JP2016160543A - 潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維 - Google Patents

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皓太 安達
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Abstract

【課題】不織布での伸縮性に優れ、かつ不織布加工後の染色工程において、染色温度が100℃未満での分散染料による染色が可能であり、しわや着色斑が発生せず、均一に着色した高品位の不織布を得られる潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の提供。
【解決手段】潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維は、主たる繰り返し成分がエチレンテレフタレートからなるポリエステルであって、全ジオール成分に対し側鎖を有する炭素鎖数が3のジオール成分が5〜10モル%であり、ポリエチレングリコールの含有量が2〜4質量%である常圧分散染料可染性ポリエチレンテレフタレート(A)を鞘成分とし、常圧分散可染性ポリエステル(A)よりも固有粘度が0.02〜0.25低いポリエステル(B)を芯成分とし、ポリエステル(B)の偏心率が5〜50%である潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維。
【選択図】図1

Description

本発明は、潜在捲縮特性に優れ、染色温度が100℃未満での分散染料による染色が可能であり、伸縮性および着色状態が均一な不織布を好適に得ることができる潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維に関するものである。
従来から、伸縮性が付与された不織布は、様々な用途で用いられている。特に、医療分野や化粧品分野では、その優れた伸縮性によって、関節等の患部の動きに追従する貼付剤基布、あるいは、表面状態の緻密さやソフト感から化粧用貼付材等に利用されている。
一般に、これらの伸縮性を有する不織布は、着色成分を含まない白色のものが好まれてきた。これは、医薬品若しくは医薬外部品とするための貼付剤基布には、安全性の観点から、純度試験をはじめとする種々の試験項目に適合することが求められ、着色を施す上での制約が大きいためである。しかしながら、近年、外観上の高付加価値追求の観点から、伸縮性を有する着色不織布への要求が急激に高まっている。
一般的に、伸縮性を有する着色不織布は、潜在捲縮性ポリエステル繊維をニードルパンチ加工やスパンレース加工等により絡合させ、不織布とした後、熱処理を施して繊維に微細なスパイラル捲縮を発現させ、伸縮性を付与して伸縮性を有する不織布を作製し、これをビーム染色法等により着色して製造される。
伸縮性を有する着色不織布の製造に使用される潜在捲縮性ポリエステル繊維としては、例えば、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンを2〜7モル%とイソフタル酸を5〜13モル%を共重合したポリエステルを使用した潜在捲縮性ポリエステル複合繊維(特許文献1参照。)や、金属塩スルホネート基を有する構成単位を3〜6モル%共重合したポリエステルを使用した潜在捲縮性ポリエステル複合繊維(特許文献2参照。)が知られている。
しかしながら、これらの潜在捲縮性ポリエステル複合繊維は、不織布とした際に優れた伸縮性を発現する反面、不織布加工後の染色工程において十分に着色させるために高温高圧下で染色する必要があり、その熱によって意図しない収縮が生じて、不織布にしわや着色斑が発生し、均一に着色した高品位の不織布を得ることが難しいという課題があった。
また、ポリエチレンテレフタレート構造を持つ繊維は染色されにくく、染色する際には、例えば、染色釜を加圧し、温度を130℃に上昇させなければ、染色されにくいことが知られており、このような課題を解決するために、ポリエステル樹脂の改質により染色性を改良させる方法がこれまで数多く検討されている。
例えば、数平均分子量が600〜4000以下のポリエチレングリコールを3重量%以上10重量%以下共重合し、ポリエチレングリコールの酸化分解性を向上させるため、ヒンダードフェノール系抗酸化剤を共存させた改質ポリエステル組成物を用いることにより、染色が容易となる改質ポリエステル組成物の製造方法が提案されている(特許文献3参照。)。しかしながら、この提案の方法では、ポリエチレングリコールを多量に共重合しているために、成型品としたときの分子構造が安定せず、例えば、繊維化したものについては、乾熱収縮率や遅延収縮率などが大きく、商品価値が劣るという課題がある。さらに、この提案では、常圧分散可染性を付与するためにポリエチレングリコールを多量に共重合しており、そのまま用いた場合は、得られる成型品の強度低下が生じるという課題がある。この強度低下を抑制するため、ヒンダードフェノール系抗酸化剤の併用が必要となるが、ヒンダードフェノール系の抗酸化剤は、それ自体が紫外線などにより構造変化を起こし、成型品が黄変してしまうという課題もみられる。
特開平7−54216号公報 特開昭62−78214号公報 特開平2−38421号公報
そこで本発明の目的は、不織布での伸縮性に優れ、かつ不織布加工後の染色工程において、染色温度が100℃未満での分散染料による染色が可能であり、しわや着色斑が発生せず、均一に着色した高品位の不織布を得ることができる潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維を提供することにある。
本発明者らは、鞘成分を常圧分散染料可染性ポリエステル(A)とし、芯成分をポリエステル(B)とした潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘型複合繊維が好適であると考えた。また加えて、用いられるポリエステルの固有粘度やその複合比率等についても検討を重ね、本発明に想到したものである。
すなわち、本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維は、主たる繰り返し成分がエチレンテレフタレートからなるポリエステルであって、全ジオール成分に対し側鎖を有する炭素鎖数が3のジオール成分が5〜10モル%であり、ポリエチレングリコールの含有量が2〜4質量%である常圧分散染料可染性ポリエチレンテレフタレート(A)を鞘成分とし、前記の常圧分散可染性ポリエステル(A)よりも固有粘度が0.02〜0.25低いポリエステル(B)を芯成分とし、次式で求められる前記のポリエステル(B)の偏心率が5〜50%である潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維である。
・偏心率%=(a−b)/b×100
(ここで、aは潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の外周の最長距離を表し、bは潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の半径を表す。)。
本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の好ましい態様によれば、前記の常圧分散可染性ポリエステル(A)の固有粘度は0.52〜0.80であり、前記のポリエステル(B)の固有粘度は0.50〜0.75である。
本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の好ましい態様によれば、前記の鞘成分の常圧分散可染性ポリエステル(A)と前記の芯成分のポリエステル(B)の複合比率は、質量比で(A)/(B)=70/30〜30/70である。
本発明によれば、不織布伸縮性に優れ、かつ染色温度が100℃未満での分散染料の染色性に優れ、しわや着色斑が発生せず、均一に着色した高品位の不織布を得ることができる潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維が得られる。
図1は、本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘型複合繊維の断面を例示説明するための模式断面図である。
本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維は、主たる繰り返し成分がエチレンテレフタレートからなるポリエステルであって、全ジオール成分に対し側鎖を有する炭素鎖数が3のジオール成分が5〜10モル%であり、ポリエチレングリコールの含有量が2〜4質量%である常圧分散可染性ポリエチレンテレフタレート(A)を鞘成分とし、前記の常圧分散可染性ポリエステル(A)よりも固有粘度が0.02〜0.25低いポリエステル(B)を芯成分とし、ポリエステル(B)の偏心率が5〜50%である潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維である。
本発明で用いられる常圧分散染料可染性ポリエステル(A)の主成分は、ジカルボン酸またはそのエステル誘導体、および、ジオールまたはそのエステル誘導体を、エステル化反応またはエステル交換反応させた後に得られるポリエステルである。
本発明の常圧分散可染性ポリエステル(A)は、主たる繰り返し単位としてエチレンテレフタレートが70モル%以上からなり、さらに好ましくは80モル%以上からなる。
具体的に、本発明で用いられる常圧分散染料可染性ポリエステル(A)は、側鎖を有する炭素鎖数が3のジオール成分が5〜10モル%であり、かつポリエチレングリコールを2〜4質量%含むことが重要である。この要件は、繊維化した際の構造安定性および常圧における分散染料への染色性を両立させるために必須である。側鎖を有する炭素鎖数が3のジオール成分、もしくはポリエチレングリコールのどちらか一方の成分が上記範囲外となると、100℃未満の温度での分散染料への染色性と、繊維構造安定性を両立させることができなくなる。ジオール成分とポリエチレングリコールの含有量は、好ましくは、側鎖を有する炭素鎖数が3のジオール成分が7〜9モル%であり、かつポリエチレングリコールの割合が2.5〜3.5質量%である。
本発明で用いられる常圧分散染料可染性ポリエステル(A)に含まれるポリエチレングリコールは、ポリエステル中に共重合すると常圧における分散染料への染色性に優れる特性を持つ一方で、共重合された後もゴム弾性を有する。そのため、繊維化した際の分子鎖の構造が不安定となる特性を持つが、側鎖部分を有する炭素鎖数が3のジオール成分を共重合することにより、その側鎖部分がポリエチレングリコールのゴム弾性を適度に抑制することができるようになり、繊維化した際の構造が安定し、ポリエチレングリコールの持つ易染色性の特徴をさらに優れたものにする。
すなわち、ポリエチレングリコールと側鎖を有する炭素鎖数が3のジオール成分とを両方共重合することにより、これまで成し得なかった繊維化した際の構造安定性と、常圧における分散染料への染色性を両立させることができるのである。
本発明で用いられる常圧分散染料可染性ポリエステル(A)の側鎖を有する炭素鎖数が3のジオール成分としては、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−フェニル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、およびこれらのエチレンオキサイド付加物など、側鎖を有する炭素鎖数が3のジオール成分が用いられる。中でも、側鎖部分の立体障害が大きすぎると染色性や繊維構造安定性への効果が小さくなるため、側鎖の部分がメチル基を有する2−メチル−1,3−プロパンジオールもしくは2−メチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキサイド付加物が好ましく使用される。これらメチル基を有する炭素鎖数が3のジオール成分を用いることにより、ポリエチレングリコールとの相乗効果をより発揮しやすくなる。
本発明で用いられる常圧分散染料可染性ポリエステル(A)を構成するポリエチレングリコールの数平均分子量は、数平均分子量400〜4000の範囲のものが好ましく使用される。更に好ましくは、分子量は小さいほど繊維構造を安定化できることから、より好ましい数平均分子量は600〜2000である。
本発明で用いられる常圧分散染料可染性ポリエステル(A)は、環状ダイマーを0.35質量%以下の割合で含み、その環状ダイマーの構造は下記の式(1)式で示される。環状ダイマー量が減少すると、繊維化した際の構造安定性に優れる。環状ダイマーの割合は、好ましくは0.30質量%以下である。
Figure 2016160543
(ここで、R1とR2は、炭素数1〜6の炭化水素基、フェニル基またはアリール基を表す。)
例えば、側鎖を有する炭素鎖数が3のジオール成分が2−メチル−1,3−プロパンジオールである場合は、環状ダイマーは下記の式(化2)式で示される。
Figure 2016160543
本発明では、本発明で用いられる常圧分散染料可染性ポリエステル(A)よりも固有粘度が0.02〜0.25低いポリエステル(B)を芯成分に配置することが重要であり、さらに好ましくは固有粘度が0.05〜0.20低いポリエステル(B)を芯成分に配置することである。上記の固有粘度の差が0.02未満であれば、常圧分散染料可染性ポリエステル(A)との固有粘度差が小さくなることにより、捲縮発現性が不十分となり、不織布にした場合、その伸長率と伸長回復率が小さく十分な伸縮性が得られない。一方、固有粘度が0.25を超えると、常圧分散染料可染性ポリエステル(A)との固有粘度差が高くなることにより、繊維の製造が困難となる。
本発明で用いられる常圧分散染料可染性ポリエステル(A)は、その固有粘度(o−クロロフェノール、温度25℃)が0.52〜0.80の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.55〜0.75の範囲である。固有粘度が0.52未満では、溶融粘度が低くなり繊維の製造が困難となる。一方、固有粘度が0.80を超えると、溶融粘度が高くなり繊維の製造が困難となる。
本発明で用いられるポリエステル(B)は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリブチレンナフタレートなどのホモポリマーの他に、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンを2〜7モル%とイソフタル酸を5〜13モル%を共重合した共重合ポリマーなどが挙げられるが、不織布にした場合に、その伸長率が70%以上あり、かつ伸長回復率が65%以上となる伸縮性が得られることが好ましい。
本発明で用いられるポリエステル(B)は、融点が220〜280℃であることが好ましい。
本発明で用いられるポリエステル(B)は、その固有粘度(o−クロロフェノール、温度25℃)が0.50〜0.75であることが好ましく、さらに好ましくは0.55〜0.70ある。固有粘度が0.50未満では、溶融粘度が低くなり繊維の製造が困難となる。一方、固有粘度が0.75を超えると、溶融粘度が高くなり繊維の製造が困難となる。
さらに、本発明において、常圧分散染料可染性ポリエステル(A)とポリエステル(B)の複合比率は、質量比で(A)/(B)=70/30〜30/70であることが好ましく、より好ましくは60/40〜40/60である。常圧分散染料可染性ポリエステル(A)の複合比率が30%未満では、捲縮発現性が不十分となり、不織布にした場合、その伸長率と伸長回復率が小さく十分な伸縮性が得られない。また、常圧分散染料可染性ポリエステル(A)の複合比率が70%を超えても、捲縮発現性が不十分となり、不織布にした場合、その伸長率と伸長回復率が小さく十分な伸縮性が得られない。
また、本発明で用いられるポリエステル(B)の複合比率が30%未満では、捲縮発現性が不十分となり、不織布にした場合、その伸長率と伸長回復率が小さく十分な伸縮性が得られない。また、ポリエステル(B)の複合比率が70%を超えても、捲縮発現性が不十分となり、不織布にした場合、その伸長率と伸長回復率が小さく十分な伸縮性が得られない。
本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維は、鞘成分を常圧分散染料可染性ポリエステル(A)とし、芯成分をポリエステル(B)とした偏心芯鞘型複合繊維である。
図1は、本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘型複合繊維の断面を例示説明するための模式断面図である。
図1において、本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘型複合繊維は、鞘成分を構成する常圧分散染料可染性ポリエステル(A)と、芯成分を構成するポリエステル(B)からなる。
図1で示されている偏心芯鞘型複合繊維は、偏心芯鞘型複合繊維全体の重心位置と芯成分のポリエステル(B)の重心位置とがずれて配置されている偏心芯鞘型複合繊維である。特に、偏心芯鞘型の繊維断面であると、熱処理したときに容易に所望の捲縮を発現させることができ、かつ芯鞘型複合繊維表面が常圧分散染料可染ポリエステルとなり、均一に染色できる点で好ましい態様である。
ポリエステル(B)の偏心率は、このような潜在捲縮性で易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の繊維断面を電子顕微鏡などで拡大撮影し、ポリエステル(B)の重心位置から潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の外周の最長距離をaとし、潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の半径をbとしたとき、下記式で示される数値を言う。
・偏心率%=(a−b)/b×100。
本発明の潜在捲縮性偏心芯鞘型複合繊維の上記の偏心率は、5〜50%であることが好ましい。より好ましい偏心率は、7〜30%である。偏心率が5%未満であれば、偏心率が小さいため捲縮発現性が不十分となり、不織布にした場合、その伸長率と伸長回復率が小さく十分な伸縮性が得られない。一方、偏心率が50%を超えると、芯成分であるポリエステル(B)が鞘成分である常圧分散染料可染性ポリエステル(A)により包まれず、繊維表面に露出してしまう場合があり、均一な染色性が得られ難くなる。
また、本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の単繊維繊度は、0.5〜10.0dtexであることが好ましく、より好ましくは1.0〜5.0dtexである。単繊維繊度が0.5dtex未満となると、製糸性やカード通過性が悪化するため、地合の悪い不織布となることがある。また、単繊維繊度が10.0dtexを超えると、厚みとガサツキのある不織布となり、フィット感が消失してしまうことがある。
また、本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の繊維長は、20〜80mmであることが好ましい。繊維長が20mm未満では、カード通過性が悪く、得られる不織布の地合が悪くなる傾向がある。また、繊維長が80mmを超えると、繊維同士の絡まりが強くなり過ぎるため、カード通過性が悪く、得られる不織布の地合が悪くなる傾向がある。
本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維は、例えば、次の製糸方法によって製造することができる。
常圧分散染料可染性ポリエステル(A)およびポリエステル(B)を溶融し、複合溶融紡糸装置を用いて溶融し、融点よりも好ましくは20から40℃高い紡糸温度で溶融紡糸し、所定の質量比にて、孔径0.3〜0.6mmの吐出孔を150〜700孔有する偏心芯鞘型複合紡糸用口金を通して、口金から紡糸された繊維に、10〜25℃の温度の空気を40〜100m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、紡糸油剤を付与し、引取速度900〜1500m/分で一旦、缶に納めることにより未延伸糸トウを得る。
次いで、得られた未延伸糸トウを2.5〜4.0倍の延伸倍率で、温度75〜95℃の液浴を用いて延伸を施し、90℃〜180℃の温度で緊張熱処理を施して潜在捲縮性を付与し、クリンパーを用いて12〜20山/25mmの機械捲縮を付与し、仕上げ油剤をスプレーで付与し、60〜150℃の温度で15〜30分間乾燥し、長さ20〜80mmに切断して、単繊維繊度が0.5〜10.0dtexの潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維ポリエステル複合繊維を製造することができる。
本発明においては、本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維を用いて、不織布を製造することができる。
本発明で製造される不織布は、前記した本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維を、好ましくは70質量%以上含有するものである。潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維が70質量%に満たない場合は、本発明で目的とする伸縮性に優れ、かつ常圧分散染料可染性に優れた不織布を得ることは難しい。
すなわち、本発明で製造される不織布には、本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維以外に、30質量%未満の範囲で、通常のポリエステル繊維、熱接着バインダー繊維、木綿、ウールおよび麻などの天然繊維を適宜混合することもできる。
本発明で製造される不織布は、前記した本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維を、単独または必要に応じて通常のポリエステル繊維、熱接着バインダー繊維、木綿、ウールおよび麻などの天然繊維と混綿して、カード機にかけ繊維ウェブを作製し、得られた繊維ウェブに必要に応じて、ニードルパンチまたはスパンレースなどによる交絡を施し、フリーな状態で前記した本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維を製糸する際に施した緊張熱処理の温度より20〜60℃高い温度で熱処理して潜在捲縮を顕在化させることにより、伸縮性を有する不織布を得ることができる。
本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維は、不織布の他、紡績糸としても用いることができ、それらは、伸縮性やフィット性を必要とする用途、その中でも、貼付基材用途およびスポーツ用衣料等の織編物や中綿に好適に用いることができる。
次に、実施例に基づいて、本発明の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維について、詳しく説明する。本発明における特性値の測定法は、次のとおりである。
(固有粘度)
固有粘度については、オルソクロロフェノールを溶媒として、35℃の温度でウベローデ粘度計を用いて測定した。固有粘度は、3回以上測定して、その平均値で表した。
(正量単繊維繊度)
単繊維繊度については、JIS L1015(2010年)に準じて、測定した。
(偏心率)
偏心率については、得られた潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の断面を、顕微鏡を用いて400倍の倍率で撮影し、さらに断面写真を拡大コピーする。コピーした用紙について、ポリエステル成分(B)の重心位置から潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の外周の最長距離aを測定し、潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の半径bを測定し、次式1を用いてN=20の平均値で算出した。
・偏心率%=(a−b)/b×100・・・式1。
(不織布の目付)
JIS−L1085(1998年)に準じて測定した。
(不織布の伸長率)
不織布の目付は、不織布試験片(5cm幅×約60cm長さ)について、引張り試験機を用いて、試験片の一端を上部クランプで固定し、他端に初加重30gをかける。次いで、20cmまたは50cm間隔に印を付け、静かに240gの荷重をかける。1分間放置後の印間の長さを測り、次式2を用いてN=3以上の平均値で算出し、次の基準で判定し、○を合格とした。
・伸長率(%)={(L1−L0)/L0 }×100・・・式2。
(ここで、L0はもとの印間の長さ(20cmまたは50cm)を表し、L1は240gの荷重をかけ1分間放置後の印間の長さを表す。)
・伸長率70%以上:○
・伸長率70%未満:×。
(不織布の伸長回復率)
伸長回復率は、上記の伸長率の測定用と同じ試験片を用いて、自記記録装置付定速伸長形引張試験機を用い、初荷重30gの下で、つかみ間の距離を20cmまたは50cmとなるように試験片を取り付け、1分間当たりつかみ間隔の100%の引張速度で求めた。荷重240g時の伸びの80%まで試験片を伸ばし、次式3を用いてN=3以上の平均値で算出し、次の基準で判定し、○を合格とした。
・伸長回復率(%)={(L10−L11)/L10}×100・・・式3。
(ここで、L10は、1分間当たりつかみ間隔の100%引張り速度で求めた荷重240g時の伸びの80%の伸び(cm)を表し、L11は、5回繰り返し荷重した後の残留の伸び(cm)を表す。)
・伸長回復率65%以上:○
・伸長回復率65%未満:×。
(不織布の染色性)
染色性は、不織布について、染料テラシール ネイビーブルー GRL−C 0.9%owf、分散剤“ニッカサンソルト”(登録商標) #1200 1.0%owfからなる浴比1:15の95℃の温度の熱水溶液中で60分間染色を行い、色差計(スガ試験機製、SMカラーコンピュータ型式SM−3)を用いて色調L値を測定し、次の基準で判定し、○を合格とした。
・色調L値25.0未満:○
・色調L値25.0以上:×。
(染色不織布の表面品位)
染色後の不織布の表面品位を観察、次の基準で判定し、○を合格とした。
・不織布表面にしわなし:○
・不織布表面に凹凸あり:×。
(実施例1)
潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維を、次の方法で製造した。鞘成分を、全ジオール成分に対し側鎖を有する炭素鎖数が3のジオール成分が8モル%で、ポリエチレングリコールの含有量が3質量%で、固有粘度が0.60の常圧分散染料可染性ポリエステル(A)とし、芯成分を、固有粘度が0.55のポリエステル(B)とし、鞘成分と芯成分の複合比率を質量比で(A)/(B)=50/50になるように、吐出孔を400孔有する偏心芯鞘口金を通して紡糸温度280℃で溶融紡糸し、引取速度1200m/分で未延伸糸トウを得た。
次いで、得られた未延伸糸トウをで、90℃の温度の液浴を用いて、3.2倍の延伸倍率で1段延伸を施し、140℃の温度で緊張熱処理し、クリンパーで機械捲縮を付与し、120℃の温度で乾燥後、51mmの長さに切断して、単繊維繊度が2.2dtexで偏心率が20%の短繊維を得た。
上記で得られた短繊維を開繊、カードを用いて繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ加工後、160℃の温度で熱処理を行い、目付け100g/cmとする不織布を得、不織布特性を評価した。また、不織布について、染色評価により、染色性と不織布外観を確認した。
得られた不織布は、伸縮性に優れ、かつ不織布加工後の染色工程において、95℃の温度での分散染料染色が可能であり、しわや着色斑が発生せず均一に着色した高品位の不織布を得ることができた。結果を、表1に示す。
(実施例2)
常圧分散染料可染性ポリエステル(A)の固有粘度を0.75としたこと以外は、実施例1と同じ方法で繊維を製造し、不織布を製造した。得られた不織布は、伸縮性に優れ、かつ不織布加工後の染色工程において、95℃の温度での分散染料染色が可能であり、しわや着色斑が発生せず、均一に着色した高品位の不織布を得ることができた。結果を、表1に示す。
(比較例1)
常圧分散染料可染性ポリエステル(A)のみを、吐出孔を400孔有する丸孔口金を通して紡糸温度280℃で溶融紡糸し、引き取り速度1200m/分で未延伸糸トウを得た。実施例1と同じ方法で繊維を製造し、不織布を製造した。得られた不織布の評価を実施したが、伸縮性が得られなかった。結果を、表1に示す。
(比較例2)
常圧分散染料可染性ポリエステル(A)の全ジオール成分に対し、側鎖を有する炭素鎖数が3のジオール成分を12モル%とし、ポリエチレングリコール含有量を1質量%としたこと以外は、実施例1と同じ方法で繊維を製造し、不織布を製造した。得られた不織布について評価を実施したが、十分な染色性を得ることができなかった。結果を、表1に示す。
(比較例3)
ポリエステル(B)の偏心率を0%としたこと以外は、実施例1と同じ方法で繊維を製造し、不織布を製造した。得られた不織布の評価を実施したが、芯成分のポリエステル(B)が偏心でないため、潜在捲縮特性が得られなかった。結果を、表1に示す。
Figure 2016160543
a:潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の外周の最長距離
b:潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の半径
(A):鞘成分を構成する常圧分散染料可染性ポリエステル
(B):芯成分を構成するポリエステル

Claims (3)

  1. 主たる繰り返し成分がエチレンテレフタレートからなるポリエステルであって、全ジオール成分に対し側鎖を有する炭素鎖数が3のジオール成分が5〜10モル%であり、ポリエチレングリコールの含有量が2〜4質量%である常圧分散染料可染性ポリエステル(A)を鞘成分とし、前記常圧分散染料可染性ポリエステル(A)よりも固有粘度が0.02〜0.25低いポリエステル(B)を芯成分とし、次式で求められる前記ポリエステル(B)の偏心率が5〜50%である潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維。
    ・偏心率%=(a−b)/b×100
    (ここで、aは潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の外周の最長距離を表し、bは潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維の半径を表す。)
  2. 常圧分散染料可染性ポリエステル(A)の固有粘度が0.52〜0.80であり、ポリエステル(B)の固有粘度が0.50〜0.75である請求項1記載の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維。
  3. 鞘成分の常圧分散染料可染性ポリエステル(A)と芯成分のポリエステル(B)の複合比率が、質量比で(A)/(B)=70/30〜30/70である請求項1または2記載の潜在捲縮性易染色ポリエステル偏心芯鞘複合繊維。

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