JP2016128172A - 表面疵の発生し難いチタン熱間圧延用インゴットおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】分塊工程を省略しても熱間圧延後の表面性状を良好に保つことのできる、チタン材の製造方法および熱間圧延用素材を提供する。
【解決手段】本発明は、インゴットの少なくとも圧延面にあたる面の表層から深さ1mm以上が溶融再凝固しており、その溶融再凝固層におけるAl濃度が、0.1質量%以上、2.0質量%未満であることを特徴とする。また、インゴット表層を溶融再凝固した後に熱間圧延を行うことを特徴とする。また、表層の溶融を、誘導加熱、アーク加熱、プラズマ加熱、電子ビーム加熱、およびレーザー加熱のうちの一種または二種以上を組み合わせて、真空もしくは不活性ガス雰囲気で行うことを特徴とする。
【選択図】図1
【解決手段】本発明は、インゴットの少なくとも圧延面にあたる面の表層から深さ1mm以上が溶融再凝固しており、その溶融再凝固層におけるAl濃度が、0.1質量%以上、2.0質量%未満であることを特徴とする。また、インゴット表層を溶融再凝固した後に熱間圧延を行うことを特徴とする。また、表層の溶融を、誘導加熱、アーク加熱、プラズマ加熱、電子ビーム加熱、およびレーザー加熱のうちの一種または二種以上を組み合わせて、真空もしくは不活性ガス雰囲気で行うことを特徴とする。
【選択図】図1
Description
本発明は、工業用純チタンインゴットおよびその製造方法に関するものであり、特に、分塊圧延工程や精整工程を省略しても熱間圧延後の表面性状を良好に保つことができる工業用純チタンインゴットおよびその製造方法に関する。
チタン材は、一般に、溶解工程から得られるインゴットを分塊工程でスラブまたはビレット形状にして、表面を手入れした後、熱間圧延し、さらに焼鈍や冷間加工を施して製造される。溶解工程には、広く用いられている真空アーク溶解(VAR:Vacuum Arc Remelting)法のほか、鋳型とは別の場所で溶解を行い鋳型に流し込む電子ビーム溶解(EBR:Electron Beam Remelting)法やプラズマ溶解法等がある。前者では、鋳型が円筒型に限定されるため板材の製造には分塊もしくは鍛造工程が必須である。後者は、鋳型形状の自由度が高く、円筒型の他、角型の鋳型を使用できる。従って、前記電子ビーム溶解法やプラズマ溶解法を用いれば、角型インゴットや円柱型インゴットを直接鋳込むことができる。そのため、角型インゴットから板材を製造する場合や、円柱型インゴットから棒材や線材を製造する場合には、インゴット形状の点からは分塊工程を省略することができる。この場合、分塊工程にかかるコストと時間が省略できるため、生産効率が著しく向上することが期待される。
しかし、工業的に用いられる大型インゴットの鋳造まま組織は、結晶粒径が数十mmにもおよぶ粗大粒が形成される。このようなインゴットを、分塊工程を経ないで直接熱間圧延する場合には、粗大な結晶粒に起因して粒内および結晶粒間の変形異方性の影響により表面に凹凸が生じて表面疵となる。従って、前記電子ビーム溶解やプラズマ溶解法で、角型インゴットや円柱型インゴットを直接製造し、分塊工程を省略した場合、その後の熱間圧延において表面疵が発生してしまう。熱間圧延で発生した表面疵を除去するためには、酸洗工程で熱延板表面の溶削量を増やす必要があり、コストや歩留を悪化させる問題が生じる。即ち、表面疵を落とすための精整工程を新たに導入する必要がある。従って、分塊工程を省略することによって期待される生産効率の向上は、このような精整工程の新たな導入によって相殺されてしまう懸念があった。このような問題に対し、熱間圧延用素材の製造方法や製造後に加工や熱処理を施すことによって表面疵を低減する方法が提案されている。
特許文献1では、チタン材のインゴットを、分塊工程を省略して直接熱延加工する場合に、表層付近の結晶粒を微細化するために、表面層にひずみを付与した後、再結晶温度以上に加熱して表面から深さ2mm以上を再結晶させる方法が提案されている。ひずみを付与する手段としては、鍛造、ロール圧下、ショットブラスト等が挙げられている。
特許文献2では、チタン材のインゴットを、Tβ+50℃以上に加熱後、Tβ―50℃以下に冷却した後に熱間圧延することで、粗大な結晶粒の変形異方性によって圧延中に形成される表面の波打ちやシワを低減し、表面疵を低減する方法が提案されている。
特許文献3では、チタン材において、分塊工程を経る場合の圧延製品の表面疵低減方法として、分塊工程終了時の温度をα域にする、あるいは、さらに熱間圧延前の加熱をα域で行うことにより、表面から60μm以上を等軸晶とする方法が提案されている。これにより、酸素リッチ層が部分的に深くなることを避けることができ、脱スケール工程で酸素リッチ層を除去できるようになり、硬度・延性の不均一な部分が無くなるため、冷間加工後の表面性状が改善するとしている。
特許文献4では、チタン材のインゴットを、熱間加工工程を省略して直接熱間圧延を行う場合に、インゴットの圧延面にあたる面の表層を高周波誘導加熱、アーク加熱、プラズマ加熱、電子ビーム加熱及びレーザー加熱などで溶融再凝固させることで、表層から深さ1mm以上を細粒化し、熱間圧延後の表層組織を改善する方法が挙げられている。これは、表層部を急冷凝固により微細で不規則な方位を有する凝固組織を形成することで、表面疵の発生を防止している。チタンスラブの表層組織を溶融させる方法として、高周波誘導加熱、アーク加熱、プラズマ加熱、電子ビーム加熱、及びレーザー加熱が挙げられている。
特許文献5では、熱間圧延用チタン素材を、うねりの輪郭曲線要素の平均高さが0.2〜1.5mm、平均長さが3〜15mmのディンプルを冷間で塑性変形によって付与することで、インゴットのブレークダウン工程を省略しても熱間圧延にて生じる表面欠陥を軽微にする方法が提案されている。
特許文献6では、電子ビーム溶解炉で溶製したチタンスラブを、鋳型内から直接引き抜いたスラブの断面組織において、表層から内部に向かう凝固方向とスラブの鋳造方向とのなす角θが45°〜90°、もしくは、表層の結晶方位分布において、hcpのc軸とスラブ表層との法線のなす角が、35°〜90°である場合に、熱間加工工程を省略しても、鋳肌が良好で且つ熱間圧延後の表面疵が改善できる方法が開示されている。即ち、表面の結晶粒の形状や結晶方位を制御することによってこのような粗大結晶粒に起因する疵の発生を抑制することができる。
しかしながら特許文献1に記載の方法では、ひずみを付与する手段にショットブラストが挙げられているが、一般的なショットブラストで付与されるひずみの深さは300〜500μm程度以下であり、品質を改善するために必要としている深さ2mm以上の再結晶層を形成するには不十分である。従って、実質的には、鍛造もしくはロール圧下により深い位置まで歪を与えることが必要であるが、鍛造もしくはロール圧下を、熱間圧延用の大型インゴットに対して行うには大きな設備が必要で、通常の分塊工程と比較してコスト低下になるものではない。
また、特許文献2に記載の方法は、β域への加熱により粗大な結晶粒が再結晶して微細化する効果がある。しかし、分塊工程を経ない場合には加工歪が与えられていないため再結晶核が少ないことや、インゴット全体を加熱するため加熱後の冷却速度が遅く結晶粒が粗大化することにより、再結晶による微細化効果は限定され、変形異方性の低減は十分ではない。また、再結晶しても元の粗大粒の結晶方位の影響を受けることも、変形異方性の解消に至らない要因である。逆に、中程度の細粒化によって表面の凹凸の元となる粒界は増加する結果となり、表面疵の発生が増加する結果になる。
また、特許文献3に記載の方法は、分塊工程を経ることによって鋳造組織が壊されて細粒化および等軸化することを前提としており、分塊工程を省略する場合には意味をなさない。仮に分塊工程を省略して熱処理のみによって、表面から60μm以上の等軸粒を形成しても、単なる再結晶でありその結晶方位は元の結晶方位の影響を受ける。従って、鋳造まま組織の粗大粒による変形異方性に起因する凹凸を防止するには不十分であり、表面疵による問題が生じることは明らかである。
また、特許文献4に記載の方法は、インゴット表層部の組織改質を行っており、熱延後の表面性状は良くなるが、インゴット表層部のFeの含有量が少ないと、組織改質した表層部の結晶粒が粗大化してしまい、表面性状が悪化する可能性が懸念される。また、表層組織改質前にインゴット表層を切削等で精整しており、歩留まりが低下している。
また、特許文献5に記載の方法は、冷間でインゴット表層部の組織改質を行っており、熱延後の表面性状は良くなるが、冷間で表層組織改質を行う場合、鋳造ままの鋳肌に直接行っても、鋳造時に発生した鋳肌割れ等の鋳造欠陥を全て除去することが難しいことが予想され、切削等の精整工程を省略できない可能性が懸念される。
また、特許文献6では、鋳造時の操業条件のばらつきにより、インゴット全面を狙いとしている組織に制御するのは難しく、場合によっては、粗大鋳造組織に起因した表面疵が発生し、表面性状が悪化する可能性が懸念される。
そこで、本発明では、分塊工程や精整工程を省略しても熱間圧延後の表面性状を良好に保つことのできる、工業用純チタンインゴット及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、インゴットから分塊工程や精整工程を省略して熱間圧延を行って工業用純チタン製品を製造するに際し、熱間圧延の前工程として、鋳造ままチタンインゴットの圧延面表層にAl素材(粉末、チップ、ワイヤー、薄膜等)を据えるもしくは散布し、素材ごとスラブ表層を再溶融することで、スラブ表層のAl濃度を高くすることで、熱間圧延加熱時においてもスラブ表層部の組織を微細に保つことができ、その結果、元の粗大な凝固組織の変形異方性の影響による表面疵が低減し、分塊工程や精整工程を経る場合と同等な表面性状を得ることができることを見出した。
本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)工業用純チタンインゴットにあって、少なくとも圧延面にあたる面の表層から深さ1mm以上が溶融再凝固しており、その溶融再凝固層のAl濃度が0.1質量%以上、2.0質量%未満であるであることを特徴とする熱間圧延用チタンインゴット。
(2)工業用純チタンインゴットの圧延面に当たる面を、Al素材と共に表層溶融再凝固することを特徴とする(1)に記載の熱間圧延用チタンインゴットの製造方法。
(3)Al素材として、粉末、チップ、ワイヤー、薄膜のうちの一種または二種以上を組み合わせて用いることを特徴とする(2)に記載の熱間圧延用チタンインゴットの製造方法。
(4)Al素材およびインゴット圧延面にあたる表層を溶融再凝固する手段として、電子ビーム加熱、アーク加熱、レーザー加熱、プラズマ加熱、および誘導加熱のうちの一種または二種以上を組み合わせて用いることを特徴とする(2)あるいは(3)に記載の熱間圧延用チタンインゴットの製造方法。
(5) 真空もしくは不活性ガス雰囲気で表層を加熱することを特徴とする、(2)〜(4)のいずれか一項に記載の工業用純チタンインゴットの製造方法。
(6)少なくとも圧延面に当たる面の表層に1mm以上が再溶融凝固した組織であり、下部が鋳造まま組織あるいは鋳造後β域に加熱後冷却された組織であることを特徴とする(1)に記載の熱間圧延用チタンインゴット。
(1)工業用純チタンインゴットにあって、少なくとも圧延面にあたる面の表層から深さ1mm以上が溶融再凝固しており、その溶融再凝固層のAl濃度が0.1質量%以上、2.0質量%未満であるであることを特徴とする熱間圧延用チタンインゴット。
(2)工業用純チタンインゴットの圧延面に当たる面を、Al素材と共に表層溶融再凝固することを特徴とする(1)に記載の熱間圧延用チタンインゴットの製造方法。
(3)Al素材として、粉末、チップ、ワイヤー、薄膜のうちの一種または二種以上を組み合わせて用いることを特徴とする(2)に記載の熱間圧延用チタンインゴットの製造方法。
(4)Al素材およびインゴット圧延面にあたる表層を溶融再凝固する手段として、電子ビーム加熱、アーク加熱、レーザー加熱、プラズマ加熱、および誘導加熱のうちの一種または二種以上を組み合わせて用いることを特徴とする(2)あるいは(3)に記載の熱間圧延用チタンインゴットの製造方法。
(5) 真空もしくは不活性ガス雰囲気で表層を加熱することを特徴とする、(2)〜(4)のいずれか一項に記載の工業用純チタンインゴットの製造方法。
(6)少なくとも圧延面に当たる面の表層に1mm以上が再溶融凝固した組織であり、下部が鋳造まま組織あるいは鋳造後β域に加熱後冷却された組織であることを特徴とする(1)に記載の熱間圧延用チタンインゴット。
本発明の工業用純チタンインゴット及びその製造方法は、チタン材の製造に際し従来必要であった分塊や鍛造などの熱間加工工程やその後の精整工程を省略しても、分塊工程や精整工程を経る場合と同等以上の表面性状を有するチタン材の製造を可能にするものであり、熱間加工工程の省略による加熱時間の低減、スラブ表面平滑化に伴う切削手入れの低減、表面品質向上による酸洗量の低減等によって歩留まりの向上が図られることから、製造コストの削減のみならず、エネルギー効率の向上にも大きな効果があり、産業上の効果は計り知れない。
以下、本発明について詳しく説明する。
[溶融再凝固層の厚み]
本発明では、純チタンインゴットの圧延面にあたる面に1mm以上の溶融再凝固層を有している。熱延後の表面疵の発生は、上述したように、粗大な結晶粒を有する組織に起因して発生するインゴット表面の凹凸が原因である。そのため、インゴット表層部のみの結晶粒径をなるべく細かくすればよい。下記のAlの効果により結晶粒成長を抑制し、かつ、それにより表面疵の発生を抑制するには、下記のAl量を含有した溶融再凝固層の厚みを1mm以上とする必要がある。Al含有層の厚みが1mm未満だと、溶融再凝固していない元の鋳造組織の影響を受け表面疵が発生してしまい、表面性状が良化しない。なお、最大深さについて特に規定しないが、溶融深さが深くなりすぎると、熱延後のショット酸洗工程後にもAl含有した層が残存する懸念があるので、好ましくは、溶融深さは5mm程度までが望ましい。
本発明では、純チタンインゴットの圧延面にあたる面に1mm以上の溶融再凝固層を有している。熱延後の表面疵の発生は、上述したように、粗大な結晶粒を有する組織に起因して発生するインゴット表面の凹凸が原因である。そのため、インゴット表層部のみの結晶粒径をなるべく細かくすればよい。下記のAlの効果により結晶粒成長を抑制し、かつ、それにより表面疵の発生を抑制するには、下記のAl量を含有した溶融再凝固層の厚みを1mm以上とする必要がある。Al含有層の厚みが1mm未満だと、溶融再凝固していない元の鋳造組織の影響を受け表面疵が発生してしまい、表面性状が良化しない。なお、最大深さについて特に規定しないが、溶融深さが深くなりすぎると、熱延後のショット酸洗工程後にもAl含有した層が残存する懸念があるので、好ましくは、溶融深さは5mm程度までが望ましい。
[Alの含有量]
本発明では、純チタンインゴット溶融再凝固層のAlがある一定以上含有していることを特徴としている。Alはα安定化元素であり、一般的に室温や高温の強度を向上させる場合に添加される合金元素である。またAlは、チタン中に少量でも含有すると、α単相域で結晶粒成長を抑制することができる。そのため、通常、工業用純チタンを熱延する際の加熱温度域であるα相高温域に加熱しても、結晶粒を微細に保つことができる。Al含有による結晶粒成長の抑制には、ある程度以上のAlを含有させる必要がある。Alの含有量が0.1質量%以上あれば、結晶粒成長を抑制できることから、これを下限とした。一方、2.0質量%以上含有すると、Alを含有した表層部と内部で熱間加工性の差を生じたり、熱延加熱等の熱処理時に、表層部に含有したAlが多量に内部に拡散し、製品の材質を劣化させる懸念があることから、これを上限とした。
本発明では、純チタンインゴット溶融再凝固層のAlがある一定以上含有していることを特徴としている。Alはα安定化元素であり、一般的に室温や高温の強度を向上させる場合に添加される合金元素である。またAlは、チタン中に少量でも含有すると、α単相域で結晶粒成長を抑制することができる。そのため、通常、工業用純チタンを熱延する際の加熱温度域であるα相高温域に加熱しても、結晶粒を微細に保つことができる。Al含有による結晶粒成長の抑制には、ある程度以上のAlを含有させる必要がある。Alの含有量が0.1質量%以上あれば、結晶粒成長を抑制できることから、これを下限とした。一方、2.0質量%以上含有すると、Alを含有した表層部と内部で熱間加工性の差を生じたり、熱延加熱等の熱処理時に、表層部に含有したAlが多量に内部に拡散し、製品の材質を劣化させる懸念があることから、これを上限とした。
[溶融再凝固層の厚みの測定方法]
本発明では、Alが上記範囲内である溶融再凝固層が1mm以上であることを規定している。この溶融再凝固層の厚みの測定方法について説明する。このAl濃化層は断面の埋め込み研磨試料の硬度測定により容易に判別できる。図1に融再凝固層の硬度変化の模式図を示す。上述したようにAlはα相中に固溶させると室温強度が向上する。そのため、インゴット表面から硬度測定を行うと、図1に示すように、Al濃化部では母相に比べ硬度が高くなる。この硬度上昇部をAlを含有した溶融再凝固層の厚みとした。
本発明では、Alが上記範囲内である溶融再凝固層が1mm以上であることを規定している。この溶融再凝固層の厚みの測定方法について説明する。このAl濃化層は断面の埋め込み研磨試料の硬度測定により容易に判別できる。図1に融再凝固層の硬度変化の模式図を示す。上述したようにAlはα相中に固溶させると室温強度が向上する。そのため、インゴット表面から硬度測定を行うと、図1に示すように、Al濃化部では母相に比べ硬度が高くなる。この硬度上昇部をAlを含有した溶融再凝固層の厚みとした。
[Al濃度の測定方法]
溶融再凝固層のAl濃度については、上記の硬度上昇部より分析用の試験片を切りだし、ICP発光分光分析を行うことで求めた。なお、溶融再凝固を下記に示す方法で行った場合、溶融再凝固層内のAlは十分に撹拌され均一となる。すなわち、上記の方法で測定された溶融再凝固層に厚み内であれば、Al濃度は深さ方向のどの部位から切りだしても同等となる。
溶融再凝固層のAl濃度については、上記の硬度上昇部より分析用の試験片を切りだし、ICP発光分光分析を行うことで求めた。なお、溶融再凝固を下記に示す方法で行った場合、溶融再凝固層内のAlは十分に撹拌され均一となる。すなわち、上記の方法で測定された溶融再凝固層に厚み内であれば、Al濃度は深さ方向のどの部位から切りだしても同等となる。
[Alの添加方法]
本発明では、インゴットの表層部にAlを濃化させる手法として、Al素材とともにインゴット表層部を溶融させることとしている。こうすることで、インゴットの表層部のAl含有量を高めることができる。Al素材としては、粉末、チップ、ワイヤー、薄膜のうちの一種または二種以上を組み合わせて用いることとしている。
本発明では、インゴットの表層部にAlを濃化させる手法として、Al素材とともにインゴット表層部を溶融させることとしている。こうすることで、インゴットの表層部のAl含有量を高めることができる。Al素材としては、粉末、チップ、ワイヤー、薄膜のうちの一種または二種以上を組み合わせて用いることとしている。
[表層溶融の方法]
本発明では、Al素材とともにインゴットの表層部を加熱し、溶融再凝固させることを特徴としている。表層部の加熱方法としては、電子ビーム加熱、誘導加熱、アーク加熱、プラズマ加熱およびレーザー加熱のうち一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。上記の方法を組み合わせて用いる場合、例えば、誘導加熱で予熱した後の、レーザー加熱によって表層溶融することができる。コスト、インゴットのサイズ、処理時間などの条件を考慮し、これらの中から採用すればよい。本発明は、真空もしくは不活性ガス雰囲気でインゴット表層部を加熱すると好ましい。チタンは非常に活性な金属であるため、大気中で処理をした場合、溶融再凝固部に酸素や窒素が多量に混入してしまい品質が変化してしまう。そのため、真空あるいは不活性雰囲気とした容器内で行うと良好な結果を得ることができる。なお、本発明における不活性ガスはアルゴンおよびヘリウムを指し、チタンと反応する窒素は含まない。真空容器内で行う場合の真空度は、5×10-5Torr程度か、より高い真空度であることが望ましい。
本発明では、Al素材とともにインゴットの表層部を加熱し、溶融再凝固させることを特徴としている。表層部の加熱方法としては、電子ビーム加熱、誘導加熱、アーク加熱、プラズマ加熱およびレーザー加熱のうち一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。上記の方法を組み合わせて用いる場合、例えば、誘導加熱で予熱した後の、レーザー加熱によって表層溶融することができる。コスト、インゴットのサイズ、処理時間などの条件を考慮し、これらの中から採用すればよい。本発明は、真空もしくは不活性ガス雰囲気でインゴット表層部を加熱すると好ましい。チタンは非常に活性な金属であるため、大気中で処理をした場合、溶融再凝固部に酸素や窒素が多量に混入してしまい品質が変化してしまう。そのため、真空あるいは不活性雰囲気とした容器内で行うと良好な結果を得ることができる。なお、本発明における不活性ガスはアルゴンおよびヘリウムを指し、チタンと反応する窒素は含まない。真空容器内で行う場合の真空度は、5×10-5Torr程度か、より高い真空度であることが望ましい。
本発明の熱間圧延用チタンインゴットは、表層に深さ1mm以上の上記範囲でAlが濃化した溶融再凝固層を有し、その他の部分が鋳造ままもしくは鋳造後β変態点以上に加熱後急冷した組織である。この素材を用いることで、分塊工程を省略した場合でも、通常の分塊工程を経る場合と同等の表面品質を有するチタン材を得ることができる。
以下、実施例により本発明を詳しく説明する。表1のNo.1〜11は板材を対象にした例、No.12〜17は線材を対象にした例である。
表1のNo.1から11に示す参考例、実施例および比較例において、チタンインゴットの製造は、電子ビーム溶解法で行い、角型鋳型にて鋳造した。その後、鋳肌の切削手入れのある場合においては、切削によりスラブ表層の手入れを行い、切削手入れが無い場合は、切削によるスラブ表層の手入れを行わずに、表層溶融を行った。その後、厚さ250mm×幅1000mm×長さ4500mmのインゴットから、鉄鋼材料の熱間圧延設備を用いて、熱間圧延を行い、厚さ4mmの帯状コイルとした。なお、表面疵の評価は、酸洗後の板表層を目視にて行った。
No.1から6の参考例、実施例および比較例は、インゴット製造後にインゴットの鋳肌を切削除去している。一方、No.3から11の実施例および比較例は、インゴット製造後の鋳肌に溶融再凝固処理を施している。
表1の「溶融方法」に「EB」と記載したものは電子ビームによって表層の溶融再凝固を行い、「TIG」と記載したものはTIG溶接によって表層の溶融再凝固を行い、「レーザー」と記載したものは、レーザー溶接によって表層の溶融再凝固を行っている。電子ビームによる表層溶融は、規定出力30kWの電子ビーム溶接装置を用いた。TIG溶接による表層溶融は、200Aで溶加材を用いないで行った。レーザー溶接による表層溶融は、CO2レーザーを用いた。
No.1に記載の参考例は工業用純チタンインゴットを用いて、従来の分塊工程をたどる方法で製造した場合である。分塊工程を経るため、製造された板材の表面疵は、軽微である。
No.2に記載の比較例は、表層の溶融再凝固を行わず、分塊工程を省略して熱間圧延を行った場合であり、熱延後酸洗を行った板には粗大な表面疵が観察された。
No.3に記載の比較例は、インゴットを切削手入れ後、Al粉末と共にインゴット表面を、EBにより表層溶融処理を施しているが、再溶融凝固部のAlの含有量が0.1質量%以上と十分多いが、厚みが0.5mmと浅いため、部分的にやや粗大な表面疵が観察された。
No.4に記載の実施例は、インゴットを切削手入れ後、Alチップと共にインゴット表面を、EBにより表層溶融処理を施しており、溶融再凝固層のAlの含有量が0.1質量%以上と十分多く、厚みが1mm以上と深いため、表面疵は軽微であり、分塊工程をたどる場合と同等レベルであった。
No.5に記載の実施例は、インゴットを切削手入れ後、Alチップと共にインゴット表面を、TIGにより表層溶融処理を施しており、溶融再凝固層のAlの含有量が0.1質量%以上と十分多く、Al濃化層の厚みが1mm以上と深いため、表面疵は軽微であり、分塊工程をたどる場合と同等レベルであった。
No.6に記載の実施例は、インゴットを切削手入れ後、Al粉末と共にインゴット表面を、レーザーにより表層溶融処理を施しており、溶融再凝固層のAlの含有量が0.1質量%以上と十分多く、厚みが1mm以上と深いため、表面疵は軽微であり、分塊工程をたどる場合と同等レベルであった。
No.7および10に記載の実施例は、インゴットを切削せず、Al粉末と共にインゴット表面を、EBにより表層溶融処理を施しており、溶融再凝固層のAlの含有量が0.1質量%以上と十分多く、厚みが1mm以上と深いため、表面疵は軽微であり、分塊工程をたどる場合と同等レベルであった。
No.8に記載の実施例は、インゴットを切削せず、Al箔と共にインゴット表面を、EBにより表層溶融処理を施しており、溶融再凝固層のAlの含有量が0.1質量%以上と十分多く、厚みが1mm以上と深いため、表面疵は軽微であり、分塊工程をたどる場合と同等レベルであった。
No.9に記載の実施例は、インゴットを切削せず、Alチップと共にインゴット表面を、TIGにより表層溶融処理を施しており、溶融再凝固層のAlの含有量が0.1質量%以上と十分多く、厚みが1mm以上と深いため、表面疵は軽微であり、分塊工程をたどる場合と同等レベルであった。
No.10に記載の実施例は、インゴットを切削せず、Al箔と共にインゴット表面を、TIGにより表層溶融処理を施しており、溶融再凝固層のAlの含有量が0.1質量%以上と十分多く、Al濃化層の厚みが1mm以上と深いため、表面疵は軽微であり、分塊工程をたどる場合と同等レベルであった。
表1のNo.12からNo.17に示す参考例、比較例および実施例において、工業用純チタン2種材を用い、チタンインゴットの製造は真空アーク溶解法もしくは電子ビーム溶解法で行った。直径170mm×12m長のインゴットから、熱間圧延により直径13mmの線材を製造した。なお、表面疵の評価は、酸洗後の線材表層を目視にて行った。
No.12から15の参考例、比較例および実施例は、インゴット製造後にインゴットの鋳肌を切削除去している。一方、No.14〜17の実施例は、インゴット製造後の鋳肌に溶融再凝固処理を施している。
No.12に記載の参考例は、従来の分塊工程をたどる方法で製造した場合である。
No.13に記載の比較例は、分塊工程を省略して熱間圧延を行った場合であり、熱延後酸洗を行った線材には粗大な表面疵が観察された。
No.14に記載の実施例は、インゴットを切削手入れ後、Al箔と共にインゴット表面を、EBにより表層溶融処理を施しており、溶融再凝固層のAlの含有量が0.1質量%以上と十分多く、厚みが1mm以上と深いため、表面疵は軽微であり、分塊工程をたどる場合と同等レベルであった。
No.15に記載の実施例は、インゴットを切削手入れ後、Al箔と共にインゴット表面を、TIGにより表層溶融処理を施しており、溶融再凝固層のAlの含有量が0.1質量%以上と十分多く、厚みが1mm以上と深いため、表面疵は軽微であり、分塊工程をたどる場合と同等レベルであった。
No.16に記載の実施例は、インゴットを切削手入れ後、Al粉末と共にインゴット表面を、レーザーにより表層溶融処理を施しており、溶融再凝固層のAlの含有量が0.1質量%以上と十分多く、Al濃化層の厚みが1mm以上と深いため、表面疵は軽微であり、分塊工程をたどる場合と同等レベルであった。
No.17に記載の実施例は、インゴットを切削手入れ後、Al粉末と共にインゴット表面を、EBにより表層溶融処理を施しており、溶融再凝固層のAlの含有量が0.1質量%以上と十分多く、Al濃化層の厚みが1mm以上と深いため、表面疵は軽微であり、分塊工程をたどる場合と同等レベルであった。
Claims (6)
- 工業用純チタンインゴットにあって、少なくとも圧延面にあたる面の表層から深さ1mm以上が溶融再凝固しており、その溶融再凝固層のAl濃度が0.1質量%以上、2.0質量%未満であるであることを特徴とする熱間圧延用チタンインゴット。
- 工業用純チタンインゴットの圧延面に当たる面を、Al素材と共に表層溶融再凝固することを特徴とする請求項1に記載の熱間圧延用チタンインゴットの製造方法。
- Al素材として、粉末、チップ、ワイヤー、薄膜のうちの一種または二種以上を組み合わせて用いることを特徴とする請求項2に記載の熱間圧延用チタンインゴットの製造方法。
- Al素材およびインゴット圧延面にあたる表層を溶融再凝固する手段として、電子ビーム加熱、アーク加熱、レーザー加熱、プラズマ加熱、および誘導加熱のうちの一種または二種以上を組み合わせて用いることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の熱間圧延用チタンインゴットの製造方法。
- 真空もしくは不活性ガス雰囲気で表層を加熱することを特徴とする、請求項2〜請求項4のいずれか一項に記載の工業用純チタンインゴットの製造方法。
- 少なくとも圧延面に当たる面の表層に1mm以上が再溶融凝固した組織であり、下部が鋳造まま組織あるいは鋳造後β域に加熱後冷却された組織であることを特徴とする、請求項1に記載の熱間圧延用チタンインゴット。
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