JP4306445B2 - 高周波磁気特性に優れたFe−Cr−Si系無方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents

高周波磁気特性に優れたFe−Cr−Si系無方向性電磁鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

この発明は、電気自動車用モータ、マイクロガスタービン用発電機および高周波リアクトル等の鉄心に用いて好適な高周波用無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。とくに、高周波域の中でも1kHz以上の周波数域で優れた磁気特性を有するFe−Cr−Si系無方向性電磁鋼板に関するものである。なお、ここでいう「高周波数域」とは、数100Hz以上、とくに約400Hz以上の周波数域をいうこととする。
近年、従来よりも高い周波数域で使用される機器、例えば電気自動車用モータ、マイクロガスタービン、高周波リアクトルなどの使用が増加し、高周波数域での磁気特性に優れた電磁鋼板が要求されている。これらの機器は、数百Hz〜数十kHz の高周波数域で使用される。従来これらの用途には、鋼にSiを添加して鉄損を改善したFe-Si系無方向性電磁鋼板が用いられている。無方向性電磁鋼板は、一般に目的の板厚まで冷間圧延で加工された後、仕上げ焼鈍にて再結晶されて、所望の電磁特性等を得る。しかし、従来のFe-Si系高周波用無方向性電磁鋼板は、鋼中のSi含有量が3.5 mass%以下で鋼の電気抵抗が低く、特に1kHz以上の高周波域では鉄損が大きくなる不利がある。このため、近年の社会のニーズに対応するためには、新たな高周波数域対応の電磁鋼板の開発が必須である。
さて、上記高周波数域での鉄損特性を改善するには、鋼の電気抵抗を高めることが重要である。鋼の電気抵抗を高める手段としては、鋼中のSiやAlの含有量を増加させる手法をとるのが一般的である。しかし、Si量が3.5 mass%を超えると、鋼が極めて硬くなって脆くなり加工性が劣化するため、通常の圧延による製造、加工が困難になってしまう。また、従来のFe−Si系鋼板においては、例えばSi量が5.0mass%を超える場合には、冷間加工は勿論のこと、温間加工も不可能になってしまう。
ここで、鋼中にCrやAl等を添加し、高Si量とせずに鋼の電気抵抗を高めるための技術が、特許文献1に記載されている。しかしながら、特許文献1に記載された技術は、従来の高周波用途の電磁鋼板と同様に、使用周波数域として1kHz末満を想定したものである。そのため、1kHz以上の領域では十分な高周波磁気特性が得られず、近年求められている約400Hz〜約50kHzに対応した高周波用無方向性電磁鋼板として満足な効果を有するものではない。なお、特許文献1におけるSi含有量は、通常の珪素鋼板の含有量を超えるものでなく、むしろSi量が1.5mass%程度の低Si系鋼板を対象としている。
これに対して、出願人は、Crを添加することにより、比較的高Siの鋼であっても脆性が改善され、高い電気抵抗と加工性とを両立させ得ることを見出した。そして出願人は、先に特許文献2、特許文献3、特許文献4等において、Crを1.5〜20mass%、Siを2.5〜10mass%それぞれ含有する、高周波磁気特性に優れたFe-Cr-Si系電磁鋼板を提案した。
特開平11-229095号公報 特開平11-343544号公報 特開2001-262289号公報 特開2001-279326号公報
特許文献2、特許文献3等に記載された鋼板は、10kHz以上の周波数域では高い電気抵抗に応じた優れた鉄損を示す。一方、10kHz未満の高周波域でもこれらの鋼板は従来の電磁鋼板よりも良好な鉄損を示すが、高Si、高Cr含有による高い電気抵抗に見合う良好な鉄損が得られないということが新たに分かった。このため、これらの鋼板にはさらなる改善の余地がある。
そこで、この発明の目的は、高Si並びに高Cr含有によって得られる高い電気抵抗が10kHz以下の高周波域では、十分に活用されていない問題を有利に解決し、高周波域、特に1kHz以上の周波数域で磁気特性に優れたFe−Cr−Si系無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。
発明者らは、上記の問題について研究を重ねた結果、一般的に高周波数域では渦電流損の割合が大であるが、Fe−Cr−Si系電磁鋼板では履歴損の影響が比較的大きいことを見出した。そして、高い電気抵抗による渦電流損の低減が高周波磁気特性に十分に生かされなかったのは、この履歴損の劣化が原因であることが判明した。
そこで、発明者らは、Fe−Cr−Si系電磁鋼板の履歴損の劣化原因について検討した。
表1に示す成分系の鋼1〜8を、熱間および冷間圧延によって0.25mm厚とし、仕上げ焼鈍を施した。なお、仕上げ焼鈍条件は、焼鈍雰囲気を窒素+水素雰囲気(体積比でN2 :H2 =70:30)とし、焼鈍温度を980 ℃とした。
Figure 0004306445
その結果、上記鋼1〜8に上記条件で仕上げ焼鈍を施すことによって製造した鋼板はいずれも、鋼中に直径が数百nm程度の徴細なCr系窒化物が観察された。一例として、鋼5を用い上記条件で仕上げ焼鈍を行うことによって製造した鋼板の内部を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影したときの断面SEM写真を図1に示す。なお、Cr系窒化物は、主に、CrN、Cr2Nや、Cr(C,N)等の炭窒化物からなると思われる。
次に、Cr含有量を1.0〜4.5mass%の範囲で種々に変化させたこれらの鋼に上記条件で仕上げ焼鈍を施し、仕上げ焼鈍時の窒化量(仕上げ焼鈍前後の含有窒素量の差)および履歴損を測定した。図2は、鋼中のCr含有量を横軸とし、仕上げ焼鈍時の窒化量(鋼板全体)および履歴損を縦軸としてこれらの関係を示したグラフである。なお、図2において、棒グラフが窒化量であり、折れ線グラフが履歴損である。
図2の結果から、鋼中のCr含有量が多いほど、仕上げ焼鈍時の窒化量は多くなり、それに伴って履歴損が劣化しているのがわかる。
以上の結果より、鋼中のCrは、仕上げ焼鈍時に窒化されてCr系窒化物として析出しやすく、このCr系窒化物の析出が履歴損を劣化させているものと考えられる。
そこで、仕上げ焼鈍中のCr系窒化物の析出を抑制する手段について検討を行った。その結果、Arガス雰囲気などの窒化が起らない雰囲気で焼鈍を行なうことにより、Cr系窒化物の析出を抑制できることを見出した。また、窒化抑制元素であるSb、Snおよび/または窒化物生成元素であるAlを鋼材素材に添加するとともに、これらのSb、Sn、Al添加量に合わせて窒素分圧を調整した雰囲気中で焼鈍を行なうことによっても、Cr系窒化物の析出を有効に抑制できることを見出した。その一例を以下に示す。
まず、Fe-Cr-Si系合金組成を有し、さらにSb:0.045mass%を含有する、表1の鋼10について、前記した製造方法と同一条件で冷延鋼板とし、2条件の雰囲気(体積比で窒素:水素=70:30および95:5)にて仕上げ焼鈍を施した。図3(a)は窒素:水素=70:30(体積比)の雰囲気で仕上げ焼鈍を施した鋼板内部の断面SEM写真であり、同図(b)は鋼板表層の断面SEM写真である。観察条件は図1と同様である。図3(a)および図3(b)より鋼板部2におけるCr系窒化物の析出がSbの添加により抑制されていることが分かる。なお、図中の符号1は表面保護のためのCu箔である。しかし、窒素:水素=95:5(体積比)の雰囲気で仕上げ焼鈍したものについては、Cr系窒化物が粒界に相当数観察された。すなわち、窒素:水素=95:5(体積比)の雰囲気で焼鈍しても、Sb添加によるCr系窒化物析出抑制効果は確認できたが、析出抑制効果が不十分であった。
次に、Fe-Cr-Si系合金組成を有し、さらにAl:0.55mass%を含有する、表1の鋼11について、同様に2条件の雰囲気(体積比で窒素:水素=70:30および95:5)で仕上げ焼鈍を施した。他の製造条件は前記した製造方法と同一条件とした。図4(a)は窒素:水素=70:30(体積比)の雰囲気で仕上げ焼鈍を施した鋼板内部の断面SEM写真であり、図4(b)は鋼板表層の断面SEM写真である。図4(b)より、鋼板の最表層にAlN層3が形成され、また、表層から5μm程度までの深さの領域にもAlN4の析出が見られる。そして、その結果、図4(a)に見られるように、鋼板内部におけるCr系窒化物の析出が抑制されていることが分かる。しかし、窒素:水素=95:5(体積比)の仕上げ焼鈍雰囲気においては、Cr系窒化物は粒界に存在しており、析出抑制効果が不十分であることが確認された。
さらに、SbやAlを含有しない表1の鋼4および鋼6を同様の工程条件で冷延鋼板とし、Arガスのみの雰囲気で焼鈍した。この場合も、鋼の窒化が抑制されてCr系窒化物の析出が抑制されていることが確かめられた。なお、SbとAlを複合添加した場合(表1の鋼12)、同様の調査により、SbまたはAlの単独添加よりも、それぞれ少量の添加で単独添加鋼と同様のCr系窒化物の析出抑制効果があることが確かめられた。さらに、Snを添加したFe-Cr-Si系合金鋼を準備して同様の調査を行なった結果、SnにもSbと同様の窒化抑制効果があることが確かめられた。
また、表2に、鋼1〜12のいずれかを用いて製造された鋼板について、鋼板内部における1mm当たりのCr系窒化物の個数(Cr系窒化物の存在割合)、焼鈍後の窒化量(鋼板全体)および履歴損を測定した結果を示す。ここで、仕上げ焼鈍の雰囲気および温度は表2に示す条件とし、その他の製造条件は図1等の鋼板の製造条件と同じであった。なお、鋼板内部における1mm当たりのCr系窒化物の個数は、下記の方法により測定した。
鋼板を板厚方向に切った断面をSEMにて複数視野観察し、トータルの観察領域が1mm×1mmとなるようにした。上記観察領域内のCr系窒化物の個数を数え、上記1mm当たりのCr系窒化物の個数とした。ここで、観察された析出物がCr系窒化物か否かは、EDX分析により確認した。なお、鋼板の最表層から5μmまでの領域は表・裏面とも除外し、残りを鋼板内部と定義した。観察は、圧延方向に沿って切った断面(いわゆる圧延方向断面)について行なったが、切断方向による観察個数の差はとくに認められなかった。
また、図5に鋼板内部におけるCr系窒化物の個数と履歴損との関係を示した。窒化物の個数と履歴損の関係をみると、良好な履歴損を得るためには、鋼板内部におけるCr系窒化物の存在割合を1mm当たり2500個以下に抑制しなければならないことが判明した。この発明は、上記の知見に基づくものである。
Figure 0004306445
この発明の要旨構成は、次の通りである。
(1) Si:2.5〜10 mass%、Cr:1.5〜20 mass%、Al:0.1 〜1.0 mass%、C:0.006 mass%以下、N:0.002mass%超え0.004 mass%以下、S:0.005 mass%以下、Ti:0.005 mass%以下およびNb:0.005mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的な不純物からなり、鋼の電気抵抗が60μΩcm以上、鋼板内部におけるCr系窒化物の存在割合が1mm当たり2500個以下であることを特徴とする、Fe−Cr−Si系無方向性電磁鋼板。
(2) Si:2.5〜10 mass%、Cr:1.5 〜20 mass%、Al:0.1〜1.0 mass%、C:0.006 mass%以下、N:0.002mass%超え0.004 mass%以下、S:0.005 mass%以下、Ti:0.005 mass%以下およびNb:0.005mass%以下を含み、さらにSbおよびSnのいずれか1種または2種を、それぞれSb:0.005〜1mass%およびSn:0.005〜1mass%の範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的な不純物からなり、鋼の電気抵抗が60μΩcm以上、鋼板内部におけるCr系窒化物の存在割合が1mm当たり2500個以下であることを特徴とする、Fe−Cr−Si系無方向性電磁鋼板。
(3) 上記(1)又は(2)において、さらにMn:0.04〜1mass%およびP:0.01〜1mass%のいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする、Fe−Cr−Si系無方向性電磁鋼板。
(4) Si:2.5〜10 mass%、Cr:1.5〜20 mass%、Al:0.1 〜1.0 mass%、C:0.006 mass%以下、N:0.004 mass%以下、S:0.005 mass%以下、Ti:0.005 mass%以下およびNb:0.005mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的な不純物からなる溶鋼を鋳込み、冷間圧延および/または温間圧延を含む圧延工程を施し、その後仕上げ焼鈍を施すにあたり、前記仕上げ焼鈍における雰囲気中の窒化性ガスの含有量を、窒素ガス換算した全体積比で、仕上げ焼鈍温度が700℃以上950℃未満場合には、60%以上95%未満に抑制し、仕上げ焼鈍が950〜1150℃の場合には、60%以上80%以下に抑制することにより、鋼の電気抵抗が60μΩcm以上、鋼板内部の含有窒素量が0.002mass%超え0.004 mass%以下の範囲でかつ鋼板内部におけるCr系窒化物の存在割合が1mm当たり2500個以下である無方向性電磁鋼板を製造することを特徴とする、Fe-Cr-Si系無方向性電磁鋼板の製造方法。
ここで窒化ガスの窒化への寄与は、次のようにして窒素ガス相当の全体積比に換算する。各窒化ガスの化学組成から窒素Nの存在割合を原子数比率で求める。この比率に、各窒化ガスの体積割合を乗じ、その総和をとる。
(5) Si:2.5〜10 mass%、Cr:1.5 〜20 mass%、Al:0.1〜1.0 mass%、C:0.006 mass%以下、N:0.004 mass%以下、S:0.005 mass%以下、Ti:0.005 mass%以下およびNb:0.005mass%以下を含み、さらにSbおよびSnのいずれか1種または2種を、それぞれSb:0.005〜1mass%およびSn:0.005〜1mass%の範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的な不純物からなる溶鋼を鋳込み、冷間圧延および/または温間圧延を含む圧延工程を施し、その後仕上げ焼鈍を施すにあたり、前記仕上げ焼鈍における雰囲気中の窒化性ガスの含有量を、窒素ガス換算した全体積比で、仕上げ焼鈍温度が700℃以上950℃未満場合には、60%以上95%未満に抑制し、仕上げ焼鈍が950〜1150℃の場合には、60%以上80%以下に抑制することにより、鋼の電気抵抗が60μΩcm以上、鋼板内部の含有窒素量が0.002mass%超え0.004 mass%以下の範囲でかつ鋼板内部におけるCr系窒化物の存在割合が1mm当たり2500個以下である無方向性電磁鋼板を製造することを特徴とする、Fe-Cr-Si系無方向性電磁鋼板の製造方法。
(6) 上記(4)又は(5)において、さらにMn:0.04〜1mass%およびP:0.01〜1mass%のいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする、Fe−Cr−Si系無方向性電磁鋼板の製造方法。
(7) 上記(4)〜(6)のいずれか1項において、前記圧延工程が、鋳込まれた鋼スラブを熱間圧延し、得られた熱延板に必要に応じて熱延板焼鈍を施し、その後、1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延工程を含むことを特徴とする、Fe-Cr-Si系無方向性電磁鋼板の製造方法。
この発明に従う無方向性電磁鋼板は、次の特徴を有するものである。
(a) Crを添加することによって高Si鋼の脆性が改善され、従来は製造が困難であった、高Si鋼の製造が可能になり、より高い電気抵抗が得られる。
(b) Crは脆性改善のみではなく、電気抵抗を高めるのにも有効な元素であり、SiとCrとの複合添加でより効率的に高い電気抵抗を得ることが可能になった。
(c) C、N、S、TiおよびNbなどの不純物濃度を十分に低減することにより、Cr添加による脆性改善効果が得られるとともに、析出物による履歴損劣化を防止できる。
(d) Arガス雰囲気などの窒化が起こらない雰囲気中でFe−Cr−Si鋼を焼鈍することで、窒化を抑制し、Cr系窒化物の存在割合を1mm当たり2500個以下に制御することができ、Cr系窒化物による履歴損劣化を防止できる。
(e) Fe-Cr-Si系電磁鋼板に窒化抑制元素であるSbおよび/またはSnを添加するとともに、Sb、Snの添加量に合わせて窒化性ガスの含有量を調整することにより、焼鈍中の窒化を抑制し、Cr系窒化物の存在割合を1mm当たり2500個以下に制御することができ、Cr系窒化物による履歴損劣化を防止できる。
(f) Fe-Cr-Si系電磁鋼板に窒化物生成元素であるAlを添加するとともに、Alの添加量に合わせて窒化性ガスの含有量を調整することにより、焼鈍中の内部窒化を抑制し、Cr系窒化物の存在割合を1mm当たり2500個以下に制御することができ、Cr系窒化物による履歴損劣化を防止できる。
(g) Fe-Cr-Si系電磁鋼板に窒化抑制元素であるSbおよび/またはSnおよび窒化物生成元素であるAlを複合添加する場合は、Sb、SnまたはAlの単独添加時よりもそれぞれ少量の添加で単独添加鋼と同様に焼鈍中の窒化を抑制でき、さらに窒化性ガスの含有量を適宜調節することによりCr系窒化物の存在割合を1mm当たり2500個以下に制御することができ、Cr系窒化物による履歴損劣化を防止できる。
この発明の無方向性電磁鋼板は、優れた高周波磁気特性を有し、高周波域で使用される機器、例えば電気自動車用モータ、マイクロガスタービン用発電機および高周波リアクトル等に最適であり、その工業的価値は大きなものである。
以下、この発明を詳細に説明する。
まず、この発明の無方向性電磁鋼板における成分組成範囲の限定理由について説明する。
Si:2.5〜10mass%
Siは、鋼の電気抵抗を上昇させる主要元素である。さらに、Crとの相乗効果によって電気抵抗を大幅に上昇させ、特に高周波数域での鉄損を改善するのに有効な成分である。Si量が2.5mass%未満では、Crを併用したとしても従来の電磁鋼板程度の電気抵抗しか得られず、このため良好な高周波域鉄損は得られない。一方、10 mass%を超えると、Crを含有させても通常圧延可能な靱性を確保できないため、Si含有量は2.5〜10mass%と規定する。なお、より好ましい範囲は2.5〜5mass%である。さらに好ましい範囲は、3.5〜5mass%である。
Cr:1.5〜20mass%
Crは、Siとの相乗効果によって鋼の固有抵抗を大幅に向上させ、更には耐食性を向上させる基本的な合金成分である。その効果を得るためには1.5mass%以上の添加が必要である。Crはさらに、3.5mass%以上のSi含有量の場合、または3mass%以上のSi含有量でかつ0.5mass%を超えるAl含有量の場合であっても、通常の圧延可能な程度の靭性を得るのに極めて有効な元素である。その効果は1.5mass%以上でも得られるが、2mass%以上のCr添加がさらに好ましい。なお、Si量やAl量が上記の場合よりも少ない場合でもCr添加により加工性は改善される。一方、20mass%を超えると靭性向上効果が飽和するとともに、コスト上昇を招くため、Cr含有量は1.5〜20mass%と規定する。なお、より好ましい範囲は1.5〜5mass%である。
Sb:0.04超〜1mass%およびSn:0.06超〜1mass%のいずれか1種または2種(鋼中のAl含有量が0.1mass%未満の場合)、
Sb:0.005〜1mass%およびSn:0.005〜1mass%のいずれか1種または2種(鋼中のAl含有量が0.1mass%以上の場合)
SnおよびSbは、いずれも窒化を抑制する効果があるため、これらの成分を加えた鋼であれば、SnやSbを加えない鋼に比べて、仕上げ焼鈍時の窒化性ガスの割合が高くても、Cr系窒化物の析出を有効に抑制することができる。このように焼鈍時の窒化によるCr系窒化物の析出を抑制し、履歴損劣化を防止できるため、Fe−Cr−Si系電磁鋼板におけるSnおよび/またはSbの添加は、従来の電磁鋼板の場合よりも鉄損改善効果は大きい。従って、この発明では、鋼中にAlを添加しない成分系をもつ電磁鋼板の場合(すなわちAl含有量が0.1mass%未満である場合)には、SbおよびSnのいずれか1種または2種を、それぞれ0.04超〜1mass%および0.06超〜1mass%の範囲で添加することができる。すなわち、Sn、Sbがいずれも1mass%を超えると、上記効果が飽和するばかりでなく、コスト上昇を招くことから、1mass%を上限とし、また、前述した効果を十分に得るため、SbおよびSnの含有量の下限は、それぞれ0.04mass%超および0.06mass%超とする。
一方、SnおよびSbに併せてAlを複合添加する場合(すなわちAl含有量が0.1mass%以上である場合)は、SbおよびSnのいずれか1種または2種を、それぞれSb:0.005〜1mass%およびSn:0.005〜1mass%の範囲で添加させることができる。SnおよびSbが1mass%を超えると効果が飽和し、コスト上昇もまねくことから、1mass%を上限とする。下限はAlとの複合添加による相乗効果により、0.005mass%以上の含有で前述したものと同様な効果が生じる。なお、Sn、Sbは窒化抑制効果に加えて集合組織改善効果もあることから、鋼板の磁気特性向上にさらに寄与する。このような目的での添加は、特許文献3や特許文献4でも禁じていないが、窒化抑制に最適化した適用量や方法を示唆するものではなかった。
なお、Alを複合添加する場合は、より好ましい範囲はSb、Snとも0.005〜0.05mass%である。
Al:0.1〜2mass%
Alは、Crよりも強力な窒化物生成元素であり、焼鈍中に鋼板表層より侵入する窒素と鋼板表層で結びつき、鋼板最表層にAlN層を形成するとともに、さらに最表層直下の表層近傍においてもAlNを析出する。これにより鋼板内部への浸窒が防止され、その結果、鋼板内部での窒化によるCr系窒化物の析出を抑制することができるので、必要に応じて鋼中に添加することができる。従来の電磁鋼板では、鋼板表層のAlN析出は磁気特性を劣化させるので抑制する必要があるとされていた。しかしながら、Fe-Cr-Si系電磁鋼板に関しては、このAlN析出は磁気特性改善に非常に有効なものであることがわかった。さらにAlの添加により、鋼溶製時からの含有窒素によるCr系窒化物析出を抑制する効果も認められた。これらの効果は、0.1mass%以上の添加により得ることができる。
なお、過剰にAlを添加すると、電気抵抗を高めることができるという有利な面もあり、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4では、この目的での添加を奨励している。しかし、磁束密度の低下がSiを添加した場合より大きい。高電気抵抗化はSiとCrの複合添加により達成可能であるので、高電気抵抗と高磁束密度の双方を満足させるという観点から、Al添加量は必要な範囲で少ない方が好ましい。また、過剰なAlの添加は靭性劣化を招くことから、製造性の観点からもAl添加量は少ない方が好ましい。これらの理由により、Al含有量の上限は2mass%とする。以上により、Al添加量は0.1〜2mass%、好ましくは0.1〜1mass%と規定する。
Mn:0.04〜1mass%およびP:0.01〜1mass%のいずれか1種または2種
Mnは0.04mass%以上、Pは0.01mass%以上添加することにより更に電気抵抗を高めることが可能で、この発明の趣旨を損なうことなく、更なる鉄損の改善が達成できる。よって、MnおよびPから選ばれる1種あるいは2種を必要に応じて添加することができる。しかし、これらの元素を大量に添加すると加工性が劣化するので、ともに1mass%を上限とする。より好ましくは0.5mass%以下がよい。
C:0.006mass%以下
Cは、Fe−Cr−Si系電磁鋼板の靱性を劣化させるため、できる限り低減することが望ましく、この発明の成分範囲においてC量は0.006mass%以下に抑える必要がある。また、Cr系炭化物などの析出物による履歴損を防止する観点からも、C量は0.006mass%以下に抑える必要がある。より好ましい範囲は0.004mass%以下である。
N:0.002mass%以下(鋼中のAl含有量が0.1mass%未満の場合)、
0.004mass%以下(鋼中のAl含有量が0.1mass%以上の場合)
Nは、Crと非常に結びつきやすくCr系窒化物を析出させる。よって、履歴損劣化の観点から、鋼中にAlを添加しない(Al<0.1mass%)成分系をもつ電磁鋼板の場合には、N含有量は0.002mass%以下に低減する必要がある。一方、鋼中にAlを添加した(Al≧0.1mass%)成分系をもつ電磁鋼板の場合には、NはAlと結びつき、窒化および鋼中窒素によるCr系窒化物の析出が抑制されるため、N含有量は0.004mass%以下まで含有させることが可能となる。ただし、N含有量が多くなると靭性劣化を招くため、できるだけ低減することが好ましく、靭性劣化の観点からもN含有量は0.004mass%以下に抑える必要がある。
S:0.005mass%以下
Sは、MnSやCuS等の析出物を生成し、履歴損を劣化させるので履歴損改善の観点から、S量は0.005mass%以下に抑える必要がある。
Ti:0.005mass%以下、Nb:0.005mass%以下
TiおよびNbはいずれも、通常のCr含有鋼においては加工性改善成分と位置付けられている。しかし、磁気特性を劣化させる成分である。この発明における加工性の改善は、Cr添加とCおよびNを低減させることで達成するため、TiおよびNbが有する加工性改善作用は必要としない。このため、Ti、Nbは磁気特性の観点からできるだけ低減するのが望ましく、その許容量はTi、Nb共に0.005mass%以下に抑える必要がある。
なお、O、V、Cu等の不可避的不純物についても、磁気特性および加工性両方の観点からできる限り低減することがより好ましい。これらはそれぞれ、0.005mass%以下、0.005masss%以下、0.05mass%以下とすることが好ましい。
高周波特性を改善するためには、鋼の電気抵抗を高めることが非常に有効である。この発明では、鋼の電気抵抗が少なくとも60μΩcm以上が望ましい。60μΩcm未満では、高周波磁気特性が十分に得られず、Crを積極的に添加しない従来の電磁鋼板によっても容易に達成可能だからである。なお、好ましくは70μΩcm以上とする。電気抵抗率は、主に鋼の成分組成により決定されるので、既知の各元素の影響を考慮して成分設計することや、簡単な調査により、目的の値とすることができる。
図5に示したように良好な履歴損を得るためには、鋼板内部のCr系窒化物の存在割合を1mm当たり2500個以下に制御する必要がある。1mm当たり2500個超えでは履歴損が急激に劣化し、十分な高周波鉄損が得られない。Cr系窒化物の存在割合を1mm当たり2500個以下に制御するためには、窒化抑制元素であるSn、Sbまたは窒化物生成元素であるAlを添加し、さらに仕上げ焼鈍雰囲気中への非窒化性ガスの比率を増大することによって達成される。もちろん、100%非窒化性ガスの雰囲気でも達成されることは言うまでもない。ここで、非窒化性ガスとは、例えばHガスやArガス等であり、また現実的に使用させ得る窒化性ガスはNガスやNHガス等である。
窒化抑制元素Sn、Sbも、窒化物生成元素Alも添加されていない成分系に関しては、窒化性ガスを含まない、非窒化性ガス雰囲気下で焼鈍を行なうことが好適である。また、窒化性ガスの比率を非常に低くすることによってもCr系窒化物の存在割合の低減は達成され得る。
次に、この発明の無方向性電磁鋼板の製造プロセスについて説明する。
まず、本請求範囲の成分を含有した溶鋼をスラブに鋳造し、スラブ加熱後、通常の熱間圧延を施す。スラブ加熱温度はとくには限定されないが、1200℃を超える温度でスラブを加熱すると、スラブが垂れてしまうなどの製造上の問題が発生するおそれがあるため、1200℃以下とすることが好ましく、より好ましくは950〜1200℃とする。熱延板の厚みは極力薄くすることによって、次工程の冷間圧延における圧延性を良好にすることができる。一方、薄くしすぎると圧延機の能力が追いつかず、また、熱延板に形状不良が生じることがあるので、2.5〜0.5mm程度の範囲内とすることが好ましい。
次に必要に応じて熱延板焼鈍を施してもよい。熱延板焼鈍は磁気特性を改善するのに有効であるが、800℃未満ではその効果は不十分であり、1200℃を超えると組織が粗大になりすぎて靭性に問題が生じるので、800℃〜1200℃程度の温度範囲で施すことが好ましい。
得られた熱延鋼板に冷間圧延を施して最終板厚とする。ここで、冷間圧延は1回で最終板厚としてもよいが、2回以上にわけて、その間に中間焼鈍を施してもよい。中間焼鈍は磁気特性を改善するのに有効であり、鋼板の歪を除去し、その後の冷間圧延の負荷を低減する効果もある。しかし、歪が除去され再結晶が完了したあとは、鋼板の靭性を劣化させる。つまり、過度に中間焼鈍を施すことはその効果を飽和させるだけでなく、粗大な結晶粒となり次工程の冷延性を劣化させる。他方、低温すぎると磁気特性改善効果が不十分となる。したがって、中間焼鈍温度は700℃〜1100℃の範囲内が好ましい。
なお、Cは低減すればするほど磁気特性改善および加工性改善に寄与するので、中間焼鈍を酸化性雰囲気で行い、脱炭焼鈍としてもよい。
また、冷延工程は磁気特性改善効果が知られている100℃〜300℃の範囲内が好ましい。なお、上記が代表されるプロセスであるが、これに限定されるものではなく、鋳造した鋼を最終的に冷間圧延あるいは温間圧延により、最終板厚に加工するプロセスを適切な条件で行なえばよい。
冷間圧延および/または温間圧延された冷延鋼板には、その後仕上げ焼鈍を施して再結晶させる。仕上げ焼鈍は、連続焼鈍で行なっても箱焼鈍で行なっても良いが、連続焼鈍が好ましい。
仕上げ焼鈍プロセスにおいては、無方向性電磁鋼板では窒素ガスまたは窒素ガスを主成分として水素ガスを混合した還元性雰囲気が一般に用いられている。本発明の鋼においては、既に触れたように、仕上げ焼鈍おける雰囲気の管理が特に重要である。窒化を抑制してCr系窒化物の存在割合を1mm当たり2500個以下に制御する為には、例えばArガス雰囲気などの窒化が起らない雰囲気中で焼鈍を行うことが好ましい。あるいは、室化抑制元素であるSb、Snおよび/または窒化物生成元素であるAlを鋼板素材に添加するとともに、これらの添加量に合わせて窒化性ガスの存在割合を適宜調節する。
すなわち、本発明では、例えば窒素と水素ガスからなる雰囲気中の水素ガスの存在割合を増加させたり、窒素ガスの少なくとも一部をArガスなどの窒素ガス以外に置換して、Cr系窒化物の存在割合を1mm当たり2500個以下に制御する。とくに、窒化抑制元素Sn、Sbおよび窒化物生成元素Alを添加しない組成の鋼に関しては、焼鈍雰囲気に窒化性ガスを全く用いないか、窒化性ガスの比率を非常に低く設定するなどによりCr系窒化物の存在割合を1mm当たり2500個以下に制御する。
具体的には、上述した雰囲気制御にあたり、Al、SbおよびSnを全く添加しない成分系に関しては、窒化性ガスの含有量を、窒素ガス換算した全体積比(以後、単に全体積比という)で30%未満とする。また、それ以外の成分系に関しては窒化性ガスの含有量を全体積比で95%未満に規定する。なお、窒化量が多すぎると窒化により析出物制御が困難になるだけでなく、鋼板表面が酸化し、その結果履歴損が劣化する。
ここで、窒化ガスは、次のようにして窒素ガス換算した全体積比を算出する。まず、各窒化ガスの化学組成から窒素Nの存在割合を原子数比率で求める。この比率に、各窒化ガスの体積割合を乗じ、その総和をとる。
例えば、N:NH:H=40:40:20の場合、NHは窒素1原子と水素3原子とからなるので、NHガス中の窒素Nの存在割合は0.25である。したがって、窒素ガス換算した全体積比は、40%+(40%×0.25)=50%となる。
なお、いうまでもなく、Nガスの場合は窒素Nの存在割合は1である。したがって、窒化ガスが窒素ガスのみである場合は、全雰囲気に対する窒素ガス体積比が、前記の全体積比となる。
また、窒化能は高温焼鈍の方が高く、雰囲気管理の効果は仕上げ焼鈍温度が950℃以上の場合においてより顕著となる。前記の雰囲気制御は、各仕上げ焼鈍温度における窒化量の実積に基づいて適宜最適化して行なうことが好ましい。
例えば、仕上げ焼鈍温度が700℃以上950℃未満の領域では、窒化能はそれほど高くないため、Cr窒化物の存在割合を所定の値以下に低減するために、Sb,SnまたはAlの少なくともいずれかを添加した鋼に対しては、窒化性ガスの全体積比を95%未満、Sb,SnおよびAlが無添加である鋼に対しては、30%未満とすることが好ましい。
また、仕上げ焼鈍が950〜1150℃の領域では、窒化能が非常に高くなるため、低温焼鈍の場合よりも窒化性ガスの全体積比を低くすることが好ましい。この場合は、Sb,SnまたはAlの少なくともいずれかを添加した鋼に対しては、窒化性ガスの全体積比を80%以下、Sb,SnおよびAlが無添加である鋼に対しては、15%以下とすることが好ましい。
なお、コストおよび作業性の観点からは、上記適正範囲の上限を超えない範囲内であれば、窒素ガスを適当量含有させてもよい。例えば、Sb,SnおよびAlの少なくともいずれかを添加した鋼に対しては、窒化性ガスの全体積比が60%以上となる程度の窒素ガスを含有させてもよく、また、Sb,SnおよびAlが無添加である鋼に対しても窒化性ガスの全体積比が5%以上となる程度に窒素ガスを含有させることも可能である。
この発明の鋼板においては、板厚を減じれば高周波磁気特性改善の効果が促進されるが、約400Hz以上の高周波数域で、この減厚の効果を格段に得るためには、板厚を0.4mm以下にすることが望ましい。ただし、板厚を0.01mmより薄くすると、製造コストが高くなるため、板厚の範囲は0.01〜0.4mmとすることが好ましい。
表3に示す組成成分を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を溶製し、1150℃にスラブ加熱した後、熱間圧延を行なって、全て板厚2.0mmの熱延板とした。次いで、鋼A〜PおよびWに関しては、1000℃にて熱延板焼鈍を施し、1回冷延法にて最終仕上げ厚さ0.25mmに仕上げた。一方、鋼Q〜Vに関しては、熱延板焼鈍を実施せず、冷間圧延途中で900℃にて中間焼鈍を行なう2回冷延法にて最終仕上げ厚さ0.15mmに仕上げた。その後、980〜1040℃で10秒の最終仕上げ焼鈍を施した。かくして得られた鋼板をエプスタイン試験片に切り出し、その磁気特性を評価した。測定はJIS C2550に従い実施した。
Figure 0004306445
ここに、電気抵抗、製品板の板厚、仕上げ焼鈍における雰囲気ガス、焼鈍温度、鉄損、焼鈍後の鋼板全体の窒化量、鋼板内部の窒化量および鋼板内部の含有窒素量、並びにCr系窒化物の存在割合を、それぞれ表4〜6にまとめて示す。
なお、鋼板内部の含有窒素量は、化学研磨によって鋼板表面表裏各5μmずつ研磨した領域の含有窒素量のことを意味し、鋼板内部の窒化量は、仕上げ焼鈍前の鋼板全体の含有窒素量と仕上げ焼鈍後の鋼板内部の含有窒素量との差である。また、鋼板全体の窒化量は、仕上げ焼鈍前の鋼板全体の含有窒素量と仕上げ焼鈍後の鋼板全体の含有窒素量との差である。窒素量は湿式化学分析により行った。Cr系窒化物の存在割合は倍率5000倍の断面SEM像にて調査した。
Figure 0004306445
Figure 0004306445
Figure 0004306445
Cr非添加鋼である鋼AおよびBは電気抵抗が本発明の範囲外であるため、鉄損の低減が不十分である。鋼中の窒素含有量が本発明範囲外である鋼D、MおよびWは、Al、Sn、Sbを添加しても、Cr系窒化物が析出し、鉄損が不十分である。Al,SbおよびSnが非添加である鋼C、KおよびQは、窒化性ガスの比率(ここでは窒素分圧)を制御しない場合には、焼鈍時の窒化により、Cr系窒化物が析出し、鉄損が不十分である。一方、焼鈍雰囲気をAr雰囲気にしたり、低窒素雰囲気にするなどして窒素分圧を低く制御した場合には、Cr系窒化物の析出が抑制され、良好な磁気特性を示した。SnおよびSbを一種類以上添加した鋼E、F、L、RおよびVは、焼鈍雰囲気を本発明範囲内に制御した場合には、Cr系窒化物の析出や鋼板の表面酸化が抑制され、良好な鉄損を示す。一方で、雰囲気制御を実施せず、高い窒素分圧で焼鈍を行なうと、SnおよびSb添加による窒化抑制効果が不十分で、Cr系窒化物の析出量を本発明範囲内に抑制できず、鉄損が不十分であった。
SbおよびSn非添加でかつAl添加の鋼G、H、PおよびTでは、窒化により最表層にAlNが形成されるため焼鈍後の窒素含有量は高くなるが、このAlNの形成により鋼板内部の窒素含有量が高くならない。このため、Al添加に加えて焼鈍雰囲気を制御した場合、窒化が抑制され良好な鉄損を示した。一方、雰囲気制御を実施せず、高い窒素分圧で焼鈍を行なうと、Al添加による窒化抑制効果が不十分で、Cr系窒化物の存在割合を本発明範囲内に抑制できず、鉄損が不十分であった。
また、Snおよび/またはSbとAlとを複合添加した鋼I、J、N、O、SおよびUでは、Sn、Sb添加による窒化抑制とAl添加による鋼板表層でのAlN形成によって窒化によるCr系窒化物の析出が抑制され、良好な磁気特性を示した。一方、雰囲気制御を実施せず、高い窒素分圧で焼鈍を行なうと、複合添加による窒化抑制効果が不十分で、Cr系窒化物の存在割合を本発明範囲内に抑制できず、鉄損が不十分であった。
以上のSn、SbおよびAlを一種類以上添加した鋼では、当然のことながら、窒化が起らないAr雰囲気中などの100%非窒化性雰囲気の焼鈍においても良好な鉄損を示した。
表3に示す鋼Q、R、SおよびTに関しては、実施例1と同様の方法で最終仕上げ厚さ0.15mmとした後、900℃で10秒の最終仕上げ焼鈍を施し、より高周波域での磁気特性を測定した。その測定結果を表7に示す。
Figure 0004306445
実施例1と同様にAl、SbおよびSn非添加の鋼Qは、焼鈍雰囲気を制御しない場合には、焼鈍時の窒化により、Cr系窒化物が析出し、鉄損が不十分である。一方、焼鈍雰囲気をAr雰囲気にしたり、低窒素雰囲気にするなどし、窒化を抑制するとCr系窒化物の析出が抑制され、良好な鉄損を示した。Al、SnおよびSbを一種類以上添加している鋼R、SおよびTも同様で、雰囲気制御せず高い窒素分圧で焼鈍を行なうと、Al、SnおよびSbによる窒化抑制効果が不十分で、Cr系窒化物の析出量を本発明範囲内に抑制することができず、鉄損が不十分であった。一方、焼鈍雰囲気を制御した場合には、窒化が抑制され、Cr系窒化物の析出が本発明範囲内に抑制され、良好な鉄損を示した。
以上述べたように、この発明の無方向性電磁鋼板は、優れた高周波磁気特性を有する。本発明の鋼板は、高周波域で使用される機器、例えば電気自動車用モータ、マイクロガスタービン用発電機および高周波リアクトル等に最適であり、その工業的価値は大きなものである。
Cr系窒化物が微細析出した鋼板内部の断面SEM写真である。 鋼中のCr含有量を横軸とし、仕上げ焼鈍時の窒化量および履歴損を縦軸としてこれらの関係の一例を示したグラフである。 この発明に従う電磁鋼板(Sb添加)を仕上げ焼鈍した後に撮影したときの断面SEM写真であり、(a)が鋼板内部、(b)が鋼板表面を示す。 この発明に従う他の電磁鋼板(Al添加)を仕上げ焼鈍した後に撮影したときの断面SEM写真であり、(a)が鋼板内部、(b)が鋼板表面を示す。 種々の鋼板について、鋼板内部におけるCr系窒化物の存在割合と履歴損との関係を示すグラフである。
符号の説明
1 Cu箔
2 鋼板部
3 AlN層
4 AlN

Claims (7)

  1. Si:2.5〜10 mass%、Cr:1.5〜20 mass%、Al:0.1 〜1.0 mass%、C:0.006 mass%以下、N:0.002mass%超え0.004 mass%以下、S:0.005 mass%以下、Ti:0.005 mass%以下およびNb:0.005mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的な不純物からなり、鋼の電気抵抗が60μΩcm以上、鋼板内部におけるCr系窒化物の存在割合が1mm当たり2500個以下であることを特徴とする、Fe−Cr−Si系無方向性電磁鋼板。
  2. Si:2.5〜10 mass%、Cr:1.5 〜20 mass%、Al:0.1〜1.0 mass%、C:0.006 mass%以下、N:0.002mass%超え0.004 mass%以下、S:0.005 mass%以下、Ti:0.005 mass%以下およびNb:0.005mass%以下を含み、さらにSbおよびSnのいずれか1種または2種を、それぞれSb:0.005〜1mass%およびSn:0.005〜1mass%の範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的な不純物からなり、鋼の電気抵抗が60μΩcm以上、鋼板内部におけるCr系窒化物の存在割合が1mm当たり2500個以下であることを特徴とする、Fe−Cr−Si系無方向性電磁鋼板。
  3. 請求項1又は2において、さらにMn:0.04〜1mass%およびP:0.01〜1mass%のいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする、Fe−Cr−Si系無方向性電磁鋼板。
  4. Si:2.5〜10 mass%、Cr:1.5〜20 mass%、Al:0.1 〜1.0 mass%、C:0.006 mass%以下、N:0.004 mass%以下、S:0.005 mass%以下、Ti:0.005 mass%以下およびNb:0.005mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的な不純物からなる溶鋼を鋳込み、冷間圧延および/または温間圧延を含む圧延工程を施し、その後仕上げ焼鈍を施すにあたり、前記仕上げ焼鈍における雰囲気中の窒化性ガスの含有量を、窒素ガス換算した全体積比で、仕上げ焼鈍温度が700℃以上950℃未満場合には、60%以上95%未満に抑制し、仕上げ焼鈍が950〜1150℃の場合には、60%以上80%以下に抑制することにより、鋼の電気抵抗が60μΩcm以上、鋼板内部の含有窒素量が0.002mass%超え0.004 mass%以下の範囲でかつ鋼板内部におけるCr系窒化物の存在割合が1mm当たり2500個以下である無方向性電磁鋼板を製造することを特徴とする、Fe-Cr-Si系無方向性電磁鋼板の製造方法。
  5. Si:2.5〜10 mass%、Cr:1.5 〜20 mass%、Al:0.1〜1.0 mass%、C:0.006 mass%以下、N:0.004 mass%以下、S:0.005 mass%以下、Ti:0.005 mass%以下およびNb:0.005mass%以下を含み、さらにSbおよびSnのいずれか1種または2種を、それぞれSb:0.005〜1mass%およびSn:0.005〜1mass%の範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的な不純物からなる溶鋼を鋳込み、冷間圧延および/または温間圧延を含む圧延工程を施し、その後仕上げ焼鈍を施すにあたり、前記仕上げ焼鈍における雰囲気中の窒化性ガスの含有量を、窒素ガス換算した全体積比で、仕上げ焼鈍温度が700℃以上950℃未満場合には、60%以上95%未満に抑制し、仕上げ焼鈍が950〜1150℃の場合には、60%以上80%以下に抑制することにより、鋼の電気抵抗が60μΩcm以上、鋼板内部の含有窒素量が0.002mass%超え0.004 mass%以下の範囲でかつ鋼板内部におけるCr系窒化物の存在割合が1mm当たり2500個以下である無方向性電磁鋼板を製造することを特徴とする、Fe-Cr-Si系無方向性電磁鋼板の製造方法。
  6. 請求項4又は5において、さらにMn:0.04〜1mass%およびP:0.01〜1mass%のいずれか1種又は2種を含有することを特徴とする、Fe−Cr−Si系無方向性電磁鋼板の製造方法。
  7. 請求項4〜6のいずれか1項において、前記圧延工程が、鋳込まれた鋼スラブを熱間圧延し、得られた熱延板に必要に応じて熱延板焼鈍を施し、その後、1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延工程を含むことを特徴とする、Fe-Cr-Si系無方向性電磁鋼板の製造方法。
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