No.5はC含有量が上限を外れて高く、鋼板ままでの結晶粒径が小さくなり、磁気特性が基準を満たさなかった。
鋼種Fを用いた鋼No.6はAl含有量が上限を外れて高く、鋼板ままでの結晶粒径が小さくなり、磁気特性が基準を満たさなかった。
鋼種Gを用いた鋼No.7はMn含有量が上限を外れて高く、磁気特性が基準を満たさなかった。
鋼種Hを用いた鋼No.8はN含有量が上限を外れて高く、鋼板ままでの結晶粒径が小さくなり、磁気特性が基準を満たさなかった。
鋼No.13は、粗冷延での圧下率R1が推奨範囲より低く、また式1の中辺の値が推奨範囲を外れて大きいため、鋼板ままでの結晶粒径が大きく、鋼板ままでの耐肌荒れ性が基準を満たさなかった。
鋼No.14は、仕上げ冷延での圧下率R2が推奨範囲より高いため、また鋼板ままでのKAM値の比Ka/Kb値も上限を超えているため、磁気特性が基準を満たさなかった。
鋼No.15は、軟化焼鈍温度が推奨範囲より低いため、鋼板ままでの結晶粒径が小さく、磁気特性が基準を満たさなかった。
鋼No.16は、磁気特性および伸びは基準を満たした。一方で、仕上げ圧延をしていないため、鋼板ままでの耐肌荒れ性が基準を満たさなかった。
同表中において、鋼No.1〜4、9〜12および16は、磁気焼鈍後においても、良好な磁気特性を示していることを確認した。
また、推奨の製造条件で製造することで、本発明に係る軟磁性鋼板が確実に得られることが確認された。
また、推奨の磁気焼鈍条件での磁気焼鈍をさらに追加することで、磁気特性により優れる軟磁性部材が確実に得られることが確認された。
〔実施例2〕
下記表4に示す成分の鋼材を熱間圧延して所定厚さの熱延板とした。この熱延板を酸洗した後、下記表5に示す条件で、粗冷延、軟化焼鈍、仕上げ冷延の順に処理を施して最終板厚1.0mmの軟磁性鋼板とした。
この各軟磁性鋼板について、成形性を評価するために、JIS 13B試験片に加工して引張試験を実施し、伸びを測定して、それを成形性の評価指標とした。
また、打抜き加工時の打抜き性の評価として、直径10mmのパンチと、直径10.20mmでクリアランス0.10mmのダイスを用いて打抜き、穴の周囲に生成したバリの最大高さを測定した。
また、磁気焼鈍後の軟磁性部材の磁気特性を評価するために、上記各軟磁性鋼板を60mm×60mmに切断して、T2:850℃×H2:3時間の条件で、水素中で磁気焼鈍した後、単板測定枠を用い、JIS C2556に準じて直流磁気特性を評価した。なお、磁束密度および保磁力は印加磁場300A/mにて測定した。
鋼板ままの平均結晶粒径については、各鋼板の縦断面をナイタール腐食した後、板厚をtとしたときのt/4位置を顕微鏡観察し、写真撮影した。そして、JIS G0551の標準図との比較法により粒度番号を求め、平均結晶粒径に換算した。一方、上記磁気焼鈍後の鋼板の平均結晶粒径については、当該軟磁性鋼板の全域での平均結晶粒径を評価するため、各鋼板の縦断面をナイタール腐食した後、最表面から200μm深さの表面部、板厚をtとしたときのt/4、およびt/2の各位置を顕微鏡観察し、写真撮影した。そして、JISG0551の標準図との比較法により粒度番号を求め、平均結晶粒径に換算し、3つの位置のうち最小の値を上記磁気焼鈍後の鋼板の平均結晶粒径とした。
KAM値については、各鋼板を鏡面研磨し、走査型電子顕微鏡としてJEOL社製 JSM−5410を用いて、板厚をtとしたときのt/4位置において、1step 0.2μmで500μm×500μmの領域の電子線後方散乱回折像を測定し、それを解析ソフトとしてTSL社製 OIM analysis 6を用いて、各測定点におけるKAM値を求め、それらを算術平均してKAM値とした。
MnS析出物の粒径は、鋼板の圧延方向に平行で板面に垂直な断面において倍率1000倍でSEM観察し、10視野について、MnSの長径と短径を測定してそれらの算術平均値を粒径と定義した。また、粒径0.2μm以上のMnS析出物の個数を測定し、個数密度を算出した
下記表6に測定結果を示す。同表において、磁気特性は、保磁力100A/m以下、磁界の強さ300A/m における磁束密度0.70T以上、伸び30%以上の3項目について、すべての基準を満たすものを、磁気特性と成形性に優れる軟磁性鋼板として、総合判定をAで表示した。同表中、鋼No.101〜104、110〜113および117は、全ての基準を満たすことを確認した。
また、同表において、総合判定がAのもののうち、打抜き試験後のバリ高さ1mm以下をも満たすものを、打ち抜き性にも優れる軟磁性鋼板として、その評価をAAで表示した。同表中において、鋼No.101〜104および110〜113は、良好なうち抜き性を示していることを確認した。
また、同表において、総合判定がAのもののうち、磁気焼鈍後の鋼板の磁気特性が、保磁力37A/m以下、磁界の強さ300A/m における磁束密度1.25T以上をともに満たすものを、磁気特性により優れる軟磁性鋼板として、その評価をAAAで表示した。同表中において、鋼No.101〜104、110〜113および117は、磁気焼鈍後においても、良好な磁気特性を示していることを確認した。
一方で、鋼種AEを用いた鋼No.105はC含有量が上限を外れて高く、鋼板ままでの結晶粒径が小さくなり、磁気特性が基準を満たさなかった。
鋼種AFを用いた鋼No.106はAl含有量が上限を外れて高く、鋼板ままでの結晶粒径が小さくなり、磁気特性が基準を満たさなかった。
鋼種AGを用いた鋼No.107はMn含有量が上限を外れて高いとともに、Mn/S原子比が推奨範囲より大きいため、MnS析出物の平均粒径が小さく、伸びと磁気特性が基準を満たさなかった。
鋼種AHを用いた鋼No.108はS含有量が上限を外れて高いとともに、Mn/S原子比が推奨範囲より小さいため、MnS析出物の平均粒径および個数密度がともに大きく、磁気特性が基準を満たさなかった。
鋼種AIを用いた鋼No.109はN含有量が上限を外れて高く、磁気特性が基準を満たさなかった。
鋼No.114は、粗冷延での圧下率R1が推奨範囲より低いため、鋼板ままでの結晶粒径が大きくなり、磁気特性、伸び、打抜き性がいずれも基準を満たさなかった。
鋼No.115は、仕上げ冷延での圧下率R2が推奨範囲より高いため、またKAM値の比Ka/Kb値も上限を超えているため、磁気特性が基準を満たさなかった。
鋼No.116は、軟化焼鈍温度が推奨範囲より低いため、鋼板ままでの結晶粒径が小さく、磁気特性が基準を満たさなかった。
鋼No.117は、磁気特性および伸びは基準を満たしたが、仕上圧延をしていないため、打抜き性が基準を満たさなかった。

Claims (9)

  1. 成分組成が、質量%で、
    C:0.001〜0.02%、
    Si:0〜0.05%、
    Mn:0.05〜0.5%、
    P:0〜0.02%、
    S:0〜0.1%、
    Al:0〜0.01%、
    Cr:0〜0.1%、
    N:0〜0.005%
    であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる軟磁性鋼板であって、
    平均結晶粒径が50μm超150μm以下であり、
    さらに、当該軟磁性鋼板のKAM値Kaと、当該軟磁性鋼板を850℃で3時間焼鈍した後のKAM値Kbとの比Ka/Kbが1.0〜1.5である
    ことを特徴とする軟磁性鋼板。
    ここに、「KAM値」とは、「Kernel Average Misorientation値」を意味する。
  2. 板厚が0.8〜4.0mmである、請求項1に記載の軟磁性鋼板。
  3. 板厚が0.3〜1.0mmである、請求項1に記載の軟磁性鋼板。
  4. 前記Sの含有量が、S:0.015〜0.1質量%である、
    請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟磁性鋼板。
  5. 前記Sの含有量が、S:0〜0.06質量%である、
    請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟磁性鋼板。
  6. さらに、Mn/S原子比が3〜20であり、
    MnS析出物の平均粒径が0.05〜4μmで、かつ、
    粒径0.2μm以上のMnS析出物の個数密度が0.02〜0.5個/μmである、
    請求項1〜5のいずれか1項に記載の軟磁性鋼板。
  7. 請求項1〜6の少なくとも1項に記載の軟磁性鋼板を2枚以上積層してなることを特徴とする積層鋼板。
  8. 請求項1、4および5のいずれか1項に記載の成分組成を有する鋼材を熱間圧延して熱延板とする熱延工程と、
    前記熱延板を圧下率R1:30〜70%で冷間圧延して冷延板とする粗冷延工程と、
    前記冷延板を、下記式1を満足するように、軟化焼鈍温度T1℃で軟化焼鈍時間H1秒間保持して軟化焼鈍板とする軟化焼鈍工程と、
    を備えたことを特徴とする、軟磁性鋼板の製造方法。
    式1:270≦[{100−R1+0.2×(273+T1)}+H1×exp{−10/(273+T1)}]1/2 ≦340
    ただし、750℃≦T1≦860℃である。
  9. さらに、前記軟化焼鈍板を、圧下率R2:0.1〜3%で冷間圧延する仕上げ冷延工程と、
    を備えた、請求項8に記載の軟磁性鋼板の製造方法。
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