JP2016160264A - 低毒性ソホロリピッド含有組成物及びその用途 - Google Patents

低毒性ソホロリピッド含有組成物及びその用途 Download PDF

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Hitoshi Ito
仁 伊藤
道陽 荒木
Michiaki Araki
道陽 荒木
善彦 平田
Yoshihiko Hirata
善彦 平田
亜紀子 島田
Akiko Shimada
亜紀子 島田
和拓 木下
Kazuhiro Kinoshita
和拓 木下
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Chie Matsubara
千恵 松原
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瑞之 竜
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Abstract

【課題】低毒性SL含有組成物を提供する。
【解決手段】下記特徴の低毒性SL含有組成物;
(a)SL産生酵母培養物に由来する酸型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を少なくとも含有し、酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量を100質量%とした場合に、それぞれの割合が乾燥重量に換算して下記である
(1)酸型SL:94〜99.99質量%、
(2)ラクトン型SL:0〜2質量%、
(3)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量:0.01〜4質量%;
(b)低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL100質量部に対するラクトン型SLの割合、または脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が、それぞれ0〜2.12質量部または0.01〜4.25質量部、
(c)低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL及びラクトン型SLがいずれもアセチル基を有しない。
【選択図】なし

Description

本発明は、低毒性ソホロリピッド含有組成物及びその用途に関する。
種々の化粧品、医薬品及び飲食品に界面活性剤が多用されているが、界面活性剤の多用によって引き起こされる手荒れや皮膚炎に悩む消費者も増えている。事実、厚生労働省の患者数調査(傷病分類別)によれば、昭和62年から平成11年までアトピー性皮膚炎の患者数は22万4000人から39万9000人に増え、平成23年の時点でも36万9000人もの患者がいるとされている。このことから、日常的に界面活性剤による障害(例えば、肌のかさつき、肌荒れ、ひび割れ、湿疹、髪のパサツキ等)を感じている消費者は潜在的に多いと考えられる。
また、皮膚以外にも咽頭、鼻腔、膣等の粘膜部位、及び創傷部位においては、異物が付着することにより不快感、炎症または化膿が生じることが知られている。このような症状を予防及び改善するためには、これらの部位を洗浄料等を用いて洗浄することによって異物を除去することが有効であるとされている。この場合、界面活性剤等を含む洗浄料を使用することによって、優れた洗浄効果を得ることができる。一方、界面活性剤は、通常皮膚や毛髪に適用されるものであり、眼、咽頭、鼻腔、膣、口腔等の粘膜部位、及び創傷部位に対しては強い刺激があるため、低濃度でなければ、適用部位が赤く腫れたり(紅斑)、また創傷の治癒を阻害したりすることがある。従って、界面活性剤またはこれを含む洗浄料等を粘膜部位や創傷部位に使用することは敬遠されている。
ところで、生物由来の界面活性剤であるバイオサーファクタントは、生分解性及び安全性が高いことから、次世代型界面活性剤として産業利用が期待されている物質である。なかでも糖脂質型バイオサーファクタントの一つであるソホロリピッドは、酵母の発酵から得られる発酵産物であり、従来から安全性が高いことが知られている(特許文献1)。しかしながら、その低刺激の程度はアミノ酸系界面活性剤と同等であり、また非特許文献1によると、キャンディダ・ボンビコーラ(Candida bombicola)ATCC 22214の培養物を酢
酸エチルで抽出した抽出物を、ヘキサンで洗浄して脂肪酸を除去した天然のソホロリピッド混合物を始め、ラクトン型ソホロリピッド、並びにメチルエステル、エチルエステル(モノアセチル型、及びジアセチル型を含む)、及びヘキシルエステル等のエステル型ソホロリピッドは、安全性が高いソホロリピッドのなかでも毒性が比較的高いことが知られている。このため、さらなる低刺激化(低毒性化)が求められる。
特開2009−275145号公報
Shah V, Doncel GF, Seyoum T, Eaton KM, Zalenskaya I, Hagver R, Azim A, Gross R(2005)、Sophorolipids, Microbial Glycolipids with Anti-HumanImmunodeficiency Virus and Sperm-Immobilizing Activities. Antimicrob. Agents Chemother. 49(10), 4093-4100 Karen M.J. Saerens, Lien Saey, Wim Soetaert(2011)One-Step Production of Unacetylated Sophorolipids by an Acetyltransferase Negative Candida bombicola. Biotechnol. Bioeng. 108(12). 2923-2931
本発明は低毒性ソホロリピッド含有組成物を提供することを目的とする。また本発明は、低毒性ソホロリピッド含有組成物の用途を提供することを目的とする。なお、本発明において、「低毒性ソホロリピッド含有組成物」とは、低毒性ソホロリピッドを含有する低毒性の組成物を意味する。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねていたところ、酵母発酵により生成されるソホロリピッド含有組成物に含まれるラクトン型ソホロリピッドに加えて、脂肪酸、及びヒドロキシ脂肪酸、並びに、従来安全性が高いとされている酸型ソホロリピッドに含まれるアセチル基が、それぞれソホロリピッド含有組成物の細胞毒性に少なからず悪影響していることを見出し、これらを除去することで、より低毒性のソホロリピッド含有組成物、特に眼、口腔内、及びそれ以外の粘膜部位(咽喉、鼻腔、耳腔、生殖器、肛門など)、並びに創傷部位に対する刺激性が極めて低いソホロリピッド含有組成物(低刺激性ソホロリピッド含有組成物)が得られることを確認した。
また、本発明者らは、当該低毒性のソホロリピッド含有組成物は、これを皮膚や毛髪に適用した場合につっぱり感やきしみ感といった問題がないばかりか、それ自体に保湿作用、皮膚や毛髪に対する保護作用(皮膚保護作用、毛髪保護作用)、及び毛髪を修復する作用があり、その結果、皮膚に潤いを与えたり、皮膚や毛髪のダメージを予防することができることを見出した。
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。なお、以下、本明細書において「ソホロリピッド」を「SL」と略称する場合がある。具体的には、本発明の「低毒性ソホロリピッド含有組成物」を「低毒性SL含有組成物」とも称する。
(I)低毒性SL含有組成物
(I-1)下記(a)〜(c)の特徴を有する低毒性SL含有組成物;
(a)SL産生酵母培養物に由来する酸型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を少なくとも含有し、酸型SL、ラクトン型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量を100質量%とした場合に、それぞれの割合が乾燥重量に換算して下記である
(1)酸型SL:94〜99.99質量%、
(2)ラクトン型SL:0〜2質量%、
(3)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量:0.01〜4質量%;
(b)低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL100質量部に対するラクトン型SLの割合、または脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が、それぞれ0〜2.12質量部または0.01〜4.25質量部;
(c)低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL及びラクトン型SLがいずれもアセチル基を有しない。
(I-2)酸型SL、ラクトン型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%
あたりに含まれるラクトン型SLの割合、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が、それぞれ下記(i)並びに(ii)のいずれか少なくとも一方を充足する、(I-1)記載の低毒性SL含有組成物:
(i)ラクトン型SL:好ましくは0より多く2質量%以下、より好ましくは0.1〜2
質量%、さらに好ましくは0.1〜1.5質量%、特に好ましくは0.8〜1.5質量%、
(ii)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量):好ましくは0.01〜2.4質量%、より
好ましくは0.01〜1.2質量%、さらに好ましくは0.01〜0.24質量%。
(I-3)酸型SL、ラクトン型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%
あたりに含まれる酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が下記である、(I-1)に記載する低毒性SL含有組成物:
(i)酸型SL:好ましくは96.1質量%以上、より好ましくは97.9質量%以上、
さらに好ましくは99.31質量%以上、
(ii)ラクトン型SL:好ましくは0より多く2質量%以下、より好ましくは0.1〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1.5質量%以下、特に好ましくは0.8〜1.5質量%、
(iii)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量):好ましくは0.01〜2.4質量%、よ
り好ましくは0.01〜1.2質量%、さらに好ましくは0.01〜0.24質量%。
(I-4)酸型SL及びラクトン型SLの総量100質量%あたり、酸型SLの割合が9
8〜100質量%、好ましくは98.5〜100質量%、より好ましくは99〜100質量%、さらに好ましくは99.5〜100質量%であり、ラクトン型SLの割合が0〜2質量%、好ましくは0〜1.5質量%、より好ましくは0〜1質量%、(I-1)〜(I-3)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物。
(I-5)エタノール可溶分が10質量%になるように低毒性SL含有組成物を溶解した
水溶液の波長440nmにおける吸光度(色相:OD440)が0.001〜1、好ましくは
0.005〜0.8、より好ましくは0.01〜0.6、特に好ましくは0.01〜0.5、さらに特に好ましくは0.4以下である、(I-1)〜(I-4)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物。
(I-6)エタノール可溶分1g相当物のエステル価が0.01〜2mgKOH/g、好
ましくは0.01〜1.5mgKOH/g、より好ましくは0.1〜1.5mgKOH/g、特に好ましくは0.8〜1.5mgKOH/gである、(I-1)〜(I-5)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物。
(I-7)エタノール可溶分1g相当物の水酸基価がは545〜630mgKOH/g、
好ましくは560〜630mgKOH/g、より好ましくは575〜630mgKOH/g、特に好ましくは575〜585mgKOH/gである、(I-1)〜(I-6)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物。
(I-8)HeLa細胞に対する細胞致死濃度(IC50)が2000ppm以上、好ましくは3
000〜60000ppmであることを特徴とする、(I-1)〜(I-7)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物。
(I-9)HeLa細胞に対する細胞致死濃度(IC50)と臨界ミセル濃度(CMC)との比(IC50/CMC)が6.7〜200、好ましくは10〜200、より好ましくは17〜200、特に
好ましくは33〜200であることを特徴とする、(I-1)〜(I-8)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物。
(I-10)下記(a)〜(c)のいずれか少なくとも1つの物性を有することを特徴とする(I-1)〜(I-9)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物:
(a)蒸発残分:1〜100%、
(b)乾燥減量:0〜99%、
(c)エタノール可溶分:1〜100%。
(I-11)赤外吸収スペクトルにおいて、少なくとも波数1024cm−1付近、1706〜1730cm−1付近、2854cm−1付近、2924cm−1付近、および3000〜3500cm−1付近に赤外線吸収バンドを有する、(I-1)〜(I-10)のいずれ
かに記載する低毒性SL含有組成物。
(I-12)固体形状を有することを特徴とする、(I-1)〜(I-11)のいずれかに記載す
る低毒性SL含有組成物。
(I-13)固体形状が粉末または顆粒である、(I-12)に記載する低毒性SL含有組成物。
(II)低毒性SL含有組成物の用途
(II-1)(I-1)〜(I-13)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物を有効成分と
するアニオン性界面活性剤。
(II-2)(I-1)〜(I-13)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物を有効成分と
する、皮膚保湿剤、肌荒れ改善剤、皮膚保護剤、または毛髪保護剤。
(II-3)(I-1)〜(I-13)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物を含有するこ
とを特徴とする香粧品、医薬部外品、医薬品、医療機器若しくは日常雑貨品;または香粧品用、医薬部外品用、医薬品用、医療機器用若しくは日常雑貨品用の添加剤。
(II-4)皮膚、毛髪、粘膜、または創傷部(傷口または炎症部など)に適用されるものである、(II-3)に記載する香粧品、医薬部外品、医薬品、医療機器若しくは日常雑貨品;または香粧品用、医薬部外品用、医薬品用、医療機器用若しくは日常雑貨品用の添加剤。
(II-5)上記香粧品、医薬部外品、医薬品、医療機器若しくは日常雑貨品が、身体洗浄料、毛髪洗浄剤、洗眼料、点眼剤、化粧料、口腔洗浄料、粘膜または創傷部洗浄料、及び創傷被覆材よりなる群から選択される少なくとも1つである、(II-3)または(II-4)に記載する香粧品、医薬部外品、医薬品、医療機器、若しくは日常雑貨品またはこれらの添加物。
(II-6)(I-1)〜(I-13)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物を下記の割合
で含有するものである、(II-5)記載の香粧品、医薬部外品、医薬品、医療機器若しくは日常雑貨品またはこれらの添加物:
身体洗浄料:0.01〜100質量%、
毛髪洗浄剤:0.01〜30質量%、
洗眼料:0.001〜10質量%、
点眼剤:0.001〜10質量%、
化粧料:0.01〜20質量%、
口腔洗浄料:0.001〜10質量%、
粘膜または創傷部洗浄料:0.001〜30質量%、
創傷被覆材:0.001〜30質量%。
また本発明には上記の低毒性SL含有組成物の製造方法、及びSL含有組成物の低毒性化方法が含まれる。
(III)低毒性SL含有組成物の製造方法
(III-1)SL産生酵母を培養することによって得られるSL含有培養物またはその処
理物を、(1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程、及び
必要に応じて、さらに
(2)SLに結合したアセチル基を脱離する工程、又は/及び
(3)ラクトン型SLを除去する工程に供することを特徴とする、(I-1)〜(I-13)の
いずれかに記載する低毒性SL含有組成物の製造方法。
(III-2)(1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程が、溶剤抽出法、吸着法、及びクロマトグラフィーから選択される少なくとも一つの処理である、(III-1)
に記載する製造方法。
(III-3)溶剤抽出法がジエチルエーテルを溶剤とする抽出法であり;吸着法が吸着剤
として活性炭、シリカゲル、ゼオライト、イオン交換樹脂及び酸化アルミナを用いた方法であり;クロマトグラフィーが固定相としてODS樹脂、移動相としてエタノール水溶液を用いた逆相カラムクロマトグラフィーである(III-2)に記載する製造方法。
(III-4)(2)SLに結合したアセチル基を脱離する工程が、加水分解処理、及び酵素処理から選択される少なくとも一つの処理である、(III-1)〜(III-3)のいずれかに記載する製造方法。
(III-5)酵素処理がアセチルエステラーゼを用いた処理である、(III-4)に記載する製造方法。
(III-6)(3)ラクトン型SLを除去する工程が、加水分解処理、及びクロマトグラフィーから選択される少なくとも一つの処理である、(III-1)〜(III-5)のいずれかに記載する製造方法。
(III-7)クロマトグラフィーが固定相としてODS樹脂、移動相としてエタノール水
溶液を用いた逆相カラムクロマトグラフィーである(III-6)に記載する製造方法。
(IV)SL含有組成物の低毒化方法
(IV-1)SL産生酵母を培養することによって得られるSL含有培養物またはその処理物を(1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程、及び
必要に応じて
(2)SLに結合したアセチル基を脱離する工程、又は/及び
(3)ラクトン型SLを除去する工程を有する方法に供し、下記(a)〜(c)の特徴を有する低毒化SL含有組成物を調製することを特徴とする、SL含有組成物の低毒化方法:
(a)低毒化SL含有組成物に含まれる酸型SL、ラクトン型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量を100質量%とした場合に、それぞれの割合が乾燥重量に換算して下記の範囲にある
(1)酸型SL:94〜99.99質量%、
(2)ラクトン型SL:0〜2質量%、
(3)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量:0.01〜4質量%;
(b)低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL100質量部に対するラクトン型SL、または脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合がそれぞれ0〜0.212または0.01〜4.25質量部;
(c)低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL及びラクトン型SLがいずれもアセチル基を有しない。
(IV-2)酸型SL、ラクトン型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%
あたりに含まれるラクトン型SLの割合、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が、それぞれ下記(i)並びに(ii)のいずれか少なくとも一方の範囲にある低毒化
SL含有組成物を調製することを特徴とする、(IV-1)に記載する低毒化方法:
ラクトン型SL:好ましくは0より多く2質量%以下、より好ましくは0.1〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1.5質量%、特に好ましくは0.8〜1.5質量%、
脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量):好ましくは0.01〜2.4質量%、より好ましくは0.01〜1.2質量%、さらに好ましくは0.01〜0.24質量%。
(IV-3)酸型SL、ラクトン型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%あたりに含まれる酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が下記の範囲にある低毒化SL含有組成物を調製することを特徴とする、(IV-1)に記載する低毒化方法:
(a)酸型SL:好ましくは96.1質量%以上、より好ましくは97.9質量%以上、
さらに好ましくは99.31質量%以上、
(b)ラクトン型SL:好ましくは0より多く2質量%以下、より好ましくは0.1〜2
質量%、さらに好ましくは0.1〜1.5質量%、特に好ましくは0.8〜1.5質量%、
(c)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸:好ましくは0.01〜2.4質量%、より好ましく
は0.01〜1.2質量%、さらに好ましくは0.01〜0.24質量%。
(IV-4)酸型SL及びラクトン型SLの総量100質量%あたり、酸型SLの割合が98〜100質量%、好ましくは98.5〜100質量%、より好ましくは99〜100質量%、特に好ましくは99.5〜100質量%であり、ラクトン型SLの割合が0〜2質量%、好ましくは0〜1.5質量%、より好ましくは0〜1質量%である低毒化SL含有組成物を調製することを特徴とする、(IV-1)〜(IV-3)のいずれかに記載する低毒化方法。
(IV-5)エタノール可溶分1g相当物のエステル価が0.01〜2mgKOH/g、好ましくは0.01〜1.5mgKOH/g、より好ましくは0.1〜1。5mgKOH/g、特に好ましくは0.8〜1.5mgKOH/gである低毒化SL含有組成物を調製することを特徴とする、(IV-1)〜(IV-4)のいずれかに記載する低毒化方法。
(IV-6)エタノール可溶分1g相当物の水酸基価が545〜630mgKOH/g、好ましくは560〜630mgKOH/g、より好ましくは575〜630mgKOH/g、特に好ましくは575〜585mgKOH/gである低毒化SL含有組成物を調製することを特徴とする、(IV-1)〜(IV-5)のいずれかに記載する低毒化方法。
(IV-7)(1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程が、溶剤抽出法、吸
着法、及びクロマトグラフィーから選択される少なくとも一つの処理である、(IV-1)〜(IV-6)のいずれかに記載する低毒化方法。
(IV-8)溶剤抽出法がジエチルエーテルを溶剤とする抽出法であり;吸着法が吸着剤として活性炭、シリカゲル、ゼオライト、イオン交換樹脂及び酸化アルミナを用いた方法であり;クロマトグラフィーが固定相としてODS樹脂、移動相としてエタノール水溶液を用いた逆相カラムクロマトグラフィーである(IV-7)に記載する低毒化方法。
(IV-9)(2)SLに結合したアセチル基を脱離する工程が、加水分解処理、及び酵素
処理から選択される少なくとも一つの処理である、(IV-7)〜(IV-8)のいずれかに記載する低毒化方法。
(IV-10)酵素処理がアセチルエステラーゼを用いた処理である、(IV-9)に記載する
低毒化方法。
(IV-11)(3)ラクトン型SLを除去する工程が、加水分解処理、及びクロマトグラフィーから選択される少なくとも一つの処理である、(IV-7)〜(IV-10)のいずれかに記
載する低毒化方法。
(IV-12)クロマトグラフィーが固定相としてODS樹脂、移動相としてエタノール水
溶液を用いた逆相カラムクロマトグラフィーである(IV-11)に記載する低毒化方法。
本発明によれば細胞毒性の低いSL含有組成物を提供することができる。当該低毒性SL含有組成物は、界面活性作用を有するとともに、細胞毒性、並びに粘膜や創傷部位に対する刺激性が極めて少ないため(低毒性、低刺激性)、皮膚、眼粘膜、口腔粘膜、及びそれ以外の粘膜部位(咽喉、鼻腔、耳腔、生殖器、肛門など)、並びに創傷部位(傷口及び炎症部等)に適用される化粧品、医薬品、医薬部外品、及び医療機器等に好適に配合することができる。具体的には、眼粘膜に適用される点眼薬、洗眼液およびコンタクトレンズ用装着液などのアイケア製品、口腔粘膜に適用される口腔用製剤、並びに鼻粘膜に適用される点鼻薬等の鼻腔用製剤などに好適に配合することができる。
このため、当該本発明の低毒性(低刺激性)SL含有組成物を含有する化粧品、医薬品および医薬部外品は、皮膚のみならず、眼粘膜、口腔粘膜、及びそれ以外の粘膜部位(咽喉、鼻腔、耳腔、生殖器、肛門など)、並びに創傷部位(傷口及び炎症部等)に好適に使用することができる。
また本発明の低毒性(低刺激性)SL含有組成物は保湿作用、皮膚や毛髪に対する保護作用、並びに皮膚バリア機能改善作用を有しているため、上記粘膜部位や創傷部位だけでなく、皮膚や毛髪を保護したあり潤いを与えるために好適に使用することができる。
参考製造例2及び実施例1〜10で得られたSL含有組成物(粗精製SL含有組成物−2,実施例品1〜10)、Tween 20、および市販アニオン界面活性剤A〜C(A:「アミノソフトLT-12」(30%):味の素(株)製、B:「サーファクチンNa」(100%):和光純薬工業(株)製、C:「リポランLJ-441」(37%):ライオン(株)製))、SLSについて、細胞毒性試験から算出した細胞致死濃度(IC50)と試験例2で算出したCMCをプロットしたグラフを示す。 ヒトの上腕部をSDSで処理して作成した肌荒れの回復効果を示した図である。 (A)健常毛に対する毛髪保護効果を示した図である。(B)損傷毛に対する毛髪修復効果を示した図である。
(I)一般的なソホロリピッド(公知SL)
ソホロリピッド(SL)は、一般的にソホロース又はヒドロキシル基が一部アセチル化したソホロースと、ヒドロキシ脂肪酸とからなる糖脂質である。なお、ソホロースとは、β1→2結合した2分子のブドウ糖からなる糖である。ヒドロキシ脂肪酸とは、ヒドロキシル基を有する脂肪酸である。また、SLは、ヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基が遊離した酸型(下記一般式(1))と、分子内のソホロースが結合したラクトン型(下記一般式(2))とに大別される。ある種の酵母(SL産生酵母)の発酵によって得られるSLは、通常、下記一般式(1)で示されるSLと一般式(2)で示されるSLの混合物であ
り、脂肪酸鎖長(R)が異なるもの、ソホロースの6’(R)及び6”位(R)がアセチル化あるいはプロトン化されたものなど、30種以上の構造同族体の集合体として得られる。
Figure 2016160264
Figure 2016160264
前記一般式(1)又は(2)において、Rは水素原子あるいはメチル基のいずれかである。R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又はアセチル基である。Rは飽和脂肪族炭化水素鎖、又は二重結合を少なくとも一個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖であり、一以上の置換基を有していても良い。該置換基は、例えば、ハロゲン原子、水酸基、低級(C1〜6)アルキル基、ハロ低級(C1〜6)アルキル基、ヒドロキシ低級(C1〜6)アルキル基、ハロ低級(C1〜6)アルコキシ基等が挙げられる。また、Rの炭化水素鎖の炭素数は、通常11〜20、好ましくは13〜17、より好ましくは14〜16である。ここでハロゲン原子またはアルキル基やアルコキシ基に結合するハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
SL産生酵母の発酵により得られる培養液には、SLが、通常、前記一般式(1)で示される酸型SLと前記一般式(2)で示されるラクトン型SLとの混合物として存在している。当該培養液中に含まれる酸型SLとラクトン型SLとの割合は、通常45:55〜10:90(乾燥重量比)を挙げることができる。
SL産生酵母としては、キャンディダ・ボンビコーラ(Candida bombicola)を好適に
挙げることができる。なお、キャンディダ属は、現在スタメレラ(Starmerella)属とい
う名称に変更されている。当該酵母は、SL(酸型、ラクトン型)を著量生産することが知られている公知のSL産生酵母である〔Canadian Journal of Chemistry, 39,846(1961)(注:当該文献に記載されているトルロプシス属は、キャンディダ属に該当するが、上
記するように、現在スタメレラ(Starmerella)属に分類されている。)、Applied and Environmental Microbiology, 47,173(1984)など]。なお、キャンディダ(スタメレラ)
・ボンビコーラは生物資源バンクであるATCC(American Type Culture Collection)に登録されており、そこから入手することができる(Candida bombicola ATCC22214など)
。また、本発明の低毒性SL含有組成物の製造には、SL(酸型、ラクトン型)を産生することが知られているキャンディダ属(スタメレラ属)に属する他のSL産生酵母を使用することもできる。かかるSL産生酵母として、例えばキャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)、キャンディダ・グロペンギッセリ(Candida gropengisseri)、及びキャンディダ・アピコーラ(Candida apicola)、キャンディダ・ペトロフィラム(Candida
petrophilum)、キャンディダ・ボゴリエンシス(Candida bogoriensis)、キャンディ
ダ・バチスタエ(Candida batistae)を挙げることができる。なお、これらの酵母の培養液中にSLが比較的多量に生産されることは既に報告されている(R. Hommel, Biodegradation, 1, 107(1991))。
またキャンディダ・フロリコーラ(Candida floricola)ZM−1502株(FERM
P−21133)及びキャンディダ・フロリコーラ(Candida floricola)NBRC1
0700T株は、ジアセチル基を有する酸型SLのみを選択的に生産するSL産生酵母であることが知られている(特開2008−247845号公報)。従って、酸型SLを選択的に製造する場合は、当該SL産生酵母を好適に使用することができる。但し、前述するように当該酸型SLはジアセチル基を有するため、後述する本発明の低毒性SL含有組成物を得るためには脱アセチル化処理が必要である。
これらのSL産生酵母の培養には、炭素源としてグルコース等の糖類(親水性基質)、並びに脂肪酸、脂肪酸トリグリセリド等の脂肪酸エステル類、または脂肪酸を構成成分として含む植物油等の油脂類(疎水性基質)を含有する培地が用いられる。培地のその他の成分は、特に制限はなく、酵母に対して一般に用いられる培地成分から適宜選定することができる。
(II)低毒性SL含有組成物
本発明が対象とする低毒性SL含有組成物は、前述する従来公知のSL組成物とは、少なくとも細胞毒性(細胞刺激性)及び皮膚保湿作用の点で相違し、下記の特徴を備えている。
(a)SL産生酵母培養物に由来する酸型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を少なくとも含有し、酸型SL、ラクトン型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量を100質量%とした場合に、それぞれの割合が乾燥重量に換算して下記である;
(1)酸型SL:94〜99.99質量%、
(2)ラクトン型SL:0〜2質量%、
(3)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量:0.01〜4質量%、
(b)低毒性SL産生酵母培養物に含まれる酸型SL100質量部に対するラクトン型SLの割合、または脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合がそれぞれ0〜2.12または0.01〜4.25質量部である、
(c)低毒性SL産生酵母培養物に含まれる酸型SL及びラクトン型SLはいずれもアセチル基を有しない。
以下、これらについて説明する。
(a)(1)酸型SLを乾燥物換算で94〜99.99質量%の割合で含有する
これは低毒性SL含有組成物中の酸型SL、ラクトン型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%中に含まれる酸型SLの割合(乾燥物重量)である。これは、低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれる酸型SLの割合に相当する。従って、低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれる酸型SLの割合は94〜99.99質量%であるということができる。当該酸型SLの割合と
して、好ましくは96.1質量%以上、より好ましくは97.9質量%以上、特に好ましくは99.31質量%以上である。
なお、本発明の低毒性SL含有組成物には、酸型SLを95〜99.86質量%の割合で含む低毒性SL含有組成物が含まれるが(実施例1〜10)、これらは本発明の一態様であり、これらに限定されるものではない。
当該酸型SLの割合は、低毒性SL含有組成物のエステル価及びエーテル抽出物含量から算出することができる。後述するように、本発明において「エステル価」及び「エーテル抽出物含量」は、それぞれ低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%中に含まれる「ラクトン型SL」の割合及び「脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸」の割合に相当する。従って、100からこれら「エステル価」及び「エーテル抽出物含量」の総和を引いた値が、低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SLの割合(質量%)に相当することになる。
(a)(2)ラクトン型SLを乾燥物換算で0〜2質量%の割合で含有する
これは低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL、ラクトン型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%中に含まれるラクトン型SLの割合(乾燥物重量)である。これは、低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれるラクトン型SLの割合に相当する。従って、低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれるラクトン型SLの割合は0〜2質量%であるということができる。当該ラクトン型SLの割合は、少ないほうが毒性の低いSL含有組成物を取得するうえで好ましいが、0より多く2質量%以下の範囲で或る程度含まれているほうが表面張力低下能が良好であり、界面活性剤としての性能(濡れ性、可溶化力、洗浄力、起泡性)に優れる(試験例5参照)。
このため、低毒性を主眼とした場合の、低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれるラクトン型SLの割合(上限、下限)は、以下の通りである:
上限:好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは0.9質量%以下、さらに好ましくは0.45質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下、
下限:好ましくは0質量%。なお、SL産生酵母としてラクトン型SLを産生する酵母を使用する場合には0.01質量%を挙げることができる。
一方、界面活性剤としての性能(濡れ性、可溶化力、洗浄力、起泡性)(以下、これらを総称して「界面活性能」という)を良好に保有しながらも、低毒性に優れる低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれるラクトン型SLの割合(上限、下限)は、以下の通りである:
上限:好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、
下限:好ましくは0質量%より多く、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上。
なお、本発明の低毒性SL含有組成物には、ラクトン型SLを0.04〜2.0質量%の割合で含む低毒性SL含有組成物が含まれる(実施例1〜10)。但し、これらは本発明の一態様であり、これらに限定されるものではない。
当該ラクトン型SLの割合は、低毒性SL含有組成物のエステル価(mg KOH/g)から求めることができる。
具体的には、本発明でいう「エステル価(mg KOH/g)」とは、エタノール可溶分1gに相当する試料(低毒性SL含有組成物)に含まれるエステルを完全けん化するのに要する
水酸化カリウムのmg数であり、これにより当該試料(低毒性SL含有組成物)に含まれるラクトン環のエステル結合の割合を把握することができる。当該エステル価(mg KOH/g)は、SL含有組成物中に含まれるSLの総量(100質量%)に占めるラクトン型SLの
割合と相関しており、当該エステル価からエタノール可溶分100質量%中に占めるラクトン型SLの割合を算出することができる。
ここでエタノール可溶分は、実質的にはSL含有組成物に含まれる酸型SL、ラクトン型SL並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量に相当するため、上記エステル価を求めることで、酸型SL、ラクトン型SL並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%中に含まれる酸型SLの算出することができる。
当該「エステル価(mg KOH/g)」は、日本油化学協会(日本)が定めている基準油脂分析試験法(2.3.3-1996)に従って測定することができる。その詳細は、試験例1で説明する通りである。本発明の低毒性SL含有組成物のエステル価(mg KOH/g)は通常0〜2mgKOH/gである。低毒化という点からは、好ましくは0〜1.5mgKOH/g、より好ましくは0.01〜0.9mgKOH/g、特に好ましくは0〜0.45mgKOH/gである。一方、界面活性剤としての性能(濡れ性、可溶化力、洗浄力、起泡性)を良好に保有しながら低毒化を達成する目的からは、好ましくは0より多く(例えば、0.01mgKOH/g)2mgKOH/g以下、より好ましくは0.1〜2mgKOH/g、さらに好ましくは0.1〜1.5mgKOH/g、特に好ましくは0.8〜1.5mgKOH/gである。
なお、低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SLとラクトン型SLの総量を100質量%とした場合、これに含まれる酸型SLとラクトン型SLの割合(酸型SL:ラクトン型SL、重量比)としては、98:2〜100:0、好ましくは98.5:1.5〜100:0、より好ましくは99:1〜100:0である。なお、SL産生酵母としてラクトン型SLを産生する酵母を使用する場合、酸型SLが100質量%にならない場合もあり、この場合は酸型SLとラクトン型SLの割合(重量比)が99.99:0.01であってもよい。
(a)(3)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を乾燥物換算で総量0.01〜4質量%の割
合で含有する
これは低毒性SL含有組成物の酸型SL、ラクトン型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%中に含まれる脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の割合(乾燥物重量)である。これは、低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれる脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の合計の割合に相当する。従って、低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれる脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の合計の割合は0.01〜4質量%であるということができる。
ここで対象とする脂肪酸は、SL産生酵母の培養に使用する培地に含まれる脂肪酸であって、実施例で説明するエーテル抽出物含量の測定方法により当該エーテル抽出物として算出される脂肪酸である。具体的には、炭素数6〜24の飽和または不飽和脂肪酸である。より具体的にはカプロン酸(C6)、エナント酸(C7)、カプリル酸(C8)、ペラルゴン酸(C9)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデシル酸(C15)、パルミチン酸(C16)、マルガリン酸(C17)、ステアリン酸(C18)、およびアラキ
ジン酸(C20)、ドコサン酸(C22)、リグノセリン酸(C24)などの飽和脂肪酸;パルミトレ
イン酸(C16:1)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、およびリノレン酸(C18:3)、アラキドン酸(C20:4)、エイコサペンタエン酸(C20:5)、ドコサヘキエン酸(C22:6)などの不飽和脂肪酸が挙げられる。
またここで対象とするヒドロキシ脂肪酸としては、上記の脂肪酸において少なくとも1つの水素原子がヒドロキシ基で置換されてなる脂肪酸を挙げることができる。
当該脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合は、上限として好ましくは2.4質量%以下、より好ましくは1.2質量%以下、特に好ましくは0.24質量%以下である。また下限としては好適には0.01質量%を挙げることができる。脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の量はできるだけ少ないほうが毒性の低いSL含有組成物を取得するうえで望ましいものの、本発明においては0.01〜4質量%の範囲で或る程度含まれているほうが、酸型SLの界面活性能が維持されるという利点がある。拘束されるものではないが、その理由として、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸が被験試料中で一種のキレート効果を発揮することが挙げられる。具体的には、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸のキレート作用により、被験試料中に含まれるK、Na、Ca及びMg等の金属イオンが補足される結果、当該金属イオンと酸型SLとの塩形成が抑制されて、酸型SLの界面活性剤としての効果が維持されるものと考えられる。なお、本発明の低毒性SL含有組成物には、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を総量で0.1〜4質量%の割合で含む低毒性SL含有組成物が含まれる(実施例1〜10)。但し、これらは本発明の一態様であり、これらに限定されるものではない。
なお、本発明の低毒性SL含有組成物に含まれる脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の中で主流をなすものは炭素数16及び18の飽和及び不飽和脂肪酸である。具体的には低毒性SL含有組成物に含まれる主な脂肪酸は、炭素数16の飽和脂肪酸及び炭素数18の二重結合が1または2の不飽和脂肪酸である。また、低毒性SL含有組成物に含まれる主なヒドロキシ脂肪酸は、炭素数16の飽和脂肪酸及び炭素数18の二重結合が1または2の不飽和脂肪酸である(試験例1、表2参照)。このため、上記脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合は、実質的にこれら炭素数16及び18の脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合であるということもできる。
当該脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の割合は、低毒性SL含有組成物のエーテル抽出物含量(%)から求めることができる。
具体的には、本発明でいう「エーテル抽出物含量(%)」とは、エタノール可溶分1gに相当する試料(低毒性SL含有組成物)からエーテルを用いて抽出される物質の割合(質量%)であり、これにより当該試料(低毒性SL含有組成物)に含まれる脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の割合を把握することができる。つまり、当該「エーテル抽出物含量(%)」はエタノール可溶分100質量%に占める脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の割合と相関しているため、当該「エーテル抽出物含量(%)」からエタノール可溶分100質量%に占める当該脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の割合を算出することができる。前述するように、エタノール可溶分は、実質的にはSL含有組成物に含まれる酸型SL、ラクトン型SL並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量に相当するため、上記「エーテル抽出物含量(%)」を求めることで、酸型SL、ラクトン型SL並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%中に含まれる脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の量を算出することができる。
当該「エーテル抽出物含量(%)」の測定方法の詳細は、試験例1で説明する通りである。本発明の低毒性SL含有組成物の「エーテル抽出物含量(%)」は、通常0.01〜4質量%、好ましくは0.01〜2.4質量%、より好ましくは0.01〜1.2質量%、特に好ましくは0.01〜0.24質量%である。とりわけ、0.1〜4質量%の範囲を例示することができる。
(b−1)低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL100質量部に対するラクトン型
SLの割合が0〜2.12質量部
当該割合は、低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL及びラクトン型SLの含有量から容易に算出することができる。当該割合は、好ましくは0.01〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1.0質量部である。
(b−2)低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL100質量部に対する脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が0.01〜4.25質量部
当該割合は、低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の含有量から容易に算出することができる。当該割合は、好ましくは0.05〜2.5質量部、より好ましくは0.1〜1.0質量部である。
(c)低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL及びラクトン型SLはいずれもアセチル基を有しない
アセチル基を有するSLは、アセチル基を有しないSLに比べて細胞毒性が高い。このことからSLのアセチル基は、酸型SL及びラクトン型SLのいずれも細胞毒性に関係しているものと考えられる。これに対して本発明の低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL及びラクトン型SLはいずれもアセチル基を有しないことを特徴とする。
SL含有組成物に含まれるアセチル基の割合は、SL含有組成物のエタノール可溶分1g相当物の水酸基価から求めることができる。本発明の低毒性SL含有組成物はアセチル基を有しないものである。このため水酸基価はこれを反映するものであればよい。低毒性SL含有組成物の水酸基価(7個分)は、理論上630mgKOH/Lになるものの、実際は反応効率(約90%)を考慮して、通常545〜630mgKOH/Lを挙げることができる。つまり、SL含有組成物のエタノール可溶分1g相当物の水酸基価が545〜630mgKOH/gである場合に、当該SL含有組成物に含まれるSLはアセチル基を有しないと判断することができる。
本発明でいう「水酸基価(mg KOH/g)」とは、エタノール可溶分1gに相当する試料(低毒性SL含有組成物)に含まれる化合物のOH基を完全にアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数であり、これにより当該試料(低毒性SL含有組成物)に含まれるSL中のフリーの水酸基の割合を測定することができる。水酸基価(mg KOH/g)が高ければSL中に含まれるフリーの水酸基の割合が多く(つまりアセチル化されている水酸基が少ない=アセチル基が少ない)、水酸基価(mg KOH/g)が低ければSL中に含まれるフリーの水酸基の割合が低い(つまりアセチル化されている水酸基が多い=アセチル基が多い)という関係にある。
当該「水酸基価(mg KOH/g)」は、日本油化学協会(日本)が定めている基準油脂分析試験法(2.3.6.2-1996)に従って測定することができる。その詳細は、試験例1で説明する通りである。本発明の低毒性SL含有組成物の「水酸基価(mg KOH/g)」は、エタノール可溶分1g相当の試料について、前述するように545〜630mgKOH/gであることが望ましい。好ましくは560〜630mgKOH/g、より好ましくは575〜630mgKOH/gである。なお、本発明の低毒性SL含有組成物には、水酸基価が575〜585mgKOH/gである低毒性SL含有組成物が含まれるが(実施例1〜10)、これらは本発明の一態様であり、これらに限定されるものではない
本発明が対象とする低毒性SL含有組成物には、前述する(a)(1)〜(3)、(b)及び(c)の特性に加えて、さらに下記の(d)〜(h)の少なくとも1つの特性を備えるものが含まれる。
(d)エタノール可溶分が10質量%になるように低毒性SL含有組成物を溶解した水溶液の吸光度(OD 440 )が0.001〜1である
本発明が対象とする低毒性SL含有組成物は白色以外の色に着色しているものが含まれる。
酸型SL、ラクトン型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸はいずれも無色または白色を呈することから、低毒性SL含有組成物が着色している場合、当該着色は、酸型SL、ラクトン型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸以外に着色成分を含むことを意味する。なお、着色成分はSL産生酵母の培養物に由来するものであり、この限りにおいて特に制限されるものではない。可能性の一例を挙げるとメラノイジンを例示することができるが、これに拘束されることはない。
なお、本発明の低毒性SL含有組成物の着色程度は、具体的には、低毒性SL含有組成物をアルカリ溶液(2% Na2CO3in 0.1N NaOH)に溶解し、エタノール可溶分の総濃度が10質量%になるように調製した水溶液の波長440nmにおける吸光度(色相:OD440
を測定することで評価することができる。本発明の低毒性SL含有組成物を上記のように調製した場合、その水溶液の色相(OD440)は0.001〜1の範囲にある。好ましくは
0.005〜0.8、より好ましくは0.01〜0.6、特に好ましくは0.01〜0.5である。なお、本発明の低毒性SL含有組成物には、色相(OD440)が0.1〜0.4
である低毒性SL含有組成物が含まれる(実施例1〜7)。但し、これらは本発明の一態様であり、これらに限定されるものではない。
(e)蒸発残分:1〜100%
ここで「蒸発残分(%)」とは、試験例1で説明するように、試料を蒸発させた時の残分を質量百分率(質量%)で示したものであり、これにより試料中、本発明では低毒性SL含有組成物中に混在する物、特に高沸点の混在物の含量を把握することができる。当該「蒸発残分(%)」は、JIS K0067−1992の第2法に従って測定することができる。その詳細は、試験例1で説明する通りである。本発明の低毒性SL含有組成物の蒸発残分(%)は1〜100%であり、好ましくは5〜100%、より好ましくは10〜100%の範囲にあればよいが、さらに好ましくは60〜100%、さらにより好ましくは70〜100%、特に好ましくは80〜100%、より特に好ましくは90〜100%である。
(f)乾燥減量:0〜99%
「乾燥減量(%)」とは、試験例1で説明するように試料を乾燥した時の減量を質量百分率(質量%)で示したものであり、これにより試料中、本発明では低毒性SL含有組成物中の水分その他の揮発性物質(低沸点化合物)の含量を把握することができる。当該「乾燥減量(%)」は、JIS K0067−1992の第1法に従って測定することができる。その詳細は、試験例1で説明する通りである。本発明の低毒性SL含有組成物の乾燥減量(%)は0〜99%であり、好ましくは0〜95%、より好ましくは0〜90%の範囲にあればよいが、さらに好ましくは0〜30%、さらにより好ましくは0〜20%、特に好ましくは0〜20%、より特に好ましくは0〜10%である。
(g)エタノール可溶分:1〜100%
「エタノール可溶分(%)」とは、試験例1で説明するように、試料中に含まれるエタノールに溶解する物質の含量(質量%)であり、これにより試料中に混在するエタノール溶解性の極性物質、例えば界面活性剤等の含量を把握することができる。当該「エタノール可溶分(%)」は、JIS K3362−2008に従って測定することができる。その詳細は、試験例1で説明する通りである。本発明の低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分(%)は1〜100%であり、好ましくは5〜100%、より好ましくは10〜100%の範囲にあればよいが、さらに好ましくは85〜100%、さらにより好ましくは90〜100%、特に好ましくは95〜100%、より特に好ましくは98〜100%で
ある。エタノール可溶分(%)は、対象の試料、本発明においては低毒性SL含有組成物を100質量%とした場合の酸型SLおよびラクトン型SL、脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸の含有割合(質量%)を示す。
(h)赤外吸収スペクトル
本発明の低毒性SL含有組成物は、より好ましくは赤外吸収スペクトルが、少なくとも波数1024cm−1付近、1706〜1730cm−1付近、2854cm−1付近、2924cm−1付近、および3000〜3500cm−1付近に赤外線吸収バンド(吸収ピーク)を有する。
本発明の低毒性SL含有組成物はその形状を特に制限せず、液状であっても、乳液状であっても、また固体形状であってもよい。好ましくは固体形状であり、かかる固体形状には、錠剤形態、丸剤形態、粉末形態、顆粒形態、カプセル形態を挙げることができる。好ましくは粉末形態または顆粒形態であり、より好ましくは粉末形態である。
本発明の低毒性SL含有組成物は、界面活性作用を有しながらも、その製造過程で生じるSL産生酵母発酵副産物のうち、細胞毒性を示す成分が選択的に除去され、それらの混入が少ないことを特徴とする。細胞毒性を示す成分としては、例えばラクトン型SL;炭素数16及び18の脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸;及びアセチル基を有するSL等を挙げることができるが、これらに制限されることはない。
本発明の低毒性SL含有組成物の毒性は、例えばHela細胞(ヒト子宮頸部上皮癌由来細胞)を用いた細胞毒性試験から算出される細胞致死濃度(IC50)で評価することができる。ただし、界面活性作用との両面から低毒性SL含有組成物の作用効果を評価するうえでは、低毒性SL含有組成物の「細胞致死濃度(IC50)」を低毒性SL含有組成物の「臨界ミセル濃度(CMC)」で除算した値(IC50/CMC)を求めることが好ましい。
Hela細胞を用いた細胞毒性試験及びそれから細胞致死濃度(IC50)を算出する方法、及び臨界ミセル濃度(CMC)の測定方法は、それぞれ試験例3及び2において詳述する通り
である。
本発明の低毒性SL含有組成物のHela細胞に対する細胞致死濃度(IC50)としては、2000〜60000ppmを挙げることができる。好ましくは3000〜60000ppm、より好ましくは5000〜60000ppm、特に好ましくは10000〜60000ppmである。
本発明の低毒性SL含有組成物の臨界ミセル濃度(CMC)としては、50〜500ppmを挙げることができる。好ましくは50〜400ppm、より好ましくは、50〜300ppm、特に好ましくは100〜300ppmである。
これらの細胞致死濃度(IC50)及び臨界ミセル濃度(CMC)から算出される本発明の低
毒性SL含有組成物の「IC50/CMC」は6.7〜200の範囲であり、好ましくは10〜
200、より好ましくは17〜200、特に好ましくは33〜200である。なお、本発明の低毒性SL含有組成物には、「IC50/CMC」が106.7〜200である低毒性SL
含有組成物が含まれる(実施例1〜10)。但し、これらは本発明の一態様であり、これらに限定されるものではない。
また試験例3で説明するように、本発明の低毒性SL含有組成物はその細胞致死濃度(IC50)から眼や粘膜に対する刺激性も極めて低く、低毒性であると同時に眼や粘膜に対して低刺激性(無刺激性)でもある。なお、ここでいう粘膜には、眼粘膜以外の粘膜、具体
的には、口腔粘膜、咽喉粘膜、鼻腔粘膜、耳腔粘膜、生殖器粘膜、及び肛門部等の粘膜が含まれる。
(III)低毒性SL含有組成物の用途
上記に説明するように本発明の低毒性SL含有組成物は、界面活性作用、具体的には良好な洗浄作用及び泡立ち性を有する一方で、細胞毒性及び眼や粘膜に対する刺激性が極めて少なく、実用濃度では実質的に無毒性及び無刺激性といえる。このことから、低毒性且つ低刺激性のアニオン性界面活性剤として使用することができる。また、安全性や低刺激性(無刺激性)が求められる医薬品、医薬部外品、医療機器、粧品、及び日常雑貨品等に好適に用いることができる。また医薬品用、医薬部外品用、医療機器用、香粧品用または日常雑貨品用の添加剤として用いることもできる。
なお、ここで香粧品とは、香水、オーデコロン及びパヒューム等の「芳香製品」、「化粧品」並びに「医薬部外品」を包含する概念で用いられる。なお、化粧品とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法(例えば、貼付など)で使用されることが目的とされるものである。香粧品としては、メーキャップ化粧品(ファンデーション、口紅など)、基礎化粧品(化粧水、乳液など)、頭髪用化粧品(ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアクリームなど)、身体用化粧品(ボディローション、ハンドクリーム、日焼け止め製剤など)、トイレタリー製品(歯磨き、洗口剤、シャンプー、リンス、石けん、身体洗浄料、洗顔料、入浴剤、洗眼料など)医薬部外品(薬用化粧品、制汗剤、ヘアカラー、殺虫剤など)、芳香製品(香水、オードトワレ、オーデコロン、ボディパウダー、匂い袋など)を例示することができる。医薬品としては、外用薬(皮膚外用薬、点眼薬、
口腔薬、点鼻薬、点耳薬、坐薬など)、内服薬、注射薬を例示できる。医療機器としては
創傷被覆材などを例示できる。 また、日常雑貨品としては、食器野菜用洗剤、洗濯用洗剤、柔軟剤、漂白剤、住居用洗剤、風呂用洗剤、トイレ用洗剤、芳香剤などがあげられる。
本発明の低毒性SL含有組成物は、なかでも低刺激性(無刺激性)が求められる外用組成物に好適に用いることができる。かかる外用組成物としては、具体的には過敏性肌用の香粧品(化粧品、芳香製品)、創傷や炎症のある皮膚に適用される外用医薬品、外用医薬部外品、化粧品(例えば、創傷部洗浄料などが含まれる)、または医療機器(例えば、創傷部被覆材などが含まれる)、眼、鼻腔または口腔内等の粘膜に適用される医薬品、医薬部外品、化粧品(例えば、点眼薬、眼軟膏、洗眼液、コンタクトレンズ装着液などのアイケア製品、洗鼻液、点鼻薬、口内炎治療薬)などを例示することができる。なお、上記創傷部被覆材の形態は特に問わず、ゲル状、パウダー状、シート状、その他の形状を広く挙げることができる。
本発明の低毒性SL含有組成物をアニオン性界面活性剤として使用する場合、低毒性SL含有組成物をそのままアニオン性界面活性剤として用いてもよいし、また界面活性効果を奏し、かつ低毒性/低刺激性という本発明の特徴が損なわれないことを限度として、他成分を配合してもよい。かかる他成分としては、溶剤としての蒸留水、イオン交換水、及びエタノール等;添加剤としての塩化ナトリウム、及び塩化カリウム等;可溶化剤としてのグリセリン、プロピレングリコール、及びヘキシレングリコール等;増粘剤としてのキサンタンガム、アルギン酸、及びデキストラン等;pH調整剤としてのクエン酸、乳酸、リンゴ酸、塩酸、硫酸、ホウ酸、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等;キレート剤としてリン酸化合物、ニトリロ三酢酸(NTA)、及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等;そのほか、色素、及び酵素などを例示することができるが、これらに制限されるものではない。他成分を配合する場合、当該アニオン性界面活性剤に含まれる本発明の低毒性SL含有組成物の量としては、界面活性効果を奏する限り、制限はされないものの、脱
アセチル酸型SLの量に換算して0.005〜99.9質量%、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.02〜10質量%、特に好ましくは0.1〜5質量%を例示することができる。
本発明の低毒性SL含有組成物を医薬品、医薬部外品、医療機器、香粧品または日常雑貨品の添加剤(医薬品添加剤、医薬部外品添加剤、医療機器添加剤、香粧品添加剤または日常雑貨品添加剤)として使用する場合、低毒性SL含有組成物はそれをそのままこれらの添加剤として用いてもよいし、また所望の界面活性効果を奏し、かつ低毒性/低刺激性という本発明の特徴が損なわれないことを限度として、他成分を配合してもよい。かかる他成分は、医薬品、医薬部外品、医療機器、香粧品または日常雑貨品などの対象製品に応じて適宜設定することができる。他成分を配合する場合、当該添加剤に含まれる本発明の低毒性SL含有組成物の量としては、所望の界面活性効果を奏する限り、制限はされないものの、脱アセチル化酸型SLの量に換算して0.005〜99.9質量%、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.02〜10質量%、特に好ましくは0.1〜5質量%を例示することができる。
本発明の低毒性SL含有組成物を医薬品、医薬部外品、医療機器、香粧品または日常雑貨品に添加して用いる場合、つまり本発明の低毒性SL含有組成物を用いて医薬品、医薬部外品、医療機器、香粧品または日常雑貨品を調製する場合、これら各種製品に配合する低毒性SL含有組成物の量は、各製品の目的や性状に応じて、所望の界面活性効果を発揮する範囲で適宜設定される。制限はされないものの、本発明の低毒性SL含有組成物は、医薬品、医薬部外品、医療機器、香粧品または日常雑貨品に対して添加することで、これらの医薬品などのCMCが300ppm以上になるような割合を挙げることができる。例えば、これらの医薬品等に配合される本発明の低毒性SL含有組成物の量は、脱アセチル酸型SLの量に換算して通常、0.001〜99.9質量%、好ましくは0.001〜50質量%の範囲から製品に応じて適宜選択することができる(例えば、0.02〜10質量%や0.1〜5質量%など)。具体的には、各製品に応じて下記の割合を挙げることができる。
身体洗浄料:0.01〜100質量%、好ましくは1〜90質量%、より好ましくは5〜800質量%
毛髪洗浄剤:0.01〜30質量%、好ましくは1〜25質量%、より好ましくは5〜20質量%
洗眼料:0.001〜10質量%、好ましくは0.01〜8質量%、より好ましくは0.05〜5質量%
点眼剤:0.001〜10質量%、好ましくは0.01〜8質量%、より好ましくは0.05〜5質量%
化粧料:0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜15質量%、より好ましくは0.1〜10質量%
口腔洗浄料:0.001〜10質量%、好ましくは0.05〜8質量%、より好ましくは0.1〜5質量%
粘膜または創傷部洗浄料:0.001〜30質量%、好ましくは0.01〜25質量%、より好ましくは0.1〜20質量%
創傷被覆材:0.001〜30質量%、好ましくは0.005〜25質量%、より好ましくは0.01〜20質量%。
本発明の低毒性SL含有組成物を医薬品、医薬部外品、香粧品または日常雑貨品に添加して用いる場合、これらの医薬品などには、本発明の効果を損なわない範囲で、使用目的に応じて、さらに美白剤、抗老化剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、及びそれら以外の成分を配合することができる。
例えば、美白剤としては、L−アスコルビン酸またはその誘導体、トラネキサム酸またはその誘導体、ハイドロキノン及びその誘導体、ルシノール、エデト酸またはその誘導体、アルブチン、胎盤抽出物、t-AMCHA、アセロラエキス、エイジツエキス、エラグ酸また
はその誘導体、火辣エキス、カミツレエキス、カミツレ花エキス、キウイエキス、グルタチオン、トコトリエノール、フェルラ酸、ラズベリーケトン、ルシノール、ウワウルシエキス、ジパルミチン酸ピリドキシン、イオウ、コウジ酸またはその誘導体、グルコサミンまたはその誘導体、ヒドロキシケイヒ酸またはその誘導体、グルタチオン、アルニカエキス、オウゴンエキス、ソウハクヒエキス、サイコエキス、ボウフウエキス、マンネンタケ菌糸体培養物またはその抽出物、シナノキエキス、モモ葉エキス、エイジツエキス、クジンエキス、ジユエキス、トウキエキス、ヨクイニンエキス、カキ葉エキス、ダイオウエキス、ボタンピエキス、ハマメリスエキス、マロニエエキス、オトギリソウエキス、油溶性カンゾウエキス等が例示される。
例えば、抗炎症剤としては、グリチルリチン酸またはその塩、グリチルレチン酸またはその塩、イソプロピルアミノカプロン酸またはその塩、アラントイン、塩化リゾチーム、グアイアズレン、サリチル酸メチル、γ−オリザノールを挙げることができる。
また、抗酸化剤としては、αカロチン、βカロチン、γカロチン、リコピン、クリプトキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン、イソゼアキサンチン、ロドキサンチン、カプサンチン、クロセチン等のカロチノイド;1,4−ジアザシクロオクタン、2,5−ジメチルフラン、2−メチルフラン、2,5−ジフェニルフラン、1,3−ジフェニルイソベンゾフラン、αトコフェロール、βトコフェロール、γトコフェロール、dトコフェロール、ヒスチジン、トリプトファン、メチオニン、アラニン又はそのアルキルエステル、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸、タンニン酸、エピカテキン、エピカロカテキン、エピカテキンガレート、エピカロカテキンガレート等のタンニン類、ルチン等のフラボノイド、その他没食子酸プロピル、ラカンカエキス、アスタキサンチン、カロチン、トコフェロール、アスコルビン酸誘導体、エデト酸四ナトリウム、エリソルビン酸、酢酸トコフェロール、酢酸レチノール、ジビチルヒドロキシトルエン、ステアリン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビル、メチルシラノールジオレイルトコフェロール・無水ケイ酸混合物、ニコチン酸ベンジル、感光素401号、アスパラギン酸、アデノシン三リン酸2Na 、アミノ酪酸、ウイキョウエキス、オランダカラシエキス、カフェイン、クロレラエキス、サフランエキス、ショウキョウエキス、ダイズエキス、タイソウエキス、葉酸、レチノール、パルミチン酸レチノール、イノシトール、ウコンエキス、オリザノール、カロチン、カロットエキス、コムギ胚牙エキス、センキュウエキス、チンピエキス、トウキエキス、トウキ根エキス、ドクダミエキス、トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、ボタンエキス、エルゴカルシフェロール、ジカプリル酸ピリドキシン、バチルアルコール、ステアリン酸グリチルレチニル、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、塩酸ジフェンヒドラミン、塩化リゾチーム、アミノカプロン酸、レイシエキス、ヨクイニン、メリロートエキス、ボタンエキス、トウキエキス、トウキ根エキス、センキュウエキス、ゲンノショコエキス、アラントイン、アルニカエキス、アルニカ花エキス、オウゴンエキス、オウレンエキス、オドリコソウエキス、ガマ穂エキス、カミツレエキス、カラミン、カワラヨモギエキス、甘草エキス、グアイアズレン、クチナシエキス、クマザサエキス、グリチルリチン酸2K、グリチルレチン酸ステアリル、ゲンチアナエキス、紅茶エキス、コンフリーエキス、コンフリー葉エキス、酢酸トコフェロール、サリチル酸メチル、酸化亜鉛、シコンエキス,ムラサキ根エキス、シソエキス、シソ葉エキス、シモツケソウエキス、シャクヤクエキス、スイカズラエキス、セージエキス、セイヨウキズタエキス、セイヨウニワトコエキス、セイヨウノコギリソウエキス、センブリエキス、ソウハクヒエキス、トウキンセンカエキス、ピリドキシンHCl、ビワ葉エキス、フユボ
ダイジュエキス、モモ葉・果実エキス、ヤグルマギクエキス、ユキノシタエキス、ヨモギエキス、レタスエキス、ローマカミツレエキス、ワレモコウエキス及びカカロール、ポリ
アミン等が例示される。
保湿剤として、ピリドンカルボン酸ナトリウム、グリコール、グリセリン、グルコース、マルトース、マルチトール、ショ糖、フラクトース、キシリトール、ソルビトール、マルトトリオース、スレイトール、エリスリトール、デンプン分解糖還元アルコール、ソルビトール、多価アルコール類(エチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ペンチレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール)、セリン、グリシン、スレオニン、アラニン、コラーゲン、加水分解コラーゲン、ヒドロネクチン、フィブロネクチン、ケラチン、エラスチン、ローヤルゼリー、コンドロイチン硫酸ヘパリン、グリセロリン脂質、グリセロ糖脂質、スフィンゴリン脂質、スフィンゴ糖脂質、リノール酸またはそのエステル類、エイコサペンタエン酸またはそのエステル類、ペクチン、ビフィズス菌発酵物、乳酸発酵物、酵母抽出物、レイシ菌糸体培養物またはその抽出物、小麦胚芽油、アボガド油、米胚芽油、ホホバ油、ダイズリン脂質、γ−オリザノール、ビロウドアオイエキス、ヨクイニンエキス、ジオウエキス、タイソウエキス、カイソウエキス、キダチアロエエキス、ゴボウエキス、マンネンロウエキス、アルニカエキス、小麦フスマ、ピロリドンカルボン酸、トマトエキス、ツバキ油、大豆リン脂質、ヒアルロン酸、トレオニン、グリコール酸アンモニウム、アルギン酸メチルシラノール、ヨクイニン、トウキエキス、トウキ根エキス、ダイズエキス、アスパラガスエキス、DNA−Na、PCA−Na、RNA-Na、アシタバエキス、アスパラギン酸、アマチヤエキス、羅漢果エキス、ラクトフェリン、アラニン、アルギニン、アルギン酸Na、アルテアエキス、アロエベラエキス、オイスタエキス、オオムギバクガエキス、カキ葉、加水分解ケラチン、加水分解コラーゲン、加水分解コンキオリン、加水分解卵殻膜、加水分解卵白、加水分解シルク、加水分解ダイズタンパク、褐藻エキス、カリンエキス、キイチゴエキス、キシリトール、キトサン、キュウリエキス、キュウリ果実エキス、グアバ葉エキス、グアバ果実エキス、クインスシードエキス、グリシン、グリセリン、グルコース、グレープフルーツエキス、グレープフルーツ果実エキス、クレマティスエキス、ゴボウエキス、コメ発酵液、コンドロイチン硫酸Na、魚コラ一ゲノ、サンザシエキス、シイタケエキス、ジオウエキス、グリセリン、シスチン、システイン、スギナエキス、ゼニアオイエキス、セリン、ソルビトール、ダイズタンパク、トマトエキス、乳酸Na、乳酸桿菌、ダイズ発酵エキス、尿素、ノバラエキス、アーモンドエキス、アーモンド果実エキス、コーン油、ハチミツ、ヒアルロン酸Na、フクノエキス、ベタイン、ヘチマエキス、マルチトール、マルトース、マンニトール、ユリエキス、リシン、リンゴエキス、レンゲソウエキス、ローヤルゼリー、ラノリン脂肪酸ポリエチレングリコール1000、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソブチル、ヘキシルデカノール、乳酸ミリスチル、ラノリン脂肪酸、トリカプリルグリセリル、オレイルアルコール、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、還元ラノリン、オクチルドデカノール、アーモンド油、アボカド油、オリーブ油、オレイン酸、オレンジラフイー油、カカオ脂、カロットエキス、ゴマ油、サザンカ油、サフラワー油、ジヒドロコレステロール、スクワラン、ステアリン酸コレステリル、セラミド2、月
見草油、ヒマシ油、ヒマワリ油、セフニド3、ヒマワリ種子油ハイブリッドヒマワリ油、
フィトスフィンゴシン、ブドウ種子油、ホホバ油、ホホバ種子油、ミネラルオイル、ミンク油、マカデミアナッツ油、メドウフォーム油、ユーリ油、ユーカリ葉油、ラノリン、リノール酸、ローズヒップ油、ワセリン及びポリグルタミン酸等が例示される。
紫外線吸収剤 として、安息香酸アミル、パラアミノ安息香酸オクチル、サリチル酸エ
チレングリコール、サリチル酸フェニル、サリチル酸オクチル、サリチル酸ベンジル、サリチル酸ブチルフェニル、サリチル酸ホモメンチル、ケイ皮酸ベンジル、パラメトキシケイ皮酸2−エトキシエチル、パラメトキシケイ皮酸オクチル、ジパラメトキシケイ皮酸モノ2−エチルヘキサン酸グリセリル、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、ジイソプロピ
ル・ジイソプロピルケイ皮酸エステル混合物、ウロカニン酸、ウロカニン酸エチル、ヒドロキシメトキシベンゾフェノン、ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸またはその塩、ジヒドロキシメトキシベンゾフェノン、ジヒドロキシメトキシベンゾフェノンジスルフォン酸ナトリウム、ジヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−tert−ブチル−4’−メトキシ−ジベンゾイルメタン、2、4、6−トリアニリノ−p−(カルボ−2’−エチルヘキシル−1’−オキシ)−1、3、5−トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、パラジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、パラアミノ安息香酸エチル、トプチルメトキシジペンゾイルメタン、オキシベンゾン-1、グアイアズレンスルホン酸エチル、シノキサート、及びアントラニル酸系紫外線吸収剤 (例えば、ホモメンチル−N− アセチルアントラニレート)、ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸エチルヘキシルなどが例示される。また、紫外線散乱剤とし、酸化チタン、酸化亜鉛などが例示される。
抗菌剤として、オウバク抽出液、ハロカルバン、クロロフェネシン、塩化リゾチーム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、イソプロピルメチルフェノール、チモール、ヘキサクロロフェン、ベルベリン、チオキソロン、サリチル酸またはそれらの誘導体、安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、パラクロルメタクレゾール、塩化ベンザルコニウム、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール、石炭酸、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ヘキサクロロフェン、塩化クロルヘキシジン、トリクロロカルバニリド、感光素、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛、チアントール、ヒノキチオール、トリクロサン、トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル、クロルヘキシジングルコン酸塩、フェノキシエタノール、レゾルシン、アズレン、サリチル酸、ジンクピリチオン、モノニトログアヤコールナトリウム、ウイキョウエキス、サンショウエキス、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム及びウンデシレン酸誘導体などが例示される。
本発明の低毒性SL含有組成物は、後述する試験例で示すように、そのもの自体に皮膚保湿作用、皮膚や毛髪のダメージ(肌荒れ、毛髪のキューティクルの損傷)を改善する作用、皮膚や毛髪を保護する作用がある。このため、本発明の低毒性SL含有組成物は、それ自体を保湿剤(皮膚、毛髪)、肌荒れ改善剤、皮膚保護剤、及び毛髪保護剤などとして用いることができる。この場合、これらの各製品100質量%中に含まれる本発明の低毒性SL含有組成物の割合は、製品の目的(美白、肌荒れ改善、皮膚・毛髪保護など)に応じて、その効果が発揮できる量であればよく、通常、低毒性SL含有組成物に含まれる脱アセチル酸型SLの量に換算して0.01〜10質量%の範囲から適宜選択設定することができる。
(IV)低毒性SL含有組成物の製造方法
(IV-1)原料(SL含有培養物またはその処理物)
低毒性SL含有組成物の製造の原料として用いるSL含有培養物またはその処理物としては、SL産生酵母の培養物またはその処理物であってSLを含有する粗精製物を広く挙げることができる。SL産生酵母としては公知のものを用いることができ、例えば、前述するキャンディダ(スタメレラ)・ボンビコーラ(Candida bombicola)を好適に挙げる
ことができる。なお、キャンディダ(スタメレラ)・ボンビコーラは生物資源バンクであるATCCに登録されており、そこから入手することができる(Candida bombicola ATCC22214など)。また、本発明の低毒性SL含有組成物の製造には、SL(酸型、ラクトン
型)を産生することが知られているキャンディダ属に属する他のSL産生酵母を使用することもできる。かかるSL産生酵母として、例えばキャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)、キャンディダ・グロペンギッセリ(Candida gropengisseri)、及びキャンディダ・アピコーラ(Candida apicola)、キャンディダ・ペトロフィラム(Candida petrophilum)、キャンディダ・ボゴリエンシス(Candida bogoriensis)、キャンディダ・
バチスタエ(Candida batistae)を挙げることができる。これらの酵母は、保存機関から分譲された菌株又はその継代培養によって得られた菌株であってもよい。ここで、ロドトルラ(キャンディダ)・ボゴリエンシス NRCC9862(Rhodotorula(Candida)bogoriensis NRCC9862)が生産するSLは、13−[(2’−O−β−D−glucopyranosyl−β−D−glucopyranosyl)oxy] docosanoic acid6’, 6”−diacetateであり、アルキル基の中央のヒドロキシル基とソホロースがグリコシド結合している。このSLは前記一般式(1)及び(2)とは異なるが、ソホロースとヒドロキシ脂肪酸から構成される点では同じであり、本発明が対象とするSLに含まれる。
またキャンディダ・フロリコーラ(Candida floricola)ZM−1502株(FERM P-21133)及びキャンディダ・フロリコーラ(Candida floricola)NBRC10700T株は、ジアセチル基を有する酸型SLのみを選択的に生産するSL産生酵母である。本発明の低毒性SL含有組成物の製造に際しては脱アセチル処理が必須になるものの、ラクトン型SLを含まない低毒性SL含有組成物を得るうえでは好適に使用することができる。なお、以下、当該SL産生酵母を、上記の酸型SL及びラクトン型SLの両者を産生するSL産生酵母(ラクトン型/酸型SL産生酵母)と区別するため、「酸型SL産生酵母」とも称する。
さらに非特許文献2に記載されているアセチルトランスフェラーゼ欠失キャディダ・ボンビコーラ(Candida bombicola)を使用することもでき、かかるアセチルトランスフェ
ラーゼ欠失SL産生酵母によれば、非アセチル化SLを1段で製造することができる。
SL産生酵母の培養方法としては、例えば、高濃度の糖と疎水性の油性基質を同時に与えて培養する方法等が好ましく挙げられる。又は、これに限らず、本発明の効果を妨げない限り広く公知の方法を適用できる。当該公知の方法は、特開2002−045195号公報(特許文献2)等に記載されたものであってもよい。具体的には、糖としてグルコース、疎水性の油性基質として脂肪酸と植物油からなる炭素源を用いて、SL産生酵母を培養する手法を用いることができる。
培地組成は、特に限定されないが、SLの脂肪酸部分は、培地成分として添加する疎水性基質の脂肪酸鎖長やその割合に依存することが知られており、ある程度の制御が可能である。たとえば、疎水性基質としては、オレイン酸あるいはオレイン酸を高い割合で含有する脂質が好適である。たとえば、パーム油、米ぬか油、ナタネ油、オリーブ油、サフラワー油などの植物油、及び豚脂や牛脂などの動物油が挙げられる。安定的に高い収量・収率でSLを発酵生産させる場合、炭素源として親水性の糖と疎水性の油脂を混合したものが好ましい。親水性基質としては、グルコースが多用される。
得られた培養液から、例えば遠心分離やデカンテーション等の定法の固液分離法で液成分を分離除去した後、固形分を水洗いすることにより、SL含有画分(SL含有培養物)を得ることができる。なお、ラクトン型/酸型SL産生酵母の培養によって得られるSL含有画分(SL含有培養物)は、ラクトン型SLと酸型SLとの混合物(ラクトン型/酸型SL含有組成物)であり、通常、酸型SLの含有率はSL総量中45質量%未満(固形換算)である。一方、酸型SL産生酵母の培養によって得られるSL含有画分(SL含有培養物)に含まれるSLは、そのすべてがジアセチル基を有する酸型SLである。
SL産生酵母の培養液から、ラクトン型/酸型SL含有組成物(または酸型SL含有組成物)を回収する方法は、本発明の効果を妨げない限り、公知の方法であってよく、例えば、特開2003−9896号公報(特許文献3)等に記載された方法を挙げることができる。かかる方法は、SL産生酵母の培養液またはそれから調製したSL含有画分のpH
を調整することで、水に対するSLの溶解性を制御する方法である。具体的には、例えばSL産生酵母の培養液のpHをNaOH水溶液等で6〜7程度に調整してSLを可溶化し、これを遠心分離して回収した上清に、次いで硫酸水溶液等を添加してpH2〜3程度に調整することでSLを不溶化する。これを静置後、デカンテーションすることで約50%含水物としてラクトン型/酸型SL含有組成物(または酸型SL含有組成物)を調製することができる。
(IV-2)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程(脂肪酸除去工程)
本発明の低毒性SL含有組成物の製造方法には、SL含有培養物またはその処理物から(1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程(脂肪酸除去工程)が含まれる
脂肪酸除去方法としては、(a)溶剤抽出法、(b)吸着法、及び(c)クロマトグラフィーを例示することができる。なお、これらの脂肪酸除去方法は、一種単独で行ってもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。2以上の処理を併用する場合、処理の順序は順不同であり特に制限はされないが、好ましくは(a)→(c)または(b)→(c)などのように溶媒抽出または吸着を先に行うことが好ましい。
(a)溶剤抽出法
溶剤抽出法は、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸がSLよりも疎水性が高いことを利用した分離方法である。一般的にSLを含有する溶液(通常、水)と相溶性のない溶剤を使用して、疎水性化合物である脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸をSL含有液から抽出除去する方法である。溶剤として使用されるものは、SL含有液と相溶性のない溶剤であればよく、特に制限されないものの、例えば酢酸エチル、ジエチルエーテル(エーテル)、及びヘキサンなどが挙げられる。特に酸型SLの回収率と脂肪酸およびヒドロキシ脂肪酸の除去率の高さからジエチルエーテル(エーテル)が好ましい。
また、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の除去率を上げるために処理対象のSL含有液のpHを予め酸性領域に調整しておくことが好ましい。酸性領域にすることで、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基がプロトン化され、より溶剤に回収され易くなる。特に制限はされないものの、酸性領域として、pH6程度以下を挙げることができる。より具体的にはpH1〜6未満程度、好ましくはpH1〜5程度、より好ましくはpH1〜4.5程度である。特に好ましくpH2〜4程度である。SL含有液(SL含有培養物またはその処理物)の酸性領域への調整は、通常pH調整剤が用いられる。pH調整剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、燐酸、ホウ酸及びフッ化水素酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、グルタミン酸及びアスパラギン酸等の有機酸等が使用される。
前記溶剤抽出法の具体的な操作を、例えば溶剤としてジエチルエーテル(エーテル)、pH調整剤として硫酸を用いる場合を例にして説明すると、まずSL含有組成物(SL含有培養物またはその処理物)をエタノール可溶分が20質量%となるように分液漏斗に加えてpHを3に調整し、全量を蒸留水で100mlにする。次いで、これにエーテルを1/2〜2倍容量加えて激しく混合して静置し、下層を別の分液漏斗に移す。さらに別の分液漏斗に移した水相成分にエーテルを1/2〜2倍容量加えて同様に激しく混合して静置する。こうした抽出操作を、少なくとも計2回、好ましくは3回以上行う。抽出作業後は、加温または減圧を行ってエーテルを除去することが好ましい。
(b)吸着法
吸着法は、使用する吸着剤に対するSL並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の親和性の差を利用した分離方法である。吸着剤としては、一般的に疎水性化合物を選択的に吸着す
ることができるものを使用することができ、例えば活性炭、シリカゲル、ゼオライト、及びイオン交換樹脂などが挙げられる。また、特開2008−64489号公報に記載されている酸化アルミナも用いることができる。疎水性の高い化合物を吸着するうえで特に好ましいのは活性炭である。なお、イオン交換樹脂としては、強酸性カチオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂、強塩基性アニオン交換樹脂、及び弱塩基性アニオン交換樹脂を挙げることができる。好ましくは強塩基性アニオン交換樹脂、及び弱塩基性アニオン交換樹脂である。
また、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の吸着除去率を上げるために処理対象のSL含有液のpHを予め酸性領域に調整しておくことが好ましい。酸性領域にすることで、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基がプロトン化され、より吸着剤に吸着され易くなる。特に制限はされないものの、酸性領域として、pH6程度以下を挙げることができる。より具体的にはpH1〜6未満程度、好ましくはpH1〜5程度、より好ましくはpH1〜4.5程度である。特に好ましくpH2〜4程度である。SL含有液(SL含有培養物またはその処理物)の酸性領域への調整は、通常pH調整剤が用いられる。pH調整剤は、上記(a)にて説明したものが同様に使用できる。
前記吸着法の具体的な操作を、例えば吸着剤として活性炭、pH調整剤として硫酸を用いる場合を例にして説明すると、まずエタノール可溶分30質量%相当のSL含有組成物(SL含有培養物またはその処理物)に硫酸を添加してpH3に調整し、これに活性炭を全量の5〜15質量%となるように加えて混合する。活性炭による脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の吸着効率の向上、及び活性炭のろ過除去の観点から、上記混合液は加温することもできる。加温温度は特に制限されないが、40〜100℃未満、好ましくは50〜100℃未満、より好ましくは55〜100℃未満、特に好ましくは60〜100℃未満を例示することができる。
(c)クロマトグラフィー
クロマトグラフィーは、両親媒性であるSLの構造を利用した分離方法である。一般的に、固定相として用いられる充填剤(吸着剤)には、当該分野で公知の任意のシリカゲル、オクタデシルシリカゲル(ODS)樹脂、イオン交換樹脂、または合成吸着剤などが用いられる。本発明で採用するクロマトグラフィーは、分配クロマトグラフィー、特に逆相クロマトグラフィーであることが好ましい。当該逆相クロマトグラフィーによると、環境及び人体に対して安全性の高い溶離液(移動相)を使用することができる。
クロマトグラフィーとして逆相クロマトグラフィーを用いる場合、充填剤としては、ODS樹脂等を用いることが好ましい。シリカゲル担体に疎水性オクタデシル基等が化学修飾されたODS樹脂を用いることで、SLのアルキル側鎖との疎水性相互作用を利用して、SL含有組成物(SL含有培養物またはその処理物)から効率的に脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を除去することができる。逆相クロマトグラフィーの溶離液(移動相)としては、分離効率等の点から、固定相として用いる充填剤より極性の強い溶媒を用いることが好ましい。このような溶離液としては、例えば、メタノール及びエタノール等の低級アルコールと水との混合液が挙げられるが、安全性及び環境の面から、好ましくはエタノールと水との混合液である。当該溶離液には、好ましくは揮発性の酸成分を0.01〜0.2容量%、好ましくは0.05〜0.1容量%程度の割合で配合しておくことが好ましく、かかる酸成分としてはギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸(TFA)を例示することができる。
また、固定相への酸型SLの吸着量を増加させて、酸型SLの回収率を上げるために、クロマトグラフィーに供するSL含有液のpHを予め酸性領域に調整しておくことが好ましい。酸性領域としては、酸型SLのpKa値がpH6.1〜6.4であることから、好ましくはpH6程度未満である。より具体的にはpH1〜6未満程度、好ましくはpH1
〜5程度、より好ましくはpH1〜4.5程度である。特に好ましくpH2〜4程度である。SL含有液(SL含有培養物またはその処理物)の酸性領域への調整は、通常pH調整剤が用いられる。pH調整剤は、上記(a)にて説明したものが同様に使用できる。
前記クロマトグラフィーの具体的な操作を、例えば固定相としてODS樹脂、移動相をとしてエタノール水溶液を用いる場合を例にして説明すると、固定相にSL含有組成物(SL含有培養物またはその処理物)を供した後、約70〜80%(容量%を意味する。以下同じ)未満のエタノール濃度の溶離液(エタノール水溶液)を流すことで脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸などを含む不純物を吸着保持させた状態で酸型SL含有画分を回収することができる。具体的には、例えば、以下の方法を例示することができる。
(1)カラム塔最上部(以下、分離塔塔頂)から約70〜80%未満濃度の溶離液(例えば、エタノール濃度が約70〜80%未満の溶離液(エタノール水溶液))を供給し、カラムを平衡化する。
(2)分離塔塔頂からSL含有組成物(SL含有培養物の処理物)を添加する。
(3)分離塔塔頂から約70〜80%未満濃度の前記溶離液を供給し、酸型SL含有画分を選択的に溶出させて回収する。
なお、(1)及び(3)の各工程において、溶離液中のエタノール濃度は、上記の濃度範囲内で経時的に上昇させてもよいし(グラジェント溶出法)、また上記の濃度範囲内の同濃度に保持させてもよい(ステップワイズ溶出法)。好ましくは後者のステップワイズ溶出法であり、例えばエタノール濃度70%のエタノール水溶液で平衡化した固定相(カラム充填剤)に[(1)工程]、SL含有組成物を添加し[(2)工程]、次いでエタノール濃度70%のエタノール水溶液を流して、目的の酸型SL含有画分を溶出させ回収する[(3)工程]方法を例示することができる。また、[(3)工程]の前に、SL含有培養物中の臭気成分、色素成分、塩類を酸型SL含有画分から除去することを目的に70%未満のエタノール水溶液を用いることができる[(3´)工程]。その場合は[(1)工程]で平衡化させるエタノール濃度[(3´)工程]で使用するエタノール濃度と一致させる。
本発明の低毒性SL含有組成物は、SL含有培養物またはその処理物を、前述する(1
)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程(脂肪酸除去工程)に加えて、(2
)SLのアセチル基を脱離する工程(脱アセチル化工程)、及び(3)ラクトン型SLを
除去する工程(ラクトン型SL除去処理工程)の少なくとも1方の工程に供することで調製することもできる。以下にこれらの処理工程について説明する。
(IV-3)SLのアセチル基を脱離する工程(脱アセチル化工程)
脱アセチル化方法としては、(d)加水分解処理、及び(e)酵素処理を例示することができる。なお、これらの脱アセチル化方法は、一種単独で行ってもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。2以上の処理を併用する場合、処理の順序は順不同であり特に制限はされない。なお、脱アセチル化工程は、SL含有培養物またはその処理物が、アセチル化SLを産生するSL産生酵母によって調製されたものである場合に好適に用いられる処理工程であり、SL含有培養物またはその処理物が、非アセチル化SLを選択的に産生するSL産生酵母(アセチルトランスフェラーゼ欠失SL産生酵母)によって調製されたものである場合に適用されない。
(d)加水分解処理
加水分解処理には、本発明の効果を妨げない限り、広く公知の方法を用いることができる。例えば、水酸化物の金属塩(ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムなど)、炭酸塩、リン酸塩、またはアルカノールアミン等の塩基を用いたアルカリ加水分解を好適に挙げることができる。さらに、加水分解処理には、各種の触媒、例えば、アルコール等を用いることも可能である。前記アルカリ加水分解を行う場合の温度、圧力及び時
間は、SL含有培養物またはその処理物に含まれるSLのアセチル基を脱離するという目的及び効果が達成できるものである限り特に制限されないが、目的産物である酸型SLの分解や化学修飾等の副反応を抑制しながら、効率的に脱アセチル化を進行させることのできる温度、圧力及び時間を採用することが好ましい。この点から、反応温度は通常約30℃〜120℃の範囲であり、好ましくは約50℃〜90℃である。圧力は通常約1気圧〜10気圧の範囲であり、好ましくは約1気圧〜2気圧である。反応時間は通常約10分〜5時間の範囲であり、好ましくは約1時間〜3時間である。また、アルカリ加水分解を行う時間は、処理するSL含有組成物中のSLに結合しているアセチル基の数によって適宜設定できる。
(e)酵素処理
酵素を用いてSLに結合しているアセチル基を解離する方法は、アセチルエステルからアルコールと酢酸を生成する酵素を利用した方法である。酵素として利用されるのは、一般的にアセチルエステラーゼであり、例えばAspergillus niger、Rhodococcus sp.、Meyerozyma guilliermondiiから単離されたアセチルエステラーゼが挙げられる。
アセチルエステラーゼの反応に適している条件はpH5〜8であり、好ましくは6〜7.5である。pH調整剤として、この範囲の中に納まるのであれば、通常使用されるpH調整剤を使用することができる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸、塩酸などが使用できる。反応温度としては、20〜40℃が好ましく、20〜35℃が特に好ましい。反応時間は通常6時間以上行われ、12時間以上が好ましく、特に好ましいのは1日以上である。
前記酵素を用いた脱アセチル化処理は、本発明の目的効果を妨げない限り特に限定されないが、例えばSL含有組成物を10質量%となるように0.1Mリン酸水溶液(pH7.0)に投入し、アセチルエステラーゼを50Uとなるように加え、室温(25℃)で1日攪拌を行う方法を例示することができる。
(IV-4)ラクトン型SLを除去する工程(ラクトン型SL除去工程)
ラクトン型SL除去方法としては、(f)加水分解処理、及び(g)クロマトグラフィーを例示することができる。これらのラクトン型SL除去方法は、(f)及び(g)のいずれかひとつを単独で行ってもよいし、2つを任意に組み合わせて使用することもできる。2つの処理を併用する場合、処理の順序は順不同であり特に制限はされないが、好ましくは(f)→(g)である。なお、ラクトン型SL除去処理工程は、SL含有培養物またはその処理物が、酸型SLとラクトン型SLの両方を産生するSL産生酵母(ラクトン型/酸型SL産生酵母)によって調製されたものである場合に好適に用いられる処理工程であり、SL含有培養物またはその処理物が、酸型SLを選択的に産生するSL産生酵母(酸型SL産生酵母)によって調製されたものである場合に適用されない。
(f)加水分解処理
ここで用いられる加水分解処理は、SL含有培養物またはその処理物に含まれるラクトン型SLのラクトン環を開環して酸型SLに変換する処理である。
当該加水分解処理には、本発明の効果を妨げない限り、広く公知の方法を用いることができる。例えば、水酸化物の金属塩(ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムなど)、炭酸塩、リン酸塩、またはアルカノールアミン等の塩基を用いたアルカリ加水分解を好適に挙げることができる。さらに、加水分解処理には、各種の触媒、例えば、アルコール等を用いることも可能である。前記アルカリ加水分解を行う場合の温度、圧力及び時間は、SL含有培養物またはその処理物に含まれるラクトン型SLのラクトン環を開環するという目的及び効果が達成できるものである限り特に制限されないが、目的産物で
ある酸型SLの分解や化学修飾等の副反応を抑制しながら、効率的にラクトン環の開環を進行させることのできる温度、圧力及び時間を採用することが好ましい。この点から、反応温度は通常約30℃〜120℃の範囲であり、好ましくは約50℃〜90℃である。圧力は通常約1気圧〜10気圧の範囲であり、好ましくは約1気圧〜2気圧である。反応時間は通常約10分〜5時間の範囲であり、好ましくは約1時間〜3時間である。また、アルカリ加水分解を行う時間は、処理するSL含有組成物中に含まれるラクトン型SLの割合によって適宜設定できる。
(g)クロマトグラフィー
ここで用いられるクロマトグラフィーは、SL含有培養物またはその処理物に含まれるラクトン型SLを選択的に除去する処理である。
一般的に、固定相として用いられる充填剤(吸着剤)には、当該分野で公知の任意のシリカゲル、オクタデシルシリカゲル(ODS)樹脂、イオン交換樹脂、合成吸着剤などが用いられる。本発明で採用するクロマトグラフィーは、分配クロマトグラフィー、特に逆相クロマトグラフィーであることが好ましい。
クロマトグラフィーとして逆相クロマトグラフィーを用いる場合、充填剤としては、ODS樹脂等を用いることが好ましい。逆相クロマトグラフィーの溶離液(移動相)としては、分離効率等の点から、固定相として用いる充填剤より極性の強い溶媒を用いることが好ましい。このような溶離液としては、例えば、メタノール及びエタノール等の低級アルコールと水との混合液が挙げられるが、安全性及び環境の面から、好ましくはエタノールと水との混合液である。当該溶離液には、好ましくは揮発性の酸成分を0.01〜0.2容量%、好ましくは0.05〜0.1容量%程度の割合で配合しておくことが好ましく、かかる酸成分としてはギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸(TFA)を例示することができる。
また、固定相への酸型SLの吸着量を増加させて、酸型SLの回収率を上げるために、クロマトグラフィーに供するSL含有液のpHを予め酸性領域に調整しておくことが好ましい。酸性領域としては、酸型SLのpKa値がpH6.1〜6.4であることから、好ましくはpH6程度未満である。より具体的にはpH1〜6未満程度、好ましくはpH1〜5程度、より好ましくはpH1〜4.5程度である。特に好ましくpH2〜4程度である。SL含有液(SL含有培養物またはその処理物)の酸性領域への調整は、通常pH調整剤が用いられる。pH調整剤は、上記(a)にて説明したものが同様に使用できる。
前記クロマトグラフィーの具体的な操作を、例えば固定相としてODS樹脂、移動相をとしてエタノール水溶液を用いる場合を例にして説明すると、固定相にSL含有組成物(SL含有培養物またはその処理物)を供した後、約70〜80%(容量%を意味する。以下同じ)未満のエタノール濃度の溶離液(エタノール水溶液)を流すことでラクトン型SLを含む不純物を吸着保持させた状態で酸型SL含有画分を回収することができる。具体的には、例えば、以下の方法を例示することができる。
(1)カラム塔最上部(以下、分離塔塔頂)から約70〜80%未満濃度の溶離液(例えば、エタノール濃度が約70〜80%未満の溶離液(エタノール水溶液))を供給し、カラムを平衡化する。
(2)分離塔塔頂からSL含有組成物(SL含有培養物の処理物)を添加する。
(3)分離塔塔頂から約70〜80%未満濃度の前記溶離液を供給し、酸型SL含有画分を選択的に溶出させて回収する。
なお、(1)及び(3)の各工程において、溶離液中のエタノール濃度は、上記の濃度範囲内で経時的に上昇させてもよいし(グラジェント溶出法)、また上記の濃度範囲内の
同濃度に保持させてもよい(ステップワイズ溶出法)。好ましくは後者のステップワイズ溶出法であり、例えばエタノール濃度70%のエタノール水溶液で平衡化した固定相(カラム充填剤)に[(1)工程]、SL含有組成物を添加し[(2)工程]、次いでエタノール濃度70%のエタノール水溶液を流して、目的の酸型SL含有画分を溶出させ回収する[(3)工程]方法を例示することができる。また、[(3)工程]の前に、SL含有培養物中の臭気成分、色素成分、塩類を酸型SL含有画分から除去することを目的に70%未満のエタノール水溶液を用いることができる[(3´)工程]。その場合は[(1)工程]で平衡化させるエタノール濃度[(3´)工程]で使用するエタノール濃度と一致させる。
本発明の低毒性SL含有組成物の製造方法は、使用するSL産生酵母が産生するSLの種類によって選択することができる。具体的には、SL含有培養物またはその処理物が、脱アセチル化された酸型SL(非アセチル化酸型SL)だけを有するものである場合は、上記で説明する(IV-2)脂肪酸除去工程を単独で行えばよい。一方、SL含有培養物またはその処理物がアセチル基を有するSLを含む場合および/または酸型SLに加えてラクトン型SLを含む場合は、(IV-2)脂肪酸除去工程に(IV-3)脱アセチル化工程および/または(IV-4)ラクトン型SL除去工程を組み合わせてなるものであってもよい。この場合、これらの工程の順序は、本発明の目的が達成できる限りにおいて特に制限されない。
2以上の工程の組み合わせ態様としては、例えば、SL含有培養物またはその処理物が酸型SL産生酵母から調製されたものである場合(例えば、特許文献1参照)、(IV-2)脂肪酸除去工程(例えば、(a)〜(c))の後に(IV-3)脱アセチル化工程(例えば、(d)〜(e))を実施してもよいし、逆に(IV-3)脱アセチル化工程(例えば、(d)〜(e))の後に(IV-2)脂肪酸除去工程(例えば、(a)〜(c))を実施してもよい。制限はされないが、(IV-3)脱アセチル化工程後に(IV-2)脂肪酸除去工程を行うことが好ましく、具体的には(d)加水分解処理及び(e)酵素処理のいずれか少なくともひとつの処理後に、(a)溶剤抽出法、(b)吸着法及び(c)クロマトグラフィーからなる処理のうち
いずれか少なくともひとつの処理を実施する方法を挙げることができる。好ましくは(d
)加水分解処理と(a)溶剤抽出法及び/または(c)クロマトグラフィーとの組み合わせである。
また、例えば、SL含有培養物またはその処理物がラクトン型/酸型SL産生酵母から調製されたものである場合(例えば、参考製造例1参照)、(IV-4)ラクトン型SL除去工程(例えば、(f)〜(g))後に、(IV-2)脂肪酸除去工程(例えば、(a)〜(c))及び(IV-3)脱アセチル化工程(例えば、(d)〜(e))の少なくともひとつの工程を順不同に組み合わせて実施してもよい。なお、(IV-4)ラクトン型SL除去工程である(f
)及び(g)は、それぞれ(IV-3)脱アセチル化工程の(d)及び(IV-2)脂肪酸除去工程の(c)と重複するので、(IV-4)ラクトン型SL除去処理をすることで同時に(IV-3)
脱アセチル化または(IV-2)脂肪酸除去をすることができる。好ましい組み合わせとしては、(d)(または(f))加水分解処理後に、(a)溶剤抽出法または(c)(または(g))
クロマトグラフィーのいずれか少なくともひとつの処理を実施する方法を挙げることができる。
さらにまた、例えば、SL含有培養物またはその処理物がアセチルトランスフェラーゼ欠失SL産生酵母から調製されたものである場合(例えば、非特許文献2参照)、(IV-4)ラクトン型SL除去工程(例えば、(f)〜(g))と(IV-2)脂肪酸除去工程(例えば、(a)〜(c))とを順不同に組み合わせて実施してもよい。好ましい組み合わせとしては、 (f)加水分解処理後に、(a)溶剤抽出法または(c)クロマトグラフィーのいずれか少なくともひとつの処理を実施する方法を挙げることができる。
(V)SL含有組成物の低毒化方法
前述する製造方法によれば、SL産生酵母から調製とされるSL含有組成物を低毒化及び低刺激性化し、本発明の低毒性SL含有組成物を取得することができる。従って、上記の製造方法は、SL産生酵母の培養により製造されるSL含有組成物の低毒化方法または低刺激性化方法と言い換えることができる。
当該低毒化方法(または低刺激性化方法)は、上記(IV)に記載する方法に従って実施することができ、当該欄には前述する(IV)欄の記載のすべてが援用される。また当該低毒化方法(または低刺激性化方法)により、(III)欄で説明した本発明の低毒性SL含
有組成物を調製し取得することができる。従ってSL産生酵母から調製とされるSL含有組成物を低毒化及び低刺激性化することによって得られる低毒性SL含有組成物については(III)欄の記載のすべてが援用される。
以下に本発明を実施例及び試験例に基づいてより具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例及び試験例になんら限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が可能である。
参考製造例1:SLの産生(粗精製SL含有組成物−1の調製)
培養培地として、1L当たり、含水グルコース10g(日本食品化工社製、製品名:日食含水結晶ブドウ糖)、ペプトン10g(オリエンタル酵母社製、製品名:ペプトンCB90M)、酵母エキス5g(アサヒフードアンドヘルスケア社製、製品名:ミーストパウダーN)を含有する液体培地を使用し、30℃で2日間、Candidabombicola ATCC22214を振盪培養し、これを前培養液とした。
この前培養液を、5L容量の発酵槽に仕込んだ本培養培地(3L)に、仕込み量の4%の割合で植菌し、30℃で6日間、通気0.6vvmの条件下で培養し発酵させた。なお、本培養培地として、1L当たり、含水グルコース100g、パームオレイン50g(日油製、製品名:パーマリィ2000)、オレイン酸(ACID CHEM製、製品名:パルマック760)50g、塩化ナトリウム1g、リン酸一カリウム10g、硫酸マグネシウム7水和物10g、酵母エキス2.5g(アサヒフードアンドヘルスケア社製、製品名:ミーストパウダーN)、及び尿素1gを含む培地(滅菌前のpH4.5〜4.8)を用いた。
培養開始から6日目に発酵を停止し、発酵槽から取り出した培養液を加熱してから室温に戻し、2〜3日間静置することで、下から順に、液状の褐色沈殿物層、主に菌体と思われる乳白色の固形物層、上澄みの3層に分離した。上澄を除去した後、工業用水または地下水を、除去した上澄の量と同量添加した。これを攪拌しながら、48質量%の水酸化ナトリウム溶液を徐々に加えてpH6.5〜6.9とし、培養液中に含まれるSLを可溶化した。これを卓上遠心分離機(ウェストファリア:ウェストファリアセパレーターAG製)で遠心処理することにより、乳白色の固形物を沈殿させ、上澄を回収した。回収した上澄を攪拌しながら、これに62.5質量%濃度の硫酸水溶液を徐々に加えてpH2.5〜3.0とし、SLを再不溶化した。これを2日間静置後、デカンテーションにより上澄を可能な限り除去し、残留物を「粗精製SL含有組成物−1」(約50%含水物、参考製造例品1)として取得した。
参考製造例2:粗精製SL含有組成物−2の調製
前記参考製造例1で分取した粗精製SL含有組成物−1に水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH14に調整し、80℃で2時間処理して加水分解(アルカリ加水分解)を行った。次いで、室温に戻してから硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH7.5に調整し、発生した不溶物をろ過除去して、ろ液を「粗精製SL含有組成物−2」(参考製造例品2)と
して得た。
実施例1:低毒性SL含有組成物の製造
前記参考製造例2で得た粗精製SL含有組成物−2を、硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH3.0に調整した。
これを下記条件の逆相カラムクロマトグラフィーに供した。
固定相:C18カラム(コスモシル40C18―PREP、ナカライテスク、15kg)移動相:50%及び70% エタノール水溶液。
具体的には、pH3.0に調整した粗精製SL含有組成物−2 1.2kg(固定相充填量15kgに対し、エタノール可溶分として約3%の粗精製SL含有組成物−2)をC18カラムに添加し、まずこれに50%エタノール水溶液35Lを供することにより、水溶性不純物(臭気及び塩類、一部の色素物質)を溶出除去した。引き続きカラムに70%エタノール水溶液30Lを供して、70%エタノール溶液が溶出し始めてから最初の15LをSL含有画分としてC18カラムから回収した。
得られたSL含有液をエバポレーター(東洋ケミカルフードプラント)に供して溶媒(エタノール)を留去し濃縮した。該濃縮物を、スプレードライヤー(乾燥粉体化装置)(SUS304製R-3型、水分蒸発能力MAX5kg/h、坂本技研社製)に供して乾燥粉末化した。スプレードライの条件は、アトマイザー12000rpm、槽内温度105℃とした。その結果、微細な粉末が得られた(実施例品1)。
実施例2:低毒性SL含有組成物の製造
前記参考製造例2で得た粗精製SL含有組成物−2を、硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH3.0に調整した。
pH3.0に調整した粗精製SL含有組成物−2 1.2kgを分液漏斗に投入し、400mlのジエチルエーテルを加えて混合し、2層に分離させてから下層を新たな分液漏斗に回収した。再度400mlのジエチルエーテルを加え、ジエチルエーテルによる抽出作業を3回行った。下層から抜き取った回収液を50℃条件下においてエーテルの臭気が感じなくなるまで放置したあと、実施例1と同様に逆相カラムクロマトグラフィーに供した。具体的にはジエチルエーテルを揮発させた上記回収液をC18カラムに添加し、まずこれに50%エタノール水溶液35Lを供し、水溶性不純物(臭気及び塩類、一部の色素物質)を溶出除去した。引き続き70%エタノール水溶液30Lを供して、70%エタノール溶液が溶出し始めてから最初の15LをSL含有画分としてC18カラムから回収した。
得られたSL含有液をエバポレーター(東洋ケミカルフードプラント)に供して溶媒(エタノール)を留去し濃縮した。該濃縮物を、スプレードライヤー(乾燥粉体化装置)(SUS304製R-3型、水分蒸発能力MAX5kg/h、坂本技研社製)に供して乾燥粉末化した。スプレードライの条件は、アトマイザー12000rpm、槽内温度105℃とした。その結果、微細な粉末が得られた(実施例品2)。
実施例3〜7:低毒性SL含有組成物の製造
前記参考製造例2で得た粗精製SL含有組成物−2を、硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH3.0に調整した。これを、ジエチルエーテル(エーテル)を用いて下記の方法で抽出した(溶剤抽出法)。
具体的には、pH3.0に調整した粗精製SL含有組成物−2を50mlのスクリュー
キャップ付きガラス遠沈管にエタノール可溶分が3gになるように加えて、これに蒸留水
を添加し、全量が15mlになるように調整した。これに下記容量のエーテルを加えて激しく混合したあと、200×gで2分間遠心を行って2層に分離させ、上層のエーテル層を除去した、(抽出作業)。この抽出作業を下記の回数行った。
実施例3:3mlエーテルを用いた抽出作業を1回実施(→実施例品3)
実施例4:7mlエーテルを用いた抽出作業を1回実施(→実施例品4)
実施例5:15mlエーテルを用いた抽出作業を1回実施(→実施例品5)
実施例6:15mlエーテルを用いた抽出作業を2回実施(→実施例品6)
実施例7:15mlエーテルを用いた抽出作業を3回実施(→実施例品7)。
その後、50℃条件下で放置してエーテルを除去し、SL含有組成物を得た(実施例品3〜7)。
実施例8〜10:低毒性SL含有組成物の製造
前記参考製造例1で分取した粗精製SL含有組成物−1に水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH14に調整し、80℃で15分間(実施例8)、80℃で30分間(実施例9)、及び80℃で45分間(実施例10)加熱することで、加水分解(アルカリ加水分解)を行った。次いで、これらを室温に戻してから硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH7.5に調整し、発生した不溶物をろ過除去した。さらに、硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH3.0に調整し、50mlのスクリューキャップ付きガラス遠沈管にエタノール可溶分が3gになるように加えて、これに蒸留水を添加し、全量が15mlになるように調整
した。これにヘキサンを加えて激しく混合したあと、200×gで2分間遠心を行って2層に分離させ、上層のヘキサン層を除去した、(抽出作業)。この抽出作業を5回行った。その後、80℃条件下で放置してヘキサンを除去し、SL含有組成物を得た(実施例品8〜10)。
試験例1 各試料の物性測定方法
上記の参考製造例1及び2、並びに実施例1〜10で調製したSL含有組成物(粗精製SL含有組成物−1、粗精製SL含有組成物−2、実施例品1〜10)について、下記の方法に従って、エステル価(mg KOH/g)、水酸基価(mg KOH/g)、エーテル抽出物含量(%)、色相(OD440)、蒸発残分(%)、乾燥減量(%)、エタノール可溶分(%)、及び
赤外吸収スペクトル(cm-1)を測定した。また、HPLC分析を行った。
(1)試験の概要
Figure 2016160264
(2)試験方法
(A)エステル価
けん化価(エタノール可溶分1g相当の試料中の遊離酸の中和及びエステルのけん化に要する水酸化カリウムのmg数:JIS K 3331、日本油化学協会規定の基準油脂分析試験法[2.3.2.1-1996])と酸価(エタノール可溶分1g相当の試料中に含有する遊離酸を中和
するのに要する水酸化カリウムのmg数:JIS K 3331、日本油化学協会法の基準油脂分析試験法[2.3.1-1996])との差として求めることができる他、直接測定する方法として、下記の方法を用いることができる。
[直接法] 試料約3gをけん化用フラスコに正しくはかり取り、95vol%エタノール50mLを加えてフェノールフタレイン指示薬を用いてよく振り混ぜながら、0.1mol/L 水酸化
カリウム標準液で滴定中和する(酸価が求められる)。次にこれに0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液25mLを正しく加え、フラスコに冷却器をつけ、時々振り混ぜながら、還流するエタノールが冷却器の上端に達しないように加熱温度を調節して穏やかに加熱する。フラスコの内容物を30分間沸騰させた後、直ちに冷却し、内容物が寒天状に固まらないうちに、冷却器をはずして、フェノールフタレイン指示薬を数滴加え、0.5mol/L塩酸標準液で滴定し、指示薬の微紅色が消え、それが30秒間続いたときに終点と定め、要した0.5mol/L塩酸標準液の使用量を「本試験の0.5mol/L塩酸標準液の使用量(mL)」とする。なお、並行して、95vol%エタノール50mLを取り、0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液25mLを正しく加えたものについて空試験を行い、空試験において要した0.5mol/L塩酸標準液の使用量を「空試験の0.5mol/L塩酸標準液の使用量(mL)」とし、下式1から試料1gのエステル価を算出する。エタノール可溶分1g相当の試料のエステル価は、当該試料のエタノール可溶分(%)から、下式2に従って求めることができる。
Figure 2016160264
(B)水酸基価
水酸基価(エタノール可溶分1g相当の試料に含まれる遊離のヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数:日本油化学協会規定の基準油脂分析試験法[2.3.6.2-1996])から求めることができる。
[試薬]
アセチル化試薬:12.5 gの無水酢酸を100 mlの全量フラスコに入れ、ピリジンを標線まで加え、注意しながら十分に混ぜる。このようにして調製した液は、湿気、二酸化炭素、および酸の蒸気にふれないようにし、褐色ビンに保存する。
[試験方法]
試料1gを正確に首長丸底フラスコに投入し、適当量のアセトンを加えて105℃で加温
し、水分を除去する。その後、アセチル化試薬を5 ml正しく加え、95〜100 ℃に加熱する。1時間加熱した後、フラスコを加熱浴から取って空冷させ、1 mlの蒸留水を加えて混合
したあと、フラスコを再度加熱浴に入れ、10分間加熱する。再び引き上げて空冷させ、漏斗の壁に凝縮した液を5 mlの中性エタノールで洗い流しながら加える。このフラスコの内容物にフェノールフタレイン溶液を加え、0.5 N KOH/EtOHで滴定し、下式に基づいて試
料1gの水酸基価を算出する。また、下記式3中、酸価は、試料1g中に含有する遊離酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数であり、日本油化学協会法の基準油脂分析
試験法(JIS K 3331)[2.3.1-1996]に従って求めることができる。エタノール可溶分1g相当の試料の水酸基価は、当該試料のエタノール可溶分(%)から、下式4に従って求めることができる。
Figure 2016160264
(C)エーテル抽出物含量(%)
エーテル抽出物含量は、エタノール可溶分1g相当の試料からエーテルを用いて抽出される物質の量を質量百分率で示したものである。
[測定方法]
試料1gを50ml容量のナス型フラスコに投入し、10%水酸化ナトリウム水溶液を10ml加えて冷却管を接続し、80℃で2時間加温を行った。10%塩酸水溶液を10ml加えて中和させ、99.5%エタノールを加えながらエバポレーターで水分を留去した。その後、99.5%エタノールを10ml加えて超音波処理を行いながら分散させ、分散液をガラス漏斗を用いてろ過し、ろ液を50ml容ナス型フラスコに移した。99.5%エタノールでさらに洗いこみを行ったあと、エタノールをエバポレーターで留去させ、
残留物を15mlスクリューキャップ付きガラス遠沈管に移し、硫酸(関東化学製)を
用いてpHを3に調整し、全量を蒸留水で5mlに合わせた。5mlのエーテルを加えて激しく混合し、卓上遠心機H-108M2(コクサン製)を用いて1000 rpmで2分間遠心し、2
層に分離させた。上層を重量既知の100mlビーカーに移し、新たに5mlのエーテルを加え、合計で3回エーテル抽出作業を行った。エーテル抽出液の入った100mlビーカーを50℃のインキュベーターに投入してエーテルを除去し、さらに105℃のインキュベーターで30分間置き、エーテルを完全に除去した。
室温に戻してから重量測定を行い、試料1g中のエーテル抽出物含量は下式5をもとに算出した。エタノール可溶分1g相当の試料のエーテル抽出物含量は、当該試料のエタノール可溶分(%)から、下式6に従って求めることができる。
Figure 2016160264
(D)HPLC分析によるエーテル抽出物の組成分析
(C)エーテル抽出物含量で得られたエーテル抽出物を99.5%エタノールに1%溶
液となるように溶解し、下表の条件でHPLC分析を行った。このHPLC分析条件により、酸型SLは8〜20分、ヒドロキシ脂肪酸は20〜45分、脂肪酸は45〜55分のリテンションタイムにそれぞれ検出される。20〜55分のリテンションタイムに検出される各ピークを、既知のヒドロキシ脂肪酸および脂肪酸(標準品)のリテンションタイムと対比することでヒドロキシ脂肪酸及び脂肪酸を同定し、且つ個々のピークの面積を20〜55分のリテンションタイムに検出されるピークの面積の総和で除することで、エタノール可溶分1gに対する脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の割合を算出した。つまり、下式10によりそれぞれ個別の含量を算出した。
Figure 2016160264
得られた脂肪酸の表記の方法は、炭素数をCの後に記載し、その後セミコロンを挟んで二重結合の数を表す。つまり、炭素数18で二重結合を1つ持つオレイン酸の場合はC18:1となる。また、ヒドロキシ脂肪酸を表す場合は、末尾に(OH)を追加する。つまり、炭素数18のヒドロキシオレイン酸の場合はC18:1(OH)となる。
Figure 2016160264
(E)色相(OD 440
色相(OD440nm)は、エタノール可溶分が10質量%になるように、被験試料をアルカ
リ水溶液(2% Na2CO3in 0.1N NaOH)に溶解して調製した水溶液の、波長440nmにおける吸光度を測定することで求めることができる。
(F)蒸発残分(%)
蒸発残分(%)は、試料の重量を精密に秤量した後、JIS K0067-1992規定の第2法(熱板上で加熱蒸発する方法)に従って蒸発乾固し、その残分を量り、下式7から求めることができる。
Figure 2016160264
(G)乾燥減量(%)
乾燥減量(%)は、試料の重量を精密に秤量した後、JIS K0067-1992規定の第1法(大気圧下で加熱乾燥する方法)に従って加熱乾燥し(105±2℃、2時間)、乾燥後の減量を
量り、下式7から求めることができる。
Figure 2016160264
(H)エタノール可溶分(%)
エタノール可溶分は、試料をエタノールで溶解し、エタノールに溶ける物質の量を示したものである。
[測定方法]
三角フラスコ及びガラスろ過器の重量を正確に測定する。これらの重量は105℃で2時
間以上乾燥後、デシケーター内で放冷してから測定する。三角フラスコに試料約5gを1mg単位まで正確に量り取り、エタノールを試料の100mL添加して、ガラス管を付けて水浴上で30分間加熱し、時々振り混ぜながら溶解する。なお、粉状または粒状試料には95vol%エタノールを使用し、液状又はペースト状試料には99.5vol%のエタノールを使用する。温
溶液のままガラスろ過器を用いてろ過し、三角フラスコの残量に再びエタノール50mLを加えて溶解する。温溶液をガラスろ過器を用いてろ過し、熱エタノールで三角フラスコ及びガラスろ過器をよく洗浄する。室温まで放冷し、全量フラスコ250mLにろ液および洗液を
移し、エタノールを標線まで加え、この中から、全量ピペットを用いて、100mLずつ質量
既知の2個のビーカー200mLに分取する。そのうちの1個を、水浴上で加熱してエタノー
ルを除いた後、105±2℃に調節した乾燥器で1時間乾燥し、デシケーターで放冷後、重量を正確に測定する(乾燥残量)。
下式8からエタノール可溶分(%)を算出する。
Figure 2016160264
(I)強熱残分
強熱残分試験は、被験試料を下記の方法[第1法]で強熱した後に残留する物質の量を測定する方法である。通常、有機物中に不純物として含まれる無機物の含量を知る目的で行われるが、場合によっては、有機物中に構成成分として含まれる無機物又は揮発性無機
物中に含まれる不純物の量を測定するために行なわれる。例えば、本発明において「強熱残分0.1%以下(第1法、1g)」と規定したものは、被験試料約1gを精密に量り、下記第1法の操作法によって強熱したとき、その残分が被験試料の採取量の0.10%以下であることを示す。
[試料の採取法]白金製、石英製または磁製のるつぼを恒量になるまで強熱し、デシケーター(シリカゲル)中で放冷した後、その質量を精密に量る(採取量)。これに規定量の±10%の範囲の試料を精密に測定し、次の操作を行う。
[第1法]るつぼの上で試料を硫酸少量で潤し、徐々に加熱してなるべく低温でほとんど灰化又は揮散させた後、硫酸で潤し、完全に灰化し、恒量になるまで強熱(450〜550℃)する。これをデシケーター(シリカゲル)中で放冷した後、質量を精密に量る。得られた測定値(残分)とあらかじめ測定しておいた採取量から、下式9により強熱残分(%)を算出する。
Figure 2016160264
(J)赤外吸収スペクトル
赤外吸収スペクトルの測定には、液体試料は105±2℃で3時間加熱乾燥固化したものを使用し、固体試料はそのまま使用した。赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光分析装置SpectrumTM100(パーキンエルマージャパン製)を使用し、ATR法で分析し
た。
(3)試験結果
参考製造例及び実施例で調製したSL含有組成物(粗精製SL含有組成物−1、粗精製SL含有組成物−2、実施例品1〜10)について得られた試験結果を表3に示す。
Figure 2016160264
試験例2 界面活性剤としての性能評価
上記の参考製造例2、及び実施例1〜10で得られたSL含有組成物(粗精製SL含有組成物−2、実施例品1〜10)について、臨界ミセル濃度(CMC)及び表面張力低下能
を測定した。また比較対照として、市販のアニオン界面活性剤(A:「アミノソフトLT-12」(30%):味の素(株)製、B:「サーファクチンNa」(100%):和光純薬工業(株)製、C:「リポランLJ-441」(37%):ライオン(株)製)、Tween 20(Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate (20 E.O.))及びSLS(Sodium Lauryl Sulfate)についても同様に臨界ミセル濃度(CMC)及び表面張力低下能を測定した。なお、市販のアニオン界面活性
剤Aの成分はN−アシル−L−グルタミン酸トリエタノールアミン、Bの成分はサーファクチンNa、Cの成分はα−オレフィンスルホン酸Naである。
(1)実験方法
臨界ミセル濃度(CMC)及び表面張力低下能の測定はWilhelmy法に準拠して測定した。
自動表面張力計 CBVP−Z型一式(協和界面科学株式会社製)を使用し、20℃、pH7
の条件で測定を行った。なお、pH調整には、水酸化ナトリウム水溶液または塩酸水溶液を使用した。
(2)実験結果
各被験試料の臨界ミセル濃度(CMC)及び表面張力低下能の測定結果を、表4に示す。
Figure 2016160264
試験例3 Hela細胞を用いた細胞毒性試験
上記の参考製造例2、及び実施例1〜10で得られたSL含有組成物(粗精製SL含有組成物−2、実施例品1〜10)について、Hela細胞を用いて細胞毒性試験を行った。また比較対照として、前述する市販アニオン界面活性剤A〜C、並びにTween 20及びSLSに
ついても同様に細胞毒性試験を行った。
(1)実験方法
HeLa細胞(クラボウ)を96ウェルプレートに2×10cells/wellの濃度で播種し、10%NCS(Newborn Calf Serum:invitrogen製)、非必須アミノ酸、58μg/mlL-グルタミ
ン酸、60μg/mlカナマイシンを含んだDulbecco’s Modified EAGLE MEDIUM培地(日水製薬製)で37℃、5%CO2下で72時間培養した。被験試料を含んだ培地に交換し、48時間後
、1mg/ml MTT(3-(4,5-Dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyl-2H-tetrazolium bromide
)入り培地に交換した。2時間処理し、イソプロパノールで色素であるホルマザンを抽出し、波長570nmの吸光度を測定した。細胞生存率%は下式から求めた。
Figure 2016160264
(2)実験結果
上記のMTTアッセイから細胞生存率を算出し、得られた細胞生存率から細胞致死濃度(IC50)を求めた。
細胞生存率から算出した細胞致死濃度(IC50)と試験例1で算出したCMCをプロットしたグラフを図1に示す。表5に各被験試料について試験例1で算出したCMC(ppm)
、細胞致死濃度(IC50)及びこれら2つの数値の除算値(IC50/CMC)を纏めた結果を示す。
Figure 2016160264
この結果、実施例品1〜10のIC50は、2000ppm〜60000ppmであり、市販の界面活性剤並
びにTween 20及びSLSのIC50(10〜700ppm)と比較しても格段に大きく、毒性が顕著に低
いことが判明した。またこれらの実施例品のIC50は、その製造途中で得られる粗精製SL含有組成物−2のIC50(1500ppm)の1.3倍以上であり、粗精製SL含有組成物−2に対して行う処理(溶剤抽出処理、疎水性カラムクロマトグラフィー)により、顕著に毒性成分が除去されることが確認された。
なお、本試験で行った細胞毒性試験は、眼や粘膜への刺激性を評価する眼刺激性試験として汎用されているDraize試験に代わる方法(眼刺激性試験代替法)として提案されてい
る(岡本賢二「日本における眼刺激性試験代替法の動向」、FRAGRANCE JOURNAL 2005-2, P.67-71;「代替法を用いて化粧品原料の眼刺激性を評価するにあたっての指針(厚生科
学研究班の作成した案)」Altern. Animal Test. Experiment, 5(Supplement), 1988)。後者論文に記載された厚生省の案によると、被験物質とともに、無刺激性の標準物質としてTween 20、及び陽性対照物質としてSLSについても同様に細胞毒性試験を行い、IC50がTween 20よりも大きい値の被験物質は「実質上無刺激性」であり、またIC50がTween 20よ
り小さく、SLSよりも大きい値の被験物質は「軽度刺激性」であると評価できることが記
載されている(後者論文の注8参照)。
上記表に示すように、実施例1〜10に示す本発明の低毒性SL含有組成物のIC50値はいずれもTween 20のIC50よりも格段に大きいことから「無刺激性」の物質であると判断される。また本発明の低毒性SL含有組成物のIC50値は、市販の界面活性剤のIC50値よりも遙かに大きいことから、従来公知の界面活性剤のなかでも特に低毒性で且つ低刺激性である。
また本発明の低毒性SL含有組成物のIC50値は、CMCに対する比(IC50/CMC)が6.7〜200倍であり、CMCとかけ離れていることから、安全性(低毒性、低刺激性)を担保しながら界面活性剤としての機能を十分に発揮できることが確認された。
試験例4 高級脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の細胞毒性
SL含有組成物に多く含まれている高級脂肪酸としてオレイン酸を使用し、またヒドロキシ脂肪酸として12−ヒドロキシステアリン酸を使用して、高級脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の細胞毒性を測定した。
具体的には、オレイン酸及び12−ヒドロキシステアリン酸をそれぞれ100,000ppmとなるように、99.5%エタノールに溶解し、GHPメンブランフィルター(0.45μm)(日本ポール製)に通した。これらを1,000ppm〜50,000ppm濃度になるように99.5%エタノールで希釈
した。これらの各希釈液10μlに990μlの10%NCS培地を加えて、細胞毒性用試験液として調製した(濃度範囲が10ppm〜1,000ppmの試験液を調製)。これを試験液として、試験例
3に記載する方法に従って、Hela細胞の生存率(%)を測定し、オレイン酸及び12−ヒドロキシステアリン酸それぞれについて細胞致死濃度(IC50)を算出した。
その結果、オレイン酸及び12−ヒドロキシステアリン酸それぞれの細胞致死濃度(IC50)は、300ppm及び160ppmであった。これらのIC50値は、本発明の低毒性SL含有組成物(実施例品1〜10)のIC50値(2000〜60000ppm、表4参照)の1/6〜1/375倍と小さく、これらが本発明の低毒性SL含有組成物に混入するとSL含有組成物の細胞毒性が高まることが懸念された。逆にいえば、こうした炭素数16〜18などの高級脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を含まないか、含んでいてもその量が微量になるようにSL含有組成物を調製することで、低毒性のSL含有組成物を取得できることがわかる。
試験例5 ラクトン型SLによる界面活性能に対する影響
下記の構成を有する高純度SL含有組成物に、ラクトン型SLを添加して、酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%とした場合のラクトン型SLの割合が0〜2質量%(エタノール可溶分1g相当物のエステル価:0〜2mgKOH/g)の範囲になるように調製した(実施例品11〜15)。
[高純度SL含有組成物]
(1)酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量
%あたり、酸型SL99.95質量%、ラクトン型0質量%、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)0.05質量%
(2)エタノール可溶分が10質量%になるように溶解した水溶液の波長440nmにお
ける吸光度(OD440):0.08
(3)エタノール可溶分1g相当物の水酸基価:596mgKOH
(4)Hela細胞に対する細胞致死濃度(IC50):63000ppm。
これらのSL含有組成物について、臨界ミセル濃度(CMC)及び表面張力低下能を測定
し、界面活性剤としての性能(濡れ性、可溶化力、洗浄力、起泡性)を評価した。なお、臨界ミセル濃度(CMC)及び表面張力低下能は、試験例2と同様に、Wilhelmy法に準拠し
て測定した。具体的には、自動表面張力計 CBVP−Z型一式(協和界面科学株式会社製)
を使用し、20℃、pH7の条件で測定を行った。
結果を表6に示す。
Figure 2016160264
一般的に、アニオン界面活性剤(酸型SLはその一例)に非イオン型界面活性剤(ラクトン型SLはその一例)を添加した場合、表面張力は上がる場合もまた下がる場合もあり、通常は推測することができない。本発明のSL含有組成物は、表6に示すように、アニオン界面活性剤(酸型SL)に非イオン型界面活性剤(ラクトン型SL)を添加すると、所定量までは、表面張力が低下することが確認された。具体的には、ラクトン型SLの割合が0%から1.5%まで増加するにつれて表面張力(最低表面張力値)が低下した。し
かし、1.5%で頭打ちになり、ラクトン型SLをそれ以上添加しても表面張力に変化はなかった。
表面張力の低下は、界面活性剤に求められる利点の一つであり、本組成物では2%までの濃度でラクトン型SLを含むことにより、界面活性剤としての性能が向上することが予測され、洗浄力、濡れ性、可溶化力、起泡性の向上という効果が期待される。
試験例6 身体洗浄料の調製とその評価(泡立ち性、すすぎ牲、皮膚刺激性)
上記の実施例1で得られた低毒性SL含有組成物を用いて、表7に記載する処方に従って、身体洗浄料(本発明身体洗浄料1〜4(液状)及び5〜6(固形))を製造し、各身体洗浄料の特性(泡立ち性、すすぎ性、及び皮膚刺激性)を評価した。また、比較試験として、上記の参考製造例2で得られた粗精製SL含有物―2を用いて、表8に記載する比較身体洗浄料1〜5(液状)及び6〜7(固形)についても同様に上記各特性を評価した。
(1)実験方法
(1−1)泡立ち及びすすぎ性
自称敏感肌の被験者5名に、表7及び8に記載する各身体洗浄料(本発明身体洗浄料1〜6、比較身体洗浄料1〜7)を濡れた手のひらに出して、30秒間、両手のひらを擦り合わせてもらい、泡立ちを評価してもらった。なお、液状洗浄料は1ml量を用い、固形洗浄料も液状洗浄料の1mlに相当する量を手のひらで擦り合わせて使用した。その後、40
℃の流水で30秒間両手のひらを擦り合わせながら濯いでもらい、洗浄料のすすぎ性を評価してもらった。泡立ちは4段階(かなり泡立つ:◎、泡立つ:○、やや泡立つ:△、泡立たない:×)で、またすすぎ性は2段階(ぬめり及びきしみ感をいずれも感じない:○、ぬめりまたはきしみ感を感じる:×)で評価した。
(1−2)皮膚刺激性
皮膚感作テスト(パッチテスト)用テープ(フィンチャンバー[商標登録]:スマートプラクティスジャパン製)の濾紙部に、精製水で1%に希釈した各被験身体洗浄料を20 μl添加し、被験者(自称敏感肌の20〜50代、男女10名)の左手の前腕屈側部と手首のほぼ中間あたりに貼り付けた。20分間作用させた後、テープを除去し、洗い流さずそのまま放置した。判定は、テープ除去40分後とした。紅斑が認められた被験者については、紅斑が消失するまで観察を続けた。また判定時、ヒリヒリ感やチクチク感などの刺激の有無についても調べた。
テープ除去40分後に適用部位を肉眼により観察した。判定は下表の日本接触皮膚炎学会の基準に従った。
Figure 2016160264
判定は、「−:0点、±:1点、+:2点、++:3点、+++:4点」とし、各被験者のスコア
を平均化した。皮膚刺激性の評価は、「平均スコア0〜0.30点:◎、0.31〜0.80点::○
、0.81〜1.20:△、1.21以上:×」の4段階で評価とした。
(2)実験結果
結果を表8及び9に合わせて示す。
Figure 2016160264
Figure 2016160264
本発明身体洗浄料6の結果からわかるように、本発明が対象とする低毒性SL含有組成物はそれ自体泡立ち性が極めて良好であり、しかもすすぎ性も極めて良好であった。さらに、当該低毒性SL含有組成物は皮膚に対する刺激性も極めて低く、それは皮膚刺激性の
高い界面活性剤(ラウレス硫酸Na)を併用した場合でも変わらなかった(本発明身体洗浄料3)。
また、本発明の身体洗浄料は、低毒性SL含有組成物を0.01質量%と極めて低濃度で含む場合(本発明身体洗浄料1)であっても泡立ち性がよく、すすぎ性も良好であった。さらに低毒性SL含有組成物を10質量%もの高濃度で含む場合や、泡立ち性及びすすぎ性の悪い界面活性剤(ラウレス硫酸Na)を併用した場合でも、泡立ち性は極めて良好であり、さらにすすぎ性も良好であった。
これらのことから、本発明で提供する低毒性SL含有組成物を界面活性剤として使用することで、泡立ち性、及びすすぎ性が良好で、しかも皮膚刺激性が少ない身体洗浄料を調製し、提供することができることがわかる。
試験例7 毛髪洗浄料の調製とその評価(泡立ち性、すすぎ牲、皮膚刺激性)
実施例1で得られた低毒性SL含有組成物を用いて、下記表に記載する処方に従って、液状の毛髪洗浄料(pH4〜7)を製造し(本発明毛髪洗浄料1〜4)、各毛髪洗浄料の特性(泡立ち性、すすぎ性、及び皮膚刺激性)を評価した。また、比較試験として、下記表に記載する比較毛髪洗浄料(pH4〜10)についても同様に上記各特性を評価した。
(1)実験方法
(1−1)泡立ち及びすすぎ性
自称敏感肌の被験者女性5名(髪の長さ:肩にかかる程度)に、下記表に記載する各毛髪洗浄料(本発明毛髪洗浄料1〜4、比較毛髪洗浄料)6mlを用いて、40℃のお湯で洗髪
してもらい、泡立ち性及びすすぎ時の髪のきしみ具合からすすぎ性を評価してもらった。泡立ちは4段階(かなり泡立つ:◎、泡立つ:○、やや泡立つ:△、泡立たない:×)で、またすすぎ性は3段階(きしみを感じない:○、きしみをやや感じる:△、きしみを感じる:×)で評価した。
(1−2)皮膚刺激性
試験例6と同じ方法で評価した。
(2)実験結果
結果を下記表に合わせて示す。
Figure 2016160264
この結果からわかるように、低毒性SL含有組成物を用いて調製した本発明の毛髪洗浄料は、低毒性SL含有組成物を30質量%もの高濃度で含有していても皮膚刺激性が極めて低く(本発明毛髪洗浄料3)、それは皮膚刺激性の高い界面活性剤(ラウレス硫酸Na、コカミドプロピルベタイン)を併用した場合でも変わらなかった(本発明毛髪洗浄料4)。また、本発明の毛髪洗浄料は、低毒性SL含有組成物を0.01質量%と低濃度で含む場合(本発明毛髪洗浄料1)であっても、泡立ち性がよく、すすぎ性も良好であった。さらに低毒性SL含有組成物を30質量%もの高濃度で含む場合や(本発明毛髪洗浄料3)、泡立ち性及びすすぎ性の悪い界面活性剤(ラウレス硫酸Naやコカミドプロピルベタイン)を併用した場合でも(本発明毛髪洗浄料4)、泡立ち性は極めて良好であり、さらにすすぎ性も良好であった。さらに一般的に石ケンが配合された毛髪洗浄料は、泡立ちやすすぎ性が悪いことが知られているが、低毒性SL含有物を配合することで泡立ちやすすぎ性が良好な洗浄料となった(本発明毛髪洗浄料5)。
これらのことから、本発明で提供する低毒性SL含有組成物を界面活性剤として使用することで、泡立ち性、及びすすぎ性が良好で、しかも皮膚刺激性が少ない毛髪洗浄料を調製し、提供することができることがわかる。
試験例8 洗眼料の調製とその評価(眼粘膜刺激性)
上記の実施例2で得られたSL含有組成物を用いて、表11に記載する処方に従って、液状の洗眼料(pH6)を製造し(本発明洗眼料1〜3)、各洗眼料の眼粘膜への刺激性を評価した。また、比較試験として、表11に記載する比較洗眼料1及び2(pH6)についても同様に眼粘膜への刺激性を評価した。
(1)実験方法:
(眼・粘膜刺激性評価)
眼や粘膜などの刺激性を評価する眼・粘膜刺激性試験の代替法として、細胞毒性試験が提案されている。そこで、ウサギの角膜上皮由来細胞(SIRC)細胞を用いて細胞毒性試験を行った。まず、96wellプレートに各洗眼料をMEM培地で段階的に希釈したものを100
μL添加し、そこにSIRC細胞を1×104cells/wellの濃度で播種し、37℃、5%CO2下で72時
間培養した。培養後、0.5mg/mL MTT入り培地に交換し、さらに2時間培養した。得ら
れた培養物からイソプロパノールを用いてホルマザン(色素)を抽出し、570nmの吸光度
を測定した。細胞生存率(%)を下式で求めた。
Figure 2016160264
比較対照物質のトリエタノールアミン(TEA)を用いて同様に試験し(比較試験)、上
記で得られた細胞生存率(%)が比較試験で得られた細胞生存率よりも高い場合を◎(細胞毒性がTEAより低い)、同程度の場合を○(細胞毒性がTEAと同等)、低い場合を×(細胞毒性がTEAより高い)と判定した。
(2)実験結果
結果を表11に合わせて示す。
Figure 2016160264
この結果からわかるように、低毒性SL含有組成物を用いて調製した本発明の洗眼料は、低毒性SL含有組成物を10質量%もの高濃度で含有していても眼粘膜刺激性が極めて低かった(本発明洗眼料3)。また、本発明の洗眼料は、低毒性SL含有組成物を0.001
質量%と極めて低濃度で含む場合であっても(本発明洗眼料1)、良好な洗浄力を発揮することが確認された。
これらのことから、本発明で提供する低毒性SL含有組成物を界面活性剤として使用することで、洗浄力が良好で、しかも眼粘膜刺激性が低い洗眼料を調製し、提供することができることがわかる。
試験例9 点眼薬の調製とその評価(眼刺激性)
実施例5で得られたSL含有組成物を用いて、表12に記載する処方に従って、液状の点眼薬(pH6)を製造し(本発明点眼薬1〜3)、各点眼薬の眼刺激性を評価した。ま
た、比較試験として、表12に記載する比較点眼薬1及び2(pH6)についても同様に眼粘膜刺激性を評価した。
(1)実験方法
(1−1)眼粘膜刺激性
被験試料として、本発明点眼薬1〜3及び比較点眼薬1〜2を用いて、試験例8と同様に、ウサギの角膜上皮由来細胞(SIRC)細胞を用いた細胞毒性試験を行い、眼粘膜刺激性を評価した。
(2)実験結果
結果を表12に合わせて示す。
Figure 2016160264
この結果からわかるように、低毒性SL含有組成物を用いて調製した本発明の点眼薬は、試験例8で評価した洗眼料と同様に、低毒性SL含有組成物を10質量%もの高濃度で含有していても眼粘膜刺激性が極めて低かった(本発明点眼薬3)。このことから、本発明で提供する低毒性SL含有組成物を界面活性剤として使用することで、眼粘膜刺激性が低い点眼薬を調製し、提供することができることがわかる。
試験例10 口腔洗浄液の調製とその評価(粘膜刺激性)
上記の実施例9で得られたSL含有組成物を用いて、表13に記載する処方に従って、液状の口腔洗浄液(pH6.5)を製造し(本発明洗口液1〜3)、各洗口液の口腔粘膜刺
激性を評価した。また、比較試験として、表13に記載する比較洗口液1〜3(pH6.5
)についても同様に口腔粘膜刺激性を評価した。
(1)実験方法
(口腔粘膜刺激性)
被験試料として、本発明洗口液1〜3及び比較洗口液1〜3を用いて、試験例8と同様に、ウサギの角膜上皮由来細胞(SIRC)細胞を用いた細胞毒性試験を行い、口腔粘膜刺激性を評価した。
(2)実験結果
結果を表13に合わせて示す。
Figure 2016160264
この結果からわかるように、低毒性SL含有組成物を用いて調製した本発明の口腔洗浄液は、低毒性SL含有組成物を10質量%もの高濃度で含有していても口腔粘膜刺激性が極めて低かった(本発明洗口液3)。また、本発明の口腔洗浄液は、低毒性SL含有組成物を0.001質量%と極めて低濃度で含む場合であっても(本発明洗口液1)、良好な洗浄
力を発揮することが確認された。
これらのことから、本発明で提供する低毒性SL含有組成物を界面活性剤として使用することで、洗浄力が良好で、しかも口腔粘膜刺激性が低い洗口料を調製し、提供することができることがわかる。
試験例11 粘膜洗浄料の調製とその評価(粘膜刺激性)
上記の実施例1で得られたSL含有組成物を用いて、表14に記載する処方に従って、液状の粘膜洗浄料(pH6)を製造し(本発明粘膜洗浄液1〜4)、各洗浄液のすすぎ性及び粘膜刺激性を評価した。また、比較試験として、表14に記載する比較粘膜洗浄液1〜2(pH6)についても同様にすすぎ性と粘膜刺激性を評価した。
(1)実験方法
粘膜刺激性
被験試料として、本発明粘膜洗浄液1〜4及び比較粘膜洗浄液1〜2を用いて、試験例8と同様に、ウサギの角膜上皮由来細胞(SIRC)細胞を用いた細胞毒性試験を行い、粘膜刺激性を評価した。
(2)実験結果
結果を表14に合わせて示す。
Figure 2016160264
この結果からわかるように、低毒性SL含有組成物を用いて調製した本発明の粘膜洗浄液は、低毒性SL含有組成物を30質量%もの高濃度で含有していても粘膜刺激性が極めて低かった(本発明粘膜洗浄液3)。また、本発明の粘膜洗浄液、低毒性SL含有組成物を0.001質量%と極めて低濃度で含む場合であっても(本発明粘膜洗浄液1)、良好な洗
浄力を発揮することが確認された。
これらのことから、本発明で提供する低毒性SL含有組成物を界面活性剤として使用することで、洗浄力が良好で、しかも粘膜刺激性が低い粘膜洗浄液を調製し、提供することができることがわかる。
試験例12 創傷用洗浄剤の調製とその評価(洗浄力及び創傷部刺激性)
上記の実施例4で得られたSL含有組成物を用いて、表15に記載する処方に従って、液状の創傷用洗浄剤(pH5.5)を製造し(本発明創傷用洗浄剤1〜4)、各洗浄剤の洗
浄力及び創傷部刺激性を評価した。また、比較試験として、表15に記載する比較創傷用洗浄剤1〜2(pH5.5)についても同様に洗浄力と創傷部刺激性を評価した。
(1)実験方法
(1−1)洗浄力
洗浄力は以下の方法で評価した。あらかじめ重量を測定したステンレス片に「モデル汚れ」(下記参照)を均一に塗り広げテストピースを作成した。モデル汚れを乾燥させ重量を測定した。汚れの表面に各創傷用洗浄剤(本発明創傷用洗浄剤1〜4、比較創傷用洗浄剤1〜2)を塗布し、5分間静置後10秒間流水ですすいだ。乾燥後テストピースの重量を
測定し、洗浄前後のモデル汚れの重量比より洗浄率を算出した。
得られた洗浄率から下記基準により洗浄力を評価した。
[洗浄力]
◎:洗浄率75-100%、○:洗浄率50-74%、△:洗浄率25-49%、×:洗浄率0-24%。
[モデル汚れ]
モデル皮脂汚れとモデル血液汚れを5:1で混合したものを「モデル汚れ」として用いた。
(モデル皮脂汚れの組成)
マカデミアナッツ油 40%、ミリスチン酸イソプロピル 20%、パルミチン酸 15%、スクアレン 10%、オレイン酸10%、コレステロール 5%;
(モデル血液汚れの組成)
緬羊無菌脱繊維血液。
(1−2)創傷部刺激性
繊維芽細胞を用いて細胞毒性評価を行った。まず、繊維芽細胞を96wellプレートに1×104cells/wellの濃度で播種し、DMEM培地で37℃、5%CO2下で72時間培養した。各創傷用洗浄剤(本発明創傷用洗浄剤1〜4、比較創傷用洗浄剤1〜2)を任意濃度で添加したDMEM培地に交換し、37℃、5%CO2下で48時間培養した。培養後、0.5mg/mL MTT入り培地に
交換し、さらに2時間培養した。得られた培養物からイソプロパノールを用いてホルマザン(色素)を抽出し、570nmの吸光度を測定した。細胞生存率を下式で求めた。
Figure 2016160264
比較対照物質のトリエタノールアミン(TEA)を用いて同様に試験し(比較試験)、上
記で得られた細胞生存率(%)が比較試験で得られた細胞生存率よりも高い場合◎(細胞毒性がTEAより低い)、同程度の場合を○(細胞毒性がTEAと同等)、低い場合を×(細胞毒性がTEAより高い)と判定した。
(2)実験結果
結果を表15に合わせて示す。
Figure 2016160264
この結果からわかるように、低毒性SL含有組成物を用いて調製した本発明の創傷用洗浄剤は、低毒性SL含有組成物を30質量%もの高濃度で含有していても創傷部刺激性が極めて低かった(本発明創傷用洗浄剤3)。また、本発明の創傷用洗浄剤は、低毒性SL
含有組成物を0.001質量%と極めて低濃度で含む場合であっても(本発明創傷用洗浄剤1
)、良好な洗浄力を発揮することが確認された。
これらのことから、本発明で提供する低毒性SL含有組成物を界面活性剤として使用することで、洗浄力が良好で、しかも創傷部刺激性が低い創傷用洗浄剤を調製し、提供することができることがわかる。
試験例13 創傷被覆材の調製とその評価(刺激性、分散性)
上記の実施例6で得られたSL含有組成物を用いて、表16に記載する処方に従って、ゲル状の創傷被覆材(pH7)を製造し(本発明創傷被覆材1〜8)、各被覆材の創傷部刺激性及び分散性を評価した。また、比較試験として、表17に記載する比較創傷被覆材(pH7)についても同様に創傷部刺激性及び分散性を評価した。
(1)実験方法
(1−1)創傷部刺激性
被験試料として、本発明創傷被覆材1〜8及び比較創傷被覆材1〜4を用いて、試験例12と同様に、線維芽細胞を用いた細胞毒性試験を行い、創傷部刺激性を評価した。
(1−2)分散性
本発明創傷被覆材1〜8及び比較創傷被覆材1〜4を調製する際、各配合成分が均一に溶解するかを評価した。評価は、2段階(均一に溶解:○、凝集あるいは不溶:×)で行った。
(2)実験結果
結果を表16及び17に合わせて示す。
Figure 2016160264
Figure 2016160264
この結果からわかるように、低毒性SL含有組成物を配合して調製した本発明の創傷被覆材は、低毒性SL含有組成物を配合しない創傷被覆材と比較して、格段に刺激性が低かった(本発明創傷被覆材1〜8)。また各成分の分散性も良好であった。
このことから、本発明で提供する低毒性SL含有組成物を使用することで、各配合成分の分散性を高めるとともに、界面活性剤や抗菌剤などの添加剤に起因して生じる刺激を緩和抑制することができ、その結果、刺激性の低い創傷被覆材を調製し、提供することができることがわかる。
試験例14 低毒性SL含有組成物の保湿作用及び皮膚バリア機能改善作用の評価
上記の実施例1で得られた低毒性SL含有組成物を用いて、表18に記載する処方に従って、被験試料を製造し(本発明ローション1〜3)、各ローションの保湿作用及び皮膚バリア機能改善作用を評価した。また、比較試験として、表18に記載する比較ローション1〜3についても同様に保湿作用及び皮膚バリア機能改善作用を評価した。
(1)実験方法
(1−1)保湿作用
ヒト上腕内部に印をつけ、角層水分量を角層水分測定機(Corneometer CM825(Courage+Khazaka))を用いて測定した(初期値)。各ローション(本発明ローション1〜3、比較ローション1〜3)を20μL/cm2の割合で初期値を測定した部位に塗布した。相対湿度50
%、温度20℃の部屋で4時間、上腕内部を素肌の状態で晒した後、当該塗布部の角層水分量を測定した。各ローション塗布前後の変化率を求め、下記基準に基づいて、各ローションの保湿作用を評価した。
[保湿作用]
◎:角層水分量変化率120%以上
○:角層水分量変化率100〜120%未満
△:角層水分量変化率90〜100%未満
×:角層水分量変化率90%未満。
(1−2)皮膚改善作用
ヒト上腕内部に5%SDS溶液を1時間接触させて、人工的に肌荒れを引き起こさせた。肌荒れを生じた皮膚の肌のキメをマイクロスコープ(マイクロスコープVHX-1000・VH-2
20R(キーエンス))で観察した。また、経皮水分蒸散量をTewameter TM300(Courage+Khazaka)を用いて測定した。この部位に各ローション(本発明ローション1〜3、比較ロー
ション1〜3)を20μL/cm2の割合で1日2回塗布した。これを4日間実施した後、肌の
キメを観察した。また、経皮水分蒸散量をTewameter TM300(Courage+Khazaka)を用いて測定した。各ローション使用前後の変化率を求め、下記基準に基づいて、各ローションの皮膚バリア機能改善作用を評価した。
[皮膚バリア機能改善作用]
◎:水分蒸散量変化率が80%未満
○:水分蒸散量が80〜90%未満
△:水分蒸散量が90-100%未満
×:水分蒸散量が100%以上。
[肌のキメ]
◎:肌のキメが正常に戻った
○:肌のキメがやや改善した。
△:肌のキメがほとんど変化していない。
×:肌のキメが悪くなった。
(2)実験結果
結果を表18に合わせて示す。また、5%SDS溶液処理後及び本発明ローション1で4日間塗布した後の肌をそれぞれマイクロスコープで観察した肌の画像を図1に示す。
Figure 2016160264
この結果から、低毒性SL含有組成物には、低刺激性だけでなく、皮膚保湿作用及び皮膚バリア機能改善作用があることがわかる。特に、10質量%の割合で低毒性SL含有組成物を含むローションは、保湿作用もまた皮膚のバリア機能を改善する作用の両方に優れていることが判明した。このことから、本発明で提供する低毒性SL含有組成物を使用することで、保湿作用及び皮膚のバリア機能改善作用を有する低刺激性外用剤(化粧料、皮膚医薬品、皮膚医薬部外品)を調製し、提供することができることがわかる。
試験例16 化粧水の保湿作用及び刺激性の評価
実施例1で得られた低毒性SL含有組成物を用いて、表19に記載する処方に従って、化粧水(pH5.0)を製造し(本発明化粧水1〜3)、各化粧水の保湿作用、及び刺激性
を評価した。また、比較試験として、表19に記載する比較化粧水1〜3(pH5.0)に
ついても同様に保湿作用及び刺激性を評価した。
(1)実験方法
(1−1)保湿作用及びスティンギングの評価
5名の専門パネラーに各化粧水(本発明化粧水1〜3、比較化粧水1〜3)をそれぞれ洗顔後の顔に塗布してもらい、しっとり感とスティンギング(刺激感)を評価してもらった。しっとり感の評価は「しっとりする:◎、ややしっとりする:○、あまりしっとりしない:△、しっとりしない:×」の4段階で、またスティンギング(刺激感)の評価は「全く刺激を感じない:○、わずかに刺激を感じる:△、非常に刺激を感じる:×」の3段階で行った。
(1−2)刺激性
(a)皮膚刺激性
本発明化粧水1〜3、及び比較化粧水1〜3を用いて、試験例6と同様に10名の被験者を対象としてパッチテストを行い、各化粧水の皮膚刺激性を評価した。
(2)実験結果
結果を表19に合わせて示す。
Figure 2016160264
この結果からわかるように、低毒性SL含有組成物を用いて調製した本発明の化粧水は、低毒性SL含有組成物を10質量%及び20質量%もの高濃度で含有していても皮膚刺激性が極めて低く、しかもグリセリン及びヒアルロン酸ナトリウムの保湿性を妨げることなく、むしろ増加させていることが確認された(本発明化粧水2及び3)。
これらのことから、本発明で提供する低毒性SL含有組成物を界面活性剤として使用することで、良好な保湿性を有し、かつ皮膚刺激性が低い化粧料を調製し、提供することができることがわかる。
試験例16 美白クリームの刺激性、保存安定性の評価
実施例1で得られた低毒性SL含有組成物を用いて、表20に記載する処方に従って、
美白クリーム(pH5)を製造し(本発明クリーム1〜4)、各クリームの保存安定性、皮膚刺激性及び使用感を評価した。また、比較試験として、表20に記載する比較クリーム1〜2(pH5)についても同様に保存安定性、皮膚刺激性及び使用感を評価した。
なお、各クリームは、下記のようにして製造した。
まずA相の各成分及びB相の各成分をそれぞれ混合して70℃まで加熱する。加熱溶解後、撹拌しながらA相にB相を徐々に添加し、ホモミキサーにて乳化する。次いで撹拌しながら室温まで冷却する。
(1)実験方法
(1−1)保存安定性の評価
各美白クリーム(本発明クリーム1〜4、比較クリーム1〜2)を室温(25±5℃)、50℃、及び−5℃の条件下に1か月間保存し、1か月後に状態の変化を観察した。評価は3
段階(変化なし:○、わずかに分離:△、明らかに分離:×)で行った。
(1−2)皮膚刺激性
本発明クリーム1〜4、及び比較クリーム1〜2を用いて、試験例6と同様に10名の被験者を対象としてパッチテストを行い、各クリームの皮膚刺激性を評価した。
(1−3)使用感
5名の専門パネラーに各美白クリーム(本発明クリーム1〜4、比較クリーム1〜2)を洗顔後の顔に塗布してもらい、使用感(のび性、しっとり感、肌なじみ)を評価してもらった。各評価項目毎に4段階(非常に良い:◎、良い:○、やや悪い:△、悪い:×)で評価を行った。
(2)実験結果
結果を表20に合わせて示す。
Figure 2016160264
この結果からわかるように、低毒性SL含有組成物を用いて調製した本発明の美白クリームは、低毒性SL含有組成物を10質量%及び20質量%もの高濃度で含有していても皮膚刺激性が極めて低く、しかもクリームの保存安定性を妨げることなく、むしろ向上させていることが確認された(本発明クリーム3及び4)。また本発明の美白クリームはいずれも使用感が良好であった。
これらのことから、本発明で提供する低毒性SL含有組成物を界面活性剤として使用することで、良好な保存安定性及び使用感を有し、かつ皮膚刺激性が低い化粧料を調製し、提供することができることがわかる。
試験例18 毛髪保護及び修復効果
(1)試験方法
(1−1)評価被験毛(長さ30cm、10gの毛束)の作製
(i)健常毛
健常な黒色人毛(30cm)を、10%アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)の
水溶液(pH7、室温)に1分間浸漬した後、流水で洗浄し、ドライヤーで乾燥したものを
健常毛(10gの毛束)とした。
(ii)損傷毛
健常な黒色人毛(30cm)をブリーチ剤(6%過酸化水素水と2%アンモニアの1:2(w/w)混合液)(30℃)に30分間浸漬(浴比:毛髪/ブリーチ剤=1/10(w/w))した後、流水で洗浄した。次いで、0.1Mクエン酸と0.2Mリン酸水素二ナトリウムの緩衝液(pH4.0)に
5分間浸漬し、流水で洗浄後、蒸留水(室温)に5分間浸漬した後、取り出してドライヤーで乾燥した。この処理を3回行った毛束10gを損傷毛とした。
(1−2)試験方法
本発明の低毒性SL含有組成物(実施例1)を1質量%濃度で含む水溶液に、0.08重量%濃度になるように蛍光物質Fluorescein sodium salt(SIGMA Batch116K0094 EC208-253-0)を添加して被験溶液を調製した。また比較及び対照試験のため、上記低毒性SL含有組成物(実施例1)に代えて、それぞれ「Aqulio TXF-875」(日本精化社製)を2質量%濃度で含む水溶液、及び水についても、上記と同様に蛍光物質を添加して、被験溶液を調製した。なお、「Aqulio TXF-875」は保湿性を有し、また有効効成分の浸透促進作用を有することが知られている。 これらに各評価被験毛(健常毛、損傷毛)をそれぞれ30分間浸漬し、その後、各評価被験毛の断面を蛍光顕微鏡で観察した。
(2)試験結果
健常毛の結果を図3(A)に、損傷毛の結果を図3(B)に示す。これから明らかなように、低毒性SL含有組成物で処理した評価被験毛は、健常毛も損傷毛もいずれも毛髪表面が保護されるとともに、さらに毛髪内部まで被験溶液が浸透していることが確認された。このことから、本発明の低毒性SL含有組成物を用いることで、毛髪表面がコーティング保護されるだけでなく、毛髪内部まで浸透し、損傷毛の回復を図ることができると期待される。
[処方例]
以下に本願発明の低毒性SL含有組成物を含む各種製品の処方を示す。
処方例1 オイルクレンジング剤
ミリスチン酸ポリグリセリル-6 12.0(質量%)
オレイン酸ポリグリセリル-6 2.0
ラウリン酸ポリグリセリル-10 2.0
ペンタイソステアリン酸ポリグリセリル-10 4.0
ラウリン酸 2.0
パルミチン酸エチルヘキシル 10.0
トリエチルヘキサノイン 45.0
低毒性SL含有組成物(実施例1〜10) 5.0
ブチレングリコール 10.0
精製水 残 量
全 量 100.0質量%。
処方例2 アウトバストリートメント
エタノール 5(質量%)
塩化ヒドロキシプロピルトリモニウムデンプン 0.3
低毒性SL含有組成物(実施例1〜10) 1
精製水 残量
全 量 100.0質量%。
処方例3 点眼薬 (pH6.6)
1-メントール 0.02(質量%)
d-カンフル 0.001
d-ボルネオール 0.005
ユーカリ油 0.01
ミント油 0.002
塩酸ナファゾリン 0.0015
メチル硫酸ネオスチグミン 0.004
マレイン酸クロルフェニラミン 0.03
塩酸ビリドキシン 0.08
酢酸トコフェロール 0.04
L-アスパラギン酸マグネシウム・カリウム 1.4
アミノエチルスルホン酸 0.8
ホウ酸 0.5
ホウ砂 0.1
濃塩化ベンザルコニウム液50(日本薬局方) 0.015
クロロブタノール 0.2
低毒性SL含有組成物(実施例1〜10) 0.3
塩酸/水酸化ナトリウム 適量
精製水 残量
合 計 100.00質量%。
処方例4 洗眼薬 (pH5.8)
1-メントール 0.01(質量%)
イプシロンアミノカプロン酸 0.1
グリチルリチン酸二カリウム 0.1
硫酸亜鉛 0.05
マレイン酸クロルフェニラミン 0.003
L-アスパラギン酸カリウム 0.1
塩化カルシウム 0.05
ホウ酸 1.5
ホウ砂 0.015
濃塩化ベンザルコニウム液50(日本薬局方) 0.004
クロロブタノール 0.2
低毒性SL含有組成物(実施例1〜10) 0.2
エタノール 0.1
塩酸/水酸化ナトリウム 0.01
精製水 残量
合 計 100.00質量%。
処方例5 コンタクトレンズ装着液(pH7.0)
1-メントール 0.015(質量%)
アミノエチルスルホン酸 0.5
塩化カリウム 0.08
塩化ナトリウム 0.15
ホウ酸 0.9
ホウ砂 0.2
ソルビン酸カリウム 0.1
エデト酸ナトリウム(日本薬局方) 0.05
低毒性SL含有組成物(実施例1〜10) 0.5
塩酸/水酸化ナトリウム 適量
精製水 残量
合計 100.0質量%。
処方例6 コンタクトレンズ装着液(pH7.5)
1-メントール 0.01(質量%)
塩化カリウム 0.05
塩化ナトリウム 1
リン酸水素ナトリウム 0.15
リン酸二水素ナトリウム 0.01
低毒性SL含有組成物(実施例1〜10) 0.02
20%ポリヘキサメチレンビグアニド液 0.0005
(商品名:コスモシルCQ)
塩酸/水酸化ナトリウム 適量
精製水 残量
合 計 100.0質量%。
処方例7 創傷洗浄剤(pH6.5)
塩化ナトリウム 0.9(質量%)
低毒性SL含有組成物(実施例1〜10) 0.05
塩酸/水酸化ナトリウム 適量
精製水 残量
合 計 100.0質量%。

Claims (5)

  1. 下記(a)〜(c)の特徴を有する低毒性ソホロリピッド含有組成物:
    (a)SL産生酵母培養物に由来する酸型ソホロリピッド、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を少なくとも含有し、酸型ソホロリピッド、ラクトン型ソホロリピッド、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量を100質量%とした場合に、それぞれの割合が乾燥重量に換算して下記である;
    (1)酸型ソホロリピッド:94〜99.99質量%、
    (2)ラクトン型ソホロリピッド:0〜2質量%、
    (3)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量:0.01〜4質量%、
    (b)低毒性ソホロリピッド含有組成物に含まれる酸型ソホロリピッド100質量部に対するラクトン型ソホロリピッドの割合、または脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が、それぞれ0〜2.12質量部または0.01〜4.25質量部
    (c)低毒性ソホロリピッド含有組成物に含まれる酸型ソホロリピッド及びラクトン型ソホロリピッドがいずれもアセチル基を有しない。
  2. 請求項1〜3のいずれかに記載する低毒性ソホロリピッド含有組成物を有効成分とする、皮膚保湿剤、肌荒れ改善剤、皮膚保護剤、または毛髪保護剤。
  3. 請求項1〜3のいずれかに記載する低毒性ソホロリピッド含有組成物を含有することを特徴とする香粧品、医薬部外品、医薬品、医療機器、日常雑貨品またはこれらの添加物。
  4. ソホロリピッド産生酵母を培養することによって得られるソホロリピッド含有培養物またはその処理物を、
    (1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程、及び
    必要に応じて、さらに
    (2)ソホロリピッドに結合したアセチル基を脱離する工程、又は/及び
    (3)ラクトン型ソホロリピッドを除去する工程
    に供することを特徴とする、請求項1に記載する低毒性SL含有組成物の製造方法。
  5. ソホロリピッド産生酵母を培養することによって得られるソホロリピッド含有培養物またはその処理物を
    (1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程、及び
    必要に応じて、さらに
    (2)ソホロリピッドに結合したアセチル基を脱離する工程、又は/及び
    (3)ラクトン型ソホロリピッドを除去する工程
    を有する方法に供し、下記(a)〜(c)の特徴を有する低毒化ソホロリピッド含有組成物を調製することを特徴とする、ソホロリピッド含有組成物の低毒化方法:
    (a)ソホロリピッド含有組成物に含まれる酸型ソホロリピッド、ラクトン型ソホロリピッド、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量を100質量%とした場合に、それぞれの割合が乾燥重量に換算して下記の範囲にある:
    (1)酸型ソホロリピッド:94〜99.99質量%、
    (2)ラクトン型ソホロリピッド:0〜2質量%、
    (3)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量:0.01〜4質量%、
    (b)低毒性ソホロリピッド含有組成物に含まれる酸型ソホロリピッド100質量部に対するラクトン型ソホロリピッドの割合、または脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が、それぞれ0〜2.12質量部または0.01〜4.25質量部、
    (c)低毒性ソホロリピッド含有組成物に含まれる酸型ソホロリピッド及びラクトン型ソホロリピッドがいずれもアセチル基を有しない。
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