JP2016150894A - 植物性原料由来の炭化物およびその製造方法 - Google Patents

植物性原料由来の炭化物およびその製造方法 Download PDF

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隆文 伊澤
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Hideji Iwasaki
秀治 岩崎
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Abstract

【課題】揮発分が少なく、含有酸素量が高い植物性原料由来の炭化物を提供すること、およびそのような炭化物を、比較的低い温度において高い回収率で製造する方法を提供すること。
【解決手段】植物性原料を、イオン交換水中で150〜350℃の温度において水熱炭化する。
【選択図】なし

Description

本発明は、植物性原料由来の炭化物およびその製造方法に関する。
炭素質材料は、コンデンサー用電極、電解用電極、活性炭、担持体等として様々な用途に用いられており、今後更なる開発が期待されている。これらの炭素質材料は従来、石炭コークス、石炭または石油ピッチ、フラン樹脂またはフェノール樹脂等を原料として製造される。近年、化石燃料資源の使用は、地球環境に影響を与え、および埋蔵量の減少による価格高騰にも起因して、今後の使用が困難になることが予想されている。
そこで、特許文献1には、籾殻や藁等の植物由来の材料を原料として炭素材料を製造する方法が提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載の多孔質炭素材料は、植物由来の材料を窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気下や真空雰囲気下で予備炭素化処理および炭素化処理が行われることにより得られるものである。このような気相中での予備炭素化処理および炭素化処理では、それらの処理を行っている間に原料の一部が揮発するため、高い回収率で炭化物を得ることは困難である。また、特許文献1における植物由来の材料の予備炭素化処理は、400℃〜700℃の比較的高い温度にて行われるため、省エネルギーの観点から好ましくない。さらに、このような気相中での炭化により得られる炭化物を焼成して炭素質材料を製造する場合、焼成を行った際に揮発する成分が多いため、炭素質材料を高い回収率で得ることができない。また、得られる炭化物は、含有酸素量が低く、酸吸着性に優れた炭素質材料を得ることができない。
また、植物由来の炭化物を製造する方法として、ココナッツ繊維やユーカリ葉を150〜300℃の温度にて水熱炭化処理して炭化物を製造する方法(非特許文献1)、ポプラ材チップを脱イオン水中で220℃にて水熱処理する方法(非特許文献2)、へーゼルナッツ殻の粉末を脱イオン水中で250℃にて水熱処理する方法が提案されている(非特許文献3)。しかしながら、これらの方法では、含有酸素量が低く、および焼成の際に揮発する成分が少ない炭化物は得られない。
特開2008−273816号公報
Zhengang Liu、外1名、「Upgrading of waste biomass by hydrothermal carbonization(HTC) and low temperature pyrolysis(LTP): A comparative evaluation」、Applied Energy、第114巻、2014年2月、第857〜864頁 Jan Stemann、外2名、「Hydrothermal carbonization: process water characterization and effects of water recirculation」、Bioresource Technology、第143巻、2013年6月、第139〜146頁 Ece Unur、外3名、「Nanoporous carbons from hydrothermally treated biomass as anode materials for lithium ion batteries」、Microporous and Mesoporous Materials、第174巻、2013年7月、第25〜33頁
本発明の目的は、揮発分が少なく、含有酸素量が高い植物性原料由来の炭化物を提供することであった。また、本発明の別の目的は、そのような炭化物を、比較的低い温度において高い回収率で製造する方法を提供することであった。
本発明者らは、植物性原料をイオン交換水中で150〜350℃の温度において水熱炭化することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明には、以下のものが含まれる。
[1]揮発分が炭化物の全重量を基準として70重量%以下であり、および含有酸素量が30%以上である、植物性原料由来の炭化物。
[2]植物性原料は椰子殻または珈琲殻である、[1]に記載の炭化物。
[3]植物性原料は椰子殻であり、および比表面積は400m/g以上である、[1]に記載の炭化物。
[4]植物性原料は珈琲殻であり、および比表面積は10m/g以上である、[1]に記載の炭化物。
[5]植物性原料を水熱炭化することにより得られる、[1]〜[4]のいずれかに記載の炭化物。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の炭化物を焼成することにより得られる炭素質材料。
[7][6]に記載の炭素質材料からなる酸吸着剤。
[8]植物性原料由来の炭化物を製造するための方法であって、
植物性原料をイオン交換水中で150〜350℃の温度において水熱炭化する工程
を含む、方法。
本発明の植物性原料由来の炭化物は、炭化物の全重量を基準として揮発分が70重量%以下であるため、炭化物を焼成した場合に揮発する成分が少なく、より高い回収率で炭素質材料を得ることができる。また、本発明の植物性原料由来の炭化物は、含有酸素量が30%以上であり、増大した比表面積を有するため、炭素質材料としたときに優れた酸吸着性を発揮することができる。
図1は、走査型電子顕微鏡観察による実施例1の植物性原料由来炭化物の表面を示す。 図2は、走査型電子顕微鏡観察による実施例1の植物性原料由来炭化物の表面を示す。 図3は、走査型電子顕微鏡観察による比較例1の植物性原料由来炭化物の表面を示す。 図4は、走査型電子顕微鏡観察による比較例1の植物性原料由来炭化物の表面を示す。
本発明は、植物性原料由来の炭化物に関するものである。本発明では、炭化物とは、植物性原料や炭素前駆体等を炭素化することにより得られる物質であって、例えば250℃〜1000℃の温度において焼成することにより炭素質材料が得られるものをいう。また、炭素前駆体とは、炭化する前の植物由来物質であって、植物性原料中の金属元素および/または非金属元素の含有量を低下させたものをいう。
植物性原料としては、椰子殻、珈琲豆および籾殻等が挙げられる。本発明では、入手可能性および金属元素の含有量の低減効果の観点から、椰子殻が好ましい。また、本発明の炭化物は、1種または2種以上の植物性原料に由来するものであってよい。
椰子殻としては、特に限定されないが、ココ椰子、パーム椰子等の椰子殻が挙げられる。また、本発明では、燃料や活性炭等の原料としても一般に用いられる椰子殻チップと呼ばれる椰子殻を破砕したものが好ましい。
椰子殻チップの大きさの上限としては、好ましくは椰子殻を1/2程度に割ったもの、より好ましくは1/4程度に割ったもの、さらに好ましくは1/8程度に割ったもの、特に好ましくは1/10程度に割ったものである。また、椰子殻の大きさの下限としては、好ましくは2mm角程度に粉砕したもの、より好ましくは5mm角程度に粉砕したもの、さらに好ましくは10mm角程度に粉砕したものである。上記の上限および下限の組合わせの範囲内であれば、水熱炭化の際に金属元素および/または非金属元素を効率的に低減させることができるため好ましい。本発明では、上記の上限および下限の範囲内の大きさの椰子殻チップであれば、異なった大きさの椰子殻チップを組み合わせて用いることができる。
珈琲豆としては、珈琲豆の産地、品種にかかわらず任意の珈琲豆であってよい。珈琲豆は、飲料としての珈琲を抽出する前の珈琲豆であってよく、飲料としての珈琲を抽出した後の一般的に珈琲粕と称される抽出残渣であってもよい。
珈琲豆の大きさの上限としては、好ましくは珈琲豆を1/2程度に割ったもの、より好ましくは5mm以下に粗粉砕したものである。また、本発明において植物性原料として用いる珈琲豆の大きさの下限としては、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは1mm以上である。本発明では、上記の上限および下限の任意の組合わせの範囲内で用いてよく、種々の大きさに粉砕された珈琲豆を混合して用いてもよい。とりわけ、0.1mm〜5mm程度に粉砕されたものは、脱灰により金属元素および/または非金属元素を効率的に低減させることができるため好ましい。
本発明の炭化物は、揮発分が炭化物の全重量を基準として70重量%以下である。したがって、本発明の植物性原料由来の炭化物は、炭素分を多く含み、焼成において揮発する成分が少ないため、高い回収率で炭素質材料を得ることができる。本発明の炭化物は、好ましくは揮発分が炭化物の全重量を基準として70重量%以下、より好ましくは69重量%以下である。また、本発明の炭化物の揮発分の下限値は、特に限定されないが、少ないほど好ましく、例えば50重量%以上などである。本発明では、揮発分とは、植物性原料由来の炭化物を焼成した場合に揮発する成分、例えばH、CO、CO等のことである。揮発分は、例えば熱重量分析(TG)装置により測定することができる。
また、本発明の炭化物は、含有酸素量が30%以上である。本発明では、含有酸素量は、例えば炭化物を黒鉛坩堝中において真空中またはアルゴンガス、窒素ガス、Heガス等の不活性ガス雰囲気中で2200℃付近で熱処理し、黒鉛と炭化物に含まれる酸素とが反応することで発生するCOを定量し、炭化物の総量に対する発生したCOに含まれる酸素量の割合として求めることができる。本発明では、含有酸素量は、例えば酸素・窒素・水素分析装置(堀場製作所製 EMGA−930)を用いて測定することができる。ここで、この酸素量は、2200℃付近で黒鉛との接触によりCOを発生し得るカルボキシル基、フェノール基、ケトン類等の含酸素官能基の炭化物中の総量を示す指標であると言える。本発明の植物性原料由来の炭化物は、含有酸素量が30%以上であり、含酸素官能基を多く含むため、炭素質材料としたとき優れた酸吸着性を発揮することが可能となる。本発明の炭化物は、含有酸素量が好ましくは34%以上、より好ましくは36%以上である。また、本発明の炭化物の揮発分の上限値は、特に限定されないが、例えば50%以下などである。
本発明の植物性原料由来の炭化物は、植物性原料が椰子殻である場合、比表面積が好ましくは400m/g以上、より好ましくは450m/g以上、さらに好ましくは490m/g以上である。また、椰子殻に由来する炭化物の比表面積の上限値は、特に限定されないが、例えば1000m/g以下等である。本発明では、比表面積は、BET法に基づいて測定される比表面積のことである。
また、本発明の植物性原料由来の炭化物は、植物性原料が珈琲豆である場合、比表面積が好ましくは10m/g以上、より好ましくは20m/g以上、さらに好ましくは30m/g以上である。また、珈琲豆に由来する炭化物の比表面積の上限値は、特に限定されないが、例えば200m/g以下等である。
本発明では、植物性原料をイオン交換水中において、150〜350℃の温度にて水熱炭化する。これにより、水中に溶出した有機分についても炭素化することができるため、高い回収率で炭化物が得られることとなる。また、植物性原料を、150〜350℃の比較的低い温度にて炭素化することができる。さらに、揮発分が少なく、含有酸素量が高く、比表面積の増加した炭化物を製造することができる。揮発分が少ない炭化物を製造できる理由は定かではないが、水熱炭化では、植物性原料中の低分子有機分が揮発せずに炭素分とともに残るため、強固な炭化物となるためであると考えられる。また、含有酸素量が高い炭化物を製造できる理由についても定かではないが、水熱炭化では、植物性原料中の酸素官能基が分解されにくい化学構造、例えばエーテル基やキノンなどとなるためであると考えられる。
したがって、本発明は、植物性原料をイオン交換水中で150〜350℃の温度において水熱炭化する工程を含む植物性原料由来の炭化物の製造方法をも提供する。
本発明では、酸水溶液中での植物性原料の水熱炭化は、150〜350℃の温度において行う。150℃未満の温度では、炭化が十分に進行せず、炭化物が得られないおそれがある。350℃を超える温度では、熱分解が進行し、含有酸素量や回収率が低減するおそれがある。本発明では、水熱炭化は、好ましくは160℃〜340℃、より好ましくは170℃〜330℃、さらに好ましくは180℃〜320℃の範囲で行う。
また、水熱炭化を行う際の反応器中の温度の加熱速度としては、特に限定されるものではなく、加熱の方法により異なるが、好ましくは1℃/分〜60℃/分、より好ましくは1℃/分〜30℃/分である。加熱速度が上記範囲内であれば、炭化時の縮合が進行し、良好な炭化物の回収率が得られるため好ましい。また、用いる機器の稼働時間が適切なものとなるため、経済的観点から好ましい。
水熱炭化を行う間の反応器中の圧力は、好ましくは0.1メガパスカル〜10メガパスカル、より好ましくは0.5メガパスカル〜7メガパスカル、さらに好ましくは0.6メガパスカル〜5メガパスカルである。上記範囲の圧力であれば、炭化時の縮合が進行し、良好な炭化物の回収率が得られるため好ましい。
水熱炭化を行う時間は、水熱炭化を行う温度や圧力などに応じて適宜調節することができる。本発明では、10分〜300分程度であればよく、好ましくは30分〜180分程度行えばよい。
イオン交換水の重量に対する浸漬する植物性原料の重量の割合は、用いるイオン交換水の温度等に応じて適宜調節することが可能であり、通常0.1重量%〜200重量%、好ましくは1重量%〜150重量%、より好ましくは1.5重量%〜120重量%の範囲である。上記範囲内であれば、容積効率が適切となるため経済的観点から好ましい。
また、本発明では、イオン交換水の代わりに酸水溶液を用いることもできる。一般に、植物は、カリウム、マグネシウムおよびカルシウム等のアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素およびリン等の非金属元素を多く含有する。これにより、植物性原料中の金属元素および/または非金属元素の含有量を低下させながら植物性原料の水熱炭化を行うことが可能となる。
酸水溶液としては、有機酸または無機酸を水に添加したものを用いることができる。本発明では、リンや硫黄、ハロゲン等の不純物源となる元素を含まない有機酸が好ましい。有機酸がリンや硫黄、ハロゲン等の元素を含まない場合には、脱灰後の水洗を省略し、有機酸が残存する植物性原料を炭化した場合であっても、炭素材として好適に用いることできる炭化物が得られるため有利である。また、使用後の有機酸の廃液処理を特別な装置を用いることなく比較的容易に行うことができるため有利である。
有機酸の例としては、飽和カルボン酸、例えば蟻酸、酢酸、プロピオン酸、蓚酸、酒石酸、クエン酸等、不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸等、芳香族カルボン酸、例えば安息香酸、フタル酸、ナフトエン酸等が挙げられる。有機酸としては、入手可能性、酸性度による腐食および人体への影響の観点から、酢酸、蓚酸およびクエン酸が好ましい。
無機酸の例としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸等が挙げられる。無機酸としては、金属除去の観点から、塩酸が好ましい。
酸水溶液中の酸の濃度としては、特に限定されるものではなく、用いる酸の種類に応じて濃度を調節して用いることができる。本発明では、通常、酸水溶液の総量を基準として0.001重量%〜20重量%、より好ましくは0.01重量%〜18重量%、さらに好ましくは0.02重量%〜15重量%の範囲の酸濃度の酸水溶液を用いる。酸濃度が上記範囲内であれば、適切な金属元素および/または非金属元素の溶出速度が得られる。また、植物性原料における酸の残留量が少なくなるので、その後の製品への影響も少なくなる。
酸水溶液のpHは、好ましくは3.5以下、好ましくは3以下である。酸水溶液のpHが上記の値を超えない場合には、金属元素および/または非金属元素の酸水溶液への溶解速度が低下することなく、金属元素および/または非金属元素の除去を効率的に行うことができる。
酸水溶液の重量に対する浸漬する植物性原料の重量の割合は、用いる有機酸水溶液の種類、濃度および温度等に応じて適宜調節することが可能であり、通常0.1重量%〜200重量%、好ましくは1重量%〜150重量%、より好ましくは1.5重量%〜120重量%の範囲である。上記範囲内であれば、酸水溶液に溶出した金属元素および/または非金属元素が酸水溶液から析出しにくく、植物性原料への再付着が抑制されるため好ましい。また、上記範囲内であれば、容積効率が適切となるため経済的観点から好ましい。
さらに、本発明では、植物性原料の水熱炭化を行う前に、反応器中において、植物性原料を酸水溶液中で50〜150℃の温度において保持することにより、植物性原料中の金属元素および/または非金属元素の含有量を低下させることができる。ここで、植物性原料を酸水溶液中で50〜150℃の温度において保持することにより、植物性原料中の金属元素および/または非金属元素の含有量をさらに低下させることを、以下、炭化前処理とも称する。
炭化前処理は、50〜150℃、好ましくは70℃〜130℃、より好ましくは90℃〜110℃の温度において酸水溶液中に植物性原料を保持することにより行う。上記範囲の温度であれば、使用する酸の分解が抑制され、実用的な時間での炭化前処理の実施が可能となる金属元素および/または非金属元素の溶出速度が得られるため好ましい。
また、加熱速度としては、特に限定されるものではなく、加熱の方法により異なるが、好ましくは1℃/分〜60℃/分、より好ましくは1℃/分〜30℃/分である。加熱速度が上記範囲内であれば、用いる機器の稼働時間が適切であり、かつ金属元素および非金属元素の酸水溶液中への溶解が良好に進行するため好ましい。
炭化前処理を行う際の反応器中の圧力は、特に限定されないが、0.1MPa〜1.0MPa、好ましくは0.1MPa〜0.5MPa、より好ましくは0.1MPa〜0.2MPaである。上記範囲の圧力であれば、酸水溶液に溶出した金属元素および/または非金属元素が酸水溶液から析出しにくく、炭素前駆体への再付着が抑制されるため好ましい。
植物性原料を酸水溶液中で保持する時間としては、用いる酸の種類や濃度などに応じて適宜調節することができる。本発明では、植物性原料を酸水溶液中に保持する時間は、金属低減率および経済性の観点から、通常0.1〜100時間、好ましくは0.2〜80時間、より好ましくは0.5〜50時間の範囲である。
炭化前処理に用いた酸水溶液は、水熱炭化にそのまま用いることができるし、または水熱炭化を行う前に一部若しくは全部を更新することもできる。また、酸水溶液は、水熱炭化を行う前に炭化前処理に用いた酸水溶液とは異なった種類、濃度、pHの酸水溶液へ更新することもできる。本発明では、植物性原料から溶出した成分についても炭化が行える点や製造コストの点から炭化前処理に用いたものを水熱炭化にそのまま用いることが好ましい。
また、本発明では、炭化前処理および/または水熱炭化を行う前に植物性原料を有機酸水溶液中に浸漬し、金属元素および/または非金属元素の含有量を低下させることにより得た炭素前駆体を、炭化前処理および/または水熱炭化に用いることができる。本発明では、植物性原料を有機酸水溶液中に浸漬することにより、植物性原料中の金属元素および/または非金属元素の含有量を低下させた炭素前駆体を得ることを、以下、脱灰とも称する。
本発明では、上記脱灰において、植物性原料からアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素および/または非金属元素を除去するために有機酸水溶液を用いることができる。有機酸は、リンや硫黄、ハロゲン等の不純物源となる元素を含まないことが好ましい。有機酸がリンや硫黄、ハロゲン等の元素を含まない場合には、脱灰後の水洗を省略し、有機酸が残存する植物性原料を炭化した場合であっても、炭素材として好適に用いることできる炭化物が得られるため有利である。また、使用後の有機酸の廃液処理を特別な装置を用いることなく比較的容易に行うことができるため有利である。
有機酸の例としては、飽和カルボン酸、例えば蟻酸、酢酸、プロピオン酸、蓚酸、酒石酸、クエン酸等、不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸等、芳香族カルボン酸、例えば安息香酸、フタル酸、ナフトエン酸等が挙げられる。入手可能性、酸性度による腐食および人体への影響の観点から、酢酸、蓚酸およびクエン酸が好ましい。
本発明では、有機酸は、溶出する金属化合物の溶解度、廃棄物の処理、環境適合性等の観点から、水性溶液と混合して有機酸水溶液として用いる。水性溶液としては、水、水と水溶性有機溶媒との混合物などが挙げられる。水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロピレングリコール、エチレングリコールなどのアルコールが挙げられる。
有機酸水溶液中の酸の濃度としては、特に限定されるものではなく、用いる酸の種類に応じて濃度を調節して用いることができる。本発明では、通常、有機酸水溶液の総量を基準として0.001重量%〜20重量%、より好ましくは0.01重量%〜18重量%、さらに好ましくは0.02重量%〜15重量%の範囲の酸濃度の有機酸水溶液を用いる。酸濃度が上記範囲内であれば、適切な金属元素および/または非金属元素の溶出速度が得られるため実用的な時間で脱灰を行うことが可能となる。また、植物性原料における酸の残留量が少なくなるので、その後の製品への影響も少なくなる。
有機酸水溶液のpHは、好ましくは3.5以下、好ましくは3以下である。有機酸水溶液のpHが上記の値を超えない場合には、金属元素および/または非金属元素の有機酸水溶液への溶解速度が低下することなく、金属元素および/または非金属元素の除去を効率的に行うことができる。
植物性原料を浸漬する際の有機酸水溶液の温度は、特に限定されないが、好ましくは20℃〜98℃、より好ましくは25℃〜60℃、さらに好ましくは30℃〜40℃の範囲である。植物性原料を浸漬する際の有機酸水溶液の温度が、上記範囲であれば、使用する酸の分解が抑制され、実用的な時間での脱灰の実施が可能となる金属元素および/または非金属元素の溶出速度が得られるため好ましい。また、特別な装置を用いずに脱灰を行うことができるため好ましい。さらに、本発明では、脱灰を室温で行うこともできる。この場合、加熱装置が不要となることおよび安全性の観点から好ましい。
本発明では、植物性原料を有機酸水溶液中に浸漬することにより、植物性原料中の金属元素および/または非金属元素の含有量を低下させた植物性原料を得る工程の間、有機酸水溶液の更新を少なくとも1回行うことができる。有機酸水溶液の更新を行う方法としては、植物性原料に、有機酸水溶液を連続的に添加し、所定の時間滞留させ、抜き取りながら浸漬を行う方法でも、植物性原料を有機酸水溶液に浸漬し、所定の時間滞留させ、脱液した後、新たに有機酸水溶液を添加して浸漬−脱液を繰り返す方法であっても構わない。また、有機酸水溶液の全部を更新する方法であってよく、有機酸水溶液の一部を更新する方法であってもよい。
植物性原料を有機酸水溶液に浸漬する時間としては、用いる酸に応じて適宜調節することができる。本発明では、浸漬する時間は、経済性および脱灰効率の観点から、通常0.1〜100時間、好ましくは0.2〜80時間、より好ましくは0.5〜50時間の範囲である。
有機酸水溶液の重量に対する浸漬する植物性原料の重量の割合は、用いる有機酸水溶液の種類、濃度および温度等に応じて適宜調節することが可能であり、通常0.1重量%〜200重量%、好ましくは1重量%〜150重量%、より好ましくは1.5重量%〜120重量%の範囲である。上記範囲内であれば、有機酸水溶液に溶出した金属元素および/または非金属元素が有機酸水溶液から析出しにくく、植物性原料への再付着が抑制されるため好ましい。また、上記範囲内であれば、容積効率が適切となるため経済的観点から好ましい。
脱灰を行う雰囲気としては、特に限定されず、浸漬に使用する方法に応じて異なっていてよいが、大気雰囲気中で行うことが好ましい。
これらの操作は、好ましくは1回〜5回、より好ましくは1回〜3回繰り返して行うことができる。浸漬−脱液を繰り返す場合は、通常2回〜8回、好ましくは3回〜5回繰り返して行うことができる。本発明では、脱灰後、必要に応じて洗浄工程および/または乾燥工程を行い得る。
本発明では、植物性原料を酸水溶液中で150〜350℃の温度において水熱炭化する工程を行った後、必要に応じて洗浄工程および/または乾燥工程を行うことができる。
このようにして得られた本発明の植物由来の炭化物を焼成することにより炭素質材料が得られる。
焼成における加熱温度としては、特に限定されるものではなく、250℃〜1000℃の範囲で行うことができる。高すぎる温度では、結晶化により炭素骨格が剛直化し、様々な電子材料に用いる炭素質材料として好ましくない。また、低すぎる温度では、蓄熱発火の可能性が高く、また空気中の酸素により容易に酸化され保存安全性が低くなる問題がある。焼成は、好ましくは270℃〜750℃の範囲、より好ましくは280℃〜700℃の範囲、更に好ましくは400〜650℃の範囲で行う。上記範囲で焼成することは、得られた炭素質材料の酸化等による変質の抑制、保存安定性確保の観点から好ましい。
また、加熱速度としては、特に限定されるものではなく、加熱の方法により異なるが、好ましくは1℃/分〜100℃/分、より好ましくは1℃/分〜60℃/分である。加熱速度が上記範囲内であれば、炭化時の縮合が進行し、良好な炭素質材料の回収率が得られるため好ましい。また、用いる機器の稼働時間が適切なものとなるため、経済的観点から好ましい。
焼成における温度制御のパターンとしては、所望の温度にまで一気に昇温することもできるし、250〜400℃の範囲で一旦温度を維持し、再び昇温して所望の温度まで昇温することもできる。上記範囲内で一旦温度を維持することは、炭化時の縮合を容易に進め、炭化率、炭素密度および炭素質材料の回収率の向上に寄与する場合がある。
焼成における最高温度での保持時間は、特に限定されないが、通常、10分〜300分程度保持すればよく、好ましくは30分〜240分程度保持すればよい。
焼成を行う雰囲気としては、不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましく、窒素雰囲気中で行うことがより好ましい。焼成を行う間、酸化による炭素質材料の構造変化および酸化分解助長による炭素質材料の回収率低下を回避し易くするために、酸化性ガス、即ち酸素の存在は、好ましくは1容積%以下、より好ましくは0.5容積%以下である。
焼成を行う際の不活性ガス気流は特に限定されるものではなく、通常0.001メートル/秒〜1メートル/秒の範囲であればよい。
焼成後の取り出し温度としては、空気中の酸素により酸化されない温度であれば特に限定されるものではなく、通常200℃以下、より好ましくは100℃以下で空気中に取り出すことが好ましい。
焼成の方法としては、特に限定されるものではなく、バッチ式および連続式の何れの方式でもよく、外熱式および内熱式の何れの方式でもよい。
炭素質材料を製造した後、必要に応じて、除金属工程、粉砕工程および/またはさらなる焼成工程を実施することができる。しかしながら、本発明の方法により精製した植物性原料を用いて炭化物を製造した場合には、精製工程において局所的に高い濃度の金属成分が十分に除去されるため、さらなる除金属工程を省略することができる。
このようにして得られた炭素質材料は、酸素吸収材、水ろ過用活性炭や消臭用活性炭等の多孔体、触媒用担持体等として好ましく用いることができる。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
[揮発分の測定]
炭化物の揮発分は、熱重量分析(TG)装置(セイコーインスツル株式会社製 TG−DTA6300)を用いて、N雰囲気下、50℃から1000℃まで昇温しながら加熱し、1000℃到達時の重量減少率から算出した。
[含有酸素量の測定]
炭化物の含有酸素量は酸素・窒素・水素分析装置(堀場製作所製EMGA−930)を用いて、2200℃まで昇温したときに発生する一酸化炭素から算出した。詳細には、Heガス雰囲気下、黒鉛坩堝に試料を入れ、出力4.0kWの高周波を流し、黒鉛坩堝ごと2200℃まで昇温する。この際、試料中の酸素成分が黒鉛と反応することで発生する一酸化炭素を、赤外線吸収法により検出することで、含有酸素量を測定した。
[比表面積の測定]
炭化物の比表面積は、ガス吸着装置(日本ベル株式会社製Belsorp−miniII)を用いて、77KでのNガス吸着を行うことで得られる、吸着等温線を用いて、BET法により解析を行うことにより算出した。
[表面観察]
実施例1および比較例1において得られた炭化物の表面を走査型電子顕微鏡(キーエンス社製VE−8800)にて観察した。加速電圧は10kVとし、二次電子検出器にて観察を行った。
実施例1
反応器(ステンレス製耐圧容器)中において、約2mm角の椰子殻チップ(フィリピン産)25gを、イオン交換水78gに浸漬し、3℃/分の加熱速度にて250℃まで加熱し、30分間水熱炭化を行った。反応器内の圧力は4.0MPaまで上昇した。その後、自然冷却にて60℃以下になったところで取り出した。炭化物の回収率は56.0%であった。
実施例2
反応器(ステンレス製耐圧容器)中において、珈琲豆(アラビカ種)25gを、イオン交換水78gに浸漬し、3℃/分の加熱速度にて250℃まで加熱し、30分間水熱炭化を行った。反応器内の圧力は4.0MPaまで上昇した。その後、自然冷却にて60℃以下になったところで取り出した。炭化物の回収率は67.8%であった。
比較例1
実施例1において用いた椰子殻チップと同じ椰子殻チップ70gを坩堝に入れ、光洋サーモ社製電気炉を用いて、窒素気流3.0L/分(0.003メートル/秒)の流量下、10℃/分で250℃まで昇温、30分保持した後、自然冷却にて60℃以下になったところで取り出した。炭化物の回収率は70.2%であった。
比較例2
実施例2において用いた珈琲豆と同じ珈琲豆70gを坩堝に入れ、光洋サーモ社製電気炉を用いて、窒素気流3.0L/分(0.003メートル/秒)の流量下、10℃/分で250℃まで昇温、30分保持した後、自然冷却にて60℃以下になったところで取り出した。炭化物の回収率は83.9%であった。
実施例1、2および比較例1、2において行った水熱炭化の条件および各実施例および比較例において得られた炭化物中の揮発分、含有酸素量、比表面積の測定結果を以下の表1に示す。
表1に示される通り、水熱炭化を酸水溶液中で行った実施例1および2では、気相炭化を行った比較例1および2より、揮発分が低く、含有酸素量が高い炭化物が得られた。また、実施例1と比較例1との比較、および実施例2と比較例2との比較により、本発明の炭化物は気相炭化により得られた炭化物より大きい比表面積を有する。
図1〜図4に示される通り、本発明による炭化物の表面(図1および図2)は、本発明によらない炭化物の表面(図3および図4)と比べ多くの細孔が形成され、および起伏が大きいことがわかる。したがって、本発明の炭化物は、比表面積が大きく、酸吸着能に優れることが理解される。

Claims (8)

  1. 揮発分が70重量%以下であり、および含有酸素量が30%以上である、植物性原料由来の炭化物。
  2. 植物性原料は椰子殻または珈琲殻である、請求項1に記載の炭化物。
  3. 植物性原料は椰子殻であり、および比表面積は400m/g以上である、請求項1に記載の炭化物。
  4. 植物性原料は珈琲殻であり、および比表面積は10m/g以上である、請求項1に記載の炭化物。
  5. 植物性原料を水熱炭化することにより得られる、請求項1〜4のいずれかに記載の炭化物。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の炭化物を焼成することにより得られる炭素質材料。
  7. 請求項6に記載の炭素質材料からなる酸吸着剤。
  8. 植物性原料由来の炭化物を製造するための方法であって、
    植物性原料をイオン交換水中で150〜350℃の温度において水熱炭化する工程
    を含む、方法。
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